JP5644590B2 - 表面処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は表面処理方法に関する。特に、金属材の表面に炭素膜を形成する方法に関する。
焼き付きを防止するなどの目的で金型(特に鋳造型や鍛造型)の表面に特定の処理(表面処理)を行うことがある。その一つに、金属材(金型)の表層に窒化層を形成するとともに、その窒化層の上に炭素膜を形成する表面処理方法が開発されている(例えば特許文献1)。特許文献1では、窒化雰囲気下でアセチレンガス等とともに金型を熱処理するナノカーボン炭素膜形成工程を行った後で、形成されたナノカーボン炭素膜の表面にフラーレン類を塗布する工程を行う。ナノカーボン炭素膜形成工程によって、金型の表面近傍(表層)に窒化層が形成されるとともに、その上にナノカーボン炭素膜が形成される。ここで、窒化層とナノカーボン炭素膜との界面には化合物層が形成される。なお、「窒化層」とは、鉄製、或いは鉄を含む合金製の金型の表層に窒素が浸入することによって形成される層である。また、以下では、「ナノカーボン炭素膜」を単純に「炭素膜」と称することがある。
特開2010−36194号公報
本発明者は、鋭意研究の結果、ナノカーボン炭素膜形成工程を行うことによって金属材の表面に形成される炭素膜の耐久性は、金属材の表層に形成される窒化層の深さに影響されることを見出した。しかしながら、ナノカーボン炭素膜形成工程での処理条件(例えば、窒化雰囲気下でアセチレンガス等とともに金型を熱処理する時間)を調整すること等によっては、窒化層の深さを所望の深さに制御することができず、成膜される炭素膜の耐久性にもばらつきがあった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、金属材の表層に形成される窒化層の深さを制御でき、それによって高い耐久性を有する炭素膜を金属材の表面に安定的に形成する表面処理法を実現することにある。
本明細書は、第1工程と第2工程とをこの順序で行なう金属材の表面処理方法を開示する。第1工程は、金属材の表層に圧縮残留応力を付与する工程を含む。第2工程は、金属材の表層に窒化層が形成される窒化条件の下で有機ガスとともに金属材を熱処理することによって、金属材の窒化層の表面に、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブおよびカーボンナノフィラメントからなる群から選ばれる少なくとも1種のナノカーボン類を含むナノカーボン炭素膜を形成するナノカーボン炭素膜形成工程と、ナノカーボン炭素膜の表面にフラーレン類を塗布するフラーレン類塗布工程と、炭素膜が形成された金属材を400℃以上に加熱する焼成工程と、をこの順序で行うことを含む。
本発明者は、ナノカーボン炭素膜処理工程に先立って金属材の表層に圧縮残留応力を付与して積極的に金属材の表層に残留応力層を形成することによって、ナノカーボン炭素膜処理工程において金属材の表層に形成される窒化層を所望の深さに制御できることを見出した。特に、事前に圧縮残留応力を付与しておくと、付与しない場合に比べて窒化層が深くなる。上記の表面処理方法によれば、第1工程で金属材の表層に圧縮残留応力を付与し、残留応力層を形成することによって、第2工程において金属材の表層に形成される窒化層の深さを安定的に一定以上の深さに制御することができ、ひいては従来のものよりも高い耐久性を有する炭素膜を金属材の表面に安定的に形成することができる。
第1工程と第2工程をこの順序で2回以上繰り返して行ってもよい。この場合、第1工程を繰り返す毎に、前回に付与した圧縮残留応力よりも大きい残留応力を金属材の表層に付与することが好ましい。
本発明によれば、金属材の表層に形成される窒化層の深さを制御でき、高い耐久性を有する炭素膜を金属材の表面に安定的に形成することができる。
実施例1に係る表面処理方法を説明する図である。 実施例1に係る表面処理方法を説明する図である。 実施例2に係る表面処理方法を説明する図である。 ショットブラスト処理におけるショットエア圧力と、金属材の表層に形成される残留応力層の深さとの関係を示す図である。 第1工程で形成される残留応力層の深さと、第2工程で形成される窒化層の深さとの関係を示す図である。
本明細書が開示する金属材の表面処理方法は、第1工程と第2工程とをこの順序で行なう金属材の表面処理方法である。第1工程は、金属材の表層に圧縮残留応力を付与する工程を含む。金属材の表層に圧縮残留応力を付与することによって、金属材の表層に残留応力層を形成する。圧縮残留応力を付与する処理を積極的に行い、処理条件を調整することで安定的に所望の深さの残留応力層を形成することができる。残留応力層は、残留応力が作用したことが観察される層であり、基材と比較して、結晶欠陥、結晶歪みが多く観察される層である。
金属材の表層に圧縮残留応力を付与する方法は、金属材の内部に結晶欠陥、結晶歪みを形成する従来公知の方法を採用することができる。例えば、金属材の表面へ荷電粒子を照射する方法、溶接や熱処理等に伴う金属材の熱変形を利用する方法、金属材の表面にレーザを照射する方法、金属材の表面に機械的加工(研削、ショットブラスト、ピーニング処理等)を行う方法等が挙げられる。金属材の表面にレーザを照射する方法では、例えば、YAGレーザ等の固体レーザ等を好適に用いることができる。
金属材の表層に圧縮残留応力を付与する際、残留応力層の深さ、及び、残留応力の大きさを制御することが可能である。具体例を挙げて説明すると、例えば、荷電粒子を照射する方法は、金属材の表面にイオン、中性子、電子線、プラズマ等の荷電粒子を照射し、金属材の内部に結晶欠陥を形成する方法である。照射された荷電粒子は、金属材の内部で停止する直前に集中して結晶欠陥を形成するという特性(Braggの特性)を有する。荷電粒子の照射強度や照射量を調整したり、エネルギー吸収材を介して照射を行うことによって、結晶欠陥の分布や濃度、即ち圧縮残留応力層の深さと残留応力の大きさを制御することができる。レーザを照射する方法では、レーザの強度や照射量を調整することによって、圧縮残留応力層の深さと残留応力の大きさを制御することができる。
第2工程では、ナノカーボン炭素膜形成工程と、フラーレン類塗布工程と、焼成工程をこの順序で行うことを含む。金属材は、特に限定されないが、鉄または鉄を含む合金製であることが好ましい。
ナノカーボン炭素膜形成工程では、金属材の表層に窒化層が形成される条件(以下、窒化条件という)の下で有機ガスとともに金属材を熱処理する。これによって、金属材の表面近傍(表層)に窒素が浸入し、元々の金属材料が窒化して窒化層が形成されるとともに、その窒化層の表面に、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブおよびカーボンナノフィラメントからなる群から選ばれる少なくとも1種のナノカーボン類を含むナノカーボン炭素膜が形成される。なお、窒化層が形成される条件下で金属材を熱処理するとは、一例として、アンモニアガス等を用いた窒化ガス雰囲気下で金属材を熱処理することである。その他、ガス以外の窒化成分とともに金属材を熱処理することであってもよい。有機ガスは、窒化雰囲気下で熱処理を行うことによって金属材の表面に、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブおよびカーボンナノフィラメントからなる群から選ばれる少なくとも1種のナノカーボン類を含むナノカーボン炭素膜を形成可能な従来公知の有機ガスを利用することができる。そのような有機ガスの好適な一例はアセチレンガスである。アセチレンガスから炭素(C)が分離してカーボンナノコイル、カーボンナノチューブおよびカーボンナノフィラメントからなる群から選ばれる少なくとも1種のナノカーボン類を含むナノカーボンとなり、そのナノカーボンが炭素膜となって金属材表面に膜を形成する現象は良く知られている。
第1工程によって、金属材の表層には、残留応力層が形成される。残留応力層は、結晶欠陥、結晶歪みを多く有するため、ナノカーボン炭素膜形成工程において、窒化ガス(アンモニアガス等)の反応物質が基材の表層に侵入し易くなる。第1工程によって、残留応力層を形成することによって、残留応力層の深さに応じた深さの窒化層を金属材の表層に形成することができる。残留応力層の深さを調整することによって、窒化層を所望の深さに調整することができる。窒化層の深さが深いほど、ナノカーボン炭素膜形成工程によって形成される炭素膜の耐久性が向上する。窒化層の深さを所望の深さに調整することによって、ナノカーボン炭素膜形成工程によって形成される炭素膜が十分な耐久性(特に、従来よりも高い耐久性)を有するように調整することができる。
次に行うフラーレン類塗布工程では、ナノカーボン炭素膜形成工程で形成したナノカーボン炭素膜の表面にフラーレン類が塗布される。ナノカーボン炭素膜の表面にフラーレン類を塗布し、さらに加熱すると、ナノカーボン炭素膜と非晶質化したフラーレンが金属結合する。これによって、炭素膜が緻密化して強固になり、炭素膜の耐久性が向上する。ここで、フラーレンとは、閉殻構造を有する炭素クラスタであり、通常は炭素数が60〜130の偶数である。具体例としては、C60、C70、C76、C78、C80、C82、C84、C86、C88、C90、C92、C94、C96及び、これらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスタが挙げられる。本明細書でいうフラーレン類とは、上記のフラーレンの他、フラーレン分子に他の分子や官能基を化学的に修飾したフラーレン誘導体を含む。フラーレン類を塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、フラーレン類の粉体をナノカーボン炭素膜上に直接塗布する方法を用いてもよく、フラーレン類をアルコール等の溶媒に分散させた混合液を刷毛塗りや噴霧等によって塗布する方法を用いてもよい。
次に行う焼成工程では、ナノカーボン炭素膜およびフラーレン類を含む炭素膜(以下、両者を合わせて単に「炭素膜」という)を、金属材とともに400℃以上に加熱する。金属材と比較して炭素膜は非常に薄いので、金属材の温度が400℃以上になるように加熱すれば、炭素膜の温度を400℃以上にすることができる。また、炭素膜に金属板等の加熱体を接触させて、加熱体の温度を400℃以上にしてもよい。また、400℃以上の金属溶湯を用いて鋳造を行うことによって、加熱を行ってもよい。炭素膜を加熱する温度の上限は、炭素膜を形成する金属材の耐熱温度によって決まる。例えば、金属材がSKD61(合金工具鋼鋼材:JIS G4404)である場合には、金属材の変形を防ぐために、金属材の温度は700℃以下に設定することが好ましい。また、金属材の温度が400℃以上となる時間の合計は、180秒以上であることが好ましく、900秒以上であることがより好ましい。なお、金属材の加熱は、一度に行なってもよいし、数回に分けて行ってもよい。例えば、金属材の温度が400℃以上となる時間の合計を180秒とする場合、金属材の温度が400℃以上に到達した状態を180秒保持してもよいし、金属材の温度が400℃以上に到達した状態を30秒保持することを6回繰り返してもよい。
第1工程と第2工程をこの順序で2回以上繰り返して行ってもよい。繰り返して行う第1工程と第2工程は、全て同じ条件で行ってもよいし、繰り返し回数ごとに、第1工程、第2工程の処理条件を相違させてもよい。例えば、第1工程後に金属材の表面に形成される残留応力層の深さが所定の深さとなるように、繰り返し回数ごとに第1工程で付与する圧縮残留応力の大きさを適宜調整してもよい。これによって、金属材の表層に形成される残留応力層の深さを所望の深さに調整することができる。特に、第1工程を繰り返す際、前回に付与したときよりも大きい圧縮残留応力を与えることが好ましい。第1工程として、ショットブラスト処理を行う場合には、第1工程を繰り返す際、前回のショットエア圧力よりも大きいショットエア圧力でショットブラスト処理を行ってもよい。また、第2工程に含まれる各工程についても、窒化条件や、焼成温度等の諸条件を、全て同じ条件としてもよいし、繰り返し回数ごとに相違させてもよい。
(第1工程)
本実施例では、ショットブラスト処理法によって、金属材の表層に残留応力層を形成する場合について説明する。ショットブラスト処理法は、投射材と呼ばれる粒体を金属材の表面に衝突させる処理方法である。ショットブラスト処理を行うと、処理面の表面応力の均一化、残留圧縮応力の付与の作用により、第1の目的である窒化層深さ調整のほか、処理面の表面研削や付着物除去、または処理面の耐久性向上等の効果を得ることができる。ショットブラスト処理で用いる投射方法としては、限定されないが、例えば、機械式、空気式、湿式の投射方法が挙げられる。投射材としては、例えば、金属系、セラミック系等の投射材が挙げられ、処理する金属材と同じ金属材料を用いることが好ましいが、これに限定されない。投射材の大きさや材料、ショットブラスト処理の圧力(投射材の投射圧力を意味する)等の諸条件を調整することによって、金属材の表面および内部の状態を調整することができる。後に形成する窒化層の深さを調整することができるほか、例えば、金属材が所望の表面粗さになるように調整することができる。
本実施例では、金属材として鋳造用の金型100(SKD61製)を用いた。図1は、金型100の意匠面(鋳造の際に溶湯が接触する面であり、キャビティ面と呼ばれる場合もある)近傍の断面の一部を概念的に示す図である。金型100は、基材101と、基材101の表面に形成された残留応力層103とを備えている。金型100の意匠面に投射材を投射してショットブラスト処理を行うと、金型100の表層に結晶欠陥、結晶歪みが生じて、金型100の被投射面側の表層に残留応力層103が形成される。残留応力層103は、金型100の表面から深さD1までの領域に形成されている。本実施例では、ショットブラスト処理のショットエア圧力は、0.4MPaであり、直径0.3mmのスチールグリッドを投射材として用いた。これによって、第1工程後の金型100の意匠面の表面粗さRaを、Ra=1.5μm±0.2μm以内とすることができた。
ショットブラスト処理条件を調整することによって、残留応力層103の深さD1を調整することができる。図4は、自重式ノズルブラスト装置を用いて、直径0.3mmのスチールグリッドを金属材の表面に投射した場合のショットエア圧力と、これによって金属材の表層に形成された残留応力層の深さについて、実験によって調べた結果を示す図である。なお、残留応力層の深さは、X線回折法を用いて結晶欠陥または結晶歪みを測定した結果に基づいて算出した。残留応力層深さの算出式については説明を省略する。実験例1および実験例2で用いた金属材の材料は、SKD61であり、ショットブラスト処理を行う前における金属材のビッカース硬度は、実験例1で用いた金属材では400Hvであり、実験例2で用いた金属材では1200Hvであった。図4は、ショットエア圧力を大きくするほど、残留応力層の深さが深くなることを示している。また、実験例1と実験例2において、残留応力層の深さは、金属材の被処理面の表面粗さとも相関していることがわかった。金属材の被処理面の表面粗さを測定するだけで、残留応力層の深さを推定できるため、残留応力層深さの検査が簡易にできる。
(第2工程)
(ナノカーボン炭素膜形成工程)
ナノカーボン炭素膜形成工程では、特開2008−105082に開示された、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブ、カーボンフィラメント等のナノカーボン類を含む炭素膜(ナノカーボン炭素膜)を金型に形成する方法を行った。
図1に示す金型100を雰囲気炉に入れ、真空ポンプで減圧して空気をパージした後に窒素ガス(N)を流通させ、N雰囲気とした。次に、反応ガス(硫化水素(HS)ガス、アセチレン(C)ガス、アンモニア(NH)ガス)を流通させながら、0.5h(30分)で480℃まで昇温した。昇温開始から0.5h後に480℃に到達した時点で硫化水素ガスの供給を停止し、さらに0.5h後に、アセチレンガスの供給を停止した。アンモニアガス流通下、480℃でさらに3.0h(3時間)保持した後、アンモニアガスの供給を停止し、窒素ガスに切り替え、降温を開始した。
(第2工程)
(フラーレン類塗布工程)
次に、フラーレン類塗布工程を行った。1重量%のフラーレンC60(フロンティアカーボン社製 nanom purple ST)を含有するイソプロピルアルコールを、ナノカーボン炭素膜が形成された金型100の表面に刷毛で塗布した。イソプロピルアルコールは常温で揮発するので、ナノカーボン炭素膜内には、フラーレンC60だけが残存する。この段階で、ナノカーボン炭素膜とフラーレンC60は、ファンデルワールス力で結合している。その後、300℃に加熱する。この段階で、ナノカーボン炭素膜とフラーレンC60は共有結合している。フラーレンC60は、ナノカーボン炭素膜の表面側に偏在し、ナノカーボン炭素膜の内部にまで浸透していない。
(焼成工程)
次に、焼成工程を行った。溶湯として、ADC12(アルミニウム合金)を用い、金型100の温度を650℃にして鋳造を行った。これによって、金型100の表面に形成された炭素膜は、溶湯によって瞬時に密閉されるとともに加熱され、炭素膜が密閉された状態でフラーレンが昇華する。このため、フラーレンC60は、ナノカーボン炭素膜の内部に浸透する。その後、金型100を400℃未満にし、溶湯から取り出し、付着している金属溶湯を除去する。次いで、金型100を室温で冷却する。これにより、昇華しているフラーレンC60がナノカーボン炭素膜内で凝結する。フラーレンC60が凝結すると、ナノカーボン炭素膜と非晶質化したフラーレンが金属結合する。これによって、炭素膜が緻密化して強固になり、金型100から剥離することを顕著に抑制することができる。なお、金型100とナノカーボン炭素膜の間に窒化層が形成されるため、昇華したフラーレンC60が金属材内に浸炭することが防止される。
図2は、第1工程と第2工程を行った後の金型100を概念的に図示している。金型100の表層には窒化層105が形成されており、金型100の表面には、炭素膜107が形成されている。窒化層105は、金型100の材料であるSKD61が窒化した層であり、金型100の表面から深さD2まで達している。炭素膜107は、ナノカーボン炭素膜の表面にフラーレン類を塗布し、焼成した後の炭素膜である。炭素膜107の厚みはd1である。炭素膜107と窒化層105との間に化合物層が形成されることもある。
残留応力層103の深さを制御することによって、窒化層105の深さを制御することができる。図5は、残留応力層の深さと、窒化層の深さとの関係について、実験によって調べた結果を示す図である。用いた金属材の材料はSKD61であり、残留応力層の深さは、X線回折法によって測定した。窒化層の深さは、ピクリン酸で腐食させた断面に光学顕微鏡を用いることで測定した。図5に示すように、残留応力層103が深いほど、窒化層105の深さが深くなることがわかった。本実施例では、図5が示しているように、残留応力層を深くするほど、窒化層も深くなる。残留応力層の深さが30μ以上では、窒化層の深さは、概ね、残留応力層の深さ+10μである。即ち、図1に示した残留応力層103は全て、図2に示した窒化層105に含まれることになる。残留応力層103の深さD1は、ショットブラスト処理の条件(ショット時のショットエア圧力、投射材の材料、大きさ、形状等)を調整することによって、制御することができる。本実施例によれば、残留応力層103の深さD1を制御することによって、窒化層105の深さD2を制御し、高い耐久性を有する炭素膜を金属材の表面に安定的に形成することができる。特に、本実施例のように、400〜500℃程度の軟窒化条件下でナノカーボン炭素膜形成工程を行う場合には、残留応力層の深さを制御することによって、より精度よく、窒化層の深さを制御することができる。
本実施例では、第1工程、第2工程を2回繰り返して行う。1回目の第1工程および第2工程は、実施例1で説明した各工程と同様である。図2に示す金型100は、1回目の第2工程後の金型100の状態を示している。2回目の第1工程では、図2に示す金型100の表面に形成された炭素膜107の表面に対し、ショットブラスト処理を行う。これによって、金型100の表層に圧縮応力を付与することができる。2回目の第1工程におけるショットブラスト処理条件は、ショットエア圧力を0.6MPaとした以外は、1回目の第1工程と同様であった。これによって、2回目の第1工程後の金型100の意匠面の表面粗さRaを、Ra=1.5μm±0.2μm以内とすることができた。その後、1回目に行った第2工程と同様の条件で、2回目の第2工程を行った。
図3は、2回目の第1工程と第2工程を行った後の金型100を示している。金型100の表層には窒化層115が形成されており、金型100の表面には、炭素膜117が形成されている。窒化層115は、金型100の材料であるSKD61の窒化物層であり、金型100の表面から深さD3までの領域に窒化層115が形成されている。炭素膜117は、ナノカーボン炭素膜の表面にフラーレン類を塗布し、焼成した後の炭素膜である。炭素膜117の厚みはd2である。炭素膜117と窒化層115との間に化合物層が形成されることもある。炭素膜117の厚みd2は、1回目の第2工程で形成された炭素膜107の厚みd1と同程度であり、炭素膜117は、炭素膜107よりも緻密化している。窒化層115の深さD3は、1回目の第2工程で形成された窒化層105の深さD2よりも深い。
変形例で説明したとおり、第1工程と第2工程をこの順序で2回以上繰り返して行うと、金型100の表層に形成される窒化層の深さは深くなり、金型100の表面に形成される炭素膜は、緻密化される。2回目の第2工程後に金型100の表面に形成される炭素膜117の耐久性は、1回目の第2工程後に金型100の表面に形成される炭素膜107よりも優れている。
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
100 金型
101 基材
103 残留応力層
105、115 窒化層
107、117 炭素膜

Claims (3)

  1. 第1工程と第2工程とをこの順序で行なう金属材の表面処理方法であり、
    第1工程は、
    金属材の表層に圧縮残留応力を付与する工程を含み、
    第2工程は、
    金属材の表層に窒化層が形成される窒化条件の下で有機ガスとともに金属材を熱処理することによって、金属材の窒化層の表面に、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブおよびカーボンナノフィラメントからなる群から選ばれる少なくとも1種のナノカーボン類を含むナノカーボン炭素膜を形成するナノカーボン炭素膜形成工程と、
    ナノカーボン炭素膜の表面にフラーレン類を塗布するフラーレン類塗布工程と、
    炭素膜が形成された金属材を400℃以上に加熱する焼成工程と、
    をこの順序で行うことを含む、
    金属材の表面処理方法。
  2. 第1工程と第2工程をこの順序で2回以上繰り返して行う、請求項1に記載の表面処理方法。
  3. 第1工程を繰り返す毎に、前回に付与した圧縮残留応力よりも大きい圧縮残留応力を金属材の表層に付与する、請求項2に記載の表面処理方法。
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