JP5828308B2 - フェライトコア及びトランス - Google Patents

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Description

本発明はFe、Mn、Zn及びCoを含むフェライトコアに関する。
電源用トランスなどの磁心材料として、フェライト焼結体が使用されている。磁心を形成するフェライト焼結体は、フェライトコアと呼ばれ、Mn及びZnを含有するMnZn系フェライトが広く使用されている。機器の使用時における磁心の発熱量を低減する観点から、フェライトコアは使用される温度範囲でコアロスの値が小さいことが求められる。
近年、電子機器や電源の小型化が進むとともに、電子機器における部品の高密度化も進展している。かかる状況においては、磁心の発熱による温度上昇が大きくなる傾向にあり、磁心は温度上昇に対して厳しい環境で使用される機会が増加している。このため、磁心の温度上昇をさらに抑制することが望まれている。例えば、特許文献1、2には、電源用トランスに好適なフェライト材料及びその製造方法が開示されている。
特開2004−292303号公報 特開2009−227554号公報
従来は電子機器や電源などの動作温度でコアロスが低ければ、実駆動時のコア温度も低くなると考えられていた。またコアロスが極小値を示す温度(コアロス極小温度)よりも電子機器や電源などの動作温度が低ければ、使用時にコアの温度が徐々に上昇したとしても、発熱量が徐々に小さくなるため、熱暴走の発生を十分に防止できるものと考えられていた。
特許文献1、2においても、磁心の温度上昇を抑制してトランスの熱暴走を防止するために、電子機器や電源が使用される温度範囲でコアロスを低減し、さらに高温貯蔵試験においてコアロス特性の安定性を高める提案がされている。
しかしながら、本発明者らは磁心が実装された電子機器や電源を連続的に運転した場合を想定し、コアを連続的に励磁してその温度変化を測定したところ、動作温度におけるコアロスが低いと評価された場合でもコアの温度が高くなる場合があることを見出した。
上記のようにコアロスの評価結果と、連続運転時におけるコアの温度測定の結果との不一致は、コアロスの温度特性の測定方法に起因すると本発明者らは推察する。すなわち、コアロスの温度特性は、コアを所定の温度とした後、瞬間的に又はごく短時間(5秒程度)励磁してコアロスを測定し、設定温度を変更しながら当該測定を繰り返し行うことによって求められる。つまり、従来のコアロス評価は、コアを連続的に励磁しつづける条件下で測定される値ではないことが上記不一致の主因と推察される。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、電子機器や電源内での使用において、連続的に励磁するような環境にあっても、コア温度が上昇するのを十分に抑制できるフェライトコアを提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、連続的に励磁した場合でもコア温度の上昇を十分に抑制できるフェライト焼結体について鋭意検討した結果、MnZn系フェライトに含まれる陽イオンの量と陽イオンの価数について、焼結体内部と焼結体表面近傍の差を所定の範囲内とすることが有用であることを見出し、本発明を完成するに到った。
すなわち、第1の手段に係るフェライトコアは、少なくともFe、Mn、Zn及びCoを含有し、下記式(1)で定義されるxについて、焼結体表面から深さ1.5mm以下の表面部のxをx(o)、焼結体表面から深さ2.5mm以上の内部のxをx(i)としたとき、xの焼結体内外差を表す{x(o)−x(i)}が−0.0015≦{x(o)−x(i)}≦0.0005の範囲となすことを特徴とする。
x=(Fe2+−Co3+−Mn3+)/(Fe+Mn+Zn+Co) …式(1)
但し、式(1)中の(Fe2+−Co3+−Mn3+):[wt%]、(Fe+Mn+Zn+Co):[wt%]である。
本件の第2の手段に係るフェライトコアは、前記{x(o)−x(i)}が−0.0012≦{x(o)−x(i)}≦0.00035の範囲となすことを特徴とする。
本件の第3の手段に係るフェライトコアは、前記第1乃至第2のいずれかの手段に係るフェライトコアにおいて、それぞれ酸化物に換算したとき、51.0〜54.0モル%のFe、32.0〜43.0モル%のMnO、及び、6.0〜14.0モル%のZnOからなる主成分と、主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、CoOに換算すると500×10−6〜5000×10−6質量部に相等する量のCoを含有することが好ましい。
フェライトコアが上記に示す量のFe、Mn、Zn及びCoを含有すると、連続励磁におけるコア温度の上昇を一層低減できる。
本件の第4の手段に係るフェライトコアは、前記第1乃至第3のいずれかの手段に係るフェライトコアにおいて、主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、SiOに換算すると50×10−6〜150×10−6質量部に相等する量のSiと、CaCOに換算すると400×10−6〜1800×10−6質量部に相等する量のCaを含有することが好ましい。
フェライトコアが上記に示す量のSi及びCaを含有すると、フェライトコアの粒界が高抵抗化して、コアロスをより一層低減できる。
本件の第5の手段に係るフェライトコアは、前記第1乃至第4のいずれかの手段に係るフェライトコアにおいて、主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、TiOに換算すると500×10−6〜6000×10−6質量部以下に相等する量のTiを含有することが好ましい。
フェライトコアが上記に示す量のTiを含有すると、コア温度の上昇を一層低減できる。
本件の第6の手段に係るフェライトコアは、前記第1乃至第5のいずれかの手段に係るフェライトコアにおいて、主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、Nbに換算すると100×10−6〜400×10−6質量部に相等する量のNbを含有することが好ましい。
本件の第7の手段に係るフェライトコアは、前記第1乃至第6のいずれかの手段に係るフェライトコアにおいて、主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、Vに換算すると50×10−6〜400×10−6質量部に相等する量のVを含有することが好ましい。
フェライトコアが上記第6の手段および第7の手段に示す量のNb、Vの少なくとも1種以上を含むものであると、フェライトコアの粒界が高抵抗化して、コアロスを一層低減できる。
本発明によりは、連続的に励磁するような環境にあっても、コアの上昇温度を50℃以下に抑制できるフェライトコアが提供される。
本発明に係るフェライトコアの一実施形態を示す斜視図である。 本発明に係るフェライトコアを使用したトランスの一実施形態を示す斜視図である。 本焼成工程における温度設定の一例を示すグラフである。 x(o)−x(i)とコアの上昇温度(ΔT)の関係を示すグラフである。 x(o)−x(i)と120℃におけるコアロス(Pcv)の関係を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るフェライトコア(磁心)を示す斜視図である。図1に示すように、E字型のフェライトコア10は、E型コアと呼ばれ、トランスやチョークコイルなどに使用される。
フェライトコア10のようなE型コアが採用されたトランスとしては、図2に示すように、2つのフェライトコアを対向配置して、中脚部11の回りにコイル12を巻き回したトランスが知られている。
フェライトコア10はフェライト焼結体で構成され、Fe、Mn、Zn及びCoを含有し、式(1)で定義されるxについて、焼結体表面から深さ1.5mm以下の表面部のxをx(o)、焼結体表面から深さ2.5mm以上の内部のxをx(i)としたとき、xの焼結体内外差を表すx(o)−x(i)が−0.0015≦{x(o)−x(i)}≦0.0005の範囲となす。
フェライトコア10をなすフェライト焼結体は、{x(o)−x(i)}が−0.0015未満であると、コアロスが大きくなり、さらにコアの上昇温度が大きくなる。{x(o)−x(i)}が0.0005を超えるとコアの温度上昇が大きくなり、コアの上昇温度が50℃を超える。{x(o)−x(i)}は−0.0012以上で、0.00035以下であることが好ましい。この範囲とすると、更にコアの温度上昇が抑えられる。
式(1)で定義されるxは、本実施形態に係るフェライト焼結体を構成する(Fe+Mn+Zn+Co)[wt%]に含まれる(Fe2+−Co3+−Mn3+)[wt%]の重量比率を表している。フェライト焼結体に含まれるFe、Mn及びCoは2価または3価のイオンとして存在し、Znは2価のイオンである。化学量論組成ではFeに換算したときに50モル%を超える過剰なFeはFe2+Fe3+ の形態として存在し、Co及びMnは2価のイオンである。
単一組成の場合は、焼成過程の雰囲気酸素濃度が上昇すると、2価イオンが減少して3価イオンが増加するから(Fe2+−Co3+−Mn3+)は減少する。すなわちxは材料組成、及び焼成過程における酸化、還元条件により変化するパラメータであり、フェライト焼結体のカチオンの量及び酸化、還元度合いを表す定量的な指標となる。
フェライトコアの電磁気特性を決める重要な因子のひとつとして、磁歪定数λsがあげられる。詳細は不明であるが、フェライトコアの磁歪定数λsに大きな影響を及ぼすFe、Co及びMnの価数について、焼結体内部と表面部のアンバランスを示す{x(o)−x(i)}を適正化にすることにより、連続的に励磁したときのコア温度の上昇を、効果的に抑制できるものと考えられる。
本実施形態に係るフェライト焼結体は、それぞれ酸化物に換算したとき、51.0〜54.0モル%のFe、32.0〜43.0モル%のMnO、及び、6.0〜14.0モル%のZnOからなる主成分と、主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、CoOに換算すると500×10−6〜5000×10−6質量部に相等する量のCoを含有することが好ましい。
フェライト焼結体のFeの含有率が51.0モル%未満であると、飽和磁束密度が低くなる。他方、Feの含有率が54.0モル%を超えると、高温条件下で使用した場合に磁気特性の経時劣化が顕著となる。Feの含有率は、51.5〜53.5モル%であることがより好ましい。
フェライト焼結体のZnOの含有率が6.0モル%未満であると、コアの上昇温度が高くなる。他方、ZnOの含有率が14.0モル%を超えると、飽和磁束密度が低くなる。ZnOの含有率は、8.0〜12.0モル%であることがより好ましい。
フェライト焼結体のMnOの含有率は、他の主成分であるFe及びZnOの含有率を定めると、主成分のうちの残部として定まるものである。
機器の熱暴走を一層確実に防止するためには、連続的に励磁して長期にわたって運転してもコアロスが著しく増大することなく、低いコアロスを維持することが望ましい。Coは、磁気異方性定数Kが比較的大きな正の値であるため、適量のCoを含有せしめることで、高温条件下におけるコアロスの温度変化率を十分に抑制できるという効果が奏される。
フェライト焼結体のCoの含有量(CoO換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、500×10−6質量部未満であると、高温条件下におけるコアロスの増大が顕著となる。他方、Coの含有量(CoO換算)が5000×10−6質量部を超えると、高温条件下におけるコアロスの温度変化率は抑制されるものの、コアロスの低減が不十分となる。Coの含有量(CoO換算)は、1000×10−6質量部以上、且つ4500×10−6質量部以下であることが好ましく、1500×10−6〜4000×10−6質量部であることがより好ましい。
Siは、フェライト焼結体の焼結性を高める作用を有するとともに、粒界の高抵抗化に寄与するため、適量のSiを含有せしめることで、コアロスの低減化が図られる。フェライト焼結体のSiの含有量(SiO換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、50×10−6質量部未満であると、フェライト焼結体の粒界における高抵抗層の形成が不十分となり、コアロスの低減が不十分となる。他方、Siの含有量(SiO換算)が150×10−6質量部を超えると、異常な粒成長を招来し、コアロスの低減が不十分となる。Siの含有量(SiO換算)は、60×10−6〜130×10−6質量部であることが好ましい。
Caは、上述のSiと同様、フェライト焼結体の焼結性を高める作用を有するとともに、粒界の高抵抗化に寄与するため、適量のCaを含有せしめることで、コアロスの低減化が図られる。フェライト焼結体のCaの含有量(CaCO換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、400×10−6質量部未満であると、フェライト焼結体の粒界における高抵抗層の形成が不十分となり、コアロスの低減が不十分となる。他方、Caの含有量(CaCO換算)が1800×10−6質量部を超えると、異常な粒成長を招来し、コアロスの低減が不十分となる。Caの含有量(CaCO換算)は、600×10−6〜1500×10−6質量部であることが好ましい。
Coを含有するフェライト焼結体に、適量のTiを含有せしめることで、コアロスの増大を招来することなく、高温条件下での使用による磁気特性の経時劣化を抑制できるという効果が奏される。フェライト焼結体のTiの含有量(TiO換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、500×10−6質量部未満であると、高温条件下で使用した場合に磁気特性の経時劣化が顕著となる。他方、Tiの含有量(TiO換算)が6000×10−6質量部を超えると、飽和磁束密度が低下する。Tiの含有量(TiO換算)は、1000×10−6質量部以上、且つ5000×10−6質量部未満であることが好ましく、1500×10−6〜4000×10−6質量部であることがより好ましい。
本実施形態に係るフェライト焼結体は、副成分として、主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、Nbに換算すると100×10−6〜400×10−6質量部に相等する量のNb及び/又はVに換算すると50×10−6〜400×10−6質量部に相等する量のVを更に含むことが好ましい。
Nbは、フェライト焼結体の粒界の高抵抗化に寄与するため、適量のNbを含有せしめることで、コアロスの低減化が図られる。フェライト焼結体のNbの含有量(Nb換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、100×10−6質量部未満であると、粒界の高抵抗化が不十分となりやすく、コアロスの低減が不十分となる傾向がある。他方、Nbの含有量(Nb換算)が400×10−6質量部を超えると、結晶組織の不均一性を助長する傾向がある。Nbの含有量(Nb換算)は、150×10−6〜400×10−6質量部であることが好ましい。
Vは、上述のNbと同様、フェライト焼結体の粒界の高抵抗化に寄与するため、適量のVを含有せしめることで、コアロスの低減化が図られる。フェライト焼結体のVの含有量(V換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、50×10−6質量部未満であると、粒界の高抵抗化が不十分となりやすく、コアロスの低減が不十分となる傾向がある。他方、Vの含有量(V換算)が400×10−6質量部を超えると、結晶組織の不均一性を助長する傾向がある。Vの含有量(V換算)は、50×10−6〜300×10−6質量部であることが好ましい。
フェライト焼結体に、Nb及びVの両方を含有せしめる場合は、Nb及びVの分子量に基づき、Nb及びVの合計含有量を適宜調整すればよい。
本実施形態に係るフェライト焼結体は、上記以外の成分を更に含有するものであってもよい。例えば、Ta(Ta)、Zr(ZrO)及びHf(HfO)は、上述のNb,Vと同様、フェライト焼結体の粒界の高抵抗化に寄与するため、これらを適量含有せしめることで、コアロスの低減化が図られる。
次に、フェライトコア10の製造方法について説明する。
はじめに、主成分をなす酸化鉄α−Fe、酸化マンガンMn及び酸化亜鉛ZnOを用意し、これら酸化物を混合して混合物を得る。このとき、最終的に得られる混合物中の各酸化物成分の構成比が所定の範囲内となるように上記酸化物とともに他の化合物を混合してもよい。
次いで、上記主成分の混合物を仮焼成して仮焼成物を得る(仮焼工程)。仮焼は空気中で行えばよい。仮焼温度は混合物を構成する成分に依存するが、800〜1100℃とすることが好ましい。また、仮焼時間は、混合物を構成する成分に依存するが、1〜3時間とすることが好ましい。その後、得られた仮焼成物をボールミル等により粉砕して粉砕粉を得る。
他方、副成分をなす酸化コバルトCoOを用意し、所定量の上記副成分を混合して混合物を得る。上述の主成分原料の仮焼成物を粉砕する際、副成分原料の上記混合物を添加し、両者を混合する。これにより、本焼成用の原料混合粉を得る(混合工程)。ここで、上記成分以外の副成分(SiO、CaCO、TiO、Nb,V,Ta,ZrO,HfOなど)を適宜添加してもよい。なお、最終的に得られる混合物中の各副成分の含有量が上記範囲内となるように上記化合物の代わりに他の化合物を用いてもよい。また、例えば、CoOの代わりにCoやCaCOの代わりにCaOを使用してもよい。
続いて、上記のようにして得られる本焼成用の原料混合粉と、ポリビニルアルコール等の適当なバインダとを混合し、フェライトコア10となる形状、即ちE字型に成形して成形体を得る。
次に、成形体を加熱炉内において焼成する(本焼成工程)。図3は、本焼成工程における温度設定の一例を示すグラフである。図3に示すように、本焼成工程は、加熱炉内の成型体を徐々に加熱する昇温工程S1と、温度を1250〜1350℃に保持する温度保持工程S2と、保持温度から徐々に降温する徐冷工程S3と、徐冷工程S3の終了後に急冷する急冷工程S4とを少なくとも有する。
昇温工程S1は、加熱炉内の温度を後述の保持温度にまで昇温する工程である。昇温速度は、10〜300℃/時間とすることが好ましい。
昇温工程S1によって所定の温度(1250〜1350℃)に到達すると、この温度に維持する温度保持工程S2を行う。温度保持工程S2における保持温度が1250℃未満であると、フェライト焼結体の粒成長が不十分となり、ヒステリシス損失が増大するため、コアロスの低減が不十分となる。他方、保持温度が1350℃を超えると、フェライト焼結体の粒成長が過剰となり、渦電流損失が増大するため、コアロスの低減が不十分となる。保持温度を1250〜1350℃とすることで、ヒステリシス損失と渦電流損失とのバランスがとれ、高温領域におけるコアロスを十分に低減できる。
上述の保持温度で焼成を行う時間(保持時間)は、2時間以上であることが好ましい。保持時間が2時間未満であると、温度1250〜1350℃で焼成を行った場合でも粒成長が不十分となり、コアロスの低減が不十分となりやすい。保持時間は、3〜10時間とすることがより好ましい。
温度保持工程S2の終了後、徐冷工程S3を行う。徐冷工程S3における徐冷速度は、200℃/時間以下であることが好ましい。徐冷速度が200℃/時間を超えると、フェライト焼結体の粒内の残留応力が大きくなりやすく、これによりコアロスの低減が不十分となる傾向がある。なお、上記徐冷速度は、徐冷帯域での平均値を意味するものであり、これを超える速度で温度が低下する部分があってもよい。
徐冷工程S3において保持温度から降温するに際し、加熱炉内の酸素濃度を制御し、連続的又は段階的に下げる操作を行う(酸素濃度調整工程)。このような操作を行うことで、温度1200℃における酸素濃度を0.2〜3.0体積%とし且つ温度1100℃における酸素濃度を0.020〜1.00体積%とすることが好ましい。
徐冷工程S3を終了し、急冷工程S4を開始する温度(徐冷終了温度)は、900〜1150℃であることが好ましい。徐冷終了温度が1150℃よりも高いと、フェライト焼結体の粒界の形成が不十分になりやすく、これによりコアロスの低減が不十分となる傾向がある。他方、徐冷終了温度が900℃よりも低いと、フェライト焼結体の粒界に異相が生じやすく、これによりコアロスの低減が不十分となる傾向がある。
徐冷工程S3の終了後、急冷工程S4を行う。少なくとも徐冷終了温度から700℃に到達するまで温度範囲については、降温速度を150℃/時間以上とすることが好ましい。当該温度領域における降温速度が150℃/時間未満であると、フェライト焼結体の粒界に異相が生じやすく、これによりコアロスの低減が不十分となる傾向がある。徐冷工程S3の終了後、700℃から本焼成終了温度までの雰囲気酸素濃度を0.025〜0.1体積%に制御することにより、フェライト焼結体表面部の酸化状態を変化させて、フェライト焼結体の{x(o)−x(i)}を所望の値に制御する。本焼成終了温度とは、フェライト焼結体を焼成炉から取り出す温度のことで、250℃以下にすることが好ましい。
また、上記実施形態では、主成分原料を仮焼して得られた仮焼成物を粉砕する際、副成分原料を添加することで本焼成用の混合粉を調製する場合を例示したが、当該混合粉は次のようにして調製してもよい。例えば、仮焼前の主成分原料と副成分原料とを混合して得られた混合物を仮焼した後、仮焼成物を粉砕することによって本焼成用の混合粉を得てもよい。あるいは、仮焼前の主成分原料と副成分原料とを混合して得られた混合粉を仮焼した後、仮焼成物を粉砕する際、更に副成分原料などを添加することによって本焼成用の混合粉を得てもよい。
また、上記実施形態では、E字形状のフェライトコア10を例示したが、フェライトコアの形状は、これに限定されるものではない。フェライトコアの形状は、そのフェライトコアが内蔵される機器の形状や用途に応じて適宜決定することができる。
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づいて説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
実施例1〜28
各成分原料を最終的に表1に示した組成になるように秤量し、ボールミルを用いて湿式混合した。原料混合物を乾燥させた後、空気中において、900℃程度の温度で仮焼した。得られた仮焼粉をボールミルに投入し、所望の粒子径となるまで湿式粉砕を3時間行った。
こうして得られた粉砕粉を乾燥し、粉砕粉100質量部に対してポリビニルアルコールを0.8質量部加えて造粒した後、得られた混合物を約150MPaの圧力で加圧成形し、E字型成形体を得た。成形体を次に示す焼成条件の範囲内で本焼成を行い、複数のE字型フェライトコアを得た。この本焼成工程は、保持温度が1250℃〜1350℃であり、徐冷終了温度を900℃〜1150℃に設定した。徐冷工程S3の終了後、急冷工程S4において、雰囲気を表1に示した酸素濃度に制御した。E字型フェライトコアの中脚及び外脚の上面部を、面精度を向上させるために研磨加工した。
比較例1〜9
各成分原料を最終的に表1に示した組成になるように秤量し、ボールミルを用いて湿式混合した。原料混合物を乾燥させた後、空気中において、900℃程度の温度で仮焼した。得られた仮焼粉をボールミルに投入し、所望の粒子径となるまで湿式粉砕を3時間行った。
こうして得られた粉砕粉を乾燥し、粉砕粉100質量部に対してポリビニルアルコールを0.8質量部加えて造粒した後、得られた混合物を約150MPaの圧力で加圧成形し、E字型成形体を得た。成形体を次に示す焼成条件の範囲内で本焼成を行い、複数のE字型フェライトコアを得た。この本焼成工程は、保持温度が1250℃〜1350℃であり、徐冷終了温度を900℃〜1150℃に設定した。徐冷工程S3の終了後、急冷工程S4において、雰囲気を表1に示した酸素濃度に制御した。E字型フェライトコアの中脚及び外脚の上面部を、面精度を向上させるために研磨加工した。
それぞれ製造した2個のE字型のフェライトコアを対向配置して閉磁路を形成した。フェライトコアの初期温度を100℃とし、その後、磁束密度200mT、周波数100kHzの条件で連続的に励磁してコア温度が安定したところで、熱電対でコア温度を測定した。これにより、コアの上昇温度(ΔT)を測定した。
フェライトコアのコアロスを次のようにして測定した。すなわち、B−Hアナライザ(岩通計測株式会社製 型式SY−8217)にて磁束密度200mT、周波数100kHzの条件で温度25〜150℃の範囲のコアロスを測定し、120℃におけるコアロスの値を求めた。
式(1)のxは組成分析と(Fe2+−Co3+)量及びMn3+量から算出した。フェライト焼結体を表面から深さ1.0〜1.5mmで切断した焼結体表面部と、焼結体表面から深さ2.5mm以上の焼結体内部に分離した。組成分析については、フェライト焼結体表面部、フェライト焼結体内部のそれぞれを乳鉢にて粉砕し粉末状にした後、蛍光X線分析装置を用いてガラスビード法によりFe、Mn、Zn及びCo量を測定した。(Fe2+−Co3+)量及びMn3+量は、フェライト焼結体表面部、フェライト焼結体内部をそれぞれ乳鉢にて粉砕し粉末状にして酸溶解後、KCr溶液により電位差滴定を行い定量した。なお、Coを固溶させたMnZn系フェライトでは、Fe2+とCo3+が反応するため、Fe2+、Fe3+、Co2+及びCo3+のそれぞれを正確に分離して定量することは困難であるので、(Fe2+−Co3+)量として定量した。
表1,及び図4,5に測定結果を示す。図4,5に示すとおり、実施例に係るフェライトコアはコア温度の上昇が十分に抑えられている。なお、{x(o)−x(i)}とコアロスの間には特段の相関は認められない。
Figure 0005828308
以上のように、本発明に係るフェライトコアは、MnZn系フェライトの磁心を連続して励磁した場合における温度上昇を抑制することに有用である。
10 フェライトコア(磁心)
11 中脚部
12 コイル

Claims (8)

  1. 少なくともFe、Mn、Zn及びCoを含有し、下記式(1)で定義されるxについて、焼結体表面から深さ1.5mm以下の表面部のxをx(o)、焼結体表面から深さ2.5mm以上の内部のxをx(i)としたとき、xの焼結体内外差を表す{x(o)−x(i)}が−0.0015≦{x(o)−x(i)}≦0.0005の範囲となるフェライトコア。
    x=(Fe2+−Co3+−Mn3+)/(Fe+Mn+Zn+Co) …式(1)
    但し、式(1)中の(Fe2+−Co3+−Mn3+):[wt%]、(Fe+Mn+Zn+Co):[wt%]である。
  2. 前記{x(o)−x(i)}が−0.0012≦{x(o)−x(i)}≦0.00035の範囲となる請求項1に記載のフェライトコア。
  3. それぞれ酸化物に換算したとき、51.0〜54.0モル%のFe、32.0〜43.0モル%のMnO、及び、6.0〜14.0モル%のZnOからなる主成分と、主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、CoOに換算すると500×10−6〜5000×10−6質量部に相等する量のCoを含有する、請求項1乃至請求項2のいずれかに記載のフェライトコア。
  4. 前記主成分の前記酸化物の合計質量1質量部に対し、SiOに換算すると50×10−6〜150×10−6質量部に相等する量のSiと、CaCOに換算すると400×10−6〜1800×10−6質量部に相等する量のCaを含有する、請求項1乃至3のいずれかに記載のフェライトコア。
  5. 前記主成分の前記酸化物の合計質量1質量部に対し、TiOに換算すると500×10−6〜6000×10−6質量部に相等する量のTiを含有する、請求項1乃至4のいずれかに記載のフェライトコア。
  6. 前記主成分の前記酸化物の合計質量1質量部に対し、Nbに換算すると100×10−6〜400×10−6質量部に相等する量のNbを含有する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のフェライトコア。
  7. 前記主成分の前記酸化物の合計質量1質量部に対し、Vに換算すると50×10−6〜400×10−6質量部に相等する量のVを含有する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のフェライトコア。
  8. 請求項1乃至7のいずれか1項に記載のフェライトコアを用いたことを特徴とするトランス。
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