以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明の潤滑油組成物は、全芳香族分が20質量%以上の第1の潤滑油基油と、全芳香族分が10質量%以下の第2の潤滑油基油とを含有する。
第1の潤滑油基油としては、以下に示す鉱油系基油又は合成系基油を用いることができる。
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、GTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等のうち、全芳香族分が20質量%以上のものを用いることができる。これらの鉱油系基油の中でも、溶剤脱れき、溶剤抽出、溶剤脱ろうなどの溶剤精製処理を行うことにより得られる溶剤精製鉱油が好ましい。
第1の潤滑油基油として鉱油系基油を用いる場合、その全芳香族分は、当該鉱油系基油全量を基準として、前述の通り20〜100質量%であり、好ましくは25〜100質量%、より好ましくは28〜100質量%である。第1の潤滑油基油の全芳香族分が20質量%未満の場合、第2の潤滑油基油及び構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物との組合せによるロングドレイン性向上効果が不十分となる傾向にある。
なお、第1の潤滑油基油の全芳香族分の上限値は特に制限されないが、入手性や精製による安定性向上効果が期待できる点から、全芳香族分が20〜40質量%の鉱油系基油がより好ましく、25〜35質量%の鉱油系がより好ましい。
また、第1の潤滑油基油として鉱油系基油を用いる場合、全芳香族分の内訳、すなわち単環芳香族分及び多環芳香族分の含有量は特に制限されないが、一層高水準のロングドレイン性を達成できる点から、多環芳香族分は、当該鉱油系基油全量を基準として、0.1質量%以上であること好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。また、高温清浄性の点から、当該鉱油系基油の多環芳香族分は、当該鉱油系基油全量を基準として、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。
一方、第1の潤滑油基油としての鉱油系基油の単環芳香族分は、当該鉱油系基油全量を基準として、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。当該鉱油系基油の単環芳香族分が上記上限値を超えると、潤滑油組成物の粘度指数が低くなる傾向にある。
なお、本発明でいう「多環芳香族分」及び「単環芳香族分」とは、Hirsch、D.E.,Anal.Chem.,44,p915(1972)に開示される方法に準拠して測定された多環芳香族分及び単環芳香族分を意味する(以下、同様である。)。
また、第1の潤滑油基油として鉱油系基油を用いる場合、その硫黄分は、特に制限はないが、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることが更に好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましい。このように第1の潤滑油基油としての鉱油系基油の硫黄分をやや高めに設定することで、鉱油系基油に本来的に含まれる硫黄化合物によりロングドレイン性が向上した潤滑油組成物を得ることができる。
一方、第1の潤滑油基油としての合成系基油としては、具体的には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、アントラセン、フェナントレン及びこれらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、並びにピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族環を有する化合物などの芳香族系合成油が挙げられる。また、これらの芳香族系合成油と他の合成油との混合基油であって全芳香族分が20質量%以上のものを用いることもできる。
本発明においては、第1の潤滑油基油として、上記鉱油系基油又は合成系基油のうち全芳香族分が20質量%以上のものの1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。また、混合基油の全芳香族分が20質量%以上であれば、全芳香族分が20質量%以上の基油と全芳香族分が10質量%を超え20質量%未満の基油との混合基油を第1の潤滑油基油として使用してもよい。更に、全芳香族分が10質量%を超え20質量%未満の潤滑油基油に芳香族化合物を追添し、全芳香族分を20質量%以上とした潤滑油基油を用いてもよい。追添する芳香族化合物としては、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン及びこれらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、並びにピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族環を有する化合物などが好適である。
第1の潤滑油基油の動粘度は特に制限されないが、その100℃での動粘度は、50mm2/s以下であることが好ましく、より好ましくは25mm2/s以下であり、更に好ましくは15mm2/s以下である。一方、その100℃での動粘度は、4mm2/s以上であることが好ましく、より好ましくは5mm2/s以上である。第1の潤滑油基油の100℃での動粘度が前記上限値を超える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が前記下限値未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
また、第1の潤滑油基油の粘度指数は特に制限されないが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるように、その値は、50〜120であることが好ましく、80〜105であることがより好ましく、90〜98であることが更に好ましい。潤滑油基油の粘度指数が前記下限値未満である場合、低温粘度特性が悪化する傾向にある。
また、第1の潤滑油基油の蒸発損失量としては、NOACK蒸発量で、25質量%以下であることが好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。潤滑油基油のNOACK蒸発量が前記上限値を超える場合、潤滑油の蒸発損失が大きいだけでなく、内燃機関用潤滑油として使用した場合、組成物中の硫黄化合物やリン化合物、あるいは金属分が潤滑油基油とともに排ガス浄化装置へ堆積する恐れがあり、排ガス浄化性能への悪影響が懸念されるため好ましくない。なお、本発明でいうNOACK蒸発量とは、ASTM D5800に準拠して測定されたものである(以下、同様である。)。
一方、第2の潤滑油基油としては、以下に示す鉱油系基油又は合成系基油を用いることができる。
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、GTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等のうち、全芳香族分が10質量%以下のものを用いることができる。
本発明にかかる第2の潤滑油基油としては、上記鉱油系基油及び合成系基油の中でも、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、水素化分解処理することにより得られる水素化分解鉱油が好ましい。
水素化分解鉱油の製造方法の好ましい一例としては、減圧蒸留留出油(WVGO)、WVGOのマイルドハイドロクラッキング(MHC)処理油、脱れき油(DAO)、DAOのMHC処理油又はこれらの混合油を、水素化分解触媒の存在下、全圧力150kg/cm2以下、温度360〜440℃、LHSV0.5hr−1以下の反応条件で、分解率40重量%以上になるように水素化分解して、当該生成物をそのまま、もしくは潤滑留分を分離回収し、次に脱ろう処理した後、脱芳香族処理するか又は脱芳香族処理した後、脱ろう処理する方法が挙げられる。
第2の潤滑油基油として鉱油系基油を用いる場合、その全芳香族分は、当該鉱油系基油全量を基準として、前述の通り10質量%以下であることが必要であり、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%、更に好ましくは3〜8質量%、特に好ましくは4〜7質量%である。第2の潤滑油基油の全芳香族分を前記範囲内とすることにより、第1の潤滑油基油の含有量が少量である場合に本発明によるロングドレイン性向上効果を高水準で得ることができ、また、第1の潤滑油基油としてアルキルベンゼン等の単環芳香族系合成油を用いる場合に、より高水準のロングドレイン性向上効果を得ることができる。
なお、本発明では、第2の潤滑油基油として全芳香族分が1質量%未満の潤滑油基油を使用することもできるが、このような潤滑油基油と併用する第1の潤滑油基油としては、全芳香族分が20〜100質量%の鉱油系基油が好ましい。全芳香族分が20〜100質量%の鉱油系基油と全芳香族分が1質量%未満の潤滑油基油とを併用すると、アルキルベンゼン等の単環芳香族系合成油と全芳香族分が1質量%未満の潤滑油基油とを併用した場合よりも高いロングドレイン性向上効果を得ることができる。
第2の潤滑油基油として鉱油系基油を用いる場合、全芳香族分の内訳、すなわち単環芳香族分及び多環芳香族分の含有量は特に制限されないが、一層高水準のロングドレイン性を達成できる点から、多環芳香族分は、当該鉱油系基油全量を基準として、0.01質量%以上であること好ましく、0.03質量%以上であることがより好ましく、0.04質量%以上であることがより好ましい。また、高温清浄性、及び第1の潤滑油基油との併用効果が高くなる点から、当該鉱油系基油の多環芳香族分は、当該鉱油系基油全量を基準として、2質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
なお、本発明では、第2の潤滑油基油として多環芳香族分が0.01質量%未満の潤滑油基油を使用することができるが、このような第2の潤滑油基油と併用する第1の潤滑油基油としては、多環芳香族分が好ましくは0.01〜100質量%、より好ましくは1〜100質量%、特に好ましくは2〜100質量%の鉱油系及び/又は合成系基油が好ましい。多環芳香族分が0.01〜100質量%の鉱油系基油と多環芳香族分が0.01質量%未満の鉱油系及び/又は合成系基油とを併用すると、アルキルベンゼン等の単環芳香族系合成油と多環芳香族分が0.01質量%未満の鉱油系及び/又は合成系基油とを併用した場合よりも高いロングドレイン性向上効果を得ることができる。
一方、第2の潤滑油基油としての鉱油系基油の単環芳香族分は、当該鉱油系基油全量を基準として、10質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましい。当該鉱油系基油の単環芳香族分が上記上限値を超えると、第1の潤滑油基油との併用効果が小さくなる傾向にある。
また、第2の潤滑油基油として鉱油系基油を用いる場合、その硫黄分は、特に制限はないが、0.05質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましく、0.005質量%以下であることが更に好ましく、0.001質量%以下であることが特に好ましい。このように鉱油系基油の硫黄分を低減することで、よりロングドレイン性に優れ、内燃機関用潤滑油として使用した場合には、排ガス後処理装置への悪影響を極力回避可能な低硫黄の潤滑油組成物を得ることができる。
一方、第2の潤滑油基油としての合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、及びジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、及びペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;上記合成系基油の2種以上の混合物;上記合成系基油と他の合成油(芳香族系合成油等)との混合基油であって全芳香族分が10質量%以下のもの等が例示できる。
本発明においては、第2の潤滑油基油として、上記鉱油系基油又は合成系基油のうち全芳香族分が10質量%以下のものの1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。また、混合基油の全芳香族分が10質量%以下であれば、全芳香族分が10質量%以下の基油と全芳香族分が10質量%を超え20質量%未満の基油との混合基油を第1の潤滑油基油として使用してもよい。
第2の潤滑油基油の動粘度は特に制限されないが、その100℃での動粘度は、20mm2/s以下であることが好ましく、より好ましくは6mm2/s以下である。一方、その動粘度は、1mm2/s以上であることが好ましく、より好ましくは3mm2/s以上である。第2の潤滑油基油の100℃での動粘度が前記上限値を超える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が前記下限値未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
また、第2の潤滑油基油の粘度指数は特に制限されないが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるように、その値は、80以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましく、120以上であることが更に好ましい。潤滑油基油の粘度指数が前記下限値未満である場合、低温粘度特性が悪化する傾向にある。
また、第2の潤滑油基油の蒸発損失量としては、NOACK蒸発量で、20質量%以下であることが好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。潤滑油基油のNOACK蒸発量が前記上限値を超える場合、潤滑油の蒸発損失が大きいだけでなく、内燃機関用潤滑油として使用した場合、組成物中の硫黄化合物やリン化合物、あるいは金属分が潤滑油基油とともに排ガス浄化装置へ堆積する恐れがあり、排ガス浄化性能への悪影響が懸念されるため好ましくない。
本発明の潤滑油組成物において、第1及び第2の潤滑油基油の合計量に占める第1の潤滑油基油の割合は、前述の通り1質量%以上であることが必要であり、5〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましい。当該割合が1質量%未満の場合、第1及び第2の潤滑油基油並びに構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物との組合せによるロングドレイン性向上効果が不十分となり、特に、高温清浄性と酸化安定性とを両立することが困難となる。また、当該割合が90質量%を超えると、潤滑油組成物の粘度指数が低くなる傾向にある。
また、第1の潤滑油基油として硫黄分が0.2質量%以上の鉱油系基油を用いる場合、高温清浄性及び低硫黄化の点から、第1及び第2の潤滑油基油の合計量に占める第1の潤滑油基油の割合は、10〜60質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。
また、第1及び第2の潤滑油基油の混合後の全芳香族分は、混合基油全量を基準として、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、更に好ましくは10質量%以上である。混合基油の全芳香族分が前記下限値未満の場合、第1及び第2の潤滑油基油並びに構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物の組合せによるロングドレイン性向上効果が不十分となる傾向にある。また、当該混合基油の全芳香族分は、潤滑油組成物の粘度指数をより高くできる点から、混合基油全量を基準として、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
また、第1及び第2の潤滑油基油の混合後の全芳香族分の内訳、すなわち単環芳香族分及び多環芳香族分の含有量は特に制限されないが、一層高水準のロングドレイン性を達成できる点から、多環芳香族分は、当該鉱油系基油全量を基準として、0.01質量%以上であること好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、高温清浄性の点から、混合基油の多環芳香族分は、混合基油全量を基準として、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、2質量%以下が特に好ましい。
一方、第1及び第2の潤滑油基油の混合基油の単環芳香族分は、混合基油全量を基準として、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。混合基油の単環芳香族分が上記上限値を超えると、潤滑油組成物の粘度指数が低くなる傾向にある。
また、第1及び第2の潤滑油基油の混合基油の硫黄分は、特に制限はないが、0.005〜0.6質量%であることが好ましく、0.05〜0.5質量%であることがより好ましく、0.1〜0.4質量%であることが更に好ましく、0.1〜0.2質量%であることが特に好ましい。混合基油の硫黄分を上記範囲内とし、更には低硫黄基油を選択することで、よりロングドレイン性に優れ、内燃機関用潤滑油として使用した場合には、排ガス後処理装置への悪影響を極力回避可能な低硫黄の潤滑油組成物を得ることができる。
また、第1及び第2の潤滑油基油の混合基油の動粘度は特に制限されないが、その100℃での動粘度は、20mm2/s以下であることが好ましく、より好ましくは10mm2/s以下である。一方、その動粘度は、3mm2/s以上であることが好ましく、より好ましくは5mm2/s以上である。混合基油の100℃での動粘度が前記上限値を超える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が前記下限値未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
また、第1及び第2の潤滑油基油の混合基油の粘度指数は特に制限されないが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるように、その値は、80以上であることが好ましく、95以上であることがより好ましく、110以上であることが更に好ましい。潤滑油基油の粘度指数が前記下限値未満である場合、低温粘度特性が悪化する傾向にある。
また、第1及び第2の潤滑油基油の混合基油の蒸発損失量としては、NOACK蒸発量で、20質量%以下であることが好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。潤滑油基油のNOACK蒸発量が前記上限値を超える場合、潤滑油の蒸発損失が大きいだけでなく、内燃機関用潤滑油として使用した場合、組成物中の硫黄化合物やリン化合物、あるいは金属分が潤滑油基油とともに排ガス浄化装置へ堆積する恐れがあり、排ガス浄化性能への悪影響が懸念されるため好ましくない。
本発明の潤滑油組成物においては、上記第1及び第2の潤滑油基油に、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物が配合される。かかる有機モリブデン化合物としては、具体的には、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩及びアルコールのモリブデン塩が好ましい。
上記モリブデン−アミン錯体を構成するモリブデン化合物としては、三酸化モリブデン又はその水和物(MoO3・nH2O)、モリブデン酸(H2MoO4)、モリブデン酸アルカリ金属塩(M2MoO4;Mはアルカリ金属を示す)、モリブデン酸アンモニウム((NH4)2MoO4又は(NH4)6[Mo7O24]・4H2O)、MoCl5、MoOCl4、MoO2Cl2、MoO2Br2、Mo2O3Cl6等の硫黄を含まないモリブデン化合物が挙げられる。こららのモリブデン化合物の中でも、モリブデン−アミン錯体の収率の点から、6価のモリブデン化合物が好ましい。更に、入手性の点から、6価のモリブデン化合物の中でも、三酸化モリブデン又はその水和物、モリブデン酸、モリブデン酸アルカリ金属塩、及びモリブデン酸アンモニウムが好ましい。
また、モリブデン−アミン錯体を構成するアミン化合物としては、特に制限されないが、窒素化合物としては、具体的には、モノアミン、ジアミン、ポリアミン及びアルカノールアミンが挙げられる。より具体的には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジヘプタデシルアミン、ジオクタデシルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、及びプロピルブチルアミン等の炭素数1〜30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン;エテニルアミン、プロペニルアミン、ブテニルアミン、オクテニルアミン、及びオレイルアミン等の炭素数2〜30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン;メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ヘキサノールアミン、ヘプタノールアミン、オクタノールアミン、ノナノールアミン、メタノールエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン、メタノールブタノールアミン、エタノールプロパノールアミン、エタノールブタノールアミン、及びプロパノールブタノールアミン等の炭素数1〜30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、及びブチレンジアミン等の炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン;ウンデシルジエチルアミン、ウンデシルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、オレイルプロピレンジアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン等の上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物やイミダゾリン等の複素環化合物;これらの化合物のアルキレンオキシド付加物;及びこれらの混合物等が例示できる。これらのアミン化合物の中でも、第1級アミン、第2級アミン及びアルカノールアミンが好ましい。
モリブデン−アミン錯体を構成するアミン化合物が有する炭化水素基の炭素数は、好ましくは4以上であり、より好ましくは4〜30であり、特に好ましくは8〜18である。アミン化合物の炭化水素基の炭素数が4未満であると、溶解性が悪化する傾向にある。また、アミン化合物の炭素数を30以下とすることにより、モリブデン−アミン錯体におけるモリブデン顔料を早退的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。
また、モリブデン−コハク酸イミド錯体としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたような硫黄を含まないモリブデン化合物と、炭素数4以上のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドとの錯体が挙げられる。コハク酸イミドとしては、無灰分散剤の項で述べる炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドあるいはその誘導体や、炭素数4〜39、好ましくは炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミド等が挙げられる。コハク酸イミドにおけるアルキル基又はアルケニル基の炭素数が4未満であると溶解性が悪化する傾向にある。また、炭素数30を超え400以下のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドを使用することもできるが、当該アルキル基又はアルケニル基の炭素数を30以下とすることにより、モリブデン−コハク酸イミド錯体におけるモリブデン含有量を相対的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。
また、有機酸のモリブデン塩としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたモリブデン酸化物あるいはモリブデン水酸化物、モリブデン炭酸塩又はモリブデン塩化物等のモリブデン塩基と、有機酸との塩が挙げられる。有機酸としては、一般式(3)又は(4)で表されるリン化合物及びカルボン酸が好ましい。ここで、一般式(3)又は(4)で表されるリン化合物のモリブデン塩における一般式(3)、(4)の好ましい態様については、後述するリン系添加剤の場合と同様とすることができる。
また、カルボン酸のモリブデン塩を構成するカルボン酸としては、一塩基酸又は多塩基酸のいずれであってもよい。
一塩基酸としては、炭素数が通常2〜30、好ましくは4〜24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、直鎖状又は分岐状のブタン酸、直鎖状又は分岐状のペンタン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン酸、直鎖状又は分岐状のオクタン酸、直鎖状又は分岐状のノナン酸、直鎖状又は分岐状のデカン酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン酸、直鎖状又は分岐状のドデカン酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のノナデカン酸、直鎖状又は分岐状のイコサン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコサン酸、直鎖状又は分岐状のドコサン酸、直鎖状又は分岐状のトリコサン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコサン酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、直鎖状又は分岐状のブテン酸、直鎖状又は分岐状のペンテン酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン酸、直鎖状又は分岐状のオクテン酸、直鎖状又は分岐状のノネン酸、直鎖状又は分岐状のデセン酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン酸、直鎖状又は分岐状のドデセン酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のノナデセン酸、直鎖状又は分岐状のイコセン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコセン酸、直鎖状又は分岐状のドコセン酸、直鎖状又は分岐状のトリコセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコセン酸等の不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物等が挙げられる。
また、一塩基酸としては、上記脂肪酸の他に、単環又は多環カルボン酸(水酸基を有していてもよい)を用いてもよく、その炭素数は、好ましくは3〜30、より好ましくは7〜30である。単環又は多環カルボン酸としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基を0〜3個、好ましくは1〜2個有する芳香族カルボン酸又はシクロアルキルカルボン酸等が挙げられ、より具体的には、(アルキル)ベンゼンカルボン酸、(アルキル)ナフタレンカルボン酸、(アルキル)シクロアルキルカルボン酸等が例示できる。単環又は多環カルボン酸の好ましい例としては、安息香酸、サリチル酸、アルキル安息香酸、アルキルサリチル酸、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。
また、多塩基酸としては、二塩基酸、三塩基酸、四塩基酸等が挙げられる。多塩基酸は鎖状多塩基酸、環状多塩基酸のいずれであってもよい。また、鎖状多塩基酸の場合、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。鎖状多塩基酸としては、炭素数2〜16の鎖状二塩基酸が好ましく、具体的には例えば、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖状又は分岐状のブタン二酸、直鎖状又は分岐状のペンタン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン二酸、直鎖状又は分岐状のオクタン二酸、直鎖状又は分岐状のノナン二酸、直鎖状又は分岐状のデカン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン二酸、直鎖状又は分岐状のドデカン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン二酸、直鎖状又は分岐状のオクテン二酸、直鎖状又は分岐状のノネン二酸、直鎖状又は分岐状のデセン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン二酸、直鎖状又は分岐状のドデセン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン二酸、アルケニルコハク酸及びこれらの混合物等が挙げられる。また、環状多塩基酸としては、1、2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸の脂環式ジカルボン酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、トリメリット酸等の芳香族トリカルボン酸、ピロメリット酸等の芳香族テトラカルボン酸等が挙げられる。
また、上記アルコールのモリブデン塩としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたような硫黄を含まないモリブデン化合物と、アルコールとの塩が挙げられ、アルコールは1価アルコール、多価アルコール、多価アルコールの部分エステルもしくは部分エーテル化合物、水酸基を有する窒素化合物(アルカノールアミン等)などのいずれであってもよい。なお、モリブデン酸は強酸であり、アルコールとの反応によりエステルを形成するが、当該モリブデン酸とアルコールとのエステルも本発明でいうアルコールのモリブデン塩に包含される。
一価アルコールとしては、通常炭素数1〜24、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。炭素数1〜24のアルコールとしては、具体的には例えば、メタノール、エタノール、直鎖状又は分岐状のプロパノール、直鎖状又は分岐状のブタノール、直鎖状又は分岐状のペンタノール、直鎖状又は分岐状のヘキサノール、直鎖状又は分岐状のヘプタノール、直鎖状又は分岐状のオクタノール、直鎖状又は分岐状のノナノール、直鎖状又は分岐状のデカノール、直鎖状又は分岐状のウンデカノール、直鎖状又は分岐状のドデカノール、直鎖状又は分岐状のトリデカノール、直鎖状又は分岐状のテトラデカノール、直鎖状又は分岐状のペンタデカノール、直鎖状又は分岐状のヘキサデカノール、直鎖状又は分岐状のヘプタデカノール、直鎖状又は分岐状のオクタデカノール、直鎖状又は分岐状のノナデカノール、直鎖状又は分岐状のイコサノール、直鎖状又は分岐状のヘンイコサノール、直鎖状又は分岐状のトリコサノール、直鎖状又は分岐状のテトラコサノール及びこれらの混合物等が挙げられる。
また、多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10の多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトール及びこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、及びこれらの混合物等が挙げられる。
また、多価アルコールの部分エステルとしては、上記多価アルコールの説明において例示された多価アルコールが有する水酸基の一部がヒドロカルビルエステル化された化合物等が挙げられ、中でもグリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレート、ペンタエリスリトールモノオレート、ポリエチレングリコールモノオレート、ポリグリセリンモノオレート等が好ましい。
また、多価アルコールの部分エーテルとしては、上記多価アルコールの説明において例示された多価アルコールが有する水酸基の一部がヒドロカルビルエーテル化された化合物、多価アルコール同士の縮合によりエーテル結合が形成された化合物(ソルビタン縮合物等)などが挙げられ、中でも3−オクタデシルオキシ−1,2−プロパンジオール、3−オクタデセニルオキシ−1,2−プロパンジオール、ポリエチレングリコールアルキルエーテル等が好ましい。
また、水酸基を有する窒素化合物としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたアルカノールアミン、並びに当該アルカノールのアミノ基がアミド化されたアルカノールアミド(ジエタノールアミド等)などが挙げられ、中でもステアリルジエタノールアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ヒドロキシエチルラウリルアミン、オレイン酸ジエタノールアミド等が好ましい。
本発明の潤滑油組成物において、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物の含有量は、組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは30質量ppm以上、更に好ましくは100質量ppm以上であり、また、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは600質量ppm以下、更に好ましくは400質量ppm以下である。当該有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン元素換算で10質量ppm未満の場合は、当該モリブデン化合物と上記潤滑油基油との併用による酸化防止性、塩基価維持性、高温清浄性及びNOxに対する耐性の向上効果が不十分となる傾向にあり、また、1000質量ppmを超えても含有量の増加に見合う上記の向上効果が得られない傾向にある。
本発明の潤滑油組成物を製造するに際し、第1及び第2の潤滑油基油並びに構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物の混合の順序は特に制限されず、例えば下記(A)、(B)又は(C)に示す順序で混合することができる。
(A)有機モリブデン化合物を第1の潤滑油基油と混合した後、その混合物と第2の潤滑油基油又は第1及び第2の潤滑油基油の混合基油とを混合する。
(B)有機モリブデン化合物を第2の潤滑油基油と混合した後、その混合物と第1の潤滑油基油又は第1及び第2の潤滑油基油の混合基油とを混合する。
(C)第1及び第2の潤滑油基油を混合した後、その混合基油と有機モリブデン化合物とを混合する。
ここで、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物は、第2の潤滑油基油よりも第1の潤滑油基油に対して高い溶解性を示す。そのため、上記(A)に示す順序で各成分を混合することにより、当該有機モリブデン化合物の基油への溶解に要する時間を十分に短縮することができ、また、当該有機モリブデン化合物の潤滑油基油中での均一性及び安定性を高めることができる。
上記(A)〜(C)に示す混合工程は撹拌下で行うことが好ましく、また、混合時の温度条件は20〜100℃が好適である。
本発明の潤滑油組成物は、上記第1及び第2の潤滑油基油並びに構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物のみからなるものであってもよいが、必要に応じて、以下に示す各種添加剤を更に含有してもよい。
本発明の潤滑油組成物は、一般式(1)で表されるリン化合物、一般式(2)で表されるリン化合物、及びそれらの金属塩(但し、モリブデン塩は除く)又はアミン塩から選ばれる少なくとも1種のリン系添加剤(リン含有摩耗防止剤)を更に含有することが好ましい。
[式(1)中、R
1は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R
2及びR
3は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、X
1、X
2及びX
3は同一でも異なってもよく、それぞれ酸素原子又は硫黄原子を示し、nは0又は1を示し、nが0のときX
2又はX
3のうちの少なくとも1つは酸素原子であり、nが1のときX
1、X
2又はX
3のうちの少なくとも1つは酸素原子である。]
[式(2)中、R
4は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R
5及びR
6は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、X
4、X
5、X
6及びX
7は同一でも異なってもよく、それぞれ酸素原子又は硫黄原子を示し、nは0又は1を示し、nが0のときX
5、X
6又はX
7のうちの少なくとも2つは酸素原子であり、nが1のときX
4、X
5、X
6又はX
7のうちの少なくとも3つは酸素原子である。]
上記一般式(1)、(2)中、R
1〜R
6で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
上記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基を挙げることができる。また上記アルキルシクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
上記アルケニル基としては、例えば、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)を挙げることができる。
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。また上記アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
上記アリールアルキル基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
上記R1〜R6で表される炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数3〜18、更に好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。
一般式(1)で表されるリン化合物としては、例えば、上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル、モノチオ亜リン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸、(ヒドロカルビル)モノチオ亜ホスホン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)モノチオ亜ホスホン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル、モノチオ亜リン酸トリエステル、(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)モノチオ亜ホスホン酸ジエステル;及びこれらの混合物などが挙げられる。
本発明において、一般式(1)で表される化合物は、X1〜X3の全てが酸素原子である化合物、すなわち下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
[式(3)中、R
1は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R
2及びR
3は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、nは0又は1を示す。]
一般式(2)で表されるリン化合物としては、例えば、上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有するリン酸モノエステル、モノチオリン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)ホスホン酸、(ヒドロカルビル)モノチオホスホン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有するリン酸ジエステル、モノチオリン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)ホスホン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)モノチオホスホン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有するリン酸トリエステル、モノチオリン酸トリエステル、(ヒドロカルビル)ホスホン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)モノチオホスホン酸ジエステル;及びこれらの混合物などが挙げられる。
本発明において、一般式(2)で表される化合物は、X4〜X7の全てが酸素原子である化合物、すなわち下記一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
[式(4)中、R
4、R
5及びR
6は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、nは0又は1を示す。]
また、一般式(1)又は(2)で表されるリン化合物の金属塩又はアミン塩は、一般式(1)又は(2)で表されるリン化合物に、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基、アンモニア、炭素数1〜30の炭化水素基又はヒドロキシル基含有炭化水素基のみを分子中に有するアミン化合物等の窒素化合物などを作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和することにより得ることができる。
上記金属塩基における金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等の重金属(但し、モリブデンは除く)等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及び亜鉛が好ましく、亜鉛が特に好ましい。
なお、上記リン化合物の金属塩は、金属の価数あるいはリン化合物のOH基又はSH基の数に応じてその構造が異なり、したがって、リン化合物の金属塩の構造については何ら限定されない。例えば、酸化亜鉛1molとリン酸ジエステル(OH基が1つの化合物)2molを反応させた場合、下記式(5)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
[式(5)中、Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。]
また、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸モノエステル(OH基が2つの化合物)1molとを反応させた場合、下記式(6)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
[式(6)中、Rは水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。]
また、上記窒素化合物としては、具体的には、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたモノアミン、ジアミン、ポリアミン、アルカノールアミン等が挙げられる。また、N−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の複素環化合物、アミン化合物へのアミンアルキレンオキシド付加物等を用いることもできる。
これら窒素化合物の中でもデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン及びステアリルアミン等の炭素数10〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪族アミン(これらは直鎖状でも分枝状でもよい)が好ましい例として挙げることができる。
本発明において、上記リン系添加剤は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明にかかるリン系添加剤としては、上記一般式(3)又は(4)で表されるリン化合物又はその金属塩(但し、モリブデン塩を除く)が好ましく、中でも、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する亜リン酸ジエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基、好ましくは炭素数6〜12のアルキル基を3個有する亜リン酸トリエステル、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を1個有するリン酸のモノエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有するリン酸のジエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、あるいは炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基、好ましくは炭素数6〜12のアルキル基を3個有するリン酸トリエステル、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を1個有する(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸と亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸モノエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を3個有する(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸ジエステル、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を1個有する(ヒドロカルビル)ホスホン酸と亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する(ヒドロカルビル)ホスホン酸モノエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を3つ有する(ヒドロカルビル)ホスホン酸ジエステルが好ましい。
上記の(ヒドロカルビル)(亜)ホスホン酸、その金属塩、(ヒドロカルビル)(亜)ホスホン酸モノエステル、その金属塩、並びに(ヒドロカルビル)(亜)ホスホン酸ジエステルとしては、油溶性及び極圧性の点から、炭化水素基の合計炭素数が12〜30であることが好ましく、14〜24であることがより好ましく、16〜20であることが更に好ましい。
本発明の潤滑油組成物において、リン系添加剤の含有量は、組成物全量を基準として、リン元素換算で、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.02質量%以上であり、また、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.08質量%以下である。リン系添加剤の含有量が、リン元素換算で0.005質量%未満の場合は、摩耗防止性が不十分となり、ロングドレイン化が達成されにくくなる傾向にある。他方、リン系添加剤の含有量がリン元素換算で0.5質量%を超えても含有量の増加に見合う上記の向上効果が得られない傾向にあり、また、本発明の潤滑油組成物を内燃機関用潤滑油として使用する場合に、リンによる排ガス後処理装置への悪影響が懸念される。排ガス後処理装置への影響も顕著に低減することができる点からは、リン系添加剤の含有量が、リン元素換算で、0.08質量%以下、特に0.05質量%以下であることが好ましい。
なお、本発明における上記リン系添加剤のうち硫黄を含有する化合物についても、上記リン元素量の範囲内で含有させることができるが、当該化合物の含有量は、硫黄元素換算量で、好ましくは0.1質量%以下であり、より好ましくは0.08質量%以下である。そして、本発明の潤滑油組成物は、リン系添加剤として硫黄を含有する化合物を含有しないこと、すなわちリン系添加剤が一般式(3)又は(4)で表されるリン化合物又はその金属塩(但し、モリブデン塩を除く)又はアミン塩のみで構成されることが最も好ましい。
また、本発明の潤滑油組成物は、その酸中和特性、高温清浄性及び摩耗防止性を更に向上させるために、金属系清浄剤を更に含有することが好ましい。
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネート又はアルカリ土類金属フェネート、アルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート、アルカリ金属ホスホネート又はアルカリ土類金属ホスホネート、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートとしては、より具体的には、例えば分子量100〜1500、好ましくは200〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられ、アルキル芳香族スルホン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。
石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルホン酸としては、例えば洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンを原料とし、これをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常発煙硫酸や硫酸が用いられる。
アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネートとしては、より具体的には、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルフェノール、このアルキルフェノールと元素硫黄を反応させて得られるアルキルフェノールサルファイド又はこのアルキルフェノールとホルムアルデヒドを反応させて得られるアルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。
アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートとしては、より具体的には、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルサリチル酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。
また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネート及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートには、アルキル芳香族スルホン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物、アルキルサリチル酸等を、直接、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性塩(正塩)だけでなく、さらにこれら中性塩(正塩)と過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で中性塩(正塩)をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩(超塩基性塩)も含まれる。なお、これらの反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われる。
また、金属系清浄剤は通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また、入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。また金属系清浄剤の全塩基価は、通常0〜500mgKOH/g、好ましくは20〜450mgKOH/gである。なお、ここでいう全塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価を意味する。
本発明においては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート等から選ばれる1種を単独で又は2種以上併用して使用することができる。本発明においては、金属系清浄剤として、低灰化による摩擦低減効果及び/又は摩耗防止効果が大きい点、ロングドレイン性により優れる点でアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートが特に好ましい。また、粘度増加をより抑制できる点からは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートを使用することが特に好ましい。
金属系清浄剤の金属比は特に制限されず、通常20以下のものが使用できるが、摩擦低減効果及びロングドレイン性をより向上させることができる点から、好ましくは金属比が1〜10の金属系清浄剤から選ばれる1種又は2種以上からなることが好ましい。なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(mol%)/せっけん基含有量(mol%)で表され、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはスルホン酸基、サリチル酸基等を意味する。
金属系清浄剤としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートが低灰化による摩擦低減効果が大きい点、ロングドレイン性により優れる点で特に好ましい。
本発明の潤滑油組成物における金属系清浄剤の含有量の上限値は、特に制限はないが、通常、組成物全量を基準として、組成物の硫酸灰分が1.0質量%以下となるようにその他の添加剤とあわせて調整することが好ましい。そのような観点から、金属系清浄剤の含有量は、組成物全量を基準として、金属元素換算量で、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下、更に好ましくは0.23質量%以下である。また、金属系清浄剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.15質量%以上である。
また、金属系清浄剤に含まれる金属(M)と、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物に含まれるモリブデン(Mo)との質量比(M/Mo)は、0.1〜500が好ましく、2〜100がより好ましく、3〜60が更に好ましく、5〜50が一層好ましく、10〜40が特に好ましい。
また、本発明の潤滑油組成物は、無灰分散剤を更に含有することが好ましい。
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができるが、例えば、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
このアルキル基又はアルケニル基の炭素数は40〜400、好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下し、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化するため、それぞれ好ましくない。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
無灰分散剤の具体的としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。これらの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物を用いることができる。
(I)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、あるいはその誘導体
(II)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体
(III)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体。
上記(I)コハク酸イミドとしては、より具体的には、下記一般式(7)又は(8)で示される化合物等が例示できる。
[式(7)中、R
7は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、mは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。]
[式(8)中、R
8及びR
9は、それぞれ個別に炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基、更に好ましくはポリブテニル基を示し、mは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。]
なお、コハク酸イミドには、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した式(7)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した式(8)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが包含されるが、本発明の潤滑油組成物においては、それらの一方のみを含んでもよく、あるいはこれらの混合物が含まれていてもよい。
上記コハク酸イミドの製法は特に制限はないが、例えば炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合を無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキル又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得ることができる。ポリアミンとしては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等が例示できる。
上記(II)ベンジルアミンとしては、より具体的には、下記の一般式(9)で表される化合物等が例示できる。
[式(9)中、R
10は、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、pは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。]
上記ベンジルアミンの製造方法は何ら限定されるものではないが、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンをフェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドとジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンをマンニッヒ反応により反応させることにより得ることができる。
上記(III)ポリアミンとしては、より具体的には、下記の一般式(10)で表される化合物等が例示できる。
R11‐NH−(CH2CH2NH)q‐H (10)
[式(10)中、R11は、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、qは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。]
上記ポリアミンの製造法は何ら限定されるものではないが、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させることにより得ることができる。
また、無灰分散剤の一例として挙げた含窒素化合物の誘導体としては、具体的には例えば、前述の含窒素化合物に炭素数1〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる酸変性化合物;前述の含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性化合物;前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;及び前述の含窒素化合物に酸変性、ホウ素変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせた変性化合物;等が挙げられる。これらの誘導体の中でもアルケニルコハク酸イミドのホウ素変性化合物は耐熱性、酸化防止性に優れ、本発明の潤滑油組成物においても塩基価維持性及び高温清浄性をより高めるために有効である。
本発明の潤滑油組成物に無灰分散剤を含有させる場合、その含有量は、通常潤滑油組成物全量基準で、0.01〜20質量%であり、好ましくは0.1〜10質量%である。無灰分散剤の含有量が0.01質量%未満の場合は、高温下における塩基価維持性に対する効果が少なく、一方、20質量%を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が大幅に悪化するため、それぞれ好ましくない。
また、本発明の潤滑油組成物は、連鎖停止型酸化防止剤を更に含有することが好ましい。これにより、潤滑油組成物の酸化防止性がより高められるため、本発明における塩基価維持性及び高温清浄性をより高めることができる。
連鎖停止型酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤、金属系酸化防止剤等の潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能である。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類等を好ましい例として挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、及びジアルキルジフェニルアミンを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
更に、上記フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤は組み合せて使用してもよい。
本発明の潤滑油組成物において連鎖停止型酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は、通常潤滑油組成物全量基準で5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、さらに好ましくは2.5質量%以下である。その含有量が5.0質量%を超える場合は、含有量に見合った十分な酸化防止性が得られないため好ましくない。一方、その含有量は、潤滑油劣化過程における塩基価維持性及び高温清浄性をより高めるためには、潤滑油組成物全量基準で好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは1質量%以上である。
なお、上述のリン系添加剤には潤滑油基油に溶解しない化合物又は溶解性が低い化合物(例えば常温で固体であるジアルキルリン酸亜鉛等)が包含されるが、リン系添加剤としてこのような化合物を使用する場合、リン系添加剤の潤滑油基油への溶解性改善や潤滑油組成物の製造時間の短縮の点から、窒素含有化合物(例えば無灰分散剤としてのアミン化合物や連鎖停止型酸化防止剤としてのアミン系酸化防止剤又はそれらの混合物)とリン系添加剤とを混合し、溶解又は反応させて得られた溶解物又は反応生成物を油溶性添加剤として潤滑油組成物に配合することが特に好ましい。このような油溶性添加剤の製造例としては、例えば、リン系添加剤と上記窒素含有化合物とを、好ましくはヘキサン、トルエン、デカリン等の有機溶媒中で15〜150℃、好ましくは30〜120℃、特に好ましくは40〜90℃で10分〜5時間、好ましくは20分〜3時間、特に好ましくは30分〜1時間混合して溶解又は反応させ、減圧蒸留等で溶媒を留去して得られる。
本発明の潤滑油組成物は、その性能をさらに向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、摩耗防止剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、及び着色剤等の添加剤等を挙げることができる。
摩耗防止剤としては、例えば、ジスルフィド、硫化オレフィン、硫化油脂、ジチオリン酸金属塩(亜鉛塩、モリブデン塩等)、ジチオカルバミン酸金属塩(亜鉛塩、モリブデン塩等)、ジチオリン酸エステル及びその誘導体(オレフィンシクロペンタジエン、(メチル)メタクリル酸、プロピオン酸等との反応物;プロピオン酸の場合はβ位に付加したものが好ましい。)、トリチオリン酸エステル、ジチオカルバミン酸エステル等の硫黄含有化合物等が挙げられる。これらは通常、0.005〜5質量%の範囲において本発明の組成物の性能を大幅に損なわない限り含有させることが可能であるが、低硫黄化及びロングドレイン性の点から、その含有量は、硫黄換算値で、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましい。
摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、二硫化モリブデン、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等のモリブデン系摩擦調整剤、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ヒドラジド(オレイルヒドラジド等)、セミカルバジド、ウレア、ウレイド、ビウレット等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。これら摩擦調整剤の含有量は、通常0.1〜5質量%である。
粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの重合体又は共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる)若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水添物、スチレン−ジエン共重合体の水素化物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等が挙げられる。
これらの粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、通常5,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は通常800〜5,000、好ましくは1,000〜4,000のものが、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は通常800〜500,000、好ましくは3,000〜200,000のものが用いられる。
またこれらの粘度指数向上剤の中でもエチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物を用いた場合には、特にせん断安定性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。上記粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができる。粘度指数向上剤の含有量は、通常潤滑油組成物基準で0.1〜20質量%である。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコール、及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は潤滑油組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005〜5質量%、金属不活性化剤では0.005〜1質量%、消泡剤では0.0005〜1質量%の範囲で通常選ばれる。
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油及び構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物、並びに必要に応じて用いられる各種添加剤の選択によって、組成物中の硫黄含有量が0.3質量%以下、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下のロングドレイン性に優れた低硫黄潤滑油組成物とすることも可能である。
また、本発明の潤滑油組成物のロングドレイン性を高め、排ガス後処理装置への悪影響を極力軽減するためには、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物及びその他金属を含有する添加剤やその含有量の最適化によって、組成物の硫酸灰分を1.0質量%以下とすることが好ましく、0.8質量%以下とすることがより好ましく、0.6質量%以下とすることがより好ましく、0.5質量%以下とすることが特に好ましい。ここで、硫酸灰分とは、JIS K 2272の5.「硫酸灰分の試験方法」に規定される方法により測定される値を示し、主として金属含有添加剤に起因するものである。
本発明の潤滑油組成物は、ロングドレイン性(酸化安定性、塩基価維持性、高温清浄性、及びNOxに対する耐性)に優れるものである。そのため、二輪車、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関用潤滑油として好ましく使用することができ、低硫黄、低灰分のため、特に排ガス後処理装置を装着した内燃機関に好適である。また、低硫黄燃料、例えば、硫黄分が50質量ppm以下、さらに好ましくは30質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下のガソリンや軽油や灯油、あるいは硫黄分が1質量ppm以下の燃料(LPG、天然ガス、硫黄分を実質的に含有しない水素、ジメチルエーテル、アルコール、GTL(ガストゥリキッド)燃料等)を用いる内燃機関用潤滑油として特に好ましく使用することができる。
また、本発明の潤滑性組成物は、酸化安定性が要求されるような潤滑油、例えば、自動又は手動変速機等の駆動系用潤滑油、グリース、湿式ブレーキ油、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、軸受け油、冷凍機油等の潤滑油としても好適に使用することができる。