JP4273531B2 - イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートの製造方法 - Google Patents

イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、加水分解性塩素を含むイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートから加水分解性塩素を除去した実質的に加水分解性塩素を含まないイソシアナトアルキル(メタ)アクリレート及びその製造方法に関する。本発明で提供される加水分解性塩素を実質的に含まないイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートは、特に電子材料用ホトレジスト等の材料、原料として有用である。
なお、本発明においては、特に断わらない限り「(メタ)アクリレート」はアクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0002】
【従来の技術】
2−イソシアナトエチルメタクリレートに代表されるイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートは、水酸基、1級又は2級アミノ基等の置換基を有する化合物のような活性水素をもつ化合物との反応性が高いイソシアナト基と、ビニル重合可能な炭素−炭素二重結合の両者を一つの分子中に持つ、工業上きわめて有用な化合物で、塗料・コーティング材、接着剤、ホトレジスト、歯科材料、磁性記録材料、等の多くの用途に使用されている。この化合物は米国特許第2,821,544号や特開昭54−5921号公報に記載されているように、ホスゲンを用いて製造され、一般に「加水分解性塩素」と呼ばれる不純物をその中に含んでいる。なお、本発明においては、特に断らない限り「加水分解性塩素」とは加水分解性を有する塩素含有化合物中の塩素を意味し、例えばイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートの製造において、得られる目的物含有生成物中に存在する、(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルバモイルクロライドのような塩素含有化合物が代表例として挙げられる。
加水分解性塩素を含有するイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートを使用してウレタンアクリレート等を製造すると、加水分解性塩素が触媒毒となる上、製品中に混入する塩素化合物によって、耐候性、耐食性に悪影響が出てくる。特に電子機器部品用ホトレジスト材料としては加水分解性塩素の存在は致命的ともなりかねない。
一般にイソシアナト化合物中の加水分解性塩素を低減する様々な方法が従来より提案されている。
【0003】
例えば特開昭53−119823号公報には、加水分解性塩素含有イソシアナト化合物と、微細なアルカリ金属炭酸塩とを高温下で長時間混合する方法が開示され、特開昭59−172450号公報には、加水分解性塩素含有イソシアナト化合物に亜鉛のカルボン酸塩とヒンダードフェノール系抗酸化剤とを添加して加熱処理した後、蒸留する方法が開示され、米国特許第3465023号には、水に不溶の溶媒中でイソシアナートを合成した後、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄する方法が開示され、またドイツ特許第2249375号には、加水分解性塩素を含有するポリメチレンポリフェニルイソシアナートをエポキシ化合物で処理する方法が開示されている。
また上記アルカリ金属炭酸塩等の薬剤を用いない方法として、特開昭61−161250号公報には、加水分解性塩素含有イソシアナト化合物を気化させた後、70℃以上の温度で凝縮させることによりイソシアナト化合物を精製する方法が開示されている。
【0004】
しかしながらこれらの方法では、加水分解性塩素が十分に低減できず、あるいは工業的に実施するには種々の解決すべき問題点が存在し、例えば、上記特開昭53−119823号公報に記載されている、加水分解性塩素含有イソシアナト化合物とアルカリ金属炭酸塩とを高温で混合する方法では、処理後のイソシアナト化合物と炭酸塩との分離が困難で、ロスの発生が避けられず、また米国特許第3465023号に示される、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄する方法では、有機相と水相との境界に白色の不溶物が析出し、以後の分離操作をやっかいなものにしたり、装置の汚染の原因になったりするなどの問題点がある。またこれらのような方法では、ナトリウムイオンによるイソシアナト化合物の汚染の虞があり、たとえこのナトリウムイオン含量がppmのオーダーであっても、該イソシアナト化合物を電子材料用に使用する場合には大きな問題となる。
【0005】
特に炭素−炭素二重結合をもつイソシアナト化合物を精製する場合には、該イソシアナト化合物同士の重合反応を防止しつつ、加水分解性塩素含量を効果的に低減することが求められるが、上記のような方法では満足できる結果は得られない。
米国特許第4310688号には、0.21%の加水分解性塩素を含むイソシアナトエチルメタクリレートの塩化メチレン溶液を、ビシナルエポキシ基含有化合物(例:1,2−ブチレンオキシド)で処理することにより、加水分解性塩素含有量を0.05%に低減できることが示されている。しかしこの方法ではせいぜい数百ppmまで加水分解性塩素を低減できるに過ぎず、このような方法で得られた精製イソシアナト化合物は、電子材料等の用途に用いるには不十分であった。
【0006】
これら従来技術の問題を解決するため、本発明者らはイソシアナト化合物中の加水分解性塩素量を低減させる方法として、アミン類の存在下にエポキシ化合物で処理する方法を提案した(特開平9−323958)。この方法は優れた方法ではあるが、加水分解性塩素の除去が完全とはいえない。
一方、ホスゲンを用いないでイソシアナト化合物を製造する方法も検討されており、イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートにおいても、ウレタン化合物の熱分解による方法が提案されている(米国特許第2718516号、特開昭62−10053、特開昭62−195354、特開平5−186414〜5、特開平6−263712)。この方法は高温下での熱分解工程を含むが、イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートはきわめて重合しやすいため、その収率は経済的に見た場合、満足しうるものではない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、ホスゲンを使って製造されたイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートから、実質的に加水分解性塩素を含まないイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートを工業的に製造する方法を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。即ち、以下の発明が提供される。
(1)加水分解性塩素を含有するイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートの精製工程が、イソシアナトアルキルアクリレートの場合は2−クロロプロピオン酸イソシアナトアルキルエステルを、またイソシアナトアルキルメタクリレートの場合は2−メチル−2−クロロプロピオン酸イソシアナトアルキルエステルを、実質的に含有しないようになるまで精製することを特徴とする加水分解性塩素を実質的に含有しないイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。
(2)精製工程において使用するイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートの加水分解性塩素の含有量が100ppm以下である上記(1)の製造方法。
(3)加水分解性塩素を含有するイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートをエポキシ基を含む化合物とアミン類及び/又はイミダゾール類で処理しイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートの加水分解性塩素の含有量を100ppm以下とする処理工程の後に、精製工程を行う上記(2)の製造方法。
【0009】
(4)精製工程が溜出温度100℃未満、減圧下、重合禁止剤存在下で行われる蒸留による方法である上記(1)乃至(3)の製造方法。
(5)アミン類が、トリアルキルアミン(但し、該アルキル基の炭素数は4〜15である。)又は下記式(I)で表される化合物であり、イミダゾール類が2−アルキル−4−アルキルイミダゾール(但し、該アルキル基の炭素数はそれぞれ独立に1〜3である。)である上記(3)又は(4)の製造方法。
2 N−(CH2 CH2 NH)n −H ・・・・(I)
(式中、nは2以上の整数を示す。)
(6)加水分解性塩素の含有量に対して、1〜10倍モルのエポキシ基を含む化合物と0.2〜2倍モルのアミン類及び/又はイミダゾール類で処理する上記(3)乃至(5)の製造方法。
(7)イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートが2−イソシアナトエチルメタクリレートである上記(1)乃至(6)の製造方法。
(8)イソシアナトアルキルアクリレートの場合は2−クロロプロピオン酸イソシアナトアルキルエステルを、またイソシアナトアルキルメタクリレートの場合は2−メチル−2−クロロプロピオン酸イソシアナトアルキルエステルを、実質的に含有しないことを特徴とする加水分解性塩素を実質的に含有しないイソシアナトアルキル(メタ)アクリレート。
(9)2−メチル−2−クロロプロピオン酸2−イソシアナトエチルエステルを実質的に含有しないことを特徴とする、加水分解性塩素を実質的に含有しない2−イソシアナトエチルメタアクリレート。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明に係る加水分解性塩素を実質的に含有しないイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートの製造方法における精製工程では、被精製物中の加水分解性塩素の含有量は特に限定されるものではないが、プロセスの経済性の観点からは、通常、加水分解性塩素の含有量が1000ppm以下のイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートを使用するのが有利であり、100ppm以下のものを使用することが特に好ましい。例えば、まず加水分解性塩素を含有するイソシアナトアルキル(メタ)クリレートを、アミン類及び/又はイミダゾール類の存在下にエポキシ化合物にて処理することにより加水分解性塩素を100ppm以下に低減させて精製工程に使用することが特に望ましい。
【0011】
本発明の精製工程では、イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートを合成するときの副生成物の一つである2−クロロプロピオン酸イソシアナトアルキルエステル又は2−メチル−2−クロロプロピオン酸イソシアナトアルキルエステルを実質的に含有しなくなるまで、例えば減圧蒸留などの方法で精製することにより、加水分解性塩素を実質的に含有しないイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートを得ることを特徴とする。
本発明に係るイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートの精製においては、加水分解性塩素が含有される粗イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートを触媒としてのアミン類及び/またはイミダゾール類の存在下に、エポキシ化合物にて処理した後、穏和な条件で精製を行うので、イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートの品質に悪影響を及ぼすことなく、実質的に加水分解性塩素を含まないイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートを、収率よく、効率的に得ることができる。しかも、このような精製方法は、工業的に容易に実施可能である。
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明に係る加水分解性塩素の量とは、JIS K 1556(トリレンジイソシアネート試験方法)の5.7に記載されている分析法、またはそれと原理的に同等な分析法で求められる塩素の値であらわされる。一般にかかる方法により定量される加水分解性塩素はある特定の化合物を指しているものというよりは、複数の塩素化合物の混合物であると推定される。例として、イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートをR−NCOと表した場合、R−NH−COCl、R−NCl2 、R−N=C(Cl)−R’・HCl(ここでR’はビニル基またはイソプロペニル基をあらわす)、などの形で存在している可能性が考えられるが、詳細は不明である。またこれらの加水分解性塩素としては比較的除去しやすいものと除去しにくいものが混在しており、このことが実質的に加水分解性塩素を含まないイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートを製造(精製)する際の障害になってきた。
本発明において、後述する実施例で用いた加水分解性塩素の分析法の概略は以下の通りである。すなわち、容量500mlのなす型フラスコにメチルアルコール100ml、水100mlおよび試料10ml(加水分解性塩素含有量が少ないときはメタノール、試料ともに増やす。)をとり、還流冷却器をとりつけて、30分間加熱還流させた後、室温まで冷却し、N/100硝酸銀溶液を用いて電位差滴定を行う。
【0013】
本発明が提供しようとするイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートとは、式(II)で表される化合物であり、好ましくは、R2 が炭素数2から6のアルキレン基、特に好ましくは、その反応性、入手の容易さ、取り扱いの容易さ等から、エチレン基(−CH2 CH2 −)の2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートである。さらに好ましくは、2−イソシアナトエチルメタクリレートである。
CH2 =C(R1 )−COO−R2 −NCO ・・・(II)
(式中、R1 は水素原子、またはメチル基を、R2 はアルキレン基を表す。)
【0014】
本発明では精製工程の前工程において処理する対象となるイソシアナトアルキル(メタ)アクリレート中に含まれる加水分解性塩素は、10000ppm以下、好ましくは3000ppm以下であることが望ましい。当初含まれる加水分解性塩素がそれより多い場合は、予め、別の方法によって減らしておく方がよい。この方法としては、エポキシ化合物を加えて減圧蒸留する方法、窒素等の不活性ガスを吹き込みながら還流させる方法、トリエチルアミンのような3級アミンを加水分解性塩素よりもやや少な目に加え、生じた塩酸塩の結晶を濾過によって分離する方法など各種の方法が考えられるが、その時の状況に応じて適当な方法を選ぶことができる。
こうしてある程度以下に減少させられた加水分解性塩素を含むイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートに、エポキシ基を含む化合物(以下、エポキシ化合物と略すことがある。)及びアミン類及び/またはイミダゾール類を添加し、加水分解性塩素と反応させる。
【0015】
本発明で用いられるエポキシ化合物としては、該エポキシ化合物と本発明のイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートとの沸点差がより大きいものが、後述する分離精製に、最も一般的な蒸留法を用いることができて好都合であり、通常、その沸点差が5℃以上、好ましくは20℃以上あることが望ましい。
エポキシ化合物としては、分子内にエポキシ基を有し、かつ他にイソシアナト基を反応しうる活性水素を有していない限り特に限定されず、例えば、脂肪族または脂環式アルキレンオキサイド、エポキシ化脂肪酸エステル、エポキシ化トリグリセリド等が挙げられる。
脂肪族アルキレンオキサイドとしては、例えば、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、ヘキセンオキサイド、などが挙げられ、また脂環式アルキレンオキサイドとしては、シクロヘキセンオキサイド、シクロペンテンオキサイド、及びこれらに置換基のついたものなどが挙げられる。
エポキシ化脂肪酸エステルとしてはエポキシ化ステアリン酸アルキル等、分子量300〜500程度のものが挙げられる。
エポキシ化トリグリセリドとしては、例えば大豆油、綿実油等の油脂を酢酸、ギ酸等の溶媒中で酸触媒の存在下に過酸化水素水で酸化して得られるもの(分子量:約500〜1500,ヨウ素価:2〜14、オキシラン酸素量:2〜15%程度のもの)が挙げられる。
なお、エポキシ化合物中のオキシラン酸素量は、エポキシ化合物を既知量の塩化水素と反応させた後、過剰分の塩化水素をアルカリ標準液で滴定し、滴定値をブランク値と比較することにより定量される。
【0016】
本発明ではこれらのエポキシ化合物を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
上記のエポキシ化合物の中では、エポキシ化脂肪酸エステル、エポキシ化トリグリセリドが好ましく用いられる。
エポキシ化合物は、加水分解性塩素1当量(塩素原子1モル)あたり、1〜5当量、好ましくは1.5〜3当量の量で用いられることが望ましい。エポキシ化合物の量が加水分解性塩素1当量あたり1当量未満では加水分解性塩素を効率的に十分除去できず、その効果は小さい。また5当量を超える量で用いても、それ以上添加効果は上がらず、不経済となる。
なお、エポキシ化合物の当量数は、該エポキシ化合物に含有される、(エポキシ基を構成している酸素原子[オキシラン酸素]の数×モル数)として計算する。
本発明で用いられるアミン類及び/またはイミダゾール類としては、1級、2級、3級の各アミンのいずれでもよく、また、鎖状、分枝状でも環状でもよく、また鎖状アミン類では脂環、芳香環構造を有していてもよく、アミノ基は1個でも複数個でもよいが、好ましくは、トリエチレンテトラミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリノニルアミン、トリデシルアミン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、イミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2,4−ジエチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾールから選ばれる1つまたはそれ以上の化合物、更に好ましくはトリエチレンテトラミン、トリオクチルアミン、2−エチル−4−メチルイミダゾールから選ばれる1つまたはそれ以上の化合物が適している。
【0017】
アミン類及び/またはイミダゾール類は加水分解性塩素1当量に対し、通常0.2〜2.0当量、好ましくは0.3〜1.0当量の量で用いられることが望ましい。このアミン類及び/またはイミダゾール類の量が0.2当量未満では殆どその添加効果が見られず、一方、2当量を超えると系内が著しく塩基性雰囲気になり、イソシアナト基の重合等好ましくない副反応を引き起こす原因となることがある。また1級または2級のアミンが多くなると、イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートとの反応が無視できなくなり、収率を下げるだけでなく、ゲル化の原因になることがある。
なお、アミン類及び/またはイミダゾール類の当量数は、窒素原子の数×モル数として計算する。(例えば、窒素原子を2個有するイミダゾールであれば、1モルは2当量になる。)
このようにしてアミン類及び/またはイミダゾール類存在下に加水分解性塩素とエポキシ化合物を30〜100℃、好ましくは40〜80℃で反応させる。反応時間はあまり効果に影響を与えないので特に限定されないが、30分〜3時間程度が適当である。
【0018】
このあと、可能ならば単蒸留でイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートを分離するか、抽出、その他の方法で分離する。これにより、加水分解性塩素の含有量が1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、更により好ましくは50ppm以下のイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートを得る。
次いでこれを精留塔及び還流装置を有する蒸留設備で精留する。精留塔の種類は特に限定されるものではないが、圧力損失ができるだけ少ないようなもの、例えば、適当な充填物を詰めた充填塔が好ましく用いられる。精留塔の理論段数および還流比は、化合物の種類、蒸留圧力等によって異なるので、一概に指定できないが、これらの条件を調整して、副生物の一つである、2−クロロプロピオン酸イソシアナトアルキルエステル(イソシアナトアルキルアクリレートの場合)、又は2−クロロ−2−メチルプロピオン酸イソシアナトアルキルエステル(イソシアナトアルキルメタクリレートの場合)が、実質的にガスクロマトグラフィーで検出されなくなるまで精製する。2−クロロプロピオン酸イソシアナトアルキルエステル、または2−クロロ−2−メチルプロピオン酸イソシアナトアルキルエステルそのものは前記の加水分解性塩素の分析により検出されず、無関係のようであるが、これらを除くことにより、加水分解性塩素を実質的に含有しないイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートを得ることができる。
【0019】
ガスクロマトグラフィーは化合物の種類によっても異なるが、代表的な2−イソシアナトエチルメタクリレートの場合、通常、以下のような検出条件で実施することができる。
カラム:J&W Scientific社製 DB−1
内径 0.32mm、長さ 30m、液相膜厚 1.0μm
温度:カラム 初期の8分間は80℃、その後10℃/分で昇温し、最終温度は300℃
注入口 200〜300℃
検出器 300℃
検出器:水素炎イオン化検出器
キャリヤーガス:ヘリウム
流量は、カラム 3ml/分、スプリット 100ml/分
【0020】
【実施例】
以下、本発明について、実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこのような実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1]
分留管、温度計、攪拌機、加熱浴を備えた容量500mlのガラス製反応器に、加水分解性塩素含量が381ppmの2−イソシアナトエチルメタクリレート(沸点211℃)300g、オキシラン酸素含量6.1%のエポキシ化油脂系可塑剤(分子量:約1000,ヨウ素価:7)1.7g、2,6−ジターシャリーブチル−4−メチルフェノール0.3g、およびトリエチレンテトラミン(沸点277.4℃)0.11gを仕込み、60℃で2.5時間攪拌した後、約1.3kPa、85℃で蒸留し、初留分を仕込みの10%とった後、受器を切り替えて、精製2−イソシアナトエチルメタクリレート220gを得た。
【0021】
この中の加水分解性塩素を前述の方法で分析したところ、29ppmであり、水素炎イオン化検出器を備えたガスクロマトグラフィーによる2−クロロ−2−メチルプロピオン酸2−イソシアナトエチルエステルの分析値は、クロマトグラム上の試料に由来する全ピーク面積に占めるこの化合物のピーク面積の割合(以下、単純ピーク面積比という)であらわすと、265ppmであった。
次に、内径20mm、長さ30cmのガラスカラムに、3mmφのディクソンパッキング(Dixon Packing )を充填したものを2本直列につなぎ、これを精留塔として、約0.7kPa、溜出温度70℃、塔底温度81℃で、上記の精製2−イソシアナトエチルメタクリレート150gにフェノチアジン0.15gを加えたものを蒸留した。
初留14.8gが溜出したところで受器を切り替え、続いて53gを溜出させた。これをガスクロマトグラフィーで分析したところ、2−クロロ−2−メチルプロピオン酸2−イソシアナトエチルエステルは検出されなかった。また加水分解性塩素含量を分析したところ、検出されなかった。(検出限界:1ppm以下)
【0022】
[比較例1]
実施例1で使用した加水分解性塩素が381ppmの2−イソシアナトエチルメタクリレートを、前処理をすることなく、実施例1の蒸留設備を用いて同様に蒸留した。初留15gが溜出したところで受器を切り替え、続いて51gを溜出させたところ、得られた留分中に2−クロロ−2−メチルプロピオン酸2−イソシアナトエチルエステルは検出されなかったが、加水分解性塩素を分析すると、124ppmであった。
【0023】
[比較例2]
実施例1で使用した蒸留塔を1本にし、充填物を6mmφのディクソンパッキングに変えた他は実施例1と同様の実験を行った。
得られた溜出液中の2−クロロ−2−メチルプロピオン酸2−イソシアナトエチルエステルは、単純ピーク面積比で0.01%であった。一方、加水分解性塩素を分析すると、16ppmであった。
【0024】
[実施例2]
加水分解性塩素含量460ppmの2−イソシアナトエチルアクリレートを用い、実施例1と同様の実験を行った。
得られた溜出物中の2−クロロプロピオン酸2−イソシアナトエチルエステルをガスクロマトグラフィーで分析したところ、検出されなかった。また加水分解性塩素も検出限界以下であった。
【0025】
[実施例3]
加水分解性塩素含量451ppmの2−イソシアナトプロピルメタクリレートを用いて実施例1と同様の実験を行った。得られた溜出物中の2−クロロ−2−メチルプロピオン酸2−イソシアナトプロピルエステルをガスクロマトグラフィーで分析したところ、検出されなかった。また加水分解性塩素も検出限界以下であった。
【0026】
【発明の効果】
本発明により実質的に加水分解性塩素を含有しないイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートを工業的に製造することができる。特に製造されたイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートは、電子材料等の塩素を嫌う用途向けに好適な活性照射線硬化性樹脂等の原材料に使用可能である。

Claims (5)

  1. 加水分解性塩素を含有するイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートを、エポキシ基を含む化合物とアミン類及び/又はイミダゾール類で処理する処理工程の後に、溜出温度100℃未満、減圧下、重合禁止剤存在下で行われる蒸留工程によって、イソシアナトアルキルアクリレートの場合は2−クロロプロピオン酸イソシアナトアルキルエステルを、またイソシアナトアルキルメタクリレートの場合は2−メチル−2−クロロプロピオン酸イソシアナトアルキルエステルを、実質的に含有しないようになるまで精製することを特徴とする加水分解性塩素を実質的に含有しないイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。
  2. 蒸留工程において使用するイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートの加水分解性塩素の含有量が100ppm以下である請求項1に記載の製造方法。
  3. アミン類が、トリアルキルアミン(但し、該アルキル基の炭素数は4〜15である。)又は下記式(I)で表される化合物であり、イミダゾール類が2−アルキル−4−アルキルイミダゾール(但し、該アルキル基の炭素数はそれぞれ独立に1〜3である。)である請求項1又は2に記載の製造方法。
    2 N−(CH2 CH2 NH)n −H ・・・・(I)
    (式中、nは2以上の整数を示す。)
  4. 加水分解性塩素の含有量に対して、1〜10倍モルのエポキシ基を含む化合物と0.2〜2倍モルのアミン類及び/又はイミダゾール類で処理する請求項1乃至3記載の製造方法。
  5. イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートが2−イソシアナトエチルメタクリレートである請求項1乃至に記載の製造方法。
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