JP4461342B2 - 耐光堅牢度及び消臭性に優れた複合糸及びそれを用いた繊維製品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カーテン、ドレスシャツ、ブラウス、スポーツシャツ、肌着、寝具、作業服、ユニフォーム、靴下、手袋、カーシート等に用いられ、耐光堅牢度及び消臭機能性に優れた糸、繊維構造物及び繊維製品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、親水性ビニル系モノマーの繊維に対するグラフト重合加工は、ポリエステル繊維に親水性を付与する加工、セルロース系繊維、再生セルロース系繊維、アクリル系繊維等の繊維構造物に消臭性や抗菌性を付与する加工、吸湿発熱性を付与する加工として知られている。
【0003】
しかし、このような親水性ビニルモノマーがグラフト重合加工された布帛は、耐光堅牢度が悪く、屋外で着用する衣料品や、カーテン、カーシート等のように常に光に当っている場所では使用することは困難であった。そのために、グラフト重合加工されたものは、光の当らない用途にしか使用されていないのが現状である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、糸あるいは織物、編物等の布帛として風合いが損なわれず、耐光堅牢度及び消臭機能性に優れた糸、繊維構造物及び繊維製品を提供する事を目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成する為に本発明の繊維構造物は次の構成を有する。
1.疎水性ラジカル開始剤、アルキルフタルイミド系化合物、界面活性剤及びエチレン性不飽和有機酸を含む水性乳化液を用いてエチレン性不飽和有機酸がグラフト重合されたポリエステル繊維を芯部に有し、鞘部に木綿繊維を有する耐光堅牢度がJIS L 0842法において5級以上であることを特徴とする耐光堅牢度及び消臭性に優れた複合糸。
2.前記の複合糸を用いたことを特徴とする前記1に記載の耐光堅牢度及び消臭性に優れた繊維製品。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、親水性ビニル系モノマーがグラフト重合される繊維は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維等の合成繊維や、レーヨン繊維、トリアセテート繊維等の再生もしくは半合成繊維である。また、本発明における繊維構造物とは、糸、織物、編物及びこれらを用いた繊維製品である。
【0007】
本発明におけるグラフト重合加工された繊維は、グラフト率が1〜30重量%である。該繊維のグラフト率は、1重量%未満では本発明の効果は十分ではない。また、30重量%を超えると繊維の硬化や強伸度低下や可紡性低下が発生する。好ましいグラフト率は3〜25重量%である。
グラフト重合加工された繊維の形態は、チーズの状態で親水性ビニル系モノマーがグラフト重合されたものが好ましい。
【0008】
グラフト重合される親水性ビニル系モノマーとしては、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和有機酸が例示され、各々単独または混合物としてグラフト重合に用いられるが、特にアクリル酸及びまたはメタクリル酸が好ましい。また、不飽和有機酸以外のエチレン性不飽和単量体を共存させても良い。
【0009】
グラフト重合率(GT%)、すなわちポリエステル繊維成形物に対する、エチレン性不飽和有機酸の重合による重量増加率は12%以上が望ましい。これよりもグラフト重合率が低いと、目標とする吸湿発熱性もしくはアンモニア消臭機能性のいずれかの機能が十分発揮出来ない。性能の点からより望ましくは15%以上である。グラフト重合率(GT%)は反応前の絶乾重量(W0)からグラフト重合し洗浄した後の絶乾重量(W1)への重量増加率から計算できる。
グラフト重合率(GT%)=(W1−W0)×100/W0
【0010】
グラフト重合方法としては、疎水性ラジカル開始剤、アルキルフタルイミド系化合物、界面活性剤及びエチレン性不飽和有機酸を含む水性乳化中にポリエステル繊維成形品を浸漬、加熱処理する方法を採用する。これらの方法を採用することにより、効率よく均一にグラフト重合することができ、繊維物理特性の低下が少ない。
【0011】
グラフト重合浴中におけるエチレン性不飽和有機酸の濃度は1〜10重量%が好ましい。このような濃度で加工することにより、通常12%以上のグラフト重合率を得ることが可能となる。
【0012】
疎水性のラジカル開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、トルイルパーオキサイド、芳香族アルキルパーオキサイド系化合物、ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、キュメンハイドロパーオキサイド、過安息香酸、過安息香酸エステル等が挙げられる。なお、疎水性のラジカル重合開始剤の使用量は、グラフト重合浴に対して、0.01〜5.0重量%程度である。
【0013】
アルキルフタルイミド系化合物とは、フタルアミドのN基に脂肪族もしくは芳香族のアルキル基を有する化合物であるが、加工処理後の製品への残存量、臭気、安全性、取り扱い性を考えると、メチル、エチル、プロピル、イソピロピル、ブチル、イソブチル等の低分子量脂肪族アルキル基が望ましい。また、これらは単独で用いても、数種類混合して用いても良い。
【0014】
このアルキルフタルイミド系化合物の使用量は、グラフト重量浴に対して、0.01〜2.0重量%が望ましい。これより少ないと、均一にグラフト重合が行われず、重合率も上がらない。また、これ以上使用量を増やしても、重合率は高くならず、最終製品に残存するアルキルフタルイミドの量も多くなり、臭気が残り、消費特性上好ましくない。また、安全性、処理コスト、反応性の点から、より好ましくは0.1重量%以上1.0重量%以下である。
【0015】
調整されたグラフト重合浴中にポリエステル繊維成形品を浸漬して加熱処理するが、処理条件は通常50℃から150℃で5分から3時間であり、好ましくは70℃から130℃で30分から120分間である。雰囲気としては窒素ガス雰囲気が好ましい。
【0016】
さらにグラフト重合した後、塩基性アルカリ金属化合物と金属イオン封鎖剤を含む水溶液で、その水溶液pHが8以上10未満になるまで処理することにより、高い吸湿発熱性能とアンモニア消臭性能の両性能を得ることが出来る。
【0017】
すなわち、これらの方法によりグラフト重合されたポリエステル繊維成形品は、共重合したエチレン不飽和有機酸の酸末端の一部をアルカリ金属塩化することにより、高い吸湿発熱性能をえることが出来る。また、不飽和有機酸の酸末端の一部はアルカリ金属塩化せずに残す必要がある。残った酸末端により、アンモニア消臭機能を得ることが出来る。これらの両性能を得るためには、グラフト重合した後の塩基性アルカリ金属化合物と金属イオン封鎖剤を含む水溶液での処理において、アルカリ添加量を徐々に追加するか、低濃度で数回に分けて、処理液中のpHが8以上10未満の地点になるまで処理する必要がある。水溶液pHが8未満の場合は十分な吸湿性能が得られず、10以上になるとアンモニア消臭機能が得られるだけでなく、繊維の機械的特性の低下も激しく、製品として望ましくない。
【0018】
このアルカリ金属塩化に用いる金属塩としては、ナトリウム、リチウム、カリウム等が挙げられ、塩基性アルカリ化合物としては、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどがアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸-2-ナトリウム、リン酸-3-ナトリウムなどの無機弱酸のアルカリ金属塩、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムなどの有機弱酸のアルカリ金属塩、亜硫酸ナトリウム、珪酸ナトリウム等の水に溶けてアルカリ性を示す化合物であり、これらは単独または2種遺贈の混合物として用いられる。なお、該アルカリ金属化合物の使用濃度は10g/Lの濃度で使用されるが、機械的性能上望ましい。
【0019】
本発明において、上記段落0018のアルカリ金属化合物と共に用いられる金属イオン封鎖剤は公知の物質が使用される。一般に金属イオン封鎖剤としては、ピロリン酸ナトリウム、トリリン酸ナトリウム、トリメタリン酸ナトリウム、テトラメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム等の縮合リン酸塩類、エチレンジアミンテトラ酢酸の2ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ酢酸の4ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ酢酸の2アンモニウム塩、エチレンジアミンテトラ酢酸の4アンモニウム塩等のエチレンジアミンテトラ酢酸塩、N-ヒドロキシエチルエチレンジアミン-N、N'N'-トリ酢酸塩、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸、シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸類等が挙げられる。これらの金属イオン封鎖剤の使用量は用水中に溶存する多価金属イオンの量にもよるが、一般には0.01〜5.0g/Lの濃度で使用すれば十分である。
【0020】
アルカリ金属化合物と金属イオン封鎖剤を含む水溶液によるグラフト重合したポリエステル繊維成形品のアルカリ金属塩化処理は、一般的には常温から100℃の範囲で行われる。
【0021】
また、グラフト重合方法として、放射線、電子線、紫外線、マイクロウェーブ等の活性エネルギー線を利用する方法も採用することができる。
【0022】
織物、編物、不織布等の布帛の状態で親水性ビニル系モノマーのグラフト重合を実施する場合は、風合いが硬くなる、反応性染料や直接染料等を用いて染色加工する場合、染料と繊維とがイオン反発して淡色化する、耐光堅牢度が悪い、染色時の色合わせが困難になるなどの問題があるが、本発明のように、芯部に親水性ビニル系モノマーをグラフト重合させたフィラメント、鞘部に加工されていない繊維を用いて、複合糸にすることにより、淡色化や耐光堅牢度の問題を改善することが出来る。
【0023】
鞘部に用いる未加工の繊維は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維等の合成繊維や、レーヨン繊維、トリアセテート繊維等の再生もしくは半合成繊維、木綿、絹、麻、羊毛などの天然繊維あるいは、これらの混用繊維からなるものがあげられる。これらの繊維はステープル状の単独もしくは、複合でも用いることが出来る。好ましくは、木綿、ポリエステル短繊維、単独もしくは複合である。
【0024】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。実施例また比較例における繊維構造物及び繊維製品の評価方法は以下の通りである。
【0025】
グラフト重合率(GT%)の測定:
反応前の絶乾重量(W0)から、グラフト重合し洗浄した後の絶乾重量(W1)への重量増加率から計算した。
グラフト重合率(GT%)=(W1−W0)×100/W0
【0026】
耐光堅牢度の測定:
JIS L 0842法(カーボンアーク灯光に対する染色堅牢度試験法)に準拠した方法で実施した。測定機器は耐光堅牢度測定機(密閉式紫外線フェードメーター、スガ試験機株式会社製)を使用した。耐光4級照射を実施して、グレースケール基準で評価した。
【0027】
アンモニア消臭性の測定:
3Lのポリ容器に100ppmの濃度になるようになるようにアンモニア水を敵下し、そのポリ容器にサンプルを3g入れ、密閉し20分後のポリ容器中にアンモニア濃度が10ppm以下になるような、性能のことを言う。アンモニア濃度は(株)ガステック社製のガス検知管を使用して測定する。
【0028】
ベンゾルパーオキサイド0.1重量%、N-ブチルフタルイミド、炭酸ナトリウム及びポリエチレングリコールとアニオン系の界面活性剤よりなる乳化水溶液に、アクリル酸とメタクリル酸の等量混合モノマーを加えて調整したグラフト重合浴に1/15重量のポリエチレンテレフタレートフィラメント(2.2dtex)をチーズの状態で浸漬した。そして、窒素ガス雰囲気下、100℃で1時間グラフト重合を行った。次いで、80℃の熱水で10分処理し、その後、炭酸ナトリウム3g/L及びジエチレンジアミンテトラ酢酸-4-ナトリウム塩0.5g/Lの水溶液を用いて、70℃×10分の処理を処理液が所定のpHになるまで繰り返し、その後、湯水洗を行い、乾燥機(140℃)を用いて乾燥させて、グラフト重合加工されたフィラメントを得ることが出来た。処理したポリエステルのフィラメントを、以下では「GT-FIL」と呼ぶ。
【0029】
ポリエチレンテレフタレートフィラメント(2.2dtex)のグラフト重合加工を実施していないもの得ることが出来た。処理していないポリエステルのフィラメントを以下「FIL」と呼ぶ。
【0030】
実施例1
芯部が「GT-FIL」、鞘部が未加工の木綿で構成された40番手の複合糸を作成し、天竺編物を編み立てた。
【0031】
実施例2
芯部が「GT-FIL」、鞘部が未加工のポリエステルステープル(2.2dtex-40mm)で構成された、40番手の複合糸を作成し、天竺編物を編み立てた。
【0032】
実施例3
芯部が「GT-FIL」、鞘部が未加工の木綿が35重量%とポリエステルステープル(6.6dtex-40mm)が65重量%に均一に混紡し構成された、40番手の紡績糸を作成し、天竺編物を編み立てた。
【0033】
比較例1
芯部に「FIL」、鞘部に未加工の木綿で構成された40番手の複合糸を作成し、天竺編物を編み立てた。
【0034】
比較例2
芯部に「FIL」、鞘部に未加工のポリエステルステープル(2.2dtex-40mm)で構成された40番手の複合糸を作成し、天竺編物を編み立てた。
【0035】
比較例3
芯部に「FIL」、鞘部に未加工の木綿が35重量%とポリエステルステープル(2.2dtex-40mm)が65重量%に均一に混紡され構成された、40番手の複合糸を作成し、天竺編物を編み立てた。
【0036】
比較例4
「GT-FIL」を用いて、天竺編物を編み立てた。
【0037】
実施例1~3、比較例1~4で得られた織物を精錬、漂白、ポリエステル染色、木綿染色し繊維製品を得た。
なお、ポリエステル染色、木綿染色は、以下の方法によった。
【0038】
ポリエステルの染色方法:
Sumikaron Red SE-RPD(住友化学工業社製) 0.1%omf
Sumikaron Blue SE-RPD(住友化学工業社製) 0.05%omf
Sumikaron Yellow SE-RPD(住友化学工業社製) 0.05%omf
酢酸 1.0g/l
酢酸ソーダ 0.5g/l
130℃×30min 浴比 1:20
染色後、湯洗、水洗を繰り返す。
【0039】
木綿の染色方法:
Sumifix Supra Red 4BNF(住友化学工業社製) 0.1%omf
Sumifix Supra Blue BRF(住友化学工業社製) 0.05%omf
Sumifix Supra Yellow 3RF(住友化学工業社製) 0.05%omf
ソーダ灰 1.0g/l
60℃×45min 浴比 1:20
染色後、湯洗、水洗を繰り返す。
【0040】
実施例1〜3、比較例1〜4で得られた繊維製品の耐光堅牢度、アンモニア消臭率を測定した結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【発明の効果】
本発明は、芯部のグラフト重合加工したフィラメントを、鞘部に未加工の繊維を覆い複合糸にすることによって、該糸から布帛を得ることにより、従来のグラフト重合加工布帛では達成できなかった、良好な風合いで、かつ耐光堅牢度及び消臭機能性に優れた繊維製品を提供することが出来る。
Claims (2)
- 疎水性ラジカル開始剤、アルキルフタルイミド系化合物、界面活性剤及びエチレン性不飽和有機酸を含む水性乳化液を用いてエチレン性不飽和有機酸がグラフト重合されたポリエステル繊維を芯部に有し、鞘部に木綿繊維を有する耐光堅牢度がJIS L 0842法において5級以上であることを特徴とする耐光堅牢度及び消臭性に優れた複合糸。
- 前記の複合糸を用いたことを特徴とする請求項1に記載の耐光堅牢度及び消臭性に優れた繊維製品。
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