JP4045371B2 - 表面サイズ剤、及びその塗工紙の製造方法 - Google Patents

表面サイズ剤、及びその塗工紙の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルキルケテンダイマー(以下、AKDという)の水性エマルションを単用し、或は、当該AKDエマルションと水溶性共重合体を併用した表面サイズ剤に関し、特に、2液併用型においては、貯蔵安定性に優れ、酸性紙並びに中性紙のいずれにおいても優れたサイズ性を示し、塗工紙の摩擦係数の低下も抑制できるものを提供する。
【0002】
【従来の技術】
近年、酸性紙の劣化の問題、抄紙工程での白水のクローズド化、コート損紙の混入の問題、填料として安価な炭酸カルシウムの利用などの観点から、中性抄紙への要求が高まり、中性抄紙用のサイズ剤の需要が増している。
また、サイジング方法としては、パルプスラリーにサイズ剤を添加する内添サイジングと、抄紙工程で得られた紙の表面にサイズ剤を塗工する表面サイジングがあるが、後者に用いる表面サイズ剤は、内添サイズ剤に比べて抄紙用水の影響を受けにくく、歩留りが高く、工程管理が行い易いなどの利点がある。
【0003】
従来の表面サイズ剤としては、スチレン−マレイン酸系共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体などの水溶性共重合体、或は、AKDなどがある。
上記スチレン−マレイン酸系共重合体は、硫酸バンドを多く使用した酸性紙では良好なサイズ性を発現するが、中性紙、硫酸バンドの少ない新聞紙などではサイズ性能は劣る。
また、上記スチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体は、スチレン−マレイン酸系共重合体に比べて中性紙に対するサイズ性能は良いが、上記AKDに比べるとそのレベルは低い。
【0004】
一方、上記AKD系の表面サイズ剤は、中性紙において優れたサイズ性を示すという特長がある反面、塗工紙の摩擦係数を大きく低下させ(滑り易く)、機械的安定性が劣り塗工機を汚損し易いという問題がある。
このため、AKDと水溶性共重合体を併用することにより、中性紙でのサイズ性能をAKDで確保しながら、水溶性共重合体で摩擦係数の低下を抑制しているのが実情である。
【0005】
上記AKDと水溶性共重合体を併用した表面サイズ剤の従来技術としては、下記のものなどがある。
(1)特開平11−217795号公報(従来技術1)
(メタ)アクリルアミド系共重合体の存在下で、スチレン、アルキル(メタ)アクリレートなどの疎水性単量体を主成分として乳化重合した共重合体のエマルションと、カチオンデンプンなどで分散したAKDエマルションとを混合したエマルション型の表面サイズ剤が開示されている。
【0006】
(2)特開平7−119082号公報(従来技術2)
カチオンデンプンなどで分散したAKDエマルションと、アニオン性高分子型分散剤及び/又は両性高分子型分散剤とを混合した表面サイズ剤が開示されている。この場合、上記アニオン性高分子型分散剤はスチレンなどのビニル化合物と(メタ)アクリル酸などのアニオン性単量体との共重合物塩などであり、上記両性高分子型分散剤はビニル化合物とアニオン性単量体とジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのカチオン性単量体との共重合物塩、或は、ビニル化合物とN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−N−メチルカルボキシベタインなどの両性単量体との共重合物塩などである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
AKDエマルションと水溶性共重合体を併用するタイプの表面サイズ剤においては、上述したように、水溶性共重合体がアルカリ塩水溶液の形態をとるため、その混合系はアルカリを呈する。これにより、通常、AKDエマルションは水溶性共重合体との相溶性が悪く、エマルションが壊れて凝集物が発生し易い。
このため、予め2液を混合して保存しておくと、サイズ性能が顕著に低下してしまい、これを回避するためには使用直前に2液を混合し、塗工する必要があるが、2液を撹拌混合すると粕が発生して、やはりサイズ性能の低下を起こす恐れがある。
また、一般に、塗工液には、紙の表面強度付与の見地から酸化デンプンなどの水溶性高分子化合物を添加しているが、通常、AKDエマルションはこの酸化デンプンなどの他の塗工成分との相溶性も悪い。
これらの問題点は前記従来技術1〜2においても依然として残り、なかでも、AKDエマルションと水溶性共重合体との相溶性、特に、予め2液を混合して保存する際の貯蔵安定性は未だ満足すべき水準にはほど遠く、解決すべき課題は多いのである。
【0008】
本発明は、水溶性高分子化合物との併用適性を具備したAKDエマルションを開発するとともに、貯蔵安定性やサイズ性などに優れたAKDと水溶性共重合体との2液混合型の表面サイズ剤を開発することを技術的課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本出願人は、先に、特開昭62−15397号公報(以下、先行技術という)で、AKDをカチオンデンプンなどで分散したAKDエマルションにおいて、AKDやカチオンデンプンの粒子表面を保護し、分散粒子を安定化させる目的で、硫酸アルミニウム、塩化マグネシウムなどの水溶性金属塩をAKDに対して金属塩として0.05〜3重量%含有する内添サイズ剤を開示した(同公報の特許請求の範囲、作用、実施例の項目参照)。
【0010】
本発明者らは、上記先行技術を出発点として、この内添サイズ剤の技術を表面サイズ剤に利用するとともに、AKDエマルションの性状を特殊化することを鋭意研究した結果、カチオン電荷を特定範囲に抑制し、且つ、上記内添サイズ剤で使用した水溶性金属塩を転用的に所定割合で添加したAKDエマルションは、スチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体などの水溶性共重合体、或は、酸化デンプンなどの水溶性高分子化合物に対して良好な併用適性を具備すること、即ち、この特殊化したAKDエマルションを水溶性共重合体に混合すると良好な相溶性を示し、貯蔵安定性や酸性紙〜中性紙でのサイズ性に優れた表面サイズ剤を提供できることを見い出して、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明1は、アルキルケテンダイマー(AKD)をカチオン性高分子分散剤で水中に乳化分散し、水溶性金属塩を含有して、ゼータ電位を−5〜+20mVに調整したAKDエマルションからなり、
上記カチオン性高分子分散剤はカチオン性又は両性の水溶性高分子化合物であり、この分散剤をAKDに対して10〜25重量%含有するとともに、
水溶性金属塩を金属換算で0 . 005〜2重量%含有することを特徴とするAKD系表面サイズ剤である。
【0014】
本発明2は、(A)疎水性単量体とカルボン酸基含有アニオン性単量体を反応させた酸価150〜350mgKOH/gの水溶性共重合体と、
(B)請求項1のAKDエマルションとを含有する表面サイズ剤である。
【0015】
本発明3は、上記本発明2において、水溶性共重合体(A)とAKDエマルション(B)の混合割合が、A/B=50〜99重量部/50〜1重量部である表面サイズ剤である。
【0016】
本発明4は、上記本発明2又は3において、疎水性単量体がスチレン類、(メタ)アクリル酸エステル類などであり、
カルボン酸基含有アニオン性単量体がアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などである表面サイズ剤である。
【0017】
本発明5は、上記本発明2〜4のいずれかにおいて、水溶性共重合体(A)が、スチレンとアクリル酸、スチレンとアクリル酸とマレイン酸、又はスチレンとマレイン酸を単量体組成とする共重合体であることを特徴とする表面サイズ剤である。
【0018】
本発明6は、上記本発明1〜5のいずれかの表面サイズ剤を紙に塗工することを特徴とする塗工紙の製造方法である。
【0019】
本発明7は、上記本発明6において、さらに、酸化デンプン、ポリビニルアルコールなどの表面強度用水溶性高分子化合物を表面サイズ剤と共に紙に塗工することを特徴とする塗工紙の製造方法である。
【0020】
本発明8は、上記本発明6又は7において、紙が、硫酸バンド及び炭酸カルシウムの存在下で湿式抄造した紙であることを特徴とする塗工紙の製造方法である。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明は、第一に、水溶性金属塩を所定割合で含有し、ゼータ電位を特定範囲に調整したAKDエマルションからなる表面サイズ剤であり、第二に、このAKDエマルションと特定の酸価を有する水溶性共重合体とを併用する表面サイズ剤であり、第三に、これらの表面サイズ剤を紙に塗工する塗工紙の製造方法である。
【0022】
本発明1のAKDエマルションは、AKDをカチオン性高分子分散剤で水中に乳化分散し、水溶性金属塩を所定割合で含有させたものである。
上記AKDは下記の一般式(イ)で表される化合物であり、狭義のアルキルケテンダイマーに限らず、その類似化合物までを含む広義のアルキルケテンダイマー系化合物を意味する。
【化1】
Figure 0004045371
(式(イ)中、R1及びR2はC8〜C30の同一又は異なる炭化水素基である。)
上記一般式(イ)において、R1又はR2の炭化水素基は、例えば、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコシル等のアルキル基、オクテニル、デセニル、ドデセニル、テトラデセニル、ヘキサデセニル、オクタデセニル、エイコセニル等のアルケニル基、オクチルフェニル、ノニルフェニル、ドデシルフェニル等の置換フェニル基、ノニルシクロヘキシル等の置換シクロアルキル基、フェニルエチル等のアラルキル基などであり、C10〜C25が好ましい。
そこで、上記AKDの具体例を挙げると、オクタデシルケテンダイマー、ヘキサデシルケテンダイマー、テトラデシルケテンダイマー、ドデシルケテンダイマーなどであり、また、天然脂肪酸混合物から合成されたケテンダイマーも有効である。これらの列記化合物、或は他種のAKDは単用又は併用できることはいうまでもない。
【0023】
上記AKDを水中に乳化分散するカチオン性高分子分散剤は、カチオン性又は両性の水溶性高分子化合物であり、前者のカチオン性高分子化合物としては、カチオンデンプン、或は適正なカチオン度を有する合成高分子化合物などが挙げられる。また、後者の両性高分子化合物は、基本的に、両性デンプンを初め、ビニル基含有単量体とアニオン性単量体とカチオン性単量体、或は、ビニル基含有単量体と両性単量体を反応させた共重合体などであり、具体的には、(メタ)アクリルアミド系共重合体などが挙げられる。また、カチオンデンプンとアニオン性重合体の混合物のように、1種以上の水溶性高分子を含有した両性高分子化合物でも良い。但し、両性の高分子化合物の場合には、カチオン性過剰の組成に調整される。
上記カチオン性高分子分散剤の含有率は、AKDに対して10〜25重量%であることが必要であり、好ましくは15〜20重量%である。また、このカチオン性高分子分散剤としてはカチオンデンプンがより有効である。
尚、AKDの乳化分散に際しては、このカチオン基含有高分子化合物の外に、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸塩、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの公知の分散剤を併用できることはいうまでもない。
【0024】
上記水溶性金属塩は、AKDの分散粒子の安定化とAKDのセルロース繊維への定着促進化などを目的として含有され、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛及び鉄よりなる群から選ばれた金属の少なくとも一種と、硫酸、塩酸、硝酸、ギ酸、酢酸、クロル酢酸、グルコン酸、グリコール酸などの低級脂肪酸よりなる群から選ばれた酸の少なくとも一種との水溶性塩をいう。
当該水溶性金属塩の具体例は、硫酸アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウムなどであり、硫酸アルミニウムが好ましい。
この水溶性金属塩の含有率はAKDに対して金属換算で0.005〜2重量%であることが必要であり、好ましくは0.01〜0.5重量%、より好ましくは0.05〜0.3重量%である。
【0025】
上記AKDエマルションのゼータ電位は−5〜+20mVに調整され、カチオン電荷を抑制してある。これにより、表面サイズ剤として使用されるスチレン−マレイン酸系共重合体などの水溶性共重合体や、酸化デンプンなどの他の塗工成分との相溶性が円滑に改善され、これらの水溶性高分子化合物と併用した場合の貯蔵安定性などに優れ、水溶性高分子化合物との併用適性を具備する。
上記カチオン性高分子分散剤で乳化分散されたAKDエマルションは、同時に添加される分散剤(例えば、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物など)により若干マイナス側に傾く場合もあるが、アニオン帯電である繊維への定着性の見地からゼータ電位の下限は−5mVであり、逆に、上限が+20mVを越えると、アルカリ塩水溶液の形態をとる水溶性共重合体などとの相溶性が損なわれる。
AKDエマルションのゼータ電位は+5〜+15mV程度が好ましく、+10mV前後がより好ましい。
【0026】
本発明2は、上記AKDエマルションに水溶性共重合体を併用した2液混合型の表面サイズ剤である。
上記水溶性共重合体は、疎水性単量体とカルボン酸基含有アニオン性単量体とを反応させて、酸価150〜350mgKOH/gに調整された共重合体である。
本発明4に示すように、上記疎水性単量体としては、スチレン類、(メタ)アクリル酸系エステル類などが挙げられる。
上記スチレン類には、スチレンを初め、α−メチルスチレンなどのビニル基に置換基を有するスチレン類、或は、ビニルトルエン、p−クロルスチレンなどのベンゼン環に置換基を有するスチレン類などを単用又は併用できる。
上記(メタ)アクリル酸系エステル類は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル類、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル類などである。
上記カルボン酸基含有アニオン性単量体としては、カルボキシル基を少なくとも1個有するアニオン性の不飽和単量体であり、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(無水)シトラコン酸、或はこれらの塩などを単用又は併用できる。
【0027】
上記2液混合型の表面サイズ剤に用いる水溶性共重合体は、本発明7に示すように、スチレンと(メタ)アクリル酸、スチレンと(メタ)アクリル酸とマレイン酸、或は、スチレンとマレイン酸を各単量体組成とする共重合体が好ましい。特に、マレイン酸は不飽和2塩基酸なので、(メタ)アクリル酸などの1塩基酸に比べて単位重量当たりに導入できるアニオン性基がより多くなるので、AKDエマルションの安定に寄与する。
上記疎水性単量体とアニオン性単量体の重合で得られる水溶性共重合体の酸価は150〜350mgKOH/gであり、好ましくは180〜300mgKOH/gである。
酸価が150mgKOH/gより低いと共重合体のケン化時の水溶性が低下し、また、疎水性の増大により溶液に濁りが生じて均一塗工に支障を来す。逆に、350mgKOH/gを越えると水溶性基の増大により撥水性が低減し、サイズ性能の低下を来す。
【0028】
上記水溶性共重合体は、前記疎水性単量体とアニオン性単量体の混合物を重合開始剤の存在下に溶液重合、乳化重合、その他、常法の重合反応によって得られ、好ましくは公知の水系溶液重合又は乳化重合で製造される。
上記溶液重合又は乳化重合に際しては、基本的に乳化剤を混合した水系に、各種の単量体成分を混合物にして一括添加するか、又は徐々に添加する。
上記乳化剤には公知のアニオン性、ノニオン性、又は両性界面活性剤などを使用することができる。
上記アニオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸塩、ロジン酸塩、アルキル硫酸エステル、アルキルスルホコハク酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル(アリール)硫酸エステル塩などが挙げられる。
上記ノニオン性界面活性剤としては、C1〜C20アルカノール、フェノール、ナフトール、ビスフェノール類、C1〜C20アルキルナフトール、ポリオキシエチレン(プロピレン)グリコール、脂肪族アミンなどのエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド付加物などが挙げられる。
上記両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸型、イミダゾリン誘導型などの界面活性剤が挙げられる。
【0029】
上記重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩、又は2,2−アゾビス−N−2−カルボキシエチル−2−メチルプロピオンアミジンハイドレ−トなどの水溶性アゾ系化合物、又は過酸化ベンゾイルなどの油溶性開始剤などが挙げられる。
また、上記乳化重合に際しては、分子量を調整する目的で連鎖移動剤を使用できることはいうまでもない。連鎖移動剤としては、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、メルカプトエタノール、チオグリコール酸及びその塩、チオグリコール酸ブチル等のチオグリコール酸エステルなどのメルカプタン類、イソプロピルアルコール、四塩化炭素、クメンなどを単用又は併用できる。
【0030】
上述の重合反応を終了した共重合体は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、低級アミン、或はアルカノールアミンなどのアルカリで中和して、部分又は完全ケン化物(即ち、共重合体塩水溶液)とする。この共重合体のケン化物は前記AKDエマルションと混合して、2液併用型の表面サイズ剤として使用される。
【0031】
上記水溶性共重合体(A)と前記AKDエマルション(B)は、水溶性共重合体(A)が共重合体塩水溶液であることを基準として、本発明3に示すように、A/B=50〜99重量部/50〜1重量部の割合で混合される。好ましくは、A/B=70〜90重量部/30〜10重量部であり、より好ましくはA/B=75重量部/25重量部の前後である。
以上のように、2液混合型の表面サイズ剤においては、相溶性の確保、塗工紙の摩擦係数の低下防止、酸性紙〜中性紙でのサイズ性の発現などの総合的な見地から、水溶性共重合体とAKDを均等な重量比、或は、これより水溶性共重合体が多い割合(概ね、水溶性共重合体が主、AKDが従の割合)で混合するのが有効である。但し、上記(B)成分を(A)成分より多く配合することもでき、この場合には、中性サイズ性をより有効に向上できる。
この2液混合型の表面サイズ剤の調製方法としては、塗工直前に2液を混合しても良いが、2液は相溶性に優れ、粕が発生したり凝集の恐れはないため、予め混合液の形態で貯蔵しておいても、サイズ性能が低下する恐れはない。
【0032】
本発明6は、AKDエマルションからなる表面サイズ剤、或は、上記2液混合型の表面サイズ剤を紙に塗工する塗工紙の製造方法である。
上記紙を構成するパルプ繊維は、製紙用に通常使用されるNBKP、LBKP等の木材パルプなどの外、リンターパルプ、麻、バガス、ケナフ、エスパルト草、ワラ等の非木材パルプ、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、或は、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル等の合成繊維などである。また、新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙、脱墨古紙などの古紙パルプであっても良い。
一方、紙には、湿式抄紙工程で、填料、内添サイズ剤、染料、紙力増強剤、歩留り向上剤、消泡剤などを必要に応じて添加できることはいうまでもない。
填料としては、重質及び軽質炭酸カルシウム、クレー、タルク、酸化チタンなどが挙げられる。内添サイズ剤としては、酸性又は中性抄紙用の各種ロジン系サイズ剤、中性抄紙用のAKD系サイズ剤又はアルケニルコハク酸無水物系サイズ剤などが挙げられ、酸性ロジン系サイズ剤の定着には硫酸バンドが、AKDなどの反応性サイズ剤にはカチオン系定着助剤が使用される。
冒述したように、近年は環境保全、酸性紙の劣化などの観点から中性化指向が高まっているが、この中性抄紙においては、安価な炭酸カルシウムが使用でき(パルプスラリーに対して5重量%以上が好ましい)、また、本発明の表面サイズ剤のサイズ効果を促進する目的で、硫酸バンドをパルプスラリーに対して0.5重量%以上添加するのが好ましい。特に、2液混合型の表面サイズ剤を中性紙などに塗工する際には、中性紙、或は硫酸バンド量の少ない紙ではサイズ効果を発揮しにくい水溶性共重合体の割合が多く、中性紙でのサイズ効果に優れたAKDが少ない場合に、パルプスラリーへの硫酸バンドの添加は有効である。
【0033】
表面サイズ剤の塗工に際しては、紙の表面強度向上などの見地から、酸化デンプン、リン酸エステル化デンプン、カチオンデンプン、変性デンプンなどのデンプン類、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース類、ポリビニルアルコール類、ポリアクリルアミド類、アルギン酸塩などの水溶性高分子化合物を併用塗工できることは勿論である。また、他の表面サイズ剤、防腐剤、防滑剤、防錆剤、消泡剤、粘度調整剤、染料、顔料などを併用しても良い。
【0034】
本発明の塗工紙の製造方法において、表面サイズ剤を塗工する対象となる紙は、電子写真用紙、インクジェット用紙等の印刷・筆記・図画用紙、新聞紙、包装用紙、薄葉紙、雑種紙などの通常の薄紙を初め、板紙、厚紙などを含む広い概念である。
表面サイズ剤を紙に塗工する方法は、塗工機を用いた塗布を基本とするが、スプレーを用いた噴霧、紙を表面サイズ剤の処理液に浸漬する含浸などであっても良い。
塗布機としては、サイズプレス、フィルムプレス、ゲートロールコーター、ブレードコーター、キャレンダー、バーコーター、ナイフコーター、エアナイフコーターなどの公知のものが使用できる。
また、一連の抄紙工程において、オンマシンコーティングとオフマシンコーティングのいずれで塗工しても良い。
本発明の表面サイズ剤の塗工量は、サイズ性の良好な発現及び経済性などの見地から固形分換算で0.005〜5g/m2であり、好ましくは0.01〜0.5g/m2である。
【0035】
【発明の効果】
(1)水溶性共重合体のケン化物とAKDエマルションを併用する従来の2液混合型の表面サイズ剤は、混合系のアルカリにより分散粒子が壊れて凝集物が発生し易いが、本発明の表面サイズ剤は、水溶性金属塩を含有し、特定のゼータ電位でカチオン電荷を抑えた特殊なAKDエマルションを水溶性共重合体と併用するので、相溶性が良好で貯蔵安定性に優れる。
従って、塗工直前に2液を併用しても良いが、予め2液を混合して貯蔵しておいても品質は安定であり、サイズ性能の低下はない。
また、2液の優れた相溶性により、機械的安定性も良く、塗工直前に2液を撹拌混合しても粕の発生はなく、サイズ性能を良好に発現できる。
【0036】
(2)本発明の2液混合型表面サイズ剤では、中性紙や硫酸バンド内添量の少ない新聞紙などでサイズ性が発現しにくい水溶性共重合体の特性をAKDエマルションで補強し、中性紙〜酸性紙でのサイズ性を良好に改善できる。
特に、本発明8に示すように、酸性抄紙に限らず、中性抄紙に際しても硫酸バンドを少量添加すると、中性紙などでのサイズ効果が発現しにくい水溶性共重合体の配合率が多く、中性紙でのサイズ効果に優れたAKDが少ない場合でも、この硫酸バンドの配合により、中性紙でのサイズ性の発現を良好に担保することができる。
【0037】
(3)本発明の2液混合型表面サイズ剤では、AKDによる塗工紙の摩擦係数の低下を水溶性共重合体の併用によって抑制できるため、塗工紙の摩擦係数が低下する問題を解消できる。
【0038】
(4)本発明のAKDエマルションは水溶性金属塩を含み、カチオン電荷を適正に抑制しているため、酸化デンプンなどの他の塗工成分との相溶性も良い。従って、表面サイズ剤としてこのAKDエマルションを単用しても、或は、水溶性共重合体と併用しても、塗工液の調製に際して粕の発生はなく、円滑な塗工処理が図れる。
【0039】
(5)本発明のAKDエマルションを表面サイズとして単用する場合、当該エマルションは機械的安定性、或は保存安定性に優れるため、塗工直前の使用に限らず、予め調製・保存しておいてもサイズ性能の低下はない。
【0040】
【実施例】
以下、本発明の水溶性共重合体の合成例、AKDエマルションの製造例、AKDエマルションの貯蔵安定性、機械安定性などの各種評価試験例、水溶性共重合体とAKDエマルションを併用した2液混合型の表面サイズ剤の製造実施例、この2液混合型の表面サイズ剤の貯蔵安定性、塗工紙のサイズ性、紙滑り性などの各種評価試験例を順次説明する。下記の合成例、製造例、実施例、試験例中の「%」、「部」は基本的に重量基準である。
尚、本発明は下記の実施例、試験例などに拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0041】
《水溶性共重合体の合成例》
下記の合成例1はスチレン/アクリル酸、合成例2はスチレン/アクリル酸/マレイン酸、合成例3及び比較合成例1はスチレン/マレイン酸を単量体組成とする各共重合体の例である。
(1)合成例1
攪拌機、冷却管及び温度計を具備した500mLの4つ口フラスコに、トルエン40g、アクリル酸15g及びスチレン35gを仕込み、攪拌しながら加熱して還流温度まで昇温した。
一方、滴下ロートに、トルエン20g、アクリル酸15g、スチレン35g、アゾイソブチロニトリル1.5g及びノルマルドデシルメルカプタン1.2gを仕込み、均一に溶解した。次いで、この混合溶液を1時間かけて前記反応容器に滴下し、さらに還流温度で4時間熟成した。
その後、これを冷却し、48%水酸化カリウム水溶液53.6gを水150gに溶解して滴下し、反応生成物をケン化溶解した。次に、再度、還流温度まで加熱してトルエンを留去し、冷却した後、水で希釈して固形分20%の水溶性共重合体の水溶液を得た。この水溶性共重合体の酸価は230mgKOH/gであった(図1参照)。
【0042】
(2)合成例2
上記合成例1を基本としながら、図1の組成に従って、単量体、水酸化カリウム水溶液の各量を変化させ、それ以外の条件を上記合成例1と同様に操作して、固形分20%の水溶性共重合体のケン化物を得た。得られた水溶性共重合体の酸価は200mgKOH/gであった。
【0043】
(3)合成例3
上記合成例1を基本としながら、図1の組成に従って、単量体、水酸化カリウム水溶液量を変化させ、それ以外の条件を上記合成例1と同様に操作して、固形分25%の水溶性共重合体のケン化物を得た。得られた水溶性共重合体の酸価は320mgKOH/gであった。
【0044】
(4)比較合成例1
上記合成例1を基本としながら、図1の組成に従って、単量体、水酸化カリウム水溶液量を変化させ、それ以外の条件を上記合成例1と同様に操作して、固形分25%の水溶性共重合体のケン化物を得た。得られた水溶性共重合体の酸価は420mgKOH/gであった。
【0045】
《AKDエマルションの製造例》
(1)製造例1
攪拌機、冷却管及び温度計を具備した500mLの4つ口フラスコに、融点50℃のAKD(オーペル;日本精化社製)200gを仕込み、80℃まで昇温して溶融した。
一方、攪拌機及び温度計を具備した1Lのフラスコに、窒素量が0.35%である4級化カチオンデンプン(a)を43.2g、水を650g仕込み、90℃まで昇温し、40分間温度保持して、カチオンデンプンを糊化した水溶液を得た。
溶融した前記AKDを70℃まで冷却した後、70℃に温度保持した上記カチオンデンプンの水溶液中に落とし込み、さらにナフタレンスルホン酸塩―ホルマリン縮合物(デモールT;花王社製)を2.3g仕込み、ホモミキサーで粗乳化した後、同温度において剪断力300MPaの条件でピストン式高圧乳化機に2回通して、カチオンデンプンで乳化分散したAKDエマルション(平均粒子径:0.6μm程度)を得た。
次いで、AKDエマルションに硫酸アルミニウム水溶液(Al23として8%含有)を10.4g(金属換算で0.22%)加え、水で希釈し、固形分20%、ゼータ電位+11.2mVのAKDエマルションを得た。
尚、上記ゼータ電位は、顕微鏡電気泳動法により、LAZER ZEE METER MODEL 501(PEN KEM INC.製)の測定装置を用いて、下記の手順▲1▼〜▲2▼で測定した。
▲1▼AKDエマルションを水で5〜50ppm程度に希釈し、印加電圧装置付きの平面セルに入れる。
▲2▼セルに電圧をかけると、コロイド粒子自身が帯電する電荷と反対側の電極に移動するので、印加電圧を変化させて粒子が移動しなくなる電圧値を測定する。
【0046】
(2)製造例2
上記製造例1を基本としながら、図2の組成に従って、硫酸アルミニウムの添加量を低減させ、それ以外の条件を上記製造例1と同様に操作して、固形分20%、ゼータ電位−2.7mVのAKDエマルションを得た。
【0047】
(3)製造例3
上記製造例1を基本としながら、図2の組成に従って、硫酸アルミニウムの添加量を増大させ、それ以外の条件を上記製造例1と同様に操作して、固形分20%、ゼータ電位+17.5mVのAKDエマルションを得た。
【0048】
(4)比較製造例1
上記製造例1を基本としながら、図2の組成に従って、硫酸アルミニウムを添加せず、それ以外の条件を上記製造例1と同様に操作して、固形分20%、ゼータ電位−4.8mVのAKDエマルションを得た。
【0049】
(5)比較製造例2
上記製造例1を基本としながら、図2の組成に従って、カチオンデンプンを品種(a)から、窒素量が0.50%である品種(b)に代替し、硫酸アルミニウムを同量添加し、それ以外の条件を上記製造例1と同様に操作して、固形分20%、ゼータ電位+22.5mVのAKDエマルションを得た。
【0050】
(5)比較製造例3
上記製造例1を基本としながら、図2の組成に従って、カチオンデンプンの品種(a)を品種(b)に代替し、硫酸アルミニウムを添加せず、それ以外の条件を上記製造例1と同様に操作して、固形分20%、ゼータ電位+20.5mVのAKDエマルションを得た。
【0051】
そこで、上記AKDエマルションを単独で表面サイズ剤として使用した場合の各種評価試験を以下に行った。
《AKDエマルションの評価試験例》
(1)貯蔵安定性試験
上記製造例1〜3及び比較製造例1〜3の各AKDエマルション(固形分20%)を200メッシュの金網(格子間:74μm)で濾過し、濾液を20℃、15日間保管した。その後、再び200メッシュの金網で濾過し、金網に残った残渣を乾燥させた後、秤量し、固形分の残渣率(%)を下式により算出して、残渣率の大小で貯蔵安定性を評価した。
残渣率(%)={残渣量(g)/(濾過したサイズ剤(g)×0.20)}×100
【0052】
(2)機械安定性試験
JIS K 6392(マーロン試験)に基づいて、上記製造例1〜3及び比較製造例1〜3の各AKDエマルション(固形分20%)を200メッシュの金網(格子間:74μm)で濾過し、濾液を金属カップに入れ、底面が平坦な金属棒を装着し、下記の条件で金属棒に荷重を掛けながら回転させることにより、剪断力を負荷した。
荷重:10kgf/cm2、回転数:1000±20rpm、剪断時間:10分間
次いで、剪断後のサイズ剤を再び200メッシュの金網で濾過し、金網に残った残渣を乾燥させた後、秤量して、固形分の残渣率(%)を下式により算出した。
残渣率(%)={残渣量(g)/(濾過したサイズ剤(g)×0.20)}×100
【0053】
(3)酸化デンプンとの相溶性試験
上記製造例1〜3及び比較製造例1〜3の各AKDエマルション0.1%と酸化デンプン5.0%を混合して塗工液を調製し、この塗工液を200メッシュの金網(格子間:74μm)で濾過し、濾液を50℃で12時間保管した。その後、再び200メッシュの金網で濾過し、金網に残った残渣を乾燥させた後、秤量して、固形分の残渣率(%)を下式により算出した。
残渣率(%)={残渣量(g)/(濾過した塗工液(g)×0.051)}×100
【0054】
図3は上記AKDエマルションの各評価試験の結果である。
製造例1〜3では、各評価試験の残渣率が小さく、貯蔵安定性、機械安定性、酸化デンプンとの相溶性が共に良好であり、これらのAKDエマルションを表面サイズ剤として単用した場合、予め調製済みのエマルションを保存しても、また、塗工液を調製する際に、酸化デンプンなどの他の塗工成分と撹拌・混合しても品質が安定であり、表面サイズ剤としての適性を具備することが判った。
これに対して、比較製造例1〜3では、各評価試験の残渣率が大きく、貯蔵安定性、機械安定性、酸化デンプンとの相溶性も劣っていた。
以上のことから、AKDエマルションのゼータ電位、並びに硫酸アルミニウムの添加量は、表面サイズ剤としての適性を具備させる点できわめて重要なことが判明した。
ちなみに、製造例1のAKDエマルションについて、後述する2液混合型で示したサイズ性試験を行ったところ、酸性紙のサイズ度は38秒、中性紙では20秒であった。
【0055】
次に、前記水溶性共重合体のケン化物と上記AKDエマルションの2液を混合したタイプの表面サイズ剤について、先ず、その製造実施例を以下に述べる。
《2液混合型の表面サイズ剤の製造実施例》
(1)実施例1
200mLビーカーに前記合成例1で得られた水溶性共重合体のケン化物60gを採取した後、撹拌下のビーカー中に上記製造例1のAKDエマルション40gを滴下しながら添加して、固形分20%の2液混合型表面サイズ剤を得た。
【0056】
(2)実施例2〜10
上記実施例1を基本としながら、図4に従って、合成例1〜3の水溶性共重合体と製造例1〜3のAKDエマルションの配合種類とその比率を変化させ、それ以外の条件を実施例1と同様に操作し、水の添加によって、固形分20%に調整した2液混合型表面サイズ剤を得た。
【0057】
(3)比較例1〜5
上記実施例1を基本としながら、図4に従って、合成例1と製造例1の組み合わせを、合成例3の水溶性共重合体と比較製造例1〜3のAKDエマルション、或は、比較合成例1の水溶性共重合体と製造例1のAKDエマルションの各組み合わせに変化させ、それ以外の条件を実施例1と同様に操作し、水の添加によって、固形分20%に調整した比較例1〜4の2液混合型表面サイズ剤を得た。
ちなみに、比較例1は硫酸アルミニウムを含有しないAKDエマルションを用いた例、比較例2は硫酸アルミニウムを含有するが、ゼータ電位が+20mVを越えるAKDエマルションを用いた例、比較例3は硫酸アルミニウムを含有せず、ゼータ電位が+20mVを越えるAKDエマルションを用いた例、比較例4は酸価が350mgKOH/gを越える水溶性共重合体を用いた例である。
一方、比較例5は合成例1の水溶性共重合体のみを使用し、AKDエマルションを使用しない例である。
【0058】
《2液混合型表面サイズ剤の評価試験例》
(1)貯蔵安定性試験
実施例1〜10及び比較例1〜5の各表面サイズ剤(固形分20%)を200メッシュの金網(格子間:74μm)で濾過した後、20℃、15日間保管して、保管中と保管後の状態を目視観察し、下記の評価基準により貯蔵安定性を評価した。尚、各表面サイズ剤の混合直後の粘度は10〜35mPa・sであった。
〔評価基準〕
◎:粘度の上昇がなく安定に存在した。
○:11日経過後に粘度が増加傾向を示したが、100mPa・s以下であり、使用に 問題のないレベルであった。
×:11日経過後にクリーム状に固化し(粘度は1000mPa・s前後)、使用が困難な レベルであった。
【0059】
(2)サイズ性試験
上記実施例1〜10及び比較例1〜5の各表面サイズ剤0.1%と酸化デンプン5.0%を混合して塗工液を調製し、下記の酸性原紙にサイズプレス塗工法に準拠した方法によって上記塗工液を塗布し、ドラム式ドライヤーを用いて80℃、90秒の条件で乾燥して、酸性塗工紙を得た。
〔酸性原紙〕
▲1▼坪量:72.4g/m2
▲2▼硫酸バンドの添加量(対パルプ):2%
▲3▼紙面pH:5.2
また、上記酸性原紙を下記の中性原紙に代替し、同様の方法で塗工液を塗布して、中性塗工紙を得た。
〔中性原紙〕
▲1▼坪量:85.1g/m2
▲2▼硫酸バンドの添加量(対パルプ):0.7%
▲3▼紙面pH:7.4
そして、温度23℃、相対湿度60%で30時間調湿した後、ステキヒト法(JIS P 8122−1954)にて、酸性紙、中性紙の各サイズ度(秒)を測定した。
【0060】
(3)紙滑り試験方法
上記サイズ性試験と同様の操作により塗工液を塗布した酸性紙、中性紙を得た後、JIS P 8197−1987に基づいて下記の手順で塗工紙の動摩擦係数を測定した。
▲1▼水平板上に、塗工紙の塗工面が上向きになるように固定する。
▲2▼上記▲1▼と同一の紙を、平坦な表面を持つ金属板(質量が既知なもの)に塗工面が外面となるように固定する。
▲3▼上記▲2▼の金属板の一端に軽量ワイヤーを装着し、滑車を介して金属板の他端を万能引っ張り試験機に装着する。
▲4▼上記▲2▼を▲1▼の上に塗工面が合わさるように置き、引っ張り試験機を10.0±0.2mm/分の速度で引っ張り、金属板が動き出すピークの強度を静摩擦力とし、動いているきの平均強度を動摩擦力として、下式により動摩擦係数を測定する。
動摩擦係数=動摩擦力(mN)/重りによる垂直加重(mN)
【0061】
(4)酸化デンプンとの相溶性試験
AKDエマルションを単用した場合の前記酸化デンプンとの相溶性試験を基本として、前記試験でのAKDエマルション0.1%に替えて、実施例1〜10及び比較例1〜5の各表面サイズ剤0.1%を使用し、それ以外の条件を前記試験と同様に設定して、本相溶性試験を行った。
【0062】
図5は2液混合型の表面サイズ剤、或は、当該サイズ剤を用いた塗工紙の各種評価試験の結果である。
先ず、実施例1〜10の表面サイズ剤は、前記図4に示すように、通常ではAKDが不安定になるアルカリ側のpH条件になっているが、この条件にも拘わらず、比較例1〜4とは異なり、優れた貯蔵安定性が認められた。酸化デンプンとの相溶性も同様であった。
実施例1〜10の表面サイズ剤を塗工した紙では、酸性紙〜中性紙で優れたサイズ性を示し、特に、中性サイズ性に劣る水溶性共重合体のみを使用した比較例5に比べると、その中性サイズ性の改善は明らかである。
また、実施例1〜10の塗工紙の動摩擦係数は、比較例5と同様か遜色のない水準を示し、前記製造例1のAKDエマルション単独について紙滑り試験を行ったところ、動摩擦係数は0.37であったことから、AKDを用いた場合に特有の摩擦係数の低下も余りないことが明らかとなった。
【0063】
この点をさらに詳述すると、実施例1〜4は同種類の水溶性共重合体とAKDエマルションを使用し、その配合比を変化させたものであるが、AKDエマルションの配合比が少なめの実施例3〜4は、実施例1〜2より貯蔵安定性が向上していた。
実施例3、実施例5〜6は両者の配合比とAKDエマルションの種類が同じで、水溶性共重合体の種類を変化させたものであるが、水溶性共重合体の酸価が300以下の実施例3と5は、実施例6より貯蔵安定性が改善された。
実施例5、実施例8〜9は両者の配合比と水溶性共重合体の種類が同じで、AKDエマルションの種類を変化させたものであるが、AKDエマルションのゼータ電位が低く、硫酸アルミニウムの含有量が少ない実施例5と8は、実施例9より貯蔵安定性が改善された。
また、AKDエマルションの配合比が最小である実施例4においても、中性紙のサイズ性は比較例5に比べて高水準であり、逆に、AKDエマルションの配合比が最大である実施例10の摩擦係数は比較例5に比べてそれほどの低下が見られず、共に表面サイズ剤としての適性を良好に保持していた。
【0064】
以上のように、特定のゼータ電位を有し、水溶性金属塩を含有する特殊なAKDエマルションに、特定の酸価を有する水溶性共重合体を併用した実施例1〜10の表面サイズ剤は、両者の相溶性が良好で貯蔵安定性に優れ、塗工直前に2液を併用しても勿論良いが、予め2液を混合保存しても性能低下がないことが明らかになった。また、酸化デンプンなどの他の塗工成分との相溶性も良かった。
しかも、これら実施例1〜10の表面サイズ剤を塗工した紙では、水溶性共重合体による中性サイズ性の不足分をAKDエマルションの併用で補強するとともに、AKDによる摩擦係数の低下を水溶性共重合体で防止することができ、従来の2液混合型表面サイズ剤にはない優れた適性を兼備することが確認できた。
尚、上記各試験中には記載しなかったが、AKDエマルションを単用した場合の前記機械安定性試験を、本実施例の2液混合型表面サイズ剤に適用したところ、実施例1〜10ともに良好な機械安定性を示し、使用直前に2液を撹拌混合しても粕はほとんど発生しないことが認められた。このことは、2液混合型表面サイズ剤の優れた貯蔵安定性からも推測できるが、当該確認試験によりこの点が実証的に裏付けられた。
【図面の簡単な説明】
【図1】水溶性共重合体の単量体組成、pH、粘度、酸価などを示す図表である。
【図2】AKDエマルションの硫酸アルミニウム含有量、粘度、ゼータ電位などを示す図表である。
【図3】AKDエマルションを単用した表面サイズ剤の貯蔵安定性、機械安定性、酸化デンプンとの相溶性の各試験結果を示す図表である。
【図4】2液混合型の表面サイズ剤における水溶性共重合体とAKDエマルションの種類とその配合比率、pH、粘度を示す図表である。
【図5】2液混合型の表面サイズ剤の貯蔵安定性、サイズ性、紙滑り性、酸化デンプンとの相溶性の各試験結果を示す図表である。

Claims (8)

  1. アルキルケテンダイマー(AKD)をカチオン性高分子分散剤で水中に乳化分散し、水溶性金属塩を含有して、ゼータ電位を−5〜+20mVに調整したAKDエマルションからなり、
    上記カチオン性高分子分散剤がカチオン性又は両性の水溶性高分子化合物であり、この分散剤をAKDに対して10〜25重量%含有するとともに、
    水溶性金属塩を金属換算で0 . 005〜2重量%含有することを特徴とするAKD系表面サイズ剤。
  2. (A)疎水性単量体とカルボン酸基含有アニオン性単量体を反応させた酸価150〜350mgKOH/gの水溶性共重合体と、
    (B)請求項1のAKDエマルションとを含有する表面サイズ剤。
  3. 水溶性共重合体(A)とAKDエマルション(B)の混合割合が、A/B=50〜99重量部/50〜1重量部である請求項2に記載の表面サイズ剤。
  4. 疎水性単量体がスチレン類、(メタ)アクリル酸エステル類などであり、
    カルボン酸基含有アニオン性単量体がアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などである請求項2又は3に記載の表面サイズ剤。
  5. 水溶性共重合体(A)が、スチレンとアクリル酸、スチレンとアクリル酸とマレイン酸、又はスチレンとマレイン酸を単量体組成とする共重合体であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の表面サイズ剤。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面サイズ剤を紙に塗工することを特徴とする塗工紙の製造方法。
  7. さらに、酸化デンプン、ポリビニルアルコールなどの表面強度用水溶性高分子化合物を表面サイズ剤と共に紙に塗工することを特徴とする請求項6に記載の塗工紙の製造方法。
  8. 紙が、硫酸バンド及び炭酸カルシウムの存在下で湿式抄造した紙であることを特徴とする請求項6又は7の塗工紙の製造方法。
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