以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明では、後述するペダルの長手方向の両側のうち、電子鍵盤楽器の演奏者の側を手前あるいは前といい、その反対側を奥あるいは後という。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態にかかる電子鍵盤楽器の全体構成例を示すブロック図である。同図に示す電子鍵盤楽器は、ペダル31(操作子)を有するペダル装置30と、ペダル31の動作及び反力を制御するための制御部(制御手段)50とを備えている。ペダル装置30と制御部50は、バス5を介して互いに接続されている。また、電子鍵盤楽器には、鍵11を備える鍵盤装置10が設置されている。鍵盤装置10は、バス5を介して制御部50に接続されている。
図2乃至図4は、第1実施形態にかかるペダル装置30の概略構成例を示す図で、図2は側断面図、図3は正面図、図4は平面図である。ペダル装置30は、フレーム32に対して回動可能に支持された複数のペダルを備えており、本実施形態では、グランドピアノにおけるダンパーペダル、ソステヌートペダル、ソフトペダルに相当する3本のペダルが設置されている。なお、図2及び図4では、ダンパーペダルに相当する演奏者から見て最も右側に位置するペダル31のみを示し、他のペダルは図示を省略している。
フレーム32は、金属などで構成された板状部材を適宜に折り曲げて、略矩形の箱型に形成されている。フレーム32は、複数のペダル31に対応する位置に跨る横長形状で、前壁32aにおけるペダル31の取付箇所には、開口部33が形成されている。ペダル31は、長尺状に形成された略平板状の部材からなり、前側が足で踏込操作する操作部31aになっており、後側がフレーム32に取り付けられる取付部31bになっている。そして、フレーム32の開口部33は、ペダル31の断面よりも大きな矩形状に形成されている。開口部33の内周には、両側の縁を後方に折り曲げてなる平板状の曲げ板部33a,33aが設けられている。
ペダル31は、取付部31bが開口部33からフレーム32内に差し込まれた状態で、操作部31aがフレーム32の前方に突出している。このとき、ペダル31は、取付部31bの中間がペダル支点34に支持されており、該ペダル支点34を中心として長手方向が上下に回動自在になっている。
ペダル支点34は、ペダル31に設けた長穴31cと該長穴31cに挿通したピン(軸部材)15とで構成されている。ピン15は、軸方向がペダル31の長手方向に対して直交する水平方向に配置されている。長穴31cは、ピン15に対して前後方向に延びる長尺状の穴である。ピン15は、支持部材16を介して載置板17上に設置されている。載置板17は、図4に示すように、上記3本のペダル31の間に跨って配置された長尺状の板材であり、載置板17上には、各ペダル31に対応するピン15及び支持部材16が設置されており、各ペダル31それぞれが載置板17に対して回動可能に支持されている。また、載置板17は、その長手方向の両側が、前後方向に延びるリニアガイド18,18上に設置されており、該リニアガイド18,18により前後方向に移動自在になっている。載置板17には、前後方向に延びるボールネジ19がネジ係合により連結されており、該ボールネジ19は、ギヤ機構19aを介してモータ20に連結されている。したがって、モータ20の回転がギヤ機構19aを介してボールネジ19に伝達されることで、ボールネジ19の送りで載置板17が前後方向に移動する。これにより、ペダル支点34は、ペダル31の長穴31cの範囲内で前後方向に移動する。上記の載置板17、リニアガイド18,18、モータ20などで、ペダル支点34を移動させる支点移動機構21が構成されている。この支点移動機構21により、ペダル支点34の前後位置を変えることで、ペダル支点34からペダル31の操作側先端部(操作部31aの先端)までの距離、あるいはペダル31の回動角度範囲を変更することができる。
フレーム32内におけるペダル31の下面側には、復帰バネ(付勢手段)35が設置されている。復帰バネ35は、金属などの弾性を有する線材をコイル状に巻き回してなるバネ材であり、コイル軸方向に圧縮されることで弾発力(付勢力)を生じるものである。復帰バネ35は、ペダル支点34より前方に配置されており、その位置のペダル31を上方に向かって付勢するようになっている。
また、ペダル31の操作に対して電気的な駆動力による反力を発生する駆動手段として、ペダル31の上面側に設置したソレノイド40を備えている。ソレノイド40は、ペダル支点34よりも後方に配置されており、コイル41と、コイル41の中央に設置された進退移動可能なロッド42とを備えている。また、コイル41の外側(上下及び外周)を覆う位置には、ヨーク(磁性体)46が設置されている。ロッド42は、軸方向が上下方向に配置され、下端がペダル31の上面に当接している。また、ロッド42の上端には、平板状の板部材43が取り付けられている。板部材43は、その面がロッド42の軸方向と直交するように取り付けられており、板部材43がヨーク46の上端に当接する位置で、ロッド42の下端が初期位置にあるペダル31の上面に当接するようになっている。また、板部材43と、ソレノイド40の真上に張り出したフレーム32の上壁32bとの間には、コイル状のバネ(付勢手段)44が介在している。このバネ44により、ロッド42が下方へ付勢されている。
また、ペダル装置30には、ペダル31の位置を検出するペダル位置センサ(動作検出手段)45が設けられている。ここでのペダル位置センサ45は、ペダル31に取り付けたシャッタ45aと、該シャッタ45aにより光路が遮蔽されるフォトセンサ45bとで構成される光学式センサである。この場合、ペダル31の位置変化に応じて遮光量が連続的に変化するようにシャッタ45aの形状を設定し、フォトセンサ45bの出力信号からペダル31の位置が一義的に特定されるようにする。なお、ペダル位置センサ45は、ペダル31の位置を検出できるものであれば、上記のような遮光式センサ以外にも、図示は省略するが、ペダル31の位置変化に応じて反射光量を連続的に変化させることが可能な反射面をペダル31に設置し、該反射面で反射した光を受光部で受光してペダル31の位置を検出するように構成した反射式センサでもよい。さらにいえば、光学式センサに限らず他の方式のセンサでもよい。また、図示は省略するが、ペダル位置センサ45に代えて、ペダル位置検出用のスイッチなどを設置してもよい。また、ここでは、ペダル31の動作を検出する動作検出手段として、ペダル位置センサ45を設置した場合を説明したが、それ以外にも、ペダル31の速度、加速度、角度、角速度をそれぞれ検出するペダル速度センサ、ペダル加速度センサ、ペダル角度センサ、ペダル角速度センサのいずれか、あるいはこれらのうちの複数を設置することも可能である。
また、ペダル31には、ガイド部材36が取り付けられている。ガイド部材36は、取付部31bの前端に設置された略矩形状の部材であり、その両側面には、小突起36aが複数個(図では両側に各2個ずつ)設けられている。小突起36aは、フレーム32の曲げ板部33aの内側面に当接している。これにより、ガイド部材36は、ペダル31の揺動に伴って小突起36aが曲げ板部33a,33aに対して摺動しながら、その内側を上下移動してペダル31の揺動をガイドする。
また、ガイド部材36の上端に対向するフレーム32の壁面32cには、ペダル31の上限位置を規定するための上限ストッパー37が設置されている。上限ストッパー37は、ガイド部材36の衝突による衝撃を緩和するための緩衝材からなる。ペダル31は、踏込操作が開始される最上位置(以下、「初期位置」という。)にある状態で、ガイド部材36の上端が上限ストッパー37に当接するようになっている。
一方、開口部33の下端には、ペダル31の下限位置を規定するための下限ストッパー38が設置されている。下限ストッパー38は、ペダル31の衝突による衝撃を緩和する緩衝材23を備えており、初期位置にあるペダル31の下面に対して所定距離を有して対向するように設置されている。緩衝材23は、載置板24上に設置されている。載置板24は、図4に示すように、3本のペダル31の間に跨って配置された長尺状の平板部材であり、各ペダル31に対応する位置に渡って緩衝材23が設置されている。載置板24は、その長手方向の両側が、前後方向に延びるリニアガイド25,25上に設置されており、該リニアガイド25,25により前後方向に移動自在となっている。また、載置板24には、前後方向に延びるボールネジ26がネジ係合した状態で連結されており、該ボールネジ26は、ギヤ機構26aを介してモータ27に連結されている。したがって、モータ27の回転がギヤ機構26aを介してボールネジ26に伝達されることで、ボールネジ26の送りで載置板24が前後方向に移動する。これにより、下限ストッパー38は、リニアガイド25,25の範囲で前後方向に移動可能となっている。載置板24、リニアガイド25、モータ27などで、下限ストッパー38を移動させる下限ストッパー移動機構28が構成されている。下限ストッパー移動機構28により下限ストッパー38の前後位置を変えることで、後述するように、ペダル31の下限位置を変えて該ペダル31の操作側先端部のストローク量(以下、単に「ストローク量」ということがある。)を変更することができる。
また、ペダル支点34よりも後方には、ペダル31の前後及び左右方向への移動を規制するための位置決めピン29が設置されている。位置決めピン29はペダル31に設けた穴31dに挿通されている。なお、図示は省略するが、ペダル装置30には、ペダル31の動作を電気的な出力に変換するためのスイッチ接点やボリューム検出部などの機構も設けられている。
上記構成のペダル装置30の動作について説明する。ペダル31が初期位置にあるとき、ペダル31の自重と、ガイド部材36が上限ストッパー37から受ける抗力と、復帰バネ35の付勢力と、バネ44の付勢力の各力が釣り合っている。したがって、初期位置における各力の釣り合いにより、ペダル31は、前後方向(長手方向)が略水平な状態で静止している。この状態のペダル31を踏み込むと、ペダル支点34を中心に回動し、ペダル31に押された復帰バネ35が圧縮されるとともに、バネ44が圧縮されてロッド42が上方へ移動する。これにより、ペダル31には、復帰バネ35の付勢力による反力とバネ44の付勢力による反力とが付与される。さらにペダル31を踏み込むと、ペダル31は下限ストッパー38に当接して停止する。一方、ペダル31を踏み込んでいる力を弱めると、復帰バネ35の付勢力とバネ44の付勢力とによりペダル31は逆向きに回動し、初期位置へ復帰する。このようにペダル31が復帰バネ35やバネ44の付勢力で移動する過程で、ソレノイド40のコイル41に電圧を印加してロッド42を駆動させれば、復帰バネ35やバネ44からペダル31に与えられる反力をソレノイド40による反力でアシストすることができる。その際、制御部50によりソレノイド40の駆動を制御することで、ペダル31の操作に対する反力の力覚制御を行うことができる。この力覚制御の手順については後述する。さらに、この力覚制御に加えて、事前の設定操作により、支点移動機構21でペダル支点34の位置を変更してペダル支点34からペダル31の操作側先端部までの距離、あるいはペダル31の回動角度範囲を調節したり、下限ストッパー移動機構28で下限ストッパー38の位置を変更してペダル31のストローク量を調節したりすることで、ペダル31の動作を変更することが可能である。この点についても後述する。
次に、図1に示す制御部50について説明する。制御部50は、CPU51、ROM52、RAM53、フラッシュメモリ(EEPROM)54を備えている。また、CPU51にはタイマ55が接続されている。CPU51は、ペダル装置30や鍵盤装置10を含む電子鍵盤楽器全体の制御を司る。ROM52やフラッシュメモリ54には、CPU51が実行する制御プログラムや各種テーブルデータのほか、後述する力覚付与テーブル80が記憶されている。RAM53は、演奏データ、テキストデータなどの各種入力情報、各種フラグやバッファデータ及び演算処理結果などを一時的に記憶する。タイマ55は、タイマ割り込み処理における割り込み時間などの各種時間を計時する。
また、電子鍵盤楽器には、制御部50のほか、設定操作部60、表示装置63、音声出力部65、外部記憶装置66、HDD67、通信インターフェイス68、MIDIインターフェイス69などが設けられている。通信インターフェイス68には、外部装置71を接続でき、MIDIインターフェイス69には、MIDI機器72を接続できる。また、通信インターフェイス68は、インターネットなどの通信ネットワーク73を介して外部のサーバ装置74との間で通信を行えるようになっている。外部記憶装置66やHDD67は、上記の制御プログラムを含む各種アプリケーションプログラムや各種楽曲データなどを記憶するものである。表示装置63は、表示制御回路62を介してバス5に接続されており、音声出力部65は、音源回路64を介してバス5に接続されている。
図1に示すように、制御部50からの制御信号は、ソレノイド制御ドライバ(駆動制御部)48を介してペダル装置30のソレノイド40に入力されるようになっている。また、制御部50からの制御信号は、下限ストッパー移動機構28が備えるモータ27の駆動を制御するための制御ドライバ46と、支点移動機構21が備えるモータ20の駆動を制御するための制御ドライバ47にも入力されるようになっている。一方、ペダル位置センサ45の検出信号は、制御部50に入力されるようになっている。
また、図1に示すように、押鍵により発生する音の種類を選択するための音設定部61が設けられている。音設定部61は、設定操作部60に設けた操作パネルとして構成されており、該操作パネルには、音選択用の選択ボタン61aが設けられている。選択ボタン61aの操作による信号は、CPU51に供給されるようになっている。この選択ボタン61aで入力された情報に基づいて、押鍵に応じて発生する音が変更されるようになっている。本実施形態の電子鍵盤楽器は、選択可能な音として、特定メーカーや特定機種のアコースティックピアノの音を音源データとして装備している。これにより、当該特定メーカーや特定機種のアコースティックピアノの音を再現できるようになっている。
図5は、ROM52に格納された力覚付与テーブル80の構成例を示す図である。力覚付与テーブル80は、ペダル装置30のソレノイド40が発生すべき反力のパターンを格納したペダル用力覚付与テーブル82を有している。ペダル用力覚付与テーブル82には、押ペダル用のテーブル82aと戻ペダル用のテーブル82bがそれぞれ用意されている。さらに、押ペダル用のテーブル82aと戻ペダル用のテーブル82bはそれぞれ、反力パターンテーブル80aと指令値テーブル80bを備えている。反力パターンテーブル80aは、ペダル位置センサ45の検出値(または該検出値から算出したペダル31の速度、加速度などの値)に対するソレノイド40の出力値を参照するためのテーブルである。指令値テーブル80bは、ソレノイド40に上記の出力値を発生させる指令値を参照するためのテーブルである。なお、ここでのペダル用力覚付与テーブル82は、後述する基準となるペダル用力覚付与テーブル82である。
ここで、上記構成の電子鍵盤楽器において、演奏時のソレノイド40によるペダル31の力覚制御の手順について説明する。図6は、この手順を説明するためのフローチャートである。ペダル31の力覚制御では、まず、ペダル31の位置情報を初期化する(ステップST1−1)。その後、ペダル位置センサ45にて検出したペダル31の位置(踏込量)を読み込む(ステップST1−2)。また、ペダル速度センサを設けている場合は、検出したペダルの速度を読み込み(ステップST1−3)、ペダル加速度センサを設けている場合は、検出したペダルの加速度を読み込む(ステップST1−4)。ペダル速度センサを設けていない場合は、ペダル位置センサ45で検出したペダル位置データの差分からペダル速度を算出してもよい(ステップ1−3)。また、ペダル加速度センサを設けていない場合は、ペダル速度データの差分からペダル加速度を算出(ステップST1−4)してもよい。なお、ペダル装置30に角度センサや角速度センサを設置している場合は、それらで検出したペダル角度やペダル角速度を読み込んでもよい。
次に、ステップST1−3で読み込んだペダル速度の検出値(あるいは算出値)の符号(正負)を判定する(ステップST1−5)。その結果、ペダル速度が正である場合は、ペダル31が踏み込まれる(押ペダル)過程にあるので、ペダル用力覚付与テーブル82から押ペダル用テーブル82aを選択し、これを読み込む(ステップST1−6)。一方、ペダル31の速度が負である場合は、ペダル31の踏み込みが解除される(戻ペダル)過程にあるので、ペダル用力覚付与テーブル82から戻ペダル用テーブル82bを選択し、これを読み込む(ステップST1−7)。続いて、読み込んだ上記いずれかのテーブル82a,82bの反力パターンテーブル80aを参照して、ソレノイド40の出力を決定するとともに、指令値テーブル80bを参照して、ソレノイド40の出力を発生させるための指令値を決定する。そして、決定した指令値をソレノイド制御ドライバ48へ出力し(ステップST1−8)、ソレノイド40を駆動する。このようにして、ペダル用力覚付与テーブル82に基づくペダル反力の制御が行われる。
図7は、上記の力覚制御を行った場合のペダル31の変位(踏込量)Xと荷重(反力)Fの関係を示すグラフである。なお、このグラフでは、ペダル踏込時における反力分布のみを示しており、ペダル戻り時における反力分布は省略している。また、このグラフの反力分布は、ペダル位置センサ(動作検出手段)45による一の検出値に対応する反力分布を一例として示したものである。すなわち、ペダル位置センサ45で検出された値が異なるものである場合は、同図に示すグラフとは別の反力分布となる。ペダル用力覚付与テーブル82による力覚制御では、ペダル踏込時において、同図に示すように、ペダル31の踏込量が小さく、反力の変化率が小さい領域A1と、ペダル31の踏込量が増して、反力の変化率が大きくなる領域A2と、さらにペダル31の踏込量が増して、再度、反力の変化率が小さくなる領域A3の三種類の領域を有している。領域A1では、アコースティックピアノにおいてダンパーの荷重がダンパーペダルに掛かる前の状態が再現され、領域A2では、ペダルとダンパーの連結部を介してダンパーに踏込力が伝わり始め、連結部全体が有する弾性要素からの反力が次第に増加する状態が再現され、領域A3では、ダンパーが完全に弦から離れて摩擦が減少するとともに、連結部全体が有する弾性要素からの反力が増加しなくなる状態が再現されている。このように、本実施形態の力覚制御装置では、アコースティックピアノのダンパーペダルの反力パターンが忠実に再現されている。
上記の力覚制御における反力パターン(ペダル変位に対する反力分布)は、図7に示すように、付勢手段である復帰バネ35及びバネ44による反力F1と、駆動手段であるソレノイド40による反力F2とが合わさった反力になっている。そして、領域A1での反力は、復帰バネ35及びバネ44による反力F1のみで占められており、領域A2と領域A3での反力は、復帰バネ35及びバネ44による反力F1とソレノイド40による反力F2とが合わさったものになっている。ここで、同図に示すように、F1は、復帰バネ35及びバネ44による反力であるため、ペダル31の変位に対して略一次関数に沿う分布になっており、F2は、力覚制御に基づくソレノイド40の電気的な駆動力であるため、F1に重畳されることで、アコースティックピアノのダンパーペダルの反力を再現するような分布になっている。
そして、本実施形態の電子鍵盤楽器では、音設定部61の選択ボタン61aにより音を設定する際に、該音に対応するダンパーペダルの操作感覚(ダンパーペダルの動作及び反力)を同時に再現することができる。以下、その手順を詳細に説明する。まず、選択ボタン61aによる音の選択に基づいて、該音に対応するペダル支点34及び下限ストッパー38の位置が同時に設定される。制御部50は、これに基づいて、ペダル支点34及び下限ストッパー38の位置を変更し、それに伴いペダル支点34からペダル31の操作側先端部までの距離、あるいはペダル31の回動角度範囲を変更することができる。
図8(a)は、ペダル支点34の位置を変化させない場合の下限ストッパー38の位置とペダル31のストローク量との関係を示すグラフである。同図に示すように、下限ストッパー38の位置を前側(ペダル31の先端側)へ移動させるとペダル31のストローク量が小さくなり、後側へ移動させるとペダル31のストローク量が大きくなる。図8(b)は、下限ストッパー38の位置を変化させない場合のペダル支点34の位置とペダル31の回動角度範囲との関係を示すグラフである。同図に示すように、ペダル支点34の位置を前側へ移動させるとペダル31の回動角度範囲は大きくなり、後側へ移動させるとペダル31の回動角度範囲が小さくなる。
この電子鍵盤楽器では、選択ボタン61aで入力された音の選択に基づいて、上記のペダル31のストローク量あるいは回動角度範囲の変更と、ソレノイド40で発生させる反力の力覚制御とを合わせて行うことができる。これにより、選択した音に対応するダンパーペダルの操作感覚(動作及び反力)を再現できるようになっている。
ペダル31のストローク量あるいは回動角度範囲および反力の変更について、具体例を挙げて説明する。なお、ここでは、下限ストッパー38の位置を調節してペダル31のストローク量を変更する場合について説明する。図9は、この手順を説明するためのフローチャートである。まず、音設定部61の音の選択に関する設定値がデフォルト値で有るか否かを判断する(ステップST2−1)。設定値がデフォルト値であれば(Y)、発生させる音やペダル31の動作を変更せずそのまま終了する。一方、設定値がデフォルト値でなければ(N)、該設定値に基づいて、発生させる音を変更する(ステップST2−2)。続けて、変更した音に対応するペダル31の動作を設定するには、現状のペダル31のストローク量の設定に変更が必要か否かを判断する(ステップST2−3)。その結果、変更が必要であれば(Y)、下限ストッパー38を移動させてペダル31のストローク量を変更し(ステップST2−4)、変更が必要なければ(N)、下限ストッパー38を移動させず、そのままとする。続けて、変更された音に対応するペダル31の反力を設定するには、現状の力覚付与テーブル80に変更が必要か否かを判断する(ステップST2−5)。その結果、変更が必要であれば(Y)、基準となる力覚付与テーブル80を変更して、新規の力覚付与テーブルを算出する(ステップST2−6)。新規の力覚付与テーブル算出の具体的な方法については、後述する。算出した新規の力覚付与テーブルは、RAM53などの記憶手段に記憶される(ステップST2−7)。
図10(a)乃至(d)は、力覚付与テーブル80に基づく反力パターンを示すグラフである。なお、同図では、変更前の反力パターンを実線で示し、変更後の反力パターンを破線で示している。図10(a)は、変更前の基準となる力覚付与テーブル80に基づく反力パターンを示すグラフである。同図に示す反力パターンは、ペダル31のストローク量が最小である(下限ストッパー38がペダル31の先端側に最も近い位置にある)状態に対応する反力パターンである。この状態において、選択ボタン61aで選択された音の設定値が入力されると、基準となる力覚付与テーブル80を変更する必要がある場合は、設定値に従って力覚付与テーブル80を変更する。図10(b)は、ペダル31のストローク量に変更がなく、反力量のみに変更がある場合の変更後の反力パターンを示すグラフである。この場合は、下限ストッパー38の位置は変更せず、ソレノイド40を駆動するための力覚付与テーブル80を変更することで、各踏込量に対応する反力量のみを変更している。具体的には、基準となる力覚付与テーブルが有する反力に対応する数値(パターン)を、加算あるいは乗算など所定の計算方法で算出した変更後の数値に置き換えて、新規の力覚付与テーブル80を作成する。
一方、図10(c)は、反力量には変更がなく、ペダル31のストローク量のみに変更がある場合の変更後の反力パターンを示すグラフである。この場合は、下限ストッパー38の位置を調節して、ペダル31のストローク量を変更する。同図に示す例では、ペダル31のストローク量が基準より多くなるように変更した場合を示している。そしてここでは、ペダル31のストローク量が増加した部分について反力パターンを補う必要があるが、その手順は下記のようになる。すなわち、基準となる力覚付与テーブル80を最小踏込量に合わせて作成している場合は、変更後の踏込量(最小踏込量よりも大きい)に合わせて、基準となる力覚付与テーブル80の数値(パターンのプロット値)をペダル変位方向へ延長するように補間したテーブルを作成し、当該テーブルを用いて、増加したストローク範囲に対応する反力パターンを補うようにする。
あるいは、基準となる力覚付与テーブル80を最大・最小の中間など所定の踏込量に合わせて作成している場合は、変更後の最大踏込量が当該所定の踏込量より大きければ、上記と同様、基準となる力覚付与テーブル80が有する数値をペダル変位方向へ延長するように補間することで、変更したストローク範囲に対応する反力テーブルを補う。一方、変更後の最大踏込量が当該所定の踏込量より小さければ、基準となる力覚付与テーブル80の数値を間引いたテーブルを作成し、当該テーブルを用いて、変更したストローク範囲に対応する反力パターンを補うようにする。
さらに、図10(d)は、ペダル31のストローク量と反力量の両方に変更がある場合の変更後の反力パターンを示すグラフである。この場合は、下限ストッパー38の位置を調節して、ペダル31のストローク量を変更するとともに、力覚付与テーブル80を変更することで、各踏込量に対応する反力量を変更する。なお、この場合の反力パターンの変更手順は、図10(a)の反力パターンを基準として、まず、各踏込量に対応する反力量を変更して、図10(b)に示す反力パターンとした後、さらに、ペダル31のストローク量を変更して、図10(d)に示す反力パターンとする。あるいは、図10(a)の反力パターンを基準として、まず、ペダル31のストローク量を変更することで、図10(c)に示す反力パターンとした後、さらに、各踏込量に対応する反力量を変更することで、図10(d)に示す反力パターンとする。このように、基準となる図10(a)に示す反力パターンに対して、2段階の調節を経て所望の反力パターンを得るようにする。
以上説明したように、本実施形態の力覚制御装置では、演奏者が音設定部61から音の選択に関する設定値を入力することにより、ペダル支点34あるいは下限ストッパー38の位置を調節することによるペダル31の踏込量あるいは踏込角度範囲の変更と、ソレノイド40で発生させる反力の変更との両方を行えるので、ペダル31の操作感覚を所望の操作感覚に設定することが可能となる。したがって、電子鍵盤楽器の演奏者は、音設定部61の選択ボタン61aを操作することで、特定メーカーあるいは特定機種のアコースティックピアノの音も再現できることに加えて、ペダル31の踏込量や踏込角度なども再現することが可能となる。これにより、演奏者は、自身が慣れ親しんだ特定メーカーあるいは特定機種のアコースティックピアノに近い演奏感覚で電子鍵盤楽器を演奏することが可能となる。
なお、上記の実施形態では、音の設定に合わせてペダル31の動作を変更する場合について説明したが、これ以外にも、音の設定とは別にペダル31の動作のみを演奏者が好みで変更できるように構成してもよい。また、上記の手順では、ペダル31の動作を変更する例として、下限ストッパー38の位置を変えてペダル31のストローク量を変更する場合について説明したが、これ以外にも、ペダル支点34の位置を変えてペダル支点34からペダル31の先端部までの距離、あるいはペダル31の回動角度範囲を変更することもできる。また、下限ストッパー38とペダル支点34の両方の位置を変えて、ペダル支点34からペダル31の先端部までの距離、ペダル31の先端部の踏込量(ストローク量)、および回動角度範囲を変更するようにしてもよい。その場合は、ペダル支点34の位置に応じてペダル支点34からペダル31の先端部までの距離、ペダル31の先端部の踏込量(ストローク量)、および回動角度範囲が変更され、さらに、変更後のペダル支点34に対する下限ストッパー38の相対的な位置に応じて、ペダル31の先端部の踏込量(ストローク量)、および回動角度範囲が調整されるようになる。
また、本実施形態では、下限ストッパー38とペダル支点34の両方をそれぞれ移動可能に構成した場合を説明したが、これ以外にも、下限ストッパー38あるいはペダル支点34のいずれか一方のみを移動可能に構成することもできる。
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態にかかる電子鍵盤楽器について説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項については、第1実施形態と同じである。これらの点は他の実施形態についても同様とする。第2実施形態の電子鍵盤楽器は、第1実施形態のペダル装置30とは異なる構成のペダル装置を備えている。
図11は、本実施形態のペダル装置30−2の構成を示す概略側断面図である。本実施形態のペダル装置30−2は、下限ストッパー38とペダル支点34とソレノイド40の三者がペダル31に対して一体に移動するように構成されている。すなわち、本実施形態では、第1実施形態のペダル装置30が備える下限ストッパー38を載せた載置板24と、ペダル支点34を載せた載置板17とを、一体に形成してなる一枚の載置板12に置き換えている。また、載置板12とソレノイド40を連結するための連結部12aが設けられている。連結部12aは、載置板12の後端から出てペダル31の側部を上方に延びてソレノイド40に連結された長尺状の部位からなる。なお、連結部12aの具体的な構成はあくまで一例であり、これに限定されるものではない。
載置板12は、長手方向の両側が前後方向に延びるリニアガイド13上に設置されており、該リニアガイド13により前後方向に移動自在になっている。また、載置板12には、前後方向に延びるボールネジ14がネジ係合により連結されており、該ボールネジ14は、ギヤ機構14aを介してモータ6に連結されている。したがって、モータ6の回転がギヤ機構14aを介してボールネジ14に伝達されることで、ボールネジ14の送りで載置板12が前後方向に移動するように構成されている。これにより、下限ストッパー38とペダル支点34とソレノイド40の三者が一体に前後方向へ移動可能となっている。上記の載置板12と連結部12a、リニアガイド13、モータ6などで下限ストッパー38とペダル支点34とソレノイド40の三者を一体に移動させる移動機構7が構成されている。
本実施形態では、下限ストッパー38とペダル支点34とソレノイド40の三者の相対的な位置は変えずに、ペダル31に対するペダル支点34の位置を変更することができる。そしてこの場合、ペダル支点34の位置変更により、ペダル支点34からペダル31の先端部までの距離、及びペダル31のストローク量が変化しても、ペダル支点34に対するソレノイド40の相対位置は変更されないので、ソレノイド40がペダル31を駆動する際のロッド42のストローク量は不変である。したがって、基準となる力覚付与テーブル80を変更せずにそのまま用いることができる。これにより、簡易的にペダル31の操作感覚を変更することが可能となる。
なお、本実施形態では、ソレノイド40を駆動するための力覚付与テーブル80を変更することで、各踏込量に対応する反力量のみを変更することも可能である。この場合は、具体的には、第1実施形態で説明した図10(a)の反力パターンを基準として図10(b)の反力パターンを算出する場合と同様の手順を実行する。すなわち、基準となる力覚付与テーブル80が有する反力に対応する数値(パターン)を、加算あるいは乗算など所定の計算方法で算出した変更後の数値に置き換えて、新規の力覚付与テーブル80を作成する。
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態のように、ソレノイド40に加えて復帰バネ35やバネ44を備える以外にも、復帰バネ35やバネ44を省略して、ソレノイド40だけでペダル31を駆動するように構成することもである。なお、復帰バネ35やバネ44を備えている場合は、ソレノイド40だけでペダル31を駆動するように構成した場合と比較して、ソレノイド40で発生させる反力の大きさが小さくて済む。したがって、ソレノイド40や周辺機器の構成を簡単にでき、かつこれらを小型化できるので、ペダル装置30の小型化、軽量化を図ることができる。また、ソレノイド40の駆動に要する電力が少なくて済むので、電子鍵盤楽器の消費電力を少なく抑えることが可能である。
また、上記実施形態では、ペダル31の操作に対して電気的な駆動力による反力を発生させる駆動手段としてソレノイド40を備える場合を説明したが、本発明の駆動手段は、ペダルの踏込操作に対する反力を発生させるものであれば、ソレノイドには限らず、他の構成のアクチュエータなどであっても良い。
また、下限ストッパー38やペダル支点34あるいはソレノイド40を移動させる移動機構21,28,7の構成は一例であり、当該移動機構は、下限ストッパー38やペダル支点34あるいはソレノイド40をペダル31の踏込量あるいは踏込角度範囲が変化する方向へ移動させるものであれば、具体的な構成は上記実施形態に示す以外の構成であってもよい。
なお、上記実施形態では、ペダル31を付勢する付勢手段として、ソレノイド40のロッド42に連結されたバネ44と、ペダル31に直接当接して反力を与える復帰バネ35との両方を設置した場合を説明したが、ペダル31の踏込操作に対して反力を与える付勢手段としては、復帰バネ35とバネ44のいずれか一方のみを備えていればよい。したがって、復帰バネ35とバネ44のいずれかを省略することも可能である。