JP4092950B2 - リチウムニッケルマンガン複合酸化物の製造方法 - Google Patents
リチウムニッケルマンガン複合酸化物の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の製造方法、及びこの製造方法で得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物を用いた二次電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
リチウム二次電池の正極活物質として、リチウム遷移金属複合酸化物が有望視されている。なかでも、遷移金属がコバルト、ニッケル又はマンガンである化合物、すなわちリチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、又はリチウムマンガン酸化物を正極活物質とすると、高性能の電池を得られることが知られている。さらに、リチウム遷移金属複合酸化物の安定化や電池の高容量化、安全性向上、高温での電池特性の改良のために、遷移金属の一部を他の金属元素(以下、このような遷移金属の置換のための金属元素を「置換金属元素」という場合がある)で置換したリチウム遷移金属複合酸化物を用いることも知られている。例えばリチウム遷移金属複合酸化物の1種であるスピネル型リチウムマンガン酸化物LiMn2 O4 の場合、Mn価数は形式上3.5価であり、3価と4価が半々ずつ混在している状態であるが、このMn価数より小さい価数の他の遷移金属でMnの一部を置換することにより、ヤーンテラー歪みのあるMn3価を減少させて結晶構造を安定化させ、最終的に電池特性を向上させることができる。
【0003】
また、コバルトは希少で高価なので、リチウムコバルト酸化物の製造費用を低下させるために、置換金属元素を導入することが考えられる。例えば、LiCo1-x Nix O2 (0<x<1)といったリチウムコバルト複合酸化物が考えられ、高価なCoの比率を下げるためにxを大きくし、なおかつ正極活物質としての性能を上げる研究がなされている。
【0004】
これと同様に、NiとMnを比べた場合、Niの方が高価なことから、LiNi1-x Mnx O2 (0<x<1)といったリチウムニッケル複合酸化物も考えられる。このようなニッケルとマンガンとを含有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、電池性能の面でも注目すべき点があり、極めて有望な材料である。しかしながら、Solid State Ionics 311−318(1992)や、J.Mater.Chem.1149−1155(1996)や、J.Power Sources 629−633(1997)や、J.Power Sources 46−53(1998)では、合成可能な範囲は0≦x≦0.5とされており、それよりxが大きくなると単一相が得られないとされている。
【0005】
一方、第41回電池討論会2D20(2000)では、x=0.5に相当するNi:Mn=1:1の層状構造をもつ結晶性の高い単一相を共沈法により合成したとの報告がある。それによれば、このリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、単一相の結晶中にニッケルとマンガンが均一に存在している。そしてニッケルとマンガンを均一に存在させるために、原料のニッケル化合物とマンガン化合物を原子レベルで均一に分散させる必要があり、そのためには共沈法が好ましいとされている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、共沈法は原料が限定されるうえ、工業的規模で実施するには必ずしも適しているとは云い難い。かつ共沈物を原料とすると、生成する複合酸化物は不定形の粒子となるので、正極とする際の粉体充填密度が小さくなるという問題がある。また、ニッケルとマンガンとを原子レベルで均一に反応させるには共に2価のイオンであることが好ましいが、2価のマンガンは水溶液中で容易に酸化されて3価となり易い。酸化を防ぐには溶存酸素を除去するなどの処理が必要であり、操作が煩雑である。従って本発明は、共沈法によらずに、リチウムニッケルマンガン複合酸化物を製造する方法を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、ニッケル源、マンガン源及びリチウム源を含む混合物を焼成してリチウムニッケルマンガン複合酸化物を製造する方法において、少なくともニッケル源及びマンガン源として、この両者を含有するスラリーであって固形物の平均粒子径が0.5μm以下のものを噴霧乾燥して得たものを用いることにより、良好な単一相生成物を容易に製造することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明では、ニッケル源及びマンガン源として、この両者を含むスラリーを噴霧乾燥したものを用いる。リチウム源はこのスラリー中に含有させておいてもよく、また噴霧乾燥により得られたニッケル源及びマンガン源の混合物に、後から添加してもよい。
【0009】
リチウム源としては、各種のリチウム化合物、例えば、Li2 CO3 、LiNO3 、LiOH、LiOH・H2 O、アルキルリチウム、酢酸リチウムなどの有機リチウム化合物、LiCl、LiIなどのリチウムハロゲン化物等を用いることができる。なかでもLi2 CO3 、LiNO3 、LiOH・H2 O、酢酸リチウムなどを用いるのが好ましい。リチウム源として最も好ましいのは通常はLiOH・H2 Oである。このものは焼成に際してニッケル源及びマンガン源と容易に反応してリチウムニッケルマンガン複合酸化物を与える。
【0010】
ニッケル源としても各種のニッケル化合物を用いることができる。そのいくつかを例示すると、Ni(OH)2 、NiO、NiOOH、NiCO3 ・2Ni(OH)2 ・4H2 O、Ni(NO3 )2 ・6H2 O、NiSO4 、NiSO4 ・6H2 O、脂肪酸ニッケル、シュウ酸ニッケルなどの有機ニッケル化合物、及びニッケルハロゲン化物などを挙げることができる。好ましくはNi(OH)2 、NiO、NiOOH、NiCO3 ・2Ni(OH)2 ・4H2 O、NiC2 O4 ・2H2 Oのような焼成に際してNOx及びSOx等の有害物質を発生させないものを用いる。なかでも工業原料として安価に入手でき、かつ湿式粉砕が容易である点でNi(OH)2 、NiO、NiOOHなどを用いるのが好ましい。
【0011】
マンガン源としては、Mn3 O4 、Mn2 O3 、MnO2 、MnOOH、MnCO3 、Mn(NO3 )2 、MnSO4 、有機マンガン化合物、マンガン水酸化物、及びマンガンハロゲン化物などを用いることができる。これらのマンガン源の中でも、Mn2 O3 、MnO2 、Mn3 O4 は、最終目的物である複合酸化物のマンガン酸化数に近い価数を有しているため好ましい。さらに工業原料として安価に入手でき、かつ湿式粉砕が容易である点から、特に好ましいのはMn2 O3 である。
【0012】
本発明では、スラリー中に更に他の金属源を含有させることができ、これにより最終的に得られるリチウムニッケルマンガン複合酸化物中にこれらの金属を含有させることができる。このような金属元素としては、アルミニウム、コバルト、鉄、マグネシウム、カルシウム等を挙げることができる。この中でも、アルミニウム、コバルト、マグネシウムが好ましく、アルミニウム、コバルトが更に好ましい。アルミニウム、コバルト及びマグネシウムは、リチウムニッケルマンガン複合酸化物に容易に固溶して単一相を得ることができるという利点があり、更にアルミニウム及びコバルトは、これを含む複合酸化物をリチウム二次電池の正極活物質として用いたときに、高性能な電池特性、特に繰り返し充放電を行った際の放電容量維持率について良好な性能を示すという利点がある。複合酸化物中には、これらの金属元素を複数種含有させても良い。
【0013】
これらの金属元素源としては、オキシ水酸化物、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物の他、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩や、酢酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩を挙げることができる。
アルミニウム源としては、AlOOH、Al2 O3 、Al(OH)3 、AlCl3 、Al(NO3 )3 ・9H2 O、有機アルミニウム化合物及びAl2 (SO4 )3 等の各種のアルミニウム化合物を挙げることができる。好ましくはAlOOH、Al2 O3 又はAl(OH)3 を用いる。工業的に安価に入手でき、かつ反応性が高い点でAlOOHを用いるのが最も好ましい。
【0014】
コバルト源としては、Co(OH)2 、CoO、Co2 O3 、Co3 O4 、酢酸コバルト等の有機コバルト化合物、CoCl2 、Co(NO3 )2 ・6H2 O、及びCo(SO4 ) ・7H2 O等の各種のコバルト化合物を挙げることができる。好ましくはCo(OH)2 、CoO、Co2 O3 、又はCo3 O4 を用いる。工業的に安価に入手でき、かつ反応性が高い点でCo(OH)2 を用いるのが最も好ましい。
【0015】
鉄源としては、FeO(OH)、Fe2 O3 、Fe3 O4 、FeCl2 、FeCl3 、Fe(NO3 )3 ・9H2 O、シュウ酸鉄その他の有機鉄化合物、FeSO4 ・7H2 O及びFe2 (SO4 )3 ・nH2 O等の各種の鉄化合物を挙げることができる。なかでもFeO(OH)、Fe2 O3 又はFe3 O4 を用いるのが好ましく、最も好ましいのは、工業的に安価に入手でき、かつ反応性が高い点でFeO(OH)及びFe2 O3 である。
【0016】
マグネシウム源としては、Mg(OH)2 、MgO、シュウ酸マグネシウム、酢酸マグネシウム等の有機マグネシウム化合物、MgCl2 、Mg(NO3 )2 ・6H2 O、及びMgSO4 等の各種のマグネシウム化合物を挙げることができる。なかでもMg(OH)2 又はMgO、特にMg(OH)2 を用いるのが好ましい。
【0017】
カルシウム源としては、Ca(OH)2 、CaO、酢酸カルシウムやシュウ酸カルシウム等の有機カルシウム化合物、CaCO3 、CaC2 、CaCl2 、CaWO4 、Ca(NO3 )2 ・4H2 O、及びCaSO4 ・2H2 O等の各種のカルシウム化合物を挙げることができる。なかでもCa(OH)2 、CaO又はCaCO3 を用いるのが好ましい。最も好ましいのは、工業的に安価に入手でき、かつ反応性が高いCa(OH)2 である。
【0018】
スラリー調製に際してのリチウム、ニッケル、マンガン、及び必要に応じて用いられるアルミニウムやコバルト等の置換金属元素の原子比は、目的とするリチウムニッケルマンガン複合酸化物の組成に応じて適宜調節する。例えばニッケルとマンガンは、原子比(Ni/Mn)が0.7≦Ni/Mn≦9の範囲で、複合酸化物に所望の組成に応じてその原子比を調節する。またニッケル及びマンガンの合計原子数に対するアルミニウム等の置換金属元素の合計原子数の比(置換金属元素/Ni+Mn)は、0〜1.0の範囲で複合酸化物に所望の組成に応じてその原子比を調節する。なお、リチウムは必ずしもスラリー中に含有させておく必要はなく、ニッケル及びマンガン、更にはアルミニウム等の置換金属元素を含むスラリーを噴霧乾燥して得たものにリチウム源を粉末で混合して焼成しても、所望の組成の複合酸化物を得ることができる。すなわちニッケルやマンガン、更にはアルミニウム等の置換金属元素と異なり、リチウムは焼成という固相反応に際して移動しやすいので、予め他の元素と均一に混合しておかなくてもよい。なお、リチウムは焼成に際して揮散しやすいので、複合酸化物に所望の組成よりも多量に用いるのが好ましい。また、ニッケル源及びマンガン源を含むスラリーを噴霧乾燥して得たものにリチウム源を混合する際には、リチウム源は最大粒径が100μm以下、特に50μm以下の微粉末として混合するのが好ましい。但し微粉末とする費用と微粉末を用いることによる効果との関係を考慮すると、通常は微粉末の平均粒径をスラリー中の固形分の平均粒径と同様の方法で測定して0.1μm以下とする必要はなく、多くの場合には平均粒径で0.5μmまでで十分である。
【0019】
スラリーに用いられる分散媒としては、各種の有機溶媒、水性溶媒を使用することができるが、好ましいのは水である。
スラリー全体の重量に対する、リチウム源、ニッケル源、及びマンガン源等の原料の総重量比は、通常10重量%以上、好ましくは12.5重量%以上である。スラリー濃度が希薄であると、噴霧乾燥により得られる粒子が小粒化したり、粒子内部に空隙が生じて破損しやすくなったりする。逆に濃度が高すぎるとスラリーの均一性を保つのが困難となるので、スラリー濃度は50重量%以下、特に35重量%以下とするのが好ましい。
【0020】
スラリー中の固形物の平均粒子径は0.5μm以下である。スラリー中の固形物の平均粒子径が大きすぎると、焼成工程における反応性が低下するだけでなく、噴霧乾燥により得られる造粒物の球状度が低下し、最終的に得られる複合酸化物の粉体充填密度が低くなる傾向にある。この傾向は、平均粒子径で50μm以下の造粒物を製造しようとした場合に特に顕著になる。しかしスラリー中の固形物を必要以上に小粒子化することは、コストアップをまねくので、固形物の平均粒子径を0.01μm以下とする必要はない。粉砕費用と粉砕により得られる利点とを考慮すると、粉砕は平均粒子径が0.05μm、特に0.1μmを下廻らないようにするのが好ましい。
【0021】
本発明においては、リチウム源、ニッケル源、及びマンガン源等を分散媒中で混合してスラリーを調製するに際し、媒体攪拌型粉砕機等を使用して強く攪拌して湿式粉砕を行うのが好ましい。これによりスラリー中での金属元素の均一性を向上させ、かつ焼成工程での反応性を向上させることができる。湿式粉砕に用いる湿式粉砕機としては、ホモジナイザー、ホモミキサー等の主に分散解砕を目的とするものや、ビーズミル、ボールミル、振動ミル等の主に粉砕を目的とするもの等が挙げられるが、後者の粉砕機はスラリー固形分の粉砕効率が非常に高いことから、これを用いてスラリー中の固形分を所望の小粒径にまで粉砕するのが好ましい。特に好ましいのは、ビーズミルによる湿式粉砕である。
【0022】
なお、本発明においては、スラリー中の固形分の平均粒子径、噴霧乾燥により得られた造粒物の平均粒子径、及びリチウムニッケルマンガン複合酸化物の平均粒子径は、いずれも公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定する。この方法の測定原理は下記の通りである。即ち、スラリー又は粉体を分散媒に分散させたものにレーザー光を照射し、粒子に入射されて散乱(回折)した散乱光をディテクタで検出する。検出された散乱光の散乱角θ(入射方向と散乱方向の角度)は、大きい粒子の場合は前方散乱(0<θ<90°)となり、小さい粒子の場合は側方散乱又は後方散乱(90°<θ<180°)となる。測定された角度分布値から、入射光波長及び粒子の屈折率等の情報を用いて粒子径分布を算出する。更に得られた粒子径分布から平均粒子径を算出する。測定の際に用いる分散媒としては、例えば0.1重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いる。
【0023】
また、スラリーの粘度は、通常50mPa・s以上である。100mPa・s以上、特に200mPa・s以上であるのが好ましい。粘度が上記範囲以下の場合は、噴霧乾燥に大きな負担がかかったり、噴霧乾燥により得られる造粒物が小粒化したり破損しやすくなったりする。逆に粘度が大きすぎると、ポンプによるスラリーの輸送が困難になるので、粘度は通常は3000mPa・s以下とすべきである。2000mPa・s以下、特に1600mPa・s以下とするのが好ましい。スラリーの粘度測定は、公知のBM型粘度計を用いて行う。BM型粘度計は、室温大気中において所定の金属製ローターを回転させる方式を採用する測定方法である。スラリーの粘度は、ローターをスラリー中に浸した状態でローターを回転させ、その回転軸にかかる抵抗力(捻れの力)から算出される。但し、室温大気中とは気温10℃〜35℃、相対湿度20%RH〜80%RHの通常の実験室の環境を意味する。
【0024】
噴霧乾燥は常法により行えばよい。例えば、ノズルの先端に気体流とスラリーとを流入させることによってノズルからスラリーを液滴として吐出させ、乾燥ガスと接触させて液滴を迅速に乾燥させる方法を用いることができる。乾燥ガスとしては、空気、窒素等を用いることができるが、通常は空気が用いられる。これらは加圧して使用することが好ましい。ノズルからの気体流は、ガス線速として、通常100m/s以上、好ましくは200m/s以上、さらに好ましくは300m/s以上で噴射される。ガス線速が小さすぎると適切な液滴を形成し難くなる。但し、あまりに大きな線速は得にくいので、通常噴射速度は1000m/s以下である。ノズルの形状は、微小液滴を吐出することができるものであればよく、従来から公知のもの、例えば、特許第2797080号公報に記載されているようなノズルを使用することもできる。なお、液滴は環状に噴霧されることが、生産性向上の点で好ましい。
【0025】
乾燥ガスは搭上部から下部に向かうダウンフローで導入するのが好ましい。この様な構造とすることにより、塔単位容積当たりの処理量を大幅に向上させることができる。また、液滴を略水平方向に噴霧する場合、水平方向に噴霧された液滴をダウンフローガスで抑え込むことにより、乾燥塔の直径を大きく低減させることが可能となり、造粒物を安価かつ大量に製造することが可能となる。乾燥ガス温度は、通常50℃以上、好ましくは70℃以上であり、かつ通常120℃以下、好ましくは100℃以下である。温度が高すぎると、得られた造粒粒子が中空構造の多いものとなり、粉体の充填密度が低下する傾向にあり、一方、低すぎると結露による粉体固着・閉塞等の問題が生じる可能性がある。
【0026】
噴霧乾燥は造粒物の平均粒子径が50μm以下、特に30μm以下となるように行うのが好ましい。ただし、あまりに小さな粒径の造粒物は製造困難なので通常は平均粒径で4μm以上、好ましくは5μm以上のものを製造する。造粒物の粒子径は、噴霧形式、加圧気体流供給速度、スラリー供給速度、乾燥温度等を適宜選定することによって制御することができる。
【0027】
造粒物はそのまま、又は粉末のリチウム源と混合したのち焼成して、目的とするリチウムニッケルマンガン複合酸化物とする。リチウム源との混合は常用の混合装置を用いて行えばよい。なお、混合に際しては造粒物が破砕しないように、すなわち造粒物がその形状を実質的に保持するように行うのが好ましい。
焼成温度は、原料として使用されるリチウム源、ニッケル源、及びマンガン源等の種類や、原子比によって異なるが、通常700℃以上、好ましくは750℃以上、更に好ましくは800℃以上であり、また通常1050℃以下、好ましくは950℃以下である。温度が低すぎると、結晶性の良いリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得るために長時間の焼成時間を要する。また、温度が高すぎると目的とするリチウムニッケルマンガン複合酸化物以外の結晶相が生成したり、欠陥が多いリチウムニッケルマンガン複合酸化物を生成したりする。このようなリチウムニッケルマンガン複合酸化物を正極活物質として使用したリチウム二次電池は、電池容量が低下したり、充放電による結晶構造の崩壊による劣化を招くことがある。
【0028】
焼成時間は温度によっても異なるが、通常前述の温度範囲であれば30分以上、50時間以下である。焼成時間が短すぎると結晶性の良い層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物を得るのが困難である。
結晶欠陥が少ないリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得るためには、焼成後、ゆっくりと冷却することが好ましく、例えば5℃/min以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。
【0029】
焼成時の雰囲気は、通常は空気等の酸素含有ガスである。
焼成装置としては常用のものを用いればよく、例えば箱形炉、管状炉、トンネル炉、ロータリーキルン等を使用することができる。
本発明で製造されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、下記一般式(I)で示されるものであり、層状構造を有している。
【0030】
【化2】
LiX NiY MnZ Q(1-Y-Z)O2 …(I)
式(I)中、Xは0<X≦1.2、好ましくは0<X≦1.1の範囲の数を表す。Xが大きすぎると結晶構造が不安定化したり、これを使用したリチウム二次電池の電池容量低下を招く恐れがある。Y及びZは0.5≦Y+Z≦1を満たし、かつ0.7≦Y/Z≦9の範囲の数を表す。相対的にマンガンの割合が大きくなると単一相のリチウムニッケルマンガン複合酸化物が合成しにくくなる。
【0031】
なおニッケルとマンガンの原子比(Y/Z)は、複合酸化物の正極活物質としての特性に大きく影響する。例えばマンガンを多くして安価で放電電圧の高いものを所望の場合は、0.8≦Y/Z≦1.2、特に0.9≦Y/Z≦1.1とするのが好ましい。逆にニッケルが多く従って高価となっても電池の容量の大きいものを所望の場合には1≦Y/Z≦7、特に1.5≦Y/Z≦5とするのが好ましい。また、ニッケルとマンガンの合計、すなわちY+ZはY+Z≧0.65であるのが好ましく、Y+Z≧0.75であれば更に好ましい。Y+Zが小さいと、これを正極活物質とする電池の容量が大きく低下することがある。
【0032】
QはAl、Co、Fe、Mg及びCaからなる群から選ばれる少なくとも一種を表す。これらのうち好ましいのは、Al、Co、Mgであり、より好ましいのは、Al、Coである。Al、Co、Mgは、LiNi1-x Mnx O2 (0.7≦Ni/Mn≦9)に対して容易に固溶し、単一相のリチウムニッケルマンガン複合酸化物を生成することができる。更に、Al、Coに関しては、得られるリチウムニッケルマンガン複合酸化物を正極活物質として用いたリチウム二次電池が高性能な電池特性、特に繰り返し充放電を行った際の放電容量維持率について良好な性能を示す。なお、上記一般式(I)の組成においては、酸素量に多少の不定比性があっても良い。
【0033】
得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、平均1次粒径としては、通常0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上、更に好ましくは0.1μm以上であり、通常30μm以下、好ましくは5μm以下、更に好ましくは2μm以下である。また、平均2次粒径は通常1μm以上、好ましくは4μm以上であり、通常50μm以下、好ましくは40μm以下である。さらに、該リチウムニッケルマンガン複合酸化物は、BET法による比表面積が0.1m2 /g以上かつ8.0m2 /g以下、好ましくは0.2m2 /g以上かつ6.0m2 /g以下である。1次粒子の大きさは、焼成温度、焼成時間等により制御することが可能であり、焼成温度を高くしたり、焼成時間を長くすることにより、1次粒子の粒子径を大きくすることができる。2次粒子の粒子径は、例えば、前記噴霧乾燥工程における気液比等の噴霧条件により制御することが可能である。比表面積は1次粒子の粒径および2次粒子の粒径により制御することが可能であり、1次粒子の粒径及び/又は2次粒子の粒径を大きくすることにより減少する。一般に、あまり小さい比表面積では、1次粒子が大きすぎて電池特性が不良である。逆にあまり大きい比表面積では、これを用いてリチウム二次電池を作製する場合の電極作製が困難になる。但し、適切な比表面積は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の組成比によっても異なる。例えば、一般式(I)においてニッケルとマンガンが同量程度の場合、通常1m2 /g以上、好ましくは2m2 /g以上、かつ通常8.0m2 /g以下、好ましくは6.0m2 /g以下である。また置換金属元素としてコバルトを導入して、原子比をY:Z:(1−Y−Z)=0.65:0.15:0.20とした場合、通常0.1m2 /g以上、好ましくは0.2m2 /g以上、かつ通常1.0m2 /g以下、好ましくは0.8m2 /g以下である。置換金属元素としてコバルトを導入する場合は、前述のような原子比程度であるのが好ましい。即ち数値で表すと1≦Y/Z≦7かつ0<(1−Y−Z)≦0.3、特に2≦Y/Z≦5かつ0.1≦(1−Y−Z)≦0.25であるのが好ましい。また、粉体充填密度は、タップ密度(200回タップ後)で、通常は0.5g/cc以上、好ましくは0.6g/cc以上、さらに好ましくは0.8g/cc以上である。粉体充填密度は高ければ高いほど、これを正極活物質とする電池の単位容積あたりのエネルギー密度を大きくすることができるが、現実的には3.0g/cc以下であり、通常2.5g/cc以下である。
【0034】
なおリチウムニッケルマンガン複合酸化物の比表面積は、公知のBET式粉体比表面積測定装置によって測定する。測定方式は連続流動法によるBET1点法測定であり、使用する吸着ガス及びキャリアガスは窒素、空気、ヘリウムである。測定は粉体試料を混合ガスにより450℃以下の温度で加熱脱気し、次いで液体窒素により冷却して混合ガスを吸着させる。これを水により加温して吸着された窒素ガスを脱着させ、熱伝導度検出器によって検出し、脱着ピークとしてその量を求め、これから試料の比表面積を算出する。
【0035】
本発明方法で得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、リチウム二次電池の正極材料(活物質)として用いるのに好適である。すなわち、このリチウムニッケルマンガン複合酸化物をバインダーと混合し、所望により更に導電材を混合したのち、溶媒を加えて均一な塗布液とし、これを集電体上に塗布して乾燥させることにより正極を形成することができる。
【0036】
正極中には、LiFePO4 等のように、リチウムニッケルマンガン複合酸化物以外のリチウムイオンを吸蔵・放出しうる活物質を更に含有させることもできる。
導電材としては、通常は天然黒鉛、人造黒鉛、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料が用いられる。正極中の導電材の割合は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは1重量%以上であり、かつ通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、更に好ましくは30重量%以下である。導電材の割合が低すぎると導電性が不十分になることがあり、逆に高すぎると電池容量が低下する。
【0037】
バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ニトロセルロース等を用いることができる。正極中のバインダーの割合は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、更に好ましくは5重量%以上であり、かつ通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは10重量%以下である。バインダーの割合が低すぎると、活物質を十分に保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させることがあり、一方高すぎると電池容量や導電性が低下する。
【0038】
溶媒としては、通常はN−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン等の有機溶媒を用いるが、水を用いることもできる。また、バインダー樹脂のラテックスを用いることもできる。
【0039】
集電体の材質としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等が挙げられる。好ましくはアルミニウムである。集電体の厚さは、通常1〜1000μm、好ましくは5〜500μm程度である。正極は、通常集電体上に前述の塗布液を塗布、乾燥したのち、ローラープレス等の手法により圧密する。一方負極としては、天然黒鉛、熱分解炭素等の炭素材料を銅等の集電体上に塗布したもの、或いはリチウム金属箔、リチウム−アルミニウム合金等が使用できる。好ましくは炭素材料を使用する。
【0040】
炭素材料としては通常は、黒鉛、コークス、石炭系や石油系ピッチの炭化物、或いはこれらピッチを酸化処理したものの炭化物、ニードルコークス、ピッチコークス、フェノール樹脂、結晶セルロース等の炭化物等及びこれらを一部黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等が用いられる。
【0041】
また負極活物質としては、SnO、SnO2 、Sn1-x Mx O(M=Hg、P、BSi、Ge又はSb、但し0≦x<1)、Sn3 O2 (OH)、Sn3-x Mx O2 (OH)2 (M=Mg、P、B、Si、Ge、Sb又はMn、但し0≦x<3)、LiSiO2 、SiO2 又はLiSnO2 等を用いることもできる。
リチウム二次電池に使用する電解液は非水電解液であり、電解塩を非水系溶媒に溶解したものである。電解塩としてはLiCiO4 、LiAsF6 、LiPF6 、LiBF4 、LiBr、LiCF3 SO3 等のリチウム塩が挙げられる。また、非水系溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等のカーボネート類、エーテル類、ケトン類、スルホラン系化合物、ラクトン類、ニトリル類、塩素化炭化水素類、エーテル類、アミン類、エステル類、アミド類、リン酸エステル化合物等が挙げられる。これら電解塩や非水系溶媒は単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いても良い。なお、これらの電解液の代りに、従来公知の各種の固体電解質やゲル状電解質を使用することもできる。
【0042】
リチウム二次電池に用いられるセパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリエステル、ナイロン、セルロースアセテート、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル等の微多孔性高分子フィルター、又はガラス繊維等の不織布フィルター、或いはガラス繊維と高分子繊維の複合不織布フィルター等を挙げることができる。セパレータの化学的及び電気化学的安定性は重要な因子であり、この点からポリオレフィン系高分子が好ましく、電池セパレータの目的の1つである自己閉塞温度の点からポリエチレン製であることが望ましい。
【0043】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
実施例1
LiOH・H2 O、Ni(OH)2 及びMn2 O3 をLi:Ni:Mn=1.05:0.50:0.50(原子比)となるように混合し、これに純水を加えて固形分濃度12.5重量%のスラリーを調製した。このスラリーを攪拌しながら、循環式媒体攪拌型湿式粉砕機(シンマルエンタープライゼス社製:ダイノーミルKDL−A型)を用いて、スラリー中の固形分の平均粒子径が0.30μmになるまで粉砕した。300mlポットを用い、粉砕時間は6時間であった。このスラリーの粘度をBM型粘度計(トキメック社製)により測定したところ、初期粘度は1510mPa・sであった。
【0044】
このスラリーを、二流体ノズル型スプレードライヤー(大川原化工機社製:L−8型スプレードライヤー)を用いて噴霧乾燥を行った。乾燥ガスとしては空気を用い、乾燥ガス導入量は45m3 /min、乾燥ガス入り口温度は90℃とした。そして、噴霧乾燥により得られた造粒物を900℃で10時間空気中で焼成することにより、ほぼ仕込みの原子比組成のリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得た。
【0045】
得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、平均二次粒子径4.9μm、最大粒子径15μmのほぼ球状の形状を有する粒子であった。
なお、スラリー中の固形分の平均粒子径、及び得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物の平均粒子径・最大粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製:LA−920型粒度分布測定装置)を用いて求めた。具体的には、室温大気中で、スラリー又は焼成物粉末を0.1%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に超音波分散及び攪拌により分散させ、透過率を70%〜95%の間に調節し、測定される粒度分布より平均粒径及び最大粒径を求めた。
【0046】
また、得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物の粉末X線回折を測定したところ、菱面体晶の層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物の構造を有していることが確認された。
この複合酸化物5gを10mlのガラス製メスシリンダーに入れ、200回タップした後の粉体充填密度(タップ密度)を測定した結果、0.9g/ccであった。
【0047】
この複合酸化物のBET法比表面積を測定した結果、5.0m2 /gであった。比表面積の測定は、BET式粉体比表面積測定装置(大倉理研製:AMS8000型全自動粉体比表面積測定装置)を用いて求めた。
なお、スラリー中にLiOH・H2 Oを含有させなかった以外は上記と全く同様にしてスラリーの調製(濃度12.5重量%)、及び噴霧乾燥を行い、得られた造粒物にLiOH・H2 Oの粉末(最大粒径で20μm以下)をLi:Ni:Mn=1.05:0.5:0.5となるように加え、手でよく混合したのち900℃で10時間空気中で焼成しても、上記で得られたのと殆ど同一の菱面体晶の層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物を得ることができる。
【0048】
実施例2
LiOH・H2 O、NiO、Mn2 O3 、Co(OH)2 をLi:Ni:Mn:Co=1.05:0.65:0.15:0.20(原子比)となるように混合してスラリーを調製し、かつ焼成を850℃で10時間空気中で行った以外は、実施例1と同様にしてリチウムマンガンニッケル複合酸化物を得た。
【0049】
スラリーの初期粘度は220mPa・sであった。スラリー中に含まれる固形分の平均粒径は0.3μmであった。得られた複合酸化物は、平均粒子径9.8μm、最大粒径34μmであり、ほぼ球状の形状を有する粒子であった。また、得られた複合酸化物の粉末X線回折を測定したところ、菱面体晶の層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物の構造を有していることが確認された。この複合酸化物5gを10mlのガラス製メスシリンダーに入れ、200回タップした後の粉体充填密度(タップ密度)を測定した結果、2.0g/ccであった。また、この複合酸化物のBET法比表面積を測定した結果、0.8m2 /gであった。
【0050】
実施例3
LiOH・H2 O、Ni(OH)2 、Mn2 O3 及びAlOOHをLi:Ni:Mn:Al=1.05:0.45:0.45:0.10(原子比)となるように混合してスラリーを調製した以外は、実施例1と同様にしてリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得た。
【0051】
スラリーの初期粘度は790mPa・sであった。得られた複合酸化物は平均粒径5.0μm、最大粒径15μmであり、ほぼ球状の形状を有する粒子であった。このものは粉末X線回折により菱面体晶の層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物の構造を有していることが確認された。200回タップした後の粉末充填密度(タップ密度)0.9g/ccであり、BET法比表面積は5.7m2 /gであった。
【0052】
実施例4
LiOH・H2 O、Ni(OH)2 、Mn2 O3 及びCo(OH)2 をLi:Ni:Mn:Co=1.05:0.45:0.45:0.10(原子比)となるように混合してスラリーを調製した以外は、実施例1と同様にしてリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得た。
【0053】
スラリーの初期粘度は820mPa・sであった。得られた複合酸化物は平均粒径5.8μm、最大粒径15μmであり、ほぼ球状の形状を有する粒子であった。このものは粉末X線回折により菱面体晶の層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物の構造を有していることが確認された。200回タップした後の粉末充填密度(タップ密度)1.0g/ccであり、BET法比表面積は3.4m2 /gであった。
【0054】
実施例5
ニッケル原料としてNiOを用いた以外は実施例1と同様にして、リチウムニッケルマンガン複合酸化物を得た。
スラリーの初期粘度は190mPa・sであった。得られた複合酸化物は平均粒径7.1μm、最大粒径20μmであり、ほぼ球状の形状を有する粒子であった。このものは粉末X線回折により菱面体晶の層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物の構造を有していることが確認された。200回タップした後の粉末充填密度(タップ密度)は1.1g/ccであり、BET法比表面積は2.8m2 /gであった。
【0055】
比較例1
最大粒径20μm以下のLiOH・H2 O、平均粒径0.55μmのNiO及び平均粒径4.4μmのMn2 O3 を、Li:Ni:Mn=1.05:0.5:0.5(原子比)となるように混合し、これを適当な容器に入れて手でよく振動させて混合した後、900℃で10時間空気中で焼成した。
得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物の粉末X線回折を測定したところ、菱面体晶の層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物単一相ではないことが確認された。
【0056】
比較例2
比較例1で用いたのと同じLiOH・H2 O、NiO及びMn2 O3 並びに平均粒径7.9μmのCo(OH)2 を、Li:Ni:Mn:Co=1.05:0.65:0.15:0.20(原子比)となるように混合し、これを適当な容器に入れて手でよく振動させて混合した後、850℃で10時間空気中で焼成した。
【0057】
得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物の粉末X線回折を測定したところ、菱面体晶の層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物単一相ではないことが確認された。
電池評価試験(1)
以下の方法で、本発明の実施例及び比較例で得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物の正極活物質としての評価を行った。
【0058】
A.正極の作製
実施例及び比較例で得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物を75重量部、アセチレンブラック20重量部、及びポリテトラフルオロエチレンパウダー5重量部を乳鉢で十分混合し、薄くシート状にしたものを9mmφのポンチを用いて打ち抜いた。得られたものの重量は約8mgであった。これをアルミニウムのエキスパンドメタルに圧着して正極とした。
【0059】
B.リチウム金属を対極とする電池の作製と特性試験
コイン型セルに9mmφに打ち抜いた正極を入れ、その上に厚さ25μmの多孔性ポリエチレンフィルム(セパレータ)を置き、更にその上にリチウム金属(負極)をのせた。これに非水電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの3:7(容量比)混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を1モル/Lとなるように溶解したもの)を加え、更に厚み調整用のスペーサをのせたのち、ポリプロピレン製ガスケットを介して蓋をかしめて電池とした。
【0060】
この電池について、0.2mA/cm2 で4.2V又は4.3Vまで定電流充電を行い、次いで3.0Vまで0.2mA/cm2 で定電流放電を行った。このときの放電容量Qs(mAhr/g)と充電容量Qc(mAhr/g) に対する放電容量の比(E%)とを表1に示す。また、この充放電に引続いて、4.3V−3.0Vの定電流充放電を、充電は毎回0.2mA/cm2 一定で行い、放電を0.5mA/cm2 、1mA/cm2 、3mA/cm2 、5mA/cm2 、7mA/cm2 、9mA/cm2 及び11mA/cm2 と1回毎に順次電流値を高めて行った。最後の11mA/cm2 で定電流放電したときの放電容量Qa(mAhr/g)を表1に示す。
【0061】
電池評価試験(2)
A.正極の作製
電池評価試験(1)におけると同様にして作製した。ただしポンチは12mφのものを用いた。得られたものの重量は約18mgであった。
B.負極の作製
粒径約8〜10μmの黒鉛粉末(d002=3.35A)92.5重量部と、ポリフッ化ビニリデン7.5重量部とを混合し、これにN−メチルピロリドンを加えてスラリーとした。厚さ20μmの銅箔の片面にこのスラリーを塗布し、乾燥させた。これを12mmφのポンチで打ち抜き、更に0.5ton/cm2 でプレス処理して負極とした。
【0062】
C.電池の作製
電池評価試験(1)におけると同様にして電池を作製した。なお、正極活物質の重量と負極活物質との重量比は、電池評価試験(1)で測定した正極の充電容量Qs(mAhr/g)に対して負極の充電容量が1.2倍となるようにした。負極の充電容量は、この負極と対極としてのリチウム金属とで電池評価試験(1)におけると同様にして電池を作製し、0Vまで0.2mA/cm2 で定電流放電を行った際の、負極活物質単位重量当たりの初期充電容量に基づいて算出した。
【0063】
D.サイクル試験
室温下、0.2C(1Cは1時間電流値であり、1C(mA)=Qsx正極活物質重量で算出される)の定電流で、2サイクルの充放電を行い、次いで1Cの定電流で1サイクルの充放電を行った。引続いて50℃の下で0.2Cの定電流で1サイクルの充放電を行い、次いで1Cの定電流で100サイクルの充放電を行った。充放電の下限は3.0V、上限は4.1V又は4.2Vとした。50℃、1Cの定電流での100サイクルの充放電の1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の比をP(%)として表1に示す。
【0064】
【表1】
Claims (10)
- 噴霧乾燥して得たものをその形状を保持したまま焼成に供することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
- スラリーが湿式粉砕処理を経ているものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の方法。
- スラリーのNi/Mnの原子比が0.7≦Ni/Mn≦9であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の方法。
- スラリーの調製に用いるニッケル源が、Ni(OH)2 、NiO、NiOOH、NiCO3 ・2Ni(OH)2 ・4H2O、Ni(NO3)2・6H2O、NiSO4・6H2O、有機ニッケル化合物及びニッケルハロゲン化物より成る群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の方法。
- スラリーの調製に用いるマンガン源が、Mn3O4、Mn2O3、MnO2 、MnOOH、MnCO3 、Mn(NO3)2、MnSO4、有機マンガン化合物、マンガン水酸化物及びマンガンハロゲン化物より成る群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の方法。
- リチウム源が、LiCO3、LiNO3 、LiOH・H2O及び酢酸Liより成る群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の方法。
- スラリーが、アルミニウム源、コバルト源、鉄源、マグネシウム源及びカルシウム源より成る群から選ばれたものも含有していることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の方法。
- 請求項1から9に記載の方法で製造されたリチウムニッケルマンガン複合酸化物をバインダーと混合し、溶媒を加えて塗布液とし、これを集電体上に塗布して乾燥させることを特徴とする正極の製造方法。
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