以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明の潤滑油組成物に用いられる潤滑油基油としては特に制限されず、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油及び合成系基油から選ばれる1種又は2種以上の混合基油が使用可能である。かかる潤滑油基油の全芳香族分は特に制限されないが、通常、潤滑油全量を基準として、0〜40質量%に調整される。
本発明において好適に用いられる潤滑油基油としては、下記の潤滑油基油(A)、(B):
(A)全芳香族分が5質量%未満である潤滑油基油
(B)全芳香族分が5〜40質量%である潤滑油基油
が挙げられる。
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいは原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分及び/又はワックス成分(スラックワックス、フィッシャートロプシュ合成ワックス、ノルマルパラフィン等)を水素化分解処理及び/又は異性化処理することにより得られる水素化分解鉱油及び/又はワックス異性化鉱油等が例示できる。
水素化分解鉱油の製造方法の好ましい一例としては、減圧蒸留留出油(WVGO)、WVGOのマイルドハイドロクラッキング(MHC)処理油、脱歴油(DAO)、DAOのMHC処理湯又はこれらの混合油を、水素化分解触媒の存在下、全圧150kg/cm2以下、温度360〜440℃、LHSV0.5hr−1以下の反応条件で、分解率40★質量%以上となるように水素化分解し、当該分解生成物又は当該分解生成物から分離回収された潤滑油留分について、脱ろう処理した後で脱芳香族処理するか又は脱芳香族処理した後で脱ろう処理する方法が挙げられる。
鉱油系基油中の芳香族分は特に制限されないが、通常、全芳香族分が、0〜40質量%の鉱油系基油を使用することができ、かかる鉱油系基油としては下記の鉱油系基油(A−1)、(B−1):
(A−1)全芳香族分が5質量%未満である鉱油系基油
(B−1)全芳香族分が5〜40質量%である鉱油系基油
が挙げられる。また、上記鉱油系基油(B−1)としては、下記の鉱油系基油(B−1−1)、(B−1−2):
(B−1−1)全芳香族分が5質量%以上20質量%未満である鉱油系基油
(B−1−2)全芳香族分が20〜40質量%である鉱油系基油
が挙げられる。
上記鉱油系基油(A−1)における全芳香族分は5質量%未満であり、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。また、鉱油系基油(A−1)における単環芳香族分は、好ましくは5質量%未満、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。また、鉱油系基油(A−1)における多環芳香族分は、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.01質量%未満である。上記の各芳香族分分を低減することで、有機タングステン化合物と無灰酸化防止剤との併用による相乗効果を最大限に発揮させることができる。すなわち、本発明の潤滑油組成物によれば、有機タングステン化合物と無灰酸化防止剤と上記(A)成分とを併用することで、粘度増加抑制の点で最大限の相乗効果が発揮される。
また、上記鉱油系基油(A−1)における硫黄分は、好ましくは0.03質量%以下、より好ましくは0.005質量%以下、更に好ましくは0.001質量%以下である。硫黄分を低減することで、より低硫黄化された潤滑油組成物を得ることができ、排ガス浄化処理装置への悪影響を極力排除することができる。
上記鉱油系基油(A−1)としては、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分及び/又はワックス成分(スラックワックス、フィッシャートロプシュ合成ワックス、ノルマルパラフィン等)を水素化分解処理及び/又は異性化処理することにより得られる水素化分解鉱油及び/又はワックス異性化鉱油が好ましい。
また、上記鉱油系基油(B−1)のうち、鉱油系基油(B−1−1)における全芳香族分は5質量%以上20質量%未満であり、好ましくは5〜10質量%、より好ましくは5.5〜8質量%である。また、鉱油系基油(B−1−1)における単環芳香族分は、好ましくは5質量%以上20質量%未満、より好ましくは5〜10質量%、更に好ましくは5.5〜8質量%である。また、鉱油系基油(B−1−1)における多環芳香族分は、好ましくは4質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下であり、また、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上である。鉱油系基油(B−1−1)が上記の各芳香族分をある程度含むことにより、(B−1−1)成分における芳香族成分と有機タングステン化合物とによる塩基価維持効果及び酸価増加抑制効果と、有機タングステン化合物と無灰酸化防止剤との併用による粘度増加抑制効果の相乗効果をバランスよく発揮できるとともに、高温清浄性、塩基価維持効果を高水準で発揮させることができる。
また、上記鉱油系基油(B−1−1)における硫黄分は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.03質量%以下、更に好ましくは0.005質量%以下、特に好ましくは0.001質量%以下である。硫黄分を低減することで、より低硫黄化された潤滑油組成物を得ることができ、排ガス浄化処理装置への悪影響を極力排除することができる。
上記鉱油系基油(B−1−1)としては、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したものが好ましく、特に、水素化分解鉱油を主成分として含む鉱油系基油が好ましい。更に、水素化分解鉱油を主成分として含む鉱油系基油における水素化分解鉱油の含有量は、鉱油系基油全量を基準として、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
また、上記鉱油系基油(B−1−2)における全芳香族分は20〜40質量%であり、好ましくは25〜35質量%、より好ましくは28〜35質量%である。また、鉱油系基油(B−1−2)における単環芳香族分は、好ましくは20〜40質量%であり、より好ましくは25〜35質量%、更に好ましくは28〜35質量%である。また、鉱油系基油(B−1−2)における多環芳香族分は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下であり、また、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上である。鉱油系基油(B−1−2)が上記の各芳香族分をある程度含むことにより、(B−1−2)成分における芳香族成分と有機タングステン化合物とによる塩基価維持効果及び酸価増加抑制効果と、有機タングステン化合物と無灰酸化防止剤との併用による粘度増加抑制効果の相乗効果をバランスよく発揮できるとともに、高温清浄性、塩基価維持効果を高水準で発揮させることができる。
また、上記鉱油系基油(B−1−2)における硫黄分は、好ましくは0〜1質量%、より好ましくは0.05〜1質量%、更に好ましくは0.1〜0.9質量%、一層好ましくは0.2〜0.8質量%、特に好ましくは0.4〜0.7質量%である。鉱油系基油(B−1−2)が硫黄分をある程度含むことで、鉱油系基油に本来的に含まれる硫黄化合物によりロングドレイン性が向上した潤滑油組成物を得ることができる。
上記鉱油系基油(B−1−2)としては、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したものが例示でき、溶剤脱歴、溶剤抽出等による溶剤精製処理を行い、必要に応じて溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したものが好ましい。
上記鉱油系基油(A−1)、(B−1)の粘度指数は特に制限されず、通常200以下であるが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られる点から、当該粘度指数は、80以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましく、120以上であることが更に好ましい。鉱油系基油の粘度指数が80未満であると、低温粘度特性が不十分となる傾向にある。また、上記鉱油系基油(A−1)、(B−1)の粘度指数は160以下であることが好ましい。
また、上記鉱油系基油(A−1)、(B−1)の動粘度は特に制限されないが、100℃における動粘度が20mm2/s以下であることが好ましく、10mm2/s以下であることがより好ましい。100℃における動粘度が20mm2/sを超えると、低温粘度特性が不十分となる傾向にある。また、100℃における動粘度は、1mm2/s以上であることが好ましく、2mm2/s以上であることがより好ましい。100℃における動粘度が1mm2/s未満であると、潤滑箇所での油膜形成能が不十分となって潤滑性が低下し、また、潤滑油基油の蒸発損失が大きくなる傾向にある。
また、上記鉱油系基油(A−1)、(B−1)の蒸発損失量としては、NOACK蒸発量で、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。鉱油系基油(A−1)、(B−1)のNOACK蒸発量が25質量%を超える場合、潤滑油の蒸発損失が大きいだけでなく、内燃機関用潤滑油として使用した場合、組成物中の硫黄化合物やリン化合物、あるいは金属分が潤滑油基油とともに排ガス浄化装置へ堆積する恐れがあり、排ガス浄化性能への悪影響が懸念されるため好ましくない。なお、本発明でいうNOACK蒸発量とは、ASTM D5800に準拠して測定されたものである。
本発明において鉱油系基油を用いる場合、有機タングステン化合物及び無灰酸化防止剤との粘度増加抑制効果の相乗効果をより発揮できる点から、上記鉱油系基油(A−1)及び/又は(B−1−1)を用いることが好ましく、該相乗効果を最大限発揮できる点から、上記鉱油系基油(A−1)を用いることが特に好ましい。
また、合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物(ポリ−α−オレフィン系基油);ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、及びジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、及びペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、フルオレン、フェナントレン、ベンゾフェナントレン、アントラセン及びこれらのアルキル化物等の芳香族化合物並びに芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
これらの合成系基油の中では、(A)成分であるポリ−α−オレフィン系基油、エステル系基油及びそれらの混合物を用いることが好ましく、ポリ−α−オレフィン系基油を用いることが特に好ましい。
また、本発明において、所望の全芳香族分を有する潤滑油基油を調製するために、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の単環又は多環芳香族化合物を、前記ポリ−α−オレフィン系基油及び/又はエステル系基油、あるいは更に上記鉱油系基油(A−1)、(B−1)に混合することが好ましい。これにより、上記潤滑油基油(A)、(B)を好適に得ることができる。また、多環芳香族化合物、特にアルキルナフタレンは、アルキルベンゼンと比べて、有機タングステン化合物と併用したときの酸価増加抑制性及び塩基価維持性における向上効果が高く、本発明にかかる所望の潤滑油基油を調製する上で有用である。
アルキルナフタレン等の多環芳香族化合物を使用する場合、その配合量は、潤滑油基油全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。さらに、潤滑油基油の粘度指数を高く維持したまま、粘度増加抑制性、酸価増加抑制性及び塩基価維持性を高水準でバランスよく達成できる点から、多環芳香族化合物の配合量は、潤滑油基油全量基準で、好ましくは5質量%未満、より好ましくは3質量%以下である。
本発明にかかる潤滑油基油としては、上記の鉱油系基油又は合成系基油のうちのいずれか1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の潤滑油基油を組み合わせた混合基油には、2種以上の鉱油系基油の混合基油、2種以上の合成系基油の混合基油、並びに1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合基油が包含される。
本発明においては、上述の通り、(A)全芳香族分が5質量%未満である潤滑油基油及び
(B)全芳香族分が5〜40質量%である潤滑油基油を任意に得ることができ、いずれも好適に使用することができるが、有機タングステン化合物及び無灰酸化防止剤との相乗効果を最大限に発揮できる点から、潤滑油基油(A)を用いることが好ましく、さらに、潤滑油基油(A)は、鉱油系基油(A−1)を含むことが好ましく、水素化分解鉱油、ワックス異性化鉱油及びポリ−α−オレフィン系基油から選ばれる1種又は2種以上を用いることが特に好ましい。
本発明にかかる潤滑油基油の動粘度は特に制限されないが、その100℃での動粘度は、20mm2/s以下であることが好ましく、より好ましくは10mm2/s以下である。一方、潤滑油基油の100℃での動粘度は、1mm2/s以上であることが好ましく、より好ましくは2mm2/s以上である。潤滑油基油の100℃での動粘度が20mm2/sを越える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が1mm2/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
また、潤滑油基油の蒸発損失量としては、NOACK蒸発量で、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。潤滑油基油のNOACK蒸発量が20質量%を超える場合、潤滑油の蒸発損失が大きいだけでなく、内燃機関用潤滑油として使用した場合、組成物中の硫黄化合物やリン化合物、あるいは金属分が潤滑油基油とともに排ガス浄化装置へ堆積する恐れがあり、排ガス浄化性能への悪影響が懸念されるため好ましくない。
また、潤滑油基油の粘度指数は特に制限されず、通常200以下であるが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるように、その値は、80以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましく、120以上であることが更に好ましく、125以上であることが特に好ましい。潤滑油基油の粘度指数が80未満である場合、低温粘度特性が悪化する傾向にある。また、潤滑油基油の粘度指数は160以下であることが好ましい。
また、本発明の潤滑油組成物、酸化防止剤組成物及び潤滑油の粘度増加抑制方法において用いられる有機タングステン化合物としては、構成元素として硫黄を含まない有機タングステン化合物、並びにタングステンジチオカーバメート等の硫黄含有タングステン化合物などが挙げられる。硫黄含有有機タングステン化合物を用いると、より優れた粘度増加抑制効果を得ることができる。また、構成元素として硫黄を含まない有機タングステン化合物を用いると、優れた粘度増加抑制効果を得ることができ、また、より低硫黄化を図ることができる。
構成元素として硫黄を含まない有機タングステン化合物としては、具体的には、タングステン−アミン錯体、タングステン−コハク酸イミド錯体、有機酸のタングステン塩、アルコールのタングステン塩などが挙げられ、中でも、タングステン−アミン錯体、有機酸のタングステン塩及びアルコールのタングステン塩が好ましい。
構成元素として硫黄を含まない有機タングステン化合物を構成するタングステン化合物としては、酸化タングステン(例えば、二酸化タングステン)、三酸化タングステン又はその水和物(WO3・nH2O等)、タングステン酸(例えば、オルトタングステン酸(H2WO4)、パラタングステン酸、ポリタングステン酸、イソポリタングステン酸、ヘテロポリタングステン酸等)、タングステン酸アルカリ金属塩等のタングステン酸金属塩(例えば、M2WO4;Mはアルカリ金属を示す)、タングステン酸アンモニウム(例えば、(NH4)2WO4、(NH4)6[W7O24]・4H2O)、ハロゲン化タングステン(例えば、WCl5、WCl6、WOCl4、WO2Cl2、WO2Br2、W2O3Cl6等)窒化タングステン(例えば、WN2、W2N)などの硫黄を含まないタングステン化合物が挙げられる。また、タングステン化合物は、上記に例示した以外にもタングステンの価数や構成元素に応じて様々な構造を有する多くのタングステン化合物であり得る。これらのタングステン化合物の中でも、有機タングステン化合物の収率の点から、4〜6価、特に6価のタングステン化合物が好ましい。更に、入手性の点から、6価のタングステン化合物の中でも、三酸化タングステン又はその水和物、タングステン酸、タングステン酸アルカリ金属塩、及びタングステン酸アンモニウムが好ましい。
また、タングステン−アミン錯体を構成するアミン化合物としては、特に制限されないが、窒素化合物としては、具体的には、モノアミン、ジアミン、ポリアミン及びアルカノールアミンが挙げられる。より具体的には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジヘプタデシルアミン、ジオクタデシルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、及びプロピルブチルアミン等の炭素数1〜30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン;エテニルアミン、プロペニルアミン、ブテニルアミン、オクテニルアミン、及びオレイルアミン等の炭素数2〜30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン;メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ヘキサノールアミン、ヘプタノールアミン、オクタノールアミン、ノナノールアミン、メタノールエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン、メタノールブタノールアミン、エタノールプロパノールアミン、エタノールブタノールアミン、及びプロパノールブタノールアミン等の炭素数1〜30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、及びブチレンジアミン等の炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン;ウンデシルジエチルアミン、ウンデシルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、オレイルプロピレンジアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン等の上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物やイミダゾリン等の複素環化合物;これらの化合物のアルキレンオキシド付加物;及びこれらの混合物等が例示できる。これらのアミン化合物の中でも、第1級アミン、第2級アミン及びアルカノールアミンが好ましい。
タングステン−アミン錯体を構成するアミン化合物が有する炭化水素基の炭素数は、好ましくは4以上であり、より好ましくは4〜30であり、特に好ましくは8〜18である。アミン化合物の炭化水素基の炭素数が4未満であると、溶解性が悪化する傾向にある。また、アミン化合物の炭素数を30以下とすることにより、タングステン−アミン錯体におけるタングステン含量を相対的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。
また、タングステン−コハク酸イミド錯体としては、上記タングステン−アミン錯体の説明において例示されたような硫黄を含まないタングステン化合物と、炭素数4以上のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドとの錯体が挙げられる。コハク酸イミドとしては、無灰分散剤の項で述べる炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドあるいはその誘導体や、炭素数4〜39、好ましくは炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミド等が挙げられる。コハク酸イミドにおけるアルキル基又はアルケニル基の炭素数が4未満であると溶解性が悪化する傾向にある。また、炭素数30を超え400以下のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドを使用することもできるが、当該アルキル基又はアルケニル基の炭素数を30以下とすることにより、タングステン−コハク酸イミド錯体におけるタングステン含有量を相対的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。
また、有機酸のタングステン塩としては、上記タングステン−アミン錯体の説明において例示されたタングステン酸化物あるいはタングステン水酸化物、タングステン炭酸塩又はタングステン塩化物等のタングステン塩基と、有機酸との塩が挙げられる。有機酸としては、後段のリン系添加剤の説明において例示される一般式(3−c)又は(3−d)で表されるリン化合物、カルボン酸及びカルバミン酸又はこれらの誘導体等が好ましい。ここで、リン化合物のタングステン塩における一般式(3−c)、(3−d)の好ましい態様については、後述するリン系添加剤の場合と同様とすることができる。
また、カルボン酸のタングステン塩を構成するカルボン酸としては、一塩基酸又は多塩基酸のいずれであってもよい。
一塩基酸としては、炭素数が通常2〜30、好ましくは4〜24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、直鎖状又は分岐状のブタン酸、直鎖状又は分岐状のペンタン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン酸、直鎖状又は分岐状のオクタン酸、直鎖状又は分岐状のノナン酸、直鎖状又は分岐状のデカン酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン酸、直鎖状又は分岐状のドデカン酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のノナデカン酸、直鎖状又は分岐状のイコサン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコサン酸、直鎖状又は分岐状のドコサン酸、直鎖状又は分岐状のトリコサン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコサン酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、直鎖状又は分岐状のブテン酸、直鎖状又は分岐状のペンテン酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン酸、直鎖状又は分岐状のオクテン酸、直鎖状又は分岐状のノネン酸、直鎖状又は分岐状のデセン酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン酸、直鎖状又は分岐状のドデセン酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のノナデセン酸、直鎖状又は分岐状のイコセン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコセン酸、直鎖状又は分岐状のドコセン酸、直鎖状又は分岐状のトリコセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコセン酸等の不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物等が挙げられる。
また、一塩基酸としては、上記脂肪酸の他に、単環又は多環カルボン酸(水酸基を有していてもよい)を用いてもよく、その炭素数は、好ましくは4〜30、より好ましくは7〜30である。単環又は多環カルボン酸としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基を0〜3個、好ましくは1〜2個有する芳香族カルボン酸又はシクロアルキルカルボン酸等が挙げられ、より具体的には、(アルキル)ベンゼンカルボン酸、(アルキル)ナフタレンカルボン酸、(アルキル)シクロアルキルカルボン酸等が例示できる。単環又は多環カルボン酸の好ましい例としては、安息香酸、サリチル酸、アルキル安息香酸、アルキルサリチル酸、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。
また、多塩基酸としては、二塩基酸、三塩基酸、四塩基酸等が挙げられる。多塩基酸は鎖状多塩基酸、環状多塩基酸のいずれであってもよい。また、鎖状多塩基酸の場合、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。鎖状多塩基酸としては、炭素数2〜16の鎖状二塩基酸が好ましく、具体的には例えば、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖状又は分岐状のブタン二酸、直鎖状又は分岐状のペンタン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン二酸、直鎖状又は分岐状のオクタン二酸、直鎖状又は分岐状のノナン二酸、直鎖状又は分岐状のデカン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン二酸、直鎖状又は分岐状のドデカン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン二酸、直鎖状又は分岐状のオクテン二酸、直鎖状又は分岐状のノネン二酸、直鎖状又は分岐状のデセン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン二酸、直鎖状又は分岐状のドデセン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン二酸、アルケニルコハク酸及びこれらの混合物等が挙げられる。また、環状多塩基酸としては、1、2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸の脂環式ジカルボン酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、トリメリット酸等の芳香族トリカルボン酸、ピロメリット酸等の芳香族テトラカルボン酸等が挙げられる。
また、上記アルコールのタングステン塩としては、上記タングステン−アミン錯体の説明において例示されたような硫黄を含まないタングステン化合物と、アルコールとの塩が挙げられ、アルコールは1価アルコール、多価アルコール、多価アルコールの部分エステルもしくは部分エーテル化合物、水酸基を有する窒素化合物(アルカノールアミン等)などのいずれであってもよい。なお、タングステン酸は強酸であり、アルコールとの反応によりエステルを形成するが、当該タングステン酸とアルコールとのエステルも本発明でいうアルコールのタングステン塩に包含される。
一価アルコールとしては、通常炭素数1〜24、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。炭素数1〜24のアルコールとしては、具体的には例えば、メタノール、エタノール、直鎖状又は分岐状のプロパノール、直鎖状又は分岐状のブタノール、直鎖状又は分岐状のペンタノール、直鎖状又は分岐状のヘキサノール、直鎖状又は分岐状のヘプタノール、直鎖状又は分岐状のオクタノール、直鎖状又は分岐状のノナノール、直鎖状又は分岐状のデカノール、直鎖状又は分岐状のウンデカノール、直鎖状又は分岐状のドデカノール、直鎖状又は分岐状のトリデカノール、直鎖状又は分岐状のテトラデカノール、直鎖状又は分岐状のペンタデカノール、直鎖状又は分岐状のヘキサデカノール、直鎖状又は分岐状のヘプタデカノール、直鎖状又は分岐状のオクタデカノール、直鎖状又は分岐状のノナデカノール、直鎖状又は分岐状のイコサノール、直鎖状又は分岐状のヘンイコサノール、直鎖状又は分岐状のトリコサノール、直鎖状又は分岐状のテトラコサノール及びこれらの混合物等が挙げられる。
また、多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10の多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトール及びこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、及びこれらの混合物等が挙げられる。
また、多価アルコールの部分エステルとしては、上記多価アルコールの説明において例示された多価アルコールが有する水酸基の一部がヒドロカルビルエステル化された化合物等が挙げられ、中でもグリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレート、ペンタエリスリトールモノオレート、ポリエチレングリコールモノオレート、ポリグリセリンモノオレート等が好ましい。
また、多価アルコールの部分エーテルとしては、上記多価アルコールの説明において例示された多価アルコールが有する水酸基の一部がヒドロカルビルエーテル化された化合物、多価アルコール同士の縮合によりエーテル結合が形成された化合物(ソルビタン縮合物等)などが挙げられ、中でも3−オクタデシルオキシ−1,2−プロパンジオール、3−オクタデセニルオキシ−1,2−プロパンジオール、ポリエチレングリコールアルキルエーテル等が好ましい。
また、水酸基を有する窒素化合物としては、上記タングステン−アミン錯体の説明において例示されたアルカノールアミン、並びに当該アルカノールのアミノ基がアミド化されたアルカノールアミド(ジエタノールアミド等)などが挙げられ、中でもステアリルジエタノールアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ヒドロキシエチルラウリルアミン、オレイン酸ジエタノールアミド等が好ましい。
また、有機タングステン化合物としては、上記の構成元素として硫黄を含まないタングステン化合物と、上記のアミン、コハク酸イミド、有機酸又はアルコール等とに二硫化炭素や元素硫黄等の硫黄源を加えて反応させて得られるタングステン−アミン錯体、タングステン−コハク酸イミド錯体、有機酸のタングステン塩、アルコールのタングステン塩などの硫黄含有有機タングステン化合物を用いることができる。また、構成元素として硫黄を含まないタングステン化合物に代えて、その一部又は全部が硫化された硫黄含有有機タングステン化合物(例えば、オキシ硫化タングステン化合物、硫化タングステン化合物等の硫黄含有タングステン化合物)と、上記アミン、コハク酸イミド、有機酸又はアルコール等とを反応させて得られる硫黄含有有機タングステン化合物を用いてもよい。さらに、上記有機酸に代えて、ジチオカルバミン酸、ジチオリン酸、スルホン酸、キサントゲン酸及びこれらの誘導体等の硫黄含有有機酸化合物を用い、上記の構成元素として硫黄を含まないタングステン化合物又は硫黄含有タングステン化合物と、必要に応じて二硫化炭素や元素硫黄等の硫黄源を加えて反応させて得られる硫黄含有有機酸のタングステン塩であってもよい。
ジチオカルバミン酸タングステン塩(タングステンジチオカーバメート化合物)は、タングステン化合物の価数や構成元素により様々な構造を有するものであり得るが、例えば下記一般式(1)で表される化合物、より具体的には、タングステンジチオカーバメート、オキシタングステンジチオカーバメート、オキシ硫化タングステンジチオカーバメート、硫化タングステンジチオカーバメートなどが挙げられる。
[式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Xは酸素原子及び/又は硫黄原子を示し、aは1又は2を示し、bは0〜4の整数を示し、mは1〜6の整数を示し、nは1〜6の整数を示す。]
また、ジチオリン酸タングステン塩(タングステンジチオホスフェート化合物)は、タングステン化合物の価数や構成元素により様々な構造を有するものであり得るが、例えば下記一般式(2)で表されるタングステンジチオホスフェート化合物、より具体的には、タングステンジチオホスフェート、オキシタングステンジチオホスフェート、オキシ硫化タングステンジチオホスフェート、硫化タングステンジチオホスフェート等が挙げられる。
[式中、R
3及びR
4はそれぞれ独立に炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Xは酸素原子及び/又は硫黄原子を示し、aは1又は2を示し、bは0〜4の整数を示し、mは1〜6の整数を示し、nは1〜6の整数を示す。]
また、スルホン酸タングステン塩としては、炭素数1〜30の炭化水素基を有するスルホン酸タングステン塩、例えば、アルキルスルホン酸タングステン、アルキルベンゼンスルホン酸タングステン、アルキルナフタレンスルホン酸タングステン等を使用することができる。
また、キサントゲン酸タングステン塩としては、炭素数1〜30の炭化水素基を有するキサントゲン酸タングステン塩を使用することができる。
また、有機タングステン化合物として、上記のジチオカルバミン酸タングステン塩、キサントゲン酸タングステン塩、ジチオリン酸タングステン塩における分子中の硫黄原子の一部又は全部が酸素原子に置換された化合物を使用することができる。
なお、上記有機タングステン化合物における炭素数1〜30の炭化水素基は、後述するリン系添加剤の項において一般式(3−a)、(3−b)の説明に記載した炭素数1〜30の炭化水素基と同義である。
また、有機タングステン化合物として、水和高分子化合物であるポリタングステン酸塩を用いてもよい。ここで、ポリタングステン酸塩は、ポリタングステン酸塩を含む分散相と、分散助剤及び希釈油を含む油相とからなるコロイド懸濁液として使用することができる。分散助剤としては、ポリアルキレンコハク酸無水物、ポリアルキレンコハク酸無水物の非窒素含有誘導体、並びにコハク酸イミド、カルボン酸アミド、炭化水素モノアミン、炭化水素ポリアミン、マンニッヒ塩基、ホスホンアミド、チオホスホンアミドおよびリンアミドからなる群より選ばれる塩基性窒素化合物、及びそれらの混合物が挙げられる。また、希釈油は、ポリタングステン酸塩を含む水相と分散助剤及び希釈油を含む油相とを有する安定な乳化液を形成できるものであれば特に制限されないが、炭化水素系潤滑油基油が好ましく用いられる。
また、上記コロイド懸濁液の調製方法は特に制限されないが、例えば、タングステンを含有する単量体化合物(WO2、WO3など)及び該単量体化合物を少なくとも部分的に重合できる有効量の酸を含む水溶液と、分散剤と、希釈油とを撹拌混合して微小乳化液を形成し、その微小乳化液を加熱して水を除去することで、目的のコロイド懸濁液を得ることができる。なお、撹拌混合工程における水溶液は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類水酸化物、水酸化アンモニウム、水酸化タリウム等の水酸化物を更に含有することが好ましい。
本発明の潤滑油組成物において、有機タングステン化合物の含有量は、組成物全量を基準として、タングステン元素換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.04質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、更に好ましくは0.2質量%以下である。当該有機タングステン化合物の含有量が、タングステン元素換算で0.001質量%未満の場合は、当該有機タングステン化合物と無灰酸化防止剤との併用による粘度増加抑制性、酸化防止性、酸価増加抑制性、塩基価維持性、高温清浄性及びNOxに対する耐性が不十分となる傾向にあり、また、0.5質量%を超えても含有量の増加に見合う上記の向上効果が得られない傾向にある。
また、本発明の酸化防止剤組成物及び潤滑油の粘度増加抑制方法においては、有機タングステン化合物が配合される潤滑油の全量を基準として、有機タングステン化合物の含有量が上記条件を満たすことが好ましい。
また、本発明の潤滑油組成物、酸化防止剤組成物及び潤滑油の粘度増加抑制方法においては、無灰酸化防止剤が上記の有機タングステン化合物と併用される。有機タングステン化合物と無灰酸化防止剤との併用による相乗効果によって、潤滑油又は潤滑油組成物の粘度増加抑制性を飛躍的に向上させることができ、また、酸価増加抑制性、塩基価維持性、高温清浄性及びNOxに対する耐性をより高めることができる。
無灰酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤等の潤滑油に一般的に使用されている連鎖停止型の無灰酸化防止剤が使用可能である。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類等を好ましい例として挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、及びジアルキルジフェニルアミンを挙げることができる。ここで、アルキル基は通常炭素数1〜20、好ましくは4〜12のアルキル基が望ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
更に、上記フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤は組み合せて使用してもよい。
本発明の潤滑油組成物における無灰酸化防止剤の含有量は、通常潤滑油組成物全量基準で5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、さらに好ましくは2.5質量%以下である。その含有量が5.0質量%を超える場合は、含有量に見合った十分な粘度増加抑制性が得られないため好ましくない。一方、その含有量は、粘度増加抑制性、並びに酸化防止性、酸価増加抑制性、塩基価維持性、高温清浄性及びNOxに対する耐性をより高めるためには、潤滑油組成物全量基準で好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、更に好ましくは0.5質量%以上である。
また、本発明の潤滑油組成物における有機タングステン化合物と無灰酸化防止剤との含有割合は特に制限されないが、タングステン元素の含有量(W)と無灰酸化防止剤の含有量(AO)との質量比(W/AO)が、0.001〜10であることが好ましく、0.01〜5であることがより好ましく、0.02〜2であることが更に好ましく、0.05〜0.5であることが特に好ましい。
また、本発明の酸化防止剤組成物及び潤滑油の粘度増加抑制方法における無灰酸化防止剤の含有量、並びに有機タングステン化合物と無灰酸化防止剤との含有割合は、酸化防止剤組成物が配合される潤滑油の全量を基準として、上記条件を満たすことが好ましい。
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油、有機タングステン化合物及び無灰酸化防止剤のみからなるものであってもよいが、本発明による効果をより高めるため、あるいは潤滑油の使用環境に応じて要求される各種性能を付与するために、必要に応じて以下に示す各種添加剤を更に含有してもよい。
また、本発明の酸化防止剤組成物は、有機タングステン化合物及び無灰酸化防止剤のみからなるものであってもよいが、本発明による効果をより高めるため、あるいは本発明の酸化防止剤組成物が配合される潤滑油に当該潤滑油の使用環境に応じて要求される各種性能を付与するために、必要に応じて以下に示す各種添加剤を更に含有してもよい。
また、本発明の潤滑油の粘度増加抑制方法においては、有機タングステン化合物及び無灰酸化防止剤のみを潤滑油に配合してもよいが、本発明による効果をより高めるため、あるいは有機タングステン化合物及び無灰酸化防止剤が配合される潤滑油に当該潤滑油の使用環境に応じて要求される各種性能を付与するために、必要に応じて以下に示す各種添加剤を更に含有してもよい。
なお、以下の説明では、各種添加剤の含有量等を本発明の潤滑油組成物における含有量等として示すが、本発明の酸化防止剤組成物及び潤滑油の粘度増加抑制方法における含有量等は酸化防止剤組成物(あるいは有機タングステン化合物及び無灰酸化防止剤)が配合される潤滑油を基準とすればよい。
本発明の潤滑油組成物及び酸化防止剤組成物は、酸化防止性、酸価増加抑制性、塩基価維持性、高温清浄性及びNOxに対する耐性を更に向上させることができ、一層高水準のロングドレイン化を達成することができる点から、有機モリブデン化合物を更に含有することが好ましい。有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオカーバメート等の硫黄含有モリブデン化合物であってもよいが、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物が好ましい。
有機モリブデン化合物の好ましい例としては、具体的には、上記有機タングステン化合物の項で説明した有機タングステン化合物におけるタングステン原子をモリブデン原子に置換した、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩及びアルコールのモリブデン塩が好ましく、低硫黄化及びロングドレイン性の点から、構成元素として硫黄を含まない上記有機モリブデン化合物が更に好ましい。
本発明の潤滑油組成物において、有機モリブデン化合物の含有量は、組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.06質量%以下である。当該有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン元素換算で0.001質量%未満の場合は、有機モリブデン化合物の添加による酸化防止性、酸価増加抑制性、塩基価維持性、高温清浄性及びNOxに対する耐性の向上効果が不十分となる傾向にあり、また、0.2質量%を超えても含有量の増加に見合う上記の向上効果が得られない傾向にある。
また、本発明の潤滑油組成物及び酸化防止剤組成物は、リン系添加剤(リン含有摩耗防止剤)を更に含有することができる。リン系添加剤としては、一般式(3−a)で表されるリン化合物、一般式(3−b)で表されるリン化合物、及びそれらの金属塩(但し、タングステン塩は除く)又はアミン塩から選ばれる少なくとも1種のリン系添加剤が好ましい。
[式中、R
5は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R
6及びR
7はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、X
1、X
2及びX
3はそれぞれ酸素原子又は硫黄原子を示す。]
[式中、R
8は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R
9及びR
10はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、X
4、X
5、X
6及びX
7はそれぞれ酸素原子又は硫黄原子を示す。]
上記一般式(3−a)、(3−b)中、R5〜R10で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
上記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基を挙げることができる。また上記アルキルシクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
上記アルケニル基としては、例えば、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)を挙げることができる。
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。また上記アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
上記アリールアルキル基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
上記R8〜R13で表される炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数3〜18、更に好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。
一般式(3−a)で表されるリン化合物としては、例えば、上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル、モノチオ亜リン酸モノエステル、ジチオ亜リン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸、(ヒドロカルビル)モノチオ亜ホスホン酸、(ヒドロカルビル)ジチオホスホン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル、ジチオ亜リン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)モノチオ亜ホスホン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)ジチオ亜ホスホン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル、モノチオ亜リン酸トリエステル、ジチオ亜リン酸トリエステル、(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)モノチオ亜ホスホン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)ジチオ亜ホスホン酸ジエステル;及びこれらの混合物などが挙げられる。
本発明において、一般式(3−a)で表される化合物としては、X1〜X3の少なくとも1つが酸素原子である化合物が好ましく、X1〜X3の全てが酸素原子である化合物、すなわち下記一般式(3−c)で表される化合物がより好ましい。
[式中、R
5は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R
6及びR
7はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、pは0又は1を示す。]
一般式(3−b)で表されるリン化合物としては、例えば、上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有するリン酸モノエステル、モノチオリン酸モノエステル、ジチオリン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)ホスホン酸、(ヒドロカルビル)モノチオホスホン酸、(ヒドロカルビル)ジチオホスホン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有するリン酸ジエステル、モノチオリン酸ジエステル、ジチオリン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)ホスホン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)モノチオホスホン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)ジチオホスホン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有するリン酸トリエステル、モノチオリン酸トリエステル、ジチオリン酸トリエステル、(ヒドロカルビル)ホスホン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)モノチオホスホン酸ジエステル(ヒドロカルビル)ジチオホスホン酸ジエステル;及びこれらの混合物などが挙げられる。
本発明において、一般式(3−b)で表される化合物は、X4〜X7の少なくとも2つが酸素原子である化合物が好ましく、X4〜X7の全てが酸素原子である化合物、すなわち下記一般式(3−d)で表される化合物がより好ましい。
[式中、R
11、R
12及びR
13はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、qは0又は1を示す。]
また、一般式(3−a)又は(3−b)で表されるリン化合物の金属塩又はアミン塩は、一般式(3−a)又は(3−b)で表されるリン化合物に、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基、アンモニア、炭素数1〜30の炭化水素基又はヒドロキシル基含有炭化水素基のみを分子中に有するアミン化合物等の窒素化合物などを作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和することにより得ることができる。
上記金属塩基における金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等の重金属(但し、タングステン及びモリブデンを除く)等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、モリブデン及び亜鉛が好ましく、亜鉛が特に好ましい。
なお、上記リン化合物の金属塩は、金属の価数あるいはリン化合物のOH基又はSH基の数に応じてその構造が異なり、したがって、リン化合物の金属塩の構造については何ら限定されない。例えば、酸化亜鉛1molとリン酸ジエステル(OH基が1つの化合物)2molを反応させた場合、下記式(3−e)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
[式中、Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。]
また、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸モノエステル(OH基が2つの化合物)1molとを反応させた場合、下記式(3−f)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。]
また、上記窒素化合物としては、具体的には、上記タングステン−アミン錯体の説明において例示されたモノアミン、ジアミン、ポリアミン、アルカノールアミン等が挙げられる。また、N−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の複素環化合物、アミン化合物へのアミンアルキレンオキシド付加物等を用いることもできる。
これら窒素化合物の中でもデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン及びステアリルアミン等の炭素数10〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪族アミン(これらは直鎖状でも分枝状でもよい)が好ましい例として挙げることができる。
本発明において、上記リン系添加剤は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明にかかるリン系添加剤としては、上記一般式(3−c)又は(3−d)で表されるリン化合物又はその金属塩(但し、タングステン塩を除く)が好ましく、中でも、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する亜リン酸ジエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基、好ましくは炭素数6〜12のアルキル基を3個有する亜リン酸トリエステル、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を1個有するリン酸のモノエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有するリン酸のジエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、あるいは炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基、好ましくは炭素数6〜12のアルキル基を3個有するリン酸トリエステル、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を1個有する(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸と亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸モノエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を3個有する(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸ジエステル、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を1個有する(ヒドロカルビル)ホスホン酸と亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する(ヒドロカルビル)ホスホン酸モノエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を3つ有する(ヒドロカルビル)ホスホン酸ジエステルが好ましい。
上記の(ヒドロカルビル)(亜)ホスホン酸、その金属塩、(ヒドロカルビル)(亜)ホスホン酸モノエステル、その金属塩、並びに(ヒドロカルビル)(亜)ホスホン酸ジエステルとしては、油溶性及び極圧性の点から、炭化水素基の合計炭素数が12〜30であることが好ましく、14〜24であることがより好ましく、16〜20であることが更に好ましい。
本発明の潤滑油組成物において、リン系添加剤の含有量は、組成物全量を基準として、リン元素換算で、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.02質量%以上であり、また、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.08質量%以下である。リン系添加剤の含有量が、リン元素換算で0.005質量%未満の場合は、摩耗防止性が不十分となる傾向にある。他方、リン系添加剤の含有量がリン元素換算で0.5質量%を超えても含有量の増加に見合う上記の向上効果が得られない傾向にあり、また、本発明の潤滑油組成物を内燃機関用潤滑油として使用する場合に、リンによる排ガス後処理装置への悪影響が懸念される。排ガス後処理装置への影響も顕著に低減することができる点からは、リン系添加剤の含有量が、リン元素換算で、0.08質量%以下、特に0.05質量%以下であることが好ましい。
なお、本発明における上記リン系添加剤のうち硫黄を含有する化合物についても、上記リン元素量の範囲内で含有させることができるが、当該化合物の含有量は、硫黄元素換算量で、好ましくは0.2質量%以下であり、より好ましくは0.16質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。そして、本発明の潤滑油組成物は、リン系添加剤として硫黄を含有する化合物を含有しないこと、すなわちリン系添加剤が一般式(3−c)又は(3−d)で表されるリン化合物又はその金属塩(但し、タングステン塩を除く)又はアミン塩のみで構成されることが最も好ましい。
また、本発明の潤滑油組成物及び酸化防止剤組成物は、その酸中和特性、高温清浄性及び摩耗防止性を更に向上させるために、金属系清浄剤を更に含有することが好ましい。
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネート又はアルカリ土類金属フェネート、アルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート、アルカリ金属ホスホネート又はアルカリ土類金属ホスホネート、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートとしては、より具体的には、例えば分子量100〜1500、好ましくは200〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられ、アルキル芳香族スルホン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。
石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルホン酸としては、例えば洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンを原料とし、これをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常発煙硫酸や硫酸が用いられる。
アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネートとしては、より具体的には、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルフェノール、このアルキルフェノールと元素硫黄を反応させて得られるアルキルフェノールサルファイド又はこのアルキルフェノールとホルムアルデヒドを反応させて得られるアルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。
アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートとしては、より具体的には、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルサリチル酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。
また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネート及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートには、アルキル芳香族スルホン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物、アルキルサリチル酸等を、直接、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性塩(正塩)だけでなく、さらにこれら中性塩(正塩)と過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で中性塩(正塩)をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩(超塩基性塩)も含まれる。なお、これらの反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われる。
また、金属系清浄剤は通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また、入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。また金属系清浄剤の全塩基価は、通常0〜500mgKOH/g、好ましくは20〜450mgKOH/gである。なお、ここでいう全塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価を意味する。
本発明においては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート等から選ばれる1種を単独で又は2種以上併用して使用することができる。本発明においては、金属系清浄剤として、塩基価維持性、高温清浄性、酸化安定性等のロングドレイン性に優れ、粘度増加抑制効果もある程度発揮される点で、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートを好適に用いることができる。また、有機タングステン化合物及び無灰酸化防止剤と共に使用することでNOxに対する酸価増加及び粘度増加の抑制効果を最大限発揮できる点からは、サリシレート系清浄剤以外の金属系清浄剤、例えばアルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート及び/又はフェネートを用いることが好ましく、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートを用いることが特に好ましい。
金属系清浄剤の金属比は特に制限されず、通常40以下、好ましくは20以下のものが使用できるが、摩擦低減効果及びロングドレイン性をより向上させることができる点から、好ましくは金属比が1〜15、より好ましくは2〜12の金属系清浄剤から選ばれる1種又は2種以上からなることが好ましい。なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(mol%)/せっけん基含有量(mol%)で表され、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはスルホン酸基、サリチル酸基等を意味する。
本発明においては、NOxに対する酸価増加及び粘度増加をより抑制できる点から、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートを用いることが好ましく、金属比が好ましくは2〜20、より好ましくは5〜15のアルカリ又はアルカリ土類金属スルホネートを用いることが特に好ましい。
本発明の潤滑油組成物における金属系清浄剤の含有量の上限値は、特に制限はないが、通常、組成物全量を基準として、組成物の硫酸灰分が1.0質量%以下となるようにその他の添加剤とあわせて調整することが好ましい。そのような観点から、金属系清浄剤の含有量は、組成物全量を基準として、金属元素換算量で、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下、更に好ましくは0.23質量%以下、特に好ましくは0.15質量%以下である。また、金属系清浄剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上である。
また、金属系清浄剤に含まれる金属(M)と、有機タングステン化合物に含まれるタングステン(W)との質量比(M/W)は、0.1〜500が好ましく、0.5〜100がより好ましく、0.8〜10が更に好ましく、0.9〜5が特に好ましい。
また、本発明の潤滑油組成物及び酸化防止剤組成物は、無灰分散剤を更に含有することが好ましい。
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができるが、例えば、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
このアルキル基又はアルケニル基の炭素数は40〜400、好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下し、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化するため、それぞれ好ましくない。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
無灰分散剤の具体的としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。これらの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物を用いることができる。
(I)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、あるいはその誘導体
(II)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体
(III)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体。
上記(I)コハク酸イミドとしては、より具体的には、下記一般式(4−a)又は(4−b)で示される化合物等が例示できる。
[式中、R
11は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、rは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。]
[式中、R
12及びR
13は、それぞれ独立に炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基、更に好ましくはポリブテニル基を示し、sは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。]
なお、コハク酸イミドには、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した式(4−a)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した式(4−b)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが包含されるが、本発明の潤滑油組成物においては、それらの一方のみを含んでもよく、あるいはこれらの混合物が含まれていてもよい。
上記コハク酸イミドの製法は特に制限はないが、例えば炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合を無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキル又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得ることができる。ポリアミンとしては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等が例示できる。
上記(II)ベンジルアミンとしては、より具体的には、下記の一般式(4−c)で表される化合物等が例示できる。
[式中、R
14は、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、tは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。]
上記ベンジルアミンの製造方法は何ら限定されるものではないが、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンをフェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドとジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンをマンニッヒ反応により反応させることにより得ることができる。
上記(III)ポリアミンとしては、より具体的には、下記の一般式(5−d)で表される化合物等が例示できる。
R15‐NH−(CH2CH2NH)u‐H (4−d)
[式中、R15は、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、qは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。]
上記ポリアミンの製造法は何ら限定されるものではないが、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させることにより得ることができる。
また、無灰分散剤の一例として挙げた含窒素化合物の誘導体としては、具体的には例えば、前述の含窒素化合物に炭素数1〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる酸変性化合物;前述の含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性化合物;前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;及び前述の含窒素化合物に酸変性、ホウ素変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせた変性化合物;等が挙げられる。これらの誘導体の中でもアルケニルコハク酸イミドのホウ素変性化合物は耐熱性、酸化防止性に優れ、本発明の潤滑油組成物においても塩基価維持性及び高温清浄性をより高めるために有効である。
本発明において、ホウ素含有無灰分散剤、特にホウ素含有コハク酸イミド系無灰分散剤を使用する場合、そのホウ素量と窒素量との質量比(B/N比)は特に制限されず、通常0.01〜2であるが、好ましくは0.1〜1、より好ましくは0.2〜0.8、更に好ましくは0.3〜0.6、特に好ましくは0.3〜0.5である。
本発明の潤滑油組成物に無灰分散剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.01〜20質量%であり、好ましくは0.1〜10質量%である。無灰分散剤の含有量が0.01質量%未満の場合は、NOx存在下における酸価増加の抑制に対する効果が少なく、一方、20質量%を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が大幅に悪化するため、それぞれ好ましくない。また、本発明の潤滑油組成物がホウ素含有無灰分散剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、ホウ素量として、好ましくは0.005〜0.2質量%、より好ましくは0.01〜0.1質量%、更に好ましくは0.02〜0.04質量%である。ホウ素含有無灰分散剤、特にホウ素含有コハク酸イミドを上記範囲で含有させることで、粘度増加抑制効果だけでなく、耐熱性や摩耗防止性をより向上させることができる。
なお、上述のリン系添加剤には潤滑油基油に溶解しない化合物又は溶解性が低い化合物(例えば常温で固体であるジアルキルリン酸亜鉛等)が包含されるが、リン系添加剤としてこのような化合物を使用する場合、リン系添加剤の潤滑油基油への溶解性改善や潤滑油組成物の製造時間の短縮の点から、窒素含有化合物(例えば無灰分散剤としてのアミン化合物や連鎖停止型酸化防止剤としてのアミン系酸化防止剤又はそれらの混合物)とリン系添加剤とを混合し、溶解又は反応させて得られた溶解物又は反応生成物を油溶性添加剤として潤滑油組成物に配合することが特に好ましい。このような油溶性添加剤の製造例としては、例えば、リン系添加剤と上記窒素含有化合物とを、好ましくはヘキサン、トルエン、デカリン等の有機溶媒中で15〜150℃、好ましくは30〜120℃、特に好ましくは40〜90℃で10分〜5時間、好ましくは20分〜3時間、特に好ましくは30分〜1時間混合して溶解又は反応させ、減圧蒸留等で溶媒を留去して得られる。
本発明の潤滑油組成物は、その性能をさらに向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、摩耗防止剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、及び着色剤等の添加剤等を挙げることができる。
摩耗防止剤としては、例えば、ジスルフィド、硫化オレフィン、硫化油脂、ジチオリン酸金属塩(亜鉛塩、モリブデン塩等)、ジチオカルバミン酸金属塩(亜鉛塩、モリブデン塩等)、ジチオリン酸エステル及びその誘導体(オレフィンシクロペンタジエン、(メチル)メタクリル酸、プロピオン酸等との反応物;プロピオン酸の場合はβ位に付加したものが好ましい。)、トリチオリン酸エステル、ジチオカルバミン酸エステル等の硫黄含有化合物等が挙げられる。これらは通常、0.005〜5質量%の範囲において本発明の組成物の性能を大幅に損なわない限り含有させることが可能であるが、低硫黄化及びロングドレイン性の点から、その含有量は、硫黄換算値で、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましい。
摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、二硫化モリブデン、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等のモリブデン系摩擦調整剤、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ヒドラジド(オレイルヒドラジド等)、セミカルバジド、ウレア、ウレイド、ビウレット等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。これら摩擦調整剤の含有量は、通常0.01〜5質量%である。
粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの重合体又は共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる)若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水添物、スチレン−ジエン共重合体の水素化物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等が挙げられる。
これらの粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、通常5,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は通常800〜5,000、好ましくは1,000〜4,000のものが、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は通常800〜500,000、好ましくは3,000〜200,000のものが用いられる。
またこれらの粘度指数向上剤の中でもエチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物を用いた場合には、特にせん断安定性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。上記粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができる。粘度指数向上剤の含有量は、通常潤滑油組成物基準で0.1〜20質量%である。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコーン、及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は潤滑油組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005〜5質量%、金属不活性化剤では0.005〜1質量%、消泡剤では0.0005〜1質量%の範囲で通常選ばれる。
また、本発明の潤滑油組成物においては、構成元素として硫黄を含有する各種添加剤を、本発明による効果が著しく阻害されない限り含有させることができるが、その含有量は、組成物全量を基準として、硫黄元素換算で0.3質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましく、0.16質量%以下であることが更に好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。ここで、「構成元素として硫黄を含有する添加剤」には、構成元素として硫黄を含む有機タングステン化合物の他、構成元素として硫黄を含む有機モリブデン化合物、後述する一般式(3−a)又は(3−b)中のX1〜X7の一部又は全部が硫黄原子であるリン化合物あるいはその金属塩又はアミン塩、ZDTP、ジチオリン酸金属塩、ジチオカルバミン酸エステル又はその金属塩、硫化油脂、ジスルフィド、硫化オレフィン類等の硫黄含有摩耗防止剤などが包含される。また、これらの硫黄を含有する添加剤は希釈油等の混合物として配合されることがあるが、「構成元素として硫黄を含有する添加剤の含有量」とは希釈油等を除いた有効成分の含有量を意味する。更に、「構成元素として硫黄を含有する添加剤の含有量が、組成物全量を基準として、硫黄元素換算で0.3質量%以下であること」とは、本発明の潤滑油組成物を構成する潤滑油基油及び添加剤の希釈油以外の成分に含まれる硫黄の総量が、組成物全量を基準として、硫黄元素換算で0.3質量%以下であることを意味し、更に換言すれば、[(組成物全体の硫黄分)−(潤滑油基油及び希釈油に由来する硫黄分)]で表される値(単位:質量%)である。
なお、本発明でいう「硫黄分」とは、JIS K 2541−4「放射線式励起法」(通常、0.01〜5質量%の範囲)又はJIS K 2541−5「ボンベ式質量法、附属書(規定)、誘導結合プラズマ発光法」(通常、0.05質量%以上)に準拠して測定された値を意味し、構成元素として硫黄を含有する添加剤の硫黄元素換算での含有量は、[潤滑油組成物全体の硫黄分]及び[潤滑油基油及び希釈油に由来する硫黄分]をそれぞれ測定し、前者の測定値から後者の測定値を減じることにより求められる。また、構成元素として硫黄を含有する添加剤の硫黄含有量を直接求める方法としては、添加剤の有効成分と潤滑油及び希釈油とを分離し、有効成分について、上記の方法に準拠して硫黄分を測定する方法がある。
潤滑油組成物又は添加剤中の有効成分と潤滑油基油及び希釈油との分離は、ゴム膜透析やクロマトグラフィー等の常法により行うことができる(例えば、八木下ら、日石三菱レビュー 第41卷 第4号 第25〜34頁(1999年10月発行)を参照)。また、硫黄分が上記方法の通常の測定限界以下である場合は、標準物質の濃度を適宜変更した測定により得られる検量線から容易に求めることができる。
また、本発明の潤滑油組成物における硫黄含有量は、構成成分として硫黄を含む添加剤に加えて、潤滑油基油の硫黄分にも由来するものであるが、本発明においては、潤滑油基油及び構成元素として硫黄を含まない有機タングステン化合物、並びに必要に応じて用いられる各種添加剤の選択によって、組成物中の硫黄含有量が0.3質量%以下、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下のロングドレイン性に優れた低硫黄組成物とすることも可能である。
また、本発明の潤滑油組成物のロングドレイン性を高め、排ガス後処理装置への悪影響を極力軽減するためには、構成元素として硫黄を含まない有機タングステン化合物及びその他金属を含有する添加剤やその含有量の最適化によって、組成物の硫酸灰分を1.0質量%以下とすることが好ましく、0.8質量%以下とすることがより好ましく、0.6質量%以下とすることがより好ましく、0.5質量%以下とすることが特に好ましい。ここで、硫酸灰分とは、JIS K 2272の5.「硫酸灰分の試験方法」に規定される方法により測定される値を示し、主として金属含有添加剤に起因するものである。
また、本発明の潤滑油組成物の動粘度は特に制限されないが、その100℃での動粘度は、25mm2/s以下であることが好ましく、より好ましくは15mm2/s以下である。一方、その100℃での動粘度は、4mm2/s以上であることが好ましく、より好ましくは5mm2/s以上である。潤滑油組成物の100℃での動粘度が前記上限値を超える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が前記下限値未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
また、本発明の潤滑油組成物の粘度指数は特に制限されないが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるように、その値は、80以上であることが好ましく、120以上であることがより好ましく、150以上であることが更に好ましい。潤滑油基油の粘度指数が前記下限値未満である場合、低温粘度特性が悪化する傾向にある。
また、本発明の潤滑油組成物の蒸発損失量としては、NOACK蒸発量で、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。潤滑油組成物のNOACK蒸発量が前記上限値を超える場合、潤滑油組成物の蒸発損失が大きいだけでなく、内燃機関用潤滑油として使用した場合、組成物中の硫黄化合物やリン化合物、あるいは金属分が潤滑油基油とともに排ガス浄化装置へ堆積する恐れがあり、排ガス浄化性能への悪影響が懸念されるため好ましくない。
本発明の潤滑油組成物は、硫黄分が50質量ppm以下の燃料が用いられる内燃機関に好適に用いることができる。すなわち、このような低硫黄燃料を使用する内燃機関においては、燃焼ガス中のSOx分を低減することができ、酸化触媒、三元触媒、NOx吸蔵還元型触媒等の触媒に対する硫黄被毒の低減だけでなく、潤滑油中へのSOx分の混入を低減して潤滑油の劣化を抑制することができる。そのため、従来のZDTP配合油よりも低硫黄化が可能な本発明の潤滑油組成物を用いれば、潤滑油に由来する上記触媒に対する硫黄被毒を更に低減することができ、酸化安定性、酸価増加抑制性、塩基価維持性、高温清浄性及びNOxに対する耐性の全てを極めて高いレベルで達成することができると共に、特に劣化に伴う粘度増加抑制性を格段に向上できる。したがって、本発明の潤滑油組成物と低硫黄燃料とを内燃機関に使用することによりそのメリット(排ガス浄化、触媒の長寿命化及び潤滑油のロングドレイン化並びにそれらに基づくコスト・廃油量の削減及び省資源化等)を最大限に発揮させることができるようになる。したがって、低硫黄燃料、例えば、硫黄分が50質量ppm以下、さらに好ましくは30質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下のガソリンや軽油や灯油、あるいは硫黄分が1質量ppm以下の燃料(LPG、天然ガス、硫黄分を実質的に含有しない水素、ジメチルエーテル、アルコール、GTL(ガストゥリキッド)燃料等)を用いる内燃機関用潤滑油として特に好ましく使用することができる。
本発明の潤滑油組成物は、粘度増加抑制性、酸化安定性、塩基価維持性、高温清浄性、及びNOxに対する酸価増加抑制性に優れ、特にNOx存在下における粘度増加抑制性に優れるものである。そのため、二輪車、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関用潤滑油として好ましく使用することができ、低硫黄、低灰分とした場合、特に排ガス後処理装置を装着した内燃機関に好適である。
また、本発明の潤滑性組成物は、酸化安定性が要求されるような潤滑油、例えば、自動又は手動変速機等の駆動系用潤滑油、グリース、湿式ブレーキ油、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、軸受け油、冷凍機油等の潤滑油としても好適に使用することができる。