JP4448500B2 - Mn−Zn−Co系フェライト磁心材料 - Google Patents

Mn−Zn−Co系フェライト磁心材料 Download PDF

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Description

本発明は、発熱の少ないMn−Zn−Co系フェライト磁心材料に関し、スイッチング電源用トランス等の磁心に供して好適な、広範囲の温度領域で低損失な電源用Mn−Zn−Co系フェライト磁心材料に関するものである。
酸化物磁性材料はフェライトと総称される。その中ではBaフェライト、Srフェライト等の硬質磁性材料とMn−Znフェライト、Ni−Znフェライト等の軟質磁性材料に分けられる。軟質磁性材料とは非常にわずかな磁場に対しても十分に磁化する材料であり、電源、通信機器、計測制御機器、磁気記録、コンピュータなどの広い範囲で用いられている。これら軟磁性材料に要求される特性として、保磁力が小さく透磁率が高いこと、飽和磁束密度が大きいこと、低損失であることなどがあげられる。
酸化物フェライト以外の軟磁性材料としては、金属系のものがあげられる。金属系軟磁性材料は飽和磁束密度が高いため、酸化物系と比べると有利であるが、その反面電気抵抗が低く、高周波のもとで使用する際には渦電流に起因する磁気損失が大きくなってしまう。特に近年の電子機器の小型化・高密度化の要請から使用周波数の高周波化が進んできており、スイッチング電源等に用いられている100kHz程度の周波数帯では、従来の金属系材料では抵抗が低いため渦電流損による発熱が大きくなりその使用はほとんど不可能である。
このため、高周波域での電源用トランスの磁心材料として発熱の少ないMn−Znフェライト磁心材料を用いることが主流となっている。しかしこの材料も電気抵抗率の値が数Ω・cmであるため、さらに電気抵抗を高くして渦電流損を低減することにより全体としての磁気損失を低くし発熱量を抑えることが望まれていた。
この問題を解決するため、発熱の少ないMn−Znフェライト磁心材料では副成分としてSiOやCaOなどの酸化物を微量に添加して粒界に偏析させ、粒界での抵抗を向上し、全体としての抵抗率を数百Ω・cm以上に高めている技術がある(例えば、特許文献1参照。)。
また、電源トランスとして使用された場合に考慮しなければならないのは、組み込まれた機器内の温度とトランス材料自体が損失により発熱する温度上昇である。例えば損失が極小となる温度が室温付近にある場合、磁気損失により磁心自体が発熱し温度上昇して損失が大きくなり、それに伴い発熱がさらに大きくなり、これが繰り返されて温度上昇が加速する危険性がある。トランスの動作温度は、通常、50〜70℃付近であるが、この危険性を回避するため、現行の材料では、損失が極小となる温度が80〜100℃となりかつ室温付近において損失の温度係数が負であるように材料設計されている。しかしながら、本質的には動作温度である50〜70℃付近で損失が小さいことが望まれるため、損失の絶対値を小さくすると共に温度係数の絶対値をできるかぎり小さくすることが必要である。
磁気損失を支配する要因として磁気異方性定数Kがある。損失値は、磁気異方性定数Kの温度変化にともなって変化し、K=0となる温度で損失値は極小となる。損失温度係数を改善するためには磁気異方性定数の温度依存性を小さくすることが必要となる。この定数はフェライトの主相であるスピネル化合物の構成元素の種類により決まるが、Mn−Zn系フェライトの場合Coイオンを導入することによりその温度依存性を小さくし、損失温度係数の絶対値を小さくすることができる(例えば、非特許文献1参照。)。
これにより100℃での損失が小さく、かつ実際の動作温度である50〜70℃付近でも損失の比較的小さい材料が得られている。
しかしながら、CoOを加えることにより損失極小温度が低下するような状況や、焼成における焼成温度や酸素濃度のわずかな変化により損失の温度係数、極小温度が大きく変動してしまう場合などが生じてきている。
また、Fe、ZnO、MnOを主成分とし、CoOを0.01〜0.5mol%未満含有するMn−Zn−Co系フェライトにおいては、従来より広い温度範囲でK=0となるので、それにより広範な温度領域で高い透磁率と低損失が実現されることが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
特許文献2の第1図に示されるように、損失の極小温度がかなり低温度側に移行し、最高使用温度付近での損失は大きくなり、温度上昇が加速する危険性は解消されない。
また、Fe、ZnO、MnOを主成分とし、CoO:1000〜4000ppmと、さらにCaO、Ta、SiOを複合添加することで、数100kHz以上の周波数領域で、従来よりも広範な温度域において電力損失が小さいMn−Zn系フェライトを得ることができ、この程度のCoO添加量であれば電力損失の温度特性曲線が低温側にシフトしすぎることはないことも知られている(例えば、特許文献3参照。)。
しかしながらこの場合においても、主成分組成によっては焼成における焼成温度や酸素濃度のわずかな変化により損失の温度係数、極小温度が大きく変動してしまう場合などが生じてくるという問題点があった。
特公昭36−2283号公報 特公平4−33755号公報 特開平6−290925号公報 "The effect of Cobalt substitutions on some properties of manganese zinc ferrites", A.D.Giles and F.F.Westendorp; J.Phys. D:Appl. Phys.,9(1976)2117および"Low−loss Power Ferrites for frequencies up to 500kHz", T.G.W.Stijntjes and J.J.Roelofsma; Adv.Cer.16(1986)493。
損失温度係数を改善しても、組成の微妙な変動により損失極小温度が大きく変化してしまえば動作温度から100℃にいたる温度範囲で損失がかえって増大し、また損失温度係数ならびに極小温度の変動が大きい場合、特性の安定した製品を供給することができない。
本発明は、現在スイッチング電源に適用されている数百kHz程度の周波数において低損失であると同時に、温度特性に優れ、生産安定性に優れたMn−Zn−Co系フェライト磁心材料を提供することを目的とする。
発明者らは、上に述べた課題を解決するために、損失温度特性等の特性のCoO含有量依存性を調査した結果、基本成分の組成範囲によりCoO含有の効果が異なっていることを見いだした。本発明は、組成範囲に応じてCoO含有量を選択することにより、極端な特性の変動をなくして十分温度特性に優れたMn−Zn−Co系フェライトを提供するものである。すなわち、
本発明は、上に述べた課題を解決するために、開発されたもので
基本成分
Fe:50〜55mol%
CoO:0.05〜0.8mol%
ZnO:6〜14mol%
MnO:32〜40mol%
に対してさらに、
SiO :0.0050〜0.0500wt%
CaO:0.0200〜0.2000wt%
ZrO :0.0100〜0.1500wt%及び
Ta :0.0050〜0.1000wt%
を含有し、下記(1)及び(2)式を満たし、さらに、最大磁束密度200mT,100kHzの周波数で測定した損失極小温度Tmin(℃)が60〜120℃であり、下記(3)式で定義される電力損失Pcv(T)の温度係数αが、負であり絶対値が3.5kW/m/℃より小さく、かつ、電力損失極小値が400kW/m 以下であることを特徴とする広範囲の温度領域で低損失な電源用Mn−Zn−Co系フェライト磁心材料である。
(1)〜(3)式は次の通りである。
54.4≦[Fe(mol%)]+[CoO(mol%)]+0.2
[ZnO(mol%)]≦56.4 …(1)
0.10[Fe(mol%)]−5.08≦[CoO(mol%)]
≦0.02[Fe(mol%)]−0.04[ZnO(mol%)]
…(2)
温度係数α
={Pcv(Tmin−20)−Pcv(Tmin−60)}/40
…(3)
上記(1)、(2)式において、
[Fe(mol%)]:Feのモル含有率
[CoO(mol%)]:CoOのモル含有率
[ZnO(mol%)]:ZnOのモル含有率
である
本発明によれば、スイッチング電源トランス等の磁心に適した100Hz程度の周波数帯において、従来の材料と比較して広い温度範囲においても電力損失の小さいMn−Zn−Co系フェライト磁心材料を提供することができる。
前述したように軟磁性フェライトに求められる磁気特性としては、飽和磁束密度が大きいこと、キュリー温度が高いこと、損失が小さいことがあげられる。飽和磁束密度、キュリー温度は基本成分であるMnO:ZnO:Feの比でほぼ決まる。
ZnOの量が少ない領域においてはZnO量の増加に伴い飽和磁束密度は増加するが、これと同時にキュリー温度も低下する。磁気損失が極小となる温度も先に述べたように基本成分比により決まる。ZnO量は多すぎると、CoO含有量に対して損失極小温度の変化が非常に敏感となり、わずかのCoO含有量の増加で極小温度が室温以下までシフトする。したがってZnO量は6mol%以上14mol%以下とする。
また、CoOは特公昭52-4753号公報にあるように透磁率の温度係数を小さくする働きがあるが、過剰に含む場合には損失の温度係数が室温以上で正となり熱暴走をおこし、さらに経時変化が大きくなり望ましくない。
以上、飽和磁束密度、キュリー温度及び損失の極小温度と温度特性を最適にする観点から、Fe:50〜55mol%、CoO:0.05〜0.8mol%、MnO:32〜40mol%、ZnO:6〜14mol%を基本成分とした。
ところで、磁気損失が極小となる温度は先に述べたようにトランスの動作温度での近傍にありかつ室温から動作温度の間の温度係数が負であることが必要である。この温度も基本成分比により決まり、Feが50mol%以上の領域においては、Fe量の増加にともない極小温度は低下する。これは化学量論組成より過剰のFeを含む組成においては2価のFeイオンが存在し、このイオンのKの温度依存性に対する寄与が大きいため、わずかの2価のFeイオン量の変化が極小温度をシフトさせる。この2価のFeイオン量は組成のみならず、材料の酸化度、すなわち焼成中の酸素分圧によっても影響を受け変動する。
CoOは透磁率の温度係数を小さくする効果があり、これはCoイオンがKに対して正の寄与があり、それ以外のイオンのマイナスの寄与を打ち消してその結果温度依存性が小さくなるとされている。磁気損失は透磁率と相関があり、透磁率が大きくなると損失も小さくなる。このことにより、CoOは損失の温度係数を小さくする効果があるといえる。しかしながら、CoO含有量が多すぎると、Kに対する寄与の相殺が過ぎるためかえって温度係数を著しく増大させてしまう場合もある。また、先述の2価のFeイオンもKに対して正の寄与があり、この量の多少も損失温度係数に対して影響を及ぼす。したがって、温度特性の改善のためにはCoOとFeを含む主成分両方の組成について注意しなければならない。また、これらを含めたMn−Zn−Coフェライトの構成各イオンのKに対する寄与の温度に対する変化はそれぞれ異なっており、CoO含有効果はその組成に対して異なると考えられる。
すなわち、Feの量が多い場合、先に述べたように2価のFeイオンが増え損失極小温度が低下する。逆に少ない場合は極端に高温になり動作温度付近の損失値が増大する。CoO量についても同様であり、またZnO量についてもわずかであるが極小温度をシフトさせる傾向があるため、これらの総和について(1)式を採用し、その上限を56.4mol%とし、下限を54.4mol%とするのが好ましい。すなわち、
54.4≦[Fe(mol%)]+[CoO(mol%)]+0.2[ZnO(mol%)]≦56.4 …(1)
[Fe(mol%)]:Feのモル含有率
[CoO(mol%)]:CoOのモル含有率
[ZnO(mol%)]:ZnOのモル含有率
また、先の(1)式によって定められた組成範囲においてはCoO量の増加に伴って損失温度係数は改善されるが、ZnO量が多くなると比較的低いCoOで極小温度が急激に低下する。Fe量については逆に少ない方が限界CoO量が低くなっている。この限界含有量は、ZnO量とFe量依存性を比べると後者の方が鈍感であるとの結果を得た。即ち、限界量に対するZnO量とFe量依存性を近似してCoO量の上限を決める必要がある。一方、CoO量を含まない場合でもFe量が少ないと損失温度係数は比較的小さく、そのため少ないCoO量で一定水準の温度係数まで小さくでき、逆にFe量が多い組成では温度係数改善に比較的多いCoO量が必要となる。CoOを含まない場合の温度係数はFe量のみの関数となる。
以上の知見から(1)式に加えてさらに(2)式の条件を加えることで、一層本発明の目的を確実に達成することができる。
0.10[Fe(mol%)]−5.08≦[CoO(mol%)]≦0.02[Fe(mol%)]−0.04[ZnO(mol%)]
…(2)
また本発明は基本成分に対して、これにスピネルを形成しない、SiO、CaO、Ta、ZrO 微量添加成分を加えて損失の少ない高性能な電源用Mn−Zn−Co系フェライト磁芯材料としたものである
とりわけ、SiO、CaO、Ta、ZrOの複合添加は効果的であり、その作用は以下の通りである。
SiOはCaOとともに粒界を形成し粒界の高抵抗化に寄与する。しかしながら添加量が少ないとその寄与は小さく、また0.0500wt%を超えて含むと焼結時に異常粒成長を生じせしめ損失を大幅に増大させる。
CaOもSiOとの共存した場合に粒界抵抗を高めるが、添加量が0.0200wt%より少ないとその寄与は小さく、また0.2000wt%より多くなると損失は逆に増大する。したがってSiOならびにCaOの添加量はSiO:0.0050〜0.05000wt%、CaO:0.0200〜0.2000wt%とする。
TaはSiO、CaOの共存下で比抵抗の増大に有効に寄与するが、含有量が0.0050wt%に満たないとその添加効果に乏しく、一方、0.1000wt%を超えると逆に損失の増大を招く。したがって、Taは0.0500〜0.1000wt%の範囲で添加量するものとした。
ZrOはSiO、CaO、Taの共存下でTaと同様に粒界の抵抗を高めて高周波での損失の低減に有効に寄与するが含有量が0.0100wt%未満ではその効果に乏しく、一方0.1500wt%を超えると逆に比抵抗を高める効果が少なくなり損失が増大するためZrOの最適添加量を0.0100〜0.1500wt%とした。
(参考例1)
最終組成として表1に示した4種の組成(組成A,B,C,D)を基本成分とし、これにFeと置換する形でCoO量を1.0mol%まで0.1mol%毎に加えた。これらの目標組成に対し、基本成分の原料を配合した後、ボールミルを用いて湿式混合を16時間かけて行い、その後乾燥した。この混合粉を大気雰囲気で950℃で3時間の仮焼を行った。この仮焼粉を粉砕し、ポリビニルアルコール5wt%水溶液を10wt%加えた後、造粒した粉末を外径36mm、内径24mm、高さ12mmのリング状に成形し、酸素分圧を制御した窒素・空気混合ガス中で1300℃、4時間の焼成を行った。このようにして得られた焼結体試料に巻線を施し(1次側5巻、2次側5巻)100kHzの周波数で最大磁束密度200mTの条件下で、電力損失をBHトレーサーにより0〜140℃で測定した。電力損失の極小温度を図1(b)にその温度係数を図1(a)に示した。損失温度係数は極小温度をTminとし、温度Tのときの電力損失をPcv(T)として次式から求めた。
温度係数α
={Pcv(Tmin−20)−Pcv(Tmin−60)}/40
図1(a)、(b)からわかるように、本発明によるCoO量範囲内のものは、損失極小値を示す温度が70℃以上でかつ温度係数が負でその絶対値が小さくなっている。
結果から明らかなように損失温度係数はCoO量が増すに従いその絶対値が小さくなるが、基本組成により値が異なっている。従って、一定水準以上の温度係数を実現するためには、CoO量のみならず、Fe3、ZnOの量にも依存する。ここで温度係数αが負であり、その絶対値を3.5より小さくするための最低限のCoO量を、縦軸CoO最下限量、横軸Fe(CoOを含む)のグラフ上にプロットすると図3(a)のようになる。この組成依存性からCoO量の下限はほぼFe(CoOを含む)の量によって決り、Fe(CoOを含む)量との相関を取ると、図3(a)で示される近似曲線でy=0.09x−4.62となる。ここにxはFeの含有量モル%である。すなわち、
y=0.10[Fe(mol%)]−5.08
である。
一方CoOが多い場合は図1に示したように、極小温度が低下する。極小温度がたとえ低下しても、損失温度係数が十分に小さければ、使用温度ならびに最高使用温度での損失は共に小さいはずであるが、この場合は前述してように、スピネルを構成する各イオンがKに対する正負の寄与がバランスしている状況であるから、少しの酸素雰囲気の変動等によりその温度特性が大きく変わることが予想される。そこで、極小温度が変動する付近での60℃を境界として、CoOの上限を定めるとすると、その基本組成依存性は図2(b)のようになる。これはFe量のみならず、ZnO量によっても変化する。
この2成分の量を変数にして相関を求めたところ、図3(b)で示したように、CoO量の上限は、0.02[Fe(mol%)]−0.04[ZnO(mol%)]で近似することができる。従って好適なCoO量[CoO(mol%)]は、
0.10[Fe(mol%)]−5.08≦[CoO(mol%)]≦0.02[Fe(mol%)]−0.04[ZnO(mol%)]
…(2)
であり、この条件であれば広い温度範囲に亙り低い損失の材料を提供することができる。
(参考例2)
Fe:53.2mol%とし、ZnO量を6から15mol%まで変化させた組成(残部MnO)について、基本成分の原料を配合した後、ボールミルを用いて湿式混合を16時間かけて行い、その後乾燥した。この混合粉を大気雰囲気で970℃で2時間の仮焼を行った。ボールミルを用いて湿式混合粉砕して乾燥させた。この粉末にポリビニルアルコール5wt%水溶液を10wt%加えた後、造粒し参考例1と同様の方法で仮焼、粉砕を行い、参考例1と同様のリングに成形した。この成形体を酸素分圧を制御した窒素・空気混合ガス中で1300℃、4時間の焼成を行った。また、同様の方法でFeをCoOで0.5、0.6、0.7mol%それぞれ置換した組成についても評価した。結果を図4に示した。ZnO量の大きい領域では極小温度が急激に減少しており、また、CoO量が多い場合は低いZnO量で低下が始まっている。本発明の組成範囲では、適切な温度で極小となっている。
(参考例3)
最終組成として表2に示した2種類の組成(組成E、F)について、CoO量をFeと置換する形で変形させた基本成分の原料を配合した後、参考例1と同様の方法で仮焼、粉砕を行い、参考例1と同様のリングに成形した。この成形体を酸素分圧を制御した窒素・空気混合ガス中で1320℃、5時間の焼成を行った。このとき、焼成後の冷却過程での酸素分圧を0.05%〜0.3%に変化させた場合の各々の焼結体について巻線を施し、参考例1と同様の方法で電力損失の極小温度を測定した。酸素分圧の変化に伴う極小温度のばらつきをCoO量に対してプロットした。図5は組成Eに対するもの、図6は組成Fに対するものである。図5、図6によると、CoO量の増加に伴い、損失極小温度が下がりはじめる付近からばらつきが大きくなり、安定した材質の供給が困難となる。本発明の基本成分の組成範囲では、酸素分圧の変動に対しても大きな極小温度の変化を避けることができる。
(実施例1)
最終組成として表3に示した基本組成となるように、基本成分の原料を配合したのち、ボールミルを用いて湿式混合を16時間かけて行い、その後乾燥した。この混合粉を大気雰囲気で970℃で2時間の仮焼を行った。この仮焼粉に対し、SiO:0.008wt%、CaCO:0.13wt%、Ta:0.04wt%及びZrO:0.03wt%を添加し、再度ボールミルを用いて湿式混合粉砕して乾燥させた。この粉末にポリビニルアルコール5wt%水溶液を10wt%加えた後、造粒した粉末を外径36mm、内径24mm、高さ12mmのリング状に成形し、酸素分圧を制御した窒素・空気混合ガス中で1330℃、3時間の焼成を行った。このようにして得られた焼結体試料に1次側5巻、2次側5巻の巻線を施し、100kHzの周波数で最大磁束密度200mTの条件下で、電力損失を交流BHトレーサーにより25℃(室温)〜140℃で測定した。電力損失の極小値とそれを示す温度(損失極小温度)ならびに25℃(室温)〜80℃における電力損失の温度係数αを表3にあわせて示した。表3の中の損失極小温度の値に*を付けたものは測定温度範囲で損失値が極小値を示さなかったものである。極小温度が140℃より高いものについては100℃と140℃の間の温度係数とし、一方極小温度が0℃より低いものについては0℃と40℃の間の温度係数とした。結果からわかるように、本発明による組成範囲内のものは、電力損失が400kW/m以下でかつ温度係数が負でその絶対値が小さくなっている。
(実施例2)
基本組成としてMnO:35.9mol%、ZnO:11.4mol%、Fe:52.4mol%、CoO:0.3mol%となるように原料を配合したのち、実施例と同様の方法で仮焼を行い、粉砕の際に、SiO、CaCO、ZrOをそれぞれ380ppm、1071ppm、230ppm加え、さらにTaを0〜1200ppmまで変化させて加えた。また同様にして、粉砕時に、SiO、CaCO、ZrOをそれぞれ380ppm、1071ppm、400ppm加え、さらにTaを0〜800ppmまで変化させて加えた粉末を準備した。
この粉末を実施例と同様のリングに成形し、成形体を酸素分圧を制御した窒素・空気混合ガス中で1150℃、4時間の焼成を行った。このようにして得られた焼結体試料に1次側5巻、2次側5巻の巻線を施し、500kHzの周波数で最大磁束密度50mTの条件下で、電力損失を交流BHトレーサーにより20〜120℃で測定した。これらの試料の電力損失の温度変化を図7に示した。またそれぞれの焼結体から直方体を切り出し、4端子法にて直流比抵抗を測定し添加物依存性を調べ、その結果を図8に示した。
Taを添加することにより電気抵抗は増加し、これにより損失は改善される。これは損失の内の渦電流損失が低減された効果と推測できる。渦電流損失は抵抗の値に反比例し、かつ抵抗は温度と共に減少するため、渦電流損失は温度と共に増加する。これが図8でTa添加量の増加に伴って損失が低下し、とくに高温側で低下の割合が顕著である理由と考えられる。
一方、ZrO添加では、図8で見られるように、高温側でより顕著に損失が改善されている。電気抵抗のZrO添加量依存性と照らし合わせると、この損失改善はTa添加による渦電流損失低減効果と異なる機構ではないかと考えられる。ZrO添加量が少ない範囲では最高使用温度領域で損失が多くなり、極小温度も下がり好適でない。
(実施例3)
最終組成として表4に示した3種の組成に対し、成分の原料酸化物を配合した後、ボールミルを用いて湿式混合を16時間かけて行い、その後乾燥した。この混合粉を大気雰囲気で950℃で3時間の仮焼を行った。この仮焼粉に対しSiO:0.08wt%、CaCO:0.13wt%、Ta:0.04wt%及びZrO:0.03wt%を添加し再度ボールミルを用いて湿式混合粉砕して乾燥させた。この粉末にポリビニルアルコール5wt%水溶液を10wt%加えた後、造粒した粉末を外径36mm、内径24mm、高さ12mmのリング状に成形し、酸素分圧を制御した窒素・空気混合ガス中で1330℃、3時間の焼成を行った。このようにして得られた焼結体試料に巻線を施し(1次側5巻・2次側5巻)100kHzの周波数で最大磁束密度200mTの条件下で、電力損失を交流BHトレーサーにより0〜140℃で測定した。電力損失の温度変化を図9に示した。この結果からわかるように、適合例では広い温度範囲に亘り損失が小さくなっており、同等の損失極小値を持つ比較例15と比較すると動作温度付近の損失は小さくことがわかる。一方、同じ温度係数を有している場合でも、損失極小温度が低すぎると最高使用温度100℃での損失が大きくなり好ましくない。
(実施例4)
最終組成として表5に示した組成に対して、実施例と同様に焼結体試料を作製した。100kHz、200mTの条件で、20〜140℃の範囲で電力損失の温度変化を測定して、損失極小温度並びに損失極小値を求めた。ZnO量を横軸にとり、FeとCoOの総量を縦軸とした組成の座標にプロットした点に損失極小値を示したのが、図10である。図10中に記載されている数字は損失極小温度の値である。縦軸の量が大きくなるに従い極小温度は低下し、ZnO量に関しても増えるに従い極小温度が低下する傾向が見られる。等しい極小温度を結ぶ線は、磁気異方性定数K=0の組成上のライン(室温での値)とほぼ平行になる。適合例では極小温度が60℃以上となり最大使用温度で極端な損失の増加が見られず、また極小温度が必要以上に高くならず、動作温度での損失値も小さいとみなせる。
(実施例5)
最終組成としてMnO:35.9mol%、ZnO:11.4mol%、Fe:52.4mol%、CoO:0.3mol%となる基本成分の原料を配合したのち、実施例と同様の方法で仮焼を行い、この仮焼粉に対し、SiO、CaCO、Ta、ZrOが表6に示す割合になるように、SiO、CaCO、Ta及びZrOを添加し再度ボールミルを用いて湿式混合粉砕して乾燥させた。以下実施例と同じ作製条件により得られた焼結体試料に1次側5巻、2次側5巻の巻線を施し、100kHzの周波数で最大磁束密度200mTの条件下で、電力損失を交流BHトレーサーにより25〜140℃で測定した。電力損失の極小値、損失極小温度ならびに25℃(室温)〜80℃における電力損失の温度係数を表6にあわせて示した。これらの結果から本発明の範囲内では電力損失が小さく温度特性に優れた磁心材料が得られる。
Figure 0004448500
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oO量と損失温度係数、損失極小温度との関係を示すグラフである。 nOとFe+CoOのCoO分布を示すグラフである。 とCoOとの関係を示すグラフである。 nO量と損失極小温度との関係を示すグラフである。 oO量と極小温度との関係を示すグラフである。 oO量と極小温度との関係を示すグラフである。 実施例のTa、ZnO量と電気抵抗との関係を示すグラフである。 実施例のTa、ZnOの温度とPCVとの関係を示すグラフである。 実施例の温度とPcvとの関係を示すグラフである。 実施例及び比較例のZnOとFe+CoOのTminを示すグラフである。

Claims (1)

  1. 基本成分
    Fe:50〜55mol%
    CoO:0.05〜0.8mol%
    ZnO:6〜14mol%
    MnO:32〜40mol%
    に対してさらに、
    SiO :0.0050〜0.0500wt%
    CaO:0.0200〜0.2000wt%
    ZrO :0.0100〜0.1500wt%及び
    Ta :0.0050〜0.1000wt%
    を含有し、下記(1)及び(2)式を満たし、さらに、最大磁束密度200mT,100kHzの周波数で測定した損失極小温度Tmin(℃)が60〜120℃であり、下記(3)式で定義される電力損失Pcv(T)の温度係数αが、負であり絶対値が3.5kW/m/℃より小さく、かつ、電力損失極小値が400kW/m 以下であることを特徴とする広範囲の温度領域で低損失な電源用Mn−Zn−Co系フェライト磁心材料。
    54.4≦[Fe(mol%)]+[CoO(mol%)]+0.2
    [ZnO(mol%)]≦56.4 …(1)
    0.10[Fe(mol%)]−5.08≦[CoO(mol%)]
    ≦0.02[Fe(mol%)]−0.04[ZnO(mol%)]
    …(2)
    温度係数α
    ={Pcv(Tmin−20)−Pcv(Tmin−60)}/40
    …(3)
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