JP5886133B2 - ビニルアルコール系重合体及びこれを含む水溶液 - Google Patents

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Description

本発明は、シリル基を有するビニルアルコール系重合体、及びこれを含む水溶液に関する。
ポリビニルアルコールに代表されるビニルアルコール系重合体(以下、「PVA」と略記することがある。)は、水溶性の合成高分子として知られており、合成繊維であるビニロンの原料、紙加工剤、繊維加工剤、接着剤、乳化重合及び懸濁重合用の安定剤、無機物のバインダー、フィルムなどの用途に広く用いられている。特に、PVAは他の水溶性合成高分子と比べて強度特性及び造膜性に優れており、この特性を生かして、紙の表面特性を改善するためのクリアーコーティング剤や、顔料コーティングにおけるバインダー等として重用されている。
このようなPVAの特性をさらに高めるために、各種変性がなされたPVAが開発されている。変性PVAの一つとして、シリル基含有PVAが挙げられる。このシリル基含有PVAは、耐水性及び無機物に対する接着性に特に優れている。しかし、シリル基含有PVAは、(a)水溶液を調製する際に水酸化ナトリウム等のアルカリや酸を添加しなければ、十分に溶解しにくいこと、(b)調製された水溶液の粘度安定性が低下すること等の不都合がある。
そこで、粘度平均重合度(P)とシリル基を有する単量体単位の含有率(S:モル%)との積(P×S)を一定範囲内とすることなどにより、水溶性等が高められたシリル基含有PVAが提案されている(特開2004−43644号公報参照)。しかし、このシリル基含有PVAにおいては、上記積(P×S)の上限が370とされており、シリル基を有する単量体単位の含有率を増やしてシリル基含有PVAとしての特性を高めることと、水溶性等を高めることとのトレードオフの関係が解消されてはいない。すなわち、上記公報の段落0009に記載のように、積(P×S)が370以上の場合には、シリル基含有PVAの水溶液を調製する際にアルカリや酸を添加しなければ溶解できない場合があるという不都合を有している。つまり、上記シリル基含有PVAも、上述の不都合を十分に解決したものとはいえない。
特開2004−43644号公報
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、得られる皮膜の耐水性及びバインダー性能に優れ、中性領域においても十分な水溶性及び粘度安定性を有するビニルアルコール系重合体、並びにこのようなビニルアルコール系重合体を含む水溶液を提供することを目的とする。
上記課題を解決するためになされた発明は、
下記式(1)で表される基を有する単量体単位を含有し、下記式(I)を満たすビニルアルコール系重合体である。
Figure 0005886133
(式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。Rは、アルコキシル基、アシロキシル基又はOMで表される基である。Mは、水素原子、アルカリ金属又はアンモニウム基である。R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基である。R〜Rで表されるアルキル基、アルコキシル基及びアシロキシル基が有する水素原子は、酸素原子又は窒素原子を含有する置換基で置換されていてもよい。mは、0〜2の整数である。nは、3以上の整数である。R〜Rがそれぞれ複数存在する場合、複数存在する各R〜Rは、独立して上記定義を満たす。)
370≦P×S≦6,000 ・・・(I)
P:粘度平均重合度
S:上記単量体単位の含有率(モル%)
当該PVAは、上記式(1)で表される基を有する単量体単位を含有し、シリル基が炭素数3以上のアルキレン基を介して主鎖と連結した構造を有している。このため、当該PVAによれば、シリル基の変性量を高めても、水溶性及び粘度安定性の低下が抑えられる。また、当該PVAによれば、粘度平均重合度(P)と上記単量体単位の含有率(S)との積(P×S)が上記範囲であるため、シリル基変性量を高めることができ、耐水性やバインダー性能に優れる皮膜を得ることができる。
当該PVAが、下記式(II)及び(III)をさらに満たすことが好ましい。
200≦P≦4,000 ・・・(II)
0.1≦S≦10 ・・・(III)
P:粘度平均重合度
S:上記単量体単位の含有率(モル%)
このように粘度平均重合度(P)及び上記単量体単位の含有率(S)を上記範囲とすることで、水溶性及び粘度安定性、並びに得られる皮膜の耐水性及びバインダー性能を高めることができる。
上記式(1)中のnは、6以上20以下の整数であることが好ましい。nを上記範囲とすることで、当該ビニルアルコール系重合体と併用して用いられる架橋剤の含有量を減らすことができ、架橋剤を用いない場合にも、得られる皮膜の耐水性及びバインダー性能を十分に発揮することができる。
上記単量体単位は下記式(2)で表されることが好ましい。
Figure 0005886133
(式(2)中、R〜R、m及びnの定義は、式(1)と同様である。Xは、直接結合、2価の炭化水素基又は酸素原子若しくは窒素原子を含む2価の有機基である。Rは、水素原子又はメチル基である。)
上記単量体単位が上記式(2)で表される構造を有することで、上記諸性能をより高めることができる。
上記式(2)中のXは−CO−NR−*(Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。*は、上記式(1)で表される基との結合箇所を示す。)で表されることが好ましい。このように上記単量体単位がシリル基と離れた位置にアミド構造を有することで、シリル基に由来する性能を維持しつつ、水溶性及び粘度安定性をより高めることができる。
上記式(2)中のXは−CO−NH−*(*は、上記式(1)で表される基との結合箇所を示す。)で表され、nが12以下の整数であるとよい。上記単量体単位をこのような構造とすることで、水溶性や粘度安定性等の当該PVAの性能をさらに高めることができ、また、上記PVAの製造を容易に行うことができる。
本発明の水溶液は、当該ビニルアルコール系重合体を4質量%以上20質量%以下含有し、pHが4以上8以下である。当該水溶液は、変性PVAの濃度が高く、耐水性やバインダー性能の優れた皮膜を得ることができる。また、当該水溶液は、粘度安定性も高く、かつpHが上記範囲であるため、取扱性にも優れる。
以上説明したように、本発明のビニルアルコール系重合体は、得られる皮膜の耐水性及びバインダー性能に優れ、中性領域においても十分な水溶性及び粘度安定性を有する。また、本発明の水溶液は、粘度安定性が高く、耐水性及びバインダー性能に優れた皮膜を得ることができる。
以下、本発明のビニルアルコール系重合体及び水溶液の実施の形態を詳説する。
<PVA>
本発明のPVAは、上記式(1)で表される基を有する単量体単位を含有する。すなわち、当該PVAは、上記式(1)で表される基を有する単量体単位とビニルアルコール単位(−CH−CHOH−)とを含む共重合体であり、さらに他の単量体単位を有していてもよい。
上記式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等を挙げることができる。
は、アルコキシル基、アシロキシル基又はOMで表される基である。Mは、水素原子、アルカリ金属又はアンモニウム基(NH)である。上記アルコキシル基としてはメトキシ基、エトキシ基等を挙げることができる。上記アシロキシル基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基等を挙げることができる。上記アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等を挙げることができる。Rで表されるこれらの基の中でも、アルコキシル基又はOMで表される基が好ましく、炭素原子数1〜5のアルコキシル基及びMが水素若しくはアルカリ金属であるOMで表される基がより好ましく、メトキシ基、エトキシ基及びMがナトリウム若しくはカリウムであるOMで表される基がさらに好ましい。
及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基である。このアルキル基としては、上述した炭素数1〜5のアルキル基を挙げることができる。R及びRとしては、水素原子又はメチル基が好ましい。
〜Rで表されるアルキル基、アルコキシル基及びアシロキシル基が有する水素原子は、酸素原子又は窒素原子を含有する置換基で置換されていてもよい。酸素原子を含有する置換基としては、アルコキシル基やアシロキシル基等を挙げることができる。また、窒素原子を含有する置換基としては、アミノ基やシアノ基等を挙げることができる。
なお、R〜Rがそれぞれ複数存在する場合、複数存在する各R〜Rは、独立して上記定義を満たす。
mは、0〜2の整数であるが、0が好ましい。mが0である、すなわち、上記単量体単位が、3つのR基を有することで、変性による効果をより高めることができる。
nは、3以上の整数である。nの上限としては、特に制限されないが、例えば20であり、12が好ましい。当該PVAは、上記式(1)中のnが3以上、すなわちシリル基が炭素数3以上のアルキレン基を介して主鎖と連結した構造を有していることで、シリル基の変性量を高めても、水溶性及び粘度安定性の低下が抑えられる。このような効果が発現する理由は十分解明されてはいないが、例えば、疎水性を示す炭素数3以上のアルキレン基が、水溶液中において、Si−Rの加水分解速度を低下、反応を阻害させるためであると推測される。
さらにnは、6以上の整数であることがより好ましい。nをこのような範囲にすることで、通常、当該ビニルアルコール系重合体と併用して用いられる架橋剤の含有量を減らすことができ、架橋剤を用いない場合にも、得られる皮膜の耐水性およびバインダー性能を十分に発揮することができる。
上記単量体単位の具体的構造は、上記式(1)で表される基を有する限り特に限定されないが、上記式(2)で表されることが好ましい。
式(2)中、R〜R、m及びnの定義は、式(1)と同様である。また、これらの好ましい基又は数値範囲も式(1)と同様である。
Xは、直接結合、2価の炭化水素基又は酸素原子若しくは窒素原子を含む2価の有機基である。上記単量体単位が上記式(2)で表される構造を有することで水溶性及び粘度安定性、得られる皮膜の耐水性及びバインダー性能等の諸性能をより高めることができる。
上記2価の炭化水素基としては、炭素数1〜10の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10の2価の芳香族炭化水素基等を挙げることができる。上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等を挙げることができる。上記炭素数6〜10の2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基等を挙げることができる。上記酸素原子を含む2価の有機基としては、エーテル基、エステル基、カルボニル基、アミド基、及びこれらの基と2価の炭化水素基とが連結した基等を挙げることができる。上記窒素原子を含む2価の有機基としては、イミノ基、アミド基、及びこれらの基と2価の炭化水素基とが連結した基等を挙げることができる。
上記Xで表される基の中でも、酸素原子又は窒素原子を含む2価の有機基が好ましく、アミド基を含む基がより好ましく、−CO−NR−*(Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。*は、上記式(1)で表される基との結合箇所を示す。)で表される基であることがさらに好ましい。このように上記単量体単位がシリル基と離れた位置に極性構造、好ましくはアミド構造を有することで、シリル基に由来する性能を維持しつつ、水溶性や粘度安定性をより高めることができる。なお、上記Rとしては、上記機能をより高め、また、当該PVAの製造を容易に行うことができる点から水素原子が好ましく、上記Rが水素原子であり、nが3から12の整数であることがより好ましい。
は、水素原子又はメチル基である。
上記単量体単位としては、下記式(3)で表されるものがさらに好ましい。
Figure 0005886133
上記式(3)中、R、R、R、X及びmの定義は、上記式(2)と同様である。また、これらの好ましい基又は数値範囲も上記式(2)と同様である。
上記式(3)中、R’及びR’は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基である。このアルキル基としては、上述した炭素原子数1〜5のアルキル基を挙げることができる。R’及びR’としては、水素原子又はメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。R’及びR’で表されるアルキル基が有する水素原子は、酸素原子又は窒素原子を含有する置換基で置換されていてもよい。酸素原子を含有する置換基としては、アルコキシル基やアシロキシル基等を挙げることができる。また、窒素原子を含有する置換基としては、アミノ基やシアノ基等を挙げることができる。なお、R’及びR’がそれぞれ複数存在する場合、複数存在する各R’及びR’は、独立して上記定義を満たす。
上記式(3)中、n’は、1以上の整数である。nの上限としては、特に制限されないが、例えば18であり、10が好ましい。さらにnは、4以上の整数であることがより好ましい。nをこのような範囲にすることで、通常、当該ビニルアルコール系重合体と併用して用いられる架橋剤の含有量を減らすことができ、架橋剤を用いない場合にも、得られる皮膜の耐水性及びバインダー性能を十分に発揮することができる。
上記単量体単位が、上記式(3)で表される場合、当該PVAの諸機能をより効果的に発現させることができる。この理由も定かではないが、水溶液中においてSi−Rの加水分解速度を低下させ、反応を阻害させるという上述した機能がより効果的に発揮されるためと推測される。
当該PVAは、下記式(I)を満たす。
370≦P×S≦6,000 ・・・(I)
P:粘度平均重合度
S:上記単量体単位の含有率(モル%)
上記粘度平均重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、当該PVAをけん化度が99.5モル%未満の場合は、けん化度99.5モル%以上に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求めることができる。
P=([η]×1000/8.29)(1/0.62)
上記単量体単位の含有率(S:モル%)は、けん化する前のビニルエステル系重合体のプロトンNMRから求められる。ここで、けん化する前のビニルエステル系重合体のプロトンNMRを測定するに際しては、このビニルエステル系重合体をヘキサン−アセトンにより再沈精製して重合体中から未反応のシリル基を有する単量体を十分に取り除き、次いで90℃減圧乾燥を2日間行った後、CDCl溶媒に溶解して分析に供する。
粘度平均重合度(P)と上記単量体単位の含有率(S)との積(P×S)は、分子100個あたりの上記単量体単位の数に相当する。この積(P×S)が上記下限未満の場合は、当該PVAにより得られる皮膜の耐水性やバインダー性能等のシリル基に由来する諸特性を十分に発揮することができない。逆に、この積(P×S)が上記上限を超えると、水溶性や粘度安定性が低下する。積(P×S)は、下記式(I’)を満たすことが好ましく、下記式(I’’)を満たすことがより好ましい。
400≦P×S≦3,000 ・・・(I’)
500≦P×S≦2,000 ・・・(I’’)
当該PVAは、下記式(II)及び(III)をさらに満たすことが好ましい。
200≦P≦4,000 ・・・(II)
0.1≦S≦10 ・・・(III)
P:粘度平均重合度
S:上記単量体単位の含有率(モル%)
このように粘度平均重合度(P)及び上記単量体単位の含有率(S)を上記範囲とすることで、水溶性及び粘度安定性、並びに得られる皮膜の耐水性及びバインダー性能を高めることができる。
さらには、上記粘度平均重合度(P)において、下記式(II’)を満たすことがより好ましく、下記式(II’’)を満たすことがさらに好ましい。
500≦P≦3,000 ・・・(II’)
1,000≦P≦2,400 ・・・(II’’)
粘度平均重合度(P)が上記下限未満の場合は、得られる皮膜の耐水性やバインダー性能等が低下する場合がある。逆に、粘度平均重合度(P)が上記上限を超える場合は、水溶性や粘度安定性等が低下する場合がある。
また、上記単量体単位の含有率(S)においては、下記式(III’)を満たすことがより好ましく、下記式(III’’)を満たすことがさらに好ましい。
0.25≦S≦6 ・・・(III’)
0.5≦S≦5 ・・・(III’’)
上記単量体単位の含有率(S)が上記下限未満の場合は、得られる皮膜の耐水性やバインダー性能等が低下する場合がある。逆に、含有率(S)が上記上限を超える場合は、水溶性や粘度安定性等が低下する場合がある。
当該PVAのけん化度としては、特に制限はないが、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、97モル%以上が特に好ましい。当該PVAのけん化度が上記下限未満の場合は、得られる皮膜の耐水性等が低下する場合がある。なお、当該PVAのけん化度の上限としては、特に制限はないが、生産性等を考慮すると、例えば99.9モル%である。ここで、PVAのけん化度は、JIS−K6726に記載の方法に準じて測定した値をいう。
<PVAの製造方法>
当該PVAの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ビニルエステル系単量体と、上記式(1)で表される基を有する単量体とを共重合させ、得られる共重合体(ビニルエステル系重合体)をけん化することにより得ることができる。
上記ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも、酢酸ビニルが好ましい。
また、上記式(1)で表される基を有する単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際して、得られるPVAの粘度平均重合度(P)を調節すること等を目的として、本発明の主旨を損なわない範囲で連鎖移動剤の存在下で重合を行っても差し支えない。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエタンチオール、n−ドデカンチオール、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸等のメルカプタン類;テトラクロロメタン、ブロモトリクロロメタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン類等が挙げられる。
上記式(1)で表される基を有する単量体としては、例えば下記式(4)で表される化合物を挙げることができる。下記式(4)で表される化合物を使用することにより、最終的に、上記式(2)で表される基を有する単量体単位を含むPVAが容易に得られる。
Figure 0005886133
式(4)中、R〜R、X、m及びnの定義は、式(2)と同様である。また、これらの好ましい基又は数値範囲も式(2)と同様である。
上記式(4)で表される化合物としては、3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリメトキシシラン、4−(メタ)アクリルアミドブチルトリメトキシシラン、8−(メタ)アクリルアミドオクチルトリメトキシシラン、6−(メタ)アクリルアミドヘキシルトリメトキシシラン、12−(メタ)アクリルアミドドデシルトリメトキシシラン、18−(メタ)アクリルアミドオクタデシルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリブトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミドプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−3−メチルブチルトリメトキシシラン、4−(メタ)アクリルアミド−4−メチルブチルトリメトキシシラン、4−(メタ)アクリルアミド−3−メチルブチルトリメトキシシラン、5−(メタ)アクリルアミド−5−メチルヘキシルトリメトキシシラン、4−ペンテニルトリメトキシシラン、5−へキセニルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
上記ビニルエステル系単量体と上記式(1)で表される基を有する単量体とを共重合させる方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が挙げられる。特に、重合温度が30℃より低い場合には、乳化重合法が好ましく、重合温度が30℃以上の場合には、無溶媒で行う塊状重合法又はアルコール等の溶媒を用いて行う溶液重合法が通常採用される。
乳化重合法の場合、溶媒としては水が挙げられ、メタノール、エタノール等の低級アルコールを併用してもよい。また、乳化剤としては公知の乳化剤を使用することができる。共重合の際の開始剤としては、鉄イオン−酸化剤−還元剤を併用したレドックス系開始剤が重合をコントロールする上で好適に用いられる。塊状重合法や溶液重合法の場合、共重合反応を行うにあたって、反応の方式は回分式及び連続式のいずれの方式においても実施可能である。溶液重合法を採用して共重合反応を行う際に、溶媒として使用されるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールが挙げられる。この場合の共重合反応に使用される開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)等のアゾ系開始剤;過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネート等の過酸化物系開始剤等の公知の開始剤が挙げられる。共重合反応を行う際の重合温度については特に制限はないが、5℃〜50℃の範囲が適当である。
この共重合反応の際には、本発明の主旨が損なわれない範囲であれば、必要に応じて、共重合可能な単量体を共重合させることができる。このような単量体としてはエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボン酸又はその誘導体;アクリル酸又はその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸又はその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有ビニルエーテル類;アリルアセテート;プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等のカチオン基を有する単量体等が挙げられる。これらの単量体の使用量は、その使用される目的や用途等によっても異なるが、通常、共重合に用いられる全ての単量体を基準にした割合で20モル%以下、好ましくは10モル%以下である。
上記共重合により得られたビニルエステル系重合体は、次いで、公知の方法に従って溶媒中でけん化され、PVAへと導かれる。
けん化反応の触媒としては、通常、アルカリ性物質が用いられ、その例として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、及びナトリウムメトキシド等のアルカリ金属アルコキシド等が挙げられる。上記アルカリ性物質の使用量は、ビニルエステル系重合体中のビニルエステル系単量体単位を基準にしたモル比で、0.004〜0.5の範囲内であることが好ましく、0.005〜0.05の範囲内であることがより好ましい。また、この触媒は、けん化反応の初期に一括して添加してもよいし、けん化反応の初期に一部を添加し、残りをけん化反応の途中で追加して添加してもよい。
けん化反応に用いることができる溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましい。また、メタノールの使用にあたり、メタノール中の含水率が好ましくは0.001〜1質量%、より好ましくは0.003〜0.9質量%、特に好ましくは0.005〜0.8質量%に調整されているのがよい。
けん化反応は、好ましくは5〜80℃、より好ましくは20〜70℃の温度で行われる。けん化反応に必要とされる時間としては、好ましくは5分間〜10時間、より好ましくは10分間〜5時間である。けん化反応は、バッチ法及び連続法のいずれの方式においても実施可能である。けん化反応の終了後に、必要に応じて、残存するけん化触媒を中和してもよく、使用可能な中和剤として、酢酸、乳酸などの有機酸、及び酢酸メチル等のエステル化合物などを挙げることができる。
けん化反応により得られたPVAは、必要に応じて、洗浄することができる。この洗浄の際に用いられる洗浄液としては、メタノール等の低級アルコール、酢酸メチル等の低級脂肪酸エステル、及びそれらの混合物等を挙げることができる。これらの洗浄液には、少量の水やアルカリ又は酸等が添加されていてもよい。
<用途等>
当該PVAは、粉末の状態で保存及び輸送することが可能である。また、当該PVAの使用に際しては、粉末の状態のままで、あるいは水等の液体に溶解又は分散させた状態で使用することができる。当該PVAを水溶液として用いる場合には、当該PVAを水に分散させた後、攪拌しながら加温することにより均一な水溶液とすることができる。なお、当該PVAによれば、水に対して水酸化ナトリウムなどのアルカリや酸を特に添加しなくとも均一な水溶液を得ることができる。
当該PVAは、(1)この水溶液を調製する際に、水酸化ナトリウム等のアルカリや酸を添加しなくても水への溶解が可能である、(2)水溶液の状態において優れた粘度安定性を有する、(3)無機物と混合して皮膜を形成させた場合に、無機物とのバインダー力に優れる、(4)形成された皮膜が耐水性に優れているなどの特徴を備えている。従って、当該PVAは、例えば、紙用コーティング剤として用いることができる。この他にも、当該PVAは、水酸基、ビニルエステル基、シリル基等の官能基の機能を活かした種々の用途において用いることができる。その用途としては、例えば、紙の内添サイズ剤、繊維加工剤、染料、グラスファイバーのコーティング剤、金属やガラスの表面コート剤、防曇剤等の被覆剤、木材、紙、アルミ箔、プラスティック等の接着剤、不織布バインダー、繊維状バインダー、石膏ボード及び繊維板等の建材用バインダー、各種エマルジョン系接着剤の増粘剤、尿素樹脂系接着剤の添加剤、セメント及びモルタル用添加剤、ホットメルト型接着剤、感圧接着剤等の各種接着剤、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル等の各種エチレン系不飽和単量体の乳化重合用分散剤、塗料、接着剤等の顔料分散用安定剤、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル等の各種エチレン性不飽和単量体の懸濁重合用分散安定剤、繊維、フィルム、シート、パイプ、チューブ、水溶性繊維、暫定皮膜等の成形物、疎水性樹脂への親水性付与剤、複合繊維、フィルムその他の成形物用添加剤等の合成樹脂用配合剤、土質改良剤、土質安定剤等を挙げることができる。
また、当該PVAをアセトアルデヒドやブチルアルデヒド等のアルデヒド化合物を用いてアセタール化して得られるビニルアセタール系重合体は、安全ガラス用中間膜、セラミックスバインダー、インク分散剤、感光性材料等の用途に有用である。
<水溶液>
本発明の水溶液は、当該PVAを4質量%以上20質量%以下含有し、pHが4以上8以下である。当該水溶液の調製方法は、当該PVAの用途として上述したとおりである。
当該水溶液は、当該PVA及び水以外に他の成分を含んでいてもよい。この他の成分としては、例えば、エタノール等のアルコール、ジエチルエーテルなどの他の溶媒、水酸化ナトリウム、アンモニア等のアルカリや塩酸等の酸、シリカ、二酸化チタン、クレー、炭酸カルシウム等の無機粒子等を挙げることができる。
当該水溶液は、変性PVAの濃度が高く、耐水性やバインダー性能の優れた皮膜を得ることができる。また、当該水溶液は、粘度安定性にも優れる。さらに、当該水溶液は、pHが上記範囲であるため、取扱性にも優れる。従って、当該水溶液は、当該PVAの用途として上述した各用途等に好適に用いることができる。
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。以下の実施例及び比較例において、特に断りがない場合、部及び%はそれぞれ質量部及び質量%を示す。
なお、実施例及び比較例で用いたシリル基を有する単量体(モノマーA)は、以下のとおりである。
MAmPTMS :3−メタクリルアミドプロピルトリメトキシシラン
MAmPTES :3−メタクリルアミドプロピルトリエトキシシラン
MAmBTMS :4−メタクリルアミドブチルトリメトキシシラン
MAmOTMS :8−メタクリルアミドオクチルトリメトキシシラン
MAmDDTMS:12−メタクリルアミドドデシルトリメトキシシラン
MAmODTMS:18−メタクリルアミドオクタデシルトリメトキシシラン
AMBTMS :3−アクリルアミド−3−メチルブチルトリメトキシシラン
4−PTMS :4−ペンテニルトリメトキシシラン
VMS :ビニルトリメトキシシラン
MAmMTMS :メタクリルアミドメチルトリメトキシシラン
AMPTMS :2−アクリルアミド−2−メチルプロピルトリメトキシシラン
[シリル基含有PVAの製造]
下記の方法によりPVAを製造し、そのけん化度、上記式(1)で表される基を有する単量体単位の含有率(S)(一部の例では、シリル基を有する単量体単位の含有率)、粘度平均重合度(P)を求めた。また、以下の評価方法にしたがって、皮膜の性能及び無機物とのバインダー力を評価した。
[PVAの分析方法]
PVAの分析は、特に断らない限りJIS−K6726に記載の方法に従って行った。
[実施例1]PVA1の製造
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、コモノマー滴下口及び開始剤の添加口を備えた6Lセパラブルフラスコに、酢酸ビニル1,500g、メタノール500g、上記式(1)で表される基を有する単量体(モノマーA)としてのMAmPTMS1.87gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。また、ディレー溶液としてMAmPTMSをメタノールに溶解して濃度8%としたコモノマー溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.8gを添加し重合を開始した。ディレー溶液を滴下して重合溶液中のモノマー組成(酢酸ビニルとモノマーA(MAmPTMS)の比率)が一定となるようにしながら、60℃で2.7時間重合した後、冷却して重合を停止した。重合を停止するまで加えたコモノマー溶液(逐次添加液)の総量は99gであった。また、重合停止時の固形分濃度は29.0%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、上記式(1)で表される基を有するポリ酢酸ビニル(PVAc)を40%含有するメタノール溶液を得た。さらに、これにPVAc中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.04、PVAcの固形分濃度が30質量%となるように、メタノール及び水酸化ナトリウムを10質量%含有するメタノール溶液をこの順序で撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。アルカリ溶液を添加後、約5分でゲル状物が生成した。このゲル状物を粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチルを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノールを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置し、上記式(1)で表される基を有するPVA1を得た。PVA1の粘度平均重合度(P)は1,700、けん化度は98.6モル%であった。
得られたPVA1の上記式(1)で表される基を有する単量体単位の含有率(シリル基を有する単量体単位の含有率)は、このPVAの前駆体であるPVAcのプロトンNMRから求めた。具体的には、得られたPVAcの再沈精製をn−ヘキサン/アセトンで3回以上十分に行った後、50℃の減圧下で乾燥を2日間行い、分析用のPVAcを作製した。このPVAcをCDClに溶解させ、500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて室温で測定した。酢酸ビニル単位の主鎖メチンに由来するピークα(4.7〜5.2ppm)とモノマーA単位のメトキシ基のメチルに由来するピークβ(3.4〜3.8ppm)とから、下記式を用いて式(1)で表される基を有する単量体単位の含有率(S)を算出した。PVA1において、含有率(S)は0.5モル%であった。得られたPVAについて分析した結果を表1に示す。
式(1)で表される基を有する単量体単位の含有率(S:モル%)
={(βのピーク面積/9)/(αのピーク面積+(βのピーク面積/9))}×100
[実施例2〜31及び比較例1〜22]PVA2〜PVA53の製造
酢酸ビニル及びメタノールの仕込み量、モノマーAの種類や添加量等の重合条件、けん化時におけるPVAcの濃度、酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を表1及び表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてPVA2〜PVA53を得た。得られた各PVAについて分析した結果を表1及び表2に示す。
Figure 0005886133
Figure 0005886133
[実施例32〜66及び比較例23〜46]水溶液の調製
PVA1〜PVA53について、所定の濃度及びpHとなるように、PVA水溶液を調製した。下記の評価方法によりPVA水溶液の粘度安定性、皮膜の耐水性、無機物を含有する皮膜の耐水性、及びPVAと無機物とのバインダー力を評価した。使用したPVAの種類と水溶液のpH及び評価結果を表3に示す。
[PVA水溶液の粘度安定性]
8%のPVA水溶液を調製して20℃恒温槽中に放置し、このPVA水溶液の温度が20℃になった直後の粘度と7日後の粘度を測定した。PVA水溶液の温度が20℃になった直後の粘度で7日後の粘度を除した値(7日後の粘度/直後の粘度)を求め、以下の基準にしたがって判定した。
A:2.5倍未満。
B:2.5倍以上3.0倍未満。
C:3.0倍以上5.0倍未満。
D:5.0倍以上であるが、PVA水溶液はゲル化していない。
E:PVA水溶液は流動性を失いゲル化している。
[皮膜の耐水性]
4%PVA水溶液を調製してこれを20℃で流延し、厚み40μmの皮膜を得た。得られた皮膜を縦10cm、横10cmの大きさに切り出し、試験片を作製した。この試験片を20℃の蒸留水に24時間浸漬した後、取り出し(回収し)、表面に付着した水分をガーゼで拭き取り、水膨潤時の質量を測定した。水膨潤時の質量を測定した試験片を105℃で16時間乾燥した後、乾燥時の質量を測定した。ここで水膨潤時の質量を乾燥時の質量で除した値を求めてこれを膨潤度(倍)とし、以下の基準にしたがって判定した。
S:3.0倍未満。
A:3.0倍以上5.0倍未満。
B:5.0倍以上8.0倍未満。
C:8.0倍以上10.0倍未満。
D:10.0倍以上。
E:浸漬した試験片を回収することができない。
[無機物を含有する皮膜の耐水性]
4%のPVA水溶液を調製し、PVA/コロイダルシリカの固形分基準の質量比が100/10となるように、コロイダルシリカ(日産化学工業製:スノーテックスST−O)の20%水分散液を加えた後、20℃で流延して厚み40μmの皮膜を得た。得られた皮膜を縦10cm、横10cmの大きさに切り出し、試験片を作製した。この試験片を20℃の蒸留水に24時間浸漬した後、取り出し(回収し)、表面に付着した水分をガーゼで拭き取り、水膨潤時の質量を測定した。水膨潤時の質量を測定した試験片を105℃で16時間乾燥した後、乾燥時の質量を測定した。ここで水膨潤時の質量を乾燥時の質量で除した値を求めてこれを膨潤度(倍)とし、以下の基準にしたがって判定した。
A:3.0倍未満。
B:3.0倍以上5.0倍未満。
C:5.0倍以上8.0倍未満。
D:8.0倍以上10.0倍未満。
E:10.0倍以上であるか、または浸漬した試験片を回収することができない。
[PVAと無機物とのバインダー力]
シリカ(水沢化学工業製:ミズカシルP78D)及びシリカの質量に対し0.2%の分散剤(東亞合成化学工業製:アロンT40)をホモミキサーにて水に分散し、シリカの20%水分散液を調製した。このシリカ水分散液に、シリカ/PVAの固形分基準の質量比が100/20となるように、8%に調整したPVA水溶液を添加し、必要量の水を添加することで上記シリカ及びPVAの合計濃度が15%のシリカ分散PVA水溶液を得た。
得られたシリカ分散PVA水溶液を、ワイヤーバーを用いて、上質紙の表面に60g/mの坪量で塗布した。その後、上質紙を熱風乾燥機を用い100℃で3分間乾燥して、評価用試料を得た。乾燥後の上質紙(評価用試料)における塗布量は11g/mであった。
評価用試料について、IGT印刷適性試験機(熊谷理機工業製)を用い、印圧50kg/cmにて測定を行い、評価用試料の表面の紙むけが起こった時点の印刷速度(cm/sec)を以ってPVAと無機物とのバインダー力とし、以下の基準にしたがってバインダー力を評価した。なお、IGT印刷適性試験機を用いて測定を行うにあたり、IGTピックオイルM(大日本インキ化学工業製)を用い、スプリング駆動Bの機構を採用した。
A:260cm/sec以上。
B:220cm/sec以上260cm/sec未満。
C:180cm/sec以上220cm/sec未満。
D:140cm/sec以上180cm/sec未満。
E:140cm/sec未満。
Figure 0005886133
表3に示されるように、実施例1〜31で得られたPVA(PVA1〜31)は、水溶性が高く、粘度安定性、得られた皮膜の耐水性及びバインダー性能(バインダー力)にも優れていることがわかる。ここで、粘度安定性はD以上であれば実用上十分な粘度安定性を有しているとし、他の3項目はC以上であることが、優れている評価とする。さらに、PVAの粘度平均重合度(P)、けん化度、単量体単位の構造、含有率(S)、粘度平均重合度(P)と含有率(S)の積(P×S)及び水溶液のpHを特定した、実施例32、38、42、45、47、50〜52、56、60〜63、65及び66の水溶液は、粘度安定性、得られた皮膜の耐水性及びバインダー性能(バインダー力)に特に優れている(粘度安定性がC以上の評価であり、他の3項目中、2項目以上がA以上であり、その他がBである)。なお、例えば実施例33、34、37、41、43、44、46、48、49、53〜55及び57〜59の水溶液は、粘度安定性や得られた皮膜の耐水性が若干低下することが分かる。これは粘度平均重合度(P)やけん化度の低下や、粘度平均重合度(P)と含有率(S)の積(P×S)が小さく、または大きくなっていることに起因する。また、実施例35、36、39及び40は水溶液のpHが酸性あるいはアルカリ性となっているため、皮膜の耐水性やバインダー力が低下していることが分かる。また、実施例64はシリル基と主鎖とを連結するアルキレン基の炭素数が18と長いため、疎水基相互作用が強くなり過ぎ、粘度安定性が低下していると考えられる。
一方、PVAが規定の要件を満たさない場合(比較例23〜46)、水溶性や粘度安定性、皮膜の耐水性能やバインダー性能(バインダー力)が低下することが分かる。なお、実施例32(PVA1)と比較例36(PVA43)及び比較例38(PVA45)とを比較すると、水溶液のpH、用いたPVAの粘度平均重合度(P)、けん化度、含有率(S)はほとんど同じ値であるにも関わらず、皮膜の耐水性やバインダー力は実施例32が良く、さらに粘度安定性も実施例32が良いことが分かる。この理由は十分には解明されていないが、実施例32のPVA1においては、主鎖とシリル基とを連結する炭素数3以上のアルキレン基の存在により、(1)シリル基の運動性が高く、皮膜の耐水性やバインダー力に優れ、(2)さらに水溶液中では、上記アルキレン基がSi−Rの加水分解の速度を低下又は反応を阻害させるため、粘度安定性が良くなっていると考えられる。
本発明のPVAは、紙用コーティング剤、内添サイズ剤、繊維加工剤、染料、グラスファイバーのコーティング剤、金属やガラスの表面コート剤、防曇剤等の被覆剤、木材、紙、アルミ箔、プラスティック等の接着剤、不織布バインダー、繊維状バインダー、石膏ボード及び繊維板等の建材用バインダー、各種エマルジョン系接着剤の増粘剤、尿素樹脂系接着剤の添加剤、セメント及びモルタル用添加剤、ホットメルト型接着剤、感圧接着剤等の各種接着剤、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル等の各種エチレン系不飽和単量体の乳化重合用分散剤、塗料、接着剤等の顔料分散用安定剤、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル等の各種エチレン性不飽和単量体の懸濁重合用分散安定剤、繊維、フィルム、シート、パイプ、チューブ、水溶性繊維、暫定皮膜等の成形物、疎水性樹脂への親水性付与剤、複合繊維、フィルムその他の成形物用添加剤等の合成樹脂用配合剤、土質改良剤、土質安定剤等に用いることができる。

Claims (5)

  1. 下記式(2)で表される単量体単位を含有し、下記式(I)を満たすビニルアルコール系重合体。
    Figure 0005886133
    (式()中、Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。Rは、アルコキシル基、アシロキシル基又はOMで表される基である。Mは、水素原子、アルカリ金属又はアンモニウム基である。R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基である。R〜Rで表されるアルキル基、アルコキシル基及びアシロキシル基が有する水素原子は、酸素原子又は窒素原子を含有する置換基で置換されていてもよい。mは、0〜2の整数である。nは、6以上20以下の整数である。R〜Rがそれぞれ複数存在する場合、複数存在する各R〜Rは、独立して上記定義を満たす。Xは、酸素原子又は窒素原子を含む2価の有機基である。R は、水素原子又はメチル基である。
    370≦P×S≦6,000 ・・・(I)
    P:粘度平均重合度
    S:上記単量体単位の含有率(モル%)
  2. 下記式(II)及び(III)をさらに満たす請求項1に記載のビニルアルコール系重合体。
    200≦P≦4,000 ・・・(II)
    0.1≦S≦10 ・・・(III)
    P:粘度平均重合度
    S:上記単量体単位の含有率(モル%)
  3. 上記式(2)中のXが−CO−NR−*(Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。*は、上記式(1)で表される基との結合箇所を示す。)で表される請求項1又は請求項2に記載のビニルアルコール系重合体。
  4. 上記式(2)中のXが−CO−NH−*(*は、上記式(1)で表される基との結合箇所を示す。)で表され、nが12以下の整数である請求項に記載のビニルアルコール系重合体。
  5. 請求項1から請求項のいずれか1項に記載のビニルアルコール系重合体を4質量%以上20質量%以下含有し、pHが4以上8以下である水溶液。
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