JP4306258B2 - 樹脂組成物ならびにそれからなる成形品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂および結晶化促進剤を配合してなり、成形性、耐ブリードアウト性および耐熱性に優れた樹脂組成物およびそれからなる成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリ乳酸樹脂は、高い融点を持ち、また溶融成形可能であることから、実用上優れた生分解性ポリマーとして期待されている。しかしながら、ポリ乳酸樹脂は、結晶化速度が遅いため、結晶化させて成形品として用いるには限界があった。例えば、ポリ乳酸樹脂を射出成形する場合には、長い成形サイクル時間や成形後の熱処理を必要とすること、および成形時や熱処理時の変形が大きいことなどの実用上の大きな問題があった。
【0003】
ポリ乳酸樹脂の成形性を改良するための方法の一つとして、結晶化促進剤を添加する方法が従来から検討されてはいるが、それによる改良効果はいまだに十分ではないという問題があった。また、結晶化促進剤として可塑剤を使用した場合には、熱処理時における可塑剤のブリードアウトやポリマ自体の脆化などを生じるという問題があった。
【0004】
一方、2種またはそれ以上のポリマーを配合して用いる技術は、ポリマーアロイとして広く知られており、このポリマーアロイは個々のポリマーの欠点を改良する目的で広く利用されている。しかしながら、2種以上のポリマーを混合した場合、多くはポリマー同士の分散性が悪く、ペレットや成形品の形状に加工できなかったり、劣った特性を示す傾向となる。
【0005】
しかし、まれに2種のポリマーが均一な非晶相を形成する場合があり、この種のものは一般に相溶性または混和性のポリマーアロイとして、透明性など優れた特性を示すことが期待されているが、その例は少ない。
【0006】
ポリ乳酸樹脂と相溶性のあるポリマーとしては、ポリエチレングリコール(例えば、非特許文献1参照)や、ポリメチルメタクリレート(例えば、非特許文献2参照)が知られているが、これらのポリマーを混合した場合には、ポリ乳酸樹脂の結晶性が大きく低下してしまうという問題があった。
【0007】
また、ポリアセタール樹脂と相溶性のあるポリマーとしては、ポリビニルフェノール(例えば、非特許文献3参照)が知られているが、ポリビニルフェノールは分子量が一般に低いことから、この場合には混合後の樹脂物性が低下するという問題があった。
【0008】
【非特許文献1】
Polymer 37(26),5849−5857頁(1996)
【非特許文献2】
Polymer 39(26),6891−6897頁(1998)
【非特許文献3】
Polymer 33(4),760−766頁(1992)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、その目的とするところは、成形性、耐ブリードアウト性および耐熱性に優れた樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂および結晶化促進剤を配合してなる樹脂組成物が、上記の目的に合致した優れた特性を発揮することを見い出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂ならびに、結晶核剤および可塑剤からなる結晶化促進剤を含有してなり、(1)前記結晶核剤が、タルクおよび有機カルボン酸金属塩から選択された少なくとも一種の結晶核剤であり、(2)前記可塑剤が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロックおよび/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体から選ばれる少なくとも1種のポリアルキレングリコール系可塑剤およびポリ乳酸とポリアルキレングリコール系可塑剤との共重合体から選択された少なくとも一種の可塑剤であることを特徴とする。
【0012】
なお、本発明の樹脂組成物においては、
前記ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、前記結晶化促進剤の配合量が30重量部以下0.01重量部以上であること、
前記ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、前記ポリ乳酸樹脂の配合量が99重量部以下50重量部以上であること、
前記ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、前記ポリ乳酸樹脂の配合量が99重量部以下60重量部以上であること、
樹脂組成物中の前記ポリ乳酸樹脂とポリアセタール樹脂とが相溶化していること、
樹脂組成物のポリアセタール樹脂由来の降温時の結晶化温度が、用いたポリアセタール樹脂単独の降温時の結晶化温度よりも低い温度であること、および
前記ポリアセタール樹脂がポリアセタールコポリマーであること
がいずれも好ましい条件であり、これらの条件を適用することにより、一層優れた効果の取得を期待することができる。
【0013】
また、本発明の成形品は、上記に記載のいずれかの樹脂組成物からなることを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明に用いられるポリ乳酸樹脂とは、L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる構成成分とするポリマーであるが、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。ここでいう他のモノマー単位の具体例としては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸および5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸およびヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトンおよび1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類などを挙げることができる。このような共重合成分は、全単量体成分中、通常30モル%以下の含有量とするのが好ましく、10モル%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、相溶性の点から、乳酸成分の光学純度が高いポリ乳酸樹脂を用いることが好ましい。すなわち、ポリ乳酸樹脂の総乳酸成分の内、L体が70%以上含まれるか、あるいはD体が70%以上含まれることが好ましく、L体が80%以上含まれるか、あるいはD体が80%以上含まれることが特に好ましく、L体が90%以上含まれるか、あるいはD体が90%以上含まれることがさらに好ましく、L体が98%以上含まれるかあるいはD体が98%以上含まれることが更に好ましい。また、L体またはD体の含有量の上限は通常100%以下である。
【0017】
ポリ乳酸樹脂の製造方法としては、公知の重合方法を用いることができ、乳酸からの直接重合法およびラクチドを介する開環重合法などを挙げることができる。
【0018】
ポリ乳酸樹脂の分子量や分子量分布については、実質的に成形加工が可能であれば特に制限されるものではないが、重量平均分子量としては、通常1万以上、好ましくは4万以上、さらに8万以上であることが望ましい。ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミテーションクロマトグラフィーで測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の分子量をいう。
【0019】
ポリ乳酸樹脂の融点については、特に制限されるものではないが、120℃以上であることが好ましく、さらに150℃以上であることが好ましく、特に160℃以上であることが望ましい。
【0020】
本発明に用いられるポリアセタール樹脂は、オキシメチレン単位を主たる繰り返し単位とするポリマーであり、ホルムアルデヒドもしくはトリオキサンを主原料として、重合反応によって得られる、いわゆるポリアセタールホモポリマー、あるいは主としてオキシメチレン単位からなり、主鎖中に2〜8個の隣接する炭素原子を有するオキシアルキレン単位を15重量%以下含有するいわゆるポリアセタールコポリマーのいずれであってもよく、また他の構成単位を含有するコポリマー、すなわち、ブロックコポリマー、ターポリマー、架橋ポリマーのいずれであってもよく、これらは1種または2種以上で用いることができるが、熱安定性の観点からはポリアセタールコポリマーであることが好ましい。
【0021】
本発明におけるポリアセタール樹脂の製造方法については特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。ポリアセタールホモポリマーの代表的な製造方法の例としては、高純度のホルムアルデヒドを有機アミン、有機あるいは無機の錫化合物、金属水酸化物のような塩基性重合触媒を含有する有機溶媒中に導入して重合し、重合体を濾別した後、無水酢酸中、酢酸ナトリウムの存在下で加熱してポリマー末端をアセチル化して製造する方法などが挙げられる。
【0022】
また、代表的なポリアセタールコポリマーの製造方法としては、高純度のトリオキサンおよびエチレンオキシドや1,3−ジオキソランなどの共重合成分を、シクロヘキサンのような有機溶媒中に導入し、三弗化ホウ素ジエチルエーテル錯体のようなルイス酸触媒を用いてカチオン重合した後、触媒の失活と末端基の安定化を行うことによる製造法、あるいは溶媒を全く使用せずに、セルフクリーニング型撹拌機の中へ、トリオキサン、共重合成分および触媒を導入して塊状重合した後、さらに不安定末端を分解除去することにより製造する方法などが挙げられる。
【0023】
これらポリアセタール樹脂の粘度については、成形材料として使用できる程度のものであれば特に制限はないが、ASTM D1238法によるメルトインデックス(MI)が測定可能であり、温度190℃、荷重2.16Kgで測定したMIが1.0〜50g/10分の範囲のものであることが好ましく、1.5〜35g/10分のものであることが特に好ましい。
【0024】
また、ポリアセタール樹脂としては、あらかじめ熱安定剤や発生ガス捕捉剤を含有しているものを用いることが好ましく、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、カルシウムリシノレート、シアノグアナジン、ヘキサメチレンビス(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシアナメート)、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、ナイロン6/66、ナイロン66/610/6、ナイロン612/6、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシアナメート)]メタン、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール[3−(3,5−ジ−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]の少なくとも1種が含有されていることが好ましい。
【0025】
なお、ポリアセタール樹脂の分解が促進されることにより組成物の耐久性を損なうなどの組成物自体の特性に強い影響を与える可能性の高いホルムアルデヒドは、多くともポリアセタール樹脂に対して、500ppm未満にとどめておくのが好ましく、さらに250ppm未満にとどめておくことが好ましく、さらに100ppm未満にとどめておくことが好ましい。このようなホルムアルデヒド含有量を達成するには、前述したようにポリアセタールホモポリマーの重合後、ポリマー末端をアセチル化したり、ポリアセタールコポリマーの重合後、不安定末端を分解除去するなどの方法により安定化処理を行ったポリアセタール樹脂を用いることが好ましい。上記樹脂組成物中のホルムアルデヒド含有量は、樹脂組成物を粉砕して得られる粉体1gを、水100ml中、50℃で6時間撹拌して、ホルムアルデヒドを抽出し、アセチルアセトン法で定量することにより測定することができる。
【0026】
本発明で使用する結晶化促進剤は、多種類の化合物から選択することができるが、ポリマーの結晶核の形成を促進する結晶核剤およびポリマーを柔軟化して動きやすく結晶の成長を促進する可塑剤を使用する。
【0027】
本発明で使用する結晶化促進剤の配合量は、ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、30重量部以下0.01重量部以上であることが好ましく、20重量部以下0.05重量部以上であることがさらに好ましく、10重量部以下0.1重量部以上がさらに好ましく、5重量部以下0.1重量部以上がさらに好ましい。
【0028】
本発明で結晶化促進剤として使用する結晶核剤としては、無機系結晶核剤および有機系結晶核剤のいずれをも使用することができる。無機系結晶核剤の具体例としては、タルクを挙げることができる。これらの無機系結晶核剤は、組成物中での分散性を高めるために、有機物で修飾されていることが好ましい。無機系結晶核剤の平均粒径は10μm以下が好ましく、5μm以下がさらに好ましく、3μm以下が特に好ましい。
【0029】
また、有機系結晶核剤の具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、シュウ酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩を挙げることができる。
【0030】
本発明で使用する好ましいタルクとしては、平均粒径0.5〜7μmであり、かつ燃焼時の損失分を除いた成分中のSiO2とMgOの割合が93重量%以上であるタルクを挙げることができる。本発明で使用する結晶核剤は、1種のみでもよくまた2種以上の併用を行ってもよい。
【0031】
また、結晶核剤の配合量は、ポリ乳酸樹脂とポリアセタール樹脂の合計100重量部に対して、0.01〜30重量部の範囲が好ましく、0.05〜10重量部の範囲がより好ましく、0.1〜5重量部の範囲がさらに好ましい。
【0032】
本発明で使用する可塑剤としては、一般によく知られているものを使用することができ、例えばポリアルキレングリコール系可塑剤を挙げることができる。
【0037】
ポリアルキレングリコール系可塑剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロックおよび/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのポリアルキレングリコールあるいはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物、および末端エーテル変性化合物などの末端封鎖化合物などを挙げることができる。
【0040】
本発明で使用する可塑剤の分子量は、100以上3万以下であることが好ましく、500以上2万以下であることがさらに好ましく、1000以上1万以下であることが特に好ましい。
【0041】
また、上記の可塑剤にポリ乳酸をブロックまたはグラフト共重合したものも、可塑剤として有用に使用できる。
【0042】
本発明で使用する可塑剤としては、上記に例示したもののなかでも、特にポリアルキレングリコール系可塑剤から選択した少なくとも1種が好ましい。また、ポリ乳酸とポリアルキレングリコール系可塑剤の共重合体から選択された少なくとも1種も好ましく使用できる。本発明に使用する可塑剤は、1種のみでもよくまた2種以上の併用を行ってもよい。
【0043】
また、可塑剤の配合量は、ポリ乳酸樹脂とポリアセタール樹脂の合計100重量部に対して、0.01〜30重量部の範囲が好ましく、0.1〜20重量部の範囲がより好ましく、0.5〜10重量部の範囲がさらに好ましく、0.1重量部〜5重量部の範囲がさらに好ましい。
【0044】
本発明においては、結晶核剤と可塑剤を併用して用いる。中でも、タルク、有機カルボン酸金属塩から選択された少なくとも1種とポリアルキレングリコール系可塑剤、ポリ乳酸とポリアルキレングリコール系可塑剤の共重合体から選択された少なくとも1種を併用することが好ましい。
【0045】
本発明においては、成形性、耐ブリードアウト性および耐熱性に優れた樹脂組成物が得られることを特徴とするが、ポリ乳酸とポリアセタール樹脂との配合組成によって奏する特性が異なる。すなわち、ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、ポリ乳酸樹脂99重量部以下50重量部以上、特に99重量部以下60重量部以上を配合してなる樹脂組成物においては、ポリ乳酸樹脂の特性を改良する点で有用であり、この樹脂組成物は、成形性、耐ブリードアウト性および耐熱性の改良に特に効果がある。また、この組成においては、ポリ乳酸が有する特性を活かして生分解性を伴ってもかまわない。
【0046】
また、ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、ポリアセタール樹脂99重量部以下50重量部以上、特にポリアセタール樹脂99重量部以下60重量部以上を配合してなる樹脂組成物においては、ポリアセタール樹脂の特性を改良することが可能であり、特に加工性や柔軟性の改良に効果がある。
【0047】
本発明の樹脂組成物においては、ポリ乳酸樹脂とポリアセタール樹脂とが相溶化していることが好ましい。ここでいう「相溶化」とは、分子レベルで非晶相内に均一相を形成する重合体の混合物を形成することを説明するために用いられる。つまり、配合物の一方または両方が結晶相および非晶相の両方を形成する場合、相溶性とは、非晶相が分子レベルで混合していることを意味する。
【0048】
配合物中の相溶性の判断は、いくつかの方法で行うことができる。相溶性について判断する最も一般的な方法は、ガラス転移温度で判断する方法である。相溶性配合物中では、ガラス転移温度が各々単独のものより変化し、多くの場合、単一のガラス転移温度を示す。ガラス転移温度の測定方法としては、差動走査熱量計(DSC)で測定する方法、および動的粘弾性試験により測定する方法のいずれをも用いることができる。
【0049】
しかしながら、ポリアセタール樹脂は高結晶性であるために、ポリアセタール樹脂の含有量が多い場合には、ガラス転移温度が不明確になるという問題がある。この場合、相溶性の判断としては、ポリアセタール樹脂の結晶化温度を用いることができる。すなわち、ポリアセタール樹脂がそれ自体よりも結晶化速度の遅い樹脂と相溶性配合物を形成した場合には、ポリアセタール樹脂の結晶化速度が単体の場合よりも低下するからである。したがって、この結晶化速度の低下を、DSCで測定した降温時の結晶化温度で判断することができる。
【0050】
例えば、Polymer 38(25),6135−6143(1997)には、脂肪族ポリエステルであるポリ(3−ヒドロキシブチレート)とポリメチレンオキサイド(ポリアセタール)のブレンドが非相溶性であることが報告されているが、この場合、DSCで測定した組成物中のポリアセタールの降温時の結晶化温度は、ポリアセタール単体の結晶化温度とほとんど変わらないことが示されている。
【0051】
一方、上記非特許文献3には、ポリアセタールとポリビニルフェノールが相溶性であることが報告されているが、この場合、組成物中のポリアセタールの降温時の結晶化温度が、ポリアセタール単体の結晶化温度に比べて、低下することが示されている。
【0052】
本発明の樹脂組成物では、樹脂組成物中のポリアセタール樹脂の降温時の結晶化温度が、ポリアセタール樹脂単独の結晶化温度よりも低い温度を示す。好ましい結晶化温度の低下は組成によって異なる。そして、この結晶化温度は、用いるポリ乳酸樹脂の光学純度が高くなると、低下の程度が大きくなる傾向にある。
【0053】
ポリ乳酸樹脂とポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、ポリ乳酸樹脂99重量部以下60重量部超およびポリアセタール樹脂1重量部以上40重量部未満を配合する場合には、DSCにより降温速度20℃/分で測定したポリアセタール樹脂の結晶化温度の低下が5℃以上であることが好ましく、7℃以上であることがさらに好ましく、10℃以上であることが特に好ましい。ポリ乳酸樹脂とポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、ポリ乳酸樹脂60〜40重量部およびポリアセタール樹脂40〜60重量部を配合する場合には、DSCにより降温速度20℃/分で測定したポリアセタール樹脂の結晶化温度の低下は2℃以上であることが好ましく、4℃以上であることがさらに好ましい。ポリ乳酸樹脂とポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、ポリ乳酸樹脂40重量部未満1重量部以上およびポリアセタール樹脂60重量部超99重量部以下を配合した場合には、DSCにより降温速度20℃/分で測定したポリアセタール樹脂の結晶化温度の低下は0.2℃以上であることが好ましく、0.5℃以上であることがさらに好ましく、1℃以上であることが特に好ましい。
【0054】
また、相溶性配合物からフイルムを作成する場合、光学的に透明なフィルムが得られるのに対して、非相溶性の配合物から作成したフイルムは、一般的に不透明である。よって、この方法もまた、相溶性の判断として用いることができる。しかしながら、結晶性樹脂を用いる場合には、結晶化により不透明になる場合があるため、フイルムが不透明であるからといって、非相溶性であることを示しているわけではないが、本発明においては、ポリ乳酸樹脂の含有量が比較的多い場合には、相溶性の判断として有効である。
【0055】
例えば、本発明の樹脂組成物において、ポリ乳酸樹脂の含有量が多い領域では、例えば0℃に急冷することにより、膜厚100μm程度で実質的に透明のフイルムを形成することができ、さらには、膜厚100μmで90%以上の光線透過率を有するフイルムを形成することができる。
【0056】
また、このようにして得られた実質的に透明なフイルムは、相溶化しているポリマー量が多いため、靱性に優れ、延伸などの後加工性に優れるという特徴がある。また、これと同様のことは、繊維などの他の成形品の場合にもにも当てはまる。
【0057】
本発明の樹脂組成物に対しては、本発明の目的を損なわない範囲で、充填剤(ガラス繊維、炭素繊維、天然繊維、有機繊維、セラミックスファイバー、セラミックビーズ、アスベスト、ワラステナイト、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト、白土、木粉、紙粉など)、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、滑剤、離形剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、アンチモン化合物、メラミン化合物など)、染料および顔料を含む着色剤などを添加することができる。
【0058】
また、本発明の樹脂組成物に対しては、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂(例えばポリオレフィン、ポリアミド、アクリル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミドおよびポリエーテルイミドなど)および熱硬化性樹脂(例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂およびエポキシ樹脂など)、および軟質熱可塑性樹脂(例えばエチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体などの軟質ポリオレフィン系ポリマー、ポリエステルエラストマーおよびポリアミドエラストマーなど)などの少なくとも1種以上をさらに含有させることができる。
【0059】
本発明の樹脂組成物は、独特の特性を持つ組成物であり、射出成形や押出成形などの方法によって、各種成形品に加工して利用することができる。射出成形する場合の金型温度としては、結晶化の観点から、30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましく、試験片の変形の観点からは、140℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましく、110℃以下がさらに好ましい。
【0060】
本発明の樹脂組成物からなる成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フイルム、繊維およびシートなどが挙げられ、フイルムの場合には、未延伸、一軸延伸、二軸延伸などの各種フイルムとして、繊維の場合には、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種繊維として利用することができる。
【0061】
また、これら本発明の成形品、フィルムおよび繊維などは、電気・電子部品(各種ハウジング、歯車、ギアなど)、建築部材、土木部材、農業資材、自動車部品(自動車内装・外装部品など)および日用品など各種用途に利用することができる。
【0062】
次に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
[実施例1〜6、比較例1〜15]
D体の含有量が2%であり、PMMA換算の重量平均分子量が17万であるポリL乳酸樹脂、ASTM D1238法、荷重2.16Kg、190℃で測定したメルトインデックス値が27g/10分であり、融点が170℃であるポリアセタールコポリマー(東レ株式会社製アミラスS731)、表1に示した各種結晶化促進剤を、それぞれ表1および表2に示した割合で混合し、40mm径の1軸押出機で、温度210℃、回転数50rpmの条件で溶融混練を行うことにより樹脂組成物を得た。
【0063】
ここで使用した結晶化促進剤の内容は下記の通りである。
【0064】
A−1:ポリエチレングリコール(片山化学社製、分子量2000)
A−2:ポリブチレンアジペート(三洋化成社製、分子量1000)
A−3:ネオペンチルグリコールジベンゾエート(片山化学社製)
A−4:ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合体(旭電化社製、プルロニックF68)
A−5:ポリエチレングリコール−ポリ乳酸ブロック共重合体
B−1:タルク(富士タルク社製、LMS300、平均粒径1.4μm)
B−2:合成マイカ(コープケミカル社製 ME−100、平均粒径6μm)
B−3:ステアリン酸バリウム(片山化学社製)
B−4:エチレンビスラウリル酸アミド(日本化成社製、スリパックスL)
なお、A−5のポリエチレングリコール−ポリ乳酸ブロック共重合体は下記製造例1の方法で製造した。
(製造例1)
平均分子量10000のポリエチレングリコール71重量部とL−ラクチド29重量部に対し、オクチル酸錫0.025重量部を混合し、撹拌装置付きの反応容器中で窒素雰囲気中140℃で30分間、180℃で60分間重合し、平均分子量2,000のポリ乳酸セグメントを有する、ポリエチレングリコールとポリ乳酸のブロック共重合物を得た。
【0065】
得られた樹脂組成物について、ガラス転移温度(Tg)、ポリアセタール樹脂の降温時の結晶化温度(Tc)を、差動走査熱量計(DSC)を用い、昇降温速度20℃/分の条件で測定した。なお、ポリアセタール樹脂単独の降温時の結晶化温度は140℃であった。これらの結果を表1および表2に示す。
【0066】
また、得られた樹脂組成物を、シリンダー温度210℃、表1および表2に示した金型温度の条件で射出成形を行い試験片を得た。得られた試験片について、ASTM法D638に準じて引張強度を、ASTM法D648に準じて熱変形温度(荷重0.45MPa)を、それぞれ測定を行った。また、試験片を140℃で10時間熱処理した後に、試験片の引張強度を測定し、試験片表面のブリードアウトの様子、試験片の変形を目視で観察した。結果を表1および表2に併せて示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
表1および表2の結果から明らかなように、本発明の樹脂組成物およびそれからなる成形品は、優れた成形性、耐ブリードアウト性および耐熱性を有している。
【0070】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の樹脂組成物は、成形性、耐ブリードアウト性および耐熱性に優れており、この樹脂組成物からなる成形品は、これらの優れた特性を生かして、電気・電子部品、建築部材、土木部材、農業資材、自動車部品および日用品など各種用途に利用することができる。
Claims (9)
- ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂ならびに、結晶核剤および可塑剤からなる結晶化促進剤を含有してなり、(1)前記結晶核剤が、タルクおよび有機カルボン酸金属塩から選択された少なくとも一種の結晶核剤であり、(2)前記可塑剤が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロックおよび/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体から選ばれる少なくとも1種のポリアルキレングリコール系可塑剤およびポリ乳酸とポリアルキレングリコール系可塑剤との共重合体から選択された少なくとも一種の可塑剤であることを特徴とする樹脂組成物。
- 前記ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、前記結晶化促進剤の配合量が30重量部以下0.01重量部以上であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
- 前記ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、前記ポリ乳酸樹脂の配合量が99重量部以下50重量部以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
- 前記ポリ乳酸樹脂およびポリアセタール樹脂の合計を100重量部としたときに、前記ポリ乳酸樹脂の配合量が99重量部以下60重量部以上であることを特徴とする請求項3に記載の樹脂組成物。
- 樹脂組成物中の前記ポリ乳酸樹脂とポリアセタール樹脂とが相溶化していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
- 樹脂組成物のポリアセタール樹脂由来の降温時の結晶化温度が、用いたポリアセタール樹脂単独の降温時の結晶化温度よりも低い温度であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
- 前記ポリアセタール樹脂がポリアセタールコポリマーであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
- ポリ乳酸樹脂が、ポリ乳酸樹脂の総乳酸成分の内、L体が98%以上含まれるかあるいはD体が98%以上含まれるものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする成形品。
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