JP3816846B2 - ビニルアルコール系重合体およびその製造方法 - Google Patents
ビニルアルコール系重合体およびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はビニルアルコール系重合体に関する。さらに詳しくは、本発明は、ビニルアルコール系重合体の水溶液を調製する際に、水酸化ナトリウムなどのアルカリや酸を添加しなくても水への溶解が可能である、水溶液から得られる皮膜が耐水性に優れる、無機物と混合して皮膜を形成させた場合に、無機物とのバインダー力に優れるだけでなく、皮膜が耐水性に優れているなどの特長を備えたシリル基を含有するビニルアルコール系重合体に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリビニルアルコールで代表されるビニルアルコール系重合体(以下、ビニルアルコール系重合体を「PVA」と略記することがある)は水溶性の合成高分子として知られており、合成繊維ビニロンの原料として、あるいは紙加工、繊維加工、接着剤、乳化重合および懸濁重合用の安定剤、無機物のバインダー、フィルムなどの用途に広範囲に用いられている。PVAは他の合成高分子と比べて強度特性および造膜性が特に優れており、その特性を生かして、紙の表面特性を改善するためのクリアーコーティング剤として、あるいは顔料コーティングにおけるバインダーとして重用されている。
PVAの用途を拡大するためにPVAを変性する試みが種々なされており、そのうちの1つとして、ケイ素(シリル基)含有PVAが挙げられる。シリル基含有PVAは、耐水性、ならびに無機物に対する反応性および接着性に特に優れている。シリル基含有PVAの製造法として、例えば、有機溶媒にトリエチルクロルシラン等のシリル化剤を溶解させた後、粉末状のPVAを添加し、攪拌下に反応させるという方法が知られている(特開昭55−164614号公報)。しかしながら、この方法は、均一な変性物を得るのが困難である、PVAの製造とは別にPVAをシリル化剤と反応させる必要がある等の欠点を有しており、工業的な観点から実施しうる方法であるとは言い難い。
【0003】
これらの問題を解決したシリル基含有PVAの製造法として、例えば、ビニルトリエトキシシラン等のビニルアルコキシシランと酢酸ビニルとの共重合体をけん化する方法(特開昭50−123189号公報)、シリル基を有するアクリルアミド誘導体と酢酸ビニル等のビニルエステルとの共重合体をけん化する方法(特開昭58−59203号公報)、特定の置換基を有するシリル基を含有する単量体とビニルエステルとの共重合体をけん化する方法(特開昭58−79003号公報)、シリル基を有するアリル系単量体とビニルエステルとの共重合体をけん化する方法(特開平58−164604号公報)などが提案されている。
しかしながら、これらの方法で得られたシリル基含有PVAは、(a)ビニルアルコール系重合体の水溶液を調製する際に、水酸化ナトリウムなどのアルカリや酸を添加しなければ溶解できない場合がある、(b)調製した水溶液から得られる皮膜の耐水性が十分ではなく、また無機物を含有する皮膜を形成させた場合に、耐水性とバインダー力を同時に満足させることが困難である等の問題を有している。
イオン性親水基を導入したシリル基含有PVAが提案されており(特開昭59−182803号公報)、さらにシラノール基を側鎖に有するPVAが無機物と強い相互作用を有するとの報告がなされている[日本化学会誌、1994、(4)、365−370]が、このような変性PVAによっても、上記した(a)および(b)の問題が解決されたとは言い難い。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ビニルアルコール系重合体の水溶液を調製する際に、水酸化ナトリウムなどのアルカリや酸を添加しなくても水への溶解が可能であり、水溶液から得られる皮膜の耐水性に優れており、さらに無機物を含有する皮膜を形成させた場合に、皮膜が耐水性に優れており、無機物とのバインダー力を兼ね備えたシリル基を含有するビニルアルコール系重合体を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の課題を達成するために鋭意検討した結果、ある特定の要件を満足するシリル基を含有するビニルアルコール系重合体が、ビニルアルコール系重合体の水溶液を調製する際に、水酸化ナトリウムなどのアルカリや酸を添加しなくても水への溶解が可能である、水溶液から得られる皮膜が耐水性に優れる、無機物と混合して皮膜を形成させた場合に、無機物とのバインダー力に優れるだけでなく、皮膜が耐水性に優れているなどの特長を備えていることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記の一般式(1)
【化5】
(R1は炭素数1〜5のアルキル基であり、R2はアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、mは0〜2の整数である。)
で示されるシリル基を有する単量体単位を含有するビニルエステル系重合体をけん化することによって得られるビニルアルコール系重合体であって、下記式(I)、(II)および(III)を満足することを特徴とするビニルアルコール系重合体である。
20<P×S<370 ・・・(I)
200<P≦2400 ・・・(II)
0.9<Y<1.4 ・・・(III)
P:ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度
S:一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体単位の含有量(モル%)
Y:ビニルアルコール系重合体中の1,2−グリコール結合量(モル%)
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明のビニルアルコール系重合体は、上記したように、下記の一般式(1)
【化6】
(R1は炭素数1〜5のアルキル基であり、R2はアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、mは0〜2の整数である。)
で示されるシリル基を有する単量体単位を含有するビニルエステル系重合体をけん化することによって得られるビニルアルコール系重合体であって、下記式(I)、(II)および(III)を満足することが必要である。
20<P×S<370 ・・・(I)
200<P≦2400 ・・・(II)
0.9<Y<1.4 ・・・(III)
P:ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度
S:一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体単位の含有量(モル%)
Y:ビニルアルコール系重合体中の1,2−グリコール結合量(モル%)
【0007】
本発明のビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)はJIS−K6726に準じて測定される。すなわち、シリル基含有PVAをけん化度99.5モル%以上に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求めることができる。
P=([η]×1000/8.29)(1/0.62)
【0008】
本発明のビニルアルコール系重合体において、シリル基を有する単量体単位の含有量S(モル%)は、けん化する前のビニルエステル系重合体のプロトンNMRから求められる。ここでけん化する前のビニルエステル系重合体のプロトンNMRを測定するに際しては、該ビニルエステル系重合体をヘキサン−アセトンにより再沈精製して重合体中から未反応のシリル基を有する単量体を完全に取り除き、次いで90℃減圧乾燥を2日間行った後、CDCl3溶媒に溶解して分析に供する。
【0009】
本発明のビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)とシリル基を有する単量体単位の含有量(S)の積(P×S)が20<P×S<370の関係を満足する必要がある。P×Sは、好ましくは40<P×S<360、さらに好ましくは80<P×S<350の関係を満足するのがよい。P×Sが20以下の場合には、シリル基含有PVAから無機物を含有する皮膜を形成させた場合に、十分な耐水性やバインダー力が発揮されず、P×Sが370以上の場合には、シリル基含有PVAの水溶液を調製する際にアルカリや酸を添加しなければ溶解できない場合がある。
【0010】
上記式(II)において、P(ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度)が200以下の場合には、PVAが本来有する皮膜強度などの特長が失われる傾向がある。また、Pが2400より大きい場合には、水溶液の粘度安定性が低下し、さらに無機物を含有する皮膜を形成させた場合に、無機物とのバインダー力が低下することがある。
【0011】
本発明のビニルアルコール系重合体に含まれる1,2−グリコール結合含有量(Y)は、たとえばビニレンカーボネートを共重合させるか、または重合温度を変化させることによって調節することができる。ビニルアルコール系重合体中の1,2−グリコール結合含有量はプロトンNMRのピークから求めることができる。
ここでビニルアルコール系重合体のプロトンNMR測定に際しては、該重合体をけん化度99.9モル%以上に再けん化した後、メタノールにより十分に洗浄する。次いで該重合体を90℃で2日間減圧乾燥した後、DMSO−d6に溶解し、トリフルオロ酢酸を数滴加えて80℃でプロトンNMRを測定する。ビニルアルコール系重合体に含まれる1,2−グリコール結合含有量は、ビニルアルコール単位のメチンに由来する3.2〜4.0ppmのピーク(積分値α)と、1,2−グリコール結合の1つのメチンに由来する3.25ppmのピーク(積分値β)とから、次式にしたがって算出することができる。
1,2−グリコール結合含有量(モル%)=100×β/α
【0012】
本発明のビニルアルコール系重合体は下記式(IV)を満足し、かつ4%水溶液にした時のpHが4〜8であることが好ましい。
0.1/100≦(A−B)/(B)≦50/100 ・・・(IV)
A:ビニルアルコール系重合体を灰化した後、ICP発光分析により求められるケイ素原子の含有量(ppm)
B:ビニルアルコール系重合体を水酸化ナトリウムを含有するメタノールで洗浄し、次いでメタノールによるソックスレー抽出により洗浄し、乾燥したのち灰化し、ICP発光分析により求められるケイ素原子の含有量(ppm)
【0013】
(A−B)/(B)の好ましい範囲は0.1/100〜50/100であり、さらに好ましい範囲は0.3/100〜25/100であり、特に好ましい範囲は0.4/100〜20/100である。(A−B)/(B)が50/100を超えると、シリル基含有PVAの水溶液の粘度安定性が低下したり、あるいは無機物を含有する水溶液を調製する際に均一な溶液を得ることができないことがあり好ましくない。また、(A−B)/(B)が0.1/100に満たない場合には、無機物を含有する皮膜を形成させた場合に、耐水性および無機物とのバインダー力が低下することがあり、さらに(A−B)/(B)が0.1/100に満たないビニルアルコール系重合体はその製造の際の洗浄にコストがかかるため現実的ではない。
ここで、上記ケイ素原子の含有量(B)を求めるにあたり、ビニルアルコール系重合体の標準的な洗浄方法は、まず、ビニルアルコール系重合体1重量部に対して、ビニルアルコール系重合体のビニルアルコール単量体単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように、水酸化ナトリウムを含有するメタノール溶液を10重量部添加して1時間煮沸した後、ろ別する操作を5回繰り返し、次いで、メタノールによるソックスレー抽出を1週間行う方法である。上記洗浄方法において、水酸化ナトリウムを含有するメタノールによる洗浄操作およびメタノールによるソックスレー抽出は、ビニルアルコール系重合体中のケイ素原子の含有量がほぼ変化しなくなるまで行われるものであり、この条件が満たされる範囲において、水酸化ナトリウムを含有するメタノールによる洗浄操作回数およびメタノールによるソックスレー抽出期間は適宜増減してもよい。
【0014】
ビニルアルコール系重合体を灰化した後、ICP発光分析により求められるケイ素原子の含有量(A)は、ビニルアルコール系重合体中に含まれる全てのケイ素原子の含有量を示すと考えられる。また、ビニルアルコール系重合体を水酸化ナトリウムを含有するメタノールで洗浄し、次いでメタノールによるソックスレー抽出により洗浄し、乾燥したのち灰化し、ICP発光分析により求められるケイ素原子の含有量(B)は、ビニルアルコール系重合体の主鎖に直接組み込まれたシリル基含有単量体に由来するケイ素原子の含有量を示すと考えられる。ケイ素原子の含有量(B)を求めるに当たり、ビニルアルコール系重合体は水酸化ナトリウムを含有するメタノールで洗浄され、その際にシロキサン結合(−Si−O−Si−)が切断されるので、ケイ素原子の含有量(B)は、ビニルアルコール系重合体の主鎖に直接組み込まれたシリル基含有単量体以外のシリル基含有単量体が取り除かれた状態でのケイ素原子の含有量を示していると考えられる。したがって、上記の関係式0.1/100≦(A−B)/(B)≦50/100における(A−B)は、ビニルアルコール系重合体の主鎖に直接導入されていないシリル基を有する単量体単位に由来するシリル基の含有量を示していると考えられる。
【0015】
ビニルアルコール系重合体における(A−B)/(B)の値が大きい場合には、ビニルアルコール系重合体に余剰のシリル基を有する単量体単位が多く含まれていることを意味しており、ビニルアルコール系重合体における(A−B)/(B)の値が小さい場合には、ビニルアルコール系重合体の主鎖に直接導入されていない、余剰のシリル基を有する単量体単位の量が少ないことを意味している。(A−B)/(B)の値が大き過ぎると、余剰のシリル基を含有する単量体単位と、主鎖に組み込まれたシリル基含有単量体単位との間でシロキサン結合(−Si−O−Si−)が形成されることにより、ビニルアルコール系重合体の分子の運動性が制限されるため、水溶液の粘度安定性が低下し、あるいは無機物との相互作用が大きくなり過ぎるために、例えば、無機物との混合水溶液を調製する際に均一な溶液を得ることができない場合があると考えられる。
【0016】
(A−B)/(B)の値が小さ過ぎると、余剰のシリル基を含有する単量体単位と、主鎖に組み込まれたシリル基含有単量体単位との間で形成されるシロキサン結合(−Si−O−Si−)の割合が少なく、ビニルアルコール系重合体に含まれるシリル基の量が低下して、ビニルアルコール系重合体と無機物との相互作用が小さくなり、無機物を含有する皮膜を形成させた場合に、耐水性および無機物とのバインダー力が低下すると考えられる。
【0017】
さらに、本発明のビニルアルコール系重合体は4%水溶液にした時のpHが4〜8であることが好ましい。pHのさらに好ましい範囲は4.5〜7であり、特に好ましい範囲は5〜6.5である。4%水溶液のpHが4に満たない場合には、ビニルアルコール系重合体水溶液の粘度安定性が低下することがあり、4%水溶液のpHが8を超える場合には、無機物を含有する皮膜を形成させた場合に、耐水性が低下することがあるため好ましくない。
【0018】
本発明のビニルアルコール系重合体に含まれるシリル基を表す一般式(1)において、R1は炭素数1〜5のアルキル基であり、R2はアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、mは0〜2の整数である。
ここで、R1で表される炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、tert−ペンチル基、イソペンチル基などが挙げられる。R2で表されるアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシロキシ基、オクチロキシ基、ラウリロキシ基、オレイロキシ基などが挙げられ、また、アシロキシル基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基などが挙げられる。これらのアルコキシル基またはアシロキシル基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、その置換基の例として、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシル基を挙げることができる。
【0019】
本発明のビニルアルコール系重合体は、ビニルエステル単量体と一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体とを共重合させ、得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより製造することができる。
【0020】
また、本発明のビニルアルコール系重合体は、ビニルエステル単量体と一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体とを2−メルカプトエタノール、n−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で共重合させ、得られるビニルエステル系重合体をけん化することによっても製造することができる。この方法により、チオール化合物に由来する官能基が末端に導入されたビニルアルコール系重合体が得られる。
【0021】
このようなビニルアルコール系重合体の製造に用いられるビニルエステル単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、とりわけ酢酸ビニルが好ましい。
【0022】
ビニルエステル単量体とのラジカル共重合に用いられる一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体として、下記の一般式(2)
【化7】
(式中、R1は炭素数1〜5のアルキル基であり、R2はアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、mは0〜2の整数であり、nは0〜4の整数である。)
または下記の一般式(3)
【化8】
(式中、R1は炭素数1〜5のアルキル基であり、R2はアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、R3は水素原子またはメチル基であり、R4は水素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、R5は炭素数1〜5のアルキレン基であるかまたは酸素原子もしくは窒素原子を含む2価の炭化水素基であり、mは0〜2の整数である。)
で示される化合物を挙げることができる。
【0023】
上記一般式(2)および一般式(3)において、R1で表される炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、tert−ペンチル基、イソペンチル基などが挙げられる。R2で表されるアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシロキシ基、オクチロキシ基、ラウリロキシ基、オレイロキシ基などが挙げられ、また、アシロキシル基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基などが挙げられる。これらのアルコキシル基またはアシロキシル基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、その置換基の例として、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシル基を挙げることができる。また、R4で表される炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、tert−ペンチル基、イソペンチル基などが挙げられる。R5で表される炭素数1〜5のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、ジメチルエチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基などが挙げられ、また、酸素原子または窒素原子を含む2価の炭化水素基としては、−CH2CH2NHCH2CH2CH2−、−CH2CH2NHCH2CH2−、−CH2CH2NHCH2−、−CH2CH2N(CH3)CH2CH2−、−CH2CH2N(CH3)CH2−、−CH2CH2OCH2CH2CH2−、−CH2CH2OCH2CH2−、−CH2CH2OCH2−などが挙げられる。
【0024】
上記式(2)で示される単量体としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルジメチルメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン、アリルジメチルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルイソブチルジメトキシシラン、ビニルエチルジメトキシシラン、ビニルメトキシジブトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメトキシジヘキシロキシシラン、ビニルジメトキシヘキシロキシシラン、ビニルトリヘキシロキシシラン、ビニルメトキシジオクチロキシシラン、ビニルジメトキシオクチロキシシラン、ビニルトリオクチロキシシラン、ビニルメトキシジラウリロキシシラン、ビニルジメトキシラウリロキシシラン、ビニルメトキシジオレイロキシシラン、ビニルジメトキシオレイロキシシランなどが挙げられる。
上記式(2)においてnが1以上のシリル基を有する単量体とビニルエステル単量体を共重合させる場合には、得られるビニルエステル系重合体の重合度が低下する傾向がある。その点、ビニルトリメトキシシランは、ビニルエステル単量体と共重合させた場合に、得られるビニルエステル系重合体の重合度の低下を抑えることができるうえ、工業的な製造が容易で安価に入手できることから好ましく用いることができる。
【0025】
また、上記式(3)で示される単量体としては、例えば、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、2−(メタ)アクリルアミド−エチルトリメトキシシラン、1−(メタ)アクリルアミド−メチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−イソプロピルトリメトキシシラン、N−(2−(メタ)アクリルアミド−エチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン、(3−(メタ)アクリルアミド−プロピル)−オキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリアセトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−エチルトリアセトキシシラン、4−(メタ)アクリルアミド−ブチルトリアセトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリプロピオニルオキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリアセトキシシラン、N−(2−(メタ)アクリルアミド−エチル)−アミノプロピルトリアセトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルイソブチルジメトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−エチルジメチルメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルメチルジアセトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルハイドロジェンジメトキシシラン、3−(N−メチル−(メタ)アクリルアミド)−プロピルトリメトキシシラン、2−(N−エチル−(メタ)アクリルアミド)−エチルトリアセトキシシランなどが挙げられる。
これらの単量体の中でも、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシランおよび3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリアセトキシシランは、工業的な製造が比較的容易で安価に入手できることから好ましく用いることができ、また2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリメトキシシランおよび2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリアセトキシシランはアミド結合が酸またはアルカリに対して著しく安定であることから、好ましく用いることができる。
【0026】
シリル基を有する単量体とビニルエステル単量体とを共重合させる方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。特に、重合温度が30℃より低い場合には、乳化重合法が好ましく、重合温度が30℃以上の場合には、無溶媒で行う塊状重合法またはアルコールなどの溶媒を用いて行う溶液重合法が通常採用される。乳化重合法の場合、溶媒として、水が挙げられ、メタノール、エタノールなどの低級アルコールを併用しても良い。また、乳化剤として、公知の乳化剤を使用することができる。開始剤としては、鉄イオン−酸化剤−還元剤を併用したレドックス系開始剤が重合をコントロールする上で好適に用いられる。塊状重合法や溶液重合法の場合、共重合反応を行うにあたって、反応の方式は回分式および連続式のいずれの方式にても実施可能である。溶液重合法を採用して共重合反応を行う際に、溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合反応に使用される開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)などのアゾ系開始剤;過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどの過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。共重合反応を行う際の重合温度については特に制限はないが、5℃〜50℃の範囲が適当である。
【0027】
シリル基を有する単量体とビニルエステル単量体とをラジカル共重合させる際には、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、必要に応じて、共重合可能な単量体を共重合させることができる。このような単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボン酸またはその誘導体;アクリル酸またはその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸またはその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有ビニルエーテル類;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等のカチオン基を有する単量体などが挙げられる。これらのシリル基を有する単量体およびビニルエステル単量体と共重合可能な単量体の使用量は、その使用される目的および用途等によっても異なるが、通常、共重合に用いられる全ての単量体を基準にした割合で20モル%以下、好ましくは10モル%以下である。
【0028】
シリル基を有する単量体とビニルエステル単量体とを共重合させることによって得られたビニルエステル系重合体は、次いで、公知の方法にしたがって溶媒中でけん化され、ビニルアルコール系重合体へと導かれる。
【0029】
ビニルエステル系重合体のけん化反応の触媒としては通常アルカリ性物質が用いられ、その例として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、およびナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。アルカリ性物質の使用量は、ビニルエステル系重合体中のビニルエステル単量体単位を基準にしたモル比で0.004〜0.5の範囲内であることが好ましく、0.005〜0.05の範囲内であることが特に好ましい。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括して添加しても良いし、あるいはけん化反応の初期に一部を添加し、残りをけん化反応の途中で追加して添加しても良い。
けん化反応に用いることができる溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく用いられ、その使用にあたり、メタノールの含水率が好ましくは0.001〜1重量%、より好ましくは0.003〜0.9重量%、特に好ましくは0.005〜0.8重量%に調整されているのがよい。
けん化反応は、好ましくは5〜80℃、より好ましくは20〜70℃の温度で行われる。けん化反応に必要とされる時間は、好ましくは5分間〜10時間、より好ましくは10分間〜5時間である。けん化反応は、バッチ法および連続法のいずれの方式にても実施可能である。けん化反応の終了後に、必要に応じて、残存するけん化触媒を中和しても良く、使用可能な中和剤として、酢酸、乳酸などの有機酸、および酢酸メチルなどのエステル化合物などを挙げることができる。
【0030】
本発明のビニルアルコール系重合体のけん化度について特に制限はないが、けん化度は好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。そして、無機物を含有する皮膜を形成させた場合に、皮膜の耐水性を良好なものにするという観点から、ビニルアルコール系重合体の最適のけん化度は95モル%以上である。
【0031】
けん化反応により得られたビニルアルコール系重合体は、必要に応じて、洗浄することができ、この操作は、前述したビニルアルコール系重合体における(A−B)/(B)の値を調整する手段として有用である。
使用可能な洗浄液としては、メタノールなどの低級アルコール、酢酸メチルなどの低級脂肪酸エステル、およびそれらの混合物などを挙げることができ、これらの洗浄液には、少量の水、またはアルカリもしくは酸が添加されていても良い。
【0032】
ビニルアルコール系重合体を洗浄するのに採用される方法は、ビニルエステル単量体とシリル基を有する単量体とを共重合させる際の重合率、共重合によって得られるビニルエステル系重合体の重合度、ビニルエステル系重合体をけん化することによって得られるビニルアルコール系重合体のけん化度等により異なり、これを一律に規定するのは困難である。その方法の一つとして、例えば、ビニルエステル単量体とシリル基を有する単量体との共重合体(ビニルエステル系重合体)をアルコール溶液中でけん化することによって得られる、乾燥する前のアルコールなどが含浸された湿潤状態のビニルアルコール系重合体の重量に対して1〜20倍量のメタノールなどの低級アルコール、酢酸メチルなどの低級脂肪酸エステル、またはそれらの混合物を洗浄液として用い、20℃〜洗浄液の沸点の温度条件にて30分〜10時間程度洗浄するという方法を挙げることができる。
【0033】
本発明のビニルアルコール系重合体は粉末の状態で保存および輸送することが可能であり、また、使用に際しては、粉末の状態のままで、あるいは液体に分散させた状態で使用することができる。ビニルアルコール系重合体を水に溶解させて、水溶液として使用することもでき、この場合には、ビニルアルコール系重合体を水に分散させた後、攪拌しながら加温することにより均一な水溶液とすることができる。なお、この場合には、水に対して水酸化ナトリウムなどのアルカリを特に添加しなくとも均一な水溶液を得ることができる。
【0034】
本発明のビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール系重合体の水溶液を調製する際に、水酸化ナトリウムなどのアルカリや酸を添加しなくても水への溶解が可能である、水溶液の状態において優れた粘度安定性を有する、無機物と混合して皮膜を形成させた場合に、無機物とのバインダー力に優れるだけでなく、形成された皮膜が耐水性に優れているなどの特長を備えており、その特性を生かして、紙用コーティング剤として用いることができる。この他にも、本発明のビニルアルコール系重合体は水酸基、ビニルエステル基、シリル基などの官能基の機能を生かした種々の用途において用いることができ、その例として、紙の内添サイズ剤、繊維加工剤、染料、グラスファイバーのコーティング剤、金属の表面コート剤、防曇剤等の被覆剤、木材、紙、アルミ箔、プラスティック等の接着剤、不織布バインダー、繊維状バインダー、石膏ボードおよび繊維板等の建材用バインダー、各種エマルジョン系接着剤の増粘剤、尿素樹脂系接着剤の添加剤、セメントおよびモルタル用添加剤、ホットメルト型接着剤、感圧接着剤等の各種接着剤、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル等の各種エチレン系不飽和単量体の乳化重合用分散剤、塗料、接着剤等の顔料分散用安定剤、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル等の各種エチレン性不飽和単量体の懸濁重合用分散安定剤、繊維、フィルム、シート、パイプ、チューブ、水溶性繊維、暫定皮膜等の成形物、疎水性樹脂への親水性付与剤、複合繊維、フィルムその他の成形物用添加剤等の合成樹脂用配合剤、土質改良剤、土質安定剤等を挙げることができる。
また、本発明のビニルアルコール系重合体をアセトアルデヒドやブチルアルデヒド等のアルデヒド化合物を用いてアセタール化して得られるビニルアセタール系重合体は、安全ガラス用中間膜、セラミックスバインダー、インク分散剤、感光性材料等の用途に有用である。
【0035】
【実施例】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断らない限り重量基準を意味する。また、PVAの分析、皮膜の耐水性、無機物を含有する皮膜の耐水性、およびPVAと無機物とのバインダー力の評価は以下のようにして行った。
【0036】
[PVAの分析方法]
PVAの分析は、特に断らない限りJIS−K6726に記載の方法にしたがって行った。
PVAに含まれるシリル基を有する単量体単位の量および1,2−グリコール結合の量は、前述した方法にしたがって、500MHzのプロトンNMR測定装置(JEOL GX−500)を用いて求めた。
【0037】
[PVAに含まれるケイ素原子の含有量の分析方法]
PVAに含まれるケイ素原子の含有量は、前述した方法にしたがって、ジャーレルアッシュ社製ICP発光分析装置IRIS APを用いて求めた。
【0038】
[皮膜の耐水性]
4%PVA水溶液を調製してこれを20℃で流延し、厚み40μmの皮膜を得た。得られた皮膜を120℃で10分間熱処理した後、縦10cm、横10cmの大きさに切り出し、試験片を作製した。この試験片を20℃の蒸留水に30分間浸漬した後、取り出し(回収し)、表面に付着した水分をガーゼで拭き取り、水膨潤時の重量を測定した。水膨潤時の重量を測定した試験片を105℃で16時間乾燥した後、乾燥時の重量を測定した。ここで水膨潤時の重量を乾燥時の重量で除した値を求めてこれを膨潤度(倍)とし、以下の基準にしたがって判定した。
◎:3.0倍未満。
○:3.0倍以上5.0倍未満。
△:5.0倍以上7.0倍未満。
×:7.0倍以上であるか、または浸漬した試験片を回収することができない。
【0039】
[無機物を含有する皮膜の耐水性]
4%のPVA水溶液を調製し、PVA/コロイダルシリカの固形分基準の重量比が100/10となるように、コロイダルシリカ(日産化学工業製:スノーテックスST−O)の20%水分散液を加えた後、20℃で流延して厚み40μmの皮膜を得た。得られた皮膜を120℃で10分間熱処理した後、縦10cm、横10cmの大きさに切り出し、試験片を作製した。この試験片を20℃の蒸留水に24時間浸漬した後、取り出し(回収し)、表面に付着した水分をガーゼで拭き取り、水膨潤時の重量を測定した。水膨潤時の重量を測定した試験片を105℃で16時間乾燥した後、乾燥時の重量を測定した。ここで水膨潤時の重量を乾燥時の重量で除した値を求めてこれを膨潤度(倍)とし、以下の基準にしたがって判定した。
◎:3.0倍未満。
○:3.0倍以上4.0倍未満。
△:4.0倍以上5.0倍未満。
×:5.0倍以上であるか、または浸漬した試験片を回収することができない。
【0040】
[PVAと無機物とのバインダー力]
シリカ(水沢化学工業製:ミズカシルP78D)およびシリカの重量に対し0.2%の分散剤(東亞合成化学工業製:アロンT40)をホモミキサーにて水に分散し、シリカの20%水分散液を調製した。このシリカ水分散液に、シリカ/PVAの固形分基準の重量比が100/25となるように、10%に調整したPVA水溶液を添加し、シリカ分散PVA水溶液を得た。
得られたシリカ分散PVA水溶液を、ワイヤーバーを用いて、上質紙の表面に82g/m2の坪量で塗布した。その後、上質紙を熱風乾燥機を用い100℃で3分間乾燥して、評価用試料を得た。乾燥後の上質紙(評価用試料)における塗布量は15g/m2であった。
評価用試料について、IGT印刷適性試験機を用い、印圧25kg/cm2にて測定を行い、評価用試料の表面の紙むけが起こった時点の印刷速度(cm/sec)を以って表面強度とし、以下の基準にしたがってバインダー力を評価した。なお、IGT印刷適性試験機を用いて測定を行うにあたり、IGTピックオイルH(大日本インキ化学工業製)を用い、スプリング駆動Mの機構を採用した。
◎:200cm/sec以上。
○:180cm/sec以上200cm/sec未満。
△:160cm/sec以上180cm/sec未満。
×:160cm/sec未満。
【0041】
以下の実施例および比較例で用いたPVAは以下のようにして製造した。
PVA1
攪拌機、温度センサー、滴下漏斗および還流冷却管を備え付けた6Lセパラブルフラスコに、酢酸ビニル2100部、メタノール771部、ビニルトリメトキシシランを0.5重量%含有するメタノール溶液629部を仕込み、攪拌下に系内を窒素置換した後、内温を45℃まで上げた。この系に2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)を0.42部含有するメタノール20部を添加して重合反応を開始した。重合開始時点よりビニルトリメトキシシランを0.5重量%含有するメタノール24部、および2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)を0.13重量%含有するメタノール430部をそれぞれ系内に添加しながら3時間重合反応を行い、その時点で重合反応を停止した。重合反応を停止した時点における系内の固形分濃度は14.9%であった。次いで、系内にメタノール蒸気を導入することで未反応の酢酸ビニル単量体を追い出し、35%のビニルエステル系重合体を含むメタノール溶液を得た。
このビニルエステル系重合体を35%含有するメタノール溶液に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.02、ビニルエステル系重合体の固形分濃度が25重量%となるように、メタノール、および水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液をこの順序で撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。
けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した直後にこれを反応系から取り出して粉砕し、次いで、この粉砕物に対して、けん化反応の開始から1時間が経過した時点で酢酸メチルを添加することで中和し、メタノールで膨潤したPVAを得た。このメタノールで膨潤したPVAに対して重量基準で6倍量(浴比6倍)のメタノールを加え、還流下に1時間洗浄し、次いで65℃で16時間乾燥してPVAを得た。
得られたPVAにおけるビニルトリメチルシラン単位の含有量は0.10モル%、1,2−グリコール結合量は1.35モル%、けん化度は98.5モル%、重合度は2400であった。上記したPVAに含まれるケイ素原子含有量の分析方法に従って求められた(A−B)/(B)の値は10.9/100であり、4%PVA水溶液のpHは6.0であった。
【0042】
PVA2〜4
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、シリル基を有する単量体の種類およびその仕込み量、重合開始剤の使用量、重合反応の条件、けん化反応の条件等を表1に示すように変化させた以外はPVA1と同様の方法により各種のPVA(PVA2〜4)を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表2に示す。
【0043】
PVA5
攪拌機、温度センサー、滴下漏斗および還流冷却管を備え付けた5Lセパラブルフラスコに酢酸ビニル2000部、ビニルトリメトキシシラン3.8部、メタノール667部、蒸留水2000部、乳化剤(三洋化成製:ノニポール400)80部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(三菱瓦斯化学製:スーパーライトC)13.4部、硫酸鉄七水塩0.534部を仕込み、攪拌下に系内を窒素置換した後、内温を5℃にした。2−メルカプトエタノール4.4部を水/メタノール=3/1(重量比)の混合溶媒1000部に溶解させて2−メルカプトエタノール溶液を調製し、そのうちの30部を5Lセパラブルフラスコに加えた。次いで、0.5%過酸化水素水溶液、先に調製した2−メルカプトエタノール溶液、およびビニルトリメトキシシランを1重量%含有するメタノール溶液を5Lセパラブルフラスコに逐次添加し、重合反応を開始した。5時間経過後、反応系を開放し、多量のメタノール中へ重合液を加えて重合反応を停止した。なお、5時間の重合反応の間に添加した0.5%過酸化水素水溶液の合計の添加量は72ml、2−メルカプトエタノール溶液の合計の逐次添加量は141ml、ビニルトリメトキシシラン溶液の合計の逐次添加量は39mlであり、固形分濃度は22.3%であった。
得られたビニルエステル系重合体を含むメタノール溶液を蒸留水中に滴下して再沈精製した後、ビニルエステル系重合体を蒸留水中で煮沸して、乳化剤を除去した。その後、減圧乾燥して、ビニルエステル系重合体の固形物を得た後、これにメタノールを加えて、35%のビニルエステル系重合体を含むメタノール溶液を得た。
このビニルエステル系重合体を35%含有するメタノール溶液に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.02、ビニルエステル系重合体の固形分濃度が25重量%となるように、メタノール、および水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液をこの順序で撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。
得られたPVAにおけるビニルトリメチルシランの含有量は0.10モル%、1,2−グリコール結合量は0.93モル%、けん化度は98.2モル%、重合度は1900であった。また、上記したPVAに含まれるケイ素原子含有量の分析方法に従って求められた(A−B)/(B)の値は0.3/100であり、4%PVA水溶液のpHは6.0であった。
【0044】
PVA6
ビニルエステル系重合体に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように、水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液を添加してけん化反応を行った以外は、PVA1と同様の方法によりPVA6を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表2に示す。
【0045】
PVA7
ビニルエステル系重合体に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように、水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液を添加してけん化反応を行った以外は、PVA3と同様の方法によりPVA7を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表2に示す。
【0046】
PVA8
メタノールによる洗浄の操作を省略した以外はPVA1と同様の方法によりPVA8を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表2に示す。
【0047】
PVA9
けん化反応で得られたPVAを酢酸メチルで中和する前に、メタノールによる洗浄の操作を5回実施した以外はPVA1と同様の方法によりPVA9を合成した。得られたPVAの分析値を表2に示す。
【0048】
PVA10
酢酸メチルの代わりに、けん化反応に用いた水酸化ナトリウムの5倍のモル数の酢酸を用いて中和を行い、さらにメタノールによる洗浄(浴比6倍)を室温で1時間行った以外はPVA1と同様の方法によりPVA10を合成した。得られたPVAの分析値を表2に示す。
【0049】
PVA11
酢酸メチルによる中和を行わず、さらにメタノールによる洗浄(浴比6倍)を室温で1時間実施した以外はPVA1と同様の方法によりPVA11を合成した。得られたPVAの分析値を表2に示す。
【0050】
PVA12〜19
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、シリル基を有する単量体の使用の有無およびその仕込み量、共重合成分の使用の有無、重合開始剤の使用量、重合反応の条件、けん化反応の条件等を表3に示すように変化させた以外はPVA1と同様の方法により、各種のPVA(PVA12〜19)を合成した。
【0051】
PVA20
ビニルエステル系重合体に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように、水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液を添加してけん化反応を行った以外は、PVA12と同様の方法によりPVA20を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
【0052】
PVA21
ビニルエステル系重合体に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように、水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液を添加してけん化反応を行った以外は、PVA14と同様の方法によりPVA21を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
【0053】
実施例1〜実施例11
PVA1〜PVA11について、皮膜の耐水性、無機物を含有する皮膜の耐水性、およびPVAと無機物とのバインダー力を評価した。その結果を表5に示す。
【0054】
比較例1〜比較例10
PVA12〜PVA21について、皮膜の耐水性、無機物を含有する皮膜の耐水性、およびPVAと無機物とのバインダー力を評価した。その結果を表5に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
表5の結果から、本発明に相当するビニルアルコール系重合体は、皮膜の耐水性、無機物を含有する皮膜の耐水性、および無機物とのバインダー力がバランスよく優れていることが分かる(実施例1〜11)。特に、ビニルアルコール系重合体が前述の式(IV)[0.1/100≦(A−B)/(B)≦50/100]を満足し、かつ4%水溶液のpHが4〜8の条件を満たす場合には、各種物性のバランスがさらに優れたものとなる(実施例1〜7)。
一方、P(ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度)×S(シリル基を有する単量体単位の含有量)が20以下のビニルアルコール系重合体は、無機物を含有する皮膜の耐水性、および無機物とのバインダー力が十分ではなく(比較例6)、P×Sが370以上のビニルアルコール系重合体は、水に完全に溶解しないことから、評価することができなかった(比較例5)。
1,2−グリコール結合量(Y)が1.4モル%以上のビニルアルコール系重合体は、皮膜の耐水性が十分ではないことが分かる(比較例4)。
粘度平均重合度(P)が200以下のビニルアルコール系重合体は、皮膜の耐水性、無機物を含有する皮膜の耐水性、および無機物とのバインダー力が十分ではなく(比較例8)、粘度平均重合度(P)が2400より大きい場合には、皮膜の耐水性については優れた結果が得られたが、無機物を含有する皮膜の耐水性、および無機物とのバインダー力について、無機物を含有する水溶液がゲル化したため評価することができなかった(比較例7)。
シリル基含有単量体を全く含まないビニルアルコール系重合体は、無機物を含有する皮膜の耐水性、および無機物とのバインダー力が十分ではないことが分かる(比較例1〜3、9および10)。
【0061】
【発明の効果】
本発明のシリル基含有ビニルアルコール系重合体は、水溶液を調製する際に水酸化ナトリウムなどのアルカリや酸を添加しなくても溶解が可能であり、水溶液から得られる皮膜の耐水性、無機物を含有する皮膜の耐水性、無機物のバインダー力を同時に満足するものであり、種々の用途、とりわけ、無機物と併用する紙用コーティング剤として優れた性能を有する。
Claims (4)
- 下記の一般式(1)
で示されるシリル基を有する単量体単位を含有するビニルエステル系重合体をけん化することによって得られるビニルアルコール系重合体であって、下記式(I)、(II)および(III)を満足することを特徴とするビニルアルコール系重合体。
20<P×S<370 ・・・(I)
200<P≦2400 ・・・(II)
0.9<Y<1.4 ・・・(III)
P:ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度
S:一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体単位の含有量(モル%)
Y:ビニルアルコール系重合体中の1,2−グリコール結合量(モル%) - ビニルアルコール系重合体が下記式(IV)を満足し、かつ4%水溶液にした時のpHが4〜8であることを特徴とする請求項1記載のビニルアルコール系重合体。
0.1/100≦(A−B)/(B)≦50/100 ・・・(IV)
A:ビニルアルコール系重合体を灰化した後、ICP発光分析により求められるケイ素原子の含有量(ppm)
B:ビニルアルコール系重合体を水酸化ナトリウムを含有するメタノールで洗浄し、次いでメタノールによるソックスレー抽出により洗浄し、乾燥したのち灰化し、ICP発光分析により求められるケイ素原子の含有量(ppm) - シリル基を有する単量体が下記の一般式(2)
または下記の一般式(3)
で示される単量体であることを特徴とする請求項3記載のビニルアルコール系重合体の製造方法。
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JP2002203145A JP3816846B2 (ja) | 2002-07-11 | 2002-07-11 | ビニルアルコール系重合体およびその製造方法 |
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