JP2008056561A - リチウムニッケルマンガン複合酸化物、並びにこれを用いたリチウム二次電池用正極材料、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池 - Google Patents

リチウムニッケルマンガン複合酸化物、並びにこれを用いたリチウム二次電池用正極材料、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池 Download PDF

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剛 末吉
Shoichiro Mori
彰一郎 森
Kazuhiro Kikuchi
一寛 菊地
Koji Shima
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Abstract

【課題】サイクル特性の優れたリチウム二次電池用の正極材料を提供する。
【解決手段】リチウム二次電池用の正極材料として、下記一般式(I)で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物であって、六方晶(a=2.87Å(±5%)、c=14.13Å(±5%)、空間群R3(−)m)を基本構造として仮定した場合に、等価な3つの[110]方向のうち1方向に3倍あるいは2倍の長周期性を有する結晶構造を有するものを使用する。 LiXNiYMnZ(1-Y-Z)2 (I)(式中、Xは0<X≦1.2の範囲の数を表す。Y及びZは、1≦Y/Z≦9、及び、0<(1−Y−Z)≦0.5の関係を満たす数を表す。Qはニッケル及びマンガンと異なる1つ以上の元素を表す。)
【選択図】図1

Description

本発明は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、並びにそれを用いたリチウム二次電池用正極材料、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関するものである。
近年、携帯用電子機器、通信機器の小型化、軽量化に伴い、その電源として高出力、高エネルギー密度である二次電池が求められている。また、自動車用動力源としても、上記の特徴を有する二次電池が求められている。特にリチウム二次電池は上記の要件を満たすため、その開発が急速に行われている。
リチウム二次電池の正極活物質としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24等のリチウム複合酸化物が提案され、研究が盛んに行われている。これらの中でも、合成の容易性、作動電圧、放電容量等の観点より、LiCoO2が主に用いられている。しかし
Coは資源的に乏しく高価な元素であるという問題がある。それに対し、LiMn24は埋蔵量が豊富であるため魅力的であるが、実用化のためには高温でのサイクル特性、保存特性の解決が必要である。また、LiNiO2はCoと比較して原料のコスト面で優れ、
LiCoO2を上回る放電容量が得られる可能性があるため期待がもたれているが、焼成
および保存時の雰囲気制御や安全性の面で改良が必要とされている。
非特許文献1では、Niサイトの一部をMnで置換したLiNi1-xMnx2(0≦x
≦0.5)による改良も行われているが、Mn置換量を増やすと十分な容量が得られないという問題が生じている。さらに、第41回電池討論会2D20(2000)では、x=0.5に相当するNi:Mn=1:1の層状構造をもつ結晶性の高い単一相を共沈法により合成したとの報告がある。
J.Mater.Chem. 6(1996) p.1149、J.Electrochem. Soc. 145(1998)p.1113
上記のようなNiサイトの一部をMnで置換したリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、安全性および資源的な側面から魅力的な材料である。しかしながら、本発明者の検討によれば、上記のようなリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、特にMn置換量が大きい領域において、充放電により結晶構造に乱れが生じて容量が低下するという問題が生じることがわかった。
本発明者は、上記リチウムニッケルマンガン複合酸化物の改良について鋭意検討した結果、NiおよびMnを、LiNiO2本来の六方晶に属する単位格子中のNiの座標をラ
ンダムに占有するのではなく、規則的に周期性をもって占有させることにより長周期性が生じた結晶構造とすることにより上記問題点を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の第1の要旨は、下記一般式(I)で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物であって、六方晶(a=2.87Å(±5%)、c=14.13Å(±5%)、空間群R3(−)m)を基本構造として仮定した場合に、等価な3つの[110]方向のうち1方向に3倍あるいは2倍の長周期性を有する結晶構造を有することを特徴とするリチウムニッケルマンガン複合酸化物、に存する。
LiXNiYMnZ(1-Y-Z)2 (I)
(式中、Xは0<X≦1.2の範囲の数を表す。Y及びZは、1≦Y/Z≦9、及び、0<(1−Y−Z)≦0.5の関係を満たす数を表す。Qはニッケル及びマンガンと異なる1つ以上の元素を表す。)
また、本発明の第2の要旨は、下記一般式(I)で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物であって、以下の条件でX線回折測定を行なった場合の、2θ=18.60゜(±0.30゜)のピーク強度Aと、2θ=20.58゜(±0.17°)のピーク強度Bとの強度比B/Aが0.01以上であることを特徴とするリチウムニッケルマンガン複合酸化物、に存する。
LiXNiYMnZ(1-Y-Z)2 (I)
(式中、Xは0<X≦1.2の範囲の数を表す。Y及びZは、1≦Y/Z≦9、及び、0<(1−Y−Z)≦0.5の関係を満たす数を表す。Qはニッケル及びマンガンと異なる1つ以上の元素を表す。)
測定条件X線源:CuKα線(CuKα1=1.5406Å、CuKα2=1.5444Å、CuKα2除去なし)
発散スリット:0.25°
散乱スリット:0.25°
ステップ幅:0.02°
さらに本発明の第3の要旨は、これらリチウムニッケルマンガン複合酸化物を用いた正極材料、正極及びリチウム二次電池に存する。
LiNiO2本来の単位格子に由来する周期構造と比較して長周期を生じる要因として
考え得るのは、MnとNiの組成の長周期的なゆらぎや原子位置の長周期的な変位等である。これらの結晶構造の特性が、リチウム二次電池正極材として用いた際に、充放電によるリチウムイオンのドープ、脱ドープにおける結晶構造の安定性と関連があり、サイクル特性や初期効率の改良につながっていると予想される。
本発明によれば、電池特性に優れ、体積当たり容量、エネルギー密度の高いリチウム二次電池のためのリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得ることができる。レート特性、サイクル特性等の電池性能に優れ、安全性が高く、安価なリチウム二次電池に使用するリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得ることができる。特に、本発明によれば、大電流での放電容量及びサイクル特性に優れたリチウム二次電池に使用できるリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得ることができる。
本発明のリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、層状の結晶構造を有し、リチウムとニッケルとマンガンとニッケル及びマンガン以外の他の元素を有する酸化物である。ニッケルとマンガンの原子比は、層状結晶構造が安定に存在し、また電池特性を悪化させない観点で、1≦Ni/Mn≦9、好ましくは1≦Ni/Mn≦8、さらに好ましくは1≦Ni/Mn≦7とする。
リチウムニッケルマンガン複合酸化物は、さらに他の元素を含有していてもよい。例えば、ニッケル及びマンガンの占有するサイトに、ニッケル及びマンガンと異なる元素を含有させることができる(以下、このような元素を「置換元素」ということがある)。その結果、リチウム二次電池としてのサイクル特性を向上させることができる。置換元素としては、コバルト、アルミニウム、コバルト、鉄、マグネシウム、ガリウム、チタン、カルシウム等の各種の金属元素が挙げられる。この中でも、コバルト、アルミニウム、マグネシウムが好ましい。無論、これらの置換元素を複数種使用してもよい。
置換元素の、置換元素、ニッケル及びマンガンの合計に対する原子比は、通常0.5以下、好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.35以下である。置換割合が大きすぎると電池材料として使用した場合の容量が低下する傾向にある。ただし、置換割合が少なすぎると、サイクル特性向上効果があまり充分に発揮されなくなることがあるので、通常上記原子比は0.01以上、好ましくは0.02以上、さらに好ましくは0.05以上とする。
本発明のリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、下記一般式(I)で示される。
LiXNiYMnZ(1-Y-Z)2 (I)
ここで、式(I)中、Xは0<X≦1.2、好ましくは0<X≦1.1の範囲の数を表わす。Xが大きすぎると、異相の生成、結晶構造の不安定化、これを使用したリチウム二次電池の電池容量低下といった問題が生じる。Y及びZは、0≦Y+Z≦1を満たす数であり、また1≦Y/Z≦9の範囲の数を表す。
(1−Y−Z)の値は0.5以下、好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.35以下とする。置換元素の量が多すぎると、リチウムニッケルマンガン複合酸化物を正極活物質として使用したリチウム二次電池の電池容量が大きく低下することがある。ただし、置換割合が少なすぎると、粉体充填密度等の粉体特性が低下することがあるため、上記(1−Y―Z)の値は好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.02以上、最も好ましくは0.05以上とする。
Qはニッケル及びマンガンと異なる元素であり、好ましくはAl、Co、Fe、Mg、Ga、Ti、Ca等の金属元素である。これらのうち好ましいのは、Co、Al、Mgである。Co、Al、Coは、LiNi1-xMnx2(0.7≦Ni/Mn≦9)に対して
容易に固溶し、単一相のリチウム遷移金属複合酸化物として合成することができる。更に、Co、Alに関しては、得られるリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いたリチウム二次電池が高性能な電池特性、特に繰り返し充放電を行った際の放電容量維持率について良好な性能を示す。元素Qは複数の元素から構成されていてもよい。
なお、上記一般式(I)の組成においては、酸素量に多少の不定比性があってもよい。
本発明のリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、六方晶(a=2.87Å(±5%)c=14.13Å(±5%) 空間群R3(−)m)を基本構造として仮定した場合に、等価な3つの[110]方向のうち1方向に3倍あるいは2倍の長周期性を有する結晶構造を有する。このような長周期構造は、例えば、下記(1)又は(2)のようにして測定することができる。
(1)透過型電子顕微鏡を用い、制限視野電子線回折法により多数の回折パターンを撮影する方法。
この場合、解析に適した対称性の良好な電子線回折パターンを得るために、透過型電子顕微鏡の試料傾斜装置を用い、結晶に対する電子線の入射方向を調整するのが好ましい。また、長周期性を有する構造を示す回折強度は相対的に弱いため、電子線回折を撮影する際には、露出量を十分に大きくする必要がある。これを六方晶、a=2.87Å(±5%)、c=14.13Å(±5%)、空間群R3(−)mの結晶構造を仮定して解釈し、長周期の有無および周期を測定する。また、望ましくは回折パターンを撮影した1次粒子が不純物ではないことを確認する目的でエネルギー分散型X線分光装置などで組成分析も併用する。
(2)X線回折(XRD)による方法。
この場合、CuKα(Kα1:1.5406Å、Kα2:1.5444Å,Kα2除去な
し)を用いて測定した場合に2θ=20.58Å(±0.30°)に比較的弱い強度のピークが観測され、このピークは[110]方向の3倍周期に該当する(1/3,1/3,0)に帰属できる。前記長周期性は、この2θ=20.58゜(±0.17°)のピーク強度Bの2θ=18.60゜(±0.30゜)のピーク強度Aに対する強度比B/Aが0.01以上であることで確認することができる。なお、XRDの測定時の発散スリットは0.25°、散乱スリットは0.25°、ステップ幅は0.02°とする。上記強度比B/Aは、好ましくは0.015以上、さらに好ましくは0.02以上、最も好ましくは0.025以上であり、また好ましくは0.10以下、さらに好ましくは0.07以下、最も好ましくは0.05以下である。上記強度比が小さすぎると前記長周期性が弱く容量やサイクル特性の向上が顕著でなくなることがあり、一方大きすぎると本来の単位格子が乱れてリチウムの拡散が阻害されるおそれがある。
上記(1)及び(2)で測定されるような長周期構造を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物を使用することによって、容量、サイクル特性等の電池特性を向上させることができる。
リチウムニッケルマンガン複合酸化物の粉体充填密度(200回タップ後のタップ密度)は通常0.7g/cm2以上、2.8g/cm3以下である。粉体充填密度が低すぎると電極の体積当たり容量が低いため、電池としての容量が低下する傾向にある。一方、高すぎると多孔度が減少しやすく高電流密度での容量が低下する傾向にある。粉体充填密度は、置換元素の置換量やニッケルとマンガンとのモル比等の正極活物質の組成の外、乾燥条件、焼成条件等の製造条件により制御可能である。
リチウムニッケルマンガン複合酸化物の比表面積は、通常7m2/g以下、0.2g/
cm3以上である。比表面積が高すぎると重量当たり一定量の導電剤を加える際に導電マ
トリックスが形成し難いという問題が生じ、低すぎると粗大粒子化して高電流密度での容量が低下する。比表面積は、置換元素の置換量やニッケルとマンガンとのモル比等の正極活物質の組成の外、乾燥条件、焼成条件等の製造条件により制御可能である。
なお、本発明においては、前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物の比表面積は、公知のBET式粉体比表面積測定装置によって測定される。この方法の測定原理は下記の通りである。すなわち、測定方式は連続流動法によるBET1点法測定であり、使用する吸着ガス及びキャリアガスは窒素、空気、ヘリウムである。粉体試料を混合ガスにより450℃以下の温度で過熱脱気し、次いで液体窒素により冷却して混合ガスを吸着させる。これを水により加温して吸着された窒素ガスを脱着させ、熱伝導度検出器によって検出し、脱着ピークとしてその量を求め、試料の比表面積として算出する。
リチウムニッケルマンガン複合酸化物は、平均1次粒径としては、通常0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上、更に好ましくは0.1μm以上、通常30μm以下、好ましくは5μm以下、更に好ましくは2μm以下である。また、平均2次粒径は通常1μm以上、好ましくは4μm以上、通常50μm以下、好ましくは40μm以下である。
本発明のリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、例えば、リチウムとニッケルとマンガンと置換元素とを含む原料を焼成することによって製造することができる。
原料として使用するリチウム源としては、例えば、Li2CO3、LiNO3、LiOH
、LiOH・H2O、ジカルボン酸リチウム、クエン酸リチウム、脂肪酸リチウム、アル
キルリチウム、リチウムハロゲン化物等の各種のリチウム化合物を挙げることができる。より具体的には、例えば、Li2CO3、LiNO3、LiOH、LiOH・H2O、LiCl、LiI、酢酸リチウム、Li2O等を挙げることができる。これらリチウム原料の中
で好ましいのは、Li2CO3、LiNO3、LiOH・H2O、酢酸リチウム等の水溶性のリチウム化合物である。これらの水溶性化合物は、例えば、分散媒として水を使用したスラリー中に溶解させることによって容易に良好な特性を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得ることができる。また、焼成処理の際にNOx及びSOx等の有害物質を発生させない点で、窒素原子や硫黄原子を含有しないリチウム化合物が好ましい。最も好ましいリチウム原料は、水溶性でもあり、また窒素原子や硫黄原子を含有しない、LiOH・H2Oである。無論、リチウム源として複数種のものを使用してもよい。
ニッケル源としては、例えば、Ni(OH)2、NiO、NiOOH、NiCO3・2Ni(OH)2・4H2O、NiC24・2H2O、Ni(NO32・6H2O、NiSO4
NiSO4・6H2O、脂肪酸ニッケル、及びニッケルハロゲン化物からなる群から選ばれた少なくとも一種を挙げることができる。この中でも、焼成処理の際にNOx及びSOx等の有害物質を発生させない点で、窒素原子や硫黄原子を含有しない、Ni(OH)2
NiO、NiOOH、NiCO3・2Ni(OH)2・4H2O、NiC24・2H2Oのようなニッケル化合物が好ましい。また、さらに工業原料として安価に入手できる観点、及び反応性が高いという観点から、特に好ましいのはNi(OH)2、NiO、NiOOH
である。
無論、ニッケル源として複数種のものを使用してもよい。
マンガン源としては、例えば、Mn34、Mn23、MnO2、MnCO3、Mn(NO32、MnSO4、ジカルボン酸マンガン、クエン酸マンガン、脂肪酸マンガン、マンガ
ンオキシ水酸化物、マンガン水酸化物、又はマンガンハロゲン化物を挙げることができる。これらマンガン原料の中でも、Mn23、Mn34は、最終目的物である複合酸化物のマンガン酸化数に近い価数を有しているため好ましい。さらに工業原料として安価に入手できる観点、及び反応性が高いという観点から、特に好ましいのはMn23である。マンガン源は、マンガン化合物がスラリー中で電離して生成したマンガンイオンでもよい。無論、マンガン源として複数種のものを使用してもよい。
置換元素源としては、上記置換金属のオキシ水酸化物、酸化物、水酸化物、ハロゲン物の他、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩や、酢酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩を挙げることができる。
置換元素がアルミニウムを含む場合、具体的なアルミニウム源としては、例えば、AlOOH、Al23、Al(OH)3、AlCl3、Al(NO33・9H2O及びAl2(SO43等の各種のアルミニウム化合物を挙げることができる。中でも、焼成工程の際にNOx及びSOx等の有害物質を発生させない点で、AlOOH、Al23及びAl(OH)3が好ましく、さらに好ましくは、工業的に安価に入手できる点及び反応性が高い点で
AlOOHである。無論複数のアルミニウム化合物を使用することもできる。
置換元素がコバルトを含む場合、具体的なコバルト源としては、例えば、Co(OH)2、CoO、Co23、Co34、Co(OAc)2・4H2O、CoCl2、Co(NO3
2・6H2O、及びCo(SO42・7H2O等の各種のコバルト化合物を挙げることが
できる。中でも、焼成工程の際にNOx及びSOx等の有害物質を発生させない点で、Co(OH)2、CoO、Co23、Co34が好ましく、さらに好ましくは、工業的に安
価に入手できる点及び反応性が高い点でCo(OH)2である。無論複数のコバルト化合
物を使用することもできる。
置換元素が鉄を含む場合、具体的な鉄源としては、例えば、FeO(OH)、Fe23、Fe34、FeCl2、FeCl3、FeC24・2H2O、Fe(NO33・9H2O、FeSO4・7H2O及びFe2(SO43・nH2O等の各種の鉄化合物を挙げることができる。中でも、焼成工程の際にNOx及びSOx等の有害物質を発生させない点で、FeO(OH)、Fe23、Fe34が好ましく、さらに好ましくは、工業的に安価に入手できる点及び反応性が高い点でFeO(OH)、Fe23である。無論複数の鉄化合物を使用することもできる。
置換元素がマグネシウムを含む場合、具体的なマグネシウム源としては、例えば、Mg(OH)2、MgO、Mg(OAc)2・4H2O、MgCl2、MgC24・2H2O、M
g(NO32・6H2O、及びMgSO4等の各種のマグネシウム化合物を挙げることができる。中でも、焼成工程の際にNOx及びSOx等の有害物質を発生させない点で、Mg(OH)2、MgOが好ましく、さらに好ましくは、工業的に安価に入手できる点及び反
応性が高い点でMg(OH)2である。無論複数のマグネシウム化合物を使用することも
できる。
置換元素がカルシウムを含む場合、具体的なカルシウム源としては、例えば、Ca(OH)2、CaO、Ca(OAc)2・H2O、CaCo3、CaC2、CaC24・H2O、CaCl2、CaWO4、Ca(NO32・4H2O、及びCaSO4・2H2O等の各種のカ
ルシウム化合物を挙げることができる。中でも、焼成工程の際にNOx及びSOx等の有害物質を発生させない点で、Ca(OH)2、CaO、CaCo3が好ましく、さらに好ましくは、工業的に安価に入手できる点及び反応性が高い点でCa(OH)2である。無論
複数のカルシウム化合物を使用することもできる。
リチウム、ニッケル、マンガン、及び置換元素の仕込時のモル比は、目的とするリチウムニッケルマンガン複合酸化物の組成が得られるように適宜選択すればよい。
これらリチウム源、ニッケル源、マンガン源及び置換元素源の混合方法及び焼成条件は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の前記長周期構造の有無に大きな影響を与える。後述するように、長周期構造の生成は焼成条件と特に密接な関係にあり、例えば焼成温度が低すぎたり焼成時間が短すぎると周期性がみられるような高い結晶性が得られず、その一方焼成温度が高すぎたり焼成時間が長すぎると長周期構造が失われ、LiNiO2本来の周期構造のみとなるという傾向にある。
従って、焼成前のリチウム源、ニッケル源、マンガン源及び置換元素源の混合が不十分であると、適切な焼成条件を選ぶことができず、本発明のリチウムニッケルマンガン複合酸化物の生成、即ち前記長周期構造の生成が困難となる。特に原料中のリチウムの均一性が不十分であるとリチウム含有量の多い相が生じやすく、その除去のために高温、長時間の焼成が必要となるため前記長周期構造が得られにくい。リチウムを原料中に均一に混合させる方法としては、原料成分を湿式(即ちスラリー中)での混合を用するのが好ましい。
以下、原料成分を湿式で混合しこれを乾燥して焼成の原料とする場合の、スラリー中での混合及び乾燥方法について記すが、乾式での混合により焼成の原料とすることもできる。乾式で混合して焼成の原料とする場合、仮焼、解砕及び本焼をこの順に行う等、焼成を複数行い、且つ2回の焼成の間に解砕工程を行うのが、不純物の生成を抑制し、容量を向上させる点で好ましい。
スラリーに用いられる分散媒としては、各種の有機溶媒、水性溶媒を使用することができるが、好ましいのは水である。
スラリー全体の重量に対する、リチウム源、ニッケル源、マンガン源及び置換元素源の総重量比は、通常10重量%以上、好ましくは12.5重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは35重量%以下である。重量比が上記範囲以下の場合は、スラリー濃度が極端に希薄なため噴霧乾燥により生成した球状粒子が必要以上に小さくなったり破損しやすくなったりする一方で、上記範囲以上となると、スラリーの均一性が保ちにくくなる。
スラリー中の固形物の平均粒子径は通常2μm以下、好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下とする。スラリー中の固形物の平均粒子径が大きすぎると、焼成工程における反応性が低下するだけでなく、球状度が低下し、最終的な粉体充填密度が低くなる傾向にある。この傾向は、平均粒子径で50μm以下の造粒粒子を製造しようとした場合に特に顕著になる。また、必要以上に小粒子化することは、粉砕のコストアップに繋がるので、固形物の平均粒子径は通常0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上とする。
スラリー中の固形物の平均粒子径を制御する方法としては、原料化合物を予めボールミル、ジェットミル等により乾式粉砕し、これを分散媒に攪拌等によって分散させる方法、原料化合物を分散媒に攪拌等によって分散後、媒体攪拌型粉砕機等を使用して湿式粉砕する方法等を挙げることができる。原料化合物を分散媒に分散後、媒体攪拌型粉砕機等を使用して湿式粉砕する方法を用いることが好ましい。湿式粉砕することによって、本発明の効果が顕著に発揮される。
また、スラリーの粘度は、通常50mPa・s以上、好ましくは100mPa・s以上、特に好ましくは200mPa・s以上、通常3000mPa・s以下、好ましくは2000mPa・s以下、特に好ましくは1600mPa・s以下である。粘度が上記範囲以下の場合は、焼成前の乾燥に大きな負荷がかかったり、乾燥により生成した球状粒子が必要以上に小さくなったり破損しやすくなったりする一方で、上記範囲以上となると、乾燥時のスラリー輸送に用いるチューブポンプでの吸引ができなくなる等取り扱いが困難になる。スラリーの粘度測定は、公知のBM型粘度計を用いて行うことができる。BM型粘度計は、室温大気中において所定の金属製ローターを回転させる方式を採用する測定方法である。スラリーの粘度は、ローターをスラリー中に浸した状態でローターを回転させ、その回転軸にかかる抵抗力(捻れの力)から算出される。但し、室温大気中とは気温10℃〜35℃、相対湿度20%RH〜80%RHの通常考えられる実験室レベルの環境を示す。
上記のようにして得られたスラリーは、通常乾燥された後焼成処理に供される。乾燥方法としては噴霧乾燥が好ましい。噴霧乾燥を行うことによって、簡易な方法で球状のリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得ることができ、その結果、充填密度を向上させることができる。噴霧乾燥の方法は特に制限されないが、例えば、ノズルの先端に気体流とスラリーとを流入させることによってノズルからスラリー成分の液滴(本明細書においては、これを単に「液滴」という場合がある。)を吐出させ、適当な乾燥ガス温度や送風量を用いて飛散した該液滴を迅速に乾燥させる方法を用いることができる。気体流として供給する気体としては、空気、窒素等を用いることができるが、通常は空気が用いられる。これらは加圧して使用することが好ましい。気体流は、ガス線速として、通常100m/s以上、好ましくは200m/s以上、さらに好ましくは300m/s以上で噴射される。あまり小さすぎると適切な液滴が形成しにくくなる。ただし、あまりに大きな線速は得にくいので、通常噴射速度は1000m/s以下である。使用されるノズルの形状は、微少な液滴を吐出することができるものであればよく、従来から公知のもの、例えば、特許第2797080号公報に記載されているような液滴を微細化できるようなノズルを使用することもできる。なお、液滴は環状に噴霧されることが、生産性向上の点で好ましい。飛散した液滴は、これを乾燥する。前述の通り、飛散した該液滴を迅速に乾燥させるように、適当な温度や送風等の処理が施されるが、乾燥塔上部から下部に向かいダウンフローで乾燥ガスを導入するのが好ましい。このような構造とすることにより、乾燥塔単位容積当たりの処理量を大幅に向上させることができる。また、液滴を略水平方向に噴霧する場合、水平方向に噴霧された液滴をダウンフローガスで抑え込むことにより、乾燥塔の直径を大きく低減させることが可能となり、安価且つ大量に製造することが可能となる。乾燥ガス温度は、通常50℃以上、好ましくは70℃以上とし、通常120℃以下、好ましくは100℃以下とする。温度が高すぎると、得られた造粒粒子が中空構造の多いものとなり、粉体の充填密度が低下する傾向にあり、一方、低すぎると粉体出口部分での水分結露による粉体固着・閉塞等の問題が生じる可能性があある。
このようにして噴霧乾燥することによって原料となる造粒粒子が得られる。造粒粒子径としては、平均粒子径で好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下となるようにする。ただし、あまりに小さな粒径は得にくい傾向にあるので、通常は4μm以上、好ましくは5μm以上である。造粒粒子の粒子径は、噴霧形式、加圧気体流供給速度、スラリー供給速度、乾燥温度等を適宜選定することによって制御することができる。
リチウム、マンガン、及びニッケルを含む原料は、焼成処理される。焼成条件は、前記長周期構造を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得る上で重要である。焼成温度としては、原料として使用されるリチウム源、マンガン源、及びニッケル源等の種類によって異なるものの、通常700℃以上、好ましくは725℃以上、さらに好ましくは750℃以上、さらに好ましくは800℃以上であり、また通常1050℃以下、好ましくは1000℃以下である。温度が低すぎると長周期構造の生成が不十分となってサイクル特性が劣化しやすく、温度が高すぎると長周期構造の消失、目的とするリチウムニッケルマンガン複合酸化物以外の結晶相が生成、リチウムの揮散といった問題が生じるため、正極活物質の単位重量あたりの放電容量が低下しやすい。
焼成時間は温度によっても異なるが、通常前述の温度範囲であれば30分以上、50時間以下である。焼成時間が短すぎると結晶性の良いリチウムニッケルマンガン複合酸化物が得られにくくなり、また長すぎるのはあまり実用的ではない。焼成時間が長すぎると、また、その後解砕が必要になったり、解砕が困難になったりするので、好ましくは25時間以下、さらに好ましくは20時間以下である。
結晶欠陥が少ないリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得るためには、焼成反応後、ゆっくりと冷却することが好ましく、例えば5℃/min.以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。
焼成時の雰囲気は、製造する化合物の組成や構造に応じて、空気等の酸素含有ガス雰囲気や、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気とすることができるが、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の場合、ニッケルは原料の2価から目的生成物の3価へ酸化される必要があることから、好ましくは空気、酸素富化空気又は酸素である。
焼成に使用する加熱装置は、上記の温度、雰囲気を達成できるものであれば特に制限はなく、例えば箱形炉、管状炉、トンネル炉、ロータリーキルン等を使用することができる。
なお、本発明においては、スラリー中の固形分の平均粒子径、噴霧乾燥後の造粒粒子の平均粒子径、及びリチウムニッケルマンガン複合酸化物の平均粒子径は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定される。この方法の測定原理は下記の通りである。すなわち、スラリー又は粉体を分散媒に分散させ、該試料溶液にレーザー光を照射し、粒子に入射されて散乱(回折)した散乱光をディテクタで検出する。検出された散乱光の散乱角θ(入射方向と散乱方向の角度)は、大きい粒子の場合は前方散乱(0<θ<90°)となり、小さい粒子の場合は側方散乱又は後方散乱(90°<θ<180°)となる。測定された角度分布値から、入射光波長及び粒子の屈折率等の情報を用いて粒子径分布を算出する。更に得られた粒子径分布から平均粒子径を算出する。測定の際に用いる分散媒としては、例えば0.1重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を挙げることができる。
本発明のリチウムニッケルマンガン複合酸化物を正極活物質(正極材料)として、リチウム二次電池を作製することができる。リチウム二次電池は、通常正極、負極及び電解質を有する。本発明の二次電池は、上記リチウムニッケルマンガン複合酸化物を使用した正極と負極と電解液とを有する二次電池であり、この場合通常正極と負極との間には電解質が存在し、かつセパレーターが正極と負極が接触しないようにそれらの間に配置される。
正極は、通常前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる正極材料とバインダーとを含有する。また、通常、正極は、前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物とバインダーとを含有する正極層を集電体上に形成してなる。
このような正極層は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、バインダー及び必要に応じて導電剤等を溶媒でスラリー化したものを正極集電体に塗布し、乾燥することにより製造することができる。
正極層中には、LiFePO4等のように、リチウムニッケルマンガン複合酸化物以外
のリチウムイオンを吸蔵・放出しうる活物質をさらに含有していてもよい。
正極層中の活物質の割合は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上であり、通常99.9重量%以下、好ましくは99重量%以下である。多すぎると電極の機械的強度が劣る傾向にあり、少なすぎると容量等電池性能が劣る傾向にある。
また、正極に使用されるバインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ニトロセルロース等が挙げられる。正極層中のバインダーの割合は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、さらに好ま BR>オくは5重量%以上であ
り、通常80重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下、最も好ましくは10重量%以下である。バインダーの割合が低すぎると、活物質を十分に保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させることがあり、一方高すぎると電池容量や導電性を下げることがある。
正極層は、通常導電性を高めるため導電剤を含有する。導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛や、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料を挙げることができる。正極中の導電剤の割合は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上であり、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは15重量%以下である。導電剤の割合が低すぎると導電性が不十分になることがあり、逆に高すぎると電池容量が低下することがある。
また、スラリー溶媒としては、バインダーを溶解あるいは分散するものであれば特に制限はないが、通常は有機溶剤が使用される。例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N−N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加えてSBR等のラテックスで活物質をスラリー化することもできる。
正極層の厚さは、通常1〜1000μm、好ましくは10〜200μm程度である。厚すぎると導電性が低下する傾向にあり、薄すぎると容量が低下する傾向にある。
正極に使用する集電体の材質としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等が用いられ、好ましくはアルミニウムである。集電体の厚さは、通常1〜1000μm、好ましくは5〜500μm程度である。厚すぎるとリチウム二次電池全体としての容量が低下し、薄すぎると機械的強度が不足することがある。
なお、塗布・乾燥によって得られた正極層は、活物質の充填密度を上げるためローラープレス等により圧密されるのが好ましい。
二次電池の負極に使用される負極の活物質としては、リチウムやリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金であっても良いが、より安全性が高く、リチウムを吸蔵、放出できる炭素材料が好ましい。
前記炭素材料は特に限定されないが、黒鉛及び、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチの炭化物、石油系ピッチの炭化物、あるいはこれらピッチを酸化処理したものの炭化物、ニードルコークス、ピッチコークス、フェノール樹脂、結晶セルロース等の炭化物等及びこれらを一部黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
更に、負極活物質として、SnO、SnO2、Sn1-xxO(M=Hg、P、B、Si
、GeまたはSb、ただし0≦x<1)、Sn32(OH)2 、Sn3-xx2(OH)2(M=Mg、P、B、Si、Ge、Sb又はMn、ただし0≦x<3)、LiSiO2
SiO2又はLiSnO2等を挙げることができる。
なお、これらの中から選ばれる2種以上の混合物を負極活物質として用いてもよい。
負極は通常、正極の場合と同様、負極層を集電体上に形成されてなる。この際使用するバインダーや、必要に応じて使用される導電剤等やスラリー溶媒としては、正極で使用するものと同様のものを使用することができる。また、負極の集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等が使用され、好ましくは銅が用いられる。
正極と負極との間にセパレーターを使用する場合は、微多孔性の高分子フィルムが用いられ、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ナイロン、セルロースアセテート、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等のポリオレフィン高分子を用いることができる。また、ガラス繊維等の不織布フィルターや、ガラス繊維と高分子繊維との不織布フィルターを用いることもできる。セパレータの化学的及び電気化学的安定性は重要な因子である。この点からポリオレフィン系高分子が好ましく、電池セパレータの目的の一つである自己閉塞温度の点からポリエチレン製であることが望ましい。
ポリエチレンセパレーターの場合、高温形状維持性の点から超高分子量ポリエチレンであることが好ましく、その分子量の下限は好ましくは50万、さらに好ましくは100万、最も好ましくは150万である。他方分子量の上限は、好ましくは500万、更に好ましくは400万、最も好ましくは300万である。分子量が大きすぎると、流動性が低すぎて加熱された時セパレーターの孔が閉塞しない場合があるからである。
また、本発明のリチウム二次電池における電解質層を構成する電解質には、例えば公知の有機電解液、高分子固体電解質、ゲル状電解質、無機固体電解質等を用いることができるが、中でも有機電解液が好ましい。有機電解液は、有機溶媒と溶質から構成される。
有機溶媒としては特に限定されるものではないが、例えばカーボネート類、エーテル類、ケトン類、スルホラン系化合物、ラクトン類、ニトリル類、塩素化炭化水素類、エーテル類、アミン類、エステル類、アミド類、リン酸エステル化合物等を使用することができる。これらの代表的なものを列挙すると、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、4−メチル−2−ペンタノン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、1,2−ジクロロエタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等の単独もしくは二種類以上の混合溶媒が使用できる。
上述の有機溶媒には、電解質を解離させるために高誘電率溶媒が含まれることが好ましい。ここで、高誘電率溶媒とは、25℃における比誘電率が20以上の化合物を意味する。高誘電率溶媒の中で、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びそれらの水素原子をハロゲン等の他の元素又はアルキル基等で置換した化合物が電解液中に含まれることが好ましい。高誘電率化合物の電解液に占める割合は、好ましくは20重量%以上、更に好ましくは30重量%以上、最も好ましくは40重量%以上である。該化合物の含有量が少ないと、所望の電池特性が得られない場合があるからである。
またこの溶媒に溶解させる溶質として特に限定されるものではないが、従来公知のいずれもが使用でき、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiB(C654 、LiCl、LiBr、CH3SO3Li、CF3SO3Li、LiN(SO2CF32
LiN(SO2252、LiC(SO2CF33、LiN(SO3CF32等が挙げられ、これらのうち少なくとも1種以上のものを用いることができる。また、CO2 、 N2O、CO、SO2 等のガスやポリサルファイドSx 2-など負極表面にリチウムイオンの効率
よい充放電を可能にする良好な皮膜を生成する添加剤を任意の割合で上記単独又は混合溶媒に添加してもよい。
高分子固体電解質を使用する場合にも、高分子としては、公知のものを用いることができる。特にリチウムイオンに対するイオン導電性の高い高分子を使用することが好ましく、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミン等が好ましく使用される。またこの高分子に対して上記の溶質と共に、上記の溶媒を加えてゲル状電解質として使用することも可能である。
無機固体電解質を使用する場合にも、この無機物に公知の結晶質、非晶質固体電解質を用いることができる。結晶質の固体電解質としては例えば、LiI、Li3N、Li1+xxTi2-x(PO43(M=Al,Sc,Y,La)、Li0.5-3xRE0.5+xTiO3(RE=La,Pr,Nd,Sm)等が挙げられ、非晶質の固体電解質としては例えば、4.9LiI−34.1Li2O−61B25,33.3Li2O−66.7SiO2等の酸化物
ガラスや0.45LiI−0.37Li2S−0.26B23,0.30LiI−0.4
2Li2S−0.28SiS2等の硫化物ガラス等が挙げられる。これらのうち少なくとも1種以上のものを用いることができる。
以下、本発明を実施例を用いて更に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない<実施例1>(1)リチウムニッケルマンガン複合酸化物の製造
LiOH・H2O、Ni(OH)2、Mn23をそれぞれ最終的な層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物中の組成で、Li:Ni:Mn=1.05:0.50:0.50(モル比)となるように秤量し、これに純水を加えて固形分濃度16重量%のスラリーを調整した。このスラリーを攪拌しながら、循環式媒体攪拌型湿式粉砕機(シンマルエンタープライゼス社製:ダイノーミルKDL−A型)を用いて、2時間粉砕した。このスラリーの粘度をBM型粘度計(トキメック社製)により測定した。測定は室温大気中で行い、特定の金属製ローターを装置本体の回転軸に固定し、該ローターをスラリー液面下に浸し、回転軸を回転させてローターにかかる抵抗力(捻れの力)により粘度を算出した。その結果、初期粘度は1150mPa・sであった。
次にこのスラリーを二流体ノズル型スプレードライヤー(大川原化工機社製:L−8型スプレードライヤー)を用いて噴霧乾燥を行った。この時の乾燥ガスとして空気を用い、乾燥ガス導入量は40m3/min、乾燥ガス入り口温度は85℃とした。そして、噴霧
乾燥により得られた造粒粒子を900℃で10時間空気中で焼成することにより、ほぼ仕込みのモル比組成のリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得た。
(2)長周期構造の測定
得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物の長周期構造の測定を行った。
まず、加速電圧を300kVとした透過型電子顕微鏡(日立製作所製H−9000)を用い、これにより通常の観察像から1次粒子すなわち単一結晶であることを確認した上で、制限視野電子線回折法により単結晶からの電子線回折パターンを得、これをネガフィルム等で撮影した。解析に適した対称性の良好な電子線回折パターンを得るために、透過型電子顕微鏡の試料傾斜装置を用い、結晶に対する電子線の入射方向を調整を行った。また、電子顕微鏡は十分に調整されており、リファレンスなしでも電子線回折パターンにおける誤差は、格子面間隔測定においては3%以内、回折スポット間の角度については1.5度以内であった。本発明における構造を示す回折強度は比較的弱いため、電子線回折を撮影する際には、露出時間を通常の撮影条件より1桁以上変えながら複数枚撮影し、弱い回折も見落とすことのないよう十分に注意した。透過型電子顕微鏡を用いた制限視野電子線回折法では、基本的に同じ結晶であっても電子線の結晶への入射方向が異なれば、異なった回折パターンが得られるため、確実な解析を行うために多数の回折パターンを撮影する必要がある。さらに、回折パターンを撮影した1次粒子についてエネルギー分散型X線分光装置用いて組成分析し、不純物ではないことを確認した。
撮影された回折パターンの各回折スポットは、ダイレクトスポットからの距離と加速電圧(電子線の波長)と距離を測定する際のカメラ長を用いて結晶の格子面間隔に変換される。1枚の回折パターンにおいてダイレクトスポットから異なる方向の2つ以上の回折スポットについて面間隔とスポット間の角度を測る。これらのデータが、想定している結晶構造のものと誤差範囲内で一致するかどうかで、結晶構造を調べた。上記得られた結晶では、主な回折スポットは、LiMO2(M=Mn,Co,Ni)と類似の六方晶、a=2.87Å(±3
%)、c=14.13Å(±3%)、空間群R3(−)m により解釈され、各回折スポットの結晶格子面の指数付けもされたが、それらに加えてこの結晶構造そのままでは解釈できない回折スポットが出現していることが確認された。これを詳細に解析したところ、六方晶の等価な3方向の110方向のうち1方向のみ、3分の1(誤差±3%)の位置に回折点が加わっていることが判明した。これを明確に示す電子線回折パターンと上記六方晶を基本にした解釈結果を図1と図2とに示す。この現象から、本発明の結晶が上記六方晶の[110]方向のうちの1方向について3倍の大きさの長周期構造を有していることが分かる。また、粒子によっては2倍周期をもつもの、3倍周期と2倍周期が混在していると解釈されるものも測定された。
この正極活物質について、発散スリット0.25°、散乱スリット0.25°、及びステップ幅0.02°にてXRD測定を行ったところ、上記の3倍周期と対応するピークが観測された。すなわち、CuKα(Kα1:1.5406Å、Kα2:1.5444Å,Kα2除去なし)を用いて測定した場合に2θ=20.58Åにピークが観測され、このピ
ークは[110]方向の3倍周期に該当する(1/3,1/3,0)に帰属できた。(003)の回折ピークに帰属される18.60゜のピーク強度をA、20.58゜のピーク強度をBとすると、B/A=0.03であった。
上記得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物を用いてリチウム二次電池を作製し、性能を評価した。
(3)正極の作製と容量確認及びレート試験
リチウムニッケルマンガン複合酸化物75重量%、アセチレンブラック20重量%、ポリテトラフルオロエチレンパウダー5重量%の割合で秤量したものを乳鉢で十分混合し、薄くシート状にしたものを9mmφのポンチを用いて打ち抜いた。この際、全体重量は約8mgになるように調整した。これをAlのエキスパンドメタルに圧着して正極とした。
得られた前記正極を試験極とし、Li金属を対極としてコインセルを組んだ。即ち、正極缶の上に正極(12mmφ)を置き、その上にセパレータとして厚さ25μmの多孔性ポリエチレンフィルムを置き、ポリプロピレン製ガスケットで押さえた後、負極を置き、厚み調整用のスペーサーを置いた後、非水電解液溶液として、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を溶解させたエチレンカーボネート(EC)とジエチルカー
ボネート(DEC)の体積分率3:7の混合溶媒を電解液として用い、これを電池内に加えて十分しみ込ませた後、負極缶をのせ電池を封口した。
これに、0.2mA/cm2の定電流充電、即ち正極からリチウムイオンを放出させる
反応を上限4.3Vで行い、ついで0.5mA/cm2の定電流放電、即ち正極にリチウ
ムイオンを吸蔵させる反応を下限3.0Vで行った際の正極活物質単位重量当たりの初期充電容量QcmAh/g、初期放電容量をQd1mAh/gを測定した。その結果Qc=16
3.7mAh/g、Qd1=144mAh/gであった。
(4)負極の作製と容量確認
負極活物質としての平均粒径約8〜10μmの黒鉛粉末(d002=3.35Å)と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデンとを重量比で92.5:7.5の割合で秤量し、これをN−メチルピロリドン溶液中で混合し、負極合剤スラリーとした。このスラリーを20μmの厚さの銅箔の片面に塗布し、乾燥して溶媒を蒸発させた後、12mmφに打ち抜き、0.5ton/cm2でプレス処理をしたものを負極とした。
なお、この負極を試験極とし、Li金属を対極として電池セルを組み、0.2mA/cm2の定電流で負極にLiイオンを吸蔵させる試験を下限0Vで行った際の負極活物質単
位重量当たりの初期吸蔵容量をQfmAh/gとした。
<コインセルの組立>
コイン型セルを使用して、電池性能を評価した。即ち、正極缶の上に正極(12mmφ)を置き、その上にセパレータとして厚さ25μmの多孔性ポリエチレンフィルムを置き、ポリプロピレン製ガスケットで押さえた後、負極を置き、厚み調整用のスペーサーを置いた後、非水電解液溶液として、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を溶解させたエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の体積分率3:7の混合溶媒を電解液として用い、これを電池内に加えて十分しみ込ませた後、負極缶をのせ電池を封口した。この時、正極活物質の重量と負極活物質重量のバランスは、ほぼ
正極活物質重量[g]/負極活物質重量[g]=(Qf/1.2)/Qc
となるように設定した。
(5)サイクル試験
このように得られた電池の高温特性を比較するため、電池の1時間率電流値、即ち1Cを
1C[mA]=Qd1×正極活物質重量[g]
と設定し、以下の試験を行った。
まず室温で定電流0.2C充放電2サイクル及び定電流1C充放電1サイクルを行い、次に50℃の高温で定電流0.2C充放電1サイクル、ついで定電流1C充放電100サイクルの試験を行った。なお充電上限は4.2V、下限電圧は3.0Vとした。
この時50℃での1C充放電nサイクル試験部分の1サイクル目放電容量Qh(1)に対する、nサイクル目の放電容量Qh(n)の割合を高温サイクル容量維持率P(n)、即ち
P(n)[%]={Qh(n)/Qh(1)}×100
とし、この値で電池の高温特性を比較した。その結果、P(50)=94.8(%)であった。以上の結果を表−1にまとめる。
<比較例1>
硝酸マンガン6水和物、硝酸ニッケル6水和物をモル比でMn/Ni=1/1となるよう秤量し、両者の総重量の9倍量の水に溶解させた。この水溶液を60℃に加熱し、撹拌しながら水酸化リチウム水溶液を滴下した。水酸化リチウムの量は中和に必要な量の1.02倍とし、水酸化リチウム水溶液は7wt%とした。滴下終了後さらに3hr撹拌を続け、室温に冷却した後濾過し、50℃で24hr乾燥した。
乾燥後の粉体と水酸化リチウム1水和物をLi/(Mn+Ni)=1.05/1となるように乾式で混合し、焼成した。焼成条件は空気下1035℃で10hr、引き続いて700℃で24hrとした。
得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物のXRDと、実施例1と同様にして評価とを、それぞれ図4及び表−1に示す。なお、図4において、20.80゜にピークが観測されているが、このピークはリチウムマンガン酸化物の213相に帰属されるものであり、本発明で規定する前記長周期構造に帰属されるものではない。
Figure 2008056561
実施例1で得たリチウムニッケル複合酸化物の電子線回折像である。 実施例1で得たリチウムニッケル複合酸化物の他の電子線回折像である。 実施例1で得たリチウムニッケル複合酸化物のXRDである。 比較例1で得たリチウムニッケル複合酸化物のXRDである。

Claims (5)

  1. 下記一般式(I)で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物であって、六方晶(a=2.87Å(±5%)、c=14.13Å(±5%)、空間群R3(−)m)を基本構造として仮定した場合に、等価な3つの[110]方向のうち1方向に3倍あるいは2倍の長周期性を有する結晶構造を有することを特徴とするリチウムニッケルマンガン複合酸化物。
    LiXNiYMnZ(1-Y-Z)2 (I)
    (式中、Xは0<X≦1.2の範囲の数を表す。Y及びZは、1≦Y/Z≦9、及び、0<(1−Y−Z)≦0.5の関係を満たす数を表す。Qはニッケル及びマンガンと異なる1つ以上の元素を表す。)
  2. 下記一般式(I)で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物であって、以下の条件でX線回折測定を行なった場合の、2θ=18.60゜(±0.30゜)のピーク強度Aと、2θ=20.58゜(±0.17°)のピーク強度Bとの強度比B/Aが0.01以上であることを特徴とするリチウムニッケルマンガン複合酸化物。
    LiXNiYMnZ(1-Y-Z)2 (I)
    (式中、Xは0<X≦1.2の範囲の数を表す。Y及びZは、1≦Y/Z≦9、及び、0<(1−Y−Z)≦0.5の関係を満たす数を表す。Qはニッケル及びマンガンと異なる1つ以上の元素を表す。)
    測定条件X線源:CuKα線(CuKα1=1.5406Å、CuKα2=1.5444Å、CuKα2除去なし)
    発散スリット:0.25°
    散乱スリット:0.25°
    ステップ幅:0.02°
  3. 請求項1又は2に記載のリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなるリチウム二次電池用正極材料。
  4. 請求項1又は2に記載のリチウムニッケルマンガン複合酸化物とバインダーとを含有するリチウム二次電池用正極。
  5. 請求項1又は2に記載のリチウムニッケルマンガン複合酸化物を使用した正極と、負極と、電解質とを有することを特徴とするリチウム二次電池。
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