JP3965525B2 - 玉軸受用軌道輪の製造方法 - Google Patents

玉軸受用軌道輪の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、転がり軸受用、特に玉軸受用の軌道輪のリング状素材成形から焼入れまでの連続的な製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術と解決課題】
玉軸受は、軌道輪である内輪及び外輪の間に、その玉受溝に転動体としての玉を転動可能に介装して成る軸受であるが、この玉軸受用の内輪や外輪など軌道輪をSUJ2鋼等の高炭素クロム軸受鋼から製造する場合、従来法は、鋼材として棒鋼又は丸鋼を切断して使用し、熱間鍛造してリング状素材(リングブランク)とし、これを冷却後に再度加熱して球状化焼鈍をしたあと、所要の形状・寸法に切削加工し、冷間ローリング加工により周面に玉受溝の形成と所要の寸法の圧延とを同時に行い、焼入れ温度まで加熱して焼入れを行う方法が採用されていた。
【0003】
この製造法のヒートパターンの一例を図7(A)に示しているが、熱間鍛造においては、切断した棒鋼の柱状素材を1100〜1200℃に加熱して後、柱状素材の両端面を押圧圧下して拡径し、ついで中心部の打ち抜きをして、リング状の素材に成形した後放冷され、次の冷間ローリング加工に先立って、700〜800℃のオーステナイト域まで再度加熱した後炉冷することにより、球状化焼鈍を行ない、鋼中に炭化物を微細に析出させて鋼の冷間加工性を改善することがなされていた。
【0004】
冷間ローリング加工には、通常は、リング状素材の内側に挿通してその内周面を押圧するマンドレルとリング状素材の外側外周面を押圧する主ロールとの間でリング状素材を挟圧して圧延する方式が採用されていた。この方法では、マンドレルと主ロールとのいずれかに、その外周面に玉受溝形成用突条が形成されており、マンドレルと主ロールを相反対回転させながらマンドレルと主ロールとの間を押圧してリング状素材の厚み方向の圧下し、リング状素材の玉受溝の形成と所定寸法形状への圧延拡径とが行われる。
【0005】
冷間ローリング加工法は、玉受溝も含めてリング状素材周面の成形寸法精度が高いので、その後は周面や玉受溝の旋削加工を行わずに、焼入れ・焼戻し処理がされていた。この焼入れ法には、高炭素クロム軸受鋼に対しては、加熱してオーステナイト化して後油中急冷する焼入れ法、通称、ずぶ焼法が広く利用されていた。
【0006】
軌道輪の他の製造方法には、熱間鍛造によりリング状素材とし、これを熱間ローリング加工により所定寸法に拡径圧延して一旦放冷した後、再加熱して球状化焼鈍を行い、冷却後に玉受溝等の旋削加工をした後、同様に、再加熱して焼入れを行う工程も行われていた。
【0007】
この場合の熱間ローリング加工は、加熱したリング状素材に挿通して内周面を押圧するマンドレルと外周面に接して押圧する主ロールとにより、リング状素材を挟圧して、所定のリング外形になるように圧延する方法であった。
また、比較的大きい径のリング状素材に対しては、マンドレル及び主ロールと共に、主ロールの反対側にリング状素材の両端面を挟圧する一対のアキシャルロールを配置してリング状素材の幅制御を行う方式も採用されていた(例えば、特開昭62ー176626号公報など)。
【0008】
この製造方法のヒートパターンを図7(B)に示すが、切断した棒鋼の柱状素材を1100〜1200℃に加熱して熱間鍛造によりリング状素材として連続的に熱間ローリング加工を行った後、常温まで放冷し、次の旋削加工に先立って、700〜800℃のオーステナイト域まで再度加熱した後炉冷することにより球状化焼鈍を行ない、鋼の冷間加工性を改善することがなされている。次の旋削加工により、内外周面と所要の玉受溝を切削加工した後、焼入れ・焼戻し処理がなされる。
【0009】
これらの方法で形成され焼入れ・焼戻し処理されたリング状素材は、真円度矯正のためサイジング処理を行った後、表皮の黒皮の研削と玉受溝等の研削・超仕上げなどの精密研磨を行い軌道輪に仕上げられていた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の製造方法は、リング状素材の内外周面および玉受溝形成を冷間ローリング加工や旋削などの冷間加工で行うが、素材の高炭素クロム軸受鋼は炭素量が高く硬質であるので、熱間鍛造や熱間ローリング加工をした後の素材は、冷間加工性が悪い。そこで被削性など冷間での加工性を良好にするため、上述のように、球状化焼鈍を行って、鋼中に炭化物を微細で且つ球状に析出させておく必要があった。
【0011】
そのため、従来法には、図7(A)、(B)に示したように、冷間加工工程と球状化焼鈍工程とを必然的に含むので、熱間鍛造又は熱間ローリング加工のための加熱とその後の冷却をして、さらに球状化焼鈍のための高温長時間の再加熱を必要とし、旋削や冷間ローリングなどの冷間加工の後にも焼入れのための加熱が必要となり、冷却と加熱の繰り返しによって熱的に不経済なものであった。
【0012】
さらに、従来法は、冷間加工とこのための球状化焼鈍とを含むので、加工工程数が増加し、それぞれ工程専用の装置・設備の間にリング状素材を運搬する必要があり、工程が複雑化し、工程間の待ち時間調節が必要となるなど工程能率の低下を招き、不能率であり、連続生産方式の採用を阻害していた。
【0013】
本発明は、第1に、鋼材・リング状素材から焼入れに到る軌道輪の製造過程において、冷間加工とこのための球状化焼鈍の工程を廃止して、全て熱間加工により上記問題を解消しようとするもので、これにより、特に長時間を必要とする球状化焼鈍を省略し、工程の連続化を図り、冷却と再加熱の繰り返しを無くして熱エネルギーの低減と生産の効率化を図ろうとするものである。
【0014】
しかしながら、リング状素材の成形から焼入れに到る全工程を熱間加工で行うとすれば、一般に、熱間加工でのリング状素材の周面及び玉受溝の形成精度が冷間ローリングや切削加工などの冷間加工による場合に比して良くない。ここに、熱処理後のリング状素材は、従来の切削加工による内外周面及び玉受溝の形成の際の寸法精度と少なくとも同程度の寸法精度を確保することが重要となり、さもなければ、別途切削代を大幅に確保する必要が生じ、旋削加工の工程が省略できない。さらに、熱間加工の過程で炭化物がマトリックスに溶解して、熱処理後の炭化物が網目状に粗大に析出するので軸受の軌道輪の転がり疲労寿命が低下する恐れがあり、この場合でも、炭化物の球状化処理が別途必要となる。
【0015】
本発明は、第2に、熱間加工化に伴う上記別個の問題を解決して、軌道輪に要求される品質の点においても従来の製造方法のものと少なくとも遜色のない優れた軌道輪の製造方法を提供しようとするものである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は、油中冷却により焼入れ硬化可能な高炭素クロム軸受鋼より成るリング状素材から玉軸受の軌道輪を形成するための玉軸受用軌道輪の製造方法であって、概して言えば、熱間ローリング加工と拘束焼き入れにより、その後の切削加工の不要な寸法精度を具備した有溝リング状素材に形成するものである。
即ち、本発明の製造方法は、リング状素材を加工開始温度750〜900℃に加熱して熱間ローリング加工により玉受溝を形成して所定外形に拡径して有溝リング状素材に圧延成形する熱間ローリング工程と、該有溝リング状素材を上記ローリング加工後直ちに焼入れ温度に再加熱した後焼入れする焼入れ工程と、から成り、焼入れ工程における焼入れ法が、加熱したリング状素材の外径若しくは内径を所定寸法に拘束保持した状態で冷却する拘束焼入れであり、上記焼入れ工程における再加熱を、850〜860℃で2〜3分行うことを特徴としている。
【0017】
この製造方法の工程を図1(A)に示すが、この方法では、リング状素材の熱間ローリング工程で、リング状素材に所定の玉受溝と周面・側面とが、鋼の加工性のよい高温で一時に形成され、次の、拘束焼入れ工程を経て、一体焼入れされた所定形状のリング状素材が得られる。熱間ローリング加工bは玉受溝成形と圧延拡径が極めて容易であり、従来の溝切削や冷間ローリング加工などの冷間加工を採用しないので、上記の冷間加工のための球状化焼鈍の工程は不要となる。
従って、図2(A)にヒートパターンの一例を示すように、熱間ローリング工程と焼入れ工程との間で常温まで冷却する必要がなく、熱間ローリング工程での温度低下があっても僅かであり、直ちに焼入れ温度に短時間の加熱調整した後に焼入れすることができる。そこで、熱間ローリング工程と焼入れ工程の連続生産が容易となり、その工程全体が短時間で終了し、加熱に要する時間や熱エネルギーの低減に有効となる。
【0018】
熱間ローリング加工によるリング状素材の圧延は、従来の冷間ローリング加工による場合に比して、寸法精度が悪く、特に、真円度が低下する恐れがあるが、拘束焼入れ法は、熱間ローリング加工後のリング状素材の外径又は内径を規定の寸法に拘束保持した状態で焼入れを完了するもので、熱間ローリング加工時の寸法のばらつきと焼入れ時の変形歪みの両方を矯正ないし防止する効果がある。そこで所要の研削代を残した寸法精度と真円度の高いリング状素材が得られ、以後切削をすることなく最終仕上げまで進めることができる。
【0019】
拘束焼入れとしては、図1(A)の工程図と図2(A)に例示のヒートパターンにおいて、ローリング加工b後直ちに再加熱dをしてオーステナイト化温度に加熱保持したリング状素材を焼入油中に浸漬して急冷eをし鋼のマルテンサイト変態開始温度Ms点の直上温度で引き上げて後、サイジング型に圧入し冷却するサイジング焼入れfを行う方法がある。リング状素材をサイジング型で拘束したまま常温近くまで冷却する過程でマルテンサイト変態を終了させる。この焼入れ後これを通常の焼戻しを行って、表面硬さをHRC57以上、特にHRC60以上として、軌道溝の耐摩耗性、転がり疲労寿命を確保する。
【0020】
本発明には、熱間ローリング工程と拘束焼入れ工程との間で球状化処理工程を介在させる軌道輪の製造方法が含まれる。
即ち、この製造方法は、図1(B)にその工程図を、図2(B)にヒートパターンの例を、それぞれ示すが、該リング状素材を少なくともオーステナイト領域に加熱aをして、熱間ローリング加工bにより玉受溝を形成して所定外形に拡径して有溝リング状素材に圧延成形する熱間ローリング工程と、該リング状素材を、ローリング加工終了後直ちに鋼のAr1点以下500℃以上の温度に保持して、鋼中に球状炭化物を析出させる球状化処理cを行う工程と、該球状化処理後のリング状素材を直ちに再加熱dして上記焼入れ温度に調整した後焼入れする焼入れ工程と、から成るものである。そして、焼入れ法が、同様に、再加熱dをしたリング状素材の外径若しくは内径を所定寸法に拘束保持した状態で冷却する拘束焼入れ法である。拘束焼入れ法には上述のように、再加熱d後に油中に浸漬して急冷eをし鋼のMs点の直上温度で引き上げて後サイジング(型)焼入れfを行うサイジング型焼入れ法がある。
【0021】
この球状化処理cを含む方法は、熱間ローリング加工bの少なくとも初期をオーステナイト領域でおこない、その終了後に鋼のAr1点以下500℃以上の温度に保持することにより、オーステナイト中に溶解の炭素を微細な球状炭化物として析出させる。これにより、熱間加工による網目状セメンタイト等の粗大炭化物に起因する転がり疲労寿命の低下を防止するのに有効である。
【0022】
この球状化処理を含む製造方法は、高炭素鋼、特に高炭素クロム軸受鋼(例えばSUJ2鋼)等のように、鋼中に析出炭化物を多く含む鋼について、予めリング状素材に形成するため熱間鍛造を行う場合や、特に1000℃前後の高温から熱間ローリング加工をする場合に好ましく適用される。
これらの熱間鍛造や熱間ローリングの過程でオーステナイトが1000℃前後の高温にあると炭化物はオーステナイト中によく溶解するので、その後放冷中にオーステナイトの粒界に網目状に粗大な炭化物として析出し易いのであるが、本発明は、球状化処理工程を設けて、炭化物の微細化を図るのである。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明をさらに詳しく述べると、使用される鋼材は、棒鋼ないし丸鋼(ビレット)を一定長さに切断後熱間鍛造により、所定寸法で、図4(A)に示すようなリング断面矩形のリング状に形成される。通常は、一個の棒鋼片から内輪用と外輪用の二つのリング状素材が形成されるいわゆる親子取りの方法が採用される。また、鋼管を一定長さに輪切りにしたリング状素材も利用される。
リング状素材は、内周面、外周面及び両端面を旋削により一定の寸法範囲に調節したあと、熱間ローリング加工のために加熱する。
【0024】
本発明では、熱間ローリング加工の際にリング状素材を加熱炉中に装入しローリング加工開始温度付近に加熱保持するが、ローリング加工開始温度は、1200℃以下のオーステナイト領域で、好ましくは、750℃〜900℃の低温範囲が選ばれる。900℃より高温であると、リング状素材の鋼材は、変形抵抗が小さくて軟かく、ローリング加工が容易となるが、加熱中及びローリング加工中の表面酸化により表面脱炭層が大きくなる傾向があり、高温加熱することは、熱経済的にも不利となる。
【0025】
他方、ローリング加工開始温度が750℃より低温にすると、リング状素材の鋼は球状化焼鈍なしでは硬質となりローリング加工・圧延拡径に不利となる。また、熱間ローリング加工後の球状化焼鈍を行う場合には、ローリング加工終了温度を500℃以上、特に、650℃以上とする必要があるので、熱間ローリング過程での温度降下を考慮して、ローリング加工開始温度が決められる。
この加熱炉には、ガス炉、電気炉が利用され、特に、窒素ガスや還元性ガスに置換した雰囲気炉がリング状素材表面の空気酸化や脱炭の防止のため好ましい。
【0026】
熱間ローリング加工の方法は、前述の冷間ローリング加工方法に利用されたマンドレルと主ロールとの間でリング状素材を挟圧して圧延する方式が採用できる。マンドレルと主ロールとのいずれか外周面に玉受溝形成用突条が形成されて溝形成ロールとされており、マンドレルと主ロールを回転させながらマンドレルと主ロールとの間を押圧して、リング状素材の厚み方向の圧下とリング状素材の回転により、リング状素材の溝形成と所定寸法形状への圧延拡径が行われる。
【0027】
熱間ローリング加工過程ではリング状素材は冷却されるので、焼入れ工程では、焼入れ用加熱炉に装入されて再加熱して焼入れ温度、通常は800℃〜860℃のオーステナイト化温度に調整される。熱間ローリング加工の温度降下を考慮して圧延終了温度が焼入れ温度の近辺になるように圧延開始温度を決めるのもよい。そうすると、焼入れ前の再加熱が省略でき、圧延終了後直ちに焼入れを行うことができる。
【0028】
熱間ローリングの工程の後の球状化処理工程を設ける場合は、ローリング加工開始温度は、750℃以上のオーステナイト領域とするが、炭化物の溶解度を高めるために800℃以上に高温にするのが好ましい。熱間ローリング加工の少なくとも初期をオーステナイト領域でおこない、球状化処理cは、そのローリング加工b終了後に鋼のAr1点以下500℃以上の温度、特に、650℃程度に冷却保持して焼入れのための再加熱dをする過程で行う。
【0029】
球状化処理cは、熱間ローリング加工b末期の温度をAr1点以下500℃以上の温度に調節するもので、ローリング加工b終了後直ちに徐々にオーステナイト化温度まで再加熱dをする方法がある。又他の方法として、熱間ローリング加工bをしたリング状素材をAr1点以下500℃以上の温度の塩浴中に一時浸漬保持したあと、焼入れ用の加熱炉に装入して、徐々にオーステナイト化温度まで再加熱dをする方法も採用される。
【0030】
次の拘束焼入れの工程では、サイジング型に外径拘束型と内径拘束型とが利用されるが、外径拘束型の場合では、再加熱dをしたオーステナイト域からMs点直上まで急冷eをしたあとこの温度に保持している間に、所定内径の内面円筒状のサイジング型内にリング状素材を圧入する。圧入過程でリング状素材の外径は、サイジング型内面の内径にまで圧縮されて拘束されるので、圧入後は、これをMs点以下に放冷してマルテンサイト変態をさせサイジング焼入れfをする方法(マルクエンチ法の利用)である。サイジング型内面を所定の円筒形状に決めてあり、サイジング型内でリング状素材の外周面が修正されて且つ拘束された状態で、焼入れが完了する。
【0031】
この工程は、焼入油槽中から順次引き上げたリング状素材をサイジング型内の入口側からに重積状態で順次圧入していくと、型内を冷却されながら押し込まれ、出口側から焼入れされたリング状素材が出てくる方式がよい。
【0032】
内径拘束型の場合は、所定外径の円柱状のサイジング型に順次連続的にリング状素材の内径を押し入れる方法で、リング状素材の内径は、サイジング型外面の外径まで拡張されて拘束され、以後上記の外径拘束型の場合と同様に、Ms点以下に冷却してマルテンサイト変態をさせる方法である。
【0033】
本発明の方法で成形し焼入れしたリング状素材は、従来法と同様に150〜200℃で焼戻しされた後、リング状素材の黒皮外面の研削仕上げと玉受溝の超仕上げにより軌道輪とされる。本発明の製造方法においては、仕上げ工程では切削を省略しても焼入れ後のリング状素材の寸法を、研削代を残す程度の精度に、充分確保できる。
さらに、本発明の製造方法は、熱間ローリング加工開始温度を750℃〜900℃の低温範囲にすることができ、ローリング加工後直ちに短時間の再加熱をするだけで拘束焼入れができるので、ローリング加工により破壊したオーステナイト結晶粒の成長・粗大化が抑制され、従って焼入れ直前のオーステナイト結晶粒を微細にできるので、軌道輪の機械的性質が良好になる利点がある。
【0034】
【実施例】
SUJ2鋼の棒鋼から深溝玉軸受の内輪用の軌道輪に使用するリング状素材の製造方法を、図1(A)の工程図に従い以下に示す。
棒鋼を所定長さに切断し、加熱炉内に装入されて1100℃前後に加熱されたあと熱間鍛造により、リング状に形成され、冷却後に旋削により所定形状に調製されて、リング状素材とされる。
まず、リング状素材は、熱間ローリング加工のために、加熱炉内に順次装入して炉内を移送しながら800℃〜860℃の範囲に30〜60min加熱し保持する。
【0035】
熱間ローリング工程では、加熱炉から取り出したリング状素材にマンドレルを挿入してリングの外周を主ロールで挟圧し、リングを厚み方向に圧下して、拡径する。主ロールの外周には玉受溝形成用突条が形成してあり、リング状素材の内周面に玉受溝を形成する。このローリング加工装置の概要を図3に示すが、リング状素材1の内側にマンドレル2を装入し、リング状素材1の外周面10を主ロール3の外周面30に当接させ(図3(A))、ついで、マンドレル2の両端部21、21に補助ロール4、4(バックアップロール)を摺接して保持し、主ロール3をマンドレル2の方向に加圧押進しながら、同時に補助ロール4、4と主ロール3とを回転させると、リング状素材はマンドレル2の外周面20と主ロール3の外周面30との間で圧下されながら同時に主ロール3の外周面30に形成した玉受溝形成用突条35によりリング状素材1の外周面10に玉受溝15が形成される(図3(B))。加工中にリング状素材1の外周面に接触して外周計測するセンサ5(図3(C))により所定の外径に達したとき、主ロール3の押圧を解除して圧延を終了し、リング状素材1をマンドレル2から外して、直ちに焼入れ用の加熱炉6(図6)に装入する。
【0036】
この方法で軌道輪の内輪を形成する場合には、主ロール3の外周面30にボール溝形成用突条35が形成されているが、外輪を形成する場合には、図4(B)に示すように、マンドレル2の外周面20にボール溝形成用突条25が形成されており、断面矩形状のリング状素材1(図4(A))から内周面11に玉受溝15を形成した外輪用の有溝リング状素材1が形成できる。このように、マンドレル2と主ロール3の組合せを換えるだけで、内輪も外輪も形成可能である。
【0037】
拘束焼入れ装置は、図6に例示するように、焼入れ用の加熱炉6に近接して、冷却用の油浴槽61と縦型の中空状サイジング型7と、このサイジング型内にリング状素材を押し込むためのプッシャー73を備えた押入れ装置78とが配置してある。この拘束焼入れの工程では、焼入れ用の加熱炉6に挿入された有溝リング状素材1(図例は外輪用のリング状素材)を、加熱して所定のオーステナイト化温度、例えば860℃に極く短時間保持する。この加熱保持時間は、熱間ローリング加工終了温度が650℃程度の時は、3〜10min程度でよい。オーステナイト化したリング状素材1は、100℃前後に加温の焼入れ油を満たした油浴槽61中に短時間浸漬し、SUJ2鋼のMs点は220〜230℃であるので、220℃になった時点で油中から引き上げて、速やかにサイジング型7の入口71にリング状素材1を押入れる。この操作を続けると、リング状素材1は、サイジング型内面70内に重積して拘束された状態で、サイジング型7内を順次下がりながら、Ms点以下に冷却され、最後にサイジング型7の出口72から落下する。その後常温まで放冷する。
【0038】
この一連の工程を実施するためには、熱間ローリング加工用の加熱炉、熱間ローリング装置、焼入れ用の加熱炉、及び、油浴槽とサイジング型と押入れ装置からなる拘束焼入れ装置が、連続処理可能に連設されており、加熱炉と冷間ローリング装置や拘束焼入れ装置の間には、図示しないが、ロボットアーム等の握持型搬送手段によりリング状素材を1個づつしかも速やかに搬送することができるようにされている。
【0039】
熱間ローリング加工は、通常10秒以下で圧延を完了できるので、圧延用の加熱炉から熱間ローリング装置への移動と装着や熱間ローリング装置から焼入れ用の加熱炉への取外し装入をできるだけ急速に行い、その間の空気中放冷を少なくして温度低下を防止するようにする。
【0040】
この熱間ローリング加工方法は、主ロール又はマンドレルに形成した玉受溝形成用突条と共にシール溝形成用突条を設けることにより、リング状素材に玉受溝とシール溝とを同時に形成することが可能となる。図5(A)において、マンドレル2の外周面20に玉受溝形成用突条25とその両側に一対のシール溝形成用突条26、26を形成した例で、これにより、図5(B)に示すように、ローリング加工後は、外輪用のリング状素材1の内周面11に玉受溝15とシール溝16、16とを同時に形成したものである。
【0041】
従来の冷間ローリング加工法では、軌道輪の内輪を形成する場合には、内輪の外周面に玉受溝とシール溝を同時に形成すると、圧延拡径中に素材周面に作用する引張応力により両溝の間の周面に微細な表面割れが発生することがあるのであるが、熱間ローリング加工では、鋼材自体の塑性変形能が大きいので表面ひび割れを生じることがなく、内輪でも外輪でも同様にシール溝の同時成形が容易にできる利点がある。
【0042】
次に、本発明の玉軸受用軌道輪の製造方法により、軌道輪を形成した場合の寸法精度とミクロ組織を調べ、その結果を以下に示す。
軌道輪は、JIS型番6206の玉軸受の外輪で、材質はSUJ2鋼である。
製造条件は、上記材質の棒鋼を熱間鍛造によりリング状ブランクに形成し、これを旋削して熱間ローリング加工用のリング状ブランクに寸法調製した。リング状ブランクの基準寸法を、内径36.5mm、外径48.1mm、幅16.0mmとし、この基準寸法に対して、外径のみ、内径のみ、及び幅のみ、それぞれ±0.05mm及び±0.10mmに変化させたリング状ブランクを形成した。
これらリング状ブランクを加熱炉内で850〜860℃の炉内温度に20〜30min加熱し、直ちに上記ローリング加工機で熱間ローリング加工して玉受溝成形と圧延を行い、焼入れ用の加熱炉に移して850〜860℃の炉内温度で2〜3min再加熱した後、油温100〜110℃の油中に10s浸漬し、引き上げて内径62.15mm、長さ80mmのサイジング型に圧入して放冷し、拘束焼入れを行った。この試験では、熱間ローリング加工後のリング状ブランクは、球状化処理を行わずに、直ちに焼入れ温度に再加熱している。
また、比較例として、熱間鍛造後旋削前にリング状ブランクを800℃の炉内温度で9〜10h保持して徐冷する条件で、予め球状化焼鈍を行った。その他の製造条件は、上記と同じであった。
【0043】
拘束焼入れしたリング状ブランクについて、外径と、内径として玉受溝面における内径(溝径)と、を測定し、製品外輪の外径と溝径とそれぞれ比較して、外径取代、溝径取代を求めた。各取代とローリング加工前のリング状ブランクの寸法との関係を図8に示す。ローリング加工前のリング状ブランクが基準寸法にあるときは、外径取代も溝径取代も0.1〜0.2mmの範囲に入っており、いずれも適正な研削代であるが、図8(A)において、リング状ブランクの外径だけを基準外径に対して−0.05mm以下とすると、溝径取代が0.1mm以下となる。他方、図8(B)において、リング状ブランクの内径だけを基準内径に対して+0.10mmとすると、外径取代が0.1mm以下、特に、0mm以下となり、取代が確保できない。いずれにしても、適正な基準寸法を定めて、リング状ブランクの外径と内径を一定範囲に制御し、サイジング型の内面形状を外径取代を確保するように設定しておけば、本発明の熱間加工による軌道輪の製造方法により、外径取代と溝径取代も適正に確保でき、本発明方法は、軌道輪の加工精度が充分高いことが判った。
【0044】
また図9に、外径取代と溝径取代の和(総取代)と、ローリング加工前のリング状ブランク重量との関係を示すが、リング状ブランクは、基準ブランク、外径のみ変化させたブランクと内径のみ変化させたブランクを含むが、ブランク重量と総取代とは密接な相関関係があり、これを利用して、総取代を確保するための重量公差が決められる。
【0045】
拘束焼入れ後のリング状ブランクのミクロ組織は、従来の球状化焼鈍と熱間ローリング加工後の球状化処理を共に省略しても、図10(A)の顕微鏡写真にみられるように炭化物は充分に球状化することが判った。比較例として熱間鍛造後に球状化焼鈍を行って後、実施例と同様の製造方法を実施したブランクについての拘束焼入れ後のミクロ組織(図11(A)に顕微鏡写真を示す)と比較しても、炭化物は微細であり、しかも炭化物の析出量が多い。
【0046】
拘束焼入れ後のリング状ブランクのオーステナイト結晶粒は、図10(B)の結晶粒界を現出した顕微鏡写真に見るように、JIS法でのオーステナイト結晶粒度番号11で極めて微細であり、熱間鍛造後に球状化焼鈍を行った比較例も同様である(図11(B)、オーステナイト結晶粒度番号10)。この理由は、恐らく、熱間ローリング加工を低温のオーステナイト域で行い、その後3min程度の極く短時間の再加熱をして速やかに焼入れするので、熱間ローリング加工により破壊された結晶粒が熱間ローリングや再加熱の過程で再結晶ないしは再結晶後の粒成長をする時間的余裕がなく、微細なまま冷却されるためと考えられる。
【0047】
このように、本発明の製造方法は、品質面においても、特段の球状化処理を設けなくても炭化物の球状化が実現でき、しかも結晶粒の微細化に有効である等の特徴を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の軌道輪の製造方法の工程図(A、B)。
【図2】本発明の軌道輪の製造方法の製造工程におけるヒートパターン(A、B)。
【図3】本発明の軌道輪の製造方法で使用される熱間ローリング加工装置で、(A)はローリング加工開始前の状態の装置上面図、(B)はローリング加工中の状態の装置上面図、(C)はローリング加工中の状態における装置縦断面図を、それぞれ示す。
【図4】本発明の軌道輪の製造方法で使用される熱間ローリング加工の際の、加工前の外輪用のリング状素材の断面図(A)、リング状素材とマンドレルと主ロールとの配置を示す図(B)、及び、加工後の外輪用のリング状素材の断面図(C)をそれぞれ示す。
【図5】本発明の軌道輪の製造方法で使用される熱間ローリング加工の際の、リング状素材とマンドレルと主ロールとの配置を示す図(A)、および、加工後の外輪用のリング状素材の断面図(B)をそれぞれ示す。
【図6】本発明の軌道輪の製造方法で使用されるサイジング型焼入れ装置の概念図。
【図7】従来の軌道輪の製造方法での各工程のヒートパターン(A、B)。
【図8】熱間ローリング加工前のリング状ブランクの寸法を基準寸法より変化させたときの拘束焼入れ後のリング状ブランクの溝径取代、外径取代の変化を示す図で、(A)はリング状ブランクの外径のみを変化させた場合を、(B)はリング状ブランクの内径のみを変化させた場合を、それぞれ示す。
【図9】熱間ローリング加工前のリング状ブランクの寸法を基準寸法より変化させたときのブランク重量と、拘束焼入れ後のリング状ブランクの総取代との相関関係を示す図。
【図10】本発明の実施例に係る拘束焼入れ後のリング状ブランクの切断面の金属組織の光学顕微鏡写真(倍率400)。(A)はピクラール腐食による焼入れ組織を、(B)はピクリン酸系腐食液(山本科学工具(株)製「AGSエッチャント」)の腐食によりオーステナイト粒界を発現させた結晶粒組織を、それぞれ示す。図中(B)のGSNo.は、オーステナイト結晶粒度番号(JIS法)を示す。
【図11】熱間ローリング加工前に球状化焼鈍を行ったリング状ブランクについて、拘束焼入れ後のリング状ブランクの切断面の金属組織の光学顕微鏡写真(倍率400)。(A)、(B)は、図10(A)、(B)と同様図。図中(B)のGSNo.は、図10と同様にオーステナイト結晶粒度番号(JIS法)を示す。
【符号の説明】
1 リング状素材
15 玉受溝
2 マンドレル
3 主ロール
6 焼入れ炉
61 油槽
7 サイジング型

Claims (7)

  1. 油中冷却により焼入れ硬化可能な高炭素クロム軸受鋼より成るリング状素材から玉軸受の軌道輪を形成するための玉軸受用軌道輪の製造方法において、
    該リング状素材を加工開始温度750〜900℃に加熱して熱間ローリング加工により玉受溝を形成して所定外形に拡径する熱間ローリング工程と、
    上記ローリング加工後該リング状素材を直ちに焼入れ温度に再加熱した後焼入れする焼入れ工程と、から成り、
    上記焼入れ工程における焼入れ法が、加熱したリング状素材の外径若しくは内径を所定寸法に拘束保持した状態で冷却する拘束焼入れであり、
    上記焼入れ工程における再加熱を、850〜860℃で2〜3分行うことを特徴とする玉軸受用軌道輪の製造方法。
  2. 上記焼入れ工程における拘束焼入れ法が、オーステナイト化温度の上記リング状素材を、油中に浸漬し鋼のMs点直上温度で引き上げて後、サイジング型に圧入し冷却する拘束焼入れ法である請求項1記載の製造方法。
  3. 上記熱間ローリング工程と焼入れ工程との間に、ローリング加工終了後の上記リング状素材を直ちに鋼のAr1点以下500℃以上の温度に保持して、鋼中に球状炭化物を析出させる球状化処理工程を含み、
    該球状化処理後のリング状素材を直ちに上記焼入れ温度に加熱調整するようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の軸受軌道輪の製造方法。
  4. 上記熱間ローリング加工の方法が、リング状素材の外周を成形する主ロールと内周を成形するマンドレルとの間でリングを厚み方向に圧下して、拡径するローリング方法であって、主ロールとマンドレルとのいずれかの外周に設けたロール受溝形成用突条により、リング状素材の溝形成対応周面に玉受軸を形成する請求項1記載の製造方法。
  5. 上記主ロールとマンドレルとのいずれかの外周に玉受溝形成用突条と共に一対のシール溝形成用突条が設けられて、当該リング状素材の対応周面にロール受溝と一対のシール溝とを同時形成する請求項4記載の製造方法。
  6. 上記球状化処理が、鋼のAr1点以下500℃以上の温度範囲に保持された塩浴中にリング条素材を浸漬する方法である請求項3記載の製造方法。
  7. 上記球状化処理が、熱間ローリング工程におけるリング状炭素材の熱間ローリング加工終了温度を鋼のAr1点以下500℃以上の温度範囲に調節する方法である請求項3記載の製造方法。
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