JP3648635B2 - ポリエステル系織編物の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ポリエステル系繊維よりなる織編物の製造方法に関し、特に深みのある色彩を有すると共に、風合の良好な織編物の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル系繊維を用いて製編織された織編物は、優れた物理的特性及び化学的特性を有しており、衣料用や工業用等に広く用いられている。しかし、ウールや絹等の天然繊維を用いて製編織された織編物、あるいはレーヨンやアセテート等の半合成繊維を用いて製編織された織編物に比べて、色彩(特に黒色)の深みや色彩の鮮明性に劣るという欠点を有している。これは、ポリエステル系繊維の表面状態が、天然繊維や半合成繊維に比べて、平滑で且つ均一なため、入射光が織編物の内部で屈折しにくく、外部への乱反射光が多いからであると考えられている。
【0003】
このため、ポリエステル系繊維の表面を凹凸にして、入射光が織編物の内部で屈折しやすいようにして、外部への乱反射光を少なくし、色彩の深みや色彩の鮮明性を向上させることが試みられている。例えば、織編物の表面、即ちポリエステル系繊維の表面を、酸化珪素粒子等の低屈折率の物質で被覆する方法が提案されている(特公平2-35069号公報)。また、特定化合物を含有したアルカリ水溶液に織編物を浸漬し、ポリエステル系繊維の表面を加水分解して、繊維表面を粗にする方法も提案されている(特公平2-35068号公報)。しかしながら、前者の方法は、低屈折率の物質をポリエステル系繊維表面に付与するために、織編物の風合の低下を招くという欠点があった。更に、洗濯を繰り返すと、低屈折率の物質が繊維表面から脱落し、色彩が褪せてくるという欠点があった。また、後者の方法は、ポリエステル系繊維の表面を溶解除去するものであるため、繊維強度が低下し、織編物の機械的強度(例えば引張強度)が低下するという欠点があった。更に、これらの方法は、低屈折率の物質を付与する工程や、アルカリ減量処理工程を必要とし、編織物の生産工程が煩雑となって、合理的な方法とは言えなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、使用するポリエステル系繊維として、ある特定のサイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維を使用することにより、特別な工程を必要とすることなく、従来の一般的な方法で織編物を生産すれば、それだけで深みのある色彩を有し、且つ良好な風合を有する織編物が得られるようにしたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、低収縮性ポリエステル成分と高収縮性ポリエステル成分とよりなり、沸水30分処理後の捲縮率が50%以上であり、かつ該処理によりスパイラル状の捲縮を発現するサイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維(但し、繊維横断面形状がW字型,V字型及び偏平となっているものを除く。)で構成された糸条を用いて織編物を得、該織編物に熱処理を施して、該サイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維に捲縮を発現させると共に、該織編物に染色加工を施すことを特徴とするポリエステル系織編物の製造方法に関するものである。
【0006】
本発明においては、まず低収縮性ポリエステル成分と高収縮性ポリエステル成分とよりなるサイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維を準備する。そして、このサイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維は、熱処理することによって、両ポリエステル成分に収縮差が生じ、捲縮を発現するものである。本発明において、この捲縮の発現の程度は、沸水30分処理後の捲縮率が50%以上となるようにする。ここで、沸水30分処理後の捲縮率とは、以下に示す方法で測定されるものである。即ち、検尺機にて5回かせ取りしたサイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維を、二重にして1/6000(g/D)の荷重をかけスタンドに吊り30分間放置し、次いでこの状態を維持したまま沸水中に入れ30分間処理する。その後、30分間風乾し、1/500(g/D)の荷重をかけ、長さ(a)を測定する。次に、1/500(g/D)の荷重をはずした後、1/20(g/D)の荷重をかけて、その長さ(b)を測定する。そして、次の式によって捲縮率を求めるのである。即ち、捲縮率(%)=[(b−a)/b]×100である。この捲縮率が50%未満であると、複合繊維に熱処理を施しても、微細なスパイラル状の捲縮が発現しにくく、したがって複合繊維表面に微細な凹凸が生じにくく、深みのある色彩が得にくくなるので、好ましくない。
【0007】
本発明で使用するサイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維は、前記したとおり、低収縮性ポリエステル成分と高収縮性ポリエステル成分で構成されている。この二種のポリエステル成分は、収縮性に差があればどのようなものでも使用しうる。一般的には、低収縮性ポリエステル成分として、エチレングリコールとテレフタル酸との重合体が使用される。特に、エチレングリコールとテレフタル酸の合計モル数が、ポリエステル高分子を構成する単量体の総モル数に対して、95モル%以上となるように重合された、実質的にポリエレチンテレフタレート単独からなるポリエステルを使用するのが、好ましい。このような低収縮性ポリエステル成分は、一般的に、その極限粘度[η]が0.55以下である。なお、ここで言う極限粘度[η]は、20℃のフェノールとテトラクロロエタンとの等重量混合溶媒中で測定したものである。
【0008】
また、高収縮性ポリエステル成分としては、一般的には、エチレングリコールとテレフタル酸とを用いると共に、他のジカルボン酸成分及びジオール成分を用いて、共重合したポリエステルを使用するのが、好ましい。例えば、他のジカルボン酸成分としてイソフタル酸を用い、他のジオール成分として2-2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンを用い、両者の合計モル数が、ポリエステル高分子を構成する単量体の総モル数に対して、5〜15モル%の範囲で、エチレングリコール及びテレフタル酸と共に共重合して得られたポリエステルを使用するのが、好ましい。他のジオール成分を使用せずに、他のジカルボン酸成分のみ、例えばイソフタル酸のみを使用して、エチレングリコール及びテレフタル酸と共に共重合させたポリエステルを高収縮性ポリエステル成分として使用しても、前記した低収縮性ポリエステル成分に比べて、収縮性があまり高くならず、良好な捲縮を発現しない傾向が生じる。また、他のジカルボン酸成分を使用せずに、他のジオール成分のみ、例えば2-2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのみを使用して、エチレングリコール及びテレフタル酸と共に共重合させたポリエステルを高収縮性ポリエステル成分として使用した複合繊維は、耐光堅牢度が低下する傾向が生じる。なお、この高収縮性ポリエステル成分は、微細構造がルーズなためか、染着性が高く、捲縮の発現との相乗効果により深みのある色彩が得られるものである。
【0009】
以上説明したサイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維を用いて糸条を得る。この糸条としては、サイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維よりなるモノフィラメントが複数本集束されてなるマルチフィラメント糸条や、サイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維よりなるステープルファイバーが紡績されてなる紡績糸条等を用いることができる。この糸条を、経糸若しくは緯糸のいずれか一方に使用して、又は経糸及び緯糸の両方に使用して、織物を製織する。織組織としては、従来公知の任意の織組織を採用することができる。または、この糸条を用いて編物を製編する。編組織も、インターロックやモックロディー等の従来公知の任意の編組織を採用することができる。このような織編物を得る際に、糸条としてマルチフィラメント糸条を使用する際には、無撚糸条でも有撚糸条であってもよい。しかし、深みのある色彩を織編物に付与したい場合には、有撚糸条を用いるのが好ましく、特に1000T/M以上の撚をかけるのが好ましい。
【0010】
このような織編物に、熱処理及び染色加工処理を施す。熱処理と染色加工処理は、別工程で施してもよいし、同時に一工程で施してもよい。特に、同時に一工程で熱処理と染色加工処理を施すのが、合理的である。同時に施す方法としては、染色する際に、湿熱80℃以上の温度が30分以上織編物に与えるられる条件を採用すればよい。この条件で染色仕上加工を行なうと、サイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維に微細な捲縮が発現すると共に、複合繊維が染色されるのである。また、この条件で染色仕上加工を行なう際には、織編物に高張力が負荷されないように、液流染色機等を使用するのが好ましい。この染色仕上加工時に、高張力が負荷されると、サイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維の捲縮発現が阻害されたり、或いは一旦発現した捲縮が消失する傾向が生じる。
【0011】
以上のようにしてポリエステル系織編物が得られるわけであるが、織編物の風合を更に向上させるために、アルカリ減量処理を施してもよい。アルカリ減量処理は、一般的に、織編物に熱処理及び染色加工処理を施す前に行なわれる。また、アルカリ減量処理の方法は、従来公知の任意の方法を採用することができる。また、織編物に熱処理及び染色加工処理を施した後、色彩の深みを更に向上させるために、濃染処理を施してもよい。濃染処理剤としては、ポリウレタン系樹脂やフッ素系樹脂等を使用するのが好ましい。
【0012】
【実施例】
実施例1
イソフタル酸8モル%と2-2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン5モル%と、合計87モル%のエチレングリコール及びテレフタル酸とを共重合させて高収縮性ポリエステル成分を得た。一方、合計95モル%以上のエチレングリコール及びテレフタル酸を共重合させて、極限粘度[η]0.53の低収縮性ポリエステル成分を得た。この二成分を使用して、従来公知の複合紡糸法で、サイドバイサイド型の未延伸糸を得た。この未延伸糸を延伸して、サイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維とし、これを集束して50デニール/12フィラメントのマルチフィラメント糸条を得た。なお、このサイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維は、沸水30分処理後の捲縮率が69.5%であった。
【0013】
前記したマルチフィラメント糸条を経糸及び緯糸に使用して、経密度110本/吋,緯密度80本/吋のタフタを製織した。このタフタを、苛性ソーダ1g/l及び界面活性剤1g/lを併用した溶液を用いて、株式会社日阪製作所製のサーキュラー液流染色機で、湿熱80℃,時間20分間の条件でリラックス精練を行ない、乾燥した。次いで、市金工業株式会社製のテンターにて、経及び緯共に張力をかけずに、乾熱180℃,時間20秒の条件でプレセットを行なった。
【0014】
この後、下記組成の分散染料液を使用し、株式会社日阪製作所製のサーキュラー液流染色機を用いて、湿熱130℃,時間30分間の条件で染色加工を施した。
記
Dianix Black RB-UP(三菱化成株式会社製分散染料) 15%o.w.f.
Dianix Black F(三菱化成株式会社製分散染料) 3.0%o.w.f.
サンソルトRZ-8(日華化学株式会社製均染剤) 0.5g/l
酢酸(48%) 0.2cc/l
その後、ビスノールP-70(一方社油脂工業株式会社製の一浴還元洗浄剤)5g/lを使用して、湿熱80℃,時間20分の条件で還元洗浄を行なった後、乾燥した。引き続き、ファミトンスーパー30(日華化学株式会社製、フッ素系濃染剤)を使用して、PH7で温度60℃の溶液を調整し、7.0%o.w.f.,浴比1:20,時間30分間の条件で湿熱処理を行なった後、乾燥した。次いで、市金工業株式会社製のテンターを用いて、乾熱170℃,時間20秒の条件で仕上セットを行ない、黒色無地織物を得た。以上のようにして得られた織物の色彩の深みを評価した。なお、この評価は、マクベスカラーアイで測定したL*値で評価した。L*値は、色の視感濃度を表わすものであり、L*値の小さいものほど色彩に深みがあることを示している。この結果、ファミトンスーパー30を使用して濃染処理する前の織物のL*値は、15.1であり、濃染処理した後の織物のL*値は、13.0であった。
【0015】
比較例
高収縮性ポリエステル成分として、イソフタル酸12モル%と、合計88モル%のエチレングリコール及びテレフタル酸とを共重合させてポリエステルを使用する以外は、実施例と同様にしてサイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維を得た。この複合繊維は、沸水30分処理後の捲縮率は45.0%であり、捲縮性に劣るものであった。そして、このサイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維を使用して、実施例と同様にして、黒色無地織物を得た。この結果、ファミトンスーパー30を使用して濃染処理する前の織物のL*値は、16.9であり、濃染処理した後の織物のL*値は、15.7であった。
【0016】
【作用及び発明の効果】
本発明に係るポリエステル系織編物の製造方法は、低収縮性ポリエステル成分と高収縮性ポリエステル成分とよりなり、所定の捲縮率を持つサイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維で構成された糸条を用い、製織編した後、捲縮発現と染色とを行なうものである。従って、複合繊維のスパイラル状の捲縮発現によって、複合繊維の表面には微細な凹凸が多数生じ、複合繊維が染色された場合、入射光の乱反射が抑制され、その色彩に深みがでるという効果を奏する。また、複合繊維の表面に微細な凹凸が多数生じるため、繊維間隙が生じて糸条にふくらみがでて、風合が良好になるという格別顕著な効果も奏する。
Claims (2)
- 低収縮性ポリエステル成分と高収縮性ポリエステル成分とよりなり、沸水30分処理後の捲縮率が50%以上であり、かつ該処理によりスパイラル状の捲縮を発現するサイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維(但し、繊維横断面形状がW字型,V字型及び偏平となっているものを除く。)で構成された糸条を用いて織編物を得、該織編物に熱処理を施して、該サイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維に捲縮を発現させると共に、該織編物に染色加工を施すことを特徴とするポリエステル系織編物の製造方法。
- 低収縮性ポリエステル成分として、エチレングリコールとテレフタル酸とを、両者の合計モル数が、総モル数に対して95モル%以上となるようにして重合させた、実質的にポリエチレンテレフタレート単独からなる重合体を使用し、高収縮性ポリエステル成分として、2-2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンとイソフタル酸とを、両者の合計モル数が、総モル数に対して5〜15モル%の範囲で、エチレングリコールとテレフタル酸と共に共重合させた共重合体を使用する請求項1記載のポリエステル系織編物の製造方法。
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