JP5585999B2 - ポリエステル樹脂組成物及び成形体 - Google Patents

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Description

本発明はポリエステル樹脂組成物及び成形体に関するものであり、特に耐熱性に優れ、高い屈折率を有するとともに、複屈折が小さく、且つ色収差の少ない光学レンズ等の用途として好適に用いることのできるポリエステル樹脂組成物に関する。
従来、透明で機械的特性に優れた樹脂が、光学用材料として広く用いられている。例えば、ポリメチルメタクリレートや脂環式ポリオレフィン、ポリカーボネート等がコンパクトディスク、レンズ等の光学材料として、あるいは自動車部品のランプ等の透明材料として使用されている。これらのうち、ポリメチルメタクリレートや脂環式ポリオレフィンは、透明性が高く、複屈折が小さく、さらに色収差が少ないという点では光学レンズとして適しているものの、屈折率が小さく、耐熱性が不足しているという欠点を有している。また、ポリカーボネートは、優れた耐熱性が得られるものの、複屈折が非常に大きいという欠点を有している。
これに対して、近年、脂環族あるいは芳香族ジカルボン酸とビスフェニルフルオレン系化合物とを主成分とした共重合ポリエステル樹脂を光学材料として使用することが提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。しかしながら、これら公知の各種ポリエステル樹脂においては、高耐熱性及び高屈折率、あるいは低複屈折及び低色収差のいずれかの特性を満足するものは散見されるものの、すべての物性を十分に満足し得る樹脂は未だ得られていない。例えば、特許文献4の実施例に記載の共重合ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が141〜184℃、屈折率が1.655〜1.663といずれも高く、高耐熱性及び高屈折率の点では満足のいくものであるが、複屈折が85×10−4〜140×10−4と大きく、一方でアッベ数は19〜21と低い数値を示しており、一般的な光学レンズとして要求される複屈折特性及び色収差特性としては不十分である。このため、これらの要求特性を全て満足し得る光学用樹脂の開発が望まれていた。
一方、ポリエステル樹脂の酸成分として使用されている1,4−シクロヘキサンジカルボン酸には、トランス体/シス体の各異性体が存在しており、樹脂中に含まれるトランス体比率を高めることによって、樹脂の耐熱性が改善されることが知られている(特許文献5参照)。さらに、トランス体比率を高めた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸誘導体とビスフェニルフルオレン系化合物とを使用した共重合ポリエステルフィルムが提案されている(特許文献6参照)。しかしながら、特許文献6に記載の共重合ポリエステルフィルムは、位相差フィルムとして使用されるものであって、むしろ複屈折を大きくすることによって光学異方性を生じさせることを目的とした用途である。
国際公開WO2004/078824号 特開2004−315676号 特開平9−302077号 特開2006−335974号 特開2006−28482号 特開2007−213043号
本発明は前記従来技術の課題に鑑みて行われたものであって、すなわち、本発明の解決しようとする課題は、耐熱性に優れ、高い屈折率を有するとともに、複屈折が小さく、且つ色収差の少ない、一般的な光学レンズ等の用途に好適なポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
前記従来技術の課題に鑑み、本発明者らが鋭意検討を行なった結果、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物を含む酸成分と、ビスフェニルフルオレン系化合物と炭素数2〜6の脂肪族ジオールを含むジオール成分とを共重合して得られるポリエステル樹脂において、樹脂中に含まれる1,4−シクロヘキサンジカルボン酸残基のトランス体比率を80%以上としたポリエステル樹脂が、ガラス転移点130℃以上の優れた耐熱性を示し、高い屈折率を有するとともに、複屈折が小さく、且つ色収差の小さい(アッベ数の大きい)樹脂であり、特に光学レンズ等の用途として非常に有用な樹脂であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかるポリエステル樹脂組成物は、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)を含む酸成分と、下記一般式(I)で表されるビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物(B)と、炭素数2〜6の脂肪族ジオール化合物(C)とからなるジオール成分とを重合反応させてなるポリエステル樹脂を含む組成物であって、該ポリエステル樹脂組成物に含まれる1,4−シクロヘキサンジカルボン酸残基のトランス体/シス体の比率が80/20〜95/5であり、該ポリエステル樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)が130〜150℃であることを特徴とするものである。
Figure 0005585999

(式中、R、Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を示し、R、R、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示し、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。)
また、前記ポリエステル樹脂組成物において、重合原料として使用する1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)が、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステルであることが好適である。
また、前記ポリエステル樹脂組成物において、重合原料として使用する1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)におけるトランス体とシス体の異性体比率が、トランス体/シス体=90/10〜100/0であることが好適である。
また、前記ポリエステル樹脂組成物において、重合原料として使用する1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)が、全酸成分中80〜100モル%であることが好適である。
また、前記ポリエステル樹脂組成物において、重合原料として使用するビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物(B)が、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンであることが好適である。
また、前記ポリエステル樹脂組成物において、重合原料として使用するビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物(B)と全酸成分とのモル比が、ジヒドロキシ化合物(B)/全酸成分=0.70〜0.95であることが好適である。
また、前記ポリエステル樹脂組成物において、重合原料として使用する炭素数2〜4の脂肪族ジオール化合物(C)が、エチレングリコールであることが好適である。
また、前記ポリエステル樹脂組成物において、屈折率が1.600以上であることが好適である。
また、前記ポリエステル樹脂組成物において、1.4倍延伸時の複屈折が5.0×10−4以下であることが好適である。
また、前記ポリエステル樹脂組成物において、アッベ数が25以上であることが好適である。
また、本発明にかかるポリエステル成形体は、前記ポリエステル樹脂組成物を成形加工してなることを特徴とするものである。
本発明のポリエステル樹脂組成物及びこれを成形加工して得られた成形体は、耐熱性に優れ、高い屈折率を有するとともに、複屈折が小さく、且つ色収差が少ないため、特に一般的な光学レンズとしての用途に極めて有用である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、これらの内容に限定されるものではない。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)を含む酸成分と、一般式(I)で表されるビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物(B)と、炭素数2〜6の脂肪族ジオール化合物(C)とからなるジオール成分とを重合反応させてなるポリエステル樹脂を含む組成物であって、該ポリエステル樹脂に含まれる1,4−シクロヘキサンジカルボン酸残基のトランス体/シス体の比率が80/20〜95/5であり、該ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)が130〜150℃であることを特徴とするものである。
〈1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)〉
本発明のポリエステル樹脂組成物において、重合原料として使用される1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)は、通常ポリエステル原料モノマーとして用いられるエステル化物であれば特に限定されるものではないが、例えば、炭素数1〜10のアルキルエステル、より具体的には、ジメチルエステル、ジエチルエステル等が挙げられ、特にジメチルエステルを好適に使用することができる。なお、未置換の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を重合原料として使用し、直接エステル化により重合すると、重合反応中にトランス体からシス体への異性化が生じやすくなるため、樹脂中に含まれるトランス体/シス体の比率を80/20〜95/5の範囲内に制御することが困難となる。
本発明のポリエステル樹脂組成物において、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)の使用量は特に限定されるものではないが、全酸成分中80〜100モル%であることが好ましい。また、より好ましくは全酸成分中85〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%である。1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)が全酸成分中80モル%未満の場合、得られたポリエステル樹脂の複屈折が大きくなったり、色収差が大きくなる(アッベ数が小さくなる)場合があり、好ましくない。
なお、重合原料として他のジカルボン酸成分を適当量使用してもよく、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、2,6−デカリンジカルボン酸、1,4−デカリンジカルボン酸、1,5−デカリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等のエステル形成性誘導体、テレフタル酸、イソフタル酸等の単環式芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸等の多環式エステル形成性誘導体等が挙げられる。なお、これらのジカルボン酸成分は単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、重合原料として使用する1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)において、トランス体とシス体の異性体比率は、トランス体/シス体=90/10〜100/0であることが好ましく、より好ましくは95/5〜100/0である。重合工程におけるトランス体からシス体への異性化を考慮すると、トランス体の割合が90%未満であると、重合後の樹脂に含まれるトランス体/シス体比率を80/20〜95/5の範囲内に制御することが困難となる。
〈ビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物(B)〉
本発明のポリエステル樹脂組成物において、重合原料として使用されるビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物(B)は、下記一般式(I)により表される化合物である。
Figure 0005585999
(式中、R、Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を示し、R、R、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示し、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。)
上記一般式(1)で表されるビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物としては、より具体的には、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン等が挙げられ、これらは単独でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンが、得られる樹脂の光学特性や成形性の面から特に好ましい。
重合原料として使用するビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物(B)の使用量は、特に限定されるものではないが、全酸成分とのモル比で、ジヒドロキシ化合物(B)/全酸成分=0.70〜0.95であることが好ましく、さらに好ましくは0.80〜0.90である。前記モル比が0.70未満の場合、耐熱性が低下したり、屈折率が低下するため、光学用材料としては好ましくなく、一方で、0.95を超えると、流動性が悪化し、成形性が悪くなる場合があるため好ましくない。
〈炭素数2〜6の脂肪族ジオール化合物(C)〉
本発明のポリエステル樹脂組成物において、重合原料として使用される炭素数2〜6の脂肪族ジオール化合物(C)としては、具体的には、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられ、これらは単独でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、特にエチレングリコールが、得られる樹脂の耐熱性及び光学特性の点から好ましい。
重合原料として使用する炭素数2〜6の脂肪族ジオール化合物(C)の使用量は特に限定されるものではないが、ビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物(B)に対するモル比で、ジオール化合物(C)/ジヒドロキシ化合物(B)=0.05〜1.0であることが望ましい。前記モル比が0.05未満では、重合反応が進み難く、所定の分子量(粘度評価)に到達せず、得られた樹脂が脆くて実用に耐えられなかったり、流動性が悪く成形し難いものとなる場合がある。一方で、1.0を超えると、樹脂中に含まれるビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物(B)の含量が相対的に減ってしまい、屈折率及び耐熱性が低下する場合がある。
また、原料中の全ジオール成分/全酸分のモル比が0.85〜1.50となる範囲内で、適宜ジオール成分の使用量を調整することが望ましい。また、より好ましくは0.90〜1.30であり、さらに好ましくは0.90〜1.20である。前記範囲を超えてジオール化合物を使用すると、重合工程においてトランス体からシス体への異性化が生じやすくなり、重合後の樹脂に含まれるトランス体/シス体の比率を80/20〜95/5の範囲内に制御することが困難となる。
〈樹脂中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸残基のトランス体/シス体比率〉
本発明のポリエステル樹脂組成物において、樹脂組成物中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸残基のトランス体/シス体の成分比率は、80/20〜95/5である必要があり、好ましくは85/15〜95/5である。トランス体比率が80%未満の場合、ポリエステル樹脂組成物のガラス転移温度が低下し、耐熱性に劣ることになる。なお、トランス体比率が高いほど耐熱性の高い樹脂が得られると考えられるものの、重合工程においてトランス体からシス体への異性化が生じるため、95%を超えるトランス体比率を得ることは非常に困難であるとともに、95%を超えた場合であっても、その製造の困難さ、煩雑さと比較して得られる効果は小さい。
〈ガラス転移温度〉
本発明のポリエステル樹脂組成物は、上記(A)〜(C)の特定組成の酸成分及びジオール成分を用い、樹脂中の(A)の残基が特定の異性体比率となるように製造することによって、130℃以上の高いガラス転移温度を有しており、耐熱性に優れている。なお、本発明のポリエステル樹脂組成物のガラス転移温度は130〜150℃であり、好ましくは135〜145℃である。例えば、電子部品等に使用する光学材料用途の樹脂としては、一般に、130℃以上のガラス転移温度が要求される。すなわち、ガラス転移温度が130℃未満の場合、電子部品等に組み込まれた場合に耐熱性が不足し、使用中に変形したり、性能が変化する場合があるため、好ましくない。一方で、ガラス転移温度が150℃を超えると、樹脂が脆くなり易く、機械物性に劣る場合があり、また、複屈折が増大してしまう場合があるため、好ましくない。
〈屈折率〉
また、本発明のポリエステル樹脂組成物は、屈折率が1.600以上の樹脂として得られる。高い屈折率を有する樹脂材料は、特に光学レンズに使用する場合には、屈折率が大きい程レンズの厚さを薄くすることができるため好ましい。本発明のポリエステル樹脂組成物において、さらに好ましい屈折率は1.605以上である。
〈複屈折〉
また、本発明のポリエステル樹脂組成物は、1.4倍延伸した樹脂フィルムとして測定したときの複屈折が5.0×10−4以下の樹脂として得られる。複屈折は光学異方性の指標であり、一般的な光学レンズ用途においては、より小さい複屈折を有することが望まれる。本発明のポリエステル樹脂組成物において、さらに好ましい複屈折は、3.0×10−4以下である。
〈アッベ数〉
また、本発明のポリエステル樹脂組成物は、アッベ数が25以上の樹脂として得られる。アッベ数は色収差を評価する数値であり、数値が大きい程色収差が少ないことを意味する。アッベ数が小さい場合、色収差が大きく発現し、一般的な光学レンズ素子として使用する場合に不都合が生じ易いため、特に光学レンズ用途においては色収差が少ないことが望まれる。本発明のポリエステル樹脂組成物において、さらに好ましいアッベ数は26以上である。
〈ポリエステル樹脂組成物の製造方法〉
以下、本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の触媒を使用して公知の重合方法によって行うことができる。なお、本発明のポリエステル樹脂組成物の製造に際しては、十分な反応速度を得るため、第一段階として、公知の触媒を使用して常圧下でエステル交換反応を実施し、引き続く第二段階として、公知の触媒を使用して減圧下で重縮合反応を実行することが望ましい。
また、本発明のポリエステル樹脂組成物は、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)を酸成分としたエステル交換反応法により製造するものであり、例えば、未置換の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を出発原料とした直接エステル化法と比較して、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のトランス体からシス体への異性化反応が抑えられるため、樹脂中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸成分中のトランス体比率を、高比率且つ安定に制御することができる。
また、重合原料である(A)〜(C)の各成分を反応させるにあたって、原料中の全ジオール成分/全酸成分のモル比(X)を0.85〜1.50に調整することが望ましく、前記モル比(X)は、より好ましくは0.90〜1.30、さらに好ましくは0.90〜1.20である。一般的に、脂肪族グリコールを構成成分の一部としたポリエステル樹脂をエステル交換法により製造する場合、全ジオール成分/全酸成分のモル比は、1.50〜3.00程度である。しかしながら、前記モル比が1.50を超えると、原料である1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)において、トランス体からシス体への変異が生じ易くなり、トランス体比率を高比率で安定に制御することが非常に困難となる。また、前記モル比が0.85以下の場合、エステル交換反応が円滑に進まず、次段階の重縮合反応が進行せず、得られた樹脂の分子量が小さくなり、樹脂が脆くなり易く、実使用可能な程度の十分な機械物性が得られないため好ましくない。
エステル交換反応の触媒としては、少なくとも一種類以上の金属化合物を使用することが望ましい。好ましい金属元素としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、チタン、リチウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、スズ、コバルト等が挙げられる。これらの中でも、カルシウム及びマンガン化合物は反応性が高く、得られる樹脂の色調が良好なことから好ましい。エステル交換触媒の使用量は、生成するポリエステル樹脂に対して、通常、30〜3000ppm、好ましくは50〜1000ppmである。
また、重縮合反応の触媒としては、少なくとも一種類以上の金属化合物を使用することが望ましい。好ましい金属元素としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム等が挙げられる。これらの中でも、チタン及びゲルマニウム化合物は反応性が高く、得られる樹脂の透明性及び色調に優れていることから、光学用樹脂においては特に好ましい。重合触媒の使用量は、生成するポリエステル樹脂に対して、通常、30〜1000ppm、好ましくは100〜800ppmである。
また、本発明のポリエステル樹脂を製造する際、重縮合反応を円滑に進行するため、エステル交換反応が終了した後に、エステル交換触媒と等モル以上のリン化合物を使用することが望ましい。リン化合物の例としては、リン酸、亜リン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、トリメチルホスフェートが特に好ましい。リン化合物の使用量は、生成するポリエステル樹脂に対して、通常、50〜1000ppm、好ましくは100〜800ppmである。
エステル交換反応は、例えば、重合原料として使用する(A)〜(C)の各成分と、必要に応じて用いられる他の共重合成分とを、加熱装置、攪拌機及び留出管を備えた反応槽に仕込み、反応触媒を加えて常圧不活性ガス雰囲気下で攪拌しつつ昇温し、反応により生じたメタノール等の副生物を留去しつつ反応を進行させることによって行なう。反応温度は150℃〜270℃、好ましくは160℃〜260℃であり、反応時間は、通常、3〜7時間である。
重縮合反応は、例えば、上記のエステル交換反応終了後の生成物を用いて、加熱装置、攪拌機、留出管及び減圧付加装置を備えた反応槽により実施される。なお、これらの条件が満たされるならば、上記エステル交換反応において使用した同一の反応槽により、引き続き重縮合反応を実施することもできる。
重縮合反応は、例えば、上記のエステル交換反応終了後の生成物を入れた反応槽内に、触媒を添加した後、反応槽内を徐々に昇温且つ減圧しながら行なう。槽内の圧力は、常圧雰囲気下から最終的には0.4kPa以下、好ましくは0.2kPa以下まで減圧する。槽内の温度は、220〜230℃から昇温し、最終的には250〜290℃、好ましくは260〜280℃まで昇温し、所定のトルクに到達した後、槽底部から反応生成物を押し出して回収する。通常の場合、反応生成物を水中にストランド状に押し出し、冷却した上でカッティングし、ペレット状のポリエステル樹脂を得ることができる。
また、本発明のポリエステル樹脂組成物においては、用途及び成形目的に応じて、滑剤、熱安定剤、帯電防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料等の各種添加剤を適宜配合することができる。また、これらの添加成分は、反応工程及び加工工程のいずれの工程において配合してもよい。
本発明の成形体は、以上のようにして得られたポリエステル樹脂組成物を成形加工することにより得られる。本発明の成形体の用途は、特に限定されるものではないが、優れた特性(耐熱性に優れ、高い屈折率を有するとともに、複屈折が小さく、且つ色収差が少ない)を有していることから、一般的な光学レンズ、光学フィルム、光学シート、光ディスク、ピックアップレンズ等の用途において、特に有用である。
以下、実施例により本発明の内容をさらに詳細に説明するが、本発明の要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において用いた評価方法は、以下のとおりである。
〈原料中及び樹脂中の成分組成(トランス体/シス体比率等)〉
ブルカー・バイオスピン社製FT−NMR装置(DPX400型)を使用し、重水素化クロロホルムに試料を溶解し、テトラメチルシランを標品として混合し、プロトンNMRスペクトルを測定した。得られたNMRスペクトルより、試料中の成分組成を算出した。
〈固有粘度(IV)〉
フェノール:テトラクロロエタン=60:40(重量比)の混合液を溶媒として用い、サン電子工業(株)製、自動粘度計AVL−6Cを使用して、20℃条件下の樹脂の固有粘度(IV)を測定した。
〈ガラス転移温度(Tg)〉
パーキンエルマー社製、示差走査熱量測定装置(DSC−7)を使用し、樹脂を窒素雰囲気中で30℃から10℃/分で昇温しながら吸熱挙動を観察し、ガラス転移による吸熱挙動の中間点温度を、ガラス転移温度(Tg)とした。
〈屈折率〉
樹脂1gを200℃で熱プレス成形し、厚さ約150μの透明なフィルムを作成し、アタゴ社製のアッベ屈折計(DR−M2型)を使用し、20℃条件下で、樹脂の波長589nmでの屈折率を測定した。
〈複屈折〉
樹脂1gを160〜240℃でプレス成形し、厚み100〜400μmのフィルムとし、得られたフィルムを15×40mmの短冊状に切り出し、さらにTg+10℃の温度により20%/secで40%延伸後、急冷し、延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムについて、大塚電子(株)製リタデーション測定装置RETS−100を用いて、550nmの単色光で複屈折を測定した。
〈アッベ数〉
屈折率測定と同様の試料及び装置を用い、樹脂の波長589nm、486nm、656nmでの屈折率を測定し、以下の数式を用いてアッベ数(ν)を算出した。
ν=(n−1)/(n−n
:フラウンホーファーのD線である波長が589nmの光に対する樹脂の屈折率
:フラウンホーファーのF線である波長が486nmの光に対する樹脂の屈折率
:フラウンホーファーのC線である波長が656nmの光に対する樹脂の屈折率
本発明者らは、下記実施例及び比較例のポリエステル樹脂を製造し、以上の方法を用いて各種物性について評価を行った。各実施例及び比較例のポリエステル樹脂の原料組成を表1に、得られた樹脂の物性評価結果を表2にまとめて示す。なお、比較のために市販のポリカーボネート(PC)及びポリメタクリル酸メチルを使用し、同様の物性評価を行った。結果を表2に併せて示す。
実施例1
攪拌機、還流冷却器、加熱装置、圧力計、温度計、減圧装置及び窒素供給装置を装備し、且つ樹脂の押し出し口を有する容量1リットルのガラス製反応器に、トランス体比率が98%の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(以下、CHDA−M)80.2質量部、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(以下、BPEF)140.8質量部、エチレングリコール(以下、EG)7.4質量部を投入し系内を窒素置換した後160℃で原料を溶解した。しかる後、エステル交換触媒として酢酸マンガン0.021質量部及び酢酸カルシウム0.060質量部を投入し、260℃まで3時間かけて徐々に昇温し、更に260℃に保持したまま2時間反応を継続し、副生物の留出が無くなり且つ所定の副生物が留出したことを確認した。しかる後、トリメチルホスフェート0.075質量部、二酸化ゲルマニウム0.104質量部を0.9%の水溶液として添加した。内温が230℃に到達した後、徐々に昇温と減圧を開始し、90分後には内温を265℃且つ0.13kPaとし、この状態で重縮合反応を継続し、所定のトルクに到達するまで反応を継続した。所定のトルクに到達後、窒素で反応容器内を加圧にし、樹脂を冷却水中にストランド状に押し出し、カッティングしてペレットを得た。得られたポリエステル樹脂の物性は下記表2に示すとおりであった。
実施例2〜6
実施例1と同じCHDA−MとBPEFを使用し、EGの使用量を代える以外は、実施例1と同じ装置及び反応条件でエステル交換反応及び重縮合反応を実施し、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性は下記表2に示すとおりであった。
実施例7
トランス体比率が85%であるCHDA−Mを使用した以外は、実施例1と同じ反応を実施し、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性は下記表2に示すとおりであった。
実施例8
実施例1で使用したCHDA−Mを74.5質量部、BPEFを146.8質量部、EGを4.6質量部使用し、BPEF/全酸成分モル比を0.90にする以外は実施例1と同じ反応を実施し、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性は下記表2に示すとおりであった。
実施例9
BPEFの使用量を131.9質量部、EGを8.7質量部使用し、BPEF/全酸成分モル比を0.75にする以外は、実施例1と同じ反応を実施し、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性は下記表2に示すとおりであった。
実施例10
実施例1で使用したCHDA−Mの一部をテレフタル酸ジメチル(DMT)に変更した以外は、実施例1と同じ反応を実施し、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性は下記表2に示すとおりであった。
比較例1〜3
実施例1と同じCHDA−MとBPEFを使用し、EGの使用量を代え、実施例1と同じ装置及び反応条件でエステル交換反応及び重縮合反応を実施し、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性は下記表2に示すとおりであった。
比較例4
トランス体比率が75%であるCHDA−Mを使用した以外は、実施例1と同じ反応を実施し、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性は下記表2に示すとおりであった。
比較例5,6
実施例1で使用したCHDA−Mとテレフタル酸ジメチル(DMT)のモル比を50/50及び75/25に変更した以外は、実施例1と同じ反応を実施し、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性は下記表2に示すとおりであった。
比較例7
実施例1で使用したCHDA−Mを使用せずに、酸成分を全量テレフタル酸ジメチル(DMT)に変更し85.2質量部、BPEFを134.8質量部、EGを62.6質量部使用した以外は、実施例1と同じ反応を実施し、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性は下記表2に示すとおりであった。
比較例8
実施例1で使用したCHDA−Mに代えてCHDAを69.0質量部、BPEFを140.8質量部、EGを29.8質量部使用し、230℃で3時間触媒を使用せずにエステル化反応を実施し、エステル化反応終了後、実施例1と同じトリメチルリン酸とGeO2を添加し、同じ反応条件で重縮合反応を実施して、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性は下記表2に示すとおりであった。
Figure 0005585999
Figure 0005585999
表2に示すように、原料成分として、トランス体比率が98モル%の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを含む酸成分と、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンとエチレングリコールを含むジオール成分とを適切な割合で用いて重合反応することによって得られた実施例1〜10のポリエステル樹脂は、樹脂中に含まれるトランス体比率が80%以上(81〜94%)であり、また、ガラス転移点Tgが130℃以上(131〜140℃)と高く、耐熱性に優れたものであることがわかった。さらに、これら実施例1〜10のポリエステル樹脂は、いずれも屈折率が1.6以上(1.605〜1.613)、1.4倍延伸時の複屈折が5×10−4以下(1.0〜3.1×10−4)、アッベ数が25以上(26.4〜27.5)であり、一般的な光学レンズ用途において要求される各種特性をいずれも満足するものであった。
これに対して、比較例1,2のポリエステル樹脂は、エチレングリコール量が多く、全体のジオール比率が高いため、重合反応中にトランス体からシス体への異性化が生じてしまい、樹脂中のトランス体含有量が68〜70モル%と低くなってしまった。このため、ガラス転移点が125〜128℃と低くなり、十分な耐熱性が得られなかった。一方で、エチレングリコールをまったく含まない比較例3のポリエステル樹脂は、ガラス転移点は143℃と高く、耐熱性は十分であったものの、所定の分子量(粘度)まで到達せず、樹脂が脆くて延伸できず、実用に耐えられるものではなかった。また、トランス体比率が75モル%の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを原料成分として使用した比較例4のポリエステル樹脂は、樹脂中のトランス体比率も70モル%と低く、ガラス転移点が125℃であり、要求される耐熱性レベルを十分に満足するものでなかった。
全酸成分に対する1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの割合が40.1〜60.1%である比較例5,6のポリエステル樹脂は、ガラス転移点は140〜141℃と高く、耐熱性は十分であったものの、複屈折が6.1〜7.3×10−4と大きく、加えてアッベ数も若干小さい傾向にあった。また、酸成分としてジメチルテレフタル酸を使用した比較例7のポリエステル樹脂は、ガラス転移点は143℃と高いものの、複屈折が20.1×10−4と大きく、アッベ数が23.0と小さく、これらの要求特性をいずれも満たしていなかった。さらに、未修飾の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を使用し、直接エステル化法により重合した比較例8のポリエステル樹脂は、重合反応中の異性化反応を抑制できず、樹脂中のトランス体含有量が70モル%となってしまい、ガラス転移点が125℃と耐熱性に劣るものであった。
さらに、従来、光学用途として汎用されているポリカーボネート及びポリメタクリル酸メチルを使用し、同様の評価を行った結果、ポリカーボネートは、ガラス転移点が151℃と耐熱性に優れてはいるものの、屈折率が1.585と若干低いことに加えて、複屈折が211×10−4と著しく大きな値となってしまった。また、一方で、ポリメタクリル酸メチルの場合には、複屈折、アッベ数の数値は比較的優れているものの、ガラス転移が107℃と低く、耐熱性に劣っており、また、屈折率も1.492であり、製品として通常要求されるレベルを満たすものではなかった。

Claims (11)

  1. 1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)を含む酸成分と、
    下記一般式(I)で表されるビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物(B)と、
    炭素数2〜6の脂肪族ジオール化合物(C)とからなるジオール成分と
    を重合反応させてなるポリエステル樹脂を含む組成物であって、
    該ポリエステル樹脂組成物に含まれる1,4−シクロヘキサンジカルボン酸残基のトランス体/シス体の比率が80/20〜95/5であり、
    該ポリエステル樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)が130〜150℃であることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
    Figure 0005585999

    (式中、R、Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を示し、R、R、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示し、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。)
  2. 重合原料として使用する1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)が、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステルであることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
  3. 重合原料として使用する1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)のトランス体とシス体の異性体比率が、トランス体/シス体=90/10〜100/0であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂組成物。
  4. 重合原料として使用する1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)が、全酸成分中80〜100モル%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
  5. 重合原料として使用するビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物(B)が、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
  6. 重合原料として使用するビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物(B)と全酸成分とのモル比が、ジヒドロキシ化合物(B)/全酸成分=0.70〜0.95であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
  7. 重合原料として使用する炭素数2〜4の脂肪族ジオール化合物(C)が、エチレングリコールであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
  8. 屈折率が1.600以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
  9. 1.4倍延伸時の複屈折が5.0×10−4以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
  10. アッベ数が25以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
  11. 請求項1〜10のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を成形加工してなることを特徴とするポリエステル成形体。
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