JP3849669B2 - 光学素子製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はガラスレンズのごときガラス製の光学素子を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
今日、ガラス製の光学素子は、プラスチック製の光学素子などと比べると、熱膨張係数が小さく、それだけ鏡筒等の部材に精度よく取り付けることができる、屈折率が高く、それだけ高性能の素子とし得る、レンズ面等の光学機能面を成形によ精度よく形成しやすい、熱的安定性に優れているなどの理由により、デジタルカメラ用レンズ、光ピックアップレンズ、携帯電話用カメラレンズ、光通信用の接続レンズ、光ファイバーの入出力素子などとして広く利用されるようになってきた。
【0003】
かかるガラス光学素子を形成する方法としては、
(1) 予め所定重量及び形状を有する成形用ガラス素材を作製し、
(2) 該ガラス素材を成形用金型とともに、ガラスが変形可能な温度まで加熱し、
(3) 該ガラス素材を該金型にて加圧成形して得ようとする光学素子の光学機能面を形成し、
(4) 成形した光学素子を金型とともに室温付近まで冷却し、
(5) その後、該光学素子を金型から取り出す
という工程を経る方法が一般的である(特公昭54−38126号公報参照)。
【0004】
しかし、このような方法は、所定重量及び形状の成形用ガラス素材を精度よく作製する工程が欠かせないこと、及び該ガラス素材と金型とを加熱、冷却する工程に長時間を必要とすることから、光学素子を低コスト化することが困難である。特に、レンズ外径を一定にする心取り工程を不要とする、レンズ外周部に位置決め基準面を有するレンズを製造するためには、ガラス素材の重量を厳密に管理する必要があることから、非常にコストがかかる方法である。
【0005】
この点、特開昭60−171231号公報は、レンズ成形にあたり、レンズ主面側で且つ有効径より外方に位置する外縁部にレンズ構成素材の一部を環状若しくは突起状に形成するようにし、この環状若しくは突起状部分で成形用ガラス素材のバラツキを吸収するとともにレンズ外形精度を所定のものして心取り工程を省略することを提案している。
【0006】
また、特開平3−237023号公報は、レンズホルダの穴内に成形用ガラス素材を配置するとともにこれを成形することで該ホルダに保持された心取り工程不要のレンズを形成することを提案している。
【0007】
しかしこれら公報記載の心取り工程不要の光学素子製造方法によると、成形用ガラス素材の重量の許容幅はある程度広がるものの、ガラス素材の作製には依然高精度な機械加工が必要であるばかりでなく、ガラス素材と金型を加熱、冷却する工程が長時間を必要とするというもう一つの大きい問題についてはなんら解決されていない。
【0008】
その後、このような方法とはまったく異なった光学素子の製造方法が提案されるに至った。すなわち、特平4−16414号公報は、ノズル先端から所定量の溶融ガラス滴を成形型上に滴下し、滴下されたガラス滴が未だ変形可能な温度にある間に該成形型で光学素子を成形する方法を開示している。
【0009】
この方法によると、ノズル先端からの自然滴下による溶融ガラス滴を用いるため、高価な成形用ガラス素材を必要としないこと、及びガラス素材と金型を室温から加熱し、成形後に再び冷却するという工程が不要になり、光学素子製造時間の大幅な短縮が可能である。これらにより、成形用ガラス素材を金型とともに加熱、冷却して成形する方法よりも大幅に光学素子製造コストを低減でき、光学素子の生産性を高めることができる。
【0010】
また、特開平8−133764号公報は、かかる改良された方法を応用して、心取り工程を不要とする位置決め基準面を有するレンズを製造する方法を開示している。この方法は、成形用型でレンズを成形する際、レンズ有効径外周に光軸と平行な方向の基準面と光軸に垂直な方向の基準面を形成するものである。
【0011】
また、特平4−16414号公報に開示された成形方法では、ノズルからの自然落下による溶融ガラス滴の大きとしては100mg以下の微小なものを得ることは困難であったところ、特開2002−154834号公報は、ノズルからの溶融ガラスの滴下路の途中に貫通細孔を形成した滴下量調整部材を配置し、該滴下量調整部材上にガラス滴を滴下衝突させることで該ガラス滴の少なくとも一部を微小滴として該部材細孔から押し出すことで微小なガラス滴を得ることを開示している。
【0012】
【特許文献1】
特公昭54−38126号公報
【特許文献2】
特開昭60−171231号公報
【特許文献3】
特開平3−237023号公報
【特許文献4】
特公平4−16414号公報
【特許文献5】
特開平8−133764号公報
【特許文献6】
特開2002−154834号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
以上説明したように、特平4−16414号公報等に開示された溶融ガラス滴の成形による光学素子の製造方法は、光学素子の製造コストが安価に済み、生産性が高く、特開2002−154834号公報による方法では小型光学素子の製造にも対応できる利点があるが、これら公報は光学素子の外周部に位置決め基準面を形成する方法を何ら開示していない。
【0014】
光学素子については、これを鏡筒等の部材に取り付けるにあたり、該部材における光学素子の位置、さらに光学素子の光軸の位置や方向などを所定のものにするために、鏡筒等の部材に予め設けられた基準部位に当接させる位置決め基準面が必要であり、そのとき、該基準面が光学素子(例えばレンズ)の外周部(所謂コバ部)に存在することが要求されることがある。
【0015】
特開平8−133764号公報は前述のとおり位置決め基準面の形成について開示しているが、この方法によると、レンズ外周部よりも内側に位置決め基準面を設ける場合には非常に有効であるものの、レンズ外周部(所謂コバ部)を規制することができない。また、コバ面が自由面として残ってしまい、これがレンズの小型化を困難にしている。
【0016】
そこで本発明は、外周部に位置決め基準面を有する光学素子を、低コストで、生産性高く製造でき、光学素子の小型化にも対応できる光学素子製造方法を提供することを課題とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者は前記課題を解決すべく研究を重ね、次のことに着目し、本発明を完成した。 先ず、特平4−16414号公報等に開示された溶融ガラス滴の成形による光学素子製造方法と基本的に同様の方法を採用することで、旧来のように成形用ガラス素材を作製することは不要となり、かかるガラス素材を成形用型とともに加熱、冷却する必要もないから、低コストで、生産性高く光学素子を製造することができる。
【0018】
光学素子外周部の位置決め基準面は、製造されるべき光学素子のための外形規制面を有する下型を用い、該下型にガラス滴を滴下、衝突させれば、該ガラス滴が広がって外形規制面に接触し、これにより光学素子外周部の位置決め基準面を形成することが可能である。また、このような基準面形成方法を採用することで、その後の光学素子全体の加圧成形の条件に影響されにくい状態で、安定した位置決め基準面を形成することができる。
【0019】
また、滴下された溶融ガラス滴は、主に下型及び外形規制面との接触面からの放熱によって冷却されるが、前記外形規制面の温度をガラス滴のガラス転移点温度(℃)から100℃を差し引いた温度より高くしておけば、外形規制面に接触して放熱するガラス滴部分の温度低下を抑制でき、加圧成形時の該部分の割れや欠け等の損傷を抑制することができ、良好な光学素子を得ることができる。
【0020】
また、かかる外形規制面を有する下型を用いて光学素子を成形すると、ガラス滴の光学素子外周部に相当する部分が外形規制面により位置規制されるから、特開平8−133764号公報開示の方法による場合のように規制なく自由状態で形成されるコバ部が生じることがなく、それだけ小型光学素子の製造も可能である。
【0021】
以上の点に着目し、本発明は、
製造されるべき光学素子のための外形規制面を有する、又は該外形規制面を有する部材が組み合わされた下型であって該光学素子の一つの光学機能面を成形するための下型面を有する下型と、該光学素子のもう一つの光学機能面を成形するための上型面を有し、該下型に対向配置される上型とを準備する工程と、
前記下型の又は該下型に組み合わされた外形規制面及び下型面をそれぞれ加熱し、該下型面上に溶融ガラス滴を滴下して衝突させ、広がらせて該外形規制面に接触させることで前記光学素子の外周部における位置決め基準面を形成する基準面形成工程と、
該基準面形成後、該ガラスが未だ加圧変形可能な温度にある間に前記下型と加熱した前記上型とを互いに対向させるとともに相対的に接近させて該ガラスを加圧成形することで前記光学素子の対向する二つの光学機能面を形成する加圧成形工程と、
該加圧成形工程後、該上下型による加圧を解除して成形された光学素子を取り出す素子取出し工程とを含み、
前記基準面形成工程及び前記加圧成形工程における前記外形規制面の温度は前記ガラスのガラス転移点温度(℃)から100℃を差し引いた温度より高くする光学素子製造方法を提供する。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態に係る光学素子製造方法は、基本的に、次の工程を含むものである。すなわち、
(1) 製造されるべき光学素子のための外形規制面を有する、又は該外形規制面を有する部材が組み合わされた下型であって該光学素子の一つの光学機能面を成形するための下型面を有する下型と、該光学素子のもう一つの光学機能面を成形するための上型面を有し、該下型に対向配置される上型とを準備する工程、
(2) 前記下型の又はこれに組み合わされた外形規制面及び下型面をそれぞれ所定温度に加熱し、該下型面上に所定量の(前記光学素子が得られる量の)溶融ガラス滴を滴下して衝突させ、広がらせて該外形規制面に接触させることで前記光学素子の外周部における位置決め基準面を形成する基準面形成工程、
(3) 該基準面形成後、該ガラスが未だ加圧変形可能な温度にある間に前記下型と所定温度に加熱した前記上型とを互いに対向させるとともに相対的に接近させて該ガラスを加圧成形することで前記光学素子の対向する二つの光学機能面を形成する加圧成形工程、及び
(4) 該加圧成形工程後、該上下型による加圧を解除して成形された光学素子を取り出す素子取出し工程である。
【0023】
前記基準面形成工程及び前記加圧成形工程における前記外形規制面の温度は前記ガラスのガラス転移点温度〔Tg(℃)〕から100℃を差し引いた温度(Tg−100℃)より高くする。
【0024】
この光学素子製造方法によると、旧来のように成形用ガラス素材を作製することは不要となり、かかるガラス素材を成形用型とともに加熱、冷却する必要もないから、低コストで、生産性高く、素子外周部に位置決め基準面を有する光学素子を製造することができる。
【0025】
光学素子外周部の位置決め基準面は、溶融ガラス滴の滴下の段階で形成されるので、その後の加圧成形工程における加圧成形条件に影響されにくく、加圧成形条件の変更、バラツキがあっても、安定した位置決め基準面を形成することができる。
【0026】
滴下された溶融ガラス滴は、主に下型及び外形規制面との接触面からの放熱によって冷却されるが、基準面形成後、ガラスが未だ加圧変形可能な温度にある間に前記下型と所定温度に加熱した前記上型とを接近させて該ガラスを加圧成形するので、所望の厚み及び対向する二つの光学機能面を有する光学素子を成形することができる。
【0027】
また、かかる外形規制面を有する下型を用いて光学素子を成形するので、ガラス滴の光学素子外周部に相当する部分が外形規制面により位置規制されるから、特開平8−133764号公報開示の方法による場合のように規制なく自由状態で形成されるコバ部が生じることがなく、それだけ小型光学素子の製造も可能である。
【0028】
前記基準面形成工程及び加圧成形工程における下型の温度、特に前記下型面の温度は、所望の光学素子を成形できる範囲の温度とすればよいが、必要以上に高くしすぎることは、ガラスと型面との融着を防ぐ観点及び型寿命の観点から好ましくない。一方、下型面の面形状、特に下型面のちう光学素子の光学機能面の有効径領域を形成するための領域(光学有効面領域)の面形状を精度良くガラスに転写させなければならない。これらの観点から、下型面の温度としては、ガラス転移点温度又はほぼ該温度(以下、これらを「実質上ガラス転移点温度」と総称することがある。)、或いは(ガラス転移点温度−50℃)から(ガラス転移点温度+100℃)の範囲の温度とすることが望ましい。
【0029】
前記加圧成形工程における上型、特に素子の光学機能面を形成する前記上型面の温度も、下型面の場合と同様の理由で、実質上ガラス転移点温度、或いは(ガラス転移点温度−50℃)から(ガラス転移点温度+100℃)の範囲の温度とすることが望ましい。
【0030】
既述のように、滴下された溶融ガラス滴は、主に下型及び外形規制面との接触面からの放熱によって冷却されるが、このとき、外形規制面の温度が低すぎると、外形規制面との接触面からのガラスの放熱が早いためにガラス内部と外形規制面との接触面近傍部との温度差が大きくなりすぎ、加圧成形の段階でガラスの外周部がすでに変形可能温度より低くなってしまい、外周部から割れ、かけが発生してしまう。
【0031】
しかしここでは、前記のとおり、基準面形成工程及び前記加圧成形工程においては前記外形規制面の温度をガラス滴のガラス転移点温度(℃)から100℃を差し引いた温度より高く設定するので、外形規制面に接触して放熱するガラス滴部分の温度低下を抑制でき、加圧成形時の該部分の割れや欠け等の損傷を抑制することができ、それだけ良好な光学素子を得ることができる。
【0032】
前記基準面形成工程及び加圧成形工程における外形規制面の温度は、ガラス外周部の割れ、欠けを抑えるという観点からは、高いほうが好ましい。
一方、前記下型面の温度は、前述の通り、型寿命等の観点から光学有効面領域の面形状を精度良くガラスに転写させるのに必要な温度より高温とすることは好ましくない。
このため、外形規制面の温度としては、例えば、前記下型面の温度〔(ガラス転移点温度−50℃)から(ガラス転移点温度+100℃)の範囲の温度〕と同じか又はそれより高くする場合を挙げることができる。
【0033】
いずれにしても、前記基準面形成工程及び加圧成形工程における前記外形規制面、下型面及び上型面をそれぞれ加熱するための(それぞれの前記所定温度を得るための)温度制御における目標設定温度は一定に保ったままとして該基準面形成工程、加圧成形工程及び素子取出し工程を実施することが可能である。そうすることで、光学素子1個当たりの製造時間を大幅に短縮できる。
【0034】
なお、ここで、「温度制御における目標設定温度は一定に保ったまま」とは、各工程実施中に、ガラスとの接触により下型面等の温度が変動することを防止しようとするものではなく、かかる温度変動については許容される。
【0035】
ところで、近年においては、位置決め基準面を有する光学素子の形状として、素子光軸に垂直な素子断面形状が円形のものばかりではなく、正方形、長方形等の非円形形状のものも要求されるようになっている。かかる非円形光学素子を旧来の素子製造方法で製造するとすれば、それぞれの光学素子の形状に応じて精密加工された高価な成形用ガラス素材が必要であり、素子製造コストが非常に高くなってしまう。しかしここで説明している方法を用いることで、かかる非円形光学素子も安価に生産性良好に製造することができる。
【0036】
すなわち、光学素子外周部の位置決め基準面の素子光軸に垂直な断面形状が非円形を呈する光学素子を、前記外形規制面を該位置決め基準面を形成する面として製造することが可能である。
【0037】
いずれにしても、前記下型として、前記下型面のうち製造しようとする前記光学素子の光学機能面の有効径領域を形成する有効径面より外側の領域に、該光学素子のもう一つの位置決め基準面を形成する規制面を形成したものを採用し、前記基準面形成工程においては、前記光学素子の外周部における位置決め基準面を形成すると同時に該もう一つの位置決め基準面を形成するようにしてもよい。
かかるもう一つの位置決め基準面(従ってこれを形成するための規制面)は、光学素子の光軸に垂直な面、光軸に対し垂直より傾斜したテーパ面、さらには段差のある面など、必要に応じ種々の形態のものとできる。
【0038】
また、前記基準面形成工程において前記溶融ガラス滴を滴下するにあたり、該滴下路の途中に貫通細孔を形成した滴下量調整部材を配置し、該滴下量調整部材上にガラス滴を滴下衝突させることで該ガラス滴の少なくとも一部を微小滴として該部材細孔から押し出し前記下型面上に滴下させてもよい。そうすることで、微小な光学素子の製造も可能となる。
【0039】
以下図面を参照して光学素子製造の幾つかの例を説明する。
図1は製造しようとするガラスレンズ10(光学素子例)の断面図である。図2はレンズ10の製造に用いる金型の1例Aの断面図である。図3はレンズ10の製造工程を示している。
【0040】
図1に示す製造しようとするガラスレンズ10は、対向する二つの光学機能面101、102を有しているとともに、外周部(コバ部)にレンズ光軸100と平行な位置決め基準面103を、光学機能面101の端部領域にレンズ光軸100に垂直な位置決め基準面104を有している。
【0041】
図2に示す金型Aは下型1及び上型2を備えている。下型1には円筒形の外形規制面31を内面として有する外形規制部材3が組み合わされている。
下型1は、レンズ10の一方の光学機能面101を形成するための、上方に向けられた、平面から見て円形の下型面11を有している。下型面11の中央部は凹曲面に形成されており、該凹曲面及びそれに連なる平坦円形領域でもって、レンズ光学機能面101の有効径dの領域を形成する有効径面11aが提供されている。該有効径面の外側の領域にはレンズ10の光軸に垂直な位置決め基準面104を形成するための規制面11bが形成されている。
【0042】
下型1の下型面11を含む頂部12は定位置に設置された外形規制部材3に摺動可能に嵌められている。下型1は図示省略の昇降駆動装置により昇降可能であり、これにより頂部12は部材3の外形規制面31に沿って昇降でき、外形規制面31に囲まれたレンズ成形のための位置P1(図3(A)参照)と、成形したレンズを取り出すための側部材3の外側へ突出した位置P2(図3(D)参照)をとることができる。
【0043】
上型2は、レンズ10の他方の光学機能面102を形成するための、下方に向けられた、凹曲面からなる、且つ、下方から見て円形の上型面21を有している。上型2は図示省略の昇降駆動装置により昇降可能であり、それにより上型面21を含む下部22が、円筒型の外形規制面31で囲まれた空間に出入できる。
【0044】
下型1には下型面11を加熱するための電気ヒータ13が、上型2には上型面21を加熱するための電気ヒータ23が、外形規制部材3には外形規制面31を加熱するための電気ヒータ32がそれぞれ内蔵されている。これらヒータは温度調節装置4を用いて、下型1、上型2、部材3にそれぞれ設けられた温度センサ14、24、33からの検出温度情報に基づきコントロールされ、下型面11、上型面21、外形規制面31のそれぞれについて設定された目標温度に向け該下型面、上型面、外形規制面をそれぞれ加熱する。
【0045】
温度調節装置4による温度制御における下型面11及び上型面21についての目標設定温度は後述するガラス滴のガラス転移点温度Tg程度、或いは(Tg−50℃)から(Tg+100℃)の範囲の温度とされ、外形規制面31についての目標設定温度は(Tg−100℃)より高温、例えば下型面11についての目標設定温度と同一とされる。
【0046】
次に金型Aを用いるガラスレンズ10の製造について図3を参照して説明する。
先ず、図3(A)に示すように、下型頂部12を外形規制面31で囲まれたレンズ成形位置P1に配置する一方、溶融ガラスGを滴下させるノズル5を下型1の下型面11の中央上方に配置し、図示省略の坩堝で溶融させた溶融ガラスGをノズル5から所定量下型面11上に自然滴下する。
【0047】
このとき、溶融ガラスGの滴下に先立って、下型面11をヒータ13にてガラス滴Gのガラス転移点温度Tg程度、或いは(Tg−50℃)から(Tg+100℃)の範囲の温度に加熱しておくとともに、外形規制面31をヒータ32にて(Tg−100℃)より高温、例えば下型面11と同程度の温度に加熱しておく。なお、ガラス滴下後はノズル5を上型2の昇降に邪魔にならない位置へ退避させておく。
【0048】
かかるノズル5からの自然落下によるガラス供給方法によると、レンズ10を得るために滴下させるガラス滴重量のバラツキを±1mgの範囲に抑えることが可能であり、それだけ精度のよいレンズを得ることができる。
【0049】
溶融ガラスGをノズル5から所定量下型面11上に滴下すると、図3(B)に示すように、溶融ガラス滴gは下型面11に衝突し、広がって外形規制面31に接触する。これによりレンズ10の外周部における位置決め基準面103が精度良く形成される。また、同時に下型面11における規制面11bにより位置決め基準面104も精度良く形成される。
【0050】
該基準面形成後、図3(C)に示すように、ガラスgが未だ加圧変形可能な温度にある間に、予め下型1と同程度の温度に加熱しておいた上型2を外形規制面31で囲まれた空間内に下降させ、ガラスgを上下型1、2間で加圧してレンズ10の対向する光学機能面101、102を加圧成形し、且つ、ガラスgの厚みをレンズ10の厚みとしてレンズ10を形成する。
【0051】
このとき、ガラスgのうち滴下の段階で外形規制面31と接触しなかった部分が加圧成形時においても外形規制面31と接触せず、図3(C)に例示するように、ガラス外周部に凹みα等として残る場合があり得るが、かかる部分は位置決め基準面103より外側へはみ出ることはないので、位置決め基準面103の機能を損なうことはない。
【0052】
その後は、図3(D)に示すように、上型2を上昇させ、さらに下型1を上昇させ、位置決め基準面103、104を有するガラスレンズ10を型外へ取り出す。
【0053】
以上のレンズ製造工程は、温度調節装置4による温度制御における下型面11、上型面21及び外形規制面31それぞれについての目標設定温度を一定としたままで繰り返し実施でき、それにより効率良くレンズ10を製造することができる。
【0054】
前記ノズル5からの自然落下によるガラス滴下では、通常、100mg以下の重量のガラス滴を滴下させるのは困難である。そこで、少量のガラス滴でもってより小型のガラスレンズを作る場合には、図4に示すように、溶融ガラス滴gを滴下するにあたり、該滴下路の途中に、上方へ拡広したテーパ孔61に続く貫通細孔62を形成した滴下量調整部材6を配置し、該部材6上にガラス滴gを滴下衝突させることで該ガラス滴の少なくとも一部を微小滴g’として細孔62から押し出し、これを下型1上に滴下させてもよい。
【0055】
製造しようとするガラスレンズの他の例10’の平面図及び側面図を図5(A)及び図5(B)に示す。レンズ10’は、平面から見ると角部分Cを丸めた四角形状のレンズである。対向する二つの光学機能面101’、102’を有しているとともに、レンズ外周部に位置決め基準面103’を有している。
【0056】
かかる非円柱状のレンズ10’は、前記下型1の下型面11を光学機能面101’を形成できる面とし、外形規制部材3の外形規制面31を位置決め基準面103’及びレンズ角部Cの丸みを形成できる面とし、上型2の上型面21を光学機能面102’を形成できる面としておくことで、レンズ10と同様に簡単に精度良く形成できる。
【0057】
次にレンズ製造の実験例について説明する。
以下の実験例ではいずれもガラス滴下を次の条件で行った。また、金型は図2に示すタイプのものを用いた。
使用ガラス材料 :リン酸塩系ガラス
ガラス転移点温度Tg:432℃
該ガラスを1100℃で溶融させノズル温度900℃として、図4に示す構成の滴下量調整部材を用いてガラス滴を該部材下5mmの距離を下型面上に滴下させた。
【0058】
Figure 0003849669
ガラス滴下からレンズ取り出しまでこれら目標設定温度は一定に維持した。
【0059】
下型面上へのガラス滴下により外形規制面にて高さ0.5mmの光軸平行の位置決め基準面が形成されるとともに下型面にて光軸に垂直な位置決め基準面が形成された。
その後、ガラスが変形可能温度にある間(滴下から3秒後)に上下金型でガラスを加圧成形した。
図1に示すと同様の二つの位置決め基準面を有するガラスレンズを得ることができた。
【0060】
上下の金型及び外形規制部材の制御温度(設定目標温度)を一定に保ったまま、さらにガラス滴下、加圧成形及びレンズ取出しの各工程を繰り返し、先のものも含め合計10個のガラスレンズを製造したところ、いずれのレンズにも割れ、欠け等の損傷は認められなかった。
【0061】
Figure 0003849669
ガラス滴下からレンズ取り出しまでこれら目標設定温度は一定に維持。
【0062】
下型面上へのガラス滴下により外形規制面にて高さ0.6mmの光軸平行の位置決め基準面がレンズ外周の四つの面に形成された。
その後、ガラスが変形可能温度にある間(滴下から5秒後)に上下金型でガラスを加圧成形した。
図5に示すと同様の位置決め基準面を有するガラスレンズを得ることができた。
【0063】
上下の金型及び外形規制部材の制御温度(設定目標温度)を一定に保ったまま、さらにガラス滴下、加圧成形及びレンズ取出しの各工程を繰り返し、先のものも含め合計10個のガラスレンズを製造したところ、いずれのレンズにも割れ、欠け等の損傷は認められなかった。
【0064】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によると、外周部に位置決め基準面を有する光学素子を、低コストで、生産性高く製造でき、光学素子の小型化にも対応できる光学素子製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】製造対象レンズの1例の断面図である。
【図2】レンズ製造に用いる上下金型及び外形規制部材の断面図である。
【図3】図1に示すレンズの製造工程を示す図である。
【図4】ガラス滴下量の調整部材を用いる例を示す図である。
【図5】製造対象レンズの他の例を示すもので、図5(A)はその平面図、図5(B)はその側面図である。
【符号の説明】
10、10’ガラスレンズ
100 レンズ光軸
101、102、101’、102’ レンズの光学機能面
D レンズ外径(外形規制面31の内径)
d レンズ光学機能面の有効径
103、103’、104 レンズの位置決め基準面
A 金型
1 下型
11 下型面
11a 有効径面
11b 規制面
12 下型頂部
13 ヒータ
14 温度センサ
P1 加圧成形位置
P2 レンズ取出し位置
2 上型
21 上型面
22 上型下部
23 ヒータ
24 温度センサ
3 外形規制部材
31 外形規制面
32 ヒータ
33 温度センサ
h 面31における下型面からの高さ
4 温度調節装置
5 ノズル
G 溶融ガラス
g、g’溶融ガラス滴
6 滴下量調整部材
61 テーパ孔
62 貫通細孔

Claims (4)

  1. 製造されるべき光学素子のための外形規制面を有する、又は該外形規制面を有する部材が組み合わされた下型であって該光学素子の一つの光学機能面を成形するための下型面を有する下型と、該光学素子のもう一つの光学機能面を成形するための上型面を有し、該下型に対向配置される上型とを準備する工程と、
    前記下型の又は該下型に組み合わされた外形規制面及び下型面をそれぞれ加熱し、該下型面上に溶融ガラス滴を滴下して衝突させ、広がらせて該外形規制面に接触させることで前記光学素子の外周部における位置決め基準面を形成する基準面形成工程と、
    該基準面形成後、該ガラスが未だ加圧変形可能な温度にある間に前記下型と加熱した前記上型とを互いに対向させるとともに相対的に接近させて該ガラスを加圧成形することで前記光学素子の対向する二つの光学機能面を形成する加圧成形工程と、
    該加圧成形工程後、該上下型による加圧を解除して成形された光学素子を取り出す素子取出し工程とを含み、
    前記基準面形成工程及び前記加圧成形工程における前記外形規制面の温度は前記ガラスのガラス転移点温度(℃)から100℃を差し引いた温度より高く設定し、
    前記基準面形成工程、加圧成形工程及び素子取出し工程は、前記外形規制面、下型面及び上型面それぞれを加熱するための温度制御における目標設定温度を一定に保ったまま実施することを特徴とする光学素子製造方法。
  2. 前記下型として、前記下型面のうち製造しようとする前記光学素子の光学機能面の有効径領域を形成する有効径面より外側の領域に、該光学素子のもう一つの位置決め基準面を形成する規制面を形成したものを採用し、前記基準面形成工程においては、前記光学素子の外周部における位置決め基準面を形成すると同時に該もう一つの位置決め基準面を形成する請求項1記載の光学素子製造方法。
  3. 光学素子外周部の位置決め基準面の素子光軸に垂直な断面形状が非円形を呈する光学素子を製造する方法であり、前記外形規制面を該位置決め基準面を形成する面とした請求項1又は2記載の光学素子製造方法。
  4. 前記基準面形成工程において前記溶融ガラス滴を滴下するにあたり、該滴下路の途中に貫通細孔を形成した滴下量調整部材を配置し、該滴下量調整部材上にガラス滴を滴下衝突させることで該ガラス滴の少なくとも一部を微小滴として該部材細孔から押し出し前記下型面上に滴下させる請求項1、2又は3記載の光学素子製造方法。
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