JP3857213B2 - 鋳造用金型およびその表面処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋳造用金型およびその表面処理方法に関し、一層詳細には、長寿命であるので交換頻度を可及的に少なくすることが可能であり、このために鋳造品の製造コストを低廉化することが可能な鋳造用金型およびその表面処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋳造作業によってアルミニウム製部材等の鋳造製品を作製する場合には、鋳造用金型にアルミニウムの溶湯が導入される。この溶湯が高温であることから、鋳造用金型の素材としては、高温での強度に優れるSKD61材(鋼材の種類を表すJIS規格)が一般的に採用される。
【0003】
ここで、鋳造用金型にヒートクラックや欠損が生じると、アルミニウム製部材を所定の寸法精度で得ることが困難となる。すなわち、アルミニウム製部材の製造歩留まりが低下するという不具合を招く。ヒートクラックや溶損が生じた鋳造用金型は新品に交換されるが、鋳造用金型は概して高価であるため、交換頻度が多くなるとアルミニウム製部材の製造コストが高騰してしまう。
【0004】
ヒートクラックは、鋳造用金型に高温の溶湯が接触することに伴って温度が急激に変化すること、すなわち、熱衝撃が加わること等によって起こり、一方、欠損は、鋳造作業が終了してアルミニウム製部材を鋳造用金型から取り出す際、軟質な表層がアルミニウム製部材で切削されること等によって起こる。したがって、鋳造用金型には耐熱衝撃性が希求される。また、欠損等が生じることのないように、硬度が高いことが望ましい。
【0005】
このような観点から、鋳造用金型には、通常、表面処理が施される。具体的には、塩浴法、ガス法あるいはイオン法等による窒化処理や、物理的気相成長(PVD)法あるいは化学的気相成長(CVD)法によってTiCやTiN等のセラミックス材をコーティングする被覆処理、硫化鉄と窒化鉄との混合物層を設ける浸硫窒化処理、酸化鉄を設ける酸化処理等が例示される。さらに、特許文献1および特許文献2には、窒化処理や浸炭処理、ホウ化処理等の複数の処理方法を組み合わせることも提案されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平8−144039号公報(請求項1および段落[0028])
【特許文献2】
特開平10−204610号公報(段落[0026])
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
近年においては、鋳造品の製造コストを低廉化するために鋳造用金型の交換頻度を低減するべく、鋳造用金型の耐熱衝撃性や硬度を一層向上させることが試みられている。しかしながら、例えば、上記の特許文献1、2にて提案されているような複数の処理が施された鋳造用金型を使用する場合、単に窒化処理が施されたのみの鋳造用金型を使用する場合に比して交換頻度が多少は低減するものの、製造コストを著しく低廉化するまでには至っていない。
【0008】
また、SKD材が概して高価であることから、より安価なSCM材を代替素材として鋳造用金型を構成することも想起される。しかしながら、SCM材からなる鋳造用金型に上記したような各種の表面処理を施しても、耐熱衝撃性や硬度を充分に向上させることができず、結局、必要とされる寿命を有しない場合がほとんどである。
【0009】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、交換頻度を可及的に少なくし、しかも、鋳造品の製造コストを著しく低廉化することが可能な鋳造用金型およびその表面処理方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋳造用金型にヒートクラックが生じる原因につき鋭意検討を重ね、溶湯が導入される際に鋳造用金型に作用する引っ張り応力が、該鋳造用金型に残留した圧縮残留応力を上回るようになった場合にヒートクラックが生じ易くなる傾向があるという周知事項に着目した。この見地からは、鋳造用金型に大きな圧縮残留応力を予め付与し、該鋳造用金型に作用する引っ張り応力が前記圧縮残留応力に比して小さくなるようにすることで、該鋳造用金型の寿命を長期化することが試みられている。
【0011】
圧縮残留応力を大きくすることが可能な方法としては、ショットピーニング処理が例示される。しかしながら、鋳造用金型に単にショットピーニング処理を施したのみでは、ヒートクラックの発生を抑止する効果は認められるものの、鋳造品の製造コストを著しく低廉化させるまでには至らなかった。
【0012】
そこで、本発明者らは、大きな圧縮残留応力を付与する手法につき更なる検討を重ね、本発明をするに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る鋳造用金型は、キャビティ面の圧縮残留応力が1000MPaよりも大きく、かつ最大高さが16μm以下であるとともに、前記キャビティ面の表層に窒化層を有する鋼材からなることを特徴とする。なお、キャビティ面とは、鋳造装置のキャビティを形成する面のことをいう。
【0014】
通常、素材から加工されることによって作製された鋳造用金型に残留した圧縮残留応力は僅かに200MPa程度であり、ショットピーニング処理を施したものでも500MPa程度である。これに対し、本発明に係る鋳造用金型は、キャビティ面の圧縮残留応力が1000MPaと著しく大きい。このため、該鋳造用金型が溶湯に接触した際の熱衝撃によって引っ張り応力が作用しても、該引っ張り応力が圧縮残留応力を上回ることが回避される。したがって、該鋳造用金型にヒートクラックが生じることが抑制される。換言すれば、鋳造用金型の耐熱衝撃性が著しく向上する。
【0015】
しかも、この場合、キャビティ面に窒化層が存在するので、キャビティ面と溶湯とが反応することが抑制される。さらに、窒化層は窒化鉄からなるので硬質であり、したがって、キャビティ面が硬質となる。このため、例えば、鋳造作業が終了して鋳造品を取り出す際に、キャビティ面が鋳造品によって切削されることが抑制される。
【0016】
すなわち、本発明に係る鋳造用金型は、ヒートクラックが発生し難く、かつ切削もされ難い。換言すれば、耐久性が高く長寿命である。このため、交換頻度が可及的に少なくなり、結局、鋳造品の製造コストを著しく低廉化することができる。
【0017】
なお、この鋳造用金型には、ショットピーニング処理が少なくとも1回施されている。このため、JIS規格で定義される表面粗さの1種である最大高さは、16μm以下となる。
【0018】
鋳造用金型の素材である鋼材の好適な例としては、SKD材が挙げられる。この場合、窒化層の厚みを0.03mm以上として、キャビティ面のビッカース硬度を700以上とすることが好ましい。
【0019】
鋼材の別の好適な例としては、SCM材が挙げられる。この場合においても、キャビティ面のビッカース硬度を700以上とすることが好ましい。なお、SCM材はSKD材に比して軟質であるので、ビッカース硬度を700以上とするためには、窒化層の厚みは0.1mm以上とする。
【0020】
本発明に係る鋳造用金型に対しては、後述するように、ショットピーニング処理を2回施すようにしてもよい。この場合、キャビティ面の最大高さは8μm以下となり、圧縮残留応力は1200MPaよりも大きくなる。これにより、一層耐久性に優れる鋳造用金型とすることができる。
【0021】
なお、窒化層には、硫化鉄が含有されていることが好ましい。硫化鉄が存在する場合、潤滑性が付与される。このため、鋳造品を取り出す際に該鋳造品と鋳造用金型との摩擦抵抗が小さくなるので、鋳造用金型が欠損することを回避することもできる。
【0022】
しかも、この場合、圧縮残留応力の値が一層大きくなる。したがって、鋳造用金型の耐久性が一層向上するので、結局、鋳造品の製造コストを一層低廉化することができる。
【0023】
また、本発明に係る鋳造用金型の表面処理方法は、鋼材からなる鋳造用金型の少なくともキャビティ面に対してショットピーニング処理および窒化処理を施すことによって、前記キャビティ面の最大高さを16μm以下とするとともに、圧縮残留応力を1000MPaよりも大きくすることを特徴とする。
【0024】
鋳造用金型のキャビティ面に対してショットピーニング処理と窒化処理とを施すことにより、圧縮残留応力が極めて大きくかつ硬度が高いキャビティ面を有する鋳造用金型を得ることができる。上記したように、このような鋳造用金型は耐久性に優れ、したがって、長寿命である。
【0025】
なお、ショットピーニング処理と窒化処理はどちらを先に行ってもよいが、ショットピーニング処理を先とする方が好ましい。この場合、ショットピーニング処理によってキャビティ面が平滑化されている。しかも、該キャビティ面には、圧縮応力が加えられている。このため、浸硫窒化処理において、窒素原子および硫黄原子がFeと容易に結合する。
【0026】
ショットピーニング処理を先に行った場合、窒化処理を施した後に再度ショットピーニング処理を行い、前記キャビティ面の最大高さを8μm以下とするとともに、圧縮残留応力を1200MPaよりも大きくすることが好ましい。これにより、耐久性が一層良好な鋳造用金型を得ることができる。
【0027】
ここで、窒化処理として、浸硫窒化、または窒化ガスを使用するガス窒化を採用した場合、鋳造用金型に残留する圧縮残留応力をさらに上昇させることができるので好適である。特に、浸硫窒化の場合、窒化層に硫化鉄を含有させることに伴ってキャビティ面に潤滑性を付与することができる。
【0028】
なお、本発明に係る表面処理方法は、鋳造作業に使用されていない鋳造用金型のみならず、鋳造作業に使用された鋳造用金型に対しても施すことができる。この場合、鋳造作業に繰り返し使用されることに伴って低下した圧縮残留応力を再度大きくすることができる。すなわち、鋳造用金型に耐久性が再度付与され、ヒートクラック等が発生することを回避できるようになるので、鋳造用金型の寿命をさらに長期化することができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る鋳造用金型およびその表面処理方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
本実施の形態に係る鋳造用金型を備える鋳造装置の概略縦断面説明図を図1に示す。この鋳造装置10は、アルミニウムからなる鋳造品としての図示しないシリンダブロックを鋳造するためのものであり、固定型12と、側方可動型14、16と、上方可動型18とを鋳造用金型として具備する。このうち、固定型12にはボアピン20が設けられており、このボアピン20にスリーブ22が外装されることにより、鋳造装置にシリンダブロックを得るためのキャビティ24が形成される。
【0031】
キャビティ24には、シリンダブロックのウォータジャケットを形成するための砂中子26が配置されている。該砂中子26は、図示しない支持部材によって支持されている。
【0032】
ここで、固定型12、側方可動型14、16および上方可動型18は、SCM420材を母材層として有する鋼材からなる。そして、前記各型12、14、16、18におけるキャビティ面には、図2に示すように、該SCM420材からなる母材層30上に形成された浸硫窒化層32が存在する。この浸硫窒化層32は、後述するように、母材層30に対して同時に供給された硫化ガスおよび窒化ガスを源とする硫黄原子と窒素原子とが母材層30に拡散した拡散層からなり、窒化層と硫化鉄とを含有する。
【0033】
浸硫窒化層32中の窒化鉄は、SCM420材(固定型12)の硬度を向上させる。すなわち、浸硫窒化層32が存在することによって固定型12のキャビティ面が高硬度となる。具体的には、キャビティ面は、ビッカース硬度にしておよそ700程度を示す。
【0034】
また、浸硫窒化層32中の硫化鉄は、固定型12に潤滑性を付与する成分である。換言すれば、硫化鉄が存在することによって固定型12の潤滑性が著しく向上し、その結果、かじりが生じることを抑制することができる。
【0035】
浸硫窒化層32の厚みは、固定型12の素材であるSCM420材が軟質であることから、固定型12のキャビティ面および表層部に充分な硬度を付与するため、0.1mm以上とすることが好ましい。なお、固定型12に充分な硬度を付与するには、浸硫窒化層32の厚みは最大でも0.2mm程度で充分である。
【0036】
そして、固定型12のキャビティ面における基準長さ0.8mm、評価長さ4mmでの最大高さ(以下、Ryとも表記する)は、16μm以下に設定されている。
【0037】
ここで、Ryは、JIS B 0601−2001に定義されている通りに求められ、キャビティ面の粗さを表す指標である。すなわち、図3に示すように、Ryは、キャビティ面の微細な凹凸を表す粗さ曲線CVから平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分における最も低い凹部40と、最も高い凸部42との高低差である。
【0038】
なお、上記したように、本実施の形態においては基準長さを0.8mmとし、かつ評価長さを4mmとしている。また、平均線とは、基準長さ0.8mmにおける各凹部の深さおよび各凸部の標高に基づいて最小自乗法により求められた直線である。
【0039】
キャビティ面におけるRyが16μm以下である固定型12は、後述するように、ショットピーニング処理を施すことによって得ることができる。さらに、ショットピーニング処理を2回行うことによって、キャビティ面のRyを8μm以下とすることもできる。
【0040】
また、ショットピーニング処理が施された固定型12においては、圧縮残留応力が1000MPaよりも大きくなる。特に、ショットピーニング処理が2回行われた場合、圧縮残留応力は、1200MPaよりも大きい値を示す。
【0041】
以上の構成は、残余の側方可動型14、16および上方可動型18の各キャビティ面においても同様である。
【0042】
上記したような構成の固定型12は、以下のようにして得ることができる。すなわち、まず、素材としてのSCM420材から、固定型12を公知の加工法によって作製する。
【0043】
次に、第1ショットピーニング工程において、固定型12のキャビティ面に対して粗加工のためのショットピーニング処理を施す。具体的には、粒径が200〜220メッシュのセラミックス粒子を含む水をキャビティ面に衝突させる。この際の条件は、例えば、セラミックス粒子を含んだ水を噴出させるポンプの噴出圧力を0.39〜0.59MPa(4〜6kgf/cm2)とし、かつセラミックス粒子がキャビティ面5cm2当たりに対して5〜10秒間衝突するようにすればよい。これにより、キャビティ面には、0.15〜0.2MPa(15〜20kgf/cm2)程度の圧縮応力が印加される。
【0044】
この第1ショットピーニング工程により、キャビティ面のRyが12〜16μm程度となるとともに、圧縮残留応力が1000MPaとなる。
【0045】
次に、第1ショットピーニング工程を経た固定型12を処理チャンバ内に収容し、浸硫窒化処理を施す。すなわち、処理チャンバの温度を505〜580℃、好ましくは約570℃に保持した後、アンモニアガス、硫化水素ガスおよび水素ガスを該処理チャンバ内に供給する。アンモニアガスの構成元素である窒素原子と、硫化水素の構成元素である硫黄原子とが、SCM420材(固定型12)の構成元素であるFeとそれぞれ拡散・結合することによって窒化鉄および硫化鉄が生成し、その結果、浸硫窒化層32が形成される。
【0046】
上記したように、キャビティ面は、前記第1ショットピーニング処理によって平滑化されている。しかも、該キャビティ面には、圧縮応力が加えられている。このため、浸硫窒化処理を施す際、窒素原子および硫黄原子がFeと容易に結合する。すなわち、浸硫窒化が容易に進行する。
【0047】
なお、水素ガスは、アンモニアガスおよび硫化ガスの活性を制御するための成分である。所定量の水素ガスをともに供給することにより、SCM420材がアンモニアガスによって腐食することを回避することができる。
【0048】
次に、第2ショットピーニング工程において、固定型12のキャビティ面に対して仕上げ加工のためのショットピーニング処理を施す。第2ショットピーニング工程は、粒径が200〜220メッシュのガラス粒子を含む水を、例えば、ポンプの噴出圧力を0.29〜0.49MPa(3〜5kgf/cm2)とし、かつセラミックス粒子がキャビティ面5cm2当たりに対して5〜10秒間衝突する条件下で行えばよい。
【0049】
この第2ショットピーニング工程により、キャビティ面のRyが4〜8μm程度となるとともに、圧縮残留応力が1200MPaよりも大きくなる。
【0050】
このようにして、キャビティ面に浸硫窒化層32を有し、かつキャビティ面のRyが8μm以下であるとともに圧縮残留応力が1200MPaよりも大きい固定型12が得られるに至る。勿論、側方可動型14、16および上方可動型18の各キャビティ面に対しても同様の表面処理を施すことにより、上記したようなキャビティ面を有する側方可動型14、16および上方可動型18を構成することができる。
【0051】
このように構成された鋳造用金型を使用してのシリンダブロックの作製は、以下のように遂行される。
【0052】
まず、図1に示すように、固定型12と、側方可動型14、16と、上方可動型18とが型締めされた状態で、例えば、アルミニウム等の溶湯が図示しないランナおよびゲートを介してキャビティ24内に充填される。充填された溶湯は、85〜100MPa程度の圧力で高圧鋳造される。
【0053】
この際、固定型12、側方可動型14、16、上方可動型18の圧縮残留応力が著しく大きいので、溶湯が導入されることに伴って型12、14、16、18に引っ張り応力が作用しても、その値が圧縮残留応力を上回ることはない。このため、該型12、14、16、18は、耐熱衝撃性に優れる。したがって、型12、14、16、18にヒートクラックが生じることが抑制されるので、該型12、14、16、18の寿命が長期化する。
【0054】
また、各キャビティ面に浸硫窒化層32が設けられているため、各型12、14、16、18とアルミニウム(溶湯)とが反応することも抑制される。
【0055】
高圧鋳造されたアルミニウムの溶湯は、金型が冷却固化されることに伴い凝固する。凝固が終了した後、上方可動型18および側方可動型14、16が固定型12から離間することによって型開きが行われ、次いで、図示しないノックアウトピンの作用下に、鋳造品であるシリンダブロックが取り出される。
【0056】
この際、浸硫窒化層32が設けられているために各キャビティ面がビッカース硬度にして700以上となっているので、鋳造品が摺接することに伴ってキャビティ面が切削されることが著しく抑制される。すなわち、キャビティ面が欠損することが回避される。
【0057】
しかも、この場合、浸硫窒化層32に硫化鉄が含有されているので、シリンダブロックとキャビティ面との摩擦抵抗は著しく小さい。したがって、かじりが生じることを抑制することもできる。
【0058】
なお、鋳造作業を繰り返すことによって型12、14、16、18の圧縮残留応力が低下していくので、最終的には、型12、14、16、18にヒートクラックが生じることになる。これを回避するためには、圧縮残留応力が低下した型12、14、16、18に対して上記の第1ショットピーニング処理、浸硫窒化処理および第2ショットピーニング処理を再度施せばよい。これにより、型12、14、16、18の圧縮残留応力を再度上昇させることができ、ヒートクラックが発生するまでの期間をさらに長期化することができる。
【0059】
すなわち、本実施の形態に係る表面処理方法は、鋳造作業に供される前の型12、14、16、18に適用できるのみならず、鋳造作業に繰り返し使用されて圧縮残留応力が低下した型12、14、16、18に対しても適用することができる。これにより、型12、14、16、18の寿命を一層長期化することができる。
【0060】
このように、型12、14、16、18に対してショットピーニング処理と窒化処理とを施すことによって、該型12、14、16、18の寿命を長期化することができる。このため、該型12、14、16、18の交換頻度が可及的に少なくなるので、鋳造品であるシリンダブロックの製造コストを低廉化することができる。
【0061】
なお、本実施の形態においては、ショットピーニング処理を2回行うようにしているが、ショットピーニング処理は1回でもよい。この場合、浸硫窒化処理を行った後にショットピーニング処理を行うようにしてもよい。
【0062】
また、固定型12、側方可動型14、16および上方可動型18のキャビティ面にのみならず、全表面に亘ってショットピーニング処理および窒化処理を施すようにしてもよいことはいうまでもない。
【0063】
さらに、上記した実施の形態では、SCM420材からなる鋳造用金型を例示して説明したが、特にこれに限定されるものではなく、鋼材からなる鋳造用金型であればよい。例えば、SKD61材からなる鋳造用金型とすることもできる。この場合、浸硫窒化層32の厚みは、0.03mmとすれば充分である。
【0064】
そして、浸硫窒化層32は、硫化鉄および窒化鉄からなる化合物層が上記の拡散層上に形成されたものであってもよい。この場合、脆性が増すことを回避するために、化合物層の厚みを6μm以下に設定することが好ましい。
【0065】
さらにまた、浸硫窒化に代えてガス窒化を採用することにより、浸硫窒化層32に代えて窒化層を設けるようにしてもよい。
【0066】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、鋼材からなる鋳造用金型の少なくともキャビティ面に対してショットピーニング処理と窒化処理とを施すことにより、該キャビティ面に圧縮残留応力を残留させるようにしている。このため、鋳造作業中に該鋳造用金型に作用する引っ張り応力の値が圧縮残留応力を上回ることが回避される。したがって、耐熱衝撃性が向上する。また、キャビティ面に硬質の窒化層が存在するので、鋳造用金型が溶湯と反応することを回避することができるとともに、鋳造品を取り出す際にキャビティ面が切削されることを回避することができる。
【0067】
しかも、圧縮残留応力が低下した鋳造用金型に対してショットピーニング処理と窒化処理とを再度施すことによって圧縮残留応力を上昇させれば、鋳造作業に再度使用することも可能となる。
【0068】
すなわち、鋳造用金型の寿命を著しく長期化することができるので該鋳造用金型の交換頻度が低減され、結局、鋳造品の製造コストを低廉化することができるという効果が達成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係る鋳造用金型を備える鋳造装置の要部縦断面説明図である。
【図2】図1の鋳造装置を構成する固定型のキャビティ面の要部拡大説明図である。
【図3】最大高さの定義を説明する説明図である。
【符号の説明】
10…鋳造装置 12…固定型
14、16…側方可動型 18…上方可動型
24…キャビティ 30…母材層
32…浸硫窒化層 40…凹部
42…凸部

Claims (10)

  1. キャビティ面の圧縮残留応力が1000MPaよりも大きく、かつ最大高さが16μm以下であるとともに、前記キャビティ面の表層に窒化層を有する鋼材からなることを特徴とする鋳造用金型。
  2. 請求項1記載の鋳造用金型において、前記キャビティ面のビッカース硬度が700以上であるとともに、前記窒化層の厚みが0.03mm以上であり、かつ前記鋼材がSKD材であることを特徴とする鋳造用金型。
  3. 請求項1記載の鋳造用金型において、前記キャビティ面のビッカース硬度が700以上であるとともに、前記窒化層の厚みが0.1mm以上であり、かつ前記鋼材がSCM材であることを特徴とする鋳造用金型。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋳造用金型において、前記キャビティ面の圧縮残留応力が1200MPaよりも大きく、かつ最大高さが8μm以下であることを特徴とする鋳造用金型。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の鋳造用金型において、前記窒化層が硫化鉄を含有することを特徴とする鋳造用金型。
  6. 鋼材からなる鋳造用金型の少なくともキャビティ面に対してショットピーニング処理および窒化処理を施すことによって、前記キャビティ面の最大高さを16μm以下とするとともに、圧縮残留応力を1000MPaよりも大きくすることを特徴とする鋳造用金型の表面処理方法。
  7. 請求項6記載の表面処理方法において、ショットピーニング処理を施した後に窒化処理を行うことを特徴とする鋳造用金型の表面処理方法。
  8. 請求項7記載の表面処理方法において、前記窒化処理を施した後に再度ショットピーニング処理を行い、前記キャビティ面の最大高さを8μm以下とするとともに、圧縮残留応力を1200MPaよりも大きくすることを特徴とする鋳造用金型の表面処理方法。
  9. 請求項6〜8のいずれか1項に記載の表面処理方法において、前記窒化処理は、浸硫窒化、または窒化ガスを使用するガス窒化であることを特徴とする鋳造用金型の表面処理方法。
  10. 請求項6〜9のいずれか1項に記載の表面処理方法において、当該表面処理方法を鋳造作業に使用された鋳造用金型に対して施すことを特徴とする鋳造用金型の表面処理方法。
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