JP4276783B2 - Il−2の選択的アゴニスト及びアンタゴニスト - Google Patents
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Description
関連出願に対するクロスリファレンス
本願は、1998年5月15日に出願された米国出願番号第09/080,080号の一部継続出願である。
【0002】
背景
1.発明の分野
本発明は、一般的に薬理学及び免疫学の分野に関する。より詳細には、本発明は、T細胞(PHA−芽細胞(blast))を選択的に活性化し且つナチュラルキラー(「NK」)細胞の減少した活性化を有するための物質の新規な組成物に関する。これらの新規な組成物は、サイトカインファミリー、特にヒトインターロイキン−2(「IL−2」)の変異体を含む。
2.関連技術の記述
インターロイキン2(IL−2)は、T細胞、B細胞及び単球を包含する免疫系の様々な細胞を活性化する強力な免疫刺激薬である。IL−2はまた、T細胞の強力で且つ重要な増殖因子でもある。これらの活性に基づいて、IL−2は癌を処置するその能力に関して試験された。ヒトIL−2は、転移性腎癌及び転移性黒色腫の処置のためのFDA認可薬である。適格患者におけるIL−2の使用は、IL−2治療と関連する激しい毒性のために限定され;適格患者の多くても僅か20%のみが実際に治療を受けると概算される。IL−2治療と関連するこれらの毒性には、激しい熱、悪心、嘔吐、血管漏出及び重い低血圧が包含される。しかしながら、これらの毒性にもかかわらず、IL−2はその認可された適応症に対して有効である(〜17%の目標応答率(objective response rate))。
【0003】
マウスIL−2の構造/機能分析は豊富であるが(Zurawski,S.M.及びZurawski,G.(1989)Embo J 8:2583−90;Zurawski,S.M.et.al.,(1990)Embo J 9:3899−905;Zurawski,G.(1991)Trends Bio technol 9:250−7;Zurawski,S.M.及びZurawski,G.(1992)Embo J 11:3905−10;Zurawski,et.al.,EMBO J,12 5113−5119(1993))、ヒトIL−2の限られた分析のみが存在する。ヒトIL−2ムテインを用いた大部分の研究はネズミ細胞に対して行われており;しかしながら、高親和性IL−2受容体IL−2Rαβγを発現するヒトPHA−芽細胞を用いた限られた研究が存在する。PHA−芽細胞を用いたこれらの研究により、ヒトIL−2の残基Asp−20及びD−ヘリックスの重要性が確かめられた。ヒトIL−2の位置Asp−20及びGln−126は、それぞれ、IL−2受容体β−及びγ−サブユニットとの相互作用を招く主要な残基であることが示されている(Theeze,et.al.,Immunol.Today,17,481−486(1996)に概説される)。マウスIL−2のC−ヘリックス中の残基はマウスIL−2Rβとの相互作用に関与することが示されているが(Zurawski,et.al.,EMBO J,12 5113−5119(1993))、ヒトIL−2中の対応する残基は同じ特性を有することが示されていない(ヒトIL−2中のこれらの残基はAsp−84及びAsn−88であると思われる)。ヒトとマウスのIL−2間で著しい種特異性が示されるので(ヒトIL−2はネズミ系において〜100倍減少した活性を示す)、同じタイプの相互作用が種境界内で起こっているかどうかを予測することは難しい。ヒト中間親和性受容体IL−2Rβγのみを発現する細胞を用いるいかなる研究も知られていない。
【0004】
いくつかのヒトIL−2ムテインが、ヒトPHA芽細胞に対するそれらの活性に関して調べられている(Xu,et.al.,Eur.Cytokine Netw,6,237−244(1995))。Asp−20のロイシン(D20L)並びにアルギニン、アスパラギン及びリシンでの置換を含有するムテインは、PHA−芽細胞の増殖を誘導するそれらの能力に重大な欠陥を有することが示された。従って、この技術は、Asp−20の置換が弱められた活性のムテインをもたらすことを教示する。さらに、Xu,et alは、現在(1995)まで臨床または研究用途のいずれかのためにいかなる有用なIL−2ムテインも同定されていないことを提示する。
【0005】
Buchli及びCiardelli,Arch,Biochem.Biophys,307(2):411−415,(1993)により作製されたヒトIL−2 Q126Dムテインは、効能及びアゴニズム(agonism)の両方において著しく弱められた活性を示し;ヒトT細胞アッセイにおいて、それはIL−2より〜1,000倍低い活性を示し、部分アゴニストとして作用した。ネズミT細胞アッセイにおいて、このムテインはほとんど不活性であった。試験した両方の細胞系は、IL−2受容体の高親和性型を発現した。Q126Dは、ヒトT細胞アッセイでは部分的にのみであるが、両方の細胞タイプで、IL−2によりもたらされる活性を中和する能力を示した。
【0006】
Zhi−yong,W.,et al.,Acta Biochimica et Biophysica Sinica 25(5):558−560(Sept.1993)は、位置62、69、99及び126でIL−2に対する置換実験を行い、マウスT細胞アッセイ(CTLL−2)において、62−Leu−IL−2及び126−Asp−IL−2で、それぞれ、wt IL−2に比較して20倍及び30倍の活性の減少を示した。しかしながら、位置126での置換がNK細胞よりT細胞選択的な活性を与えることができるいかなる教示もしくは示唆もなく、またはそのような変異がヒトT細胞に対して同様な作用を有するかどうかを示していない。
【0007】
Collins,L.,et al.,PNAS USA 85:7709−7713(1998)は、位置20のAspのAsn(D20N)またはLys(D20K)のいずれかでの置換が高親和性受容体(Collins,et alにおいてp55/p70と呼ばれる、IL−2Rαβγ)及び中間親和性受容体(Collins,et alにおいて「p70」と呼ばれる、IL−2Rβγ)の両方についてヒトIL−2に対して〜100ないし1,000倍の結合の低下をもたらすことを報告した。IL−2Rαへの結合は、両方の突然変異体タンパク質に対して変わらないようであった。この研究は、中間親和性IL−2受容体(IL−2Rβγ)への結合の崩壊が、高親和性IL−2受容体(IL−2Rαβγ)への結合の崩壊も引き起こすことを教示し、IL−2RβγまたはIL−2Rαβγ間の差別結合または活性化を位置20のAspの置換により達成できないことを示唆する。
【0008】
Berndt,W.G.,et al.,Biochemistry 33(21):6571−6577(1994)は、中間親和性IL−2受容体と相互作用すると推測される天然のIL−2の位置17〜21を同時に突然変異させるために無作為配列カセット突然変異誘発を用いた。2610個の評価したクローンのうち42個のみが活性であった。位置20及び21が生物学的活性のために主として重要であることが見いだされた。L21Vを除いて個々の置換のいかなる示唆または教示もない。
【0009】
米国特許第5,229,109号(Grimm,et al.)は、申し立てによると、免疫療法及び癌処置における使用のための低毒性IL−2類似体を開示している。(アラニンヘの)位置Arg38及び(リシンへの)Phe42での置換を有する2つのIL−2類似体の特性が分析され、天然のIL−2のものに比較された。これらの類似体は、いわゆる「高親和性」受容体に最低限だけ結合しながら、中間IL−2受容体に結合するそれらの能力を維持できることが見いだされた。この時点で、中間親和性受容体はp75(IL−2Rβ)のみからなると考えられ、そして高親和性受容体はp55+p75受容体複合体(IL−2Rαβ)のみからなると考えられた。これらの類似体はまた、末梢血単核細胞を刺激してリンホカイン活性化致死(killing)(LAK)を引き起こすそれらの能力も維持した。注目すべきことに、IL−1β及びTNFα分泌は、天然のIL−2分子と比較した場合に、これらの類似体に応答して著しく減少した。この特許に記述されるアミノ酸残基はIL−2Rα(p55)と特異的に相互作用すると思われるものであり;IL−2Rαとの相互作用の排除は高親和性IL−2受容体保有細胞に対する減少した活性をもたらし、そして中間親和性IL−2受容体保有細胞に対する活性に影響を及ぼさないと思われる。従って、(NK細胞に由来すると考えられる)LAK細胞の生成は維持されるはずである。本明細書に記述するムテインはアミノ酸残基位置20、88及び126に関し;これらの位置はIL−2Rβ(p75;位置20及び88)及びIL−2Rγ(Grimm,et al特許の出願時には知られていない;位置126)と特異的に相互作用すると考えられる。その結果、IL−2Rαとの相互作用は変わらないままである。機械論的に、Grimm,et alにより記述されたムテインは、IL−2高親和性受容体との減少した相互作用を有するが、IL−2中間親和性受容体に対するいかなる作用ももたないはずであり;本明細書に記述するムテインは反対の特性をもち、IL−2中間親和性受容体IL−2Rβγと相互作用するそれらの能力に顕著な欠陥をもち、そしてIL−2高親和性受容体IL−2Rαβγとの機能的相互作用にはほとんどまたは全く欠陥を示さない。
【0010】
米国特許第5,206,344号(Goodson et al.)は、IL−2の成熟天然配列のアミノ酸の一つがシステイン残基で置換されているIL−2のムテインを開示しており、それらは次に製造され、この置換されたシステイン残基を介してポリエチレングリコールホモポリマーまたはポリオキシエチル化ポリオールから選択されるポリマーに結合され、ここで、これらのホモポリマーは置換されていないかまたは一方の末端でアルキル基で置換されている。これらのムテインは、部位特異的突然変異誘発により親タンパク質の遺伝子から改変されているムテインをコードする突然変異体遺伝子の宿主発現により製造される。さらに、IL−2の生物学的活性のために必要ではない成熟IL−2タンパク質の位置125のシステイン残基を介してIL−2の他の種類を結合することができる。減少した毒性を与える突然変異のいかなる開示もない。
【0011】
米国特許第4,959,314号(Lin et al.)は、分子間架橋または不適当な分子内ジスルフィド架橋形成の部位を除くために生物学的活性に必須ではないシステイン残基が削除されているかまたは他のアミノ酸で置換されているIFN−β及びIL−2のような生物学的に活性のあるタンパク質のムテインを開示している。これらのムテインは、オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発により親タンパク質の遺伝子から合成されたムテインをコードする突然変異体遺伝子の細菌発現により製造される。減少した毒性を与える突然変異のいかなる開示もない。
【0012】
米国特許第5,116,943号(Halenbeck et al.)は、クロラミンTまたは過酸化物酸化を受けやすい各メチオニル残基を保存的アミノ酸で置換することを含む方法により生物学的に活性のある対照治療タンパク質が酸化から保護されることを開示しており、ここで、さらなる非感受性メチオニル残基はそのように置換されない。このようにして製造される酸化抵抗性ムテインは好ましくはインターロイキン−2またはインターフェロン−βのヒトムテインであり、そして保存的アミノ酸は最も好ましくはアラニンである。減少した毒性を与える突然変異のいかなる開示もない。
【0013】
米国特許第4,853,332号(Mark et al.)は、分子間架橋または不適当な分子内ジスルフィド架橋形成の部位を除くために生物学的活性に必須ではないシステイン残基が削除されているかまたは他のアミノ酸で置換されているIFN−γ及びIL−2ムテインに関する。この特許は、セリンへのシステイン125でのIL−2における置換が天然のIL−2に匹敵する活性を有するムテインをもたらすことを開示している。
【0014】
米国特許第5,696,234号(Zurawski et al.)は、哺乳類サイトカインのムテイン並びに哺乳類サイトカインのアゴニスト及びアンタゴニストのスクリーニング方法に関する。特に、ヒトIL−2二重ムテインP82A/Q126Dは、ヒトα及びβ IL−2Rサブユニットを共トランスフェクトしたネズミBaf3細胞に対するアンタゴニスト活性を有するとして示される。ほんのわずかなアゴニスト活性が示される。また、ネズミIL−2ムテイン、特にQ141D、Q141K、Q141V及びQ141Lが、HT2細胞に対する部分アゴニスト及びアンタゴニスト活性を示すことも示される。位置20、88及び126での突然変異に関する選択的アゴニスト作用を示すかまたは示唆するいかなるムテイン活性も記述されていない。
【0015】
Zurawski et al.は、IL−2Rαβγを発現する細胞に対して活性があるが、IL−2Rβγを発現する細胞に対しては不活性であるという特性を有するネズミIL−2ムテインを記述している(Zurawski,G.,Trends Biotechnol.9:250−257(1991);Zurawski,S.M.及びZurawski,G.Embo.J.11:3905−3910(1992))。これらの特性を示したネズミIL−2ムテインは、SerまたはThrへのAsp−34及びLysへのGln−141の置換を有した。マウスIL−2のAsp−34及びGln−141は、それぞれ、ヒトIL−2のAsp−20及びGln−141に相当すると思われる。これらの参考文献は、「選択的アゴニスト」IL−2ムテインに触れているが、それらの潜在能力を毒性が低いとして記述しておらず、むしろ内因性IL−2の可能性があるアンタゴニストとして記述している。
【0016】
EP 0267 795 A2(Zurawski et al.)は、生物学的に適当である最初の30個のN末端アミノ酸残基内に欠失及び/または置換を含有するいくつかを包含する、配列の全体にわたる様々なマウスIL−2ムテインを開示しているが、同等なマウスIL−2残基での本明細書に開示するアミノ酸置換を包まず、説明せずまたは示唆していない。減少した毒性を有し、そしてより一般的に許容される改善されたIL−2分子の必要性がある。
【0017】
Taniguchi et al.、米国4,738,927は、IL−2の生物学的活性を保有するポリペプチドをコードする組換えDNAを含んでなる組換えDNA、ここで、該活性は細胞傷害性Tリンパ球細胞系の増殖の促進である、及び原核または真核細胞中で増えることができ、該遺伝子のコーディング配列がプロモーター配列の下流の位置に配置されているベクターDNAに関し、ここで、該ポリペプチドはポリペプチドのアミノ酸配列中に全部で132〜134アミノ酸を有する。それはまた、天然のIL−2を組換え的に製造する遺伝子、組換えDNAベクター、宿主細胞及び方法も記述している。Taniguchi et al.は、いかなる変異体またはムテインも記述しておらず、そしてタンパク質中のどの位置がシグナリングまたは結合活性を招くかを教示していない。
【0018】
先行技術の組換えIL−2ムテインの用量を限定する毒性を示さないIL−2ムテインが、このサイトカインの潜在能力を治療的に利用するために必要とされることは明らかである。
【0019】
本発明の要約
本発明は、野生型IL−2に従って番号をつけたヒトIL−2ムテインを含んでなるポリペプチドに関し、ここで、該ヒトIL−2が位置20、88または126の少なくとも1つで置換されており、それにより該ムテインがNK細胞よりT細胞を優先的に活性化する。本発明は、このインターロイキンのより大きい治療用途を可能にする毒性のより低いIL−2ムテインを実現させる。
【0020】
さらに、本発明は、位置アスパルテート20、アスパラギン88及びグルタミン126で単一の突然変異を有するIL−2ムテインに関する。特定のムテインは名称D20X、N88X及びQ126Xで表され、ここで、「X」は、ヒトIL−2において置換した場合に、IL−2Rβγ受容体を発現する細胞(例えばNK細胞)に優先してIL−2Rαβγ受容体を発現する細胞(例えばT細胞)に対する選択的活性を与える特定のアミノ酸である。1,000倍より大きい選択性を示すムテインには、D20H、D20I、N88G、N88I、N88R及びQ126Lが包含される。特に、これらのムテインは、本質的に、T細胞に対する野生型IL−2活性も示す。また、1,000倍未満であるが10倍より大きい選択性を与える他の突然変異も同定される。本発明はまた、本発明のムテインをコードするポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドを含有するベクター、形質転換された宿主細胞、本発明のムテインを含んでなる製薬学的組成物及び本発明のムテインを用いる治療的処置方法も包含する。
【0021】
本発明はまた、IL−2Rβγと比較してIL−2Rαβγを利用するアッセイにおける評価によりIL−2ムテインを選択する方法にも関し、ここで、IL−2ムテインの活性は、一方のアッセイより優先的に他方においてwt IL−2に対して増大している。IL−2Rαβγ及びIL−2Rβγは適切な組み合わせの個々の受容体サブユニット外部ドメインであり、そして各受容体複合体へのIL−2ムテインの結合を直接測定するために用いられる。IL−2αβγアッセイはIL−2αβγ保有細胞タイプからの応答を利用し、そしてIL−2βγアッセイはIL−2βγ保有細胞タイプからの応答を利用する。IL−2αβγ保有細胞はPHA−芽細胞であり、そしてIL−2βγ保有細胞はNK細胞である。アッセイは、IL−2αβγ保有細胞タイプ及びIL−2βγ保有細胞タイプの両方の増殖である。
【0022】
本発明はまた、本発明のムテインをコードするポリヌクレオチドを含んでなるベクターにも関し、このベクターは、PHA−芽細胞活性化活性を有するが減少したNK細胞活性化活性を有するヒトIL−2ムテインの発現を導き、標的生物のトランスフェクション及び続いて起こる該ポリヌクレオチドによりコードされる該ヒトIL−2ムテインのin vivo発現を可能にすることができる。
【0023】
本発明はまた、PHA−芽細胞活性化活性を有するが減少したNK細胞活性化活性を有する、野生型IL−2に従って番号をつけたヒトIL−2ムテインの治療的に有効な量を投与することによるIL−2で処置可能な症状に悩む患者の処置方法にも関する。この方法は、IL−2で処置可能な症状がHIV、癌、自己免疫疾患、感染症、癌ワクチン中のワクチンアジュバント及び通常のワクチン療法、中高年層もしくはそうでなければ免疫無防備状態における並びにヒトSCID患者における免疫刺激のため、または免疫系の刺激を必要とする他の治療用途である場合に適用することができる。
【0024】
好適態様の記述
A.背景
T細胞に対するIL−2の作用は、IL−2受容体タンパク質への結合によりもたらされる。T細胞上の異なる細胞表面タンパク質がIL−2に結合する。同定される第一のものは、IL−2Rαと呼ばれる単一のポリペプチドであり、それはT細胞活性化の際に現れる55kDポリペプチド(p55)であり、最初はTac(T活性化のための)抗原と呼ばれた。IL−2Rαは約10-8MのKdでIL−2に結合し、「低親和性」IL−2受容体としても知られている。IL−2Rαのみを発現する細胞へのIL−2の結合は、いかなる検出可能な生物学的応答も引き起こさない。
【0025】
第二のIL−2受容体は、IL−2Rβ及びIL−2Rγから成る結合複合体であり;64kDポリペプチドのIL−2Rγは、多数のサイトカイン受容体間で共有されるので共通γ(γc)鎖としても知られている。IL−2Rβは約70〜75kDであり(p70またはp75と様々に呼ばれ)、2個のシステイン/WSXWSモチーフを特徴とするI型サイトカイン受容体ファミリーのメンバーである。IL−2Rβはγcと同等に発現される。IL−2RβγcへのIL−2の結合の親和性は、約10-9MのKdを有し、IL−2Rαへのものより高く;「中間親和性」IL−2受容体としても知られている。IL−2はIL−2Rβγcを発現する細胞の増殖をもたらし、最大結合の半分をもたらすものと同じ濃度のIL−2(すなわち、1x10-9M)で最大増殖刺激の半分が起こる。IL−2Rβγcは、IL−15に結合することができるものと同じシグナリング受容体複合体である。
【0026】
第三の既知のIL−2受容体複合体はIL−2Rαβγc複合体である。IL−2Rα及びIL−2Rβγcの両方を発現する細胞は、約10-11MのKdを有し、IL−2にいっそう緊密に結合することができ、それ故、「高親和性」複合体としても知られている。そのような細胞の増殖刺激は同様に低いIL−2濃度で起こる。IL−2結合及び増殖刺激の両方をIL−2Rα、IL−2Rβまたはγcに対する抗体により、そして最も効果的には複数の受容体サブユニットに対する抗体の組み合わせにより妨げることができる。これらの結果は、IL−2RαがIL−2Rβγcと複合体を形成し、IL−2のシグナリング受容体の親和性を高め、それにより増殖シグナルを著しくより低いIL−2濃度で送達できることを示唆する。IL−2はまずIL−2Rαに迅速に結合し、これによりIL−2Rβγcとの会合が促進されると考えられる。休止T細胞はIL−2Rβγcを発現するが、ほんの少量のIL−2Rαを発現し;表面に発現されるIL−2Rαを増やすことをIL−2により刺激することができる。抗原受容体によりもたらされるT細胞活性化の際に、IL−2Rαは迅速に発現され、それにより増殖刺激のために必要とされるIL−2の濃度を減らす。IL−2RαβγcへのIL−2の結合は、Jak/STATシグナリング経路によるシグナル伝達をもたらす。
【0027】
ナチュラルキラー(NK)細胞(中間親和性IL−2受容体IL−2Rβγを発現する細胞)に対してT細胞(PHA−芽細胞;高親和性IL−2受容体IL−2Rαβγを発現する細胞)を優先的に活性化するヒトIL−2のムテインが見いだされた。Asp−20をヒスチジン(D20H)もしくはイソロイシン(D20I)で、Asn−88をアルギニン(N88R)、グリシン(N88G)もしくはイソロイシン(N88I)で、またはGln−126をロイシン(Q126L)もしくはグルタメート(Q126E)で置換するムテインは、意外にも、PHA−芽細胞に対する完全なIL−2活性を示し、そしてNK細胞に対しては(たとえあったとしても)ほんのわずかな活性しか示さない。ヒトIL−2ムテインの以前の研究はネズミ細胞の分析系に頼っており、ヒト細胞が用いられている場合には、(NK細胞のような)IL−2Rβγのみを発現する細胞を利用していない。さらに、ヒトPHA−芽細胞を利用する研究により、Asp−20(Leu、Arg、AspまたはLysで;Xu,et.al.,Eur.Cytokine Netw,6,237−244(1995))またはGln−126(Aspで;Buchli及びCiardelli,Arch.Biochem.Biophys,307(2):411−415,(1993))の置換が、激しく弱められた活性を有するヒトIL−2ムテインをもたらすことが示されている。ネズミIL−2を用いる以前の研究により、異なる活性を有するマウスIL−2ムテインが同定された(Zurawski,et.al.,EMBO J,12 5113−5119(1993)が、これらの結果をもたらした突然変異はいずれも、本明細書に記述する研究において同定されたものを示唆していなかった。ネズミIL−2ムテインと同義位置で同じ突然変異を含有するヒトIL−2ムテインは同様の活性を示さず、それ故、ネズミの実施例はヒト機能性を予示しないことを示唆する。IL−2受容体IL−2Rαβγを発現するヒト細胞(例えばPHA−芽細胞)への相対活性をIL−2受容体IL−2Rβγを発現するもの(例えばNK細胞)に対して比較するヒトIL−2ムテインのいかなる研究も発明者等は知らない。in vivoでの分析により、記述する本発明のムテインが毒性の減少のために野生型ヒトIL−2より改善された治療指数を有し、従って、免疫系刺激を必要とする疾病の処置のために治療的に有用な化合物を提供することが確かめられると考えられる。
【0028】
インターロイキン2(IL−2)は、現在、転移性腎癌の処置のために診療所において使用されている。しかしながら、その激しい毒性によりその使用はほんの一組の最も健康な患者に限定されており、そして用量を限定する毒性はその全体的な効能を弱めると考えられる。IL−2の急性毒性はNK細胞の活性化によりもたらされることが提示されており、一方、その効能はT細胞の直接的活性化によりもたらされる(Jacobson,et.al.,Proc Natl Acad Sci USA(米国),Sep 17 1996,93(19)p10405−10;Smith KA,Blood 1993,81(6)p1414−23;Kaplan,et.al.,Biotechnology,10(2)p157−62)。T細胞は、NK細胞と異なるIL−2受容体を発現する(T細胞:IL−2Rαβγ、高親和性IL−2受容体;NK細胞:IL−2Rβγ、中間親和性IL−2受容体)。本明細書に記述するヒトIL−2ムテインは、T細胞IL−2受容体を選択的に活性化し、NK細胞IL−2受容体にはそうしない。
【0029】
いくらか成功して、NK細胞を直接活性化することを回避するためにIL−2での低用量治療が利用されている(Jacobson,et.al.,Proc Natl Acad Sci USA 93:10405−10)。この方策は、低用量のIL−2では、中間親和性IL−2受容体を除外して高親和性IL−2受容体のみが活性化されるという概念を導入した。IL−2受容体の中間親和性型IL−2RβγはNK細胞上に発現され、一方、T細胞は高親和性型IL−2Rαβγを発現する。
【0030】
しかしながら、本発明者等は毒性の問題に異なる角度から取り組んだ。IL−2の結合表面上の特定の結合する残基の適切な改変によるIL−2Rβ及び/またはIL−2RγとIL−2の相互作用の崩壊により、IL−2Rβγのみを発現する細胞への効果的な結合(従って、活性化)は妨げられると仮定した。しかしながら、IL−2Rαβγを発現する細胞上では、IL−2Rαへの最初の結合、従ってその細胞への結合が依然として起こり、それ故、Jacobs et al.により提案された低用量治療ではなお有毒な副作用が現れる可能性がある。改変されたIL−2とIL−2Rβ及び/またはIL−2Rγとの損なわれた相互作用にもかかわらず、IL−2Rαへの結合によって、IL−2Rβ及びIL−2Rγの効果的な漸増が細胞表面上で起こることができる。従って、シグナリング能力があるIL−2/IL−2Rαβγ複合体を形成することができる。NK細胞上の中間親和性IL−2受容体よりむしろT細胞上の高親和性IL−2受容体を選択的に活性化することができるIL−2変異体は、減少した毒性プロフィールのために野生型IL−2より増加した治療指数を有することができると考えられる。増加した治療指数を有するIL−2変異体は、癌(直接及び/または補助治療として)及び免疫不全症(例えばHIV及び結核)の処置の両方において著しく広げられた範囲の用途を有する。IL−2の他の可能性がある用途は、その免疫刺激活性に由来し、癌、HIVまたはヒトSCID患者のような免疫不全症の直接処置に加えて;結核のような感染症;「癌ワクチン」法におけるアジュバントとして;及び標準的なワクチン接種プロトコルを強化することまたは中高年層の処置のためような免疫系刺激適用のためを含む。
【0031】
Asp−20、Asn−88またはGln−126での適切な置換は、IL−2Rβ(Asp−20及びAsn−88)またはIL−2Rγ(Gln−126)のいずれかに対する結合相互作用を減少した。そのような置換の最終的な結果は、ヒトT細胞に対する活性を保持し且つヒトNK細胞に対する減少した活性を有するIL−2ムテインをもたらした。
【0032】
T及びNK細胞アッセイにおける評価の前に与えられた置換の結果を予測することはできなかったので、(Cysを除いた)全ての可能な天然のアミノ酸置換を位置Asp−20、Asn−88及びGln−126で実施し、そして限られているが多様な一組の突然変異を位置Asp−84で実施してそれらが実際にIL−2Rβと相互作用するかどうかを試験した。見かけのIL−2Rβ相互作用に対する影響が認められた場合には位置Asp−84でさらなる突然変異を試験する。これらの位置での46の別個の置換のデータを以下の表1に示す。
【0033】
野生型ヒトIL−2 cDNAに対する部位特異的突然変異誘発を用いて突然変異を導入した。適当なクローンを異種起源の系(例えば、エシェリキア・コリ(E.coli)、バキュロウイルス、酵母または例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞のような哺乳類細胞)における発現のために適当な発現ベクターにサブクローン化した。精製したタンパク質をT細胞(PHA−芽細胞)増殖及びNK増殖アッセイにおいて試験した。これらのアッセイ間で個々のムテインにより引き起こされる異なる応答、すなわちEC50により、これらの活性をもたらす突然変異が示される。詳細には、(野生型IL−2に対する)NK細胞アッセイでの応答に比較した場合に(野生型IL−2に対する)PHA−芽細胞(T細胞)アッセイにおいて比較的より強い応答を刺激するムテインにより、これらの細胞上に発現されるIL−2Rαβγには結合して活性化するがIL−2Rβγのみを発現する細胞には結合することができず従って活性化しない特定のムテインの能力に基づく細胞特異性を与える置換が示唆される。従って、この特性を示すIL−2ムテインは、血管漏出及び低血圧の減少したIL−2治療関連毒性と共にIL−2の免疫刺激特性をin vivoで保有する。
B.定義
本明細書に記述する組換えタンパク質を生産するために用いたCHO細胞系の寄託を1999年5月5日にATCC、12301 Parklawn Drive,Rockville,MD,20852,USAで行った、受託番号 。付託した株はブダペスト条約の条件下で保有されているので、ブダペスト条約に署名した特許庁はそれを入手できる。
【0034】
本明細書において用いる場合、「野生型IL−2」は、このタンパク質を大腸菌(E. coli)において細胞内画分として発現させる場合には必ず含まれる付加的なN末端のメチオニンを含むかまたは含まない、アミノ酸配列がFujita,et.al.,PNAS USA,80,7437−7441(1983)に記述されている、(付加的な20個のN末端アミノ酸からなるシグナルペプチドを欠いた)天然のヒトIL−2の133個の通常存在するアミノ酸配列を有する、天然のものにせよ組換え体にせよ、IL−2を意味する。
【0035】
本明細書において用いる場合、「IL−2ムテイン」は、ヒト成熟インターロイキン−2タンパク質に対する特定の置換がなされているポリペプチドを意味する。下記表1に、作製された46の個々の置換IL−2ムテイン及びそれらの対応する相対活性データが開示される。好ましい態様には、少なくとも100倍の相対活性を有するムテインが包含される。特に好ましい態様には、1000倍より大きい相対活性を示す以下のものが包含される:野生型IL−2に従って番号をつけた場合に、位置20のアスパルテート(Asp)残基(D)(「D20」)がイソロイシン(「D20I」)またはヒスチジン(「D20H」)で置換されている;位置88のアスパラギン残基(Asn)(N88)がイソロイシン(N88I)、グリシン(N88G)またはアルギニン(N88R)で置換されている;そして位置126のグルタミン残基(Gln)(Q126)がロイシン(Q126L)またはグルタメート(Q126E)またはアスパルテート(Q126D)で置換されている。好ましいIL−2ムテインは、他の置換されていない残基で野生型IL−2と同じアミノ酸配列を有する。しかしながら、本発明のIL−2ムテインはまた、天然のIL−2ポリペプチド鎖の1つもしくはそれ以上の位置または他の残基でのアミノ酸の挿入、欠失、置換及び改変を特徴としてもよい。本発明ではあらゆるそのような挿入、欠失、置換及び改変は、NK細胞を活性化する減少した能力をもちながらPHA−芽細胞選択的活性を保持するIL−2ムテインをもたらすことができ、本特許の範囲内に入る。
【0036】
上記の好ましいまたは特に好ましい置換を単一の組換えIL−2分子中に組み合わせることは、単一突然変異体により本明細書に開示されるものと同様な活性を有する組み合わせ突然変異体をもたらすことができる。例えば、表1から選択される2つまたはそれ以上の突然変異の組み合わせを有するIL−2分子は、本明細書に開示される単一置換の相対活性と同様な相対活性を有するT細胞選択的IL−2アゴニストをもたらすことができると考えることができる。組み合わせ突然変異体は本発明の精神及び範囲内に入る。
【0037】
IL−2の他の位置での保存的改変及び置換(すなわち、ムテインの二次または三次構造に対して最低限の影響を有するもの)が好ましい。そのような保存的置換には、The Atlas of Protein Sequence and Structure 5(1978)中にDayhoffにより、そしてEMBO J.,8:779−785(1989)中にArgosにより記述されるものが包含される。例えば、以下のグループのいずれかに属するアミノ酸は保存的改変を表す:
- ala、pro、gly、gln、asn、ser、thr;
- cys、ser、tyr、thr;
- val、ile、leu、met、ala、phe;
- lys、arg、his;
- phe、tyr、trp、his;及び
- asp、glu。
【0038】
また、付加的な分子間架橋または不適当なジスルフィド結合形成の部位を導入しない改変または置換も好ましい。例えば、IL−2は、成熟配列の野生型位置58、105及び125で3個のcys残基を有することが知られている。
【0039】
「野生型IL−2に従って番号をつけた」は、選択したアミノ酸が野生型IL−2の成熟配列において通常存在する位置を参照にしてそのアミノ酸を同定することを意味する。IL−2ムテインに挿入または欠失がなされている場合、位置20で通常存在するAspがムテインでは位置が変わっている可能性があることを当業者は認識する。しかしながら、隣接するアミノ酸を野生型IL−2においてAspに隣接するものと共に調べ、相関させることにより、移動したAspの位置を容易に決定することができる。
【0040】
「IL−2Rαβγ受容体を有する細胞タイプ」という用語は、この受容体タイプを有することが知られている細胞、すなわち、T細胞、活性化T細胞、B細胞、活性化単球及び活性化NK細胞を意味する。「IL−2Rβγ受容体を有する細胞タイプ」という用語は、この受容体タイプを有することが知られている細胞、すなわち、B細胞、休止単球及び休止NK細胞を意味する。
【0041】
本発明のIL−2ムテインは、当該技術分野において既知のあらゆる適当な方法により製造することができる。そのような方法には、本発明のIL−2ムテインをコードするDNA配列を構築すること及び適当に形質転換された宿主においてそれらの配列を発現させることが包含される。この方法により本発明の組換えムテインは製造される。しかしながら、優先度は低いが、本発明のムテインを化学合成または化学合成と組換えDNA技術の組み合わせにより製造することもできる。一般に、当該技術分野の技術の範囲内にはバッチ式製造または灌流製造(perfusion production)がある。Freshey,R.I.(ed),「Amnimal Cell Cuture:A Practical Approach」,第2版,1992,IRL Press,Oxford,England;Mather,J.P.「Laboratory Scaleup of Cell Cultures(0.5−50 liters)」,Methods Cell Biology 57:219−527(1998);Hu,W.S.,及びAunins,J.G.,「Large−scale Mammalian Cell Culture」,Curr Opin Biotechnol 8:148−153(1997);Konstantinov,K.B.,Tsai,Y.,Moles,D.,Matanguihan,R.,「Control of long−term perfusion Chinese hamster ovary cell culture by glucose auxostat.」,Biotechnol Prog 12:100−109(1996)を参照。 本発明のムテインを製造するための組換え法の一つの態様として、野生型IL−2をコードするDNA配列を単離するかまたは合成し、次に、部位特異的突然変異誘発によりAsp20のコドンをイソロイシン(I)のコドンに変えることによりDNA配列を構築する。この技術は周知である。例えば、Mark et al.,「Site−specific Mutagenesis Of The Human Fibroblast Interferon Gene」,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81,pp,5662−66(1984);及び引用することにより本明細書に組み込まれる米国特許第4.588,585号を参照。
【0042】
本発明のIL−2ムテインをコードするDNA配列を構築する別の方法は化学合成である。これには、例えば、本発明において記述する特性を示すIL−2ムテインをコードするタンパク質配列の化学的手段によるペプチドの直接合成が包含される。この方法は、IL−2RβまたはIL−2RγとIL−2との相互作用に影響を与える位置で天然及び非天然の両方のアミノ酸を取り込むことができる。あるいはまた、所望するIL−2ムテインをコードする遺伝子をオリゴヌクレオチド合成機を用いて化学的手段により合成することができる。そのようなオリゴヌクレオチドは、所望するIL−2ムテインのアミノ酸配列に基づいて、そして好ましくは、組換えムテインが生産される宿主細胞において好まれるコドンを選択して設計される。これに関連して、遺伝暗号は縮重しており、1つのアミノ酸が1つより多くのコドンによりコードされる可能性があることが十分に理解される。例えば、Phe(F)は、2つのコドンTTCまたはTTTによりコードされ、Tyr(Y)はTACまたはTATによりコードされ、そしてhis(H)はCACまたはCATによりコードされる。Trp(W)は単一のコドンTGGによりコードされる。従って、特定のIL−2ムテインをコードする与えられたDNA配列に対して、そのIL−2ムテインをコードする多数のDNA縮重配列があることが理解される。例えば、配列番号:1において示すムテインD20Iの好ましいDNA配列に加えて、示したIL−2ムテインをコードする多数の縮重DNA配列があることが理解される。これらの縮重DNA配列は本発明の範囲内と考えられる。従って、本発明の文脈上「その縮重変異体」は、特定のムテインをコードし、それによりその発現を可能にする全てのDNA配列を意味する。
【0043】
本発明のIL−2ムテインをコードするDNA配列は、部位特異的突然変異誘発、化学合成または他の方法により製造されようと、シグナル配列をコードするDNA配列を含んでも含まなくてもよい。そのようなシグナル配列は、存在する場合、IL−2ムテインの発現のために選択した細胞により認識されるものであるべきである。それは原核生物、真核生物またはそれら2つの組み合わせであってもよい。それはまた天然のIL−2のシグナル配列であってもよい。シグナル配列の包含は、IL−2ムテインが生産される組換え細胞からそれを分泌することが所望されるかどうかにより決まる。選択した細胞が原核細胞である場合、一般に、DNA配列がシグナル配列をコードしないことが好ましい。選択した細胞が真核細胞である場合、一般にシグナル配列がコードされること、最も好ましくは野生型IL−2シグナル配列が用いられることが好ましい。
【0044】
本発明のIL−2ムテインをコードする遺伝子を合成するために標準的な方法を適用することができる。例えば、逆翻訳した遺伝子を構築するために完全なアミノ酸配列を用いることができる。IL−2ムテインをコードするヌクレオチド配列を含有するDNAオリゴマーを合成することができる。例えば、所望するポリペプチドの一部をコードするいくつかの小さいオリゴヌクレオチドを合成し、次に連結することができる。個々のオリゴヌクレオチドは、典型的に、相補的組み立てのための5’または3’突出を含有する。
【0045】
(合成、部位特異的突然変異誘発または別の方法により)いったん組み立てられると、本発明のIL−2ムテインをコードするDNA配列は発現ベクター中に挿入され、所望する形質転換宿主におけるIL−2ムテインの発現のために適切な発現制御配列に操作可能に連結される。適切な組み立てをヌクレオチドシークエンシング、制限マッピング及び適当な宿主における生物学的に活性のあるポリペプチドの発現により確かめることができる。当該技術分野において周知であるように、宿主においてトランスフェクトした遺伝子の高い発現レベルを得るためには、選択した発現宿主において機能することができる転写及び翻訳発現制御配列に遺伝子が操作可能に連結されなければならない。
【0046】
発現制御配列及び発現ベクターの選択は、宿主の選択により決まる。多種多様な発現宿主/ベクターの組み合わせを用いることができる。真核生物宿主のために有用な発現ベクターには、例えば、AV40、ウシパピローマウイルス、アデノウイルス及びサイトメガロウイルスからの発現制御配列を含んでなるベクターが包含される。細菌宿主のために有用な発現ベクターには、col E1、pCR1、pER32z、pMB9及びそれらの誘導体を包含する、大腸菌(E. coli)からのプラスミドのような既知の細菌プラスミド、RP4のようなより広い宿主範囲のプラスミド、ファージDNA、例えばラムダファージの多数の誘導体、例えばNM989、並びにM13及び糸状一本鎖DNAファージのような他のDNAファージが包含される。酵母細胞のために有用な発現ベクターには、2μプラスミド及びその誘導体が包含される。昆虫細胞のために有用なベクターには、pVL941が包含される。pFastBacTM 1(GibcoBRL.Gaithersburg,MD)が好ましい。Cate et al.,「Isolation Of The Bovine And Human Genes For Mullerian Inhibiting Substance And Expression Of The Human Gene In Animal Cells」,Cell,45,pp.685−98(1986)。
【0047】
さらに、これらのベクター中に多種多様な発現制御配列のいずれかを用いることができる。
【0048】
そのような有用な発現制御配列には、前記の発現ベクターの構造遺伝子と関連する発現制御配列が包含される。有用な発現制御配列の例には、例えば、SV40またはアデノウイルスの初期及び後期プロモーター、lac系、trp系、TACまたはTRC系、ラムダファージの主要なオペレーター及びプロモーター領域、例えばPL、fdコートタンパク質の制御領域、3−ホスホグリセリン酸キナーゼまたは他の解糖酵素のプロモーター、酸性ホスファターゼのプロモーター、例えばPhoA、酵母α−接合系のプロモーター、バキュロウイルスのポリヘドロンプロモーター、並びに原核もしくは真核細胞またはそれらのウイルスの遺伝子の発現を制御することが知られている他の配列、並びにそれらの様々な組み合わせが包含される。
【0049】
本発明のIL−2ムテインを製造するために、細菌、(酵母を包含する)真菌、植物、昆虫、哺乳類、または他の適切な動物細胞もしくは細胞系、並びにトランスジェニック動物または植物を包含するあらゆる適当な宿主を用いることができる。より詳細には、これらの宿主には、E. coliの菌株、シュードモナス(Pseudomonas)、バシラス(Bacillus)、ストレプトミセス(Streptomyces)、真菌、酵母、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)(Sf9)のような昆虫細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)のような動物細胞及びNS/Oのようなマウス細胞、COS 1 COS 7、BSC 1、BSC 40及びBNT 10のようなアフリカミドリザル細胞、及びヒト細胞、並びに組織培養した植物細胞のような、よく知られている真核生物及び原核生物宿主を含むことができる。動物細胞発現のためには、培養したCHO細胞及びCOS7細胞、特にCHO細胞系CHO(DHFR−)またはHKB系が好ましい。
【0050】
もちろん、全てのベクター及び発現制御配列が、本明細書に記述するDNA配列を発現させるために同等に十分に機能するとは限らないことが理解されるはずである。全ての宿主もまた同じ発現系で同等に十分に機能するとは限らない。しかしながら、当業者は、過度の実験なしにこれらのベクター、発現制御配列及び宿主の中で選択を行うことができる。例えば、ベクターを選択する際には、ベクターは宿主中で複製しなければならないので宿主を考慮に入れなければならない。ベクターのコピー数、そのコピー数を制御する能力、及び抗生物質マーカーのような、ベクターによりコードされるあらゆる他のタンパク質の発現もまた考慮に入れなければならない。例えば、本発明における使用のために好ましいベクターには、IL−2ムテインをコードするDNAをコピー数において増幅できるものが包含される。そのような増幅可能なベクターは当該技術分野において周知である。それらには、例えば、DHFR増幅(例えば、Kaufman,米国特許4,470,461、Kaufman及びSharp,「Construction Of A Modular Dihydrafolate Reductase cDNA Gene:Analysis Of Signals Utilized For Efficient Expression」,Mol.Cell.Biol.,2,pp.1304−19(1982)を参照)またはグルタミンシンテターゼ(「GS」)増幅(例えば、米国特許5,122,464及び欧州公開出願338,841を参照)により増幅することができるベクターが包含される。
【0051】
発現制御配列を選択する際には、様々な因子も考慮に入れなければならない。これらには、例えば、配列の相対的な強さ、その制御能力、及び特に可能性がある二次構造に関して、本発明のIL−2ムテインをコードする実際のDNA配列とのその適合性が包含される。宿主は、選択したベクターとそれらの適合性、本発明のDNA配列によりコードされる産物の毒性、それらの分泌特性、ポリペプチドを正しく折りたたむそれらの能力、それらの発酵または培養条件、及びDNA配列によりコードされる産物の精製の容易さを考慮して選択されるべきである。 これらのパラメーターの範囲内で、当業者は、発酵でまたは例えばCHO細胞もしくはCOS7細胞を用いる大規模な動物培養において所望するDNA配列を発現させる様々なべクター/発現制御配列/宿主の組み合わせを選択することができる。
【0052】
本発明により得られるIL−2ムテインは、このムテインを生産するために用いる宿主生物によりグリコシル化されるかまたはグリコシル化されない可能性がある。細菌が宿主として選択される場合、生産されるIL−2ムテインはグリコシル化されない。一方、真核細胞は、おそらく天然のIL−2がグリコシル化されるのと同じようにではないが、IL−2ムテインをグリコシル化する。形質転換された宿主により生産されるIL−2ムテインは、あらゆる適当な方法に従って精製することができる。IL−2を精製するために様々な方法が知られている。例えば、Current Protocols in Protein Science,Vol 2.Eds:John E.Coligan,Ben M.Dunn,Hidde L.Ploehg,David W.Speicher,Paul T.Wingfield,Unit 6.5(Copyright 1997,John Wiley and Sons,Inc.)を参照。E. coliにおいて生じた封入体から、または陽イオン交換、ゲル濾過及び/もしくは逆相液体クロマトグラフィーを用いる与えられたムテインを生産する哺乳類もしくは酵母培養物のいずれかからのならし培地からの再生が好ましい。以下の実施例1(E. coli)及び10(CHO細胞灌流)を参照。
【0053】
本発明のIL−2ムテインの生物学的活性は、当該技術分野において既知のあらゆる適当な方法によりアッセイすることができる。そのようなアッセイには、PHA−芽細胞増殖及びNK細胞増殖が包含される。適切な活性の、すなわち、IL−2Rβγを保有する細胞に対しては減少した活性を有し、IL−2Rαβγに対しては完全に活性があるムテインは、これら2つのアッセイを用いて確かめられる。ムテインの「相対活性」は、野生型IL−2に対して測定され、そして実施例においてさらに記述するように、NK細胞増殖に対するPHA−芽細胞増殖の活性の比率である。
【0054】
本発明のIL−2ムテインは、野生型の天然のまたは組換えのIL−2での治療において用いられるものとほぼ一致するかまたはそれより多い用量で投与される。好ましくは、有効量のIL−2ムテインが投与される。「有効量」は、処置される症状または適応症の重さまたは蔓延を防ぐかまたは減らすことができる量を意味する。IL−2ムテインの有効量は、とりわけ、疾病、用量、IL−2ムテインの投与スケジュール、IL−2ムテインが単独でまたは他の治療薬と共に投与されるかどうか、組成物の血清半減期及び患者の一般的な健康により決まることが当業者に明らかである。
【0055】
好ましくは、IL−2ムテインは、製薬学的に許容しうる担体を含む組成物中で投与される。「製薬学的に許容しうる担体」は、それが投与される患者においていかなる不都合な作用も引き起こさない担体を意味する。そのような製薬学的に許容しうる担体は当該技術分野において周知である。pH 7.0の2% HSA/PBSが好ましい。
【0056】
本発明のIL−2ムテインは、周知の方法により製薬学的組成物中に調合することができる。例えば、適当な製剤を記述している、引用することにより本明細書に組み込まれる、E.W.MartinによるRemington’s Pharmaceutical Scienceを参照。IL−2ムテインの製薬学的組成物は、液体、ゲル、凍結乾燥したまたはあらゆる他の適当な形態を包含する様々な形態に調合することができる。好ましい形態は、処置される特定の適応症により決まり、そして当業者に明らかである。
【0057】
IL−2ムテイン製薬学的組成物は、経口的に、エアロゾルにより、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、皮内にもしくは皮下にまたはあらゆる他の許容しうる方法において投与することができる。投与の好ましい方法は、処置される特定の適応症により決まり、そして当業者に明らかである。IL−2ムテインの製薬学的組成物は、他の治療薬と共に投与することができる。これらの薬剤は同じ製薬学的組成物の一部として含むことができ、または同時にもしくはあらゆる他の許容しうる処置スケジュールに従って、IL−2ムテインとは別個に投与することができる。さらに、IL−2ムテイン製薬学的組成物は、他の治療に対する補助薬として用いることができる。
【0058】
従って、本発明は、あらゆる適当な動物、好ましくは哺乳類、最も好ましくはヒトにおけるHIV、癌、自己免疫疾患、感染症の処置、癌ワクチンにおけるワクチンアジュバント及び通常のワクチン治療、中高年層もしくはそうでなければ免疫無防備状態の個体における並びにヒトSCID患者における免疫刺激のため、または免疫系の一般刺激を必要とする他の治療用途のための組成物及び方法を提供する。背景の項において先に記載したように、IL−2は多数の作用を有する。これらのうちのいくつかは、PHA−芽細胞、休止T細胞、B細胞、単球及びNK細胞等の刺激であり;本明細書に記述するムテインは、休止T細胞のような、高親和性IL−2受容体のみを発現する細胞タイプに対する活性を有するが、NK細胞または単球のような、中間親和性IL−2受容体にはない。
【0059】
同様に意図されるものは、遺伝子治療用途における本発明のIL−2ムテインをコードするDNA配列の使用である。意図される遺伝子治療用途には、IL−2がそのT細胞活性のために有効な治療を与えると考えられる疾病、例えば、HIV、癌、自己免疫疾患、感染症の処置、癌ワクチンにおけるワクチンアジュバント及び通常のワクチン治療、中高年層もしくはそうでなければ免疫無防備状態における並びにヒトSCID患者における免疫刺激のため、並びにそうでなければIL−2に応答する疾病またはIL−2によりもたらされる免疫応答に感受性の感染性病原体が包含される。
【0060】
遺伝子治療を用いるIL−2ムテインの局所送達は、標的領域にこの治療薬を与えることができる。in vitro及びin vivoの両方の遺伝子治療方法論が意図される。特定の細胞集団に潜在的に治療に役立つ遺伝子を導入するためのいくつかの方法が知られている。例えば、Mulligan,「The Basic Science Of Gene Therapy」,Science,260:926−31(1993)を参照。これらの方法には以下のものが包含される:
1)直接的遺伝子導入。例えば、Wolff et al.,「Direct Gene transfer Into Mouse Muscle In Vivo」,Science,247:1465−68(1990)を参照;
2)リポソームによりもたらされるDNA導入。例えば、Caplen et al.,「Liposome−mediated CFTR Gene Transfer To The Nasal Epithelium Of Patients With Cystic Fibrosis」,Nature Med.3:39−46(1995);Crystal,「The Gene As A Drug」,Nature Med.1:15−17(1995);Gao及びHuang,「A Novel Cationic Liposome Reagent For Efficient Transfection Of Mammalian Cells」,Biochem.Biophys.Res.Comm.,179:280−85(1991)を参照;
3)レトロウイルスによりもたらされるDNA導入。例えば、Kay et al.,「In Vivo Gene Therapy Of Hemophilia B:Sustained Partial Correction In Factor IX−Deficient Dogs」,Science,262:117−19(1993);Anderson,「Human Gene Therapy」,Science,256:808−13(1992)を参照。
【0061】
4)DNAウイルスによりもたらされるDNA導入。そのようなDNAウイルスには、アデノウイルス(好ましくはAd−2またはAd−5に基づくベクター)、ヘルペスウイルス(好ましくは単純ヘルペスウイルスに基づくベクター)及びパルボウイルス(好ましくは「欠損」または非自律的パルボウイルスに基づくベクター、より好ましくはアデノ随伴ウイルスに基づくベクター、最も好ましくはAAV−2に基づくベクター)が包含される。例えば、Ali et al.,「The Use Of DNA Viruses As Vectors For Gene Therapy」,Gene Therapy,1:367−84(1995);引用することにより本明細書に組み込まれる米国特許4,797,368及び引用することにより本明細書に組み込まれる米国特許5,139,941を参照。
【0062】
目的の遺伝子を導入するための特定のベクター系の選択は様々な因子により決まる。1つの重要な因子は標的細胞集団の性質である。レトロウイルスベクターは詳細に研究されており、多数の遺伝子治療用途において用いられているが、一般的に、これらのベクターは分裂していない細胞に感染させるためには適していない。さらに、レトロウイルスは腫瘍原性の可能性を有する。
【0063】
アデノウイルスは、広い宿主範囲を有するという利点があり、ニューロンまたは肝細胞のような、静止細胞または終末分化した細胞に感染することができ、そして本質的に非腫瘍原性であると思われる。例えば、Ali et al.,上記,p.367を参照。アデノウイルスは宿主ゲノム中に組込まないようである。それらは染色体外で存在するので、挿入突然変異誘発の危険は大きく減少される。Ali et al.,上記,p373。
【0064】
アデノ随伴ウイルスは、アデノウイルスに基づくベクターと同様な利点を示す。しかしながら、AAVは、ヒト第19染色体で部位特異的な組込みを示す。Ali et al.,上記、p.377。
【0065】
好ましい態様として、本発明のIL−2ムテインをコードするDNAは、HIVのような免疫不全症;結核のような感染症;及び腎癌のような癌の遺伝子治療において用いられる。
【0066】
この態様では、本発明のIL−2ムテインをコードするDNAでの遺伝子治療は、診断と同時にまたは直後に、治療を必要とする患者に与えられる。
【0067】
この方法は、望ましくない毒性及び不都合な事象を防ぐために本発明のIL−2ムテインの選択的活性を利用する。当業者は、IL−2ムテインDNAを含有するあらゆる適当な遺伝子治療ベクターをこの態様に従って使用できることを認識する。そのようなベクターを構築するための技術は既知である。例えば、Anderson,W.F.,Human Gene Therapy,Nature,392 25−30(1998);Verma,I.M.,及びSomia,N.,Gene Therapy−Promises,Problems,and Prospects,Nature,389 239−242(1998)を参照。標的部位へのIL−2ムテインDNAを含有するベクターの導入は、既知の技術を用いて実施することができる。
【0068】
本発明をより十分に理解できるように、以下の実施例を記述する。これらの実施例は、例示するという目的のためだけであり、本発明の範囲をいかようにも限定すると解釈されるべきではない。本明細書に記載した全ての公開は、全部引用することにより組み込まれる。
C.実施例
実施例1.エシェリキア・コリにおけるムテインの生産. 本質的にKunkel TA,Roberts JD及びZakour RA,「Rapid and efficient site−specific mutagenesis without phenotypic selection」(1987),Methods Enzymol 154:367−382により記述されたように、所望する突然変異に対応するコドンを含有するプライマーを用いて部位特異的突然変異誘発によりムテインを作製した。簡潔に言えば、制限酵素部位BamHI及びXbaIを含有するヒトIL−2 cDNAを同じ部位を用いてM13ファージベクターM13mp19(New England Biolabs,Beverly,MA)中にサブクローン化した。ホルボール12−ミリステート13−アセテート(10ng/ml)で24時間誘導したヒト末梢血リンパ球から単離したmRNAより作製したcDNAプールからポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)を用いて野生型IL−2 cDNAを得た。用いたPCRプライマーは、IL−2オープンリーディグフレームの5’末端には、
5'-CCT CAA CTC CTG AAT TCA TGT ACA GGA TGC-3' (配列番号:3);
そしてIL−2オープンリーディグフレームの3’末端には、
5'-GGA AGC GGA TCC TTA TCA AGT CAG TGT TGA G-3' (配列番号:4)
であった。
【0069】
各オリゴヌクレオチド中には制限酵素部位EcoRI(5’末端)及びBamHI(3’末端)が含まれ、イタリック体で示される。用いたPCR条件は、94℃で1分、58.7℃で1分、そして72℃で1分を25サイクルであった。このようにして得られた正しいIL−2 cDNA配列は、SequenaseR(商標)シークエンシングキット(Amersham Life Sciences,Arlington Heights,IL)を製造業者により記述されたように用いてシークエンシングにより確かめた。IL−2 cDNAを含有するM13 mp19でエシェリキア・コリ株CJ236(Bio−Rad Laboratories,Hercules,CA)を形質転換することによりウラシルを含有する一本鎖DNA(U−DNA)を得た。部位特異的突然変異誘発は、一般に、突然変異誘発の標的とするコドン(1個または複数)の5’の鋳型U−DNAに相同な15個のヌクレオチド、所望する変異を含むヌレクオチド及び最後の改変されるヌレクオチドの3’の鋳型U−DNAに相同なさらに10個のヌレクオチドを含有するプライマーを利用した。まず、ヒトIL−2の成熟配列の始めにNcoI制限部位を導入するために部位特異的突然変異誘発を用いた。この制限部位の使用により、例えば発現ベクターpET3dを用いてエシェリキア・コリの細胞質空間において発現を導くN末端のメチオニン残基が取り込まれる。この目的のために用いたプライマーは以下のものである:
5'-GCA CTT GTC ACA AAC ACC ATG GCA CCT ACT TCA AGT-3' (配列番号:5)
位置D20、N88及びQ126で突然変異を含むために用いた特定のプライマーは以下のものである:
D20X: 5'-GGA GCA TTT ACT GCT GNN NTT ACA GAT G-3' (配列番号:6)
N88X: 5'-GGG ACT TAA TCA GCN NNA TCA ACG TAA TAG-3' (配列番号:7)
Q126X: 5'-GGA TTA CCT TTT GTN NNA GCA TCA TCT C-3' (配列番号:8)
ここで、NNNは、(位置D20で)ヒスチジン(CAC)もしくはイソロイシン(ATC)、(位置N88で)アルギニン(CGT)、グリシン(GGT)もしくはイソロイシン(ATC)または(位置Q126で)ロイシンの適切なコドンで置換された。他の突然変異は、同様の方法及び与えられた突然変異のために適切なコドンを利用した。T4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)を使用して製造業者のプロトコルを用いてプライマーをリン酸化した。U−DNA鋳型にプライマーをアニーリングさせ、T7 DNAポリメラーゼ(Bio−Rad Laboratories,Hercules,CA)で伸長した後、5μlの反応混合物でエシェリキア・コリ株DH5αTM(GibcoBRL,Gaithersburg,MD)の細胞を形質転換し、0.7%の寒天を含有するLB培地中で平板培養した。37℃でインキュベーション後、単一プラークを抜き取り、2mlのLB培地に移すことによりプラークを広げ、37℃で一晩増殖させた。M13精製キット(Qiagen,Inc.,Chatsworth,CA)を製造業者のプロトコルに従って用いて一本鎖DNAを単離し、SequenaseRシークエンシングキット(Amersham Life Sciences,Arlington Heights,IL)を製造業者のプロトコルに従って用いて一本鎖DNAをシークエンスすることにより所望する突然変異を含有するクローンを同定した。正しい突然変異配列を含有するプラークに対応する複製型DNAからIL−2ムテインcDNAをNcoI及びXbaIを用いて単離し、プラスミドベクターpET3a(Stratagene,San Diego,CA)(Strat)にサブクローン化した。ムテインを含有するpET3aベクターでエシェリキア・コリ株BL21を形質転換し、0.60〜1.0の間のABS280まで増やし、その時点でIL−2ムテイン生産を誘導するために0.4mMのIPTGを加えた。
実施例2.エシェリキア・コリからのIL−2ムテインの抽出及び精製.
誘導後3時間で細胞を10,000 X gでの遠心分離により集めた。まず、これらの細胞を10容量(体積/湿質量)のショ糖/Tris/EDTAバッファー(0.375Mショ糖、10mM Tris/HCL pH 8.0、1mM EDTA)中に分散させることにより組換えIL−2ムテインを再生し、精製した。1インチの標準探針(standard probe)を備えたMissonixモデルXL2020超音波処理装置を用いて、分散させた細胞を氷浴中で30秒の休止間隔で300Wで3回超音波処理した。次に、超音波処理した材料を4℃で17,000 x gで20分間遠心分離した。この時点で色が白色のはずであるペレットをショ糖/Tris/EDTAバッファー中で1回、Tris/EDTAバッファー(50mM Tris/HCL pH 8.0、1mM EDTA)で2回再懸濁して遠心分離することにより洗浄し、そして最後に10容量の0.1M Tris/HCL、pH 8.0バッファー中に再懸濁し(この時点でゲル分析のためにサンプルを取る)、17,000 x gで20分間遠心分離した。 3容量の0.1M Tris/HCL(pH 8.0)中8Mの塩化グアニジニウム(guanidinum chloride)、及び0.1%(vol/vol)2−メルカプトエタノールを加えることによりペレットを溶解した。室温で2時間のインキュベーション後、サンプルを17,000 x gで20分間遠心分離した。得られた溶液を4℃で20容量の10mM Tris/HCL、pH 8.0、1mM EDTAに対して約20時間透析した。溶液を17,000 x gで20分間遠心分離し、0.1%トリフルオロ酢酸に調整し、0.22ミクロンフィルター装置で濾過した。シリコンで処理したボトルに溶液をすぐに移し、C8カラム(Vydac 208TP54)上に添加した。0.1% TFA中45〜85%のアセトニトリルを使用する20分の直線勾配を用いてIL−2ムテインを精製した。溶出されたタンパク質の濃度をA280及びアミノ酸分析により決定した。次に、シリコンで処理したチューブ中にこのタンパク質を等分し(100mL)、−20℃で保存した。このようにして精製されたムテインは、SDS−PAGE(銀染色)で見た場合に典型的に単一のバンドであり、アミノ酸分析により定量した(精度は典型的に>90%)。
実施例3.T細胞増殖アッセイ.
冷えたダルベッコのリン酸緩衝食塩水(Ca2+及びMg2+を含まない;DPBS)中に1:2に希釈した約100mLの正常ヒト血液(Irwin Memorial Blood Bank,San Francisco,CA)から末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。Ficoll−Paque(Pharmacia)を下に敷き、サンプルを遠心分離してPBMCを単離し、続いて冷えたDPBS中でよく洗浄した。1%(w/v)の各々の以下のもの:L−グルタミン;非必須アミノ酸;ピルビン酸ナトリウム;及び抗生物質−抗真菌物質を加える、10%ウシ胎仔血清(Hyclone)を含有するRPMI 1640(RPMI培地)中に細胞を1 x 106細胞/mlの密度で再懸濁することによりPHA芽細胞(活性化T細胞)を生成せしめた。フィトヘマグルチニン(PHA−P;Sigma)を10μg/mLの最終濃度で加え、細胞を37℃、5% CO2で3日間インキュベートした。細胞を集め、DPBS中で2回洗浄し、RPMI培地中に再懸濁し、RPMI培地中の異なる濃度のIL−2またはムテインと共に200μl中1x105細胞/ウェルの密度で96穴平底プレート中に平板培養した。プレートを37℃で48時間インキュベートし、1μCi 3H−チミジン(DuPont NENR(商標),Boston,MA)/ウェルで6時間パルス標識し、集め、ガラス繊維フィルター上に細胞を集めた後で放射能を測定した。
実施例4.NK細胞増殖アッセイ.
冷えたダルベッコのリン酸緩衝食塩水(Ca2+及びMg2+を含まない;DPBS)中に1:2に希釈した約100mLの正常ヒト血液(Irwin Memorial Blood Bank,San Francisco,CA)から末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。Ficoll−Paque(Pharmacia)を下に敷き、サンプルを遠心分離してPBMCを単離し、続いて冷えたDPBS中でよく洗浄した。NK細胞を他の細胞から分離した。この目的のためには、Miltenyi Biotec’s NK細胞単離キット(Bergisch Gladbach,Germany;カタログ番号465−01)が好ましい。このキットは2つの試薬、分離カラム及び非常に強力な磁気カラム支持体からなる。第一の試薬は、マウスIgG1アイソタイプのハプテン結合したモノクローナルCD3、CD4、CD19、CD33抗体のカクテルである。これはPBMCからT細胞、B細胞及び骨髄性細胞を除くためである。これらの細胞タイプを認識する抗体のあらゆる適当な組を使用できることが予想される。第二の試薬は、抗パフテン抗体に結合したコロイド状超常磁性MACsミクロビーズからなる。0.5%ウシ血清アルブミン及び2mMEDTAを含むPBS(PBS/EDTA)中に細胞を再懸濁する。懸濁液の容量は用いる細胞の数により決まり、Miltenyi Biotecにより表に示されている。典型的には、2〜5x108 PBMCの細胞数では、細胞を800μLのバッファー中に再懸濁し、次に200μLの各試薬を用いる。試薬とのインキュベーション後、(2mLのバッファー中に再懸濁した)カラムに細胞を添加する。NK以外の細胞は磁石に付着し(除かれ)、そしてNK細胞は単離され、流出物(flow through)中に集められる。細胞を洗浄し、(1%の各々の以下のもの:L−グルタミン;非必須アミノ酸;ピルビン酸ナトリウム;抗生物質−抗真菌物質(全てGibco/BRL,Gaithersburg,MDから);10%ウシ胎仔血清(Hyclone)を加えるRPMI 1640を含有する)RPMI培地中に再懸濁し、200μl中1 x 105細胞/ウェルの密度で96穴平底プレート中に平板培養した。細胞を集め、DPBS中で2回洗浄し、RPMI培地中に再懸濁し、RPMI培地中の異なる濃度のIL−2またはムテインと共に200μl中1 x 105細胞/ウェルの密度で96穴平底プレート中に平板培養した。プレートを37℃で48時間インキュベートし、1μCi 3H−チミジン(DuPont NENR,Boston,MA)/ウェルで6時間パルス標識し、集め、ガラス繊維フィルター上に細胞を集めた後で放射能を測定した。
実施例5.NK細胞よりT細胞を選択的に活性化するムテイン.
Asp−20、Asp−84、Asn−88及びGln−126で部位特異的突然変異誘発(Kunkel et al(1987),Methods Enzymol 154:367−382)を用いてムテインを作製し、pET−3a発現系を製造業者(Stratagene)により記述されるように用いてエシェリキア・コリにおいて発現させた。先に記述したように、グアニジン−HCL中での封入体の回収によりムテインを精製し、再生し、HPLCを用いてクロマトグラフィーにより分離した。得られたタンパク質は銀染色したSDS−PAGEにより>95%純粋であるようであり、アミノ酸分析により濃度及び純度に関して分析した(AAA精度は典型的に>90%)。適切な活性を有するムテインを質量分析法分析を用いて順に確かめた。このようにして精製されたムテインを先に記述したT及びNK細胞アッセイにおいてアッセイした。T及びNK細胞アッセイにおけるIL−2ムテインの相対活性を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
ムテインの活性は、最大応答の50%を与えるために必要とされるムテイン(EC50)の同じアッセイにおけるwt IL−2のEC50と比較した相対濃度に関して記述され;同じムテインに対する複数のアッセイの場合には、それらの値の相乗平均を記載する。wt IL−2のEC50値は、T細胞アッセイでは〜10pMないし150pM、NK細胞アッセイでは〜50pMないし〜200pMの間で変動した。ムテインのNK細胞活性対するT細胞活性の比率は、NK細胞に対するムテインの相対活性で割ったT細胞に対するムテインの相対活性として表される。単一の提供者からの細胞を用いる定められたT及びNK細胞アッセイから決定された活性のみを用いて各ムテインに対してこの比率を決定する。
【0073】
ムテイン活性は、以下の6つの広いカテゴリーに分類することができる:1)1000倍のT細胞選択性;2)100〜<1000倍のT細胞選択性;3)10〜<100倍のT細胞選択性;4)T細胞に対するIL−2より向上した活性;5)NK細胞選択性;6)TまたはNK細胞のいずれかに対する10倍の選択性。
【0074】
クラス1:D20H、I及びY;N88G、I及びR。
【0075】
クラス2:D20K、L、M、N、Q及びS;N88M及びT;Q126D、E、G、L及びV。
【0076】
クラス3:D20R;N88A、E、F、S及びV;Q126F、I、N、R及びS。
【0077】
クラス4:D20I;N88G;Q126E、L、M、N及びR。
【0078】
クラス5:Q126A、H。
【0079】
クラス6:D20A、T及びV;N88H、K、L、W及びY;Q126K、P、T、W及びY。
【0080】
クラス1〜3の中で好ましいムテインは、T細胞に対してwt IL−2に近いかまたはそれより優れた活性を示すものである。クラス1ではD20H及びI;N88G、I及びRがこれに含まれ;クラス2ではN88M及びT、Q126D、E、G、L及びVがこれに含まれ;クラス3ではN88A、Q126F及びGがこれに含まれる。クラス4のムテインはインビボでwt IL−2より大きい効能を有すると予測される。
【0081】
表1から、いずれの単一突然変異も両方のアッセイにおいて不活性のIL−2ムテインをもたらさなかったことを認めることができる。しかしながら、2個の異なる位置からの激しく弱められた活性をもたらした突然変異の組み合わせは、潜在的に、T細胞または他の高親和性IL−2受容体保有細胞タイプに対するアンタゴニストIL−2活性をもたらすと推論することができる。これらの突然変異はIL−2Rβ及びIL−2Rγとの相互作用のみを改変するように設計されているのでこのデータからそのようなアンタゴニストが予測される。1つのそのような例は、二重ムテインD20R/Q126Tである。1つの分子における弱く活性のある突然変異の組み合わせは、事実上コンビネーションであると予測され、すなわち、D20RはT細胞に対して0.00018の活性があり、Q126TはT細胞に対して0.0001の活性があり、二重ムテインD20R/Q126TはT細胞に対してwt IL−2の0.000000018の活性があると考えられる。示したデータから他の組み合わせを推論することができる。
実施例6.wt IL−2及びIL−2ムテインの生物学的活性.
図1〜7は、wtヒトIL−2(IL−2)及びD20H(図1)、IL−2及びD20I(図2)、IL−2及びN88G(図3)、IL−2及びN88I(図4)、IL−2及びN88R(図5)、IL−2及びQ126E(図6)並びにIL−2及びQ126L(図7)の用量−反応曲線を示す。A:一次ヒトT細胞増殖アッセイ(PHA−芽細胞)におけるIL−2(閉じた丸)及びムテイン(開いた丸)の個々の用量反応。B:一次ヒトNK細胞増殖アッセイにおけるIL−2(閉じた三角)及びムテイン(開いた三角)の個々の用量反応。
【0082】
図1について詳細には、示した実験に関して、最大増殖の50%を与えるwt IL−2の用量(EC50)はT細胞(A)では〜1.5X10-10M、そしてNK細胞(B)アッセイでは〜1X10-10Mである。D20HのEC50はこのT細胞アッセイでは〜2X10-10Mであったが、このNK細胞アッセイでは>1X10-5Mであると概算された。従って、NK細胞活性に対するD20HのT細胞活性の正味の向上は、このアッセイについて決定した場合>50,000倍である。さらなる提供者からの血液で同様の結果が得られた(データは示されない)。
【0083】
図2について詳細には、示した実験に関して、最大増殖の50%を与えるwt IL−2の用量(EC50)はT細胞(A)では〜1.5X10-10M、そしてNK細胞(B)アッセイでは〜3X10-10Mである。D20IのEC50もこのT細胞アッセイにおいて〜1.5X10-10Mであったが、このNK細胞アッセイでは〜5X10-6Mにすぎないと概算された。従って、NK細胞活性に対するD20IのT細胞活性の正味の向上は、このアッセイについて決定した場合〜16,000倍である。さらなる提供者からの血液で同様の結果が得られた(データは示されない)。
【0084】
図3について詳細には、示した実験に関して、最大増殖の50%を与えるwt IL−2の用量(EC50)はT細胞(A)では〜4X10-11M、そしてNK細胞(B)アッセイでは〜2X10-10Mである。N88GのEC50はこのT細胞アッセイでは〜5X10-12Mであったが、このNK細胞アッセイでは〜3X10-8Mにすぎないと概算された。従って、NK細胞活性に対するN88GのT細胞活性の正味の向上は、このアッセイについて決定した場合〜1,200倍である。さらなる提供者からの血液で同様の結果が得られた(データは示されない)。
【0085】
図4について詳細には、示した実験に関して、最大増殖の50%を与えるwt IL−2の用量(EC50)はT細胞(A)では〜1.5X10-10M、そしてNK細胞(B)アッセイでは〜1X10-10Mである。N88IのEC50もこのT細胞アッセイでは〜4X10-10Mであったが、このNK細胞アッセイでは〜5X10-6Mにすぎないと概算された。従って、NK細胞活性に対するN88IのT細胞活性の正味の向上は、このアッセイについて決定した場合〜18,000倍である。さらなる提供者からの血液で同様の結果が得られた(データは示されない)。
【0086】
図5について詳細には、示した実験に関して、最大増殖の50%を与えるwt IL−2の用量(EC50)はT細胞(A)では〜1.5X10-10M、そしてNK細胞(B)アッセイでは〜1X10-10Mである。N88RのEC50はこのT細胞アッセイでは〜9X10-11Mであったが、このNK細胞アッセイでは〜3X10-7Mにすぎないと概算された。従って、NK細胞活性に対するN88RのT細胞活性の正味の向上は、このアッセイについて決定した場合〜5,000倍である。さらなる提供者からの血液で同様の結果が得られた(データは示されない)。
【0087】
図6について詳細には、示した実験に関して、最大増殖の50%を与えるwt IL−2の用量(EC50)はT細胞(A)では〜8X10-12M、そしてNK細胞(B)アッセイでは〜5X10-11Mである。Q126EのEC50はこのT細胞アッセイでは〜8X10-13Mであったが、このNK細胞アッセイでは〜2X10-9Mにすぎないと概算された。従って、NK細胞活性に対するQ126EのT細胞活性の正味の向上は、このアッセイについて決定した場合〜400倍である。さらなる提供者からの血液で同様の結果が得られた(データは示されない)。
【0088】
図7について詳細には、示した実験に関して、最大増殖の50%を与えるwt IL−2の用量(EC50)はT細胞(A)では〜5X10-11M、そしてNK細胞(B)アッセイでは〜8X10-11Mである。Q126LのEC50はこのT細胞アッセイでは〜2X10-11Mであったが、このNK細胞アッセイでは〜2X10-8Mにすぎないと概算された。従って、NK細胞活性に対するQ126LのT細胞活性の正味の向上は、このアッセイについて決定した場合〜625倍である。さらなる提供者からの血液で同様の結果が得られた(データは示されない)。
実施例7.チンパンジー毒性研究.
一次ヒトT及びNK細胞アッセイにおいて示されたT細胞選択的アゴニスト活性のためにIL−2/N88Rを表1のIL−2ムテインタンパク質から選択した。野生型IL−2に比較して、それはNK細胞よりT細胞に対して〜6,000倍活性があり、そしてT細胞に対してwt IL−2と本質的に同等な活性を示す。IL−2/N88RをCHO細胞において製造し、精製し、IL−2活性及び毒性のチンパンジーモデルにおいて評価した。このインビボモデルにおいて、それはIL−2の市販されている組換え変異体(PROLEUKINTM、Chiron Corporation,Emeryville,CA)に匹敵するT細胞活性を示したが、(客観的及び臨床パラメーターの両方の点で)比較してほんの軽い副作用のみを誘導した。
A.実験設計
1.材料及び方法
この研究のin−life部分はNew Iberia Research Center(New Iberia,LA,スポンサーBayer Corporation,Berkeley,CA)で行われ、2相の研究及び約45〜70kgの体重を有する11匹の若い成体〜成体のオスチンパンジーを含んだ。
【0089】
研究のI相は用量決定段階であり、ビヒクルの皮下用量または1.2mg/m2でPROLEUKINの皮下用量を毎日2回(BID)5日間送達することを含んだ。研究のII相は、12時間毎に(q12h)5日間、皮下に与えたビヒクル、PROLEUKIN及びIL−2/N88Rの比較である。IL−2/N88Rの用量を薬物速度論分析に基づいてPROLEUKINに匹敵する暴露量を与えるように選択した。血液の化学的性質、CBC、血液学/凝固、並びに5及び6節に詳述するようなT及びNK細胞集団のFACS分析のために血液サンプルを取った。
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
2.投与方法
血液を得る研究日には、試験品またはビヒクルの投与前に約10mg/kgの用量でIMケタミンを用いて動物に完全に麻酔をかけた。血液サンプリングを必要としない研究日には、試験品またはビヒクルの投与前に締めつけケージ(squeeze cage)を用いて動物を物理的に拘束した。用量を皮下注射により12時間毎に5日間投与し、研究の1日目に注射部位の毛を刈った。この部位及び投与の時間を各用量に対して記録した。
【0093】
3.臨床的観察
(a)毎日の観察及び食物消費. 各動物を毎日2回観察し、あらゆる異常な観察結果は研究責任者(Study Director)に報告された。病気と思われる動物は研究責任者、プロジェクト獣医及びスポンサー代表者(Sponsor Representative)に知らされた。食物消費を確かめ、肉眼での観察により毎日2回記録した。
【0094】
(b)体重. 研究前、1日目の投与前、そして血液収集のために動物に鎮静剤を投与する各場合に体重を測った。
【0095】
(c)注射部位の観察. 注射部位を毎日観察した。赤さまたは腫れのようなあらゆる異常な外観を記録した。
【0096】
【表5】
【0097】
4.サンプルの取り扱い
(a)血清の化学的性質. 上記の特定の時点で抗凝固剤を含まないチューブ中に各動物から約2mlの血液サンプルを集めた。血液収集時間を記録し、血液を室温で凝固させた。次に、これらのサンプルを遠心分離し、血清を分離し、NIRC Clinical Pathology Laboratoryに送った。NIRC標準血清化学的性質パネルは表4に含まれる:
【0098】
【表6】
【0099】
(b)血液学. 上記の特定の時点でEDTAチューブ中に各動物から約2mlの血液サンプルを集め、NIRC Clinical Pathology Laboratoryに送った。全血球数、分画及び血小板数を包含する標準NIRC血液学パネルを全てのサンプルに対して実施した。
【0100】
(c)スポンサーアッセイ. 上に特定した時間に抗凝固剤としてEDTAを含むチューブ中に約6mlの血液サンプルを集めた。血液収集時間を記録した。これらのサンプルを遠心分離し、血漿を分離し、3本の別個のチューブ中に等分した。血漿を凍結して保存し(−60℃またはそれ以下)、研究を終えるとすぐにBayer Corporation,Berkeley,CAに送った。
【0101】
5.FACS
(a)方法. FACS分析のために特定された時間に約5mlの血液サンプルをヘパリンナトリウム抗凝固剤中に集めた。
【0102】
全血検体をEDTA、ACDまたはヘパリンのいずれか中に得た。細胞数を2〜20x103/mm3の範囲であるように調整した。
【0103】
12 X 75のガラスまたはプラスチックチューブを試験する抗体パネルに対して適切に標識した。これらのチューブに抗体または抗体カクテルを製造業者の勧める容量に従って加えた。
【0104】
100μlのよく混合した血液検体をチューブごとに加え、光から防護して混合物を室温で30分間インキュベートした。
【0105】
インキュベーション後、2mlの溶解溶液(Becton Dickinson FACSブランド溶解溶液、BD# 92−0002)を加え、混合物を穏やかにボルテックスし、室温で10分間静置させた。次に、これらのチューブを室温で300 X gで5分間遠心分離した。上清をデカントし、過剰の液体を吸い取り、各細胞ペレットに1mlのPBSバッファー(GIBCO 14190−144)を加えた。穏やかにボルテックスした後、これらのチューブを室温で300 X gで5分間遠心分離した。上清をデカントし、過剰の液体を吸い取り、その後、細胞ペレット上に1mlの固定溶液(10%ホルムアルデヒド(Polyscience,Inc.#0418)をPBSバッファーで1:20に希釈することにより調製した0.5%ホルムアルデヒド溶液)を加え、再懸濁のために穏やかにボルテックスした。次に、サンプルをCoulter EPICS SL Flow Cytometerで分析した。
【0106】
研究のために用いた抗体:MIgG1/MIgG1アイソタイプコントロール(Becton Dickinson、カタログ番号349526)、CD45−PerCP(Becton Dickinson、カタログ番号347464)、CD8−FITC(Becton Dickinson、カタログ番号347313)、CD25−PE(Becton Dickinson、カタログ番号30795X)、CD4−FITC(Becton Dickinson、カタログ番号340133)、CD16−PE(Pharmingen、カタログ番号347617)、CD3−PerCP(Becton Dickinson、カタログ番号#347344)。
【0107】
6.凝固プロフィール
上記の特定の時点で抗凝固剤としてクエン酸ナトリウムを添加したチューブ中に約2mlの全血サンプルを集めた。凝固プロフィールは、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)及びフィブリノーゲンからなった。
B.結果及び説明
1.PROLEUKIN用量決定
この相の主要な目的は、IL−2/N88Rとの比較のために最適なPROLEUKINの用量を同定することであった。PROLEUKINの最適用量は、理想的には、臨床的に重大であるが適度で且つ可逆的な毒性を引き起こす(最大許容用量より低い)許容できる用量であることを目標とした。異種間推定により与えられたPROLEUKINの臨床用量処方計画、それらの対応する毒性及び実験室カニクイザル(in−house cynomolgus monkey)のPROLEUKIN用量−応答結果に基づいて1.2mg/M2、BIDのPROLEUKIN用量を初期用量として決定した。
【0108】
このようにして2匹のチンパンジーをPROLEUKINで処置した。これらの動物は、投与の期間中にだんだん活動が減り、苦しみ、そして脱水状態になった。両方の動物は、減少した食欲、下痢、嘔吐を包含する、3または4日目に現れる激しい胃腸症状を示した。1匹の動物(番号X−159)への投与は、血液化学化学的性質に示される重い腎機能障害(図8A及びB)及び中程度の肝機能障害(図8C及びD)のために投与の3日後に中止された。これらには、血液尿素窒素(BUN)、クレアチニン及び総ビリルビン、ALT(SGPT)が包含される。両方のPROLEUKIN処置動物に乳酸加リンガー溶液を蘇生法としてまたはさらなる脱水を防ぐために3及び4日目(動物X−159)並びに4日目のみ(動物X−124)にi.v.投与した。動物番号X−159は、腎機能障害並びに(大腿部の)非常に最小限の脈拍により示されるような右脚での可能性がある血栓のために8日目に研究から除かれ、そして全ふくらはぎは冷たく、膨張していた。一方の動物では著しい毒性が観察されたが、もう一方の動物では重さのより低い事象が起こり、そして両方の動物の不都合な事象のプロフィールは可逆的であった。これに基づき、1.2mg/M2のPROLEUKIN及び(暴露量に基づいて)同等な用量のIL−2/N88R、q12hrをこれら2つの化合物を比較するために適切な用量処方計画であると決定した。
2.PROLEUKINに対するIL−2/N88Rの比較
臨床的観察. 表5にこの研究中に実施した臨床的観察を記載する。値は0〜5の尺度で報告され、ここで、5が重い。全てのPROLEUKIN処置動物は重い病気であり;1匹のPROLEUKIN処置に関連する死亡があった。PROLEUKINグループの6日目後に報告する値は、残っている2匹の動物からのデータを示す。IL−2/N88R処置は表4に示すパラメーターに関してほんのわずかの毒性を誘導したが、処置の最も明らかな副作用は軽いGI障害(嘔吐)であるようであった。PROLEUKINグループの体重は6日目に6%減り、10日目に10%程度も減少し、そしてその後ゆっくりと回復した(図9参照)。それに反して、IL−2/N88R及びビヒクルグループはせいぜい単に1〜3%の体重減少であった。
【0109】
【表7】
【0110】
(a)血液学. IL−2/N88Rは、特にリンパ球増加においてPROLEUKIN活性化と一致する細胞性作用を誘導し(図10A)、また、白血球(図10B)及び好中球(図10C)の増加も見られた。IL−2/N88Rは、研究の処置部分中にPROLEUKIN(最下点〜50%)に比較してほんの最低限の血小板減少(〜15%の最下点)を誘導した(図10D)。
【0111】
(b)腎機能. BUNレベルは、6及び8日目に全てのPROLEUKIN処置動物において著しくより高かった(図11A)。BUNレベルはこれらの動物のうち2匹において130mg/dL以上であり;クレアチニンレベルもまた6及び8日目の両方でこれら2匹の動物において劇的に増加し(図11B)、腎機能の完全な停止を示した。さらに、血清リン及びアニオン差の両方も6及び8日目にPROLEUKIN処置グループにおいて増加した。それに反して、全てのIL−2/N88R動物において、これらの腎パラメーターは研究の間中基本的に正常なままであった(図11C及びD)。
【0112】
(c)肝機能. 総ビリルビンは6日目にPROLEUKINグループにおいて3倍以上になり、10日目まで高いままであった(図12A)。それに反して、IL−2/N88Rグループ中の1匹の動物のみに3及び6日目に一時的なわずかな増加があった。血清SGTPレベルは劇的に上昇し、6日目には全てのPROLEUKIN動物において100U/L以上に達した(図12B)。動物番号A199におけるSGTPレベルは651U/Lに、そしてSGOTは2789U/Lに達し(Lab Note Book:NIRC#8754−9852−Phase II,表1 Indivial and Group Mean Chemistry Values,表の21の17頁(page 17 of 21 of the table))、重い肝不全を示した。
【0113】
(d)凝固. フィブリノーゲンレベルは、PROLEUKIN及びIL−2/N88Rグループの両方において2倍以上になり、6日目に最大量に達した(図12C)。この増加は、PROLEUKINグループにおいてIL−2/N88R動物より早く起こっているようである。これは3日目の5%に対して51%の増加により示される。同じ期間中に相応してAPTTまたはPTの意味のある変化はなかったので、フィブリノーゲンの変化は凝固欠陥よりむしろ急性タンパク質応答の結果である可能性がある(図12D)。しかしながら、10日目からPROLEUKIN動物におけるAPTTレベルは、絶対値は正常範囲内のままであるが明らかな上昇傾向を示した。同じ傾向が、より少ない程度にではあるが、IL−2/N88Rグループにおいても認められた。しかしながら、興味深いことに、フィブリノーゲンレベルは、両方のグループにおいて相応して同じ期間中により低く変動しているようであった。
【0114】
(e)ホメオスタシス. 血清ナトリウムレベルは8日目に3匹のPROLEUKIN動物のうち2匹において135MEQ/L未満まで減少したが、残りの動物では正常なままであった(図13A)。PROLEUKINグループにおける塩化物レベルもまた3日目から95MEQ/L未満まで減少し、15日目まで低いままであった(図13B)。カルシウムレベルは6及び8日目に3匹のPROLEUKIN動物のうち2匹においてより低く、動物A199では4.9及び3.1mg/dLと同程度に低くなった(図13C)。研究から外す前にカリウムレベルが実際に7.2MEQ/Lの有毒なレベルまで増加した動物A199を除いて、カリウムレベルは全てのPROLEUKIN処置動物において3〜12日目に3MEQ/L未満まで減少した(図13D)。
【0115】
(f)血管漏出の徴候. 血清アルブミンレベルは、PROLEUKIN(37%)及びIL−2/N88R(19%)グループの両方において減少した(図14A)。3及び6日目にPROLEUKINグループにおいてヘマトクリットレベルの増加が見られた(図14B)。それに反して、ビヒクルコントロール及びIL−2/N88Rグループの両方におけるヘマトクリットレベルは同じ期間中に減少し、低いままであり、複数の血液サンプル収集のためと考えられる軽い貧血を示した(図14B及びC)。PROLEUKINグループにおけるヘマトクリットの上昇は、アルブミンの減少と結びつけて考えると、毛細血管漏出症候群の発症と一致する。
【0116】
3.細胞の活性化
PROLEUKIN及びIL−2/N88Rの効能をCD25陽性リンパ球の割合の変化(輸送(trafficking)+増殖)及びCD25の蛍光の平均または与えられたT細胞の表面で発現されるCD25抗原の数により研究した(CD25=低親和性IL−2R)。CD25発現を全T細胞集団(CD3+細胞)並びにCD3+CD4+及びCD3+CD8+集団で研究した。
【0117】
ナチュラルキラー細胞(NK)に対するIL−2活性をCD3−CD16+及びCD3−CD25+CD16+NK細胞の輸送の分析により研究した。CD3+、CD4+、CD8+、NK細胞の絶対数は、血液学分析中に得られたデータのこれらの細胞の割合にmm3当たりのリンパ球の数を掛けることにより決定した。
【0118】
(a)T細胞表面上のCD25発現調節. CD25陽性細胞により示されるような活性化T細胞の割合は、主にCD3+CD4+T細胞亜集団上で、研究の6日目まではアップレギュレーションされた。PROLEUKINは、6日目にT細胞の全CD3+、CD3+CD4+及びCD3+CD8+亜集団のより高い割合に対してCD25の発現を誘導するようである。しかしながら、8日目までにCD25抗原を発現する細胞の%は、PROLEUKINで処置したチンパンジー及びIL−2/N88Rで処置したチンパンジーのリンパ球に対して同一であった(図15A、B及びC)。PROLEUKINまたはIL−2/N88Rで処置したチンパンジーのどちらにおいてもナチュラルキラー(NK)細胞集団の表面でのCD25のいかなる染色も認められなかった。選択したNK細胞集団(CD3−/CD16+)の表面でのIL−2Rα(CD25による細胞表面染色の標的となる抗原)の発現の欠如がこれらの結果を招くと思われる。
【0119】
CD3+CD25+T細胞の絶対数は、CD3+CD25+T細胞の割合と同様なパターンをたどり、PROLEUKINはIL−2/N88Rより活性があるようであった(図16A)。IL−2/N88Rにより誘導されるCD3+CD4+CD25+リンパ球の絶対数のアップレギュレーションはPROLEUKINで見られたアップレギュレーションと同一であったので(図16B)、IL−2/N88RはCD3+CD4+T細胞集団に対してPROLEUKINと同様なT細胞活性化能力を示した。PROLEUKINは、IL−2/N88Rより大きくCD3+CD8+CD25+T細胞の数を増加するようであった(図16C)。
【0120】
CD3+CD4+T細胞亜集団上に発現されるCD25分子の数(蛍光の平均)は、PROLEUKINまたはIL−2/N88R処置のどちらでも同じ速度論をたどった(図17)。
【0121】
(b)リンパ球輸送:PROLEUKIN及びIL−2/N88R処置の影響.
T及びNK細胞集団に対するPROLEUKIN及びIL−2/N88R活性を処置の前、間及び後の循環するリンパ球の絶対数の変化の分析により決定した(図18)。IL−2/N88Rは、CD3+CD4+循環リンパ球の絶対数を増加することに対してPROLEUKINより大きい活性を(図18A)、そしてCD3+CD8+循環リンパ球の絶対数を増加することに対してPROLEUKINに比較してわずかに減少した活性を有するようであった(図18B)。両方の化合物は、CD3+リンパ球の総数を増加することに対してあまり大きくないが同様の作用を有した(図18C)。PROLEUKINもIL−2/N88RもNK細胞の輸送に影響を及ぼさなかった(図18D)。
C.結論
ヒト一次T及びNK細胞アッセイにおけるムテインIL−2タンパク質の評価によりIL−2/N88Rを作製した。それはNK細胞よりT細胞に〜6,000倍のインビトロ選択性を示す。この細胞性プロフィールに基づき、それは著しいT細胞活性化を引き出す用量で投与した場合に軽い副作用のみを誘導すると仮定された。IL−2/N88RにPROLEUKINを比較するチンパンジーにおける実験により、IL−2/N88Rが、T細胞活性化を誘導する匹敵する能力を保持しながら、PROLEUKINより著しく優れた安全性プロフィールを有することが確かめられた。
実施例8:ネズミCT−26肺転移腫瘍モデルにおけるIL−2の選択的アゴニストN88Rの効能
プロトコル:マウス(Balb/c、メス、6〜8週齢)に0日目に外側尾静脈中に0.2mlのPBS中1 x 105のCT−26細胞(ネズミ結腸癌)を静脈内(IV)注射した。処置は、移植後1日目に始まり毎日1回8日間(QDx8)IV送達される異なる用量(希釈剤:水中5%のデキストロース(D5W)))のPROLEUKINもしくはIL−2/N88RまたはD5Wであった。ツベルクリン注射器を使用してシリコンで処理したバイアルを用いてD5W中への希釈によりIL−2/N88Rを室温で調製し、調製の2時間以内に動物に投与した。各バイアルに0.7mlの注射用滅菌水(SWFI)を加えることによりPROLEUKINを調製した(最終濃度、1.86mg/ml)。IL−2/N88Rに対して記述したようにD5W中への希釈を行った(表6)。動物を11日目に殺した。肺を取り出し、重さを量り、PBS中ですすぎ、組織をブワン溶液に移した。24時間後に、組織を10%ホルマリンに移した。肺中の転移性コロニーの数を解剖顕微鏡下で数えた。
【0122】
【表8】
【0123】
表7は、個々のマウスにおいて数えられた転移の数を示す。IL−2/N88R及びPROLEUKINの両方に対して同様な効能が認められた。高用量のIL−2/N88R(グループ8、60mg/kg)では、1匹を除いて全てのマウスが12またはそれより少ない転移を有し;これらのマウスのうち3匹はいかなる転移も示さなかった。これは、全ての生存するマウスが12またはそれより多い転移を有した試験したPROLEUKINの最大投与量と対照的である。
【0124】
【表9】
【0125】
10、30及び60mg/kgの用量のIL−2/N88Rで処置したマウス(それぞれ、グループ6、7及び8)及び10mg/kgのPROLEUKINで処置したグループ(グループ3)において転移の有意な(P<0.05)減少が認められた。これらの結果を図19にグラフを用いて示す。用量の対数を用いてデータをプロットし;PROLEUKINに対しては、用量は3及び10mg/kgであり;IL−2/N88Rに対しては、用量は1、3、10、30及び60mg/kgであった。非線形方程式を用いる曲線調整により、PROLEUKINでは5.2mg/kg、そしてIL−2/N88Rでは10.9mg/kgのIC50値を得た。
【0126】
この実験のデータから、IL−2/N88Rの転移数の減少に関するIC50は10.9mg/kg(95%の信頼性で8.6〜13.9mg/kg)であり、そしてPROLEUKINでは5.2mg/kg(95%の信頼性で3.5〜7.7mg/kg)であると計算された。
【0127】
マウスの生存を表8に示す。10mg/kgのPROLEUKINグループでは、1匹のマウスが7日目に死亡し、そしてさらに5匹が8日目に死亡した。3または10mg/kgのIL−2/N88Rで処置したグループの各々では8日目に1匹のマウスが死亡し、そして1、30または60mg/kgのIL−2/N88Rのいずれでも死亡は見られなかった。さらに、3mg/kgのPROLEUKINで処置した大部分のマウス及び10mg/kgのPROLEUKINで処置した全てのマウスが瀕死であり;IL−2/N88Rで処置したマウスではいかなる病的状態も見られなかった。
【0128】
【表10】
【0129】
PROLEUKINで処置した動物は両方のグループにおいて瀕死であった。いずれのIL−2/N88R処置動物においても病的状態は認められなかった。
【0130】
要約すると、これらの研究により、IL−2/N88Rが(CT26モデルにおける肺転移数により測定した場合に)腫瘍荷重を減らすことにPROLEUKINと同様に有効であることが示される。さらに、IL−2/N88RはPROLEUKINより実質的に毒性が低いことが示された。
実施例9.IL2N88Rを発現する安定な大量生産するCHO細胞系の開発.
図20に示す発現ベクター(ATCC受託番号 )でCHO(dhfr−)細胞をトランスフェクトすることにより大量のIL2N88Rムテインを分泌する安定な生産細胞系を開発した。IL2N88R発現ベクターの個々の要素はプラスミド地図中に示される(図20)。それにはCMVe/p=サイトメガロウイルス初期プロモーター;PA=SV40ポリアデニル化シグナル配列;及びDHFR=ジヒドロ葉酸レダクターゼ発現カセットが示される。
【0131】
標準的な組換えDNA技術を用いてこのベクターを構築した。一般的に、Sambrook et al.,Molecular Cloning,第2版,1989,Cold Spring Harbor Press;Short Protocols in Molecular Biology,第2版,1992,John Wiley & Son;Methods in Enzymology vol.185,Ed.Goeddel et al.,Academic Press,Inc.,London,1991を参照。この発現ベクターはIL2N88R遺伝子のための別個の発現カセット及び増幅可能で且つ選択可能な遺伝子DHFR(ジヒドロ葉酸レダクターゼ)を含有する。リポフェクチン(Lipofectin)試薬(Life Technology Inc.,Bethesda,Maryland)を製造業者の説明書に従って用いて約1 x 106のCHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞に10μgのpBC1IL2SAをトランスフェクトした。次に、これらの細胞を50nMのメトトレキセートの存在下で選択し、5%の透析したウシ胎仔血清を加えたチミジン及びヒポキサンチンを欠くDME/F12培地(Life Technology,Inc.)中で増やした。市販のELISAキット(R & D Systems)を用いて細胞集団をIL2N88R生産に関して評価した。増加する濃度のメトトレキセート(100〜400nMのメトトレキセート)を含有する培地中で大量生産する集団をさらに選択し、IL2N88Rの生産に関して評価した。次に、大量で且つ安定な生産性を有するクローンを得るために限界希釈クローニングを適用した。標準的な組織培養技術を用いてメトトレキセートの非存在下でクローニングを行った。
実施例10.灌流バイオリアクターにおけるIL2N88Rの無血清生産.
連続灌流発酵によりIL2N88Rの連続生産を行った。19リットルのWheaton発酵槽に実施例9の安定なCHO細胞系を2 x 106細胞/mlで接種し、5リットル/日の培地交換率で灌流させた。生産培地は、組換えヒトインシュリン(10μg/ml)(HUMULINTM、Eli Lilly,Inc.、Indianapolis、IN)及びFeSO4.EDTA(50μM)を補足したDME/F12に基づく培地(Life Technology,Inc.,Rockville,MD)であった。細胞密度を4 x 106細胞/mlで保った。発酵槽の平均日収量は〜200mg/日であった。IL2N88R生産は30日間安定に保たれた。
実施例11.CHO細胞において生産されたIL−2/N88Rの精製.
上記の灌流溶出液に以下の方法を適用した。灌流培地を集め、S−セファロースカラムにかけた。カラムをpH 7.0の5ミリモルNaClを含む20ミリモルのリン酸塩バッファーで平衡化した。供給材料(「TCF」)を水の添加で4ミリジーメンスの伝導率に調整し、リン酸で同じpHに調整する。
【0132】
TCFを添加した後、カラムを同じ平衡バッファー中で洗浄する。pH変化により溶出を実施する。20mM エタノールアミン、pH 10.5でムテインを溶出し、カラムからムテインを洗い取ってS−溶出液を生成せしめた。
【0133】
pH10.5の10mM重炭酸塩バッファーで平衡化したQAE Fast FlowTM(Pharmacia)のカラムにS溶出液を通すことにより陰イオン交換を実施した。流速を250cm/時間で保った。ベースラインまで洗浄した後、20mMリン酸塩pH 4.0でIL−2SAを溶出した。
【0134】
pH7.0の0.10mMリン酸塩で平衡化したセラミックヒドロキシアパタイト(タイプII、Bio−Rad,Hercules,CA)を充填したカラムに希釈したQAE溶出液(WFIで1:1)を通すことによりヒドロキシアパタイト(HAP)クロマトグラフィーを実施した。流速を250cm/時間で保った。ベースラインまで洗浄した後、pH 7.0の100mMリン酸塩でIL2SAを溶出した。
【0135】
3個のPES 5Kカートリッジ(Millipore Corporation,Bedford,MA)を備えたMillipore Pelicon−2装置を用いてヒドロキシアパタイト溶出液を300mlの容量まで限外濾過した。
【0136】
限外濾過したHAP溶出液を35cm/時間でS100HR(Pharmacia)サイズ排除カラムに通すことによりさらに精製した。カラムを10mMリン酸塩及び150mM NaCl pH 7.0で平衡化した。
【0137】
ゲル濾過プールをWFIで希釈して4.0mMhos/cmの伝導率を得、先に記述した条件下でS−セファロースに再びかけた。pH 7.0の1M NaClを含む10mMリン酸塩バッファーでIL2SAを溶出した。
【0138】
最終的な陽イオン交換プールをリン酸緩衝食塩水(PBS)に対して一晩透析し、滅菌したPBSで6mg/mlの濃度に希釈した。次に、最終的な希釈したプールを滅菌濾過し、等分し、次に−70℃で凍結した。全回収率は65%であった。
【0139】
本発明の他の態様は当業者に明らかになる。本発明は、本明細書には詳細に記述されないがPHA−芽細胞増殖により立証されるようなT細胞活性化及び減少したNK細胞増殖をもたらすムテインをどのようにして得るかを教示しており、それによりこれらのムテインは本発明の精神及び範囲内に入る。本明細書に記述する概念及び実験方法は、異種起源のマルチマー受容体系を利用する他のサイトカイン、特に関連するサイトカインIL−7、IL−9及びIL−15、IL−10、インターフェロンα並びにインターフェロンγに適用できるはずである。
【0140】
配列
以下の配列は本願内に含まれる:
配列番号:1:hIL−2(アミノ酸)
配列番号:2:hIL−2(cDNA)
配列番号:3:5’PCRプライマー、IL−2
配列番号:4:3’PCRプライマー、IL−2
配列番号:5:IL−2発現ベクターのための突然変異誘発プライマー
配列番号:6:D20X突然変異のための突然変異誘発プライマー
配列番号:7:N88X突然変異のための突然変異誘発プライマー
配列番号:8:Q126X突然変異のための突然変異誘発プライマー
【0141】
【図面の簡単な説明】
【図1〜7】 wtヒトIL−2(IL−2)及びD20H(図1)、IL−2及びD20I(図2)、IL−2及びN88G(図3)、IL−2及びN88I(図4)、IL−2及びN88R(図5)、IL−2及びQ126E(図6)並びにIL−2及びQ126L(図7)の用量−応答曲線を示す。A:一次ヒトT細胞増殖アッセイ(PHA−芽細胞)におけるIL−2(黒丸)及びムテイン(白丸)の個々の用量応答。B:一次ヒトNK細胞増殖アッセイにおけるIL−2(黒三角)及びムテイン(白三角)の個々の用量応答。
【図8A〜8D】 ビヒクルコントロール(X−126、ひし形)と比較して、チンパンジーにおけるPROLEUKINTMの毒性を2匹の動物(X−159、三角及びX−124、四角)において評価した。毒性を腎パラメーター(血液尿素窒素(BUN)、A;クレアチニン、B)及び肝機能(総ビリルビン、C;ALT、D)により評価した。
【図9】 30日にわたる体重%変化のグラフ。IL−2/N88R(三角)、PROLEUKIN(四角)またはビヒクル(ひし形)で処置した動物の体重を示した日に測定した。
【図10A〜10D】 IL−2/N88R(三角)、PROLEUKIN(四角)またはビヒクル(ひし形)で処置した動物のリンパ球(A)、全白血球(B)、好中球(C)及び血小板(D)を示した日に評価した。
【図11A〜11D】 IL−2/N88R(三角)、PROLEUKIN(四角)またはビヒクル(ひし形)で処置した動物の血液尿素窒素(A、BUN)、クレアチニン(B)、リン(C)及びアニオン差(D)を示した日に評価した。
【図12A〜12D】 IL−2/N88R(三角)、PROLEUKIN(四角)またはビヒクル(ひし形)で処置した動物の総ビリルビン(A)、ALT(B)、フィブリノーゲン(C)及び活性化プロトロンビン時間(D)を示した日に評価した。
【図13A〜13D】 IL−2/N88R(三角)、PROLEUKIN(四角)またはビヒクル(ひし形)で処置した動物のナトリウム(A)、塩化物イオン(B)、カルシウム(C)及びカリウム(D)の血液レベルを示した日に評価した。
【図14A〜14C】 IL−2/N88R(三角)、PROLEUKIN(四角)またはビヒクル(ひし形)で処置した動物の血液中のアルブミンレベル(A)、ヘマトクリット(B)及びヘモグロビン(C)を示した日に評価した。
【図15A〜15C】 全T細胞集団(A、CD3+細胞)、CD4+T細胞集団(B)及びCD8+T細胞集団(C)に対するIL−2/N88R(四角)、PROLEUKIN(ひし形)及びビヒクル(三角)の影響を示す。
【図16A〜16C】 全T細胞集団(A、CD3+細胞)、CD4+T細胞集団(B)及びCD8+T細胞集団(C)に対するIL−2/N88R(四角)、PROLEUKIN(ひし形)及びビヒクル(三角)の影響を示す。
【図17】 CD25陽性細胞の蛍光の平均に関するT細胞活性化に対するIL−2/N88R及びPROLEUKINの影響。CD3+CD4+T細胞集団に対するIL−2/N88R(四角)、PROLEUKIN(ひし形)及びビヒクル(三角)の影響を示す。CD3+/CD8+細胞集団に対する蛍光の平均を評価するためには不十分な数のCD3+/CD8+細胞が得られた。
【図18A〜18D】 CD4+T細胞集団(A、CD3+/CD4+細胞)、CD8+T細胞集団(B、CD3+/CD8+細胞)、全T細胞集団(C、CD3+細胞)及びNK細胞集団(D、CD3−/CD16+細胞)に対するIL−2/N88R(四角)、PROLEUKIN(ひし形)及びビヒクル(三角)の影響を示す。
【図19】 PROLEUKIN(白丸)またはIL−2/N88R(黒丸)で処置したマウスにおける用量に対する肺転移のグラフ。肺転移を研究の最後に数えた。
【図20】IL2N88RベクターpBC1IL2SAのプラスミド地図。
【配列表】
Claims (7)
- 野生型ヒトインターロイキン−2(IL−2)に従って番号をつけたヒトIL−2ムテインを含んでなり、ここで該ヒトIL−2ムテインが野生型に対して位置20、88または126で置換されており、ここで位置20における置換はイソロイシンまたはヒスチジンから選択され、位置88における置換はアルギニン、イソロイシンまたはグリシンから選択され、そして位置126における置換はロイシンであり、それにより該ヒトIL−2ムテインがナチュラルキラー細胞よりもT細胞を優先的に活性化するポリペプチド。
- 製薬学的に許容しうる担体と組み合わせて、野生型ヒトインターロイキン−2(IL−2)に従って番号をつけたヒトIL−2ムテインを含んでなり、ここで該ヒトIL−2ムテインが野生型に対して位置88でアルギニンにより置換されているポリペプチドを含んでなる製薬学的組成物。
- 請求項1のポリペプチドをコードするDNA配列を含んでなるポリヌクレオチド。
- 請求項3のポリヌクレオチドで形質転換された原核宿主細胞。
- 請求項3のポリヌクレオチドを含んでなるベクター。
- 野生型ヒトインターロイキン−2(IL−2)に従って番号をつけたヒトIL−2ムテインを含んでなり、ここで該ヒトIL−2ムテインが野生型に対して位置88でアルギニンにより置換されているポリペプチドを有効成分として含有することを特徴とするIL−2で処置可能な症状に悩む哺乳類を処置するための薬剤。
- IL−2で処置可能な症状が、HIV、腎癌及び悪性黒色腫を包含する癌ならびに感染症よりなる群から選択される請求項6の薬剤。
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