JP4232466B2 - 樹脂組成物ならびにそれからなる成形品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂および耐衝撃改良剤を含有してなる衝撃強度、成形性、機械特性および耐熱性に優れた樹脂組成物ならびにそれからなる成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリ乳酸樹脂は、高い融点を持ち、また溶融成形可能であることから、実用上優れた生分解性ポリマーとして期待されている。また、将来にバイオ原料からを作られる汎用ポリマーとしての利用も期待されている。しかしながら、ポリ乳酸樹脂は、結晶化速度が遅いため、結晶化させて成形品として用いるには限界があった。例えばポリ乳酸樹脂を射出成形する場合には、長い成形サイクル時間や成形後の熱処理を必要とすること、および成形時や熱処理時の変形が大きいことなどの実用上大きな問題があった。
【0003】
また、ポリ乳酸樹脂は、剛性が高いものの靱性、特に衝撃強度が低いため、成形品として用いるには脆いポリマーであり、その用途展開には限界があった。この問題を改良するための従来技術として、例えばポリ乳酸樹脂に変性オレフィンを添加する方法(例えば、特許文献1および2参照)が知られているが、この方法による衝撃強度の向上は十分ではないばかりか、逆に成形性や耐熱性が著しく低下するという問題があった。
【0004】
一方、ポリアセタール樹脂は、機械特性や成形性などバランスに優れた樹脂であることから、射出成形品として広く用いられているが、衝撃強度を改良することが難しいポリマーである。ポリアセタール樹脂の衝撃強度を改良するための従来技術としては、例えばポリウレタンエラストマーを配合する方法(例えば、特許文献3および4参照)が知られているが、この方法では衝撃強度の向上に多量のポリウレタンエラストマーを必要とするため、耐熱性や機械強度の低下を伴なうという問題があった。また、ポリアセタール樹脂にコアシェル型ポリマーを配合することにより衝撃強度を改良する方法(例えば、特許文献5参照)が知られているが、この方法ではその改良効果が不十分であった。
【0005】
2種またはそれ以上のポリマーを配合して用いる技術は、ポリマーアロイとして広く知られており、このポリマーアロイは、個々のポリマーの欠点を改良する目的で広く利用されている。しかしながら、2種以上のポリマーを混合した場合、多くはポリマー同士の分散性が悪く、ペレットや成形品の形状に加工できなかったり、劣った特性を示す傾向となる。
【0006】
しかし、まれに2種のポリマーが均一な非晶相を形成する場合があり、この種のものは一般に相溶性または混和性ポリマーアロイとして優れた特性を示すことが期待されているが、その例は少ない。
【0007】
ポリ乳酸樹脂と相溶性のあるポリマーとしては、ポリエチレングリコール(例えば、非特許文献1参照)やポリメチルメタクリレート(例えば、非特許文献2参照)が知られているが、これらのポリマーを混合した場合には、ポリ乳酸樹脂の強度や結晶性が大きく低下するという問題があった。
【0008】
また、ポリアセタール樹脂と相溶性のあるポリマーとしては、ポリビニルフェノール(例えば、非特許文献3参照)が知られているが、このポリビニルフェノールは分子量が一般に低いことから、混合後の樹脂物性が低下するという問題があった。
【0009】
【特許文献1】
特開平9−316310号公報
【特許文献2】
特開2001−123055号公報
【特許文献3】
特開昭60−500576号公報
【特許文献4】
特開昭62−36451号公報
【特許文献5】
特開平3−14856号公報
【非特許文献1】
Polymer 37(26),5849−5857頁(1996)
【非特許文献2】
Polymer 39(26),6891−6897頁(1998)
【非特許文献3】
Polymer 33(4),760−766頁(1992)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0011】
したがって、本発明の目的は、衝撃強度、成形性、機械特性および耐熱性に優れた樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂および耐衝撃改良剤を含有する樹脂組成物が上記の目的に合致する優れた特性を有することを見い出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は、ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂ならびに、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成される多層構造重合体である耐衝撃改良剤を含有してなることを特徴とする樹脂組成物を提供するものである。
【0014】
なお、本発明の樹脂組成物においては、
前記ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、前記ポリ乳酸樹脂の含有量が99重量部以下50重量部以上であること、
前記ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、前記ポリアセタール樹脂の含有量が99重量部以下50重量部超であること、
前記ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、前記耐衝撃改良剤の含有量が120重量部以下0.5重量部以上であること、
樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂とポリアセタール樹脂が相溶化していること、
樹脂組成物のポリアセタール樹脂由来の降温時の結晶化温度が、用いたポリアセタール樹脂単独の降温時の結晶化温度よりも低い温度であること、
前記ポリアセタール樹脂がポリアセタールコポリマーであること、
前記耐衝撃改良剤がメタクリル酸メチル単位および/またはアクリル酸メチル単位を含む重合体からなるシェル層を有する多層構造重合体であること、および
さらに、マイカ、タルク、カオリン、クレイから選ばれた強化剤の少なくとも一種を含有すること、
がいずれも好ましい条件として挙げられ、これらの条件を適用した場合には一層優れた効果の取得を期待することができる。
【0015】
また、本発明の成形品は、上記の樹脂組成物からなることを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明に用いられるポリ乳酸樹脂とは、L−乳酸及び/またはD−乳酸を主たる構成成分とするポリマーであるが、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。他のモノマー単位としては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、およびカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。このような共重合成分は、全単量体成分中、通常0〜30モル%の含有量とするのが好ましく、0〜10モル%であることが好ましい。
【0018】
本発明においては、相溶性の点から、乳酸成分の光学純度が高いポリ乳酸樹脂を用いることが好ましい。すなわち、ポリ乳酸樹脂の総乳酸成分の内、L体が80%以上含まれるかあるいはD体が80%以上含まれることが好ましく、L体が90%以上含まれるかあるいはD体が90%以上含まれることが特に好ましく、L体が95%以上含まれるかあるいはD体が95%以上含まれることが更に好ましく、L体が98%以上含まれるかあるいはD体が98%以上含まれることが更に好ましい。また、L体またはD体の含有量の上限は通常100%以下である。
【0019】
ポリ乳酸樹脂の製造方法としては、公知の重合方法を用いることができ、乳酸からの直接重合法、およびラクチドを介する開環重合法などを挙げることができる。
【0020】
ポリ乳酸樹脂の分子量や分子量分布については、実質的に成形加工が可能であれば特に制限されるものではないが、重量平均分子量としては、通常1万以上、好ましくは4万以上、さらに8万以上であることが望ましい。ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミテーションクロマトグラフィーで測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の分子量をいう。
【0021】
ポリ乳酸樹脂の融点は、特に制限されるものではないが、120℃以上であることが好ましく、さらに150℃以上であることが好ましく、特に160℃以上であることが好ましい。ポリ乳酸樹脂の融点は、通常乳酸成分の光学純度を高くすることにより高くなり、融点が120℃以上のポリ乳酸樹脂は、L体が90%以上含まれるかあるいはD体が90%以上含まれることにより、また融点が150℃以上のポリ乳酸樹脂は、L体が95%以上含まれるかあるいはD体が95%以上含まれることにより、得ることができる。
【0022】
本発明に用いられるポリアセタール樹脂は、オキシメチレン単位を主たる繰り返し単位とするポリマーであり、ホルムアルデヒドもしくはトリオキサンを主原料として、重合反応によって得られる、いわゆるポリアセタールホモポリマー、および主としてオキシメチレン単位からなり、主鎖中に2〜8個の隣接する炭素原子を有するオキシアルキレン単位を15重量%以下含有するいわゆるポリアセタールコポリマーのいずれであってもよく、また他の構成単位を含有するコポリマー、つまりブロックコポリマー、ターポリマーおよび架橋ポリマーのいずれであってもよく、これらは1種または2種以上で用いることができるが、熱安定性の観点からはポリアセタールコポリマーであることが好ましい。
【0023】
本発明におけるポリアセタール樹脂の製造方法については特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。ポリアセタールホモポリマーの代表的な製造方法の例としては、高純度のホルムアルデヒドを有機アミン、有機あるいは無機の錫化合物、金属水酸化物のような塩基性重合触媒を含有する有機溶媒中に導入して重合し、重合体を濾別した後、無水酢酸中、酢酸ナトリウムの存在下で加熱してポリマー末端をアセチル化することにより製造する方法などが挙げられる。
【0024】
また、代表的なポリアセタールコポリマーの製造方法の例としては、高純度のトリオキサンおよびエチレンオキシドや1,3−ジオキソランなどの共重合成分をシクロヘキサンのような有機溶媒中に導入し、三弗化ホウ素ジエチルエーテル錯体のようなルイス酸触媒を用いてカチオン重合した後、触媒の失活と末端基の安定化を行うことによる製造する方法、あるいは溶媒を全く使用せずに、セルフクリーニング型撹拌機の中へトリオキサン、共重合成分および触媒を導入して塊状重合した後、さらに不安定末端を分解除去することにより製造する方法などが挙げられる。
【0025】
これらポリアセタール樹脂の粘度は、成形材料として使用できる程度のものであれば特に制限はないが、ASTM D1238法によるメルトインデックス(MI)が測定可能であり、温度190℃、荷重2.16Kgで測定したMIが1.0〜50g/10分の範囲のものであることが好ましく、1.5〜35g/10分のものであることが特に好ましい。
【0026】
また、ポリアセタール樹脂としては、あらかじめ熱安定剤や発生ガス捕捉剤を含有しているものを用いることが好ましく、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、カルシウムリシノレート、シアノグアナジン、ヘキサメチレンビス(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシアナメート)、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、ナイロン6/66、ナイロン66/610/6、ナイロン612/6、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシアナメート)]メタン、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール[3−(3,5−ジ−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]の少なくとも1種が含有されていることが好ましい。
【0027】
なお、ポリアセタール樹脂を用いる場合、特に40重量部以上を用いる場合には、ポリアセタール樹脂の分解が促進されることにより組成物の耐久性を損なうなど、組成物自体の特性に強い影響を与える可能性の高いホルムアルデヒドについては、配合しないことが好ましい。ポリアセタール樹脂自体に含まれるホルムアルデヒドを考慮して、ポリアセタール樹脂に対して、多くとも500ppm未満にとどめておくのが好ましく、250ppm未満とするのがさらに好ましく、100ppm未満とするのが特に好ましい。このようなホルムアルデヒド含有量を達成するには、前述したようにポリアセタールホモポリマーの重合後、ポリマー末端をアセチル化したり、ポリアセタールコポリマーの重合後、不安定末端を分解除去するなどの方法により安定化処理を行ったポリアセタール樹脂を用いることが好ましい。上記樹脂組成物中のホルムアルデヒド含有量は、樹脂組成物を粉砕して得られる粉体1gを、水100ml中、50℃で6時間撹拌して、ホルムアルデヒドを抽出し、アセチルアセトン法で定量することにより測定することができる。
【0034】
また、本発明で使用する耐衝撃改良剤は、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成される、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造重合体であり、メタクリル酸メチル単位またはアクリル酸メチル単位をシェル層に含む多層構造重合体であることが好ましい。このような多層構造重合体としては、アクリル単位を含むことや、酸無水物基および/またはグリシジル基を持つ単位を含むことが好ましく、アクリル単位の好適例としては、メタクリル酸メチル単位、アクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位およびアクリル酸ブチル単位を挙げることができ、酸無水物基やグリシジル基を持つ単位の好適例としては、無水マレイン酸単位やメタクリル酸グリシジル単位を挙げることができる。特に、メタクリル酸メチル単位、アクリル酸メチル単位、無水物マレイン酸単位およびメタクリル酸グリシジル単位から選ばれた少なくとも一つをシェル層に含み、アクリル酸ブチル単位、アクリル酸エチルヘキシル単位、スチレン単位およびブタジエン単位から選ばれた少なくとも一つをコア層に含む多層構造体が好ましく使用される。
【0036】
また、上記耐衝撃改良剤は、実質的にアニオンが検出されないものであることが、ポリアセタール樹脂の安定性の観点から好ましい。
【0037】
そして、上記耐衝撃改良剤のガラス転移温度は、−20℃以下であることが好ましく、−30℃以下であることがさらに好ましい。
【0038】
耐衝撃改良剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、120重量部以下0.5重量部以上であることが好ましく、100重量部以下1重量部以上であることがさらに好ましく、100重量部以下5重量部超であることがさらに好ましく、60重量部以下5重量部超であることが特に好ましい。
【0039】
本発明においては、衝撃強度、成形性、機械特性および耐熱性に優れた組成物が得られることを特徴とするが、ポリ乳酸とポリアセタール樹脂との配合組成によって特に効果を奏する特性が異なる。
【0040】
すなわち、ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、ポリ乳酸樹脂99重量部以下50重量部以上、特に99重量部以下60重量部以上を含有してなる樹脂組成物においては、ポリ乳酸樹脂の特性を改良する点で有用であり、この組成物は特に衝撃特性および成形性の改良効果が特に顕著である。また、この組成物においては、ポリ乳酸樹脂が有する特性を活かして、生分解性を伴ってもかまわない。
【0041】
一方、ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、ポリアセタール樹脂99重量部以下50重量部以上超、特にポリアセタール樹脂99重量部以下60重量部以上を含有してなる樹脂組成物においては、ポリアセタール樹脂の特性を改良することが可能であり、特に衝撃特性の改良と表面外観の改良に効果がある。また、ポリアセタール樹脂はギアなどに好んで用いられるが、本発明の組成物とすることでギア同士の接触音を低減可能である。
【0042】
本発明の樹脂組成物においては、ポリ乳酸樹脂とポリアセタール樹脂とが相溶性配合物となることが好ましい。ここでいう「相溶性」とは、分子レベルで非晶相内に均一相を形成する重合体の混合物を説明するために用いられる。つまり、配合物の一方または両方が結晶相および非晶相の両方を形成する場合、相溶性とは、非晶相が分子レベルで混合していることを意味する。
【0043】
配合物中の相溶性の判断は、いくつかの方法で行うことができる。相溶性について判断する最も一般的な方法は、ガラス転移温度で判断する方法である。相溶性配合物中では、ガラス転移温度が各々単独のものより変化し、多くの場合単一のガラス転移温度を示す。ガラス転移温度の測定方法としては、差動走査熱量計(DSC)で測定する方法、および動的粘弾性試験により測定する方法のいずれも用いることができる。
【0044】
しかしながら、ポリアセタール樹脂は高結晶性であるために、ポリアセタール樹脂の含有量が多い場合には、ガラス転移温度が不明確になるという問題がある。この場合の相溶性の判断としては、ポリアセタール樹脂の結晶化温度を用いることができる。すなわち、ポリアセタール樹脂がそれ自体よりも結晶化速度の遅い樹脂と相溶性配合物を形成した場合には、ポリアセタール樹脂の結晶化速度が単体の場合よりも低下するからである。したがって、この結晶化速度の低下を、DSCで測定した降温時の結晶化温度で判断することができる。
【0045】
例えば、Polymer 38(25),6135−6143(1997)には、脂肪族ポリエステルであるポリ(3−ヒドロキシブチレート)とポリメチレンオキサイド(ポリアセタール)のブレンドが非相溶性であることが報告されているが、この場合、DSCで測定した組成物中のポリアセタールの降温時の結晶化温度は、ポリアセタール単体の結晶化温度とほとんど変わらないことが示されている。一方、上記非特許文献3には、ポリアセタールとポリビニルフェノールが相溶性であることが報告されているが、この場合、組成物中のポリアセタールの降温時の結晶化温度が、ポリアセタール単体の結晶化温度に比べて、低下することが示されている。
【0046】
本発明の樹脂組成物では、樹脂組成物中のポリアセタール樹脂の降温時の結晶化温度が、ポリアセタール樹脂単独の結晶化温度よりも低い温度を示す。好ましい結晶化温度の低下は組成によって異なる。そして、この結晶化温度は、用いるポリ乳酸樹脂の光学純度が高くなると、低下の程度が大きくなる傾向にある。
【0047】
ポリ乳酸樹脂とポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、ポリ乳酸樹脂99重量部以下60重量部超およびポリアセタール樹脂1重量部以上40重量部未満を配合する場合には、DSCにより降温速度20℃/分で測定したポリアセタール樹脂の結晶化温度の低下が5℃以上であることが好ましく、7℃以上であることがさらに好ましく、10℃以上であることが特に好ましい。ポリ乳酸樹脂とポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、ポリ乳酸樹脂60〜40重量部およびポリアセタール樹脂40〜60重量部を配合する場合には、DSCにより降温速度20℃/分で測定したポリアセタール樹脂の結晶化温度の低下は2℃以上であることが好ましく、4℃以上であることがさらに好ましい。ポリ乳酸樹脂とポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、ポリ乳酸樹脂40重量部未満1重量部以上およびポリアセタール樹脂60重量部超99重量部以下を配合した場合には、DSCにより降温速度20℃/分で測定したポリアセタール樹脂の結晶化温度の低下は0.2℃以上であることが好ましく、0.5℃以上であることがさらに好ましく、1℃以上であることが特に好ましい。
【0048】
本発明の樹脂組成物に対しては、さらに強化剤(ガラス繊維、炭素繊維、天然繊維、有機繊維、セラミックスファイバー、セラミックビーズ、アスベスト、ワラステナイト、タルク、クレイ、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト、木粉、紙粉および白土など)を含有することが好ましく、中でもマイカ、タルク、カオリン、クレイから選ばれる強化剤の少なくとも1種を含有することが好ましい。マイカ、タルク、カオリン、クレイの平均粒径は10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがさらに好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。また、上記強化剤は、アミノシランやエポキシシランなどのカップリング剤などで処理または各種有機物で修飾処理されていることが好ましい。
【0049】
本発明の樹脂組成物に対して、本発明の目的を損なわない範囲で安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、滑剤、離形剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、アンチモン化合物など)、染料や顔料を含む着色剤、および核化剤などを添加することができる。
【0050】
また、本発明の樹脂組成物に対しては、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂(例えばポリアミド、アクリル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミドなど)および熱硬化性樹脂(例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など)の1種以上をさらに含有させることができる。
【0051】
本発明の樹脂組成物の製造方法については特に限定されるものではないが、例えばポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂、耐衝撃改良剤および必要に応じてその他の添加剤を予めブレンドした後、樹脂の融点以上において、1軸または2軸押出機を用いて均一に溶融混練する方法や、溶液中で混合した後に溶媒を除く方法などが好ましく用いられる。
【0052】
本発明の樹脂組成物は、独特の特性を持つ組成物であり、射出成形や押出成形などの方法によって、各種成形品に加工し利用することができる。射出成形する場合の金型温度としては、結晶化の観点から、30℃以上が好ましく、60℃以上がさらに好ましく、80℃以上がさらに好ましく、試験片の変形の観点から、120℃以下が好ましく、110℃以下がさらに好ましく、100℃以下がさらに好ましい。
【0053】
上記の樹脂組成物から得られる本発明の成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フイルム、繊維およびシートなどが挙げられ、未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムなどの各種フイルム、および未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種繊維として、いずれも好適に利用することができる。また、これらの成形品は、電気・電子部品(各種ハウジング、歯車、ギアなど)、建築部材、土木部材、農業資材、自動車部品(内装・外装部品など)および日用品など各種用途に利用することができる。
【0054】
【実施例】
以下に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
[参考実施例1〜2、実施例1〜4、比較例1〜7]
D体の含有量が1.2%であり、PMMA換算の重量平均分子量が16万であるポリL乳酸樹脂(A−1)またはD体の含有量が1%であり、PMMA換算の重量平均分子量が20万であるポリL乳酸樹脂(A−2)、ASTM D1238法、190℃、2.16Kg荷重で測定したメルトインデックス値が27g/10分であり融点が170℃であるポリアセタールコポリマー(東レ株式会社製アミラスS731)(B−1)または190℃で測定したメルトインデックス値が9g/10分であり融点が170℃であるポリアセタールコポリマー(東レ株式会社製アミラスS761)(B−2)、および下記に示した各種耐衝撃改良剤を、それぞれ表1に示した割合で混合し、30mm径の2軸押出機により、シリンダー温度210℃、回転数150rpmの条件で溶融混練を行い、樹脂組成物を得た。
【0055】
なお、表1における耐衝撃改良剤の符号は、次の内容を示すものである。
【0056】
C−1:エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学社製ボンド
ファーストE)
C−2:エチレン/エチルアクリレート共重合体(三井デュポンケミカル社製
エバフレックスA709)
C−3:コアシェル型エラストマー(鐘淵化学社製カネエースM−511)
C−4:コアシェル型エラストマー(三菱レイヨン社製メタブレンKS020
5)
得られた樹脂組成物について、ガラス転移温度(Tg)およびポリアセタール樹脂の降温時の結晶化温度(Tc)を、差動走査熱量計(DSC)を用い、昇降温速度20℃/分で測定した結果を表1に併せて示す。
【0057】
また、得られた樹脂組成物について、シリンダー温度210℃、金型温度40℃で射出成形を行った。このとき、成形時の試験片の変形を目視で観察した。また、得られた試験片を用い、ASTM法D638に準じて引張試験を、ASTM法D256に準じてアイゾット衝撃試験を行った。さらに、試験片を80℃で1時間熱処理した場合の変形を目視で観察した。これらの結果を表1に併せて示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1の結果から明らかなように、本発明の樹脂組成物は、参考実施例および比較例に示したものよりも、高い衝撃強度を示しており、成形時や熱処理時の変形も少なく、優れた衝撃強度、成形性、機械特性および耐熱性を有している。
[実施例5〜10、比較例8〜12]
D体の含有量が1.2%であり、PMMA換算の重量平均分子量が16万であるポリL乳酸樹脂(A−1)、ASTM D1238法、190℃、2.16Kg荷重で測定したメルトインデックス値が27g/10分であり融点が170℃であるポリアセタールコポリマー(東レ株式会社製アミラスS731)(B−1)、および下記に示した耐衝撃改良剤、強化材を、それぞれ表2に示した割合で混合し、30mm径の2軸押出機により、シリンダー温度210℃、回転数150rpmの条件で溶融混練を行い、樹脂組成物を得た。
【0060】
なお、表2における耐衝撃改良剤、強化剤の符号は、次の内容を示すものである。
【0061】
C−1:エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学社製ボンドファーストE)
C−5:コアシェル型エラストマー(三菱レイヨン社製メタブレンS200 1)
D−1:マイカ(山口雲母工業所社製、21PU、平均粒径6μm)
D−2:タルク(富士タルク社製、LMS100、平均粒径2μm)
D−3:タルク(富士タルク社製、NK−48、平均粒径12μm)
D−4:カオリン(エンゲルハルド社製、トランスリンク445、平均粒径2μm)
D−5:クレイ(サザンクレイ社製、クロイサイト30B)
得られた樹脂組成物について、ガラス転移温度(Tg)およびポリアセタール樹脂の降温時の結晶化温度(Tc)を、差動走査熱量計(DSC)を用い、昇降温速度20℃/分で測定した結果を表2に併せて示す。
【0062】
また、得られた樹脂組成物について、シリンダー温度210℃、金型温度80℃で射出成形を行った。このとき、成形時の試験片の変形を目視で観察した。また、得られた試験片を用い、ASTM法D638に準じて引張試験を、ASTM法D256に準じてアイゾット衝撃試験を、ASTM法D648に準じて熱変形温度測定(荷重0.45MPa)を行った。これらの結果を表2に併せて示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2の結果から明らかなように、本発明の樹脂組成物は、比較例に示したものよりも、高い衝撃強度と耐熱性を示しており、優れた衝撃強度、成形性、機械特性および耐熱性を有している。
[実施例13、14、比較例13〜15]
D体の含有量が1.2%であり、PMMA換算の重量平均分子量が16万であるポリL乳酸樹脂(A−1)、ASTM D1238法、190℃、2.16Kg荷重で測定したメルトインデックス値が27g/10分であり融点が170℃であるポリアセタールコポリマー(東レ株式会社製アミラスS731)(B−1)、および熱可塑性ポリウレタンエラストマー(日本ミラクトラン社製ミラクトランE380)(C−6)を表3に示した割合で混合し、30mm径の2軸押出機により、シリンダー温度210℃、回転数150rpmの条件で溶融混練を行い、樹脂組成物を得た。
【0069】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の樹脂組成物は、優れた衝撃強度、成形性、機械特性および耐熱性を有するものであり、この樹脂組成物からなる本発明の成形品は、上記の特性を生かして、電気・電子部品、建築部材、土木部材、農業資材、自動車部品および日用品など各種用途に有効に利用することができる。
Claims (11)
- ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂ならびに、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成される多層構造重合体である耐衝撃改良剤を含有してなることを特徴とする樹脂組成物。
- 前記ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、前記ポリ乳酸樹脂の含有量が99重量部以下50重量部以上であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
- 前記ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、前記ポリアセタール樹脂の含有量が99重量部以下50重量部超であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
- 前記ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、前記耐衝撃改良剤の含有量が120重量部以下0.5重量部以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
- 樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂とポリアセタール樹脂が相溶化していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
- 樹脂組成物のポリアセタール樹脂由来の降温時の結晶化温度が、用いたポリアセタール樹脂単独の降温時の結晶化温度よりも低い温度であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
- 前記ポリアセタール樹脂がポリアセタールコポリマーであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
- 前記耐衝撃改良剤がメタクリル酸メチル単位および/またはアクリル酸メチル単位を含む重合体からなるシェル層を有する多層構造重合体であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
- 前記ポリ乳酸樹脂が、総乳酸成分の内、L体が80%以上含まれるかあるいはD体が80%以上含まれることまたは/および分子量が4万以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
- さらに、マイカ、タルク、カオリン、クレイから選ばれた強化剤の少なくとも一種を含有してなることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
- 請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする成形品。
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