JP4051873B2 - 無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料のリサイクル方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エポキシ樹脂硬化物の処理方法、無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料の分離方法、および、エポキシ樹脂硬化物用の処理液に関する。
【0002】
【従来の技術】
エポキシ樹脂硬化物は、電気特性、耐熱性、接着性に優れているため、絶縁材、接着剤、塗料などの様々な分野で利用されている。しかし、熱硬化後は溶融せず、汎用溶媒には不溶となるため、エポキシ樹脂硬化物およびエポキシ樹脂硬化物が接着あるいは塗布されている製品を再利用することは困難であった。また、力学的性質等を向上させるためにエポキシ樹脂に配合される無機充填剤、無機繊維、無機繊維布、無機繊維不織布などを樹脂硬化物から分離して再利用することも、同様に困難であった。
【0003】
エポキシ樹脂硬化物とガラス繊維や金属との複合材料であるプリント配線板をそれぞれの構成成分に分離する方法として、粉砕して微粉末化し、比重等によって分離する技術が知られている。しかし、この方法では、金属の回収・再利用はある程度可能であるが、粉砕されたガラス繊維、樹脂粉は増量剤としての用途に限られ、有価物としての価値は著しく低いとともに、各材料を完全に分離することはできなかった。また、プリント配線板、積層板等の樹脂を熱分解して金属やガラス繊維を回収し、熱分解した樹脂はガス化または油化して回収する方法や、無機物だけではなく樹脂の熱分解物も回収する方法も知られている。しかし、これらの方法では、樹脂の熱分解に高温が必要とされ、得られた金属や無機物は酸化・変質し、樹脂は酸化または炭化されるためにそれらの有価物としての価値は低く、また、樹脂にハロゲン、鉛等の有害物が含まれている場合には、その分離と処理に多大なコストがかかるという問題があった。
このように、樹脂の再利用を目的とした場合、樹脂を熱分解させることは一般に好ましくない。そこで、熱硬化性樹脂廃棄物を溶媒、特に有機溶剤に溶解し、金属、ガラス等の無機物を分離する方法が検討されている(特開平10−314713号公報)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、エポキシ樹脂を含め熱硬化性樹脂は、一般に、その定義:「熱を加えることにより不溶不融化する樹脂」からも明らかであるように、汎用溶媒には溶解しにくいものであるため、上記公報に例示されたような一般的な溶媒では、依然として、樹脂硬化物の分離・回収に充分な溶解性は示されていなかった。したがって、処理に先立ち、前処理としての粉砕処理が必要であるが、そのために、ガラス繊維等の回収された無機物のリサイクル用途が粉砕物としての利用という制約を受け、再加工なしには織布または不織布としての利用ができないという問題がある。
【0005】
上記に鑑み、本発明は、(1)熱分解させずに再利用可能な状態で樹脂成分を容易に回収できるように、エポキシ樹脂硬化物を分解・溶解させる処理方法、(2)エポキシ樹脂硬化物を分解・溶解させることにより、無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料に含まれる無機物と樹脂成分とを容易に、それぞれが再利用可能な状態で分離する方法、(3)上記の2方法に用いられるエポキシ樹脂硬化物用の処理液、を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
プリント配線板の加工工程においては、エポキシ樹脂硬化物を溶解させる目的で、様々なエッチング液が利用されており、本発明者らは、先に、濃硫酸、クロム酸等の危険な薬品を使用しない、ハロゲン化高分子量エポキシ重合体からなるエポキシ樹脂硬化物のエッチング液として、アミド系溶媒とアルカリ金属化合物を含むものを報告した(特開平8−325436号,特開平8−325437号,特開平8−325438号,特開平9−316445号,特開平10−126052号公報)。従来、これらのエッチング液は、いずれも、樹脂硬化物の一部分をエッチング除去して電気回路等を形成することを目的とするものであり、除去後の樹脂成分の回収・利用は全く意図されていなかったが、本発明者らは、このようなエッチング液を更に発展させて、エポキシ樹脂硬化物の分解・溶解液として利用することにより、再利用可能な状態で樹脂成分や無機物を容易に回収できることを見出した。
【0007】
そこで、本発明に係るエポキシ樹脂硬化物の処理方法は、エポキシ樹脂硬化物分解触媒と有機溶媒とを含む処理液で処理することによりエポキシ樹脂硬化物を分解および溶解させることを特徴とするものである。エポキシ樹脂硬化物分解触媒は、エポキシ樹脂のエーテル結合を開裂させる触媒として作用するものであり、それにより有機溶媒により膨潤させられたエポキシ樹脂の分解が進行する。
【0008】
また、本発明に係る無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料の分離方法は、以下の工程(1)および(2)を含むことを特徴とするものである:
(1)無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料を、エポキシ樹脂硬化物分解触媒と有機溶媒とを含む処理液を用いて処理することにより、エポキシ樹脂硬化物を分解および溶解する工程;
(2)前記工程(1)により得られた液から無機物を分離させる工程。
さらに、本発明に係るエポキシ樹脂硬化物用の処理液は、エポキシ樹脂硬化物分解触媒と有機溶媒とを含むことを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係る処理方法および分離方法では、上記の処理液を用いることにより、熱分解させることなく、また処理対象物を粉砕することなく、エポキシ樹脂硬化物を分解・溶解して、その樹脂成分を再利用可能な状態で容易に回収することができる。処理対象が無機物を含む複合材料の場合には、処理液に溶解しない無機物を容易に分離して、それを再利用することもできる。
処理後のエポキシ樹脂硬化物の分解生成物は、合成樹脂の原料として再利用可能な化合物を含んでいることが好ましい。
【0010】
処理液の好ましい実施態様において、エポキシ樹脂硬化物分解触媒は、アルカリ金属および/またはアルカリ金属化合物、リン酸類および/またはその塩、有機酸および/またはその塩の中から選ばれた1以上の化合物を含むものである。また、有機溶媒は、アミド系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒の中から選ばれた1以上の溶媒を含むものである。さらに、アルカリ金属化合物はアルカリ金属塩であり、リン酸類の塩は水和物および/またはアルカリ金属塩であり、有機酸の塩は水和物および/またはアルカリ金属塩であることが、それぞれ好ましい。
処理対象となるエポキシ樹脂硬化物は、ハロゲン原子を含むものであることが好ましい。また、無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料の場合の無機物は、金属および/またはガラスであることが好ましく、複合材料は絶縁板、金属張り積層板、プリント配線板のいずれかであることが好ましい。
上記処理液による処理または工程(1)は、大気圧下で行うことが好ましく、また、処理液の温度は、空気中では250℃以下、不活性気体中では300℃以下であることが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のエポキシ樹脂硬化物の処理方法は、エポキシ樹脂硬化物分解触媒と有機溶媒とを含む処理液で処理することによりエポキシ樹脂硬化物を分解および溶解させるものである。
処理対象となるエポキシ樹脂硬化物は、エポキシ樹脂、硬化剤、架橋剤などから構成されるものであり、さらに必要に応じて硬化促進剤、触媒、エラストマ、難燃剤などを含んでいてもよいし、エポキシ樹脂以外の成分が不純物として含まれていてもよい。
【0012】
エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を有するものであればどのようなものでもよく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジルエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物、フェノール類のジグリシジルエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物、およびこれらのアルキル置換体、ハロゲン化物、水素添加物などがある。これらは、複数種が併用されていてもよい。
【0013】
上記のエポキシ樹脂のうち、ハロゲン化ビスフェノール化合物(テトラブロモビスフェノールA等)とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるエポキシ樹脂(ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールS型エポキシ樹脂等)のように、エーテル基が結合しているベンゼン環の、エーテル基に対してオルト位が塩素、臭素等のハロゲン原子で置換されているエポキシ樹脂を使用することが好ましい。電子吸引性のハロゲン原子がベンゼン環に結合することによりエーテル結合の開裂が起こりやすくなり、その結果、処理液によるエポキシ樹脂硬化物の分解・溶解の効率が特に良好になるからである。
【0014】
エポキシ樹脂用硬化剤は、エポキシ樹脂を硬化させるものであれば特に限定されることはなく、たとえば、多官能フェノール類、アミン類、イミダゾール化合物、酸無水物、有機リン化合物およびこれらのハロゲン化物などが挙げられる。これらは単独で使用されていてもよいし、2種以上が任意の組み合わせで用いられていてもよい。これらの硬化剤の配合量は、エポキシ基の硬化反応を進行させることができれば特に限定はされないが、好ましくは、エポキシ基1モルに対して、0.01〜5.0当量の範囲で、特に好ましくは0.8〜1.2当量の範囲で使用される。
【0015】
上記多官能フェノール類としては、単環二官能フェノールであるヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール;多環二官能フェノールであるビスフェノールA、ビスフェノールF、ナフタレンジオール類、ビフェノール類;およびこれらのハロゲン化物、アルキル基置換体などが挙げられる。さらに、これらのフェノール類とアルデヒド類との重縮合物であるノボラック、レゾールを用いることもできる。
【0016】
アミン類としては、脂肪族あるいは芳香族の第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アンモニウム塩および脂肪族環状アミン類、グアニジン類、尿素誘導体等が挙げられる。
これらの化合物の一例としては、N,N−ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、テトラメチルグアニジン、トリエタノールアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ[4.4.0]−5−ノネン、ヘキサメチレンテトラミン、ピリジン、ピコリン、ピペリジン、ピロリジン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジフェニルアミン、N−メチルアニリン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−オクチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリフェニルアミン、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラメチルアンモニウムアイオダイド、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジシアンジアミド、トリルビグアニド、グアニル尿素、ジメチル尿素等が挙げられる。
【0017】
上記イミダゾール化合物としては、イミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、4,5−ジフェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2−ウンデシルイミダゾリン、2−ヘプタデシルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾリン、2−フェニル−4−メチルイミダゾリン、ベンズイミダゾール、1−シアノエチルイミダゾールなどが挙げられる。
酸無水物としては、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
有機リン化合物は、有機基を有するリン化合物であれば特に限定されず、たとえば、ヘキサメチルリン酸トリアミド、リン酸トリ(ジクロロプロピル)、リン酸トリ(クロロプロピル)、亜リン酸トリフェニル、リン酸トリメチル、フェニルホスホン酸、トリフェニルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、ジフェニルホスフィンなどが挙げられる。
【0018】
また、エポキシ樹脂硬化物には、硬化促進剤が含まれていてもよい。代表的な硬化促進剤としては、第三級アミン、イミダゾール類、第四級アンモニウム塩等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0019】
以上のような構成成分からなるエポキシ樹脂組成物を任意の方法で硬化させることにより、本発明の処理対象となるエポキシ樹脂硬化物を得ることができるが、その硬化条件は、反応が進行する条件を任意に選択すればよい。たとえば、温度に関しては、反応が進行するのであればどのような温度でもよいが、一般には室温〜250℃の範囲で硬化させることが好ましい。また、この硬化反応は、加圧下、大気圧下または減圧下のいずれの条件で行ってもよい。
【0020】
次に、上記樹脂硬化物を分解および溶解させるための処理液は、エポキシ樹脂硬化物分解触媒と有機溶媒とを含むものである。すなわち、本発明で使用される処理液は、エポキシ樹脂硬化物のエーテル結合開裂のための触媒として作用する化合物と有機溶媒とを必須成分として含むものであればよく、これらの化合物以外に任意の化合物が併用されていてもよいし、不純物が含まれていてもかまわない。
【0021】
好ましい実施態様において、エポキシ樹脂硬化物分解触媒は、アルカリ金属および/またはアルカリ金属化合物、リン酸類および/またはその塩、有機酸および/またはその塩の中から選ばれた1以上の化合物を含むものである。「1以上の化合物」とは、これらの化合物の任意の組合せが可能であることを意味しており、たとえば、アルカリ金属化合物同士、リン酸類(塩)同士を組み合わせてもよいし、アルカリ金属化合物とリン酸類(塩)、リン酸類(塩)と有機酸(塩)といった組み合わせでもよい。これらの化合物は、合計量として、有機溶媒中に0.001〜80重量%、特に0.1〜30重量%の濃度で含まれていることが好ましい。0.001重量%未満では樹脂硬化物の分解速度が遅くなる傾向があり、80重量%を超えると処理液の調製が困難になる傾向がある。また、これらの化合物は、必ずしもすべてが溶解している必要はなく、非溶解分が存在する飽和溶液においては、溶質は平衡状態にあり、溶解した化合物が失活した場合には非溶解分が溶解してそれを補うことになるので、そのような飽和溶液の使用も有用である。
【0022】
上記アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等がある。また、アルカリ金属化合物としては、このようなアルカリ金属の水素化物、水酸化物、ホウ水素化物、アミド化合物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、ホウ酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、有機酸塩、アルコラート、フェノラート等が挙げられる。なかでも、有機溶媒への溶解性が良好で、触媒効果(イオン活性)が高く、イオンとしての毒性が低い等の観点から、アルカリ金属塩を用いることが好ましい。これらの金属および金属化合物は、単独で使用してもよいし、数種類を併用してもよく、有機溶媒中に0.01〜80重量%、特に0.1〜10重量%含まれていることが好ましい。
【0023】
リン酸類としては、リン酸、メタリン酸、次リン酸、亜リン酸(ホスホン酸)、次亜リン酸(ホスフィン酸)、ピロリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ピロ亜リン酸などが挙げられる。また、リン酸類の塩は、前記のリン酸類の陰イオンと、陽イオンとの塩であり、陽イオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、パラジウム、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、スズ、アンモニウムなどのイオンが挙げられる。なかでも、上記と同様の理由かアルカリ金属塩、および、溶媒への溶解性の観点から水和物を用いることが好ましい。これらの塩は、1個の金属と2個の水素を有する第一塩、2個の金属と1個の水素を有する第二塩、3個の金属を有する第三塩のいずれでもよく、酸性塩、アルカリ性塩、中性塩のいずれでもよい。これらの化合物は、単独で使用しても、数種類を併用してもよく、有機溶媒中に0.01〜80重量%、特に0.1〜30重量%含まれていることが好ましい。
【0024】
有機酸としては、アクリル酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、アミノ安息香酸、アルギン酸、安息香酸、オレイン酸、ギ酸、クエン酸、グリコール酸、グルコン酸、グルタミン酸、ケイ皮酸、コハク酸、酢酸、サリチル酸、シュウ酸、酒石酸、トルエンスルホン酸、ニコチン酸、乳酸、尿酸、ハロゲン置換酢酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、マロン酸、酪酸、リンゴ酸などが挙げられる。また、有機酸の塩は、前記の有機酸の陰イオンと、水素以外の陽イオンとの塩であり、陽イオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、パラジウム、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、スズ、アンモニウムなどのイオンが挙げられる。なかでも、有機酸の塩は、上記と同様の理由から、水和物、アルカリ金属塩であることが好ましい。これらの塩は、1個の金属と2個の水素を有する第一塩、2個の金属と1個の水素を有する第二塩、3個の金属を有する第三塩のいずれでもよく、酸性塩、アルカリ性塩、中性塩のいずれでもよい。これらの化合物は単独で使用しても、数種類を併用してもよく、有機溶媒中に0.01〜80重量%、特に0.1〜30重量%含まれていることが好ましい。
【0025】
また、上記有機溶媒としては、イオン性触媒の溶解性の観点から、アミド系、アルコール系、ケトン系、エーテル系の中から選ばれた1種以上を好ましく用いることができるが、これらに限定されることはなく、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、フェノール類、アセタール、脂肪酸、酸無水物、エステル、窒素化合物、硫黄化合物(ジメチルスルホキシド等)等の溶媒や、2以上の官能基を持つ溶媒(エステルとエーテル、アルコールとエーテル等)も用いることができる。これらの溶媒は、単独で使用しても、数種類を組み合わせて(たとえば、アミド系溶媒同士、または、アミド系溶媒とアミド系以外の溶媒)使用してもよい。また、これらの溶媒以外に、任意の溶媒を併用してもよく、無機溶媒である水、アンモニア等を混合することも可能であるし、不純物が含まれていてもかまわない。
【0026】
アミド系溶媒としては、たとえば、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、カプロラクタム、カルバミド酸エステル等を好ましく使用できる。
【0027】
アルコール系溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2− ブタノール、iso−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、iso−ペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、3−メチル−2−ブタノール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、シクロヘキサノール、1−メチルシクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量200〜400)、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、グリセリン、ジプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0028】
ケトン系溶媒としては、たとえば、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ホロン、イソホロン等が挙げられる。
【0029】
エーテル系溶媒としては、たとえば、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセタール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0030】
処理液を調製する際の温度はどのような温度でもよいが、使用する溶媒の融点以上、沸点以下で行うことが好ましい。また、処理液を調製する際の雰囲気は、大気中でも不活性気体中でもよく、大気圧下(常圧下)、減圧下、加圧下のいずれでもよい。また、このようにして得られた処理液に、界面活性剤等を添加して使用することもできる。
【0031】
上記の処理液により処理対象物であるエポキシ樹脂硬化物を分解および溶解する処理方法は、特に限定されず、処理液中に浸漬することによって行ってもよいし、液中に浸さず、スプレー等によって処理液を処理対象物に吹き付けてもよい。処理液は、撹拌機、ポンプ、気体の吹き込み等によって撹拌してもよいし、また、浸漬処理を行う場合には、超音波により振動を与えながら処理を行うこともできる。樹脂硬化物を処理する際の処理液は、処理速度を調整するために、溶媒の凝固点以上、沸点以下の任意の温度で使用することができる。しかし、望ましくない樹脂硬化物の熱分解を防ぐためには、空気中では250℃以下、不活性気体中では300℃以下の温度の処理液で処理することが望ましい。処理液の使用時ならびに保存時の雰囲気は、大気中でも不活性気体中でもよく、大気圧下、減圧下、加圧下のいずれでもよい。場合により高圧をかけることも有効であるが、安全性を重視する場合には、大気圧下であることが好ましい。
【0032】
処理対象物の大きさには特に制限はなく、廃棄されたそのままの状態(たとえば、250mm角のプリント配線板)でもよいし、破砕・粉砕されたものでもよい。破砕・粉砕されたものの方が、処理時間は短縮できるが、得られる再生材の用途は狭まることを考慮すると、具体的には、破砕片の大きさを概ね5mm以上あるいは10mm以上とすることが好ましい。なお、処理対象物の破砕の程度が粉砕(概ね1mm以下)まで小さくなると、たとえばガラス繊維であれば回収物のリサイクル用途がなくなってしまい、その価値が著しく低下してしまう恐れがある。対象物に対する処理液の量には特に制限がなく、処理液が対象物に接触する量であればよい。
【0033】
このようにして分解・溶解された樹脂成分(樹脂由来の有機成分)の分離方法、洗浄方法、用途等には特に制限はない。たとえば、処理後の液から沈殿法等により残渣(不溶物)を分離除去したのち、蒸留等により有機溶剤を分離し、得られた樹脂成分を合成樹脂の原料等として再利用することができる。
具体的には、処理後の樹脂硬化物の分解生成物が、フェノール類、フェノール類のグリシジルエーテル化物、フェノール類の金属塩、アミン類、カルボン酸類およびこれらのハロゲン化物、水添化物等(たとえば、フェノール、クレゾール、ジメチルフェノール、プロピルフェノール、エチルフェノール、ヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビフェノール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、およびこれらのグリシジルエーテル化物、ハロゲン化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等)である場合には、これらをそのまま、好ましくは精製してから、再利用することができる。
【0034】
次に、本発明に係る無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料の分離方法は、以下の工程(1)および(2)を含むものである:
(1)無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料を、エポキシ樹脂硬化物分解触媒と有機溶媒とを含む処理液を用いて処理することにより、エポキシ樹脂硬化物を分解および溶解させる工程;
(2)前記工程(1)により得られた液から無機物を分離する工程。
【0035】
処理の対象となる無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料は、上述のエポキシ樹脂硬化物と無機物とからなる複合材料であり、代表的には、無機物として金属、ガラスを含む絶縁板、金属張り積層板、プリント配線板が挙げられる。
無機物としては、金属および金属の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、窒化物などがあり、たとえば、ホウ素、アルミニウム、鉄、ケイ素、チタン、クロム、コバルト、ニッケル、亜鉛、パラジウム、銀、スズ、タングステン、白金、金、鉛、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、マイカ、シリカ、粘土、ガラス、炭素、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウムなどが挙げられ、これらを融合したものでもよく、混合したものでもよい。また、無機物の形状としては、粉末、粒状物、繊維、箔、フィルム、線、回路などがある。繊維は、マット状にしたものでも、布のように織られたものでもよい。複合材料中の無機物の比率は任意であるが、一般的には、その複合材料全体に対して5〜90重量%の範囲にある。
【0036】
これらの無機物は、たとえば粉末状、粒状または短繊維状であれば、前記した硬化用のエポキシ樹脂組成物に配合して用いられ、これを注形成形等により硬化させることにより無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料とされる。また、たとえばマット状・布状の無機物であれば、これらの無機物に、前記のエポキシ樹脂組成物(上記のように粉末状、粒状または短繊維状の無機物を含有させたものでもよい)を含浸させて、部分硬化させて得られるB−ステージ状態にしたプリプレグ、このプリプレグまたはB−ステージ前のプリプレグを積層して硬化させて得られる積層板も、本発明における無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料である。あるいは、金属箔に、前記エポキシ樹脂組成物(上記のように粉末状、粒状または短繊維状の無機物を含有させたものでもよい)を塗布または流延し、硬化させて得られる金属箔付き樹脂板またはフィルム、前記プリプレグまたはB−ステージ前のプリプレグに金属箔を積層し、硬化させた金属箔付き樹脂板、前記した積層板に、前記の金属箔付き樹脂板またはフィルム(ただし、硬化前のもの)、または金属箔付き樹脂板(ただし、プリプレグを使用したものであって、硬化前のもの)を積層し、硬化させた金属箔張り積層板もまた、本発明における無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料である。さらに、前記したエポキシ樹脂組成物(上記のように粉末状、粒状または短繊維状の無機物を含有させたものでもよい)と金属箔を用い、さらに適当な回路形成法を適用して得られる内層回路板、これに前記の金属箔付き樹脂板またはフィルム(ただし、硬化前のもの)、または金属箔付き樹脂板(ただし、プリプレグを使用したものであって、硬化前のもの)を積層し、硬化させた金属箔張り積層板も、本発明における複合材料である。前記した金属箔を有する樹脂板、フィルムまたは積層板は、金属箔に回路形成法を適用して回路形成されたものであってもよい。
【0037】
このような複合材料に対する上記工程(1)の処理方法、および、得られた樹脂成分とその再利用等については、エポキシ樹脂硬化物の処理方法で述べたと同じである。工程(2)の分離方法は、特に限定されず、濾過、デカンテーション等により、容易に液から金属やガラス等の無機物を分離することができ、それらを再利用することができる。本発明の分離方法によれば、処理の際に、基板等の処理対象を破砕・粉砕する必要がないため、リサイクルの可能性の高い状態で、たとえばガラス繊維(ガラス織布)などはそのまま再利用できる程度に、無機物を回収することができる。
【0038】
さらに、本発明に係るエポキシ樹脂硬化物用の処理液は、エポキシ樹脂硬化物分解触媒と有機溶媒とを含むものであり、上述のように、本発明に係るエポキシ樹脂硬化物の処理方法、および、無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料の分離方法に好ましく用いることができる。その好ましい配合成分や調製方法等は、上記エポキシ樹脂硬化物の処理方法で述べたとりである。
【0039】
【実施例】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の実施例において、%は重量%を表す。
【0040】
A.アルカリ金属化合物を含む処理液への溶解性(1)
[参考例A1〜15、比較例A1〜6]
(エポキシ樹脂硬化物の作製)
臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(住友化学工業株式会社商品名「ESB400T」;エポキシ当量400、臭素含有率48%)とビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社商品名「エピコート1001」;エポキシ当量470)を併用し、硬化剤としてフェノールノボラック樹脂(日立化成工業株式会社商品名「HP850N」;水酸基当量106)、硬化促進剤としてイミダゾールをそれぞれ用い、エポキシ樹脂組成物を調製した。二種類のエポキシ樹脂の配合量とフェノールノボラック樹脂の配合量は、エポキシ当量/水酸基当量=1になるよう調整し、二種類のエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂組成物全量に対する臭素量が20%または30%となるようにその配合割合を調整し、硬化剤は、エポキシ樹脂の合計配合量に対して0.5%配合した。
得られた2種類のエポキシ樹脂組成物を乾燥機中170℃、60分間で硬化させて、臭素含有率の異なる2種類の樹脂板(厚さ約0.5〜1.0mm)を得た。
【0041】
(処理液の調製)
参考例Aとして、表1に示す各成分を用い、アミド系、ケトン系、アルコール系およびエーテル系の各有機溶媒中、アルカリ金属化合物の3%溶液を調製した。これらの処理液の中には、アルカリ金属化合物が完全には溶解しきれず、処理液を槽内に静置したときに、槽の底に沈殿しているものもあった。
表中の有機溶媒名は、以下のとおりである。NMP:N−メチル−2−ピロリドン、CHON:シクロヘキサノン、PEG:ポリエチレングリコール#200、DGMM:ジエチレングリコールモノメチルエーテル、DGDM:ジエチレングリコールジメチルエーテル
また、比較例A1〜5として、有機溶媒だけの処理液を用い、比較例A6として、水酸化カリウムの3%水溶液を調製した。
【0042】
(エポキシ樹脂硬化物の処理)
上記2種類の各樹脂板を約5mm×5mmに切断し、その0.5gを秤量して、上記各処理液50g中に投入した。処理液を所定の温度(60℃、80℃、100℃)に保ったまま、1時間激しく攪拌した。溶解性は、処理液内を目視で観察して、以下の基準に従って評価した。5:すべて溶解、4:ほぼ溶解、3:半分溶解、2:著しく破断、1:やや破断、0:無変化
結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1にみるように、比較例A1〜5の有機溶媒だけで処理した場合、溶解性はいずれも無変化であり、比較例A6のようにアルカリ金属化合物の水溶液で処理しても、無変化であった。
それに対し、参考例A1〜15に示されるように、アルカリ金属化合物の有機溶媒溶液を処理液とした場合には、すべて溶解する場合もあり、いずれも良好な溶解性が示された。
【0045】
B.アルカリ金属化合物を含む処理液への溶解性(2)
[実施例B1〜15、比較例B1〜6]
(無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料の準備)
(1)臭素化エポキシ樹脂、臭素不含(含まない)エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、ガラスクロス、銅箔を用いて得られる銅張り積層板である「MCL−E−679」(樹脂硬化物中の臭素含有率15%)、「MCL−E−67」(樹脂硬化物中の臭素含有率20%)を用意した。いずれも、日立化成工業株式会社の商品名である。
【0046】
(2)臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成株式会社商品名「AER8011」;エポキシ当量470、臭素含有率20%),高分子量臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(臭素含有率53%、数平均分子量25,000;数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィにより標準ポリスチレンの検量線を使用して測定したもの)、硬化剤としてフェノールノボラック樹脂(日立化成工業株式会社商品名「HP850N」;水酸基当量106)、硬化促進剤として2−メチル−4−メチルイミダゾールををそれぞれ用い、エポキシ樹脂組成物を調製した。二種類のエポキシ樹脂の配合量とフェノールノボラック樹脂の配合量は、エポキシ当量/水酸基当量=1になるよう調整し、二種類のエポキシ樹脂は、無機物を含まないエポキシ樹脂組成物全量に対する臭素量が28%となるようにその配合割合を調整し、硬化剤は、エポキシ樹脂の合計配合量に対して0.5%配合した。
得られたエポキシ樹脂組成物をガラスクロスに含浸し、160℃、4分間予備乾燥してプリプレグを作製した。このプリプレグに銅箔を積層し、170℃、90分間加熱して、無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料である銅張り積層板を得た。以下、これを検討品という。
【0047】
(3)上記(1)の銅張り積層板と(2)の検討品を、それぞれ10mm×50mmに切断し、両面に1mm幅の銅箔による回路を3本形成して試験片とした。
【0048】
(処理液の調製)
実施例Bとして、表2に示す各成分を用い、アミド系、ケトン系、アルコール系およびエーテル系の各有機溶媒中、アルカリ金属化合物の3%溶液を調製した。ここで、実施例B1、B2、B5における有機溶媒の組合せは、順に、NMP80%+PEG17%、CHON80%+DGMM17%、DGDM80%+PEG17%とした。これらの処理液の中には、アルカリ金属化合物が完全には溶解しきれず、処理液を槽内に静置したときに、槽の底に沈殿しているものもあった。なお、表中の化合物名は、上記参考例Aで示したとおりである。
また、比較例B1〜5として、有機溶媒だけの処理液を用い、比較例B6として、水酸化カリウムの3%水溶液を調製した。
【0049】
(複合材料の処理)
上記3種類の試験片を、予め質量を測定した後、所定温度(60℃、100℃)の上記各処理液中に浸漬した。60分経過後、試験片を取り出して再び質量を測定した。複合材料の樹脂分率により処理前の樹脂硬化物の質量を算出し、処理前と処理後の質量変化量から、樹脂硬化物の質量変化率を求め、これを樹脂硬化物の処理液への溶解率とした。
結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2にみるように、比較例B1〜5の有機溶媒だけで処理した場合、溶解率が1%を越えるものはなかった。また、比較例B6のようにアルカリ金属化合物の水溶液で処理しても、溶解率は1%を越えなかった。
それに対して、実施例B1〜15に示されるように、アルカリ金属化合物の有機溶媒溶液を処理液とした場合には、最高93.5%の溶解率が示された。臭素含有率が少ない複合材料の方が溶解性は低下するものの、比較例の溶解率に対し2〜10倍の溶解性を示すことが判明した。
【0052】
C.リン酸類/その塩を含む処理液への溶解性
[実施例C1〜45、比較例C1〜21]
(無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料の準備)
複合材料として、臭素化エポキシ樹脂硬化物、ガラスクロス、銅箔で構成し、170℃、90分間加熱硬化させたものを用いた。臭素化エポキシ樹脂の硬化剤としては、アミン類であるジシアンジアミドを用いた。臭素化エポキシ樹脂の配合量を調整することにより、樹脂硬化物の臭素含有率は約20%とした。
この試料を10mm×30mmに切断し、両面に1mm幅の銅箔による回路を3本形成し、試験片とした。
【0053】
(処理液の調製)
実施例Cとして、表3に示す各リン酸類またはその塩と有機溶媒を、溶媒1リットルに対し1.0当量となる量で秤量し、室温で混合撹拌して処理液を調製した。表中の有機溶媒の化合物名は、上記参考例Aで示したとおりである。
また、比較例C1〜3として有機溶媒だけの処理液、比較例C4として水だけの処理液をそれぞれ用い、比較例C5〜21として、表3に示すリン酸類/塩の3%水溶液を調製した。
【0054】
(複合材料の処理)
上記処理液を、コンデンサ、温度計、窒素導入口、撹拌機を取り付けたフラスコに入れ、窒素気流中で穏やかに撹拌しながら、オイルバスを使用して有機溶媒の処理液は140℃に、水溶液の処理液は100℃にそれぞれ加温した。この各処理液中に、上記試験片を、その質量を測定した後に浸漬し、4時間後に取り出して再び質量を測定した。処理前後の質量変化量を、予め測定しておいた試験片の樹脂の総質量で割り、樹脂硬化物の溶解率を求めた。
結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
表3にみるように、比較例C1〜3の有機溶媒だけで処理した場合、溶解率は1%程度であり、また比較例C4〜21に示されるように、水だけ、またはリン酸類/その塩の水溶液で処理しても、溶解率は0%であった。
それに対し、実施例C1〜45に示されるように、リン酸類/その塩の有機溶媒溶液を処理液とした場合には、溶媒の種類による差はみられるが、いずれも樹脂硬化物を溶解し、特に実施例C10、C11、C30、C31では高い溶解率が示された。
【0057】
D.有機酸/その塩を含む処理液への溶解性
[実施例D1〜34、比較例D1〜20]
上記実施例Cと同様にして、無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料を作製し、これを表4に示す成分の処理液で上記実施例Cと同様に処理して、それぞれの処理液による樹脂硬化物の溶解性を調べた。
結果を表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
表4にみるように、比較例D1およびD2の有機溶媒だけで処理した場合、溶解率は1%程度であった。また比較例D3〜20に示されるように、水だけ、または有機酸/その塩の水溶液で処理しても、溶解率は0%であった。
それに対し、実施例D1〜34に示されるように、有機酸/その塩の有機溶媒溶液を処理液とした場合には、溶媒の種類による差はみられるが、いずれも樹脂硬化物を溶解し、特に実施例D3、D6、D9、D19、D20、D21では高い溶解率が示された。
【0060】
【発明の効果】
本発明によれば、熱分解することなくエポキシ樹脂硬化物を容易に分解・溶解することができ、その分解生成物を、たとえば合成樹脂の原料などとして、再利用することが可能となる。
また、本発明によれば、無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料において樹脂硬化物を分解・溶解させ、樹脂成分を含む溶液から無機物(無機充填剤、無機繊維、金属箔など)を容易に分離して、樹脂成分および無機物をそれぞれ再利用することが可能になる。さらに、本発明を部品を搭載したプリント配線板に適用することにより、樹脂硬化物の分解・溶解により、無機系充填剤、無機繊維のみならず、回路である金属箔や回路に接続された部品も液中に分散するので、これらを容易に分離・回収することも可能となる。
Claims (8)
- 以下の工程(1)および(2)を含むことを特徴とする、無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料のリサイクル方法:
(1)無機物とエポキシ樹脂硬化物との複合材料を、アルカリ金属および/またはアルカリ金属化合物、リン酸類および/またはその塩、有機酸および/またはその塩の中から選ばれた1以上の化合物を含むエポキシ樹脂硬化物分解触媒と、アミド系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒の中から選ばれた1以上の溶媒を含む有機溶媒とを含む処理液を用いて処理することにより、前記エポキシ樹脂硬化物を分解および溶解させる工程;および
(2)前記工程(1)により得られた液から前記無機物を分離する工程。 - 前記アルカリ金属化合物がアルカリ金属塩である請求項1記載のリサイクル方法。
- 前記リン酸類の塩が水和物および/またはアルカリ金属塩である請求項1または2に記載のリサイクル方法。
- 前記有機酸の塩が水和物および/またはアルカリ金属塩である請求項1〜3のいずれかに記載のリサイクル方法。
- 前記エポキシ樹脂硬化物がハロゲン原子を含むものである請求項1〜4のいずれかに記載のリサイクル方法。
- 前記エポキシ樹脂硬化物の分解生成物が合成樹脂の原料として再利用可能な化合物を含んでいる請求項1〜5のいずれかに記載のリサイクル方法。
- 前記工程(1)の処理を大気圧下で行う請求項1〜6のいずれかに記載のリサイクル方法。
- 前記工程(1)の処理液の温度が空気中では250℃以下、不活性気体中では300℃以下である請求項1〜7のいずれかに記載のリサイクル方法。
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