JP3699371B2 - インホイールモータ型駆動ユニットおよびハイブリッドシステム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、自動車の電気モータによる車輪の駆動に用いられるインホイールモータ型駆動ユニット、およびそれを備えるエンジン,モータ併用のハイブリッドシステムに関する。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
電気自動車に用いられる駆動ユニットとして、電気モータの一部をホイール内に配置したインホイールモータ型のものがある。従来のインホイールモータ型駆動ユニットは、電気モータと、この電気モータの回転を減速する減速機と、減速機からの回転を出力軸を介して車輪に伝達するハブ輪と、このハブ輪を回転自在に支持する転がり軸受とを備え、減速機から延びる出力軸をハブ輪に直結している。
【0003】
しかし、このような直結型の駆動ユニットでは、電気モータに焼付きが起きて出力軸が回転停止したときに、ハブ輪は空転できないので、急激なタイヤロックが生じるという問題点がある。
【0004】
また、従来のエンジンと電気モータを併用したハイブリット車では、エンジンとモータの駆動伝達系を一体としている。このため、モータとエンジンの動力切替え装置等が必要であるうえ、前輪駆動車(FF車)の場合には前輪側の重量が大きくなり過ぎるという問題点がある。
また、従来のエンジン車での四輪駆動システム(4WDシステム)は、特殊な切替え装置,プロペラシャフト,ドライブシャフト等が必要で、構成が複雑になるという問題点がある。
【0005】
この発明の目的は、電気モータの焼付時に急激なタイヤロックを生じることのないインホイールモータ型駆動ユニットを提供することである。
この発明の他の目的は、簡単な構成でエンジンと電気モータの併用が行え、また電気モータ焼付時のタイヤロックが防止できるハイブリッドシステムを提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明のインホイールモータ型駆動ユニットは、電気モータと、この電気モータの回転を減速する減速機と、減速機からの回転を車輪に伝達するハブ輪と、このハブ輪を回転自在に支持する転がり軸受とを備えたインホイールモータ型駆動ユニットにおいて、上記減速機とハブ輪との間に二方向クラッチを介在させ、上記電気モータの回転を断続可能としたことを特徴とする。
上記二方向クラッチは、例えば、入力軸および出力軸を有していて、入力軸から出力軸への回転は伝達するが、出力軸から入力軸への回転伝達は遮断する形式のものが用いられる。
この構成によると、電気モータが焼き付いて減速機が回転停止したときに、車体の慣性による走行方向のハブ輪の回転が、二方向クラッチの空転機能により自由に許される。そのため、急激なタイヤロックが防止される。二方向クラッチを用いるため、一方向クラッチと異なり、前進および後進のいずれの場合も、上記のタイヤロック防止の作用が得られる。
【0007】
上記二方向クラッチは、入力軸の外周に出力軸を設け、両軸間の環状空間内に両軸を互いに係合させる係合子を収容してなり、上記入力軸が上記減速機に結合されて上記出力軸が上記ハブ輪と結合されたものであっても良い。
このように、二方向クラッチを、入力軸と出力軸間の環状空間に係合子を収容したものとすることにより、構成が簡素でコンパクトなものとなる。このため、インホイールモータ型駆動ユニットを、焼付き時の安全機能を付加したものとしながら、大型化することが避けられる。
【0008】
二方向クラッチは、上記のように入力軸と出力軸間に係合子を介在させたものである場合に、上記出力軸の内周に円筒面状のクラッチ面を、入力軸の外周に複数のカム面をそれぞれ有し、両面によって形成される楔空間に、上記係合子となる正逆両方向に係合可能な複数のローラと、このローラを保持する保持器とを収容したものとしても良い。また、前記正逆両方向の楔空間を構成する前記カム面である正回転ロック用のカム面と逆回転ロック用のカム面は連続した同一平面として形成されたものとし、かつ前記保持器は前記入力軸と保持器の間に設けられた付勢手段により入力軸に対して中立位置に付勢しても良い。 この構成の二方向クラッチは、楔空間にローラが噛み込むことで、その噛み込みが深まる方向への回転がロック状態となる。このようにカム面で形成される楔空間に噛み込むことで回転ロックを行うものであるため、噛み合い爪を用いるものと異なり、回転状態から、ショックを発生させることなく、滑らかに回転ロック状態に移行する。
【0009】
二方向クラッチが上記のように保持器を有するものである場合に、上記出力軸に連結されたロータを有する電磁クラッチを上記二方向クラッチに併設し、外部からの信号により上記保持器をロータに対して磁気的に吸着される吸着状態と吸着解除状態とに切換可能にしても良い。
この構成の場合、電磁クラッチを吸着状態とし、保持器をロータに吸着させると、保持器はロータを介して出力軸と一体化される。そのため、入力軸と出力軸とがいずれの方向に相対回転しても、係合子であるローラがカム面に係合することになる。このため、出力軸と入力軸は、若干の遊びを持って直結されたと同様になり、入力軸から出力軸への回転伝達が可能になる。電磁クラッチによる保持器の吸着を解除すると、二方向クラッチが機能せず、両方向に空転自在な状態となる。このため、電気モータの状態を監視する手段を設け、この手段で電気モータの焼き付き等の故障を検知したときに、上記電磁クラッチをオフとする制御手段を設けることにより、電気モータが焼き付き等の故障を生じたときに、二方向クラッチを空転状態として急激なタイヤロックを防止することができる。
また、電磁クラッチの入切制御を行うことで、二方向クラッチが機能する状態と、機能せずに両方向に空転自在な状態とに切り換えることができ、用途や走行形態等に応じた自由な切換が行える。この切換機能は、例えば四輪駆動車において、2輪駆動に切り換える手段として適用すると実用的である。
【0010】
この発明において、上記転がり軸受は、内周に複列の転走面を有する外方部材と、これら転走面に対向する複列の転走面を有する内方部材と、両部材の転走面間に介在した複列の転動体とからなり、上記内方部材の内周面を上記二方向クラッチのクラッチ面としても良い。二方向クラッチが、入力軸の外周に出力軸を設け、両軸間の環状空間内に両軸を互いに係合させる係合子を収容してなるものである場合は、上記内方部材が上記出力軸となる。
このように、転がり軸受の内方部材の内周面を二方向クラッチのクラッチ面とすることで、すなわち転がり軸受けの内方部材をクラッチの構成部品とすることで、部品点数、組立工数が削減され、構成がより一層簡素化,コンパクト化されて、より軽量化することができる。
【0011】
この発明のインホイールモータ型駆動ユニットは、一方向クラッチを用いるものとしても良い。すなわち、この駆動ユニットは、電気モータと、この電気モータの回転を減速する減速機と、減速機からの回転を車輪に伝達するハブ輪と、このハブ輪を回転自在に支持する転がり軸受とを備えたインホイールモータ型駆動ユニットにおいて、上記減速機とハブ輪との間に一方向クラッチを介在させ、上記電気モータの回転を断続可能とし、上記一方向クラッチを、クラッチ機能が生じる状態と、正逆両方向の回転が伝達される状態とに切り替えるクラッチ機能切替え手段とを設けたものとしても良い。
この構成の場合、例えば前進走行時のみ、モータ焼付き時の安全機能を得るようにできる。後進走行時は、走行速度が遅いため、モータ焼付き時の対策は採らなくても支障は少ないと考えられる。また、クラッチ機能切替え手段を設けたため、電気モータの逆回転による後進走行が可能となる。
【0012】
この発明のハイブリッドシステムは、自動車を駆動するエンジン,モータ併用の駆動システムであり、前輪を駆動させるエンジンと、後輪を駆動させる駆動ユニットとを備え、上記後輪の駆動ユニットを、この発明の上記いずれかの構成のインホイールモータ型駆動ユニットとしたものである。
この構成によると、エンジンと電気モータの動力伝達を切り替える切替え装置等を要することなく、簡単にハイブリッドシステムを構成することができる。また、前輪側にエンジンを、後輪側に電気モータを配置することができて、車体前後の重量バランスの偏り過を解消することができる。
特に、このハイブリッドシステムにおいて、上記の電磁クラッチを並設する構成を採用した場合は、四輪駆動の場合に効果的である。
【0013】
【発明の実施の形態】
この発明の一実施形態を図1ないし図6と共に説明する。このインホイールモータ型駆動ユニット1は、電気モータ2と、その出力回転減速用の減速機3と、ハブ輪5と、ハブ輪5を回転自在に支持する転がり軸受6とを備えた駆動ユニットにおいて、減速機3とハブ輪5との間に二方向クラッチ7を介在させたものである。二方向クラッチ7の出力軸4はハブ輪5に結合され、入力軸8は減速機3に結合されている。電気モータ2は、減速機3と共にケース2Aに収容されており、このケース2Aは、ハブ輪5に取付けられた車輪の内部に一部または略全体が入る。
【0014】
図2に示すように、電気モータ2は、コイル(図示せず)を有する環状のステータ14と、ステータ14の内周に配置されたリング状のロータ13とで構成され、ステータ14はケース2Aに固定されている。ロータ13にはモータ軸11が、支持部材12を介して中心に固定されている。モータ軸11は、ケース2Aに設置された軸受10と、減速機3のキャリア19に設置された軸受9とにより回転自在に支持されている。
減速機3は遊星歯車式のものである。減速機3は、モータ軸11から回転入力され、キャリア19から減速回転を出力するものであり、キャリア19は、ケース2Aに設置された軸受20に、モータ軸11と同軸心に回転自在に支持されている。キャリア19の軸部19aは、減速機3の出力軸となるものであり、上記二方向クラッチ7の入力軸8に、回転伝達可能に結合されている。この結合は、入力軸8の内径孔にキャリア19の軸部19aを、スプラインまたはキー等の噛み合い手段(図示せず)を介して嵌合させることにより行われている。
減速機3は、各種の構成の遊星歯車機構を用いることができるが、図示の例では次の構成とされている。この減速機3は、モータ軸11に固定された太陽歯車15と、この太陽歯車15の外周側に太陽歯車15と同心に配置された内歯歯車16と、これら内歯歯車16と太陽歯車15とに噛み合う一または複数の遊星歯車17と、遊星歯車17を回転自在に支持したキャリア19とで構成される。モータ軸11と共に太陽歯車15が回転すると、太陽歯車15に噛み合った遊星歯車17が自転し、この自転により、内歯歯車16との噛み合いによって公転する。この公転運動が減速機3の減速回転出力となる。
【0015】
図3に示すように、ハブ輪5は、出力軸4の軸端にフランジ部材22を外嵌させて構成され、フランジ部材22に車輪(図示せず)がボルト23で取付けられる。出力軸4の一端は円筒部4aとされており、その内側に入力軸8が遊嵌している。入力軸8と出力軸円筒部4aとの間には軸受24,29が介装され、これによりハブ輪5が入力軸8に対して回転自在に支持されている。
【0016】
転がり軸受6は、内周に複列の転走面26aを有する外方部材26と、これら転走面26aに対向する複列の転走面25aを有する内方部材25と、両部材25,26の転走面25a,26a間に介在した複列の転動体27とからなる。転動体27は各列毎に保持器28で保持される。転がり軸受6は、例えば複列のアンギュラ玉軸受とされている。
内方部材25は、出力軸4により構成される。この例では、出力軸4の円筒部4aは、その先端部を内方部材別体25Aとした分割型のものとしてあり、内方部材別体25Aに片方の転走面25aが設けてある。なお、内方部材25は一体型のものであっても良い。
外方部材26は、外周にフランジ26bを有する一体の部材とされている。外方部材26はナックル等の取付部材(図示せず)を介して車体に設置される。
【0017】
二方向クラッチ7は、入力軸8の外周と、出力軸4の円筒部4aの間に形成された環状空間内に、円周方向に並ぶ複数の係合子30を介在させて構成される。図4に示すように、この二方向クラッチ7は、内方部材25の内周の円筒状のクラッチ面31と、入力軸8の外周に形成された周方向複数箇所のカム面32とを有し、これらクラッチ面31とカム面32によって形成される楔空間33に、上記係合子30が配置される。係合子30にはローラが用いられる。これら係合子30は、リング状の保持器34に形成された円周方向複数箇所の各ポケット35内に1個ずつ保持されている。
カム面32は、互いに逆向きの楔空間33が形成されるように、正回転(図の矢印a方向)のロック用のカム面32aと、逆回転ロック用のカム面32bとが隣合って設けられる。この実施形態では、これらカム面32a,32bは、連続した同一平面として形成され、入力軸8の外周面を多角形とすることで形成されている。図示の例は12角形とした例である。ローラからなる係合子30は、互いに逆向きとなる一対の楔空間33,33に対して1個配置される。
【0018】
保持器34は、入力軸8と保持器34の間に設けられた付勢手段36(図3,図4)により、入力軸8に対して中立位置に付勢される。保持器34の中立位置は、図4に示すように保持器34のポケット35が、入力軸8における正回転ロック用のカム面32aと、逆回転ロック用のカム面32bとの中間位置に対応する位置である。付勢手段36は、ばね部材等により構成される。図示の例では、付勢手段36はクリップばねからなり、外径側へ延びる両端の係止片36aが、入力軸8および保持器34にそれぞれ設けられた係止ポケット63,64間にわたって挿入されている。係止ポケット63,64は、付勢手段36の撓みにより一対の係止片36aが周方向に移動する遊びが設けてある。付勢手段36のばね剛性は、上記中立位置の状態から入力軸8が正逆いずれかの方向に回転すると、付勢手段36が撓んで保持器34の入力軸8に対する相対回転を生じさせる程度の弱いものとする。
【0019】
上記構成の動作を説明する。電気モータ2が回転駆動されると、その回転は減速機3で減速されて入力軸8に伝達される。図4に示すように、停止時においては、入力軸8とその外周の出力軸4(内方部材25)間の環状空間に配置された保持器34は、クリップばねからなる付勢手段36の弾性力で中立位置に保持されている。付勢手段36の弾性力は小さく、上記の中立位置の状態から入力軸8が正方向(矢印a方向)に回転すると、図5のように付勢手段36が撓んで保持器34の相対回転を生じ、ローラからなる係合子30が正転ロック側のカム面32aに係合する係合位置に移動する。この係合位置で、係合子30が楔空間33をさらに奥側へ移動しようとすることになる。このため、入力軸8と出力軸4とが係合子30を介して連結され、電気モータ2の回転が車輪の前進の回転力として伝達される。
【0020】
電気モータ2を逆転させると、図6に示すように、付勢手段36に抗する入力軸8と保持器34の相対回転により、ローラからなる係合子30が逆転ロック側のカム面32bに係合する係合位置に移動し、その楔空間33さらに奥側へ移動しようとする。このため、入力軸8と出力軸4とが係合子30を介して連結され、回転が伝達される。つまり、電気モータ2の回転が車輪の前進の回転力として伝達される。
このように、電気モータ2が正転方向に回転しても、逆転方向に回転しても、保持器34が入力軸8に対して相対回転するため、回転が伝達される。
【0021】
前進時において、電気モータ2の故障により入力軸8が停止したときは、出力軸4のみが慣性で回転することで、係合子30のカム面32aに対する係合が外れる。そのため、図5の状態から図4の状態になり、出力軸4は自由に回転できる。このとき、保持器34は付勢手段36の弾性力により中立位置に戻るが、入力軸8は回転しないので、入力軸8によって保持器34を中立位置を超えて回転させることがなく、保持器34は中立位置を維持し、出力軸4の回転自在な状態が維持される。後進時に電気モータ2の故障により入力軸8が停止したときも、前進時と同様に、出力軸4の自由な回転が許される。このように、電気モータ2が焼き付き等で停止しても、急激なタイヤロックが防止される。
【0022】
このインホイールモータ型駆動ユニット1によると、このように電気モータ2の焼き付きによるタイヤロックが防止される。また、このインホイールモータ型駆動ユニット1において、二方向クラッチ7は、入力軸8を出力軸4内に遊嵌し、両軸4,8の環状空間内に係合子30を収容させてなるので、簡単な構成となる。しかも、二方向クラッチ7は、ローラからなる係合子30を用いたカムクラッチとしてあるため、噛み合い爪を用いるものと異なり、回転状態から、ショックを発生させることなく、滑らかに回転ロック状態に移行させることができる。転がり軸受6は、内方部材25の内周面を二方向クラッチ7のクラッチ面31としているので、部品点数、組立工数が削減され、構成がより一層簡素化,コンパクト化されて、より軽量化することができる。
【0023】
図7は、この発明の他の実施形態にかかるインホイールモータ型駆動ユニットを示す。この実施形態は、上記実施形態において、電磁クラッチ41を二方向クラッチ7に併設し、外部からの信号で電磁クラッチ41を制御することにより、二方向クラッチ7の保持器34を介して入力軸8と出力軸4を係脱可能としている。二方向クラッチ7は、次の構成を別として、上記実施形態のものと同じである。すなわち、この例では、保持器34を中立位置に付勢するクリップばね等からなる付勢手段36が、入力軸8の回転によって撓まず、保持器34を中立位置に維持できるばね剛性のものとしてある。
電磁クラッチ41は、ロータ42とソレノイド43とからなる。ロータ42は出力軸4の一端に固定され、これに軸方向に対向するように、ソレノイド43が電気モータ2のケース2Aに取付部材44を介して取付けられている。ロータ42は、詳細には、内方部材別体25Aの電気モータ2寄りの端部に形成された内方部材大径部25bの内周に取付けられている。ソレノイド43の内周と入力軸8の外周との間には軸受46が介装されている。ロータ42の内周部は軸受45を介して入力軸8の外周に回転自在に支持されている。また、保持器34の電気モータ2寄りの端部には、ロータ42に対向配置されるフランジ部34aが形成されており、ソレノイド43のオン駆動により、フランジ部34aがロータ42に磁気吸着される。ソレノイド43のオフ駆動によりフランジ部34aがロータ42から切り離される。また、モータ2の焼き付き等の異常を監視する手段として、回転数または電流値等を検出するセンサ61を設け、このセンサ61で異常が検出されたときに電磁クラッチ41のソレノイド43をオフにする制御手段62が設けてある。この実施形態におけるその他の構成は上記実施形態と同じである。
【0024】
この実施形態の場合、入力軸8が回転しても、付勢手段36が撓むことなく、保持器34が中立位置に保持されたまま入力軸8と共に回転する。したがって、このままでは、回転は伝達されない。ここで、電磁クラッチ41のソレノイド43をオンにすると、保持器34が、出力軸4の一端に固定されたロータ42に吸着され、保持器34は主力軸4と一体に回転しようとする。そのため、入力軸8と保持器34との間に相対回転が生じ、ローラからなる係合子30が、カム面32(図5)に対する係合位置に移動して、入力軸8と出力軸4とが係合子30を介して係合し、回転が伝達される。この場合に、係合子30は、いずれの回転方向の場合であっても、回転方向に応じたカム面32a,32bに係合し、その回転を伝達する。
ソレノイド43をオフにすると、保持器34の吸着が解除されることで、保持器34が付勢手段36の弾性復元力により中立位置に移動し、入力軸8と出力軸4との係合が解除される。
車両走行時は、ソレノイド43をオンにすることで、回転を伝達する。モータ2の回転数または電流値等をセンサ61で常時検出し、モータ2の状態を監視する。モータ2が故障したら、センサ61の信号によりソレノイド43をオフにする。これにより、入力軸8と出力軸4の係合が解除され、タイヤがロックするのを防止することができる。
このように、電磁クラッチ41の入切制御を行うことで、二方向クラッチ7が機能する状態と、クラッチ機能せずに両方向に空転自在な状態とに切り換えることができ、用途や走行形態等に応じた自由な切換が行える。この切換機能は、例えば四輪駆動車において2輪駆動に切換える手段に適用すると実用的である。
【0025】
なお、上記各実施形態では、二方向クラッチ7を設けたが、二方向クラッチ7に代えて、一方向クラッチを用いても良い。一方向クラッチは、例えば上記各実施形態における二方向クラッチ7において、カム面32を片方のカム面32aだけとしたものを用いることができる。
この構成の場合、例えば前進走行時のみ、モータ焼付き時の安全機能を得るようにできる。
【0026】
この発明のインホイールモータ型駆動ユニットにおいて、二方向クラッチに代えて一方向クラッチを設ける場合に、この一方向クラッチは、入力軸の外周に出力軸を設け、両軸間の環状空間内に両軸を互いに係合させる係合子を収容してなり、上記入力軸が上記減速機に結合されて上記出力軸が上記ハブ輪と結合されたものであっても良い。また、一方向クラッチは、上記出力軸の内周に円筒面状のクラッチ面を、入力軸の外周に複数のカム面をそれぞれ有し、両面によって形成される楔空間に、上記係合子となる一方向に係合可能な複数のローラと、このローラを保持する保持器とを収容したものであっても良い。また、上記出力軸に連結されたロータを有する電磁クラッチを上記二方向クラッチに併設し、外部からの信号により上記保持器をロータに対して磁気的に吸着される吸着状態と吸着解除状態とに切換可能にしても良い。
【0027】
図8は、自動車を駆動するエンジン,モータ併用のハイブリッドシステムを示す。このハイブリッドシステムは、前輪52を駆動させるエンジン54と、後輪53を駆動させる駆動ユニット1とを備え、この駆動ユニット1を、上記いずれかの実施形態にかかるインホイールモータ型駆動ユニットとしたものである。エンジン54は内燃機関である。このハイブリッドシステム51では、前輪52の2つを1つのエンジン54で駆動し、後輪53の2つをそれぞれ個別のインホイールモータ型駆動ユニット1,1で駆動する四輪駆動(4WD)システムとされている。
【0028】
この構成のハイブリッドシステム51によると、従来のエンジン,モータの駆動伝達系を一体としたハイブリッドシステムと異なり、動力分割機構を用いることなく、単にエンジン54と電気モータ2(図1)とを選択的に駆動させることで、エンジン54による走行と、電気モータ2による走行とを切替えることができる。例えば、走行開始時に、後輪53をインホイールモータ型駆動ユニット1である程度加速した後に、前輪52のエンジン駆動に切り替えることができる。これにより、走行開始時の排出ガスの発生防止や、燃費の改善をすることができる。また、雪道走行等において、四輪駆動にしたい場合は、エンジン54による前輪52駆動と、インホイールモータ1による後輪53の駆動を併用することができる。
【0029】
【発明の効果】
この発明のインホイールモータ型駆動ユニットは、電気モータと、この電気モータの回転を減速する減速機と、減速機からの回転を車輪に伝達するハブ輪と、このハブ輪を回転自在に支持する転がり軸受とを備えた駆動ユニットにおいて、上記減速機とハブ輪との間に二方向クラッチを介在させ、上記電気モータの回転を断続可能としたため、電気モータに焼付きが起きても急激なタイヤロックが生じることを防止することができる。
上記二方向クラッチが、入力軸の外周に出力軸を設け、両軸間の環状空間内に両軸を互いに係合させる係合子を収容してなり、上記入力軸が上記減速機に結合されて上記出力軸が上記ハブ輪と結合されたものである場合は、構成が簡素でコンパクトなものとできる。
上記二方向クラッチが、上記出力軸の内周に円筒面状のクラッチ面を、入力軸の外周に複数のカム面をそれぞれ有し、両面によって形成される正逆両方向の楔空間に、上記係合子となる複数のローラとこのローラを保持する保持器とを収容した場合は、噛み合い爪を用いるものと異なり、回転状態から、ショックを発生させることなく、滑らかに回転ロック状態に移行させることができる。
上記出力軸に連結されたロータを有する電磁クラッチを上記二方向クラッチに併設し、外部からの信号により上記保持器をロータに対して磁気的に吸着される吸着状態と吸着解除状態とに切換可能にした場合は、二方向クラッチを機能させる状態と、二方向クラッチを機能させずに両方向に空転自在な状態とに自由に切換え操作でき、用途や走行形態等に応じた切換が行える。
上記転がり軸受が、内周に複列の転走面を有する外方部材と、これら転走面に対向する複列の転走面を有する内方部材と、両部材の転走面間に介在した複列の転動体とからなり、上記内方部材の内周面を上記二方向クラッチのクラッチ面とした場合は、部品点数、組立工数が削減され、構成がより一層簡素化,コンパクト化されて、より軽量化することができる。
この発明のハイブリッドシステムは、前輪をエンジン駆動させ、後輪にこの発明のインホイールモータ型駆動ユニットを用いるようにしたため、簡単な構成でエンジンと電気モータとの併用が行え、また電気モータ焼付時のタイヤロックの防止作用も得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施形態にかかるインホイールモータ型駆動ユニットの部分破断面側面図である。
【図2】同駆動ユニットにおける電気モータおよび減速機の部分を示す拡大断面図である。
【図3】同駆動ユニットにおける出力軸側の部分を示す断面図である。
【図4】同駆動ユニットにおける二方向クラッチの空転時の動作説明図である。
【図5】同駆動ユニットにおける二方向クラッチの正転時の動作説明図である。
【図6】同二方向クラッチの逆転時の動作説明図である。
【図7】この発明の他の実施形態にかかるインホイールモータ型駆動ユニットの部分破断側面図である。
【図8】この発明のインホイールモータ型駆動ユニットを用いたハイブリッドシステムの概略構成図である。
【符号の説明】
1…インホイールモータ型駆動ユニット
2…電気モータ
3…減速機
4…出力軸
5…ハブ輪
6…転がり軸受
7…二方向クラッチ
8…入力軸
25…内方部材
25a…転走面
26…外方部材
26a…転走面
27…転動体
30…係合子(ローラ)
31…クラッチ面
32…カム面
33…楔空間
34…保持器
41…電磁クラッチ
42…ロータ
43…ソレノイド
51…ハイブリッド
52…前輪
53…後輪
54…エンジン
Claims (8)
- 電気モータと、この電気モータの回転を減速する減速機と、減速機からの回転を車輪に伝達するハブ輪と、このハブ輪を回転自在に支持する転がり軸受とを備えたインホイールモータ型駆動ユニットにおいて、
上記減速機とハブ輪との間に二方向クラッチを介在させ、上記電気モータの回転を断続可能としたことを特徴とするインホイールモータ型駆動ユニット。 - 上記二方向クラッチは、入力軸の外周に出力軸を設け、両軸間の環状空間内に両軸を互いに係合させる係合子を収容してなり、上記入力軸が上記減速機に結合されて上記出力軸が上記ハブ輪と結合されたものである請求項1に記載のインホイールモータ型駆動ユニット。
- 上記二方向クラッチは、上記出力軸の内周に円筒面状のクラッチ面を、入力軸の外周に複数のカム面をそれぞれ有し、両面によって形成される正逆両方向の楔空間に、上記係合子となる複数のローラとこのローラを保持する保持器とを収容した請求項2に記載のインホイールモータ型駆動ユニット。
- 前記正逆両方向の楔空間を構成する前記カム面である正回転ロック用のカム面と逆回転ロック用のカム面は連続した同一平面として形成されたものとし、かつ前記保持器は前記入力軸と保持器の間に設けられた付勢手段により入力軸に対して中立位置に付勢した請求項3に記載のインホイールモータ型駆動ユニット。
- 上記出力軸に連結されたロータを有する電磁クラッチを上記二方向クラッチに併設し、外部からの信号により上記保持器をロータに対して磁気的に吸着される吸着状態と吸着解除状態とに切換可能にした請求項3または請求項4に記載のインホイールモータ型駆動ユニット。
- 上記転がり軸受は、内周に複列の転走面を有する外方部材と、これら転走面に対向する複列の転走面を有する内方部材と、両部材の転走面間に介在した複列の転動体とからなり、上記内方部材の内周面を上記二方向クラッチのクラッチ面とした請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のインホイールモータ型駆動ユニット。
- 電気モータと、この電気モータの回転を減速する減速機と、減速機からの回転を車輪に伝達するハブ輪と、このハブ輪を回転自在に支持する転がり軸受とを備えたインホイールモータ型駆動ユニットにおいて、
上記減速機とハブ輪との間に一方向クラッチを介在させ、上記電気モータの回転を断続可能とし、上記一方向クラッチを、クラッチ機能が生じる状態と、正逆両方向の回転が伝達される状態とに切り替えるクラッチ機能切替え手段とを設けたことを特徴とするインホイールモータ型駆動ユニット。 - 前輪を駆動させるエンジンと、後輪を駆動させる駆動ユニットとを備え、上記後輪の駆動ユニットを、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のインホイールモータ型駆動ユニットとしたハイブリッドシステム。
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