JP3569064B2 - ガイドを用いた芳香族ポリカーボネートの製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、芳香族ポリカーボネートの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、芳香族ポリカーボネートは、耐熱性、耐衝撃性、透明性などに優れたエンジニアリングプラスチックスとして、多くの分野において幅広く用いられている。この芳香族ポリカーボネートの製造方法については、従来種々の研究が行われ、その中で、芳香族ジヒドロキシ化合物、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという。)とホスゲンとの界面重縮合法が工業化されている。
【0003】
しかしながら、この界面重縮合法においては、有毒なホスゲンを用いなければならないこと、副生する塩化水素や塩化ナトリウム及び、溶媒として大量に用いる塩化メチレンなどの含塩素化合物により装置が腐食すること、ポリマー物性に悪影響を及ぼす塩化ナトリウムなどの不純物や残留塩化メチレンの分離が困難なことなどの問題があった。
【0004】
一方、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとから、芳香族ポリカーボネートを製造する方法としては、例えば、ビスフェノールAとジフェニルカーボネートを溶融状態でエステル交換し、副生するフェノールを抜き出しながら重合する溶融重縮合法が以前から知られている。溶融重縮合法は、界面重縮合法と異なり、溶媒を使用しないなどの利点がある一方、重合が進行すると共にポリマーの粘度が上昇し、副生するフェノールなどを効率よく系外に抜き出す事が困難になり、重合度を上げにくくなるという本質的な問題があった。
【0005】
従来、芳香族ポリカーボネートを製造するための重合器としては、種々の重合器が知られている。撹拌機を備えた槽型の重合器を用いる方法は、一般に広く知られている。撹拌槽型の重合器は容積効率が高く、シンプルであるという利点を有し、小スケールでは効率的に重合を進めることが出来るものの、工業的規模では、上述したように重合の進行と共に副生する芳香族モノヒドロキシ化合物を効率的に系外に抜き出す事が困難となり、重合度を上げにくくなるという問題を有している。
【0006】
すなわち、大スケールの撹拌槽型の重合器は、通常、蒸発面積に対する液容量の比率が小スケールの場合に比べて大きくなり、いわゆる液深が大きな状態となる。この場合、重合度を高めていくために真空度を高めていっても、撹拌槽の下部は差圧により実質上高い圧力で重合される事になり、フェノール等は効率的に抜けにくくなるのである。
【0007】
この問題を解決するため、高粘度状態のポリマーからフェノール等を抜き出すための工夫が種々なされている。例えば特公昭50−19600号公報では、ベント部を有するスクリュー型重合器が、また特公昭53−5718号公報では、薄膜蒸発型反応器、例えばスクリュー蒸発器や遠心薄膜蒸発器等が記載されており、さらに特開平2−153923号公報では、薄膜型蒸発装置と横型撹拌重合槽を組み合わせて用いる方法が示されている。撹拌槽型も含め、これらの重合器が共通して有する欠点は、重合器本体に回転駆動部分があり、高真空下で重合が実施される場合には、この駆動部分を完全にシールする事ができないため微量の酸素の漏れ込みを防止できず、製品の着色が避けられない事であった。酸素の漏れ込みを防ぐ為にシール液を使用する場合には、シール液の混入が避けられず、やはり製品品質の低下は避けられなかった。また、運転当初のシール性が高い場合でも、長時間運転を続ける間にシール性は低下するなど、メンテナンス上の問題も深刻であった。
【0008】
ところで、本体に回転駆動部分を有せず、多孔板から落下させながら重合させる方法は、芳香族ポリカーボネート以外の樹脂の製造法としては知られている。例えば米国特許第3110547号明細書では、ポリエステルを真空中へ糸条に落下させて、所望の分子量のポリエステルを製造する方法が開示されている。該明細書では、落下させた糸を再び循環させるとポリエステルの品質を低下させるため、循環させずにワンパスで重合を完了させている。しかしながら、この様な方法に関しては、多くの欠点が指摘されている。例えば特公昭48−8355号公報には、紡糸口金から真空中に紡糸しながら重縮合する方法に関し次の記載がある。繊維形成能が充分大きいものを供給しないと反応器中で重合中の糸条が切断し易く、重縮合物の品質変動が激しくなる。糸条から飛散する低分子量の縮合物が口金面を汚染し、糸条が口金から真下に射出する事が困難となり、接触して切れたり集束して太い繊維条に流下して反応を妨害する。監視窓がくもり易く、監視が困難となり、そのため口金の交換時期を失し易い。なお、該公報では、ポリエステルとポリアミドの製法として、反応容器内に垂直に配置した多孔質物体に沿ってポリマーを流下させながら重合させる方法が好ましいと記載されているが、芳香族ポリカーボネートについては全く記載されていない。
【0009】
また、重合法ではないが重合生成物に残存するモノマーを除去する方法として、ラクタム重合成生物を多孔板から糸状に落下せしめる方法が米国特許第2719776号明細書に記載されている。しかしながら、この方法にも多くの欠点が指摘されている。例えば、特開昭53−17569号公報では、米国特許第2719776号明細書の方法について次の不都合が指摘されている。揮発分の蒸発が少ない場合は糸条物を形成させる事ができても、蒸発が多い場合は、糸条物が発泡するようになり、順調な運転は難しい。糸条物を形成させるためには比較的狭い範囲の特定の粘度を有する物質にしか適用できない。塔内に不活性ガス等を導入する場合、気流の乱れによって近隣の糸条物同士が接触集合する。なお、特開昭53−07569号公報では、これらの不都合を解決するために、縦方向に線状支持体をもうけ、これに沿わせて高粘度物を流下させる方法を、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートの様なポリエステル類、ナイロン6、ナイロン66の様なポリアミド類を対象に提案しているが、芳香族ポリカーボネートについては記載されていない。
【0010】
また、特公平4−14127号公報ではポリエステルの連続重縮合法について、落下させながら重縮合を行う二つの方法、すなわち、紡糸口金から紡糸する方法、スリットから膜状にして押し出しながら重合させる方法のいずれもが重縮合を進行させ難い事が記載されている。また該公報には、スリット状供給口から少なくとも2本のワイヤ間に薄膜状に保持して、縦方向にワンパスで移動させることにより連続重縮合させる方法が提案されている。該公報においてももちろん、芳香族ポリカーボネートに関しては全く記載されていない。
【0011】
以上述べたように、多孔板から落下させながら重合させる方法は、ポリエステルやポリアミドの製造方法としては知られているものの芳香族ポリカーボネートの製造法としては全く知られていない。また、ポリエステルやポリアミドの製造法としては、落下させながら重合させる方法は孔の閉塞等多くの欠点が指摘されていた。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、溶融重合法により芳香族ポリカーボネートを製造するに当たり、高真空下でのシール性に優れ、かつメンテナンスも容易な装置で、長期間安定に、着色のない高品質の芳香族ポリカーボネートを高い重合速度で製造する方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を進めた結果、特定の製造方法を使って重合を行う事によりその目的を達成できる事を見いだし、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(1) 溶融法による芳香族ポリカーボネートの製造法において、実質的に芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートからなる混合物を溶融状態にすることによって得られる溶融混合物、および/または実質的に芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートから成る混合物を反応させることによって得られる重合中間体を、不活性ガス流通下の空間中に流出させ、ガイドに沿わせて落下させながら重合させる際、不活性ガス中に含まれる芳香族モノヒドロキシ化合物の不活性ガスに対する分圧比が、1×10−6〜1×103 の範囲である不活性ガスを用いることを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造法、
(2) 供給する不活性ガスが溶融重合から回収された不活性ガスであることを特徴とする(1)記載の芳香族ポリカーボネートの製造法、
(3) 供給する不活性ガス中に含まれる芳香族モノヒドロキシ化合物の不活性ガスに対する分圧比が、数平均分子量が1000以下の芳香族ポリカーボネートを製造するのに対して1×10−6〜1×103 の範囲である不活性ガスを、数平均分子量が1000〜2000の範囲の芳香族ポリカーボネートを製造するのに対して1×10−6〜1×101の範囲である不活性ガスを、数平均分子量が2000以上の芳香族ポリカーボネートを製造するのに対して1×10−6〜1×10−1の範囲である不活性ガスをそれぞれ用いて、芳香族ポリカーボネートを製造することを特徴とする(1)記載の芳香族ポリカーボネートの製造法を、提供するものである。
【0014】
本発明者らは溶融重合法により芳香族ポリカーボネートを製造するに当たり、高真空下でのシール性に優れ、かつメンテナンスも容易な装置で、長期間安定に、着色のない高品質の芳香族ポリカーボネートを高い重合速度で製造する方法として、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの溶融混合物または芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとを反応させて得られる重合中間体を、溶融状態で多孔板からガイドに沿わせて落下させながら重合させる方法が優れていることを見出し、先に出願した(PCT−JP94−01202号)。
【0015】
PCT−JP94−01202号においては、この方法を実施するに当たり反応圧力として、製造すべき芳香族ポリカーボネートの分子量によって、数平均分子量が1000以下の範囲では、50mmHg〜常圧の範囲、数平均分子量が1000〜2000の範囲では、3mmHg〜80mmHgの範囲、数平均分子量が2000以上の範囲では、10mmHg以下、特に5mmHg以下を用いることが特に好ましいことを見出しているが、本発明者らは、この方法をさらに詳細に検討した結果、特定の芳香族モノヒドロキシ化合物の分圧を持つ不活性ガス流通下の空間中に流出させ、落下させながら重合させる場合には、さらに広い圧力範囲において上記の課題が達成できることを見出した。
【0016】
前記したように、本体に回転駆動部分を有しないタイプの重合器は、ポリカーボネート以外の樹脂を重合するための重合器としては種々知られているが、芳香族ポリカーボネートの溶融重縮合反応は、ポリエステルやポリアミドの溶融重縮合反応とは大きく異なるので、ポリアミドやポリエステルの製造のための高粘度用の重合器を芳香族ポリカーボネートの製造法に適用することは難しい。ポリアミド、ポリエステルと芳香族ポリカーボネートの大きな相違は次の通りである。第一に、溶融重縮合の重合器設計において重要な因子となる溶融粘度が芳香族ポリカーボネートの場合極端に高い。すなわち、ポリアミド、ポリエステルにおける重合後期の溶融粘度が重合温度条件下で通常数百から数千ポイズであり、3000ポイズを越えることはほとんどないのに対し、芳香族ポリカーボネートの重合後期の溶融粘度は数万ポイズにまで達する。第二に、ポリアミド、ポリエステル、芳香族ポリカーボネートの溶融重縮合はいずれも平衡反応であるが、平衡定数がそれぞれ大きく異なっている。通常、ポリアミドの平衡定数が102 オーダー、ポリエステルの平衡定数が約1であるのに対し、芳香族ポリカーボネートの平衡定数は10−1オーダーであり、同じ重縮合反応であっても芳香族ポリカーボネートの場合平衡定数が極めて小さい。平衡定数が小さいという事は、副生成分を系外により効率的に抜かないと重合が進行しなくなる事を意味する。従って、芳香族ポリカーボネートの反応は、ポリエステルやポリアミドの反応よりはるかに効率的に副生成分を系外に抜き出す必要があり、溶融粘度が高い芳香族ポリカーボネートではこのことは極めて困難である。
【0017】
ところが、本発明によれば驚くべき事に、従来のポリエステルやポリアミド類の紡糸等の落下させながら重合させる方法の問題点を全く生じさせずに、芳香族ポリカーボネートを重合できる事が明らかとなった。すなわち、糸条の切断による品質のばらつきは全くないので、高品質の芳香族ポリカーボネートが安定に製造できる。その上、低分子量の縮合物による口金の汚染も全く生じないため、糸条が真下に射出するのを阻害することもなく、口金の交換等のための運転停止をする事もない。従って、非常に長期間安定に運転する事ができる。
【0018】
芳香族ポリカーボネートの反応における現象と、ポリエステルやポリアミドの反応における現象とのこれらの明かな相違の理由については明確ではない。ただし、口金の汚染が全く起こらない事については、おそらく、芳香族ポリカーボネートの反応においては副生するフェノール類により低分子量の縮合物が効果的に洗浄され、水や、エチレングリコール等を副生するポリアミドやポリエステルの反応とは根本的に異なるためではないかと推察されるが、かかる効果はポリエステルやポリアミドの重合反応からは全く予見され得ないものであった。
【0019】
また、本発明の、多孔板からガイドに沿わせて落下させながら重合させる方法は、重合器の気相部に回転駆動部を持つ必要がなく、高真空下でのシール性に優れており、メンテナンスも容易であり、しかも無色透明の高品質な芳香族ポリカーボネートを製造できることが明らかになった。すなわち、本発明の製造方法を用いる事によって、従来芳香族ポリカーボネートの溶融重縮合を行う際に生じた、先に述べた如き問題点は全て解決できるのである。
【0020】
本発明では、多孔板からガイドに沿わせて落下させながら重合させる重合器を一基用いて芳香族ポリカーボネートを製造する方法、多孔板からガイドに沿わせて落下させながら重合させる重合器を複数用いて芳香族ポリカーボネートを製造する方法、多孔板からガイドに沿わせて落下させながら重合させる方式と、他の重合方式を組み合わせて芳香族ポリカーボネートを製造する方法等が可能である。
【0021】
多孔板からガイドに沿わせて落下させながら重合させる方法と他の方法と組み合わせる方法の好ましい態様として、前重合工程で撹拌槽型重合器を用いる方法と、後重合工程で多孔板からガイドに沿わせて落下させながら重合させる重合器を組み合わせる方法がある。この方法により、高品質の芳香族ポリカーボネートを効率良く製造する事ができる。前重合工程は通常、高真空で実施する必要はないため撹拌槽型重合器でも品質を損なう事なく、高い容積効率で重合させる事ができる。重合度を更に高める後重合工程では、ガイドに沿わせて落下させながら重合させる方法が特に有利である。これらの重合方法を組み合わせることで、高品質の芳香族ポリカーボネートを効率よく製造することができる。
【0022】
さらに、前重合工程で撹拌槽型重合器を用いて重合させる方法、中間重合工程で塗れ壁式に落下させながら重合させる方法、後重合工程で多孔板からガイドに沿わせて落下させながら重合させる方法を組み合わせる方法も、本発明の好ましい態様である。重合前半の前重合工程は通常、高真空で実施する必要はないため撹拌槽型重合器でも品質を損なう事なく、高い容積効率で重合させる事ができるのは上述の通りである。ポリマーの重合度がそれほど高まっていない中間重合工程では、塗れ壁式に落下させながら重合させる方法は、伝熱面積を大きくとれるため芳香族モノヒドロキシ化合物等の蒸発潜熱を効率的に与えることができ、有利である。重合度を更に高める後重合工程では、ガイドに沿わせて落下させながら重合させる方法が特に有利である。これらの重合方法を組み合わせることで、高品質の芳香族ポリカーボネートを効率よく製造することができる。
【0023】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明において、芳香族ジヒドロキシ化合物とは、HO−Ar−OHで示される化合物である(式中、Arは2価の芳香族基を表す。)。
芳香族基Arは、好ましくは例えば、−Ar1 −Y−Ar2 −で示される2価の芳香族基である(式中、Ar1 及びAr2 は、各々独立にそれぞれ炭素数5〜70を有する2価の炭素環式又は複素環式芳香族基を表し、Yは炭素数1〜30を有する2価のアルカン基を表す。)。
【0024】
2価の芳香族基Ar1 、Ar2 において、1つ以上の水素原子が、反応に悪影響を及ぼさない他の置換基、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基などによって置換されたものであっても良い。
【0025】
複素環式芳香族基の好ましい具体例としては、1ないし複数の環形成窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を有する芳香族基を挙げる事ができる。
2価の芳香族基Ar1 、Ar2 は、例えば、置換又は非置換のフェニレン、置換又は非置換のビフェニレン、置換または非置換のピリジレンなどの基を表す。ここでの置換基は前述のとおりである。
【0026】
2価のアルカン基Yは、例えば、下記化1で示される有機基である。
【0027】
【化1】
【0028】
(式中、R1 、R2 、R3 、R4 は、各々独立に水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、環構成炭素数5〜10のシクロアルキル基、環構成炭素数5〜10の炭素環式芳香族基、炭素数6〜10の炭素環式アラルキル基を表す。kは3〜11の整数を表し、R5 およびR6 は、各Xについて個々に選択され、お互いに独立に、水素または炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは炭素を表す。また、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 、R6 において、一つ以上の水素原子が反応に悪影響を及ぼさない範囲で他の置換基、例えばハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等によって置換されたものであっても良い。)
このような2価の芳香族基Arとしては、例えば、下記化2で示されるものが挙げられる。
【0029】
【化2】
【0030】
(式中、R7 、R8 は、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、環構成炭素数5〜10のシクロアルキル基またはフェニル基であって、mおよびnは1〜4の整数で、mが2〜4の場合には各R7 はそれぞれ同一でも異なるものであってもよいし、nが2〜4の場合には各R8 はそれぞれ同一でも異なるものであってもよい。)
さらに、2価の芳香族基Arは、−Ar1 −Z−Ar2 −で示されるものであっても良い。
【0031】
(式中、Ar1 、Ar2 は前述の通りで、Zは単結合又は−O−、−CO−、−S−、−SO2 −、−SO−、−COO−、−CON(R1 )−などの2価の基を表す。ただし、R1 は前述のとおりである。)
このような2価の芳香族基Arとしては、例えば、下記化3で示されるものが挙げられる。
【0032】
【化3】
【0033】
(式中、R7 、R8 、mおよびnは、前述のとおりである。)
さらに、2価の芳香族基Arの具体例としては、置換または非置換のフェニレン、置換または非置換のナフチレン、置換または非置換のピリジレン等が挙げられる。ここでの置換基として、反応に悪影響を及ぼさない置換基、例えばハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等が挙げられる。
【0034】
本発明で用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物は、単一種類でも2種類以上でもかまわない。芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的な例としてはビスフェノールAが挙げられる。
本発明で用いられるジアリールカーボネートは、下記化4で表される。
【0035】
【化4】
【0036】
(式中、Ar3 、Ar4 はそれぞれ1価の芳香族基を表す。)
Ar3 及びAr4 は、1価の炭素環式又は複素環式芳香族基を表すが、このAr3 、Ar4 において、1つ以上の水素原子が、反応に悪影響を及ぼさない他の置換基、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基などによって置換されたものであっても良い。Ar3 、Ar4 は同じものであっても良いし、異なるものであっても良い。
【0037】
1価の芳香族基Ar3 及びAr4 の代表例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ピリジル基を挙げる事ができる。これらは、上述の1種以上の置換基で置換されたものでも良い。
好ましいAr3 及びAr4 としては、それぞれ例えば、下記化5などが挙げられる。
【0038】
【化5】
【0039】
ジアリールカーボネートの代表的な例としては、下記化6で示される置換または非置換のジフェニルカーボネート類を挙げる事ができる。
【0040】
【化6】
【0041】
(式中、R9 及びR10は、各々独立に水素原子、炭素数1〜10を有するアルキル基、炭素数1〜10を有するアルコキシ基、環構成炭素数5〜10のシクロアルキル基又はフェニル基を示し、p及びqは1〜5の整数で、pが2以上の場合には、各R9 はそれぞれ異なるものであっても良いし、qが2以上の場合には、各R10は、それぞれ異なるものであっても良い。)
このジフェニルカーボネート類の中でも、非置換のジフェニルカーボネートや、ジトリルカーボネート、ジ−t−ブチルフェニルカーボネートのような低級アルキル置換ジフェニルカーボネートなどの対称型ジアリールカーボネートが好ましいが、特にもっとも簡単な構造のジアリールカーボネートであるジフェニルカーボネートが好適である。
【0042】
これらのジアリールカーボネート類は単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの使用割合(仕込比率)は、用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートの種類や、重合温度その他の重合条件によって異なるが、ジアリールカーボネートは芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、通常0.9〜2.5モル、好ましくは0.95〜2.0モル、より好ましくは0.98〜1.5モルの割合で用いられる。
【0043】
本発明の方法で得られる芳香族ポリカーボネートの数平均分子量は通常500〜100000の範囲であり、好ましくは500〜30000の範囲である。
本発明において、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートの溶融混合物とは、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートが加熱状態で混合されて均一になった状態を意味する。該溶融混合物は、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートの混合物を、150〜200℃に加熱する事によって得る事ができる。また重合中間体とは、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとを反応して得られる、本発明で製造する芳香族ポリカーボネートより分子量の低い重縮合物を意味する。すなわち、本発明で定義される重合中間体の分子量範囲は、最終的に製造する芳香族ポリカーボネートの分子量によって異なる。例えば、製造する芳香族ポリカーボネートの数平均分子量が10000の時は、重合中間体の分子量範囲は10000未満であり、製造する芳香族ポリカーボネートの数平均分子量が20000の時は、重合中間体の分子量範囲は20000未満である。
【0044】
本発明では実質的に芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの溶融混合物および/または実質的に芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとを反応して得られる重合中間体を溶融状態で多孔板からガイドに沿わせて落下させながら重合させ、芳香族ポリカーボネートを製造する。
本発明における多孔板において孔の形状に特に制限はなく、通常、円状、長円状、三角形状、スリット状、多角形状、星形状などの形状から選ばれる。孔の断面積は、通常0.01〜100cm2 であり、好ましくは0.05〜10cm2 であり、特に好ましくは0.1〜5cm2 の範囲である。孔と孔との間隔は、孔の中心と中心の距離で通常1〜500mmであり、好ましくは5〜100mmである。
【0045】
本発明においてガイドとは、断面の外周の平均長さに対する該断面に垂直な方向の長さの比率が非常に大きい材料を表すものである。該比率に特に制限はないが、通常10〜1000000の範囲であり、好ましくは50〜100000の範囲である。断面の形状に特に制限はなく、通常、円状、長円状、三角形状、四角形状、多角形状、星形状などの形状から選ばれる。断面の形状は長さ方向に同一であっても良いし異なっていてもかまわない。また、ガイドは中空状のものであっても良い。ガイドは、針金状等の単一なものであっても良いが、捩り合わせる等の方法によって複数組み合わせたものであってもかまわない。ガイドの表面は平滑であっても凹凸があるものであっても良く、部分的に突起等を有するものであってもかまわない。ガイドの材質に特に制限はないが、通常、ステンレススチール製、カーボンスチール製、ハステロイ製、ニッケル製、チタン製、クロム製、及びその他の合金製等の金属や、耐熱性の高いポリマー材料等の中から選ばれる。また、ワイヤの表面は、メッキ、ライニング、不働態処理、酸洗浄、フェノール洗浄等必要に応じて種々の処理がなされてもかまわない。
【0046】
ガイドは、多孔板の孔に直接接続していても良いし、孔から離れていても良い。好ましい具体例としては、多孔板の各孔の中心部付近に各ガイドが貫通して接続しているもの、多孔板の各孔の外周部分にガイドが接続しているもの等が挙げられる。ガイドの下端は、重合器のボトム液面に接していても良いし、離れていても構わない。
【0047】
この多孔板を通じて溶融混合物および/または重合中間体をガイドに沿わせて落下させる方法としては、液ヘッドまたは自重で落下させる方法、またはポンプなどを使って加圧にすることにより、多孔板から溶融混合物および/または重合中間体を押し出す等の方法が挙げられる。
孔の数に特に制限はなく、反応温度や圧力などの条件、触媒の量、重合させる分子量の範囲等によっても異なるが、通常ポリマーを例えば100kg/hr製造する際、10〜105 個の孔が必要である。
【0048】
孔を通過した後、ガイドに沿わせて落下させる高さは、好ましくは0.3〜50mであり、さらに好ましくは0.5〜20mである。
孔を通過させる溶融混合物または重合中間体の流量は、溶融混合物または重合中間体の分子量によっても異なるが通常、孔1個当たり、10−4〜104 リットル/hr、好ましくは10−2〜102 リットル/hr、特に好ましくは、0.05〜50リットル/hrの範囲である。
【0049】
ガイドに沿わせて落下させるのに要する時間に特に制限はないが、通常0.01秒〜10時間の範囲である。
本発明において、ガイドに沿わせて落下させた後の該溶融混合物および/または重合中間体は、そのまま液溜部に落下させてもよく、また巻き取り器等で強制的に液溜部に取り込んでも良い。さらに、ガイドに沿わせて落下させた後の重合物はそのまま抜き出されても構わないが、循環させて、再びガイドに沿わせて落下させながら重合させるのも好ましい方法である。この場合、ガイドに沿わせて落下させた後の液溜部や循環ライン等で重縮合反応に必要な反応時間に応じて滞留時間を長くすることができる。また、ガイドに沿わせて落下させながら循環を行うことにより単位時間に形成し得る新規な液表面積が大きく取れるため、所望の分子量まで充分重合を進行させる事が容易となる。
【0050】
本発明の好ましい態様として、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの溶融混合物および/または重合中間体を連続的に供給し、溶融状態で多孔板からガイドに沿わせて落下させながら重合させ、落下した重合体の一部は循環させて再びガイドに沿わせて落下させながら重合させ、芳香族ポリカーボネートを連続的に抜き出す方法が挙げられる。この際、多孔板が低縮合物等で汚染されず長期間安定に運転できる事が本発明の大きな利点の一つである。
【0051】
また、濡れ壁式重合器のように、管の内壁をポリマーを落下させながら重合させる場合は、ポリカーボネートのような高粘度ポリマーの場合膜厚が厚くなり、芳香族モノヒドロキシ化合物等を蒸発させる面積が管の内表面積より小さくなるという不利を生ずるが、本発明の様にガイドに沿わせて落下させながら重合する方法の場合、膜厚が厚くなると共に蒸発面積は通常ガイドの表面積より大きくなるため、重合速度を高める上で有利である。このことも本発明の特徴である。
【0052】
本発明の芳香族ポリカーボネートの製造法において、反応の温度は、通常50〜350℃、好ましくは100〜290℃の温度の範囲で選ばれる。
反応の進行にともなって、用いるジアリールカーボネート由来のアリール基を有する芳香族モノヒドロキシ化合物が生成してくるが、これを反応系外へ除去する事によって反応速度が高められる。
【0053】
本発明では反応器に、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素や低級炭化水素ガスなど反応に悪影響を及ぼさない不活性なガスを導入して、生成してくる該芳香族モノヒドロキシ化合物をこれらのガスに同伴させて除去しながら反応を行う。
本発明で用いる不活性ガス中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量は、通常モル分圧の比で、不活性ガス1に対して、芳香族モノヒドロキシ化合物1×10−6〜1×103 の範囲である。好ましくは、最終的に製造される芳香族ポリカーボネートの最終分子量によっても異なり、芳香族ポリカーボネートの数平均分子量が1000未満の場合は、不活性ガス中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量が、モル分圧比で不活性ガス1に対して1×10−6〜1×103 の範囲であり、1×10−3〜1×103 の範囲が好ましい。前記範囲の上限を越える濃度の芳香族モノヒドロキシ化合物を含む不活性ガスを用いると、不活性ガスによる芳香族モノヒドロキシ化合物の抜き出し効果が得にくくなり、実質的に十分な反応速度を得ることができない。また、下限より低い濃度の芳香族モノヒドロキシ化合物を含む不活性ガスを用いるには、その不活性ガスを得るための設備が非常に膨大となり、工業的に好ましくない。以上の範囲の不活性ガスを使う限り、反応時の圧力は特に制限がないが、常圧以下が好ましい。
【0054】
同様に、製造される芳香族ポリカーボネートの数平均分子量が1000〜2000の範囲の場合は、不活性ガス中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量が、モル分圧比で不活性ガス1に対して1×10−6〜1×10の範囲が好ましく、さらに1×10−4〜1の範囲が好ましい。また、製造される芳香族ポリカーボネートの数平均分子量が2000を越える範囲の場合は、不活性ガス中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量が、モル分圧比で不活性ガス1に対して1×10−6〜1×10−1の範囲が好ましい。以上の範囲の不活性ガスを使う限り、反応時の圧力は特に制限がないが、常圧以下が好ましい。
【0055】
さらに、本発明において、反応に用いた後の不活性ガスを回収し、該不活性ガスに含有される多量の芳香族モノヒドロキシ化合物等をコンデンサー等を用いて除去し、再び本発明の反応器に流入させて反応させるのも、好ましい態様の一つである。その場合、製造する芳香族ポリカーボネートの数平均分子量が低いほど、また、分子量を上げる度合いが大きいほど、反応により生成する芳香族モノヒドロキシ化合物の量が多いため、回収ガスから芳香族モノヒドロキシ化合物を取り除くための設備は、通常は製造する芳香族ポリカーボネートの数平均分子量が小さいほど大きくなる傾向がある。そのため本発明のように、含まれる芳香族モノヒドロキシ化合物を完全に取り除かない不活性ガスを用いても、実用上十分な反応速度を保つことができることは、工業的に設備の大型化を押さえることができ、非常に有益である。
【0056】
また、本発明の製造法による反応器を数段組み合わせて、実質的に芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートからなる混合物を溶融状態にすることによって得られる溶融混合物および/または実質的に芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートを反応させて得られる重合中間体から芳香族ポリカーボネートを製造する際、高分子量側の反応器で反応に用いた不活性ガスを、順次より低分子量側の反応器における反応に用いることも、好ましい態様の一つである。
【0057】
溶融重縮合反応は、触媒を加えずに実施する事ができるが、重合速度を高めるため、必要に応じて触媒の存在下で行われる。重合触媒としては、この分野で用いられているものであれば特に制限はないが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物類;水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウムなどのホウ素やアルミニウムの水素化物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、第四級アンモニウム塩類;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウムなどのアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水素化合物類;リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カルシウムメトキシドなどのアルカリ金属及びアルカリ土類金属のアルコキシド類;リチウムフェノキシド、ナトリウムフェノキシド、マグネシウムフェノキシド、LiO−Ar−OLi、NaO−Ar−ONa(Arはアリール基)などのアルカリ金属及びアルカリ土類金属のアリーロキシド類;酢酸リチウム、酢酸カルシウム、安息香酸ナトリウムなどのアルカリ金属及びアルカリ土類金属の有機酸塩類;酸化亜鉛、酢酸亜鉛、亜鉛フェノキシドなどの亜鉛化合物類;酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリフェニル、(R1 R2 R3 R4)NB(R1 R2 R3 R4)または(R1 R2 R3 R4)PB(R1 R2 R3 R4)で表されるアンモニウムボレート類またはホスホニウムボレート類(R1、R2、R3、R4は前記化1の説明通り)などのホウ素の化合物類;酸化ケイ素、ケイ酸ナトリウム、テトラアルキルケイ素、テトラアリールケイ素、ジフェニル−エチル−エトキシケイ素などのケイ素の化合物類;酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム、ゲルマニウムエトキシド、ゲルマニウムフェノキシドなどのゲルマニウムの化合物類;酸化スズ、ジアルキルスズオキシド、ジアルキルスズカルボキシレート、酢酸スズ、エチルスズトリブトキシドなどのアルコキシ基またはアリーロキシ基と結合したスズ化合物、有機スズ化合物などのスズの化合物類;酸化鉛、酢酸鉛、炭酸鉛、塩基性炭酸塩、鉛及び有機鉛のアルコキシドまたはアリーロキシドなどの鉛の化合物;第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、第四級アルソニウム塩などのオニウム化合物類;酸化アンチモン、酢酸アンチモンなどのアンチモンの化合物類;酢酸マンガン、炭酸マンガン、ホウ酸マンガンなどのマンガンの化合物類;酸化チタン、チタンのアルコキシドまたはアリーロキシドなどのチタンの化合物類;酢酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ジルコニウムのアルコキシド又はアリーロキシド、ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウムの化合物類などの触媒を挙げる事ができる。
【0058】
触媒を用いる場合、これらの触媒は1種だけで用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、これらの触媒の使用量は、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常10−8〜1重量%、好ましくは10−7〜10−1重量%の範囲で選ばれる。
本発明で用いる好ましい重合器の一例を、図に基づき説明する。
【0059】
図1及び図2は、本発明の方法を達成する重合器の具体例である。図1では、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの溶融混合物、または芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートを反応して得られる重合中間体は、原料供給口1より供給され、多孔板3を通って重合器内部に導入されガイド4に沿って落下する。重合器内部は、所定の圧力にコントロールされており、溶融混合物または重合中間体から留出した芳香族モノヒドロキシ化合物などや、必要に応じてガス供給口5より導入される窒素等の不活性ガスなどは、ベント口6より排出される。重合物は排出ポンプ8により排出口9から排出される。重合器本体10などは、ヒーターまたはジャケットにより加熱され、かつ保温されている。
【0060】
また、図2では、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの溶融混合物または芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートを反応して得られる重合中間体は、原料供給口1より循環ライン2に供給され、多孔板3を通って重合器内部に導入されガイド4に沿って落下する。重合器内部は、所定の圧力にコントロールされており、溶融混合物または重合中間体から留出した芳香族モノヒドロキシ化合物などや、必要に応じてガス供給口5より導入される窒素等の不活性ガスなどはベント口6より排出される。重合器ボトムに達した溶融混合物または重合中間体は循環ポンプ7を備えた循環ライン2を通じて、多孔板3から再び重合器内部に供給される。所定の分子量に達した重合物は、排出ポンプ8により排出口9から排出される。重合器本体10や循環ライン2などはヒーター又はジャケットにより加熱され、かつ保温されている。
【0061】
図2の重合器をバッチ式に用いる場合には、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの溶融混合物または芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートを反応して得られる重合中間体を原料供給口1から全て供給した後、重合を行い、所定の重合度に達した後、排出口9より抜き出される。連続式に用いる場合には、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの溶融混合物または芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートを反応して得られる重合中間体を原料供給口1から連続的に供給し、重合器内のポリマー融液量を一定に保つようにコントロールしながら所定の分子量に達したポリマーを排出口9より連続的に抜き出す。
【0062】
本発明の方法に用いる重合器は、重合器ボトムに撹拌器などを備えることも可能であるが特に必要ではない。従って、重合器本体での回転駆動部をなくす事が可能であり、高真空下でも良好にシールされた条件で重合させる事が可能である。循環ラインに備えられた循環ポンプの回転駆動部のシール性は、液ヘッドがあるため重合器本体に回転駆動部がある場合に比べ良好である。
【0063】
本発明の方法は、重合器1基で行う事も可能であるが、2基以上で行ってもかまわない。また、1基の重合基を竪型または横型に仕切って、多段の重合器とする事も可能である。
本発明において、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートの溶融混合物および/または芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートを反応して得られる重合中間体から芳香族ポリカーボネートまで分子量を高めていく工程を、全て多孔板からガイドに沿わせて落下させながら重合させる方法で行う事も可能であるが、他の重合方法と組み合わせて行う事も可能である。例えば、ガイドに沿わせて落下させながら重合させる方式と、薄膜式重合器、スクリュー型重合器、横型撹拌重合器等を使って重合させる方式や、多孔板から自由に落下させながら重合させる方式等を組み合わせて芳香族ポリカーボネートを製造することも可能である。
【0064】
本発明の方法を達成する重合器の材質に特に制限はなく、通常ステンレススチールやニッケル、グラスライニング等から選ばれる。
重合器内側面にスケールが付着するのを防止するため、循環するポリマーの一部で重合器内壁面に濡れ壁を形成させるのも本発明の好ましい実施態様の一つである。
【0065】
【発明の実施の形態】
以下に、実施例を挙げて説明する。
なお、分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量(以下、Mnと略す。)である。カラーは、CIELAB法により試験片厚み3.2mmで測定し、黄色度をb* 値で示した。反応に用いる不活性ガス中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量はガスクロマトグラフィーにより定量した。
【0066】
【実施例1】
図1に示すような重合器を用いて反応を行った。この重合器は、孔径7.5mmの孔を50個有する多孔板を備えており、各孔には1mm径のSUS316L製ワイヤ状ガイドが孔を貫通して設置されている。ガイドに沿わせて落下させる高さは4mである。この重合器に、ビスフェノールAとジフェニルカーボネート(対ビスフェノールAモル比1.05)から製造した、Mn2400の重合中間体を5リットル/hrで供給しながら、反応温度247℃、反応圧力11mmHgとし、不活性ガスは窒素を用い、窒素中に含まれる芳香族モノヒドロキシ化合物の窒素ガス1に対するモル分圧比(この後の実施例については、芳香族モノヒドロキシ化合物の窒素ガス1に対するモル分圧比を、単に「モル分圧比」と省略する)が2.3×10−3で、ガス流量2リットル/hrの条件で、反応を行った。その結果、Mn3000の無色透明な芳香族ポリカーボネート(b* 値 3.1)が得られた。
【0067】
【実施例2】
実施例1と同一の装置を用いて、ビスフェノールAとジフェニルカーボネート(対ビスフェノールAモル比1.08)から製造した、Mn480の重合中間体を2リットル/hrで供給しながら、反応温度230℃、反応圧力1気圧とし、不活性ガスは窒素を用い、モル分圧比12で、ガス流量0.9リットル/hrの条件で反応を行った。その結果、Mn880の無色透明な芳香族ポリカーボネート(b* 値 3.1)が得られた。
【0068】
【実施例3】
実施例1と同一の装置を用いて、ビスフェノールAとジフェニルカーボネート(対ビスフェノールAモル比1.05)から製造した、Mn480の重合中間体を2リットル/hrで供給しながら、反応温度230℃、反応圧力1気圧とし、不活性ガスは窒素を用い、モル分圧比5.8×10−1で、ガス流量1.8リットル/hrの条件で反応を行った。その結果、Mn1250の無色透明な芳香族ポリカーボネート(b* 値 3.1)が得られた。
【0069】
【実施例4】
図2に示すような重合器を用いて反応を行った。この重合器は、孔径7.5mmの孔を50個有する多孔板を備えており、各孔には1mm径のSUS316L製ワイヤ状ガイドが孔を貫通して設置されている。ガイドに沿わせて落下させる高さは4mである。この重合器に、ビスフェノールAとジフェニルカーボネート(対ビスフェノールAモル比1.05)の溶融混合物を20リットル仕込み、反応温度250℃、反応圧力1気圧、循環流量600リットル/hr、不活性ガスは窒素を用い、モル分圧比12で、ガス流量20リットル/hrの条件で1時間バッチ反応を行い、さらに反応圧力を1気圧、モル分圧比1.5×10−4で、窒素ガス流量34リットル/Hrとして30分バッチ反応を行った。その結果、Mn2050の無色透明な芳香族ポリカーボネート(b* 値 3.0)が得られた。
【0070】
【実施例5】
実施例4と同一の装置を用いて、ビスフェノールAとジフェニルカーボネート(対ビスフェノールAモル比1.05)から製造した、Mn800の重合中間体を35リットル仕込み、反応温度250℃、反応圧力1気圧、循環流量400リットル/hrとし、不活性ガスは窒素を用い、モル分圧比3.0×10−4で、ガス流量47リットル/hrの条件で、1時間バッチ反応を行った。その結果、Mn2300の無色透明な芳香族ポリカーボネート(b* 値 3.0)が得られた。
【0071】
【実施例6】
実施例4と同一の装置を用いて、実施例5で得た芳香族ポリカーボネートと同様のMn2300の重合中間体を30リットル仕込み、反応温度250℃、反応圧力1.1mmHg、循環流量100リットル/hrとし、不活性ガスは窒素を用い、モル分圧比1.5×10−2で、ガス流量2リットル/hrの条件で1.5時間バッチ反応を行った。その結果、Mn4600の無色透明な芳香族ポリカーボネート(b* 値 3.2)が得られた。
【0072】
【実施例7】
実施例4と同一の装置を用いて、実施例5で得た芳香族ポリカーボネートと同様のMn2300の重合中間体を30リットル仕込み、反応温度250℃、反応圧力1.0mmHg、循環流量400リットル/hrとし、不活性ガスは窒素を用い、モル分圧比4.5×10−5で、ガス流量3リットル/hrの条件で、1.5時間バッチ反応を行った。その結果、Mn6100の無色透明な芳香族ポリカーボネート(b* 値 3.2)が得られた。
【0073】
【実施例8】
実施例4と同一の装置を用いて、実施例5で得た芳香族ポリカーボネートと同様のMn2300の重合中間体を30リットル仕込み、反応温度250℃、反応圧力1.0mmHg、循環流量20リットル/hrとし、不活性ガスは窒素を用い、モル分圧比1.5×10−2で、ガス流量3リットル/hrの条件で、1.5時間バッチ反応を行った。その結果、Mn4200の無色透明な芳香族ポリカーボネート(b* 値 3.2)が得られた。
【0074】
【実施例9】
実施例4と同一の装置を用いて、実施例6で得た芳香族ポリカーボネートと同様のMn4600の重合中間体を30リットル仕込み、反応温度250℃、反応圧力1.0mmHg、循環流量25リットル/hrとし、不活性ガスは窒素を用い、モル分圧比4.5×10−5で、ガス流量2リットル/hrの条件で、6時間バッチ反応を行った。その結果、Mn9800の無色透明な芳香族ポリカーボネート(b* 値 3.3)が得られた。
【0075】
【実施例10】
実施例3と同一の装置を用いて、実施例5で得た芳香族ポリカーボネートと同様のMn4600の重合中間体を30L仕込み、反応温度280℃、反応圧力0.5mmHg、循環流量23リットル/hrとし、不活性ガスは窒素を用い、モル分圧比4.5×10−5で、ガス流量2リットル/hrの条件で、2時間バッチ反応を行った。その結果、Mn10300の無色透明な芳香族ポリカーボネート(b* 値 3.3)が得られた。
【0076】
【比較例1】
実施例4と同一の装置を用いて、ビスフェノールAとジフェニルカーボネート(対ビスフェノールAモル比1.05)から製造した、Mn800の重合中間体を35リットル仕込み、反応温度250℃、反応圧力1気圧、循環流量800リットル/hrとし、不活性ガスは窒素を用い、モル分圧比2×104 で、ガス流量10リットル/hrの条件で、1時間バッチ反応を行った。その結果、Mn820の無色透明な芳香族ポリカーボネート(b* 値 3.0)が得られた。
【0077】
【比較例2】
実施例4と同一の装置を用いて、実施例3で得られたのと同様のMn1250の芳香族ポリカーボネートを30リットル仕込み、反応温度250℃、反応圧力10mmHg、循環流量400リットル/hrとし、不活性ガスは窒素を用い、モル分圧比2×104 で、ガス流量10リットル/hrの条件で、1時間バッチ反応を行った。その結果、分子量は全く上がらなかった。
【0078】
【比較例3】
実施例4と同一の装置を用いて、実施例5で得られたのと同様のMn2300の芳香族ポリカーボネートを30リットル仕込み、反応温度250℃、反応圧力1.0mmHg、循環流量50リットル/hrとし、不活性ガスは窒素を用い、モル分圧比2×104 で、ガス流量10リットル/hrの条件で、1時間バッチ反応を行った。その結果、分子量は全く上がらなかった。
【0079】
【発明の効果】
芳香族モノヒドロキシ化合物を含有する不活性ガス流通下においても、長期間安定に、着色のない高品質の芳香族ポリカーボネートを高い重合速度で製造する事ができる。このことから反応に用いた後の回収窒素ガスを用いることができ、産業上大いに有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いる重合器の一例を示す模式図である。
【図2】本発明で用いる重合器の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
1 原料供給口
2 循環ライン
3 多孔板
4 ガイド
5 ガス供給口
6 ベント口
7 循環ポンプ
8 排出ポンプ
9 排出口
10 重合器本体
Claims (3)
- 溶融法による芳香族ポリカーボネートの製造法において、実質的に芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートからなる混合物を溶融状態にすることによって得られる溶融混合物、および/または実質的に芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートからなる混合物を反応させることによって得られる重合中間体を、不活性ガス流通下の空間中に流出させ、ガイドに沿わせて落下させながら重合させる際に、不活性ガス中に含まれる芳香族モノヒドロキシ化合物の不活性ガスに対する分圧比が、1×10−6〜1×103 の範囲である不活性ガスを用いることを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造法。
- 供給する不活性ガスが溶融重合から回収された不活性ガスであることを特徴とする請求項1記載の芳香族ポリカーボネートの製造法。
- 供給する不活性ガス中に含まれる芳香族モノヒドロキシ化合物の不活性ガスに対する分圧比が、数平均分子量が1000未満の芳香族ポリカーボネートを製造する場合は1×10−6〜1×103 の範囲である不活性ガスを、数平均分子量が1000〜2000の範囲の芳香族ポリカーボネートを製造する場合は1×10−6〜1×10の範囲である不活性ガスを、数平均分子量が2000を越える芳香族ポリカーボネートを製造する場合は1×10−6〜1×10−1の範囲である不活性ガスをそれぞれ用いて、芳香族ポリカーボネートを製造することを特徴とする請求項1記載の芳香族ポリカーボネートの製造法。
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