JP3841687B2 - 潤滑油組成物 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は潤滑油組成物に関し、詳しくはチオリン酸エステル若しくはリン酸エステルの金属塩又はアミン塩を含有する、硫黄分が低減されかつ優れた塩基価維持性を有する潤滑油組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDTP)は優れた摩耗防止性及び酸化防止性を有し、内燃機関用潤滑油や油圧作動油を始め、数多くの潤滑油の添加剤として使用されている。
一方、ZDTPを使用しない潤滑油としては、その摩耗防止性能を維持するためにジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛や硫黄系添加剤を配合した潤滑油組成物が知られている(例えば、特開昭52−704号公報、特開昭62−253691号公報、特表昭62−501572号公報、特表昭62−501917号公報、特開昭63−304095号公報、特表平1−500912号公報、特開平6−41568号公報等)。これらの公報に記載の潤滑油はZDTPを含有する潤滑油と同様に硫黄分を多く含有している。そしてこのような潤滑油は一般に酸化安定性が悪く、潤滑油の種々の初期特性を著しく低下させる。特に金属系清浄剤や無灰分散剤等を含有する組成物においては酸中和特性の指標である全塩基価の消耗(劣化)が加速される傾向にあった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、硫黄分を多く含む潤滑油の塩基価維持性に着目し、鋭意研究を重ねた結果、ZDTP等の硫黄を含有する化合物はそれ自身が酸化あるいは熱分解すると潤滑油中に硫酸を生成してしまい、それにより塩基価が著しく消耗し、また特に300℃を超える高温度では清浄性が悪化しやすいことが判明した。また特に内燃機関用潤滑油においては、近年の低硫黄化されたガソリン、軽油、あるいは代替燃料としてのLPG、天然ガスを燃料として使用する場合に、ZDTP等の硫黄系添加剤自身の分解が潤滑油の塩基価維持性及び高温清浄性に与える影響が顕在化してくることもわかった。このため、潤滑油の摩耗防止性能を維持しつつ、ロングドレイン化を図るためにはZDTPをはじめとする摩耗防止剤を最適化することが必要になってきた。また、従来省燃費性を付与するためにはジチオカルバミン酸モリブデンやジチオリン酸モリブデン等の有機モリブデン化合物が最も有効な添加剤として使用されてきたが、これらの化合物は硫黄を多く含有するため、上記ZDTPと同様、塩基価維持性、高温清浄性を高めることはできず、従ってロングドレイン性と省燃費性能を両立することはできなかった。
【0004】
従って、本発明の課題は、従来から使用されているZDTPの使用量を低減しても、あるいは全く使用しなくても高い摩耗防止性能を維持することができ、かつ潤滑油の劣化に伴う塩基価の消耗を抑え、優れたロングドレイン性能を有する潤滑油組成物を提供することである。また、本発明の課題は、さらに高温清浄性、省燃費性を付与した低硫黄の潤滑油組成物を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、一般式(1)で示される特定のリン含有化合物を含有させることでZDTPとほぼ同等又はそれ以上の摩耗防止性能を維持しつつ、かつ潤滑油の劣化に伴う塩基価の消耗を著しく抑制でき、さらに高温清浄性、省燃費性に優れる、硫黄分が50質量ppm以下の燃料を使用する内燃機関用潤滑油組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
本発明は、潤滑油基油に(A)一般式(1)で表されるリン酸エステルの金属塩が含有されていることを特徴とする、硫黄分が50質量ppm以下の燃料を使用する内燃機関用潤滑油組成物にある。
【0007】
【化3】
【0008】
(一般式(1)において、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、X1、X2、X3及びX4はそれぞれ酸素原子を示し、Y 1 は金属原子を示す。)
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の硫黄分が50質量ppm以下の燃料を使用する内燃機関用潤滑油組成物(以下、単に潤滑油組成物と称する場合がある)は、該潤滑油基油に(A)成分として一般式(1)で表される化合物が含有されてなるものである。更に一般式(2)で表される化合物を含有させることができる。
潤滑油基油は、特に制限はなく、通常の潤滑油に使用されるものが使用できる。また基油の動粘度も特に制限はないが、潤滑油基油の100℃での動粘度の好ましい上限値は、50mm2/s、より好ましくは40mm2/sであり、内燃機関用潤滑油に使用する場合は、好ましくは20mm2/s、より好ましくは10mm2/sである。一方、潤滑油基油の100℃での動粘度の好ましい下限値は、1mm2/s、より好ましくは2mm2/sである。潤滑油基油の100℃での動粘度が50mm2/sを越える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、潤滑油基油の100℃での動粘度が1mm2/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
【0012】
潤滑油基油の粘度指数は特に制限はないが、80以上であることが好ましい。潤滑油基油の粘度指数が80未満である場合、低温粘度特性が悪化するため、好ましくない。また低温から高温まで優れた粘度特性が得られるように潤滑油基油の粘度指数は100以上であることが好ましく、110以上であることが更に好ましく、特に120以上であることが好ましい。内燃機関用潤滑油として使用する場合には特にこの特性が重要である。
また、潤滑油基油の硫黄分は特に制限はないが、0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましく、0.005質量%以下、特に実質的に含有しない(0.001質量%以下)ものが好ましい。
【0013】
潤滑油基油の全芳香族含有量は、特に制限はないが、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。基油の全芳香族含有量が30質量%を越える場合は、酸化安定性が劣るため、好ましくない。なお、上記全芳香族含有量とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、及びこれらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、又はピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
【0014】
本発明の潤滑油基油としては、鉱油系潤滑油、合成油系潤滑油又はこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油の任意混合割合の混合物等が使用できる。
例えば、1種以上の鉱油系潤滑油、1種以上の合成油系潤滑油、1種以上の鉱油系潤滑油と1種以上の合成油系潤滑油との混合油等を挙げることができる。
【0015】
鉱油系潤滑油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの等が例示できる。
【0016】
合成油系潤滑油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0017】
次に、(A)成分を説明する。
下記一般式(1)で表されるチオリン酸エステル若しくはリン酸エステルの金属塩。
【0018】
【化4】
【0019】
上記R1、R2、R3及びR4はそれぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。X1、X2、X3及びX4はそれぞれ酸素原子を示す。Y 1 は金属原子を示す。
【0020】
上記R1、R2、R3及びR4で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば、直鎖状又は分枝を有してもよいアルキル基、あるいは置換基を有していてもよい環状のアルキル基、直鎖状又は分枝を有してもよいアルケニル基、無置換又はアルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
直鎖状又は分枝を有してもよいアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基及びオクタデシル基等を挙げることができる。
【0021】
置換基を有していてもよい環状のアルキル基としては、具体的には、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基;メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(アルキル基の置換位置も任意である)を挙げることができる。
【0022】
直鎖状又は分枝を有してもよいアルケニル基としては、具体的には、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、及びオクタデセニル基等の炭素数2〜30のアルケニル基(これらのアルケニル基の二重結合の位置も任意である)を挙げることができる。
【0023】
無置換又はアルキル置換アリール基としては、具体的には、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜18のアリール基;トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基、ジエチルフェニル基、ジブチルフェニル基、及びジオクチルフェニル基等の炭素数7〜26のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
【0024】
アリールアルキル基としては、具体的には、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、及びフェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
【0025】
前記炭化水素基の中では、直鎖状又は分枝状の炭素数3〜18のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状アルキルアリール基である場合が特に好ましい。
【0026】
X1、X2、X3及びX4はそれぞれ酸素原子である。全てが酸素原子の場合には、酸素原子が0(即ち、4つの全てが硫黄原子)の場合(例えば、ZDTP)と比べ、潤滑油組成物中の硫黄分を低減でき、また酸化又は熱分解を受けた際に硫酸の発生量を低減でき、従って塩基価の消耗を著しく抑制することができる。
【0027】
Y1で表される金属原子としては、具体的には、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン、カルシウム、マグネシウム、バリウム等が挙げられる。より高い塩基価維持特性、高温清浄性及び摩耗防止性能を得られる点から、Y1は亜鉛、カルシウムであることが好ましい。
下記一般式(2)で表されるチオリン酸エステル若しくはリン酸エステル、又はその金属塩又はアミン塩。
【0028】
【化5】
【0029】
上記R11、及びR12はそれぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。X11、及びX12はそれぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子を示し、かつ少なくとも一方が酸素原子である。Uはプロトン(水素)、一価の金属イオン又はアンモニウムイオンを示す。k1は1〜20の整数を示す。k1は1〜10の整数であることが好ましい。より好ましくは1〜8の整数である。
【0030】
上記R11、及びR12で表される炭素数1〜30の炭化水素基は、前記一般式(1)におけるR1、R2、R3、及びR4と同義である。またその好ましい範囲も同じである。X11、及びX12はそれぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子を示し、かつ少なくとも一方が酸素原子である。Uで表される一価の金属イオンとしては、塩を形成できる金属原子であり、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどのアルカリ金属を挙げることができる。アンモニウムイオンは、このイオン由来の化合物、例えば、アミン塩を形成できる含窒素化合物を挙げることができる。
【0031】
含窒素化合物としては、例えば、アンモニア、モノアミン、ジアミン、ポリアミンが挙げられる。より具体的には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジヘプタデシルアミン、ジオクタデシルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、プロピルブチルアミン等の炭素数1〜30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン;
【0032】
エテニルアミン、プロペニルアミン、ブテニルアミン、オクテニルアミン、オレイルアミン等の炭素数2〜30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン;メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ヘキサノールアミン、ヘプタノールアミン、オクタノールアミン、ノナノールアミン、メタノールエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン、メタノールブタノールアミン、エタノールプロパノールアミン、エタノールブタノールアミン、プロパノールブタノールアミン等の炭素数1〜30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン;
【0033】
メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン等の炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン;ウンデシルジエチルアミン、ウンデシルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、オレイルプロピレンジアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン等の上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物やN−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の複素環化合物;これらの化合物のアルキレンオキシド付加物;及びこれらの混合物等が例示できる。
【0035】
X1、X2、X3及びX4の全てが酸素原子である化合物の好ましい具体例としては、ジプロピルリン酸亜鉛、ジブチルリン酸亜鉛、ジペンチルリン酸亜鉛、ジヘキシルリン酸亜鉛、ジヘプチルリン酸亜鉛、ジオクチルリン酸亜鉛などの炭素数3〜18の直鎖状若しくは分枝状アルキル基を有するジアルキルリン酸亜鉛、及びジフェニルリン酸亜鉛、ジトリルリン酸亜鉛等の炭素数6〜18のアリール基若しくはアルキルアリール基を有するジ((アルキル)アリール)リン酸亜鉛を挙げることができる。
【0036】
また上記亜鉛塩の他に銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン、カルシウム、マグネシウム、バリウム等の金属塩も好ましいものとして挙げることができる。
(A)成分として一般式(2)で表される化合物は、チオリン酸エステル若しくはリン酸エステルのアミン塩が好ましく、具体的には、例えば、ジプロピルチオリン酸エステル、ジブチルチオリン酸エステル、ジペンチルチオリン酸エステル、ジヘキシルチオリン酸エステル、ジヘプチルチオリン酸エステル、及びジオクチルチオリン酸エステル等の炭素数3〜18の直鎖状若しくは分枝状アルキル基を有するジアルキルチオリン酸エステル;ジプロピルリン酸エステル、ジブチルリン酸エステル、ジペンチルリン酸エステル、ジヘキシルリン酸エステル、ジヘプチルリン酸エステル、及びジオクチルリン酸エステル等の炭素数3〜18の直鎖状若しくは分枝状アルキル基を有するジアルキルリン酸エステル;ジフェニルチオリン酸エステル、及びジトリルチオリン酸エステル等の炭素数6〜18のアリール若しくはアルキルアリール基を有する((アルキル)アリール)チオリン酸エステル;ジフェニルリン酸エステル、及びジトリルリン酸エステル等の炭素数6〜18のアリール基若しくはアルキルアリール基を有するジ((アルキル)アリール)リン酸エステル;等と、前記含窒素化合物、中でもデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、及びステアリルアミン等の炭素数10〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪族アミン(これらは直鎖状でも分枝状でもよい)との塩が好ましい例として挙げることができる。
【0037】
本発明の潤滑油組成物において(A)成分の含有量は特に限定されないが、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.05〜4質量%、特に好ましくは0.1〜3質量%である。その含有量が0.01質量%未満の場合は耐摩耗性に対して充分な効果が得られにくく、一方、5質量%を超える場合は酸化安定性が悪化しやすくなるため好ましくない。
【0038】
本発明の潤滑油組成物においては、更に(B)成分である一般式(3)で表されるジチオリン酸エステルの金属塩及び/又は一般式(4)で表されるジチオリン酸エステル、又はその金属塩又はアミン塩を含有していることが好ましい。(A)成分に更に(B)成分を用いることにより(A)成分のみを用いた場合に比べ塩基価維持性は若干劣るものの磨耗防止性が向上し、(B)成分のみを用いた場合に比べると塩基価維持性が著しく向上し、両性能をバランス良く満たす組成物が得られる。
【0039】
【化6】
【0040】
上記R21、R22、R23及びR24はそれぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Y2は金属原子を示す。
【0041】
【化7】
【0042】
上記R31、及びR32はそれぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。Uはプロトン、一価の金属イオン又はアンモニウムイオンを示す。k2は1〜20の整数を示す。
(B)成分を説明する。
一般式(3)のR21、R22、R23及びR24は、それぞれ一般式(1)におけるR1、R2、R3及びR4と同義であり、またその好ましい範囲も同じである。また一般式(3)のY2は、一般式(1)におけるY1と同義であり、またその好ましい範囲も同じである。
一般式(4)のR31、及びR32は、それぞれ一般式(2)におけるR11、及びR12と同義であり、またその好ましい範囲も同じである。一般式(4)のU、及びk2は、それぞれ一般式(2)におけるU、k1と同義であり、またそれらの好ましい範囲も同じである。
【0043】
(B)成分の一般式(3)で表される化合物としては、具体的には、ジプロピルジチオリン酸亜鉛、ジブチルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルジチオリン酸亜鉛、ジヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジヘプチルジチオリン酸亜鉛、ジオクチルジチオリン酸亜鉛等の炭素数3〜18の直鎖状若しくは分枝状アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛;ジフェニルジチオリン酸亜鉛、ジトリルジチオリン酸亜鉛などの炭素数6〜18のアリール基若しくはアルキルアリール基を有するジ((アルキル)アリール)ジチオリン酸亜鉛、及びこれらの亜鉛塩に代えて、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等を用いた金属塩も好ましい例として挙げられる。
【0044】
(B)成分の一般式(4)で表される化合物は、ジチオリン酸エステルのアミン塩が好ましく、具体的には、例えば、ジプロピルジチオリン酸エステル、ジブチルジチオリン酸エステル、ジペンチルジチオリン酸エステル、ジヘキシルジチオリン酸エステル、ジヘプチルジチオリン酸エステル、及びジオクチルジチオリン酸エステル等の炭素数3〜18の直鎖状若しくは分枝状アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸エステル;ジフェニルジチオリン酸エステル、及びジトリルジチオリン酸エステル等の炭素数6〜18のアリール若しくはアルキルアリール基を有する((アルキル)アリール)ジチオリン酸エステル;等と、前記含窒素化合物、中でもデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、及びステアリルアミン等の炭素数10〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪族アミン(これらは直鎖状でも分枝状でもよい)との塩が好ましい例として挙げることができる。
【0045】
なお、(A)成分と(B)成分を混合すると、化合物間で配位子交換が起る。具体的には、例えば、一般式(5)で表される化合物と一般式(6)で表される化合物とを混合すると下記のようにそれらと共に下記一般式(7)で表される化合物が生成する。
【0046】
【化8】
【0047】
【化9】
【0048】
【化10】
【0049】
即ち、(A)成分と(B)成分を混合すると、化合物間で配位子交換が起り、一般式(1)におけるX1、X2、X3及びX4のうち、酸素原子が0〜4の化合物が混在することがあるが、本発明の潤滑油組成物にはこのような化合物が混在していてもよい。このように(A)成分と(B)成分を混合使用することにより、(B)成分の分解を抑えることができ、結果的に(B)成分単独使用の場合よりも本発明のような塩基価維持性等の性能を向上させることが可能となる。
【0050】
本発明の潤滑油組成物において、(B)成分を含有させる場合、その含有量は特に限定されないが、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.05〜4質量%、特に好ましくは0.1〜3質量%である。(B)成分の含有量が0.01質量%未満、あるいは(B)成分を含有しない場合は、酸化安定性(高温あるいはNOx共存下における塩基価維持特性)に極めて優れた組成物を得ることができるが、耐摩耗性に対しては(A)成分との相乗効果が得られず、一方、5質量%を超える場合は酸化安定性が悪化し易くなりそれぞれ好ましくない。
【0051】
また、本発明の潤滑油組成物に(B)成分を含有させる場合、上記含有量の中でも、(A)成分の含有量に対する(B)成分の含有量の質量比の上限値は、特に制限はないが、組成物における硫黄分の低減及び塩基価維持性の観点から、5以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましく、1以下であることが特に好ましい。一方、(A)成分の含有量に対する(B)成分の含有量の質量比の下限値は、特に制限はないが、摩耗防止性、塩基価維持性の相乗効果が期待できることから、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.5以上であることが特に好ましい。特に(A)成分のうち、一般式(1)においてX1、X2、X3及びX4の全てが酸素原子である化合物と酸素原子が2つの化合物を含有させ、かつ(A)成分の含有量に対する(B)成分の含有量の質量比を0.5以上とすることで、塩基価維持性及び摩耗防止性を相乗的に向上させることができる。
【0052】
本発明の潤滑油組成物には(A)成分又は(A)成分と(B)成分に加え、さらに(C)金属系清浄剤、(D)無灰分散剤、及び(E)酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有させることが好ましい。以下に順に説明する。
(C)金属系清浄剤
金属系清浄剤は、酸中和性能、高温清浄性及び磨耗防止性等を高めるために使用することが好ましい。
金属系清浄剤としては、潤滑油に用いられる任意の金属系清浄剤が使用可能であるが、具体的には例えば、アルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネート又はアルカリ土類金属フェネート、アルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート等の中から選ばれる1種以上の金属系清浄剤が挙げられる。
アルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネートとしては、分子量300〜1500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の塩であり、マグネシウム塩、カルシウム塩が好ましく用いられる。
【0053】
上記アルキル芳香族スルホン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルホン酸としては、例えば洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。またこれらのアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常発煙硫酸や無水硫酸が用いられる。
【0054】
アルカリ金属フェネート又はアルカリ土類金属フェネートとしては、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の塩が挙げられ、例えば下記一般式(8)〜(10)で表されるものを挙げることができる。
【0055】
【化11】
【0056】
【化12】
【0057】
【化13】
【0058】
一般式(8)〜(10)において、R41、R42、R43、R44、R45及びR46はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖又は分枝のアルキル基を示し、M1、M2及びM3は、それぞれアルカリ金属又はアルカリ土類金属、好ましくはカルシウム、マグネシウムを示し、xは1または2を示す。
上記R41、R42、R43、R44、R45及びR46としては、具体的には、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等が挙げられる。これらは直鎖でも分枝でもよい。これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよい。
アルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレートとしては、アルキルサリチル酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の塩が挙げられる。例えば下記一般式(11)で表されるものを挙げることができる。
【0059】
【化14】
【0060】
一般式(11)において、R47は炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖又は分枝のアルキル基を示し、nは1又は2を示し、M4はアルカリ金属又はアルカリ土類金属、好ましくはカルシウム、マグネシウムを示し、より好ましくはカルシウムである。
R47としては、具体的には、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、及びトリアコンチル基等が挙げられる。これらは直鎖でも分枝でもよい。これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよい。
【0061】
アルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネート又はアルカリ土類金属フェネート及びアルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレートは、上記のアルキル芳香族スルホン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物、及びアリキルサリチル酸等を直接、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩基と反応させることにより得られる。
【0062】
本発明の潤滑油組成物においてはアルカリ土類金属系清浄剤が好ましく、上記のようにして得られた中性(正塩)アルカリ土類金属スルホネート、中性(正塩)アルカリ土類金属フェネート及び中性(正塩)アルカリ土類金属サリシレートだけでなく、中性アルカリ土類金属スルホネート、中性アルカリ土類金属フェネート又は中性アルカリ土類金属サリシレートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルホネート、塩基性アルカリ土類金属フェネート及び塩基性アルカリ土類金属サリシレート、中性アルカリ土類金属スルホネート、中性アルカリ土類金属フェネート又は中性アルカリ土類金属サリシレートの存在下で、アルカリ土類金属の水酸化物と炭酸ガス又はホウ酸とを反応させることにより得られる過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属スルホネート、過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属フェネート及び過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属サリシレートも含まれる。
【0063】
本発明においては、上記のアルカリ金属塩、中性アルカリ土類金属塩、塩基性アルカリ土類金属塩、過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属塩及びこれらの混合物等を用いることができる。
本発明で用いるアルカリ金属系清浄剤又はアルカリ土類金属系清浄剤の全塩基価は任意であるが、優れた清浄性を達成するために、通常全塩基価が0〜500mgKOH/gのものが使用可能であるが、塩基価維持特性及び高温清浄性に優れ、かつ特に磨耗防止性に優れた性能の組成物とするためにはその全塩基価は、好ましくは150〜400mgKOH/g、更に好ましくは200〜300mgKOH/gのものを用いる。なお、全塩基価は、JIS K2501(1992)の「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価を意味する。
【0064】
本発明においては、その塩基価維持性、及び高温清浄性、並びに磨耗防止性に優れた組成物を得るためには、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート及び/又はアルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートを使用することが好ましい。得られる組成物に所望の性能を付与するためには、具体的には下記のような金属清浄剤を選択して使用することが好ましい。
(1)特に塩基価維持特性及び高温清浄性に優れ、かつ磨耗防止性、省燃費性にも優れた組成物を得るためには、金属系清浄剤として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートを使用する。そして特に内燃機関の動弁系の磨耗防止性に優れたものを得るためには、好ましくは全塩基価が150〜400mgKOH/g、さらに好ましくは200〜350mgKOH/gのアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートを使用する。
(2)特に内燃機関の動弁系の磨耗防止性に優れ、かつNOx存在下における塩基価維持特性、特に酸価抑制効果、粘度増加抑制効果にも優れた組成物を得るためには、金属系清浄剤として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート、好ましくは全塩基価が150〜400mgKOH/g、さらに好ましくは200〜300mgKOH/g、特に好ましくは250〜350mgKOH/gのアルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートを使用する。
なお、これら金属系清浄剤は、その金属含有量及び石鹸基(アルキルサリチル酸基)含有量との関係から、金属比(金属元素の価数×金属元素含有量(mol)/石鹸基含有量(mol))で表すことができる。
【0065】
金属系清浄剤は、通常軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、一般的にその金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いる。
【0066】
本発明の潤滑油組成物における金属系清浄剤の含有量は任意であるが、通常、組成物全量基準で、0.1〜15質量%、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜8.0質量%、特に好ましくは1.0〜5.0質量%である。この含有量が0.1質量%未満である場合、高温清浄性、磨耗防止性が劣りやすくなる。一方、15質量%を超える場合は、含有量に見合うだけの効果が得られない。
【0067】
(D)無灰分散剤
無灰分散剤は酸中和性能、塩基価維持性能、高温清浄性能、および磨耗防止性能等を高めるために使用することが好ましい。
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができるが、例えば、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
このアルキル基又はアルケニル基の炭素数は40〜400、好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下し、一方、その炭素数が400を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化するため、それぞれ好ましくない。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
(D)成分の1例として挙げた含窒素化合物の窒素含有量は任意であるが、塩基価維持特性、高温清浄性、及び磨耗防止性等の点から、通常その窒素含有量が0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜10質量%のものが用いられる。
【0068】
(D)成分の具体的としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。これらのの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物を用いることができる。
(D−1)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、あるいはその誘導体
(D−2)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体
(D−3)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体
【0069】
上記(D−1)コハク酸イミドとしては、より具体的には、下記の式(12)及び(13)で示される化合物等が例示できる。
【0070】
【化15】
【0071】
上記式(12)において、R95は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、bは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0072】
【化16】
【0073】
上記式(13)において、R96及びR97は、それぞれ個別に炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、ポリブテニル基であることが好ましい。cは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。
なお、コハク酸イミドは、イミド化に際しては、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した、式(12)のようないわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した、式(13)のようないわゆるビスタイプのコハク酸イミドがあるが、本発明で用いる化合物は、そのいずれでも、またこれらの混合物でもよい。
これらのコハク酸イミドの製法は特に制限はないが、例えば炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキル又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得ることができる。ポリアミンとしては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等が例示できる。
【0074】
上記(D−2)ベンジルアミンとしては、より具体的には、下記の式(14)で表せる化合物等が例示できる。
【0075】
【化17】
【0076】
上記式(14)において、R98は、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、dは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
このベンジルアミンの製造方法は何ら限定されるものではないが、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンをフェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドとジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンをマンニッヒ反応により反応させることにより得ることができる。
【0077】
上記(D−3)ポリアミンとしては、より具体的には、下記の式(15)で表せる化合物等が例示できる。
【0078】
【化18】
【0079】
上記式(15)において、R99は、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、eは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
このポリアミンの製造法は何ら限定されるものではないが、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させることにより得ることができる。
【0080】
また、(D)成分の1例として挙げた含窒素化合物の誘導体としては、具体的には例えば、前述の含窒素化合物に炭素数1〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる酸変性化合物;前述の含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性化合物;前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;及び前述の含窒素化合物に酸変性、ホウ素変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせた変性化合物;等が挙げられる。これらの誘導体の中でもアルケニルコハク酸イミドのホウ酸変成化合物は耐熱性、酸化防止性に優れ、本発明の潤滑油組成物においても塩基価維持性等をより高めるために有効である。
【0081】
本発明の潤滑油組成物において(D)成分を含有させる場合、その含有量は特に限定されないが、通常潤滑油組成物全量基準で、0.01〜20質量%であり、好ましくは0.1〜10質量%である。(D)成分の含有量が0.01質量%未満の場合は、塩基価維持特性、高温清浄性及び磨耗防止性等をより高めることができず、一方、20質量%を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が大幅に悪化するため、それぞれ好ましくない。
【0082】
(E)酸化防止剤
酸化防止剤としては、フェノール系化合物やアミン系化合物等、潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能である。酸化防止剤の添加により、潤滑油組成物の酸化防止性をより高められるため、本発明における塩基価維持性をより高めることができる。
フェノール系酸化防止剤としては、特に下記の化合物が好ましい具体例として挙げられる。4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート。これらは二種以上を混合として使用してもよい。
【0083】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミンを挙げることができる。これらは二種以上を混合して使用してもよい。
上記フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤は組み合せて配合しても良い。
【0084】
本発明の潤滑油組成物において(E)成分を含有させる場合、その上限値が、通常潤滑油組成物全量基準で3.0質量%、好ましくは2.0質量%であり、この上限値を超える場合は、配合量に見合った十分な酸化防止性が得られないため好ましくない。一方、その下限値は、塩基価維持性、高温清浄性等をより高めるためには潤滑油組成物全量基準で好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.1質量%、特に好ましくは0.8質量%である。
【0085】
本発明の潤滑油組成物は塩基価維持性及び摩耗防止性に優れるものであるが、その性能又は各種潤滑油として要求される各種性能をさらに向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を本発明の潤滑油組成物の性能を著しく悪化させない程度に添加することができる。このような添加剤としては、例えば、粘度指数向上剤、(A)成分以外の摩耗防止剤、摩擦調整剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、着色剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0086】
粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの重合体又は共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α −オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる)若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水添物、スチレン-ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等が挙げられる。
これら粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、5,000〜1,000,000、好ましくは10,000〜350,000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は800〜5,000、好ましくは1,000〜4,000のものが、エチレン-α-オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は800〜500,000、好ましくは3,000〜200,000のものが望ましい。
またこれらの粘度指数向上剤の中でもエチレン-α-オレフィン共重合体又はその水素化物を用いた場合には、特にせん断安定性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。上記粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができる。粘度指数向上剤の含有量は、通常潤滑油組成物基準で0.1〜20.0質量%である。
なお、本発明の潤滑油組成物には上記粘度指数向上剤を含有させないか、あるいは少量含有(例えば1質量%以下)させた場合、高温清浄性に極めて優れた組成物を得ることができる。
【0087】
(A)成分以外の摩耗防止剤としては、例えば、亜リン酸エステル及びそのアミン塩、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等の硫黄系化合物等が挙げられる。
摩擦調整剤としては、例えば、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート、二硫化モリブデン、長鎖脂肪族アミン、長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸エステル、及び長鎖脂肪族アルコール等が挙げられる。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、グリセリンモノオレエートやソルビタンモノオレエート等の多価アルコールエステル、及びアミン類等が挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコール、及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0088】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は潤滑油組成物全量基準で、(A)成分以外の摩耗防止剤、摩擦調整剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.01〜5質量%、金属不活性化剤では0.005〜1質量%、消泡剤では0.0005〜1質量%の範囲で通常選ばれる。
【0089】
上記塩基価維持特性、高温清浄性及び低硫黄化の観点から、硫黄含有添加剤(有効成分)の含有量は0.15質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましく、硫黄含有添加剤を含有しないことが特に好ましい。
また組成物の硫黄含有量としては、0.3質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましく、0.05質量%以下であることが特に好ましい。基油や各種添加剤に含まれる希釈油又は溶剤として低硫黄あるいは硫黄を含有しないものを選択すれば、さらに低硫黄化が可能となり、硫黄分が0.005質量%以下、更に実質的に硫黄を含有しない(硫黄分が0.001質量%以下)組成物も得ることができ、塩基価維持特性、高温清浄性をさらに高めることが可能となる。
【0090】
本発明の潤滑油組成物は、二輪車、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関用潤滑油として好ましく使用することができるが、例えば、硫黄分が100質量ppm以下、好ましくは50質量ppm以下、より好ましくは20質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下のガソリンや軽油や灯油、あるいは硫黄分が1質量ppm以下の低硫黄燃料(例えば、LPG、天然ガス、ジメチルエーテル、アルコール系燃料、GTL(ガストゥリキッド)燃料(ガソリン留分、灯油留分、軽油留分)等)を用いる内燃機関用潤滑剤として特に好ましく使用することができる。またその他摩耗防止性能及びロングドレイン性能が要求される潤滑油、例えば自動又は手動変速機等の駆動系用潤滑油、湿式ブレーキ、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、軸受け油、冷凍機油等の潤滑油としても好適に使用することができる。
【0091】
【実施例】
以下に本発明の内容を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0092】
(実施例1〜10及び比較例1〜3)
本発明の潤滑油組成物(実施例1〜10)、(A)成分を含有せず、(B)成分のZDTPを含有する潤滑油組成物(比較例1及び3)、及び(A)成分も(B)成分も含有しない潤滑油組成物(比較例2)をそれぞれ調製した。それらの組成及び性状を表1及び表2に示す。なお、リン酸エステルのアミン塩、リン酸エステル及びチオリン酸エステル塩を含む例を参考例1、参考例2及び参考例3として示す。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
上記実施例1〜10及び比較例1〜3で得られた潤滑油組成物の性能を下記の性能評価試験により評価した。
【0096】
(1)ISOTによる全塩基価の経時変化
JIS K 2514に準拠するISOT試験(150℃)にて試験油を強制劣化させたときの全塩基価の残存率の経時変化を測定した。その評価結果を図1及び図2に示す。全塩基価の減少が小さいほど塩基価維持性能が高く、より長時間使用できるロングドレイン油であることを示す。
【0097】
図1に示すように、実施例1の潤滑油組成物は、比較例1の潤滑油組成物((B)成分のZDTPを含有し、(A)成分を含有しない組成物に比べ、塩基価維持性が極めて向上しており、実施例2、3及び4の潤滑油組成物((A)成分と(B)成分のZDTPを含有する組成物)も比較例1の潤滑油組成物に比べ塩基価維持性が向上していることがわかる。また、実施例5の潤滑油組成物(実施例3の潤滑油組成物における(A)成分のZPの半分をZMTPに置換)はさらに実施例3の潤滑油組成物に比べ塩基価維持性が著しく向上していることから、ZP、ZMTP及びZDTPを併用した場合には、相乗的に塩基価維持性が向上し、優れたロングドレイン性を示すことがわかる。
【0098】
また、図2に示すように参考例1及び2の潤滑油組成物は、同様に、比較例1の潤滑油組成物に比べ塩基価維持性が向上していることがわかる。なお、実施例6及び7、参考例3の潤滑油組成物についても比較例1の潤滑油組成物に比べ塩基価維持性が向上していることを確認している。
【0099】
(2)NOx吸収試験による全塩基価の経時変化
日本トライボロジー会議予稿集1992、10、465に準拠した条件(135℃、NOx:1185ppm)にて試験油にNOxガスを吹き込み、強制劣化させたときの全塩基価の経時変化を測定した。その評価結果を図3、図4及び図5に示す。全塩基価の減少が小さいほど内燃機関で使用されるようなNOx存在下においても塩基価維持性能が高く、より長時間使用できるロングドレイン油であることを示す。
【0100】
図3に示すように、実施例1〜3の潤滑油組成物は上記ISOTでの結果と同様、比較例1の潤滑油組成物よりも塩基価維持性に優れ、内燃機関用潤滑油等のNOxに晒される雰囲気下においても優れたロングドレイン性を示すことがわかる。
【0101】
また、図4及び図5に示すように、参考例1、2及び3、及び実施例7の潤滑油組成物は同様の結果が得られていることがわかる。なお、実施例6の潤滑油組成物も同様に比較例1に比べ塩基価維持性に極めて優れていることを確認している。
【0102】
(3)JASO 1GFE高温酸化試験による全塩基価及び酸価の経時変化
JASO M 333−93に準拠した条件にて100時間運転を行い、その全塩基価及び酸価増加並びに40℃における組成物の粘度比(動粘度の増減率)の経時変化を測定した。なお、本試験の燃料として、硫黄分10質量ppmの低硫黄ガソリンを用いた。実施例8、10及び比較例3の潤滑油組成物を使用した場合の結果を図6及び7に示す。
【0103】
図6に示すように実施例8の潤滑油組成物は100時間経過後もなお50%近い塩基価残存率を示すのに対し、比較例3の潤滑油組成物は30%程度まで低下していることがわかる。実施例10の潤滑油組成物は、30時間までに25%程度まで低下するが、その後一定であり、試験時間を100時間以上に延長した場合には比較例3の潤滑油組成物より優れた塩基価残存率を示す可能性が示唆される。なお、実施例10の潤滑油組成物のZPの代わりにZDTPを使用した場合には実施例10の潤滑油組成物よりも塩基価維持特性が劣ることを確認している。
【0104】
また、図7に示すように実施例8の潤滑油組成物は100時間経過後もなお酸価増加が1.5mgKOH/g以下に抑えられているのに対し、比較例3の潤滑油組成物は2.5mgKOH/gを超えていることがわかる。このように同一の塩基価残存率(例えば50%)あるいは酸価増加(例えば1.5mgKOH/g)に達するまでの時間から見て、実施例8の潤滑油組成物は比較例3の組成物に比べて2倍のロングドレイン性能を有していると言うことができ、本発明の潤滑油組成物が極めて酸化安定性に優れ、ロングドレイン性を有していることがわかる。なお、実施例10の潤滑油組成物は30時間までは比較例3と同等の酸価増加を示すが、その後酸価増加率が低下していることが分かる。
【0105】
さらに図8に示すように、40℃における粘度比の経時変化は比較例3の潤滑油組成物に比べて実施例8では同等であり、実施例10の潤滑油組成物では優れていることがわかり、本発明の潤滑油組成物は潤滑油の粘稠化防止にも有効であることがわかる。
【0106】
(4)ホットチューブ試験でみた高温清浄性
JPI−5S−5599に準拠し、ホットチューブ試験を行った。評点は無色透明(汚れなし)を10点、黒色不透明を0点とし、この間をあらかじめ1刻みで作成した標準チューブを参照して評価した。290℃において当該評点が6以上であれば、通常のガソリンエンジン用、ディーゼルエンジン用の潤滑油として清浄性に優れたものであるが、ガスエンジン用の潤滑油としては、本試験において300℃以上においても優れた清浄性を示すことが好ましい。参考例1、2及び3、並びに実施例7〜9及び比較例3の潤滑油組成物を使用した場合の結果を表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
表3に示す通り、本発明の潤滑油組成物は、300℃以上の高温においても極めて優れた清浄性を示し、特に実施例7及び8の潤滑油組成物は極だった高温清浄性を示すことがわかる。なお、実施例7及び8の組成物から粘度指数向上剤を除いたものは、さらに極だった高温清浄性を示すことを確認している。
【0109】
(5)摩耗防止性及び耐焼付き性を評価するために下記の高速四球試験及びFALEX(ファレックス)試験並びに動弁摩耗試験を行った。
1)高速四球試験
ASTM D4172−94に準拠する高速四球試験において、回転数1800rpm、荷重392Nでの条件下で室温にて30分間試験を行い、試験後の試験球の平均摩耗痕径を測定した。その評価結果を表4及び5に示す。摩耗痕径が小さいほど摩耗防止性能に優れていることを示す。
【0110】
【表4】
【0111】
【表5】
【0112】
2)ファレックス試験
ASTM D3233(A法)に準拠するファレックス試験(290rpm、室温)において、試験片が焼付きを生じた時の荷重を測定した。その評価結果を表4及び5に示す。焼付き荷重が大きいほど耐焼付き性能に優れていることを示す。
【0113】
3)動弁摩耗試験
JASO M 328−95準拠した動弁摩耗試験を行い100時間経過後のロッカーアームパッドスカッフ面積、ロッカーアーム摩耗量、カム摩耗量を測定した。それぞれ10以下の数値であれば、摩耗防止性に極めて優れた組成物であることを示す。
実施例9、10及び比較例3の潤滑油組成物を使用した場合の結果を表6に示す。
【0114】
【表6】
【0115】
表4及び表5から、本発明の潤滑油組成物は、(A)成分及び(B)成分を含有しない潤滑油組成物(比較例2)に比べて、特にファレックス試験においては耐焼付き性が極めて高くなっていることがわかる。特に実施例3の潤滑油組成物のように(A)成分に対する(B)成分の含有量が0.3〜2となるように含有させた場合顕著である。また、高速四球試験における摩耗防止性能に関しては、実施例5の潤滑油組成物のようにZP、ZMTP及びZDTPを含有させた場合、顕著な効果を示していることがわかる。
【0116】
また、表6に示すとおり、実施例9及び10の潤滑油組成物は比較例3の潤滑油組成物と同等以上の摩耗防止性能を示すことがわかり、本発明の潤滑油組成物は、実際のエンジンの動弁系の摩耗防止性能にも優れたものであることがわかる。
【0117】
(6)エンジンモータリング試験でみた省燃費性能
排気量1500ccの4気筒直打型DOHCエンジンを用い、油温80℃及び95℃において、それぞれ750、1000及び1500rpmのエンジン回転数にてエンジンモータリング試験を行った。実施例8及び比較例3の潤滑油組成物を使用し、比較例3の組成物を基準に評価した。その評価結果を表7に示す。
【0118】
【表7】
【0119】
表7に示すとおり、実施例8の潤滑油組成物は、比較例3の潤滑油組成物に比べ、エンジン全体トルク低減率に優れ、特に高温、低速回転における省燃費性に極めて優れた組成物であることがわかる。
【0124】
【発明の効果】
本発明の潤滑油組成物は、ZDTPの含有量を低減しても、又は全く使用しなくても優れた摩耗防止性を維持することができ、かつ極めて優れた塩基価維持性能を有する。さらに本発明の潤滑油組成物は、300℃を超える高温での清浄性、そして省燃費性能にも優れており、従って本発明により、ロングドレイン性と省燃費性能等の諸性能にも優れた低硫黄の潤滑油組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1〜5及び比較例1の潤滑油組成物のISOTによる全塩基価の経時変化を示すグラフである。
【図2】 参考例1、2及び比較例1の潤滑油組成物ISOTによる全塩基価の経時変化を示すグラフである。
【図3】 実施例1〜3及び比較例1の潤滑油組成物のNOx吸収試験による全塩基価の経時変化を示すグラフである。
【図4】 参考例1、2及び比較例1の潤滑油組成物のNOx吸収試験による全塩基価の経時変化を示すグラフである。
【図5】 参考例3、実施例7及び比較例1の潤滑油組成物のNOx吸収試験による全塩基価の経時変化を示すグラフである。
【図6】 実施例8、10及び比較例3の潤滑油組成物のJASO 1GFE高温酸化試験による全塩基価の経時変化を示すグラフである。
【図7】 実施例8、10及び比較例3の潤滑油組成物のJASO 1GFE高温酸化試験による酸価増加の経時変化を示すグラフである。
【図8】 実施例8、10及び比較例3の潤滑油組成物のJASO 1GFE高温酸化試験による粘度比の経時変化を示すグラフである。
Claims (6)
- 前記一般式(1)で表される化合物のY1及び/又は一般式(3)で表される化合物のY2が亜鉛又はカルシウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
- さらに(C)金属系清浄剤、(D)無灰分散剤、及び(E)酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤が含有されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
- 前記(C)金属系清浄剤が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属系サリシレート及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートから選ばれる少なくとも一つの添加剤であることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
- ガスエンジン用であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの項に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
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