JP5586010B2 - 水溶性フタロシアニン - Google Patents
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水への溶解度の向上に、ベンゼン環の水素原子をスルフォン酸基(−SO3H)やカルボキシル基(−CO2H)等の親水性の官能基あるいはその類縁体で置換することにより、水への溶解度を改善したものが知られ、水溶性の色素として広く一般に用いられている。
しかし、この方法で水溶化されたフタロシアニンは、高濃度では顕著な分子会合(複数の分子があたかも1分子のように振舞う現象)を起こし、フタロシアニン色素固有の特性(特に光化学特性)が失われる。
単純な色素としての使用は、会合の有無や光化学特性が大きな問題にならないが、実施例に示すような色素以外の用途においては、分子会合の有無や光化学特性の有無は、その使用目的を著しく阻害する要因となっていた。
また、その製造方法は、本発明原料となる色素を濃硫酸に溶解し、冷水に注ぐことにより析出させるという簡便な操作によって実施できるために、従前の水溶性フタロシアンと同様に使用することが可能である。
またスルフォン酸基が水溶性を担っているため、5個以上存在する場合も同様に或いは実施例よりも高い水溶性を示すことが予想される。
スルフォン酸基が3個以下の場合は、当該実施例より水溶性が低いことは予想できる。
当該実施例における製造法では、すべてのフェノキシル基がスルフォン化された化学種しか得られなかったが、条件によっては4個のフェノキシル基のうち1〜3だけがスルフォン化される可能性は否定できない(1個もスルフォン化されないものは水に不溶なので除外される)。
また質量分析においてもイオン化の条件によってはそのような化学種が検出される。
当該実施例においては固体として単離される色素は銅錯体および無金属体の場合は図5a、アンチモン錯体の場合は図5bの構造をもつ中性化学種(ツヴィッターイオン)と考えられるが、図5の説明にも述べた通り、スルフォン酸基の酸解離平衡に伴い最大5種類の化学種が生じるために、スルフォン酸基の酸解離に伴って派生する化学種(図5a−e)によっても、本発明の目的とする会合性や光化学特性に大きな変化は生じない。
これに伴い、陰イオン種(図4c)の電荷を中和するための対陰イオンの違いによっても、同様であるといえる。
アンチモン(V)錯体の場合は陽イオンも考えられるが、陰イオンであっても、本発明の効果に変わりがない。
本発明はフェノキシル基のオルト位(4位)およびパラ位(2または6位)が濃硫酸処理によって容易にスルフォン化されることを利用しているため、この3箇所のうち少なくとも1箇所が置換されていないフェノキシル基を有するフタロシアニンは、基本的に本発明と同様の水溶性フタロシアニンへと変換されると考えられる。
当該実施例で周辺置換基として2,6−dimethylphenoxyl基を用いたのは、オルト位をメチル基で予めブロックすることによりスルフォン化されることを防ぎ、スルフォン化で生じる化学種が複数の生成物(注;フェノキシル基の位置に基づく4種類の位置異性体の混合物に由来するものを除く)の混合物となることを避け、同定・解析を容易にするために過ぎないものであり、本発明の本質では、このような操作は不要である。
また当該実施例ではR1−8のうち4個のスルフォン化に関与しない(すなわちフェノキシル基ではない)置換基はすべて水素原子(すなわち無置換)を示したが、この位置は濃硫酸と反応する官能基(例えばアミノ基等)で置換されていない限り、どのような置換基でも本発明と同様の効果が予想されると考えられる。
この位置を炭化水素、含ヘテロ原子炭化水素、さらにハロゲンやニトロ基、シアノ基等で置換されたフタロシアニンも同様の効果が予想される。
当該実施例では銅錯体、無金属体、アンチモン(V)錯体を原料と選んだのは、これらは濃硫酸中で非常に安定であり、脱金属が容易に起こらないためである。
従って同程度に安定な亜鉛、アルミニウム、スズ(IV)、バナジウム(IV)、コバルト、ロジウム、オスミウム、ニッケル、パラジウム、白金(非特許文献7)、の錯体も同様に水溶化できると予想される。
一方、濃硫酸中では不安定なベリリウム、マグネシウム、カドミウム、水銀、鉛、マンガン(II)、鉄(III)、およびビスマス(III)錯体(非特許文献7)は実施例1による方法では合成が難しい。
しかしながら、実施例2に示した方法、すなわち無金属体の中央の水素イオンを適当なアルカリで引き抜いて共役塩基とし(図10)、それに適当な無水金属塩を反応させる方法で合成が可能である。
従って後者の方法で合成が出来ないケイ素およびアンチモン(III)錯体以外のすべての金属の水溶性錯体の合成が可能である。
アンチモン(V)錯体のように軸配位子(図3aにおけるOHに相当するもの)を有する錯体の場合、軸配位子の数及び種類は錯体の水溶性に影響を及ぼさないことは、軸配位子を持たない銅錯体が水に水溶性を有することから容易に予想することが出来る。
従って実施例はOH基を有するものだけを記しているが、軸配位子の種類によって制限を受けるものではない。
例えば、軸配位子としてClを有するものについても同様に水溶性フタロシアニン色素が得られる。
図3は本発明で原料として用いたフタロシアニンの構造であり、フタロシアニンの中心元素としてa)5価のアンチモン、b)2価の銅、およびc)水素(無金属体)を採用している。
いずれもフェノキシ基を周辺置換基に導入することに支障は無く、これらから、中心元素も有無及びその種類によって、フェノキシ基の導入が左右されるものではないと推測できる。
また、図3中のR1〜R8は周辺置換基と呼ばれる側鎖基であり、一般的に溶剤に溶け難いフタロシアニンの溶解度を高くするための役割を担っているが、本発明ではそれに加えてスルフォン酸基を導入するためにフェノキシ基を採用している。前述するように本発明は、フェノールのオルト位またはパラ位が濃硫酸との反応によりスルフォン化される現象を利用しているので、この位置が水素以外の置換基で置換されていない限り、R1〜R8はすべて同じでも良く、また逆に全て異なっていても良い。
また一部の周辺置換基が単に水素原子であってもよい。
図3a)中右側のZ−は対陰イオンを表しており、5価アンチモンを含むフタロシアニンが分子全体で+1に帯電しているために、その電荷を中和するために存在している。
実施例ではZ−としてI3 −の場合を示しているが、それは当該原料がI3 −として得られ易いというだけの理由であり、必要であれば、イオン交換によって容易に他の塩(例えばBF4 −, PF6 −, ClO4 − 等)に変換することができ、実際にPF6 −塩を用いても同じ生成物が得られる。
しかしながら、この原料を濃硫酸に溶解し、その後冷水で処理する過程において、その対陰イオンは失われ、他の陰イオンの塩に変換される可能性が非常に高い。
実際に本発明の実施例ではいずれも原料中の陰イオンであるI3 −は失われていることが光吸収スペクトルによって確認されている。
なお、実施例1,2における温度数値は、10℃単位での測定値を示した。
本実施例では、表1に示す四工程より構成された製造方法を用いた例を示す。
この原料を必要最小量(表2に示す量)の冷濃硫酸に溶解し、その溶液をろ過して、ろ液を氷水に滴下する。
すると、スルフォン化されたフタロシアニンが固体として液中に遊離してくるので、これをろ過して、固形分を収集し、メタノールまたはエタノールを少量加えてタール状にする。
得られるタール状の生成物を、メタノール/エーテルまたはエタノール/アセトンで処理することにより、水分ならびに残留硫酸を抽出して固体(粉末)とし、必要であれば(実施例1−1および1−2)エタノール/ヘキサンから再結晶を行う。
以下にアンチモン(V)錯体、銅(II)錯体および無金属体の場合の実施例を紹介する。
第一工程
図3a)に示す化学構造のフタロシアニンアンチモン(V)錯体[Sb(tppc)(OH)2]+I3 −((tppc=テトラ−2,6−ジメチルフェノキシ置換フタロシアニン)0.13 mmol)200mgを16 mlの氷冷した濃硫酸(98%、0℃)に溶解してろ過して、第一液を得る。
第二工程
前記第一液(16ml)を約80gの氷に滴下して得られた黄緑色の固体が分散した第一固体分散液を生成し、これに冷水(20℃)60mlに溶かしてもう一度ろ過して第二液を得る。
第三工程
前記第二液(60ml)に少量(6ml)のメタノールを加え、(約45℃)ロータリーエバポレーターでタール状になるまで濃縮して第二固体分散液を得、このタール状の第二固体分散液を8mlのメタノールに溶解し、40mlのエーテルを加えると、細かい固体が析出されるので、これを遠心分離して得られた固体を再度前記溶解と析出及び遠心分離を、前記析出固体が粉末状になるまで繰返し行い(本実施例では3回)、この固体を最終的に遠心分離によって母液から分離した固体を40℃で一夜真空乾燥させて第三固体を得る。
第四工程
さらに、この第三固体(100mg)を8mlのエタノールに溶かし、42 mlのヘキサンを加えて固体を析出させ、遠心分離で集め、母液から分離する。この操作を母液が濁らなくなるまで繰り返した後(本実施例では3回)、最終的に得られた固体を40℃で12時間真空で乾燥させ、79mgの(0.048mmol)の本発明の水溶性フタロシアニンの固体を得た。(収率37%)。
m/z (SIMS) = 1467([121Sb(tsppc)(OH)2]+) & 1469([123Sb(tsppc)(OH)2]+)。
得られた水溶性フタロシアニンの元素分析を行った結果、炭素46.30 %;水素4.06 %;窒素6.85%であって、(理論値;炭素46.58 %;水素4.34 %;窒素6.79 %、[Sb(tsppc−H)(OH)2)]・12H2O(C64H71N8O4S4Sb))とし良く一致していた。
第一工程
図3b)に示す化学構造のフタロシアニン銅錯体50mgの[Cu(tppc)](0.047 mmol)を10 mlの氷冷した濃硫酸に溶解してろ過して第一液を得た。
第二工程
この第一液(10 ml)を50g の氷に滴下する。得られた青色の固体をろ過して集め第一固体分散液を得、これを冷水150mlに溶かしてもう一度ろ過して、第二液を得る。
第三工程
この第二液に少量(10ml)のメタノールを加え、ロータリーエバポレーターでタール状になるまで濃縮してタール上の第二固体分散液(50℃)を得、このタール状の第二固体分散液を10mlのメタノールに溶解し、40mlのエーテルを加えて細かい固体を析出させ、これを析出した固体が青色になるまで溶解、析出及び分離を繰り返して行い(本実施例では6回)、最終的に遠心分離によって母液から分離して第三固体を得る。
そして、この第三固体を、40℃で一夜真空乾燥させた。乾燥後の第三固体は、70mgであった。
第四工程
この第三固体を2.5mlのエタノールに溶かした溶液に7.5 mlのヘキサンを加え、40〜45℃で約30分湯煎することにより、青色の固体を析出させ、遠心分離で集め、母液から分離する。
母液が濁らなくなるまでこの操作を繰り返した後(当該実施例では3回)、固体を80℃で12時間真空で乾燥させ、56 mg(0.038mmol)の本発明の実施例であるフタロシアニンを得る(収率81%)。
第一工程
無金属体107 mgのH2tppc(0.11 mmol)を16 mlの氷冷した濃硫酸に溶解した溶液をろ過して第一液を得る。
第二工程
前記第一液を50 gの氷に滴下する。得られた青色の固体をろ過して集め、第一固体分散液を得、これに冷水50mlに溶かしてろ過して第二液を得る。
第三工程
前記第二液に90 mlのエタノールを加え、ロータリーエバポレーターでタール状になるまで濃縮して第二固体分散液(50℃)を得、これを2 mlのメタノールに溶解し、48 mlのアセトンを加えて細かい固体を析出させ、それを遠心分離する工程を、析出した固体が青色になるまで繰り返して行い(本実施例では4回)、最終的に遠心分離によって母液から分離して第三固体を得る。
第四工程
この第三固体を40℃で一夜真空乾燥させて71 mg(0.050 mmol)の本発明のフタロシアニンを得る(収率45%)。
m/z = 1314(C64H50N8O16S4 (H2tsppc); MALDI,matrix = ジヒドロキシ安息香酸)となった。
コバルト錯体(無金属体からの合成)
第一工程
実施例1−3で合成した無金属体17.5 mgを5.0 mlの脱水エタノールに溶解したA液に、予め45 mgの金属リチウムを3 mlの脱水エタノールに溶かしておいたB液(60℃)をこれに加えて20分攪拌してC液を得る。
第二工程
このC液に101 mgの無水CoCl2を加え、80℃で2時間加熱しながら攪拌し、反応液の吸収スペクトル(エタノール)が666 nmに吸収極大を示す(CoCl2を加える前は675 nm)ことを確認したら、溶液を室温まで冷却してD液を得る。
第三工程
このD液(8ml)に2 mlの濃塩酸を加えて、析出した無色透明の結晶(LiCl)をろ過して取り除き、ろ液を蒸発乾固させて、青色のA固体を得る。
第四工程
このA固体(12mg)を1 mlのエタノールに溶かし、9 mlのアセトンを加えて再び析出させ、遠心分離で母液から分離して、80℃で一夜真空乾燥し、本発明のフタロシアニンを8.7 mg得る。
図4a)〜c)は実施例1の製法によって得られた水溶性フタロシアニンの構造である。
図4に示すフタロシアニンの中心元素およびR1〜R8の位置は原料(図3a)〜c))と同じあるが、フェノキシ基のパラ位がスルフォン化されている。
図4aの構造は電気的に中性ではないカチオン種を示しているが、固体中では4個のスルフォン酸の1つが解離して電荷が中和されていると考えられる。
原料(図3a)の対イオンI3 −の存在は光吸収スペクトルから否定され、また以下にも述べる通り質量分析の結果陰イオンが検出されなかったことから、質量分析(図5)で検出された陽イオン種に対陰イオンを伴ったものではなく、スルフォン酸の1つが酸解離し(すなわち−SO3 −となり)、分子内で電荷を中和している(いわゆるツヴィッターイオンの状態)と考えられる。
質量分析ではカチオン種として検出されているが、SIMSにおいては系内の水素イオンを伴ってよりイオン検出され易い(M+H)+として検出されることはしばしば観測される(銅錯体の場合も同様に(M+H)+として検出されている)。
4個のフェノキシ基がそれぞれ1個のスルフォン酸基を有するため、またスルフォン酸は強酸であるために、水溶液中では速やかに解離が起こり、4段階の酸解離平衡が存在する。
アンチモン錯体(実施例1−1)は固体では、電気的中性を保つためにスルフォン酸基が1つだけ解離した図5bの解離状態であると考えられる。
分子量約1467及び1469に強いピークが観測されるのは、アンチモンには2種類の安定同位体(121Sbと123Sb)がほぼ同じ比率で存在しているためである。
また自然の同位体分布に基づき、図4の分子構造でスルフォン酸が4個とも解離していない陽イオン種(図4b)を仮定して計算された理論スペクトルも示しているが、両者は大変良く一致している。
銅錯体および無金属体も同様に質量分析から同定される。
さらに図6bには水溶液中におけるアンチモン錯体(実施例1−1)のマススペクトル(ESI)を示す。
m/z = 1467 & 1469 に加えて1489 & 1491、1511 & 1513、1533 & 1535、1555 & 1557の計5対のピークが検出されるが、硫酸ナトリウム水溶液(0.1 M)を加えると前4者は消失し、1555 & 1557のピークに収斂する。
このことから純水中における後4者のピークは、4個のスルフォニル基(−SO3H)のうちそれぞれ、1個、2個、3個、および4個が解離してナトリウム塩(−SO3Na)になっている化学種であると帰属でき、図5の説明で述べた通り、溶液中ではこの陽イオン種を含む5種の化学種の平衡混合物であることを示している。
さらに、この測定は陽イオンを検出する条件で測定しているため、実験結果と図5bとは矛盾するものではない。
また、ネガティヴスキャン(陰イオンを検出するモード)による測定では陰イオン(例えば原料に含まれていたI3 −やSO4 2−)は検出されなかった。
銅錯体(実施例1−2)および無金属体(実施例1−3)はいずれも614 nmに構造を持たない単一の吸収帯を示し、青色を呈する。
この形状は濃度にほとんど依存せず、同じ形である。
後にも述べるが、このスペクトルは会合したフタロシアニンに特有の形状であり、純水中では多量体を形成している。
一方、アンチモン錯体(実施例1−1)は最も強い吸収帯は730 nmと近赤外側に現れ、また433 nmに新たな吸収帯が現れるために琥珀色を示す。
このスペクトルは銅錯体や無金属体の場合とは異なり、会合していないフタロシアニン金属錯体に特有の形状である。
図7bはアンチモン錯体(実施例1−1)の730 nmにおける吸光度を濃度に対してプロットしたものであるが、2x10−4 M(吸光光度法で追跡できる上限)まではほぼ濃度に比例して吸光度が増加し、Lambert−Beer則に従っている。
このことから少なくともこの濃度範囲では、このアンチモン錯体(実施例1−1)の溶存種のほとんどが単量体として存在する(2x10−4 Mで15%程度の二量体が存在するようである)。
この例では界面活性剤としてTriton−X100を用いている。
銅錯体(実施例1−2)の場合(図8a)界面活性剤の濃度が増加するとともに687 nmにおける吸収帯が顕著になり、2%(w/v)以上ではほとんどスペクトルの形状は変化せず、会合していない単量体のフタロシアニン金属錯体に特有のスペクトルとなっている。
界面活性剤濃度0.02%以上では、664 nmおよび715 nmに等吸収点が観測され、この条件においては単量体と二量体(646 nmに吸収極大をもつ)が平衡にあることを示唆している。
また界面活性剤が0.01%以下ではスペクトルは等吸収点には関係せず、この条件においては少なくとも三量体以上の高次の会合体が生成していることを示している。
同様に無金属体(実施例1−3)も界面活性剤濃度の増加とともに674 nmおよび710 nmの吸収帯が顕著になり、1.0%以上ではほぼ純粋な単量体として存在する(図8b)。
0.02%以上の濃度で単量体と二量体(642 nmに吸収極大をもつ)の平衡が存在し、それ以下では三量体以上の高次の会合体が存在するのは銅錯体の場合と同様である。
5%の界面活性剤存在下において、銅錯体(実施例1−2)および無金属体(実施例1−3)ともに約10−4 M(吸光光度法で追跡できる上限)まではほぼLambert−Beerの法則に従い、溶存種のほとんどが単量体として存在する(銅錯体は5x10−5 Mで6% 程度の二量体が存在するようである)。
アンチモン錯体(実施例1−1)の吸収スペクトルに及ぼすTriton−X 100の影響は無視できる程度である。
この例ではエタノールを用いている。
銅錯体の場合(図8a)、アルコールの濃度が増加するとともに680 nmにおける吸収帯が顕著になり、エタノール80%(v/v)以上では会合していない単量体のフタロシアニン金属錯体に特有のスペクトルとなる。
アルコール濃度30〜80%(v/v) では658nmおよび710nmに等吸収点が観測され、界面活性剤添加の場合と同様に単量体(680 nmに吸収極大をもつ)と二量体(643 nm)の平衡混合物であると言える。
無金属体(図8b)の場合も同様にアルコール濃度30〜50%(v/v)では656nmおよび724nmに等吸収点が観測され、このアルコール濃度範囲では単量体(703 nmおよび666 nmに吸収極大をもつ)と二量体(638 nm)の平衡混合物であると言える。
NaOH濃度が低いところでは、無金属体の単量体特有の1対の吸収極大が現れるが、NaOHが濃くなるにつれ678 nmの吸収が大きくなり、十分に濃いところでは銅錯体のスペクトルに似た形状になる。
678 nmにおける吸光度をNaOH濃度の逆数の対数に対してプロットすると摘定曲線のごとき形状になる(図10b)。
このことからこのスペクトル変化は、無金属体の中央の水素イオン(注;スルフォン酸の水素イオンではない)の酸解離平衡に伴うものと説明できる。
すなわちH2tsppcはNaOH等のアルカリの存在下、容易に中央の水素イオンを解離し、共役塩基tsppc2−(スルフォン酸基の解離に伴う形式電荷は無視している)を生成することを示している。
図10cは実施例2をスペクトル的に再現したものである。
H2tsppcのエタノール溶液(黒実線)にリチウムエトキシド(金属リチウムをエタノールに溶かしたもの)を加えると、その共役塩基のスペクトル(青実線)となり、さらにこの溶液に無水CoCl2を加えて80℃で2時間加熱すると、光吸収スペクトルにおける吸収極大は短波長シフト(赤実線)する。
コバルトの錯体の吸収極大波長は一般的に銅錯体や無金属体の共役塩基よりも短波長側に現れることが知られている(非特許文献6)ので、このスペクトル変化は、tsppc2−がコバルトと錯形成する変化に相当する。
この溶液から析出した青色の固体は質量分析の結果から[Co(tsppc)]と同定された(実施例2−1)。
Claims (1)
- 水に溶解可能な水溶性フタロシアニン金属錯体であって、その外側のベンゼン環の水素原子がフェノキシ基に置換され、それがスルフォン化されてなり、中心元素がアンチモン(Sb)であり、軸配位子がOHであることを特徴とする水溶性フタロシアニン金属錯体。
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