JP3841158B2 - 配向処理用ラビング布 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶パネルの製造工程で、液晶分子の配向を制御するラビング処理に用いられるラビング布に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
透過式の液晶表示装置に使用される液晶表示素子は、薄膜トランジスタからなる駆動素子(TFT)を形成したTFT基板と、カラーフィルタを形成したカラーフィルタ基板(以下CF基板と略称する)とを微小な間隔をあけて対向して配置し、その間隙に液晶を封入した構成である。TFT基板の表面には、画素電極としてパターン化されたITO電極が配置され、ITO電極の表面を覆うように配向膜が配置されている。一方、CF基板の表面には共通電極としてITO膜が配置され、ITO膜表面に配向膜が配置されている。これらTFT基板とCF基板は、配向膜同士が向かい合うように対向して配置され、両基板の配向膜は、いずれも封入される液晶と接触する。
【0003】
TFT基板とCF基板の配向膜には、液晶分子を配列させるために配向処理が施されている。配向処理方法としては、ラビング布で配向膜の表面を擦るラビング法が主に用いられている。ラビング布は通常、アルミやステンレスのローラの外周面に貼り付けられ、ローラを回転させながら外周面のラビング布を配向膜表面に接触させることにより、ラビング布で配向膜の表面を擦る。このように配向膜の表面にラビング処理を施すことにより、配向膜がラビング布で擦られた方向に液晶分子が配列し、均一な表示特性が得られる。
【0004】
ラビング布としては、一般的に、基布と繊維を起毛させたパイルからなるベルベットが用いられている。ラビング布用のベルベットは、パイルの太さや基布に使用する糸の太さを変えることによってパイル密度が調整され、また、基布からのカット位置によってパイル長さが調整されている。パイル部分に使用する繊維素材は、レーヨンやナイロンといった長繊維(フィラメント)を用いたものと、コットンのような短繊維を用いたものとが知られている。
【0005】
また、特開平7−2707098号公報には、アラミド繊維をラビング布に用いることが開示されている。また、特開平6−194662号公報には、繊維状タンパク質をラビング布に用いた配向膜の配向処理方法が開示されている。また、特開平6−194661号公報には、カゼインを材料としたラビング布を用いた配向膜の配向処理方法が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、パイルがレーヨン製のラビング布は、レーヨンの耐摩耗性が不十分であるという問題がある。すなわち、レーヨン製のラビング布は、ラビングの最中にパイルが摩耗して異物(以下、摩耗粉異物と呼ぶ)が発生しやすく、摩耗粉異物が配向膜表面に付着すると、液晶表示素子の対向する2枚のガラス基板面の間隔(液晶セルギャップ)が不均一になり、表示むらなどの不良が発生する。また、摩耗粉異物はラビング布に巻き込まれやすく、その状態で配向膜をラビングした場合、配向膜表面に傷を生じさせる。この傷は、液晶表示素子に白く光り抜けする部分を生じさせる原因となる。また、摩耗したラビング布は均一性に欠け、摩耗したまま用いるとラビング処理が不均一になり、液晶表示素子の表示ムラの原因となるため、早めに交換する必要がある。このように、レーヨン製のラビング布は、レーヨンの耐摩耗性が不十分であるという問題がある。
【0007】
一方、パイルがコットン製のラビング布は、パイルの耐摩耗性についてはレーヨンよりも若干改善される。これは、コットンもレーヨンも基本骨格はセルロースであるものの、コットンの方がレーヨンよりも分子量が大きく、材料強度が高いためである。しかし、コットンは天然の短繊維であるため、パイル糸は短繊維を紡績した紡績糸となり、パイル1本1本の太さは、パイル糸がフィラメントで構成されるナイロンやレーヨン等の合成繊維や半合成繊維と比較して太くなる。また、短繊維であるため、ラビングの最中に、コットンの短繊維が基板上に脱落しやすい。さらに、コットンは天然繊維であるため、産地の違い等により繊維そのものの品質のばらつきが合成繊維や半合成繊維より大きく、ラビング布のパイル均一性は、レーヨンやナイロンよりも低下する。このため、コットンのラビング布を用いた場合、ナイロンやレーヨン等の合成繊維や半合成繊維と比較して、液晶表示素子にラビング筋と呼ばれる筋状の輝度むらが発生しやすい。このように、コットン製のラビング布は、レーヨン製のラビング布と比較して、耐摩耗性が若干改善されるが、パイル糸が太い、パイルの均一性が低いという問題がある。
【0008】
また、パイルがナイロン製のラビング布は、一般にレーヨンやコットン製のラビング布よりも耐摩耗性に優れるとされ、摩耗粉異物の発生は、レーヨンやコットン製のラビング布よりも抑制される。しかしながら、ナイロン製のラビング布は、ラビング時に生じる静電気によりラビング布が高電圧に帯電するという問題がある。具体的には、ナイロン製のラビング布のラビング時の帯電圧は2000Vを越える高電圧となるため、これが基板とショートする時にTFT素子や配線を損傷する。さらに、ナイロン製のラビング布でラビング処理した配向膜は、液晶分子の配向規制力が弱く、液晶封入時に流動状配向が発生したり、均一に配向しても液晶の応答が遅く残像が発生し易い問題があった。このようにナイロン製のラビング布は、レーヨン製のラビング布と比較して、耐摩耗性は優れるが、帯電圧が高い、配向規制力が弱いという問題がある。
【0009】
また、特開平7−2707098号公報にはアラミド繊維を用いることにより、ラビング布のパイルの耐摩耗性を改善できると記載されているが、アラミド繊維は結晶化度が高く、引っ張り強度には優れるが、ラビング時にパイルが受けるせん断力には弱く、繊維が縦方向に裂ける傾向がある。このため、繊維が縦方向に裂けることにより、大量のフィブリルが脱落し、配向膜上の異物となるという問題がある。また、特開平6−194662号公報には、繊維状タンパク質を用いたラビング布に用いることが記載されているが、繊維状タンパク質は、絹や羊毛等であるため耐熱性に乏しく、レーヨンの熱分解温度(260から300℃)に対して、絹では65℃から25℃低く、羊毛に至っては170℃から130℃も低い。このため、ラビング時に発生する摩擦熱によって容易に変性し、ラビング布としては使用に耐えない。また、特開平6−194661号公報のようにカゼインを材料としたラビング布は、タンパク質であるカゼインが、ラビング時に発生する摩擦熱によって容易に変性するという問題がある。
【0010】
本発明は、耐摩耗性が高く、帯電性が低く、配向規制力が大きいという特性を兼ね備えたラビング布を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明によれば、以下のようなラビング布が提供される。
【0012】
すなわち、繊維を起毛させたパイル部を有し、
前記パイル部には、酢化度が45%以上である酢酸セルロースにより構成された繊維が含まれ、
前記繊維は捲縮が付与されたフィラメント加工糸であり、
0.48以上の動摩擦係数を有することを特徴とする配向処理用ラビング布である。
【0013】
【発明の実施の形態】
発明者らは、種々の繊維素材を用いてラビング布を試作し、鋭意検討の結果、パイル部分にアセテート繊維を用いることにより、配向規制力が大きく、耐摩耗性が高く、しかも、帯電性が低いという特性を有するラビング布が得られることを見いだした。以下、これについて具体的に説明する。
【0014】
図1のように、本実施の形態のラビング布2は、繊維を起毛させたパイル3とこれを固定する基布6とバックコート層7とを有する起毛布である。パイル3を構成するパイル糸には、アセテート繊維が含まれている。
【0015】
アセテート繊維は、酢酸セルロース製の繊維であり、下記化学式のように表される酢酸セルロース
[C6H7O2(OCOCH3)x(OH)3-x]n
(ただし、0<x≦3)
であって、繊維状に加工できるものであればどのような酢化度のものでもよいが、例えば、酢化度45%以上の酢酸セルロースを用いることができる。具体的には、セルローストリアセテート(三酢酸セルロース)や、セルロースジアセテート(二酢酸セルロース)を用いることができる。ここではアセテート繊維として、セルローストリアセテート(三酢酸セルロース)製の繊維(以下、トリアセテート繊維と称する)を用いる。
【0016】
本実施の形態では、アセテート繊維のフィラメントに仮撚り法により旋回性のある捲縮加工(らせん状の縮れ加工)を施こし、フィラメント加工糸としたものを用いる。
【0017】
パイル糸に含まれるアセテート繊維は、効果発現の観点から、パイル糸全体の20%以上であることが望ましい。例えば、アセテート繊維と他の繊維との混用でパイル3を構成することができる。また、ラビング時に配向膜に直接接触するパイル3の先端部分のみをアセテート繊維またはアセテート繊維の混用とすることもできる。本実施の形態では、パイル3のすべてがトリアセテート繊維で構成された、すなわち、100%トリアセテート製のパイル3を有する3種類のラビング布を作製した。3種類のラビング布の構成を表1のNo.1〜3に示す。 アセテート繊維の1本のフィラメントの太さは、1デニール以上5デニール以下が望ましく、本実施の形態では、3.75デニールのフィラメントを用いる。さらに太いフィラメントや細いフィラメントを選択することもできる。但し、フィラメントの太さを0.5デニール以下にした場合、パイル3はほとんど起毛しないため、フィラメントを樹脂加工したりパイル保持用の太い繊維を、アセテート繊維と混用してパイル3を構成する等の処理が必要となる。
【0018】
製織時に、パイル3を構成するための糸として用いられるパイル糸は、上記フィラメントを所定の本数撚り合わせたものを用いる。本実施の形態では、フィラメントの太さが3.75デニールのトリアセテート繊維を20本撚ったものをパイル糸としたラビング布(表1のNo.1)と、太さ3.75デニールのトリアセテート繊維を20本撚ったものをパイル糸としたラビング布(表1のNo.2)と、太さ3.75デニールのトリアセテート繊維を20本撚ったものをパイル糸としたラビング布(表1のNo.3)の3種類を作製した。
【0019】
【表1】
【0020】
また、ラビング布の布組織は、起毛布であればよく、パイルを構成するパイル糸が経糸となるたてパイル組織でも、緯糸となるよこパイル組織であってもよい。本実施の形態では、表1のNo.1およびNo.2のラビング布の布組織をベルベットとした。表1のNo.3のラビング布の布組織は、編物組織である経編みのトリコットのパイル部分をカットし起毛したものとした。このほかに、モケット、ダブルラッセル丸編みのシンカーパイルのループをシャーリングしたものなどが使用できる。
【0021】
パイル3を固定する基布6を構成する地糸は、ラビング時に直接配向膜を擦る部分ではないので、パイル糸を固定できる素材であればよいが、本実施の形態の表1のNo.1およびNo.2のラビング布では、経糸および緯糸のいずれもポリエステル製の繊維を用いた。なお、ポリエステル繊維の他に酢酸セルロース繊維、綿、レーヨン、ポリアミド、ポリエステル、アクリル、アラミド繊維が使用できる。また、地糸の太さも、パイル糸を固定できる太さであればよい。本実施の形態では、表1のNo.1、No.2のいずれのラビング布も、地糸の経糸として、50デニールのポリエステルフィラメント糸を2本撚り合わせ100デニールとしたものを用い、地糸の緯糸として、75デニールのポリエステルフィラメント糸を追撚としたものを使用した。
【0022】
また、パイル3を構成するトリアセテート繊維(フィラメント)の密度は、1平方センチあたり、少なくとも5000本以上であることが望ましく、好ましくは10000本以上であることが望ましい。1平方センチあたりのフィラメント本数が5000本より少なくなると、配向膜を擦るフィラメント本数が著しく少なくなるため、ラビング処理が不均一となり、適切な配向処理はできなくなる。フィラメント本数の上限はラビング布が作製可能な範囲により決まる。フィラメントの太さにも依るが、1平方センチあたり約500000本程度が織り込めるフィラメント数の上限となる。本実施の形態では、表1のNo.1〜3のいずれのラビング布も、パイル3のフィラメント密度が1平方センチあたり約15000本になるように織布し、パイル3のフィラメントをやや傾斜させた後、おおよそ一定方向に並ぶように配置した。
【0023】
また、基布6からパイル3の先端までの布厚さは、パイル3のフィラメントが傾斜した状態の厚さで、1.2mm以上3.5mm以下にすることができるが、本実施の形態では、1.8mm〜2.2mm(表1のNo.1〜3)とした。また、布の厚さの布の面内方向のばらつきは、公差0.3mm以内にすることが望ましい。
【0024】
つぎに、本実施の形態のラビング布の製造方法について説明する。
【0025】
まず、加工を施していない所定の太さの生糸トリアセテート繊維(フィラメント)を、表1の記載の本数束ね、仮撚り法により捲縮加工した。具体的には、仮撚り加工機で仮撚りした状態で、乾熱あるいは湿熱で処理して捲縮を固定した後、解撚することにより、パイル糸を作製した。これにより、パイル糸を構成するトリアセテート繊維は1本1本のフィラメントがらせん状に捲縮した。
【0026】
つぎに、パイル糸に、ポバールを主成分とした通常のベルベットに用いられる糊剤を、スラッシャで糊付けした。糊付けしたパイル糸と、上述したポリエステル地糸とを用いて、ベルベット組織を製織した。ベルベット組織は、経地糸1本に対しパイル糸2本を並べ、3本の緯地糸でパイル糸を固定する公知のファストパイルと呼ばれる組織とした。このとき、パイル3のトリアセテート繊維のフィラメント密度が、上述のように1平方センチあたり約15000本になるように織布した。
【0027】
織布した組織のパイル糸を切断して起毛し、パイル糸を所定の厚さに切りそろえる剪毛を行った後、糊抜き、精錬(洗浄等)を行い、乾燥後パイル糸をブラッシングした。これにより、複数本のトリアセテートフィラメントを撚り合わせることにより構成されていたパイル糸がほぐれて、フィラメント1本1本が起毛したパイル3を得ることができる。この後、パイル3のフィラメントをやや傾斜させたのち、おおよそ一定方向に並ぶように配置した。
【0028】
つぎに、基布6の裏面に樹脂を塗布してベーキングすることにより、バックコート層7を形成する。このバックコート処理は、ラビング時にパイル部分の繊維の脱落を防止するとともに、図1のようにラビングローラ1にラビング布を貼り付ける際に皺が寄るのを防止するために行う処理であり、ベルベットをラビング布として使用するために必要な工程である。バックコート層7を形成する樹脂としては、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂等を使用することができる。今回はアクリル系樹脂の原料を主成分とした樹脂原料を、ナイフコーターで塗布し基布6の裏面に塗布しベーキングすることにより、アクリル系樹脂のバックコート層7を形成した。
【0029】
このように、本実施の形態では、パイル糸として、フィラメントを所定の本数仮撚り後、加熱したものを用いることにより、所望のフィラメント密度で、1本1本の起毛した構成のパイル3を有するラビング布を作製することができた。これは、フィラメントを束ねて仮撚り後、加熱することにより、フィラメントに捲縮を固定した状態のパイル糸を用いて、製織したためである。例えば、仮撚り加工のみを行い、熱による捲縮の固定を施さないパイル糸を用いた場合、布の作製自体は可能であるが、ベルベット生産工程に存在する熱工程(例えば基布の裏樹脂加工など)でパイル糸に捲縮が発現して収縮するとともに、繊維密度が増大するために、フェルト状になる。よって、ラビング布として好適な、フィラメントの1本1本が起毛した構成のパイル3を形成するためには、本実施の形態のようにフィラメントを仮撚り後、加熱して、捲縮を固定したパイル糸を用いることが望ましい。
【0030】
また、比較例として、レーヨン、コットン、ポリノジック、ポリエステル、ナイロン、ビニロンについても、ほぼ同様の手法により、これらの繊維100%からなるパイル3のラビング布を作製した。ただし、コットンおよびポリノジックについては、フィラメントではなく、紡績糸を用いた。表1のNo.4〜9に比較例のラビング布の作製条件を示す。
【0031】
(評価1:配向規制力)
次に、本実施の形態のトリアセテート繊維を用いた3種類のラビング布(表1のNo.1〜3)ならびに、比較例のラビング布(表1のNo.4〜9)について、液晶分子の配向規制力の評価を行った。
【0032】
まず、ラビング処理対象である配向膜4付き基板5を作製した(図1参照)。ここでは、基板5として10cm角のガラス基板を用い、この基板5の上に、配向膜4として、ポリイミド製配向膜を備えたものを用いる。ポリイミド製配向膜は、ポリイミド前駆体溶液を基板5上に塗布し、200℃〜300℃でベークすることにより形成した。
【0033】
一方、本実施の形態および比較例のラビング布2を、それぞれ、φ50mmのステンレス製ラビングローラ1に両面テープで張り付け、ラビング装置に取り付けた。
【0034】
ラビング装置によりラビングローラ1を回転数1500rpmで回転させながら、ラビング布2のパイル3を配向膜4に近づけ、パイル3を先端から厚さ0.5mmの部分まで配向膜4の表面に押しつけた。この状態を押し込み量0.5mmと呼ぶ。この状態で、基板5を搭載したステージを移動速度30mm/secで一定方向に移動させ、ラビング処理を行った。このラビング処理を、1種類のラビング布につき2枚の基板5に対して行った後、2枚の基板5をラビング処理方向がアンチパラレル(反平行)となるように配向膜4を向かい合わせてセルを形成した。次いで、2枚の基板5の間隙に液晶を封入した。最終的な液晶セルのギャップは、約5μmとした。
【0035】
作製した液晶セルを2枚の偏光板の間に挟み、光を透過して観察し、液晶の配向状態を観察した。その結果、本実施の形態のトリアセテート製の3種のラビング布(表1のNo.1〜3)ならびに、比較例のレーヨン製、コットン製のラビング布(表1のNo.5,6)は、ラビング処理した液晶セルが均一に配向しており、十分な配向規制力が得られていた。これに対し、ポリエステル製、ナイロン製、ビニロン製のラビング布(表1のNo.4,8,19)は、ラビング処理した液晶セルに、液晶封入時に液晶が流動した跡が残り、液晶の配向規制力が弱いことが判明した。
【0036】
また、本実施の形態のトリアセテート製の3種のラビング布(表1のNo.1〜3)ならびに、比較例のポリノジック製のラビング布(表1のNo.7)は、比較例のレーヨン製およびコットン製のラビング布(表1のNo.5,6)と比較して、ラビング処理した液晶セルの配向の均一性が特に大きく、配向規制力が大きかった。
【0037】
(評価2:動摩擦係数)
また、発明者らは、ラビング処理が、ラビング布2のパイル3と配向膜4との摩擦を利用して液晶の配向規制を行う処理であることから、ラビング布2と配向膜4との摩擦力と配向規制力とに相関があるではないかと推測し、本実施の形態および比較例のラビング布と配向膜との動摩擦係数を測定した。測定は、新東科学(株)製の表面性測定機(TYPE14DR)を用いて行った。
【0038】
この表面性測定機は、図3に示すように、測定対象であるラビング布を取り付けるヘッド部分11と、支点13,14を中心にヘッド部分11とのバランスを取るバランス用荷重15と、基板5を固定するステージ9と、荷重変換器16とを含む。ヘッド部分11には、φ50mmのローラ1と同じ曲率(R=25mm)を有する治具10が取り付けられており、この治具10に30mm角に切り出した測定対象のラビング布2を両面テープで貼り付けた。ラビング布2の取付方向は、基板5の移動方向に対し、たて糸(経糸)が平行になるようにした。ラビング布2と基板5とを接触させ、ヘッド部分11上に搭載した加重用おもり12により垂直荷重50gをかけ、ステージ9の移動速度5mm/secで基板5を移動させたときのラビング布2と基板5との摩擦によって、ヘッド部分11が引きずられる力を荷重変換器16を通してパソコン(不図示)で解析した。その結果を、図2に示す。
【0039】
図2からわかるように、本実施の形態のトリアセテート繊維を用いた3種のラビング布2(No.1〜3)および、レーヨン製、コットン製、ポリノジック製の比較例のラビング布(No.5,6,7)は、動摩擦係数が0.48以上あり、ナイロン、ポリエステルでは0.31以下であった。これら動摩擦係数が0.48のラビング布は、上記液晶分子の配向状態の観察から配向規制力が十分であると判定されたラビング布と一致する。また、動摩擦係数0.48以上のラビング布のうち、本実施の形態のトリアセテート繊維を用いた3種のラビング布2(No.1〜3)およびポリノジック製のラビング布(No.7)は、動摩擦係数が0.53以上あり、特に動摩擦係数が大きかった。これらは、上記液晶分子の配向状態の観察から、特に配向規制力が大きいと判定されたラビング布と一致する。これらのことから、配向規制力と動摩擦係数には、正の相関があり、動摩擦係数が0.53以上のラビング布を用いることにより、従来よりも大きな配向規制力が得られることがわかった。
【0040】
(評価3:耐摩耗性)
つぎに、本実施の形態のトリアセテート繊維を用いた3種のラビング布(表1のNo.1〜3)、ならびに、比較例のレーヨン製及びコットン製のラビング布(表1のNo.5、6)について、摩耗性試験を行った。
【0041】
まず、試験対象のラビング布2を図1のように、φ50mmのステンレス製ローラ1に両面テープで張り付けた後、ラビング装置にそれぞれ取り付け、表面にCr層を形成した10cm角のガラス基板(洗浄済みのもの)を、ローラ回転数1500rpm、パイル部先端のCr層への押し込み量0.5mm、ステージ移動速度30mm/secで連続200回ラビングした。ラビング後のCr基板表面の外観を光学顕微鏡で観察した画像を、CCDカメラで取り込み、異物付着量を測定した。その結果、本実施の形態のトリアセテート製のラビング布(表1のNo.1〜3)の異物付着量が最も少なく、次いでコットン製、レーヨン製ラビング布の順で異物付着量は増大した。これを、図4に示す。なお、図4において、トリアセテートとして示した異物付着量は、本実施の形態の3種のラビング布(No.1〜3)についての測定結果の平均で示している。
【0042】
図4のように、本実施の形態のトリアセテート製のラビング布は、比較例のレーヨン製やコットン製のラビング布と比較して、耐摩耗性が高く、基板への異物付着量が格段に少ないことがわかった。
【0043】
(評価4:帯電性)
ラビング時に発生する静電気は、液晶基板に搭載されているTFT素子を破壊するほどのポテンシャルがあるため、出来るだけ発生しない方が良い。一般的な繊維学上では、トリアセテート製繊維は、レーヨンやコットンの繊維と比較して、静電気が発生しやすいとされている。そこで、本実施の形態のトリアセテート製のラビング布(表1のNo.1〜3)、ならびに、比較例のレーヨン製及びコットン製、ナイロン製のラビング布(表1のNo.5、6、8)について、ラビング時のローラ帯電圧を測定した。
【0044】
まず、前述の評価1の配向規制力の測定時と同じ条件で、図1のように基板5上の配向膜4をラビング処理した。ただし、ガラス基板は、コーニング社製ガラス基板を使用し、配向膜4を形成するポリイミド前駆体溶液としては、日産化学製SE−7492を使用した。ラビング条件は、評価1の配向規制力の時と同じく、ローラ回転数1500rpm、パイル部先端の基板表面への押し込み量0.5mm、ステージ移動速度30mm/secである。
【0045】
ラビング処理中の布表面電位を測定したところ、図5に示したように、比較例のナイロン製ラビング布(表1のNo.8)は2000V以上の帯電圧を示したのに対し、本実施の形態のトリアセテート製のラビング布(表1のNo.1,2,3)は、比較例のレーヨン製、コットン製ラビング布(No.5,6)と同等の500Vより小さい帯電圧を示した。なお、図5のトリアセテート製のラビング布の帯電圧は、表1のNo.1,2,3のラビング布それぞれについて測定した帯電圧の平均を示している。また、本実施の形態のトリアセテート製ラビング布(表1のNo.1,2,3)でTFTを表面に備えた基板をラビングしたところ、特にTFT素子の破壊は観察されなかった。
【0046】
このように、本実施の形態のトリアセテート製のラビング布の帯電圧は、従来より実用されたきた帯電圧の低いレーヨン製、コットン製と同等であり、基板上のTFT素子を破壊することなく、実用レベルであることがわかった。なお、ここでは、トリアセテート製ラビング布を使用したが、ジアセテート繊維によりパイル3を構成することにより、帯電圧がより小さくなることが期待できる。
【0047】
上述してきたように、本実施の形態では、ラビング布2のパイル3部分にアセテート繊維を用いることにより、配向規制力が大きく、耐摩耗性が高く、しかも、帯電性が低いという特性を持ち合わせたラビング布を提供することができる。よって、本実施の形態のアセテート製のラビング布を用いることにより、従来のレーヨン製ラビング布のように、配向規制力が大きく帯電性が低いが、耐摩耗性が低いという特性を改善することができ、摩耗による異物の発生が少なく、しかも、大きな配向規制力が得られ、静電気によるTFT素子の破壊も生じにくいラビング処理を行うことができる。
【0048】
なお、一般的にはトリアセテート繊維は、耐摩耗性があまり大きくなく、しかも、帯電圧が大きいとされているのに対し、本実施の形態のトリアセテート繊維を用いたラビング布は、上述の評価実験により、耐摩耗性が大きく、しかも、帯電圧が低いという特性が得られた。その理由の詳細は不明であるが、パイル3を構成するトリアセテート繊維に捲縮を施しているため、パイルが基板に点接触し、かつパイルがバネのように伸縮する効果があるため摩耗しにくく、しかも、パイルのフィラメント同士が多点で点接触するため、放電しやすいのではないか推測している。
【0049】
なお、本実施の形態では、フィラメントに仮撚り法により旋回性のある捲縮加工を施しているが、加工方法としては、仮撚り法に限らず、加撚機を用いて強撚し、加熱して撚りを熱セット後、解撚する方法により旋回性のある加工を行う方法や、フィラメントを擦過することにより緩やかなコイル状の加工を行う擦過法を用いることも可能である。また、フィラメントに与える加工形状としては、旋回性のある形状に限定されるものでなく、非直線状の形状であればよく、例えば、ジグザグ状等の加工形状のフィラメントを用いることが可能である。具体的には、フィラメントをボックス内に座屈させながら押し込んで熱固定する押し込み法や、2個の歯車の間にフィラメントを通して歯形を与え熱固定するギア法等や、フィラメントを一旦編み込んで熱固定した後、ときほぐすニットデニット法により加工したフィラメントを用いることが可能である。
【0050】
また、上述の実施の形態では、セルロースの水酸基の少なくとも一部がアセチル基に置換された酢酸セルロースの繊維により、パイルを構成したラビング布を構成したが、本発明は、これに限られるものではなく、パイル部分に用いる繊維がセルロース誘導体の繊維を含むものであればよい。これらセルロース誘導体の繊維を用いる場合も、上述した酢酸セルロース繊維を同様に、繊維に捲縮加工を施した加工糸とすることが可能である。
【0051】
例えば、セルロース誘導体としては、セルロースの水酸基にエステル結合した化1のセルロースエステル誘導体を用いることができる。
【0052】
【化1】
【0053】
(ただし、化1において、R1, R2, R3は、それぞれ、炭素数1〜18の飽和炭化水素基、炭素数2〜18の不飽和炭化水素基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜18のフルオロアルキル基、炭素数2〜18のヒドロキシアルキル基、炭素数2〜18のシアノアルキル基、炭素数1〜18のカルボキシアルキル基、アリール基とアルキル基とを共に有する炭素数6〜25の有機基、ヘテロ原子を含む炭素数5〜25のアリール基、ヘテロ原子を含むアリール基とアルキル基とを共に有する炭素数6〜25の有機基、および、ヘテロ原子を含む炭素数3〜8のシクロアルキル基のうちのいずれかである。具体的には、R1, R2, R3は、それぞれ、メチル、エチル、プロピル、ビニル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、トリフルオロメチル、テトラフルオロエチル、エトキシエチル、オキシエチル、シアンエチル、カルボキシメチル、カルボキシエチル、フェニル、フェニルメチル、トリル、ナフチル、ナフチルメチル、ピリジル、ピリジルメチル、ピリミジル、ピリミジルメチル、キノリル、キノリルメチル、イミダゾリル、イミダゾリルメチル、フリル、および、チエニルなどのうちのいずれかとすることができる。
【0054】
また、セルロース誘導体として、セルロースの水酸基にエーテル結合した化2のセルロースエーテル誘導体を用いることができる。
【0055】
【化2】
【0056】
ただし、化2において、R4, R5, R6は、それぞれ、炭素数1〜18の飽和炭化水素基、炭素数2〜18の不飽和炭化水素基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜18のフルオロアルキル基、炭素数2〜18のヒドロキシアルキル基、炭素数2〜18のシアノアルキル基、炭素数1〜18のカルボキシアルキル基、アリール基とアルキル基とを共に有する炭素数6〜25の有機基、ヘテロ原子を含む炭素数5〜25のアリール基、ヘテロ原子を含むアリール基とアルキル基とを共に有する炭素数6〜25の有機基、および、ヘテロ原子を含む炭素数3〜8のシクロアルキル基のうちのいずれかである。具体的には、R4, R5, R6は、それぞれ、メチル、エチル、プロピル、ビニル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、トリフルオロメチル、テトラフルオロエチル、エトキシエチル、オキシエチル、シアンエチル、カルボキシメチル、カルボキシエチル、フェニル、フェニルメチル、トリル、ナフチル、ナフチルメチル、ピリジル、ピリジルメチル、ピリミジル、ピリミジルメチル、キノリル、キノリルメチル、イミダゾリル、イミダゾリルメチル、フリル、および、チエニルなどのうちのいずれかとすることができる。
【0057】
また、上記セルロース誘導体として、セルロースの水酸基の少なくとも一部に硝酸基を導入したセルロース誘導体を用いることができる。
【0058】
また、上記セルロース誘導体として、セルロースの水酸基の少なくとも一部に硫酸基を導入したセルロース誘導体を用いることができる。
【0059】
また、上記セルロース誘導体として、セルロースの水酸基の少なくとも一部にリン酸基を導入したセルロース誘導体を用いることができる。
【0060】
また、上記セルロース誘導体として、セルロースの水酸基部分をウレタンにした化3のウレタン誘導体を用いることができる。
【0061】
【化3】
【0062】
ただし、化3において、R7, R8, R9は、それぞれ、炭素数1〜18の飽和炭化水素基、炭素数2〜18の不飽和炭化水素基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜18のフルオロアルキル基、炭素数2〜18のヒドロキシアルキル基、炭素数2〜18のシアノアルキル基、炭素数1〜18のカルボキシアルキル基、アリール基とアルキル基とを共に有する炭素数6〜25の有機基、ヘテロ原子を含む炭素数5〜25のアリール基、ヘテロ原子を含むアリール基とアルキル基とを共に有する炭素数6〜25の有機基、および、ヘテロ原子を含む炭素数3〜8のシクロアルキル基のうちのいずれかにすることができる。具体的には、R7, R8, R9は、それぞれ、メチル、エチル、プロピル、ビニル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、トリフルオロメチル、テトラフルオロエチル、エトキシエチル、オキシエチル、シアンエチル、カルボキシメチル、カルボキシエチル、フェニル、フェニルメチル、トリル、ナフチル、ナフチルメチル、ピリジル、ピリジルメチル、ピリミジル、ピリミジルメチル、キノリル、キノリルメチル、イミダゾリル、イミダゾリルメチル、フリル、および、チエニルなどのうちのいずれかとすることができる。
【0063】
【発明の効果】
上述してきたように、本発明によれば、耐摩耗性が高く、帯電性が低く、配向規制力が大きいという特性を兼ね備えたラビング布を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態のラビング布2を用いて、基板5にラビング処理する工程を説明する説明図である。
【図2】図2は、本実施の形態のトリアセテートを用いたラビング布2と比較例のラビング布について、動摩擦係数を測定した結果を示すグラフである。
【図3】図3は、図2の動摩擦係数の測定に用いる装置の概略構成を示す説明図である。
【図4】図4は、本実施の形態のトリアセテートを用いたラビング布2と比較例のラビング布について、基板の異物付着量を測定した結果を示すグラフである。
【図5】図5は、本実施の形態のトリアセテートを用いたラビング布2と比較例のラビング布について、ラビング時の帯電圧を測定した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1…ラビングローラ、2…ラビング布、3 …パイル、4…配向膜、5…基板、6…基布、7…バックコート、8…両面テープ、9…ステージ、10…曲率治具、11…ヘッド、12…荷重用おもり、13,14…支点、15…バランスおもり、16…加重変換器。
Claims (9)
- 繊維を起毛させたパイル部を有し、
前記パイル部には、酢化度が45%以上である酢酸セルロースにより構成された繊維が含まれ、
前記繊維は捲縮が付与されたフィラメント加工糸であり、
0.48以上の動摩擦係数を有することを特徴とする配向処理用ラビング布。 - 請求項1記載の配向処理用ラビング布において、
前記酢酸セルロースは、三酢酸セルロースであることを特徴とする配向処理用ラビング布。 - 請求項1記載の配向処理用ラビング布において、
前記酢酸セルロースは、二酢酸セルロースであることを特徴とする配向処理用ラビング布。 - 請求項1乃至3のいずれかに記載の配向処理用ラビング布において、
前記捲縮は旋回性のある捲縮であることを特徴とする配向処理用ラビング布。 - 請求項1乃至4のいずれかに記載の配向処理用ラビング布において、
前記パイル部に含まれる前記フィラメント加工糸は、その1本1本が捲縮していることを特徴とする配向処理用ラビング布。 - 請求項5に記載の配向処理用ラビング布において、
前記フィラメント加工糸は、前記パイル部を固定する基布に対して、その1本1本が起毛し且つ傾斜して一定方向に並ぶことを特徴とする配向処理用ラビング布。 - 請求項1乃至6のいずれかに記載の配向処理用ラビング布であって、
0.53以上の前記動摩擦係数を有することを特徴とする配向処理用ラビング布。 - 酢酸セルロース繊維を撚った後、該酢酸セルロース繊維を加熱してその捲縮を固定させ、
該捲縮が固定された該酢酸セルロース繊維をパイル糸として、起毛布を作製する工程を含み、
前記酢酸セルロース繊維の各々は酢化度が45%以上であることを特徴とするラビング布の製造方法。 - 請求項8に記載のラビング布の製造方法において、
前記酢酸セルロース繊維を前記捲縮の固定後に解撚して、その各々を捲縮したフィラメントにすることを特徴とするラビング布の製造方法。
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