JP4546098B2 - 防曇剤およびそれが表面に塗工されてなる透明部材 - Google Patents

防曇剤およびそれが表面に塗工されてなる透明部材 Download PDF

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Description

本発明は、防曇剤、特にシリル基を有する特定のビニルアルコール系重合体を含有する防曇剤に関する。また、当該防曇剤が表面に塗工されてなる透明部材に関する。
ポリビニルアルコールに代表されるビニルアルコール系重合体(以下、ビニルアルコール系重合体を「PVA」と略記することがある)は水溶性の合成高分子として知られており、合成繊維ビニロンの原料に用いられ、また紙加工、繊維加工、接着剤、乳化重合および懸濁重合用の安定剤、無機物のバインダー、フィルムなどの用途に広範囲に用いられている。PVAは他の合成高分子と比べて強度特性および造膜性が特に優れており、その特性を生かして、紙の表面特性を改善するためのクリアーコーティング剤として、あるいは顔料コーティングにおけるバインダー、無機物(ガラス、金属)の防曇剤、金属表面処理剤などとして重用されている。
PVAの用途を拡大するためにPVAを変性する試みが種々なされており、その試みの1つとして、PVAへのケイ素(シリル基)の導入が挙げられる。シリル基含有PVAは、耐水性、ならびに無機物に対する反応性および接着性に特に優れている。シリル基含有PVAの製造法として、例えば、有機溶媒にトリエチルクロルシラン等のシリル化剤を溶解させた後、粉末状のPVAを添加し、攪拌下に反応させるという方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、この方法は、均一な変性物を得るのが困難である、PVAの製造とは別にPVAをシリル化剤と反応させる必要がある等の欠点を有しており、工業的な観点から実施しうる方法であるとは言い難い。
これらの問題を解決したシリル基含有PVAの製造法として、例えば、ビニルトリエトキシシラン等のビニルアルコキシシランと酢酸ビニルとの共重合体をけん化する方法(特許文献2)、シリル基を有するアクリルアミド誘導体と酢酸ビニル等のビニルエステルとの共重合体をけん化する方法(特許文献3)、特定の置換基を有するシリル基を含有する単量体とビニルエステルとの共重合体をけん化する方法(特許文献4)、シリル基を有するアリル系単量体とビニルエステルとの共重合体をけん化する方法(特許文献5)などが提案されている。
しかしながら、これらの方法で得られたシリル基含有PVAは、(a)シリル基含有PVAの水溶液を調製する際に、水酸化ナトリウムなどのアルカリまたは酸を添加しなければ、シリル基含有PVAを水に溶解させることができない場合がある、(b)シリル基含有PVAの水溶液の粘度安定性が十分ではない、(c)シリル基含有PVAの水溶液から得られる皮膜の耐水性が十分ではない、(d)シリル基含有PVAと無機物を含有する皮膜を形成させた場合に、シリル基含有PVAと無機物との間のバインダー力、および該皮膜の耐水性の両方を同時に満足させることが困難である、などの問題を有している。
イオン性親水基を導入したシリル基含有PVAが提案されており(特許文献6)、さらにシラノール基を側鎖に有するPVAが無機物と強い相互作用を有するとの報告がなされている(非特許文献1)が、このような変性PVAによっても、上記した(a)〜(d)の問題が解決されたとは言い難い。
一方、分子内にシリル基を有する変性ポリビニルアルコールよりなる防曇剤が提案されており(特許文献7)、その中にコロイダルシリカなどの無機物をさらに配合する手法も提案されている(特許文献8)。しかしながら、これらの手法によっても、得られる塗膜の防曇性、耐水性および基材への接着性は不十分であった。さらに、防曇剤の保存安定性も不十分であるし、防曇剤を調製する際にアルカリを添加することも必要であった。
特開昭55−164614号公報 特開昭50−123189号公報 特開昭58−59203号公報 特開昭58−79003号公報 特開平58−164604号公報 特開昭59−182803号公報 特開昭59−179683号公報 特開昭59−179627号公報 日本化学会誌、1994年、第4号、第365〜370頁
本発明は、それを基材の表面に塗工した際に得られる塗膜が、防曇性、耐水性および基材への接着性に優れ、防曇剤を調製する際にアルカリを添加することが不要で、しかも保存安定性の良好な防曇剤を提供することを目的とするものである。また、そのような防曇剤が表面に塗工されてなる透明部材を提供することを目的とするものである。
上記課題は、下記の一般式(1)
Figure 0004546098
(Rは炭素数1〜5のアルキル基であり、Rはアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、mは0〜2の整数である。)
で示されるシリル基を有する単量体単位を含有するビニルエステル系重合体をけん化することによって得られるビニルアルコール系重合体であって、下記式(I)及び式(II)を満足し、その4%水溶液のpHが4〜8であり、かつビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率が25重量%以下であることを特徴とするビニルアルコール系重合体を含有する防曇剤を提供することによって解決される。
20<Pw×S<460 ・・・(I)
Pw:ビニルアルコール系重合体の重量平均重合度
S:一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体単位の含有量(モル%)
0.1/100≦(A−B)/(B)≦50/100 ・・・(II)
A:ビニルアルコール系重合体中のケイ素原子の含有量(単位:ppm)
B:水酸化ナトリウムを含有するメタノールで洗浄し、次いでメタノールによるソックスレー抽出により洗浄したビニルアルコール系重合体中のケイ素原子の含有量(単位:ppm)
ここで、AおよびBは、それぞれ測定試料を灰化した後、ICP発光分析法により測定される。
このとき、前記ビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度の1/2倍よりも小さい重合体の重量分率が12重量%以下であることが好適である。
前記防曇剤が、さらに無機物を含有することが好適な実施態様である。また、上記課題は、上記防曇剤が表面に塗工されてなる透明部材を提供することによっても解決される。
本発明の防曇剤は、それを調製する際にアルカリを添加することが不要であり、しかも保存安定性に優れている。当該防曇剤を基材の表面に塗工した際に得られる塗膜は、防曇性、特に長期間にわたる防曇性に優れ、耐水性に優れ、しかも基材への接着性にも優れている。
本発明に用いるビニルアルコール系重合体は、上記したように、下記の一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体単位を含有するビニルエステル系重合体をけん化することによって得られるビニルアルコール系重合体であって、下記式(I)を満足し、かつビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率が25重量%以下であることが必要である。
20<Pw×S<460 ・・・(I)
Pw:ビニルアルコール系重合体の重量平均重合度
S:一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体単位の含有量(モル%)
Figure 0004546098
(Rは炭素数1〜5のアルキル基であり、Rはアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、mは0〜2の整数である。)
本発明に用いるビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール系重合体の重量平均重合度(Pw)とシリル基を有する単量体単位の含有量(S)の積(Pw×S)が20<Pw×S<460の関係を満足する必要がある。Pw×Sは、好ましくは50<Pw×S<420、さらに好ましくは100<Pw×S<390の関係を満足するのがよい。Pw×Sが20以下の場合には、シリル基含有PVAの水溶液から形成させた皮膜の耐水性が十分でなく、得られる塗膜の防曇性、特に長期間にわたる防曇性が不十分となり、基材への接着性も悪化する。一方、Pw×Sが460以上の場合には、アルカリなどを添加しなければシリル基含有PVAを水に溶解させることができない場合があり、防曇剤として使用できない場合がある。
該ビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度Pwの3倍を超える重合体の重量分率が25重量%を超える場合には、ビニルアルコール系重合体水溶液からなる防曇剤の粘度安定性が低下し、さらにビニルアルコール系重合体水溶液を調製する際に、均一な溶液が得られない場合がある。しかも、得られる塗膜の防曇性、特に長期間にわたる防曇性が不十分となり、基材への接着性も悪化する。
該ビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度Pwの3倍を超える重合体の重量分率が25重量%を超える場合に、ビニルアルコール系重合体の水溶液の粘度安定性が低下する理由は、以下のように考えられる。
シリル基を有する重合体に含まれる全ての単量体単位の中で、シリル基を有する単量体単位は一様に存在しているため、重合体の重合度が大きいほど、重合体1分子に含まれるシリル基を有する単量体単位の数が多くなる。そして、重合体1分子に含まれるシリル基を有する単量体単位の数が多いほど、その重合体はシリル基の影響を受けやすくなる。すなわち、重合度が大きい重合体の方が、重合度が小さい重合体よりもシリル基の影響を受けやすい。従って、高重合度成分を多く含むビニルアルコール系重合体は、シリル基の影響を受けやすい重合体を多く含んでいることになり、そのため、その水溶液の粘度安定性が低下すると考えられる。
これに対して、重合体の重合度が小さいほど、重合体1分子に含まれるシリル基を有する単量体単位の数が少なくなる。そして、重合体1分子に含まれるシリル基を有する単量体単位の数が少ないほど、その重合体はシリル基の影響を受けにくくなる。すなわち、重合度が小さい重合体の方が、重合度が大きい重合体よりもシリル基の効果が現れにくい。従って、低重合度成分を多く含むビニルアルコール系重合体は、シリル基の効果が小さい重合体を多く含んでいることになる。
本発明に用いるビニルアルコール系重合体は、その重合度が重量平均重合度Pwの1/2倍よりも小さい重合体の重量分率が12重量%以下であることが好ましい。ビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度の1/2倍よりも小さい重合体の重量分率が12重量%を超える場合には、シリル基の効果が小さい低重合度成分が多く含まれているため、ビニルアルコール系重合体と無機物を含有する皮膜を形成させた場合に、その皮膜の耐水性およびビニルアルコール系重合体と無機物とバインダー力が低下する場合がある。そのため、得られる塗膜の長期間にわたる防曇性が低下するとともに、基材への接着性が低下するおそれがある。
ビニルアルコール系重合体の重量平均重合度(Pw)および重合度分布は、例えば、GPC−LALLS測定によって求めることができる。すなわち、シリル基含有PVAをけん化度99.5モル%以上に再けん化し、精製した後、GPC−LALLS測定によって求められた重量平均分子量をビニルアルコール単量体単位の式量44で割ることにより、重量平均重合度が求められる。また、GPC−LALLS測定から得られる積分重合度分布より、重合度が特定の範囲内にある重合体の重量分率を求めることができる。
本発明に用いるビニルアルコール系重合体において、シリル基を有する単量体単位の含有量S(モル%)は、けん化する前のビニルエステル系重合体のプロトンNMRから求められる。ここでけん化する前のビニルエステル系重合体のプロトンNMRを測定するに際しては、該ビニルエステル系重合体をヘキサン−アセトンにより再沈精製して重合体中から未反応のシリル基を有する単量体を完全に取り除き、次いで90℃減圧乾燥を2日間行った後、CDCl溶媒に溶解して分析に供する。
本発明に用いるビニルアルコール系重合体は下記式(II)を満足することが好ましい。
0.1/100≦(A−B)/(B)≦50/100 ・・・(II)
A:ビニルアルコール系重合体中のケイ素原子の含有量(単位:ppm)
B:水酸化ナトリウムを含有するメタノールで洗浄し、次いでメタノールによるソックスレー抽出により洗浄したビニルアルコール系重合体中のケイ素原子の含有量(単位:ppm)
ここで、AおよびBは、それぞれ測定試料を灰化した後、ICP発光分析法により測定される。
(A−B)/(B)の好ましい範囲は0.1/100〜50/100であり、さらに好ましい範囲は0.3/100〜25/100であり、特に好ましい範囲は0.4/100〜20/100である。
ここで、上記ケイ素原子の含有量(B)を求めるにあたり、ビニルアルコール系重合体の標準的な洗浄方法は、まず、水酸化ナトリウムを含有するメタノールによる洗浄操作(ビニルアルコール系重合体1重量部に対して、ビニルアルコール系重合体のビニルアルコール単量体単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように、水酸化ナトリウムを含有するメタノール溶液を10重量部添加し、得られた混合物を1時間煮沸した後、重合体をろ別する操作)を5回繰り返し、次いで、メタノールによるソックスレー抽出を1週間行う方法である。上記洗浄方法において、水酸化ナトリウムを含有するメタノールによる洗浄操作およびメタノールによるソックスレー抽出は、ビニルアルコール系重合体中のケイ素原子の含有量がほぼ変化しなくなるまで行われるものであり、この条件が満たされる範囲において、水酸化ナトリウムを含有するメタノールによる洗浄操作回数およびメタノールによるソックスレー抽出期間は適宜増減してもよい。
上記ビニルアルコール系重合体のケイ素原子の含有量(A)は、ビニルアルコール系重合体中に含まれる全てのケイ素原子の含有量を示すと考えられる。また、水酸化ナトリウムを含有するメタノールで洗浄し、次いでメタノールによるソックスレー抽出により洗浄したビニルアルコール系重合体中のケイ素原子の含有量(B)は、ビニルアルコール系重合体の主鎖に直接組み込まれたシリル基含有単量体に由来するケイ素原子の含有量を示すと考えられる。
ケイ素原子の含有量(B)を求めるに当たり、ビニルアルコール系重合体は水酸化ナトリウムを含有するメタノールで洗浄され、その際にシロキサン結合(−Si−O−Si−)が切断される。このとき、ビニルアルコール系重合体の主鎖に直接組み込まれておらず、シロキサン結合を介してビニルアルコール系重合体の主鎖と結合していたシリル基含有単量体は、ビニルアルコール系重合体から切り離され、重合体中から取り除かれる。そのため、ケイ素原子の含有量(B)は、ビニルアルコール系重合体の主鎖に直接組み込まれていないシリル基含有単量体が取り除かれた状態でのケイ素原子の含有量を示していると考えられる。したがって、上記の関係式0.1/100≦(A−B)/(B)≦50/100における(A−B)は、ビニルアルコール系重合体の主鎖に直接導入されていないシリル基を有する単量体単位に由来するシリル基の含有量を示していると考えられる。
ビニルアルコール系重合体における(A−B)/(B)の値が大きい場合には、ビニルアルコール系重合体に余剰のシリル基を有する単量体単位が多く含まれていることを意味しており、ビニルアルコール系重合体における(A−B)/(B)の値が小さい場合には、ビニルアルコール系重合体の主鎖に直接導入されていない、余剰のシリル基を有する単量体単位の量が少ないことを意味している。
(A−B)/(B)の値が大き過ぎると、余剰のシリル基を含有する単量体単位と、主鎖に組み込まれたシリル基含有単量体単位との間でシロキサン結合(−Si−O−Si−)が多数形成されるために、ビニルアルコール系重合体の分子の運動性が制限されて、ビニルアルコール系重合体の水溶液の粘度安定性が低下することがある。また、本発明の防曇剤がさらに無機物を含有することが好適な実施態様であるが、(A−B)/(B)の値が大き過ぎると、ビニルアルコール系重合体と無機物との相互作用が大きくなり過ぎて、ビニルアルコール系重合体と無機物との混合水溶液を調製する際に均一な溶液を得ることができなくなったりする場合がある。そして、得られる塗膜の長期間にわたる防曇性が低下するとともに、基材への接着性が低下するおそれがある。
(A−B)/(B)の値が小さ過ぎると、余剰のシリル基を含有する単量体単位と、主鎖に組み込まれたシリル基含有単量体単位との間で形成されるシロキサン結合(−Si−O−Si−)の割合が少ないために、ビニルアルコール系重合体に含まれるシリル基の量が低下することがある。本発明の防曇剤は、さらに無機物を含有することが好適な実施態様であるが、(A−B)/(B)の値が小さ過ぎると、ビニルアルコール系重合体と無機物との相互作用が小さくなったり、また、ビニルアルコール系重合体と無機物を含有する皮膜を形成させた場合に、その皮膜の耐水性およびビニルアルコール系重合体の無機物とのバインダー力が低下したりすると考えられる。そのため、シリル基含有PVAと無機物を含有する皮膜を形成させた場合にその皮膜の耐水性が低下するとともに、バインダー力が低下するおそれがある。そして、得られる塗膜の長期間にわたる防曇性が低下するとともに、基材への接着性が低下するおそれがある。さらに、(A−B)/(B)が0.1/100に満たないビニルアルコール系重合体は、その製造の際の洗浄にコストがかかるため現実的ではない。
本発明に用いるビニルアルコール系重合体は、その4%水溶液のpHが4〜8であることが好ましい。その4%水溶液のpHのさらに好ましい範囲は4.5〜7であり、特に好ましい範囲は5〜6.5である。4%水溶液のpHが4に満たない場合には、ビニルアルコール系重合体を含有する防曇剤の粘度安定性が低下することがあり、4%水溶液のpHが8を超える場合には、ビニルアルコール系重合体と無機物を含有する皮膜を形成させた場合に、皮膜の耐水性が低下することがあるため好ましくない。そして、得られる塗膜の長期間にわたる防曇性が低下するとともに、基材への接着性が低下するおそれがある。
本発明に用いるビニルアルコール系重合体に含まれるシリル基を表す一般式(1)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基であり、Rはアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、mは0〜2の整数である。
ここで、Rで表される炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、tert−ペンチル基、イソペンチル基などが挙げられる。Rで表されるアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシロキシ基、オクチロキシ基、ラウリロキシ基、オレイロキシ基などが挙げられ、また、アシロキシル基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基などが挙げられる。これらのアルコキシル基またはアシロキシル基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、その置換基の例として、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシル基を挙げることができる。
本発明に用いるビニルアルコール系重合体は、ビニルエステル単量体と一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体とを共重合させ、得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより製造することができる。
また、本発明に用いるビニルアルコール系重合体は、ビニルエステル単量体と一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体とを2−メルカプトエタノール、n−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で共重合させ、得られるビニルエステル系重合体をけん化することによっても製造することができる。この方法により、チオール化合物に由来する官能基が末端に導入されたビニルアルコール系重合体が得られる。
このようなビニルアルコール系重合体の製造に用いられるビニルエステル単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、とりわけ酢酸ビニルが好ましい。
ビニルエステル単量体とのラジカル共重合に用いられる一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体として、下記の一般式(2)または下記の一般式(3)で示される化合物を挙げることができる。
Figure 0004546098
(式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基であり、Rはアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、mは0〜2の整数であり、nは0〜4の整数である。)
Figure 0004546098
(式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基であり、Rはアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、Rは炭素数1〜5のアルキレン基であるかまたは酸素原子もしくは窒素原子を含む2価の炭化水素基であり、mは0〜2の整数である。)
上記一般式(2)および一般式(3)において、Rで表される炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、tert−ペンチル基、イソペンチル基などが挙げられる。Rで表されるアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシロキシ基、オクチロキシ基、ラウリロキシ基、オレイロキシ基などが挙げられ、また、アシロキシル基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基などが挙げられる。これらのアルコキシル基またはアシロキシル基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、その置換基の例として、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシル基を挙げることができる。また、Rで表される炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、tert−ペンチル基、イソペンチル基などが挙げられる。Rで表される炭素数1〜5のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、ジメチルエチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基などが挙げられ、また、酸素原子または窒素原子を含む2価の炭化水素基としては、−CHCHNHCHCHCH−、−CHCHNHCHCH−、−CHCHNHCH−、−CHCHN(CH)CHCH−、−CHCHN(CH)CH−、−CHCHOCHCHCH−、−CHCHOCHCH−、−CHCHOCH−などが挙げられる。
上記式(2)で示される単量体としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルジメチルメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン、アリルジメチルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルイソブチルジメトキシシラン、ビニルエチルジメトキシシラン、ビニルメトキシジブトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメトキシジヘキシロキシシラン、ビニルジメトキシヘキシロキシシラン、ビニルトリヘキシロキシシラン、ビニルメトキシジオクチロキシシラン、ビニルジメトキシオクチロキシシラン、ビニルトリオクチロキシシラン、ビニルメトキシジラウリロキシシラン、ビニルジメトキシラウリロキシシラン、ビニルメトキシジオレイロキシシラン、ビニルジメトキシオレイロキシシランなどが挙げられる。
上記式(2)においてnが1以上のシリル基を有する単量体とビニルエステル単量体を共重合させる場合には、得られるビニルエステル系重合体の重合度が低下する傾向がある。その点、ビニルトリメトキシシランは、ビニルエステル単量体と共重合させた場合に、得られるビニルエステル系重合体の重合度の低下を抑えることができるうえ、工業的な製造が容易で安価に入手できることから好ましく用いることができる。
また、上記式(3)で示される単量体としては、例えば、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、2−(メタ)アクリルアミド−エチルトリメトキシシラン、1−(メタ)アクリルアミド−メチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−イソプロピルトリメトキシシラン、N−(2−(メタ)アクリルアミド−エチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン、(3−(メタ)アクリルアミド−プロピル)−オキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリアセトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−エチルトリアセトキシシラン、4−(メタ)アクリルアミド−ブチルトリアセトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリプロピオニルオキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリアセトキシシラン、N−(2−(メタ)アクリルアミド−エチル)−アミノプロピルトリアセトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルイソブチルジメトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−エチルジメチルメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルメチルジアセトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルハイドロジェンジメトキシシラン、3−(N−メチル−(メタ)アクリルアミド)−プロピルトリメトキシシラン、2−(N−エチル−(メタ)アクリルアミド)−エチルトリアセトキシシランなどが挙げられる。
これらの単量体の中でも、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシランおよび3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリアセトキシシランは、工業的な製造が比較的容易で安価に入手できることから好ましく用いることができ、また2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリメトキシシランおよび2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリアセトキシシランはアミド結合が酸またはアルカリに対して著しく安定であることから、好ましく用いることができる。
シリル基を有する単量体とビニルエステル単量体とを共重合させる方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その方法の中でも、無溶媒で行う塊状重合法、またはアルコールなどの溶媒を用いて行う溶液重合法が通常採用される。塊状重合法や溶液重合法で重合するにあたって、その重合度が重量平均重合度Pwの3倍を超える重合体の重量分率が25重量%以下であり、好ましくは、その重合度が重量平均重合度Pwの1/2倍より小さい重合体の重量分率が12重量%以下である本発明のビニルアルコール系重合体を得る重合方法については、重合条件等により一概に限定はできないが、高重合度成分および低重合度成分の比率を抑える観点から、連続重合方式が最も好ましい。連続重合方式としては、例えば1〜2槽連続重合方式が好ましく、1槽連続重合方式がさらに好ましい。また、回分方式の場合、ビニルエステル単量体の重合率などにより、高重合度成分および低重合度成分の比率が変化し、重合率の上昇に伴い、高重合度成分および低重合度成分の比率は増加するため、比較的低重合率で重合する方が好ましい。回分方式での好適な重合率は、重合条件などにより異なるため一概に規定はできないが、ビニルエステル単量体の重合率として、10〜80%が好ましく、15〜50%がさらに好ましい。溶液重合法を採用して共重合反応を行う際に、溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合反応に使用される開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)などのアゾ系開始剤;過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどの過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。共重合反応を行う際の重合温度については特に制限はないが、50〜180℃の範囲が適当である。
シリル基を有する単量体とビニルエステル単量体とをラジカル共重合させる際には、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、必要に応じて、共重合可能な単量体を共重合させることができる。このような単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボン酸またはその誘導体;アクリル酸またはその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸またはその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有ビニルエーテル類;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等のカチオン基を有する単量体などが挙げられる。これらのシリル基を有する単量体およびビニルエステル単量体と共重合可能な単量体の使用量は、その使用される目的および用途等によっても異なるが、通常、共重合に用いられる全ての単量体を基準にした割合で20モル%以下、好ましくは10モル%以下である。
シリル基を有する単量体とビニルエステル単量体とを共重合させることによって得られたビニルエステル系重合体は、次いで、公知の方法にしたがって溶媒中でけん化され、ビニルアルコール系重合体へと導かれる。
ビニルエステル系重合体のけん化反応の触媒としては通常、アルカリ性物質が用いられ、その例として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、およびナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。アルカリ性物質の使用量は、ビニルエステル系重合体中のビニルエステル単量体単位を基準にしたモル比で0.004〜0.5の範囲内であることが好ましく、0.005〜0.05の範囲内であることが特に好ましい。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括して添加しても良いし、あるいはけん化反応の初期に一部を添加し、残りをけん化反応の途中で追加して添加しても良い。
けん化反応に用いることができる溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく用いられ、その使用にあたり、メタノールの含水率が好ましくは0.001〜1重量%、より好ましくは0.003〜0.9重量%、特に好ましくは0.005〜0.8重量%に調整されているのがよい。
けん化反応は、好ましくは5〜80℃、より好ましくは20〜70℃の温度で行われる。けん化反応に必要とされる時間は、好ましくは5分〜10時間、より好ましくは10分〜5時間である。けん化反応は、バッチ法および連続法のいずれの方式にても実施可能である。けん化反応の終了後に、必要に応じて、残存するけん化触媒を中和しても良く、使用可能な中和剤として、酢酸、乳酸などの有機酸、および酢酸メチルなどのエステル化合物などを挙げることができる。
本発明のビニルアルコール系重合体のけん化度について特に制限はないが、けん化度は好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。そして、得られる塗膜の長期間にわたる防曇性を向上させるという観点からは、ビニルアルコール系重合体の最適のけん化度は95モル%以上である。
けん化反応により得られたビニルアルコール系重合体は、必要に応じて、洗浄することができ、この操作は、前述したビニルアルコール系重合体における(A−B)/(B)の値を調整する手段として有用である。
使用可能な洗浄液としては、メタノールなどの低級アルコール、酢酸メチルなどの低級脂肪酸エステル、およびそれらの混合物などを挙げることができ、これらの洗浄液には、少量の水、またはアルカリもしくは酸が添加されていても良い。
ビニルアルコール系重合体を洗浄するのに採用される方法は、ビニルエステル系単量体とシリル基を有する単量体とを共重合させる際の重合率、共重合によって得られるビニルエステル系重合体の重合度、ビニルエステル系重合体をけん化することによって得られるビニルアルコール系重合体のけん化度等により異なり、これを一律に規定するのは困難である。その方法の一つとして、例えば、ビニルエステル単量体とシリル基を有する単量体との共重合体(ビニルエステル系重合体)をアルコール溶液中でけん化することによって得られる、乾燥する前のアルコールなどが含浸された湿潤状態のビニルアルコール系重合体の重量に対して1〜20倍量のメタノールなどの低級アルコール、酢酸メチルなどの低級脂肪酸エステル、またはそれらの混合物を洗浄液として用い、20℃〜洗浄液の沸点の温度条件にて30分〜10時間程度洗浄するという方法を挙げることができる。
本発明に用いるビニルアルコール系重合体は粉末の状態で保存および輸送することが可能であり、また、使用に際しては、粉末の状態のままで、あるいは液体に分散させた状態で使用することができる。ビニルアルコール系重合体を水に溶解させて、水溶液として使用することもでき、この場合には、ビニルアルコール系重合体を水に分散させた後、攪拌しながら加温することにより均一な水溶液とすることができる。なお、この場合には、水に対して水酸化ナトリウムなどのアルカリを特に添加しなくとも均一な水溶液を得ることができる。
本発明の防曇剤は、通常、溶液あるいは分散液の形態であり、その媒質は水であることが好ましいが、これにアルコール、ケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの有機溶媒を併用しても構わない。なかでも、ビニルアルコール系重合体が均一に溶解した水溶液であることが最適である。本発明で使用するビニルアルコール系重合体は、アルカリを添加しなくても水に対して溶解させることができ、しかも溶液の保存安定性が良好である。ビニルアルコール系重合体の濃度は、好適には1〜30重量%、より好適には2〜20重量%である。
本発明の防曇剤は、さらに無機物を含有することが好適である。使用される無機物としては、アルミニウム、ケイ素、マグネシウム、カルシウム等の元素を含むものが好ましく、具体的には、クレー、タルク、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、シリカ、酸化アルミニウム等が挙げられ、水ガラス、水溶性アルミニウム化合物(例えば炭酸ジルコニウムアンモニウム)等の水溶性無機物も使用し得る。しかしながら、水溶液無機物を高濃度で使用する場合には、シリル基含有PVAと混合した混合水溶液の粘度安定性が低く、場合によってはゲルを発生するおそれがあるので、必ずしも好ましくない。したがって、本発明の目的のためには水不溶性の無機物の微粒子を使用することが好ましく、粒子径が200nm以下の微粒子がより好ましく、粒子径100nm以下の微粒子がさらに好ましい。粒子径が200nmを超える場合には、塗膜の透明性が悪化するおそれがある。特に好適なものとしては、コロイダルシリカあるいはコロイダルアルミナが挙げられ、コロイダルシリカが最適である。コロイダルシリカを使用した場合には、塗膜の透明性および吸水時の表面硬度が良好になる。
本発明の防曇剤において、ビニルアルコール系重合体と無機物との重量比率[(ビニルアルコール系重合体)/(無機物)]は、0.1/99.9〜100/0、より好ましくは1/99〜95/5、さらに好ましくは10/90〜90/10、特に好ましくは25/75〜75/25となるように調整することが好ましい。無機物の配合比率が少なすぎる場合には、吸水時の表面硬度が低くなるおそれがある。一方、無機物の配合比率が多すぎる場合には、得られる塗膜の基材への接着性および乾燥時の耐擦傷性が低下するおそれがある。
本発明の防曇剤には、本発明で使用されるビニルアルコール系重合体、無機物および溶媒以外に、各種の添加剤を配合することもできる。配合される添加剤としては、消泡剤、分散剤、ノニオン性あるいはアニオン性界面活性剤、シランカップリング剤、pH調整剤などが挙げられる。また、本発明で使用されるビニルアルコール系重合体以外の、水溶性あるいは水分散性の高分子化合物を併用することもできる。水溶性の高分子化合物としては、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリヒドロキシ(メタ)アクリレートまたはその共重合体、ポリアクリルアミド等の(メタ)アクリル系重合体、ポリビニルピロリドンまたはその共重合体、カルボキシ基含有変性PVA、スルホン酸基含有変性PVA、リン酸基含有変性PVA、4級アンモニウム塩基含有変性PVA、アミノ基含有変性PVA、一般のPVA等のPVA誘導体等が挙げられる。水分散性の高分子化合物としては、アクリル重合体および共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ビニルエステル系重合体および共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体などの水性分散体が挙げられる。
こうして得られる本発明の防曇剤は、水溶液あるいは水分散液として、基材の表面に塗布される。本発明の防曇剤が塗布される基材は特に限定されず、ガラス、プラスチック、金属などが挙げられるが、透明基材であることが好適である。具体的には、自動車、電車、ビル等の窓ガラス、眼鏡用レンズ、浴室などの鏡、農業ハウス用プラスチックフィルム、窓ガラス用プラスチックフィルムなどの用途に好適に使用される。
本発明の防曇剤を基材表面に塗布する方法としては、例えば、ハケ塗り、浸漬塗り、スピンコーティング、流し塗り、スプレー塗布、ロール塗装、エアーナイフコーティング、ブレードコーティング等の通常知られている各種の方法を用いることが可能である。本発明の防曇剤は上述の方法により塗布された後、加熱処理を適宜施すことにより、基材への接着力が高く、吸水時の表面硬度の高い塗膜を得ることができる。塗膜の厚みは特に限定されないが、通常0.1〜50μm、好適には0.2〜20μmである。
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断らない限り重量基準を意味する。
I.シリル基含有ビニルアルコール系重合体
下記の方法によりPVAを製造し、そのけん化度、シリル基を有する単量体単位の含有量、重量平均重合度、およびケイ素原子の含有量を求めた。
[PVAのけん化度]
PVAのけん化度は、JIS−K6726に記載の方法により求めた。
[PVAに含まれるシリル基を有する単量体単位の含有量]
けん化する前のビニルエステル系重合体をヘキサン−アセトンにより再沈精製して、重合体中から未反応のシリル基を有する単量体を完全に取り除き、次いで90℃減圧乾燥を2日間行った後、CDCl溶媒に溶解したものを測定試料とし、500MHzのプロトンNMR測定装置(JEOL GX−500)によりPVAに含まれるシリル基を有する単量体単位の含有量を求めた。
[PVAの重量平均重合度]
PVAをけん化度99.5モル%以上までけん化したものを試料として用い、LALLS(低角度レーザー光散乱光度計)法により重量平均分子量を求めた。カラムとしてTSK−gel−GMPWxL(東ソー製)3本を接続したGPC224型ゲル浸透クロマトグラフ(Waters)を用いて、23℃にて測定を行った。なお、測定にあたり、溶媒として0.08Mのトリス緩衝液(pH7.9)を用い、検出器にはR−401型示差屈折率計、8X(Waters)を用いた。試料の絶対分子量を求めるため、KMX−6型低角度レーザー光散乱光度計(Chromatix)を接続して測定を行い、測定の結果得られた重量平均分子量をビニルアルコール単量体単位の式量44で割った値を重量平均重合度とした。また、重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率、および重合度が重量平均重合度の1/2倍よりも小さい重合体の重量分率は、上記の測定により得られた積分重合度分布から求めた。
[PVAに含まれるケイ素原子の含有量]
PVAに含まれるケイ素原子の含有量は、前述した方法にしたがって、ジャーレルアッシュ社製ICP発光分析装置IRIS APを用いて求めた。
PVA1
攪拌機、温度センサー、薬液添加ライン、重合液取り出しラインおよび還流冷却管を備え付けた重合槽に酢酸ビニル2500部、メタノール1656部、ビニルトリメトキシシラン(VMS)を2重量%含有するメタノール溶液752部を仕込み、攪拌下に系内を窒素置換した後、内温を60℃まで上げた。この系に2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメトキシバレロニトリル)(AMV)を0.1部含有するメタノール20部を添加し、重合反応を開始した。重合開始時点より、VMSを2重量%含有するメタノール溶液100部を添加しながら重合を実施した。また同時に、AMVを0.13重量%含有するメタノール溶液を23部/時間の割合で系内に添加し、系内の固形分濃度が25%になるまで4時間重合反応を行った。系内における固形分の濃度が25%に到達した時点から、酢酸ビニル625部/時間、メタノール414部/時間、VMSを2%含有するメタノール溶液188部/時間、およびAMVを0.13%含有するメタノール溶液を23部/時間の割合でそれぞれ系内に添加する一方で、重合槽内の液面が一定になるように系内から重合液を連続的に取り出しながら重合反応を行い、溶液の添加開始から4時間を経過した時点で重合液を回収した。回収した液にメタノール蒸気を導入することで未反応の酢酸ビニル単量体を追い出し、ビニルエステル系重合体を40%含むメタノール溶液を得た。なお、重合液の回収を始めた時点の系内の固形分濃度は25%であった。
このビニルエステル系重合体を40%含有するメタノール溶液に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.02、ビニルエステル系重合体の固形分濃度が35重量%となるように、メタノール、および水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液をこの順序で攪拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。
けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した直後にこれを反応系から取り出して粉砕し、次いで、この粉砕物に対して、けん化反応の開始から1時間が経過した時点で酢酸メチルを添加することで中和し、メタノールで膨潤したPVAを得た。このメタノールで膨潤したPVAに対して重量基準で6倍量(浴比6倍)のメタノールを加え、還流下に1時間洗浄し、次いで65℃で16時間乾燥してPVAを得た。
得られたPVAにおけるビニルトリメチルシラン単位の含有量は0.50モル%、けん化度は98.5モル%、重量平均重合度は580であった。また、上記したPVAに含まれるケイ素原子含有量の分析方法に従って求められた(A−B)/(B)の値は10.9/100であり、4%PVA水溶液のpHは6.0であった。
PVA2
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、シリル基を有する単量体の仕込み量、重合開始剤の使用量、重合反応の条件等を表1に示すように変化させた以外はPVA1と同様の方法によりPVA2を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA3
攪拌機、温度センサー、薬液添加ライン、重合液取り出しラインおよび還流冷却管を備え付けた重合槽1、ならびに同様の装備をした重合槽2に、それぞれ酢酸ビニル2000部、メタノール2352部、ビニルトリメトキシシラン(VMS)を2重量%含有するメタノール溶液600部を仕込み、攪拌下に系内を窒素置換した後、内温を60℃まで上げた。重合槽1および重合槽2に、それぞれ2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメトキシバレロニトリル)(AMV)0.05部を含有するメタノール溶液20部を添加し、重合反応を開始した。それぞれの重合槽に、重合開始時点よりVMS2重量%を含有するメタノール溶液80部を150部/時間の割合で添加しながら重合を実施した。また同時に、AMV0.13重量%を含有するメタノール溶液を4部/時間の割合で重合槽1および重合槽2に添加し、系内における固形分の濃度が10%になるまで4時間重合反応を行った。その後、重合槽1に酢酸ビニル500部/時間、メタノール588部/時間、VMSを2%含有するメタノール溶液150部/時間、およびAMVを0.13%含有するメタノール溶液を4部/時間の割合でそれぞれ系内に添加する一方で、重合槽内の液面が一定になるように重合槽1から重合液を連続的に取り出してこれを重合槽2へフィードし、重合槽2についても重合槽内の液面が一定になるように重合液を連続的に取り出しながら重合反応を行った。なお、重合槽1から取り出した重合液を重合槽2へフィードする際に、AMVを0.13%含有するメタノールを8部/時間の割合で添加した。
フィード開始から4時間が経過して重合槽1での固形分の濃度が10%、重合槽2での固形分の濃度が24%となった時点で重合槽2より重合液を回収し、回収した液にメタノール蒸気を導入することで未反応の酢酸ビニル単量体を追い出し、ビニルエステル系重合体を40%含むメタノール溶液を得た。
このビニルエステル系重合体を40%含有するメタノール溶液に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.02、ビニルエステル系重合体の固形分濃度が35重量%となるように、メタノール、および水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液をこの順序で攪拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。
けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した直後にこれを反応系から取り出して粉砕し、次いで、この粉砕物に対して、けん化反応の開始から1時間が経過した時点で酢酸メチルを添加することで中和し、メタノールで膨潤したPVAを得た。このメタノールで膨潤したPVAに対して重量基準で6倍量(浴比6倍)のメタノールを加え、還流下に1時間洗浄し、次いで65℃で16時間乾燥してPVAを得た。
得られたPVAにおけるビニルトリメチルシランの含有量は0.50モル%、けん化度は98.2モル%、重量平均重合度は590であった。また、上記したPVAに含まれるケイ素原子含有量の分析方法に従って求められた(A−B)/(B)の値は9.6/100であり、4%PVA水溶液のpHは6.0であった。
PVA4
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、シリル基を有する単量体の仕込み量、重合開始剤の使用量、重合反応の条件、けん化反応の条件等を表2に示すように変化させた以外はPVA3と同様の方法によりPVA4を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA5
攪拌機、温度センサー、滴下漏斗および還流冷却管を備え付けた6Lセパラブルフラスコに酢酸ビニル1050部、メタノール2056部、ビニルトリメトキシシランを2重量%含有するメタノール溶液394部を仕込み、攪拌下に系内を窒素置換した後、内温を60℃まで上げた。この系に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1.3部を含有するメタノール20部を添加し、重合反応を開始させた。重合開始時点よりビニルトリメトキシシランを2重量%含有するメタノール溶液30部を系内に添加しながら4時間重合反応を行い、その時点で重合反応を停止した。重合反応を停止した時点における系内の固形分濃度は15.2%であった。次いで、系内にメタノール蒸気を導入することで未反応の酢酸ビニル単量体を追い出し、ビニルエステル系重合体を40%含むメタノール溶液を得た。
このビニルエステル系重合体を40%含有するメタノール溶液に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.02、ビニルエステル系重合体の固形分濃度が35重量%となるように、メタノール、および水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液をこの順序で攪拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。
けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した直後にこれを反応系から取り出して粉砕し、次いで、この粉砕物に対して、けん化反応の開始から1時間が経過した時点で酢酸メチルを添加することで中和し、メタノールで膨潤したPVAを得た。このメタノールで膨潤したPVAに対して重量基準で6倍量(浴比6倍)のメタノールを加え、還流下に1時間洗浄し、次いで65℃で16時間乾燥してPVAを得た。
得られたPVAにおけるビニルトリメチルシランの含有量は0.50モル%、けん化度は98.5モル%、重量平均重合度は560であった。また、上記したPVAに含まれるケイ素原子含有量の分析方法に従って求められた(A−B)/(B)の値は10.9/100であり、4%PVA水溶液のpHは6.0であった。
PVA6〜9
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、シリル基を有する単量体の種類および仕込み量、重合開始剤の使用量、重合反応の条件、けん化反応の条件等を表3に示すように変化させた以外はPVA5と同様の方法により各種のPVA(PVA6〜9)を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA10
ビニルエステル系重合体に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように、水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液を添加してけん化反応を行った以外は、PVA1と同様にしてPVA10を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA11
ビニルエステル系重合体に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように、水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液を添加してけん化反応を行った以外は、PVA2と同様にしてPVA11を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA12
メタノールによる洗浄の操作を省略した以外はPVA2と同様の方法によりPVA12を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA13
けん化反応で得られたPVAを酢酸メチルで中和する前に、メタノールを用いたソックスレー抽出による洗浄の操作を加えた以外は、PVA2と同様にしてPVA13を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA14
酢酸メチルの代わりに、けん化反応に用いた水酸化ナトリウムの5倍のモル数の酢酸を用いて中和を行い、さらにメタノールによる洗浄(浴比6倍)を室温で1時間行った以外はPVA2と同様の方法によりPVA14を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA15
酢酸メチルによる中和を行わず、さらにメタノールによる洗浄(浴比6倍)を室温で1時間行った以外はPVA2と同様の方法によりPVA15を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA16および17
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、シリル基を有する単量体の仕込み量、重合開始剤の使用量、重合反応の条件等を表1に示すように変化させた以外はPVA1と同様の方法によりPVA16および17を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA18および19
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、シリル基を有する単量体の仕込み量、重合開始剤の使用量、重合反応の条件、けん化反応の条件等を表2に示すように変化させた以外はPVA3と同様の方法によりPVA18および19を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA20および21
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、シリル基を有する単量体の種類および仕込み量、重合開始剤の使用量、重合反応の条件、けん化反応の条件等を表3に示すように変化させた以外はPVA5と同様の方法によりPVA20および21を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA22
ビニルエステル系重合体に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように、水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液を添加してけん化反応を行った以外は、PVA16と同様にしてPVA22を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA23
ビニルエステル系重合体に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように、水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液を添加してけん化反応を行った以外は、PVA17と同様にしてPVA23を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
Figure 0004546098
Figure 0004546098
Figure 0004546098
Figure 0004546098
II.PVAの評価
PVA1〜23について、下記の評価方法によりPVA水溶液の粘度安定性、皮膜の耐水性、無機物を含有する皮膜の耐水性、ならびにPVAと無機物とのバインダー力を評価した。その結果を表5にまとめて示す。
[PVA水溶液の粘度安定性]
濃度9%のPVA水溶液を調製して10℃恒温槽中に放置し、該PVA水溶液の温度が10℃になった直後の粘度と7日後の粘度を測定した。PVA水溶液の温度が10℃になった直後の粘度で7日後の粘度を除した値(7日後/直後)を求め、以下の基準にしたがって判定した。
A:2.5倍未満。
B:2.5倍以上3.5倍未満。
C:3.5倍以上。
[皮膜の耐水性]
濃度8%のPVA水溶液を調製してこれを20℃で流延し、厚み40μmの皮膜を得た。得られた皮膜を120℃で10分間熱処理した後、縦10cm、横10cmの大きさに切り出し、試験片を作製した。この試験片を20℃の蒸留水に30分間浸漬した後、取り出し(回収し)、表面に付着した水分をガーゼで拭き取り、水膨潤時の重量を測定した。水膨潤時の重量を測定した試験片を105℃で16時間乾燥した後、乾燥時の重量を測定した。ここで水膨潤時の重量を乾燥時の重量で除した値を求めてこれを膨潤度(倍)とし、以下の基準にしたがって判定した。
A:4.0倍未満。
B:4.0倍以上5.0倍未満。
C:5.0倍以上であるか、または浸漬した試験片を回収することができない。
[無機物を含有する皮膜の耐水性]
濃度8%のPVA水溶液を調製し、PVA/コロイダルシリカの固形分基準の重量比が100/10となるように、コロイダルシリカ(日産化学工業製:スノーテックスST−O)の20%水分散液を加えた後、20℃で流延して厚み40μmの皮膜を得た。
得られた皮膜を120℃で30分間熱処理した後、縦10cm、横10cmの大きさに切り出し、試験片を作製した。この試験片を20℃の蒸留水に24時間浸漬した後、取り出し(回収し)、表面に付着した水分をガーゼで拭き取り、水膨潤時の重量を測定した。水膨潤時の重量を測定した試験片を105℃で16時間乾燥した後、乾燥時の重量を測定した。ここで水膨潤時の重量を乾燥時の重量で除した値を求めてこれを膨潤度(倍)とし、以下の基準にしたがって判定した。
A:5.0倍未満。
B:5.0倍以上8.0倍未満。
C:8.0倍以上〜12.0倍未満。
D:12.0倍以上であるか、または浸漬した試験片を回収することができない。
[無機物とのバインダー力の評価]
シリカ(水沢化学工業製:ミズカシルP78D)およびシリカの重量に対し0.2%の分散剤(東亞合成化学工業製:アロンT40)をホモジナイザーにて水に分散し、シリカの20%水分散液を調製した。このシリカ水分散液に、シリカ/PVAの固形分基準の重量比が100/35となるように、10%に調整したPVA水溶液を添加し、必要量の水を添加することにより濃度15%のシリカ分散PVA水溶液を得た。
得られたシリカ分散PVA水溶液を、ワイヤーバーを用いて、上質紙の表面に60g/mの坪量で塗布した。その後、上質紙に熱風乾燥機を用い100℃で3分間乾燥して、評価用試料を得た。乾燥後の上質紙(評価用試料)における塗布量は11g/mであった。
評価用試料について、IGT印刷適性試験機を用い、印圧25kg/cmにて測定を行い、評価用試料の表面の紙むけが起こった時点の印刷速度(cm/sec)を以って表面強度とし、以下の基準にしたがってバインダー力を評価した。なお、IGT印刷適性試験機を用いて測定を行うにあたり、IGTピックオイルM(大日本インキ化学工業製)を用い、スプリング駆動Bの機構を採用した。
A:260cm/sec以上。
B:220cm/sec以上260cm/sec未満。
C:180cm/sec以上220cm/sec未満。
D:180cm/sec未満。
Figure 0004546098
表5の結果から、本発明で使用されるビニルアルコール系重合体は、PVA水溶液の粘度安定性、皮膜の耐水性、無機物を含有する皮膜の耐水性、および無機物とのバインダー力がバランスよく優れていることが分かる(PVA1〜15)。特に、ビニルアルコール系重合体が前述の式(II)[0.1/100≦(A−B)/(B)≦50/100]を満足し、ビニルアルコール系重合体の4%水溶液のpHが4〜8の条件を満たし、かつ、ビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度Pwの1/2倍よりも小さい重合体の重量分率が12重量%以下である場合には、各種物性のバランスがさらに優れたものとなる(PVA1〜7、ならびにPVA10および11)。
一方、Pw(ビニルアルコール系重合体の重量平均重合度)×S(シリル基を有する単量体単位の含有量)が20以下のビニルアルコール系重合体は、無機物を含有する皮膜の耐水性、および無機物とのバインダー力が十分ではなく(PVA21)、Pw×Sが460以上のビニルアルコール系重合体は、水に完全に溶解しないことから、評価することができなかった(PVA20)。
ビニルアルコール系重合体の中で、重合度が重量平均重合度Pwの3倍を超える重合体の重量分率が25重量%を超えるビニルアルコール系重合体は、水溶液の粘度安定性、無機物を含有する皮膜の耐水性、および無機物とのバインダー力が十分ではないことが分かる(PVA18および19)。
シリル基含有単量体を全く含まないビニルアルコール系重合体は、無機物を含有する皮膜の耐水性、および無機物とのバインダー力が十分ではないことが分かる(PVA16、17、22および23)。
III.防曇剤の製造と評価
実施例1
PVA1の10%水溶液を調製し、この水溶液100部に日産化学工業株式会社製コロイダルシリカ「スノーテックス20」(粒子径10〜20nm、固形分20重量%)を50部加えて本発明の防曇剤を得た。この防曇剤を、下記の評価方法にしたがって、ガラス板に塗布し、塗膜の防曇性、塗膜の長期防曇性および塗膜のガラスへの密着性を評価した。
[塗膜の防曇性]
防曇剤を5mm厚のガラス板上に乾燥後の塗膜厚みが2μmになるようにメイヤーバーでコートし、70℃で1分間乾燥した。40℃の温水100mlを入れた200mlビーカーの口をコートガラス板で覆い、40℃雰囲気中、24時間放置した後、コート表面の水滴の付着具合を目視で観察した。
○:水がコート面表面に一様に付着し、曇りは認められない。
△:部分的、あるいは若干の曇りが認められた。
×:水滴が付着しており、著しい曇りが認められた。
[塗膜の長期防曇性]
防曇剤を5mm厚のガラス板上に乾燥後の塗膜厚みが2μmになるようにメイヤーバーでコートし、70℃で1分間乾燥した。このコートガラス板を20℃の水に1週間浸漬した後、再び70℃で1分間乾燥した。40℃の温水100mlを入れた200mlビーカーの口を上記処理を行ったコートガラス板で覆い、40℃雰囲気中、24時間放置した後、コートガラス板表面の水滴の付着具合を目視で観察した。
○:水がコート面表面に一様に付着し、曇りは認められない。
△:部分的、あるいは若干の曇りが認められた。
×:水滴が付着しており、著しい曇りが認められた。
[塗膜のガラスへの密着性]
5mm厚のガラス板に防曇剤を乾燥後のコート厚みが2μmになるようにメイヤーバーでコートし、120℃で1分間、乾燥した。24時間、室温で放置後、JIS K5400 8.5.2の方法で密着性試験を行った。コート層をカットして1mm×1mm×100個の碁盤目部分を作成し、これを粘着テープにより引き剥がし、100個の碁盤目中で剥離せず残っている個数により評価した。「n/100」は、100個の碁盤目中のn個が剥離せず残っていることを示し、「100/100」は全く剥離していない、最も密着性の良いことを示す。
実施例2〜11、比較例9〜12
PVA1の代わりにPVA2〜PVA15を使用した以外は実施例1と同様にしてガラス板に塗布し、塗膜の防曇性、塗膜の長期防曇性および塗膜のガラスへの密着性を評価した。結果を表6にまとめて示す。
比較例1〜8
PVA1の代わりにPVA16〜PVA23を使用した以外は実施例1と同様にしてガラス板に塗布し、塗膜の防曇性、塗膜の長期防曇性および塗膜のガラスへの密着性を評価した。結果を表6にまとめて示す。
Figure 0004546098
表6の結果から、本発明の防曇剤は、塗膜の防曇性、塗膜の長期防曇性および塗膜のガラスへの密着性にバランスよく優れていることが分かる(実施例1〜11)。特に、ビニルアルコール系重合体が前述の式(II)[0.1/100≦(A−B)/(B)≦50/100]を満足し、ビニルアルコール系重合体の4%水溶液のpHが4〜8の条件を満たし、かつ、ビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度Pwの1/2倍よりも小さい重合体の重量分率が12重量%以下である場合には、各種物性のバランスがさらに優れたものとなる(実施例1〜7、ならびに実施例10および11)。
一方、Pw(ビニルアルコール系重合体の重量平均重合度)×S(シリル基を有する単量体単位の含有量)が20以下のビニルアルコール系重合体を用いた場合は、塗膜の防曇性および接着性が不十分であるうえに、塗膜の長期防曇性の試験では塗膜が水中に溶解してしまった(比較例6)。Pw×Sが460以上のビニルアルコール系重合体を用いた場合には、水に完全に溶解しないことから、評価することができなかった(比較例5)。
ビニルアルコール系重合体の中で、重合度が重量平均重合度Pwの3倍を超える重合体の重量分率が25重量%を超える重合体を用いた場合には、塗膜の防曇性、塗膜の長期防曇性および塗膜のガラスへの密着性が十分ではないことが分かる(比較例3および4)。
シリル基含有単量体を全く含まないビニルアルコール系重合体は、塗膜の防曇性および接着性が不十分であるうえに、塗膜の長期防曇性の試験では塗膜が水中に溶解してしまった(比較例1、2、7および8)。

Claims (4)

  1. 下記の一般式(1)
    Figure 0004546098
    (Rは炭素数1〜5のアルキル基であり、Rはアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、mは0〜2の整数である。)
    で示されるシリル基を有する単量体単位を含有するビニルエステル系重合体をけん化することによって得られるビニルアルコール系重合体であって、下記式(I)及び式(II)を満足し、その4%水溶液のpHが4〜8であり、かつビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率が25重量%以下であることを特徴とするビニルアルコール系重合体を含有する防曇剤。
    20<Pw×S<460 ・・・(I)
    Pw:ビニルアルコール系重合体の重量平均重合度
    S:一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体単位の含有量(モル%)
    0.1/100≦(A−B)/(B)≦50/100 ・・・(II)
    A:ビニルアルコール系重合体中のケイ素原子の含有量(単位:ppm)
    B:水酸化ナトリウムを含有するメタノールで洗浄し、次いでメタノールによるソックスレー抽出により洗浄したビニルアルコール系重合体中のケイ素原子の含有量(単位:ppm)
    ここで、AおよびBは、それぞれ測定試料を灰化した後、ICP発光分析法により測定される。
  2. 前記ビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度の1/2倍よりも小さい重合体の重量分率が12重量%以下である請求項1記載の防曇剤。
  3. さらに無機物を含有する請求項1又は2記載の防曇剤。
  4. 請求項1〜のいずれか記載の防曇剤が表面に塗工されてなる透明部材。
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