JP2012172175A - 有価金属回収方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】リチウムイオン電池等の廃電池を乾式処理する際に、コバルト等の有価金属の回収率を向上する方法を提供する。
【解決手段】アルミニウムと鉄を含む廃電池を焙焼して予備酸化処理を行う予備酸化工程ST20と、予備酸化工程ST20後の廃電池を熔融して熔融物を得る熔融工程ST21と、熔融物から、酸化アルミニウムを含む第1のスラグを分離して回収する第1のスラグ分離工程ST22と、第1のスラグ分離工程後の熔融物である第1の合金に酸化処理を行う第2酸化工程ST23と、第2酸化工程ST23後の第2の合金から、鉄を含む第2のスラグを分離して回収する第2のスラグ分離工程ST24とを経て、鉄とコバルトの分離性能に優れ、鉄の含有量が少ない第2の合金を得る。
【選択図】図1

Description

本発明は、例えばリチウムイオン電池等の廃電池に含有する有価金属を回収する方法に関する。
リチウムイオン電池等の、使用済み或いは工程内の不良品である電池(以下廃電池という)をリサイクルし、含有する有価金属を回収しようとする処理方法には、大きく分けて乾式法と湿式法がある。
乾式法は、破砕した廃電池を熔融処理し、コバルト、ニッケル、銅に代表される回収対象である有価金属と、鉄やアルミニウムに代表される付加価値の低いその他の金属等とを、それらの間の酸素親和力の差を利用して分離回収するものである。すなわち、鉄等の付加価値の低い元素を極力酸化してスラグとし、かつコバルト等の有価物は酸化を極力抑制して合金として回収するものである。
例えば、特許文献1には、高温の加熱炉を使用し、廃電池にフラックスを添加し、スラグの繰り返し処理をすることで有価金属であるニッケルやコバルトを80%前後回収できる方法が開示されている。
米国特許第7169206号公報
鉄とコバルトは酸素親和力が近い元素同士のために両元素の酸化反応は競争的に起こる。このため、鉄を100%酸化してすべてスラグ側に回収するともに、コバルトを100%酸化させないですべて合金側に回収することは理論的に不可能である。このため、現実的には、酸化度の調整によって鉄の酸化度を100%未満として一定割合を合金側に分配することで、コバルトの金属としての回収率を向上させている。すなわち、酸化度の調整によって合金中に一定量の鉄を存在させることでコバルトの回収率を向上させている。合金中の鉄は後の湿式工程において分離除去される不要な金属であるため、合金中の鉄量は極力少ないほうが好ましい。
上記の鉄とコバルトの競争的な酸化反応に影響する他の元素として、リチウムイオンバッテリーの正極導電材等として大量に含有されるアルミニウムがある。アルミニウムは鉄やコバルトに比べて酸素親和力が非常に高く容易に酸化アルミニウムとなる。よって、アルミニウムが共存すると、酸化時に優先的にアルミニウムが酸素を消費する結果、鉄の酸化が不充分となってスラグへの鉄の分配率が低下し、合金中の鉄量が増加するという問題がある。
また、別の問題として、スラグ中の酸化アルミニウムの含有量が相対的に多くなると、熔融温度が高く高粘度のスラグとなり、スラグの分離回収時に、合金が物理的にスラグ側へ引き摺られて移行してしまい、合金としての回収率が低下してしまうという問題もあった。
これらの原因により、特にアルミニウム共存下においては、鉄とコバルトの2元素のみに比べて、所定のコバルト回収率を得るために必要な合金中の鉄量が更に多くなってしまい、リチウムイオンバッテリーの廃電池の処理に際して、スラグへの鉄の高い分配率と、合金中へのコバルトの高い分配率を両立させることが困難なものとなっていた。
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、乾式法による廃電池からの有価金属の回収における回収率を安定的かつ顕著に高めることのできる有価金属回収方法を提供することにある。
本発明者らは、スラグ分離を2回に分けて2段階とし、初回の第1のスラグ分離工程で酸化アルミニウムを主とする第1のスラグを分離し、その後に、第2のスラグ分離工程で酸化した鉄を主とする第2のスラグを分離することによって、第2のスラグ分離工程で低溶融温度で合金との分離性の良い第2のスラグを形成でき、これによりコバルトと鉄の分離性能を飛躍的に高めることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
(1) アルミニウムと鉄を含む廃電池からの有価金属回収方法であって、
前記廃電池を熔融して熔融物を得る熔融工程と、
前記熔融工程時の前記熔融物に対して、又は、前記熔融工程前の前記廃電池に対して行われ、前記アルミニウムを酸化可能な酸化度で処理する第1酸化工程と、
前記熔融物から、酸化アルミニウムを含む第1のスラグを分離して、鉄を含む第1の合金を得る第1のスラグ分離工程と、
前記の第1の合金又はその熔融物に対して、前記鉄を酸化可能な酸化度で処理する第2酸化工程と、
前記第2酸化工程後の熔融物から、酸化鉄を含む第2のスラグを分離して、コバルトを含む第2の合金を回収する第2のスラグ分離工程と、を備える有価金属回収方法。
(2) 前記廃電池中の全鉄における、前記第1の合金中の鉄の質量割合が30%以上100%以下である(1)記載の有価金属回収方法。
(3) 前記廃電池中の全コバルトにおける、前記第2の合金中のコバルトの質量割合が75%以上であり、
前記廃電池中の全鉄における、前記第2の合金中の鉄の質量割合が7%以上30%以下である(1)又は(2)記載の有価金属回収方法。
(4) 前記第1酸化工程が前記熔融工程前の前記廃電池に対して行われ、前記廃電池を焙焼して予備酸化処理を行う予備酸化工程である(1)から(3)いずれか記載の有価金属回収方法。
(5) 前記予備酸化工程を600℃以上1250℃以下で行う(4)記載の有価金属回収方法。
(6) 前記第2のスラグ分離工程を1350℃以上1550℃以下で行う(1)から(5)いずれか記載の有価金属回収方法。
(7) 前記廃電池がリチウムイオン電池である(1)から(6)いずれか記載の有価金属回収方法。
本発明によれば、アルミニウムと鉄を含む廃電池からコバルト等の有価金属を回収する方法において、乾式工程に先行して酸化処理を行う予備酸化工程を設け、更に乾式工程において、熔融物から主として酸化アルミニウムを分離する第1のスラグ分離工程と、第1のスラグ分離工程において酸化アルミニウムを分離除去した第1の合金から、更に主として鉄を分離除去する第2のスラグ分離工程を設けた。このように2段階のスラグ分離工程を経ることにより、コバルト等の有価金属と鉄等のスラグとの分離性能を顕著に高めることができ、安定的に高い回収率で有価金属を回収することが可能となる。
本発明の一例である、廃電池からの有価金属回収方法を示すフローチャートである。 本発明の予備酸化工程における酸化処理に用いるキルンの使用状態を示す断面模式図である。 実施例及び比較例における、合金中への金属鉄と金属コバルトへの分配率を示すグラフである。
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、廃電池からの有価金属回収方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態においては、廃電池がリチウムイオン電池である場合について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<全体プロセス>
図1に示すように、この有価金属回収方法は、廃電池前処理工程ST10と、予備酸化工程ST20と、乾式工程S20と、湿式工程S30とからなる。このように、本実施例における有価金属回収方法は乾式工程S20において合金を得て、その後に湿式工程S30によって有価金属元素を分離回収するトータルプロセスである。なお、本発明における廃電池とは、使用済み電池のみならず、工程内の不良品等も含む意味である。また、処理対象に廃電池を含んでいればよく、廃電池以外のその他の金属や樹脂等を適宜加えることを排除するものではない。その場合にはその他の金属や樹脂を含めて本発明の廃電池である。
<廃電池前処理工程ST10>
廃電池前処理工程ST10は、廃電池の爆発防止を目的として行われる。すなわち、廃電池は密閉系であり内部に電解液等を有しているため、このまま乾式の熔融処理を行うと爆発の恐れがあり危険である。このため、何らかの方法でガス抜きのための開孔処理を施す必要がある。これが廃電池前処理工程ST10を行う目的である。
廃電池前処理工程ST10の具体的な方法は特に限定されないが、例えば針状の刃先で廃電池に物理的に開孔すればよい。なお、本発明においては後の乾式処理において熔融工程を経るために、個々の部材の分離等は不要である。
<予備酸化工程ST20(第1酸化工程)>
この予備酸化工程ST20は、本発明における第1酸化工程の好ましい工程であり、本発明における、「前記熔融工程時の前記熔融物に対して行われ、前記アルミニウムを酸化可能な酸化度で処理する第1酸化工程」に該当する。
予備酸化工程ST20においては、廃電池前処理工程ST10で得られた前処理済廃電池を600℃〜1250℃の温度で焙焼しながら酸素を供給することにより予備酸化処理を行う。従来の有価金属回収方法においては、乾式工程における熔融工程内で酸化処理を行っていたが、本発明の有価金属回収方法においては、第1酸化工程として、熔融工程ST21の前に予備酸化工程ST20を設けて、当該工程内において予備酸化処理を行うことにより、より好ましい態様での実施が可能である。
この予備酸化処理は、熔融工程ST21を行う前の段階に行うものであり、熔融工程ST21を行う溶融炉とは別途に予備酸化炉を設けて当該予備酸化炉内において行う。この予備酸化炉としては、キルンを用いることができる。一例として、従来よりセメント製造等に用いられているロータリーキルンを好適に用いることができるため、以下、ロータリーキルンをキルンの代表例として本発明の詳細を説明するが、本発明におけるキルンとはこれに限らない。例えば、トンネルキルン(ハースファーネス)等、予備酸化工程ST20において廃電池を焙焼しながら酸素を供給することにより、その内部で酸化処理を行うことが可能であるあらゆる形式のキルンを含むものである。
本実施形態においては、予備酸化工程ST20は、図2に示すキルン1を予備酸化炉として用いることにより行う。図2に示す通り、キルン本体10は厚さ15〜30mmの炭素鋼等からなる筒状の回転式の窯である。内部は耐火煉瓦等で内張りされている。キルン本体10の外側にはキルン本体に回転力を伝える駆動ギヤ11が備えられている。また、キルン本体内部には、内部を熱するための熱風を送風するバーナーパイプ12が備えられている。これらを備えたキルン本体10は、使用時には水平面に対して3〜4%の傾斜をもつように設置される。
キルン1を用いた予備酸化工程ST20においては、まず、キルン本体10の内部の温度をバーナーパイプ12より送風する熱風により600〜1250℃となるように加熱する。次に駆動ギヤ11により、キルン本体10をR方向に回転させながら、搬入口13よりA方向へと廃電池を搬入する。廃電池は、キルン本体10の傾斜に沿って攪拌、焙焼されながらキルン本体10内を排出口14の方向に向かって移動してゆく。このとき、キルン本体10内の温度が600℃未満であるとアルミニウムや炭素の酸化が充分に進まず好ましくない。上記温度が600℃以上から1250℃の範囲であれば、アルミニウムや炭素の酸化は充分に進む一方で、鉄の酸化は相対的に低い酸化度に止まるため、後の第1のスラグ分離工程において酸化アルミニウムのみを好適にスラグ分離できる。また、上記温度が、1250℃を超えると、主に廃電池の外部シェルに用いられている鉄等の一部がキルン本体10の内壁に付着してしまい、円滑な操業の妨げになったり、或いはキルン自体の劣化につながる場合があり好ましくない。
上述した通り、600〜1250℃の温度で焙焼されながらキルン本体10内を移動してゆく廃電池の酸化度を調整するために、キルン本体10内に適量の酸化剤(例えば空気等)を導入する。例えばリチウムイオン電池の正極材料には、アルミ箔が使用されている。また、負極材料としては、カーボンが用いられている。更に電池の外部シェルは鉄製或いはアルミニウム製であり、集合電池の外部パッケージにはプラスチックが用いられている。これらの材質は基本的に還元剤として作用する。このためこれらの材料をガスやスラグ化するトータルの反応は酸化反応になる。そのため、キルン本体10内に酸素導入が必要となる。予備酸化工程ST20において空気を導入しているのはこのためである。
酸化剤は特に限定されないが、取り扱いが容易な点から、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体等が好ましく用いられる。これらは予備酸化工程ST20においてキルン本体10内に直接送り込まれる。なお、ここでの酸化剤の導入量については、酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度が目安となる。
上記過程を経て酸化された廃電池は排出口14からB方向に排出される。酸化処理の過程で発生した排ガスはC方向に排出される。
本発明における予備酸化工程ST20は、熔融工程ST21内で酸化処理を行う場合と比べて、より低温での酸化処理であるため、反応速度が比較的緩やかであり、また、筒状のキルン本体10の空間内に所定量の酸素を直接導入することにより、キルン本体10内を移動していく廃電池を酸化させる方法であるため、酸素量、酸化時間及び温度の調整等により、酸化の制御が容易である。よって、酸化のばらつきを抑えて、より厳密な酸化度の調整を行うことが可能である。
予備酸化工程ST20における酸化度の調整は以下のように行う。廃電池の材料を構成する主要元素は、酸素との親和力の差により一般的に、アルミニウム>リチウム>炭素>マンガン>リン>鉄>コバルト>ニッケル>銅、の順に酸化されていく。すなわちアルミニウムが最も酸化され易く、銅が最も酸化されにくい。予備酸化工程ST20においては、まずアルミニウムの全量が酸化するまで酸化を促進させる。このとき、更に、鉄の一部が酸化されるまで酸化を促進させてもよいが、コバルトが酸化されてスラグ側へ回収されてしまわない程度の酸化度に止めることが必要である。これが、本発明における、「アルミニウムを酸化可能な酸化度で処理する」の意味である。前述した通り、予備酸化工程ST20においては、酸素量、酸化時間及び温度の調整等により、そのような厳密な酸化度の調整が可能となっている。このように酸化度を調整することによって、第1のスラグ分離工程ST22において酸化アルミニウムのほぼ全量を第1のスラグとして分離することができる。
なお、本発明における第1酸化工程は上記の焙焼による予備酸化工程には限定されず、後述の第2酸化工程ST23と同様に、熔融工程ST21において、熔融物内にランスを挿入して空気等の酸化剤を吹き込むバブリングによって行ってもよい。これが、本発明における、「前記熔融工程前の前記廃電池に対して行われ、前記アルミニウムを酸化可能な酸化度で処理する第1酸化工程」に該当する。
<熔融工程ST21>
乾式工程S20においては、予備酸化工程ST20で予備酸化処理の行われた廃電池を1450℃以上、好ましくは1650℃以下の温度で熔融して廃電池の熔融物を得る熔融工程ST21をまず行う。熔融工程ST21は従来公知の電気炉等で行うことができる。熔融工程ST21によって、生成される熔融物には、アルミニウム等の酸化物を含有する第1のスラグと、有価金属たるニッケル、コバルト、銅と、有価金属ではない鉄を含む第1の合金とが含まれる。予備酸化工程ST20を行った場合、ここでは酸化処理は行わない。
熔融工程ST21では、廃電池の熔融物にSiO(二酸化珪素)及びCaO(石灰)等をフラックスとして添加する。ここでのSiO/CaOの比は好ましくは0.5から1.5、より好ましく0.8から1.1の間である。これにより、後述する第1のスラグ分離工程ST22で分離される第1のスラグの熔融温度を低下させることができる。このフラックスの添加は、必ずしも熔融工程ST21において行う必要はなく、熔融工程ST21に先行する予備酸化工程ST20において行っても同様の効果を得ることが可能である。なお、熔融工程ST21における粉塵や排ガス等は、従来公知の排ガス処理において無害化処理が施される。
<第1のスラグ分離工程ST22>
第1のスラグ分離工程ST22においては、第1のスラグと第1の合金を比重差を利用してそれぞれ分離回収する。第1のスラグに主として含有される熔融温度が高く高粘度の酸化アルミニウムは、ここで炉外へ排出される。後述するように、第1の合金には炉内において引き続き、第2酸化工程ST23、第2のスラグ分離工程ST24等の工程が施される。
経験的に酸化アルミニウム(Al)を多く含むスラグは熔融温度が高く、高粘度のスラグとなることが知られている。このようなスラグを効率良く分離回収するためには、その熔融温度付近まで温度を上げて充分にスラグの粘度を下げる必要があるが、熔融温度を高くすると、エネルギーコストの増大や耐火物の熔損速度が上昇すること等により、操業コストが大きく増加することになり好ましくない。特に1650℃を超えると通常の電気炉を用いた操業も困難になり、特許文献1に記載されているようなプラズマ処理等の併用も必要になり、更に耐火物の耐久性も低下するとともに、炉内温度測定のための熱電対の損傷も生じる。従来公知の電気炉で熔融工程ST21を行う観点と生成する合金の熔融温度との観点からもスラグの熔融温度は1450℃以上1650℃以下であることが好ましい。本発明の有価金属回収方法においては、第1のスラグ中には酸化アルミニウムが多く含まれるが、熔融工程ST21において所定比率のフラックスを添加しているため、第1のスラグの熔融温度は低下して充分に低粘度化している。このため、上記温度で熔融工程ST21を行っても第1のスラグと第1の合金との分離を問題なく行うことができる。
アルミニウムと鉄について、第1の合金中と第1のスラグへのそれぞれの分配率は、第1のスラグ分離工程ST22でアルミニウムを酸化アルミニウムとしてスラグ側へ除去した結果、第1の合金中へのアルミニウムの分配率は極めて低くなっている。具体的には、廃電池のアルミニウム全量に対する質量比で0質量%以上0.1質量%以下であり、ほぼ全量に近いアルミニウムが第1のスラグへ分配される。これによって、後の第2のスラグ分離工程における、鉄とコバルトの分離性能を大幅に向上できる点に本発明の優れた点がある。なお、このときの第1の合金中の鉄の含量(分配率)は高く、好ましくは廃電池の鉄全量に対する質量比で30%以上100%以下である。鉄の分配率が30%未満であると、鉄が過剰にスラグ側に分配され、コバルトも第1のスラグへ一部分配されてしまい、コバルトの回収率が低下するので好ましくない。
<第2酸化工程ST23>
続いて第2酸化工程ST23において、第1の合金に対して酸化処理を行う。この酸化処理は、鉄系素材のランスというストロー状の円筒を熔融物内に挿入して酸素を吹き付ける酸素バブリングによって行うことができる。なお、ここでの熔融物は、第1のスラグ分離工程ST22で得られた第1の合金の熔融物そのものであってもよく、一旦冷却した後に再度熔融した熔融物であってもよい。この第2酸化工程ST23によって、鉄等の酸化物である第2のスラグと、有価金属たるニッケル、コバルト、銅を含む第2の合金とが生成される。
ここでも熔融工程ST21と同様にSiO(二酸化珪素)及びCaO(石灰)等をフラックスとして添加するが、ここでのSiO/CaOの比は特に限定されない。例えば比較的コストの低い二酸化珪素を多く配合して、上記配合比を2から6の間で実施することができる。熔融工程ST21と比が異なるのは、第1の合金には、上述の通り、スラグを熔融温度が高く高粘度化する主因である酸化アルミニウムが全く含有されていないか、含有されているにしてもごく微量であるためである。
<第2のスラグ分離工程ST24>
第2のスラグ分離工程ST24において、酸化された第1の合金から、第2のスラグと第2の合金を、その比重差を利用して、それぞれ分離回収する。第2のスラグは炉外へ排出され、第2の合金には引き続き脱リン工程ST25、合金ショット化工程ST26が施される。
ここで、酸化された第1の合金の熔融温度は1350℃程度である。本発明においては、第1のスラグ分離工程ST22において、スラグの熔融温度を上昇させ、また粘性を高くする酸化アルミニウムが分離除去されていることにより、第2のスラグ分離工程ST24においては、第2のスラグの流動化向上を助け、第2のスラグの熔融温度を、第1の合金の熔融温度よりも低い1250℃程度に下げることができる。その結果、粘度低下によって第2の合金との物理的な分離性能も向上させることで有価金属の回収率を向上させることができる。このため、第2のスラグ分離工程ST24における熔融物の温度は1350℃から1550℃程度で充分である。
第1のスラグ分離工程ST22でアルミニウムを酸化アルミニウムとしてスラグ側へ除去した。この結果、アルミニウムと鉄について、第2の合金中と、第1及び第2のスラグへのそれぞれの分配率は、第2の合金中への鉄の分配率が低くても、コバルトの分配率を高くすることができる。すなわち本発明では第2の合金中における鉄とコバルトの分離性能が著しく向上する。これが本発明の優れた効果である。
具体的には、廃電池中の全鉄質量に対する、第2の合金中への鉄の分配率(質量割合)は鉄の質量割合が7%以上であれば、同じく、廃電池中の全コバルト質量に対する、第2の合金中へのコバルトの分配率(質量割合)は75%以上となる。このことは、7%程度の低い鉄分配率であっても、コバルトの回収率を75%以上にできることを意味し、従来のようにスラグ分離段階で酸化アルミニウムが共存していた場合に比べて、合金中への鉄の分配率を大幅に低下させてもコバルトの回収率を向上できるという画期的な方法である。なお、この点については後述する実施例において詳細に説明する。
<脱リン工程ST25>
第2のスラグ分離工程ST24に続いて、第2の合金に脱リン工程ST25を行い、第2の合金からリンを除去する。リチウムイオン電池においては、有機溶剤に炭酸エチレンや炭酸ジエチル等、リチウム塩としてLiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)等が電解質として使用される。このLiPF中のリンは比較的酸化され易い性質を有するものの、鉄、コバルト、ニッケル等鉄族元素との親和力も比較的高い性質がある。合金中のリンは、乾式処理で得た合金から各元素を金属として回収する後工程の湿式工程での除去が難しく、不純物として処理系内に蓄積すると操業の継続ができなくなる。脱リン工程ST25において予めリンを除去することにより、これを防ぐことができる。
具体的には、反応によりCaOを生じる石灰等を添加し、空気等の酸素含有ガスを吹き込むことで合金中のリンを酸化してCaO中に吸収することができる。脱リン工程ST25を経た合金は、廃電池がリチウムイオン電池の場合、正極材物質由来のコバルト、ニッケル、電解質由来のリチウム、負極材導電物質由来の銅等が成分となる。
<合金ショット化工程ST26>
乾式工程S20の最後に、合金ショット化工程ST26を行う。この工程において、脱リン工程ST25を経た合金を冷却する際に、粒状物(ショット化合金又は単にショットともいう)とする。
後述するように、乾式工程S20を広義の前処理とすることで不純物の少ない合金を得るとともに湿式工程S30に投入する処理量も大幅に減らすことで、乾式工程S20と湿式工程S30とを組み合わせることが可能である。しかしながら、湿式工程S30は基本的に大量処理に向かない複雑なプロセスであるので、乾式工程S20と組み合わせるためには湿式工程S30の処理時間、なかでも溶解工程ST31を短時間で行う必要がある。合金ショット化工程ST26により、合金を粒状物化することにより、溶解時間を短縮することができる。
ここで、粒状物とは、表面積で言えば平均表面積が1mmから300mmであることが好ましく、平均重量で言えば0.4mgから2.2gの範囲であることが好ましい。この範囲の下限未満であると、粒子が細かすぎて取り扱いが困難になること、更に反応が早すぎて過度の発熱により一度に溶解することができ難くなるという問題が生じるので好ましくなく、この範囲の上限を超えると、後の湿式工程での溶解速度が低下するので好ましくない。合金をショット化して粒状化する方法は、従来公知の流水中への熔融金属の流入による急冷という方法を用いることができる。
<湿式工程S30>
廃電池からの有価金属回収プロセスは、特許文献1のように合金として回収したままでは意味がなく、有価金属元素として回収する必要がある。廃電池を乾式工程で予め処理することによって、上記のような有価金属のみの合金とすることで、後の湿式工程を単純化することができる。このとき、この湿式での処理量は投入廃電池の量にくらべて質量比で1/4から1/3程度まで少なくなっていることも湿式工程との組み合わせを有利にする。
このように、乾式工程S20を広義の前処理とすることで不純物の少ない合金を得るとともに処理量も大幅に減らすことで、乾式工程S20と湿式工程S30を組み合わせることが工業的に可能である。
湿式工程S30は従来公知の方法を用いることができ、特に限定されない。一例を挙げれば、廃電池がリチウムイオン電池の場合の、コバルト、ニッケル、銅、鉄からなる合金の場合、酸溶解(溶解工程ST31)の後、脱鉄、銅分離回収、ニッケル/コバルト分離、ニッケル回収及び、コバルト回収という手順で元素分離工程ST32を経ることにより有価金属元素を回収することができる。
廃電池の種類は特に限定されないが、コバルトやリチウムという稀少金属が回収でき、その使用用途も自動車用電池等に拡大されており、大規模な回収工程が必要となるリチウムイオン電池が本発明の処理対象として好ましく例示できる。
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
まず、実施例について説明する。実施例においては、図1に示すように、熔融工程に先行して予備酸化工程を設けて予備酸化処理(第1酸化工程)を行い、その後に熔融工程を設けて熔融処理を行い、その後第1のスラグ分離、酸化処理、及び第2のスラグ分離を行った。
予備酸化工程では、約23gの廃リチウムイオン電池(以下「試料」という)を、アルミナ製るつぼ内において、窒素雰囲気による昇温により、900℃〜1250℃の温度で30分間保持しながら、10Lの酸素をアルミナチューブを通じて吹きこむことにより、アルミニウムの全量が酸化するまで酸化を促進させ、予備酸化処理を行った。
続いて、熔融工程では、予備酸化処理により酸化したアルミナ製るつぼ内の試料に、SiO/CaO比が1の混合フラックス7.2gを添加した後、試料を窒素雰囲気による昇温により1450℃から1500℃の範囲内の温度で熔融し、1時間保持した。
保持後、熔融された試料から、第1のスラグと第1の合金とを、比重差を利用してそれぞれ分離回収することにより、第1のスラグ分離工程を行った。
続いて、SiO/CaO比が4の混合フラックス7.2gを添加した後、第1のスラグ分離工程を経た第1の合金に対して酸化処理を行った(第2酸化工程)。この酸化処理は、アルミナ製素材のランスというストロー状の円筒を熔融物内に挿入して、10Lの酸素を吹き付ける酸素バブリングによって行ない、1450℃で1時間保持することにより熔融処理を行なった。
酸化処理を経た合金を炉冷し、冷却後にスラグと合金を分離回収して、第2のスラグ分離を行った。第2のスラグ分離を経た第2の合金についてICP法により金属鉄と金属コバルトの分配率を分析した。
次に比較例について説明する。比較例においては、実施例と異なる点として、予備酸化処理を行わなかった。予備酸化工程を経ずに、まず熔融工程を行い、引き続き、酸化処理、スラグ分離を行った。
熔融工程では、窒素雰囲気の電気炉内に設置したアルミナ製るつぼ内において、約23gの廃リチウムイオン電池を、SiO/CaO比が1の混合フラックス7.3gとともに1450℃から1500℃の範囲内で30分保持した。保持後、アルミナチューブを通じて、20Lの酸素を吹き込むことにより、試料を酸化した。酸化後、30分保持してから炉冷し、冷却後にスラグと合金を分離回収して、それぞれICP法により分析した。
表1及び図3は、実施例、比較例の結果における合金中(実施例では第2の合金中)への金属鉄と金属コバルトの分配率を示したものである。ここで分配率とは、投入した廃電池における特定の金属元素の全質量に対する、合金中(実施例では第2の合金中)に存在する金属元素量の質量比であり、上記のICP法によって測定されたものである。なお、図3中の実線及び波線は、実施例、比較例それぞれにおける各金属の分配率についての理論値を示したものである。
Figure 2012172175
表1、図3から解かるように、実施例においては、合金中への鉄の分配率、すなわち、鉄元素換算の全鉄量に対する、合金中の金属鉄の質量割合を7%以上とした際は、金属コバルトの回収率を75%以上、金属鉄の質量割合を18%以上とした際は、金属コバルトの回収率を90%以上とすることが可能である。これは、理論的に得られる理論限界に近い理想的な回収率であり、特に金属鉄の質量割合が40%以下の範囲であるときに、比較例に比べて大幅に鉄とコバルトとの分離性能が顕著に向上していることが理解できる。
ST10 廃電池前処理工程
ST20 予備酸化工程
S20 乾式工程
ST21 熔融工程
ST22 第1のスラグ分離工程
ST23 第2酸化工程
ST24 第2のスラグ分離工程
ST25 脱リン工程
ST26 合金ショット化工程
S30 湿式工程
ST31 溶解工程
ST32 元素分離工程
1 キルン
10 キルン本体
11 駆動ギヤ
12 バーナーパイプ
13 搬入口
14 排出口

Claims (7)

  1. アルミニウムと鉄を含む廃電池からの有価金属回収方法であって、
    前記廃電池を熔融して熔融物を得る熔融工程と、
    前記熔融工程時の前記熔融物に対して、又は、前記熔融工程前の前記廃電池に対して行われ、前記アルミニウムを酸化可能な酸化度で処理する第1酸化工程と、
    前記熔融物から、酸化アルミニウムを含む第1のスラグを分離して、鉄を含む第1の合金を得る第1のスラグ分離工程と、
    前記の第1の合金又はその熔融物に対して、前記鉄を酸化可能な酸化度で処理する第2酸化工程と、
    前記第2酸化工程後の熔融物から、酸化鉄を含む第2のスラグを分離して、コバルトを含む第2の合金を回収する第2のスラグ分離工程と、を備える有価金属回収方法。
  2. 前記廃電池中の全鉄における、前記第1の合金中の鉄の質量割合が30%以上100%以下である請求項1記載の有価金属回収方法。
  3. 前記廃電池中の全コバルトにおける、前記第2の合金中のコバルトの質量割合が75%以上であり、
    前記廃電池中の全鉄における、前記第2の合金中の鉄の質量割合が7%以上30%以下である請求項1又は2記載の有価金属回収方法。
  4. 前記第1酸化工程が前記熔融工程前の前記廃電池に対して行われ、前記廃電池を焙焼して予備酸化処理を行う予備酸化工程である請求項1から3いずれか記載の有価金属回収方法。
  5. 前記予備酸化工程を600℃以上1250℃以下で行う請求項4記載の有価金属回収方法。
  6. 前記第2のスラグ分離工程を1350℃以上1550℃以下で行う請求項1から5いずれか記載の有価金属回収方法。
  7. 前記廃電池がリチウムイオン電池である請求項1から6いずれか記載の有価金属回収方法。
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