JP2539751B2 - ベアリングの内輪と外輪を製造する方法 - Google Patents

ベアリングの内輪と外輪を製造する方法

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JP2539751B2 JP5226423A JP22642393A JP2539751B2 JP 2539751 B2 JP2539751 B2 JP 2539751B2 JP 5226423 A JP5226423 A JP 5226423A JP 22642393 A JP22642393 A JP 22642393A JP 2539751 B2 JP2539751 B2 JP 2539751B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ベアリングの外輪と内
輪を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】現在最も発達した小径ベアリング製造方
法の工程図を図1に示す。この図に示す製造方法は、下
記の工程で外輪と内輪とを製作する。
【0003】(1) ベアリングの原材料であるバー材
1を鍛造機2で鍛造して、中心に孔のある円盤状とす
る。その後、熱処理して焼きなましする。この処理をし
た原材料3が、加工工場に運搬される。 (2) 加工工場に運搬された円盤状の原材料3は、外
輪部分と内輪部分の側面となる幅を研磨する。この工程
で、原材料3の幅は、完成外輪5と内輪6の幅に等しく
加工される。 (3) 原材料3の外径面を研磨する。この工程で、原
材料3の外径は完成外輪5の外径に等しく加工される。 (4) 原材料3の内径面を旋削する。この工程で、原
材料3の内径は、完成内輪6の内径に等しく旋削され
る。ところで、本明細書において、「旋削」とは研磨を
含む広い意味に使用する。 (5) 外周の隅部と、内周の隅部とを旋削して丸面に
加工する。 (6) 外輪と内輪とを分離するために、原材料3の片
面に溝4を旋削する。溝4の幅は、溝4で分離される外
輪の内径と、内輪の外径とをほぼ完成品の寸法とするよ
うに決定される。 (7) 原材料3を反転して、反対面にも溝4を旋削す
る。 (8) 外輪を停止して内輪をプレスし、外輪と内輪と
を分離する。 (9) 外輪の内面に、外軌道7を旋削する。 (10) 外輪に、ベアリングのシールを嵌着するため
の外溝9を両側に旋削する。 (11) 分離された内輪の外周面に、内軌道8を旋削
する。 (12) 内輪の外周面を旋削して、内輪を完成品とす
る。
【0004】以上の工程で処理された外輪と内輪とは、
加工精度を±4/100mmのオーダーとするレースで
ある。この精度に加工された外輪と内輪であるレース
は、ベアリングの組立工場に運ばれて焼き入れ、研磨処
理されて、精度を1/1000mmのオーダーに仕上げ
てベアリングとして組み立てられる。本明細書におい
て、外輪と内輪の完成品は、ベアリング組立工場に運搬
される前の状態、すなわち、研磨して所定の精度に処理
する前の状態を意味するものとする。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】以上のようにして小径
ベアリングレースを製造する方法は、原材料を有効に使
用できない。さらに、製作工程において多量の切粉が発
生する欠点がある。それは、外輪と内輪を分離するため
に、円盤状の原材料に溝を旋削するからである。ベアリ
ングは、多くの機械装置に多用される基礎部品である。
このため、安価に多量生産することが極めて大切であ
る。従来から行われている前記の加工方法は、各処理工
程において、すでに極限まで検討され、製造コストは最
低まで低減されている。したがって、従来の方法で、さ
らに製造コストを低減することはほとんど不可能であ
る。
【0006】外輪と内輪を安価に多量生産するために
は、原材料コストを低減して、加工処理に要するコスト
を低減する必要がある。本発明者等は、まず、溝を旋削
して外輪と内輪とに分離する工程で、相当量の金属が切
削して除去されることに着目した。旋削工程は、原材料
の一部を削り取るので原材料の歩留を悪くする。さら
に、廃棄に経費のかかる切粉が多量に発生する。切粉が
発生する旋削工程を省略して、外輪と内輪とに分離でき
るなら、原材料の使用効率を改善して歩留を向上できる
と共に、廃棄に手間がかかる切粉の発生量を著しく低減
できる。このため、原材料コストを低減して、全体の加
工コストを安価にできる効果がある。
【0007】外輪と内輪を、スクラップができないよう
にして分離する方法が、特開昭52−119463号公
報に記載される。この公報に記載されるベアリングの製
造方法は、図11に示す工程で内輪と外輪を製作する。 (1) 原材料21を偏平形状に加工する。 (2) 偏平形状の素材を凹部を有する有底形状に形成
する。この形状に加工された素材は、底部が内輪とな
り、筒部が外輪となる。筒部の外径と内径は、外輪の外
径と内径に等しく加工される。さらに、素材全体の高さ
は外輪の高さと同一に加工される。 (3) 有底形状に加工された素材の筒部の内側部分の
軸方向に延長する切断線で、底部と筒部とに切断して、
外輪を形成して内輪を分離する。さらに、この工程で、
底部から中央を円形に打ち抜いて、内輪を製造する環状
素材22を形成する。環状素材22を形成するときに、
打ち抜かれた円形部分はスクラップとして廃棄される。 (4) 環状素材22は、内輪よりも大きな外径と、内
輪よりも小さい内径とな っている。さらに、環状素材
は、内輪よりも薄くなっている。薄い環状素材を、所定
の外径と内径と厚さの内輪23に加工する。
【0008】この公報に記載される製造方法は、原材料
からスクラップができないように外輪と内輪を分離でき
る特長がある。しかしながら、この製造方法は、外輪と
内輪を分離するときにできるスクラップを皆無にするた
めに、薄い板状に加工された環状素材から内輪を製作す
る必要がある。いいかえると、薄い環状素材から内輪を
加工する必要がある。内輪に加工される環状素材の外径
を、外輪の内径に等しくして、外輪と内輪を分離すると
きにできるスクラップを皆無にするからである。薄い環
状素材を内輪に加工するのは極めて困難である。とく
に、ベアリングには炭素成分の多い硬い金属材料が使用
されるので、薄い板状にブレスされた環状素材を、その
後の加工で厚くして外径を小さくして全体を厚くするの
は、実際には極めて困難である。さらに、ベアリングに
極めて高い信頼性が要求されることも、薄い環状素材を
厚く、外径を小さく加工することを著しく難しくしてい
る。それは、薄い環状素材を厚く加工するという難しい
工程では、鋼球の転動面となる内輪の外周面にクラック
等が発生する可能性を皆無にできないからである。ベア
リングの製造工程において、たとえ1万個に1個の不良
品が発生したとしても、そのベアリングを確実に除去す
る必要があり、その選別は極めて困難である。
【0009】内輪を薄い環状素材とするのではなくて、
完成された内輪と外輪にほぼ等しい形状にして分離する
方法も記載される。この製造方法は、図12に示すよう
に、原材料21を外輪と内輪の厚さに等しく加工した
後、中心を内輪の内径に等しい大きさで打抜し、さら
に、外輪と内輪を段差ができる形状に加工して、外輪と
内輪の間を円盤状に除去して外輪と内輪を分離する。こ
の方法で分離された外輪と内輪は、薄い金属素材を厚く
加工する必要がない。ただ、この方法は、外輪と内輪の
間にできる円盤状のスクラップができるのを皆無にでき
ない。このため、原材料を有効に使用できない。
【0010】すなわち、従来の方法は、外輪と内輪を分
離するときにスクラップができるか 、あるいは、スクラ
ップができないようにすると、内輪の加工が難しくなっ
て、高品質な内輪を安価に多量生産できなくなる欠点が
ある。
【0011】本発明者等は、原材料をポンチング機で打
抜加工して外輪と内輪とに分離し、分離した外輪と内輪
を圧延成形する方法を開発した。この方法は、原材料の
歩留を著しく改善できる。この方法は、従来の旋削に代
わって、打抜加工して分離された外輪と内輪を圧延成形
して完成品の寸法に仕上げるので、原材料の旋削量が極
めて少なく、切粉を著しく少なくできる特長がある。
【0012】さらに、この方法は、外輪と内輪を分離す
るときにスクラップが発生しないにもかかわらず、極め
て高品質なベアリングレースを能率よく多量生産できる
特長がある。それは、この製法が、図11に示す従来の
方法のように、薄い環状素材22を厚く加工して内輪2
3を製造する必要がないからである。原材料21から外
輪と内輪を分離して圧延成形する方法は、分離された外
輪と内輪の両方を圧延成形して外径を大きくするので、
内輪となる材料を薄い環状素材とする必要がない。図1
1に示すように、軸方向の厚さに比較して、半径方向の
幅が相当に広い環状素材を半径方向に押しつぶして、所
定の外径の内輪とする従来の製造方法は、薄い環状素材
を厚い内輪に加工するのが極めて難しく、高品質なベア
リングを多量生産することができない。ところが、外輪
の内径と、内輪の外径をほぼ等しく分離して、分離した
外輪と内輪を圧延成形する方法は、内輪を薄い環状素材
から加工する必要がない。このため、外輪と内輪とをス
クラップができないように分離できるにもかかわらず、
高品質なレースを安価に多量生産できるという、ベアリ
ングの製造方法にとって正に理想的な特長がある。
【0013】しかしながら、実際にこの方法で外輪と内
輪とに分離すると、打抜加工された外輪の外径(D1、
D2)が図2に示すように変形してしまう。それは、厚
さに比べて相当に薄い円筒状の外輪を、原材料から打抜
加工して分離するからである。部分的に外径の小さくな
った外輪は、最も小さい外径(D2)に合わせて同じ直
径に旋削する必要があり、旋削加工するときに多量の切
粉が発生して、原材料の歩留が低下する。
【0014】さらに、打抜加工して分離された外輪は、
外径(D1、D2)のみでなく、プレス方向にも変形し
て、幅(W1、W2)が縮小して薄くなる。さらに困っ
たことに、外輪の内側の幅(W1)と、外側の幅(W
2)が不均一となる。たとえば、厚さが12.07mm
である原材料から打抜加工した外輪は、内側の幅(W
2)が11.58mmと小さく、外側の幅(W1)が1
1.92mmとなる。すなわち、打抜加工された外輪
は、内側の厚さが0.45mm、外側の厚さが0.15
mm小さくなって、厚さに0.3mmの差ができる。こ
のように、厚さが不均一になった外輪は、側面を旋削し
て同じ厚さとする必要があり、この工程においても切粉
が発生して、歩留が低下する。
【0015】本発明者は、打抜加工した外輪の変形を防
止するために、種々の硬度の原材料を打抜加工した。そ
の結果、原材料の硬度を高くすることによって、打抜加
工によって発生する外輪の変形量を少なくできることが
わかった。硬い原材料を打抜加工した外輪は、外径や幅
の変形が少なく、その後の旋削量を少なくできる。した
がって、外輪を旋削加工して、完成寸法に仕上げる製造
方法は、硬い原材料を使用して、原材料の旋削量を少な
くできる。しかしながら、打抜加工して外輪と内輪とに
分離する方法は、その後旋削して、外輪と内輪の完成品
とすることができない。それは、打抜加工された外輪と
内輪は、外輪の内径と、内輪の外径とがほぼ同じになる
からである。完成品であるベアリングレースは、外輪と
内輪の間にボールを入れるので、外輪と内輪との間にボ
ールを入れる隙間を必要とする。したがって、打抜加工
して分離された外輪と内輪のように、両者の間に隙間の
ないものは、旋削加工して外輪と内輪の完成品にできな
い。
【0016】打抜加工された外輪と内輪は、圧延成形し
て完成品の寸法とする必要がある。ところが、硬い外輪
を圧延成形すると、図3に示すように多角形に変形し、
さらに、図4に示すように、内面に微細な亀裂12が発
生してしまう弊害がある。このように変形し、また、割
れが発生した外輪は、完成品として使用できない。それ
は、変形や割れは、その後に外輪の表面を旋削しても、
完成品の寸法に仕上げることができないからである。し
たがって、硬い原材料は、打抜加工の変形を少なくでき
るが、その後に圧延成形して完成品とする方法には使用
できない。
【0017】このため、ひとつの原材料を打抜加工して
外輪と内輪とに分離し、これを圧延成形してベアリング
の完成品とする方法は、原材料の硬度の選択が極めて難
しい。圧延加工の歪を阻止するために、硬い原材料が使
用できず、やむなく軟質の原材料を使用すると打抜加工
の変形が大きくなって、その後に相当に旋削して完成寸
法とする必要があり、切粉の発生が増大して歩留が悪化
する欠点がある。
【0018】本発明は、さらにこの欠点を解消すること
を目的に開発されたもので、打抜加工して分離した外輪
と内輪とを、圧延成形して完成品の寸法に仕上げること
ができ、しかも、打抜加工の変形を防止して、旋削量を
最少に極減できるベアリングの内輪と外輪を製造する方
法を提供するにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】本発明の製造方法は、前
述の目的を達成するために下記のようにして外輪と内輪
を製造する。本発明のベアリングの内輪と外輪を製造す
る方法は、製品となる外輪よりも小さい外径の円盤状に
形成されている金属製の原材料を、ポンチング機で打抜
加工し、ベアリングの完成品である完成内輪の外径より
も小さい外径の内輪を外輪から分離する工程と、分離さ
れた内輪と外輪を圧延成形し、外輪の外径および内径を
完成外輪の外径と内径に、内輪の外径および内径を完成
内輪の外径と内径と同一に成形する。
【0020】さらに、本発明のベアリングの内輪と外輪
の製造方法は、外輪と内輪に打抜加工して分離する原材
料の硬度を、HRBで88〜95の限られた範囲に設定
する。原材料の硬度が88よりも小さいと、打抜加工し
た外輪の変形量が多くなる。反対に、原材料の硬度が9
5よりも高いと、打抜加工するポンチの寿命が短くな
る。この硬度の原材料を打抜加工して外輪と内輪とに分
離し、分離された外輪と内輪を熱処理してHRBを94
以下に軟化させる。熱処理した外輪と内輪のHRBが9
4よりも大きいと、圧延成形するときに多角形に変形
し、あるいは、表面に微細な割れが発生する。熱処理し
た外輪と内輪のHRBは、好ましくは83〜93、さら
に好ましくは83〜90の範囲とする。
【0021】外輪と内輪の熱処理は、打抜加工によって
加工硬化した硬度を低下させる作用もある。打抜加工に
起因する加工硬化は、外輪と内輪とを600±25℃に
加熱し、その後徐冷してほぼ完全に除去できる。打抜加
工した外輪と内輪の熱処理は、加工硬化を除去すること
に加えて、材料を焼きなましするために、好ましくは7
23℃以上、さらに好ましくは750℃以上に加熱し
て、徐冷する。この温度に加熱して徐冷した外輪と内輪
は、HRBが94以下になる。熱処理の最高温度は、外
輪と内輪の球状化を阻害しないように900℃以下に設
定する。打抜加工に使用する原材料は、球状化熱処理を
して、炭化物を一様な球状として分布させたものを使用
する。球状化した原材料はやわらかいので、圧延成形す
るときの割れや変形を防止できる。打抜加工の後の熱処
理で、球状化が阻害されると、その後に再び球状化処理
する必要があるので、圧延成形の前工程にする熱処理
は、球状化を阻害しない温度に設定する。
【0022】
【作用】本発明のベアリングの内輪と外輪を製造する方
法は、原材料を打抜加工して外輪と内輪とに分離し、そ
の後、熱処理して軟化させた外輪と内輪を圧延成形して
完成寸法とする。打抜加工した後で熱処理して軟化させ
るので、打抜加工する原材料は、変形しないように硬く
でき、また、圧延成形する外輪と内輪は歪や割れが発生
しない程度にやわらかくできる。
【0023】たとえば、球状化処理済みでHRBが90
である原材料を打抜加工して外輪と内輪とに分離し、こ
れを780℃に5時間加熱して熱処理すると、外輪と内
輪のHRBは88となる。この硬度の外輪と内輪を圧延
成形すると、多角形に変形することがなく、また、表面
にできる割れも皆無となる。このように、本発明の製造
方法は、打抜加工による変形を防止して旋削量を極減で
き、しかも、理想的な状態で圧延成形して、高品質な完
成外輪と内輪にできる。ただ、本発明の製造方法は、打
抜加工した外輪と内輪を熱処理するので、熱処理した外
輪と内輪に脱炭層ができる。脱炭層は、完成品とするた
めに除去する必要がある。この層は炭素量が少なく、硬
く焼き入れできないからである。しかしながら、脱炭層
の膜厚は、例えば、外輪と内輪を780℃に5.2時間
加熱する熱処理をしても、わずかに0.08mmであ
る。この膜厚は、やわらかい原材料の打抜加工による変
形量に比較すると極めて小さい。したがって、熱処理し
た外輪と内輪は、表面の一部を除去する必要があって
も、その量は極めて小さく、この工程で多量の切粉が発
生することはない。
【0024】
【実施例】以下、本発明の実施例を図5に基づいて説明
する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想
を具体化するための方法を例示するものであって、本発
明のベアリングの内輪と外輪を製造する方法を下記の方
法に特定するものでない。
【0025】(1) バー材を所定の厚さに切断する工
程 図6に示すように、カッターを使用して、円柱状のバー
材1を所定の厚さに切断してベアリングの原材料3とす
る。バー材1には、組織を球状化処理したもので、硬さ
が、ロックウェル(Bスケール)で測定してHRB=9
0〜91であるSUJ2を使用する。このバー材1は、
鉄以外に下記の成分を含有する。
【0026】 C……0.95〜1.10重量% Si…0.15〜0.35重量% Mn…0.5重量%以下 P……0.025重量%以下 S……0.020重量%以下 Cr…1.30〜1.60重量% Mo…0.08重量%以下 Ni…0.25重量% Cu…0.25重量%以下
【0027】ただ、バー材1には、SUJ2に代わって
SUJ3〜5も使用できる。また、バー材1には、HR
Bが88〜95の範囲にある球状化処理したものが使用
できる。
【0028】バー材1を切断するカッター10は、回転
軸10Aに所定の間隔で丸鋸刃10Bを固定している。
カッター10の回転軸10Aをバー材1と平行に配設
し、回転しているカッター10をバー材1に接近させ
て、バー材1を切断する。バー材1の外径は、これを打
抜加工した後に圧延成形して、所定の寸法の外輪5と内
輪6とにできる大きさに設計される。たとえば、完成外
輪5の外径を40mmとするレースを製作するバー材1
は、外径を31mmとする。
【0029】(2) ポンチング機で原材料を打抜加工
して外輪と内輪を分離する工程 図7に示すように、ポンチング機を使用して、原材料3
を打抜加工して外輪5と内輪6とに分離する。ポンチン
グ機は、原材料3を嵌入する凹部13Aのある金型13
と、原材料3の中心を打抜加工するポンチ14を備え
る。さらに、ポンチング機は、原材料3を金型13の凹
部13Aに挿入するポンチガイド17を備える。ポンチ
ガイド17が原材料3を押圧する状態で、ポンチ14で
もって原材料3をポンチングする。金型の凹部13A
は、原材料3の外径よりも多少大きいがほぼ等しい内径
に設計され、打抜加工するときに、原材料3の外径が変
形するのを防止する。ポンチ14の外径は、打抜加工す
る内輪6の外径にほぼ等しい。このポンチング機は、ポ
ンチで原材料3を打抜加工して、原材料3を外輪5と内
輪6とに分離する。打抜加工される内輪6の外径は、た
とえば、完成内輪6の外径を25mmとするレースを製
作する場合、打抜加工される内輪6の外径を22mmと
する。
【0030】(3) 外輪から分離された内輪を熱処理
する工程 ポンチング機で打抜加工された内輪は、ポンチングして
中心孔を設けるために熱処理する。熱処理は、内輪を軟
化させる。打抜加工された内輪は、ポンチに強い力で打
ち抜かれるときに、加工硬化し、また残留応力も発生し
ている。熱処理は、内輪を軟化させると共に、加工硬化
と残留応力とを除く。熱処理は、内輪を800℃に10
分加熱して徐冷する。
【0031】内輪を加熱して熱処理する温度は、低すぎ
ると内輪を充分に軟化できず、高すぎると材料の球状化
を阻害する。このため、内輪の加熱温度は、600〜9
00℃の範囲に設定される。内輪の加熱時間は加熱温庶
によって相違する。加熱時間は、好ましくは、750℃
以上に加熱する時間を10分以上とする。加熱時間が短
すぎると、内輪を充分に軟化できない。長すぎても弊害
はないが、ランニングコストが高くなる。したがって、
内輪の加熱時間は、ランニングコストと内輪を軟化でき
る程度とを考慮して、最適値に設定される。
【0032】熱処理して軟化された内輪は、再びポンチ
ング機にセットして、中心孔を打抜加工するときの割れ
が防止され、また、中心に打ち込まれるポンチによって
外面が金型の凹部13Aの内面に押し出されて成形され
る。ドリルを使用して内輪に中心孔を設け、あるいは、
レーザー加工または放電加工して内輪に中心孔を設ける
場合、この熱処理は省略できる。
【0033】(4) 熱処理された内輪を打抜加工して
中心孔を穿孔する工程 熱処理して軟化された内輪6は、図8に示すように、ポ
ンチング機の金型18の凹部18Aに入れられ、円筒状
のポンチガイド20が内輪6の外周を押圧する状態で、
ポンチ19でもって内輪6をポンチングして中心孔11
を打抜加工する。金型18は、内輪6を嵌入できる凹部
18Aを有する。凹部18Aは内面を平滑面とする円柱
状である。凹部18Aの内径は、ここに打抜加工された
内輪6を嵌入できるように、凹部18Aに嵌入する部分
の内輪6外径よりも大きいがなるべく小さく設計され
る。たとえば、凹部18Aの内径は、内輪6の凹部18
Aに嵌入する部分の外径よりも0.1〜0.3mm大き
く設計される。
【0034】ポンチング機で打抜加工して外輪から分離
された内輪は、外径全体が同じ直径とはならない。内輪
は、図8に示すように中央部分の外径が小さくなって、
外周面に段差6Aができる。内輪6に中心孔11を穿設
するポンチング機は、必ずしも内輪6の全体を凹部18
Aに嵌入する必要はないが、図8に示す金型18は、内
輪6のほぼ全体を凹部18Aに嵌入している。
【0035】凹部18Aと内輪6との隙間を狭くして、
ポンチで打抜加工すると、内輪6の外周面が凹部18A
の内面に強く押し出されて、理想的な形状に成形され
る。ポンチが内輪6を打ち抜くときに、内輪6を外側に
押し広げようとする力が作用するからである。外周面が
凹部18Aに強く押し付けられる内輪6は、金型に凹部
18Aによって段差が少なくなるように成形される。
【0036】ちなみに、本発明者等が実際に行った実験
では、下記の条件で内輪を打抜加工したところ、段差の
あるA点では外径が28/1000mm太く成形され、
B点では5/1000mm太く成形された。 内輪の最大外径(Dmax)……21.2mm 内輪の厚さ(Lmax)…………12.0mm 金型凹部の内径(Dn)…………21.4mm 金型凹部の深さ(Ln)…………13.0mm ポンチの外径(Dp)………………9.0mm ポンチの打抜圧力……………………60トン
【0037】(5) 外輪と内輪の両方を熱処理する工
程 打抜加工に適した硬度の原材料は、打抜加工して外輪と
内輪に分離して冷間ローリングして圧延成形すると、表
面に微細な割れが発生する。また、圧延成形するときに
歪んで完全に円形とならない。それは、打抜加工された
外輪と内輪が硬すぎることが理由である。打抜加工され
た外輪と内輪は、軟化させるとともに、打抜加工に起因
する加工硬化と残留応力を除くために熱処理する。外輪
と内輪は、強い力で打ち抜かれるときに加工硬化する。
加工硬化は、打抜加工して分離された外輪と内輪を、原
材料の硬度よりもさらに硬くする。
【0038】打抜加工された外輪と内輪をやわらかくす
るために、熱処理する。熱処理は、外輪と内輪を780
℃に4時間加熱し、3時間かけて780℃から700℃
まで徐冷する。この熱処理をすると、熱処理前のHRB
が110〜120であった外輪と内輪は、HRBが90
に低下する。打抜加工して熱処理する前のHRBが11
0〜120となる外輪と内輪は、HRBが90〜91の
SUJ2製の原材料を打抜加工したものである。すなわ
ち、HRBが90〜91の原材料は、打抜加工するとH
RBが110〜120となり、これを熱処理すると90
に低下する。ただし、熱処理した外輪と内輪のHRB
は、測定部位によって多少のバラツキがある。
【0039】この工程における熱処理は、外輪と内輪の
HRBを94以下に軟化させる必要がある。ベアリング
レースに使用されるバー材は、600±25℃に加熱し
て、その後に徐冷する熱処理によって、加工硬化と残留
応力をほぼ完全に除去できる。この工程の熱処理は、打
抜加工の残留応力と加工硬化を除くことのみを目的する
ものではない。熱処理は、残留応力を除くことに加え
て、外輪と内輪の硬度を低下させて、圧延成形する時に
発生する割れと変形を防止する。このことを考慮する
と、打抜加工後の熱処理は、外輪と内輪の加熱温度を7
00℃以上、さらに好ましくは723℃以上に設定す
る。723℃以上に加熱すると、外輪と内輪の硬度を低
下できる。
【0040】加熱温度を高くすると、外輪と内輪のHR
Bは低下する。また、加熱時間を長くしても、HRBは
低下する。ただ、加熱温度が高すぎると、球状化処理し
た外輪と内輪の球状化が低下する。外輪の内輪の球状化
を害しない加熱温度は900℃以下である。したがっ
て、この熱処理工程において、外輪と内輪は700〜9
00℃、好ましくは723〜850℃に加熱される。加
熱時間は温度が高いと短く、低いと長くする必要があ
る。たとえば加熱温度を780℃とする場合、加熱時間
を2時間以上とする。
【0041】(6) 熱処理した外輪と内輪を旋削する
工程 熱処理した外輪と内輪とは、加熱されて表面に脱炭層が
できる。脱炭層の膜厚は5/100〜8/100mmで
ある。この脱炭層を除去するために、外輪と内輪の表面
を除去する。外輪と内輪とは、内径を旋削し、外径と幅
を旋削まはた研磨する。脱炭層を完全に除去するため
に、外輪と内輪とは、表面を10/100mm以上除去
する。
【0042】(7) 外輪と内輪を圧延成形する工程 表面を旋削した外輪5と内輪6を、冷間転造成形盤を使
用して、冷間ローリングによる圧延成形する。冷間ロー
リングされる内輪6は、50〜100℃に加温すること
もできる。圧延成形された外輪と内輪は、完成外輪と内
輪の寸法に仕上げられる。
【0043】冷間転造成形盤は、図9に示すように、内
輪と外輪の中心に挿入されるマンドレル15と成形ロー
ル16とを有する。マンドレル15は、外輪または内輪
の内径に挿入され、成形ロール16が外周を押圧、転造
して外輪と内輪とを冷間圧延する。たとえば、内径を1
0.5mmとする内輪を圧延成形するマンドレル15
は、内輪の内径を転造する部分の最大外径を10.3m
mとし、最少外径を約8mmとする。外輪と内輪とは、
圧延成形して、図10のA〜H面を仕上げる。すなわ
ち、外輪のA、B、C、D面と、内輪のE、F、G、H
面とを仕上げる。外輪をこの形状に圧延成形して仕上げ
るマンドレル15は、外輪に外軌道を成形する凸条を有
する。内輪をこの形状に圧延成形する成形ロール16
は、内軌道を成形する凸条を有する。このように、内輪
を圧延成形して内軌道を成形し、外輪を圧延成形すると
きに外軌道を成形すると、軌道として除去される部分の
材料を有効に使用できる特長がある。ただ、圧延成形し
た後、旋削して内軌道と外軌道とを加工することもでき
るのは言うまでもない。
【0044】(8) 旋削して外輪と内輪を所定の寸法
に仕上げる工程 圧延成形された外輪は、幅を旋削して所定の寸法に仕上
げるとともに、ベアリングのシールを嵌着するための溝
を旋削して形成する。内輪は、幅を旋削して所定の寸法
に仕上げる。
【0045】
【発明の効果】本発明の製造方法は、極めて能率よく、
しかも安価にベアリングレースを多量生産できる特長が
ある。それは、本発明の製造方法が、原材料を打抜加工
して外輪と内輪とに分離し、さらに、分離された外輪と
内輪を、割れや変形させることなく圧延成形して完成寸
法に仕上げることができるからである。打抜加工で外輪
と内輪に分離する方法は、溝を旋削して外輪と内輪を分
離する従来の方法とは比較にならないほど能率よく加工
できる。とくに、本発明の製造方法は、原材料を打抜加
工に適した硬度に設定するので、打抜加工された外輪
の、内径や外径を歪の少ない理想の形状とすることがで
き、打抜加工後に、外輪や内輪を旋削して所定の寸法と
形状にする旋削量を著しく少なくできる。さらに、打抜
加工の後で熱処理して外輪と内輪とをやわらかくして圧
延成形するので、圧延成形するときに表面に発生する微
細な割れを極減し、さらに、全体の形状も理想的な円形
に仕上げることができる。
【0046】ただ、本発明の製造方法は、打抜加工後に
熱処理して圧延成形するので、熱処理するときに表面に
脱炭層が発生するので、完成品とするためには脱炭層を
除去する必要がある。しかしながら、脱炭層の膜厚は、
やわらかい原材料を打抜加工したときに発生する歪、あ
るいは、硬すぎる外輪を圧延成形したときに発生する歪
とは比較にならない程小さく、この層を除去するとして
も、多量の切粉が発生することはない。したがって、本
発明のベアリングレースの製造方法は、従来の溝を旋削
して外輪と内輪を分離する方法により生じる多量の切粉
は発生しない。さらに、打抜加工と圧延成形加工に起因
する歪を修正するために、外輪と内輪を旋削する量も最
少にできる。このため、本発明の製造方法は、全体的な
旋削量を著しく少なくして、切粉の発生量を極減し、ま
た、旋削工程を簡素化して旋削コストを低減し、原材料
の歩留を高くして製造コストを著しく低減できるという
正に理想的な特長を実現する。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来のベアリングの製造過程を示す工程図
【図2】やわらかい原材料から打抜加工して分離された
外輪の側面図
【図3】硬い原材料から打抜加工して分離された外輪を
圧延成形した正面図
【図4】硬い原材料から打抜加工して分離された外輪を
圧延成形した斜視図
【図5】本発明の一実施例にかかるベアリングの製造過
程を示す工程図
【図6】バー材を円盤状に切断する状態を示す正面図
【図7】原材料を打抜加工して外輪と内輪とに分離する
状態を示す断面図
【図8】打抜加工された内輪に中心孔をポンチングする
状態を示す断面図
【図9】打抜加工された外輪と内輪とを圧延成形する状
態を示す断面図
【図10】圧延成形された外輪と内輪の断面を示す断面
【図11】 スクラップができないように、外輪と内輪を
分離する従来の製造方法を示す断面図
【図12】 外輪と内輪を分離してレースを製造する従来
の製法を示す断面図
【符号の説明】
1…バー材 2…鍛造機 3…原材料 4…溝 5…外輪 6…内輪 6A…段差 7…外軌道 8…内軌道 9…外溝 10…カッター 10A…回転軸 10
B…丸鋸刃 11…中心孔 12…亀裂 13…金型 13A…凹部 14…ポンチ 15…マンドレル 16…成形ロール 17…ポンチガイド 18…金型 18A…凹部 19…ポンチ 20…ポンチガイド21…原材料 22…環状素材 23…内輪

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 製品となる外輪よりも小さい外径の円盤
    状に形成されている金属製の原材料を、ポンチング機で
    打抜加工し、ベアリングの完成品である完成内輪の外径
    よりも小さい外径の内輪を外輪から分離する工程と、 分離された内輪と外輪の表面を旋削する工程と、 旋削された内輪と外輪を圧延成形し、外輪の外径および
    内径を完成外輪の外径と内径に、内輪の外径および内径
    を完成内輪の外径と内径と同一に成形するベアリングの
    内輪と外輪の製造方法であって、 外輪と内輪に打抜加工して分離する原材料の硬度を、ロ
    ックウェルのBスケールで測定した硬度であるHRBに
    おいて88〜95の範囲とし、この硬度の原材料を打抜
    加工して外輪と内輪とに分離し、分離された外輪と内輪
    を熱処理してHRBを94以下に軟化させ、軟化させた
    内輪と外輪を圧延成形することを特徴とするベアリング
    の内輪と外輪を製造する方法
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