JP3869296B2 - プラスチック光学素子及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、レーザ方式のデジタル複写機、レーザプリンター、又はファクシミリ装置の光学走査系、ビデオカメラ等の光学機器等に適用されるプラスチック光学素子の製造方法に関するものであり、内部の屈折率分布が均一で低いプラスチック光学素子を能率的に製造することができるものである。
【0002】
【従来の技術】
レンズ、プリズム等の光学素子については、高い形状精度で、内部に複屈折の少ないことが要求されるため、従来はガラス製のものが主流であった。しかし、近年、形状の自由度が高く、また生産性がよいことからプラスチック製のものが増加してきている。この理由は、低い複屈折特性の樹脂材料が開発されたことや、形状精度が良く低複屈折の成形品を製造可能にする成形技術の向上によるものである。
従来、光学素子に用いられる樹脂材料としては、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂が主流であった。他方、ポリカーボネート樹脂は複屈折が大きく、また、アクリル樹脂は吸水性が高く、環境(湿度)変化に対して形状や屈折率が変化するため、その用途が限定されていた。しかし、近年、低吸水性でかつ低い複屈折特性のポリカーボネイト系樹脂材料が開発されたため、その用途が拡大している。このような樹脂材料として、例えば、日本ゼオン社製のゼオネックス、JSR社製のアートン、三井化学社製のアペルなどがある。
また、樹脂材料の改良のみならず成形技術の方も、樹脂を低圧で充填し、金型全体もしくは入駒を介して圧縮を加える射出圧縮成形法などが開発されたことによって、形状精度が高く、低複屈折の成形品が得られるようになってきた。以上のような理由から光学素子のプラスチック化が一層進む傾向にある。
【0003】
【従来技術の問題点】
上記のように、形状精度が高く低い複屈折特性の光学素子が得られるようになったが、成形加工後の光学素子内部には屈折率分布が残存する。このため、特に高精度が要求される光学素子では、十分に満足な光学性能は未だ得られないという問題がある。
また、内部屈折率は光学素子の表面に近いほど高く、中心に近づくほど低くなり、光学素子が結像レンズの場合には、この屈折率分布が結像位置ずれを起こす原因となっている。例えば、レーザプリンター等の走査レンズの場合、特開平10−288749号公報に記載されているように、屈折率分布は被走査面上に集光すべきビームスポットが設計上の位置よりも光偏向器から遠ざかるように作用し、その結果、被走査面上におけるビームスポット径が設計値よりも大きくなり、記録画像の品質低下の原因になっている。
【0004】
光学素子内部に上記屈折率分布が生じる原因は、成形加工時の金型壁面近傍、すなわち樹脂外周部分の温度低下(冷却)が急であるのに対して、樹脂中央部分の温度低下は緩やかであることである。また、射出充填時や保圧初期の高い圧力がかかった状態で、金型壁近傍が急冷されて固体状態になるため、表面は密度が高くなるが、しかし、中央部が冷却され固体状態になる時には圧力が低下しているため低密度になる。その結果、光学素子の表面は密度が高く、中心に近いほど密度が低くなる。密度と屈折率には相関性があるため、光学素子表面は屈折率が大きく、中央にいくほど屈折率が小さくなり、このため屈折率分布が生じることになる。
【0005】
上記のように、金型壁面近傍で樹脂が急激に冷却されることが、上記屈折率分布が生じる主たる原因であることが判明している。そこで、高温の金型に樹脂を射出充填した後、徐冷を行うことで成形品内部の温度分布を小さくして、屈折率分布の小さいレンズを得る方法がある。しかし、この成形法によれば成形サイクル時間が非常に長くなるため、製造コストが高くなるという欠点がある。
更に、レンズ形状を厚くして(大きくして)、屈折率分布が小さい領域を使用する方法が提案されている。例えば、特開平8−201717号公報(第1従来例)に記載された光走査装置では、ビームの進行方向厚さ(t)と、それと垂直方向の高さ(h)で、h/t>2となるようにレンズ形状を規定している。これは、垂直方向の高さhを大きくすることで、ビームが透過する領域において樹脂冷却時の温度分布を小さくし、この限定された部分の屈折率分布が小さいことを利用して、結像位置のずれを小さくするものである。しかし、この方法は、ビームが透過しない領域、つまり有効領域外の部分が増加することになるので、樹脂使用量を増加させ、また、厚肉形状の光学素子を形状精度良く成形するために成形サイクル時間(冷却時間)を長くする必要がある。このため製造コストが高くなるという問題がある。また、レンズ形状が限定されるので、光学設計の自由度が損なわれることにもなる。
【0006】
また、屈折率分布を見込んだ光学設計を行う方法として、特開平9−49976号公報(第2従来例)に記載されているものがある。これは、結像レンズの屈折率分布による結像位置ずれ相当分を結像レンズの形状変更で補正し、結像位置を回転多面鏡側にシフトさせることによって、被走査面上にビームを結像させる方法である。この方法は、金型を製作し、その金型に合せた成形条件を決定し、成形された結像レンズの結像位置を評価して、その評価結果に基づいて形状補正値を決定するものである。このため、成形上の別の不具合で、成形条件を変更することが必要になった場合には、補正値を再度変更しなければならず、そのため、鏡面駒を再製作する必要があった。また、多数個取りの金型を製作する場合には、キャビテイ毎に補正値を変える必要があるため、加工用のプログラムをキャビテイ数だけ作製する必要がある。従って、試作回数が非常に多くなり、鏡面駒製作回数が増加するので、コスト高になるという問題がある。
【0007】
また、レンズ側面から固化が進行するように冷却してレンズ内部の複屈折を低減する方法として、特開平9−193257号公報(第3従来例)に記載されているものがある。この方法では、走査レンズの内部の複屈折を低減させることはできるかもしれないが、冷却時の温度分布が図1の走査レンズ1´の断面図に示すようになることから、レンズ内部の屈折率分布を低減させることはできず、逆に屈折率分布を増大させてしまうという問題がある。
【0008】
また、アニール工程によって屈折率分布を低減させる方法として、特開平11−77842号公報(第4従来例)、あるいは特開2001−47524号公報(第5従来例)に記載されたものがある。このものは、金型外で加熱し、所定範囲内の温度域で所定時間保持し、次いで冷却するアニール工程を施すことで、光学素子内部の屈折率分布を低減させる方法である。
短時間のアニール工程で一定レベルの屈折率分布を低減することが可能であり、効果がレンズ形状によって左右されないため、第1、第2従来例よりも有効な方法である。しかし、これは屈折率分布を完全に取り除くことはできず、より高精度な光学素子が必要で、屈折率分布を低減したい場合に際してはその要求に十分応えることはできない。
【0009】
【解決しようとする課題】
この発明は、従来技術の上記問題を解消し、低コストで屈折率分布が小さいプラスチック光学素子を、能率的に製造できる製造方法を工夫することをその課題とするものである。
【0010】
【課題解決のために講じた手段】
【解決手段1】
上記課題解決のために講じた手段1は、所定のキャビティを画成する面に少なくとも1つ以上の光学面を有し、充填される溶融樹脂のガラス転移温度以下に加熱された成形用金型に、前記溶融樹脂を射出充填し、樹脂冷却過程でプラスチック光学素子の光学面以外の面から優先的に冷却する第1の工程と、前記プラスチック光学素子が、少なくとも所定温度範囲内の下限値以下になるまで所定速度で徐冷する第2の工程とを含むプラスチック光学素子の製造方法を前提として、
前記第1の工程で、前記プラスチック光学素子の光学面以外の面のうち、少なくとも1つ以上の光学面と隣接し略直交する面の中央部から優先的に冷却することである。
【0011】
【作用】
上記金型温度(ガラス転移温度以下の所定温度)以上の温度領域で屈折率分布が発生すると、この屈折率分布は上記第2の工程を経て除去されずに残ってしまうが、上記第1の工程で、走査レンズの光学面以外の面(レンズ側面)の中央部から優先的に冷却することにより、冷却過程での走査レンズ内部の温度分布は図4に示すようになり、走査レンズの光線透過方向と直交する方向の温度差が、従来のように、金型温度を均一にして冷却した場合(図1の温度分布)よりも小さくなり、その結果、屈折率分布が小さくなる。
なお、第1の工程の後に、金型から取り出して、室温まで冷却されるが、この過程の、前記金型温度(ガラス転移温度以下の所定温度)以下の温度領域でも屈折率分布は発生する。しかし、これは第2の工程で除去されるので問題はない。すなわち、第2の工程で、室温まで冷却された走査レンズを図示しない温度制御手段を有する恒温槽に入れ、所定温度範囲の任意の温度(例えば125℃)まで加熱し、その温度で所定時間(例えば1時間)保持し、レンズ内部まで均一に加熱する。これにより、成形後に室温まで冷却された時に生じる屈折率分布を除去することができる。次に、所定温度範囲の下限値以下の温度(例えば100℃)まで徐冷することで、屈折率分布の再発生が低減され、屈折率分布の少ない走査レンズが製作される。
【0012】
【実施態様1】
(請求項1に対応)
この実施態様1は、上記解決手段1について、そのプラスチック光学素子の光学面以外の面から優先的に冷却する方法として、光学面を形成する金型部材と光学面以外の面を形成する金型部材とに温度差をつけるようにしたことである。
【0013】
【作用】
金型の温度制御は容易、高精度に行えるので、光学面を形成する金型部材と光学面以外の面を形成する金型部材とに温度差を容易、高精度で与えることができ、この温度差によって、走査レンズの光線透過方向と直交する方向の温度差を容易、高精度で低減することができる。
【0014】
【実施態様2】
この実施態様2は、上記解決手段1について、前記プラスチック光学素子の光学面以外の面から優先的に冷却する方法として、中央部の隣に冷却用媒体を流すための配管を備えるようにしたことである。
【実施態様3】
(請求項2に対応)
この実施態様3は、上記解決手段1、実施態様1又は実施態様2について、前記光学面以外の面を形成する金型部材を冷却することにより、光学面を形成する金型部材と光学面以外の面を形成する金型部材とに温度差をつけるようにしたことである。
【0015】
【解決手段2】
上記課題解決のために講じた手段2は、所定のキャビティを画成する面に少なくとも1つ以上の光学面を有し、充填される溶融樹脂のガラス転移温度以下に加熱された成形用金型に、溶融樹脂を射出充填し、樹脂冷却過程でプラスチック光学素子の光学面以外の面から優先的に冷却する第1の工程と、前記プラスチック光学素子が少なくとも所定温度範囲内の下限値以下になるまで所定速度で徐冷する第2の工程とを含むプラスチック光学素子の製造方法を前提として、
前記溶融樹脂を充填した後、前記のプラスチック光学素子の光学面以外の面のうち、少なくとも1つ以上の光学面と隣接し略直交する面の一部または全部に空隙を形成し、金型に設けた通気口から冷却流体を前記空隙に圧入して、当該空隙と接する光学面以外の面の中央部から優先的に冷却するようにしたことである。
【0016】
【作用】
上記第1の工程で、上記溶融樹脂を充填した後、金型の一部を後退させてプラスチック光学素子の光学面と隣接し略直交する面の一部または全部に空隙を形成し、当該空隙に冷却流体を圧入させることによって、プラスチック光学素子の当該空隙に対向する面の冷却が上記冷却流体で促進され、光学面を形成する金型部材と光学面以外の面を形成する金型部材とに温度差がつけられる。そして、金型の温度低下によって、上記温度差をほぼ保持したままで、プラスチック光学素子全体が冷却される。
【0017】
【実施態様4】
この実施態様4は、上記解決手段2について、前記金型に設けた通気口から前記空隙に圧入する冷却流体が空気であり、圧縮空気を前記空隙に流入させることにより、プラスチック光学素子の光学面以外の面から優先的に冷却(空冷)するようにしたことである。
【0018】
【作用】
光学面と隣接し略直交する面と金型との間に形成される空隙に圧入される冷却流体が空気であるから、上記空隙からの排気を、金型間の隙間から大気に流出させることができる。したがって、冷却流体の排気のための特別の工夫を金型に設ける必要がないから、上記冷却流体による冷却のために金型の構造が複雑になることはない。
【0019】
【実施態様5】
(請求項3に対応)
この実施態様5は、上記解決手段1、解決手段2、又は実施態様1乃至実施態様4のいずれかについて、そのプラスチック光学素子を所定温度範囲内の下限値以下まで徐冷する第2の工程が、前記金型を冷却することにより金型内で行われることである。
【0020】
【作用】
第2の工程を成形金型を冷却して行うから、第2の工程を行うための別途の手段が不要であり、第1の工程終了後に金型からプラスチック光学素子を取り出す必要がないから、第1の工程及び第2の工程におけるプラスチック光学素子の冷却、加熱制御を能率的に行うことができる。
【0021】
【実施態様6】
(請求項4に対応)
実施態様6は、上記解決手段1、解決手段2、又は実施態様1乃至実施態様4のいずれかについて、そのプラスチック光学素子を所定温度範囲内の下限値以下まで徐冷する第2の工程が、前記プラスチック光学素子を金型から取出した後に行われるようにしたことである。
【0022】
【作用】
第2の工程を成形金型とは別途の装置で実行することになるので、プラスチック光学素子の種類に応じて最適に制御された条件下で、上記解決手段1、解決手段2、又は実施態様1乃至実施態様4のいずれかの第2の工程を行うことができ、その間も射出成形から第1の工程までを成形金型で行えるので、金型の作動サイクルが短縮され、生産性が向上する。
【0023】
【実施態様7】
(請求項5に対応)
実施態様7は、上記解決手段1、解決手段2、又は実施態様1乃至実施態様6のいずれかについて、その第2の工程の所定温度範囲を使用樹脂材料のガラス転移温度以下、同ガラス転移温度よりも30℃低い温度以上の範囲とすることである。
【0024】
【作用】
屈折率分布が形成される温度域がその使用樹脂のガラス転移温度と、「ガラス転移温度−30℃」の範囲にあることが実験的に確認されたので、第2の工程の所定温度範囲をこの範囲に設定することで、必要かつ十分である。
上記温度範囲の下限値が「ガラス転移温度よりも30℃低い温度」よりも低くても格別の効果がないから、上記下限温度を上記範囲よりも低くすると、冷却時間が無駄に長くなって、生産効率を低下させることになる。他方、「ガラス転移温度よりも30℃低い温度」よりも高いと、屈折率分布が形成される可能性がある。
したがって、上記下限値を「ガラス転移温度よりも30℃低い温度以上」とすることで、生産能率が低下することを可及的に回避しつつ、屈折率分布が形成されることを可及的に回避することができる。
【0025】
【実施態様8】
(請求項6に対応)
実施態様8は、解決手段1、解決手段2、又は実施態様1乃至実施態様7のいずれかについて、その第2の工程の所定温度範囲の下限値以下になるまでの冷却速度を毎分3℃以下にすることである。
【0026】
【作用】
上記の冷却速度が毎分3℃よりも高ければ高いほど、屈折率分布の再発生を低減する効果が低下する傾向があり、毎分3℃以下であれば、第1の工程における所定温度以下での温度領域における屈折率分布の再発生を十分低減することができる。そして、毎分3℃以下では、低いほど徐冷時間が長くなるという不利益が顕著になる。したがって、上記冷却速度を毎分3℃以下とすることには、屈折率分布の再発生を十分低減しつつ、徐冷時間を可及的に短くするという技術的意義がある。
【0027】
【実施態様9】
(請求項7に対応)
実施態様9は、解決手段1、解決手段2、又は実施態様1乃至実施態様8のいずれかにについて、その所定温度範囲以下にあるプラスチック光学素子を所定温度範囲内まで加熱してから、前記第2の工程を行うことである。
【0028】
【作用】
室温まで冷却された走査レンズを所定温度範囲の任意の温度(例えば125℃)まで加熱し、レンズ内部まで均一に加熱することにより、成形後に室温まで冷却された時に生じる屈折率分布を除去し、次いで所定温度範囲の下限値以下の温度(例えば100℃)まで徐冷することで、屈折率分布の再発生を低減し、屈折率分布の少ない走査レンズを得ることができる。
【0029】
【実施態様10】
(請求項8に対応)
実施態様10は、解決手段1、解決手段2、又は実施態様1乃至実施態様9のいずれかについて、そのプラスチック光学素子が、前記所定温度範囲内に達してから冷却を開始するまでに、所定温度範囲内で温度を保持する工程を設けることである。
【作用】
第2の工程によるアニーニング効果を高めて、第1の工程の冷却時、すなわち、成形後に室温まで冷却された時に生じる屈折率分布を確実に除去することができる。
【0030】
【実施態様11】
実施態様11は、実施態様4乃至実施態様10のいずれかについて、前記第1の工程は、光学面の温度に対して光学面以外の面の温度が所定の温度になるように前記冷却空気の圧入量を調整して、前記光学面の温度と前記光学面以外の面の温度差を保ちながら行うことである。
【0031】
【実施の形態】
次いで、図面を参照して実施例を説明する。
図2にレーザプリンターに用いられる走査レンズ1の実施例を示している。走査レンズ1の上面と下面が光学面2であり、レーザプリンターに組込まれて、下面から上面に向かってレーザビームが透過する。また、Y方向のレンズ幅は8mmであり、その中央部の4mm幅の部分が光線有効範囲であり、使用時にこの光線有効範囲をレーザビームが透過する。この実施例の樹脂材料はガラス転移温度138℃のシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン社製、商品名:ゼオネックス)である。
【0032】
実施例1の走査レンズ1を成形する射出成形用金型の概略の断面形状を図3に示している。この射出成形用金型は、光学面を形成する一対の鏡面駒3と、レンズ側面を形成する一対のキャビティ駒4で囲まれたキャビティ5を有し、上記鏡面駒3にカートリッジヒーター6と熱電対7を設けてあり、カートリッジヒーター6は金型外部の温度制御装置(図示略)によって熱電対7で温度を計測しながら制御される。また、上記キャビティ駒4には、冷却用媒体を流すための配管8が設けられており、この配管8に金型外部の金型温度調節装置(図示略)が接続されている。更に、金型駒を組み込む金型ベース9に、金型全体を加熱するためのカートリッジヒーター10と熱電対11を設けてあり、カートリッジヒーター10は金型外の温度制御装置(図示略)によって、熱電対11で温度を計測しながら制御される。
【0033】
上記射出成形用金型を図示しない射出成形機にセットして走査レンズ1を成形する。上記金型は使用樹脂材料のガラス転移温度以下の所定温度、この例では135℃にカートリッジヒーター10で加熱されており、この状態でキャビティ5に溶融樹脂を充填し、冷却する。この時、冷却過程で走査レンズの光学面以外の面(レンズ側面)から優先的に冷却されるように、カートリッジヒーター6と配管8の冷却用媒体の温度をそれぞれ137℃、135℃にしてカートリッジヒーター6の方が高温になるように調節している。この場合の走査レンズの光学面と光学面以外の面(レンズ側面)との温度差はほぼ1〜3℃の範囲内に制御される。そして固化するまで冷却してから走査レンズを金型から取り出し、室温環境に放置して自然冷却する。
【0034】
前記金型温度(ガラス転移温度以下の所定温度)以上の温度領域で屈折率分布が発生すると、この屈折率分布は、その後の第2の工程でも除去されずに残ってしまうので、金型温度以上の温度領域で発生する屈折率分布を低減しておく必要がある。そこで、上記のように、第1の工程で、走査レンズの光学面以外の面(レンズ側面)の中央部から優先的に冷却することにより、冷却過程での走査レンズ内部の温度分布は、図4に示すように、走査レンズの光線透過方向と直交する方向の温度差が、従来の金型温度を均一にして冷却した場合よりも小さくなり、その結果、屈折率分布が小さくなる。
なお、走査レンズを金型から取り出し、室温まで冷却される過程での温度領域、つまり、前記金型温度(ガラス転移温度以下の所定温度)以下の温度領域でも屈折率分布が発生するが、これは、次の第2の工程によって除去される。
【0035】
室温まで冷却された走査レンズを図示しない温度制御手段を有する恒温槽に入れ、所定温度範囲の任意の温度、この場合には125℃まで加熱し、その温度で1時間保持してレンズ内部まで均一に加熱する。これによって、成形後に室温まで冷却された時に生じる屈折率分布が除去される。次いで、所定温度範囲の下限値以下の温度、この場合には100℃まで毎分1℃の速度で徐冷する。これによって、屈折率分布の再発生を低減し、屈折率分布の少ない走査レンズが得られる。
この方法によれば、従来の製造方法に比べて結像位置ずれが少ない高品位な走査レンズが得られる。レーザプリンター用の走査レンズをこの方法で製作することにより、感光体面上に集光すべきビームスポットが設計上の位置に近くなり、その結果、書き込まれる記録画像の品質が向上する。
なお、成形金型で第2の工程を行うこともできるが、この場合もその温度制御を上記と同様に行えばよい。
【0036】
ここで、上記の所定温度範囲は、ガラス転移温度以下で、使用樹脂材料の「ガラス転移温度−30℃」以上の範囲に設定することが重要である。これによって、実験結果から屈折率分布が形成される温度領域がその使用樹脂のガラス転移温度とこれからマイナス30℃の範囲にあることが確認されているので、不必要に低い温度領域まで徐冷することなしに、可及的に短時間で屈折率分布の少ない光学素子を製作することがきる。
実施例1で使用したZeonex樹脂のガラス転移温度は約138℃であることから、この場合の所定温度範囲は約108〜138℃である。使用樹脂材料は熱可塑性の非晶性プラスチック材料であれば何れも使用可能である。但し、樹脂材料によってガラス転移温度が異なるから、上記所定温度範囲は使用する樹脂材料によって異なることになる。
【0037】
また、前記金型内に配置した温度制御手段として、実施例1に使用した棒状のカートリッジヒーターの他、板状の発熱体、フィルム状の発熱体等、各種電気ヒーターを使用することができる。
また、前記恒温糟でバッチ処理を行う代わりに、移動式コンベアに遠赤外線加熱装置を配置し、上記移動式コンベアで走査レンズが移動するようにして、連続工程で徐冷を行うことができ、この場合も上記の場合と同様の効果が得られる。
さらに、本発明に適用されるプラスチック光学素子は、図2に示す走査レンズに限るものではなく、円形レンズ、長尺レンズ等、種々な形状のプラスチック光学素子にも適用可能である。
【0038】
次に、実施例2について説明する。
実施例2における光学素子及び樹脂材料は、実施例1の走査レンズ1と同じである。
実施例2における射出成形用金型の断面形状を図5に概略的に示している。この射出成形用金型は、光学面を形成する一対の鏡面駒3とレンズ側面を形成する一対のキャビティ駒4とで囲まれたキャビティ5を有し、前記鏡面駒3にカートリッジヒーター6と熱電対7を設けてあり、これらは金型外部の温度制御装置(図示略)によって制御される。また、光学面以外の面を形成する上記キャビティ駒4の一部に摺動自在な可動駒12を設け、可動駒は油圧シリンダー13に連結してあり、この油圧シリンダー13は金型外部の圧力制御装置によって制御される。また、可動駒12には、当該可動駒12が後退した時に樹脂との間に形成される空隙に開口するように通気口(14)を設け、金型外の圧縮気体制御装置(図示略)に連通させている。なお、上記可動駒12の先端面はレンズ側面の中央に位置しており、その面積はレンズ側面の面積の約70%に相当している。
更に、金型ベース9に、金型全体を加熱するために、カートリッジヒーター10と熱電対11を設けてあり、このカートリッジヒーター10は金型外部の温度制御装置(図示略)によって、熱電対11で温度を計測しながら制御される。
【0039】
上記射出成形用金型を図示しない射出成形機にセットし、走査レンズ1を成形する。金型は使用樹脂材料のガラス転移温度(138℃)以下の所定温度、この場合には135℃になるようにカートリッジヒーター10で加熱してあり、また、溶融樹脂の冷却過程で走査レンズのレンズ側面(光学面以外の面)から優先的に冷却しやすくするために、カートリッジヒーター6の加熱温度を137℃に設定してある。次いで、キャビティ5に溶融樹脂を充填し、冷却する過程で、摺動自在な可動駒12を後退させて、これを樹脂から離間させる。当該可動駒12の先端面がキャビティ内樹脂から離間して、その間に空隙を形成されるが、このとき、上記微小空隙に開口するように設けた通気口14から圧縮空気(室温空気)を圧入して、走査レンズの上記微小空隙内の気体に触れている部分を積極的に空冷する。なお、上記空隙に圧入された空気は、可動駒12とキャビティ駒4との摺動面の微小隙間から外へ流出する。
また、レンズ面の温度137℃に対してレンズ側面の温度が135℃になるように上記冷却空気の圧入量を調整して、この温度差を保ちながら第1の工程の冷却を行う。
【0040】
上記のようにして走査レンズをその光学面以外の面の中央部から優先的に冷却させ(レンズ面の温度低下に対してレンズ側面の中央部の温度低下を先行させること)、所定温度まで冷却させた後、固化した走査レンズを金型から取り出し、室温に放置して自然冷却する。次いで、実施例1で説明した第2の工程を同様の条件で行う。
この方法により、第1の工程の冷却過程で走査レンズの光学面以外の面(レンズ側面)から優先的に冷却することができ、実施例1と同様の効果が得られ、屈折率分布が少なく、結像位置ずれの少ない走査レンズが得られる。
【0041】
【比較例】
次に、比較例について説明する。
この比較例の光学素子及び樹脂材料は実施例1、実施例2の走査レンズ1と同じものである。
比較例の射出成形用金型の断面形状を図6に概略的に示している。この金型は、光学面を形成する一対の鏡面駒3とレンズ側面を形成する一対のキャビティ駒4とによって囲まれたキャビティ5を有し、その金型ベース9に金型全体を加熱するために、カートリッジヒーター10と熱電対11を設けてある。カートリッジヒーター10は金型外部の温度制御装置(図示略)によって、熱電対11により温度を計測しながら制御される。
【0042】
上記射出成形用金型を図示しない射出成形機にセットし、走査レンズ1を成形する。金型は使用樹脂材料のガラス転移温度(138℃)以下の所定温度、この場合には135℃になるようにカートリッジヒーター10で加熱しておき、キャビティ5に溶融樹脂を充填し、冷却する。次いで、固化した走査レンズを金型から取り出し、室温に放置して自然冷却する。次いで、実施例1と同様の条件で第2の工程を行う。
実施例1、実施例2及び比較例で得られた走査レンズについて、屈折率分布を測定したところ、表1に示す結果が得られた。本発明の方法により走査レンズの屈折率分布が低減されることが、表1から明らかである。
【表1】
この屈折率分布測定は、特開平8−122210号公報の方法を用い、図2に示す走査レンズ1のレーザビームが透過する方向(Z方向)に被検波を入射して、レンズ中央部(X方向の中心)の屈折率分布を測定した。ここで、レンズ幅方向(Y方向)のレーザビームが透過する光線有効範囲(幅4mmの中央部の範囲)内における屈折率のPV値(最大値−最小値)を屈折率分布と定義している。
【0043】
【発明の効果】
1.請求項1乃至請求項2に係る発明の効果
光学面と光学面以外の面を備えているプラスチック光学素子について、射出後の冷却時に、一つ以上の光学面と隣接する略直交する光学面以外の面の中央部から優先的に所定温度範囲の下限値まで冷却することにより、プラスチック光学素子の光線透過方向と直交する方向の温度差を低減し、この方向の屈折率分布を大幅に効率よく低減することができ、しかも、射出後の冷却工程を可及的に短時間で行うことができる。
したがって、屈折率分布が大幅に低減されたプラスチック光学素子を、能率的に製造することができる。
【0044】
(削 除)
【0045】
2.請求項3に係る発明の効果
請求項3に係る発明は、上記プラスチック光学素子を所定温度範囲内の下限値以下まで徐冷する第2の工程を、上記金型を冷却することにより当該金型内で行うものであるから、第1の工程から第2の工程への移行が可及的に速やかになされ、また、第2の工程を短時間で行うことができ、また、第1の工程と第2の工程とが一回の射出成形単位のバッチでなされるので、請求項1及び請求項2に係る発明によるプラスチック光学素子の生産能率が高められ、その品質の均一化が図られる。
【0046】
3.請求項4に係る発明の効果
請求項4に係る発明は、上記プラスチック光学素子を、所定温度範囲内の下限値以下まで徐却する第2の工程を、前記プラスチック光学素子を金型から取り出した後に行うものであるから、成形金型とは別途の第2の工程処理装置が必要であるが、単位時間当たりの各成形金型の射出成形動作回数が大きく、また、専用の処理装置で、請求項1及び請求項2に係る発明の第2の工程が実行されるので、プラスチック光学素子の種類に応じた最適の第2の工程を容易、確実に実行することができる。
【0047】
4.請求項5に係る発明の効果
請求項5に係る発明は、上記第2の工程の所定温度範囲を、使用樹脂材料のガラス転移温度以下で、同ガラス転移温度よりも30℃低い温度以上の範囲にしたものであるから、請求項1乃至請求項4のプラスチック光学素子の製造方法による、プラスチック光学素子の屈折率分布の解消を、可及的に短時間で行うことができる。
【0048】
5.請求項6に係る発明の効果
請求項6に係る発明は、上記第2の工程の所定温度範囲の下限値以下になるまでの冷却速度を、毎分3℃以下にしたことによって、第2の工程の所定温度範囲の下限値以下に冷却されるまでの間の屈折率分布の再発生を可及的に抑制しつつ、請求項1乃至請求項5のプラスチック光学素子の製造方法における第2の工程を迅速に行うことができ、したがって、その生産能率が向上する。
【0049】
6.請求項7に係る発明の効果
請求項7に係る発明は、上記所定温度範囲以下にあるプラスチック光学素子を所定温度範囲内まで加熱してから、前記第2の工程を行なうものであるから、第1の工程における上記所定温度以下の温度領域で発生する屈折率分布が、第2の工程での所定温度範囲までの再加熱によって確実に解消される。したがって、請求項1乃至請求項6に係る発明のプラスチック光学素子の製造方法によるプラスチック光学素子製品の屈折率分布の解消を、一層高度、かつ確実なものにすることができる。
【0050】
7.請求項8に係る発明の効果
請求項8に係る発明は、上記プラスチック光学素子が前記所定温度範囲内に達してから冷却を開始するまでに、所定温度範囲内で温度を保持する工程を設けるものであるから、第2の工程により、室温まで冷却した時に発生する光学素子内部の屈折率分布を除去できる。したがって、請求項1乃至請求項7のプラスチック光学素子の製造方法によるプラスチック光学素子の屈折率分布の解消を、一層高度、確実にすることができる。
【0051】
8.請求項9に係る発明の効果
請求項9に係る発明は、請求項1乃至請求項8のプラスチック光学素子の製造方法により、熱可塑性の非晶性プラスチック材料から形成されているプラスチック光学素子であるから、低コストで結像位置ずれの少ない高品位な光学素子である。
【0052】
9.請求項10に係る発明の効果
請求項10に係る発明は、光源からの光を走査対象物に対して走査する光走査系を含む光学システムであって、上記光走査系が、光源からの光を所定の角度範囲内で偏向する偏向手段と、当該偏向手段から前記走査対象物に至る上記光の光路上に配置されている請求項9のプラスチック光学素子を含む光学系とを有する光学システムであるから、結像位置ずれの少ない高品位な光学システムを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】は、従来技術による走査用プラスチック光学レンズの内部温度分布を模式的に示す、上記プラスチック光学レンズの断面図である。
【図2】は、走査用プラスチック光学レンズの斜視図である。
【図3】は、実施例1の、走査用プラスチック光学レンズの射出成形用金型の断面図である。
【図4】は、実施例1の製造方法による走査用プラスチック光学レンズの内部温度分を模式的に示す、上記プラスチック光学レンズの断面図である。
【図5】は、実施例2の、走査用プラスチック光学レンズの射出成形用金型の断面図である。
【図6】は、比較例の、走査用プラスチック光学レンズの射出成形用金型の断面図である。
【符号の説明】
1:走査レンズ
2:光学面
3:鏡面駒
4:キャビティ駒
5:キャビティ
6:カートリッジヒーター
7:熱電対
8:配管
9:金型ベース
10:カートリッジヒーター
11:熱電対
12:可動駒
13:油圧シリンダー
14:通気口
Claims (10)
- 所定のキャビティを画成する面に少なくとも1つ以上の光学面を有し、充填される溶融樹脂のガラス転移温度以下に加熱された成形用金型に、前記溶融樹脂を射出充填し、樹脂冷却過程でプラスチック光学素子の光学面以外の面から優先的に冷却する第1の工程と、 前記プラスチック光学素子が少なくとも所定温度範囲内の下限値以下になるまで所定速度で徐冷する第2の工程とを含むプラスチック光学素子の製造方法において、
前記第1の工程で、光学面を形成する金型部材と光学面以外の面を形成する金型部材とに温度差をつけることにより、前記プラスチック光学素子の光学面以外の面のうち、少なくとも1つ以上の光学面と隣接し略直交する面の中央部から優先的に冷却すること
を特徴とするプラスチック光学素子の製造方法。 - 前記光学面以外の面を形成する金型部材を冷却することにより、光学面を形成する金型部材と光学面以外の面を形成する金型部材とに温度差をつけること
を特徴とする請求項1に記載のプラスチック光学素子の製造方法。 - 前記プラスチック光学素子を所定温度範囲内の下限値以下まで徐冷する第2の工程が、前記金型を冷却することにより金型内で行われること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラスチック光学素子の製造方法。 - 前記プラスチック光学素子を所定温度範囲内の下限値以下まで徐冷する第2の工程が、前記プラスチック光学素子を金型から取出した後に行われること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラスチック光学素子の製造方法。 - 前記第2の工程の所定温度範囲が、使用樹脂材料のガラス転移温度以下で、同ガラス転移温度よりも30℃低い温度以上の範囲であること
を特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のプラスチック光学素子の製造方法。 - 前記第2の工程の所定温度範囲の下限値以下になるまでの冷却速度が、毎分3℃以下であること
を特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のプラスチック光学素子の製造方法。 - 前記所定温度範囲以下にあるプラスチック光学素子を所定温度範囲内まで加熱してから、前記第2の工程を行なうこと
を特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のプラスチック光学素子の製造方法。 - 前記プラスチック光学素子が前記所定温度範囲内に達してから冷却を開始するまでに、所定温度範囲内で温度を保持する工程を設けること
を特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載のプラスチック光学素子の製造方法。 - 請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載のプラスチック光学素子の製造方法で製造され、熱可塑性の非晶性プラスチック材料から形成されていること
を特徴とするプラスチック光学素子。 - 光源からの光を走査対象物に対して走査する光走査系を含む光学システムであって、
前記光走査系が、光源からの光を所定の角度範囲内で偏向する偏向手段と、当該偏向手段から前記走査対象物に至る前記光の光路上に配置されている請求項9に記載のプラスチック光学素子を含む光学系とを有すること
を特徴とする光学システム。
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