JP4314501B2 - 吸湿性ポリエステル繊維成形品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、洗濯耐久性にすぐれた吸湿性ポリエステル繊維成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル繊維は多くの優れた特徴を有している為に、合成繊維として極めて広い用途を有している。しかしその反面、天然高分子繊維素材と比較して、吸湿性に乏しいため、帯電しやすく、油性汚れが落ちにくい等の欠点を有するほか、タバコの火等により溶融して孔が飽きやすいなどの欠点を有している。また、特に衣料、寝装等の用途に用いる場合、吸水性、吸湿性がないためにべとつき、蒸し暑いと言った欠点を有している。
【0003】
従来これらの欠点を改良するためにポリエステルに後加工で吸湿性の機能剤を付与する方法が提案されているが、風合い硬化のため、高い性能が付けられない上、洗濯耐久性も低い。また、ポリエステル高分子に吸湿性機能剤を製糸工程にて練り込む方法も提案されている。この場合、風合いの硬化は避けられ、洗濯耐久性も比較的いいのだが、添加量が増えると機械的特性が低下するため、高い性能を付けるのが難しく、吸湿性機能剤の含水成分が、製糸工程での大きな問題になり生産が非常に難しくなる。また、重合段階でポリエステルに様々な吸湿性のモノマーやポリマーを共重合させる方法も提案されている。これらの方法を用いれば、洗濯耐久性は非常にすぐれているのだが、高機能のためにその共重合量を多くすれば、紡糸、延伸等の製糸工程での生産技術が非常に困難になる上、ポリエステルのすぐれた機械的特性も低下する。後加工工程にて親水性不飽和重合体をグラフト重合する方法が提案されている。しかしながら、一般に疎水性高分子成形品にアクリル酸、メタクリル酸のような親水性不飽和単量体をグラフト重合する場合、グラフト重合効率が著しく低く、また不均一になりやすい欠点を有している。
【0004】
従来、グラフト重合方法としては、疎水性ラジカル開始剤、開始剤の溶液、疎水性重合体の膨潤剤及び乳化剤を配合した水系乳化分散液を疎水性重合体に付着させ加熱、水洗して該重合体に重合活性中心を導入した後、ラジカル重合によって重合し得る二重結合を有する単量体を作用させる二浴法(特公昭45−502号公報)、芳香族ポリエステル成形物を、疎水性有機溶剤、疎水性ラジカル開始剤、ラジカル重合によって重合し得る二重結合を有する親水性単量体及び、乳化剤からなる水性分散液で処理する一浴法(特公昭48−27743号公報)等が提案されている。しかし、前者の方法は活性化処理工程とグラフト重合工程との二工程からなり、操作が煩雑で時間を必要とするばかりか、グラフト率の変動、グラフト重合の不均一化を生じて常に安定した均一グラフト重合を得ることが困難である。また、後者の方法は単一工程という利点はあるが、グラフト重合の均一性に欠けること、重合効率が低い等の欠点を有している。
【0005】
また、グラフト重合加工の際に、グラフト効率を高めるために、疎水性重合体の膨潤剤としてキャリヤーを用いることが知られているが用いられるキャリヤーの臭気が非常に特徴的でなおかつ強く、最終製品にまで臭気が残り、問題となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は上記問題を解決して、洗濯耐久性にすぐれた、吸湿性ポリエステル繊維成形品を、安全かつ効率的に提供する事である。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、(1)疎水性ラジカル開始剤、フタルイミド系化合物及びエチレン性不飽和有機酸を含み、かつpHが2.5以上3.5以下となるようにアルカリ金属化合物によりpH調整された水性乳化液中にポリエステル繊維成形品を浸漬、加熱処理しグラフト重合した後、塩基性アルカリ金属化合物と金属イオン封鎖剤を含む水性液で処理することにより得られた吸湿性ポリエステル繊維成形品である。さらに、20℃×65%RH環境下での吸湿率が4%以上であり、さらにJIS L02017−103法による繰返し洗濯試験後10回後の20℃×65%RH環境下での吸湿率が3%以上である前記(1)記載の吸湿性ポリエステル繊維成形品である。
【0008】
本発明によると、高性能で洗濯耐久性にすぐれた吸湿性ポリエステル繊維成形物が効率よく得られるばかりでなく、これらにより作られた製品からの臭気は非常に少ない。更に、グラフト重合率、吸湿性の再現性も高く、工業化における大きな利点を有する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明におけるポリエステルとは、繊維形成性のポリエステルであれば特に限定はされないが、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸を主たるカルボン酸成分とし、エチレングリコール、プロピレングリコール、もしくはテトラメチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、あるいはポリエチレン2,6−ナフタレート等の線状ポリエステルを主成分としたものが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートが望ましい。
【0010】
また、当該ポリエステルは、用途によっては難燃性、易染性、制電性等の機能性を有する化合物等が共重合されていても、ダル剤、無機粒子等の添加剤が含まれていても構わない。
【0011】
本発明におけるポリエステル繊維成形品とは、その形態はわた、トウ、糸、織編物、不織布、敷物などいずれでもよく、いづれの状態でも加工される。
【0012】
得られた吸湿性ポリエステル繊維成形品はそれらのみでも良いが、製品の機械的特性やコスト等を考慮に入れると、混繊、混紡、交織編、積層等の方法で他の素材と混用されるのが望ましい。また、吸湿性能から考えると、混率は10%以上が好ましい。
【0013】
疎水性ラジカル開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、トルイルパーオキサイド、芳香族アルキルパーオキサイド系化合物、ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、キュメンハイドロパーオキサイド、過安息香酸、過安息香酸エステル等があげられる。その使用量は一般にグラフト重合浴に対し0.01重量%以上5重量%以下である。
【0014】
フタルイミド系化合物とはフタルイミド基を有する化合物であり、フタルイミドのN基に脂肪族もしくは芳香族のアルキル基を有するN置換フタルイミド系化合物が好ましく、加工処理後の製品への残存量、臭気、安全性、取り扱い性を考えると、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル等の低分子量脂肪族アルキル基を有するN−アルキルフタルイミド系化合物がより望ましい。また、これらの化合物は単独で用いても、数種類混合して用いても良い。
【0015】
この、フタルイミド系化合物の使用量は、グラフト重合浴に対し、0.01重量%以上2.0重量%以下が望ましい。これより少ないと、均一にグラフト重合が行われず、重合率も上がらない。また、これ以上使用量を増やしても、反応効率は良くならず、最終製品に残存するフタルイミド系化合物の量も多くなり、臭気が残り、消費特性上好ましくない。また、安全性、処理液コスト、反応性の点から、より好ましくは0.1重量%以上1.0重量%以下である。
【0016】
これらの加工により得られた吸湿性ポリエステル繊維成形品及びそれらを含む製品中に残存するフタルイミド系化合物の量は2000ppm以下である事が望ましい。これ以上残存量が多くなると臭気が残るだけでなく、消費特性上も好ましくない。これらは、最終製品5gを充てん管に入れ、180℃で15分間熱処理し、発生したガスをクロロホルムで抽出し、ガスクロマトグラフィーを用いて測定することができる。また、最終製品におけるフタルイミド系化合物の量を2000ppmにするためには、フルタルイミドの使用量にもよるが、反応後の製品乾燥もしくは成形工程にて、140℃以上の温度で処理してやればよい。
【0017】
本発明で重合浴の安定化のために使用できる界面活性剤としては、非イオン型界面活性剤、アニオン型界面活性剤、カチオン型界面活性剤、両性界面活性剤、非イオンアニオン型界面活性剤、非イオンカチオン型界面活性剤などが用いられ、これらは単独又は場合によっては2種以上の併用で用いられるが、乳化系の安定性及びグラフト重合の効率の面からは、非イオン系界面活性剤、非イオンアニオン型界面活性剤又は非イオン型界面活性剤とアニオン型活性剤の混合物が好ましい。
【0018】
本発明におけるエチレン性不飽和有機酸としてはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、スチレンスルホン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸等が例示され、各々単独または混合物としてグラフト重合に用いられるが、特にアクリル酸及び/又はメタクリル酸が好ましい。また、不飽和有機酸以外のエチレン性不飽和単量体を共存させても良い。これらの不飽和単量体の例としては、不飽和有機酸エステル類、これらのフッ素や臭素の置換体、リンや硫黄含有化合物など各種の機能性を付与できる化合物が挙げられる。
【0019】
グラフト重合浴中における、エチレン性不飽和有機酸の濃度は0.5重量%以上10重量%以下が好ましく、0.5重量%以上5重量%以下がより好ましい。これらのモノマー濃度が10重量%を超えると非グラフト重合体である副生成重合体が多くなる傾向があるが、通常2〜100%のグラフト率を得ることが可能である。
【0020】
本発明におけるグラフト重合率は、好ましくは10%以上、より好ましくは12%以上さらに好ましくは15%以上である。吸湿性を向上させる上でグラフト率は高い方がよいが、あまり高すぎると繊維の強度低下が著しくなるため、グラフト率30%程度までが実用性の点で好ましい。
【0021】
本発明においては、上記組成からなるグラフト重合浴の室温におけるpHが2.5以上3.5以下となるようにアルカリ金属化合物によりpH調整される必要がある。pHが2.5未満ではグラフト率が低下し、非グラフト重合体の副成生物が増加し、ポリエステル繊維成形品の表面に膠着する上、機械的特性の低下も見られる。pHが3.5をこえると、副生成重合体の膠着は生じにくくなるがグラフト率が低下する。
【0022】
pH調整剤として用いられるアルカリ金属化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸カリウムのようなアルカリ金属炭酸塩等の他、リン酸−2−ナトリウム、リン酸−3−ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリリン酸ナトリウム、リン酸−3−カリウムのような無機弱酸のアルカリ金属塩、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウムのような、有機酸のアルカリ金属塩等の水に溶解してアルカリ性を示す広範囲の化合物がしようできるが、特に無機弱酸のアルカリ金属塩が使用しやすい。
【0023】
本発明においては調整されたグラフト重合浴中にポリエステル繊維成形品を浸漬して加熱処理するが、処理条件は通常50℃から150℃で5分から3時間であり、好ましくは70℃から130℃で30分から120分間である。雰囲気としては窒素ガス雰囲気が好ましい。
【0024】
これらの方法によりグラフト重合されたポリエステル繊維成形品はさらに、共重合したエチレン不飽和有機酸の酸末端をアルカリ金属塩化する事により、吸湿性能が高くなる。このアルカリ金属塩化に用いるアルカリ金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウム等があげられ、塩基性アルカリ金属化合物としては、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸−2−ナトリウム、リン酸−3−ナトリウムなど無機弱酸のアルカリ金属塩、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムなど有機弱酸のアルカリ金属塩、亜硫酸ナトリウム、珪酸ナトリウム等の水に溶けてアルカリ性を示す化合物であり、これらは単独または2種以上の混合物として用いられる。なお、該アルカリ金属化合物の使用量は0.1g/L〜10g/Lの濃度で使用される。
【0025】
本発明において、上記のアルカリ金属化合物と共に用いられる金属イオン封鎖剤は公知の物質が使用される。一般に金属イオン封鎖剤としては、ピロリン酸ナトリウム、トリリン酸ナトリウム、トリメタリン酸ナトリウム、テトラメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム等の縮合リン酸塩類、エチレンジアミンテトラ酢酸の2ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ酢酸の4ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ酢酸の2アンモニウム塩、エチレンジアミンテトラ酢酸の4アンモニア塩等のエチレンジアミンテトラ酢酸塩、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン−N、N’N’−トリ酢酸類、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸、シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸類等があげられる。これらの金属イオン封鎖剤の使用量は用水中に溶存する多価金属イオンの量にもよるが、一般には0.01g/L〜5g/Lの濃度で使用すれば十分である。
【0026】
アルカリ金属化合物と金属イオン封鎖剤を含む水溶液によるグラフト重合したポリエステル繊維成形品のアルカリ金属塩化処理は、一般には常温から100℃の範囲の温度で行われるが、アルカリ金属化合物の濃度を高くし、パッドスチーミング等で行うこともできる。本発明は用水として、多価金属イオンが炭酸カルシウムに換算した全硬度で5ppm以上、特に10ppm以上溶存している水を用いる場合には、非常に効果的である。
【0027】
本発明の方法に従いアルカリ金属塩化されたエチレン性不飽和有機酸グラフトポリエステル繊維形成品には、すぐれた吸水性、吸湿性、吸湿発熱性、帯電防止性が付与される。これらの方法により、20℃×65%RH環境下での吸湿率が4%以上と高く、さらにJIS L0217−103法による繰返し洗濯試験10回後の20℃×65%RH環境下での吸湿率が3%以上である吸湿性ポリエステル繊維成形品を得ることができる。これらを用いることにより、衣料、寝装等の用途にポリエステル繊維を用いた場合に問題となっていたべとつき、蒸し暑いという欠点を改善することができ、それらの性能は実使用における洗濯後も継続される。吸湿率が4%未満の場合は、べとつき、蒸し暑さが残り、洗濯後は更に悪くなる。更に望ましくは20℃×65%RH環境下での吸湿率が6%以上、JIS L0217−103法による繰返し洗濯試験10回後の20℃×65%RH下の吸湿率が4.5%以上である。
【0028】
これらのエチレン性不飽和有機酸グラフトポリエステル繊維成形品には、さらに、防融性や抗ピル性、アンモニア消臭性、アルカリガス吸着性、pHバランス性なども、複合的に付与され、その効果は著しい。また、処理により染色性、接着性、金属蒸着性、あるいは他の化合物との反応性等の多くの改善された性質を有する。
【0029】
以下、実施例により本発明を説明する。実施例における吸湿性ポリエステル繊維成形品の評価方法は以下の通りである。
(1)洗濯耐久性試験:JIS L0217−103法にて10回洗濯試験する。
(2)グラフト重合率(GT%):反応前の絶乾重量(W0)からグラフト重合し洗浄した後の絶乾重量(W1)への重量増加率から計算した。
グラフト率(GT%)=(W1−W0)×100/W0
(3)吸湿率(M%):最終品の絶乾重量(S0)から環境温湿度下で48時間放置した後の重量(S1)への重量増加量から計算した。
吸湿率(M%)=(S1−S0)×100/S0
【0030】
(実施例1、2、比較例1、2、3)
ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、N−ブチルフタルイミド、およびポリエチレングリコールとアニオン系の界面活性剤よりなる乳化水正液を調整し、該調整液にアクリル酸とメタクリル酸の等量混合モノマーを加え、さらに炭酸ナトリウムでpH3.0に調整してグラフト重合浴を得た。N−ブチルフタルイミド及びモノマーの重合浴に対する添加量は表1に示した。BPOの重合浴中の濃度は0.1重量%である。この重合浴の1/15重量のポリエチレンテレフタレートフィラメント加工糸編物(75d/36f)を重合浴に浸漬して、窒素ガス雰囲気下、100℃で1時間グラフト重合を行った。次いで、80℃の熱水で10分処理し、その後、工業用水(炭酸カルシウム換算の全硬度38ppm)を用いて、水酸化ナトリウムおよびジエチレンジアミンテトラ酢酸−4−ナトリウム塩(EDTA4Na)を含む水溶液(実施例1、2、比較例3)及びEDTANaを含まない水酸化ナトリウム水溶液(比較例1、2)を用いて、70℃×10分処理し、その後、湯水洗を行い、乾燥機(140℃×10分)を用いて乾燥させ最終製品を得た。
【0031】
上記実施例および比較例で得られた繊維製品について、グラフト重合率、吸湿率、N−アルキルフタルイミド残存量、および最終製品の臭気を調べた。この結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
【発明の効果】
本発明の方法を用いれば、洗濯耐久性にすぐれた吸湿性ポリエステル繊維成形品を得る事ができる。また、それらおよびそれらを含む製品からの臭気は非常に少なく、洗濯耐久性のある吸湿性があり、消費特性上非常に好ましい製品である。
Claims (2)
- 疎水性ラジカル開始剤、フタルイミド系化合物及びエチレン性不飽和有機酸を含み、かつpHが2.5以上3.5以下となるようにアルカリ金属化合物によりpH調整された水性乳化液中にポリエステル繊維成形品を浸漬、加熱処理しグラフト重合加工した後、塩基性アルカリ金属化合物と金属イオン封鎖剤を含む水性液で処理することにより得られた吸湿性ポリエステル繊維成形品。
- 20℃×65%RH環境下での吸湿率が4%以上であり、さらにJIS L0217−103法による繰返し洗濯試験10回後の20℃×65%RH環境下での吸湿率が3%以上である請求項1記載の吸湿性ポリエステル繊維成形品。
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