JP2019135321A - 廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】廃リチウムイオン電池から、乾式製錬プロセスによってリンを効率よく除去しながら有価金属を効果的に回収する方法を提供する。【解決手段】本発明は、廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法であって、廃リチウムイオン電池を600℃以上の温度で焙焼して酸化処理を行う酸化焙焼工程S3と、酸化焙焼により得られた酸化焙焼物を、炭素の存在下で還元熔融して、スラグと有価金属を含む合金とを得る還元熔融工程S4と、を有する。ここで、還元熔融工程S4では、酸化焙焼物を、その酸化焙焼物100質量%に対して7.5質量%を超え10質量%以下となる割合の量の炭素の存在下で熔融することが好ましい。【選択図】図1
Description
本発明は、廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法に関する。
近年、軽量で大出力の二次電池としてリチウムイオン電池が普及している。リチウムイオン電池としては、アルミニウムや鉄等の金属製の外装缶内に、銅箔からなる負極集電体に黒鉛等の負極活物質を固着した負極材、アルミニウム箔からなる正極集電体にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質を固着した正極材、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなるセパレータ、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の電解質を含む電解液等を封入したものが知られている。
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車があり、自動車のライフサイクルとともに、搭載されたリチウムイオン電池も将来大量に廃棄される見込みとなっている。このような使用済みの電池や製造中に生じた不良品(以下、「廃リチウムイオン電池」と称する。)を資源として再利用する提案が多くなされており、廃リチウムイオン電池の再利用法として、高温炉で廃電池を全量熔解する乾式製錬プロセスが提案されている。
廃リチウムイオン電池には、ニッケル、コバルト、銅等の有価金属の他に、炭素、アルミニウム、フッ素、リン等の不純物成分が含まれるため、廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収においてはこれらの不純物成分を除去する必要がある。これらの不純物成分の中で、炭素は、残留するとメタルとスラグの分離性を妨げてしまう。また、炭素は、還元剤として寄与するため、他の物質の適正な酸化除去を妨げる場合がある。特に、上記の不純物成分の中でも、リンは比較的還元されやすい性質を有するため、コバルト等の有価金属の回収率を上げるために還元度を強めに調整し過ぎると、リンが酸化除去されずにメタル中に残留してしまう。一方で、還元度を弱めに調整し過ぎると、有価金属まで酸化されて回収率が下がってしまう。
このため、有価金属の回収及びリンの除去を安定的に行うためには、酸化還元の度合いが適正になるように、安定的に炭素量をコントロールする必要がある。
例えば、特許文献1では、乾式法による廃リチウムイオン電池からのコバルトの回収方法として、廃リチウムイオン電池を熔融炉へ投入して酸素により酸化するプロセスが提案されている。このプロセスでは、コバルトを高い回収率で回収できているが、リンの除去についての記述はなく、有価金属の回収及びリンの除去を安定的に行うことができるかは不明である。
また、特許文献2では、酸化処理を安定化させるために、熔解の前に予備酸化を行うプロセスが提案されている。これにより、炭素の気相中への除去が安定化され、安定的に有価金属を回収することはできる。ところが、リンを選択的にスラグに分配して除去できるほど酸化度を調整することは困難であり、高い回収率で有価金属を得ようとした場合、後工程としてリンを除去する工程が必要となる。
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、廃リチウムイオン電池から、乾式製錬プロセスによってリンを効率よく除去しながら有価金属を効果的に回収する方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、廃リチウムイオン電池を特定の温度で酸化焙焼し、得られた酸化焙焼物を、還元剤としての炭素の存在下で還元熔融することによって、リンを有効に除去しながら、銅、ニッケル、コバルト等の有価金属を還元して合金として高い回収率で回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
(1)本発明の第1の発明は、廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法であって、前記廃リチウムイオン電池を600℃以上の温度で焙焼して酸化処理を行う酸化焙焼工程と、酸化焙焼により得られた酸化焙焼物を、炭素の存在下で還元熔融して、スラグと有価金属を含む合金とを得る還元熔融工程と、を有する、有価金属の回収方法である。
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記還元熔融工程では、酸化焙焼物を、該酸化焙焼物100質量%に対して7.5質量%を超え10質量%以下となる割合の量の炭素の存在下で熔融する、有価金属の回収方法である。
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記有価金属が、少なくともコバルト、ニッケル、及び銅から選ばれる1種以上である、有価金属の回収方法である。
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記酸化焙焼工程では、ロータリーキルンを用いて酸化焙焼を行う、有価金属の回収方法である。
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記還元熔融工程において回収される前記合金のリン品位が0.1質量%未満である、有価金属の回収方法である。
本発明によれば、廃リチウムイオン電池から、リンを効率的に除去しながら、有価金属を効果的に回収することができる。
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
≪1.有価金属の回収方法の概要≫
本実施の形態に係る有価金属の回収方法は、リンを含有する廃リチウムイオン電池に含まれる有価金属を回収する方法である。廃リチウムイオン電池から有価金属を回収するにあたっては、乾式製錬プロセスと、湿式製錬プロセスとが実行される。本実施の形態に係る有価金属の回収方法は、主として乾式製錬プロセスに係るものである。
本実施の形態に係る有価金属の回収方法は、リンを含有する廃リチウムイオン電池に含まれる有価金属を回収する方法である。廃リチウムイオン電池から有価金属を回収するにあたっては、乾式製錬プロセスと、湿式製錬プロセスとが実行される。本実施の形態に係る有価金属の回収方法は、主として乾式製錬プロセスに係るものである。
ここで、廃リチウムイオン電池とは、使用済みのリチウムイオン電池や、二次電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等のリチウムイオン電池の製造工程内における廃材を含む概念であり、これらが混合されたものを処理することも多い。そして、廃リチウムイオン電池には、例えば、銅、ニッケル、コバルト等の有価金属が含まれている。
図1は、有価金属の回収方法の流れの一例を示す工程図である。図1に示すように、本実施の形態に係る有価金属の回収方法は、廃リチウムイオン電池の電解液及び外装缶を除去する廃電池前処理工程S1と、電池の内容物を粉砕して粉砕物とする粉砕工程S2と、粉砕物を酸化焙焼する酸化焙焼工程S3と、酸化焙焼物を還元及び熔融して合金化する還元熔融工程S4と、を有する。
なお、このような乾式製錬プロセスを経て得られた有価金属を含む合金に対して湿式製錬プロセスを実行することにより、不純物成分を除去し、銅、ニッケル、コバルト等の有価金属を分離精製して、それぞれを回収することができる。湿式製錬プロセスにおける処理は、中和処理や溶媒抽出処理等の公知の方法により行うことができる。
≪2.回収方法の各工程について≫
以下、本実施の形態に係る有価金属の回収方法の各工程について具体的に説明する。
以下、本実施の形態に係る有価金属の回収方法の各工程について具体的に説明する。
[廃電池前処理工程]
廃電池前処理工程S1は、廃リチウムイオン電池の爆発防止又は無害化、外装缶除去等を目的として行われる。すなわち、例えば使用済みのリチウムイオン電池等の廃リチウムイオン電池は密閉系であり、内部に電解液等を有しているため、そのままの状態で粉砕処理を行うと、爆発の恐れがあり危険である。このため、何らかの方法で放電処理や電解液の除去処理を施す必要がある。このように、廃電池前処理工程S1において電解液及び外装缶を除去することで、安全性を高め、また、銅、ニッケル、コバルト等の有価金属の回収生産性を高めることができる。
廃電池前処理工程S1は、廃リチウムイオン電池の爆発防止又は無害化、外装缶除去等を目的として行われる。すなわち、例えば使用済みのリチウムイオン電池等の廃リチウムイオン電池は密閉系であり、内部に電解液等を有しているため、そのままの状態で粉砕処理を行うと、爆発の恐れがあり危険である。このため、何らかの方法で放電処理や電解液の除去処理を施す必要がある。このように、廃電池前処理工程S1において電解液及び外装缶を除去することで、安全性を高め、また、銅、ニッケル、コバルト等の有価金属の回収生産性を高めることができる。
廃電池前処理工程S1の具体的な方法としては、特に限定されないが、例えば、針状の刃先で電池を物理的に開孔することにより、内部の電解液を流し出して除去することができる。また、廃リチウムイオン電池をそのまま加熱し、電解液を燃焼して無害化してもよい。
なお、外装缶は金属のアルミニウムや鉄等で構成されている場合が多く、廃電池前処理工程S1を経ることで、こうした金属製の外装缶をそのまま有価金属として比較的容易に回収することが可能である。例えば、外装缶に含まれるアルミニウムや鉄を回収する場合には、除去した外装缶を粉砕した後に篩振とう機を用いて篩分けを行うことができる。アルミニウムの場合、軽度の粉砕であっても容易に粉状となり、効率的に回収できる。また、磁力による選別によって、外装缶に含まれている鉄の回収を行うことができる。
[粉砕工程]
粉砕工程S2では、廃電池前処理工程S1を経て得られた電池の内容物を粉砕して粉砕物を得る。粉砕工程S2における処理は、次工程以降の乾式製錬プロセスでの反応効率を高めることを目的として行われ、反応効率を高めることで、銅、ニッケル、コバルトの有価金属の回収率を高めることができる。
粉砕工程S2では、廃電池前処理工程S1を経て得られた電池の内容物を粉砕して粉砕物を得る。粉砕工程S2における処理は、次工程以降の乾式製錬プロセスでの反応効率を高めることを目的として行われ、反応効率を高めることで、銅、ニッケル、コバルトの有価金属の回収率を高めることができる。
粉砕工程S2での具体的な粉砕方法は、特に限定されないが、カッターミキサー等の従来公知の粉砕機を用いて粉砕することができる。
[酸化焙焼工程]
酸化焙焼工程S3では、粉砕物を酸化焙焼して酸化焙焼物を得る。酸化焙焼工程S3では、電池の内容物中に含まれる炭素を酸化除去し、また、粉砕物中に含まれる、少なくともアルミニウムを酸化することが可能な酸化度で処理する。なお、廃リチウムイオン電池を構成する主要元素は、酸素との親和力の差により一般的に、アルミニウム>リチウム>炭素>マンガン>リン>鉄>コバルト>ニッケル>銅、の順に酸化されやすい。
酸化焙焼工程S3では、粉砕物を酸化焙焼して酸化焙焼物を得る。酸化焙焼工程S3では、電池の内容物中に含まれる炭素を酸化除去し、また、粉砕物中に含まれる、少なくともアルミニウムを酸化することが可能な酸化度で処理する。なお、廃リチウムイオン電池を構成する主要元素は、酸素との親和力の差により一般的に、アルミニウム>リチウム>炭素>マンガン>リン>鉄>コバルト>ニッケル>銅、の順に酸化されやすい。
このように、酸化焙焼工程S3では、粉砕物を酸化焙焼することで、電池の内容物に含まれる炭素を除去することができる。そしてその結果、その後の還元熔融工程S4において局所的に発生する還元有価金属の熔融微粒子が、炭素による物理的な障害なく凝集することが可能となり、一体化した合金として回収することができる。また、還元熔融工程S4において電池の内容物に含まれるリンが炭素により還元されることを抑制し、有効にリンを酸化除去して、有価金属の合金中に分配されることを抑制することができる。
すなわち、酸化焙焼工程S3では、得られる酸化焙焼中に含まれる炭素の含有量をほぼ0質量%とする。このように、含有量がほぼ0質量%となるように炭素を除去することで、リンを有効に酸化除去できるようにするとともに、次の還元熔融工程S4にて有価金属を効率的に還元して合金化するための炭素量の調節を容易にする。
仮に、酸化焙焼処理を行わない場合、すなわち、電池内容物の粉砕物をそのまま炉に投入して還元熔融を行うと、電池に含有される炭素が、その還元熔融処理においてメタルとスラグの分離を妨げ、結果として有価金属の回収率を低下させてしまう(またはスラグを十分に除去することができない)。また、熔融処理において酸化を併せて行うとしても、より厳密な酸化度の調整が困難となり、この点においても、有価金属の回収率を低下させる。
酸化焙焼工程S3においては、600℃以上の温度(酸化焙焼温度)で酸化焙焼する。酸化焙焼処理の温度条件を600℃以上とすることで、電池に含まれる炭素を有効に酸化除去することができる。また、好ましくは酸化焙焼温度を700℃以上とすることで、処理時間を短縮させることもできる。また、酸化焙焼温度の上限値としては900℃以下とすることが好ましく、これにより、熱エネルギーコストを抑制することができ、処理効率を高めることができる。また、例えば、酸化焙焼をロータリーキルンにより行うにあたっては、酸化焙焼温度を900℃以下とすることで、キルンの内壁へのベコの付着を抑制することができ、安定的にかつ均一に酸化焙焼処理を施すことができる。
一方、酸化焙焼処理の温度条件が低すぎると、電池に含まれている炭素を有効に酸化除去することができない。上述のように、炭素は還元剤として寄与するものであるため、炭素が十分に酸化除去されずに残留し、以降の工程にて過剰量で存在するようになると、比較的還元され易いリンが炭素によって無視できない程度に還元されて、そのリンが合金中に分配されてしまう。すると、この一連の工程において有効にリンを除去することができなくなり、合金を回収した後に別途脱リン工程にてその合金からリンを除去する処理を行うことが必要になる。
酸化焙焼の処理は、公知の焙焼炉を使用して行うことができる。また、次の還元熔融工程S4における熔融処理で使用する熔融炉とは異なる炉(予備炉)を設け、その予備炉内において行うことが好ましい。焙焼炉としては、酸素を供給しながら粉砕物を加熱することによりその内部で酸化処理(焙焼)を行うことが可能な、あらゆる形式のキルンを用いることができる。一例として、公知のロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)等を好適に用いることができる。
また、600℃以上の温度で酸化焙焼して酸化度を調整するにあたっては、炉内に酸化剤を導入することが好ましい。酸化剤としては特に限定されないが、取り扱いが容易な点から、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体を用いることが好ましい。なお、ここでの酸化剤の導入量としては、例えば、酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度とすることができる。
[還元熔融工程]
還元熔融工程S4では、酸化焙焼工程S3により得られた酸化焙焼物を還元熔融して、スラグと有価金属を含む合金(還元物)とを得る。還元熔融工程S4では、酸化焙焼処理にて酸化させて得られた、アルミニウム等の不要な酸化物は酸化物のままで、その酸化焙焼処理で酸化してしまった銅等の有価金属の酸化物については還元及び熔融させて、還元物を一体化した合金として回収する。なお、熔融物として得られる合金を「熔融合金」ともいう。
還元熔融工程S4では、酸化焙焼工程S3により得られた酸化焙焼物を還元熔融して、スラグと有価金属を含む合金(還元物)とを得る。還元熔融工程S4では、酸化焙焼処理にて酸化させて得られた、アルミニウム等の不要な酸化物は酸化物のままで、その酸化焙焼処理で酸化してしまった銅等の有価金属の酸化物については還元及び熔融させて、還元物を一体化した合金として回収する。なお、熔融物として得られる合金を「熔融合金」ともいう。
ここで、還元熔融工程S4では、少なくとも炭素の存在下で還元熔融処理を行うことを特徴としている。炭素は、回収対象である有価金属の銅、ニッケル、コバルト等を容易に還元する能力がある還元剤であって、例えば、炭素1モルで銅酸化物やニッケル酸化物等の有価金属の酸化物2モルを還元することができる黒鉛等が挙げられる。また、炭素1モルあたり2〜4モルを還元できる炭化水素等を炭素の供給源として用いることができる。したがって、還元剤としての炭素の存在下で還元熔融を行うことで、有価金属を効率的に還元して、有価金属を含む合金をより効果的に得ることができる。また、炭素を用いた還元では、例えばアルミニウム等の金属粉を還元剤として還元するテルミット反応を利用する場合と比べて、極めて安全性が高いという利点もある。
また、炭素としては、人工黒鉛や天然黒鉛のほか、製品や後工程で不純物が許容できる程度であれば、石炭やコークス等を使用することもできる。なお、還元熔融処理では、アンモニアや一酸化炭素を添加するようにしてもよい。
このとき、炭素の存在量を適度に調節することが望ましい。炭素の存在量が多すぎると、酸化焙焼物中にリンが含まれている場合に、その炭素によってリンの多くが還元され、銅、ニッケル、コバルト等の有価金属を含む合金中に分配されてしまい、有効に除去することができず、リン品位の高い合金となってしまう。一方で、炭素の存在量が少なすぎると、リンは有効に除去されリン品位の低い合金が得られるものの、有価金属が有効に還元されず、有価金属の回収率が低下する。なお、炭素の存在量は、酸化焙焼物に残存したリンの含有量のほか、還元剤として使用する炭素(炭素供給源)の価格と回収する有価金属の価格との差(価格差)等を考慮して増減することができる。
そこで、還元熔融工程S4における還元熔融処理では、好ましくは、処理対象の酸化焙焼物100質量%に対して7.5質量%を超え10質量%以下となる割合、より好ましくは、8.0質量%以上9.0質量%以下となる割合の量の炭素の存在下で熔融する。このようにして炭素の存在量をコントロールすることによって、有価金属を有効に還元して回収率を向上させる一方で、リンの還元を抑制するとともにリンを有効に分離して、リン品位の低い合金を得ることができる。
炭素の存在量は、上述したように、還元熔融処理において黒鉛等を添加することによって調節することができる。ここで、厳密には、酸化焙焼工程S3での酸化焙焼処理により酸化除去されなかった炭素の量も含めて調節することが好ましい。すなわち、炭素の存在量とは、還元熔融処理にて添加する炭素の量だけでなく、酸化焙焼物中に残留した炭素の量も含まれる。ただし、上述のように酸化焙焼工程S3では、特定の温度範囲の焙焼条件で酸化焙焼処理を行っていることから、電池に含まれる炭素は有効に除去され、得られる酸化焙焼物にはほとんど炭素が含まれていない。このことから、還元熔融処理における炭素量に関しては、炭素の添加量が実質的に存在量となることから、添加する炭素によって自在に調整することができる。
熔融処理における温度条件(熔融温度)としては、特に限定されないが、1320℃以上1600℃以下の範囲とすることが好ましく、1450℃以上1550℃以下の範囲とすることがより好ましい。例えば、50質量%以上のCoを含むCu合金であれば、概ね融点は1380℃以上となり、50質量%以上のNiを含むCu合金であれば、概ね融点は1320℃以上となる。したがって、1320℃以上での温度で熔融することにより、Cu、Co、Ni等の有価金属を熔融合金として回収しやすくなる。また、1450℃以上で熔融すると、熔融合金の流動性が非常に良好となり、不純物成分と有価金属との分離効率が向上してより好ましい。
一方で、熔融温度が1600℃を超える温度となると、熱エネルギーが無駄に消費され、るつぼや炉壁等の耐火物の消耗も激しくなり、生産性が低下する可能性がある。そのため、熔融温度としては1600℃以下とすることが好ましい。
還元熔融処理においては、酸化物系フラックスを用いることが好ましい。酸化物系フラックスを用いて還元熔融処理を施すことによって、アルミニウム等の酸化物を含有するスラグをフラックスに溶解させて除去することができる。
酸化物系フラックスとしては、融点が合金の融点に近く、また、アルミニウムに対する溶解度が高いものであることが好ましい。例えば、融点が1500℃以下となる酸化カルシウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化鉄等の酸化物系フラックスを用いることができる。さらに、還元熔融処理においては、フッ化カルシウム等を添加してスラグの融点を低下させることもでき、これによりエネルギーコストを低減させることができる。
なお、還元熔融処理においては、粉塵や排ガス等が発生することがあるが、従来公知の排ガス処理を施すことによって無害化することができる。
このように、還元熔融工程S4では、酸化焙焼物を炭素の存在下で還元熔融して、スラグと、有価金属を含む合金と、を得ることができるが、それらは比重により互いに分離するため、分離したスラグと合金とをそれぞれ回収することができる。
以上のように、本実施の形態に係る廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法は、廃リチウムイオン電池を600℃以上の温度で焙焼して酸化処理を行い、次いで、得られた酸化焙焼物を、炭素の存在下で還元熔融して、スラグと有価金属を含む合金とを得ることを特徴としている。この回収方法によれば、炭素量を自在にコントロールすることができ、銅、ニッケル、コバルト等の有価金属を還元して高い回収率で合金として回収することができるとともに、この一連の工程により、電池に含まれるリンを効果的に除去することができる。
このように、上述した乾式処理プロセスによってリンを除去することができるため、有価金属の回収における湿式製錬プロセスを単純化することができる。すなわち、得られた合金に対して脱リン処理を施す必要がない。また、この湿式製錬プロセスでの処理量は、乾式プロセスに投入する廃リチウムイオン電池の量に比べて質量比で1/4から1/3程度まで少なくすることができるということも、有利な点である。したがって、乾式プロセス(廃電池前処理工程S1〜還元熔融工程S4)を広義の前処理とすることで、不純物成分(リン)の少ない合金を得るとともに、続く湿式製錬プロセスでは小規模なプラントで処理量に対応できるようになるため、乾式製錬プロセスと湿式製錬プロセスとを組み合わせることが工業的に可能となる。
なお、湿式製錬プロセスにおける処理は、中和処理や溶媒抽出処理等の公知の方法により行うことができ、特に限定されない。一例を挙げれば、コバルト、ニッケル、銅からなる合金の場合、硫酸等の酸で有価金属を浸出させた後(浸出工程)、溶媒抽出等により例えば銅を抽出し(抽出工程)、残存したニッケル及びコバルトの含有溶液は、電池製造プロセスにおける正極活物質製造工程に払い出すようにする。
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
<廃電池前処理工程>
先ず、廃リチウムイオン電池として、18650型円筒型電池、車載用の角形電池の使用済み電池、及び電池製造工程で回収した不良品を用意した。そして、この廃リチウムイオン電池をまとめて塩水中に浸漬して放電させた後、水分を飛ばし、260℃の温度で大気中にて焙焼して電解液及び外装缶を分解除去し、電池内容物を得た。電池内容物の主要元素組成は、下記表1に示される通りであった。
先ず、廃リチウムイオン電池として、18650型円筒型電池、車載用の角形電池の使用済み電池、及び電池製造工程で回収した不良品を用意した。そして、この廃リチウムイオン電池をまとめて塩水中に浸漬して放電させた後、水分を飛ばし、260℃の温度で大気中にて焙焼して電解液及び外装缶を分解除去し、電池内容物を得た。電池内容物の主要元素組成は、下記表1に示される通りであった。
<粉砕工程>
次に、電池内容物を粉砕機(商品名:グッドカッター、株式会社氏家製作所製)により粉砕し、粉砕物を得た。
次に、電池内容物を粉砕機(商品名:グッドカッター、株式会社氏家製作所製)により粉砕し、粉砕物を得た。
<酸化焙焼工程>
次に、得られた粉砕物をロータリーキルンに投入し、大気中において、下記表2に示す温度(酸化焙焼温度)にて180分間の酸化焙焼を行った。この酸化焙焼処理により、酸化焙焼物を得た。なお、下記表2中における「還元熔融前(酸化焙焼後)炭素量」とは、得られた酸化焙焼物を分析したもので、酸化焙焼の処理後に残留した炭素量を意味する。ただし、実施例8においては、酸化焙焼の処理時間を450分間とした。
次に、得られた粉砕物をロータリーキルンに投入し、大気中において、下記表2に示す温度(酸化焙焼温度)にて180分間の酸化焙焼を行った。この酸化焙焼処理により、酸化焙焼物を得た。なお、下記表2中における「還元熔融前(酸化焙焼後)炭素量」とは、得られた酸化焙焼物を分析したもので、酸化焙焼の処理後に残留した炭素量を意味する。ただし、実施例8においては、酸化焙焼の処理時間を450分間とした。
<還元熔融工程>
次に、得られた酸化焙焼物に黒鉛粉(還元剤)を添加して混合し、マグネシア製るつぼに、適宜酸化物系フラックスと共に装入して、抵抗加熱により下記表2に示す温度(還元熔融温度)に加熱して60分間の還元熔融処理を行い、有価金属を合金化した。
次に、得られた酸化焙焼物に黒鉛粉(還元剤)を添加して混合し、マグネシア製るつぼに、適宜酸化物系フラックスと共に装入して、抵抗加熱により下記表2に示す温度(還元熔融温度)に加熱して60分間の還元熔融処理を行い、有価金属を合金化した。
表2の結果から分かるように、実施例1〜8で得られた合金は、電池に含まれる有価金属であるCoの回収率が90%以上であり、かつ得られた合金中のリン品位が0.1質量%未満と良好な結果が得られた。つまり、乾式処理プロセスにより、有価金属を高い回収率で得ることができたとともに、リンを有効に除去することができた。
また、実施例9では、還元熔融工程における処理にて添加した炭素量が十分ではなかったためか、実施例1〜8に比べてコバルト回収率が低い値となったものの、得られた合金は、そのコバルト含有量が少ない点以外は実施例1〜8と同様の組成であった。このことから、例えば、コバルトをほとんど含有しない廃電池を処理する場合や、還元剤に比べてコバルトが安価な場合等では、還元剤を有効に節約しながら有価金属を効果的に回収できるとともに、リンを有効に除去可能であることが分かった。
一方で、比較例1、2では、酸化焙焼工程における焙焼温度が低かったためか、得られた酸化焙焼物中に炭素が残留し、その残留した炭素によりリンが還元されてメタル(合金)中に分配されてしまい、有効にリンを除去することができなかった。
また、比較例3では、酸化焙焼処理を行うことなく、粉砕物をそのまま還元熔融処理に供したところ、残留した炭素がメタルの凝集を阻害してしまい、鋳塊として有価金属を有効に回収することができなかった。
Claims (5)
- 廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法であって、
前記廃リチウムイオン電池を600℃以上の温度で焙焼して酸化処理を行う酸化焙焼工程と、
酸化焙焼により得られた酸化焙焼物を、炭素の存在下で還元熔融して、スラグと有価金属を含む合金とを得る還元熔融工程と、を有する
有価金属の回収方法。 - 前記還元熔融工程では、酸化焙焼物を、該酸化焙焼物100質量%に対して7.5質量%を超え10質量%以下となる割合の量の炭素の存在下で熔融する
請求項1に記載の有価金属の回収方法。 - 前記有価金属が、少なくともコバルト、ニッケル、及び銅から選ばれる1種以上である
請求項1又は2に記載の有価金属の回収方法。 - 前記酸化焙焼工程では、ロータリーキルンを用いて酸化焙焼を行う
請求項1乃至3のいずれかに記載の有価金属の回収方法。 - 前記還元熔融工程において回収される前記合金のリン品位が0.1質量%未満である
請求項1乃至4のいずれかに記載の有価金属の回収方法。
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