JP3989561B2 - 可溶性フラボノイド類の製造方法 - Google Patents

可溶性フラボノイド類の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、フラボノイド類をアルカリ域で、あるいは/およびサイクロデキストリンを加えて、水に可溶化し、アルカリ域でサイクロデキストリン合成酵素を用いて糖転移反応させて、可溶性のフラボノイド類を製造する方法に関する。
【0002】
【従来技術】
従来からビタミンPとして知られているヘスペリジンおよびルチンなどのフラボノイド類は、血管透過性の増大を抑制するという薬理的作用を有することから、抗高血圧剤、出血性疾患予防剤等として利用されている。また、大部分のフラボノイド類は、紫外線の吸収作用を有すること、および緑色植物のフラボノイド類はラジカルスカベンジャー作用を有することから、これらフラボノイド類は化粧品および食品等に機能性添加物として利用することが期待される。
【0003】
フラボノイド類は、現在、約3,000種類が知られており柑橘類中に多量に存在することから、原料を容易に、かつ安価に入手し得るにも係わらず、その利用が非常に限られてくる。それはフラボノイド類の大部分はアルコールなどの親水性有機溶媒には溶解されるものの、水には僅かに溶解するかまたは全く溶解しないことによる。
【0004】
そこで、フラボノイド類の溶解性を改善する試みがなされている。例えば、フラボノイド類を親水基を有する化合物と反応させることによって、水溶性を向上させる工夫がなされた。例えば、特公昭25−1677号には、フラボノイド類の一種であるルチンにアミノ基を有する脂肪族化合物を作用させて溶解度を上げる方法が開示されており、特公昭29−1285号ではルチンにロンガリットを作用させて亜硫酸化合物として水溶性を増加させる方法が開示されている。しかし、これらの方法では、生成されたアミノ化合物、亜硫酸化合物は生理活性が失われており、さらに毒性を有するなどの問題を有している。
【0005】
これら失活や毒性の問題を解決するために、例えば、特公昭54−32073号に開示されるように、フラボノイド類であるルチンあるいはエスクリンに糖転移酵素を作用させて配糖体として水溶性を増加させる方法が用いられているが、これら配糖体の生成率は低く、高純度の配糖体を得るためには、例えば、特公昭58−54799号に記載のように多孔性合成吸着剤などを用いて、他の水溶性糖類を除去するという複雑な工程が必要である。
【0006】
近年、サイクロデキストリン合成活性、糖転移活性および澱粉分解活性の3つの活性を有するサイクロデキストリン合成酵素を使用してフラボノイド類の水溶性を向上させることが注目されている。他方、酵素反応を十分に行うため、フラボノイド類をアルカリ域で溶解する必要があるが、これらの酵素の大部分は、アルカリ域では活性がなくなることが知られており、その利用はpH6〜7の範囲に限られている。従って、これらの酵素を中性域で単独で使用するだけでは高い効率で水可溶性フラボノイド類を得ることができなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、アルカリ耐性のサイクロデキストリン合成酵素を用いて、フラボノイド類を効率よく水に可溶化する方法を開発することを目的とする。本発明の他の目的は、アルカリ域で効率よくサイクロデキストリンを合成し得る酵素を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の可溶性のフラボノイド配糖体の製造方法は、フラボノイド類の配糖体を生成して、中和後も沈澱を生ずることのない、可溶性のフラボノイド配糖体を製造する方法であって、そのフラボノイド類をpH8以上のアルカリ域で、あるいは/およびサイクロデキストリンを加えて、可溶化する工程、およびアルカリ域でサイクロデキストリン合成酵素で糖転移させる工程を包含しており、そのことによって上記目的が達成される。
【0009】
本発明はまた、澱粉分解活性、糖転移活性、およびサイクロデキストリン合成活性を有し、至適pHが5.0〜6.0、安定pHが6.0〜9.0、およびSDS−ポリアクリロアミドゲル電気泳動で測定した分子量が約80,000である、好アルカリ性バチルス属の菌株A2−5a(FERM P−13864)から採取された、サイクロデキストリン合成酵素に関し、この酵素を用いることにより、上記目的が達成される。
【0010】
フラボノイドとは、二つのフェニル基がピラン環あるいは、それに近い構造の三つの炭素原子を介して結合している物質群の総称である。
【0011】
本発明で使用し得るフラボノイド類は、水に難溶性のすべてのフラボノイド類を包含するが、特にヘスペリジン、エリオシトニン、ナリンギン、ネオヘスペリジン、ルチン、ジオスミン、リナリン、ポンシリン、プルニン、ヘスペレチン−7−グルコシドなどである。
本発明では、フラボノイド類の溶解方法の第1段階として、フラボノイド類がアルカリ域で水に対する溶解性が向上すること、および/またはサイクロデキストリン(以下「CD」という)との包接化合物を形成することによって可溶化し得る。
【0012】
第1段階で、アルカリ域およびCDを用いる溶解工程を使用する場合、先に、溶液をアルカリ性とし、続いてCDを添加し得るが、各工程を同時に進行することもできる。
【0013】
フラボノイド類は、水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化カリウムなどを用いて、アルカリ域で溶解され得る。この時のpHは8以上であればよい。好ましくは、pH8〜11の範囲であり、より好ましくはpH9〜10である。
【0014】
CDは、フラボノイド類と包接化合物を形成することにより、フラボノイド類を可溶化する。CDは、市販のものを用い得るが、デンプンにサイクロデキストリン合成酵素(以下「CGTase」という)すなわち、1,4-α-D-Glucan: 4-α-D-(1,4-glucano)-transferase(E.C. 2.4.1.19)を作用させることによっても形成され得る。ここで生成されるCDは、グルコースが6〜8個、α−1,4結合で環状に結合した物質で、グルコースが6,7,8個のものをそれぞれα−CD、β−CD、γ−CDという。本工程には、α−、β−、およびγ−CDを用いることができるがβ−CDがより好ましい。
【0015】
CDを用いるフラボノイド類の可溶化は、CDをフラボノイド類と混合し、ホモミキサーなどのホモジナイザーで5,000〜10,000rpmで、2〜10分間することで達成され得る。この時、温度は、室温から90℃までを選択し得るが、好ましくは40〜90℃である。60℃以上では、200rpm、60分間という弱い撹拌条件でも包接可能である。
【0016】
第2段階では、CGTaseを用いて、糖転移を行い、フラボノイド類を配糖化することによって、中和およびCD除去後も沈澱を生じることのない可溶化フラボノイド類の製造を行う。
【0017】
本発明における、フラボノイド類の配糖体は、CGTaseによる転移反応を利用して生産される。
【0018】
本発明に用いる酵素はCGTaseであればいずれのものでも使用し得る。CGTaseは、澱粉に作用してグルコース6〜8個からなるCDを合成する活性の他に、CDおよび澱粉の存在下で適当なアクセプターに作用させると、CDおよび澱粉などがドナーとなって、グルコースをアクセプターに転移する活性を有する。本発明はアルカリ域での反応を有するのでアルカリ域で不安定なものを用いるとフラボノイド配糖体の収量が著しく減少する。従って、アルカリ耐性の酵素を用いる方が好ましい。特に好ましいのは後述の好アルカリ性バチルス属の菌体が生産する耐アルカリ性酵素である。
【0019】
ここで、アクセプターとは、非還元末端にグルコースを持つ化合物をいい、本発明においてはフラボノイド類のことである。また、ドナーとしてのCDは、前記と同様、グルコースが6〜8個、α−1,4結合で環状に結合した物質であり得る。また、本工程ではα−CD、β−CD、γ−CDの混合物もその単体に換えて合成し得、溶解のために使用し得る。
【0020】
CGTaseによる転移反応は、基質と酵素量、反応温度などにより、適宜選択されるが、フラボノイド類に糖転移するときの条件は、アルカリ域で行うこと以外は常法によるものと変わらない。反応温度は、20〜75℃であることが好ましい。ドナーの濃度は、0.1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%である。アクセプターの濃度は、0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜2重量%である。本酵素の濃度は、0.1〜100ユニット/mlとなるようにすることが好ましい。反応時間は酵素活性が持続する限り長いほどよい。反応は100℃で5分間加熱することにより停止する。
【0021】
生成されたフラボノイド配糖体は、溶解性が著しく向上しているので、中和あるいは/およびCD除去後も沈澱を生ずることのない可溶性のフラボノイドである。
【0022】
アルカリ域で高活性を有するCGTase
本発明は、またアルカリ域で高活性を保持する新規のCGTaseに関する。このCGTaseを用いることにより、上記フラボノイド類の可溶化が著しく促進される。
【0023】
以下に、本発明のCGTaseの特性について詳述する。本酵素はアルカリ性の培地で生育する、バチルス属の菌株A2−5a(以下「本菌株」という)の培養物から採取し、精製される。本菌株は、本発明者らによって、土壌から分離された新菌株である。本菌株の菌学的性質を以下に示す。なお、特に記載のない限り、培養温度は30℃、培地のpHは10.3である。
【0024】
(菌学的性質)
1.形態学的性質
(1)細胞の形および大きさ
(0.4〜0.6)×(2.0〜3.0)μmの桿菌である。
【0025】
(2)胞子を有する。
【0026】
(3)グラム染色は陽性である。
【0027】
2.生育状況
(1)pH6.8での生育(普通寒天培地)では微弱である。
【0028】
(2)pH10.3での生育は良好である。
【0029】
3.生理学的性質
(1)カタラーゼの生成は陽性である。
【0030】
4.運動性
(1)運動性を有する。
【0031】
以上の結果をバージーのマニュアル第2巻(Bergey’s manualof Systematic Bacteriology vol.2.1986)と照合して、本菌株をバチルスに属する細菌と同定した。
【0032】
(培養条件)
本菌株の培養条件は特別である必要はなく、通常の培地をpH10に調整したものが用いられる。この培地は例えば、modified II-medium agar plates(K. Horikoshi and T. Akiba, in "Alkalophilic Microorganisms", Japan Scientific Societies Press, Tokyo, 1982, pp.9-10に記載)であり得る。炭素源としては、澱粉、CD、グルコース、グリセリンおよびスクロースなどを使用し得る。窒素源としては、ポリペプトン、肉エキス、大豆蛋白および総合アミノ酸などを使用し得る。無機塩類としては、NaCl、K2HPO4、Na2HPO4およびMgSO4などを使用し得る。その他必要に応じてコーンスティプリカーなどの天然物およびビタミン類などの微量栄養素を加え得る。例えば、1%CD、0.5%ポリペプトン、0.5%イーストエキストラクト、4%コーンスティプリカー、0.1%K2HPO4、0.02%MgSO4・7H2O、1%Na2CO3、pH10.3の培地が好適に用いられる。
【0033】
pH8.5〜11.0、好ましくはpH9.5〜10.5、培養温度は25〜37℃で1〜7日間、好ましくは3日間好気的に撹拌または、振盪しながら培養を行う。本酵素は菌体外に分泌されるため培地中から回収される。
【0034】
(本酵素の採取方法)
上記培養液から本酵素を採取、精製するために、既知の精製方法が単独または、併用して用いられ得る。例えば、上記培養液を濾過または、遠心分離にかけて菌体を除去し、濾液または、上清液を得る。この濾液または、上清液を必要に応じて濃縮し、限外濾過または透析を行う。さらに、硫安などにより塩析した後、透析し、次いで、澱粉吸着、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過などを単独または、組み合わせて用いることにより精製を行う。
【0035】
(酵素の性質)
本酵素は、次の理化学的性質を有する。
【0036】
1.作用
本酵素はサイクロデキストリン合成酵素に属するもので、サイクロデキストリン合成酵素の持つ3つの活性、つまりサイクロデキストリン合成活性、糖転移活性および澱粉分解活性を有する(S.Kitahama, in "Handbook of Amylase and Related Enzymes", ed. The Amylase Research Society of Japan, 1988, pp.154-164, Pergamon Press.)。
【0037】
2.力価測定法
(1)サイクロデキストリン合成活性
2.5%可溶性澱粉溶液(20mM酢酸バッファーでpH5.5に調整)をあらかじめ40℃に設定した恒温槽にいれ、次に、この溶液に本酵素を加えて反応を開始させる。60分間の反応の後、100℃、5分間の加熱によって反応を停止させる。この反応溶液を50mM酢酸バッファー(pH5.5)で5倍に希釈した後、10ユニットのグルコアミラーゼで40℃で16時間処理した反応液中のCDの総量をHPLC(Aminex HPX−42A)で分析する。
【0038】
上記の条件で1分間に1マイクロモルのCDを生成し得る酵素量をサイクロデキストリン合成活性の1単位とする。
【0039】
なお、HPLC(Aminex HPX−42A)の分析条件は以下のとおりである。
【0040】
カラム : Aminex HPX-42A (BioRad)
溶出液 : H2O
流速 : 0.4 ml/min
カラム温度 : 80℃
検出法 : RI
(2)糖転移活性
ドナーとして1.2%可溶性澱粉、アクセプターとして0.1%サリシンを含む基質溶液(20mM酢酸バッファーでpH5.5に調整)をあらかじめ40℃に設定した恒温槽にいれ、次いで、この基質溶液に本酵素を加えて反応を開始させる。10分間の反応の後、100℃、5分間の加熱によって反応を停止させる。この時、本酵素を添加しないものをブランクとして調製し、同様の操作を行う。この反応溶液を10ユニットのグルコアミラーゼで40℃で16時間処理し、生成したサリシンをHPLC(ODS)で分析する。
【0041】
配糖化活性は配糖化率で表した。
【0042】
【数1】
Figure 0003989561
【0043】
なお、HPLC(ODS)の分析条件は以下のとおりである。
【0044】
カラム : ODS
溶出液 : MeOH/H2O = 25/75
流速 : 0.5 ml/min
カラム温度 : 60℃
検出法 : UV270
(3)澱粉分解活性
1.5%可溶性澱粉溶液(20mM酢酸バッファーでpH5.5に調整)を予め40℃に設定した恒温槽にいれ、次いで、この溶液に本酵素を加えて反応を開始させる。10分間の反応の後、この反応溶液(0.25ml)に0.5mlの0.5N HCl(5:1、v/v)溶液を添加し反応を停止させる。この反応液0.1mlをとり、0.005%I2および0.05%KIを含有する溶液を加え、撹拌し室温に20分間放置する。この溶液の660nmにおける吸光度を測定する(この値をAとする)。このとき本酵素を添加しないものをブランクとして調製し、同様の操作を行う(この値をBとする)。
【0045】
【数2】
Figure 0003989561
【0046】
上記の式より得られる値をもって、澱粉分解活性の1単位とする。
【0047】
3.至適pHおよび安定pH
可溶化澱粉に本酵素を作用させたときのサイクロデキストリン合成活性、可溶性澱粉をドナーとし、サリシンをアクセプターとしたときの糖転移活性、および可溶性澱粉を基質としたときの加水分解活性の至適pHはそれぞれpH5.0〜6.0である。本発明の酵素は、図1に示すように、pH9.0以上で至適pHにおける活性の約50%を保持している。すなわち、本酵素はアルカリ域で安定である。安定pHの測定は、本酵素をBritton−Robinson buffer(pH2−13)を用いてそれぞれ所望のpHに調整し、40℃で2時間静置し、その後、酢酸バッファーを用いてpH5.5に戻し、澱粉分解活性を測定し、その残存活性を求めた。至適pH5.5での酵素活性を100として図2に示す。これによれば、本酵素の安定pHは、6.0〜9.0であり、pH5.0、pH10.0でも至適pHの約80%の活性を保持している。
【0048】
4.作用適温の範囲
本酵素の澱粉分解活性に対する温度の効果を検討するために種々の温度での澱粉分解活性を測定した。図3に示す結果は、本酵素の至適温度が50〜55℃であることを示している。また、本酵素の安定性に対する温度の効果を検討するために、溶液のpHを考慮の上、種々の温度での澱粉分解活性を測定した。測定は、本酵素をBritton−Robinson buffer(pH5.5、7.0および10.0)中で、10分間、種々の温度でインキュベートし、上記ヨウ素法によって澱粉分解活性を測定した。図4に示すように、pH7.0において30〜55℃で安定した活性を有し、1mM CaCl2の添加により至適温度は約5℃向上し、70℃でも至適温度時の約60%の活性を保持する。
【0049】
5.失活の条件
100℃において15分間処理すると完全に失活する。
【0050】
6.精製方法
培養液から菌体を除去した培養上清に澱粉を加え、4℃で16時間撹拌する。これをカラムにつめ、カラムを洗浄した後、33mM Na2HPO4で本酵素を溶出する。次いで、溶出液をQ−セファロースカラムにかけ、0.4M NaClでカラムを洗浄した後、0.4〜1M NaClで溶出し、活性画分を収集し、精製酵素とする。この画分は、SDS−ポリアクリロアミドゲル電気泳動を行うと、図5に示すように単一バンドを示す。
【0051】
7.分子量
精製したCGTaseの分子量は図5に示すように、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動においては、約80,000、またゲル濾過(HPLC)をTSK Gel G3000 SWカラム(東ソー)を使用し、0.3M NaClを含む0.1Mリン酸緩衝液を用いて40℃、流速0.7ml/minで溶出し、280nmの吸収で検出した。これにより求められた分子量は、図6に示すように、約70,000である。
【0052】
【実施例】
(実施例1)
ドナーとして試験区1に可溶性澱粉、試験区2にα−CD、試験区3にβ−CD、試験区4にγ−CD、および試験区5にK−100(α−CDおよびβ−CDの混合物;α−CD:β−CD=2:1)を用い、各ドナーをそれぞれ5重量%、およびアクセプターとしてのヘスペリジンを0.5重量%含有する溶液を塩酸でpH5に調整した基質溶液を調製した。また、ドナーとして試験区6に可溶性澱粉、試験区7にα−CD、試験区8にβ−CD、試験区9にγ−CD、および試験区10にK−100を用い、各ドナーをそれぞれ5重量%、およびアクセプターとしてヘスペリジンを0.5重量%含有する溶液をNaOHでpH10に調整し、ヘスペリジンを可溶化した基質溶液を調製した。これら試験区1〜10の基質溶液を予め37℃に設定した恒温槽にいれ、次いで、この反応溶液にCGTaseを2ユニット/mlとなるように加えて反応を開始させた。16時間の反応の後、100℃、5分間の加熱によって反応を停止させた。この時それぞれの試験区に対してCGTaseを添加しないものをブランクとして調製し、同様の操作を行った。これらの反応溶液をHPLC(ODS)で分析したところ、表1および2の結果を得た。
【0053】
なお、HPLC(ODS)の分析条件は以下のとおりである。
【0054】
カラム : ODS
溶出液 : AcCN/Pi buffer* = 20/80
流速 : 0.5 ml/min
カラム温度 : 40℃
検出法 : UV280
* : Pi bufferは、39mM KH2PO4,1mM Na2HPO4を含有する。
【0055】
【表1】
Figure 0003989561
【0056】
【表2】
Figure 0003989561
【0057】
表1よりヘスペリジンの可溶化にはpH5およびpH10においてCDが効果があること、その中でもβ−CDが優れていること(pH5では試験区1の8.4倍の溶解度、pH10では14.5倍の溶解度)、更に、アルカリ域が有利であること(ドナーが同じであればpH10の方が2〜4倍溶解度が向上)、また、アルカリ域でCDに包接させることにより溶解度が増すこと(試験区8〜10)が明かである。
【0058】
表2よりヘスペリジンの配糖化には可溶化と同様に、アルカリ域が有利であること(pH5ではCDを用いても試験区1の1.5倍程度であるが、pH10では3〜5倍であった)、また、アルカリ域でCDを包接させるとより配糖体量が増すこと(試験区8、9では試験区1の5倍以上)が明かである。また、CDの利用はフラボノイド類を包接し、可溶化するばかりでなく、糖のドナーとしても利用される。
【0059】
(実施例2)
試験区1では、ドナーとして可溶性澱粉を5重量%、アクセプターとしてヘスペリジンを0.5重量%を包含する溶液を、塩酸でpH5に調整した基質溶液を調製した。また、試験区2では可溶性澱粉とα−CD、試験区3では可溶性澱粉とβ−CD、試験区4では可溶性澱粉とγ−CD、試験区5では可溶性澱粉とK−100をドナーとして用い、それぞれ2.5重量%ずつ含有し、アクセプターとしてヘスペリジンを0.5重量%含有する溶液を水酸化ナトリウムでpH10に調整することによって、ヘスペリジンを可溶化した。これらの基質溶液を予め37℃に設定しておいた恒温槽にいれ、次いで、この反応溶液にCGTaseを5ユニット/mlとなるように加えて反応を開始させた。16時間の反応の後、100℃、5分間の加熱によって反応を停止させた。この時それぞれの試験区に対してCGTaseを添加しないものをブランクとして調製し、同様の操作を行った。これらの反応溶液を実施例1と同じHPLC(ODS)で分析したところ、表3の結果を得た。
【0060】
【表3】
Figure 0003989561
【0061】
表3および実施例1の表2より、ヘスペリジンの可溶化にはドナーとして可溶性澱粉とCDとを混合して用いてもその重量%が同じであれば、それぞれ単独で用いた場合と同程度の結果が得られた。更に、可溶性澱粉とα−CDまたはβ−CDとの組み合わせではヘスペリジングルコサイドの生成量はやや増加する傾向にあった。
【0062】
(実施例3)
ドナーとして可溶性澱粉を5重量%、アクセプターとしてヘスペリジンを0.1重量%を包含する溶液を、水酸化ナトリウムでpH10に調整してヘスペリジンを可溶化した。この基質溶液を予め37℃に設定しておいた恒温槽にいれ、次いで、この反応溶液にCGTaseを1ユニット/mlとなるように加えて反応を開始させた。16時間の反応の後、100℃、5分間の加熱によって反応を停止させた。この反応溶液をHPLC(ODS)で分析したところ(分析条件は実施例1に同じ)、ヘスペリジンにグルコースが1〜10個付加された化合物が確認された。また、1,4-α-D-Glucan glucohydrolase(E.C. 3.2.1.3.)(以下「グルコアミラーゼ」という)処理(37℃で3時間反応)によりヘスペリジン(ヘスペリジンのアグリコン)とグルコースとを生ずることからこの結合はα1,4−結合であることが解った。また、これらの配糖体の収量は74.5%であった。
【0063】
(実施例4)
ドナーとして可溶性澱粉を5重量%、アクセプターとして難溶性フラボノイドであるジオスミン、ナリンジン、ネオヘスペリジンおよびルチンをそれぞれ0.1重量%を包含する溶液を、水酸化ナトリウムでpH9に調整して可溶化した。この基質溶液を予め37℃に設定しておいた恒温槽にいれ、次いで、この反応溶液にCGTaseを1ユニット/mlとなるように加えて反応を開始させた。16時間の反応の後、100℃、5分間の加熱によって反応を停止させた。この反応溶液をHPLC(ODS)で分析したところ(分析条件は実施例1に同じ)、それぞれの難溶性フラボノイドにグルコースが1〜10個付加された配糖化物が確認された。また、これらの配糖化物の収量はジオスミンは73.4%、ナリンジンは39.1%、ネオヘスペリジンは39.0%、ルチンは64.5%であった。
【0064】
【発明の効果】
本発明では、水に難溶性のフラボノイド類を、pH8以上のアルカリ域で、あるいは/およびサイクロデキストリンを加えて、可溶化し、さらにサイクロデキストリン合成酵素を用いて、フラボノイド類を効率よく、水に可溶化する方法を開発した。さらに、本発明では、アルカリ域で、サイクロデキストリン合成、糖転移および澱粉分解の高い活性を有するサイクロデキストリン合成酵素を提供した。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のサイクロデキストリン合成酵素のサイクロデキストリン合成活性、澱粉分解活性および転移活性に対するpHの効果を示す。ここで、●はサイクロデキストリン合成活性、○は糖転移活性、および▲は澱粉分解活性を表す。
【図2】本発明のサイクロデキストリン合成酵素の安定性に対するpHの効果を示す。縦軸の活性値は、澱粉分解活性を測定し、至適pH(本酵素においてはpH5.5)の活性を100%として相対値で表す。
【図3】本発明のサイクロデキストリン合成酵素の澱粉分解活性に対する温度の効果を示す。縦軸の活性値は至適温度である50〜55℃での平均活性を100%として相対値で表す。
【図4】本発明のサイクロデキストリン合成酵素の安定性に対する温度の効果を示す。縦軸の活性値は、澱粉分解活性を測定し、至適温度での活性を100%として相対値で表す。ここで、△はCaCl2非存在下、pH5.5での酵素活性、▲はCaCl2非存在下、pH10.0での酵素活性、○はCaCl2非存在下、pH7.0での酵素活性、および●はCaCl2存在下、pH7.0での酵素活性を表す。
【図5】本発明のサイクロデキストリン合成酵素のSDS−PAGEを示す。ここで、Eは、精製したCGTase、Mは、マーカー蛋白質;ミオシン(分子量200,000)、E.coli β−ガラクトシダーゼ(分子量116,250)、家兎筋ホスホリラーゼb(分子量97,400)、ウシ血清アルブミン(分子量66,200)、および鶏卵白アルブミン(分子量45,000)である。
【図6】本発明のサイクロデキストリン合成酵素のゲル濾過(HPLC)時の保有時間と溶出する分子の分子量を示す。●はサイクロデキストリン合成酵素を表す。
1〜○5は以下のマーカー蛋白質を表す。
1:酵母グルタメートデヒドロゲナーゼ (分子量290,000)
2:ブタ心臓ラクテートデヒドロゲナーゼ(分子量142,000)
3:酵母エノラーゼ (分子量 67,000)
4:酵母アデニレートキナーゼ (分子量 32,000)
5:馬心臓チトクロームC (分子量 12,400)

Claims (3)

  1. 糖質およびフラボノイド類に対し、澱粉分解活性、糖転移活性、およびサイクロデキストリン合成活性を有し、至適pHが5.0〜6.0、安定pHが6.0〜9.0、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定した分子量が約80,000である、好アルカリ性バチルス属の菌株A2−5a(FERM P−13864)から採取された、サイクロデキストリン合成酵素。
  2. 可溶性のフラボノイド配糖体の製造方法であって:
    フラボノイド類をpH8以上のアルカリ域で、あるいは/およびサイクロデキストリンを加えて、可溶化する工程;および
    該サイクロデキストリンまたは澱粉の存在下で、該アルカリ域でサイクロデキストリン合成酵素で糖転移させる工程;
    を包含し、該サイクロデキストリン合成酵素が、請求項1に記載のサイクロデキストリン合成酵素である、製造方法。
  3. 前記フラボノイド類がヘスペリジン、エリオシトリン、ナリンギン、ネオヘスペリジン、ジオスミン、リナリン、ポンシリン、プルニン、ヘスペレチン-7-グルコシド、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項に記載の製造方法。
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