JP2005002457A - 複合表面改質方法及び複合表面改質成品 - Google Patents

複合表面改質方法及び複合表面改質成品 Download PDF

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Abstract

【課題】耐摩耗性や潤滑性、表面改質等の効果を長期に維持することができる複合表面改質方法を提供する。
【解決手段】金属又は金属とセラミックスの混合品から成る金型、刃物、摺動部品、治工具、切削工具、装飾部品、歯車、軸受などの各種被処理成品の炭素系硬質被膜が形成される部分の母材表面に、炭化物粉体を噴射して、前記炭化物粉体中の炭素元素を被処理成品の表面付近に、最表面から内部に向かうに従い炭素量が徐々に減少するように拡散させる母材前処理を行う。
その後、この母材前処理が完了した被処理成品に、PVDやCVD等の方法により炭素系硬質被膜を形成すると、被膜中の炭素と母材前処理の際に拡散された炭素とが同化して硬質皮膜の強固な密着が得られると共に、得られた成品は、最表面から内部に向かうに従い徐々に硬度が低下する傾斜構造と成る。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えばTiC,TiCN,WC,DLC(Diamond Like Carbon)、ダイヤモンド、CBN、CN等の炭素系硬質被膜の形成による表面改質と組み合わされることにより、被処理成品の表面を複合的に改質するための複合表面改質方法、詳細には、複合表面改質方法における母材前処理方法、及びこの母材前処理と前記炭素系硬質被膜の形成とを組み合わせて成る複合表面改質方法、及び前記方法により得られた複合表面改質成品に関する。
【0002】
【従来の技術】
金型、刃物、摺動部品、治工具、切削工具、装飾部品、歯車、軸受などの各種成品において、耐摩耗性や潤滑性、表面改質等の目的でその表面に硬質被膜のコーティングを行うことが行われており、例えば前述のDLC膜のように硬くて低μ(摩擦係数)の被膜の各種分野への応用が検討されている。
【0003】
しかし、DLC等の硬質被膜は、硬度が増すにつれて圧縮残留応力も大きいため、単層での使用においては形成される最大膜厚も2μm以下に制限され、耐摩耗用途等での実用膜厚は1μm前後であり、金型や自動車部品等の比較的高面圧に耐える必要がある用途では、母材の硬度が不足すると母材の弾性変形等に伴って、母材と被膜との界面に働く応力が密着力を上回って剥離が生じたり、高硬度であるために靱性の低い硬質被膜にクラックが生じる原因となる。
【0004】
そのため、このような硬質被膜が利用される母材としては高硬度の超硬合金等に限定され、応用分野が限定される要因となっている。
【0005】
また、銅やアルミニウム等の硬度が低く、熱膨張係数の大きいを母材を使用する場合には、形成する膜厚を薄くする等して剥離の危険を抑える必要がある。
【0006】
さらに、母材の表面粗さが大きいと、粗さの突起部で界面に働く応力が大きくなり剥離やクラック発生の原因となると共に、母材の表面粗さが形成された炭素系硬質被膜の表面に対しても影響を及ぼすことから、硬質被膜が行われる母材の表面仕上げには高い精度が要求される。
【0007】
このような問題を解消するために、一例としてのDLC被膜の形成による表面改質方法にあっては、母材の表面に下地処理として予めスパッタリング等の方法によりSi、Cr、Ti、Cr/Ti、Nb等の金属元素から成る中間層を形成しておき、この中間層上に更に前述のDLCの被膜を形成する複合表面改質方法があり、これにより中間層が母材とDLC膜をより強固に接着する層として働き剥離等の生じにくいものとなる。
【0008】
また、別の方法としては、DLCにTi、Cr、W等の金属成分を10at.%以下含有させることにより、圧縮残留応力を減少させて厚膜化を可能とした、所謂「金属成分含有DLC」(以下、「Me−DLC」という。)を形成する方法がある。
【0009】
このMe−DLCでは、金属成分の含有に応じて残留圧縮応力が小さくなるため、高い面圧がかかる歯車や軸受、燃料噴射ポンプ、機械要素部品への応用が可能となるばかりでなく、実用膜厚5μmが可能となるため、母材表面粗さへの要求が低減され、その応用分野を飛躍的に広げるものとなっている。
【0010】
特に、母材側から表面層に向けて徐々に含有する金属成分を減らして行く傾斜組織構造を有するMe−DLC被膜にあっては、母材側に向かうに従って徐々にその硬度が低くなり、界面において母材とDLCの間の硬度差が最も減少するために、母材との馴染みもより一層良好で剥離等が生じ難いものとなる(非特許文献1)。
【0011】
なお、前述のDLC等の炭素系硬質被膜の母材前処理に関するものではないが、金属成品の表面に浸炭を行う方法として、金属材料から成る被処理成品の表面に、炭化物粉体を噴射し、前記炭化物粉体中の炭素元素を被処理成品の表面に拡散させる浸炭処理方法がある(特許文献1参照)。
【0012】
この発明の先行技術文献情報としては次のものがある。
【非特許文献1】熊谷 泰「DLC膜の特性と応用例」(「応用技術」Vol.52,No8,2001)
【特許文献1】特許第3242060号公報(第1−5頁)
【発明が解決しようとする課題】
前述の従来技術のうち、Me−DLCにあっては、金属成分を含有させることにより、中間層等の下地層を形成することなく剥離やクラックの発生等を防止することができるものとなっている。そのため、これによりMe−DLCの応用分野を各種の分野に広げることができるものとなっている。
【0013】
しかし、前述のような金属成分の添加には、マグネトロンスパッタリングとプラズマCVDの複合プロセスを用いることが多く、大がかりな装備等を必要とする。
【0014】
特に、前述の傾斜組織構造を備えたMe−DLCを形成する場合には、被処理成品の表面に形成される被膜の成長に応じて金属成分の添加量を減少する等の複雑な制御が必要となる。
【0015】
また、前述のDLC等の硬質被膜の形成において、その下地処理として中間層を形成する方法にあっては、前述のように中間層の形成により母材とDLCとの接着力が強化されて剥離等の問題が生じにくいものとなっている。
【0016】
しかし、前述のような中間層の形成に際しては、スパッタリング等の方法が使用されており、中間層の形成と、DLC被膜の形成という複数回に亘る膜成長を行う作業は煩雑である。
【0017】
また、母材と中間層間、及び中間層とDLC間に依然として大きな硬度差がある場合には、やはり剥離やクラックの発生等の問題は完全に解消されない。
【0018】
前掲の非特許文献1には、母材の表面に中間層を形成しておき、さらに傾斜組織のMe−DLCを形成する方法も開示しており、これによれば中間相の形成によっても減少できない硬度差をさらに減少させることができるものと考えられる。
【0019】
しかし、この方法による場合には中間層の形成と、傾斜組織Me−DLCの形成という複雑な作業を、複数の工程を経て行う必要があり、その作業は極めて煩雑である。
【0020】
なお、母材と硬質被膜間の硬度差を減少させることにより、硬質被膜の剥離やクラックの発生を防止することができる点から、硬質被膜を形成する前に母材の表面を硬化しておき、このようにして硬化された母材の表面に硬質被膜を形成することも考えられる。
【0021】
そして、このような母材の表面硬化の方法として、既知の浸炭や窒化等を行うことも考えられる。
【0022】
しかし、浸炭や窒化を行うためには比較的大がかりな装置や作業を必要とし、前述のような中間層の形成に比較して作業の簡略化を図れるものではない。
【0023】
また、下地処理が既知の浸炭方法により行われる場合、この浸炭により母材の表面に浸炭異状層等が発生するために密着強度を得ることができないという問題があり、さらに、浸炭は、高温下で処理が行われるために、処理対象となる被処理成品に歪み等が発生し、不良の発生率が上昇する等の問題があると共に、このような浸炭の採用は、母材の歪みや変態を起こしにくいPVDやプラズマCVD等の低温プロセスで被膜を形成することが主流となっている今日の動向に逆流するものである。
【0024】
一方、下地処理として窒化を行う場合には、前述の浸炭に比較すれば低温で処理することができ、処理対象に歪みが発生するおそれも少ないが、これが完全に無くなるわけではない。
【0025】
また、浸炭のような異状層の発生も少ないものとなっているが、最表面層にFeNの化合物が生成するため、その後このFeN層の除去を行う必要があり、そのための工程が増加して処理が煩雑となる。
【0026】
本発明は、硬質被膜の形成との組み合わせにおいて、常温下で浸炭処理を行うだけでなく、硬質被膜のうち、TiC,TiCN,WC,DLC、ダイヤモンド、CBN、CN等の炭素系の硬質被膜との組み合わせにおいて、被膜との付着強度が極めて高い、最表面から内部に向かうに従って炭素量ないし硬度が徐々に低下する炭素量ないし硬度変化の傾斜構造(以下、このような変化を有する構造を「硬度傾斜構造」という。)を備えた複合表面改質成品を得ることができるという、前記従来技術からは予測できない顕著な作用効果が得られることを見い出すことにより成されたものであり、従来技術として説明した前述の傾斜組織を有するMe−DLCと同様の硬度傾斜構造を有する複合表面改質成品を、大がかりな装置や複雑な制御等を行うことなく比較的簡単な方法により得ることのできる複合表面改質方法、詳細には母材前処理方法を含む複合表面改質方法、並びに前記方法により製造された複合表面改質成品を提供することを目的とする。
【0027】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の複合表面改質方法は、炭素系硬質被膜が形成される金属又は金属とセラミックスの混合品から成る被処理成品の母材表面に炭化物粉体を噴射して、前記炭化物粉体中の炭素元素を被処理成品の表面付近に、最表面から内部に向かうに従い前記噴射された炭化物粉体の炭素による炭素の増加量が徐々に減少するように拡散させることを特徴とする(請求項1)。
【0028】
前記炭化物粉体の噴射は、好ましくは噴射速度50m/sec以上、又は、噴射圧力0.2MPa以上で行う(請求項2)。
【0029】
また、前記炭化物粉体としては、SiC、好ましくはSiC(α)を使用し(請求項3)、その粒径を♯220以下、好ましくは♯400〜♯3000(JIS R6001−1973)とする(請求項4)。
【0030】
また、本発明の複合表面改質方法は、前述のいずれかの方法により母材前処理された被処理成品の母材表面に、炭素系硬質被膜を形成することを特徴とする(請求項5)。
【0031】
さらに、本発明の複合表面改質成品は、前記いずれかの方法により母材前処理された被処理成品の母材表面に炭素系硬質被膜を製膜することにより、表面から内部に表面から10μmの範囲において硬度が低下する硬度傾斜構造を有する構造に形成されたことを特徴とする(請求項6)。
【0032】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施形態を以下説明する。
【0033】
本発明の複合表面改質方法にあっては、金属又は金属とセラミックスとの混合品から成る被処理成品の母材表面に、炭化物粉体を噴射する母材前処理の工程と、この母材前処理後の被処理成品に対し、PVDやCVDによりTiC,TiCN,WC,DLC、ダイヤモンド、CBN、CN等の炭素系硬質被膜を形成する工程から成る。
【0034】
〔被処理成品〕
本発明の複合表面改質方法の処理対象となる被処理成品は、金属又は金属とセラミックスとの混合品から成る各種の成品、例えば金型、刃物、摺動部品、治工具、切削工具、装飾部品、歯車、軸受等を対象とすることができる。
【0035】
この、被処理成品の材質である「金属」には、鉄鋼材料等の鉄基金属、アルミニウム等の非鉄金属、及び各種合金等の一般に金属材料呼ばれるものを広く含み、被処理成品の好ましい材質ととしては、炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼、特殊用途鋼等である。
【0036】
〔母材前処理工程〕
本工程は、被処理成品の母材表面に炭化物粉体を噴射し、被処理成品の母材表面に衝突した炭化物粉体中の炭素元素を被処理成品の表面付近に、表面から内部に向かうに従い徐々に炭素加量が減少するように拡散浸透させる工程である。
【0037】
使用する炭化物粉体としては、例えばBC、SiC(SiC(α))、TiC、VC、BC、TiC、VC、グラファイト、ダイヤモンド等の炭化物の粉体を使用することができ、好ましくはSiC、より好ましくはSiC(α)を使用する。
【0038】
母材前処理に使用する炭化物粉体の粒径としては、炭素元素の拡散浸透を得るに必要な噴射速度を得るために、♯220以下のもの、好ましくは400〜♯3000の、所謂「微粉」を使用する。
【0039】
また、このような炭化物粉体を被処理成品に噴射する方法としては、既知の各種のブラスト装置を使用することができ、噴射速度や噴射圧力の調整が比較的容易であることから、エア式のブラスト装置の使用が好ましい。
【0040】
このエア式のブラスト加工装置としては、直圧式、吸込式の重力式、あるいは他のブラスト装置等種々のものがあるが、このうちのいずれのものを使用しても良く、前述した炭化物粉体を噴射速度50m/sec以上、又は噴射圧力0.2MPa以上で噴射することができる性能を備えたものであれば、特にその型式等は限定されない。
【0041】
以上のような炭化物粉体を、前述のブラスト装置により被処理成品の母材表面に高速で噴射すると、前記粉体の被処理成品の表面への衝突前後の速度変化により、エネルギー不変の法則を考慮すると、熱エネルギーが生じる。このエネルギーの変換は、前記炭化物粉体が衝突した変形部分のみで行われるので、炭化物粉体及び被処理成品の表面付近に局部的に温度上昇が起こる。
【0042】
また、温度上昇は炭化物粉体の衝突前の速度に比例するので、前記炭化物粉体の速度を高速にすると、前記炭化物粉体及び被処理成品の表面の温度を上昇させることができる。このとき炭化物粉体が被処理成品の表面で加熱され、さらには加熱分解し、前記炭化物粉体を成す炭化物中の炭素元素が被処理成品の母材表面に活性化吸着して拡散浸透するものと考えられる。
【0043】
したがって、本発明の母材前処理方法では、従来の表面硬化処理における浸炭とは異なり、ブラスト処理により炭化物粉体を被処理成品に衝突させたときの前記炭化物粉体の温度上昇による加熱分解とその分解により生成した前記炭化物粉体中の炭素元素の被処理成品への拡散浸透により、浸炭処理を行うものである。
【0044】
この方法による母材前処理によれば、被処理成品に対する炭素元素の拡散浸透は、その最表面付近において最も顕著で、増加する炭素量も多く、そして、被処理成品の内部向かって前記拡散により増加する炭素量、従って、当該深さにおける炭素量が被処理成品表面から深くなるにつれて徐々に減少して一定の深さで被処理成品の未処理の状態となる傾斜構造となる。
【0045】
なお、前記炭化物粉体が被処理成品に衝突したときに炭化物粉体及び被処理成品が部分的に温度上昇するとはいえ、この温度上昇は局部的かつ、瞬間的なものであることら、一般的な浸炭処理におけるような熱処理による被処理成品の歪みや相変態等が生じるこもなく、また、微細な炭化物が生成されるため密着強度が高く、浸炭異状層も生じない。
【0046】
このようなブラストによる炭素元素の拡散浸透の原理をより詳細に説明するために、一般に行われるガス浸炭処理を例に挙げてその比較において説明すると、一般のガス浸炭法では、浸炭性の雰囲気ガスとしては、メタン(CH)、プロパン(C)、又はブタン(C10)の炭化水素ガスと、空気を一定割合で混合したものを原料として使用する。
【0047】
この混合ガスを加熱すると、吸熱反応により一酸化炭素(CO)、水素(H)、窒素(N)が発生するが、浸炭は主としてこのCOガスが次式で表される熱解離をして生じた活性炭素が、鋼中のFeと反応することで行われる。
【0048】
2CO=C+CO
すなわち、鋼の母材表面に、COガスが単に外力や加熱その他の物理的方法によって簡単に除去できるような物理的付着をしただけでは、鋼中のFeとCOガスが反応を起こすことはできないが、さらに熱その他のエネルギーをある一定以上与えるとCOガスはFeの表面に活性化吸着をする。この活性化吸着をしたCOガスは、二酸化炭素と炭素に熱解離をし、この反応により生じた活性炭素が、1000℃程度にまで加熱されてCを固溶できる面心立方のγ構造となった鋼中のFe格子内に拡散して浸炭現象を起こすものと考えられる。
【0049】
ここで、ガス浸炭処理においては、前述のように鋼中のFeをCを固溶できる面心立方のγ構造とするために、被処理成品である鋼材全体を一様に加熱していることから、炭素は被処理成品の内部にまで拡散浸透し易く、条件にもよるが浸炭層の厚さも1〜1.5mm程度と比較的厚く、前述した本願の母材前処理のように、内部にいくに従い徐々に炭素の増加量が減少する傾斜構造とはなり難いものとなっている。
【0050】
上記の従来のガス浸炭処理における現象を考慮すると、本発明の母材前処理においては、以下に示すような炭素の拡散現象が行われると考えられる。
【0051】
例えば、炭素鋼から成る被処理成品の母材表面に炭化物粉体を噴射し、被処理成品の母材表面に衝突させると跳ね返るが、衝突後は速度が遅くなる。衝突前と衝突後の速度の比、すなわち反発係数は被処理成品の材質、硬度により異なるが、失われた運動エネルギーは、エネルギー不変の法則から、音以外にその大部分は熱エネルギーに変換される。熱エネルギーは衝突時に被処理成品の衝突部が変形することによる内部摩擦と考えられるが、被処理成品は常温噴射された炭化物粉体が衝突した変形部分のみで熱交換が行われるので、炭化物粉体が衝突した被処理成品の表面部分は部分的に高温となる。また、この衝突部分は、粉体粒径に対応して極めて微少面積で行われ、急熱・急冷が瞬時に反復される。このとき炭化物粉体が、被処理成品の表面で加熱されるために熱分解し、炭化物粉体中の活性炭素が被処理成品に活性化吸着し、拡散するものと考えられる。
【0052】
しかし、一般的な浸炭のように被処理成形品を一様に加熱することが行われていない本発明の母材前処理方法にあっては、炭化物粉体との衝突により被処理成品は部分的に加熱されるものの、この加熱は炭化物粉体が衝突した表面部分において局部的に生じるものであり、被処理成品の内部に向かうにつれて、この衝突により生じた熱の影響は急速に減少する。そのために、本発明の方法による母材前処理にあっては、被処理成品の表面から内部に向かうに従って炭素が拡散し難くなっており、その結果、内部に向かうに従って炭素量が減少する、前述した傾斜構造を伴った浸炭が行われているものと考えられる。
【0053】
また、本発明で用いる炭化物粉体は前述の通り炭化物から成り、この炭化物は一般に金属に比べ密度が低いために(例 SiC:3.2g/cm、BC:2.5g/cm)被処理成品に対して高速で噴射しても衝突時の変形は少ない。そのため、本発明にあっては、被処理成品全体を高温に加熱する必要のある従来のガス浸炭処理方法などに比べ被処理成品の変形が少なく、浸炭処理が可能である。
【0054】
〔炭素系硬質被膜の形成工程〕
以上のようにして母材前処理の完了した被加工物の母材表面には、その後、炭素系硬質被膜の形成が行われる。
【0055】
形成する炭素系硬質被膜としては、TiC、TiCN、WC、DLC(Didmond Like Carbon)、ダイヤモンド、CBN、CN等であり、これらの被膜の形成方法としては、各種のPVD(Phusical Vapor Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)PCVDその他の各種の既知の被膜形成方法を使用することができる。
【0056】
一例として、前述のDLC(Didmond Like Carbon)の製膜方法について説明すれば、このDLCは、その名が示すようにダイヤモンドに似た性質を持つ炭素材料で、炭素原子が規則的な並び方をしていない非結晶(アモルファス)膜である。このDLCの成膜法としては、気体状のベンゼン(C)を用いるイオン源方式、直接カーボン源を用いるアーク放電方式、CHガス等を用いるプラズマCVD方式、非平衡の磁気中で成膜させるUBMS(Unbalanced Magnetron Suputtering System)方式等がある。
【0057】
このようにして前述の母材前処理が完了した被処理成品の表面に炭素系硬質被膜を形成すると、炭素系硬質被膜の炭素は、母材前処理された被処理成品の表面付近に拡散浸透した炭素と同化して強力な密着力で付着した被膜が形成される。
【0058】
また、前述のように被処理成品の表面は、その最表面付近において最も炭素の増加量が多く、内部に向かうに従って徐々に炭素量が減少する傾斜構造に形成されていることから、前述の母材前処理された被処理成品の表面に、炭素成分の同化により一体的に形成された炭素系硬質皮膜の形成された複合表面改質成品は、その最表面において最も硬度が高く、内部に至るに従い徐々に硬度を減少する傾斜構造となり、被処理成品の表面と、炭素系硬質被膜との界面における硬度差が減少されて、応力の集中による剥離等が好適に防止されている。
【0059】
〔試験例〕
次に、本発明の方法により得られた複合表面改質成品について行った試験例を以下に示す。
【0060】
(1)複合表面改質成品の寿命比較試験 1
絞り金型のパンチ(SKH57相当)に対し、下表1の条件により母材前処理を施した後、炭素系硬質被膜(TiCN)を形成した複合表面改質成形品(実施例1)と、未処理の絞り金型のパンチ(SKH57相当)(比較例1)との寿命の比較試験を行った。その結果を表2に示す。
【0061】
実施例1の複合表面改質成形品は、表1の条件によりパンチ金型の先端から長さ100mmの部分を母材前処理加工を行った後、母材前処理後の表面に軽くペーパーラップ仕上げを施した後、PVDによりTiCN被膜を形成したもので、比較例1は、母材前処理をせずにTiCN皮膜形成を行ったものである。
【0062】
【表1】
Figure 2005002457
【0063】
【表2】
Figure 2005002457
【0064】
以上の結果、本発明の方法により複合表面改質を行った被処理成品にあっては、未処理のものと比較して表面硬度がHv450上昇し、寿命が6倍に上昇した。
【0065】
(2)複合表面改質成形品の寿命比較試験 2
絞り金型のパンチ(粉末ハイス)に対し、下表3に示す条件により母材前処理を施した後、炭素系硬質被膜(DLC)を形成した複合表面改質成形品(実施例2)と、未処理の絞り金型のパンチ(粉末ハイス)(比較例2)との寿命の比較試験を行った。その結果を表4に示す。
【0066】
実施例2の複合表面改質成形品にあっては、表3に示す条件で銅用の絞り金型のパンチ先端部から長さ100mmの部分迄に母材前処理加工を行った後、母材前処理加工後の表面を軽くペーパーラップ仕上げを施した後、PVDによりDLC被膜を形成したもので、比較例2は、母材前処理をせずにDLC被膜を形成したものである。
【0067】
【表3】
Figure 2005002457
【0068】
【表4】
Figure 2005002457
【0069】
以上の結果、本発明の方法により複合表面改質を行った被処理成品にあっては、表面硬度がHv600上昇し、寿命が10倍に上昇した。
【0070】
(3)複合表面改質成品の寿命比較試験 3
被処理成品を刃物・バニシングツール(超硬G2相当)に対し、下表5に示す条件により母材前処理を施した後、炭素系硬質被膜(DLC)を形成した複合表面改質成形品(実施例3)と、未処理の刃物・バニシングツール(超硬G2相当)(比較例3)との寿命の比較試験を行った。その結果を表6に示す。
【0071】
実施例3の複合表面改質成形品にあっては、表3に示す条件でアルミダイカストの穴開け用バニシングツール(リーマ)の先端部から長さ100mm迄に表5に示す条件で母材前処理加工を行った後、母材前処理加工後の表面をシリカビーズ(♯400)のブラストにより軽く研磨した後、PVDによりDLC被膜を形成したもので、比較例3は、母材前処理をせずにDLC被膜形成を行ったバニシングツールである。
【0072】
【表5】
Figure 2005002457
【0073】
【表6】
Figure 2005002457
【0074】
表6に示すように、表面硬度の測定では、Co部分のみの測定が不能であり、硬度上昇の確認はできなかったが、寿命が15倍に上昇していることが確認された。この寿命の向上は、密着強度の低下をもたらしているものと思われる超硬のCoが母材前処理により除去ないし改質され、その結果密着強度が上昇し、これにより寿命の向上が得られているものと思われる。
【0075】
(4)複合表面改質成型品の硬度の測定
上記実施例1及び実施例2のパンチ金型の表面からの深さと硬度の変化の状態を測定した結果を図1に示す。
【0076】
以上の結果、図1からも明らかな通り、炭化物粉体の噴射が行われた被処理成品は、最も表面の部分において最もその硬度が高く、表面からの深さが増すにつれて徐々に硬度が下がり、表面からの深さが6μm程で未処理の被処理成品の硬度と同程度の硬度となっている、硬度傾斜構造を有していることが確認された。
【0077】
【発明の効果】
以上説明した本発明の構成により、硬質被膜のうち、TiC,TiCN,WC,DLC、ダイヤモンド、CBN、CN等の炭素系の硬質被膜との組み合わせにおいて、被膜との付着強度が極めて高い、最表面から内部に向かうに従って硬度が徐々に低下する硬度変化の傾斜構造を備えた複合表面改質成品を、比較的簡単な方法により得ることができる複合表面改質方法、前記母材前処理方法を含む複合表面改質方法、並びに前記方法により製造された複合表面改質成品を提供することができた。
【0078】
これにより、形成された被膜の剥離やクラックの発生等を好適に防止でき、金型、刃物、摺動部品、治工具、切削工具、装飾部品、歯車、軸受などの各種成品において、複合表面改質により付与された耐摩耗性や潤滑性、表面改質等の効果を長期に維持することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合表面改質成品の表面からの深さと硬度の変化を示したグラフ。

Claims (6)

  1. 金属又は金属とセラミックスの混合品から成る被処理成品の母材表面に炭化物粉体を噴射して、前記炭化物粉体中の炭素元素を被処理成品の母材表面付近に、表面から内部に向かうに従い炭素の増加量が徐々に減少するように拡散させ、炭素系硬質被膜形成の母材前処理を行うことを特徴とする複合表面改質方法。
  2. 前記炭化物粉体の噴射を噴射速度50m/sec以上、又は、噴射圧力0.2MPa以上で行うことを特徴とする請求項1記載の複合表面改質方法。
  3. 前記炭化物粉体がSiC、好ましくはSiC(α)であることを特徴とする請求項1又は2記載の複合表面改質方法。
  4. 前記炭化物粉体の粒径が、♯220以下、好ましくは♯400〜♯3000であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の複合表面改質方法。
  5. 請求項1〜4いずれか1項記載の方法により母材前処理された被処理成品表面に、炭素系硬質被膜を形成することを特徴とする複合表面改質方法。
  6. 請求項1〜4いずれか1項記載の方法により母材前処理された被処理成品の母材表面に炭素系硬質被膜を製膜することにより、表面から10μmの範囲において硬度が低下する硬度傾斜構造を有することを特徴とする複合表面改質成品。
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