JP3963524B2 - フタロシアニン化合物、その製造方法およびそれらを用いた光記録媒体 - Google Patents

フタロシアニン化合物、その製造方法およびそれらを用いた光記録媒体 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規フタロシアニン化合物、その製造方法およびそれらを用いた光記録媒体に関するものである。本発明にかかる新規フタロシアニン化合物は、600〜1000nmの近赤外域に吸収を有し溶解性に優れているので、半導体レーザーを使う光記録媒体、液晶表示装置、光学文字読取機等における書き込みあるいは読み取りのための近赤外吸収色素、近赤外増感剤、感熱転写、感熱紙・感熱孔版などの光熱変換剤、近赤外線吸収フィルター、眼精疲労防止剤、光導電材料などとして用いる近赤外線吸収材料として、あるいは、撮像管に用いる色分解フィルター、液晶表示素子、カラーブラウン管選択吸収フィルター、カラートナー、インクジェット用インク、改ざん偽造防止用バーコード用インク、さらに微生物不活性化剤、腫瘍治療用感光性色素等に用いる際に優れた効果を発揮する。
【0002】
特にコンパクトディスク対応の追記型光記録媒体に用いるための近赤外吸収色素として非常に優れた効果を発揮するものである。
【0003】
【従来の技術】
近年、半導体レーザーを光源として用いるコンパクトディスク、レーザーディスク、光メモリーディスク、光カード等の光記録媒体の開発が活発である。特に、CD、PHOTO−CDあるいはCD−ROMは、大容量、高速アクセスのデジタル記録媒体として音声、画像、コードデータ等の保存再生に、大量に利用されている。これらのシステムはいずれも半導体レーザーに感受するいわゆる近赤外吸収色素を必要とし、それらの色素に関して特性の良好なものが求められている。
【0004】
なかでも光、熱、温度等に対して安定であり堅牢性に優れているフタロシアニン系化合物については、数多く検討されている。
【0005】
コンパクトディスク対応の追記型光記録媒体に用いる際に要求される特性としては、
(1)薄膜での極大吸収波長が700〜730nmに制御されていること(会合によるピークが少なく、そのことにより吸光度が高く、ピークがシャープであることによって、反射率などの光学特性に対する主要な構成要因となる)、
(2)スピンコート等の簡便でかつ生産性に優れた方法で基板上に塗布でき、かつ基板を侵さない溶媒に対しての溶解性に優れていること、
(3)耐熱性、耐光性が良好であること、
(4)熱分解特性が良好であること(感度に対する主要な構成要因となる)、
(5)製造方法などにおいて経済性に優れた化合物であること、
等が挙げられる。
【0006】
例えば、特開昭58−56892号には、ペルフルオロフタロシアニン化合物を用いる方法が提案されている。しかしながら、これらの化合物は、有機溶媒に対しての溶解性に乏しく、また満足できる吸収波長に制御できない。
【0007】
特開昭61−192780号、特開昭61−246091号、特開昭63−37991号、特開昭64−42283号、特開平2−276677号、特開平2−91360号、特開平2−265788号、特開平3−215466号、特開平4−226390号などには、フタロシアニン骨格のベンゼン環に酸素を介して置換基を導入したものが提案されている。しかしながら、これらの化合物は、色素の置換基の種類、数および位置によっては耐光性が悪かったり、反射率が小さかったり、通常よく用いられているポリカーボネートなどの基板に直接塗布できる溶剤に溶解しなかったり、あるいは吸収波長の制御において難点があったりするなどの問題点を有している。
【0008】
それらの欠点が比較的解決されたものとして特開平5−1272号などにはフタロシアニンのα位にアルコキシ基を4個導入し、残基にハロゲン化合物などを一部導入したものが提案されている。しかしながら、α位に置換基を導入したものは、原料とするフタロニトリルからの生産性が悪いなど、経済性の点で問題点を有している。またこのようなフタロシアニン化合物も、必ずしもすべての特性を満足すべきものでなく、よって更なる良好な特性が望まれている。
【0009】
また、本出願人らは、これまでに嵩高い置換基をもつフェノキシ基がβ位に置換されたフタロシアニン化合物を提案してきた(特開平5−345861、特開平6−107663、特開平6−328856、特開平8−225751号)。
【0010】
しかしながら、これらの化合物も光記録媒体において反射率、感度等に問題点を有しており、これまでに提案されているフタロシアニン化合物は、上記特性をすべて満足するものではない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来技術の有する前記事情に考慮してなされたものである。すなわち、本発明の目的は、600〜1000nmの吸収波長域において目的に応じた吸収制御が可能であり、また用途に応じた溶媒、例えばアルコール系溶媒等に対して溶解性に優れ、かつ耐熱性、耐光性の高い新規なフタロシアニン化合物を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、フタロシアニン化合物を、効率よく、しかも高純度で製造する方法を提供することにある。
【0013】
さらに本発明の他の目的は、光記録媒体、特にコンパクトディスク対応の光記録媒体として、それらに必要な特性である溶解度、吸収波長、感度、反射率、耐光性、熱分解特性において優れた効果を発揮するフタロシアニン化合物を用いてなる光記録媒体を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記諸目的は、下記(1)〜(9)により達成される。
【0015】
(1) 一般式(1)
【0016】
【化3】
Figure 0003963524
【0017】
{ただし、式中、X、YおよびZは水素原子またはハロゲン原子を表わし、Wは置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロ環基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルキルチオ基およびアリールチオ基から選ばれる少なくとも一つの置換基を表わし、Rは置換基を有していてもよく、第2級以上の炭素原子を2〜4個含み、かつ炭素原子数が5〜20個の第2級または第3級のアルキル基を表わし、Mは金属、酸化金属またはハロゲン化金属を表わす。}で示されるフタロシアニン化合物。
【0018】
(2) 一般式(1)において、Rが置換基を有していてもよく、第2級以上の炭素原子を2〜4個含み、かつ炭素原子数が5〜15個の第2級または第3級のアルキル基である前記(1)に記載のフタロシアニン化合物。
【0019】
(3) 一般式(1)において、Wが置換基を有していてもよいアリール基およびヘテロ環基から選ばれる少なくとも一つの置換基である前記(1)または(2)に記載のフタロシアニン化合物。
【0020】
(4) 一般式(1)において、Mが酸化金属またはハロゲン化金属である前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のフタロシアニン化合物。
【0021】
(5) 一般式(1)において、X、YおよびZがいずれもハロゲン原子である前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載のフタロシアニン化合物。
【0022】
(6) 前記(1)に記載の一般式(1)において、Rが置換基を有していてもよく、第2級以上の炭素原子を2〜4個含み、かつ炭素原子数が6〜10個の第2級または第3級のアルキル基であり、Wが置換基を有していてもよいフェニル基であり、Mがバナジルであり、X、YおよびZがいずれもフッ素原子であるフタロシアニン化合物。
【0023】
(7) 一般式(2)
【0024】
【化4】
Figure 0003963524
【0025】
{ただし、式中、X、YおよびZは水素原子またはハロゲン原子を表わし、Wは置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロ環基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルキルチオ基およびアリールチオ基から選ばれる少なくとも一つの置換基を表わし、Rは置換基を有していてもよく、第2級以上の炭素原子を2〜4個含み、かつ炭素原子数が5〜20個の第2級または第3級のアルキル基を表わす。}で示されるフタロニトリル化合物と、金属化合物とを反応させることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか一つに記載のフタロシアニン化合物の製造方法。
【0026】
(8) 前記(1)〜(6)のいずれか一つに記載のフタロシアニン化合物を基板上に設けられた記録層に含有してなる光記録媒体。
【0027】
(9) 透明な樹脂製基板上に設けられた記録層および金属の反射層を有するコンパクトディスク対応の追記型光記録媒体において、該記録層が前記(8)に記載の記録層である光記録媒体。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明に係るフタロシアニン化合物は、下記一般式(1)
【0029】
【化5】
Figure 0003963524
【0030】
{ただし、式中、X、YおよびZは水素原子またはハロゲン原子を表わし、Wは置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロ環基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルキルチオ基およびアリールチオ基から選ばれる少なくとも一つの置換基を表わし、Rは置換基を有していてもよく、第2級以上の炭素原子を2〜4個含み、かつ炭素原子数が5〜20個の第2級または第3級のアルキル基を表わし、Mは金属、酸化金属またはハロゲン化金属を表わす。}で表わされるものであり、以下これにつき詳述する。
【0031】
一般式(1)において、Mは、金属、酸化金属あるいはハロゲン化金属である。Mで示されるフタロシアニン化合物の中心金属の具体例としては、鉄、マグネシウム、ニッケル、コバルト、銅、パラジウム、亜鉛、塩化アルミニウム、塩化インジウム、塩化ゲルマニウム、塩化錫、塩化珪素、チタニル、バナジル等が挙げられ、耐光性が良好である点で、コバルト、銅、亜鉛、塩化錫もしくはバナジルが好ましく、特に光記録媒体にしたときの光学特性の適合性からバナジルが好ましい。
【0032】
Wで表わされるフェノキシ基上の置換基は、置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロ環基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルキルチオ基およびアリールチオ基から選ばれる少なくとも一つの置換基を表わす。
【0033】
これらの置換基群の中で好ましくは、置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロ環基であり、特に好ましくは置換基を有していてもよいアリール基である。
【0034】
上記フェノキシ基上の置換基Wのうち、アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基などを挙げることができる。特に好ましくはフェニル基である。
【0035】
また、上記フェノキシ基上の置換基Wのうち、ヘテロ環基とは、2−オキサゾリジニル基、1,3−ジオキソラン−2−イル基、1,3−ジオキサン−2−イル基、3−モルホリノ基、2−テトラヒドロフリル基、3−テトラヒドロフリル基、2−テトラヒドロピラニル基、3−テトラヒドロピラニル基、2−ピラゾリジニル基、2−ピペリジル基、2−テトラヒドロチエニル基などである。
【0036】
上記フェノキシ基上の置換基Wのうち、アリールオキシ基とは、フェノキシ基、ナフトキシ基などであり、好ましくはフェノキシ基である。
【0037】
上記フェノキシ基上の置換基Wのうち、ヘテロ環オキシ基とは、2−オキサゾリジニルオキシ基、1,3−ジオキソラン−2−イルオキシ基、1,3−ジオキサン−2−イルオキシ基、3−モルホリノキシ基、2−テトラヒドロフルフリルオキシ基、3−テトラヒドロフルフリルオキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基、3−テトラヒドロピラニルオキシ基、2−ピラゾリジニルオキシ基、2−ピペリジルオキシ基、2−テトラヒドロチエニルオキシ基などである。
【0038】
上記フェノキシ基上の置換基Wのうち、アルキルチオ基とは、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、n−オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基、n−デシルチオ基などである。
【0039】
上記フェノキシ基上の置換基Wのうち、アリールチオ基とは、フェニルチオ基、ナフチルチオ基であり、好ましくはフェニルチオ基である。
【0040】
上記フェノキシ基上の置換基Wに場合によっては存在する置換基は、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルコシキ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコシキカルボニル基などである。
【0041】
ここで、上記アリール基に場合によっては存在する置換基のうち、ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素であり、この中で好ましくは臭素である。
【0042】
アルキル基とは、炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、ラウリル基、ステアリル基などを示す。
【0043】
アルコキシ基とは、炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシ基であり、好ましくは炭素数1〜8のアルコキシ基である。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−デシルオキシ基などを示す。
【0044】
ハロゲン化アルキル基とは、炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基の一部がハロゲン化されたものであり、好ましくは炭素数1〜8個のアルキル基の一部がハロゲン化されたものである。特に好ましくは炭素数1〜8個のアルキル基の一部がブロモ化されたものである。具体的には、ブロモメチル基、ブロモエチル基、ブロモプロピル基、ブロモブチル基、ブロモペンチル基、ブロモヘキシル基、ブロモヘプチル基、ブロモオクチル基等のモノブロモアルキル基、1,3−ジブロモプロピル基、1,3−ジブロモブチル基等のジブロモアルキル基等を示す。
【0045】
ハロゲン化アルコキシ基とは、炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシ基の一部がハロゲン化されたものであり、好ましくは炭素数1〜8個のアルコキシ基の一部がハロゲン化されたものである。特に好ましくは炭素数1〜8個のアルコキシ基の一部がブロモ化されたものである。具体的には、ブロモメトキシ基、ブロモエトキシ基、ブロモプロポキシ基、ブロモブトキシ基、ブロモペントキシ基、ブロモヘキシルオキシ基、ブロモヘプチルオキシ基、ブロモオクチルオキシ基等のモノブロモアルコキシ基、1,3−ジブロモプロポキシ基、1,3−ジブロモブトキシ基等のジブロモアルコキシ基等を示す。
【0046】
アルコキシカルボニル基とは、アルコキシ基のアルキル基部分にヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜8、好ましくは1〜5のアルコキシカルボニル、またはヘテロ原子を含んでもよい炭素数3〜8、好ましくは5〜8の環状アルコキシカルボニルを示す。具体的には、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、メトキシエトキシカルボニル基、エトキシエトキシカルボニル基、ブトキシエトキシカルボニル基、ジエチルアミノエトキシカルボニル基、メチルチオエトキシカルボニル基、メトキシプロピルオキシカルボニル基、(3,6,9−オキサ)デシルオキシカルボニル基、テトラヒドロフルフリルオキシカルボニル基、ピランオキシカルボニル基、ピペリジノオキシカルボニル基、ピペリジノエトキシカルボニル基、テトラヒドロピロールオキシカルボニル基、テトラヒドロピランメトキシカルボニル基、テトラヒドロチオフェンオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基などを示す。
【0047】
次に、CO2 Rで表わされるフェノキシ基上の置換基中のRは、置換基を有していてもよく、第2級以上の炭素原子を2〜4個含み、かつ炭素原子数が5〜20個の第2級または第3級のアルキル基を表わす。好ましくは、上記Rが、置換基を有していてもよく、第2級以上の炭素原子を2〜4個含み、かつ炭素原子数が6〜15個の第2級または第3級のアルキル基である。さらに好ましくは、上記Rが、置換基を有していてもよく、第2級以上の炭素原子を2〜4個含み、かつ炭素原子数が6〜10個の第2級または第3級のアルキル基である。具体的には、3−メチル−2−ブチル基、2,3−ジメチル−2−ブチル基、3,3−ジメチル−2−ブチル基、2−メチル−3−ペンチル基、3−メチル−2−ペンチル基、4−メチル−2−ペンチル基、2,2−ジメチル−3−ペンチル基、2,3−ジメチル−3−ペンチル基、2,4−ジメチル−3−ペンチル基、4,4−ジメチル−2−ペンチル基、2−メチル−3−ヘキシル基、5−メチル−2−ヘキシル基、2,3,3−トリメチル−2−ブチル基、3,4−ジメチル−2−ペンチル基、2,3−ジメチル−2−ペンチル基、3,3−ジメチル−2−ペンチル基、3−エチル−2−ペンチル基、4−メチル−3−ヘキシル基、3−メチル−2−ヘキシル基、2,2−ジメチル−3−ヘキシル基、2,3−ジメチル−2−ヘキシル基、2,5−ジメチル−2−ヘキシル基、2,5−ジメチル−3−ヘキシル基、3,4−ジメチル−3−ヘキシル基、3,5−ジメチル−3−ヘキシル基、3−エチル−2−メチル−3−ペンチル基、4−メチル−3−ヘプチル基、5−メチル−2−ヘプチル基、5−メチル−3−ヘプチル基、6−メチル−2−ヘプチル基、6−メチル−3−ヘプチル基、2,3,4−トリメチル−2−ペンチル基、2,3,4−トリメチル−3−ペンチル基、2−メチル−3−エチル−2−ペンチル基、3−エチル−3−メチル−2−ペンチル基、3−エチル−4−メチル−2−ペンチル基、2−エチル−3−メチル−2−ペンチル基、2,3−ジメチル−3−ヘキシル基、2,4−ジメチル−3−ヘキシル基、4,5−ジメチル−3−ヘキシル基、4−エチル−3−ヘキシル基、3−エチル−2−ヘキシル基、3,4−ジメチル−2−ヘキシル基、3,5−ジメチル−2−ヘキシル基、2−メチル−3−ヘプチル基、3−メチル−2−ヘプチル基、3−メチル−4−ヘプチル基、2,6−ジメチル−4−ヘプチル基、3−エチル−2,2−ジメチル−3−ペンチル基、2−メチル−3−オクチル基、3,5−ジメチル−4−ヘプチル基、2,4−ジメチル−3−エチル−3−ペンチル基、2,3−ジメチル−4−ヘプチル基、4−エチル−2−メチル−3−ヘキシル基、2,4,5−トリメチル−3−ヘキシル基、3,4,5−トリメチル−2−ヘキシル基、3−エチル−4−メチル−2−ヘキシル基、4−エチル−3−メチル−2−ヘキシル基、2,3−ジメチル−4−ヘプチル基、3,7−ジメチル−3−オクチル基、3,7−ジメチル−4−オクチル基、2,6−ジメチル−3−オクチル基、2−メチル−3−ウンデシル基、7−エチル−2−メチル−4−ウンデシル基、2−メチル−3−トリデシル基、2−メチル−4−トリデシル基などである。これらのアルキル基のうちで好ましくは、第2級以上の炭素原子が2個以上隣接しているアルキル基であり、特に好ましくは、第2級以上の炭素原子が3個以上隣接しているアルキル基である。その具体例としては、2,4−ジメチル−3−ペンチル基、3,4−ジメチル−2−ペンチル基、2,3,4−トリメチル−2−ペンチル基、2,3,4−トリメチル−3−ペンチル基、3−エチル−4−メチル−2−ペンチル基、2,4−ジメチル−3−ヘキシル基、4,5−ジメチル−3−ヘキシル基、3,4−ジメチル−2−ヘキシル基、3,5−ジメチル−4−ヘプチル基、2,4−ジメチル−3−エチル−3−ペンチル基、2,3−ジメチル−4−ヘプチル基、4−エチル−2−メチル−3−ヘキシル基、2,4,5−トリメチル−3−ヘキシル基、3,4,5−トリメチル−2−ヘキシル基、3−エチル−4−メチル−2−ヘキシル基、4−エチル−3−メチル−2−ヘキシル基、2,3−ジメチル−4−ヘプチル基などである。CO2 RのRが、第2級以上の炭素原子が3個以上隣接しているアルキル基であることによって、該フタロシアニン化合物が熱重量測定した時に、熱分解開始後の単位時間当たりの重量減少度がより大きくなる。これは、フタロシアニン化合物が熱に対してより速い応答で変化することを意味しており、その結果、光記録媒体にした時の記録感度が向上するので好ましい。また、上記Rに場合によっては存在する置換基は、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、ニトロ基などである。
【0048】
ここで、上記Rに場合によっては存在する置換基のうち、ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などであり、好ましくは臭素である。また、アルコキシ基とは、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペントキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−デシルオキシ基などである。
【0049】
さらに、上記フェノキシ基上の置換基CO2 Rとしては、例えば、前記に具体例を示したRを含むCO2 Rの一群が挙げられる。
【0050】
上記の置換基CO2 Rがフェノキシ基に導入されてなるフタロシアニン化合物では、アルキル基中に第2級以上の炭素原子を2〜4個含んでいることにより、熱重量分析装置で測定した時に、熱分解開始直後の単位時間当たりの重量減少度がより大きくなる。これは、フタロシアニン化合物が熱に対してより速い応答で変化することを意味しており、その結果、光記録媒体にした時の記録感度がさらに向上するので好ましい。
【0051】
次に、置換基CO2 RおよびWのフェノキシ基上での置換位置は、フェノキシ基のオルソ位である。すなわち、置換基CO2 RおよびWともにフェノキシ基のオルソ位(2、6位)にあることによって、フタロシアニン化合物の薄膜の吸収スペクトルにおける会合体由来の吸収ピーク(以下、会合体ピークという。)が大きく抑制され、単量体由来の吸収ピーク(以下、単量体ピークという。)がシャープになるためである。さらに、該フタロシアニン化合物を光記録媒体に用いたときの反射率、記録感度などの光学特性に優れるためである。
【0052】
前記フェノキシ基のオルソ位に上記の置換基CO2 RおよびWを導入した残りの位置(3、4、5位)には、さらに溶解性を向上させたり、吸収波長の制御のために新たな置換基を導入してもよい。これらの置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基が置換されていてもよい炭素数1〜20個の直鎖または分岐鎖のアルコキシからなるアルコキシカルボニル基、置換されていてもよいアリールオキシカルボニル基、直鎖または分岐している置換されていてもよい炭素数1〜12個のアルキル基およびその一部がハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、直鎖または分岐している炭素数1〜12個のアルコキシ基およびその一部がハロゲン化されたハロゲン化アルコキシ基、直鎖または分岐している炭素数1〜20個のモノアルキルアミノ基、直鎖または分岐している炭素数1〜20個のジアルキルアミノ基、シクロヘキシル基、置換されていてもよいフェノキシ基、置換されていてもよいアニリノ基またはニトロ基などが挙げられる。
【0053】
これらのうち好ましくは、ハロゲン原子であり、特に好ましくは臭素原子である。
【0054】
X、YおよびZは、水素原子またはハロゲン原子を表わす。X、YおよびZがいずれもハロゲン原子であることが好ましく、特に、X、YおよびZがいずれもフッ素原子であることが好ましい。X、YおよびZがいずれもフッ素原子であるフタロシアニン化合物では、用途に応じた溶媒、例えば、アルコール系溶媒などに対して優れた溶解性を有する。さらに、当該フタロシアニン化合物を含有する溶液は、基板上に光記録媒体用の記録層を形成する際に優れた造膜性を発現し得るため、有用な光記録媒体用の材料として利用できる。また、当該フタロシアニン化合物を光記録媒体に用いたときの反射率、記録感度などの光学特性が特に優れている。このため高速記録タイプのコンパクトディスクに対応する性能を有しているため特に好ましい。
【0055】
本発明に係るフタロシアニン化合物としては、好ましくは、一般式(1)におて、X、YおよびZがいずれもフッ素原子であり、Rが前記に具体例を示した一群のアルキル基から選ばれる置換基であり、Mが鉄、マグネシウム、ニッケル、コバルト、銅、パラジウム、亜鉛、塩化アルミニウム、塩化インジウム、二塩化錫、二塩化珪素、チタニル、バナジルから選ばれる金属、酸化金属あるいは塩化金属であり、Wが置換基を有していてもよいアリール基あるいはヘテロ環基から選ばれる置換基であるフタロシアニン化合物である。さらに好ましくは、Rが第2級以上の炭素原子が隣接している炭素数6〜9個のアルキル基であり、Mがバナジルであり、Wが置換基を有していてもよいフェニル基であるフタロシアニン化合物である。このようなフタロシアニン化合物の具体例としては、
テトラキス(2−(2,3−ジメチル−2−ブトキシ)カルボニル−6−(4−ブロモ)フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン、
テトラキス(2−(3,3−ジメチル−2−ブトキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン、
テトラキス(2−(2,2−ジメチル−3−ペンチルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン、
テトラキス(2−(2,3−ジメチル−3−ペンチルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン、
テトラキス(2−(2,4−ジメチル−3−ペンチルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン、
テトラキス(2−(2,2−ジメチル−3−ヘキシルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン、
テトラキス(2−(2,3−ジメチル−2−ヘキシルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン、
テトラキス(2−(2,5−ジメチル−3−ヘキシルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン、
テトラキス(2−(3,4−ジメチル−3−ヘキシルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン、
テトラキス(2−(3−エチル−2−メチル−3−ペンチルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン、
テトラキス(2−(4−メチル−3−ヘプチルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン、
テトラキス(2−(3−エチル−2,2−ジメチル−3−ペンチルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン、
テトラキス(2−(3,7−ジメチル−3−オクチルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン、
テトラキス(2−(7−エチル−2−メチル−4−ウンデシルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン、
などを挙げることができる。
【0056】
以上述べたように、本発明に係る新規フタロシアニン化合物は、溶解性が高く、薄膜の吸収スペクトルにおける会合体ピークが小さく、単量体ピークがシャープであり、耐光性に優れている。したがって、当該フタロシアニン化合物は、これを光記録媒体に用いたときに、その反射率に優れている。また、本発明に係る新規フタロシアニン化合物は、熱分解特性に優れている。具体的には、熱重量分析装置で測定した時に熱分解開始直後の単位時間当たりの重量減少度がより大きい。これは、フタロシアニン化合物が熱に対してより速い応答で変化することを意味している。このため、これを光記録媒体に用いた時の記録感度に優れている。したがって、特に反射率、感度等の特性を必要としている、透明な樹脂製基板、該基板上に設けられた記録層と金属の反射層からなるコンパクトディスク対応の追記型光記録媒体(例えば、オーディオ等の音楽再生用のCD、写真保存用のPHOTO−CDまたはコンピューター用のCD−ROMのプレーヤーに対して互換性、共用性を有する追記型光記録媒体)として優れた効果を発揮できる。
【0057】
次に、本発明に係る新規フタロシアニン化合物の製造方法について詳細に明記する。
【0058】
本発明に係る新規フタロシアニン化合物の製造方法は、下記一般式(2)
【0059】
【化6】
Figure 0003963524
【0060】
{ただし、式中、X、YおよびZは水素原子またはハロゲン原子を表わし、Wは置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロ環基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基から選ばれる少なくとも一つの置換基を表わし、Rは置換基を有していてもよく、第2級以上の炭素原子を2〜4個含み、かつ炭素原子数が5〜20個の第2級または第3級のアルキル基を表わす。}で示されるフタロニトリル化合物と、金属化合物とを反応させることを特徴とするものである。本発明の製造方法のなかでも、上記一般式(2)において、Rが置換基を有していてもよく、第2級以上の炭素原子を2〜4個含み、かつ炭素原子数が5〜15個、より好ましくは6〜10個の第2級または第3級のアルキル基であるフタロニトリル化合物と、金属化合物とを反応させることにより製造することが好ましい。同様に、上記一般式(2)において、X、YおよびZがいずれもハロゲン原子、好ましくはフッ素原子であるフタロニトリル化合物と、金属化合物とを反応させることにより製造することが望ましい。なお、本発明に係る製造方法において、上記一般式(2)に示すX、YおよびZ、並びにフェノキシ基上の置換基CO2 RおよびWの詳細な内容および具体的な例示に関しては、いずれも上述した一般式(1)で説明した内容となんら変わるものではなく同じである。
【0061】
本発明の新規フタロシアニン化合物の製造方法において、上記フタロニトリル化合物と、金属化合物との反応は無溶媒中でも行なえるが、有機溶媒を使用して行なうのが好ましい。有機溶媒は、出発原料と反応性のない不活性な溶媒であればいずれでもよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、エチレングリコール、ベンゾニトリル等の不活性溶媒あるいはピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトフェノン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等を用いることができ、好ましくは、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、ベンゾニトリルである。特に好ましくは、ベンゾニトリルである。
【0062】
本発明の製造方法では、有機溶媒100部(以下、重量部を表わす。)に対して、上記フタロニトリル化合物を2〜40部、好ましくは20〜35部の範囲、金属化合物を該フタロニトリル化合物4モルに対して1〜2モル、好ましくは1.1〜1.5モルの範囲で仕込んで、反応温度30〜250℃、好ましくは80〜200℃の範囲で反応させる。
【0063】
金属化合物としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物等のハロゲン化合物、金属酸化物、酢酸塩等の有機酸金属塩、アセチルアセトナート等の錯体化合物、金属カルボニル化合物、金属粉等がある。
【0064】
本発明の製造方法において、出発原料である上記一般式(2)に示すフタロニトリル化合物は、下記スキームのステップA〜Cにしたがって合成できる。すなわち、まずステップAにしたがって2級以上のアルコールから対応するメシレートを合成する。2級以上のアルコールは、市販品がある場合は、市販品を購入して用いる。市販品がない場合にはアルコール合成の常法にしたがって合成したものを用いることができる。次いで、ステップBにしたがってサリチル酸化合物とメシレートからサリチル酸エステル化合物を合成する。そして、ステップCにしたがってサリチル酸エステル化合物とオルソフタロニトリル化合物から、上記一般式(2)に示すフタロニトリル化合物を合成する。ここで、ステップCの式中のVは、水素原子またはハロゲン原子を表わす。そして、本発明の上記一般式(1)で示される新規フタロシアニン化合物は、ステップA〜Cにしたがって合成されたフタロニトリル化合物を用いてステップDにしたがって合成できる。
【0065】
【化7】
Figure 0003963524
【0066】
本発明の製造方法では、上記スキームに示すように、新規フタロシアニン化合物を複雑な製造工程を経ることなく効率よく、しかも高純度で製造することができる。
【0067】
次に、本発明に係る光記録媒体について詳細に明記する。
【0068】
本発明に係る光記録媒体は、上記一般式(1)に示すフタロシアニン化合物を基板上に設けられた記録層に含有してなるものである。より好ましくは、透明な樹脂製基板上に設けられた記録層および金属の反射層を有するコンパクトディスク対応の追記型光記録媒体において、該記録層が上記一般式(1)に示すフタロシアニン化合物を含有してなるものである光記録媒体が望ましい。ここで、フタロシアニン化合物という場合、本発明のフタロシアニン化合物単独であっても、2種類以上の混合物であってもかまわない。
【0069】
本発明に係る新規フタロシアニン化合物を基板上に設けられた記録層に含有してなる光記録媒体では、当該フタロシアニン化合物の特性(属性)により、該化合物を含有する薄膜(記録層)の吸収スペクトルにおける会合ピークが大きく抑制され、単量体ピークがシャープになる。また、記録層が熱分解特性に優れる。したがって、該フタロシアニン化合物を用いた本発明の光記録媒体では、反射率、記録感度に優れる。
【0070】
本発明の光記録媒体に用いられる基板としては、信号の記録または読みだしを行なうための光が透過するものが好ましい。光の透過率としては85%以上であってかつ光学異方性の小さいものが望ましい。該基板としては、例えば、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂などからなる基板が挙げられる。これらの中で光学特性、成形のしやすさあるいは機械的強度などからポリカーボネート樹脂からなる基板が好ましい。
【0071】
本発明に係る光記録媒体の製造法の一例(概略)を示せば次の通りである。上記基板上に色素(前記したフタロシアニン化合物)を含む記録層がまず形成されて、その上に金属の反射膜層が形成される。反射膜層として使用する金属はアルミニウム、銀、金、銅、白金などが挙げられ、この反射膜層は通常、真空蒸着、スパッター法などの方法により形成される。
【0072】
本発明の光記録媒体において、色素(前記したフタロシアニン化合物)を含む記録層を基板上に成膜させるためには、通常塗布法を用いるのがよい。方法としてはスピンコート法、ディップ法あるいはロールコート法によって可能であり、特にスピンコート法が好ましい。その際使用する有機溶剤は、基板を侵さないものを用いる。例えば、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族、脂環式炭化水素系の溶媒あるいはメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アリルアルコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系の溶媒が好ましい。本発明の前記色素(フタロシアニン化合物)は、アルコール系溶媒に特に良く溶解するのでこれらの溶媒を用いるのがよい。
【0073】
本発明の光記録媒体の1種であるCDは、プレーヤーに対しての互換性の観点から基板を通しての読み出しレーザー光に対する反射率は60%以上であることが必要とされている。これらはそれぞれの色素(フタロシアニン化合物)に合わせて膜厚を最適化することによって可能であり、通常50nm〜300nm、特に80nm〜200nmがよい。
【0074】
上記手順により、本発明に係るフタロシアニン化合物を合成することができる。さらに合成手順などを詳細に説明するため、実施例において具体的数値を挙げ説明する。
【0075】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0076】
実施例1
テトラキス(2−(2,4−ジメチル−3−ペンチルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニンの製造
100mlの四つ口フラスコに2,4−ジメチル−3−ペンタノール5.81g(50mmol)、塩化メタンスルホニル6.30g(55mmol)および塩化メチレン50mlを仕込み0℃まで冷却した。そこへ、トリエチルアミン7.59g(75mmol)を反応温度を保ちながら1時間で滴下し、さらに0℃で1時間反応させた。反応終了後、氷水50mlに投入し、有機層を分液により得た。得られた有機層を希塩酸水溶液50ml、水50ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液50ml、飽和食塩水50mlで洗浄した。その後有機層より溶媒を除去することで、目的物のメタンスルホン酸(2,4−ジメチル−3−ペンチル)8.94g(46mmol)を得た。
【0077】
100mlの四つ口フラスコにメタンスルホン酸(2,4−ジメチル−3−ペンチル)4.86g(25mmol)、3−フェニルサリチル酸5.36g(25mmol)、炭酸ナトリウム2.65g(25mmol)およびジメチルホルムアミド50mlを仕込み90℃で3時間反応させた。反応終了後、氷水100mlに投入し、酢酸エチル150mlで2回抽出した。得られた有機層を水50mlで2回洗浄した。その後有機層より溶媒を留去することで、目的物の2−(2,4−ジメチル−3−ペンチルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノール5.00g(16mmol)を得た。
【0078】
100mlの四つ口フラスコに3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリル3.00g(15mmol)、2−(2,4−ジメチル−3−ペンチルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノール4.69g(15mmol)、フッ化カリウム2.62g(45mmol)およびアセトニトリル50mlを仕込み還流温度で6時間反応させた。反応終了後、濾過し、溶媒を留去することで目的物の3,5,6−トリフルオロ−4−(2−(2,4−ジメチル−3−ペンチルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)フタロニトリル6.90g(14mmol)を得た。
【0079】
100mlの四つ口フラスコ中に3,5,6−トリフルオロ−4−(2−(2,4−ジメチル−3−ペンチルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)フタロニトリル4.93g(10mmol)、三酸化バナジウム0.225g(1.5mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物0.029g(0.15mmol)およびベンゾニトリル20mlを仕込み、175℃で4時間反応させた。反応終了後、溶媒を留去し、得られた固形分をメチルアルコール200mlで洗浄することにより目的物の緑色ケーキ(テトラキス(2−(2,4−ジメチル−3−ペンチルオキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン)2.70gを得た。収率はフタロニトリルに対して53.0%であった。得られた目的物の可視吸収スペクトル、溶解度、元素分析結果を下記表1に示す。
【0080】
【表1】
Figure 0003963524
【0081】
比較例1
テトラキス(2−(3−ペントキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニンの製造
100mlの四つ口フラスコ中に3,5,6−トリフルオロ−4−(2−(3−ペントキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)フタロニトリル4.64g(10mmol)、三酸化バナジウム0.225g(1.5mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物0.029g(0.15mmol)およびベンゾニトリル20mlを仕込み、175℃で4時間反応させた。反応終了後、溶媒を留去し、得られた固形分をメチルアルコール200mlで洗浄することにより目的物の緑色ケーキ(テトラキス(2−(3−ペントキシ)カルボニル−6−フェニルフェノキシ)ドデカフルオロバナジルフタロシアニン)3.96gを得た。収率はフタロニトリルに対して82.0%であった。得られた目的物の可視吸収スペクトル、溶解度、元素分析結果を下記表2に示す。
【0082】
【表2】
Figure 0003963524
【0083】
実施例1および比較例1で得られたフタロシアニン化合物について、熱重量分析装置で熱分解特性を測定した。その結果を図1〜2に示す。図より、実施例1で得られた本発明の新規フタロシアニン化合物では、比較例1で得られたフタロシアニン化合物に比べて熱分解開始直後の重量減少の傾きが大きい。傾きを数値化するために、分解開始直後の重量減少度/分解温度幅を計算すると前者が約1.0に対して後者は約0.6と1.7倍の開きがあった。このことから本発明のフタロシアニン化合物では、従来の化合物に比べて熱に対する応答性がかなり高くなることがわかった。したがって、本発明のフタロシアニン化合物を光記録媒体に用いた時に、記録感度特性が大きく向上する。
【0084】
実施例2
深さ80nm、ピッチ1.6μmの螺旋状の案内溝を有する厚さ1.2mm、外径120mm、内径15mmのポリカーボネート樹脂基板上に実施例1のフタロシアニン化合物を2−メトキシエタノールに5重量%の濃度で溶解した塗液をスピンコーターを用いて120nmに成膜した。次に、このようにして得られた塗布膜の上に金を膜厚75nmで真空蒸着により成膜した。さらに、この上に紫外線硬化型の樹脂からなる保護コート膜を設けて、光記録媒体を作成した。このようにして得られた光記録媒体の反射率を測定したところ、770nm〜800nmの波長域で83%であり、安定した光学特性が得られた。この光記録媒体を用いて波長780nmの半導体レーザーを使用し、5.7mWの出力で線速2.0m/sでEFM信号を記録したところ、記録が可能であり、エラーレートは0.2%未満であった。得られた信号を解析した結果、市販のCDプレーヤーで再生できるレベルであった。
【0085】
【発明の効果】
以上述べたごとく、本発明の新規フタロシアニン化合物は、従来知られているフタロシアニン化合物に比べ吸収特性、溶解性、耐光性、熱分解特性および経済性に優れており、また650〜900nmの近赤外域に吸収を有するので、近赤外吸収色素として実用的に使用できる。特にCD、PHOTO−CDまたはCD−ROMのプレーヤーに対して互換性、共有性を有する追記型光記録媒体に用いる際に優れた効果を発揮できる。
【0086】
本発明の製造方法によれば、フタロシアニン骨格に位置選択的に置換基を導入することが可能である。すなわち、本発明の製造方法によれば、用途に応じた近赤外線の吸収波長域または溶解性を変えた化合物の分子設計が可能となり、その際、複雑な製造工程を経る必要もなく工業的に有利である。本発明の新規フタロシアニン化合物中のフッ素原子は、むしろ溶解性を高める効果を有している。
【0087】
本発明の光記録媒体は、その記録層に本発明の新規フタロシアニン化合物を含有してなるために、反射率および記録感度などの光学特性、特に記録感度に優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1で得られたフタロシアニン化合物について、熱重量分析装置で測定した熱分解特性を図示したものである。
【図2】 比較例1で得られたフタロシアニン化合物について、熱重量分析装置で測定した熱分解特性を図示したものである。

Claims (9)

  1. 一般式(1)
    Figure 0003963524
    {ただし、式中、X、YおよびZは水素原子またはハロゲン原子を表わし、Wは置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロ環基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルキルチオ基およびアリールチオ基から選ばれる少なくとも一つの置換基を表わし、Rは置換基を有していてもよく、第2級以上の炭素原子を2〜4個含み、かつ炭素原子数が5〜20個の第2級または第3級のアルキル基を表わし、Mは金属、酸化金属またはハロゲン化金属を表わす。}で示されるフタロシアニン化合物。
  2. 一般式(1)において、Rが置換基を有していてもよく、第2級以上の炭素原子を2〜4個含み、かつ炭素原子数が5〜15個の第2級または第3級のアルキル基である請求項1に記載のフタロシアニン化合物。
  3. 一般式(1)において、Wが置換基を有していてもよいアリール基およびヘテロ環基から選ばれる少なくとも一つの置換基である請求項1または2に記載のフタロシアニン化合物。
  4. 一般式(1)において、Mが酸化金属またはハロゲン化金属である請求項1〜3のいずれか一つに記載のフタロシアニン化合物。
  5. 一般式(1)において、X、YおよびZがいずれもハロゲン原子である請求項1〜4のいずれか一つに記載のフタロシアニン化合物。
  6. 請求項1に記載の一般式(1)において、Rが置換基を有していてもよく、第2級以上の炭素原子を2〜4個含み、かつ炭素原子数が6〜10個の第2級または第3級のアルキル基であり、Wが置換基を有していてもよいフェニル基であり、Mがバナジルであり、X、YおよびZがいずれもフッ素原子であるフタロシアニン化合物。
  7. 一般式(2)
    Figure 0003963524
    {ただし、式中、X、YおよびZは水素原子またはハロゲン原子を表わし、Wは置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロ環基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルキルチオ基およびアリールチオ基から選ばれる少なくとも一つの置換基を表わし、Rは置換基を有していてもよく、第2級以上の炭素原子を2〜4個含み、かつ炭素原子数が5〜20個の第2級または第3級のアルキル基を表わす。}で示されるフタロニトリル化合物と、金属化合物とを反応させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のフタロシアニン化合物の製造方法。
  8. 請求項1〜6のいずれか一つに記載のフタロシアニン化合物を基板上に設けられた記録層に含有してなる光記録媒体。
  9. 透明な樹脂製基板上に設けられた記録層および金属の反射層を有するコンパクトディスク対応の追記型光記録媒体において、該記録層が請求項8に記載の記録層である光記録媒体。
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