JP3772491B2 - 鍵盤用力覚制御装置、鍵盤用力覚制御方法および記憶媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、たとえば、電子音源を用いたピアノにおいて、良好なタッチ感を鍵に付与することができる鍵盤用力覚制御装置、鍵盤用力覚制御方法および鍵盤用力覚制御をコンピュータに実行させるプログラムを記憶した記憶媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子音源を用いた電子ピアノにおいては、鍵はバネ等によって一方向に付勢されおり、所定の反力(タッチ感)を発生するようになっている。しかしながら、バネ等による単純な反力では、アコースティックピアノのような鍵タッチを得ることはできず、演奏感触が機械的になり、微妙な演奏がし難いという問題があった。
そこで、ソレノイド等を用いて鍵に反力を与える装置が種々開発されている。この種の従来装置においては、鍵に変動する反力を与え、これによって、アコースティックピアノのような演奏感覚を生じさせるようにしている(例えば、特公平7−111631号公報、特開平5−11765号公報など)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来装置においては、単純な物理方程式を用いて鍵の押下位置に対応した反力を求めているので、実際のアコースティックピアノのような力覚を付与することはできなかった。なぜなら、実際のピアノアクションでは、不連続な負荷変動反力を持ち、かつ、ハンマーアクションのたわみや、ハンマーアクションとハンマーとの間の衝突、かみこみ(ハンマーバックチェック等)などの複雑な現象が生じているため、単運な運動方程式では鍵の反力は再現できないからである。
【0004】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、アコースティックピアノの鍵がもつ複雑な力覚をも再現することができる鍵盤用力覚制御装置、鍵盤用力覚制御方法、および鍵盤用力覚制御をコンピュータに実行させるプログラムを記憶した記憶媒体を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の鍵盤用力覚制御装置においては、鍵の運動に関する物理量を検出する鍵挙動検出手段と、前記鍵挙動検出手段が検出した物理量および当該物理量の変化時間に基づいて力覚制御値を出力する力覚特性付与手段と、前記鍵に力を付与する力覚付与手段と、前記力覚特性付与手段が出力した力覚制御値に基づいて前記力覚付与手段の付与力を制御する制御手段とを具備することを特徴とする。
また、請求項2に記載の鍵盤用力覚制御装置においては、鍵の運動に関し、少なくとも鍵速度を含む2以上の物理量を検出しする鍵挙動検出手段と、前記鍵挙動検出手段が検出した物理量に基づいて力覚制御値を出力する力覚特性付与手段と、前記鍵に力を付与する力覚付与手段と、前記力覚特性付与手段が出力した力覚制御値に基づいて前記力覚付与手段の付与力を制御する制御手段と、前記鍵挙動検出手段が検出した鍵速度からバックチェック振動の有無を判定するバックチェック判定手段と、前記バックチェック判定手段がバックチェック振動ありと判定した場合には、所定のバックチェック振動に対応した力覚制御値を前記制御手段に出力するバックチェック制御手段とを具備することを特徴とする。
請求項3に記載の鍵盤用力覚制御装置において、前記力覚特性付与手段は、所定のプログラムの実行により前記力覚制御値を出力するものであり、前記所定のプログラムは、ネットワークを介してダウンロード、または、記憶媒体に記憶されたものであることを特徴とする。
【0006】
また、請求項4に記載の鍵盤用力覚制御方法においては、鍵の運動に関する物理量を検出する第1の過程と、前記第1の過程で検出した物理量および当該物理量の変化時間に基づいて力覚制御値を出力する第2の過程と、前記第2の過程で出力した力覚制御値に基づいて前記鍵に力を付与する第3の過程とを具備することを特徴とする。
また、請求項5に記載の鍵盤用力覚制御方法においては、鍵の運動に関し、少なくとも鍵速度を含む2以上の物理量を検出する第1の過程と、前記第1の過程で検出した物理量に基づいて力覚制御値を出力する第2の過程と、前記第1の過程で検出した鍵速度からバックチェック振動の有無を判定する第3の過程と、前記第3の過程でバックチェック振動ありと判定した場合には、所定のバックチェック振動に対応した力覚制御値を出力する第4の過程と、前記第2の過程で出力した力覚制御値および前記第4の過程で出力した力覚制御値に基づいて前記鍵に力を付与する第5の過程とを具備することを特徴とする。
【0007】
また、請求項6に記載の記憶媒体においては、鍵の運動に関する物理量および当該物理量の変化時間に基づいて力覚制御値を出力する第1の処理と、前記第1の処理で出力した力覚制御値に基づいて前記鍵に付与する力を制御する第2の処理とをコンピュータに実行させるためのプログラムを記憶している。
また、請求項7に記載の記憶媒体においては、鍵の運動に関し、少なくとも鍵速度を含む2以上の物理量に基づいて力覚制御値を出力する第1の処理と、前記鍵速度からバックチェック振動の有無を判定する第2の処理と、前記第2の処理でバックチェック振動ありと判定した場合には、所定のバックチェック振動に対応した力覚制御値を出力する第3の処理と、前記第1の処理で出力した力覚制御値および前記第3の処理で出力した力覚制御値に基づいて前記鍵に付与する力を制御する第4の処理とをコンピュータに実行させるためのプログラムを記憶している。
【0008】
【発明の実施の形態】
1:全体構成
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の構成を示すブロック図である。
この図において、符号1はCPUであり、装置各部を制御する。なお、CPU1において用いられる基本プログラムを記憶するROMや、ワーキングエリアとなるRAMについては、簡略化のため図示省略した。
【0009】
符号2は回動自在に支持された鍵であり、演奏者の指3によって、押鍵および離鍵される。5は各鍵毎に設けられるポジションセンサであり、鍵2の位置を検出して信号Spとして出力する。このポジションセンサ5は、例えば、鍵2の下部に取り付けられるシャッタと、このシャッタにより光路が遮蔽されるフォトセンサによって構成される。この場合、鍵2の位置に対応して遮光量が連続的に変化するようにシャッタの形状が設定され、これにより、フォトセンサの出力信号から鍵2の位置が一義的に特定されるようになっている。なお、ポジションセンサ5は、光学式に限らず、他の方式によるセンサを用いても良い。要は、鍵2の位置が連続的に検出できるセンサであればよい。
【0010】
また、4は鍵2を駆動するドライブアクチェータであり、鍵2と連動するプランジャーを有したソレノイドを具備している。本実施形態におけるドライブアクチェータ4は、後述する制御に基づいて鍵2に反力を与え、これにより、あたかもアコースティックピアノを演奏するのと同等の感触を演奏者に与えるものである。
また、ドライブアクチェータ4は、ソレノイドに限らず、鍵2に反力を付与できるものであればよい。例えば、モータ(リニアモータ、ロータリーモータ)、ブレーキ装置、あるいは油圧、空圧装置等の付勢手段等を用いてもよい。
【0011】
次に、上述したポジションセンサ5の出力信号Spは、マルチプレクサ6に入力される。マルチプレクサ6は、複数設けられており、また、各々が12音分(1オクターブ分)の入力端子を持っている。そして、これらの入力端子に同一オクターブ範囲内の各鍵に対応する信号Spが各々入力される。すなわち、マルチプレクサ6は、ピアノの音域に沿って各オクターブ毎に設けられており、本実施形態においては、標準的なピアノの88鍵に対応して8個設けられている。
【0012】
また、各マルチプレクサ6の各入力端子が順次スキャンされ、ピアノの各鍵の位置情報が順次(例えば、低音側から高音側に向かって)検出されるようになっている。そして、マルチプレクサ6を介して出力される信号Spは、AD変換器7によってデジタル信号に変換される。
【0013】
一方、ポジションセンサ5から出力される各鍵についての信号Spは、各鍵毎に設けられた微分器9によって速度を示す信号Svに変換され、マルチプレクサ10に入力される。マルチプレクサ10は、マルチプレクサ6と同様に、ピアノの各音域に対応して複数設けられており、各々が12音分(1オクターブ分)の入力端子を持っている。各マルチプレクサ10の入力端子は、マルチプレクサ6の入力端子と同期してスキャンされ、ピアノの各鍵の速度情報が順次検出されるようになっている。そして、マルチプレクサ10を介して出力される信号Svは、AD変換器11によってデジタル信号に変換される。
【0014】
また、微分器9から出力される各鍵についての信号Svは、各鍵毎に設けられた微分器20によって加速度を示す信号Saに変換され、マルチプレクサ21に入力される。マルチプレクサ21は、マルチプレクサ6、10と同様に、ピアノの各音域に対応して複数設けられており、各々が12音分(1オクターブ分)の入力端子を持っている。各マルチプレクサ20の入力端子は、マルチプレクサ6、10の入力端子と同期してスキャンされ、ピアノの各鍵の加速度情報が順次検出されるようになっている。そして、マルチプレクサ20を介して出力される信号Saは、AD変換器22によってデジタル信号に変換される。
【0015】
以上のように、ピアノの各鍵の位置、速度、加速度を各々示す信号Sp、Sv、Saが同期して出力され、かつ、これらが、AD変換器7、11、22によってデジタル信号に変換されるようになっている。そして、信号SpはCPU1、力覚付与テーブル32、33、PWM指令値発生回路40に供給されるとともに、ヒステリシス切換回路25を介して力覚付与テーブル30または31に供給される。信号SvはCPU1、ヒステリシス切換回路25および力覚付与テーブル32に供給され、信号SaはCPU1および力覚付与テーブル33に供給される。力覚特性付与テーブル30〜33は、ドライブアクチェータ4が発生すべき反力、すなわち、力覚の特性を記憶しているテーブルである。
【0016】
次に、鍵の反力について説明するが、それに先立ち、鍵に反力を生じさせる主な要因となるピアノアクションの動作について簡単に説明する。
図3は、ピアノアクションの外観図であり、鍵2が押鍵されていくと、まず、キャプスタタンUがアクションAを持ち上げ始める。続いて鍵盤の後端がダンパーDを押し上げてゆくことになる。アクションAが持ち上げられると、ジャックJがハンマーローラーHRを突き上げ、これにより、ハンマーHが弦Sに向けて回動し始める。さらに、鍵2を押下して行くと、ジャックJがハンマーローラHRをさらに突き上げてから脱進し(ハンマーローラHRから外れ)、これにより、ハンマーHは弦Sを打弦する。打弦を終えたハンマーSは、弦Sの反力および自重で落下する。次に、鍵2を戻して離鍵行程に入ると、鍵2の先端がダンパーDを徐々に下げてから離れ、次いで、鍵2がレスト位置に戻り、一連の鍵操作が終了する。
【0017】
ここで、図4は、鍵を静かに押下し、押し切った後に静かに元の位置(レスト位置)に戻した場合の反力(静的反力)の特性を示す図であり、横軸が鍵のレスト位置からの距離、縦軸が反力である。図示の点aは鍵を押し始めた後にハンマーアクションの反力が加わった状態を示し、点bはダンパーの反力が加わった状態を示している。また、b’はジャックが抜け始めた状態であり、点cはジャックが抜けた(脱進した)状態である。そして、ハンマーが打弦に向かうと反力が急激に小さくなり(点d)、次いで、鍵がエンド位置に達すると棚板に行き当たるために大きな反力が生じる(点d)。次に、離鍵行程に移ると、反力は、矢印eで示す経路を通って0に戻る。以上のように、鍵はハンマーアクションの動きや自重に応じた反力を演奏者の指に与える。また、押鍵と離鍵において発生する反力の特性は異なり、ヒステリシス特性を有していることが判る。なお、図4に示す破線はダンパーペダルを踏んで、ダンパーを上げた状態(ダンパーの反力が鍵にかからないようにした状態)にして静的反力を測定した場合の特性である。
【0018】
次に、図5は、打鍵速度を変えた場合の押鍵行程における鍵の反力の特性を示す図である。図において、曲線C1〜C5は、各々打鍵強度を変えた場合の鍵の位置と反力との関係を示している。なお、図5に示す特性は、打鍵装置(自動ピアノの鍵駆動ソレノイド機構)によって鍵を自動的に駆動した場合の特性であり、曲線の符号の横の括弧内の数値は打鍵装置の駆動力を示している(単位はニュートン)。図5から判るように鍵の反力特性は、鍵の駆動力(駆動速度)によって変化する。
【0019】
以上のことから判るように、鍵の反力を再現するには、単純な運動方程式では不十分であり、鍵の位置、鍵の速度、鍵の加速度等の種々のパラメータを使用し、これらに適合する反力を求めることが必要である。
図1に示す力覚付与テーブル30〜33は、このような観点から各種パラメータに応じた反力を出力するようになっており、各力覚付与テーブル30〜33から出力された反力は加算器35、36、37によって合成され、これにより、アコースティックピアノの鍵から得られる反力と同等の反力を再現する。
【0020】
ここで、力覚付与テーブル30、31は、鍵の位置と速度から得られる反力を発生する。この場合、力覚付与テーブル30は、押鍵行程における反力を発生し、力覚付与テーブル31は離鍵行程における反力を発生する。
より詳細に言えば、力覚付与テーブル30、31においては、位置を示す信号Spと速度を示す信号Svとをパラメータとして反力(出力データY1)が決定される。すなわち、力覚付与テーブル30、31は、図2に示すようにX軸が信号SPの値、Y軸が出力値となっているテーブル30−1〜30−nをZ軸方向に複数配列して構成されている。そして、Z軸に信号Svの値をとり、この信号Svによっていずれかのテーブル30−1〜30−nが選択され、この選択されたテーブルを用いて信号SPに対応する出力値が決定される。ここで、信号Svの値が各テーブルの間にある場合は、その両側にある2つのテーブルが選択され、各テーブルから出力される出力値に対して補間処理を行うことによって出力データY1が決定される。また、力覚付与テーブル31も上記と同様の構成となっている。
【0021】
そして、力覚付与テーブル30、31は、ヒステリシス切換回路25の出力信号によって、そのいずれか一方が選択されるようになっている。ヒステリシス切換回路25は、信号Svの符号を判断し、正である場合に力覚付与テーブル30を、負である場合に力覚付与テーブル31を各々選択する。このヒステリシス切換回路25においては、鍵2が押されて押鍵過程にあるときは速度が正になり、逆に鍵2が離されて離鍵過程にあるときは速度が負になることを検出原理としている。なお、ヒステリシス切換回路25は、実際には、速度の正負の変化に対してある程度の不感帯(時間的不感帯)を設け、より適切な制御を行うようにしているが、この点については後述する。
【0022】
次に、力覚付与テーブル32、33は、図2に示す力覚付与テーブル30と同様の構成になっているが、力覚付与テーブル32のX軸には速度信号である信号Svの値がとられ、Z軸には位置信号である信号Spの値がとられる。また、力覚付与テーブル33のX軸には加速度信号である信号Saの値がとられ、Z軸には位置信号である信号Spの値が取られる。すなわち、力覚付与テーブル32は、鍵の速度と位置に応じた反力を出力する。これは、ピアノの鍵盤、アクションなどの特に、位置によって大きく変化する粘性負荷を表現するためにとられる手段である。力覚付与テーブル33は鍵の加速度と位置に応じた反力を出力する。これは、ピアノの鍵盤、アクションなどの特に、位置によって大きく変化する慣性負荷を表現するためにとられる手段である。
【0023】
次に、PWM指令値発生回路40は、力覚付与テーブル30〜33の合成出力Sumと信号Spとに基づいて、ドライブアクチェータ4を駆動するためのパルス幅変調の指令値(以下、PWM指令値という)を発生する回路である。具体的には、合成出力Sumの値をX軸、PWM指令値をY軸にとったテーブルをZ軸方向に複数設けて構成されている。そして、Z軸には信号Spの値を取り、この信号Spによっていずれかのテーブルが選択され、この選択されたテーブルを用いて合成出力Sumに対応するPWM指令値が決定される。ここで、信号Spの値が各テーブルの間にある場合は、その両側にある2つのテーブルが選択され、各テーブルから出力される出力値に対して補間処理を行うことによってPWM指令値が決定される。PWM指令値発生回路40の目的は、ストローク位置により推力に差が生じるという、ソレノイド特有の非線形な推力発生特性を、このテーブルによって補正しようとするものである。PWM指令値発生回路40内のテーブルにより、任意の推力特性が得られ、ソレノイドの設計が容易になるばかりでなく、効率の最適化、コストの低減など多くの利点が得られる。
【0024】
PWM指令値発生回路40から出力されるPWM指令値は、PWMドライバ50に供給され、PWM波形に変換される。PWMドライバ50から出力されるPWM波形は、電流フィードバック回路51を介してドライブアクチェータ4に供給される。電流フィードバック回路51は、ドライブアクチェータ4に供給される駆動電流がPWM指令値に一致するようにフィードバック制御を行う。この電流フィードバック制御により、アクチェータの温度上昇に伴う推力変化が補正され、常に、目標とする反力を再現することができる訳である。
【0025】
一方、合成信号Sumは、D/A変換器45によってアナログ信号に変換され、モニタ46に供給される。これにより、モニタ46には、時事刻々変化する合成信号Sumの波形、すなわち、鍵の反力の波形が写し出される。
【0026】
(2)実施形態の動作
▲1▼力覚特性付与動作
上述した構成によれば、鍵2が操作されると、その位置、速度、加速度に応じた反力が力覚付与テーブル30〜33から出力され、これらが合成されて合成信号Sumとなる。そして、合成信号Sumと位置を示す信号Spに応じたPWM指令値がPWM指令値発生手段50から出力され、これに応じた駆動電流が電流フィードバック回路51を介して出力される。この結果、ドライブアクチェータ4が駆動され、指3に対して反力を与える。
【0027】
この場合、各力覚付与テーブル30〜33は、2つのパラメータを用いて反力を決めているため、単純に一変数だけに基づいて反力を決めるテーブルに比べて、複雑な反力特性にも対応でき、実際のピアノに極めて近いものとなる。しかも、力覚付与テーブル30〜33は、各々異なるパラメータの組を用いているため、反力が発生する要因毎に個別に反力を再現することができ、これらを総合的に用いることにより、極めて高い忠実度をもって反力再現を行うことができる。
▲2▼ヒステリシス特性付与動作
【0028】
前述したように、ヒステリシス切換回路25は、力覚付与テーブル30、31を選択的に切り替えることにより、押鍵行程の反力と離鍵行程の反力とを切り換えているが、鍵速度の正負だけに基づいて、この切り換えを行うと妥当でない場合がある。この点について説明する。
図6(イ)は、一般的な鍵の軌跡を示す図であり、横軸が時間、縦軸が鍵の位置を示している。また、同図(ロ)は、同図(イ)の軌跡に対応する鍵速度を示している。さて、図6(イ)に示す軌跡は、鍵が押鍵された後、時刻t1からt2にかけて僅かに戻り、時刻t2からt3に向かってエンド位置まで押下されている。そして、時刻t3からt4に至る間は、エンド位置で押下され続け、時刻t4から時刻t5に至る間で離鍵が行われている。この鍵軌跡における時刻t1からt2までの部分P1においては、僅かに鍵が戻されているがこれを離鍵行程として判断すると、時刻t2以降から再び押鍵行程としなければならず、テーブルの切換が頻繁になる。テーブルの切換があまりに頻繁に行われると、付与する反力の値がテーブル切換の前後において不連続になることがあり、滑らかな反力、すなわち、タッチ感が損なわれてしまう。また、演奏者も部分P1の部分は、離鍵というよりも、押鍵行程において僅かに間をおく程度のつもりで演奏している場合が殆どあり、離鍵行程に移ったと判断すべきものではない。
【0029】
そこで、この実施形態においては、ヒステリシス切換回路25において、速度反転期間ΔTが基準期間Tfを超えるまでは、テーブル切換を行わないようにしている。この結果、t1〜t2の期間においては、テーブル切換は行われず、押鍵行程用の力覚付与テーブル30が継続して使用され、滑らかな力覚付与が行われる。
同様にして、図6(イ)の部分P2に示すようなノイズの重畳があっても、テーブル切換が行われることがなく、安定した力覚付与が行われる。
【0030】
一方、図6(イ)の時刻t4から速度が負に反転して、速度反転期間ΔTが基準時間Tfを上回ると、ヒステリシス切換回路25が離鍵行程用の力覚付与テーブル31を選択し、離鍵に適した力覚特性の付与が開始される。
【0031】
(3)変形例
▲1▼バックチェック振動再生
ピアノには、打弦後のハンマーがハンマーアクション機構に戻ったときのハンマーの暴れを防止するために、バックチェックが設けられている。この場合、強い打弦があると、ハンマーがバックチェックにあたった後に振動する。この振動の感触はピアニストにとっては重要な感覚であり、また、生ピアノとエレキピアノの大きな差でもある。
ここで、バックチェック振動について図7を参照して説明する。まず、図7(イ)に示すように、弦Sを打弦したハンマーHは、バックチェックBに衝突し、これにより、同図(ロ)に示すように振動する。そして、ハンマーHの振動は、ハンマーアクション機構を介して鍵2に伝達され、さらに指3に伝わる。この指3に伝わる振動は、ハンマーHの動きを伝えるものであり、たとえば、早い連打などを演奏する場合にはピアニストにとっては重要な感覚である。したがって、バックチェック振動を再現することは、生ピアノの感触を高精度に再現する上で重要である。
【0032】
次に、バックチェック振動の再現について説明する。図8(イ)はバックチェック振動(部分P5参照)がある場合の鍵の軌跡と、指が感じる力とを示している。また、同図(ロ)はバックチェック振動がない場合の鍵の軌跡を示している。同図(イ)、(ロ)を比較すると判るように、急激な打鍵のときだけにバックチェック振動が発生する。なお、通常の打鍵であっても、ジャックが戻るときに若干の揺れは生じるが、無視できる程度である。
【0033】
以上のように、バックチェック振動の発生の有無は、打鍵が急峻か否かを検出することにより判別することができる。そこで、例えば、以下のようにしてバックチェック振動の発生を判断する。まず、鍵の直下に所定処理隔てて測定点K1〜K4を設定し、各測定点において、鍵の速度を測定する。なお、これらの測定点K1〜K4は、押鍵速度を測定するために、通常の電子ピアノには設定されているものである。
【0034】
そして、測定点K1における鍵速度をVel1、測定点K4における鍵速度をVel2ととし、その比α=Vel2/Vel1を求める。そして、このαの値といずれかの測定点における速度Velkの値に基づいて、バックチェック振動の有無を検出する。
例えば、
0.2(m/s)<Velkかつ1.2<α
であればバックチェック振動ありと判定し、
Velk≦0.2(m/s)かつα≦1.2
であれば、バックチェックなしと判定する。
【0035】
この判定は、例えば、図1に示すCPU1が、鍵位置を示す信号Spから測定点を認識し、その点の速度を信号Svに基づいて検出すればよい。そして、この検出結果からαを求め、上記の判定を行うようにすればよい。そして、バックチェック振動ありと判定された場合は、バックチェック振動が発生するタイミングにおいて、CPU1は加算器38を介してバックチェック振動の力覚信号を出力する。この結果、各力覚付与テーブル30〜33の合成出力Sumに、バックチェック振動成分が重畳され、バックチェック信号が再現される。
この場合、CPU1は所定のメモリ(図示略)にバックチェック振動のデータを記憶しておき、これを離鍵行程の所定タイミングにおいて出力する。また、バックチェック振動のデータは、打鍵の強さに応じて複数記憶しておき、測定点K1〜K4のいずれかで得られた鍵速度に応じたものを選択すればよい。さらに、バックチェック振動データの出力タイミングも、上記と同様に測定点K1〜K4のいずれかで得られた鍵速度に応じて可変してもよい。
【0036】
▲2▼ダンパペダル制御
図4において説明したように、ダンパペダルをオンした場合とオフした場合とで、反力が異なる。そこで、ダンパペダルのオン/オフを検出するとともに、このオン/オフに従って使用する力覚付与テーブルを切り換えるようにしてもよい。
【0037】
▲3▼その他の要素を加える処理
力覚付与テーブルは、上記実施形態で説明したもの以外を増設することもできる。すなわち、何らかの感触を演奏者に与える要素があれば、それを再現する力覚データを記憶した力覚付与テーブルを設定し、パラメータとしては、鍵位置、鍵速度、鍵加速度など任意のものを2つ以上選択して読み出すように構成すればよい。この場合の構成例を、図1に増設部60として示す。なお、増設する力覚付与テーブルのパラメータとしては実施形態で用いたもの以外を用いてもよい。なお、力覚付与テーブルは、3次元(パラメータが2つ)に限らず、より多くのパラメータを用いて多次元構成としてもよい。
【0038】
▲4▼その他のパラメータ
パラメータとして、加速度の変化分、すなわち、加加速度を用いてもよい。この加加速度は、自動車などの乗り心地などの指標として用いられることもあり、人間の感覚に重要な要素として知られている。したがって、加加速度を検出し、これを用いて力覚制御をしてもよい。
▲5▼上述の実施形態においては、押鍵行程と離鍵行程のヒステリシス特性を模倣するために、鍵位置に関する力覚付与テーブル30、31を鍵速度の符号に応じて選択するようにしているが、鍵加速度の符号などの他の選択情報により選択するようにしてもよい。また、鍵速度あるいは鍵加速度のヒステリシス特性をも模倣するようにしてもよく、その場合には、鍵速度あるいは鍵加速度に関する力覚付与テーブルを複数設け、鍵速度や鍵加速度の符号などの選択情報に応じて選択するようにしてもよい。このとき、鍵速度あるいは鍵加速度に関する力覚付与テーブルの切り換えは、鍵位置の場合と同様に、選択情報の変化が基準期間を越えた場合にのみ行うことは勿論である。さらに、基準期間を鍵位置、鍵速度、鍵加速度で各々独立に設定可能にすれば、よりきめ細かい制御が可能となる。
▲6▼上述した実施形態においては、鍵の位置に関する時間に関する情報を、ヒステリシス特性を模倣するための力覚付与テーブルの切り換えに利用するようにしていたが、これに限らず、所定タイミング(例えば、押鍵が開始された瞬間、あるいは、鍵位置/鍵速度/鍵加速度が0を含む所定値になった瞬間など)から時間経過に応じて力覚を制御するようにしてもよい。これにより、例えば、所定タイミングからの時間が長くなるほど反力を大きくするか、あるいは小さくするといった制御が可能になる。
▲7▼上述の実施形態においては、離鍵過程においても力覚制御をしているが、離鍵時の感触があまり問題ない場合は、押鍵過程のみの力覚を制御してもよい。
▲8▼上述の実施形態においては、アコースティックピアノの力覚の再現を行う例を示したが、他の鍵盤楽器の力覚を再現するように、力覚付与テーブル内のデータを設定してもよく、さらに、任意の力覚を付与するように構成してもよい。この場合、少なくとも鍵位置に基づき鍵のオン/オフを検出する回路と、楽音信号を電子的に発生する楽音信号発生回路と、この楽音信号発生回路で発生される楽音信号の音色を選択する回路とを設け、操作された鍵に応じた音高であって、選択された音色の楽音信号を発生するとともに、選択された音色に対応する力覚を付与するようにしてもよい。これにより、選択された音色がピアノであれば、ピアノの音色の楽音信号を力覚がピアノの鍵盤で発生させたり、選択された音色がオルガンであればオルガンの音色の楽音信号を力覚がオルガンの鍵盤で発生させたりすることができ、聴覚と触覚から、あたかも、選択した音色の楽器を弾いているような感覚が得られる。
【0039】
なお、上述の実施形態における力覚特性付与、ヒステリシス特性付与、バックチェック振動再生などの動作をコンピュータに実行させるプログラムおよび各テーブルのデータを記憶媒体に記憶させた状態でユーザーに提供することもできる。これについて図9を用いて説明する。なお、図1と共通する構成要素には、同一の符号を付けて、その説明を省略する。図9に示すようなコンピュータを内蔵する電子楽器は、CD−ROM(コンパクトディスク−リード・オンリ・メモリ)ドライブ90により記憶媒体であるCD−ROM90aに記憶されているプログラムおよびデータを読み取り、HDD(ハードディスクドライブ)91内のハードディスク91aにストアすることができる。このようにして、ハードディスク91aに前述の動作プログラムおよびデータを記憶させておき、このプログラムに基づいてCPU93が動作する。これによりCPU93は、AD変換器94を介して入力される信号Sp,Sv,Saに基づいて、上述の実施形態と同様にドライブアクチェータ4を駆動するためのPWM指令値を出力することができる。このPWM指令値がPWMドライバ50を介してドライブアクチェータ4に供給され、鍵2に反力が付与される。なお、CD−ROMドライブ90以外にも、フロッピーディスク装置、光磁気ディスク(MO)装置等、様々な形態のメディアを利用するための装置を設けるようにしてもよい。
【0040】
また、この電子楽器は、通信インターフェース95を有している。通信インターフェース95は、LAN(ローカルエリアネットワーク)、インターネット、電話回線等の通信ネットワークに接続されており、その通信ネットワークを介して、サーバコンピュータ96と接続されている。この場合、電子楽器は、前述した動作プログラムやデータのダウンロードを要求するコマンドを、通信インターフェース95および通信ネットワークを介してサーバコンピュータ96へ送信する。サーバコンピュータ96は、このコマンドを受け、要求された動作プログラムやデータを、通信ネットワークを介して電子楽器に配信する。そして、電子楽器が通信インターフェース95を介して、これらのプログラムやデータを受信し、ハードディスク91aにダウンロードする。CPU93は、このプログラムに基づいて制御される。従って、上述の実施形態と同様の力覚特性付与、ヒステリシス特性付与、バックチェック振動再生などの動作を行うことができる。
【0041】
【発明の効果】
この発明によれば、アコースティックピアノの鍵がもつ複雑な力覚をも忠実に再現することができる。
また、請求項1,4,6に記載の発明によれば、鍵の挙動を示す物理量の変化時間を考慮して力覚付与が行われるので、不適切な力覚付与やノイズを回避することができる。
請求項2,5,7に記載の発明によれば、バックチェック振動を検出するので、ピアニストにとって重要な感覚であるバックチェック振動を再現することができ、アコースティックピアノ特有の微妙な感触を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態の全体構成を示すブロック図である。
【図2】 同実施形態において用いられる力覚付与テーブルの構成を示す概念図である。
【図3】 一般的なピアノのハンマーアクション機構を示す側面図である。
【図4】 ハンマーアクション機構の静的な反力特性を示す特性図である。
【図5】 ハンマーアクション機能の動的な反力特性を示す特性図である。
【図6】 鍵の軌跡と反力の関係を示す図である。
【図7】 バックチェック振動の発生を説明するための説明図である。
【図8】 バックチェック振動がある場合とない場合の鍵の軌跡を示す図である。
【図9】 前記実施形態に係る鍵盤用力覚制御の動作プログラムを記憶した記憶媒体を実行させるコンピュータを内蔵する電子楽器の概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
1……CPU(制御手段、バックチェック判定手段、バックチェック制御手段)、4……ドライブアクチェータ(力覚付与手段)、5……ポジションセンサ(鍵挙動検出手段)、9、20……微分器(鍵挙動検出手段)、25……ヒステリシス切換回路(力覚特性付与手段)、30〜33……力覚特性付与テーブル(力覚特性付与手段)、40……PWM指令値発生回路(制御手段)、50……PWMドライバ(制御手段)、51……電流フィードバック回路(制御手段)。
Claims (7)
- 鍵の運動に関する物理量を検出する鍵挙動検出手段と、
前記鍵挙動検出手段が検出した物理量および当該物理量の変化時間に基づいて力覚制御値を出力する力覚特性付与手段と、
前記鍵に力を付与する力覚付与手段と、
前記力覚特性付与手段が出力した力覚制御値に基づいて前記力覚付与手段の付与力を制御する制御手段と
を具備することを特徴とする鍵盤用力覚制御装置。 - 鍵の運動に関し、少なくとも鍵速度を含む2以上の物理量を検出する鍵挙動検出手段と、
前記鍵挙動検出手段が検出した物理量に基づいて力覚制御値を出力する力覚特性付与手段と、
前記鍵に力を付与する力覚付与手段と、
前記力覚特性付与手段が出力した力覚制御値に基づいて前記力覚付与手段の付与力を制御する制御手段と、
前記鍵挙動検出手段が検出した鍵速度からバックチェック振動の有無を判定するバックチェック判定手段と、
前記バックチェック判定手段がバックチェック振動ありと判定した場合には、所定のバックチェック振動に対応した力覚制御値を前記制御手段に出力するバックチェック制御手段と
を具備することを特徴とする鍵盤用力覚制御装置。 - 前記力覚特性付与手段は、所定のプログラムの実行により前記力覚制御値を出力するものであり、
前記所定のプログラムは、ネットワークを介してダウンロード、または、記憶媒体に記憶されたものである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の鍵盤用力覚制御装置。 - 鍵の運動に関する物理量を検出する第1の過程と、
前記第1の過程で検出した物理量および当該物理量の変化時間に基づいて力覚制御値を出力する第2の過程と、
前記第2の過程で出力した力覚制御値に基づいて前記鍵に力を付与する第3の過程と
を具備することを特徴とする鍵盤用力覚制御方法。 - 鍵の運動に関し、少なくとも鍵速度を含む2以上の物理量を検出する第1の過程と、
前記第1の過程で検出した物理量に基づいて力覚制御値を出力する第2の過程と、
前記第1の過程で検出した鍵速度からバックチェック振動の有無を判定する第3の過程と、
前記第3の過程でバックチェック振動ありと判定した場合には、所定のバックチェック振動に対応した力覚制御値を出力する第4の過程と、
前記第2の過程で出力した力覚制御値および前記第4の過程で出力した力覚制御値に基づいて前記鍵に力を付与する第5の過程と
を具備することを特徴とする鍵盤用力覚制御方法。 - 鍵の運動に関する物理量および当該物理量の変化時間に基づいて力覚制御値を出力する第1の処理と、
前記第1の処理で出力した力覚制御値に基づいて前記鍵に付与する力を制御する第2の処理と
をコンピュータに実行させるためのプログラムを記憶した記憶媒体。 - 鍵の運動に関し、少なくとも鍵速度を含む2以上の物理量に基づいて力覚制御値を出力する第1の処理と、
前記鍵速度からバックチェック振動の有無を判定する第2の処理と、
前記第2の処理でバックチェック振動ありと判定した場合には、所定のバックチェック振動に対応した力覚制御値を出力する第3の処理と、
前記第1の処理で出力した力覚制御値および前記第3の処理で出力した力覚制御値に基づいて前記鍵に付与する力を制御する第4の処理と
をコンピュータに実行させるためのプログラムを記憶した記憶媒体。
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