JP4279995B2 - MnZn系フェライト - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、スイッチング電源などの電源トランス等の磁心に用いられるMnZn系フェライトに関し、特に、電力損失(コアロス)の温度依存性が小さいMnZn系フェライトに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えばトランス用フェライト材料は、電子回路の熱暴走を防ぐ為の安全性を優先させ、電力損失(コアロス)が極小値を示す温度(以下、ボトム温度と略す)が電子回路の駆動温度より高い温度になるように材料設計されていた。
【0003】
しかしながら、近年の携帯機器、電気自動車などの急速な発展とトランスの高効率化などの要望に応じる為、フェライト材料としては、ボトム温度が実際の駆動温度に近い事、さらに特に電気自動車等、屋外で使用される機器に関しては、広い温度帯域での低損失化が実行できる事が求められるようになった。
【0004】
このような要望に応じるための関連先行技術として、以下に示すような提案がなされている。
【0005】
特公平5−21859号公報には、MnZn系フェライトの基本組成に、CaOおよびNb25を含有させ、さらにAl23、CoO、CuOのうち少なくとも一種を含有させ、コアロスの低減、磁気特性の改善を図る旨の提案がなされている。しかしながら、当該提案には、コアロスの温度特性に関しては全く考慮されていない。さらに、トランスの高効率化の要望は極めて高く、より一層の磁気損失の低減が要求されている。
【0006】
また、特開平8−191011号には、Fe23、CoO、ZnO、MnOからなる主組成に加え、SiO2、CaO、ZrO2、およびTa25を含有させることにより広範囲の温度領域で低損失のフェライトを得ることができる旨の提案がなされている。しかしながら、トランスの高効率化の要望は極めて高く、より一層の磁気損失の低減が要求されている。
【0007】
また、特開2000−286119号公報には、Fe23、ZnO、MnO、NiO、CoOからなる主成分に加えて、SiO2、CaOを含有させ、さらにTa25、ZrO2、Nb25、V25、K2O、TiO2、SnO2、HfO2のうち少なくとも1種の添加成分を含有させることにより広範囲の温度領域で低損失なフェライトを得ることができる旨の提案がなされている。しかしながら、トランスの高効率化等に対する改善の要望は高く、さらなる改善が要求されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このような実状のもとに本発明は創案されたものであり、その目的は、上記の課題を解決し、電力損失の低減が図れることはもとより、広範囲の温度領域で低損失化が実現できるMnZn系フェライトを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するために、本発明は、主成分として酸化鉄をFe23換算で53.2〜54.5モル%、酸化亜鉛をZnO換算で7.5〜11.5モル%、残部として酸化マンガン(MnO)を含むMnZn系フェライトであって、この主成分に対して、酸化コバルトをCo34換算で2500〜4500ppm、酸化ケイ素をSiO2換算で60〜140ppm、酸化カルシウムをCaO換算で300〜700ppm、酸化ニオブをNb25換算で100〜350ppm含有し、結晶粒界がアモルファス相から形成されているように構成される。
【0010】
また、本発明は、主成分として酸化鉄をFe23換算で53.2〜54.5モル%、酸化亜鉛をZnO換算で7.5〜11.5モル%、残部として酸化マンガン(MnO)を含むMnZn系フェライトであって、この主成分に対して、酸化コバルトをCo34換算で2500〜4500ppm、酸化ケイ素をSiO2換算で60〜140ppm、酸化カルシウムをCaO換算で300〜700ppm、酸化ジルコニウムをZrO2換算で50〜450ppm含有し、結晶粒界がアモルファス相から形成されているように構成される。
【0011】
また、本発明は、主成分として酸化鉄をFe23換算で53.2〜54.5モル%、酸化亜鉛をZnO換算で7.5〜11.5モル%、残部として酸化マンガン(MnO)を含むMnZn系フェライトであって、この主成分に対して、酸化コバルトをCo34換算で2500〜4500ppm、酸化ケイ素をSiO2換算で60〜140ppm、酸化カルシウムをCaO換算で300〜700ppm、酸化ニオブをNb25換算で100〜350ppm、酸化ジルコニウムをZrO2換算で50〜450ppm含有し、結晶粒界がアモルファス相から形成されているように構成される。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のMnZn系フェライトについて詳細に説明する。
【0013】
本発明のMnZn系フェライトにおける実質的な主成分は、酸化鉄をFe23換算で53.2〜54.5モル%、酸化亜鉛をZnO換算で7.5〜11.5モル%、残部として酸化マンガン(MnO)を含んで構成される。
【0014】
上記の各組成が各組成範囲を外れると、電力損失(コアロス)が増大してしまうという不都合が生じる傾向がある。
【0015】
さらに本発明のMnZn系フェライト材料においては、このような主成分に対して、下記の要領で、副成分が含有される。
【0016】
すなわち、第1の添加態様として、
(i) 主成分に対して、酸化コバルトをCo34換算で2000〜4500ppm(好ましくは、2500〜4000ppm)、酸化ケイ素をSiO2換算で60〜140ppm(好ましくは、70〜120ppm)、酸化カルシウムをCaO換算で300〜700ppm(好ましくは、400〜600ppm)、酸化ニオブをNb25換算で100〜350ppm(好ましくは、150〜300ppm)含有するように構成される。
【0017】
また、第2の添加態様として、
(ii) 上記第1の態様において、酸化ニオブを酸化ジルコニウムに変えて、当該酸化ジルコニウムの含有量を主成分に対して、ZrO2換算で50〜450ppm(好ましくは、80〜350ppm)するように構成される。すなわち、主成分に対して、酸化コバルトをCo34換算で2000〜4500ppm(好ましくは、2500〜4000ppm)、酸化ケイ素をSiO2換算で60〜140ppm(好ましくは、70〜120ppm)、酸化カルシウムをCaO換算で300〜700ppm(好ましくは、400〜600ppm)、酸化ジルコニウムをZrO2換算で50〜450ppm(好ましくは、80〜350ppm)含有するように構成される。
【0018】
また、第3の添加態様として、
(iii) 上記第1の態様において、酸化ジルコニウムをさらに添加し、当該酸化ジルコニウムの含有量を主成分に対して、ZrO2換算で50〜450ppm(好ましくは、80〜350ppm)するように構成される。すなわち、主成分に対して、酸化コバルトをCo34換算で2000〜4500ppm(好ましくは、2500〜4000ppm)、酸化ケイ素をSiO2換算で60〜140ppm(好ましくは、70〜120ppm)、酸化カルシウムをCaO換算で300〜700ppm(好ましくは、400〜600ppm)、酸化ニオブをNb25換算で100〜350ppm(好ましくは、150〜300ppm)、酸化ジルコニウムをZrO2換算で50〜450ppm(好ましくは、80〜350ppm)含有するように構成される。この第3の添加態様が最も良好な効果が得られることが実験的に確認されている。
【0019】
上記の副成分の含有範囲において、Co34が2000ppm未満となると、コアロスの温度依存性が大きくなってしまい、本発明の効果の発現が小さくなるという不都合が生じる傾向にあり、また、Co34が4500ppmを超えると、コアロスが増大してしまうという不都合が生じる傾向がある。
【0020】
また、SiO2が60ppm未満となると、コアロスが増大してしまうという不都合が生じる傾向にあり、SiO2が140ppmを超えると、焼成時の異常粒成長によりコアロスが増大するという不都合が生じる傾向がある。
【0021】
また、CaOが300ppm未満となると、コアロスが増大してしまうという不都合が生じる傾向にあり、CaOが700ppmを超えると、焼成時の異常粒成長によりコアロスが増大するという不都合が生じる傾向がある。
【0022】
Nb25およびZrO2は、少なくともいずれか一方が含有されれば良い。
【0023】
Nb25が100ppm未満となると、コアロスを低減させる効果が小さくなるという不都合が生じる傾向にあり、Nb25Oが350ppmを超えると、コアロスが増大してしまうという不都合が生じる傾向がある。
【0024】
また、ZrO2が50ppm未満となると、コアロスを低減させる効果が小さくなるという不都合が生じる傾向にあり、ZrO2が450ppmを超えると、コアロスが増大してしまうという不都合が生じる傾向がある。
【0025】
また、本発明のMnZn系フェライトにおける結晶粒界は、アモルファス相から形成される。本発明の組成要件に加えて、結晶粒界をアモルファス相とすることにより、特に、電力損失の十分な低減化が図れ、しかも得られた損失値のバラツキが極めて小さく信頼性の高い製品を供給することができる。結晶粒界にアモルファス相と結晶相とが混在している形態が見られる場合には、上記の効果の発現は困難である。結晶粒界がアモルファス相になっているか否かの判断は、粒界領域におけるTEM像の観察によればよい。
【0026】
本発明者らが実験的に確認できた、結晶粒界をアモルファス相とするための要素としては、例えば、(i)副成分の含有割合や、(ii)フェライト焼成条件等が挙げられる。フェライト焼成条件の好適な一例について言及すれば、1000℃から600℃までの冷却速度を150〜700℃/hrの範囲内で、フェライト組成に応じた冷却速度制御を採択すればよいことが実験的にわかっている。
【0027】
また、本発明におけるフェライトの平均結晶粒子径は、好ましくは8〜30μm、より好ましくは8〜20μmである。平均結晶粒子径が小さ過ぎるとヒステリシス損失が大きくなる傾向が生じ、また、平均結晶粒子径が大き過ぎると渦電流損失が大きくなる傾向が生じる。
【0028】
このようなフェライトから構成される電源トランス用のコアは、例えば10〜500kHzの周波数で、主に、25〜120℃程度の温度で動作するものであり、その電力は、通常、0.01〜10数W程度とされる。
【0029】
【実施例】
以下、具体的実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0030】
(実施例および比較例サンプルの作製)
下記表1に示すような組成を有するフェライトコアサンプルを作製した。
【0031】
まず、主成分の原料には、Fe23、Mn34およびZnOを用い、これらを湿式混合した後、スプレードライヤーで乾燥させ、900℃で2時間仮焼きした。
【0032】
次いで、主成分の原料の仮焼物と副成分の原料とを混合した。副成分の原料には、表1に示されるように適宜選定されたCo34、SiO2、CaCO3、Nb25、ZrO2の化合物を用いた。
【0033】
主成分の原料の仮焼物に副成分の原料を添加して粉砕しながら混合を行った。粉砕は、仮焼物の平均粒径が約2μmとなるまで行った。得られた混合物にバインダとしてPVA(ポリビニルアルコール)を加え、スプレードライヤーにて平均粒径150μm程度に顆粒化した後、成形し、下記のような焼成条件により焼成して外径31mm、内径19mm、高さ8mmのトロイダル状のサンプルを得た。
【0034】
なお、本発明では、上述の主成分原料(酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マンガン)に限らず、2種以上の金属を含む複合酸化物の粉末を主成分原料としてもよい。このような複合酸化物の粉末は、通常、塩化物を酸化焙焼することにより製造することができる。例えば、塩化鉄、塩化マンガンおよび塩化亜鉛を含有する水溶液を酸化焙焼することにより、Fe,MnおよびZnを含む複合酸化物の粉末が得られる。通常、この複合酸化物はスピネル相を含むものである。ただし、塩化亜鉛は蒸気圧が高く、組成ずれが生じやすい。そこで、塩化鉄および塩化マンガンを含む水溶液を用いてFeおよびMnを含む複合酸化物の粉末を製造し、この粉末と酸化亜鉛粉末または亜鉛フェライト粉末を混合して、主成分原料としてもよい。
【0035】
焼成条件
(i)最高保持温度工程は1300℃、5時間(N2-O2混合ガス中)とし、
(ii)1300℃から1000℃まで平衡酸素分圧のもと、50℃/hrの冷却速度とし、
(iii)1000℃で窒素雰囲気に切り替えて1000℃から600℃まで、
300℃/hrの冷却速度とした。
【0036】
なお、これらの各サンプルについて結晶粒界のTEM像観察を行ったところ、いずれのサンプルにおいても結晶粒界がアモルファス相から形成されていることが確認できた。
【0037】
上記の各サンプルについて、下記の項目を評価した。
(1)電力損失(コアロス)Pcvの温度依存性
100kHz、200mT(最大値)の正弦波交流磁界を印加し、25℃、40℃、60℃、80℃、100℃、および120℃におけるコアロスをそれぞれ,岩崎通信機株式会社製の測定装置(SY−8216)を用いて測定した。また、その総合的判定が容易となるように、(i)Pcvの平均値およびその平均値からの振れ幅を算出するとともに(表中のカッコ()内の数値が平均値であり、それからの振れ幅を±で表示している)、(ii)コアロスの「最大値−最小値」の値も併記した。
【0038】
これらの結果を下記表1および表2に示した。なお、表1は蛍光X線分析装置(株式会社島津製作所製:MXF2100)により得られたサンプル組成を示したものであり、対応するサンプルの実質的な特性評価は表2に示される。
【0039】
【表1】
Figure 0004279995
【0040】
【表2】
Figure 0004279995
【0041】
【表3】
Figure 0004279995
【0042】
【表4】
Figure 0004279995
【0043】
【発明の効果】
上記の結果より本発明の効果は明らかである。すなわち、本発明は、主成分として酸化鉄をFe23換算で53.2〜54.5モル%、酸化亜鉛をZnO換算で7.5〜11.5モル%、残部として酸化マンガン(MnO)を含むMnZn系フェライトであって、この主成分に対して、酸化コバルトをCo34換算で2500〜4500ppm、酸化ケイ素をSiO2換算で60〜140ppm、酸化カルシウムをCaO換算で300〜700ppm含有させ、さらに酸化ニオブをNb25換算で100〜350ppmおよび/または酸化ジルコニウムをZrO2換算で50〜450ppm含有させ、結晶粒界がアモルファス相から形成されているので、電力損失の低減が図れることはもとより、広範囲の温度領域で低損失化が実現できるMnZn系フェライトを提供することができる。

Claims (3)

  1. 主成分として酸化鉄をFe23換算で53.2〜54.5モル%、酸化亜鉛をZnO換算で7.5〜11.5モル%、残部として酸化マンガン(MnO)を含むMnZn系フェライトであって、
    この主成分に対して、酸化コバルトをCo34換算で2500〜4500ppm、
    酸化ケイ素をSiO2換算で60〜140ppm、
    酸化カルシウムをCaO換算で300〜700ppm、
    酸化ニオブをNb25換算で100〜350ppm含有し
    結晶粒界がアモルファス相から形成されていることを特徴とするMnZn系フェライト。
  2. 主成分として酸化鉄をFe23換算で53.2〜54.5モル%、酸化亜鉛をZnO換算で7.5〜11.5モル%、残部として酸化マンガン(MnO)を含むMnZn系フェライトであって、
    この主成分に対して、酸化コバルトをCo34換算で2500〜4500ppm、
    酸化ケイ素をSiO2換算で60〜140ppm、
    酸化カルシウムをCaO換算で300〜700ppm、
    酸化ジルコニウムをZrO2換算で50〜450ppm含有し
    結晶粒界がアモルファス相から形成されていることを特徴とするMnZn系フェライト。
  3. 主成分として酸化鉄をFe23換算で53.2〜54.5モル%、酸化亜鉛をZnO換算で7.5〜11.5モル%、残部として酸化マンガン(MnO)を含むMnZn系フェライトであって、
    この主成分に対して、酸化コバルトをCo34換算で2500〜4500ppm、
    酸化ケイ素をSiO2換算で60〜140ppm、
    酸化カルシウムをCaO換算で300〜700ppm、
    酸化ニオブをNb25換算で100〜350ppm、
    酸化ジルコニウムをZrO2換算で50〜450ppm含有し
    結晶粒界がアモルファス相から形成されていることを特徴とするMnZn系フェライト。
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