JP2016074955A - アルミナイジングによる鋳鉄の表面改質方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明の課題は、鋳鉄からなる基材の表面に耐酸化性の良好なFeAl金属間化合物層を良好な密着性で容易に生成できる鋳鉄の表面改質方法とその方法により得られる表面改質鋳鉄を提供することにある。
【解決手段】本発明は、鋳鉄からなる基材の表面に機械的処理を施すことで、前記基材表面部分の黒鉛を除去した後、前記基材の表面にAlまたはAl合金の被覆層を形成することを特徴とするアルミナイジングによる鋳鉄の表面改質方法に関する。
【選択図】図1
【解決手段】本発明は、鋳鉄からなる基材の表面に機械的処理を施すことで、前記基材表面部分の黒鉛を除去した後、前記基材の表面にAlまたはAl合金の被覆層を形成することを特徴とするアルミナイジングによる鋳鉄の表面改質方法に関する。
【選択図】図1
Description
本発明は、鋳鉄の表面に機械的処理を行い表面近傍の黒鉛を除去し、その後にアルミナイジング処理を行うことにより鋳鉄表面を改質する方法に関する。
鋼の表面に鉄(Fe)とアルミニウム(Al)からなる合金層を形成して材料特性を改善する手法の一例としてアルミナイジング処理が知られている。特に、Fe原子とAl原子が鉄リッチな金属間化合物層を形成する高温アルミナイジング処理の場合、機械的特性のみならず耐食性や耐酸化性を改善できることが知られている。
アルミナイジング処理では最初に鋼表面にAl層を形成させ、これを内部に拡散させて望みの合金層を得ることができる。このAl層の形成方法としては、溶融Al中へ鋼を浸漬する溶融Alめっき法、Al箔を鋼表面に圧着する方法 、およびAl溶射法が知られている。
アルミナイジング処理では最初に鋼表面にAl層を形成させ、これを内部に拡散させて望みの合金層を得ることができる。このAl層の形成方法としては、溶融Al中へ鋼を浸漬する溶融Alめっき法、Al箔を鋼表面に圧着する方法 、およびAl溶射法が知られている。
アルミナイジング処理の他の例として、耐熱性の金属箔の表裏面にAl粉末とCr粉末を付着させ、1000℃に数時間加熱してAlとCrを金属箔の内部に拡散させ、AlとCrの拡散層を形成することで箔に耐酸化性を付与する方法が知られている(特許文献1参照)。
また、金属間化合物として耐食性に優れるFeAlを利用する手法の一例として、鋼または鋳鉄の表面に、アルミニウム、クロムおよび鉄からなる合金膜をめっきにより成膜し、この合金膜を高温拡散処理してクロムを含有する金属間化合物層を形成する方法が知られている(特許文献2参照)。
また、金属間化合物として耐食性に優れるFeAlを利用する手法の一例として、鋼または鋳鉄の表面に、アルミニウム、クロムおよび鉄からなる合金膜をめっきにより成膜し、この合金膜を高温拡散処理してクロムを含有する金属間化合物層を形成する方法が知られている(特許文献2参照)。
しかし、溶融Alめっき法を用いる従来方法では付着するAl層の膜厚制御が難しいこと、Al箔圧着法では曲面の応用に限界があること、および溶射法では装置が大掛かりになる等の問題を抱えている。
そこで、より簡便な方法を採用することで、曲面に対しても膜厚を制御してAl層を形成させる手法として、Al粉末を鋼表面に付着させ、その後Alを加熱拡散させることにより合金層を形成させる手法を本発明者は研究している。
ところで、鉄鋼材料の中でも鋳鉄は、複雑な形状の製品であっても比較的安価に製造できる利点があり、振動を抑制する効果が高く、経年変化が少なく、耐摩耗性と寸法安定性に優れている利点がある。
そこで、より簡便な方法を採用することで、曲面に対しても膜厚を制御してAl層を形成させる手法として、Al粉末を鋼表面に付着させ、その後Alを加熱拡散させることにより合金層を形成させる手法を本発明者は研究している。
ところで、鉄鋼材料の中でも鋳鉄は、複雑な形状の製品であっても比較的安価に製造できる利点があり、振動を抑制する効果が高く、経年変化が少なく、耐摩耗性と寸法安定性に優れている利点がある。
しかし鋳鉄の欠点の1つに、通常の大気中ではある程度の耐食性を有するものの、酸が存在する雰囲気中では急速に腐食が進行する問題があり、鋳鉄の耐食性を簡単な手法で向上させる手段の登場が望まれている。
本発明は、前記従来の問題点に鑑みなされたものであって、鋳鉄からなる基材の表面に耐酸化性の良好なAlまたはAl合金の被覆層を良好な密着性でもって大気中において容易に生成できる表面改質方法を提供することにある。
本発明は、前記課題を解決する手段として、以下の構成を有する。
(1)本発明は、鋳鉄からなる基材の表面に機械的処理を施すことで、前記基材表面部分の黒鉛を除去した後、前記基材の表面にAlまたはAl合金の被覆層を形成することを特徴とする。本発明において、さらに、加熱処理によりAlまたはAl合金層を形成することが好ましい。
(1)本発明は、鋳鉄からなる基材の表面に機械的処理を施すことで、前記基材表面部分の黒鉛を除去した後、前記基材の表面にAlまたはAl合金の被覆層を形成することを特徴とする。本発明において、さらに、加熱処理によりAlまたはAl合金層を形成することが好ましい。
(2)本発明において、前記機械的処理が、金属またはセラミックス粒子を衝突させるピーニング処理および多数の細い金属棒で打撃する多芯タガネによる基材表面への衝撃処理から選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。
(3)本発明において、前記被覆層が、前記基材表面にAl粉末またはAl合金粉末を加熱圧着した被覆層、前記基材表面に形成した溶融Alメッキの被覆層、AlまたはAl合金の粉末を溶媒中に分散させた粉末ペーストを塗布して加熱した被覆層、AlまたはAl合金を溶射した被覆層、前記基材表面にAlまたはAl合金からなる固体を擦り付けてからAl合金の粉末を溶媒中に分散させた粉末ペーストを塗布して加熱した被覆層、あるいは、Al箔またはAl合金を加熱圧着した被覆層のいずれかであることが好ましい。
(4)本発明において、前記被覆層を大気中において500〜1050℃に加熱することでFe2Al5の形成を主体とする一次拡散した後、さらに750〜1100℃に加熱することでFeAlの形成を主体とする二次拡散することが好ましい。なお、被膜層の形成温度が一次拡散処理の温度範囲にある場合には、一次拡散処理を省略することができる。
(5)本発明において、前記AlまたはAl合金が、純アルミ系の1000系合金、Al−Cu系、Al−Cu−Mg系の2000系合金、Al−Mn系の3000系合金、Al−Si系の4000系合金、Al−Mg系の5000系合金、Al−Mg−Si系の6000系合金、Al−Zn−Mg−Cu系、Al−Zn−Mg系の7000系合金、Al−Fe−Mn系の8000系合金、Al−Cr系合金およびAl−Ni系合金から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
(3)本発明において、前記被覆層が、前記基材表面にAl粉末またはAl合金粉末を加熱圧着した被覆層、前記基材表面に形成した溶融Alメッキの被覆層、AlまたはAl合金の粉末を溶媒中に分散させた粉末ペーストを塗布して加熱した被覆層、AlまたはAl合金を溶射した被覆層、前記基材表面にAlまたはAl合金からなる固体を擦り付けてからAl合金の粉末を溶媒中に分散させた粉末ペーストを塗布して加熱した被覆層、あるいは、Al箔またはAl合金を加熱圧着した被覆層のいずれかであることが好ましい。
(4)本発明において、前記被覆層を大気中において500〜1050℃に加熱することでFe2Al5の形成を主体とする一次拡散した後、さらに750〜1100℃に加熱することでFeAlの形成を主体とする二次拡散することが好ましい。なお、被膜層の形成温度が一次拡散処理の温度範囲にある場合には、一次拡散処理を省略することができる。
(5)本発明において、前記AlまたはAl合金が、純アルミ系の1000系合金、Al−Cu系、Al−Cu−Mg系の2000系合金、Al−Mn系の3000系合金、Al−Si系の4000系合金、Al−Mg系の5000系合金、Al−Mg−Si系の6000系合金、Al−Zn−Mg−Cu系、Al−Zn−Mg系の7000系合金、Al−Fe−Mn系の8000系合金、Al−Cr系合金およびAl−Ni系合金から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
本発明によれば、鋳鉄からなる基材の表面の黒鉛を機械的処理により除き、均質なAlまたはAl合金の被覆層を形成したので、鋳鉄には腐食環境であっても鋳鉄にはない優れた耐食性および耐摩耗性を得ることができる。
機械的処理としてピーニング処理あるいは多芯タガネによる衝撃処理により、表面近傍の黒鉛を除去し、その上にAlまたはAl合金の均一な被覆層を形成できる。
AlまたはAl合金の被覆層を500〜1050℃で一次拡散してFe2Al5の形成を主体として行い、750〜1100℃で二次拡散してFeAlの形成を主体として行うことにより、耐食性と耐摩耗性に優れたFeAlで鋳鉄表面を被覆することができる。FeAlは鉄系材料にはない優れた耐食性と耐摩耗性を有するので、耐食性と耐摩耗性に優れた鋳鉄を提供できる。
また、大気中で所定の温度に加熱し元素拡散を行うという簡便な方法により耐食性と耐摩耗性に優れたFeAlで表面を被覆した鋳鉄を得ることができる。
このため、靭性が高く、耐摩耗性に優れ、酸やアルカリに対してほとんど腐食せず、塩に対しても一定の耐食性を有するFeAlを表面に備えた鋳鉄を得ることができる効果を奏する。
機械的処理としてピーニング処理あるいは多芯タガネによる衝撃処理により、表面近傍の黒鉛を除去し、その上にAlまたはAl合金の均一な被覆層を形成できる。
AlまたはAl合金の被覆層を500〜1050℃で一次拡散してFe2Al5の形成を主体として行い、750〜1100℃で二次拡散してFeAlの形成を主体として行うことにより、耐食性と耐摩耗性に優れたFeAlで鋳鉄表面を被覆することができる。FeAlは鉄系材料にはない優れた耐食性と耐摩耗性を有するので、耐食性と耐摩耗性に優れた鋳鉄を提供できる。
また、大気中で所定の温度に加熱し元素拡散を行うという簡便な方法により耐食性と耐摩耗性に優れたFeAlで表面を被覆した鋳鉄を得ることができる。
このため、靭性が高く、耐摩耗性に優れ、酸やアルカリに対してほとんど腐食せず、塩に対しても一定の耐食性を有するFeAlを表面に備えた鋳鉄を得ることができる効果を奏する。
「第一実施形態」
以下に、本発明の第一実施形態について、図面を適宜参照しながら説明する。
本実施形態の製造方法では、被覆対象物として鋳鉄からなる基材1を用い、アルミナイジング処理を行う。用いる鋳鉄製の基材は円盤状、長方形板などの矩形板状、塊状、ブロック状、シート状、管状など、任意の形状を用いることができる。また、用いる鋳鉄の種類も問わない。鋳鉄として、ねずみ鋳鉄、白鋳鉄、まだら鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄(ノジュラー鋳鉄またはダクタイル鋳鉄)、黒心可鍛鋳鉄、白心可鍛鋳鉄、パーライト鋳鉄、高クロム鋳鉄、高ケイ酸鋳鉄等種々の鋳鉄が知られているが、いずれの鋳鉄にも適用することができる。
以下に、本発明の第一実施形態について、図面を適宜参照しながら説明する。
本実施形態の製造方法では、被覆対象物として鋳鉄からなる基材1を用い、アルミナイジング処理を行う。用いる鋳鉄製の基材は円盤状、長方形板などの矩形板状、塊状、ブロック状、シート状、管状など、任意の形状を用いることができる。また、用いる鋳鉄の種類も問わない。鋳鉄として、ねずみ鋳鉄、白鋳鉄、まだら鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄(ノジュラー鋳鉄またはダクタイル鋳鉄)、黒心可鍛鋳鉄、白心可鍛鋳鉄、パーライト鋳鉄、高クロム鋳鉄、高ケイ酸鋳鉄等種々の鋳鉄が知られているが、いずれの鋳鉄にも適用することができる。
次に、基材1に対し、AlあるいはAl合金からなる球状体あるいは粒体を用いたショットピーニングあるいはブラスト処理などのピーニング処理を施して鋳鉄の基材1の表面に存在している黒鉛の粒子を潰すか飛散させて除去するとともに、基材表面部分に存在し黒鉛の粒子が存在していた空孔を潰して平滑化する。この処理によって、基材1の表面層ある程度の深さまで平滑化することができる。
図1には一つの例として、基材1に対し複数の粒子2を衝突させて基材1の表面を平滑化している状態を模式的に示す。基材1の表面には複数の粒子2が衝突されたことに起因する平滑層1Aが形成される。
なお、鋳鉄とは鉄に炭素Cを2.14〜6.67質量%、Siを約1〜3質量%程度の範囲で含む鉄の3元合金と規定されるので、鋳鉄の内部には種々の形態の炭素(C)の析出物、例えば黒鉛が生成されている。
この黒鉛は鋳鉄の内部に種々の形態で析出され、鋳鉄の種類によっては組織の内部に塊状の黒鉛に加えてボイドを生成するが、本実施形態のようにピーニング処理を施して基材1の表面に粒子2を衝突させる処理を行った場合、基材1の表面近くの塊状の黒鉛やボイドは圧壊され、基材1の表面近くの領域は塊状の黒鉛やボイドのない緻密かつ平滑層1Aとされる。
図1には一つの例として、基材1に対し複数の粒子2を衝突させて基材1の表面を平滑化している状態を模式的に示す。基材1の表面には複数の粒子2が衝突されたことに起因する平滑層1Aが形成される。
なお、鋳鉄とは鉄に炭素Cを2.14〜6.67質量%、Siを約1〜3質量%程度の範囲で含む鉄の3元合金と規定されるので、鋳鉄の内部には種々の形態の炭素(C)の析出物、例えば黒鉛が生成されている。
この黒鉛は鋳鉄の内部に種々の形態で析出され、鋳鉄の種類によっては組織の内部に塊状の黒鉛に加えてボイドを生成するが、本実施形態のようにピーニング処理を施して基材1の表面に粒子2を衝突させる処理を行った場合、基材1の表面近くの塊状の黒鉛やボイドは圧壊され、基材1の表面近くの領域は塊状の黒鉛やボイドのない緻密かつ平滑層1Aとされる。
本実施形態においてピーニング処理とは、焼き入れ鋼、高速度鋼などからなる鋼球あるいは粒子(投射材)を空気圧または機械力を利用して投射し、被対象物としての基材1の表面に衝突させる処理を意味する。
ショットブラスト処理とは、投射材と称される粒体を機械式、空気式、あるいは湿式にて被対象物としての基材1の表面に衝突させる処理を意味する。機械式としては、主にインペラーと称される耐摩耗性合金製の羽根車の遠心力を利用し投射材を投射する方法が一般に広く知られている。空気式としては、圧縮空気により投射材を投射する方法であり、エアーブラストと称される。主に、空気流の負圧により投射材を気流に乗せる吸引式と圧縮空気に直接投射材を混合して噴射する直圧式に大別できる。ショットブラスト処理はピーニング処理の一例として把握される。
ショットブラスト処理とは、投射材と称される粒体を機械式、空気式、あるいは湿式にて被対象物としての基材1の表面に衝突させる処理を意味する。機械式としては、主にインペラーと称される耐摩耗性合金製の羽根車の遠心力を利用し投射材を投射する方法が一般に広く知られている。空気式としては、圧縮空気により投射材を投射する方法であり、エアーブラストと称される。主に、空気流の負圧により投射材を気流に乗せる吸引式と圧縮空気に直接投射材を混合して噴射する直圧式に大別できる。ショットブラスト処理はピーニング処理の一例として把握される。
空気式は機械式に比べ、大量の投射材を広範囲に投射することができないが、投射条件を細かく設定することができる利点を有し、数μmレベルの小さな粒子であっても使用できる利点を有する。また、噴射ノズルをマニピュレーター等の先端に付けることにより、パイプ状の内面や複雑な形状の被対象物へのショットブラスト処理を実施できる。
湿式とは、主に水を投射材に混合して噴射し、被対象物の表面に吹き付けることができる。本実施形態で用いる投射方法は、錆発生を抑制するため、空気式、機械式が好ましい。
投射材として用いる鋼製の球状体や粒子は、その粒径、組成、密度、硬度などは問わない。また、投射速度、投射角度、投射量なども工業的に適用可能な任意の範囲であって差し支えない。
湿式とは、主に水を投射材に混合して噴射し、被対象物の表面に吹き付けることができる。本実施形態で用いる投射方法は、錆発生を抑制するため、空気式、機械式が好ましい。
投射材として用いる鋼製の球状体や粒子は、その粒径、組成、密度、硬度などは問わない。また、投射速度、投射角度、投射量なども工業的に適用可能な任意の範囲であって差し支えない。
上述のように生成させる表面層の厚さは特に制限はないが、前述の#500の研磨紙で表面を研磨すると、5〜10μm程度の凹凸面となるので、この凹凸面を埋めることができる程度の厚さの平滑層とすることが好ましい。
上述のピーニング処理であるならば、基材1の表面形状が曲面や凹凸部を備えた形状であっても支障なく平滑層1Aを基材1上に生成できる。
上述のピーニング処理であるならば、基材1の表面形状が曲面や凹凸部を備えた形状であっても支障なく平滑層1Aを基材1上に生成できる。
基材1の表面全体を改質する必要がある場合は球状体あるいは粒子などの投射材を基材1の表面全体に投射させて平滑層1Aを基材1の表面全面に形成する。また、基材1の表面全体ではなく必要な領域のみ改質する必要がある場合は、必要な領域のみに投射材を衝突させて必要な領域のみ改質することもできる。あるいは、基材1の表面全域に平滑層1Aを形成しておき、後述するAl粉末ペーストを改質が必要な領域のみ塗布しても良い。
なお、基材1の表面にピーニング処理を施した後、AlあるいはAl合金の凝着層を形成しても良い。凝着層を形成する手段の一例として、図1(b)に示すように、基材1に対し、AlあるいはAl合金からなる固体、例えば丸棒状のロッド4を用意し、このロッド4を回転させながら基材1の表面に押し付ける操作、即ち擦り付ける操作を複数回繰り返す。この処理によりロッド4の表面に存在しているAlが基材1の表面に擦り付けられて微細なAlの凝着層3を基材1の表面に生成することができる。
ロッド4を構成するアルミニウム材料は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を用いることができ、特に限定されない。具体的には、例えば、純アルミ系の1000系合金、Al−Cu系、Al−Cu−Mg系の2000系合金、Al−Mn系の3000系合金、Al−Si系の4000系合金、Al−Mg系の5000系合金、Al−Mg−Si系の6000系合金、Al−Zn−Mg−Cu系、Al−Zn−Mg系の7000系合金、Al−Fe−Mn系の8000系合金、Al−Cr系合金、Al−Ni系合金、などが用いられる。中でも純Al系合金、Al−Si系合金、Al−Cr系合金が望ましいが、これらに限るものではない。
凝着層3を形成する手段は、基材1の表面に機械的にAlを被覆した層を形成すればよいので、ロッド4による回転押圧法の他に、AlまたはAl合金のボールを基材1の必要領域に高速で衝突させるピーニング法を用いても良い。AlまたはAl合金のボールを用いたショットピーニング法によってもロッド4を用いた回転押圧法と同様の凝着層3を形成できる。また、凝着層3を形成する方法として、シート状のAlを基材1の必要な面に被せて圧着するクラッド法により形成することもできる。また、AlまたはAl合金製の多数の針(細い金属棒)を備えた多芯タガネ(日東工器商品名)型の擦り付け治具を用いて基材1の表面を擦過し、基材1の表面の必要な領域にAlの凝着層3を形成することもできる。
基材1の表面全体を改質する必要がある場合はロッド4を基材1の表面全体に複数回擦り付けつつ移動させて凝着層3を基材1の表面全面に形成する。また、基材1の表面全体ではなく必要な領域のみ改質する必要がある場合は、必要な領域のみにロッド4を擦り付けて必要な領域のみ改質することもできる。なお、凝着層3を形成する処理は、略しても良い。
次に、図2(a)に示すようにAlあるいはAl合金の粉末5を必要量用意し、粉末5にアルコール系の溶媒6を添加して容器7に収容し、これらを混練して粉末ペースト8を形成する。
粉末5は上述のロッド4を構成する純アルミニウムまたはアルミニウム合金として列挙した材料と同様の材料を選択できる。粉末の粒径は、例えば10〜300μm程度、望ましくは30〜200μm程度の粒径の粉末を用いることができるが、これらの範囲に限るものではなく、前記範囲より微細径あるいは前記範囲より大きな粒径の粉末を用いても差し支えない。
粉末5は上述のロッド4を構成する純アルミニウムまたはアルミニウム合金として列挙した材料と同様の材料を選択できる。粉末の粒径は、例えば10〜300μm程度、望ましくは30〜200μm程度の粒径の粉末を用いることができるが、これらの範囲に限るものではなく、前記範囲より微細径あるいは前記範囲より大きな粒径の粉末を用いても差し支えない。
溶媒6は、一例としてグリセリンとエチルアルコールの混合物を用いることができる。グリセリンとアルコールの混合量を適切な配合比とすることで溶媒6としての粘度を調整することができる。溶媒6の粘度を調整することで粉末5と溶媒6を混合して製造する粉末ペースト8の粘度を調整することができ、後述するように基材1の表面に粉末ペースト8を塗布する場合に粘度が低すぎると塗布物が流れ落ちる問題があり、粘度が高すぎると基材1の表面に均一な厚さに塗り拡げることが難しくなるおそれがある。
溶媒6を構成するアルコールとして、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコール等のいずれのアルコールを用いても良い。これらアルコール類の配合を調整して塗布物として好適な粘度に調整することが好ましい。
溶媒6を構成するアルコールとして、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコール等のいずれのアルコールを用いても良い。これらアルコール類の配合を調整して塗布物として好適な粘度に調整することが好ましい。
前記粉末ペースト8を作製したならば、図2(b)〜図2(c)に示すように基材1の表面に粉末ペースト8を必要な厚さに塗布して被覆層9を形成する。被覆層9の厚さは例えば1mm程度とすることができるが、0.05〜5mm程度の厚さに形成することができる。この範囲内であっても0.2〜2mmの厚さが好ましい。塗布する方法は刷毛塗り、へら塗り、ドクターブレード法などの印刷法などの公知の方法で良い。粘度の状態に応じて噴射法などを採用しても良い。本実施形態では熱処理を大気中で行うので、塗布厚が薄い場合は酸化が進行し、逆に5mm以上厚い場合は無駄なFe2Al5層が残留してしまうおそれがある。
粉末ペースト8を作製する場合、図3に示すように容器7に対しAlまたはAl合金の粉末5の他に、上述した各種アルコールのうち、2種類のアルコール6a、6bを混合するか、アルコールに松ヤニ、フラックス等の油脂を混合して粘度調整しても良い。即ち、アルコールに対し粘度調節を行う添加剤を添加するか、粘度の異なるアルコールを複数秤量し混合することで粘度調整しても良い。粉末ペースト8の粘度が低すぎると塗布しようとする基材1の表面から流れ落ちるか、必要な厚さに塗布できない。粉末ペースト8の粘度が高すぎると、必要な領域に塗り拡げることが難しくなる。適切な粘度とすることで、基材1の必要箇所に上述の厚さの塗布層9を形成できる。粉末ペースト8の粘度として水飴の粘度と同程度に調整することができる。より具体的な粘度として、1×103〜105mPa・S(B型粘度計による)の範囲の粘度を採用することができる。
一例として平均粒径45μmの純Alの粉末5を10g用意し、これにグリセリンとエチルアルコールを合計25ml添加して配合することができる。また、FeAlにCrを添加する場合、平均粒径45μmのAl−12at%Cr粉末を用いることができる。
なお、基材1上に形成する被覆層9は、上述の塗布法によるAlを含む層ではなく、溶融Alメッキからなるめっき層、Al箔を加熱圧着した被覆層、Al溶射からなる被覆層であっても良く、他に、Al粉末を圧着した被覆層であっても良い。
一例として平均粒径45μmの純Alの粉末5を10g用意し、これにグリセリンとエチルアルコールを合計25ml添加して配合することができる。また、FeAlにCrを添加する場合、平均粒径45μmのAl−12at%Cr粉末を用いることができる。
なお、基材1上に形成する被覆層9は、上述の塗布法によるAlを含む層ではなく、溶融Alメッキからなるめっき層、Al箔を加熱圧着した被覆層、Al溶射からなる被覆層であっても良く、他に、Al粉末を圧着した被覆層であっても良い。
基材1上に被覆層9を形成したならば、大気中において全体を500〜1050℃(773〜1323K)の温度に加熱する一次熱処理を施して塗布層9を拡散あるいは溶融させ、被覆層9中のAlを基材1の表面のFeと拡散反応させる一次拡散を施してFe2Al5層を主体とする一次拡散層10を図2(d)に示すように形成する。一次熱処理の温度は、700〜850℃であることがより好ましい。
前述の温度に加熱する際、急速に加熱するとFe2Al5層中にボイドなどの欠陥部分やFe2Al5の不均一な部分が多く生成するので、徐々に加熱することが好ましい。昇温速度として例えば750℃(1023K)まで温度上昇するための時間として3.6〜7.2ks(1〜2時間)必要な昇温速度を例示することができる。よって、0.21℃/s以下の速度で昇温することが望ましい。Fe2Al5層中にボイドなどの欠陥部分が多く生成すると、後述する二次熱処理を施してFeAl層を形成したとしても、不均一な厚さのFeAl層を生成してしまう。
前述の温度に加熱する際、急速に加熱するとFe2Al5層中にボイドなどの欠陥部分やFe2Al5の不均一な部分が多く生成するので、徐々に加熱することが好ましい。昇温速度として例えば750℃(1023K)まで温度上昇するための時間として3.6〜7.2ks(1〜2時間)必要な昇温速度を例示することができる。よって、0.21℃/s以下の速度で昇温することが望ましい。Fe2Al5層中にボイドなどの欠陥部分が多く生成すると、後述する二次熱処理を施してFeAl層を形成したとしても、不均一な厚さのFeAl層を生成してしまう。
一次熱処理する際の加熱温度を維持する時間は任意でよいが、10分以上が望ましい。
一次熱処理終了後、全体を一次熱処理時の加熱温度よりも高い温度、例えば、850〜1050℃(1123〜1323K)の温度に加熱する二次熱処理を施し、二次拡散を行ってFe2Al5層をFeAl層に変質させる。
一次熱処理終了後、全体を一次熱処理時の加熱温度よりも高い温度、例えば、850〜1050℃(1123〜1323K)の温度に加熱する二次熱処理を施し、二次拡散を行ってFe2Al5層をFeAl層に変質させる。
Fe2Al5層は、一次熱処理によりFeとAlが先に反応して形成される層であり、高温まで安定しているので二次熱処理時のAl原子の供給源として利用することができる。Fe2Al5層は硬いが極めて脆いのでFe2Al5層のままでは空孔やクラックなどの欠陥が入り易い。このため二次熱処理で更に高温で元素拡散させてFeとAlの反応を進行させ、FeAl金属間化合物層(以下、FeAl層と略記する)を生成させる。
FeAl層は靭性が高く耐摩耗性にも優れている。また、FeAlはアルカリに対してほとんど腐食せず、塩に対しては一定の耐食性を有する。なお、FeAl層にはCrを添加していても良い。Crを約12%含むFeAl(Cr)層は機械的特性のみならず、一般的な酸(塩酸、硝酸、硫酸など)に対する耐食性も優れている。
FeAl層は靭性が高く耐摩耗性にも優れている。また、FeAlはアルカリに対してほとんど腐食せず、塩に対しては一定の耐食性を有する。なお、FeAl層にはCrを添加していても良い。Crを約12%含むFeAl(Cr)層は機械的特性のみならず、一般的な酸(塩酸、硝酸、硫酸など)に対する耐食性も優れている。
Fe2Al5層を主体とする一次拡散層10に対し大気中において二次熱処理すると、図4に示すように一次拡散層10は基材1に近い側のαFe層からなる下部拡散層11と基材1から離れた側のFeAl層からなる上部拡散層12に分離する。あるいは熱処理条件によって、上部拡散層12の上にFe2Al5層が残留した3層構造となる。
このFeAl層からなる上部拡散層12は基材1に対し下部拡散層11を介し良好な密着性で接合しており、上述のように靭性に優れ耐摩耗性、耐食性に優れるので、鋳鉄製の基材1の表面改質ができる。
このFeAl層からなる上部拡散層12は基材1に対し下部拡散層11を介し良好な密着性で接合しており、上述のように靭性に優れ耐摩耗性、耐食性に優れるので、鋳鉄製の基材1の表面改質ができる。
なお、上述のように2段階熱処理するのではなく、基材1上に被覆層9を形成したならば、大気中において全体を500〜1050℃(773〜1323K)の温度に加熱する一次熱処理のみを施して被覆層9を拡散あるいは溶融させ、被覆層9中のAlを基材1の表面のFeと拡散反応させる一次熱処理のみを施して拡散層を形成しても良い。
基材1上に形成する被覆層9として、溶融Alめっき層あるいはAl粉末を圧着した層を用い、これらの被覆層を備えた基材1を上述の温度範囲に加熱すると、基材1上に順次FeAl層とFe2O5層が積層された拡散層を備えた構造を得ることができる。
基材1上に形成する被覆層9として、溶融Alめっき層あるいはAl粉末を圧着した層を用い、これらの被覆層を備えた基材1を上述の温度範囲に加熱すると、基材1上に順次FeAl層とFe2O5層が積層された拡散層を備えた構造を得ることができる。
被覆層の種類と熱処理条件によって最表面にFe2Al5層が生成した2層構造となった場合、最表面に存在するFe2Al5層は脆いので比較的容易に剥離する。このため、2層構造の最表面を研磨するなどの方法を採用すると、表面のFe2Al5層を容易に分離除去できる。Fe2Al5層の分離除去後に表面に残るFeAl層からなる拡散層は、基材1に対する密着性に優れ耐摩耗性に優れるので、鋳鉄製の基材1の表面改質ができたこととなる。
即ち、耐食性、耐摩耗性、耐アルカリ性、耐塩性の面で鋳鉄は不足な面があるが、表面にFeAl層を被覆することで、耐食性、耐摩耗性、耐アルカリ性、耐塩性の面で優れた鋳鉄を提供できる。
即ち、耐食性、耐摩耗性、耐アルカリ性、耐塩性の面で鋳鉄は不足な面があるが、表面にFeAl層を被覆することで、耐食性、耐摩耗性、耐アルカリ性、耐塩性の面で優れた鋳鉄を提供できる。
以上説明した方法によれば、鋳鉄からなる基材1の表面の必要位置にAlの被覆層を形成し、大気中において熱処理を行うことで鋳鉄の基材1の表面改質が容易にできる。従って、鋳鉄からなる構造部材や配管などにおいて、耐食性や耐摩耗性が必要な部位にショットピーニング処理やショットブラスト処理を施し、Alを含む被覆層9を形成した後に、大気中で必要な温度にバーナーやヒーターで加熱するなどの簡便な方法で必要な位置にFeAl層を形成して鋳鉄の表面改質ができる。
以上説明した表面改質した鋳鉄は、酸やアルカリを含む環境で使用する場合の耐食性に優れ、耐摩耗性にも優れているので、温泉水にも強く、地熱発電施設の設備構造材、構築材料として好適であり、海洋構造物の構造材、下水道配管などの構造材としても有益な特徴を有する。
以上説明した表面改質した鋳鉄は、酸やアルカリを含む環境で使用する場合の耐食性に優れ、耐摩耗性にも優れているので、温泉水にも強く、地熱発電施設の設備構造材、構築材料として好適であり、海洋構造物の構造材、下水道配管などの構造材としても有益な特徴を有する。
即ち、前述の表面改質した鋳鉄であるならば、従来は鋳鉄の用途として適用が難しかった構造材への適用か可能となり、鋳鉄の用途を従来の用途より格段に広くすることができる。また、鋳鉄が本来有している複雑な形状の製品への対応が比較的安価に実現できるという利点を有し、振動抑制効果を有する利点、経年変化が少ない利点、耐摩耗性に優れている点を併せ持つ優れた構造材の提供が可能となる。
例えば鋳造により種々形状の凹凸を有する鋳造品が製作されているが、ショットピーニング処理あるいはショットブラスト処理などのピーニング処理は凹凸のある鋳造品に対し容易に実施することができ、鋳造品の必要な面を加工できるとともに、熱処理を大気中において施すだけで鋳鉄の表面改質ができるので、本実施形態は実施が極めて容易な特徴を有する。
例えば鋳造により種々形状の凹凸を有する鋳造品が製作されているが、ショットピーニング処理あるいはショットブラスト処理などのピーニング処理は凹凸のある鋳造品に対し容易に実施することができ、鋳造品の必要な面を加工できるとともに、熱処理を大気中において施すだけで鋳鉄の表面改質ができるので、本実施形態は実施が極めて容易な特徴を有する。
「試験例1」
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の記載に制限されるものではない。
ダクタイル鋳鉄を基材として用いた。この実施例では図5に示すように10×10×3mmのダクタイル鋳鉄製の正方形板状の基材を用いた。用いたダクタイル鋳鉄はFCD450相当であった。また、他の基材として、JISのS45C鋼材からなる基材を用いて比較試験を行った。
上述の組成の鋳鉄基材をそのまま試験片とした場合と、以下の条件でショットピーニング処理してから試験片とした場合の両方について試験した。粒径600μmの焼き入れ鋼製の粒子を用い、基材表面に0.8MPaの圧力で30秒噴射させた場合と、粒径50μmの高速度鋼製の粒子を用い、同等圧力で30秒噴射させた場合との2通りについて試験した。いずれの試料においても、#500の研磨紙で表面仕上後、十分に脱脂し、ショットピーニング処理を施す試料は脱脂後にショットピーニング処理した。この試験に用いた粒径600μmの焼き入れ鋼製の粒子を図13(a)に示し、平均粒径50μmの高速度鋼製の粒子を図13(b)に示す。
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の記載に制限されるものではない。
ダクタイル鋳鉄を基材として用いた。この実施例では図5に示すように10×10×3mmのダクタイル鋳鉄製の正方形板状の基材を用いた。用いたダクタイル鋳鉄はFCD450相当であった。また、他の基材として、JISのS45C鋼材からなる基材を用いて比較試験を行った。
上述の組成の鋳鉄基材をそのまま試験片とした場合と、以下の条件でショットピーニング処理してから試験片とした場合の両方について試験した。粒径600μmの焼き入れ鋼製の粒子を用い、基材表面に0.8MPaの圧力で30秒噴射させた場合と、粒径50μmの高速度鋼製の粒子を用い、同等圧力で30秒噴射させた場合との2通りについて試験した。いずれの試料においても、#500の研磨紙で表面仕上後、十分に脱脂し、ショットピーニング処理を施す試料は脱脂後にショットピーニング処理した。この試験に用いた粒径600μmの焼き入れ鋼製の粒子を図13(a)に示し、平均粒径50μmの高速度鋼製の粒子を図13(b)に示す。
図7に本実施例で用いた試料のショットピーニング前の基材断面を示し、図8にショットピーニング後の試料の基材断面を示す。図7と図8の対比から、ショットピーニング処理により基材表面部分において塊状の黒鉛が占めていた部分やボイドが存在していたと思われる部分がいずれも圧壊され、基材の表面部分はより緻密な金属組織構造となっていることがわかる。
次に、ショットピーニング処理後の基材上に、図2(c)のようにグリセリンとアルコールでペースト状にしたAl−Cr粉末ペーストを塗布した。また、対比のために、ショットピーニング処理を施していないダクタイル鋳鉄のままの試料についても同様にAl−Cr粉末ペーストを塗布した。Al−Cr粉末ペーストは、20質量%のCrを含むAl−Cr合金を溶製して得た鋳塊から削り出したAl−Cr粉末を用いて作製した。いずれの試験も平均粒径45μmの粉末を用い、粉末10g+溶媒25mlの割合で混合して粉末ペーストとしている。
各試料にAl粉末ペーストを塗布した後、図6に示すように上パンチ13と下パンチ14の間にポリ4フッ化エチレン製の保護シート15に上下を挟まれた状態の基材1を挟み込み、温度250℃にて圧力150MPaを付加し、時間30分保持してこれらを圧着した。
これらの試料に対し1050℃(1323K)で20時間加熱後徐冷する焼鈍と、950℃(1023K)で3時間加熱後徐冷する焼鈍を施し、改質処理した鋳鉄基材を得た。また、本試験では全てのプロセスを大気中で行った。
各試料にAl粉末ペーストを塗布した後、図6に示すように上パンチ13と下パンチ14の間にポリ4フッ化エチレン製の保護シート15に上下を挟まれた状態の基材1を挟み込み、温度250℃にて圧力150MPaを付加し、時間30分保持してこれらを圧着した。
これらの試料に対し1050℃(1323K)で20時間加熱後徐冷する焼鈍と、950℃(1023K)で3時間加熱後徐冷する焼鈍を施し、改質処理した鋳鉄基材を得た。また、本試験では全てのプロセスを大気中で行った。
図9(a)に1050℃×20時間熱処理後の試料断面組織写真を示し、図9(b)に950℃×3時間熱処理後の試料断面組織写真を示す。図9(a)、(b)に示すように鋳鉄製の基材の上に白く層状に厚いFeAl(Cr)層を生成できていることがわかる。また、図9(a)、(b)を対比してわかるように950℃×3時間の条件で二次熱処理した試料のFeAl(Cr)層が、1050℃×20時間の条件で二次熱処理した試料のFeAl(Cr)層より薄いことがわかる。このことから、二次熱処理の温度は950℃よりも1050℃の方が厚いFeAl(Cr)層を得る上で有利であり、熱処理時間も3時間より20時間の方が厚いFeAl(Cr)層を得る上で有利であると推測出来る。
図9(a)に示す断面組織写真において、白い層は上下2層に分かれており、基材に近い下層がFeAl層であり、基材から離れた側がFe2Al5層である。
図9(a)に示す断面組織写真において、白い層は上下2層に分かれており、基材に近い下層がFeAl層であり、基材から離れた側がFe2Al5層である。
図10は、図9(a)に示す試料断面において、表面位置から深さ方向に拡大写真を撮影するとともに、図10(a)の左端側に示す試料最表面位置から図10(a)の右端側に示すFeAl(Cr)層最奥位置側まで深さ方向にAl、Fe、Crの個々の割合をEPMA(電子線マイクロアナライザー)により測定した結果を示す。このデータから、AlとFeとCrの相互拡散により鋳鉄表面側にFeAl(Cr)層を生成できていることがわかる。
次に、腐食液として0.1mol/L塩酸水溶液を400mL用意し、図11に示すような円筒状の容器16に収容し、液温25℃±2℃にてこの容器16の腐食液に前述の試料を浸漬時間50ks、100ks、150ks、200ksのいずれかに設定して浸漬する腐食試験を行った。腐食試験中、容器16を図11に示す恒温水槽17に収容し、容器16の温度を上述の温度(25℃±2℃)に維持した。
試料については、950℃で二次熱処理した試料、1050℃で二次熱処理した試料に加え、ダクタイル鋳鉄そのまま利用した試料についても腐食試験を行った。その結果を図12に示す。
試料については、950℃で二次熱処理した試料、1050℃で二次熱処理した試料に加え、ダクタイル鋳鉄そのまま利用した試料についても腐食試験を行った。その結果を図12に示す。
図12に示す腐食試験の結果に示すように、ダクタイル鋳鉄のままの試料に対比し、950℃で二次熱処理した試料、1050℃で二次熱処理した試料のいずれの試料も変化量が少なく、塩酸水溶液に対し著しく優れた耐食性を有していることがわかる。
以上の試験結果から、鋳鉄表面をショットピーニング処理した後に、Al(Cr)層を形成し、一次熱処理することで、鋳鉄表面にFeAl(Cr)層とFe2Al5(Cr)を層状に形成できた。
以上の試験結果から、鋳鉄表面をショットピーニング処理した後に、Al(Cr)層を形成し、一次熱処理することで、鋳鉄表面にFeAl(Cr)層とFe2Al5(Cr)を層状に形成できた。
「試験例2」
前記試験例1と同等試料を用い、Al粉末を圧着後に二次拡散の熱処理条件のみ900℃×3.6ksの条件として得た試料の断面組織写真を図14に示す。
図14(a)はショットピーニングを施していないダクタイル鋳鉄表面に形成されたFeAl層とFe2Al5層の断面構造を示し、図14(b)はダクタイル鋳鉄に600μmの焼き入れ鋼球でショットピーニング処理した後に得られた試料の断面構造を示し、図14(c)はダクタイル鋳鉄に50μmの焼き入れ鋼球でショットピーニング処理した後にアルミナイジングして得られた試料の断面構造を示す。
前記試験例1と同等試料を用い、Al粉末を圧着後に二次拡散の熱処理条件のみ900℃×3.6ksの条件として得た試料の断面組織写真を図14に示す。
図14(a)はショットピーニングを施していないダクタイル鋳鉄表面に形成されたFeAl層とFe2Al5層の断面構造を示し、図14(b)はダクタイル鋳鉄に600μmの焼き入れ鋼球でショットピーニング処理した後に得られた試料の断面構造を示し、図14(c)はダクタイル鋳鉄に50μmの焼き入れ鋼球でショットピーニング処理した後にアルミナイジングして得られた試料の断面構造を示す。
図14(a)〜(c)の比較から、合金層に生ずる表面からのボイドは、(a)のショットピーニングしていない場合には存在密度も高くかつ深い。これに対してショットピーニングを施すとボイドの数も、深さも減少し、その傾向は(c)の平均粒径50μmの微粒子でショットピーニングした場合の方が顕著である。すなわち、表面層に黒鉛の存在によって生じるボイドが短くかつ少ない(c)が好ましく、(c)の試料は耐食性も良好である。
1・・・基材、1A…平滑層、2…粒子、3…凝着層、4…ロッド、5…Al粉末、6…溶媒、7…容器、8…粉末ペースト、9…被覆層(塗布層ともいう)、10…一次拡散層、11…下部拡散層、12…上部拡散層。
Claims (5)
- 鋳鉄からなる基材の表面に機械的処理を施すことで、前記基材表面部分の黒鉛を除去した後、前記基材の表面にAlまたはAl合金の被覆層を形成することを特徴とするアルミナイジングによる鋳鉄の表面改質方法。
- 前記機械的処理が、金属またはセラミックス粒子を衝突させるピーニング処理および多数の細い金属棒で打撃する多芯タガネによる基材表面への衝撃処理から選ばれた少なくとも一種である請求項1記載のアルミナイジングによる鋳鉄の表面改質方法。
- 前記被覆層が、前記基材表面にAl粉末またはAl合金粉末を加熱圧着した被覆層、前記基材表面に形成した溶融Alメッキの被覆層、AlまたはAl合金の粉末を溶媒中に分散させた粉末ペーストを塗布して加熱した被覆層、AlまたはAl合金を溶射した被覆層、前記基材表面にAlまたはAl合金からなる固体を擦り付けてからAl合金の粉末を溶媒中に分散させた粉末ペーストを塗布して加熱した被覆層、あるいは、Al箔またはAl合金を加熱圧着した被覆層のいずれかである請求項1または請求項2に記載のアルミナイジングによる鋳鉄の表面改質方法。
- 前記被覆層を大気中において500〜1050℃に加熱することでFe2Al5の形成を主体とする一次拡散した後、さらに750〜1100℃に加熱することでFeAlの形成を主体とする二次拡散した請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミナイジングによる鋳鉄の表面改質方法。
- 前記AlまたはAl合金が、純アルミ系の1000系合金、Al−Cu系、Al−Cu−Mg系の2000系合金、Al−Mn系の3000系合金、Al−Si系の4000系合金、Al−Mg系の5000系合金、Al−Mg−Si系の6000系合金、Al−Zn−Mg−Cu系、Al−Zn−Mg系の7000系合金、Al−Fe−Mn系の8000系合金、Al−Cr系合金およびAl−Ni系合金から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜4に記載のアルミナイジングによる鋳鉄の表面改質方法。
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WO2020189637A1 (ja) * | 2019-03-20 | 2020-09-24 | 日立金属株式会社 | めっき形成黒心可鍛鋳鉄部材の製造方法、及びめっき形成黒心可鍛鋳鉄部材 |
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-
2014
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