JP3572691B2 - 釣糸 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、釣糸、特に非常にしなやかで、かつ軽量であって、しかも優れた耐摩耗性と高強力を有する超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント糸からなり、深海釣り、投釣り、磯釣り、ルアー釣り、渓流釣り等のレジャー用に特に有用な釣糸に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
レジャー用の釣糸には、元来、絹繊維や馬の尾の毛を撚り合わせたものが使用されてきたが、最近では、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン等の化学繊維のモノフィラメント糸およびタングステンやアモルファス金属等の金属繊維が用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ナイロン製の釣糸は、伸びが大きいので、アタリ(魚信)が分かり難く、またポリエステル製の釣糸は、ナイロン製に比べて伸度が小さいが、深海釣り用に使用した場合には、釣糸が非常に長くなるため、やはりアタリが分かり難いという問題があった。一方、タングステン等の金属繊維は、強力が大きく、伸びが小さい点で上記のナイロン製やポリエステル製に比べて著しく優れているが、比重が大きいため軽量化の点で難色があり、かつ上記のように引張強さが大きい反面、結節強さが小さいため、鼻環等に締結して使用する場合に問題があった。
【0004】
この発明は、従来の釣糸に比べて細く、軽量でありながら、しかも伸びが小さくてアタリが分かり易く、更に耐久性にも優れた釣糸を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この発明の釣糸は、重量平均分子量が50万以上、引張強さが15g/デニール以上、破断伸度が6%以下、初期弾性率が450g/デニール以上、フィラメント繊度が10デニール以下のポリエチレンマルチフィラメント糸で構成された組紐もしくは撚り糸からなる釣糸であって、釣糸の破断伸度とポリエチレンフィラメントの破断伸度との差で表される構造伸度が1.5%以下であることを特徴とする。
【0006】
この発明の釣糸を構成する繊維は、重量平均分子量が50万以上、好ましくは100万以上の超高分子量ポリエチレンを原料とし、例えば特開昭56−15408号公報、特開昭55−107506号公報、特開昭58−152261号公報、特開昭58−154622号公報および特開昭58−161044号公報等に記載された方法で製造することができる。この超高強力ポリエチレン繊維は、高い強力特性を有すると共に、結節強力、引掛強力についても高い強力保持率を示し、耐摩耗性、耐薬品性、耐紫外線劣化性、耐水性および耐油性等に代表される耐久性能においても、アラミド繊維やアリレート繊維等の従来の高強力繊維をはるかに凌ぐ高い性能を有しているが、この発明では、このような超高強力ポリエチレン繊維のうち特に引張強さが15g/デニール以上、破断伸度が6%以下、初期弾性率が450g/デニール以上のフィラメントからなるマルチフィラメント糸が使用される。
【0007】
上記の引張強さが15g/デニール未満の場合は、この発明が目的とする高強力の釣糸を得ることが困難になる。また、破断伸度が6%を超えると、上記同様に高強力の釣糸を得ることが困難になり、かつ魚信も得られ難くなる。また、初期弾性率が450g/デニール未満の場合は、魚信の伝播が遅くなる。
【0008】
そして、この発明の上記マルチフィラメント糸を構成する1本のフィラメントの繊度は、10デニール以下、好ましくは5デニール以下、特に好ましくは2デニール以下である。すなわち、フィラメントの繊度を比較的小さくすることにより、マルチフィラメント糸を構成するフィラメント相互間の空隙が小さくなり、個々のフィラメントが相互に固定され易く、動き難くなる。そして、この繊度が10デニール超の場合は、釣糸の柔軟性が低下し、硬くなって結節強力が低下すると共に、耐摩耗性、引張強さ、弾性率が低下する一方、破断伸度が増大するため、釣糸として使用時のアタリが分かり難くなる。
【0009】
なお、上記結節強力は、10g/デニール以上が好ましく、該結節強力が10g/デニール未満の場合は、鼻環に締結した場合等に締結部が破断し易くなる。そして、ポリエチレンマルチフィラメント糸の直線強力に対する結節強力の保持率は、32%以上であることが好ましい。この保持率が32%未満の場合は、締結部が長期間の使用によって破断し易くなる。
【0010】
上記フィラメントの断面形状は、異形、特に偏平であることが好ましく、異形の場合は表面積が真円に比して大きくなるため、単位面積当りに加わる摩擦力が小さくなり、耐摩耗性が向上する。上記異形の程度を表す指標として、上記フィラメントの断面輪郭線に外接する円の半径と内接する円の半径との比を使用すると、この外接円および内接円の半径比は、1.1〜8.0が好ましく、この半径比が1.1未満では、表面積が真円とほとんど変わらず、反対に8.0を超えた場合は、結節強度が低下する。そして、異形断面とすることにより、同一繊度の円形断面糸に比して剛性が向上し、釣糸としての腰を高める効果が生じる。
【0011】
上記のフィラメントは、その3〜100本を集束してマルチフィラメント糸とすることにより、結節強力および引掛強力の高い釣糸とすることができるが、複数本のマルチフィラメント糸で組紐を編組し、この組紐を釣糸として使用することにより、上記フィラメントの強力利用率および釣糸の結節強力を高くすることができ、かつキンクが発生しない。この場合、組紐を構成するマルチフィラメント糸の本数は3〜36本、特に4〜8本が好ましく、組紐の組角度は8〜25度、特に18度以下が好ましい。上記マルチフィラメント糸の本数が3本未満では組紐を構成することができず、36本を超えると、組紐を構成するマルチフィラメント糸が細くなり過ぎて耐摩耗性が低下すると共に、組紐の芯部に空洞が形成される。また、組角度が8度未満では、釣糸が柔らか過ぎ、目が開き易く、釣針の先が食い込む等のトラブルが発生し易くなり、反対に25度を超えると、釣糸が太くなり過ぎ、かつ引張強さ、結節強力および耐摩耗性が低下し、更に柔軟性が失われる。
【0012】
上記のマルチフィラメント糸で組紐を構成する代わりに双糸または三子の撚り糸を構成して釣糸とすることができる。この場合、撚り数(回/インチ)をT、繊度(デニール)をDとしたとき、K=(T×D1/2 )/73で定義される撚係数Kが、下撚では0〜1.0に、上撚では0.1〜1.5にそれぞれ設定されることが好ましい。上記下撚りの撚係数Kが1.0を超えると、強度低下が大きくなり、また上撚の撚係数Kが0.1未満では、加撚による形態保持が不可能となり、反対に1.5を超えると、強度低下が大きくなる。
【0013】
上記の組紐または撚り糸は、その編組後または撚糸後に0.05〜15g/デニールの荷重で緊張しアフターストレッチを施し、次いで50〜100℃の温度でヒートセットすることにより、構造歪を除去し、破断伸度とポリエチレンフィラメントの破断伸度との差で表される構造伸度を1.5%以下、好ましくは1.0%以下に小さくし、寸法安定性を高めたものである。
【0014】
この発明の釣糸は、例えば深海釣やルアー釣の場合の長さの目安として50mごとに色分けしたり、見易くしたりする目的で着色することができる。また、鮎釣りの場合の囮となる鮎の攻撃心を煽る目的で黄色に着色して、釣果を上げることができる。この着色は、フィラメントの断面中心部と周辺部の濃度差が20%以内となるように均一に行われることが好ましい。上記の濃度差が20%を超すと、周辺部のみが着色されたことになり、耐光褪色堅牢度の低いポリエチレンフィラメントの耐光褪色堅牢度が一層低下するため、好ましくない。なお、上記の断面中心部とは、繊維断面の輪郭線に対する外接円の中心から上記外接円の半径の1/3の距離よりも内側の部分をいい、周辺部とは上記外接円の中心から外接円の半径の2/3の距離よりも外側の部分をいう。また、濃度とは、上記フィラメントを構成するポリエチレン中に含まれる染料または顔料の量を重量で表したものであり、濃度差とは、その比率を表す。
【0015】
フィラメントを着色する染料または顔料は、デカリンに対する溶解度が温度25℃で0.001%以上、特に0.01〜0.5%であることが好ましい。この溶解度が0.001%未満の場合は、溶解不十分となり、繊維の高強度化を妨げる原因となる。好適な染料としては、ソルベントイエロー16、ソルベントイエロー56、ソルベントブラック7、ソルベントレッド4、ソルベントブルー14、ソルベントブルー25、ソルベントクリーン28、ソルベントバイオレット13等の油溶性染料、ディスパースバイオレット31、ディスパースイエロー64等の分散染料、または溶媒に可溶な一部の塩基性染料、酸性染料等が挙げられるが、これに限るものではない。ここで、溶解度とは、デカリン100g中に溶解する染料の重量をgで表示したときの比率を%で表したものである。
【0016】
上記のようにフィラメントの原料であるポリエチレンを着色する代わりに、釣糸を着色樹脂で被覆することができる。この被覆用の樹脂としては、ウレタン系、エポキシ系等の汎用樹脂を採用することができ、顔料としては、有機系、無機系のいずれでもよいが、耐光性に優れたものを選択することが好ましい。被覆するための手段としては、溶剤で希釈した樹脂液に浸漬、乾燥する方法が例示される。
【0017】
顔料を含む樹脂でマルチフィラメント糸を被覆し、固めることにより、耐光褪色堅牢度に優れた着色が可能になる。そして、超強力ポリエチレン繊維に対する接着性の良好な樹脂を使用することにより、摩擦汚染堅牢度においても実用上問題にならない程度の製品が得られる。また、上記の樹脂で固めることにより、組紐の目ずれが防止され、組紐を釣針が貫通するトラブルも発生し難くなる。なお、上記樹脂の付着量は、繊維量の0.5〜40重量%、特に10〜30重量%が好ましく、この付着量が0.5重量%未満では効果がなく、40重量%を超えると、釣糸が太くなったり、固くなったりする等の欠陥が生じる。
【0018】
【作用】
この発明の釣糸は、重量平均分子量が50万以上の超高強力ポリエチレンのマルチフィラメント糸からなり、引張強さが15g/デニール以上で、従来のナイロン6やナイロン66からなる釣糸に比べて大きいため、同じ目的に対しては釣糸太さを細くすることができ、しかも比重が0.97と小さいため、軽量化に有効である。また、破断伸度が6%以下で、従来のナイロン6やナイロン66からなる釣糸に比べて小さく、また初期弾性率が450g/デニール以上で、従来のナイロン6やナイロン66からなる釣糸に比べて大きいため、アタリが分かり易く、釣糸として好適である。
【0019】
そして、この発明の釣糸は、モノフィラメント糸ではなく、繊度10デニール以下の細いフィラメント多数本の集束体であるマルチフィラメント糸を使用しているので、1本のフィラメントの曲げに対する内部歪が小さくなり、そのため柔軟性に優れ、結節強力が向上する。また、マルチフィラメント糸を構成する個々のフィラメントが比較的太い場合は、外力によって内層のフィラメントが外層に露出し易く、そのため岩石その他の摩擦体に接触した際に内外層のフィラメントがランダムに摩耗し、摩耗箇所の分子鎖切断に伴って未切断部分の張力負担が大きくなり、フィラメントが損傷を受けてから切断に至るまでの寿命が短縮されるが、この発明では、上記のとおり細いフィラメントが集束されているため、太いフィラメントを集束した場合に比べ、フィラメント相互間の空隙が小さくなって断面方向の力に対してフィラメントが移動し難くなり、そのため釣糸が釣針や岩その他の摩擦体と接触した際、最外層のフィラメントから順に摩擦を受けて摩耗し、結果的に耐摩耗性が向上する。
【0020】
また、この発明の超高強力ポリエチレンフィラメントは、フィラメントの破断強力が高く、かつ高配向しているため、上記の摩擦によって繊維表面に微細なフィブリルが発生し易く、このフィブリルが上記摩擦体とフィラメントとの間に介在し、摩擦体によるフィラメントの損傷を緩和する働きをする。しかも、1本のフィラメントが比較的細いため、マルチフィラメント糸の繊度が等しく、個々のフィラメントが比較的太い場合に比べてマルチフィラメント糸を構成する繊維の合計表面積が広くなり、それだけ微細なフィブリルが発生し易くなるため、耐摩耗性が一層向上する。
【0021】
【実施例】
実験1
市販の超高分子量ポリエチレンからなる超高強力マルチフィラメント糸(重量平均分子量200万)の試料A(20デニール/20フィラメント)、試料B(20デニール/10フィラメント)、試料C(20デニール/4フィラメント)、試料D(20デニール/2フィラメント)および上記と同じ方法で製造されたモノフィラメント糸の試料E(20デニール1フィラメント)をそれぞれ8本ずつ用い、実施例1〜4および比較例1の釣糸を製造し、その引張強さ、破断伸度、初期弾性率、耐摩耗性および柔軟性を測定した。その結果を表1に示す。ただし、耐摩耗性能は、JIS−L−1095−1990(7−10−2)B法(荷重:0.1g/d、摩擦子直径:0.9mm、摩擦子往復距離:2.5cm、摩擦角度:110度)に準拠し、試料が切断するまでに要した摩擦子の往復回数で表し、柔軟性は、JIS−L−1004(45度カンチレバー法)に準拠し、等速度で移動する試料が傾斜面に接触するまでに要した長さで表した。
【0022】
【0023】
上記の表1から明らかなとおり、フィラメント繊度の増大と共に、耐摩耗性および柔軟性が低下する傾向が認められ、特に比較例1は、フィラメント繊度が過大で、20デニールであり、かつマルチフィラメント糸でなく、モノフィラメント糸であるため、耐摩耗性が低く、かつ柔軟性が劣っていた。
【0024】
実験2
上記と同じ超高強力フィラメント糸の試料AないしEをそれぞれ4本ずつ合糸して下撚りを加え、この下撚糸2本を合わせ、上撚りを加えて2子撚りの釣糸とし、上記同様に耐摩耗性能および柔軟性を比較した。その結果を下記の表2に示す。
【0025】
【0026】
上記の表2から明らかなように、撚糸構造とした場合も、表1の組紐構造の場合と同様に、フィラメント繊度の増大と共に、耐摩耗性および柔軟性が低下する傾向が認められ、特に比較例2は、フィラメント繊度が過大で、20デニールであるため、耐摩耗性および柔軟性が共に実施例よりも劣っていた。ただし、表1および表2を比較すると、同じ試料を使用した場合は、表1(組紐構造)の方が表2(撚糸構造)よりも耐摩耗性能および柔軟性に優れていた。
【0027】
実験3
上記と同じ超高強力フィラメント糸の試料AないしEをそれぞれ60本ずつ使用し、これを集束し、上撚りを加えて釣糸とし、結節強度、その引張強さに対する強度保持率、引掛強度、その引張強さに対する強度保持率、耐摩耗性能および耐屈曲摩耗を測定した。その結果を下記の表3に示す。ただし、結節強度は、JIS−L−1013(1981)7の6により測定し、引掛強度はJIS−L−1013(1981)7の7により測定した。また、耐屈曲摩耗は、JIS−L−1095法に準拠(荷重:0.1g/d、曲角度:左右に130度、曲速度:100回/分)し、試料切断までに要する摩擦子の往復回数で表した。
【0028】
【0029】
上記の表3から明らかなように、フィラメント繊度の増大と共に、引張強さおよび初期弾性率が低下し、破断伸度が大きくなる傾向が認められ、特に比較例3は、フィラメント繊度が過大で、20デニールであるため、破断伸度も8.2%に大きくなった。また、結節強度、結節強度保持率、引掛強度、引掛強度保持率、耐摩耗性能および耐屈曲摩耗も、フィラメント繊度の増大と共に低下した。そして、フィラメント繊度が2デニール以下の実施例9、10は、結節強度が10g/dを、その強度保持率が32%をそれぞれ超え、耐摩耗性能および耐屈曲摩耗もそれぞれ20万回を超える優れた特性を示した。
【0030】
実験4
実験1に使用したフィラメント糸試料A(20デニール/20フィラメント)を8本使用し、組角度を種々に変えて8打組紐からなる釣糸を5種類製造し、その性能を比較した。その結果を下記の表4に示す。なお、組紐繊度はJIS−L−1095に準拠して求めた。また、取扱性は、試験者5名の実用評価によって判定し、非常に良好を◎で、良好を〇で、フィラメントのバラケによるトラブルが発生したものを△で、上記バラケが多発したものを×で表した。
【0031】
【0032】
上記の表4で明らかなように、組角度を8〜25度の範囲に設定した実施例13、14、16は、結節強力、結節強度保持率、耐摩耗性能、耐屈曲摩耗、柔軟性および取扱性の点でバランスがとれて良好な特性を備えていたが、組角度が4度と小さい実施例15は、取扱性に劣り、組角度が30度と大きい実施例17は、結節強力、その保持率が共に低く、また耐摩耗性能および柔軟性が他に比べて劣っていた。
【0033】
実験5
実験1に使用したフィラメント糸試料A(20デニール/20フィラメント)を8本使用し、撚り係数の異なる5種類の2子撚糸を製造して釣糸とし、その性能を実験4と同様に比較した。その結果を下記の表5に示す。
【0034】
【0035】
上記の表5から明らかなように、撚係数の増大に伴って取扱性が良好になる反面、破断強力、初期弾性率、結節強力、結節強力保持率、耐摩耗性能および耐屈曲摩耗がいずれも低下し、破断伸びが増大し、かつ柔軟性が乏しくなる傾向が認められたが、上撚係数を0.3〜1.5に、下撚係数を0.3〜1.0の範囲に設定した実施例19、20は、破断強力、破断伸び、初期弾性率、結節強力、結節強力保持率、耐摩耗性能、耐屈曲摩耗、柔軟性および取扱性のバランスが良好であった。
【0036】
実験1に使用したフィラメント糸試料A(20デニール/20フィラメント)8本からなる8打組紐および2子撚糸を製造し、種々のアフターストレッチを加えて、得られた釣糸の引張強さ、破断伸度、初期弾性率および構造伸度(釣糸の破断伸度と原糸の破断伸度の差)を比較した。その結果を下記の表6に示す。
【0037】
【0038】
上記の表6から明らかなように、8打組紐および2子撚糸のいずれにおいてもアフターストレッチを行うことにより、構造伸度が小さくなり、釣糸としての性能が向上することが認められた。
【0039】
実験1に使用したフィラメント糸試料A(20デニール/20フィラメント)、該試料Aと同じ超高分子量ポリエチレンからなるモノフィラメント糸の試料F(10デニール/1フィラメント)をそれぞれ4本ずつ用いて4打組紐の0.2号相当の釣糸を製造し、市販の0.2号のナイロンモノフィラメント糸製釣糸および0.2号のタングステンモノフィラメント製釣糸と性能を比較した。その結果を下記の表7に示す。
【0040】
【0041】
上記の表7から明らかなように、実施例29および比較例4は、超高強力ポリエチレンフィラメントを使用しているため、引張強さ、破断伸度、初期弾性率、結節強さおよび柔軟性において優れている。ただし、比較例4は、モノフィラメント糸を使用しているので、耐摩耗性能が低くなった。また、ナイロン製モノフィラメントを使用した比較例5は、破断伸度が著しく大きく、初期弾性率および結節強さが低く、釣糸として劣っていた。また、タングステン製の比較例6は、引張強さ(g/d)および結節強さ(g/d)が著しく低く、かつ柔軟性に乏しく、釣糸として劣るものであった。
【0042】
実験8
実験1に使用したフィラメント糸試料A(20デニール/20フィラメント)にアゾ系有機顔料を含有する2液型ポリウレタン系塗料を塗布し、乾燥し、他は実施例1と同様にして8打組紐で、黄色の着色被膜を有する実施例30の釣糸を得た。また、上記塗料の塗布を省略し、染料としてソルベントブルー14を使用して青色に原料着色する以外は、実施例1と同様にして実施例31の釣糸を製造した。また、この実施例31の染料をソルベントイエロー16に変更し、黄色に原料着色する以外は、実施例31と同様にして実施例32の釣糸を製造した。また、実施例31の染料をソルベントレッド18に変更し、赤色に原料着色する以外は、実施例31と同様にして実施例33の釣糸を製造した。これらの釣糸の着色状況および性能を下記の表8に示す。ただし、摩擦堅牢度(汚染)は、JIS−L−0849に準拠して測定した。
【0043】
【0044】
上記の表8から明らかなように、染料を使用して原料着色をした実施例31、32、33は、顔料を塗布した実施例30に比べて繊維内部の着色が良好であるため、耐摩擦褪色堅牢度に優れていた。
【0045】
【発明の効果】
請求項1に記載した発明は、重量平均分子量が50万以上、引張強さが15g/デニール以上、破断伸度が6%以下、初期弾性率が450g/デニール以上、フィラメント繊度が10デニール以下のポリエチレンマルチフィラメント糸からなることを特徴とする釣糸であり、従来のナイロンモノフィラメント製釣糸に比して引張強さが大きく、しかも比重が小さいため、同じ目的に対して釣糸を細く、軽くすることができ、かつ破断伸度が小さく、初期弾性率が大きいため、アタリが分かり易く、しかも柔軟で、結束強さおよび耐摩擦性能に優れるため、結び易くて取扱い容易であり、寿命が延長される。また、従来のタングステン等の金属製釣糸に比較して柔軟で、かつ軽く、釣糸としての取扱性が良好である。更に、その構造伸度を1.5%以下に限定したものであるから、釣糸としての寸法安定性が向上し、アタリが一層分かり易くなり、しかも上記の特性は、編組後または撚糸後にアフターストレッチとヒートセットを行うことによって容易に得られる。
【0046】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した釣糸において、ポリエチレンマルチフィラメント糸の直線強力に対する結節強力の保持率を32%以上としたものであるから、鼻環その他における結び目の強度に対する信頼感が増す。
【0047】
請求項3に記載した発明は、請求項1に記載した釣糸において、フィラメント断面を異形にしたものであるから、断面が真円のものに比べて耐摩耗性が向上すると共に、剛性が向上し、釣糸としての腰が高められる。
【0048】
請求項4に記載した発明は、請求項1に記載した釣糸の構造を3〜36本のマルチフィラメント糸からなる組紐構造とし、その組角度を8〜25度に限定したものであるから、1本のマルチフィラメント糸構造の釣糸であって、釣糸としての合計繊度が等しいものと比較し、芯部が空洞化したり、目が開いて釣糸が食い込んだりすることがなく、取扱性が向上する。しかも、撚糸構造のものに比較してフィラメントの強力利用率および釣糸の結節強力、柔軟性および耐摩耗性にすぐれ、キンクの発生がない。
【0049】
請求項5に記載した発明は、請求項1に記載した釣糸の構造を双糸または3子の撚糸構造に限定し、下撚の撚係数を1.0以下に、また上撚の撚係数を0.1〜1.5に限定したものであるから、1本のマルチフィラメント糸構造の釣糸であって、釣糸としての合計繊度が等しいものと比較し、強力特性をほとんど低下させることなく、取扱性を向上することができる。
【0051】
請求項6に記載した発明は、請求項1〜5に記載した釣糸において、フィラメントが断面中心部と周辺部の濃度差20%以内の均一に着色されたものであるから、深海釣やルアー釣の場合の長さの目安として一定長ごとに色分けしたり、また鮎釣りの場合の囮鮎の攻撃心を煽る目的で黄色に着色したりする場合に、その着色の耐光褪色堅牢度が向上する。
【0052】
請求項7に記載した発明は、請求項6に記載した釣糸において、そのフィラメントを着色する染料または顔料のデカリンに対する溶解度を25℃で0.001%以上に限定したものであるから、着色によって釣糸の強度が低下することがない。
【0053】
請求項8に記載した発明は、請求項1に記載した釣糸を着色された樹脂で被覆したものであるから、請求項6に記載した発明と同じ目的で使用することができ、しかも請求項6に記載した発明に比べて手軽に加工することができる。
【0054】
請求項9に記載された発明は、請求項8に記載された釣糸において、その被覆層の着色樹脂が顔料を含有するものであるから、一定の長さごとに色分けすることができ放糸量の目安とすることが可能である。
Claims (9)
- 重量平均分子量が50万以上、引張強さが15g/デニール以上、破断伸度が6%以下、初期弾性率が450g/デニール以上、フィラメント繊度が10デニール以下のポリエチレンマルチフィラメント糸で構成された組紐もしくは撚り糸からなる釣糸であって、釣糸の破断伸度とポリエチレンフィラメントの破断伸度との差で表される構造伸度が1.5%以下であることを特徴とする釣糸。
- ポリエチレンマルチフィラメント糸の直線強力に対する結節強力の保持率が32%以上である請求項1記載の釣糸。
- フィラメント断面が異形である請求項1記載の釣糸。
- 3〜36本のフィラメントからなるポリエチレンマルチフィラメント糸が組角度8〜25度の組紐を形成している請求項1記載の釣糸。
- ポリエチレンマルチフィラメント糸が双糸または三子の撚り糸を構成し、下撚の撚係数(ただし、撚係数をK、撚り数(回/インチ)をT、繊度(デニール)をDとしたとき、K=(T×D1/2 )/73)が1.0以下、上撚の撚係数が0.1〜1.5である請求項1記載の釣糸。
- フィラメントが断面中心部と周辺部の濃度差20%以内の均一に着色されたものである請求項1ないし5のいずれかに記載の釣糸。
- フィラメントを着色する染料または顔料のデカリンに対する溶解度が25℃で0.001%以上である請求項6記載の釣糸。
- 着色された樹脂で被覆されている請求項1記載の釣糸。
- 着色された樹脂が顔料を含有するものである請求項8に記載の釣糸。
Priority Applications (1)
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Publications (2)
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