JP4797997B2 - 位相差フィルム、液晶パネル及び画像表示機器 - Google Patents

位相差フィルム、液晶パネル及び画像表示機器 Download PDF

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Description

本発明は、ポリエステル樹脂よりなる位相差フィルムに関し、特に光弾性係数が小さく、位相差のばらつきが小さく、また、耐熱性に優れ、可視光の全波長領域において、位相差が負の波長分散をもつ位相差フィルムに関するものである。
本発明はまた、このような位相差フィルムを備える液晶パネル及び画像表示機器に関する。
モバイル用液晶表示装置は、今後高画質の動画配信などが一般化されると、より一層の高輝度化、高視野角化、高精細化などの性能が要求されるものと考えられている。モバイル液晶表示装置は、その使用目的により屋内での暗い環境から屋外での太陽光下での明るい環境まで様々な外光条件下で優れた視認性が要求される。そこで、透過型液晶表示装置及び反射型液晶表示装置の利点を活かした半透過型液晶表示装置が広く用いられる様になってきた。
半透過型液晶表示装置は、明表示・暗表示などの各状態における透過部及び反射部での偏光状態を一致させるため、直線偏光と円偏光を制御し画像を表示させている。その為に、半透過型液晶表示装置では、例えば液晶セルの両面に1/4波長板(入射した光と出射する光の位相が1/4波長ずれるフィルム)が少なくとも1枚ずつ必要になる。
1/4波長板は、可視光領域である測定波長400〜780nmで直線偏光を円偏光に、円偏光を直線偏光に変換することが必要である。しかし、一般に高分子フィルムの複屈折は、測定波長が短波長ほど大きく、長波長ほど小さくなる(位相差が正の波長分散をもつ)。それゆえ、通常高分子フィルム1枚だけでは可視光の全波長領域において位相差が1/4λ(ここで、λは波長を示す。)とすることが困難であった。
そこで波長の広帯域において位相差が1/4λとなるような、広帯域1/4波長板が求められている。これに相当するものとして、例えば、(1)複屈折の波長分散性の異なる2種類の位相差フィルムを各々の遅相軸が直交するように積層することにより、広帯域の位相差フィルムが得られることが開示されている(特許文献1)。
また、(2)1/2波長板と1/4波長板をそれぞれの遅相軸がある特定の配置を取るように積層することによって得られる方法も開示されている。(特許文献2)さらに、(3)特定のアセチル化度を有するセルロースアセテートからなる広帯域位相差フィルム(特許文献3)や(4)フルオレン骨格をもつ特定のポリカーボネートからなる広帯域位相差フィルム(特許文献4)が開示されている。
しかしながら、(1)や(2)の様な波長板を積層する方法は、機器の厚みを極力薄くしようとする動向に反するものであり、また遅相軸を特定の配置になるように組み付けなければならず、非常に煩雑な作業を要するという問題がある。
また、(3)、(4)においては一枚のフィルムで広帯域において位相差が負の波長分散を有するものの、(3)の特定のアセチル化度を有するセルロースアセテートは耐熱性が充分ではない。特に、(4)のフルオレン骨格をもつ特定のポリカーボネートを用いた場合、光弾性係数が高いため、延伸時のムラがフィルム面内の位相差のばらつきが大きく、またガラス転移温度が高く延伸むらが起きやすいという問題があった。
一方、ポリエステルの分野においても、フルオレン骨格をもつジヒドロキシ化合物を共重合したポリエステルやシート、フィルムが開示されている。
例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン又は9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン及びイソフタル酸クロリド及び/又はテレフタル酸クロリドから誘導した共重合繰り返し単位を含むポリマー及びフィルム(特許文献5)、ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体と9,9−(4−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレンを含むポリエステルを溶融後、押し出し成形して無配向となるフィルムとなし、適当な温度で熱セットした後、縦横逐次2軸延伸をした耐熱フィルム(特許文献6)、ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体と9,9−(4−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレンを含むポリエステルからなる液晶用プリズムシート(特許文献7)及び脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を含むジカルボン酸成分と9,9−(4−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレンを含むジオール成分からなるポリエステル(特許文献8)が挙げられる。これら上記ポリエステルのフィルムは耐熱性はある程度高く、複屈折性も小さいが、全波長領域における位相差性については何ら開示されていない。
また、脂環式ジカルボン酸と9,9−(4−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレンからなるポリエステル樹脂が開示され、その用途として位相差フィルムのようなフィルムが開示されているが(特許文献9)、負の波長分散特性を持つ位相差フィルムについては何ら開示されていないし、特に光弾性係数についての検討もなされていない。
一般に、樹脂の光弾性係数の値が高いと、溶融押出や溶液キャスト法等で製膜したフィルムの位相差の値が大きくなる。そして、このフィルムを延伸した場合、張力のわずかな振れにより、フィルム面内の位相差のばらつきが更に大きくなる。また、このような位相差フィルムを貼合する場合、貼合時の張力により所望する位相差がずれてしまうばかりでなく、貼合後の偏光板の収縮等により、位相差値が変化しやすいという問題もある。
従って、光学用途の樹脂にあって、光弾性係数の低減は重要な改善項目である。
特開平2−285304号公報 特開平10−68816号公報 特開2000−137116号公報 特開2001−194530号公報 特表平5−505848号公報 特開平8−134192号公報 特開平9−157367号公報 特開平9−302077号公報 特開平11−60706号公報
以上に述べた点に鑑み即ち、本発明は、フィルム面内の位相差のばらつきを小さくするため、光弾性係数が小さく、また、耐熱性に優れ、かつ位相差フィルム1枚で位相差の負の波長分散を発現する位相差フィルムを提供することを目的とするものである。
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分(A)と、特定の構造を有するビスフェニルフルオレン系化合物と脂環式ジオール化合物とを含むジオール成分(B)とを共重合して得られるポリエステル樹脂を用いることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
[1] ジカルボン酸成分(A)とジオール成分(B)とを反応させてなるポリエステル樹脂(ただし、該ポリエステル樹脂において、ガラス転移温度が101℃以上108℃以下であるポリエステル樹脂を除く。)よりなる位相差フィルムにおいて、該ジカルボン酸成分(A)が脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とし、該ジオール成分(B)が下記一般式(I)で表されるビスフェニルフルオレン系化合物と脂環式ジオール化合物(ただし、該脂環式ジオール化合物において、スピログリコールを除く。)とを含み、該位相差フィルムは、波長450〜630nmにおける位相差が長波長側ほど大きいことを特徴とする位相差フィルム。
Figure 0004797997
(式中、R、Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を示し、R、R、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示す。)
[2] [1]において、前記ポリエステル樹脂の光弾性係数が45×10−12Pa−1以下であることを特徴とする位相差フィルム。
[3] [1]又は2において、前記ジオール成分(B)が、前記ビスフェニルフルオレン系化合物45〜90モル%と、脂環式ジオール化合物10〜55モル%とを含むことを特徴とする位相差フィルム。
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記脂環式ジオール化合物が、5員環構造、共有結合によって椅子形又は舟形に固定されている6員環構造、又はスピロ環構造を含むことを特徴とする位相差フィルム。
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記ジカルボン酸成分(A)が、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とすることを特徴とする位相差フィルム。
[6] [5]において、前記1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体が、トランス体:シス体=80:20〜100:0であることを特徴とする位相差フィルム。
[7] [1]ないし[6]のいずれかにおいて、前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度が100℃以上230℃以下であることを特徴とする位相差フィルム。
[8] [1]ないし[7]のいずれかにおいて、前記ポリエステル樹脂を溶融押出し法によってシート又はフィルムとした後、これを少なくとも一方向に延伸することにより得られることを特徴とする位相差フィルム。
[9] [1]ないし[8]のいずれかに記載の位相差フィルムを含むことを特徴とする液晶パネル。
[10] [9]に記載の液晶パネルを含むことを特徴とする画像表示機器。
本発明の位相差フィルムは、原料のポリエステル樹脂のガラス転移温度が高く、また、光弾性係数が小さいため、フィルム面内の位相差のばらつきが小さく、また波長450〜630nmにおける位相差が長波長側ほど大きいので位相差フィルム1枚で可視光領域において位相差が1/4λとなるような広帯域1/4波長板を得ることができ、各種表示装置向け、特にモバイル用液晶表示装置向け1/4λ板等に有用である。
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[ポリエステル樹脂]
まず、本発明の位相差フィルムの構成材料であるポリエステル樹脂について説明する。
本発明の位相差フィルムの構成材料のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分(A)とジオール成分(B)を反応させてなるポリエステル樹脂であって、更に、ジカルボン酸成分(A)が脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とし、ジオール成分(B)が特定のビスフェニルフルオレン系化合物と脂環式ジオール化合物とを含むものである。
このようなポリエステル樹脂は、従来公知のポリエステルの重縮合方法に準じて製造することができる。例えば、界面重合法、溶液重合法や溶融重合法等が挙げられるが、溶融重合法が重合度が向上しやすく、また安価に製造できる点で好ましい。
以下、溶融重合法で本発明に係るポリエステル樹脂を製造する場合の成分、製造方法等について詳細に記述する。
<ジカルボン酸成分(A)>
本発明に係るジカルボン酸成分(A)は、全ジカルボン酸成分の主成分、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上が脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体である。
ジカルボン酸成分(A)の主成分、好ましくは80モル%以上が脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であることにより、高透明で耐熱性の高いフィルムが得られる。
脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体の具体例としては、脂環式構造にカルボキシル基が2つ結合したものであれば特に限定されるものではないが、例えば、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、1,5−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,7−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,3−ノルボルナンジカルボン酸、2,5−ノルボルナンジカルボン酸、1,3−アダマンタンジカルボン酸及びそれらのエステル形成性誘導体、例えば炭素数1〜4程度のアルキルエステル等が挙げられる。これらの中でも、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体は、得られるポリエステル樹脂の成形温度が従来のポリエステル樹脂の成形温度に近く、また、工業的に入手しやすい点で好ましく、この場合、得られるポリエステル樹脂の耐熱性の観点から1,4−シクロヘキサンジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体のトランス体とシス体との比率は、80/20〜100/0の範囲が好ましく85/15〜100/0がより好ましく、更に好ましくは90/10〜100/0である。特に1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、そのエステル形成性誘導体に比べてコストがかからない点で最も好ましい。
これらの脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
ジカルボン酸成分(A)は、脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分を含んでいても良く、この場合、その他のジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、及びこれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。具体的にはテレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、フェニレンジオキシカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、グルタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸、ならびに、これらの炭素数1〜4程度のアルキルエステル等が挙げられる。これらの他のジカルボン酸成分は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体以外のその他のジカルボン酸成分は、脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を用いることによる透明性と耐熱性の向上効果を確実に得る上で、全ジカルボン酸成分中に20モル%以下、特に10モル%以下であることが好ましい。
なお、ポリエステル樹脂の製造に界面重合法を用いる場合は、エステル形成性誘導体としては、上記に記載のジカルボン酸のジハライドが用いられる。この場合ハロゲンとしては塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができ、好ましくは、塩素である。
<ジオール成分(B)>
本発明に係るジオール成分(B)は、下記一般式(I)で表されるビスフェニルフルオレン系化合物と脂環式ジオール化合物とを含む。
Figure 0004797997
(式中、R、Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を示し、R、R、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示す。)
上記一般式(I)において、R、Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1又は2のヒドロキシアルキル基であることが好ましく、R〜Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基が好ましい。
一般式(I)で表されるビスフェニルフルオレン系化合物としては、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−プロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジ−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ビス(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジフェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−ベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル]フルオレン等のジヒドロキシ化合物類等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
これらの中でも、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンが光学特性、成形性の面から最も好ましい。
なお、界面重合法を用いる場合のジオールとしては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等のビスフェノール類等を挙げることができる。
このようなビスフェニルフルオレン系化合物と併用する脂環式ジオール化合物としては、脂環式構造にヒドロキシ基が2つ結合したものであればよく特に限定されるものではないが、5員環、6員環、好ましくは共有結合によって椅子形又は舟形に固定されている6員環、又はスピロ環に水酸基が2つ結合したジオールであることが好ましい。
脂環式ジオールが、5員環、6員環、又はスピロ環の構造の脂環式ジオールであることにより、得られるポリエステル樹脂の耐熱性を高くすることができる。
このような脂環式ジオールとしては、例えば、1,2−シクロペンタンジメタノール、1,3−シクロペンタンジメタノール、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ−[5.2.1.0]デカン、エリスリタン、イソソルバイド等の5員環ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパン、1,3−アダマンタンジオール、1,3−アダマンタンジメタノール、4,9:5,8−ジメタノ−1(2),6(7)−ヒドロキシメチル−3a,4,4a,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1H−ペンゾインデン、2,3−ノルボルナンジオール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジオール、2,5−ノルボルナンジメタノール等の6員環ジオール、スピログリコールを除くスピロ環ジオール等が挙げられる。これらの脂環式ジオール化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
これらの中でも、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ、[5.2.1.0]デカン、4,9:5,8−ジメタノ−1(2),6(7)−ヒドロキシメチル−3a,4,4a,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1H−ペンゾインデン、スピログリコールが好ましく、特に1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ、[5.2.1.0]デカン、4,9:5,8−ジメタノ−1(2),6(7)−ヒドロキシメチル−3a,4,4a,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1H−ペンゾインデンが好ましい。これらは、高いガラス転移温度のポリエステル樹脂が得られること、及び光弾性係数が優れたポリエステル樹脂が得られるという利点があるからである。
本発明において、ジオール成分(B)は、前記ビスフェニルフルオレン系化合物を45〜90モル%、脂環式ジオール化合物を10〜55モル%含むことが好ましい。ビスフェニルフルオレン系化合物が少ないとビスフェニルフルオレン系化合物を用いることによる位相差の負の波長分散性の発現が充分でなく、また耐熱性の効果が得られない。また、この範囲よりもビスフェニルフルオレン系化合物が多いと、配向複屈折が小さくなりすぎ、位相差フィルムとして使用する場合、所定の位相差を発現するため、フィルムの厚みを厚くしなければならず、画像表示装置を薄くしようとする方向性に反する。本発明においては、特に、前記ジオール成分中にビスフェニルフルオレン系化合物を48〜85モル%で脂環式ジオール化合物を15〜52モル%、とりわけビスフェニルフルオレン系化合物を50〜80モル%で脂環式ジオール化合物を20〜50モル%含むことが好ましい。
なお、本発明に係るジオール成分(B)は、ビスフェニルフルオレン系化合物と脂環式ジオール化合物以外の他のジオール成分を含むこともできる。
本発明において用いられるその他のジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール類、及びキシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール等が挙げられる。アルキレングリコール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール類、及びキシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール類等が挙げられる。これらの他のジオール成分は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
ただし、ビスフェニルフルオレン系化合物と脂環式ジオール化合物とを併用することによる本発明の効果を十分に得る上で、これらの他のジオール成分は、全ジオール成分中に5モル%以下であることが好ましい。
<その他の共重合成分>
本発明においては、前記ジカルボン酸成分(A)及びジオール成分(B)以外の少量共重合成分として、例えば、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステル等の三官能以上の多官能成分、等が用いられてもよい。
ただし、これらのその他の共重合成分は、ポリエステル樹脂原料中に1重量%以下、特に0.5重量%以下であることが好ましい。
<ポリエステル樹脂の製造>
溶融重合法の場合、本発明に係るポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分(A)と、ジオール成分(B)と、必要に応じて用いられるその他の共重合成分とをエステル化反応又はエステル交換反応させ、引き続いて重縮合反応をすることにより製造することができる。
エステル化又はエステル交換反応は、ジカルボン酸成分とジオール成分と、必要に応じて用いられるその他の共重合成分とを、攪拌機及び留出管を備えたエステル化反応槽に仕込み、触媒を加え、不活性ガス雰囲気常圧又は減圧下攪拌しつつ、反応により生じた水分などの副生成物を留去しながら反応を進行させることにより行われる。原料の使用比率、すなわち、ジカルボン酸成分の合計に対するジオール成分の合計のモル比は通常1.0〜2.0モル倍である。
本発明においては十分な反応速度を得るために触媒を使用するのが好ましい。触媒としては、通常、エステル化又はエステル交換反応に使用される触媒であれば特に限定されないが、例えば、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、スズ化合物などが挙げられる。また必要に応じてナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、などのアルカリ性金属の化合物を使用することもできる。
チタン化合物は、エステル化又はエステル交換反応、続いて行われる重縮合反応の両反応において活性が高いことから好ましい。チタン化合物の具体例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、これらの有機チタネートの加水分解物などの1種又は2種以上が挙げられる。これらのチタン化合物は、マグネシウム化合物やリン化合物と併用することにより、重縮合反応時の黄変着色を抑制することができる点で好ましい。
ゲルマニウム化合物は色調良好なポリエステルを得やすく好ましく用いられる。ゲルマニウム化合物の具体例としては、酸化ゲルマニウムや塩化ゲルマニウム等の無機ゲルマニウム化合物、テトラアルコキシゲルマニウムなどの有機ゲルマニウム化合物などの1種又は2種以上が挙げられる。価格や入手の容易さなどから、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム及びテトラブトキシゲルマニウムなどが好ましく、特に、酸化ゲルマニウム及びそのアルコール溶液、水溶液が好ましい。
本発明の位相差フィルムの製造時、流延法(キャスト法)にて無配向フィルムを作製する場合は、フィルムのヘーズを考慮して、触媒としてチタン化合物を用いることが好ましい。
触媒は2種類以上組み合わせて使用してもよく、また、必要に応じ、例えばチタン化合物とマグネシウム化合物やリン化合物などを組み合わせて使用してもよい。
触媒の使用量は、生成するポリエステル樹脂に対し、通常50〜2000ppm、好ましくは100〜1000ppmである。
エステル化又はエステル交換反応の触媒は、そのまま重縮合反応触媒としても使用することもできる。
反応温度は、通常150〜230℃、好ましくは180℃〜220℃であり、反応時間は、通常10分から10時間、好ましくは30分から5時間である。
エステル化反応又はエステル交換反応終了時の反応率は90〜100%である。ここで、反応率は、仕込んだ全カルボン酸成分に対する反応によりエステル化又はエステル交換されたカルボン酸成分の比を百分率で表す。
本発明において、重縮合反応は、エステル化又はエステル交換反応終了後の反応液を、攪拌機、留出管及び減圧付加装置を備えた重縮合槽に移送し、これに必要に応じ、触媒を加え、重縮合槽内を徐々に減圧にしながら反応を進行させることにより行う。
十分な反応速度を得るために触媒を使用するのが好ましい。触媒としては、通常、重縮合反応使に使用される触媒であれば特に限定されず、上記のエステル化又はエステル交換反応において例示した触媒と同じものをそのまま重縮合反応触媒として使用することができる。また、好ましい触媒についても上述した通りである。
重縮合反応で新たに触媒を使用する場合の使用量は、生成するポリエステル樹脂に対し、通常50〜2000ppm、好ましくは100〜1000ppmである。
重縮合反応は、反応槽内を徐々に減圧にしながら行う。槽内の圧力は、大気圧雰囲気下から最終的には1kPa以下で行い、特に0.5kPa以下とするのが好ましい。反応温度は、上記のエステル化又はエステル交換反応の反応終了後の温度ないし300℃、好ましくは反応終了後の温度ないし265℃である。反応時間は、通常10分から10時間の範囲内、好ましくは30分から5時間である。
なお、エステル化反応槽に減圧付加装置を備え、一槽でエステル化又はエステル交換反応と重縮合反応を行うことも可能である。また、エステル化、エステル交換、重縮合反応は、回分方式でも連続方式でもよい。
反応終了後は、例えば回分式の場合、槽底部から反応生成物を抜き出すことにより回収する。通常はストランド状に抜き出し、水冷しながらカッティングしてペレット状のポリエステル樹脂を得ることができる。
<物性>
本発明に係るポリエステル樹脂の固有粘度は、通常0.3〜1.5dl/g、好ましくは0.4〜1.0dl/gである。固有粘度が0.3dl/g未満の場合はこれを原料として溶融成形してフィルムを得るときその機械的強度が十分でなく、1.5dl/gより大きい場合は溶融時の流動性が低下して成形性に劣る。
また、本発明に係るポリエステル樹脂のガラス転移温度は100℃以上230℃以下が好ましい。ガラス転移温度が100℃未満であるとこれを原料とするフィルムの耐熱性が劣る傾向となり、230℃超過ではフィルムに延伸するとき延伸むらが起きやすい。
また、本発明に係るポリエステル樹脂の光弾性係数は45×10−12Pa−1以下であることが好ましく、より好ましくは40×10−12Pa−1以下である。光弾性係数が45×10−12Pa−1を超過するとこれを原料としてフィルムにしたときフィルム面内での位相差のばらつきが大きくなる。
なお、ポリエステル樹脂の固有粘度、ガラス転移温度、光弾性係数は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
[位相差フィルム]
本発明の位相差フィルムは上述のポリエステル樹脂を原料として、フィルムを製膜、又は製膜後に延伸することにより製造することができる。フィルムの製膜方法としては、従来公知の溶融押出法、溶液キャスト法等を用いることができる。
なお、本発明の目的にかなえば、本発明の位相差フィルムの原料は、上述の本発明に係るポリエステル樹脂と、ポリカーボネト樹脂、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどにより変性されたポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリナフタレンジカルボキシレート、ポリシクロヘキサンジメチレンシクロヘキサンジカルボキシレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂などの他の樹脂の1種又は2種以上との組成物であってもよい。
また、本発明の目的にかなえば、本発明の位相差フィルムに用いられるポリエステル樹脂に、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤を添加することもできる。
製膜されたフィルム厚みは、通常、30μmから200μmであり、好ましくは50μmから150μmである。また、製膜されたフィルムの位相差値は、20nm以下が好ましく、より好ましくは10nm以下である。フィルムの位相差値がこれ以上大きいと、延伸して位相差フィルムとした際に位相差値のフィルム面内バラツキが大きくなるので好ましくない。
一方、延伸方法も公知の縦、横どちらか一方の一軸延伸、縦横にそれぞれ延伸する二軸延伸等の延伸方法を用いることができる。また、特開平5−157911号公報に示されるような特殊な二軸延伸を施し、フィルムの三次元での屈折率を制御することも可能である。
位相差フィルム作製の延伸条件としては、フィルム原料のガラス転移温度の−20℃から+40℃の範囲で行うことが好ましい。より好ましくは、フィルム原料のガラス転移温度の−10℃から+20℃の範囲である。この延伸濃度がガラス転移温度−20℃より低いと、延伸フィルムの位相差が大きくなり易く、所望の位相差を得るためには延伸倍率を低くしなければならず、フィルム面内の位相差のばらつきが大きくなりやすい。一方、ガラス転移温度+40℃以上では、得られるフィルムの位相差が小さくなり、所望の位相差を得るための延伸倍率を大きくしなければならず適正な延伸条件幅が狭くなってしまう。
本発明の位相差フィルムは、各種液晶表示装置用の位相差板として用いることができる。
本発明の位相差フィルムをSTN液晶表示装置の色補償用に用いる場合には、その位相差値は、一般的には、400nmから2000nmまでの範囲で選択される。
また、本発明の位相差フィルムを1/2波長板として用いる場合は、その位相差値は、200nmから400nmの範囲で選択される。
本発明の位相差フィルムを1/4波長板として用いる場合は、その位相差値は、90nmから200nmまでの範囲で選択される。1/4波長板としてのより好ましい位相差値は、100nmから180nmまでである。
前記位相差板として用いる場合は、本発明の位相差フィルムを単独で用いることもできるし、2枚以上を組合わせて用いることもでき、他のフィルム等と組合わせて用いることもできる。
本発明の位相差フィルムは、公知のヨウ素系あるいは染料系の偏光板と粘着剤を介して積層貼合することができる。積層する際、用途によって偏光板の偏光軸と位相差フィルムの遅相軸とを、特定の角度に保って積層することが必要である。
本発明の位相差フィルムを1/4波長板とし、これを偏光板と積層貼合して円偏光板として用いることができる。その場合、一般には、偏光板の偏光軸と位相差フィルムの遅相軸は実質的に45°の相対角度を保ち積層される。
また、本発明の位相差フィルムを、偏光板を構成する偏光保護フィルムとして用いて積層してもかまわない。さらに、本発明の位相差フィルムをSTN液晶表示装置の色補償板とし、これを偏光板と積層貼合することにより楕円偏光板として用いることもできる。
以下、本発明を実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものはない。
尚、以下の諸例で使用したポリエステル樹脂及び位相差フィルムの評価方法は次の通りである。
[評価方法]
<ポリエステル樹脂のモノマー組成>
サンプル約20mgを重クロロホルム溶媒約750μLに溶解し、外径5mmのNMR試料管に移し、Bruker社製AV400M分光計を使用して室温下で、1H−NMRスペクトルを測定した。各帰属ピークより構成モノマー量を計算した。
ここで、各略号は次の通りである。
CHDA:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
t−CHDA:トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
c−CHDA:シス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
1,4−CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール(トランス体:シス体=69:31)
BHEPF:9,9−ビス〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル〕フルオレン
EG:エチレングリコール
TCDDM:3(4),8(9)−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ−[5.2.1.02.6]デカン
PCPDDM:4,9:5,8−ジメタノ−1(2),6(7)−ヒドロキシメチル−3a,4,4a,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1H−ベンゾインデン
SPG:3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン
ISOB:1,4:3,6−ジアンヒドロソルビトール
ELYTOL:1,4−アンヒドロエリトリトール
ADDM:1,3−アダマンチルジメタノール
ADDA:1,3−アダマンタンジカルボン酸
NBDA:2,3−ノルボルナンジカルボン酸
TPA:テレフタル酸
<固有粘度(IV)の測定方法>
ポリエステル樹脂試料約0.25gを、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を用いて、濃度が約1.00g/dLとなるように溶解させ、濃度C(g/dL)を算出する。この試料溶液を、30℃まで冷却して保持し、全自動溶液粘度計(センテック社製「2CH型DJ504」)にて、試料溶液の落下秒数(t)及び溶媒のみの落下秒数(t)を測定し、下式により算出した。
固有粘度(IV)=((1+4Kηsp0.5−1)/(2KC)
ここで、 ηsp=t/t−1 であり、tは試料溶液の落下秒数、tは溶媒のみの落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、Kはハギンズの定数である。Kは0.33を採用した。
<ガラス転移温度Tg>
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、JIS K7121に従い、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、DSC220)を用いて測定した。ポリエステル樹脂約10mgを同社製アルミパンに入れて密封し、昇温速度20℃/分で室温から300℃まで昇温した。得られたDSCデータより、補外ガラス転移開始温度を採用した。
<光弾性係数C>
He−Neレーザー、偏光子、補償板、検光子、光検出器からなる複屈折測定装置と振動型粘弾性測定装置(レオロジー社製DVE−3)を組み合わせた装置を用いて測定した。(詳細は、日本レオロジー学会誌Vol.19,p93−97(1991)を参照。)
80℃で5時間真空乾燥をしたポリエステル樹脂サンプル4.0gを、幅8cm、長さ8cm、厚さ0.5mmのスペーサーを用いて、熱プレスにて熱プレス温度250℃で、予熱1分、圧力20MPaの条件で1分間加圧後、スペーサーごと取り出し、水管冷却式プレスで、圧力20MPaで3分間加圧冷却し、シートを作製した。シートから幅5mm、長さ20mmの試料を切り出し、粘弾性測定装置に固定し、25℃の室温で貯蔵弾性率E’を周波数96Hzにて測定した。同時に、出射されたレーザー光を偏光子、試料、補償板、検光子の順に通し、光検出器(フォトダイオード)で拾い、ロックインアンプを通して角周波数ω又は2ωの波形について、その振幅とひずみに対する位相差を求め、ひずみ光学係数O’を求めた。このとき、偏光子と検光子の方向は直交し、またそれぞれ、試料の伸長方向に対してπ/4の角度をなすように調整した。
光弾性係数Cは、貯蔵弾性率E’とひずみ光学係数O’を用いて次式より求めた。
C=O’/E’
<位相差及び位相差の波長分散性>
80℃で5時間真空乾燥をしたポリエステル樹脂サンプル2.4gを、幅8cm、長さ8cm、厚さ0.3mmのスペーサーを用いて、熱プレスにて熱プレス温度250℃で、予熱1分、圧力20MPaの条件で1分間加圧後、スペーサーごと取り出し、水管冷却式プレスで圧力20MPaで3分間加圧冷却しシートを作製した。このシートから幅6cm、長さ6cmの試料を切り出した。この試料を、同時二軸延伸装置(T.M.Long社製)に装着し、所定の延伸温度で5分間加熱し、所定の倍率に一軸延伸し、1分間保持した後、試料を取り外した。このとき延伸方向に対して垂直方向は、保持した状態(延伸倍率1.0)で延伸を行った。
延伸された試料より幅4cm、長さ4cmに切り出し、位相差測定装置(王子計測機器社製KOBRA−WPR)を用いて測定波長450,500,550,590,630nmで位相差を測定し、波長分散性を測定した。波長分散性は、450nmと550nmで測定した位相差Re450とRe550の比(Re450/Re550)及び450nmと630nmの位相差Re450とRe630の比’(Re450/Re630)を計算した。それぞれ1より大きいと波長分散は正であり、1未満では負となる。それぞれの位相差の比が、1未満で小さい程、負の波長分散性が強いことを示している。
<溶液ヘーズ>
塩化メチレン24gにポリエステル樹脂サンプル6gを室温で溶解した後、石英製の光路長1cmのセルに移し、スガ試験機社製ヘーズメーター(HGM−215)を用いてヘーズを測定した。
[ポリエステル樹脂の製造方法]
<製造例1:ポリエステル樹脂Aの製造>
攪拌機、還流冷却器、加熱装置、圧力計、温度計及び減圧装置を装備した容量450ccのガラス製反応器に、CHDA(トランス体:シス体=95:5)60.4質量部、BHEPF76.9質量部、1,4−CHDM26.2質量部を仕込み、反応器内を窒素ガスで置換した。反応器内を窒素ガスでシールしながら、内温を1時間で220℃に昇温して1時間保持し、エステル化反応を行った。その後、二酸化ゲルマニウム1重量%水溶液10.8gを仕込んだ後、内温を220℃から45分間かけて270℃まで昇温しつつ、反応器内の圧力を徐々に減圧にしながら重縮合反応を行った。反応器の絶対圧力0.1kPa、反応温度を270℃として、360分間維持し、重縮合反応を終了した。重縮合反応終了後直ちに、得られた樹脂を水中にストランド状に抜き出し、切断してペレット化してポリエステル樹脂Aを得た。
<製造例2:ポリエステル樹脂Bの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、t−、c−混合CHDA(トランス体:シス体=35:65)50.1質量部、BHEPF119.2質量部、EG4.2質量部を仕込んだ以外は、製造例1と同様にエステル化反応、重縮合反応を行い、ペレット化してポリエステル樹脂Bを得た。
<製造例3:ポリエステル樹脂Cの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、製造例1で用いたCHDA53.1質量部、BHEPF94.7質量部、1,4−CHDM14質量部を仕込んだ以外は、製造例1と同様にエステル化反応、重縮合反応を行い、ペレット化してポリエステル樹脂Cを得た。
<製造例4:ポリエステル樹脂Dの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、製造例1で用いたトランス/シス体比のCHDA47.4質量部、BHEPF108.6質量部、1,4−CHDM4.5質量部を仕込んだ以外は、製造例1と同様にエステル化反応、重縮合反応を行い、ペレット化してポリエステル樹脂Dを得た。
<製造例5:ポリエステル樹脂Eの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、TPA69.1質量部、BHEPF78質量部、1,4−CHDM25.4質量部及びテトラ−n−ブチルチタネートの6重量%ブタノール溶液0.889質量部を仕込みを仕込み、反応器内を窒素ガスで置換した。反応器内を窒素ガスでシールしながら、内温を1時間で250℃に昇温し、さらに2時間250℃に保持しエステル交換反応を行い、その後二酸化ゲルマニウム1重量%水溶液10.8gを仕込んだ。内温を250℃から45分間かけて280℃まで昇温しつつ、反応器内の圧力を徐々に減圧にしながら重縮合反応を行った。反応器の絶対圧力0.1kPa、反応温度を280℃として、180分間保持し、重縮合反応を終了した。重縮合反応終了後直ちに、得られた樹脂を水中にストランド状に抜き出し、切断してペレット化し、ポリエステル樹脂Eを得た。
<製造例6:ポリエステル樹脂Fの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、製造例1で用いたトランス/シス体比のCHDA70.1質量部、BHEPF53.5質量部、1,4−CHDM42.2質量部、及び触媒として二酸化ゲルマニウムの1重量%水溶液4.3質量部を仕込んだ以外は、製造例1と同様にエステル化反応、重縮合反応を行い、ペレット化してポリエステル樹脂Fを得た。
<製造例7:ポリエステル樹脂Gの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、製造例1で用いたトランス/シス体比のCHDA46.3質量部、BHEPF120.1質量部を仕込んだ以外は、製造例1と同様にエステル化反応、重縮合反応を行い、ペレット化してポリエステル樹脂Gを得た。
<製造例8:ポリエステル樹脂Hの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、製造例1で用いたトランス/シス体比のCHDA57.8質量部、BHEPF75質量部、TCDDM33.5質量部及び触媒として二酸化ゲルマニウム1重量%水溶液に換えて、テトラ−ブチル−チタネートの6重量%ブタンジオール溶液0.36質量部を仕込んだ以外は、製造例1と同様にエステル化反応、重縮合反応を行い、ペレット化してポリエステル樹脂Hを得た。
<製造例9:ポリエステル樹脂Iの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、製造例1で用いたトランス/シス体比のCHDA47.3質量部、BHEPF98.1質量部、PCPDDM14.7質量部及び触媒として二酸化ゲルマニウム1重量%水溶液に換えて、テトラ−ブチル−チタネートの6重量%ブタンジオール溶液0.36質量部を仕込んだ以外は、製造例1と同様にエステル化反応、重縮合反応を行い、ペレット化してポリエステル樹脂Iを得た。
<製造例10:ポリエステル樹脂Jの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、製造例1で用いたトランス/シス体比のCHDA56質量部、BHEPF94.9質量部、SPG16.4質量部及び触媒として二酸化ゲルマニウム1重量%水溶液に換えて、テトラ−ブチル−チタネートの6重量%ブタンジオール溶液3.63質量部を仕込んだ以外は、製造例1と同様にエステル化反応、重縮合反応を行い、ペレット化してポリエステル樹脂Jを得た。
<製造例11:ポリエステル樹脂Kの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、製造例1で用いたトランス/シス体比のCHDA62.6質量部、BHEPF81.3質量部、ELYTOL19.3質量部、及び触媒としてテトラブチルチタネートの6重量%ブタンジオール溶液0.36質量部を仕込んだ以外は、製造例1と同様にエステル化反応、重縮合反応を行い、ペレット化してポリエステル樹脂Kを得た。
<製造例12:ポリエステル樹脂Lの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、製造例1で用いたトランス/シス体比のCHDA59.9質量部、BHEPF76.2質量部、ISOB26.4質量部、及び触媒としてテトラブチルチタネートの6重量%ブタンジオール溶液0.36質量部を仕込んだ以外は、製造例1と同様にエステル化反応、重縮合反応を行い、ペレット化してポリエステル樹脂Lを得た。
<製造例13:ポリエステル樹脂Mの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、製造例1で用いたトランス/シス体比のCHDA56.5質量部、BHEPF71.7質量部、ADDM33.3質量部、及び触媒としてテトラブチルチタネートの6重量%ブタンジオール溶液0.36質量部を仕込んだ以外は、製造例1と同様にエステル化反応、重縮合反応を行い、ペレット化してポリエステル樹脂Mを得た。
<製造例14:ポリエステル樹脂Nの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、製造例1で用いたトランス/シス体比のCHDA26.1質量部、ADDA34.1質量部、BHEPF73.8質量部、TCDDM21.9質量部、及び触媒としてテトラブチルチタネートの6重量%ブタンジオール溶液0.36質量部を仕込んだ以外は、製造例1と同様にエステル化反応、重縮合反応を行い、ペレット化してポリエステル樹脂Nを得た。
<製造例15:ポリエステル樹脂Oの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、ADDA75.2質量部、BHEPF60.1質量部、TCDDM26.9質量部、及び触媒としてテトラブチルチタネートの6重量%ブタンジオール溶液0.36質量部を仕込んだ以外は、製造例1と同様にエステル化反応、重縮合反応を行い、ペレット化してポリエステル樹脂Oを得た。
<製造例16:ポリエステル樹脂Pの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、製造例1で用いたトランス/シス体比のCHDA29.6質量部、NBDA31.3質量部、BHEPF66.2質量部、TCDDM29.6質量部、及び触媒としてテトラブチルチタネートの6重量%ブタンジオール溶液0.36質量部を仕込んだ以外は、製造例1と同様にエステル化反応、重縮合反応を行い、ペレット化してポリエステル樹脂Pを得た。
<製造例17:ポリエステル樹脂Qの製造>
製造例1と同じ反応器を用いて、NBDA79.3質量部、BHEPF59.6質量部、TCDDM26.6質量部、及び触媒としてテトラブチルチタネートの6重量%ブタンジオール溶液0.36質量部を仕込んだ以外は、製造例1と同様にエステル化反応、重縮合反応を行い、ペレット化してポリエステル樹脂Qを得た。
<ポリエステル樹脂の成分モル比>
製造例1〜17で製造されたポリエステル樹脂A〜Qの成分比を表1に示す。
表中成分比は全ジカルボン酸成分又は全ジオール成分を100とした時の各成分のモル比を表す。
Figure 0004797997
[ポリエステル樹脂の物性]
ポリエステル樹脂A〜Qの物性を表2に示す。
Figure 0004797997
[位相差フィルムの製造]
<実施例1>
ポリエステル樹脂A2.4gを幅8cm、長さ8cm、厚さ0.3mmのスペーサーを用いて、熱プレス成形機(東洋精機社製)で、成形温度250℃で5分間予熱した後、1分間圧縮した後、取り出し、冷却用プレスで3分間圧縮した。得られたプレスシートを幅6cm、長さ6cmの正方形に切り出した。この試料を同時二軸延伸装置(T.M.Long社製)に装着し、延伸温度140℃で5分間加熱し、1.6倍に一軸延伸し、1分間保持した後、試料を取り外した。このとき延伸方向に対して垂直方向は、保持した状態で延伸を行った。
<実施例2,3、比較例1〜4>
表3に示したポリエステル樹脂を用いて、実施例1と同様にプレスシートを成形し、得られたプレスシートを幅6cm、長さ6cmの正方形に切り出した後、表3に記載の延伸温度にて、実施例1と同様に一軸延伸した。
<実施例4>
実施例2と同様にプレスシートを成形し、得られたプレスシートを幅6cm、長さ6cmの正方形に切り出した後、2.5倍に一軸延伸し、1分間保持した後、試料を取り外した。このとき、延伸方向に対して垂直方向は、保持した状態(延伸倍率1.0)で延伸を行った。
<実施例5〜14>
表3に示したポリエステル樹脂を用いて実施例1と同様にプレスシートを成形し、得られたプレスシートを幅6cm、長さ6cmの正方形に切り出した後、表3に記載の延伸温度にて、実施例1と同様に一軸延伸した。
[位相差フィルムの評価]
実施例1〜14及び比較例1〜4で得られた位相差フィルムの厚みと評価結果を表3に示した。
Figure 0004797997
表1〜3より、本発明によれば、光弾性係数が小さく、位相差のばらつきが小さく、また、耐熱性に優れ、可視光の全波長領域において、位相差が負の波長分散をもつ位相差フィルムが得られることが分かる。

Claims (10)

  1. ジカルボン酸成分(A)とジオール成分(B)とを反応させてなるポリエステル樹脂(ただし、該ポリエステル樹脂において、ガラス転移温度が101℃以上108℃以下であるポリエステル樹脂を除く。)よりなる位相差フィルムにおいて、該ジカルボン酸成分(A)が脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とし、該ジオール成分(B)が下記一般式(I)で表されるビスフェニルフルオレン系化合物と脂環式ジオール化合物(ただし、該脂環式ジオール化合物において、スピログリコールを除く。)とを含み、該位相差フィルムは、波長450〜630nmにおける位相差が長波長側ほど大きいことを特徴とする位相差フィルム。
    Figure 0004797997
    (式中、R、Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を示し、R、R、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示す。)
  2. 請求項1において、前記ポリエステル樹脂の光弾性係数が45×10−12Pa−1以下であることを特徴とする位相差フィルム。
  3. 請求項1又は2において、前記ジオール成分(B)が、前記ビスフェニルフルオレン系化合物45〜90モル%と、脂環式ジオール化合物10〜55モル%とを含むことを特徴とする位相差フィルム。
  4. 請求項1ないし3のいずれか1項において、前記脂環式ジオール化合物が、5員環構造、共有結合によって椅子形又は舟形に固定されている6員環構造、又はスピロ環構造を含むことを特徴とする位相差フィルム。
  5. 請求項1ないし4のいずれか1項において、前記ジカルボン酸成分(A)が、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とすることを特徴とする位相差フィルム。
  6. 請求項5において、前記1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体が、トランス体:シス体=80:20〜100:0であることを特徴とする位相差フィルム。
  7. 請求項1ないし6のいずれか1項において、前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度が100℃以上230℃以下であることを特徴とする位相差フィルム。
  8. 請求項1ないし7のいずれか1項において、前記ポリエステル樹脂を溶融押出し法によってシート又はフィルムとした後、これを少なくとも一方向に延伸することにより得られることを特徴とする位相差フィルム。
  9. 請求項1ないし8のいずれか1項に記載の位相差フィルムを含むことを特徴とする液晶パネル。
  10. 請求項9に記載の液晶パネルを含むことを特徴とする画像表示機器。
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