JP3788041B2 - GaN単結晶基板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、III−V族窒化物化合物半導体(GaN系)を用いた発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)など青色発光素子用のGaN単結晶基板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
図1はGaN成長のための基板となりうる材料のGaNに対する格子定数と熱膨張率の比を示す。サファイヤ(Al2O3)、SiC、Si、GaAs、ZnOなどが比較衡量される。窒化物系半導体発光デバイス或いはGaN系発光デバイスは従来サファイヤ基板の上にGaN薄膜などをエピタキシャル成長して作られていた。サファイヤ(Al2O3)基板は化学的に安定であるし耐熱性もある。GaNと格子定数は16%程度異なるもののバッファ層を形成することによりGaNがその上にエピタキシャル成長する。このような利点があるからサファイヤ基板を使う。GaNなどの薄膜を付けたあともサファイヤ基板は付いたままLED、LDとして用いられる。つまりサファイヤとGaNの複合的な素子である。これは実用的な素子であって、サファイヤ基板上のGaN系LEDは市販されている。またGaN系LDも近く市販されるだろうと言われている。
【0003】
サファイヤとGaNの格子定数は食い違う。それにも拘らずサファイヤ基板上には実用的なGaN素子が成長する。それは格子定数の緩和が滑らかに起こるからである。図2はサファイヤ上のGaNの膜厚と、格子定数変化の関係を示すグラフである。膜厚の変化に従って格子定数がゆっくりと変化してゆく。いまなお基板としてサファイヤがもっとも優れている。現在量産されているものは全てGaN/Al2O3構造を持つ。このような構造は例えば次の文献に説明されている。
▲1▼特開平5−183189号
▲2▼特開平6−260680号
【0004】
ところがサファイヤ基板にもなお問題がある。サファイヤ基板上のGaNエピタキシャル層の欠陥密度は極めて高い。これは格子のミスマッチからくるのであろうか。なんと109cm−2もの欠陥密度がある。いわば欠陥だらけと言って良い。しかしそれにもの拘らずGaNLEDは長寿命である。不思議な材料である。だから高密度欠陥というのは結晶学的には問題であろうが実際にはあまり問題でないとも言える。
【0005】
しかしサファイヤにはもうひとつ機械的な難点がある。サファイヤ(Al2O3)は化学的に安定で硬度が高い。化学的に安定ということは良いようであるがそうでもない。GaNを残し、基板だけをエッチング除去できない。最も困るのは劈開性がないということである。それに硬い。GaN/サファイヤ基板をLEDチップに分割するときのダイシング加工が難しい。自然劈開がないから刃物状のものを押し当てて破壊切断する。破損することもあり歩留まりは低い。
【0006】
ダイシングを容易に行うためにSiCのような劈開性のある材料を基板にすることが考えられた。SiC基板GaN素子は例えば
▲3▼Appl.Phys.Lett. vol.71, No.17 (1997)
に提案されている。しかしSiCにも問題がある。化学的に安定であり、作製のための処理温度が1500℃以上にもなる。SiC基板自体の製造が難しい。まだ開発段階を少し出た程度のレベルである。ために高価な基板となり、GaN発光素子がコスト高になる。実際にはSiCはGaN発光素子の基板としてあまり利用されていない。SiC/GaN素子は量産規模では製造されていない。
【0007】
いずれにしても従来のGaN素子は、異種基板の上にGaNを成長させたもので基板を除去しないから、サファイヤが付いたままである。複合デバイスである。
【0008】
基板上にGaNをエピタキシャル成長させるには基板を1000℃以上の高温に加熱しなければならない。このような高温でないと気相反応が起こらない。GaNなどのエピタキシャル層を成長させた後温度を下げると薄膜と基板との熱膨張係数の違いによる影響が現れる。熱膨張係数は温度の関数であって一定でない。だから簡単に比較はできないがあらましの比較をすると次のようである。GaNの熱膨張係数を1とすると、GaAsは約1.08倍、SiCは0.87倍、サファイヤは1.36倍の熱膨張係数を持つ。
【0009】
薄膜、基板間の熱膨張係数の違いによる第1の問題は、GaN薄膜に熱応力が発生しGaN薄膜に欠陥やマイクロクラックなどが入ってしまう事である。熱膨張係数相違による第2の問題は、冷却時に反りが発生するということである。ウエハ−の全体が反りによる変形を受ける。第3の問題は大きい複合GaN基板ができないということである。サファイヤ基板にGaNの薄膜を載せた複合物はGaN基板と言えない事はない。しかし薄膜・基板間に熱膨張係数の差による熱応力や反りが大きいために大型複合基板とすることができない。高々数mm角のGaN/サファイヤによるGaN複合体が報告されていただけである。とても工業的に利用可能な大きさでない。
【0010】
GaAs結晶を基板としてGaNを成長させる試みが以前行われたことがある。しかしGaAs基板には欠点があった。成長時の高温雰囲気でGaAs表面からAsが蒸発する。GaAsがアンモニアと反応する。このような理由のためにGaAs基板上に良質のGaN結晶を製造できなかった。ためにGaAs基板上のGaN成長(GaN/GaAs)は殆ど有望視されていなかった。
【0011】
現在も生き残っているのはGaN/サファイヤの素子だけである。であるからサファイヤ基板法をより純化する、というのがひとつの開発のあり方になろう。いくら転位密度が高くても良い、LEDは長寿命だといっても、転位密度が低ければもっと長寿命かもしれない。それに青色LDはいまだ満足できる寿命でない。それはやはり高密度に存在する欠陥のせいかもしれない。サファイヤ基板でより低欠陥のGaNを成長させるという試みがさらになされる。
▲4▼電子情報通信学会論文誌C−II,vol.J81−C−II,p58〜64これはサファイヤ基板にストライプ状(縞状)のマスクをつけその上にGaNを厚膜成長させたものである。縦縞(ストライプ)によって横方向には分離された面からGaNが成長しやがてストライプを越えて合体する。そのようなストライプ成長によって欠陥密度が大幅に減退したと報告している。欠陥密度が減ったのであれば一つの成果である。しかしサファイヤ基板上ストライプ成長法は他の問題に対して沈黙している。あくまでサファイヤ上の成長で、サファイヤ基板が付いたままである。頑固な無劈開の問題を解決していない。無劈開だからダイシング工程が難しく歩留まりが悪い。サファイヤがついたままであるから熱膨張係数の差のため、GaN単結晶に転位、マイクロクラックが多数導入される。また反りが無視できない。反りのためウエハ−プロセスに不適である、という問題もある。
【0012】
熱膨張係数の差、格子定数の差は異種材料を使う限り常につきまとう。最も理想的な基板はGaN基板である。しかし広いGaN基板が存在しない。ウエハ−として半導体製造工程に適するのは1インチ径以上、好ましくは2インチ径以上のものが必要である。けれどもそんな大きいGaN基板は入手不可能であった。
【0013】
大型結晶を成長させるにはチョコラルスキー法、ブリッジマン法などがあるがいずれも原料融液から固体を凝固させる。融液から出発できるから大きい単結晶を製造することができる。しかしGaNは加熱しただけでは融液にならない。昇華して気体になってしまう。Gaに少量のGaNを添加して、数万気圧の超高圧を掛け加熱してGa−GaN融液とすることはできる。しかし超高圧にできる空間は極極狭い。狭い空間で大きい結晶を作ることはできない。大型の超高圧装置を製造するというのでは余りにコスト高になって現実的でない。大型結晶を製造する方法が適用できないから、これまで大型のGaN結晶ができず、GaN基板も存在しなかった。
【0014】
GaN薄膜は薄膜成長法により作られる。これらはいずれも気相から固相への反応である。サファイヤ基板の上に、GaN薄膜を成長させるため以下の4つの方法が知られている。
1.HVPE法(ハイドライド気相成長法:Hydride Vapor Phase Epitaxy)
2.MOC法(有機金属塩化物気相成長法:metallorganic chloride method)
3.MOCVD法(有機金属CVD法:metallorganic chemical vapor deposition)
4.昇華法
【0015】
MOC法は、トリメチルガリウムTMGなどGaの有機金属と、HClガスをホットウオール型の炉内で反応させ一旦GaClを合成し、これと基板付近に流したアンモニアNH3と反応させ、加熱した基板の上にGaN薄膜を成長させるものである。実際には水素をキャリヤガスとして、有機金属ガス、HClガスの輸送を行う。Ga原料として有機金属を用いるから炭素がGaNの中に不純物として混入する。無色透明のGaN結晶を得ることができるが、条件によっては炭素混入のため黄色を呈する場合もある。炭素のためにキャリヤ濃度(自由電子)が増加し、電子移動度が低下する。炭素のために電気特性も悪くなる。有機金属塩化物気相製法は優れた方法であるが、なおこのような欠点がある。
【0016】
MOCVD法はGaN薄膜成長法として最も頻用される。コールドウオール型の反応炉において、TMGなどGaの有機金属とアンモニアNH3を水素ガスとともに、加熱された基板上に吹き付ける。基板上でTMGとNH3が反応しGaN薄膜ができる。この方法は大量のガスを用いるので、原料ガス収率が低い。GaN薄膜成長法としてもっとも広く使われている手法であるが、MOC法と同じように炭素混入の問題がある。炭素のため黄色に着色する。炭素がn型不純物となり電子を出す。そうなると移動度が低い。電気特性が悪い。そのような難点がある。
HVPE法はGa原料として金属Gaを使う。ホットウオール型反応炉にGa溜を設けGa金属を入れておく。Gaは融点が低いので30℃以上でGa融液になる。そこへ水素ガス、HClガスを吹き付けると、塩化ガリウムGaClができる。GaClがキャリヤガスH2によって基板の付近へ運ばれ、アンモニアと反応してGaNが基板表面に堆積する。この方法は金属Gaを使い炭素を原料中に含まない。炭素が薄膜に混入しないから着色しない。電子移動度も低下しない、などの利点がある。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
GaN発光素子を作製する基板はGaN単結晶が最も適する。大型GaN基板がこれまで存在しなかった。これまで存在しなかった実用に適する面積を有する大型GaN基板を提供することが本発明の第1の目的である。反りの少ないGaN基板を提供する事が本発明の第2の目的である。
【0018】
【課題を解決するための手段】
GaAs(111)単結晶基板の上に[11−2]方向に等間隔で並び[−110]方向にも等間隔で分布する窓を有するマスクをつけ、マスクの窓の部分に低温でGaNバッファ層を成長させ、ついで高温にしてGaN層をバッファ層の上とマスクの上にHVPE法によってエピタキシャル成長させ、GaAs基板を除去してGaN単結晶基板を製造する。これは1枚の基板を作る方法である。あるいはこの単結晶基板を種結晶として、さらにその上にGaNエピタキシャル層を厚く形成して、少なくとも10mmの厚みを有するGaNインゴットとし、これを切断或いは劈開して複数のGaN基板とする。これが本発明のGaN基板の製造方法である。GaAs基板は王水でエッチングすることによって除去できる。さらにGaNの表面は研磨して平滑にする。このように薄膜の製造方法であるエピタキシャル成長法を利用して大型結晶を作ってしまう。
【0019】
本発明のGaN結晶の最大の特徴はその大きさにある。本発明ではGaN基板の直径は1インチ以上、好ましくは2インチ径以上とする。LEDなどの発光素子を工業的に低コストで製造するためにはGaN基板が広い方が良い。それで20mm直径以上好ましくは1インチ(25mm)径以上、さらに好ましくは2インチ径以上とするのである。出発材料であるGaAs基板が広ければ大面積のGaN結晶を製造できる。
【0020】
これらの方法で作製したGaN基板は反る。GaN基板単結晶の中に内部応力があるので反りが発生する。反りは、デバイスを作るウエハ−プロセスにおいて重大な障害になる。基板の反りを低減する必要がある。これら方法によるGaN作製の最大の課題は「反りの低減」ということである。反り低減のため、本発明者は成長プロセスを改良し、新たに基板を研磨することを提案する。
(1)成長プロセス改善…マスク形状を工夫したラテラル成長
(2)研磨…多少の厚みがあれば反りがあっても研磨することにより平坦化できる。
(3)表面研磨…反りを研磨によって取るので表面が所定の結晶方位からずれることもある。結晶方位ズレを正すためにも表面研磨する必要がある。表面粗さがなお大きい場合も表面研磨する。こうして本発明者らは元々わずかな反りの存在する状態で研磨処理した場合の表面の結晶方位のずれを規定し、GaN単結晶基板としてあるべき結晶方位のずれを明確化した。
【0021】
HVPE法を採用するのは、炭素が原料に含まれないようにするためである。炭素がGaNに含まれないから黄色に殆ど着色しない。炭素によって電子がキャリヤとして加わり電子移動度を下げるということもない。炭素が入らないから条件によって、GaNは無色透明のウエハ−になる。実際本発明のGaNウエハ−を文字の上におくと、下地の文字が透けて見える。まるでガラスのようである。しかし、GaAs基板側から蒸発したAsなどの混入により薄い黄色、薄茶色、暗灰色を帯びる場合もある。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明のGaN製造はGaAs基板から出発する。サファイヤではない。サファイヤ基板は後から除去できない。ところがGaAs基板は王水で時間を掛けて除去することができる。先に説明したようにGaAs基板に、GaNを成長させるのは困難で一旦放棄された手法であった。しかし本発明者等はGaAs基板上のGaN結晶の成長方法を確立した。それは特願平10−07833号に述べている。
【0023】
GaNは六方晶系である。(0001)面は六回対称性がある。GaAsは立方晶系であるから(100)や(110)面は3回対称性を持たない。そこでGaAs(111)A面或いはB面を基板として用いる。これは三回対称性のある軸に直交する面である。A面というのはGa原子が露出している面である。B面はAs原子の露呈している面である。
【0024】
図3はラテラル成長に使うマスクの一部を示す。マスクは直接にはGaNが付かないようなSi3N4やSiO2などが良い。マスク厚みは100nm〜数100nmである。等間隔に窓を有するマスクである。窓は小さい正方形である。数μm直径の小さな窓である。これは別段丸でも三角でも楕円、六角形などでも良い。配列が重要である。窓は[11−2]方向に列をなして並ぶ。間隔をLとする。それと直交する[−110]方向に隣接する列は半ピッチずれている。隣接列との距離をdとする。好ましくはd=31/2L/2とする。つまり正三角形の頂点に窓が配置されるのが最も良い。例えば窓を1辺2μmの正方形とし、窓ピッチLを6μm、列間隔dを5μmと言うようにすることもできる。そのような正三角形分布の窓が良いのは、図5のように隣接窓から成長したGaNが同時に境界を接するようになるからである。しかしながら、dやLが多少上記の式から外れても良い。このような孤立窓が平行に点列になって並ぶものをドット型、ドットタイプと呼ぶ。
また平行連続窓を有するストライプ状の窓を有するマスクでもGaNを成長させることはできる。
【0025】
窓付きのマスク越しにGaNを成長させるラテラル成長法はつぎのような意味を持つ。マスクとGaNが直接には結合しないから下地のGaAsと薄膜GaNが結合するのは窓の部分だけである。通常のGaN成長の場合には、バッファ層上で、数多くの核生成がなされ、互いに犇めき合って成長して行く。その際多くの欠陥が導入される。しかし本発明のようにマスクがある場合は、マスクからはみ出して横方向に成長する分を妨害するものはない。妨害がないから殆ど欠陥なく成長すると考えられる。接触面積が狭いから高温で成長後、温度を下げても熱応力が緩和される。全面積で密合している場合に比較して窓だけでつながっているラテラル成長層は熱応力がよほど小さくなる。それだけだとどのような配列分布の窓でも良い事になる。そうではなくて、図5のように正六角錐形状の結晶が同時に接触し、以後均等な厚みに成長する可能性があるような窓分布が望ましいのである。なお図4、5の正六角形は、六角錐結晶の底部の形状を示したものである。
【0026】
マスクをつけるにはGaAs基板の全体にマスク材料を被覆し、フォトリソグラフィによって等間隔に窓を開けるようにする。同じ状態を図6(1)に断面によって示している。
【0027】
この後比較的低温450℃〜500℃程度で、HVPE法によって数10nm〜100nm程度の薄いGaNバッファ層を形成する。マスクより薄いから、バッファ層は窓内に孤立して存在する。図6(2)はその状態を示している。
【0028】
800℃〜1050℃程度の高温にして、HVPE法でGaNエピタキシャル層を形成する。この時バッファ層は結晶化する。図4のように孤立した窓で核発生したGaN結晶は通常六角錐を形成する。核発生後、六角錐が高さ方向と底部側方に次第に成長する。底面は六角形状に広がり窓を埋める。やがてGaNはマスクをこえて広がる。それも六角錐の形状を保持したままである。図5のように隣接窓からの結晶と接触し上に向けて成長する。このエピタキシャル成長層の厚みによって基板結晶の大きさが決まる。1枚のウエハ−は70μm〜1mmの厚みをもつのでその程度の厚みであれば良い。これが図6(3)の状態である。上記のような成長過程をとるので、成長表面は荒れていて擦りガラス状である。透明とするためには研磨しなければならない。
【0029】
さらに王水によってGaAs部分をエッチング除去する。マスクの部分は研磨によって除く。図6(4)の状態になる。これは1枚のGaN結晶である。透明であり自立している。1枚のウエハ−だけを作るのであればこれで終わりである。
【0030】
さらに複数のウエハ−を製造したいのであれば、この基板を種結晶として、さらにエピタキシャル成長させる。図7はこれを示す。図7(1)はGaN基板の上にHVPE法によってさらに厚くGaNをエピタキシャル成長したものを示す。円柱径のGaNインゴットになる。厚みは10mm以上とする。側面に支持部材を固定し、内周刃スライサーなどによって1枚1枚ウエハ−に切り出して行く。図7(2)はこれを示す。アズカットウエハ−を研磨して図7(3)のように透明平滑なGaNウエハ−ができる。この場合、AsはGaN結晶に混入しない。
【0031】
本発明においてエピタキシャル成長に用いるHVPE法を図8によって説明する。縦長の反応炉1を円筒形のヒ−タ2が取り囲んでいる。反応炉1の上頂部には原料ガス導入口3、4がある。原料ガス導入口3からはHCl+H2の原料ガスが導入される。H2はキャリヤガスである。その直下にはGa溜5がある。ここには金属Gaを収容しておく。融点が低いからヒ−タ2によって加熱されGa融液6になる。HClがGa融液に吹き付けられるから、Ga+HCl→GaClという反応が起こり塩化ガリウムGaClができる。このGaClとキャリヤガスH2の混合ガスが反応炉中の空間を下方に運ばれる。原料ガス導入口4はより下方に開口する。アンモニアNH3+水素H2の混合ガスがここから反応炉内に導入される。GaClとNH3により、GaCl+NH3→GaNの反応が起こる。
【0032】
サセプタ7はシャフト8によって回転昇降自在に設けられる。サセプタ7の上にはGaAs基板9またはGaN基板が取り付けられる。基板は加熱されているから気相反応した生成物GaNが基板の上に付着する。排ガスは排ガス出口10から排出される。HVPE法はGa金属を原料として使う。そしてGaClを中間生成物として作る。これが特徴である。
【0033】
エピタキシャル成長は原料を気体にしなければならないがGaを含む気体というものはない。Ga自体は30℃以上で液体である。気体にするため有機金属を使うのがMOC法、MOCVD法である。これらの方法では気体にはなるが炭素を含むからGaN結晶に炭素が不純物として混入してしまう。これらと違ってHVPE法は液体Gaを加熱してHClと反応させGaClにする。GaClが優勢な水素ガスによって気体として運ばれるのである。有機金属を使わないから炭素が不純物として結晶中に入らないという長所がHVPE法にはある。
【0034】
本発明によって作られたGaN単結晶基板は、ノンドープであるがn型である。キャリヤ濃度は1×1016cm−3程度である。n型の伝導性を与えるものは原料ガスに微量含まれる酸素であることを本発明者は見いだした。HVPE法炉中の酸素分圧を制御することによってキャリヤ濃度を1×1016cm−3〜1×1020cm−3の範囲で制御できる。酸素分圧を制御することによって、電子移動度は80cm2/Vs〜800cm2/Vsの範囲に調整できる。比抵抗は1×10−4Ωcm〜1×10Ωcmの範囲で制御可能である。またキャリヤ濃度は成長条件によっても変えられる。
【0035】
こうして作られたGaN基板には優れた特徴がある。広い。自立膜である。透明である。無色である、などの性質である。ただし成長条件により黄色、薄茶色、暗灰色を帯びることがある。光デバイス用基板としては光の吸収が少ないことが要件である。だから無色透明であることは、GaN基板として重要なことである。しかしながらそれだけでは不十分である。まだまだ問題がある。それはなにか?歪と内部応力の問題である。内部応力が大きいと反りが甚だしくなりフォトリソグラフィなどウエハ−プロセスに支障を来す。
【0036】
加熱したGaAs基板の上にGaNを成長させて常温に下ろして装置から複合体を取り出す。熱膨張係数が違うから、降温することによって歪が異なる。図9のようにGaN/GaAs複合体が撓む。GaNには応力が発生している。GaAsにも反対向きの応力が発生している。応力には2種類のものがある。熱応力と真性応力である。熱応力は熱膨張係数の異なる二つの異質材料が貼り合わされているときに温度変化があることによって発生するものである。
【0037】
もしも熱応力だけだとすると、GaAs基板を除去すると熱応力も消失する。それゆえ図10のようにGaNは平坦になる筈である。真性応力があるとそうはいかない。GaAs基板を取り外しても尚GaNに残留する応力がある。そのために図11のようにGaN自体が歪む。この反りはGaAsとは無関係に表面と裏面の応力の相違、厚み方向の応力の傾斜のために現れる。
【0038】
過去において、GaAs基板上にGaNを巧みに成長させることができなかったのは真性応力が大きかった事も原因している。熱応力も含めた内部応力が大きすぎてGaNが多大の欠陥をもち剥落したりした。真性の内部応力を減らすための工夫が実は先述のマスクを用いるラテラル成長法である。孤立した窓を多数マスクに作っておき、ここからGaNバッファ層を成長させさらにエピタキシャル層を重ねて成長させる。内部応力の原因は転位などの欠陥にあると考えられる。ラテラル成長法において、マスクによって転位から切り離されているのでマスク上に成長した部分が低欠陥化する。これによってGaNの内部応力を減らすことができる。
【0039】
それはいいのであるが、やはりなにがしかの内部応力が残留する。ためにGaN基板が反る。反りが大きいとウエハ−プロセスにかからない。反りを評価し許容される反りの上限を決めなければならない。
【0040】
図12に反りの測定法あるいは表現法の定義をしめす。一定直径のウエハ−にして平坦なテーブルの上において、中心の隆起Hを測定する。例えば2インチ直径のウエハ−に換算して、中心の浮き上がりHを求める。Hが一つの測定法であり表現法である。
【0041】
反りはウエハ−の曲がりの曲率ξ或いは曲率半径Rによっても定義でき表現できる。R=D2/8Hあるいは、ξ=8H/D2によって換算できる。Dはウエハ−の直径である。2インチウエハ−の場合はD=50mmである。
【0042】
反りまたは撓みというものは外部に現れる現象であるから直接に測定することができる。内部応力は内在的なポテンシャルであるから簡単に測定できない。
【0043】
円板が曲率δで撓むときの内部応力は
【0044】
【数1】
【0045】
によって与えられる。σは内部応力、Eは剛性率、νはポアソン比、bは基板の厚さ、dは薄膜厚さ、Iは基板直径、δは撓み(Hに当たる)である。I=50mmとした場合は、上の定義でδ=Hに当たる。これは薄膜の内部応力を撓みから計算するStoneyの式という。薄膜だけにしてしまうので(GaN単層であるから)d=bとして、
【0046】
【数2】
【0047】
この式によって、撓みδからσを計算した。この応力値σは反っている基板を平坦にした場合にかかる内部応力値としても解釈できる。反りと、曲率半径と内部応力の関係はつぎのようである。基板厚さが一定の時、内部応力が大きくなればなるほど、反りは大きく、曲率半径は小さくなる。内部応力が一定の場合、基板厚さが厚くなればなるほど、反りは低減し、曲率半径は大きくなる。本発明者らによるGaN基板については、基板上へのデバイスプロセスの容易さ、基板強度を勘案し、反り、曲率半径、内部応力の許容範囲を検討した。ウエハの厚さによって適当な値が変わるのであるが、一般的にいうと、
1.曲率半径R 600mm以上(曲率が1.67×10-3mm-1以下)
2.反りH(50mm直径で) 0.55mm以下
3.内部応力σ 7MPa以下
つまり、本発明者がウエハに課した条件は、R≧600mm、H≦0.55mm、σ≦7MPaである。さらに内部応力σは3MPa以下であるとより好ましい。曲率半径は750mm以上であるとさらに良い。
【0048】
本発明において、1枚のGaN基板を製造する方法の他に、GaN基板を種結晶としてその上にGaNを厚くエピタキシャル成長させ単結晶インゴットを製造する方法も採用している。その場合は厚みを10ミリ以上にして、数十枚のウエハを切り出すようにする。インゴットが厚いから反りは小さい。反りが少ないから精度良くスライスできる。厚さが大きいので低転位化が進んでいる。スライスして切り出したウエハも低転位である。そのため反りも少ない。
以上に述べた反りのある基板において、さらに研磨工程を付加することによって、基板自体の反りを大きく低減することができる。しかし研磨をすると図15に示すように基板自体の結晶方位の揺らぎを持ったまま研磨によって平坦化されてしまう。図15(a)研磨前の状態をしめす。これは上方に凸の反りを持つGaN基板である。反りがあるから基板法線は平行でなく扇型の分布をする。結晶面の法線も同じように扇型分布をする。結晶面法線と基板表面の法線は一致している。これを研磨すると図15(b)のようになる。上面だけ平坦になる。平坦になっても結晶面法線の方向の扇型分布は不変である。ところが基板面は平坦化するから法線は平行になる。中央部では基板法線と結晶面法線が一致する。しかし周辺部では結晶面法線が基板法線とずれてくる。
【0049】
基板表面の法線と結晶面の法線のなす角度をθとする。これは図15のような単純な凸型の歪みの場合は中心からの距離をxとし基板直径をLとしてx=±L/2でθが最小値、最大値をとる。この値を±Θとする。つまりx=−L/2で−Θ、x=+L/2で+Θとする。円盤が曲率半径Rで反っている場合、直径をDとして端部の反りの角度を±Θとすると、2RΘ=Dである。基板の直径はもちろんさまざまであるが、ここでは2インチとして曲率半径Rと端部反り角Θの関係を決めて置く。Θを角度で表すと、先ほどの式はπRΘ=90Dと表現できる。D=2インチ=50mmであり、Θを角度で表すと、Θ=1432/Rとなる。この関係を図16に示す。
【0050】
2インチの大きさで正規化して曲率と端部角度の関係を出しただけで、ウエハ−がつねに2インチ径である、ということではない。Mインチ径であれば、Θ=1432M/Rとなるだけである。このような換算は容易である。以下2インチに正規化したものとして述べる。2インチウエハ−において、曲率半径を600mm以上とするには、端部での結晶面法線のズレは±2゜の範囲に入っている必要がある。すなわち、結晶面と基板平坦化面とのズレ角の合計は4゜以下でないといけない。
端部のズレ角Θは、研磨時の位置合わせ精度±1゜に、前記の曲率半径600mm以上という条件からの±2゜を加え、±3゜以下でなければならない。すなわち主な結晶面法線と、基板表面法線のズレは3゜以内である、これが基板の反りに対する条件である。
また原理的には、以上に述べたように、研磨後の表面は、鏡面であり平坦であるはずである。しかし必ずしもそうでなく研磨後に新たな反りが発生する場合もある。これについてはGaN基板内の内部応力が起因していると思われる。研磨後の反りH(図12)は、いろいろの検討の結果、微細なパターン形成のためのデバイスプロセスに耐える反り量である0.2mm以下(2インチ換算)に抑えることが可能であることが判明した。曲率半径と反りHの関係は先述のようにR=D2/8Hであるから、H=0.2mmという限界は、R=1563mm程度に当たる。さらにデバイスプロセスへの適合性を考えると、反り量は0.1mm以下が好ましい。この場合、同様に、H=0.1mmという値はR=3125mm程度に当たる。
【0051】
【実施例】
[実施例1(HVPE法ラテラル成長によるGaN単結晶1枚の作製)]
GaAs(111)A基板を反応容器内に設置した。基板サイズは30mm径の円形基板とした。プラズマCVD装置でGaAs基板上に、Si3N4層(マスク層)を厚さ0.1μmになるように形成した。これに規則的な分布をする窓をフォトリソグラフィによって開けた。窓は3種類のものを採用した。図3に示す千鳥ドット窓と、<11−2>ストライプ窓、<1−10>ストライプ窓の3種である。
1.千鳥ドット窓…図3〜5に示すように、GaAs<11−2>に平行な直線上に並び隣接する窓群が半ピッチずれている。d=3.5μm、L=4μm。
2.<11−2>ストライプ窓…<11−2>方向に平行な長窓(ストライプ)のマスク。ストライプの幅が2μm、間隔2μm、ピッチ4μm。
3.<1−10>ストライプ窓…<1−10>方向に平行な長窓(ストライプ)のマスク。ストライプの幅が2μmで間隔が6μm。ピッチは8μmである。
【0052】
このような窓を開けたSi3N4をマスクとして使って、GaNバッファ層とエピタキシャル層を成長させる。
(1)GaNバッファ層の形成
周期的な窓を有するマスクによって覆われたGaAs基板をHVPE装置の中に設置した。HVPE装置内でGaAs基板を約500℃に加熱した。石英のGa溜を850℃以上に加熱しGa融液とする。原料ガス導入口から水素ガスH2と塩化水素ガスHClの混合ガスをGa溜に導き、塩化ガリウムGaClを合成した。別の原料ガス導入口から水素H2とアンモニアNH3の混合ガスを導入し、500℃に加熱された基板近傍でGaCl+NH3→GaNの反応を起こさせGaAs基板に、GaNを堆積させる。これによってGaAs基板上に約70nmのGaNバッファ層を形成する。Si3N4はGaN成長抑制作用がありSi3N4マスクの上にはGaNは堆積しない。バッファ層(70nm)はマスク(100nm)より薄い。だから窓のGaAsの部分だけにGaNバッファ層ができる。
【0053】
(2)GaNエピタキシャル層の形成
HClの導入を停止した。基板温度を500℃から約1000℃まで上げた。再びHClをGa溜に向けて導入する。以前の工程と同じように、GaとHClの反応によって塩化ガリウムGaClを合成する。水素ガスがキャリヤとして流れているからGaClは下方へともに流れる。アンモニアNH3とGaClが加熱された基板の近傍で反応しGaNができる。これが窓の中のバッファ層の上にエピタキシャル成長する。マスク厚み(100nm)を越えるとマスクの上にGaN結晶が正六角形状に広がって行く。ただしマスク全面がGaNで覆われるまでは、GaN結晶は六角錐である。図4、図5は六角錐の底面部の状況を模式的に示したものである。窓は正三角形の頂点位置にあるからそこから正六角形状に広がったGaNは隣接窓から広がってきた結晶と丁度きびすを接することになる。成長速度は等しいので正六角錐の結晶は隈無く接触する。GaN結晶層がマスクの上面を隈無く覆い尽くすと、今度は上方へGaNが堆積してゆく。成長速度は50μm/Hである。約100μmの厚みのエピタキシャル層を成長させた。このように無数の小さい窓から独立に核発生させ結晶成長させる(ラテラル成長)のでGaNの中の内部応力を大幅に低減することができる。表面は擦りガラス状であった。
【0054】
(3)GaAs基板の除去
次に試料をエッチング装置の中に設置した。王水によって約10時間エッチングした。GaAs基板が完全に除去された。GaNだけの結晶になった。両面を研磨してGaN単結晶基板とした。これは自立膜であった。マスクの窓寸法と窓ピッチL、隣接列との距離dを変えその他はほぼ同じ条件で3つの試料についてGaN成長させた。試料1は千鳥ドット窓(窓2μm角、L=4μm、d=3.5μm)マスクを使って成長させたものである。試料2は<11−2>ストライプマスクを使って成長させたものである。試料3は<1−10>ストライプマスクを使ったものである。
【0055】
【表1】
【0056】
(4)光学特性
ノンドープなのであるがn型の電子伝導型である。結晶性の維持を考えるとキャリヤ濃度は低い方が良く、電子移動度は高い方が良い。しかし比抵抗は高い方が良いのである。これら電気的特性は成長条件により変化する。ストライプマスクは内部応力低減という点で不完全である。これらサンプルは透明な薄茶色である。波長400nm〜600nmでの吸収係数は、反射による補正なしで40cm−1〜80cm−1であった。
(5)X線回折
このGaN基板において、X線回折装置により、基板表面とGaN(0001)面との角度の関係を調査した。その結果、基板表面の法線と、GaN(0001)面の法線とのなす角度は基板内で2.5゜であることが分かった。また、GaN(0001)面の法線のバラツキが基板内で3.2゜であることが分かった。また研磨後の基板の反り量を二つのサンプルについて測定すると、1インチ長(D=25mm)で約H=25μmのものとH=48μmのものがあった。R=D2/8Hであるから、R=3125mmとR=1628mmのものである。先に述べたように、2インチウエハ−でのフォトリソグラフィの限界が0.2mmでありR=1563mmであるが、この実施例はこの限界以下である。フォトリソグラフィによるパターン描画が可能な反りである。
【0057】
[実施例2(HVPEラテラル成長GaN種結晶、HVPE法GaN厚付け)]
2インチ径のGaAs(111)A面を基板とした。その上にSiO2の絶縁膜を形成した。フォトリソグラフィによって図3のような窓を設けた。
(1)GaNバッファ層の形成
【0058】
マスクを有するGaAs基板をHVPE装置に設置した。図8の装置を使うが、Ga溜5は800℃に加熱した。原料ガスとしては、H2+HClをGa溜に導き、H2+NH3は基板に直接に導いた。約500℃(基板温度)の低温において、GaNバッファ層を形成した。バッファ層厚みは80nmである。
(2)エピタキシャル層の形成
ついで基板温度を1000℃に上げた。同じ原料ガスを使って、GaNエピタキシャル層80μmを形成した。
(3)GaAsの除去
GaN/GaAs基板をHVPE装置から取りだした。鏡面状にGaN連続膜が生成されていることを確認した。これを王水中でGaAs基板をエッチング除去した。
【0059】
(4)GaNの厚付け
これを十分に洗浄した。図6(4)のような状態になる。GaNだけになったものをふたたびHVPE装置にセットした。基板温度を1020℃として、HVPE法によってGaNを厚付けしGaNのインゴットを得た。図7(1)に示す状態である。このインゴットは中央部が少し窪んだ形状であった。最低高さは約20mm、外径55mmのインゴットであった。
【0060】
(5)スライサーによるウエハ−の切り出し
内周刃スライサーによってインゴットを軸方向に直角な方向に切りだした。図7(2)に示すようである。外径約50mm、厚み350μmのGaN単結晶基板20枚を得た。GaNを分析したところ、As、炭素ともにバックグランドのレベルであった。ひ素(As)、炭素が、GaNのなかに殆ど含有されていない事が分かる。
【0061】
(6)研磨
さらにラッピング研磨、仕上げ研磨をした。図7(3)のような透明ウエハ−である。機械加工をしているため基板には反りは無かった。
(7)X線回折
このGaN基板を実施例1と同じように、X線回折装置によって、基板表面とGaN(0001)面との角度の関係を調査した。基板表面の法線とGaN(0001)面の法線のなす角度が、基板内で最大0.6゜であることが分かった。GaN(0001)面の法線の方向のバラツキが基板内で、0.5゜であることが分かった。また研磨後の基板の反り量は、2インチ長(D=50mm)でH=約15μmであった。R=D2/8Hであるから、R=20000mm程度である。十分にフォトリソグラフィが適用できる平坦さである。
【0062】
(8)電気的特性の測定
インゴットの上端(成長終期の分)から取ったウエハ−の電気的特性を測定した。n型でキャリヤ濃度は5×1018cm−3であった。電子移動度は200cm2/Vsであった。比抵抗は0.017Ωcmであった。
【0063】
インゴットの下端(成長初期の分)から取ったウエハ−の電気的特性はつぎのようであった。n型でキャリヤ濃度は1018cm−3、電子移動度は150cm2/Vsであった。比抵抗は0.01Ωcmであった。これは両極端の部位の電気的特性である。中間部は中間的な値になるであろう。
【0064】
(9)光吸収の測定
これらのウエハは透明であり暗灰色か無色であった。波長400nm〜600nmにおける吸収係数は20cm−1〜40cm−1であった。
(10)LEDの作製
GaN基板ができたので、その上にInGaNを発光層とするLEDを作製した。従来のサファイヤ基板のものと比較して、発光輝度が約5倍に向上した。発光輝度が向上した理由は、転位の減少による。従来のサファイヤ基板LEDでは活性層内に多くの貫通転位が存在していたが、GaN基板の本発明のLEDは貫通転位が大きく減少しているからである。
【0065】
[実施例3(MOCラテラル成長GaN種結晶、HVPEGaN厚付け)]
GaAs(111)B面を基板として用いた。SiO2を基板に付けフォトリソグラフィによって[1−10]方向に延びるストライプ窓を形成した。
【0066】
(1)GaNバッファ層の形成
有機金属塩化物気相成長法(MOC法)によって約490℃の低温で基板上に90nmの厚みのGaNバッファ層を形成した。
【0067】
(2)GaNエピタキシャル層の形成
同じ装置において、基板温度を約970℃に上げて、GaNエピタキシャル層を25μmの厚さに形成した。
(3)GaAs基板の除去
MOC装置からGaN/GaAs試料を取りだした。鏡面のGaN単結晶が成長していた。ストライプマスクの方向は、GaNの[11−20]方向であった。つまりGaAsの[1−10]方向にGaNの[11−20]方向が成長するということである。王水によってGaAs基板を溶解除去した。
【0068】
(4)GaNの厚付け成長
25μm厚みのGaNを種結晶として、HVPE装置にセットした。1000℃に加熱しHVPE法によってGaNを厚くエピタキシャル成長させた。円柱状で最低高さが約3センチのGaNインゴットを育成した。
【0069】
(5)内周刃スライサーによるウエハ−切り出し
内周刃スライサーによってインゴットを軸直角方向に400μmの厚みに切り出した。25枚のアズカットウエハ−を切り出すことができた。
【0070】
(6)研磨
切り出したウエハ−をラッピング研磨、仕上げ研磨した。製品としてのGaN単結晶ウエハ−を得た。
(7)電気特性の測定
ウエハ−の電気的特性を測定した。n型であって、電子移動度は250cm2/Vsであった。比抵抗は0.05Ωcmであった。
このGaN基板を実施例1と同じように、X線回折装置によって基板表面と(0001)面との角の関係を調べた。基板表面法線と、(0001)面法線とのなす角度の最大が基板内で±1.1゜であった。R=1300mmである。GaN(0001)面の法線方向のバラツキが基板内で1.4゜であった。また研磨後の基板の反り量Hは、2インチ長でH=約45μmであった。R=6900mmの程度である。
【0071】
この実施例ではGaN自体を種結晶として、GaN単結晶を厚く成長させている。厚い単結晶GaNを成長させこれをスライサーで切断しているから一挙に25枚もの基板が作製できる。製造コストは、1枚1枚GaAsから成長させる場合に比較して64%に低下した。基板の製造を低コスト化できる。品質管理も含めた1枚当たりの製造時間も大きく短縮できた。GaNを分析したところ砒素(As)、炭素(C)ともにバックグラウンドのレベルであった。
【0072】
マスクの窓は正三角形の頂点にある位置に窓を穿つマスクが最も良い。しかしストライプ(縞状)の窓をもつものであっても良い。それなりの内部応力低減の効果がある。マスク上のラテラル成長によって、結晶内の低欠陥化が進み内部応力が低減されると共にGaAsとGaNの接触面積が減り内部応力を緩和できる。ために温度変化が大きいにもかかわらず反りの発生を抑制することができる。
【0073】
[実施例4(Ga分圧と表面モフォロジー・内部応力の関係)]
[1−100]ストライプマスク、[11−2]ストライプマスク、ドットマスクを使いHVPE法によってGaNウエハを作製した。原料ガスはH2+NH3とH2+HClである。原料ガスの総流量を増やすと表面モフォロジーが改善される。しかし内部応力は増える傾向が認められた。
【0074】
【表2】
【0075】
これらのうち、イ、ロ、ニ、ホ、ト、チ、の6つはAグループであり、ハ、ヘ、リ、ヌ、ルの5つはBグループである。
(A)Ga分圧は1kPa(10-2atm)である。970℃でバッファ層・マスクの上にGaNを1時間成長させ、1030℃でさらに3時間GaNを成長させた。合計4時間のエピタキシャル成長である。図13に白丸によってその結果をしめす。6個の試料(イ、ロ、ニ、ホ、ト、チ)がある。これらは表面は平坦でありモフォロジーは良好である。ところが内部応力は大きい。クラックが発生した試料もある。図13において横軸は膜厚(μm)である。膜厚は30μm〜120μmに分布している。縦軸は内部応力(MPa)である。白丸の試料は内部応力が10MPa〜30MPaである。ほとんどが10MPaより大きい内部応力を呈する。しかし内部応力は7MPa以下(7×10−3GPa)が好ましい。
(B)Ga分圧は2kPaである。970℃でバッファ層・マスクの上にGaNを6時間エピタキシャル成長させた。試料の数は10個である。図13に同じように示す。膜厚は120μm〜300μmの間に分布する。GaN試料の表面は粗い。Rmaxは約20μmである。GaN基板寸法は20mm×20mmである。表面状態は悪いが内部応力は小さい。内部応力は図13に黒丸によって示すように1MPa〜6MPaである。目標は7MPa以下であるからこれを充たすことができる。しかし同じ条件であるのに膜厚に広いばらつき(110μm〜300μm)がある。反りの曲率半径RはR=780mm〜1500mmである。
(X線回折)
X線回折装置によって、基板表面と、(0001)面の法線の関係を調べた。基板内でズレの最大角は、±2.0゜であった。またGaN(0001)面の法線のばらつきが基板内で2.4゜であった。また研磨後の基板の反り量は2インチ長に換算して、60μmであった。これはR=5200mmになる。
【0076】
[実施例5(曲率半径の関係)]
前例と同じ(A)の試料6枚と、(B)5枚の試料について膜厚と曲率半径の関係について調べた。触針法によって反りを評価した。図14にその結果を示す。横軸は膜厚(μm)である。縦軸は曲率半径である。曲率半径は600mm以上が好ましい。
(A)970℃1時間+1030℃3時間成長の試料Aは膜厚が薄く表面は平坦であるが反りが大きい。曲率半径は200mm以下である。曲率半径の望ましい範囲は600mm以上である。6個の試料の全てが目標に達しない。
(B)970℃6時間成長の試料Bは膜厚が厚く、表面は粗面化しているが、内部応力が小さく、反りも小さい。5個のB試料のすべては600mmという望ましい範囲をこえている。マスクなし成長では、曲率半径が極めて小さくて反りが大きい。1970年代のGaAs基板の試みが失敗したのはそのような理由にもよる。
【0077】
[実施例6(研磨)]
試料Aは研磨に失敗した。試料Bのうち、膜厚150μm、内部応力4MPa、曲率半径1030mm、Rmax20μmの試料について研磨した。研磨により膜厚は80μmに減った。曲率半径は研磨後650mmに減っている。研磨によって表面粗さはRmax7.2nm、Ra2nmに減少した。研磨は表面を平滑にしているが、反りを増大させる場合もある。
(X線回折)
X線回折装置によって、基板表面法線と(0001)面法線の関係を調べた。基板表面法線と、(0001)面法線のなす角度の最大値は±1.7゜であった。GaN(0001)面の法線方向のばらつきは基板内で3.7゜であった。また研磨後の基板の反り量は2インチ長で90μmであった。曲率半径はR=3400mmである。これもフォトリソグラフィの限界以内である。
【0078】
【発明の効果】
本発明は大型のGaN単結晶ウエハを提供する。窓付きマスクを通したラテラル成長法によるからGaN結晶中の転位等の欠陥が少ない。欠陥が少ないし内部応力が小さいので反りを低減することができる。さらに研磨によって基板表面を平坦化するため、反りは極めて少ない。フォトリソグラフィなどのウエハ−プロセスで処理する事ができる。また結晶面の揺らぎも実用性のある範囲内にある。デバイス形成に問題はない。低欠陥で反りの小さいこのウエハ−を使用してLED、LDを作製することができる。そうすればLEDの特性を向上させることができ、LDの寿命を延ばす事ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】GaN結晶を成長させるための基板材料とGaNとの熱膨張係数、格子定数の差を、x、y座標に示すグラフ。
【図2】サファイヤ基板上にGaNエピタキシャル成長させた場合に、GaN膜厚が変化することによって格子定数が滑らかに変化することを示すグラフ。
【図3】千鳥型点状窓マスクをGaAs(111)A面に固定したものの平面図。
【図4】マスク窓から露呈した部分にGaNバッファ層をエピタキシャル成長させた状態の平面図。
【図5】GaNをマスク、バッファ層の上にさらにエピタキシャル成長させ隣接窓からの結晶が相会した時に状態を示す平面図。
【図6】GaAs基板の上にマスクを載せてGaNバッファ層、GaNエピタキシャル層を成長させ、GaAs基板をエッチング除去する工程を示す工程図。(1)はGaAs(111)基板上にマスクを形成した工程の図。(2)はマスクによって覆われていない部分にバッファ層を成長させた工程の図。(3)はバッファ層、マスクの上にGaNエピタキシャル層を成長させた工程の図。(4)はGaAs基板を除去しGaNの自立膜となった状態を示す図。
【図7】GaN基板の上にさらにGaNを厚く成長させてGaNインゴットを作りこれを切断してウエハにする工程を示す図。(1)はGaN基板に厚付けしたGaNインゴットの図。(2)はインゴットを内周刃スライサーでアズカットウエハに切断している状況を示す図。(3)は切り出されたウエハの図。
【図8】HVPE装置の概略断面図。
【図9】GaAs基板の上にGaNを成長させた複合基板が熱応力のために反っている状態を示す断面図。
【図10】もしも内部応力が0であれば、GaAsを除去した後のGaNは平坦になることを示す断面図。
【図11】もしもGaN自体のなかに内部応力が存在するならばGaAsを除去しても尚歪みが残ることを示す断面図。
【図12】 GaNウエハの反りの定義を示す図。50mm直径のウエハの中央部の盛り上がりHによって反りを表現する。
【図13】Ga分圧を(A)1kPaの一群と(B)2kPaの一群について、膜厚と内部応力の測定値の分布を示す図。黒丸が表面粗くてB群である。白丸が表面平滑でA群である。
【図14】同じA群試料(5枚)とB群試料(6枚)について、膜厚と曲率半径の分布を示す図。黒丸がB群、白丸がA群である。
【図15】反りのあるGaNウエハ−において基板面法線と結晶面法線の定義を示す図。(a)は反りのある状態での基板面法線と結晶面法線が一致しているものを示す。(b)は凸面を平坦に研磨するので、基板面法線は平行になるが、結晶面法線はもとの扇型であることを表している。(c)は基板面内において結晶面法線のゆらぎの定義を示した図である。
【図16】反りのある2インチ径ウエハ−の端部の反りの角度Θと反りの曲率半径の関係を示すグラフ。横軸が曲率半径(mm)、縦軸が端部の反りの角
【符号の説明】
1 反応炉
2 ヒ−タ
3 原料ガス導入口
4 原料ガス導入口
5 Ga溜
6 Ga融液
7 サセプタ
8 シャフト
9 GaAs基板またはGaN基板
10 ガス排出口
Claims (2)
- (111)GaAs基板の上に[11−2]方向に一定間隔をおいて並び[−110]方向には半ピッチずれた点状の窓を有するマスク又は[11−2]方向に伸びるストライプ状の窓を有するマスク若しくは[−110]方向に伸びるストライプ状の窓を有するマスクを形成し、GaNバッファ層を設け、HVPE法によりGaNをエピタキシャル成長させGaAs基板およびマスクを除去し、GaN自立膜とし、少なくとも一面を研磨することを特徴とするGaN単結晶基板の製造方法。
- (111)GaAs基板の上に[11−2]方向に一定間隔をおいて並び[−110]方向には半ピッチずれた点状の窓を有するマスク又は[11−2]方向に伸びるストライプ状の窓を有するマスク若しくは[−110]方向に伸びるストライプ状の窓を有するマスクを形成し、GaNバッファ層を設け、HVPE法によってGaNをエピタキシャル成長させ、GaAs基板およびマスクを除去してGaN基板を得て、そのGaN基板の上にHVPE法によってGaN単結晶をエピタキシャル成長せしめ、エピタキシャル成長したGaNインゴットから、切断又は劈開により分断して複数のGaN基板とし、GaN基板の少なくとも一面を研磨する事を特徴とするGaN単結晶基板の製造方法。
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