JP2006328465A - 転がり軸受用軌道輪の製造方法、転がり軸受用軌道輪、転がり軸受 - Google Patents

転がり軸受用軌道輪の製造方法、転がり軸受用軌道輪、転がり軸受 Download PDF

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Abstract

【課題】 軌道面に硬質化合物層が形成された軌道輪を、低コストで且つ精度よく製造する。
【解決手段】 鋼からなる素材を外輪1の形状に加工する工程と、軌道面1aに窒化処理を施すことにより、軌道面1aに窒化物層を形成する工程と、窒化物層が形成された外輪1に誘導加熱処理を施すことにより、外輪1をオーステナイト化温度まで加熱する工程と、オーステナイト化温度まで加熱された外輪1を、鋼のMs変態点直上の温度まで急冷する工程と、オーステナイト状態の外輪1を外輪成形用型5に嵌め込むことにより、外輪1に塑性加工を施す工程と、塑性加工が施された外輪1を、鋼のMs変態点以下の温度まで冷却する工程と、を備える。
【選択図】 図1

Description

本発明は、転がり軸受用軌道輪(内輪及び外輪)の製造方法、転がり軸受用軌道輪、及び転がり軸受に関する。
転がり軸受用軌道輪は、通常、鋼管に塑性加工が施されて得られたリング状素材を所定形状に加工した後、焼入れ及び焼戻し等の熱処理を施し、その後軌道面に研削・仕上げ加工を施すことで製造されている(特許文献1及び特許文献2参照)。
このようにして得られた軌道輪に、耐摩耗性を付与するための手段として、研削・仕上げ加工が施された後の軌道輪に窒化処理を行い、軌道面に窒化物層等の硬質化合物層を形成することが提案されている。
また、軌道輪に耐摩耗性を付与するための他の手段として、耐熱軸受鋼(例えば、AISI規格のM50)からなる素材を所定形状に加工した後、所定の熱処理(焼入れ及び焼戻し処理、サブゼロ処理、2次焼戻し処理)と研削・仕上げ加工を施して所定の部材を作製した後に、その部材の全面又は一部の面に硬質化合物層形成処理を施して硬質化合物層を形成することも提案されている。
特開平9−242763号公報 特開平9−176740号公報
ところで、素材の低コスト化を実現するために、上述した耐熱軸受鋼製の軌道輪よりも素材コストの低い高炭素クロム軸受鋼(例えば、JIS規格のSUJ2やSUJ3)製の軌道輪に、硬質化合物層を形成することが要求されている。
この高炭素クロム軸受鋼製の軌道輪は、高炭素クロム軸受鋼からなるリング状素材を所定形状に加工した後、通常の焼入れ(例えば、加熱温度750℃以上、加熱時間15分以上)と、150〜300℃程度の低温での焼戻しとからなる熱処理と、研削・仕上げ加工とが施されて形成されている。
しかしながら、このようにして得られた高炭素クロム軸受鋼製の軌道輪に、処理温度が300℃以上のPVD処理や、処理温度が500℃以上のCVD処理や塩浴処理を施すと、表面に硬質化合物層は得られるが、軌道輪全体の硬さが大幅に低下し、且つ、寸法変化が生じて寸法精度が劣化するという問題がある。
この問題を解決するために、高炭素クロム軸受鋼製のリング状素材を所定形状に加工した後に、PVD処理、CVD処理、及び塩浴処理等の硬質化合物層形成処理を施して表面に硬質化合物層を形成し、その後、通常の焼入れ及び焼戻し等の熱処理を施す方法が考えられる。この方法では、素材の低コスト化を実現できるとともに、軌道輪全体の硬さの低下を抑制できるが、通常の焼入れでは熱処理変形が出るので寸法精度は劣化する。また、特に、窒化処理によって硬質化合物層を形成した場合には、窒化処理後の焼入れ処理により硬質化合物層が分解されて、軌道面に硬質化合物層が形成され難くなることが想定される。
また、上述したように、所定の熱処理と研削・仕上げ加工を施して所定の部材を作製する従来の技術では、熱処理後に取り代の多い研削・仕上げ加工を行う必要があることから、硬質化合物層が除去されてしまうという問題がある。
すなわち、上述した従来の技術には、軌道面に硬質化合物層が形成された軌道輪を、低コストで且つ精度よく製造するという点でさらなる改善の余地がある。
そこで、本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、軌道面に硬質化合物層が形成された軌道輪を低コストで且つ精度よく製造できるようにすることを課題としている。
このような課題を解決するために、本発明は、軌道面に硬質化合物層が形成された転がり軸受用軌道輪を製造する方法において、鋼からなる素材を、軌道輪の形状に加工する工程と、前記軌道輪のうち少なくとも軌道面に硬質化合物層形成処理を施して、前記軌道面に硬質化合物層を形成する工程と、前記硬質化合物層が形成された前記軌道輪に対して、前記硬質化合物層の分解が生じない条件で加熱処理を施して、前記軌道輪をオーステナイト化温度まで加熱する工程と、オーステナイト化温度まで加熱された前記軌道輪を、前記鋼のMs変態点直上の温度まで急冷する工程と、オーステナイト状態の前記軌道輪を軌道輪成形用型に嵌め込むことにより、前記軌道輪に塑性加工を施す工程と、塑性加工が施された後の前記軌道輪を、前記軌道輪を前記鋼のMs変態点以下の温度まで冷却する工程と、を備えたことを特徴とする転がり軸受用軌道輪を提供する。
以下、本発明に係る転がり軸受用軌道輪の製造方法を用いて、硬質化合物層として窒化物層を形成する場合について詳細に説明する。
まず、軌道輪を、完成品と略同一精度の寸法・形状に成形した後、少なくとも軌道面に塩浴窒化処理を行って、軌道面に窒化物層(硬質化合物層)を形成する。
なお、この段階での軌道輪の寸法・形状は、後工程の熱処理や軌道輪用型内での塑性加工に起因する寸法変化率を考慮して決定する。例えば、外輪を製造する場合、軌道輪成形用型に嵌め込む直前の外輪の外径寸法が、軌道輪成形用型の内径寸法よりも、0.1%以上0.5%以下の範囲で大きくなるように、窒化処理前の軌道輪の寸法形状を決定する。
ここで、上記外輪の外径寸法が、上記軌道輪成形用型の内径寸法よりも0.1%以上大きくなっていないと、塑性加工が不十分となり、外輪の寸法・形状を完成品と略同一精度の寸法・形状に成形できなくなる。一方、上記外輪の外径寸法が、上記軌道輪成形用型の内径寸法よりも0.5%を超えて大きくなっていると、外輪と軌道輪成形用型との接触面でかじりが生じ易くなる。
次に、軌道輪を、誘導加熱処理によりオーステナイト化温度まで加熱する。この工程では、前工程で形成した窒化物層の分解が生じないように、軌道輪全体を短時間(例えば30秒以下)でオーステナイト化温度(例えば800〜900℃)まで加熱する誘導加熱処理を行う。
次に、軌道輪をなす鋼のMs変態点直上の温度(例えば、Ms変態点よりも10〜40℃高い温度で、具体的には200〜300℃)まで急冷する。
この急冷の方法としては、例えば、軌道輪をなす鋼のMs変態点直上の温度に保持された冷却剤(例えば溶融ソルト)中に、軌道輪全体の温度が冷却剤と略同一温度となるまで所定時間(例えば20秒)浸漬した後、冷却剤から引き上げる方法が挙げられる。
この工程では、後述する塑性加工後における軌道輪の冷却を、比較的低い温度(例えば、200〜300℃)から行えるように、オーステナイト化温度まで加熱された軌道輪を、Ms変態点直上の温度まで急冷する。これにより、比較的高い温度(例えば750℃)から冷却を行う通常の焼入れを施す場合と比べて、軌道輪の表層部及び芯部の温度差や円周上の温度ムラが小さくなるため、冷却後の軌道輪の変形を小さくできる。
次に、軌道輪を、軌道輪の温度と同一の温度に保持した軌道輪用型に嵌め込むことにより、軌道輪に塑性加工を施す。この塑性加工は、少なくとも軌道輪の円周方向寸法(外径や内径)に対して行う。これにより、熱処理時に変形が生じた軌道輪が、完成品と略同一精度の寸法・形状に再成形される。
ここで、軌道輪の軸方向寸法(幅)は、熱処理時に生じる楕円変形やねじり変形の影響を受け難いため、軸方向寸法を精度よく仕上げる必要がない場合には、軌道輪の軸方向寸法に対して塑性加工を行わなくてもよい。また、軌道輪用型の寸法形状は、軌道輪を塑性加工した後の冷却時における温度收縮や、軌道輪のマルテンサイト変態による膨張を考慮して決定する。
次に、軌道輪をMs変態点以下の温度まで冷却する。この冷却方法としては、例えば空冷が挙げられる。これにより、軌道輪をなす鋼のオーステナイトがマルテンサイト変態を起こし、軌道輪が硬化する。
また、この冷却工程の後工程として、通常の焼戻し処理を行ってもよいし、窒化物層の表面粗さや精度を向上させるために、研磨や研削等の仕上げ加工処理を行ってもよい。このとき、形成された窒化物層が除去されないように、仕上げ加工処理の加工取代は、形成された窒化物層の厚さの1/2以内とすることが好ましい。
すなわち、上述した本発明の製造方法によれば、窒化処理後の熱処理を、窒化物層が分解され難く、且つ、焼入れによる寸法変形が生じ難い条件で行うことにより、軌道面に窒化物層が形成された軌道輪を、熱処理後の研削・仕上げ加工をほとんど行うことなく製造できる。
よって、軌道面に優れた耐摩耗性を備えた転がり軸受用軌道輪を、低コストで且つ精度よく製造することができる。
なお、硬質化合物層の形成方法としては、上述した窒化物層やVC層等の硬質化合物層を形成する場合には塩浴処理を用いることが好ましく、TiC層やTiN層等の硬質化合物層を形成する場合にはPVD処理やCVD処理を用いることが好ましい。
また、TiC層、TiN層、VC層等の硬質化合物層を形成する場合には、窒化物層よりも熱安定性に優れているため、硬質化合物層の分解が生じない条件で行う加熱処理として、誘導加熱処理の他に、通常の加熱炉での加熱処理を行うことができる。
本発明に係る転がり軸受用軌道輪の製造方法において、前記素材として、C含有率が0.7質量%以上1.2質量%以下で、Si含有率が0.15質量%以上0.7質量%以下で、Cr含有率が0.5質量%以上2.0質量%以下で、Mn含有率が0.2質量%以上1.5質量%以下で、残部がFe及び不可避不純物である鋼(例えば、高炭素クロム軸受鋼)を用いるとともに、前記硬質化合物層直下の前記軌道面をなす表層部の硬さをHRC54以上とすることにより、製造コストに加えて、素材コストも削減できる。よって、軌道面に優れた耐摩耗性を備えた転がり軸受用軌道輪を、より低コストで且つ精度よく製造することができる。
ここで、素材をなす鋼中のC(炭素)含有率は、軌道面をなす表層部に軸受部材として必要なHRC54以上の硬さを付与するために0.7質量%以上とする。一方、素材をなす鋼中のC含有率は、多過ぎると粗大な炭化物が生じ易くなるため、1.2質量%以下とする。
また、素材をなす鋼中のSi(ケイ素)含有率は、製鋼時の脱酸剤としての作用と焼入れ性を向上させる作用を得るために0.15質量%以上とする。一方、素材をなす鋼中のSi含有率は、多過ぎると靱性が低下する傾向があるため、2.0質量%以下とする。
さらに、素材をなす鋼中のCr(クロム)含有率は、焼入れ性を向上させる作用を得るために0.5質量%以上とする。一方、素材をなす鋼中のCr含有率は、多過ぎると鋼の硬質化を招いて脆化するため、2.0質量%以下とする。
さらに、素材をなす鋼中のMn(マンガン)含有率は、Siと同様に、製鋼時の脱酸剤としての作用と焼入れ性を向上させる作用を得るために0.2質量%以上とする。一方、素材をなす鋼中のMn含有率は、多過ぎると変形抵抗が増大するため、1.5質量%以下とする。
また、軌道面に形成される硬質化合物層は、軌道面に耐摩耗性を付与する効果を十分に得るために、厚さが5μm以上30μm以下で、硬さがHv700以上のものを選択することが好ましく、Hv1000以上のものを選択することがより好ましい。
さらに、硬質化合物層直下の軌道面をなす表層部(例えば、表面から転動体直径の5%の深さまでの部分)の硬さがHRC54未満であると、軌道面に転動部材として必要な強度が得られない。
本発明はまた、C含有率が0.7質量%以上1.2質量%以下で、Si含有率が0.15質量%以上0.7質量%以下で、Cr含有率が0.5質量%以上2.0質量%以下で、Mn含有率が0.2質量%以上1.5質量%以下で、残部がFe及び不可避不純物である鋼からなる素材を所定形状に加工した後、窒化処理を含む熱処理が施されて得られ、その軌道面には硬質化合物層が形成されているとともに、この硬質化合物層直下の前記軌道面をなす表層部の硬さはHRC54以上となっていることを特徴とする転がり軸受用軌道輪を提供する。
本発明に係る転がり軸受用軌道輪によれば、特定の鋼からなる素材を所定形状に加工した後、硬質化合物層形成処理を含む熱処理を施すことで作製し、その軌道面に硬質化合物層を形成し、且つ、その硬質化合物層直下の軌道面をなす表層部の硬さを特定したことにより、軌道面に優れた耐摩耗性が得られる。
本発明はさらに、互いに対向配置される軌道面を有する内輪及び外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配設される複数の転動体と、を備えた転がり軸受において、前記内輪及び前記外輪のうち少なくとも一つは、C含有率が0.7質量%以上1.2質量%以下で、Si含有率が0.15質量%以上0.7質量%以下で、Cr含有率が0.5質量%以上2.0質量%以下で、Mn含有率が0.2質量%以上1.5質量%以下で、残部がFe及び不可避不純物である鋼からなる素材を所定形状に加工した後、窒化処理を含む熱処置が施されて得られ、その軌道面には硬質化合物層が形成されているとともに、その硬質化合物層直下の前記軌道面をなす表層部の硬さはHRC54以上となっていることを特徴とする転がり軸受を提供する。
本発明に係る転がり軸受によれば、内輪及び外輪の少なくとも一つを、特定の鋼からなる素材を所定形状に加工した後、窒化処理を含む熱処理を施すことで作製し、その軌道面に特定の硬さを有する硬質化合物層を形成し、且つ、その硬質化合物層直下の軌道面をなす表層部の硬さを特定したことにより、軌道面に優れた耐摩耗性が得られる。
本発明に係る転がり軸受用軌道輪の製造方法によれば、軌道面に硬質化合物層が形成された軌道輪を低コストで且つ精度よく製造できる。
本発明に係る転がり軸受用軌道輪によれば、軌道面に優れた耐摩耗性が得られる。
本発明に係る転がり軸受によれば、軌道面に優れた耐摩耗性が得られる。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
本実施形態では、呼び番号6908(内径:40mm、外径:62mm、幅:12mm、玉径:6.7mm)の深溝玉軸受用外輪(転がり軸受用軌道輪)を、以下に示す手順で作製した。
図1は、本発明に係る転がり軸受用軌道輪の製造方法のうち、外輪の製造方法の一例を示す断面図である。
まず、SUJ2製のリング状素材に対して焼鈍が施された焼鈍材に、旋削加工及び研削加工等の機械加工を施すことにより、外輪1を、完成品と略同一精度の寸法・形状に成形した。
具体的に、この段階の外輪1の外径寸法は、後述する窒化処理工程、誘導加熱処理工程、及び急冷処理工程を経た後の外輪1の外径寸法が、後述する塑性加工処理工程で用いる外輪成形用型(軌道輪成形用型)5の内径寸法より0.3%大きくなるようにした。
次に、図1(a)に示すように、この外輪1に560℃で4時間保持することによる塩浴窒化処理を施して、外輪軌道面1aを含む外輪1の表面に厚さ20μm程度の窒化物層(硬質化合物層)を形成した(窒化物層形成処理工程)。
次に、図1(b)に示すように、この外輪1を誘導加熱装置3内に設置して、約880℃(オーステナイト化温度)で約10秒間保持することによる誘導加熱処理を施した(誘導加熱処理工程)。
次に、図1(c)に示すように、オーステナイト化温度まで加熱された外輪1を、260℃(Ms変態点直上の温度)で保持された溶融ソルト4中に約20秒間浸漬させて急冷した後に、外輪1を溶融ソルト4から引き上げた(急冷処理工程)。これにより、オーステナイト化された状態の外輪1の温度は、浸漬した溶融ソルト4の温度と同様の約260℃となった。
次に、図1(d)に示すように、溶融ソルト4から引き上げた外輪1を、260℃で保持された円筒状の外輪成形用型5内に、外輪1の外径面1bと外輪成形用型5の内径面5aとが当接するように圧入して、この外輪成形用型5を通過させた。これにより、外輪1の外径面1bに塑性加工が施されて、前工程の熱処理で変形した外輪1の外径が、完成品と略同一精度に再成形された(塑性加工処理工程)。
次に、図1(e)に示すように、外輪成形用型5を通過させた後の外輪1を、室温まで空冷した(冷却処理工程)。これにより、外輪1をなす鋼のオーステナイトがマルテンサイトに変態して、外輪1が硬化した。
次に、室温まで空冷させた外輪1に、180℃で2時間保持することによる焼戻し処理を施した後、外輪1の表面に対して、♯1000のアルミナを用いて研磨取り代3〜4μmの仕上げ加工を施した。
このようにして得られた外輪1に対して、外径の平均寸法、外径及び溝底における軌道面の真円度、外径の円筒度、及び窒化物層直下の軌道面1aをなす表層部(表面から玉径の5%の深さ、つまり表面から約0.34mmの深さまでの部分)の硬さをそれぞれ測定した。この結果を以下に示した。
<外輪の測定結果>
外径の中心寸法:61.992mm
外径の真円度:0.004mm
溝底における軌道面の真円度:0.006mm
外径の円筒度:0.005mm
表層部の硬さ:HRC61
すなわち、本実施形態における外輪1の製造方法によれば、軌道面1aに窒化物層が形成された外輪1を精度よく製造できた。また、この外輪1は、SUJ2からなる素材を用いて作製され、且つ、研磨取り代の少ない仕上げ加工で作製されるため、低コストで製造できた。
次に、上述と同様の呼び番号6908の深溝玉軸受用内輪(転がり軸受用軌道輪)を、以下に示す手順で作製した。
図2は、本発明に係る転がり軸受用軌道輪の製造方法のうち、内輪の製造方法の一例を示す断面図である。
まず、SUJ2製のリング状素材に対して焼鈍が施された焼鈍材に、旋削加工及び研削加工等の機械加工を施すことにより、内輪2を完成品と略同一精度の寸法・形状に成形した。
具体的に、この段階の内輪2の外径寸法は、後述する窒化物層形成処理工程、誘導加熱処理工程、及び急冷処理工程を経た後の内輪2の内径寸法が、後述する塑性加工処理工程で用いる内輪成形用型(軌道輪成形用型)6の外径寸法より0.3%小さくなるようにした。
次に、図2(a)に示すように、この内輪2に560℃で4時間保持することによる塩浴窒化処理を施して、内輪軌道面2aを含む内輪2の表面に厚さ20μm程度の窒化物層(硬質化合物層)を形成した(窒化物層形成処理工程)。
次に、図2(b)に示すように、この内輪2を誘導加熱装置3内に設置して、約880℃(オーステナイト化温度)で約10秒間保持することによる誘導加熱処理を施した(誘導加熱処理工程)。
次に、図2(c)に示すように、オーステナイト化温度まで加熱された内輪2を、260℃(Ms変態点直上の温度)で保持された溶融ソルト4中に約20秒間浸漬して急冷させた後に、内輪2を溶融ソルト4から引き上げた(急冷処理工程)。これにより、オーステナイト化された状態の内輪2の温度は、浸漬した溶融ソルト4の温度と同様の約260℃となった。
次に、図2(d)に示すように、溶融ソルト4から引き上げた内輪2を、260℃で保持された棒状の内輪成形用型6に、内輪2の内径面2bと内輪成形用型6の外径面6aとが当接するように圧入して、内輪成形用型6を通過させた。これにより、内輪2の内径面2bに塑性加工が施されて、前工程の熱処理で変形した内輪2の内径は、完成品と略同一精度の寸法・形状に再成形された(塑性加工処理工程)。
次に、図2(e)に示すように、内輪成形用型6を通過させた後の内輪2を、室温まで空冷した(放冷処理工程)。これにより、内輪2をなす鋼のオーステナイトがマルテンサイトに変態して、内輪2が硬化した。
次に、室温まで空冷させた内輪2に、180℃で2時間保持することによる焼戻し処理を施した後、内輪2の表面に対して、♯1000のアルミナを用いて研磨取り代3〜4μmの仕上げ加工を施した。
このようにして得られた内輪2に対して、内径の平均寸法、内径と溝底における軌道面の真円度、内径の円筒度、及び窒化物層直下の軌道面2aをなす表層部(表面から玉径の5%の深さ、つまり表面から約0.34mmまでの部分)の硬さをそれぞれ測定した。この結果を以下に示した。
<内輪の測定結果>
内径の平均寸法:39.994mm
内径の真円度:0.003mm
溝底における軌道面の真円度:0.004mm
内径の円筒度:0.004mm
表層部の硬さ:HRC61
すなわち、本実施形態における内輪2の製造方法によれば、軌道面2aに窒化物層が形成された内輪2を精度よく製造できた。また、この内輪2は、SUJ2からなる素材を用いて作製され、且つ、研磨取り代の少ない仕上げ加工で作製されたため、低コストで製造できた。
なお、本実施形態においては、本発明を、転がり軸受用軌道輪の一例として、深溝玉軸受用内輪及び外輪に適用したが、これに限らず、本発明は、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、自動調心ころ軸受等その他の転がり軸受用軌道輪にも適用可能である。
また、本実施形態では、SUJ2製の焼鈍材を所定形状に加工することで得られた軌道輪に窒化物層を形成したが、これに限らず、SUJ2製又はSUJ3製のリング状素材に通常の焼入れ及び焼戻しを施した後、所定形状に加工することで得られた軌道輪に窒化物層を形成してもよい。ここで、通常の焼入れ及び焼戻しにより変形が生じて、窒化処理前の軌道輪を完成品と略同一寸法・形状にできなかった場合には、焼入れ及び焼戻し後の軌道輪に、600〜700℃で数分保持する真空焼鈍処理をさらに施した後、軌道輪用型に嵌め込んで塑性加工を行うことにより、窒化物層を形成する前の軌道輪を、完成品と略同一寸法・形状にする必要がある。
さらに、本実施形態では、硬質化合物層として、窒化物層を形成する場合について説明したが、本発明は、これに限らず、TiC層、TiN層、VC層等その他の硬質化合物層を形成する場合にも適用可能である。
本発明に係る転がり軸受用軌道輪の製造方法のうち、外輪の製造方法の一例を示す断面図である。 本発明に係る転がり軸受用軌道輪の製造方法のうち、内輪の製造方法の一例を示す断面図である。
符号の説明
1 外輪(転がり軸受用軌道輪)
1a 軌道面
1b 外径面
2 内輪(転がり軸受用軌道輪)
2a 軌道面
2b 内径面
3 誘導加熱装置
4 溶融ソルト
5 外輪成形用型(軌道輪成形用型)
6 内輪成形用型(軌道輪成形用型)

Claims (5)

  1. 軌道面に硬質化合物層が形成された転がり軸受用軌道輪を製造する方法において、
    鋼からなる素材を、軌道輪の形状に加工する工程と、
    前記軌道輪のうち少なくとも軌道面に硬質化合物層形成処理を施して、前記軌道面に硬質化合物層を形成する工程と、
    前記硬質化合物層が形成された前記軌道輪に対して、前記硬質化合物層の分解が生じない条件で加熱処理を施して、前記軌道輪をオーステナイト化温度まで加熱する工程と、
    オーステナイト化温度まで加熱された前記軌道輪を、前記鋼のMs変態点直上の温度まで急冷する工程と、
    オーステナイト状態の前記軌道輪を軌道輪成形用型に嵌め込むことにより、前記軌道輪に塑性加工を施す工程と、
    塑性加工が施された後の前記軌道輪を、前記鋼のMs変態点以下の温度まで冷却する工程と、
    を備えたことを特徴とする転がり軸受用軌道輪の製造方法。
  2. 前記軌道輪を、前記鋼のMs変態点以下の温度まで冷却する工程の後に、形成された硬質化合物層の厚さの1/2以内の加工取代で仕上げ加工を施す工程を、さらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受用軌道輪の製造方法。
  3. 前記素材として、C含有率が0.7質量%以上1.2質量%以下で、Si含有率が0.15質量%以上0.7質量%以下で、Cr含有率が0.5質量%以上2.0質量%以下で、Mn含有率が0.2質量%以上1.5質量%以下で、残部がFe及び不可避不純物である鋼を用いるとともに、前記硬質化合物層直下の前記軌道面をなす表層部の硬さをHRC54以上とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受用軌道輪の製造方法。
  4. C含有率が0.7質量%以上1.2質量%以下で、Si含有率が0.15質量%以上0.7質量%以下で、Cr含有率が0.5質量%以上2.0質量%以下で、Mn含有率が0.2質量%以上1.5質量%以下で、残部がFe及び不可避不純物である鋼からなる素材を所定形状に加工した後、窒化処理を含む熱処理が施されて得られ、
    その軌道面には硬質化合物層が形成されているとともに、この硬質化合物層直下の前記軌道面をなす表層部の硬さはHRC54以上となっていることを特徴とする転がり軸受用軌道輪。
  5. 互いに対向配置される軌道面を有する内輪及び外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配設される複数の転動体と、を備えた転がり軸受において、
    前記内輪及び前記外輪のうち少なくとも一つは、
    C含有率が0.7質量%以上1.2質量%以下で、Si含有率が0.15質量%以上0.7質量%以下で、Cr含有率が0.5質量%以上2.0質量%以下で、Mn含有率が0.2質量%以上1.5質量%以下で、残部がFe及び不可避不純物である鋼からなる素材を所定形状に加工した後、窒化処理を含む熱処置が施されて得られ、
    その軌道面には硬質化合物層が形成されているとともに、この硬質化合物層直下の前記軌道面をなす表層部の硬さはHRC54以上となっていることを特徴とする転がり軸受。
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