JP6423740B2 - 軌道輪の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、軌道輪の製造方法に関するものである。本発明は、特に、製造工程がより短縮された軌道輪の製造方法に関するものである。
従来、スラストニードル軸受の軌道輪は、以下の工程により製造されている。まず、圧延された薄板状の鋼材がコイル状に巻き取られたコイル材が準備される。次に、このコイル材から巻き戻された薄板状の鋼材に対して打抜き加工および成形加工が順に施される。これにより、軌道輪の概略形状を有するリング状の成形体が得られる。次に、熱処理前の段取り工程が実施される。そして、リング状の成形体に対して浸炭処理などの熱処理が施される。その後、衝風を当てて成形体を冷却することにより、当該成形体に焼入処理が施される。最後に、焼入後の成形体にプレステンパー(焼戻処理)を施すことにより、当該成形体の形状が整えられる。上記のような工程により、スラストニードル軸受の軌道輪が製造されている。
また鋼材の成形加工技術として、ダイクエンチ工法が知られている。このダイクエンチ工法は、加熱された鋼材をプレス成形すると同時にダイにより急冷して焼入処理を行う技術である(たとえば特許文献1)。
上記のように、従来のスラストニードル軸受の軌道輪の製造工程は、打抜き加工、成形加工、熱処理、焼入処理および焼戻処理などの多くの工程からなっている。また、スラストニードル軸受の軌道輪は肉厚が薄いため、熱処理前の段取り工程において手間が掛かる。このように、従来では、製造工程の多工程化などによって軌道輪の製造コストが高くなるという問題がある。よって、軌道輪の製造工程をより短縮することにより製造コストを低減し、より安価な軌道輪を提供可能にすることが求められる。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、製造工程がより短縮された軌道輪の製造方法を提供することである。また本発明の他の目的は、製造コストが低減されたより安価な軌道輪を提供することである。
本発明に係る軌道輪の製造方法は、鋼材および鋼材から軌道輪を得るための成形台を準備する工程と、鋼材を成形台に設置する工程と、成形台において鋼材をA1変態点以上の温度に加熱した後に鋼材の一部をリング状に打ち抜き、その後、成形台においてリング状の鋼材を焼入処理することにより軌道輪を得る工程とを備える。上記軌道輪を得る工程では、鋼材に対して鋼材の表面に沿った少なくとも一方向に張力を加えた状態で、加熱と打ち抜きとを行う。
本発明に従った軌道輪の製造方法によれば、軌道輪の製造工程をより短縮することができる。また本発明に従った軌道輪によれば、製造コストが低減されたより安価な軌道輪を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
まず、本発明の一実施の形態に係るスラストニードルころ軸受1の構成について説明する。図1は、スラストニードルころ軸受1の軸方向に沿った断面構造を示している。図1を参照して、スラストニードルころ軸受1は、一対の軌道輪11と、複数のニードルころ12と、保持器13とを主に有している。
軌道輪11は、たとえば炭素濃度が0.4質量%以上である鋼からなり、円盤形状を有している。軌道輪11は、一方の主面においてニードルころ12が接触する軌道輪転走面11Aを有している。一対の軌道輪11は、軌道輪転走面11Aが互いに対向するように配置されている。軌道輪11は、ビッカース硬さが700HV以上である。軌道輪11の軌道輪転走面11Aにおける平面度は、約10μmである。
ニードルころ12は鋼からなり、外周面においてころ転動面12Aを有している。ニードルころ12は、図1に示すように、ころ転動面12Aが軌道輪転走面11Aに接触するように、一対の軌道輪11の間に配置されている。
保持器13はたとえば樹脂からなり、複数のニードルころ12を軌道輪11の周方向において所定のピッチで保持する。より具体的には、保持器13は、円環形状を有するとともに、周方向において等間隔に形成された複数のポケット(図示しない)を有している。そして、保持器13は、当該ポケットにおいてニードルころ13を収容する。
複数のニードルころ12は、保持器13によって軌道輪11の周方向に沿った円環状の軌道上において転動自在に保持されている。以上の構成により、スラストニードルころ軸受1は、一対の軌道輪11が互いに相対的に回転可能に構成されている。また軌道輪11は、以下に説明する本実施の形態に係る軌道輪の製造方法により製造される。
次に、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法について説明する。図2は、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法を概略的に示すフローチャートである。図3は、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法における、(A)鋼材に供給される電流の経時変化、(B)鋼材の温度の経時変化、(C)プレス機のストローク、(D)油圧式チャックの動作、(E)第1および第2クランプ部の動作をそれぞれ示している。以下、図2のフローチャートおよび図3のタイムチャートを主に参照しながら、図2および図3に付された「S0〜S12」の順に本実施の形態に係る軌道輪の製造方法を説明する。
まず、軌道輪11を得るための材料である鋼材が準備される(S0)。具体的には、図4を参照して、鋼材としてのコイル材2が準備される。コイル材2は、図4に示すように、圧延された薄板状の鋼材がコイル状に巻き取られたものである。
コイル材2は、たとえば0.4質量%以上の炭素を含む鋼からなる。より具体的には、コイル材2は、たとえばSAE規格のSAE1070、機械構造用炭素鋼鋼材であるJIS規格のS40CおよびS45C、高炭素クロム軸受鋼であるJIS規格のSUJ2、炭素工具鋼鋼材であるJIS規格のSK95、機械構造用合金鋼鋼材であるJIS規格のSCM440、合金工具鋼鋼材であるJIS規格のSKS11、ばね鋼鋼材であるJIS規格のSUP13、またはステンレス鋼材であるJIS規格のSUS440などの鋼からなる。またコイル材2は、2mm以下の厚みを有する薄板状の鋼材である。
次に、コイル材2から軌道輪11を得るための成形台としてのプレス機3が準備される(S0)。まず、プレス機3の構成について、図5を参照しながら説明する。図5は、プレス機3の上下方向(図中両矢印に示す方向)に沿った断面を示している。プレス機3は、プレス用ダイ30と、成形用ダイ31,32と、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bと、通電端子34とを主に有している。
プレス用ダイ30は、円筒状のプレス部35を有している。プレス部35は、コイル材2に接触させて、当該コイル材2の打抜き加工を行うための部分である。またプレス部35には、先端部を切り欠いた凹部35Aが形成されている。プレス用ダイ30は、上下方向において成形用ダイ31,32と対向するように配置されている。またプレス用ダイ30は、図示しない駆動機構によって、成形用ダイ31,32に接近するように、または成形用ダイ31,32から離れるようにストロークさせることが可能となっている。
図10は、プレス部35を平面視した状態を示している。図10中破線で示すように、プレス部35の内部には、冷却水の通路となる水冷回路35Bが周方向に沿って設けられている。図10では、冷却水の流れを示す矢印が付されている。このように冷却水を循環させてプレス部35を冷却することにより、当該プレス部35をコイル材2に接触させた際に、当該コイル材2の急速冷却(ダイクエンチ)を行うことができる。
図5を参照して、成形用ダイ31,32は、上下方向においてプレス用ダイ30と対向するように配置されている。成形用ダイ31は、図5に示すように円柱形状を有しており、その外周部において径方向外側に突出する凸部31Aが形成されている。成形用ダイ32は、成形用ダイ31の直径よりも大きい直径を有するリング形状からなる。成形用ダイ32は、径方向において成形用ダイ31との間に隙間を有するように、成形用ダイ31の外側に配置されている。図7に示すように、プレス用ダイ30が成形用ダイ31,32側へストロークされた場合、プレス部35が成形用ダイ31,32の隙間に位置する。
第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bは、プレス機3においてコイル材2を固定し、かつコイル材2に対して張力を印加するためのものである。第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bは、コイル材2を上記上下方向から挟持している状態と、挟持していない状態とを変更可能に設けられている。第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bは、任意の構成を有していればよいが、たとえば油圧クランプやエアクランプであってもよい。
第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bは、コイル材2の延在方向において、プレス用ダイ30および成形用ダイ31,32を挟んで互いに対向する位置に設けられている。第1クランプ部33Aは上記延在方向においてコイル材2の供給側に配置され、第2クランプ部33Bは上記延在方向においてコイル材2の排出側に配置されている。
第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bは、互い対向する方向(コイル材2の延在方向)において相対的に移動可能に設けられている。たとえば、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bはそれぞれ油圧クランプであって油圧シリンダ(図示しない)を含み、当該油圧シリンダにより上記対向する方向において互いに離れるように移動可能に設けられている。これにより、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bは、プレス用ダイ30と成形用ダイ31,32との間に配置された当該コイル材2に対し、コイル材2の延在方向に張力を印加することができる。コイル材2に対して第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bが印加可能な張力は、0MPa超え500MPa以下である。ここで、張力とは、コイル材2の長さ方向の応力(コイル材2を伸ばすための応力であって、具体的にはコイル材2を通電するためにクランプし、熱膨張によるたわみを伸ばすためにコイル材2に印加される応力)をいう。
通電端子34は、コイル材2に電流を供給するためのものである。より具体的には、通電端子34は、図示しない直流電源または交流電源に接続されており、コイル材2に直流電流または交流電流を供給する。そして、この電流の供給によって生じた発熱によりコイル材2を加熱することができる。通電端子34は、たとえば第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bよりも内側に位置し、コイル材2において第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bにより張力が加えられている部分に接触可能に設けられている。上記のような構成を有するプレス機3が準備される。
次に、コイル材2がプレス機3に設置される(S1)。具体的には、コイル材2がプレス機3の第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bにより挟持される(S2)。第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bには、コイル材2を保持するための圧力が供給される。
次に、コイル材2に張力が加えられる(S3)。具体的には、図5を参照して、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bのうちの少なくとも一方がコイル材2の延在方向において他方から離れるように相対的に移動される。これにより、コイル材2において、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bにそれぞれ保持されている部分の間に位置する領域には、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bの相対的な移動量(第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33B間の距離の変化量)に応じた張力が加えられる。コイル材2に対して加えられる張力は、たとえば0MPa超え500MPa以下である。第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bの相対的な位置関係は、少なくともプレス成形が終了する(S9)まで保持される。つまり、コイル材2に加えられる張力は、少なくとも加熱およびプレス成形が行われる間保持される。
次に、通電加熱が開始される(S4)。具体的には、図6を参照して、まず通電端子34がコイル材2に接触させられる。そして、通電端子34を介してコイル材2に電流が供給される。これにより、コイル材2が電流の供給により生じた発熱(ジュール熱)によって加熱される(通電加熱)。そして、コイル材2の温度が目標温度に到達した後(S5)、コイル材2が当該目標温度において一定時間保持される(S6)。このようにして、プレス機3におけるコイル材2の通電加熱が完了する(S7)。
コイル材2の加熱温度(目標温度)は、当該コイル材2を構成する鋼のA1変態点以上の温度であって、たとえば1000℃である。「A1変態点」とは、鋼を加熱した場合に、当該鋼の組織がフェライトからオーステナイトへ変態を開始する温度に相当する点をいう。そのため、上記通電加熱によって、コイル材2を構成する鋼の組織がオーステナイトに変態する。
次に、コイル材2のプレス成形が開始される(S8)。具体的には、図7を参照して、プレス用ダイ30が成形用ダイ31,32側へストロークする。これにより、図7に示すように、プレス部35がコイル材2に接触し、コイル材2の一部が当該コイル材2の厚み方向においてリング状に打ち抜かれる(S9)。これにより、リング状の成形体2Aが得られる。
次に、図8を参照して、プレス用ダイ30がさらに成形用ダイ31,32側へストロークされることにより、成形体2Aの内周部が成形用ダイ31の凸部31Aと接触する。そして、プレス用ダイ30がそのままストロークされることにより、下死点に到達する(S10)。これにより、図9を参照して、成形体2Aの内周部が、当該成形体2Aの厚み方向に向くように折り曲げられる。このようにして、プレス機3において成形体2Aに成形加工が施される。
次に、図9を参照して、成形体2Aがプレス機3(プレス用ダイ30、成形用ダイ31およびベース部36)と接触した状態において一定時間保持される。このとき、上記のようにプレス用ダイ30内の水冷回路35Bに冷却水が供給される(図10)。これにより、成形体2AがMs点以下の温度にまで急冷されることにより、焼入処理が行われる。ここで、「Ms点(マルテンサイト変態点)」とは、オーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。その結果、成形体2Aを構成する鋼の組織がマルテンサイトに変態する。このようにして、成形体2Aの焼入処理(ダイクエンチ)が完了する(S11)。最後に、コイル材2を保持するために第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bに供給されていた圧力がアンクランプされ(S12)、抜きカス材となったコイル材2および焼入処理が完了した成形体2Aがプレス機3から取り出される。このとき、第1クランプ部33Aと第2クランプ部33Bとの間のクランプ力を緩めることにより、コイル材2に加えられていた張力が緩められる(S12)。上記のような工程により、軌道輪11が製造され、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法が完了する。
本実施の形態に係る軌道輪の製造方法は、上記の構成に限られるものではない。
コイル材2に張力を加える方法としては、プレス機3の内部に設けられた第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bを用いる方法に限られない。たとえば、プレス機3の外部に設けられた第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bを用いる方法であってもよい。言い換えると、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bはいずれもプレス機3の外部に設けられていてもよい。
コイル材2に張力を加える方法としては、プレス機3の内部に設けられた第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bを用いる方法に限られない。たとえば、プレス機3の外部に設けられた第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bを用いる方法であってもよい。言い換えると、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bはいずれもプレス機3の外部に設けられていてもよい。
また、図5における第1クランプ部33Aに代えて、図11に示すようにプレス機3にコイル材2を供給可能に設けられている供給部40(アンコイラ)を用いてもよいし、図12に示すように供給部40からプレス機3に供給されるコイル材2の歪みを矯正可能に設けられている矯正部50(レベラ)を用いてもよい。このようにしても、これらと第2クランプ部33Bとのうちの少なくとも一方を駆動させることにより、これらと第2クランプ部33Bとの間に位置するコイル材2に張力を加えることができる。
たとえば、供給部40に巻き戻し動作をさせることにより、供給部40と第2クランプ部33Bとにより保持されているコイル材2の延在方向における2点間に張力を加えることができる。また、たとえばコイル材2の延在方向において第2クランプ部33Bを矯正部50から離すように移動させることにより、矯正部50と第2クランプ部33Bとにより保持されているコイル材2の延在方向における2点間に張力を加えることができる。
コイル材2の加熱方法としては、通電加熱に限られるものではなく、間接抵抗加熱、誘導加熱、接触伝熱および遠赤外線加熱からなる群より選択される少なくともいずれかの方法を採用することができる。以下、各加熱方法についてより詳細に説明する。
図13(a)および(b)を参照して、抵抗加熱においては、抵抗R1を有する被加熱物100を直接通電して生じたジュール熱により被加熱物100を加熱する方法と、抵抗R2を有する発熱体102を通電して生じたジュール熱により、発熱体102の近くに配置された被加熱物100を間接的に加熱する方法とがある。
図13(a)を参照して、被加熱物100を直接通電して加熱する方法においては、抵抗R1を有する被加熱物100に対して電源101から電流Iが供給される。これにより、被加熱物100において電流Iの供給による発熱(P=R1I2)が生じて、当該被加熱物100が加熱される。本実施の形態においては、コイル材2に対して通電端子34から直流電流が供給されることにより生じた発熱により、コイル材2が加熱されてもよい。また、コイル材2に対して通電端子34から交流電流が供給されることにより生じた発熱により、コイル材2が加熱されてもよい。
また、図13(b)を参照して、被加熱物100を間接的に加熱する方法においては、抵抗R2を有する発熱体102に対して電源101から電流Iが供給される。これにより、発熱体102において電流Iの供給による発熱(P=R2I2)が生じて、当該発熱体102が加熱される。本実施の形態においては、発熱体102に対しては、直流電流が供給されてもよいし、交流電流が供給されてもよい。
図14を参照して、誘導加熱においては、コイル103に対して交流電源104から交流電流が供給されることにより、被加熱物100において交番磁束Bが発生する。また被加熱物100において、交番磁束Bを打ち消す方向に渦電流Iが発生する。そして、渦電流Iと被加熱物100の抵抗Rとにより生じた発熱によって、被加熱物100が加熱される。
図15を参照して、接触伝熱においては、内部加熱ロール105と外部加熱ロール106からの伝熱によって、被加熱物100が加熱される。また遠赤外線加熱においては、被加熱物に遠赤外線を照射することにより、遠赤外エネルギーが当該被加熱物に与えられる。これにより、被加熱物を構成する原子間の振動が活性化することで発熱が生じ、被加熱物が加熱される。
また、プレス機3において、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bは、コイル材2の表面に沿った方向であって延在方向に垂直な方向(幅方向)において、プレス用ダイ30および成形用ダイ31,32を挟んで互いに対向する位置に設けられていてもよい。
また、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法では、図9に示すように、成形体2Aの内周部が成形体2Aの厚み方向に向くように折り曲げられることにより、プレス機3において成形体2Aに成形加工が施されているが、これに限られるものではない。図16を参照して、リング状の成形体2Aの外周部(内周部ではなく)に成形加工が施されてもよい。この場合、成形用ダイ32の内周面において径方向内側に突出する凸部32Aが形成されている。このため、上記実施の形態の場合と同様にプレス用ダイ30のストロークを行った場合、リング状の成形体2Aの外周部が当該凸部32Aに接触する。そして、上記実施の形態の場合と同様に、プレス用ダイ30が下死点に到達するまでストロークされる。これにより、図16に示すように、成形体2Aの外周部が、当該成形体2Aの厚み方向に向くように折り曲げられる。このようにしても、焼入処理の前にプレス機3において成形体2Aに成形加工を施すことができ、上記実施の形態の場合と同様の効果を奏することができる。
また、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bにおいて、コイル材2を上下方向に挟み込んでこれを保持する一方の部材は通電端子34を兼ねていてもよい。この場合、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bにおいて、当該一方の部材とコイル材2を挟んで反対側に位置する他方の部材は、当該一方の部材との間で通電不能にもうけられている。このようにすれば、プレス機3の構成を簡略化することができる。
次に、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法による作用効果について、比較例を参照しながら説明する。まず、比較例における軌道輪の製造方法について、図17〜図25を参照して説明する。図17を参照して、まず、圧延された薄板状の鋼材がコイル状に巻き取られたコイル材200が準備される。次に、図18および図19を参照して、コイル材200がダイ310上に設置され、ダイ300をダイ310側へストロークすることにより、コイル材200に打抜き加工が施される。これにより、リング状の成形体200Aが得られる。次に、図20および図21を参照して、成形体200Aがダイ330上に設置され、ダイ320をダイ330側へストロークすることにより、成形体200Aの内周部に成形加工が施される。
次に、図22を参照して、熱処理前の段取り工程において、複数の成形体200Aがバー410に掛けられた状態で並べられる。その後、図22および図23を参照して、これらの成形体200Aが浸炭炉400の中に入れられ、当該成形体200Aに対して浸炭処理が実施される。次に、図24を参照して、浸炭処理後の成形体200Aに衝風420を当てて冷却することにより、当該成形体200Aに焼入処理が施される。最後に、図25を参照して、焼戻炉430において焼入処理後の成形体200Aに対してプレステンパーが施される。以上のように、比較例の軌道輪の製造方法は多くの工程からなるため、軌道輪の製造コストが高くなる。
これに対して、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法では、コイル材2の加熱、打抜、成形加工および焼入処理のそれぞれの工程が、全てプレス機3において一つの工程として実施される。そのため、上記比較例における軌道輪の製造方法のように、上記工程が別々に実施される場合に比べて、製造工程をより短縮することができる。その結果、軌道輪の製造コストをより低減することが可能になり、より安価な軌道輪の提供が可能になる。
さらに、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法において、軌道輪を得る工程では、鋼材に対して鋼材の表面に沿った少なくとも一方向に張力を加えた状態で、加熱と打ち抜きとが行われる。そのため、当該軌道輪を得る工程において鋼材に対して張力を加えていない状態で上記加熱および上記打ち抜きを行う場合と比べて、得られる軌道輪の加工品質を向上させることができる。
本実施の形態に係る軌道輪の製造方法により製造された軌道輪11は、以下のように評価することにより高い加工品質を有していることを確認できた。
具体的には、鋼材SAE1070からなるコイル材2と図26に示すプレス機3とを用いて本実施の形態に係る軌道輪の製造方法を実施した。図26に示すプレス機3は、第1クランプ部33Aと一方の通電端子34とが1つのシリンダ37に接続されており、第2クランプ部33Bと他方の通電端子34とが別の1つのシリンダ37に接続されている構成とした。さらに、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bにおいて、コイル材2を上下方向に挟み込んでこれを保持する一方の部材と通電端子34とは、コイル材2に対して同時に接触可能な構成とした。つまり、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bにおいて当該一方の部材とコイル材2を挟んで反対側に位置する他方の部材上にコイル材2を配置し、当該一方の部材を降下させてコイル材2に接触させることにより、通電端子34をコイル材2に接触可能な構成とした。
図26に示すプレス機3を用いて、コイル材2に対して延在方向に10MPaの張力を印加した状態のまま、A1変態点以上の温度である1000℃までコイル材2を直接抵抗加熱し、その後ダイクエンチ加工を行った。
このようにして図27の写真に示すような軌道輪11が製造された。このようにして製造された複数の軌道輪11(鋼材:SAE1070)に対してビッカース硬さ測定を行った結果、平均の硬さは約790HVであった。また、この軌道輪11の一部を切断し、その断面をナイタル腐食し、当該断面を光学顕微鏡によりミクロ組織観察した場合、図28の写真のようなマルテンサイト組織が確認された。
さらに、軌道輪11に対してタリロンドを用いて平面度の測定を行った結果、平面度は約10μmであった。これに対し、本実施の形態における軌道輪を得る工程において、コイル材2に対して張力を加えていない状態で上記加熱および上記打ち抜きを行って得られた軌道輪は、平面度が約40μmであった。
このように、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法によれば、製造工程の短縮を図るとともに、十分な焼入処理を施すことにより高い硬度を有し、かつ高い加工品質を有する軌道輪11を製造することができることが確認された。
ここで、上述した実施の形態と一部重複する部分もあるが、本発明の特徴的な構成を列挙する。
(1)本実施の形態に係る軌道輪の製造方法は、鋼材(コイル材2)および鋼材(2)から軌道輪(11)を得るための成形台(プレス機3)を準備する工程と、鋼材(2)を成形台(3)に設置する工程と、成形台(3)において鋼材(2)をA1変態点以上の温度に加熱した後に鋼材(2)の一部をリング状に打ち抜き、その後、成形台(3)においてリング状の鋼材(2)を焼入処理することにより軌道輪(11)を得る工程とを備える。上記軌道(11)を得る工程では、鋼材(2)に対して鋼材(2)の表面に沿った少なくとも一方向に張力を加えた状態で、上記加熱と上記打ち抜きとを行う。
本実施の形態に係る軌道輪の製造方法では、鋼材(2)の加熱、打ち抜きおよび焼入処理のそれぞれの工程が、全て成形台(3)において一つの工程として実施される。そのため、従来の軌道輪の製造方法のように、上記工程が別々に実施される場合に比べて、製造工程をより短縮することができる。その結果、軌道輪の製造コストをより低減することが可能になり、より安価な軌道輪(11)の提供が可能になる。このように、本発明に従った軌道輪の製造方法によれば、軌道輪の製造工程をより短縮することができる。
さらに、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法において、軌道輪(11)を得る工程では、鋼材(2)に対して鋼材(2)の表面に沿った少なくとも一方向に張力を加えた状態で、加熱と打ち抜きとが行われる。そのため、当該軌道輪を得る工程において鋼材に対して張力を加えていない状態で上記加熱および上記打ち抜きを行う場合と比べて、得られる軌道輪(11)の加工品質を向上させることができる。
具体的には、鋼材に対して上記張力を印加せずに、鋼材を成形台においてA1変態点以上の温度に加熱する場合には、鋼材に加熱による変形が生じる。特に、スラストニードルころ軸受の軌道輪は、上述のように肉厚が薄いために加熱により変形が生じやすい。鋼材においてこのような変形が生じた場合、変形部分が成形台(プレス機3)の一部(たとえば成形用ダイ32)と接触する可能性が有る。このような接触が生じると、鋼材に与えられた熱は当該接触している部分から成形台に放熱されるため、鋼材(特に加工対象部分。たとえば2つのクランプ部にそれぞれ保持されている部分に挟まれている部分)に熱分布が生じてA1変態点以上の温度まで加熱されない領域が生じることがある。その結果、鋼材に対して上記張力を印加せずに成形台において鋼材をA1変態点以上の温度に加熱されて、さらに打ち抜きおよび焼入処理されて得られた軌道輪には、上記変形に起因した加熱不良により十分な加工品質が得られていないものが生じることがあった。
さらに、鋼材に対して上記張力を印加せずに、鋼材を成形台において打ち抜き加工をする場合には、鋼材に加熱による変形が生じた状態で打ち抜き加工を行うことになるため、打ち抜き加工の精度が低下するという問題があった。
これに対し、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法において、軌道輪(11)を得る工程では、鋼材(2)に対して鋼材(2)の表面に沿った少なくとも一方向に張力を加えた状態で加熱が行われるため、加熱による鋼材(2)の変形を軽減または抑制することができる。その結果、鋼材(2)と成形台(3)とが接触することを防止することができるため、鋼材(2)から成形台(3)への鋼材(2)の一部分を介した放熱が抑制されており、鋼材(2)の上記加工対象部分の全体をA1変態点以上の温度に加熱することができる。
さらに、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法において、軌道輪(11)を得る工程では、鋼材(2)に対して上記張力を加えた状態で鋼材(2)を成形台(3)において打ち抜き加工が行われるため、全体がA1変態点以上の温度に加熱されて変形が軽減または抑制された鋼材(2)に対して打ち抜き加工を行うことができる。その結果、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法により製造された軌道輪(11)は、打ち抜き加工の精度低下が抑制されており、高精度で加工されている。また、当該軌道輪(11)は、加工品質のバラつきが低減されている。
(2)上記軌道輪の製造方法において、上記張力は、0MPa超え500MPa以下である。
これにより、加熱による鋼材(2)の変形を十分に軽減または抑制することができる。その結果、このようにして得られた軌道輪(11)は、安価でかつ高い加工品質を有している。
(3)上記軌道輪の製造方法の上記軌道輪を得る工程において、鋼材(2)には、成形台(3)に鋼材(2)を供給可能に設けられている供給部(40)、供給部(40)から成形台(3)に供給される鋼材の歪みを矯正可能に設けられている矯正部(50)、および鋼材(2)の一部分を保持可能に設けられている第1クランプ部(33A)の少なくともいずれか1つと、当該1つと成形台(3)に対して反対側に位置し、鋼材(2)の他の一部分を保持可能に設けられている第2クランプ部(33B)とを用いて、張力が加えられる。
これにより、供給部(40)、矯正部(50)および第1クランプ部(33A)の少なくともいずれか1つと、第2クランプ部(33B)とが、それぞれ鋼材(2)を保持している状態で互いに離れるように相対的に移動することにより、成形台(3)において加熱および打ち抜きの各工程が実施される鋼材(2)に対して張力を加えることができる。このようにすれば、安価でかつ加工品質の高い軌道輪(11)を得ることができる。
(4)上記軌道輪の製造方法において、焼入処理の前に、成形台(3)においてリング状の鋼材(リング状の成形体2A)に成形加工が施されてもよい。成形加工では、リング状の鋼材(2A)の内周部または外周部が、リング状の鋼材(2A)の厚み方向に向くように折り曲げられてもよい。
これにより、鋼材(2)の加熱、打抜、成形加工および焼入処理のそれぞれの工程を、全て成形台(3)において一つの工程として実施することができる。その結果、軌道輪(11)の製造工程をさらに短縮することができる。また、リング形状の内周部または外周部が厚み方向に折り曲げられたスラスト軸受用軌道輪(11)を製造することができる。
(5)上記軌道輪の製造方法において、鋼材(2)は、0.4質量%以上の炭素を含んでいてもよい。鋼材(2)は、2mm以下の厚みを有していてもよい。また鋼材(2)は、厚み方向においてリング状に打ち抜かれてもよい。
これにより、焼入処理後において高い硬度を有する軌道輪(11)を製造することができる。また、このように比較的薄い鋼材(2)を用いることにより、当該鋼材(2)の打抜きが容易になり、かつ当該鋼材(2)に対して十分な焼入処理を実施することができる。
(6)上記軌道輪の製造方法において、鋼材(2)は、通電加熱、間接抵抗加熱、誘導加熱、接触伝熱および遠赤外線加熱からなる群より選択される少なくともいずれかの方法により加熱されてもよい。このように、上記軌道輪の製造方法においては、鋼材(2)の加熱方法として任意の加熱方法を採用することができる。なお、通電加熱では、鋼材(2)に直流電流または交流電流が供給されることにより生じた発熱により鋼材(2)が加熱されてもよい。このように、通電加熱においては、直流電流および交流電流のいずれも採用することができる。
(7)上記軌道輪の製造方法においては、700HV以上の硬度を有する軌道輪(11)が得られてもよい。このように、上記軌道輪の製造方法においては、製造工程を短縮するとともに、鋼材(11)に対して十分な焼入処理を実施することにより、当該焼入処理後において高い硬度を有する軌道輪(11)を製造することができる。
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲のすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の軌道輪の製造方法は、製造工程をより短縮することが要求される軌道輪の製造方法において、特に有利に適用され得る。また本発明の軌道輪は、製造コストの低減が要求される軌道輪において、特に有利に適用され得る。
1 スラストニードルころ軸受、2 コイル材、3 プレス機、11 軌道輪、11A 軌道輪転走面、12 ニードルころ、12A 転動面、13 保持器、30 プレス用ダイ、31,32 成形用ダイ、31A,32A 凸部、33A 第1クランプ部、33B 第2クランプ部、34 通電端子、35 プレス部、35A 凹部、35B 水冷回路、36 ベース部、40 供給部、50 矯正部、100 被加熱物、101 電源、102 発熱体、103 コイル、104 交流電源、105 内部加熱ロール、106 外部加熱ロール、B 交番磁束、I 電流(渦電流)。
Claims (7)
- 軌道輪の製造方法であって、
鋼材および前記鋼材から前記軌道輪を得るための成形台を準備する工程と、
前記鋼材を前記成形台に設置する工程と、
前記成形台において前記鋼材をA1変態点以上の温度に加熱した後に前記鋼材の一部をリング状に打ち抜き、その後、前記成形台においてリング状の前記鋼材を焼入処理することにより前記軌道輪を得る工程とを備え、
前記軌道輪を得る工程では、前記鋼材に対して前記鋼材の表面に沿った少なくとも一方向に張力を加えた状態で、前記加熱と前記打ち抜きとを行う、軌道輪の製造方法。 - 前記張力は、0MPa超え500MPa以下である、請求項1に記載の軌道輪の製造方法。
- 前記軌道輪を得る工程において、前記鋼材には、前記成形台に前記鋼材を供給可能に設けられている供給部(アンコイラ)、前記供給部から前記成形台に供給される前記鋼材の歪みを矯正可能に設けられている矯正部(レベラ)、および前記鋼材の一部分を保持可能に設けられている第1クランプ部の少なくともいずれか1つと、前記1つと前記成形台に対して反対側に位置し、前記鋼材の他の一部分を保持可能に設けられている第2クランプ部とを用いて、前記張力が加えられる、請求項1または請求項2に記載の軌道輪の製造方法。
- 前記焼入処理の前に、前記成形台においてリング状の前記鋼材に成形加工が施され、
前記成形加工では、リング状の前記鋼材の内周部または外周部が、リング状の前記鋼材の厚み方向に向くように折り曲げられる、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の軌道輪の製造方法。 - 前記鋼材は、0.4質量%以上の炭素を含み、2mm以下の厚みを有しており、かつ前記厚み方向においてリング状に打ち抜かれる、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の軌道輪の製造方法。
- 前記軌道輪を得る工程において、前記鋼材は、通電加熱、間接抵抗加熱、誘導加熱、接触伝熱、および遠赤外線加熱からなる群から選択される少なくともいずれか1つの方法により加熱される、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の軌道輪の製造方法。
- 700HV以上の硬度を有する前記軌道輪が得られる、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の軌道輪の製造方法。
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