JP4227819B2 - 接触冷感に優れた繊維、生地及び肌着 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、官能レベルで充分な接触冷感を実感でき、風合いや肌触りに優れ肌着等に用いることができる接触冷感に優れた繊維、これを用いてなる生地及び肌着に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、夏季用の肌着として、着用時にヒヤリとした感覚を惹起し、清涼感を与える接触冷感に優れた繊維を用いたものが研究されている。
このような接触冷感に優れた繊維を得る方法としては、従来は、例えば、繊維の吸水性を向上させたり、繊維の熱伝導性を向上させたりする方法等が行われていた。
【0003】
吸水性を向上させた繊維としては、例えば、カルボキシル基や水酸基等の親水性基を導入した樹脂からなる繊維等が挙げられる。
熱伝導性を向上させた繊維としては、例えば、熱伝導性の高いフィラーを練り込んだ樹脂からなる繊維や表面にメッキ処理を施した繊維等が挙げられる。
しかし、このような繊維を用いた場合、確かに理論的には接触冷感が得られることが期待できるものの、実際にヒトによる官能試験を行うと、ほとんど未処理のものと変わるところがなく、接触冷感を実感できることはなかった。
【0004】
特許文献1には、吸水性ポリマーを内包した多孔質無機粉末粒子を繊維に把持させてなる接触冷感作用を備えた繊維が開示されている。この繊維は確かに実感できるレベルの接触冷感を有する。しかしながら、充分な接触冷感を得るためには大量の多孔質無機粉末粒子を含有させる必要があり、その結果、風合いや肌触りに悪影響がでて肌着等に用いることはできないものであった。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−235278号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑み、官能レベルで充分な接触冷感を実感でき、風合いや肌触りに優れ肌着等に用いることができる接触冷感に優れた繊維、これを用いてなる生地及び肌着を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、式(1)で表されるポリエーテルブロックアミド共重合体のみからなり、qmax値が0.2J/sec/cm2以上である接触冷感に優れた繊維のみを用いてなる肌着である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明の接触冷感に優れた繊維は、熱可塑性エラストマーを含有する。
本発明者らは、鋭意検討の結果、熱可塑性エラストマーを紡糸して得た繊維が接触冷感に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記熱可塑性エラストマーとしてはとしては特に限定されないが、ポリアミド系エラストマー及び/又はポリエステル系エラストマーが好適である。
【0009】
上記ポリアミド系エラストマーとしては特に限定されず、例えば、ポリエーテルブロックアミド共重合体、ポリエーテルアミド共重合体、ポリエステルアミド共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
これらのポリアミド系エラストマーのうち市販されているものとしては、例えば、ペバックス(アトフィナ・ジャパン社製)、UBEナイロン(宇部興産社製)、グリロンELX、グリルアミドELY(以上、エムス昭和電工社製)、ダイアミド、ベスタミド(以上、ダイセル・デクサ社製)等が挙げられる。
【0010】
上記ポリエステル系エラストマーとしては特に限定されず、例えば、ポリエーテルエステル共重合体、ポリエステルエステル共重合体等が挙げられる。
これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
これらのポリエステル系エラストマーのうち市販されているものとしては、例えば、グリラックス(大日本インキ化学工業社製、ヌーベラン(帝人化成社製)、ペルプレン(東洋紡績社製)、ハイトレル(東レ・デュポン社製)、プリマロイ(三菱化学社製)等が挙げられる。
【0011】
これらの熱可塑性エラストマーのなかでも、下記式(1)で表されるポリエーテルブロックアミド共重合体は、極めて優れた接触冷感を与える繊維が得られること、紡糸性に優れること、及び、比重が軽く軽い生地や肌着を作製できることから特に好適である。このようなポリエーテルブロックアミド共重合体のうち市販されているものとしては、例えば、ペバックス(アトフィナ・ジャパン社製)等が挙げられる。
【0012】
【化1】
【0013】
式(1)中、PAはポリアミドを表し、PEはポリエーテルを表す。
【0014】
本発明の接触冷感に優れた繊維の態様としては特に限定されず、上記熱可塑性エラストマー単独からなるものであってもよいが、上記熱可塑性エラストマー単独からなる繊維は、一般に、べたつき感があり紡糸も困難である場合がある。このような場合には、他の樹脂と併用してもかまわない。
【0015】
本発明の接触冷感に優れた繊維が、上記熱可塑性エラストマーと他の樹脂とからなる場合には、これらの樹脂の混合物を紡糸してなるものであってもよいし、他の樹脂からなる繊維の周りを上記熱可塑性エラストマーが覆う芯鞘構造、カバリング等を有するものであってもよい。
上記他の樹脂としては特に限定されず、例えば、混合して紡糸する場合にはナイロン12等のポリアミド系樹脂等;芯鞘構造の芯とする場合にはナイロン6、ポリエステル、綿、レーヨン等が挙げられる。
【0016】
本発明の接触冷感に優れた繊維は、qmax値が0.2J/sec/cm2以上である。
qmax値は、一定面積、一定質量の熱板に所定の熱を蓄え、これが試料表面に接触した直後、蓄えられた熱量が低温側の試料に移動する熱流量のピーク値である。qmax値は、着衣したときに試料に奪われる体温をシミュレートしていると考えられ、qmax値が大きいほど着衣時に奪われる体温が大きく、接触冷感が高いと考えられる。qmax値が0.2J/sec/cm2未満であると、官能試験を行っても大半の人が接触冷感を感じない。好ましくは0.21J/sec/cm2以上、より好ましくは0.22J/sec/cm2以上である。
【0017】
本発明の接触冷感に優れた繊維は、熱伝導率が1×10−3℃/W・m2以上であることが好ましい。熱伝導率も接触冷感に対応する重要なパラメータの1つであると考えられる。熱伝導率が1×10−3℃/W・m2未満であると、官能試験を行っても大半の人が接触冷感を感じないことがある。
なお、熱伝導率は、試料台の上に置いた試料の上に熱板を重ね、熱板の温度を所定の温度に安定させた後の熱損失速度を測定して、下記式(2)により算出することができる。
熱伝導率(W/cm/℃)=W・D/A/ΔT (2)
W:熱流量(J/sec)
D:試料の厚さ(cm)
A:熱板面積(cm2)
ΔT:試料台と熱板との温度差(℃)
【0018】
本発明の接触冷感に優れた繊維を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記熱可塑性エラストマーのペレットを用いて溶融紡糸を行う方法等の従来公知の方法を用いることができる。
【0019】
本発明の接触冷感に優れた繊維は、官能レベルで充分な接触冷感を実感できるものである。本発明の接触冷感に優れた繊維を用いれば、大半のヒトに着用時にヒヤリとした感覚を惹起させ、清涼感を与えることができる。また、従来のように無機粉末粒子等を練り込む必要もないことから、風合いや肌触りにも優れており、肌着にも好適に用いることができる。
【0020】
本発明の接触冷感に優れた繊維を用いてなる生地もまた、本発明の1つである。本明細書において生地には、編物、織物、不織布等が含まれる。
本発明の生地は、本発明の接触冷感に優れた繊維のみからなるものであってもよいが、本発明の目的を阻害しない範囲で、肌触り等の肌着に必要な要件を改善する目的で、他の繊維と交編してもかまわない。このような他の繊維としては特に限定されないが、例えば、ナイロン6、ナイロン12等のポリアミド系樹脂等;ポリエステル、綿、レーヨン等が挙げられる
本発明の接触冷感に優れた繊維、又は本発明の生地を用いてなる肌着もまた、本発明の1つである。
【0021】
【実施例】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アトフィナ・ジャパン社製、「ペバックス 2533SA01」)のペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い原糸を得た。
得られた原糸を用い編み立てを行い、生地を得た。
【0023】
(実施例2)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アトフィナ・ジャパン社製、「ペバックス MV1041SA01」)のペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い原糸を得た。
得られた原糸を用い編み立てを行い、生地を得た。
【0024】
(実施例3)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アトフィナ・ジャパン社製、「ペバックス MV1074SA01」)のペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い原糸を得た。
得られた原糸を用い編み立てを行い、生地を得た。
【0025】
(参考例4)
熱可塑性ポリエステル系エラストマーであるポリエーテルエステル共重合体(東レ・デュポン社製、「ハイトレル 8171」)のペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い原糸を得た。
得られた原糸を用い編み立てを行い、生地を得た。
【0026】
(比較例1)
ナイロン6のペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い原糸を得た。
得られた原糸を用い編み立てを行い、生地を得た。
【0027】
(比較例2)
ナイロン12のペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い原糸を得た。
得られた原糸を用い編み立てを行い、生地を得た。
【0028】
(比較例3)
ポリエステルのペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い原糸を得た。
得られた原糸を用い編み立てを行い、生地を得た。
【0029】
(比較例4)
熱伝導性の高いセラミックのフィラーを30%練り込んだポリアミド系のナイロン12を製糸し原糸を得た。
得られた原糸を用い編み立てを行い、生地を得た。
(比較例5)
吸水性を通常のナイロンの2倍に高めたポリアミド系のナイロン原糸を用い編み立てを行い、生地を得た。
【0030】
(評価)
実施例1〜4及び比較例1〜5で作製した生地について、以下の方法によりqmax値及び熱伝達抵抗を測定した。更に、それぞれの生地について官能試験を行った。
結果を表1に示した。
【0031】
(1)qmax値の測定
20.5℃の温度に設定した試料台の上に各生地を置き、生地の上に32.5℃の温度に温められた貯熱板を接触圧0.098N/cm2で重ねた直後、蓄えられた熱量が低温側の試料に移動する熱量のピーク値を測定した。測定には、サーモラボII型精密迅速熱物性測定装置(カトーテック社製)を用いた。
【0032】
(2)熱伝導率の測定
20.5℃の温度に設定した試料台の上に各生地を置き、生地の上に熱板を接触圧0.059N/cm2で重ね、熱板の温度を32.5℃の温度に調節し安定させた。熱板の温度が所定温度に安定した時の熱損失速度をサーモラボII型精密迅速熱物性測定装置(カトーテック社製)を用いて測定し、この値から熱伝導率を測定した。
【0033】
(3)官能試験
10人の被験者について、各生地を触った瞬間の官能について以下の基準により評価を行った。また、◎の場合を3点、〇の場合を2点、△の場合を1点、×の場合を0点として、10人についての合計を求め、これを評価点とした。
◎:非常に冷感を感じた
〇:冷感を感じた
△:幾らか冷感を感じた
×:全く冷感を感じなかった
【0034】
【表1】
【0035】
表1より、実施例1〜4で作製した熱可塑性エラストマーからなる原糸を用いた生地は、qmax値が高く、熱伝導率が高く、官能試験においても全ての被験者が冷感を感じた。
一方、比較例1〜3で作製した原糸を用いた生地は、qmax値が低く、熱伝導率が低く、官能試験においてもほとんどの被験者が冷感を感じなかった。また、比較例4、5で作製した原糸は、従来接触冷感に優れると考えられていたものであったが、これを用いた生地でも官能での接触冷感は不充分なレベルであった。
【0036】
【発明の効果】
本発明によれば、官能レベルで充分な接触冷感を実感でき、風合いや肌触りに優れ肌着等に用いることができる接触冷感に優れた繊維、これを用いてなる生地及び肌着を提供することができる。
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