JP7354903B2 - 廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法 - Google Patents

廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法 Download PDF

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Description

本発明は、廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法に関する。
近年、軽量で大出力の二次電池としてリチウムイオン電池が普及している。リチウムイオン電池として、負極材、正極材、セパレータ及び電解液などをアルミニウムや鉄等の金属製外装缶内に封入したものが知られている。負極材は、負極集電体(銅箔)に固着した負極活物質(黒鉛等)からなる。正極材は、正極集電体(アルミニウム箔)に固着した正極活物質(ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等)からなる。セパレータはポリプロピレンの多孔質樹脂フィルムなどである。電解液は六フッ化リン酸リチウム(LiPF)などの電解質を含む。
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。自動車のライフサイクルとともに、搭載されたリチウムイオン電池も将来的に大量に廃棄される見込みであり、使用済みの電池や製造中に生じた不良品(以下、「廃リチウムイオン電池」又は「廃電池」と称する)を資源として再利用することが望まれている。このような背景のもと、廃電池を高温炉で全量熔解する乾式製錬プロセスによって廃電池に含まれる有価金属(Ni、Co、Cu等)を回収及び再利用する技術が提案されている。
廃リチウムイオン電池は、有価金属の他に、炭素(C)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、リン(P)等の不純物元素を含む。そのため廃電池から有価金属を回収する際には、これら不純物元素を除去する必要がある。乾式製錬プロセスでは、不純物元素中の可燃成分(C等)を燃焼除去するとともに、残りの不純物元素を酸化し、さらに有価金属を還元及び合金化してスラグ化した酸化不純物から分離する手法がとられている。廃リチウムイオン電池から有価金属(Ni、Co、Cu等)を回収する乾式製錬プロセスを開示する文献として、特許文献1及び2が挙げられる。
特許文献1には、アルミニウム及び炭素を含んでいるリチウムイオンバッテリーからコバルトを回収する方法であって、Oを注入する手段を備えた浴炉を準備する工程と、スラグ形成剤としてのCaO及びリチウムイオンバッテリーを含む冶金装入原料を準備する工程と、酸素を注入するとともに冶金原料を炉へ供給し、これによって少なくとも一部のコバルトが還元され、そして金属相中に集められる工程と、湯出しによって金属相中からスラグを分離する工程を含む方法が開示されている(特許文献1の請求項1)。また特許文献2には、リチウムイオン電池の廃電池から、ニッケルとコバルトを含む有価金属を回収する方法であって、廃電池を熔融して熔融物を得る熔融工程と、廃電池を酸化処理する酸化工程と、熔融物からスラグを分離して有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、合金に含有されるリンを分離する脱リン工程と、を備える方法が開示されている(特許文献2の請求項1)。
ところで有価金属を回収する乾式製錬プロセスでは、有価金属の還元及び合金化の工程(熔融工程)における酸化還元度のコントロールが重要である。例えば、還元度を過度に弱く(酸化度を高く)調整すると、有価金属が酸化されてスラグに取り込まれてしまい、熔融合金としてこれを回収することが困難になる。そのため有価金属回収率を高めるためには、ある程度に還元度を高く調整する必要がある。
一方で、還元度を過度に高く(酸化度を低く)調整することは、有価金属回収率を却って低下させるため好ましくない。例えば、還元度が過度に高いと、不純物炭素が酸化除去されずに残留してしまい、これが合金(有価金属)とスラグ(炭素以外の不純物)の分離を妨げることがある。また還元度が過度に高いと、炭素以外の他の不純物の酸化及びスラグ化を妨ぐため、不純物が有価金属合金へ取り込まれてしまうことがある。特に不純物の中でもリン(P)は比較的還元されやすい性質を有するため、還元度を高く調整すると、リンがスラグ化されずに有価金属合金中に取り込まれてしまう。したがって有価金属を安定且つ効率的に回収するためには、熔融工程での酸化還元度を適切にコントロールすることが望まれる。
この点、特許文献1及び2には、有価金属を還元及び合金化する工程(熔融工程)で酸素を吹き込んで酸化度を調整することが提案されている。すなわち特許文献1では冶金原料を炉へ供給する際に酸素を注入している(特許文献1の請求項1)。また特許文献2には微細且つ適切な酸化度の制御が可能となる追加酸化を熔融工程で行う旨が記載されている(特許文献2の[0036]及び[0037])。
特許5818798号公報 特許5853585号公報
しかしながら本発明者らが調べたところ、有価金属を還元及び合金化する工程(熔融工程)で酸素を吹き込んで酸化度を調整する手法には改良の余地があることが分かった。すなわち酸素吹き込みのためには、ランスパイプ等のパイプを通じて熔融金属中に酸素を供給する必要がある。この手法は、不純物元素を酸化及びスラグ化する上で有効ではあるものの、パイプが消耗しやすいという問題があった。また局所的な反応が起こり、耐火物が損耗しやすいとの問題があった。
本発明者らは、このような実情に鑑みて鋭意検討を行った。そして廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、有価金属を還元及び合金化する工程(熔融工程)で酸化ニッケル(NiO)を被処理物に加えることで、酸化度の調整を簡易且つ確実に行うことができ、その結果、有価金属を安価且つ効率的に回収することができるとの知見を得た。
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、熔融工程での酸化度の調整を簡易且つ確実に行うことができ、有価金属を安価且つ効率的に回収することができる方法の提供を課題とする。
本発明は、下記(1)~(5)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
(1)廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法であって、
前記廃リチウムイオン電池を熔融して熔融物を得る熔融工程と、
前記熔融物からスラグを分離して、有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、
前記熔融工程で、酸化度微調整用酸化剤として酸化ニッケル(NiO)を廃リチウムイオン電池に投入する、方法。
(2)前記酸化ニッケルの投入量が、熔融処理物中のリン(P)と鉄(Fe)とマンガン(Mn)のモル数の合算量に対して0.50~1.01倍量である、上記(1)の方法。
(3)前記熔融工程の前に、廃リチウムイオン電池を酸化焙焼して酸化焙焼物にする酸化焙焼工程を有する、上記(1)又は(2)の方法。
(4)前記有価金属が、少なくともコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)から選ばれる1種以上である、上記(1)~(3)のいずれかの方法。
(5)前記熔融工程における加熱温度が1300℃以上1500℃以下である、上記(1)~(4)のいずれかの方法。
本発明によれば、熔融工程での酸化度の調整を簡易且つ確実に行うことができ、有価金属を安価且つ効率的に回収することができる方法が提供される。
有価金属の回収方法の流れの一例を示す工程図である。
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
≪1.有価金属の回収方法の概要≫
本実施形態の有価金属の回収方法は、廃リチウムイオン電池に含まれる有価金属を回収する方法である。廃電池から有価金属を回収する方法は、乾式製錬プロセスと、湿式製錬プロセスとに大別される。本実施形態の回収方法は、主として乾式製錬プロセスによるものである。
廃リチウムイオン電池は、使用済みリチウムイオン電池や、電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等の電池製造工程内における廃材、及びこれらの混合物を含む。廃電池には有価金属(Ni、Co、Cu等)が含まれている。廃電池に含まれる各有価金属の量は、特に限定されないが、例えば、銅(Cu)が10質量%以上含まれてよく、20質量%以上含まれてもよい。
図1は、有価金属の回収方法の流れの一例を示す工程図である。図1に示すように、本実施形態の回収方法は、廃電池の電解液及び外装缶を必要に応じて除去する前処理工程S1と、電池内容物を必要に応じて粉砕して粉砕物とする粉砕工程S2と、粉砕物を必要に応じて酸化焙焼して酸化焙焼物とする酸化焙焼工程S3と、酸化焙焼物を熔融して合金化する熔融工程S4と、熔融物からスラグを分離して有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程S5と、を有する。
≪2.回収方法の各工程について≫
以下、本実施形態の有価金属の回収方法の各工程について具体的に説明する。
[前処理工程]
本実施形態の回収方法では、必要に応じて前処理工程S1を設けてもよい。前処理工程S1は、廃リチウムイオン電池の爆発防止又は無害化、外装缶除去等を目的として行われる。使用済みリチウムイオン電池等の廃電池は密閉系であり、内部に電解液などを有している。そのままの状態で粉砕処理を行うと、爆発の恐れがあり危険であるため、何らかの方法で放電処理や電解液の除去処理を施すことが望ましい。前処理工程S1において電解液及び外装缶を除去することで、安全性を高めるとともに、有価金属(Ni、Co、Cu等)回収率を高めることができる。
前処理工程S1の具体的な方法は、特に限定されない。例えば、針状の刃先で電池を物理的に開孔して、内部の電解液を流し出して除去してもよい。また廃電池をそのまま加熱し、電解液を燃焼させて無害化してもよい。
外装缶はアルミニウム(Al)や鉄(Fe)等の金属で構成されている場合が多い。前処理工程S1を経ることで、外装缶を金属として容易に回収することができる。例えば、除去した外装缶を粉砕した後に篩振とう機を用いて篩分けすることで、外装缶に含まれるアルミニウムや鉄を回収できる。アルミニウムは、軽度の粉砕であっても容易に粉状となるので、これを効率的に回収できる。また磁力による選別で、外装缶に含まれる鉄を回収できる。
[粉砕工程]
本実施形態の回収方法では、必要に応じて粉砕工程S2を設けてもよい。粉砕工程S2では、前処理工程S1を経て得られた電池内容物を粉砕して粉砕物を得る。粉砕工程S2を設けることで、後続する工程での反応効率を高めることができ、これにより有価金属(Ni、Co、Cu等)回収率を高めることができる。粉砕工程S2の具体的な粉砕方法は限定されない。例えば、カッターミキサー等の公知の粉砕機を用いて、電池内容物を粉砕する手法が挙げられる。
[酸化焙焼工程]
本実施形態の回収方法では、必要に応じて酸化焙焼工程S3を設けてもよい。酸化焙焼工程S3では、粉砕物を酸化焙焼して酸化焙焼物を得る。酸化焙焼することで、電池内容物に含まれる炭素(C)などの熱分解成分を燃焼除去することができる。また炭素以外の不純物(P、Fe、Mn、Al等)を酸化物にすることができ、後続する工程でスラグとして有価金属から分離除去することが可能になる。
酸化焙焼工程S3では、700℃以上の温度で加熱(酸化焙焼)することが好ましい。酸化焙焼温度を700℃以上とすることで、電池に含まれる不純物を除去する効率をより高めることができる。一方で酸化焙焼温度は900℃以下が好ましい。これにより熱エネルギーコストを抑制することができ、処理効率を高めることができる。
酸化焙焼工程S3は、酸化剤の存在下で行うことが好ましい。これにより電池内容物に含まれる不純物のうち炭素(C)を効率的に燃焼除去し、またアルミニウム(Al)等の他の不純物を酸化及びスラグ化することができる。特に、炭素を燃焼除去すると、その後の熔融工程S4で生成する有価金属の熔融微粒子が、物理的な障害なく凝集及び一体化し易くなる。そのため熔融物として得られる有価金属を一体化合金として容易に回収することができる。なお廃電池を構成する主要元素は、酸素との親和力に差があり、一般的には、アルミニウム(Al)>リチウム(Li)>炭素(C)>マンガン(Mn)>リン(P)>鉄(Fe)>コバルト(Co)>ニッケル(Ni)>銅(Cu)の順に酸化され易い。
酸化剤は、炭素を燃焼除去でき且つ他の不純物を酸化できるものであれば、特に限定されない。しかしながら取り扱いが容易な、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体が好ましい。酸化剤の導入量は、例えば酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度にすることができる。
酸化焙焼工程S3では、公知の焙焼炉を使用することができる。しかしながら熔融工程S4で使用する熔融炉とは異なる炉(予備炉)を用い、その予備炉内で行うことが好ましい。焙焼炉として、その内部で粉砕物を焙焼しながら、酸素供給により酸化処理することが可能なあらゆる形式のキルンを用いることができる。一例として、従来公知のロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)を好適に用いることができる。
[熔融工程]
熔融工程S4では、廃リチウムイオン電池を熔融して、合金とスラグとからなる熔融物を得る。熔融処理により、炭素以外の不純物(P、Fe、Mn、Al等)は酸化物としてスラグに取り込まれる。一方で酸化物を形成し難い有価金属(Ni、Co、Cu等)は熔融及び一体化して熔融合金になり、後続する工程でこれを回収する。なお前処理工程S1、粉砕工程S2及び/又は酸化焙焼工程S3を設けた場合には、上記各工程を経て得た廃電池(電池内容物、粉砕物、酸化焙焼物)が熔融処理の対象物(熔融処理物)になる。
熔融工程S4では、酸化度微調整用酸化剤として酸化ニッケル(NiO)を廃リチウムイオン電池に投入する。酸化度微調整用酸化剤は、スラグ化する不純物(P、Fe、Mn等)の酸化度を微調整するために加える添加剤である。すなわち酸化焙焼工程S3を設けない場合、酸化焙焼工程S3での酸化が不十分な場合 あるいは熔融工程での還元度が過度に高すぎる場合には、不純物が金属として残ることがある。金属不純物が残ると、これが有価金属とともに熔融合金へ混入して有価金属回収率を低くする恐れがある。酸化度微調整用酸化剤を加えることで、不純物元素の酸化及びスラグ化を確実にして、熔融合金への混入を防ぐことができる。
従来は、酸化度微調整のためにランスパイプ等のパイプを用いて酸素を吹込み、これにより不純物の酸化除去を行っていた。しかしながらこの手法ではパイプの消耗によるコスト増や局所的な反応により耐火物損耗の恐れがある。またスラグやメタルの組成バランスが崩れやすいという問題がある。これに対して酸化剤として酸化ニッケル(NiO)を用いることで酸素吹込みが不要になるので、このような問題を回避することができる。
また酸化ニッケルを用いることで、酸化度の調整が容易になる。すなわち廃電池は系が複雑であるため、酸化剤には、有価物であること、形態が単純であること、及び不純物(P、Fe、Mn等)より酸化しにくいことが求められる。この点、酸化ニッケル(NiO)は入手しやすいとともに、不純物を十分に酸化させることが可能である。さらに酸化ニッケルは系が単純である。したがって不純物を酸化させる上で必要な量(当量)を適切に使用することでき、酸化度の調整を簡易且つ確実に行うことができる。なお酸化ニッケル中のニッケル(Ni)はそれ自体が有価金属であるため、酸化ニッケルを酸化剤として機能させた後に還元させ、還元後のニッケルを有価金属として回収することが可能である。
酸化ニッケル(NiO)の投入量は、必要とされる酸化度に応じて決めればよい。必要とされる酸化度は、廃電池の成分組成や酸化焙焼工程後の酸化程度に応じて異なる。そのため必要な酸化度を一義的に決めることは困難である。一例として、酸化ニッケルの投入量は、熔融処理物中のリン(P)と鉄(Fe)とマンガン(Mn)のモル数の合算量に対して0.50~1.01倍量とすることができる。
熔融工程S4は還元剤の存在下で行ってもよい。これにより廃電池を熔融する際の還元度を適切に調整することができる。還元剤として、公知のものを用いることができ、特に炭素原子を含む還元剤が好ましい。炭素原子を含む還元剤を廃電池に添加することで、有価金属の酸化物を容易に還元することができる。炭素原子を含む還元剤の例として、炭素1モルで有価金属酸化物2モルを還元することができる黒鉛が挙げられる。また炭素1モルあたり有価金属酸化物2~4モルを還元できる炭化水素や、炭素1モルあたり有価金属酸化物1モルを還元できる一酸化炭素などの炭素供給源を用いることができる。炭素存在下で還元熔融することで、有価金属を効率的に還元して、有価金属を含む合金をより効果的に得ることができる。還元手法としてアルミニウム等の金属粉を用いるテルミット法が知られているが、炭素を用いた還元は、テルミット法に比べて安全性が極めて高いという利点がある。
熔融工程S4では、廃リチウムイオン電池にフラックスを添加してもよい。フラックスとして、不純物元素を取り込んで融点の低い塩基性酸化物を形成する元素を含むものが好ましい。その中でも、安価で常温において安定なカルシウム化合物を含むものがより好ましい。リンは酸化すると酸性酸化物になるため、熔融工程S4における処理によって形成されるスラグが塩基性になるほど、リンがスラグに取り込まれ易くなる。カルシウム化合物として、例えば酸化カルシウム(CaO)や炭酸カルシウム(CaCO)を挙げることができる。
なおフラックスを添加する場合には、上述した還元剤として炭素を過剰に加えてもよい。フラックスが無い場合には、過剰の炭素添加は廃電池中のリン化合物を還元して、熔融合金にリンを混入させてしまう恐れがある。これに対して、フラックス存在下で廃電池を熔融する場合には、炭素が過剰であっても、このフラックスがリン化合物を取り込んで、熔融合金への混入を抑制する。
熔融工程S4では、カルシウム化合物以外の他のフラックス成分を加えてもよい。しかしながらフラックスの添加は、熔融後スラグにおけるカルシウム成分と珪素成分の酸化物基準での比率(質量比SiO/CaO)が0.50以下となるように行うことが好ましい。ここで前記比率は酸化カルシウムに対する二酸化珪素の質量比である。二酸化珪素をはじめとする珪素成分は、熔融工程S4の加熱で揮発し難く、またスラグ化した際に酸性酸化物となる。塩基性酸化物を形成するカルシウム化合物に対して珪素成分を少なくすることでスラグが塩基性に傾くため、スラグがリンを取り込み易くなる。すなわち酸化カルシウムに対する二酸化珪素の質量比が小さくなるようにフラックス添加を行うことで、リンのスラグへの取り込みを促し、リンの合金への混入を抑制することができる。
またフラックスの添加は、熔融後スラグにおける酸化アルミニウムに対する酸化カルシウムの酸化物基準での比率(質量比CaO/Al)が0.30以上2.00以下となるように行うことが好ましい。フラックスの添加は、質量比CaO/Alが0.40以上となるように行ってもよく、質量比CaO/Alが1.90以下となるように行ってもよい。酸化アルミニウムはスラグ融点を上昇させる成分である。そのため熔融工程S4で酸化アルミニウムが多いと、酸化アルミニウムを熔融するために十分な量のカルシウム成分が必要となる。また酸化アルミニウムは両性酸化物を形成する成分であり、酸性酸化物にも塩基性酸化物にもなる。そのため塩基性酸化物を形成するカルシウム化合物量に対する酸化アルミニウム量の比率を所定範囲内に調整することで、酸化アルミニウムの熔融及び熔融時の酸性度を適切にコントロールすることができ、その結果、リンをスラグ中に取り込み易くすることができる。
フラックスを添加する際、熔融後スラグにおける各質量比の調整は、フラックス添加量を調整することで行ってもよく、或いはフラックスに含まれる成分の濃度を調整することで行ってもよい。また熔融後スラグに含まれる酸化カルシウムが、酸化物基準で、好ましく10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは21質量%以上になるようにフラックスを添加してもよい。これにより有価金属、特にコバルト(Co)の回収率を高めることができる。他方で、経済性の観点から、熔融後スラグに含まれる酸化カルシウムが80質量%以下になるようにフラックスを添加してもよく、60質量%以下になるように添加してもよい。なお「酸化物基準」での各成分の質量は、熔融後のスラグに含まれる各成分が全て酸化物に変化したと仮定したときの、当該酸化物の質量である。
熔融処理における加熱温度(熔融温度)は特に限定されない。しかしながら熔融温度は1300℃以上が好ましく、1350℃以上がより好ましい。1300℃以上の熔融処理で、有価金属が十分に熔融し、熔融合金の流動性が十分に高くなる。そのため後述するスラグ分離工程S5で熔融合金(有価金属)とスラグ(不純物)との分離効率が向上する。一方で熔融温度が1500℃を超えると、熱エネルギーが無駄に消費されるとともに、るつぼや炉壁等の耐火物の消耗も激しくなり、生産性が低下する恐れがある。したがって熔融温度を1500℃以下にすることが好ましい。
なお熔融処理で粉塵や排ガス等が発生することがあるが、従来公知の排ガス処理を施すことで、これらを無害化することができる。
[スラグ分離工程]
スラグ分離工程S5では、熔融工程S4で得られた熔融物からスラグを分離して、有価金属を含む熔融合金を回収する。熔融物に含まれるスラグと合金は比重が異なるため、比重の違いを利用してスラグと合金のそれぞれを回収することができる。合金から有価金属を回収する処理は、特に限定されず、中和処理や溶媒抽出処理といった公知の手法で行えばよい。コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)からなる合金の場合には、硫酸等の酸で有価金属を浸出させた後(浸出工程)、溶媒抽出等により銅を抽出し(抽出工程)、残存したニッケル及びコバルトの溶液を、電池製造プロセスの正極活物質製造に用いる手法が一例として挙げられる。
以上で説明したように、本実施形態の方法では、酸化度微調整用酸化剤として酸化ニッケル(NiO)を用いることにより、従来の問題点であるランスパイプの消耗や耐火物損耗の問題を回避することができる。その上、酸化ニッケルを用いることで、簡易且つ低コストでありながら、不純物元素を確実に酸化させることができ、それゆえ有価金属を安価且つ効率的に回収することが可能になる。
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1~3及び比較例1~2
<前処理工程>
先ず、廃リチウムイオン電池として、18650型円筒型電池、車載用の角形電池の使用済み電池、及び電池製造工程で回収した不良品を用意した。そして、この廃リチウムイオン電池をまとめて塩水中に浸漬して放電させた後、水分を飛ばし、260℃の温度で大気中にて焙焼して電解液及び外装缶を分解除去し、電池内容物を得た。電池内容物の主要元素組成は、下記表1に示されるとおりであった。
Figure 0007354903000001
<粉砕工程>
得られた電池内容物を粉砕機(商品名:グッドカッター、株式会社氏家製作所製)により粉砕して、粉砕物を得た。
<酸化焙焼工程>
得られた粉砕物をロータリーキルンに投入し、大気中800℃で180分間の酸化焙焼を行い、酸化焙焼物を得た。
<熔融工程>
得られた酸化焙焼物に、フラックスとして酸化カルシウム及び二酸化珪素を添加し、また、酸化還元度の調整のために酸化度微調整用酸化剤として酸化ニッケル(NiO)を添加してこれらを混合し、アルミナ製るつぼに装入した。これを、抵抗加熱によって1400℃に加熱し、60分間の熔融処理を行い、熔融物を得た。熔融物中で有価金属は合金化していた。
なお、ICP分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製、Agilent5100SUDV)を用いて酸化焙焼物(熔融処理物)の元素分析を行い、リン(P)、鉄(Fe)及びマンガン(Mn)量を測定して、モル数の合算値を算出した。酸化ニッケルの添加量は、モル数において、実施例1では前記合算値の0.50倍量、実施例2では前記合算量の1.00倍量、実施例3では前記合算量の1.01倍量、比較例1では無添加(0倍量)とした。さらに比較例2では酸化ニッケルを添加する代わりに、酸化剤として酸素を導入した。
<スラグ分離工程>
得られた熔融物について、比重の違いを利用して熔融物からスラグを分離し、合金を回収した。
また、実施例1~3及び比較例1につき、スラグを分離した後の合金についても、ICP分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製、Agilent5100SUDV)を用いて元素分析を行い、銅成分、ニッケル成分、コバルト成分、リン成分、鉄成分及びマンガン成分の量を測定し、合金中の各成分の割合(質量%)及び合金の全質量から各成分の質量(g)を求めた。合金中の各成分の割合を表2に、各成分の質量を表3に示す。
Figure 0007354903000002
Figure 0007354903000003
表2の結果から分かるように、実施例1~3で得られた合金では、比較例1に対してリン、鉄、マンガンの品位が少なくとも半分以下程度まで減少し、また、ニッケル品位は4割~8割程度向上するという良好な結果が得られた。つまり、溶融工程において酸化還元度の調整のために酸化ニッケル(NiO)を添加することにより、不要な成分を除去し、合金中のニッケル品位を向上させることができた。
なお、溶融工程における酸化剤を酸素にした比較例2では、アルミナ製るつぼに装入した内容物が飛散したため、試験を完了することができなかった。
ここで、酸化ニッケルの添加量を順次増加させた実施例1、2、3では、得られた合金中のリン、鉄、マンガンの品位低下の効果が頭打ちとなっていることが分かった。例えば添加量が最大となっている実施例3では、合金中のリンは質量%、質量gともに0となって、さらに添加量を増加させても効果の上積みが得られておらず、鉄、マンガンにおいても略同様の結果になっている。このことから、酸化ニッケルの添加量には上限があり、不要な成分の多寡により添加量を定めることが好ましいことも分かった。
また、酸化ニッケルの添加量を順次増加させた実施例1、2、3では、得られた合金中のニッケル品位が、質量%、質量gともに増加した。その原因は添加された酸化ニッケルが上記不要な成分を酸化させスラグに分配させた後は、ニッケル単体となって合金中に分配するためであると推察される。このことにから、限定的ではあるものの、得られる合金組成をニッケル品位において調整することが可能であることも分かった。

Claims (5)

  1. 廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法であって、
    前記廃リチウムイオン電池を熔融して熔融物を得る熔融工程と、
    前記熔融物からスラグを分離して、有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、
    前記熔融工程で、酸化度微調整用酸化剤として酸化ニッケル(NiO)を廃リチウムイオン電池に投入する、方法。
  2. 前記酸化ニッケルの投入量が、熔融処理物中のリン(P)と鉄(Fe)とマンガン(Mn)のモル数の合算量に対して0.50~1.01倍量である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記熔融工程の前に、廃リチウムイオン電池を酸化焙焼して酸化焙焼物にする酸化焙焼工程を有する、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記有価金属が、少なくともコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)から選ばれる1種以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記熔融工程における加熱温度が1300℃以上1500℃以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
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