JP7400589B2 - 廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法 - Google Patents

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Description

本発明は、廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法に関する。
近年、軽量で大出力の二次電池としてリチウムイオン電池が普及している。リチウムイオン電池として、負極材、正極材、セパレータ及び電解液などをアルミニウムや鉄等の金属製外装缶内に封入したものが知られている。負極材は、負極集電体(銅箔)に固着した負極活物質(黒鉛等)からなる。正極材は、正極集電体(アルミニウム箔)に固着した正極活物質(ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等)からなる。セパレータはポリプロピレンの多孔質樹脂フィルムなどである。電解液は六フッ化リン酸リチウム(LiPF)などの電解質を含む。
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。自動車のライフサイクルとともに、搭載されたリチウムイオン電池も将来的に大量に廃棄される見込みであり、使用済みの電池や製造中に生じた不良品(以下、「廃リチウムイオン電池」又は「廃電池」と称する)を資源として再利用することが望まれている。このような背景のもと、廃電池を高温炉で全量熔解する乾式製錬プロセスによって廃電池に含まれる有価金属(Ni、Co、Cu等)を回収及び再利用する技術が提案されている。
廃リチウムイオン電池は、有価金属の他に、炭素(C)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、リン(P)等の不純物元素を含む。そのため廃電池から有価金属を回収する際には、これら不純物元素を除去する必要がある。乾式製錬プロセスでは、不純物元素中の可燃成分(C等)を燃焼除去するとともに、残りの不純物元素を酸化し、さらに有価金属を還元及び合金化してスラグ化した酸化不純物から分離する手法がとられている。廃リチウムイオン電池から有価金属(Ni、Co、Cu等)を回収する乾式製錬プロセスを開示する文献として、特許文献1及び2が挙げられる。
特許文献1には、アルミニウム及び炭素を含んでいるリチウムイオンバッテリーからコバルトを回収する方法であって、Oを注入する手段を備えた浴炉を準備する工程と、スラグ形成剤としてのCaO及びリチウムイオンバッテリーを含む冶金装入原料を準備する工程と、酸素を注入するとともに冶金原料を炉へ供給し、これによって少なくとも一部のコバルトが還元され、そして金属相中に集められる工程と、湯出しによって金属相中からスラグを分離する工程を含む方法が開示されている(特許文献1の請求項1)。また特許文献2には、リチウムイオン電池の廃電池から、ニッケルとコバルトを含む有価金属を回収する方法であって、廃電池を熔融して熔融物を得る熔融工程と、廃電池を酸化処理する酸化工程と、熔融物からスラグを分離して有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、合金に含有されるリンを分離する脱リン工程と、を備える方法が開示されている(特許文献2の請求項1)。
ところで廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する乾式製錬プロセスでは、廃電池に還元処理を施すことで、廃電池に含まれる有価金属(Ni、Co、Cu等)を合金化して回収する。一方で廃電池は、負極に使用される炭素(C)や電解質などに含まれる有機物といった炭素質成分を多量に含んでおり、その量は、通常、有価金属還元に必要な量より多い。
そのため従来は、予めロータリーキルン等の炉を用いて大気雰囲気中で廃電池を加熱処理し、余剰炭素質成分を燃焼除去する手法がとられていた。例えば特許文献2には、熔融工程前の廃電池に対して酸化処理する予備酸化工程を設ける旨、予備酸化炉としてロータリーキルン、又はトンネルキルンを好適に用いることができる旨、温度が600℃以上かつ1250℃の範囲であれば、炭素の酸化は充分に進む旨が記載されている(特許文献2の[0025]~[0034])。
特許5818798号公報 特許5853585号公報
しかしながら本発明者らが調べたところ、余剰炭素質成分を燃焼除去する手法には改良の余地があることが分かった。すなわち余剰炭素質成分を燃焼除去する際に、炭素燃焼による余剰熱が発生して、炉内温度が急上昇する。炉内温度が急上昇すると、炉内温度コントロールが困難になるとともに、場合によっては炉内原料が熔融して大きな塊になる。熔融原料の大きな塊は、排出設備の詰まり又は炉内閉塞を起こして、運転不能につながる恐れがある。また、このような問題を回避するために、原料供給量を減らす又は冷却用空気を炉内に導入するといった措置が考えられるが、前者は処理機会のロスにつながり、後者は排ガス処理設備が必要という新たな問題が生じる。
本発明者らは、このような実情を鑑みて鋭意検討を行った。そして廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、酸化焙焼工程で、炭酸カルシウム(CaCO)を廃リチウムイオン電池に投入することで、炭素燃焼による余剰熱を効果的に冷却及び利用して炉内温度の急上昇を抑制することができ、その結果、安価且つ効率的に有価金属を回収することができるとの知見を得た。
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、炭素燃焼による余剰熱を効果的に冷却及び利用して炉内温度の急上昇を抑制することができ、その結果、安価且つ効率的に有価金属を回収することができる方法の提供を課題とする。
本発明は、下記(1)~(5)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
(1)廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法であって、
前記廃リチウムイオン電池を酸化焙焼して酸化焙焼物を得る酸化焙焼工程と、
前記酸化焙焼物を熔融して熔融物を得る熔融工程と、
前記熔融物からスラグを分離して、有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、
前記酸化焙焼工程で、炭酸カルシウム(CaCO)を廃リチウムイオン電池に投入し、空気比が1~4の雰囲気下で酸化焙焼を行う、方法。
(2)前記酸化焙焼工程での炉内最高温度が880℃以下である、上記(1)の方法。
(3)前記炭酸カルシウムの投入量は、スラグにおけるカルシウム成分と珪素成分の酸化物基準での比率(質量比SiO/CaO)が0.50以下、酸化アルミニウムに対する酸化カルシウムの酸化物基準での比率(質量比CaO/Al)が0.30以上2.00以下になるように調整する、上記(1)又は(2)の方法。
(4)前記有価金属が、少なくともコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)から選ばれる1種以上である、上記(1)~(3)のいずれかの方法。
(5)前記熔融工程における加熱温度が1300℃以上1500℃以下である、上記(1)~(4)のいずれかの方法。
本発明によれば、炭素燃焼による余剰熱を効果的に冷却及び利用して炉内温度の急上昇を抑制することができ、その結果、安価且つ効率的に有価金属を回収することができる方法が提供される。
有価金属の回収方法の流れの一例を示す工程図である。
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
≪1.有価金属の回収方法の概要≫
本実施形態の有価金属の回収方法は、廃リチウムイオン電池に含まれる有価金属を回収する方法である。廃電池から有価金属を回収する方法は、乾式製錬プロセスと、湿式製錬プロセスとに大別される。本実施形態の回収方法は、主として乾式製錬プロセスによるものである。
廃リチウムイオン電池は、使用済みリチウムイオン電池や、電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等の電池製造工程内における廃材、及びこれらの混合物を含む。廃電池には有価金属(Ni、Co、Cu等)が含まれている。廃電池に含まれる各有価金属の量は、特に限定されないが、例えば、銅(Cu)が10質量%以上含まれてよく、20質量%以上含まれてもよい。
図1は、有価金属の回収方法の流れの一例を示す工程図である。図1に示すように、本実施形態の回収方法は、廃電池の電解液及び外装缶を必要に応じて除去する前処理工程S1と、電池内容物を必要に応じて粉砕して粉砕物とする粉砕工程S2と、粉砕物を酸化焙焼する酸化焙焼工程S3と、酸化焙焼物を熔融して合金化する熔融工程S4と、熔融物からスラグを分離して有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程S5と、を有する。
≪2.回収方法の各工程について≫
以下、本実施形態の有価金属の回収方法の各工程について具体的に説明する。
[前処理工程]
本実施形態の回収方法では、必要に応じて前処理工程S1を設けてもよい。前処理工程S1は、廃リチウムイオン電池の爆発防止又は無害化、外装缶除去等を目的として行われる。使用済みリチウムイオン電池等の廃電池は密閉系であり、内部に電解液などを有している。そのままの状態で粉砕処理を行うと、爆発の恐れがあり危険であるため、何らかの方法で放電処理や電解液の除去処理を施すことが望ましい。前処理工程S1において電解液及び外装缶を除去することで、安全性を高めるとともに、有価金属(Ni、Co、Cu等)回収率を高めることができる。
前処理工程S1の具体的な方法は、特に限定されない。例えば、針状の刃先で電池を物理的に開孔して、内部の電解液を流し出して除去してもよい。また廃電池をそのまま加熱し、電解液を燃焼させて無害化してもよい。
外装缶はアルミニウム(Al)や鉄(Fe)等の金属で構成されている場合が多い。前処理工程S1を経ることで、外装缶を金属として容易に回収することができる。例えば、除去した外装缶を粉砕した後に篩振とう機を用いて篩分けすることで、外装缶に含まれるアルミニウムや鉄を回収できる。アルミニウムは、軽度の粉砕であっても容易に粉状となるので、これを効率的に回収できる。また磁力による選別で、外装缶に含まれる鉄を回収できる。
[粉砕工程]
本実施形態の回収方法では、必要に応じて粉砕工程S2を設けてもよい。粉砕工程S2では、前処理工程S1を経て得られた電池内容物を粉砕して粉砕物を得る。粉砕工程S2を設けることで、後続する工程での反応効率を高めることができ、これにより有価金属(Ni、Co、Cu等)回収率を高めることができる。粉砕工程S2の具体的な粉砕方法は限定されない。例えば、カッターミキサー等の公知の粉砕機を用いて、電池内容物を粉砕する手法が挙げられる。
[酸化焙焼工程]
酸化焙焼工程S3では、廃リチウムイオン電池を酸化焙焼して酸化焙焼物を得る。酸化焙焼することで、電池内容物に含まれる炭素(C)などの熱分解成分を燃焼除去することができる。また炭素以外の不純物(P、Fe、Mn、Al等)を酸化物にすることができ、後続する工程でスラグとして有価金属から分離除去することが可能になる。なお前処理工程S1及び/又は粉砕工程S2を設けた場合には、上記各工程を経て得た廃リチウムイオン電池(電池内容物、粉砕物)が酸化焙焼の対象物になる。
酸化焙焼工程S3では、炭酸カルシウム(CaCO)を廃リチウムイオン電池に投入する。これにより炭素燃焼による余剰熱を効果的に冷却及び利用することができる。すなわち、先述したように、廃電池は多量の炭素を含んでおり、これを燃焼除去すると余剰熱が発生して炉内温度が急上昇する。そのため炉内温度コントロールが困難になるとともに、原料熔融による排出設備詰まりや炉内閉塞等の問題を引き起こす恐れがある。一方で炭酸カルシウム(CaCO)は、加熱により分解し、下記(1)式に示すように炭素ガス(CO)を放出して酸化カルシウム(CaO)になる。
Figure 0007400589000001
ここで上記(1)式に示す分解反応は吸熱反応である。そのためこの分解反応により、炭素燃焼に伴う余剰熱が吸収(冷却)され、その結果、炉内温度急上昇を抑制することができ、排出設備詰まりや炉内閉塞等の問題を回避することが可能になる。また原料供給量を減らす又は冷却用空気を導入するといった措置が不要にすることができる。
炭酸カルシウムは、これを製法により分類すると、石灰石由来の重質炭酸カルシウムと化学的析出により得られた軽質炭酸カルシウムがある。結晶構造により分類すると、三方晶系菱面体晶のカルサイト、直方晶系のアラゴナイト、六方晶系のヴァテライトがある。本実施形態では、いずれの炭酸カルシウムを用いてもよい。いずれの炭酸カルシウムであっても吸熱を伴う分解反応が起こる。
炭酸カルシウムの投入量は、余剰熱の発生量に応じて決めればよい。余剰熱は電池内容物に含まれる炭素量に応じて異なるため、投入量を一義的に決めることは困難である。しかしながら一例として挙げるのであれば、酸化カルシウムの投入量を、廃リチウムイオン電池100質量部に対して1~30質量部とすることができ、5~10質量部とすることができる。
酸化焙焼工程では、空気比が1~4の雰囲気下で酸化焙焼する。上述したように、炭酸カルシウム投入により炉内温度急上昇が抑制されるので、冷却用空気導入が不要である。したがって空気比を低く維持することが可能である。一方で空気比が過度に低いと、電池内容物中に含まれる熱分解成分(C等)の燃焼除去やその他の不純物(P、Fe、Mn、Al等)のスラグ化除去が困難になる。空気比は2~3.5がより好ましい。ただし本実施形態の方法は、冷却用空気導入を完全に行わない方法に限定される訳ではない。炭酸カルシウムを投入するとともに、炉内温度のより一層の安定化を目的として、冷却用空気を導入してもよい。なお、前記空気比が1というのは、被焙焼物に含まれる炭素全量を酸化させる空気の理論量のことで、空気比が2とは前記理論量の2倍の空気量のことをいう。例えば、空気比が3の雰囲気とは、被焙焼物中に含まれる炭素量が1モルである場合、焙焼開始から終了までに酸素分子3モルを含む空気を、焙焼炉内に供給することを指す。
酸化焙焼工程S3では、700℃以上の温度で加熱(酸化焙焼)することが好ましい。酸化焙焼温度を700℃以上とすることで、電池に含まれる不純物を除去する効率をより高めることができる。また余剰熱を吸収する炭酸カルシウムの分解反応を促進させることが可能になる。一方で酸化焙焼温度は900℃以下が好ましい。これにより熱エネルギーコストを抑制することができ、処理効率を高めることができる。特に本実施形態の方法では、炭酸カルシウム投入により炉内温度の急上昇を抑制することができる。そのため炉内最高温度を、例えば880℃以下にすることができる。
酸化焙焼工程S3は、酸化剤の存在下で行うことが好ましい。これにより電池内容物に含まれる不純物のうち炭素(C)を効率的に燃焼除去し、またアルミニウム(Al)等の他の不純物を酸化及びスラグ化することができる。特に、炭素を燃焼除去すると、その後の熔融工程S4で生成する有価金属の熔融微粒子が、物理的な障害なく凝集及び一体化し易くなる。そのため熔融物として得られる有価金属を一体化合金として容易に回収することができる。なお廃電池を構成する主要元素は、酸素との親和力に差があり、一般的には、アルミニウム(Al)>リチウム(Li)>炭素(C)>マンガン(Mn)>リン(P)>鉄(Fe)>コバルト(Co)>ニッケル(Ni)>銅(Cu)の順に酸化され易い。
酸化剤は、炭素を燃焼除去でき且つ他の不純物を酸化できるものであれば、特に限定されない。しかしながら取り扱いが容易な、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体が好ましい。酸化剤の導入量は、例えば酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度にすることができる。
酸化焙焼工程S3では、公知の焙焼炉を使用することができる。しかしながら熔融工程S4で使用する熔融炉とは異なる炉(予備炉)を設け、その予備炉内で行うことが好ましい。焙焼炉として、その内部で粉砕物を焙焼しながら、酸素供給により酸化処理することが可能なあらゆる形式のキルンを用いることができる。一例として、従来公知のロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)を好適に用いることができる。
[熔融工程]
熔融工程S4では、酸化焙焼物を熔融して、合金とスラグとからなる熔融物を得る。熔融処理により、炭素以外の不純物(P、Fe、Mn、Al等)は酸化物としてスラグに取り込まれる。一方で酸化物を形成し難い有価金属(Ni、Co、Cu等)は熔融及び一体化して熔融合金になり、後続する工程でこれを回収する。
熔融工程S4は還元剤の存在下で行ってもよい。これにより酸化焙焼物を熔融する際の還元度を適切に調整することができる。還元剤として、公知のものを用いることができ、特に炭素原子を含む還元剤が好ましい。炭素原子を含む還元剤を酸化焙焼物に添加することで、有価金属の酸化物を容易に還元することができる。炭素原子を含む還元剤の例として、炭素1モルで有価金属酸化物2モルを還元することができる黒鉛が挙げられる。また炭素1モルあたり有価金属酸化物2~4モルを還元できる炭化水素や、炭素1モルあたり有価金属酸化物1モルを還元できる一酸化炭素などの炭素供給源を用いることができる。炭素存在下で還元熔融することで、有価金属を効率的に還元して、有価金属を含む合金をより効果的に得ることができる。還元手法としてアルミニウム等の金属粉を用いるテルミット法が知られているが、炭素を用いた還元は、テルミット法に比べて安全性が極めて高いという利点がある。
ところで従来の乾式製錬プロセスによる有価金属回収では、有価金属の還元及び合金化の工程(熔融工程)で炭酸カルシウム(CaCO)などのカルシウム化合物からなるフラックスを加えている。熔融工程で加えた炭酸カルシウムは熱分解して酸化カルシウム(CaO)になる。酸化カルシウムはスラグを塩基性にする作用がある。そのため酸化カルシウムをフラックスとして機能させることで、酸性酸化物となるリンのスラグへの取り込みを促進し、有価金属合金へのリンの混入を抑制することができる。その上、酸化カルシウムはスラグの低融点化及び低粘度化を促進するため、熔融処理の低温度化に寄与する。
これに対して、本実施形態の回収方法では、酸化焙焼工程S3で投入した炭酸カルシウム(CaCO)を熔融工程S4でのフラックスとして利用することができる。すなわち酸化焙焼工程S3で炭酸カルシウムが分解し、酸化カルシウム(CaO)の形で酸化焙焼物中に残存する。そのためこの酸化カルシウムを熔融工程S4でのフラックスとして機能させることができる。この場合には、熔融工程S4で炭酸カルシウムを分解する必要がないため、熔融工程S4で加える熱エネルギーの低減が可能である。
また本実施形態の回収方法では、炭酸カルシウムをフラックスとして利用することができるため、還元剤として炭素を過剰に加えてもよい。すなわちフラックスが無い場合には、過剰の炭素添加は廃電池中のリン化合物を還元して、熔融合金にリンを混入させてしまう恐れがある。本実施形態の方法では、フラックス存在下で酸化焙焼物を熔融することで、炭素が過剰であっても、このフラックスがリン化合物を取り込むため、熔融合金への混入を抑制する。
熔融工程S4では、カルシウム化合物以外の他のフラックス成分を加えてもよい。しかしながらフラックスの添加は、熔融後スラグにおけるカルシウム成分と珪素成分の酸化物基準での比率(質量比SiO/CaO)が0.50以下となるように行うことが好ましい。ここで前記比率は酸化カルシウムに対する二酸化珪素の質量比である。二酸化珪素をはじめとする珪素成分は、熔融工程S4の加熱で揮発し難く、またスラグ化した際に酸性酸化物となる。塩基性酸化物を形成するカルシウム化合物に対して珪素成分を少なくすることでスラグが塩基性に傾くため、スラグがリンを取り込み易くなる。すなわち酸化カルシウムに対する二酸化珪素の質量比が小さくなるようにフラックス添加を行うことで、リンのスラグへの取り込みを促し、リンの合金への混入を抑制することができる。
またフラックスの添加は、熔融後スラグにおける酸化アルミニウムに対する酸化カルシウムの酸化物基準での比率(質量比CaO/Al)が0.30以上2.00以下となるように行うことが好ましい。フラックスの添加は、質量比CaO/Alが0.40以上となるように行ってもよく、質量比CaO/Alが1.90以下となるように行ってもよい。酸化アルミニウムはスラグ融点を上昇させる成分である。そのため熔融工程S4で酸化アルミニウムが多いと、酸化アルミニウムを熔融するために十分な量のカルシウム成分が必要となる。また酸化アルミニウムは両性酸化物を形成する成分であり、酸性酸化物にも塩基性酸化物にもなる。そのため塩基性酸化物を形成するカルシウム化合物量に対する酸化アルミニウム量の比率を所定範囲内に調整することで、酸化アルミニウムの熔融及び熔融時に酸性度を適切にコントロールすることができ、その結果、リンをスラグ中に取り込み易くすることができる。
フラックスを添加する際、熔融後スラグにおける各質量比の調整は、フラックス添加量を調整することで行ってもよく、或いはフラックスに含まれる成分の濃度を調整することで行ってもよい。また熔融後スラグに含まれる酸化カルシウムが、酸化物基準で、好ましく10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは21質量%以上になるようにフラックスを添加してもよい。これにより有価金属、特にコバルト(Co)の回収率を高めることができる。他方で、経済性の観点から、熔融後スラグに含まれる酸化カルシウムが80質量%以下になるようにフラックスを添加してもよく、60質量%以下になるように添加してもよい。なお「酸化物基準」での各成分の質量は、熔融後スラグに含まれる各成分が全て酸化物に変化したと仮定したときの、当該酸化物の質量である。
熔融処理における加熱温度(熔融温度)は特に限定されない。しかしながら熔融温度は1300℃以上が好ましく、1350℃以上がより好ましい。1300℃以上の熔融処理で、有価金属が十分に熔融し、熔融合金の流動性が十分に高くなる。そのため後述するスラグ分離工程S5で熔融合金(有価金属)とスラグ(不純物)との分離効率が向上する。一方で熔融温度が1500℃を超えると、熱エネルギーが無駄に消費されるとともに、るつぼや炉壁等の耐火物の消耗も激しくなり、生産性が低下する恐れがある。したがって熔融温度を1500℃以下にすることが好ましい。
なお熔融処理で粉塵や排ガス等が発生することがあるが、従来公知の排ガス処理を施すことで、これらを無害化することができる。
[スラグ分離工程]
スラグ分離工程S5では、熔融工程S4で得られた熔融物からスラグを分離して、有価金属を含む熔融合金を回収する。熔融物に含まれるスラグと合金は比重が異なるため、比重の違いを利用してスラグと合金のそれぞれを回収することができる。合金から有価金属を回収する処理は、特に限定されず、中和処理や溶媒抽出処理といった公知の方法で行えばよい。コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)からなる合金の場合には、硫酸等の酸で有価金属を浸出させた後(浸出工程)、溶媒抽出等により銅を抽出し(抽出工程)、残存したニッケル及びコバルトの溶液を、電池製造プロセスの正極活物質製造に用いる手法が一例として挙げられる。
以上で説明したように、本実施形態の方法では、酸化焙焼工程で炭酸カルシウムを廃リチウムイオン電池に投入することで、廃リチウムイオン電池に含まれる炭素の燃焼による余剰熱を効果的に冷却及び利用することができる。そのため排出設備詰まり等の問題を引き起こす炉内温度急上昇が抑制され、原料供給量を減らす又は冷却用空気を導入するといった措置をとることなく、炉内温度を容易にコントロールすることが可能になる。その上、投入した炭酸カルシウムが熔融工程でのフラックスとして利用されるため、熔融工程でのフラックス熱分解が不要であり、エネルギー省力化につながる。その結果、安価且つ効率的に有価金属を回収することが可能になる。
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(1)有価金属の回収
実施例1
<前処理工程>
先ず、廃リチウムイオン電池として、18650型円筒型電池、車載用の角形電池の使用済み電池、及び電池製造工程で回収した不良品を用意した。そして、この廃リチウムイオン電池をまとめて塩水中に浸漬して放電させた後、水分を飛ばし、260℃の温度で大気中にて焙焼して電解液及び外装缶を分解除去し、電池内容物を得た。電池内容物の主要元素組成は、表1に示されるとおりであった。
Figure 0007400589000002
<粉砕工程>
得られた電池内容物を粉砕機(商品名:グッドカッター、株式会社氏家製作所製)により粉砕して、粉砕物を得た。
<酸化焙焼工程>
得られた粉砕物と炭酸カルシウム(CaCO)とをロータリーキルンに投入し、大気中800℃で180分間の酸化焙焼を行い、酸化焙焼物を得た。この際、粉砕物100質量部に対して炭酸カルシウムの投入量を10質量部とした。またロータリーキルンには焙焼用の空気を導入し、その空気比は3であった。詳しくは、前記粉砕物100gあたり約4L/分の空気流量で焙焼した。さらに詳しく説明すれば、前記粉砕物100g中には25gの炭素が含まれており、この場合、炭素のモル数は約2.1モルである。このため、空気比が3となるように導入する空気は6.3モルの酸素分子を含み、空気中の酸素分子が20体積%であるとすれば31.5モルの空気に該当する。これは、標準状態で約700Lの空気に相当し焙焼時間が180分であるため、空気流量は3.9L/分という条件で焙焼したものである。
<熔融工程>
得られた酸化焙焼物に、フラックスとして二酸化珪素を添加し、また、酸化還元度の調整のために還元剤として黒鉛粉を添加してこれらを混合し、アルミナ製るつぼに装入した。これを、抵抗加熱によって1400℃に加熱し、60分間の熔融処理を行い、熔融物を得た。熔融物中で有価金属は合金化していた。
<スラグ分離工程>
得られた熔融物について、比重の違いを利用して熔融物からスラグを分離し、合金を回収した。
実施例2
酸化焙焼工程で投入する炭酸カルシウムの投入量を5質量部に変えた。それ以外は実施例1と同様にして有価金属の回収を行った
比較例1
酸化焙焼工程で炭酸カルシウムを投入しなかった。それ以外は実施例1と同様にして有価金属の回収を行った
比較例2
酸化焙焼工程で炭酸カルシウムを投入しなかった。またロータリーキルンに冷却用空気を導入した。それ以外は実施例1と同様にして有価金属の回収を行った。
(2)結果
実施例1、2及び比較例1、2につき、炭酸カルシウム(CaCO)投入量及び空気比とともに炉内最高温度を表2に示す。表2に示されるように、炭酸カルシウムを投入しなかった比較例1では、炉内最高温度が896℃と高くなった。また比較例2では炉内最高温度が850℃と低いものの、冷却用空気の導入が必要であり、空気比が高かった。
これに対して、炭酸カルシウムを投入した実施例1及び2では、冷却用空気の導入を行わなかったにも関わらず、炉内最高温度が846~869℃に抑えられていた。特に10質量部の炭酸カルシウムを投入した実施例1では、炉内最高温度が冷却用空気を導入した比較例2よりも低かった。
Figure 0007400589000003

Claims (4)

  1. 廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法であって、
    前記廃リチウムイオン電池を酸化焙焼して酸化焙焼物を得る酸化焙焼工程と、
    前記酸化焙焼物を熔融して熔融物を得る熔融工程と、
    前記熔融物からスラグを分離して、有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、
    前記酸化焙焼工程で、炭酸カルシウム(CaCO)を廃リチウムイオン電池に投入し、空気比が3.5の雰囲気下で酸化焙焼を行い、
    前記酸化焙焼工程での炉内最高温度が880℃以下である、方法。
  2. 前記炭酸カルシウムの投入量は、スラグにおけるカルシウム成分と珪素成分の酸化物基準での比率(質量比SiO/CaO)が0.50以下、酸化アルミニウムに対する酸化カルシウムの酸化物基準での比率(質量比CaO/Al)が0.30以上2.00以下になるように調整する、請求項1に記載の方法。
  3. 前記有価金属が、少なくともコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記熔融工程における加熱温度が1300℃以上1500℃以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
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