JP5614292B2 - 金型の表面処理方法 - Google Patents
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Description
本発明は金型の表面処理方法に関する。特に、金型の表面に炭素膜を形成する方法に関する。
一定の形状、一定の品質の製品を大量に生産するために、金型を使用する技術が知られている。特許文献1の技術では、成形後の製品を金型から取り外し易くするために、金型の表面に炭素膜を形成する。特許文献1では、窒化雰囲気下でアセチレンガス等とともに金型を熱処理するナノカーボン炭素膜形成工程を行った後で、形成されたナノカーボン炭素膜の表面にフラーレン類を塗布する工程を行う。ナノカーボン炭素膜形成工程によって、金型の表面にナノカーボン炭素膜が形成されるとともに、金型の表面近傍に窒化層が形成され、ナノカーボン炭素膜と窒化層との界面に化合物層が形成される。なお、「窒化層」は、鉄製、或いは鉄を含む合金製の金型の表層に窒素が浸入することによって形成される層である。また、以下では、「ナノカーボン炭素膜」を単純に「炭素膜」と称することがある。
本発明者は、鋭意研究の結果、以下のことを見出すに至った。すなわち、金型表面に形成された炭素膜の耐久性を向上させるためには、上記の窒化層を厚くし、化合物層を薄くすることが好ましい。また、炭素膜の厚みは、金型の表面を保護するためにはある程度厚いことが好ましいが、厚過ぎると後工程で塗布するフラーレン類の効果を維持することの妨げとなるため、所望の厚みに調整することが好ましい。ナノカーボン炭素膜形成工程の処理時間を長くすれば、窒化層を厚くすることができるが、化合物層や炭素膜も同様に厚くなってしまう。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、化合物層および炭素膜の厚みを増すことなく窒化層のみを選択的に厚くし、金型表面に形成される炭素膜の耐久性を向上させる技術を提供することにある。
本明細書は、第1工程と第2工程と第3工程をこの順序で行う金型の表面処理方法を開示する。第1工程は、第1ナノカーボン炭素膜形成工程、第1フラーレン類塗布工程、及び、第1焼成工程をこの順序で行うことを含む。第1ナノカーボン炭素膜形成工程では、金型の表層に窒化層が形成される条件(窒化条件)下で有機ガスとともに金型を熱処理することによって、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブおよびカーボンナノフィラメントからなる群から選ばれる少なくとも1種のナノカーボン類を含むナノカーボン炭素膜を金型表面に形成する工程である。第1フラーレン類塗布工程は、ナノカーボン炭素膜の表面にフラーレン類を塗布する工程である。第1焼成工程は、炭素膜が形成された金型を400℃以上に加熱する工程である。第2工程は、第1工程によって形成された炭素膜の表面にショットブラスト処理を含む。第3工程は、第2ナノカーボン炭素膜形成工程、第2フラーレン類塗布工程、及び、第2焼成工程をこの順序で行うことを含む。第2ナノカーボン炭素膜形成工程は、第2工程後の金型を、上記した窒化条件と同じ条件の下で有機ガスとともに熱処理することによって、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブおよびカーボンナノフィラメントからなる群から選ばれる少なくとも1種のナノカーボン類を含む新たなナノカーボン炭素膜を金型表面に形成する工程である。第2フラーレン類塗布工程は、新たなナノカーボン炭素膜の表面にフラーレン類を塗布する工程である。第2焼成工程は、新たな炭素膜が形成された金型を400℃以上に加熱する工程である。
上記の表面処理方法によれば、第1工程のナノカーボン炭素膜形成工程(第1ナノカーボン炭素膜形成工程)によって、金型の表面にナノカーボン炭素膜が形成されるとともに、金型の表面近傍に窒化層が形成され、ナノカーボン炭素膜と窒化層との界面に化合物層が形成される。フラーレン類塗布工程と焼成工程によって、表面が非晶質化して緻密化された炭素膜が形成される。第1工程の後に第2工程を行った上で、第1工程と同様のナノカーボン炭素膜形成工程(第2ナノカーボン炭素膜形成工程)と、フラーレン類塗布工程(第2フラーレン類塗布工程)と、焼成工程(第2焼成工程)を行う第3工程を行うと、化合物層と炭素膜の厚みを厚くすることなく、窒化層の厚みのみを厚くすることができる。また、金型表面に形成される炭素膜の耐久性が向上する。
第1工程の前に、金型の表面にショットブラスト処理を行うプレ処理工程をさらに含んでいてもよい。また、第1工程を1回行った後で、第2工程と第3工程をこの順序で2回以上繰り返して行ってもよい。また、第2工程のショットブラスト処理の圧力は、プレ処理工程のショットブラスト処理の圧力よりも高いことが好ましい。
本発明によれば、化合物層および炭素膜の厚みを増すことなく、窒化層のみを選択的に厚くすることができる。金型表面に形成される炭素膜の耐久性を向上させることが可能となる。
本明細書が開示する金型の表面処理方法は、第1工程と、第2工程と、第3工程をこの順序で行う。第1工程は、金型の表層に窒化層が形成される条件(以下、窒化条件という)下で有機ガスとともに金型を熱処理することによって、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブおよびカーボンナノフィラメントからなる群から選ばれる少なくとも1種のナノカーボン類を含むナノカーボン炭素膜を金型の表面に形成する第1ナノカーボン炭素膜形成工程と、ナノカーボン炭素膜の表面にフラーレン類を塗布する第1フラーレン類塗布工程と、炭素膜が形成された金型を400℃以上に加熱する第1焼成工程とをこの順序で行う工程である。なお、ここで用いられる金型は、鉄を含む合金製である。
第1ナノカーボン炭素膜形成工程では、金型の表面に、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブおよびカーボンナノフィラメントからなる群から選ばれる少なくとも1種のナノカーボン類を含むナノカーボン炭素膜が形成されるとともに、金型の表面近傍(表層)に窒素が浸入し、元々の金型材料が窒化して窒化層が形成される。窒化層が形成される条件下で金型を熱処理するとは、アンモニアガス等を用いた窒化ガス雰囲気下で金型を熱処理することであってよく、ガス以外の窒化成分とともに金型を熱処理することであってもよい。有機ガスは、窒化雰囲気下で熱処理を行うことによって金型の表面に、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブおよびカーボンナノフィラメントからなる群から選ばれる少なくとも1種のナノカーボン類を含むナノカーボン炭素膜を形成可能な従来公知の有機ガスを利用することができる。そのような有機ガスの好適な一例はアセチレンガスである。
第1フラーレン類塗布工程では、第1ナノカーボン炭素膜形成工程で形成したナノカーボン炭素膜の表面にフラーレン類が塗布される。ここで、フラーレンとは、閉殻構造を有する炭素クラスタであり、通常は炭素数が60〜130の偶数である。具体例としては、C60、C70、C76、C78、C80、C82、C84、C86、C88、C90,C92、C94、C96及び、これらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスタが挙げられる。本明細書でいうフラーレン類とは、上記のフラーレンの他、フラーレン分子に他の分子や官能基を化学的に修飾したフラーレン誘導体を含む。フラーレン類を塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、フラーレン類の粉体をナノカーボン炭素膜上に直接塗布する方法を用いてもよく、フラーレン類をアルコール等の溶媒に分散させた混合液を刷毛塗りや噴霧等によって塗布する方法を用いてもよい。
第1焼成工程では、ナノカーボン炭素膜およびフラーレン類を含む炭素膜(以下、単に「炭素膜」という)を、金型とともに400℃以上に加熱する。金型と比較して炭素膜は非常に薄いので、金型の温度が400℃以上になるように加熱すれば、炭素膜の温度を400℃以上にすることができる。また、炭素膜に金属板等の加熱体を接触させて、加熱体の温度を400℃以上にしてもよい。また、400℃以上の金属溶湯を用いて鋳造を行うことによって、加熱を行ってもよい。炭素膜を加熱する温度の上限は、炭素膜を形成する金型の耐熱温度によって適宜設定できる。例えば、金型がSKD61(合金工具鋼鋼材:JIS G4404)である場合には、金型の変形を防ぐために、金型の温度は700℃以下に設定することが好ましい。また、金型の温度が400℃以上となる時間の合計は、180秒以上であることが好ましく、900秒以上であることがより好ましい。なお、金型の加熱は、一度に行なってもよいし、数回に分けて行ってもよい。例えば、金型の温度が400℃以上となる時間の合計を180秒とする場合、金型の温度が400℃以上に到達した状態を180秒保持してもよいし、金型の温度が400℃以上に到達した状態を30秒保持することを6回繰り返してもよい。
第2工程では、第1工程によって形成された炭素膜の表面に投射材と呼ばれる粒体を衝突させて、ショットブラスト処理を行う。ショットブラスト処理を行うと、処理面の表面応力の均一化、残留圧縮応力の付与の作用により、処理面の表面研削や付着物除去、または処理面の耐久性向上等の効果を得ることができる。例えば、ショットブラスト処理の条件を調整することで、処理面の表面粗さを調整することができる。
ショットブラスト処理で用いる投射方法としては、限定されないが、例えば、機械式、空気式、湿式の投射方法が挙げられる。投射材としては、例えば、金属系、セラミック系等の投射材が挙げられ、処理する金型と同じ金属材料を用いることが好ましいが、これに限定されない。投射材の大きさや材料、ショットブラスト処理の圧力(投射材の投射圧力)を調整することによって、処理面の状態を調整することができる。例えば、処理面が所望の表面粗さになるように調整することができる。
第3工程では、第2工程後の金型を、第1工程における窒化条件と同等の条件下で有機ガスとともに熱処理することによって、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブおよびカーボンナノフィラメントからなる群から選ばれる少なくとも1種のナノカーボン類を含む新たなナノカーボン炭素膜を金型表面に形成する第2ナノカーボン炭素膜形成工程と、新たなナノカーボン炭素膜の表面にフラーレン類を塗布する第2フラーレン類塗布工程と、炭素膜が形成された金型を400℃以上に加熱する第2焼成工程とをこの順序で行う。第3工程で行う各工程と、第1工程で行う各工程の条件は、一致させてもよく、互い異なっていてもよい。例えば、第1工程における焼成工程の焼成温度および焼成時間と、第3工程における焼成温度および焼成時間が互いに相違していてもよい。なお、窒化条件については、窒素が金型表面に浸入し得るという条件が同じであれば、詳細な条件は相違していてもよい。例えば、アンモニアガスを用いて窒化を行う場合に、第1工程におけるアンモニアガスの濃度と第3工程におけるアンモニアガスの濃度が相違していてもよい。
第1工程の前に、金型の表面にショットブラスト処理を行うプレ処理工程をさらに含んでいてもよい。ショットブラスト処理を行った後で第1工程を行うことによって、金型の表面に形成される炭素膜の緻密度を向上させることができる。
第1工程を1回行った後で、第2工程と第3工程をこの順序で2回以上繰り返して行ってもよい。繰り返して行う第2工程と第3工程は、全て同じ条件で行ってもよいし、繰り返し回数ごとに、第2工程、第3工程の処理条件を相違させてもよい。例えば、第2工程後の処理面の粗さが所定の粗さとなるように、第2工程のショットブラスト処理の圧力を適宜調整してもよい。また、第2工程で行うショットブラスト処理の圧力を、繰り返し回数ごとに徐々に高くしていってもよい。繰り返し回数が増える毎に炭素膜は緻密化する傾向があるから、ショットブラスト処理の圧力を徐々に高くすることによって、処理面を所望の表面粗さに調整することができる。
第2工程のショットブラスト処理の圧力は、プレ処理工程のショットブラスト処理の圧力よりも高いことが好ましい。より具体的には、プレ処理工程後の処理面の表面粗さと、第2工程後の処理面の表面粗さが、同程度となるように、第2工程のショットブラスト処理の圧力をプレ処理工程のショットブラスト処理の圧力よりも高くすることが好ましい。なお、「ショットブラスト処理の圧力」とは、投射材の射出圧を意味する。
図1は、第1ナノカーボン炭素膜形成工程で行う熱処理時間と、これによって形成される窒化層の厚み、化合物層の厚み、炭素膜の厚みを調べた結果を示している。図1に示すように、第1ナノカーボン炭素膜形成工程で熱処理を行う時間を長くするほど、窒化層の厚みを厚くすることができるが、化合物層および炭素膜の厚みも厚くなることがわかった。
これに対して、本明細書が開示する技術によれば、以下の実施例で具体的に説明するように、化合物および炭素膜の厚みを厚くすることなく窒化層のみを選択的に厚くすることができることが明らかになった。その結果、金型表面に形成される炭素膜の耐久性が向上することが明らかになった。この効果は、ナノカーボン炭素膜形成工程を複数回に分け、第2工程を行った後に第3工程を行うことによって化合物層と炭素膜が緻密化された結果、得られたものと考えられる。
また、本明細書が開示する技術によれば、第2工程を行った後に第3工程を行うことによって化合物層と炭素膜が緻密化されるため、鋳造成形時に、炭素膜が変形することが抑制される。本明細書に係る表面処理方法を用いて処理した金型を用いれば、鋳造の寸法精度を向上させることができる。高い寸法精度が要求される部材(例えばシリンダーライナー装着部やABSカバー)を鋳造成形するための金型の表面処理方法として、本明細書が開示する技術は特に好適に利用することができる。
実施例1では、シリンダーライナー装着部のシリンダブロックを鋳造する際にライナーに嵌め込んで用いられるボアピン(SKD61製)に対して、図2に示す工程で表面処理を行った。
(プレ処理工程)
ステップS101において、エアブラストにより、直径0.3mmのスチールグリッドを0.4MPaのショットブラスト処理圧(エア圧)で投射した。プレ処理後の処理面の表面粗さRaは、Ra=1.5μm±0.2μm以内であった。
ステップS101において、エアブラストにより、直径0.3mmのスチールグリッドを0.4MPaのショットブラスト処理圧(エア圧)で投射した。プレ処理後の処理面の表面粗さRaは、Ra=1.5μm±0.2μm以内であった。
(第1工程)
(第1ナノカーボン炭素膜形成工程)
ステップS103では、下記の方法によってナノカーボン炭素膜を形成した。尚、下記の方法は、特開2008−105082に開示された、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブ、カーボンフィラメント等のナノカーボン類を含む炭素膜(ナノカーボン炭素膜)をSKD61製の鋼材に形成する方法である。処理温度は480℃とした。
(第1ナノカーボン炭素膜形成工程)
ステップS103では、下記の方法によってナノカーボン炭素膜を形成した。尚、下記の方法は、特開2008−105082に開示された、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブ、カーボンフィラメント等のナノカーボン類を含む炭素膜(ナノカーボン炭素膜)をSKD61製の鋼材に形成する方法である。処理温度は480℃とした。
ボアピンを雰囲気炉に入れ、真空ポンプで減圧して空気をパージした後に窒素ガス(N2)を流通させ、N2雰囲気とした。次に、反応ガス(硫化水素(H2S)ガス、アセチレン(C2H2)ガス、アンモニア(NH3)ガス)を流通させながら、0.5hで480℃まで昇温した。昇温開始から0.5h後に480℃に到達した時点では硫化水素ガスの供給を停止し、さらに0.5h後には、アセチレンガスの供給を停止した。アンモニアガス流通下、480℃でさらに3.0h保持した後、アンモニアガスの供給を停止し、窒素ガスに切り替え、降温を開始した。これによって、ボアピン表面にナノカーボン炭素膜が形成され、ボアピンの基材とナノカーボン炭素膜との間に窒化層および化合物層が形成された。得られたボアピンおよび炭素膜の断面SEM像を観察したところ、窒化層の厚みは、約40μmであり、化合物層の厚みは約2μmであり、炭素膜の厚みは、約20μmであった。
(第1フラーレン類塗布工程)
ステップS105では、下記の方法によってフラーレンを塗布し、炭素膜を得た。1重量%のフラーレンC60(フロンティアカーボン社製 nanom purple ST)を含有するイソプロピルアルコールを、ナノカーボン炭素膜が形成されたボアピンの表面に刷毛で塗布した。イソプロピルアルコールは常温で揮発するので、ナノカーボン炭素膜内には、フラーレンC60だけが残存する。この段階で、ナノカーボン炭素膜とフラーレンC60は、ファンデルワールス力で結合している。その後、300℃に加熱した。この段階で、ナノカーボン炭素膜とフラーレンC60は共有結合している。フラーレンC60は、ナノカーボン炭素膜の表面側に偏在し、ナノカーボン炭素膜の内部にまで浸透していない。
ステップS105では、下記の方法によってフラーレンを塗布し、炭素膜を得た。1重量%のフラーレンC60(フロンティアカーボン社製 nanom purple ST)を含有するイソプロピルアルコールを、ナノカーボン炭素膜が形成されたボアピンの表面に刷毛で塗布した。イソプロピルアルコールは常温で揮発するので、ナノカーボン炭素膜内には、フラーレンC60だけが残存する。この段階で、ナノカーボン炭素膜とフラーレンC60は、ファンデルワールス力で結合している。その後、300℃に加熱した。この段階で、ナノカーボン炭素膜とフラーレンC60は共有結合している。フラーレンC60は、ナノカーボン炭素膜の表面側に偏在し、ナノカーボン炭素膜の内部にまで浸透していない。
(第1焼成工程)
ステップS107では、ボアピンを用いてライナーの鋳造を1回行うことによって、ボアピンおよび炭素膜の焼成を行った。溶湯として、ADC12(アルミニウム合金)を用い、金型の温度を650℃にして鋳造を行った。鋳造によって、炭素膜は、溶湯によって瞬時に密閉されるとともに加熱され、炭素膜が密閉された状態でフラーレンが昇華するので、フラーレンC60は、ナノカーボン炭素膜の内部に浸透する。その後、ボアピンを400℃未満にし、溶湯から取り出し、付着している金属溶湯を除去する。次いで、ボアピンを室温で冷却する。これにより、昇華しているフラーレンC60がナノカーボン炭素膜内で凝結する。フラーレンC60が凝結すると、ナノカーボン炭素膜と非晶質化したフラーレンが金属結合する。これによって、炭素膜が緻密化して強固になり、ボアピンから剥離することを顕著に抑制することができる。なお、ボアピンとナノカーボン炭素膜の間に窒化層が形成されているため、昇華したフラーレンC60がボアピン内に浸炭することが防止される。
ステップS107では、ボアピンを用いてライナーの鋳造を1回行うことによって、ボアピンおよび炭素膜の焼成を行った。溶湯として、ADC12(アルミニウム合金)を用い、金型の温度を650℃にして鋳造を行った。鋳造によって、炭素膜は、溶湯によって瞬時に密閉されるとともに加熱され、炭素膜が密閉された状態でフラーレンが昇華するので、フラーレンC60は、ナノカーボン炭素膜の内部に浸透する。その後、ボアピンを400℃未満にし、溶湯から取り出し、付着している金属溶湯を除去する。次いで、ボアピンを室温で冷却する。これにより、昇華しているフラーレンC60がナノカーボン炭素膜内で凝結する。フラーレンC60が凝結すると、ナノカーボン炭素膜と非晶質化したフラーレンが金属結合する。これによって、炭素膜が緻密化して強固になり、ボアピンから剥離することを顕著に抑制することができる。なお、ボアピンとナノカーボン炭素膜の間に窒化層が形成されているため、昇華したフラーレンC60がボアピン内に浸炭することが防止される。
(第2工程)
ステップS109では、エアブラストにより、直径0.3mmのスチールグリッドを0.6MPaのショットブラスト処理圧(エア圧)で投射した。プレ処理後の処理面の表面粗さRaは、Ra=1.5μm±0.2μm以内であった。
ステップS109では、エアブラストにより、直径0.3mmのスチールグリッドを0.6MPaのショットブラスト処理圧(エア圧)で投射した。プレ処理後の処理面の表面粗さRaは、Ra=1.5μm±0.2μm以内であった。
(第3工程)
ステップS113〜ステップS117では、第1工程で行ったステップS103〜ステップS107と同じ条件で、第1ナノカーボン炭素膜形成工程、第1フラーレン類塗布工程、第1焼成工程と同じ工程を行った。この、第3工程における第1ナノカーボン炭素膜形成工程、第1フラーレン類塗布工程、第1焼成工程が、第2ナノカーボン炭素膜形成工程、第2フラーレン類塗布工程、第2焼成工程に相当する。得られたボアピンおよび炭素膜の断面SEM像を観察したところ、窒化層の厚みは、約60μmであり、化合物層の厚みは約2μmであり、炭素膜の厚みは、約20μmであった。
ステップS113〜ステップS117では、第1工程で行ったステップS103〜ステップS107と同じ条件で、第1ナノカーボン炭素膜形成工程、第1フラーレン類塗布工程、第1焼成工程と同じ工程を行った。この、第3工程における第1ナノカーボン炭素膜形成工程、第1フラーレン類塗布工程、第1焼成工程が、第2ナノカーボン炭素膜形成工程、第2フラーレン類塗布工程、第2焼成工程に相当する。得られたボアピンおよび炭素膜の断面SEM像を観察したところ、窒化層の厚みは、約60μmであり、化合物層の厚みは約2μmであり、炭素膜の厚みは、約20μmであった。
実施例2では、実施例1の第3工程の後に、さらに第2工程、第3工程を1回繰り返して行った。実施例2で追加された第2工程および第3工程は、実施例1で説明した第2工程および第3工程と同じ条件で実施した。得られたボアピンおよび炭素膜の断面SEM像を観察したところ、窒化層の厚みは、約80μmであり、化合物層の厚みは約2μmであり、炭素膜の厚みは、約20μmであった。
(比較例1〜4)
比較例1〜4では、プレ処理工程と、第1工程のみを実施した。プレ処理工程は、ステップS101と同じ条件で行った。第1工程は、ナノカーボン炭素膜形成工程において処理温度の480℃で保持する時間を変更した。比較例1では、3.0hとし、比較例2では、6.0hとし、比較例3では、7.0hとし、比較例4では、18.0hとした。得られたボアピンおよび炭素膜の断面SEM像を観察したところ、比較例1では、窒化層の厚みは、約40μmであり、化合物層の厚みは約2μmであり、炭素膜の厚みは、約20μmであった。比較例2では、窒化層の厚みは、約60μmであり、化合物層の厚みは約3μmであり、炭素膜の厚みは、20〜30μmであった。比較例3では、窒化層の厚みは、約70μmであり、化合物層の厚みは4〜5μmであり、炭素膜の厚みは、20〜30μmであった。比較例4では、窒化層の厚みは、150〜160μmであり、化合物層の厚みは約9μmであり、炭素膜の厚みは、50〜60μmであった。
比較例1〜4では、プレ処理工程と、第1工程のみを実施した。プレ処理工程は、ステップS101と同じ条件で行った。第1工程は、ナノカーボン炭素膜形成工程において処理温度の480℃で保持する時間を変更した。比較例1では、3.0hとし、比較例2では、6.0hとし、比較例3では、7.0hとし、比較例4では、18.0hとした。得られたボアピンおよび炭素膜の断面SEM像を観察したところ、比較例1では、窒化層の厚みは、約40μmであり、化合物層の厚みは約2μmであり、炭素膜の厚みは、約20μmであった。比較例2では、窒化層の厚みは、約60μmであり、化合物層の厚みは約3μmであり、炭素膜の厚みは、20〜30μmであった。比較例3では、窒化層の厚みは、約70μmであり、化合物層の厚みは4〜5μmであり、炭素膜の厚みは、20〜30μmであった。比較例4では、窒化層の厚みは、150〜160μmであり、化合物層の厚みは約9μmであり、炭素膜の厚みは、50〜60μmであった。
図3は、実施例および比較例の化合物層の厚みを図示している。横軸は、ナノカーボン炭素膜形成工程で480℃で保持した時間の合計を示している。例えば、実施例1では、第1工程で3.0h保持し、第3工程で3.0h保持したため、これらを合計した6.0hの処理時間として図示されている。図3から明らかなように、比較例2〜4のように単にナノカーボン炭素膜形成工程の熱処理時間を長くした場合、熱処理時間が長くなるほど、化合物層厚みが厚くなった。これに対して実施例1,2では、合計の処理時間が6.0h,9.0hと長くなっても、化合物層厚みは、約2μm程度で止まっており、処理時間が3.0hであった比較例1と同程度の化合物厚みを維持できた。図示していないが、炭素膜についても同様の傾向が見られ、実施例1,2および比較例1のいずれにおいても炭素膜の厚みは20μm程度であった。これに対して、窒化層の厚みは、実施例1では40μm、実施例2では60μmであり、それぞれ比較例1の窒化層の厚み(20μm)の2倍、3倍の厚みの窒化層を形成することができた。
(焼き付き耐久試験)
実施例1に係るボアピンと、比較例1に係るボアピンを用いて、ライナーの鋳造を行い、焼き付きが観察されるショット数を調べた。溶湯として、ADC12(アルミニウム合金)を用い、ボアピンの温度を650℃にして鋳造を行った。その結果、比較例1では、4000ショットで溶湯の焼き付きが観察された一方で、実施例1では、4万ショット以上の鋳造を行っても、焼き付きが観察されなかった。
実施例1に係るボアピンと、比較例1に係るボアピンを用いて、ライナーの鋳造を行い、焼き付きが観察されるショット数を調べた。溶湯として、ADC12(アルミニウム合金)を用い、ボアピンの温度を650℃にして鋳造を行った。その結果、比較例1では、4000ショットで溶湯の焼き付きが観察された一方で、実施例1では、4万ショット以上の鋳造を行っても、焼き付きが観察されなかった。
図4は、実施例1に係る焼き付き耐久試験後のボアピンであり、図5は、図4に示すボアピンの一部を切り取った観察用サンプルを拡大した写真である。図6は、比較例1に係る焼き付き耐久試験後のボアピンであり、図7は、図6に示すボアピンの一部を切り取った観察用サンプルを拡大した写真である。図5、図7に示すように、実施例1、比較例1のいずれにおいても、比較的黒い部位(黒色部位)と白い部位(白色部位)が観察されたので、それぞれの部位の表面および断面のSEM像を(株)島津製作所製 走査電子顕微鏡 SUPERSCAN SS−550によって観察した。
図8は、実施例1の白色部位の表面のSEMによる二次電子像(500倍)であり、図9は、図8の観察箇所の反射電子像であって、組成分析結果を示している。図10は、比較例1の白色部位の表面のSEMによる二次電子像(500倍)であり、図11は、図10の観察箇所の反射電子像であって、組成分析結果を示している。図12,13は、実施例1の白色部位の断面のSEMによる二次電子像であり、それぞれ1000倍、4000倍の像を示している。図14,15は、比較例1の白色部位の断面のSEMによる二次電子像であり、それぞれ1000倍、4000倍の像を示している。図9、図11に示す観察面について、元素分析を行った結果を下記の表1に示す。なお、元素分析は、(株)島津製作所製 走査電子顕微鏡 SUPERSCAN SS−550によって分析した。
図16は、実施例1の黒色部位の表面のSEMによる二次電子像(500倍)であり、図17は、図16の観察箇所の反射電子像であって、組成分析結果を示している。図18は、比較例1の黒色部位の表面のSEMによる二次電子像(500倍)であり、図19は、図18の観察箇所の反射電子像であって、組成分析結果を示している。図20,21は、実施例1の黒色部位の断面のSEMによる二次電子像であり、それぞれ1000倍、4000倍の像を示している。図22,23は、比較例1の黒色部位の断面のSEMによる二次電子像であり、それぞれ1000倍、4000倍の像を示している。図16、図18に示す観察面について、元素分析を行った結果を下記の表2に示す。なお、元素分析は、(株)島津製作所製 走査電子顕微鏡 SUPERSCAN SS−550によって分析した。
図10、図18に示すように、比較例1では、表面に針状模様が多く観察されているのに対して、図8,図16では、表面が比較的平滑であり、針状模様が殆ど観察されなかった。比較例1に係る図11、図19に示すように、組成分析によれば、針状模様は黒く表示されており、比較的軽い元素によって構成されていることがわかった。実施例1に係る図9、図17には、組成分析によっても黒い針状模様は観察されなかった。
表1に示すように、比較例1では、Al元素およびNi元素が検出されたが、実施例1では、Al元素およびN元素が検出されなかった。比較例1では、溶湯であるアルミニウムが付着し、金型の窒化層もしくは化合物層が露出したため、Al元素およびN元素が検出されたものと考えられる。表2に示す結果においても、比較例1では、N元素は検出されなかったものの、Al元素は検出された。実施例1では、表1に示す白色部位と同様に、Al元素もN元素も検出されなかった。
実施例1と比較例1は、炭素膜厚みはいずれも20μmであるにも係らず、比較例1では4000ショットの耐久試験後に、アルミニウムの付着や、窒化層または化合物層の露出が観察された。一方、実施例1では、比較例1の10倍の4万ショットの焼き付き耐久試験後においても、アルミニウムの付着や、窒化層または化合物層の露出が観察されなかった。
図8〜図23および表1に示す結果は、実施例1では、第2工程および第3工程を行うことによって、炭素膜が緻密化されて剥がれ難くなり、耐久性が向上したことを示している。炭素膜は、炭素膜と窒化層との界面に存在する化合物層が脆弱な場合にも剥がれ易くなる傾向にある。上記の炭素膜が剥がれ難く、耐久性が向上したという結果は、化合物層自体も緻密化される等によって強固な層に変化していることを示していると考えられる。
また、図12,13および図20,21に示すように、実施例1では、表面から10μm程度の領域に黒い斑状物が観察された。この斑状物は、炭素膜の成分が金型側に浸漬して形成されたと推察される。黒い斑状物は、比較例1に係る図22,23でも観察されたが、比較例1に係る斑状物は局所的にごく僅かに存在しているのみである。実施例1に係る図12,13および図20,21では、斑状物がサンプルの表面方向により均質に分布していた。これらの断面SEM像から、実施例1では、炭素膜の一部が化合物層や窒化層側に入り込むことによって、化合物層と炭素膜の厚みが減少するとともに、化合物層と炭素膜が緻密化しているものと推察される。
上記のとおり、実施例によれば、化合物および炭素膜の厚みを厚くすることなく窒化層のみを選択的に厚くすることができた。その結果、金型表面に形成される炭素膜の耐久性が向上することが明らかになった。SEM像の観察結果から、この効果は、第2工程を行った後に第3工程を行うことによって化合物層と炭素膜が緻密化された結果、得られたものと考えられる。
実施例3では、実施例1と同様のプレ処理工程、第1工程、第2工程、第3工程を含む表面処理方法を用いて、ABSカバーの金型の表面処理を行った。
(比較例5)
比較例5として、比較例1と同様の表面処理方法を用いて、実施例3と同様のABSカバーの金型の表面処理を行った。
比較例5として、比較例1と同様の表面処理方法を用いて、実施例3と同様のABSカバーの金型の表面処理を行った。
(焼き付き耐久試験)
実施例3に係る金型と、比較例5に係る金型を用いて、ABSカバーの鋳造を行い、焼き付きが観察されるショット数を調べた。溶湯として、ADC12(アルミニウム合金)を用い、金型の温度を650℃にして鋳造を行った。その結果、比較例5では、2万ショットで溶湯の焼き付きが観察された一方で、実施例3では、6万ショット以上の鋳造を行っても、焼き付きが観察されなかった。本実施例に示すように、ボアピン以外においても、焼き付き耐久試験によって炭素膜の耐久性向上が確認できた。
実施例3に係る金型と、比較例5に係る金型を用いて、ABSカバーの鋳造を行い、焼き付きが観察されるショット数を調べた。溶湯として、ADC12(アルミニウム合金)を用い、金型の温度を650℃にして鋳造を行った。その結果、比較例5では、2万ショットで溶湯の焼き付きが観察された一方で、実施例3では、6万ショット以上の鋳造を行っても、焼き付きが観察されなかった。本実施例に示すように、ボアピン以外においても、焼き付き耐久試験によって炭素膜の耐久性向上が確認できた。
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
Claims (4)
- 第1工程と第2工程と第3工程を含む金型の表面処理方法であり、
第1工程は、
金型の表層に窒化層が形成される窒化条件の下で有機ガスとともに金型を熱処理することによって、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブおよびカーボンナノフィラメントからなる群から選ばれる少なくとも1種のナノカーボン類を含むナノカーボン炭素膜を金型の表面に形成するナノカーボン炭素膜形成工程と、
ナノカーボン炭素膜の表面にフラーレン類を塗布するフラーレン類塗布工程と、
炭素膜が形成された金型を400℃以上に加熱する焼成工程と、
をこの順序で行うことを含み、
第2工程は、
第1工程によって形成された炭素膜の表面にショットブラスト処理を行う工程を含み、
第3工程は、
第2工程後の金型を、前記窒化条件と同じ条件の下で有機ガスとともに熱処理することによって、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブおよびカーボンナノフィラメントからなる群から選ばれる少なくとも1種のナノカーボン類を含む新たなナノカーボン炭素膜を金型の表面に形成する第2ナノカーボン炭素膜形成工程と、
新たなナノカーボン炭素膜の表面にフラーレン類を塗布する第2フラーレン類塗布工程と、
炭素膜が形成された金型を400℃以上に加熱する焼成工程と、
をこの順序で行うことを含む、
金型の表面処理方法。 - 第1工程の前に、金型の表面にショットブラスト処理を行うプレ処理工程をさらに含む、請求項1に記載の表面処理方法。
- 第1工程を1回行った後で、第2工程と第3工程をこの順序で2回以上繰り返して行う、請求項1または2に記載の表面処理方法。
- 第2工程のショットブラスト処理の圧力は、プレ処理工程のショットブラスト処理の圧力よりも高い、請求項2または3に記載の表面処理方法。
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