JP5446410B2 - 環状ワークの熱処理方法 - Google Patents
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Description
ところが、前記ワークを焼入れすると、加熱時の応力開放、オーステナイト化、熱膨張、冷却時の熱収縮とマルテンサイト変態による変態膨脹とその焼入れの過程で寸法変化を起こす。この寸法変化のタイミングがワーク内でばらつくことにより、歪が発生し、ワークの真円度の低下、ソリの発生、寸法バラツキなどを引き起こすことがある。
そのため、ワークの研磨による取り代が多くなり、研磨工程におけるサイクルタイムが長くなるとともに、研磨不良やシール溝の不良が生じやすくなる。
したがって、熱処理したワークの内外径の寸法精度の向上や熱処理歪の低減が望まれている。
また、特に、中炭素鋼のようなマルテンサイト変態時に十分な膨脹量が得られないものをターゲットとした方法として、焼入れ開始温度600℃以上の温度の間に、内径拘束と幅拘束とを同時に実施し、これに連続して、変態により膨脹する直前に外径拘束を実施する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
また、冷却時の歪を低減するために実施している内径拘束と幅拘束とを同時に実施する方法では、熱収縮時に幅方向に加圧されることにより、熱収縮が抑制されてしまい、拘束力が十分に得られず、内径拘束時に歪低減が十分にできないことがある。加えて、その後の変態後の寸法にも影響するため、外径拘束時の拘束力にバラツキが生じ、外径拘束時に一定の拘束力が得られない場合がある。
さらに、内径拘束と外径拘束とを連続的に実施する場合、焼入れ工程では、その品質を得るために急冷する。そのため、内径拘束から外径拘束に移行するタイミングがとりにくくなる。また、内径および外径の拘束金型の温度管理が難しく、熱処理後の寸法のバラツキが大きくなるという課題がある。
こうしたことから、特にワーク径が大きな薄肉品に対しては、内外径の寸法精度の向上や熱処理歪の低減を、あるレベルまでしか達成することができず、ワークの研磨による取り代が必要になるために研磨コストがかかる。
また、内径拘束と外径拘束とを連続的に実施する場合には、冷却による熱収縮と変態膨脹とを1つの工程で実施するため、サイクルタイムが長くなり、熱処理のインライン化が難しくなる。
(1) ワークを加熱する環状の加熱コイルの内周側に、環状ワークをセットし、当該ワークを焼入温度で誘導加熱する工程、
(2) 前記誘導加熱後のワークの内径面側に、ワークの内径面を拘束する内金型をセットした状態で当該ワークを冷却する工程、
(3) 前記ワークの温度が500℃以下となり、内径面が冷却により収縮して前記内金型の外径面と接触することで拘束された後、ワークを幅方向に拘束する第1の幅拘束治具で当該ワークの幅方向両端面をさらに拘束しながら、当該ワークを冷却する工程、
(4) 前記工程(3)後のワークの温度がマルテンサイト変態開始温度以下になったとき、前記内金型から前記ワークを取り外す工程、および
(5) ワークの外径面を拘束する外金型で前記工程(4)後のワークの外径面を拘束するとともに、ワークを幅方向に拘束する第2の幅拘束治具で当該ワークの幅を拘束する工程
を含んでいることを特徴としている。
また、冷却時にワークが収縮する際に、その初期段階では、ワークに自由な熱収縮をさせるために幅拘束をせずに冷却し、内金型接触後に幅拘束を実施することで、ワークの内径面を拘束するとともに、幅方向両端面を拘束することにより、ワークの熱収縮に対する応力を最大限利用して、内径および幅における寸法を所定の寸法とし、歪を低減することができる。さらに、前記工程(3)の冷却工程によって、前記工程(1)の誘導加熱工程および前記工程(2)の冷却工程で発生した歪を低減させた後のワークにおいて、マルテンサイト変態による体積の膨張が生じる際に、ワークの外径面を拘束するとともに、幅方向両端面を拘束することにより、ワークのマルテンサイト変態による体積の膨張による応力を利用して、外径および幅における寸法を所定の寸法とし、歪を低減することができる。
したがって、本発明の熱処理方法によれば、前記工程を順に行なうことで、熱処理したワークの内外径の寸法精度の向上や熱処理歪の低減を図ることができ、ワークの研磨による取り代を少なくし、研磨工程におけるサイクルタイムを低減させることができる。また、加熱膨脹時、冷却収縮時および変態膨脹時の各寸法変化のポイントを別工程とすることで、サイクルタイムを低減させることができるため、熱処理のインライン化が可能となり、低コストで環状部材を製造することができる。
焼入温度に加熱されたワークをマルテンサイト変態開始温度まで冷却する冷却媒体を貯留した冷却槽を下部に備えた焼入室と、
焼入室内でワークを保持するワーク保持部と、
ワークの内径面を拘束する内金型と、
ワーク保持部との間でワークを幅方向に拘束する幅拘束治具と、
ワーク保持部に保持されたワークの内径面側に、内金型を係合させるとともに、ワークの温度がマルテンサイト変態開始温度以下になったとき、内金型をワークから取り外す第1の移動装置と、
ワークを保持したワーク保持部を、焼入室の外部と内部との間で搬送する第2の移動装置と、
内金型で内径面が拘束されたワークの幅方向一方側より幅拘束治具でワークを押圧する第3の移動装置と
を備えていることを特徴としている。
したがって、かかる拘束焼入れ装置によれば、上述した作用効果を奏する熱処理方法を行なうことができる。
以下、添付図面に基づき、本発明の一実施形態に係る環状ワークの熱処理方法に用いられる拘束焼入れ装置を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る環状ワークの熱処理方法に用いられる拘束焼入れ装置の構成を示す要部断面図である。
焼入室21内の下部には、ワークWを冷却するための焼入れ油などの冷却媒体を貯留した冷却槽21aが設けられている。
ワーク保持部22、内金型24および幅拘束治具26は、それぞれ、焼入室21の外部と内部とを移動自在とされている。
つぎに、前述した拘束焼入れ装置20を用い、転がり軸受の軌道輪を製造する場合を例として、本発明の一実施形態に係る環状ワークの熱処理方法を説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る環状ワークの熱処理方法を示す工程図である。
これにより、ワークWを均一に加熱することができるため、ワークWにおける均一な応力開放およびオーステナイト化を行なうことができる。また、誘導加熱によりワークW自体が迅速に加熱するため、熱処理のインライン化が可能なレベルとなるまで加熱に要する時間を短縮することができる。
この誘導加熱工程では、ワークWの体積が膨張する(図3の「加熱膨張」を参照)。
この冷却工程は、前冷却工程、内径拘束・幅拘束工程およびワーク取り出し工程からなる。
この冷却工程では、ワークWの温度の下降に伴い、ワークWの体積が収縮する(図3の「冷却収縮」を参照)。
なお、冷却工程における「急冷」とは、焼入れ温度からマルテンサイト変態開始点以下までの冷却速度の平均として、通常、20〜100℃/sの冷却速度での冷却をいう。
これにより、ワークの熱収縮による応力を最大限利用して、内径および幅における寸法を所定の寸法とするとともに、歪を低減することができる。
この変態応力を利用して、外金型42の内側にワークWの外径面41側をセットし、外径面41を外金型42で拘束するとともに、ワークWの幅方向両端面25a,25b側に第2の幅拘束治具43a,43bをセットし、ワークWの温度が常温の状態になるまで、端面25a,25bを第2の幅拘束治具43a,43bで拘束する。
これにより、ワークのマルテンサイト変態による体積の膨張による応力を利用して、外径および幅における寸法を所定の寸法とするとともに、歪を低減することができる。
この焼戻し工程では、ワークWを160〜400℃の焼戻し温度で加熱保持する。
以下の実施例などでは、前記熱処理方法における各工程の作用効果を検証する。
SUJ2からなる鋼材から、環状素材を製造し、得られた環状素材に切削加工を施して、所定形状に加工して、薄肉深溝玉軸受の外輪用の環状ワーク(外径:125mm、肉厚:3mm)を得た。得られたワークを、高周波加熱装置にセットし、10秒で900℃の焼入温度まで誘導加熱した。
SUJ2からなる鋼材から、環状素材を製造し、得られた環状素材に切削加工を施して、所定形状に加工して、薄肉深溝玉軸受の外輪用の環状ワーク(外径:125mm、肉厚:3mm)を得た。得られたワークを旋削品とした。
前記旋削品を、バッチ炉中、820℃の焼入温度で2時間加熱し、その後、140℃の冷却油中で冷却した。得られたワークを比較例1のワークとした。
前記旋削品を、高周波加熱装置にセットし、10秒で900℃の焼入温度まで誘導加熱した。誘導加熱後のワークを、140℃の冷却油中で冷却した。得られたワークを比較例2のワークとした。
前記旋削品を、連続炉中、820℃の焼入温度で1時間加熱した。つぎに、加熱後のワークを、140℃の冷却油中でマルテンサイト変態開始点以下まで冷却し、冷却後のワークの外径面を、外金型42で拘束するとともに、ワークの幅方向両端面を第2の幅拘束治具43a,43bで幅方向にも拘束した状態で、ワークの温度が常温になるまでワークを拘束した(図2の外径拘束・幅拘束工程、図5の従来技術を参照)。得られたワークを比較例3のワークとした。
旋削品を、高周波加熱装置にセットし、10秒で900℃の焼入温度まで誘導加熱した。誘導加熱後のワークを、拘束せずに140℃の冷却油を貯留した冷却槽21aの内部に移動させ、ワークの温度がマルテンサイト変態開始点以下になるまで冷却した。
実施例1および比較例1〜4それぞれのワークの真円度を真円度測定器(東京精密(株)製、商品名:romcom40A)で測定した。また、実施例1および比較例1〜4それぞれのワークを、定盤とダイヤルゲージからなる測定器で片側から一定荷重で加圧した場合と、加圧しなかった場合との差を円周方向全周で測定することにより、実施例1および比較例1〜4それぞれのワークのソリを調べた。実施例1のワークおよび各比較例のワークにおける真円度およびソリを示すグラフを図4に示す。
これに対して、誘導加熱後、冷却の初期段階ではワークに自由な熱収縮をさせるために幅拘束を行なわずに冷却し、内金型接触による拘束がはじまる500℃以下となった後の温度で幅拘束を実施し、外径拘束と幅拘束とを行なった実施例1のワークでは、真円度が70μm以下、ソリが40μm以下となっており、十分に小さいといえる。また、実施例1のワークでは、真円度およびソリが低減されたことから、寸法精度も向上していることがわかる。
Claims (1)
- 下記工程(1)〜(5)を含む、環状ワークの熱処理方法:
(1) ワークを加熱する環状の加熱コイルの内周側に、環状ワークをセットし、当該ワークを焼入温度で誘導加熱する工程、
(2) 前記誘導加熱後のワークの内径面側に、ワークの内径面を拘束する内金型をセットした状態で当該ワークを冷却する工程、
(3) 前記ワークの温度が500℃以下となり、内径面が冷却により収縮して前記内金型の外径面と接触することで拘束された後、ワークを幅方向に拘束する第1の幅拘束治具で当該ワークの幅方向両端面をさらに拘束しながら、当該ワークを冷却する工程、
(4) 前記工程(3)後のワークの温度がマルテンサイト変態開始温度以下になったとき、前記内金型から前記ワークを取り外す工程、および
(5) ワークの外径面を拘束する外金型で前記工程(4)後のワークの外径面を拘束するとともに、ワークを幅方向に拘束する第2の幅拘束治具で当該ワークの幅方向両端面を拘束する工程。
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