JP2018093858A - 焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法および焙煎コーヒー豆からの香気回収装置 - Google Patents

焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法および焙煎コーヒー豆からの香気回収装置 Download PDF

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Abstract

【課題】一般的な粉砕装置を利用して、大きな設備投資や装置に対する負荷などの負担なく実用化できる、焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気を感じさせる、焙煎コーヒー豆からの香料組成物を製造する方法の提供。【解決手段】焙煎コーヒー豆を粉砕して微粉および薄片を含む焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得る工程を含み、焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気化合物ならびに微粉および薄片を含むガスから微粉および薄片を除去する工程と、微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気して香気化合物を吸着剤に吸着させる吸着工程と、吸着剤から香気化合物を回収して、香気化合物を含む香料組成物を調製する回収工程と、を含み、吸着剤は香気化合物吸着装置内の吸着剤収容部に収容され、吸着剤収容部はガスの通気方向の両端に網状蓋を有する、焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。【選択図】図1

Description

本発明は、焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法および焙煎コーヒー豆からの香気回収装置に関する。
香料組成物は、食品香料(フレーバー)や香粧品香料(フレグランス)などとして用いられる。飲食品用の香料組成物は天然香料、合成香料および/またはそれらを組合せた調合香料から調製できるが、最近では消費者の天然志向に伴い、フレーバーも、天然香料や天然感のあるものが望まれる傾向にあり、様々な製造方法が検討されている。
コーヒーフレーバーにおいても、現在様々な製造方法が採用されている。例えば、焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法として、様々な方法が知られている(特許文献1参照)。
具体的には、例えば、焙煎コーヒー粉砕物に水蒸気及び/又は不活性ガスを通じて放出させた揮発性コーヒーフレーバー成分含有気相をカラメルなどの溶液に補足するコーヒーフレーバーの製法、焙煎コーヒーを水蒸気蒸留して得られる凝縮水を分画する方法、果汁あるいはコーヒーを蒸留して得た香気成分含有蒸留液を、逆相分配型吸着剤と接触させた後、溶剤で抽出する方法、水蒸気蒸留法によって得られたコーヒーフレーバー原料を水層に含み、圧搾採油または超臨界流体等によって得られたコーヒーオイルを油相とする芳香成分と呈味成分を併せ持つコーヒーフレーバーの製剤化方法、茶葉を水蒸気蒸留して得られる留出液を茶葉と接触させ、加熱蒸留臭を除去する茶葉フレーバーの製法などが特許文献1に記載されている。
特許文献1によれば、水蒸気蒸留法は、原料に水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて留出してくる香気成分を水蒸気とともに凝縮させる方法であり、原料の種類等に応じて、加圧水蒸気蒸留、常圧水蒸気蒸留、減圧水蒸気蒸留のいずれかの蒸留手段を採用することができると記載されている。
また、コーヒーフレーバーの中でも、特に挽きたての香りを付与できるフレーバーが長年求められている。そこで、焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気を用いる方法が提案されている(特許文献2〜6)。
特開2003−33137号公報 特許3719995号 特許4182471号 特許4308724号 特許4745591号 特開2003−144053号公報
特許文献2〜5に記載の方法は、焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気成分を含むガス(粉砕ガス)を、そのまま水やコーヒーオイルなどの溶媒に導入して香料組成物を製造していた。
また、特許文献6に記載の方法は、焙煎コーヒー豆の粉砕ガスを、加圧圧縮すると共に、アルミニウム製容器に保存していた。
しかしながら、特許文献2〜6に記載の方法で得られた香料組成物は、香気化合物を含むガスを溶媒に通気させるために捕集効率が高くなく、焙煎コーヒー豆を挽いたときの香りを十分には再現できない。
また、特許文献2〜6に記載の方法は、不活性ガスの使用、密閉した粉砕機、溶媒層への通路、溶媒層、恒温槽など、特別な装置を利用するため設備投資が大きくなり、簡単に実用化できるものではなかった。
本発明が解決しようとする課題は、一般的な粉砕装置を利用して、大きな設備投資や装置に対する負荷などの負担なく実用化できる、焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気、すなわち焙煎コーヒー豆を挽いたときの香りを感じさせる、焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法を提供することである。
また、本発明が解決しようとする課題は、一般的な粉砕装置を利用して、大きな追加設備投資や装置に対する負荷などの負担なく実用化できる、焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気を感じさせる香料組成物を製造できる、焙煎コーヒー豆からの香気回収装置を提供することである。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特許文献1〜6に記載の方法とは全く異なる方法として、焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物と、チャフの薄片または粉砕物、コーヒー豆の過度に微細な粉砕物、およびその他夾雑物由来の薄片や粉砕物(以下、本明細書では総じて「微粉および薄片」と称する)と、を含むガスから当該微粉および薄片を除去した後に、焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気化合物を吸着剤で吸着し、回収することにより、香気化合物を効率よく回収し、かつ一般的な粉砕装置(例えば、従来の粉砕装置)に対して負荷や更なる大きな設備投資を強いることなく、焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気を感じさせる天然香料組成物を効率よく製造できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
上記課題を解決するための具体的な手段である本発明およびその好ましい態様は以下のとおりである。
[1] 焙煎コーヒー豆を粉砕して、微粉および薄片を含む焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得る工程を含み、
前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物および前記微粉および薄片を含むガスから前記微粉および薄片を除去する工程と、
前記微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気して、前記香気化合物を前記吸着剤に吸着させる吸着工程と、
前記吸着剤から前記香気化合物を回収して、前記香気化合物を含む香料組成物を調製する回収工程と、
を含み、
前記吸着剤は、香気化合物吸着装置内の吸着剤収容部に収容され、該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有する、
焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
[2] 前記焙煎コーヒー豆粗粉砕物から前記微粉および薄片を除去する工程を、前記微粉および薄片をガスから除去する工程よりも前に行う、[1]に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
[3] 前記微粉および薄片を除去する工程を微粉薄片除去装置で行う、[1]または[2]に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
[4] 気流発生装置を用いて前記ガスの流れを発生させる、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
[5] 前記微粉および薄片が除去されたガスの流路に、該流路から分岐し、かつ前記香気化合物吸着装置と連通する導入路を設け、
前記導入路および前記吸着剤に前記微粉および薄片が除去されたガスの一部のみを通気して前記香気化合物を回収する、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
[6] 前記吸着剤が、スチレンジビニルベンゼン共重合体、エチルビニルベンゼンとジビニルベンゼンの共重合体、2,6−ジフェニル−9−フェニルオキサイドの重合体、メタアクリル酸とジオールの重縮合ポリマーおよび修飾シリカゲルから選択される1以上である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
[7] 前記回収工程で有機溶媒を用いて前記吸着剤から前記香気化合物を脱着する、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
[8] 前記有機溶媒がエタノールまたはプロピレングリコールである、[7]に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
[9] 前記吸着剤に流入するガスの線速度が0.1〜35.0m/sの範囲内である、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
[10] 前記ガスの通気方向が、重力方向と略反対方向である、[1]〜[9]のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
[11] 前記香気化合物吸着装置が、前記吸着剤が収容された流動層カラムである、[1]〜[10]のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
[12] 前記吸着剤に流入するガスの線速度を調整する工程を含む、[1]〜[11]のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
[13] 前記吸着剤に流入するガスの線速度の調整を、送風装置または吸引ポンプを用いて行う、[12]に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
[14] [1]〜[13]のいずれか一項に記載の製造方法を用いて製造された香料組成物を含有する飲食品。
[15] 焙煎コーヒー豆の粉砕装置と、
前記粉砕装置と連通し、前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気化合物ならびに微粉および薄片を含むガスが通過可能な第1の流路と、
前記第1の流路と連通し、前記微粉および薄片を除去する微粉薄片除去装置と、
前記微粉薄片除去装置と連通し、前記微粉および薄片が除去されたガスが通過可能な第2の流路と、
前記第2の流路と連通した香気化合物吸着装置と、
前記粉砕装置から前記香気化合物吸着装置まで連続した気流を発生させる気流発生装置と、
を備え、
前記香気化合物吸着装置は、吸着剤が収容された吸着剤収容部を有し、該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有する、焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
[16] 前記第2の流路から分岐する導入路を更に備え、該導入路は前記香気化合物吸着装置と連通している、[15]に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
[17] 前記粉砕装置と前記第1の流路の間に、微粉薄片予備除去装置をさらに備える、[15]または[16]に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
[18]
前記吸着剤の前記ガスの通気方向が、重力方向と略反対方向である、[15]〜[17]のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
[19]
前記香気化合物吸着装置が、前記吸着剤が収容された流動層カラムである、[15]〜[18]のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
[20]
前記微粉および薄片が除去されたガスの線速度を調整する線速度調整装置をさらに備える、[15]〜[19]のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
[21]
前記線速度調整装置が送風装置または吸引ポンプである、[15]〜[20]のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
[22]
前記吸着剤収容部に収容された吸着剤部分の断面直径が10mm以上である、[15]〜[21]のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
[23]
前記吸着剤収容部に収容された吸着剤部分の前記ガスの通気方向の長さが1000mm以下である、[15]〜[22]のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
本発明によれば、一般的な粉砕装置を、大きな追加設備投資や当該装置への負荷などの負担なく利用して、焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気、すなわち焙煎コーヒー豆を挽いているときの香気を感じさせる、焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法を提供することができる。本発明の香料組成物は、天然香料でありながら、焙煎コーヒー豆由来のトップの香りを増強できる。
また、本発明によれば、一般的な粉砕装置を、大きな追加設備投資や当該装置への負荷などの負担なく利用して、焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気を感じさせる香料組成物を製造できる、焙煎コーヒー豆からの香気回収装置を提供することができる。
図1は、本発明の香気回収装置の一例を示した概略図である。 図2は、本発明の香気回収装置の他の一例を示した概略図である。 図3は、本発明の吸着剤収容部の断面概略図である。 図4は、一般的な気流発生装置の性能図である。 図5は、本発明品1の香料組成物のトータルイオンクロマトグラムの一例である。 図6は、比較品3の香料組成物のトータルイオンクロマトグラムの一例である。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
[焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法]
本発明の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法(本発明の製造方法とも言う)は、焙煎コーヒー豆を粉砕して、微粉および薄片を含む焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得る工程を含み、
焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気化合物ならびに微粉および薄片を含むガスから微粉および薄片を除去する工程と、
微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気して、香気化合物を吸着剤に吸着させる吸着工程と、
吸着剤から香気化合物を回収して、香気化合物を含む香料組成物を調製する回収工程と、
を含み、
吸着剤は、香気化合物吸着装置内部の吸着剤収容部に収容され、この吸着剤収容部は、上記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有することを特徴とする(図3参照、図中の矢印はガス通気方向を表す)。
網状蓋の詳細については後述する。
上記の構成により、一般的な粉砕装置を、大きな追加設備投資や当該装置への負荷なく利用して、焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気を感じさせる焙煎コーヒー豆からの香料組成物を製造できる。
コーヒー豆(生豆)はコーヒーチェリーの種子部分であり、コーヒー豆にはシルバースキンと呼ばれる薄皮が付着している。焙煎コーヒー豆には、シルバースキンの焙煎物であり、渋味を呈するチャフが付着している。焙煎コーヒー豆を所望のサイズに粉砕すると、所望のサイズに粉砕されたコーヒー豆本体の粉砕物のほかに、チャフの薄片および粉砕物、コーヒー豆本体の過度に微細な粉砕物、または更にその他夾雑物由来の薄片または粉砕物(本明細書では総じて「微粉および薄片」と称する)が生じ、この微粉および薄片は軽いため飛散する。焙煎コーヒー豆の工業的粉砕においては、この微粉および薄片の少なくとも一部は飛散して粉砕装置で発生する気流の排気流に混じる。この排気流は、適宜微粉および薄片を除去した後、装置外にそのまま排出していた。
ここで、本発明は、特許文献2〜6とは異なり香気化合物の捕集に溶剤(液体)ではなく、香気化合物吸着装置に収容された吸着剤を用いる。仮に微粉および薄片を含む排気流をそのまま吸着剤に通気すると、微粉および薄片によって、網状蓋の目詰りや、吸着剤の細孔や吸着剤粒子間の微小空隙の目詰まりが発生してしまい排気流が流れにくくなり、粉砕装置の排気システム(本発明においては後述する気流発生装置による排気)に負荷(圧力)がかかると考えられる。これに対し、本発明の製造方法では、排気流から微粉および薄片を除去した後に、吸着剤にその排気流を通気させて香気化合物を吸着させるという方法を採用することで、網状蓋および吸着剤の目詰まりや装置への負荷の懸念なく、排気流に含まれる香気化合物を吸着させることができる。また、この目詰まり防止によって、香気化合物の吸着を効率よく行うことができる。
また、一般的な粉砕装置の排気システムの性能によっては、排気流の流路内に吸着剤収容部を設けて吸着剤を収容すると、排気流に対する吸着剤の抵抗によって装置に許容範囲を超える負荷(本明細書では、単に負荷とも記載する)がかかる場合もあり得る。そのため、本発明では、吸着剤による抵抗を抑えるような手段を採用することができる。例えば、吸着剤収容部に収容された吸着剤が占める部分(以下、本明細書では吸着剤部分、または収容された吸着剤部分と称する)の排気流の通気方向(ガス通気方向とも称する)の長さを抑えることや、排気流の流路から分岐する、吸着剤を収容した流路を設けて、排気流の一部から香気化合物を回収すること、などが例示できる。また、収容された吸着剤の可動性を高める(いわゆる「流動層カラム」を利用するなど)ことで吸着剤の抵抗を抑えてもよい。また、送風装置や吸引ポンプを更に設けて、吸着剤の抵抗を超えて吸着剤に通気を行ってもよい。
以下、本発明の製造方法の好ましい態様について説明する。
<焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得る工程>
本発明の製造方法は、焙煎コーヒー豆を粉砕して、微粉および薄片を含む焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得る工程を含む。
焙煎コーヒー豆を粉砕して焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得る工程を他の工程よりも前に行うことが好ましい。
焙煎コーヒー豆を粉砕する方法としては特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、回転ミル、振動ミルなどの公知の粉砕装置を用いることができる。
焙煎コーヒー豆の粉砕速度としては、例えば、1〜500kg/hとすることができるが、特に限定されない。
焙煎コーヒー豆の粉砕サイズは特に限定されず、いわゆる細挽き、中挽き、粗挽きのいずれであってもよく、公知の好ましいサイズ範囲と同様でよい。例えば、0.2〜3mm程度とすることができる。
(焙煎コーヒー豆)
本発明の製造方法に用いられる焙煎コーヒー豆としては、特に制限はない。いかなる理由に拘泥するものでもないが、コーヒー豆の種類や、コーヒーの焙煎度合は、香料組成物中の分子量が大きい香気化合物の量比に主に影響があると推測される。香料組成物が焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気は、トップの香り(分子量が小さく揮散しやすい香気化合物に起因する)であるため、コーヒー豆の種類や、コーヒーの焙煎度合の影響が少ないと推測される。そのため、本発明は、コーヒー豆の種類や焙煎度合によらず汎用的に利用可能である。
本発明の製造方法に用いられるコーヒー豆としては、例えば、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種等のいずれでも良く、その種類、産地を問わずいかなるコーヒー豆でも利用することができる。コーヒー生豆の焙煎はコーヒーロースターなどを用い常法により行うことができる。例えば、コーヒー生豆を回転ドラムの内部に投入し、この回転ドラムを回転攪拌しながら、下方からガスバーナー等で加熱することで焙煎できる。焙煎コーヒー豆の焙煎度は、通常、L値で表され、イタリアンロースト:16〜19、フレンチロースト:19〜21、フルシティーロースト:21〜23、シティーロースト:23〜25、ハイロースト:25〜27,ミディアムロースト:27〜29程度である。これより浅い焙煎は通常の飲用では一般的にはあまり使用されない。L値とはコーヒーの焙煎の程度を表す指標で、コーヒー焙煎豆の粉砕物の明度を色差計で測定した値である。黒をL値0で、白をL値100で表す。従って、コーヒー豆の焙煎が深いほど数値は低い値となり、浅いほど高い値となる。
コーヒー豆の種類、コーヒー豆の焙煎方法、焙煎コーヒー豆の処理方法としては特に制限はない。例えば、特開2013−252112号公報の[0015]〜[0027]、特開2015−149950号公報の[0021]〜[0024]に記載の方法を採用することができ、これらの公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
(焙煎コーヒー豆粗粉砕物)
焙煎コーヒー豆粗粉砕物は、上記微粉および薄片と、所望のサイズに粉砕された焙煎コーヒー豆本体の粉砕物と、を含むことが好ましい。
微粉および薄片は、焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物を含むガスから除去されることが好ましい。具体的には、後に詳述する第1の流路をガスとともに通過し、微粉薄片除去装置にて前記ガスから除去されることが好ましい。
(焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気化合物)
焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物は、1または複数の化合物である。具体的には香料組成物の説明にて示す。
<微粉および薄片の予備除去工程>
本発明の製造方法では、焙煎コーヒー豆粗粉砕物に含まれる微粉および薄片を除去する工程を、微粉および薄片をガスから除去する工程よりも前に行うことが好ましい。微粉および薄片は一部除去されればよいが、実質的に全て除去されてもよい。また、例えばチャフ以外を由来とする微粉および薄片を主に除去してもよく、チャフを由来とする微粉および薄片は、この予備除去工程で少なくとも一部除去されてもよく、殆ど除去されなくてもよい。
焙煎コーヒー豆粗粉砕物に含まれる微粉および薄片を除去する工程は、振動ふるいや風力分級機などの分級装置のような公知の微粉薄片除去装置などを用いて行うことができ、振動ふるいを用いた分級装置であることが好ましい。例えば、任意の目開きを有するふるいを用いて、その目開きより小さい微粉および薄片を除去することができる。
<微粉および薄片の除去工程>
本発明の製造方法は、焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物ならびに微粉および薄片を含むガスから、微粉および薄片を除去する工程を含む。微粉および薄片は一部除去されず残存してもよいが、微粉および薄片は実質的に全て除去されることが好ましい。この除去工程において除去される微粉および薄片は、チャフを由来とする微粉および薄片が少なくとも半分を占めていてもよく、実質的にチャフを由来とする微粉および薄片のみからなっていてもよい。
微粉および薄片を除去する工程としては特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
本発明の製造方法では、微粉および薄片を除去する工程を後述する微粉薄片除去装置で行うことが好ましい。
微粉薄片除去装置の詳細については、本発明の香気回収装置の説明に示す。
<吸着工程>
本発明の製造方法は、微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気して、ガスに含まれる香気化合物を吸着剤に吸着させる吸着工程を含む。ここで吸着剤は、香気化合物吸着装置内に設けられた吸着剤収容部に収容され、この吸着剤収容部は、ガス通気方向の両端に網状蓋を有する。
吸着剤量は、吸着剤収容部に収容可能な量であれば限定されない。使用する吸着剤の体積(嵩容積)は、吸着剤収容部の体積と同じでも、それ未満でもよい。換言すれば、吸着剤は、吸着剤収容部に充填(粗充填または密充填)されていてもよいし、吸着剤を収容した吸着剤収容部に空間が存在していてもよい。
ガスの通気方向は、香気回収装置の設置面(香気回収装置を地面に設置する場合は接地面)に対して任意の角度をとってよく、例えば平行でも垂直でもよい。また、香気回収装置の設置面に接近する方向でも遠ざかる方向でもよい。換言すれば、吸着剤のガスの通気方向が、重力方向に対して、略反対方向でも、略同一方向でも、直角をなしていても、その他の角度をなしていてもよい。なお、吸着剤に重力方向と略反対方向にガスを流入および通気させる場合、使用する吸着剤の体積(嵩容積)を吸着剤収容部の体積より小さくして、香気化合物吸着装置をいわゆる流動層カラムとすることができ、通気するガスの流れに対する吸着剤の抵抗を抑えることができる。
本発明の製造方法では、気流発生装置を用いて気流を発生させて、微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気することが好ましい。また、流速調整装置を気流発生装置と併用して、ガスの流速および圧力を高めてもよい。この併用によって、ガスの流れに対する吸着剤の抵抗を超えてガスの通気を行うことができる。
気流発生装置および流速調整装置の詳細については、本発明の香気回収装置の説明に示す。
本発明の製造方法では、微粉および薄片が除去されたガスの流路から分岐するように、吸着剤が配置された導入路を設けることで、導入路に微粉および薄片が除去されたガスの一部のみを流入および通過させ、そのガスを吸着剤に通気して香気化合物を回収することが好ましい。
導入路の詳細については、本発明の香気回収装置の説明に示す。
(吸着剤)
吸着剤としては、特に限定されない。吸着剤としては、合成吸着剤、または活性炭などのその他の吸着剤を用いることができる。合成吸着剤を用いることが、脱着が容易である観点から好ましい。
吸着剤としては、スチレンジビニルベンゼン共重合体、エチルビニルベンゼンとジビニルベンゼン共重合体、2,6−ジフェニル−9−フェニルオキサイドの重合体、メタアクリル酸とジオールの重縮合ポリマーおよび修飾シリカゲルから選択される1以上であることが好ましい。修飾シリカゲルとは、シリカゲル表面のシラノール基の反応性を利用して、これに例えば、アルコール類、アミン類、シラン類などを化学結合させた化学結合型シリカゲルのことを言う。中でも、スチレンジビニルベンゼン共重合体が好ましい。
吸着剤は、多孔性重合樹脂であることが好ましい。吸着剤の表面積が、例えば、約300m2/g以上であることが好ましく、約500m2/g以上であることがより好ましい。吸着剤の細孔分布が約10Å〜約500Åであることが好ましい。
吸着剤の形状は特に制限はないが、粒子状であることが好ましい。吸着剤が粒子状である場合の平均粒子直径は特に制限はなく、0.1〜20mm、または0.1〜1mmの範囲内が例示できるが、これらに限定されない。
上記の条件に該当する多孔性重合樹脂としては、例えば、HP樹脂(三菱化学(株)製)、スチレンジビニルベンゼン共重合体であるSP樹脂(三菱化学(株)製)、XAD−4(ローム・ハス社製)などがあり、市場で容易に入手することができる。また、メタアクリル酸エステル系樹脂も、例えば、XAD−7およびXAD−8(ローム・ハース社製)などの商品として入手することができる。
SP樹脂としては、セパビーズSP−70、SP−207を好ましく用いることができる。
微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気して香気化合物を吸着剤に吸着させる処理手段としては、バッチ方式あるいはカラム方式のいずれも採用できる。作業性の点からカラム方式を好ましく採用することができる。カラム方式で吸着させる方法としては、例えば、上記の吸着剤を充填したカラムにガスを導入することにより、香気化合物を吸着させることができる。吸着剤へのガスの流入および通気方向は、重力方向に対して任意の方向とすることができ、重力方向に対して、略同一方向、略反対方向などが例示できるが、これらに限定されない。
または、吸着剤の粒径および量を調製して吸着剤収容部に空間ができるようにして、更に、重力方向と略反対方向にガスの流入および通気を行って、流動層カラムとしてもよい。
吸着剤は、割れを抑制するために、純水を吸収させた後、完全に乾燥させる前に香気化合物吸着装置に収容することが好ましい。
微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気する際の通気量としては特に制限はなく、例えば、吸着剤の0.1倍〜1000倍の通気量であることが好ましい。
吸着剤に流入するガスの流速(通気ガスの速度)は、吸着剤量、吸着剤部分のガスの通気方向の長さ、後述する気流発生装置や流速調整装置の性能によって適宜設定してよく、特に制限はない。例えば、吸着剤に流入するガスの流速(通気速度)は、0.1〜10.0L/minであることが好ましく、0.5〜7.0L/minであることがより好ましく、1.0〜5.0L/minであることが特に好ましい。
なお、粉砕および吸着剤へのガス通気時間は、微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気する際の通気量や、吸着剤に流入するガスの流速から、好ましい範囲を設定できる。
本発明の製造方法では、吸着剤に流入するガスの流速(線速度)は、吸着剤量、吸着剤部分のガスの通気方向の長さ、後述する第2の流路の内径、気流発生装置や流速調整装置の性能によって適宜設定してよく、特に制限はない。例えば、1.0〜35.0m/sの範囲内であることが好ましく、2.0〜20.0m/sの範囲内であることがより好ましく、3.0〜10.0m/sの範囲内であることが特に好ましい。
<ガスの線速度を調整する工程>
本発明の製造方法は、吸着剤に流入するガスの線速度を調整する工程を含むことが、香気化合物吸着装置に多量の吸着剤を収容(例えば充填)した場合にも、吸着剤の抵抗を超えて吸着をできる観点、および後述する気流発生装置への負担を抑制できる観点から好ましい。
本発明の製造方法では、吸着剤に流入するガスの線速度の調整を、任意の公知の気流発生装置、例えば吸引ポンプまたは送風装置を用いて行うことができる。
例えば、吸着剤に流入するガスの線速度は、第2の流路に流れるガスの線速度に対して任意の比率でよく、上限を100%として、90%以上、80%以上、70%以上、60%以上、50%以上、40%以上、30%以上、20%以上、10%以上、5%以上、または1%以上であってよい。具体的には、0.05〜35m/s、0.08〜20m/s、1.0〜10m/s、1.0〜5m/s、1.0〜2m/sの範囲を例示することができるが、これらに限定されない。
例えば、後述する気流発生装置の性能に合わせて、第2の流路に流れるガスの線速度に対する吸着剤に流入するガスの線速度の比率を調整することが好ましい。このような調整によって、気流発生装置への負担を抑制することができる。
<回収工程>
本発明の製造方法は、吸着剤から香気化合物を回収して、香気化合物を含む香料組成物を調製する回収工程を含む。
本発明の製造方法では、回収工程で有機溶媒を用いて吸着剤から香気化合物を脱着して回収することが好ましい。
有機溶媒を用いて吸着剤から香気化合物を脱着する前に、吸着剤を水洗してもよい。
有機溶媒としては、アルコール類、油脂類を挙げることができる。
回収工程に用いるアルコール類は、特に制限はなく、エタノールまたはプロピレングリコールであることが好ましく、プロピレングリコールであることが安全性の観点(引火しづらい)からより好ましい。いかなる理論に拘泥するものでもないが、プロピレングリコールは回収した香気化合物の一部をアセタール化(PGアセタール化)でき、その結果として、香気化合物の香りの発現性を強くすることも期待できる。
50〜100質量%のアルコール水溶液を用いてよく、エタノールであれば、エタノール濃度50〜95質量%の含水エタノールを用いることが、PGであれば100%PGを用いることが好ましい。
カラムを用いる場合、アルコール類を通液する流速としては、SV=0.1〜20の流速とすることが好ましい。
アルコール類の量としては特に制限はなく、吸着剤の1倍〜100倍の通液量であることが好ましく、3倍〜40倍の通液量であることがより好ましく、5倍〜20倍の通液量であることが特に好ましい。
吸着剤に吸着されている香気化合物をアルコール類で溶出させることにより水溶性の香料組成物(香気濃縮物)とすることができる。
脱着に用いる油脂類としては特に限定されないが、例えば、大豆油、米油、ゴマ油、ピーナッツ油、コーン油、菜種油、ヤシ油、パーム油などの植物油脂類及びそれらの硬化油;牛脂、豚脂、魚油などの動物油脂類及びそれらの硬化油;中鎖脂肪酸トリグリセライド(以下、MCTと称することがある)などを挙げることができ、得られる香料組成物の安定性の点でMCTを好ましく例示することができる。かかるMCTとしては、例えば、カプロン酸トリグリセリド、カプリル酸トリグリセリド、カプリン酸トリグリセリド、ラウリン酸トリグリセリド及びこれらの任意の混合物の如き炭素原子数6〜12の中鎖脂肪酸のトリグリセリドを挙げることができる。殊に、カプリル酸トリグリセリド及びカプリン酸トリグリセリド及びこれらの任意の混合物を好ましく挙げることができる。これらのMCT混合物は市場で安価に且つ容易に入手することができる。
油脂類の使用量は、原料の種類、ガス中の香気成分濃度などにより異なる。脱着は、静置下に行うことができ、脱着温度、脱着時間は適宜に選択でき、例えば、10〜80℃の温度範囲にて5分間〜2時間の範囲内を例示することができる。脱着後、得られた脱着液を静置し、一般に用いられている分離方法、例えば、デカンテーション、遠心分離により油層部と、水層部を分離することができる。水層部に更に油脂類を添加して抽出することにより、効率よく香気成分を回収することができる。得られた油層部は、例えば、無水硫酸ナトリウムなどの脱水剤にて脱水して、例えば、濾紙による濾過等の清澄濾過手段により油溶性の香料組成物とすることができる。
<吸着剤の再利用および洗浄>
吸着剤について有機溶媒による脱着前および脱着後の通液の圧力を比較して、圧力が同等(例えば2倍以下)であれば、目詰まりは発生していないか無視できるレベルであり、洗浄をせずに再利用可能であると判断できる。香気回収装置を管理する方法が、吸着剤について有機溶媒による脱着前および脱着後の通液の圧力を比較して、圧力が同等であることを確認する工程を含んでいてもよい。具体的には、脱着前および脱着後に、それぞれ超純水への置換を行ってから超純水をSV=10程度にて流した際の圧力を測定した後、脱着前の圧力に対する脱着後の圧力を算出することが好ましい。
一方、本発明の製造方法は、吸着剤の洗浄工程を含んでいてもよい。すなわち、香気回収装置を管理する方法が、吸着剤の洗浄工程を含んでいてもよい。本発明の製造方法では、微粉および薄片は吸着剤にほとんど吸着されないが、ガスに含まれるその他の成分(特に重合可能な成分)が吸着剤に吸着されることがある。吸着剤の洗浄方法は当業者には公知であり、順次極性を変えた数種類の溶剤を通液させればよく、溶剤の種類に特に制限はないが、例えば吸着剤にPGなどのアルコール類を通液して脱着した後に、酢酸エチル、ヘキサンの順で通液して洗浄し、再生の際には、酢酸エチルおよび水の順で通液させればよい。
吸着剤は、必要に応じて香気化合物を回収後に洗浄を行いつつ、吸着および回収を5回以上繰り返すまで再利用することが好ましく、10回繰り返すまで再利用することがより好ましい。
<確認工程>
本発明の製造方法は、香料組成物が、下記条件を満たすことを確認する工程を含むことが好ましい。
四重極型質量分析計を備えるガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)を用いて、極性カラムを使用して、70eVにおける電子衝撃イオン化法(EIモード)で得たトータルイオンクロマトグラムにおいて、リテンションインデックスがアセトイン以下のすべてのピークの合計面積と、リテンションインデックスがアセトインより大きいすべてのピークの合計面積との比が、30.0:70.0〜100:0である。
さらに本発明の製造方法は、香気化合物が、後述の香料組成物の組成の好ましい範囲を満たすことを確認する工程を含むことがより好ましい。
極性カラムの種類は特に限定されず、入手可能な任意の極性カラムを用いることができる。例として、InertCap−WAXなどの、InertCap−WAXシリーズの極性カラム(ジーエルサイエンス社製)が挙げられるが、これらに限定されない。
[香料組成物]
本発明の製造方法で製造された香料組成物は、焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気化合物を含み、焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気を感じさせるものである。
焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気としては、具体的には、焙煎コーヒー豆を挽いている時の香りであることが好ましく、トップに感じられる香気が強いことが好ましく、また、ミドル以降にもボリュームがあり、余韻があることが好ましい。
香料組成物は、四重極型質量分析計を備えるガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)を用いて、極性カラムを使用して、70eVにおける電子衝撃イオン化法(EIモード)で得たトータルイオンクロマトグラムにおいて、リテンションインデックスがアセトイン以下のすべてのピークの合計面積と、リテンションインデックスがアセトインより大きいすべてのピークの合計面積との比が、例えば100:0、または、30.0:70.0〜99.9:0.1、40:60〜99.5:0.5、50.0:50.0〜98.0:2.0、70.0:30.0〜97.0:3.0、80.0:20.0〜95.0:5.0、85.0:15.0〜94.0:6.0であってよい。好ましい範囲として、80.0:20.0〜99.9:0.1、85.0:15.0〜99.8:0.2、87.0:13.0〜99.5:0.5などが挙げられるが、これらに限定されない。リテンションインデックスがアセトイン以下のすべてのピークの合計面積は、リテンションインデックスがアセトインより大きいすべてのピークの合計面積よりも大きいことが好ましく、1倍超、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、7倍以上、8倍以上、10倍以上、12倍以上、15倍以上、20倍以上、25倍以上、30倍以上、35倍以上、40倍以上、45倍以上、または50倍以上でよい。
なお、本明細書中、香料組成物のトータルイオンクロマトグラムのピークの面積値の算出は、香料組成物の溶媒(回収工程で用いた溶媒)に帰属するピークを除外して求めたものである。例えば、回収工程で用いた溶媒がプロピレングリコールである場合は、トータルイオンクロマトグラムのピークの面積値の算出は、プロピレングリコールに帰属するピークを除外して求める。
前記トータルイオンクロマトグラムにおいて、リテンションインデックスがアセトイン以下のすべてのピークに帰属する化合物の例を、アセトインを含めてリテンションインデックスが小さい順に挙げる。
2−methylfuran;
2−methylbutyraldehyde;
isovaleraldehyde;
2−methylbutyraldehyde PG acetal;
isovaleraldehyde PG acetal;
acetoin(RI=1294)。
前記トータルイオンクロマトグラムにおいて、リテンションインデックスがアセトインより大きいすべてのピークに帰属する化合物の例を、リテンションインデックスが小さい順に挙げる。
acetol(RI=1321);
furfural;
2−acetylfuran;
furfuryl acetate。
本発明の製造方法で得られる香料組成物は、前記トータルイオンクロマトグラムにおいて、リテンションインデックスがアセトイン以下のすべてのピークの合計面積に対する、2−methylfuran、2−methylbutyraldehydeおよびisovaleraldehydeのピーク面積の割合が他の香料組成物に比べて高いことを特徴とすることが好ましい。その割合は、それぞれ0.1〜5.0%、5〜25%および5〜25%;0.2〜4.0%、7〜20%および7〜20%;0.2〜2.0%、10〜18%および10〜18%;または0.3〜0.7%、11〜16%および11〜16%であってよい。
香料組成物は、2−methylfuran PG acetal、2−methylbutyraldehyde PG acetalおよびisovaleraldehyde PG acetalをさらに含むことが、香料組成物の香りの発現性を強くする観点から好ましい。
[本発明の製造方法によって製造された香料組成物の用途]
本発明の香料組成物の製造方法で製造された香料組成物を、飲食品、香粧品、保健衛生品、医薬品などの各種類の基材に添加して、賦香品を得ることができる。本発明の香料組成物の製造方法で製造された香料組成物は、コーヒー様香気を呈する基材に用いること、より好ましくはコーヒー様香気を呈する飲食品に添加して用いることが好ましい。
飲食品は、本発明の香料組成物の製造方法で製造された香料組成物を、飲食品の全質量に対して0.01〜10質量%添加したものであることが好ましく、0.05〜7質量%添加したものであることがより好ましい。
飲食品は、容器詰飲食品であることが好ましく、容器詰飲料であることがより好ましい。また、本発明の香料組成物の製造方法で製造された香料組成物は、トップ(低分子量の成分)の香りが強い。そのため、本発明の製造方法で製造された香料組成物を含む容器詰飲料は、容器を開ける際に焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気を強く感じさせることができる。
容器詰食品としては、アイスクリーム、ソフトクリームまたはシャーベットなどの冷菓;ビスケット、クッキー、せんべい、饅頭、チョコレート、クリーム内包菓子、パンなどを例示することができる。
容器詰飲料とは、飲用するのに適当な濃度とし、容器に充填して得られる飲料(容器に充填する前または後に殺菌を行うことが一般的である)を意味する。
容器詰飲料は、ペットボトル、缶または紙容器に充填された容器詰飲料であることが好ましい。容器詰飲料には、麦茶飲料、穀物茶飲料、玄米茶飲料、茶類と焙煎した穀物類を混合したいわゆる混合茶類飲料(ブレンド茶飲料)などの茶系飲料、緑茶飲料、ウーロン茶飲料、紅茶飲料などの茶系飲料;コーヒー飲料;ビール、発泡酒、いわゆる第三のビール、ノンアルコールビール風味飲料などのビール風味飲料などが包含される。これらの中でも、コーヒーに用いられることが好ましい。
基材として用いられるコーヒーの態様としては特に制限はない。例えば、特開2013−252112号公報の[0028]〜[0039]、特開2015−149950号公報の[0037]〜[0042]に記載のコーヒーを採用することができ、これらの公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
基材としてコーヒーを用いた、加熱殺菌前の賦香品(飲食品)の好ましい態様を説明する。
四重極型質量分析計を備えるガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)を用いて、極性カラムを使用して、70eVにおける電子衝撃イオン化法(EIモード)で得た加熱殺菌前の飲食品のトータルイオンクロマトグラムにおいて、加熱殺菌前の基材(無糖ブラックコーヒー)のリテンションインデックスがアセトイン以下のすべてのピークの合計面積を100%とした場合、加熱殺菌前の飲食品(賦香品)のリテンションインデックスがアセトイン以下のすべてのピークの合計面積が100%超であることが好ましく、102%以上であることがより好ましく、103%以上であることが更に好ましく、105%以上であることが更に好ましく、107%以上であることが更に好ましく、110%以上であることが更に好ましく、115%以上であることが更に好ましく、120%以上であることが更に好ましく、130%以上であることが特に好ましい。
前記トータルイオンクロマトグラムにおいて、加熱殺菌前の基材(無糖ブラックコーヒー)の2−methylfuranのピーク面積を100%とした場合、加熱殺菌前の飲食品(賦香品)の2−methylfuranのピークの面積が100%超であることが好ましく、105%以上であることがより好ましく、110%以上であることが更に好ましく、115%以上であることが更に好ましく、120%以上であることが更に好ましく、125%以上であることが更に好ましく、130%以上であることが特に好ましい。
前記トータルイオンクロマトグラムにおいて、加熱殺菌前の基材(無糖ブラックコーヒー)の2−methylbutyraldehydeのピーク面積を100%とした場合、加熱殺菌前の飲食品(賦香品)の2−methylbutyraldehydeのピークの面積が100%超であることが好ましく、105%以上であることがより好ましく、110%以上であることが更に好ましく、115%以上であることが更に好ましく、120%以上であることが更に好ましく、125%以上であることが更に好ましく、130%以上であることが特に好ましい。
前記トータルイオンクロマトグラムにおいて、加熱殺菌前の基材(無糖ブラックコーヒー)のisovaleraldehydeのピーク面積を100%とした場合、加熱殺菌前の飲食品(賦香品)のisovaleraldehydeのピークの面積が100%超であることが好ましく、105%以上であることがより好ましく、110%以上であることが更に好ましく、115%以上であることが更に好ましく、120%以上であることが更に好ましく、125%以上であることが更に好ましく、130%以上であることが特に好ましい。
飲食品は、加熱殺菌されたものであってよい。容器詰飲料等の製造では、レトルト殺菌(121℃、10分程度の加熱殺菌)やUHT殺菌(135℃、1分程度の加熱殺菌)をされる。しかしながら、通常のトップの香りは加熱で失われやすい。本発明の香料組成物の製造方法で製造された香料組成物は、トップの香りが強いため、加熱されてもトップの香りが失われにくく、加熱殺菌された飲食品に好ましく用いられる。また従って、喫食前に加熱を必要とする飲食品においても、好ましく用いられる。
基材としてコーヒーを用いた加熱殺菌後の飲食品の好ましい態様を説明する。
四重極型質量分析計を備えるガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)を用いて、極性カラムを使用して、70eVにおける電子衝撃イオン化法(EIモード)で得た加熱殺菌後の飲食品のトータルイオンクロマトグラムにおいて、加熱殺菌後の基材(無糖ブラックコーヒー)のリテンションインデックスがアセトイン以下のすべてのピークの合計面積を100%とした場合、加熱殺菌後の飲食品(賦香品)のリテンションインデックスがアセトイン以下のすべてのピークの合計面積が100%超であることが好ましく、102%以上であることがより好ましく、103%以上であることが更に好ましく、105%以上であることが更に好ましく、107%以上であることが更に好ましく、110%以上であることが更に好ましく、115%以上であることが更に好ましく、120%以上であることが更に好ましく、130%以上であることが特に好ましい。
前記トータルイオンクロマトグラムにおいて、加熱殺菌後の基材(無糖ブラックコーヒー)の2−methylfuranのピーク面積を100%とした場合、加熱殺菌後の飲食品(賦香品)の2−methylfuranのピークの面積が100%超であることが好ましく、105%以上であることがより好ましく、110%以上であることが更に好ましく、115%以上であることが更に好ましく、120%以上であることが更に好ましく、125%以上であることが更に好ましく、130%以上であることが特に好ましい。
前記トータルイオンクロマトグラムにおいて、加熱殺菌後の基材(無糖ブラックコーヒー)の2−methylbutyraldehydeのピーク面積を100%とした場合、加熱殺菌後の飲食品(賦香品)の2−methylbutyraldehydeのピークの面積が100%超であることが好ましく、105%以上であることがより好ましく、110%以上であることが更に好ましく、115%以上であることが更に好ましく、120%以上であることが更に好ましく、125%以上であることが更に好ましく、130%以上であることが特に好ましい。
前記トータルイオンクロマトグラムにおいて、加熱殺菌後の基材(無糖ブラックコーヒー)のisovaleraldehydeのピーク面積を100%とした場合、加熱殺菌後の飲食品(賦香品)のisovaleraldehydeのピークの面積が100%超であることが好ましく、105%以上であることがより好ましく、110%以上であることが更に好ましく、115%以上であることが更に好ましく、120%以上であることが更に好ましく、125%以上であることが更に好ましく、130%以上であることが特に好ましい。
[焙煎コーヒー豆からの香気回収装置]
本発明の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置(本発明の香気回収装置とも言う)は、焙煎コーヒー豆の粉砕装置と、
粉砕装置と連通し、焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物ならびに微粉および薄片を含むガスが通過可能な第1の流路と、
第1の流路と連通し、微粉および薄片を除去する微粉薄片除去装置と、
微粉薄片除去装置と連通し、微粉および薄片が除去されたガスが通過可能な第2の流路と、
第2の流路と連通した香気化合物吸着装置と、
粉砕装置から香気化合物吸着装置まで連続した気流を発生させる気流発生装置と、
を備え、香気化合物吸着装置は、吸着剤が収容された吸着剤収容部を有し、吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有する。
以下、本発明の香気回収装置の好ましい態様について説明する。
<香気回収装置の全体の構成>
香気回収装置の全体の構成を、図面を参照して説明する。図1は、本発明の香気回収装置の一例を示した概略図である。図2は、本発明の香気回収装置の他の一例を示した概略図である。
図1の香気回収装置の一例は、粉砕装置11、第1の流路1、気流発生装置13、微粉薄片除去装置14、第2の流路2、および香気化合物吸着装置Kを備える。香気化合物吸着装置Kは、網状蓋Ka1およびKa2を有する吸着剤収容部Kbを有する(図3)。さらに、図1の香気回収装置の一例は、導入路3および線速度調整装置4を備えるが、これらは必須の構成ではない。
なお、図1の香気回収装置のうち、粉砕装置11、第1の流路1、気流発生装置13、微粉薄片除去装置14、第2の流路2を有する粉砕装置は一般的に使用されており(例えば、米国特許1649781(1927年)などを参照)、本発明はこのような構成の一般的な粉砕装置に香気化合物吸着装置Kを設け、焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物を回収できるようにしたものである。
図1の香気回収装置では、粉砕装置11によって焙煎コーヒー豆が粉砕されて焙煎コーヒー豆粗粉砕物が製造されている最中に、気流発生装置13で発生させた気流によって、粉砕装置11から、焙煎コーヒー豆から発生した香気化合物21ならびに焙煎コーヒー豆粗粉砕物に含まれる微粉および薄片22を含むガスが、第1の流路1へと移動する。香気化合物21および微粉および薄片22を含むガスは、気流に乗って第1の流路1から微粉薄片除去装置14に移動される。微粉薄片除去装置14において、微粉および薄片が除去されたガス(香気化合物21を含む)は第2の流路2へと、微粉および薄片22は微粉薄片除去装置14で除去されて装置外へと、それぞれ移動される。気流発生装置13で発生させた気流(および、必要に応じて線速度調整装置4で発生させた気流)によって、第2の流路2から、微粉および薄片が除去されたガス(香気化合物21を含む)の一部が導入路3へと流入し、導入路3に配置された香気化合物吸着装置Kに収容された吸着剤に流入して、ガスの吸着剤への通気が行われ、当該吸着剤に香気化合物21が吸着される。香気化合物21が吸着され、吸着剤を通過したガスは、導入路の出口3Bから再び第2の流路2に移動され、導入路3に流入せずに第2の流路2を通過した微粉および薄片が除去されたガスと合流し、排出ガス24として装置外へと放出される。
なお、本発明は上述の通り導入路3は必須の構成ではないので、導入路3を設けず、第2の流路を流れるガス(香気化合物21を含み、微粉および薄片が除去されている)の一部ではなく全部を香気化合物吸着装置Kへの流入および通気に使用してもよい。その場合、香気化合物吸着装置Kは第2の流路内に配置されてよい。
図2の香気回収装置の他の一例は、粉砕装置11、微粉薄片予備除去装置12、第1の流路1、気流発生装置13、微粉薄片除去装置14、第2の流路2、および香気化合物吸着装置Kを備える。さらに、図2の香気回収装置の一例は、導入路3および線速度調整装置4を備えるが、これらは必須の構成ではない。
図2の香気回収装置では、粉砕装置11によって焙煎コーヒー豆が粉砕されて製造された焙煎コーヒー豆粗粉砕物が、図示しない搬送機構によって微粉薄片予備除去装置12に移動する。微粉薄片予備除去装置12では、焙煎コーヒー豆粗粉砕物から微粉および薄片22の少なくとも一部を除去して、図示しない廃棄部に除去された微粉および薄片22を収容して装置外に排出する。一方で、気流発生装置13で発生させた気流によって、香気化合物21および微粉薄片予備除去装置12で除去されなかった微粉および薄片22を含むガスは第1の流路1へと移動される。第1の流路1以降の香気化合物21および微粉および薄片22の流れは、図1と同様である。
以下、香気回収装置が備えることが好ましい各装置について、それぞれの好ましい態様を説明する。
<粉砕装置>
本発明の香気回収装置は、焙煎コーヒー豆の粉砕装置を備える。
粉砕装置としては特に制限はない。例えば、ローラーミルなどを用いることができる。
粉砕装置11内で粉砕によって発生するガスは、気流発生装置によって発生する気流によって吸着剤まで運ばれるため発散しづらく、必ずしも粉砕装置は密閉されていなくてもよい。しかし香気化合物をより効率よく回収する観点からは、粉砕装置11は第1の流路1に連通し、その他の部分は密閉された状態で粉砕を行ってもよい。
<微粉薄片予備除去装置>
本発明の香気回収装置は、粉砕装置と第1の流路の間に、微粉薄片予備除去装置をさらに備えることが好ましい。
微粉薄片予備除去装置は、粉砕装置と連通し、焙煎コーヒー豆の粉砕によって得られる焙煎コーヒー豆粗粉砕物から微粉および薄片の少なくとも一部を除去することが好ましい。なお、微粉および薄片が除去された焙煎コーヒー豆精製粉砕物(すなわち所望のサイズに粉砕された焙煎コーヒー豆本体の粉砕物)は、飲食品またはその製造に用いることができる。
微粉および薄片の一部または大半が除去され、装置外に排出されてもよい。微粉薄片予備除去装置から第1の流路に移動する微粉および薄片の量が少ないほど、下流の微粉薄片除去装置の負荷を減らすことができる。
微粉薄片予備除去装置としては、公知の装置を用いることができ、振動ふるいや風力分級機などの分級装置を用いることが好ましい。
<第1の流路>
本発明の香気回収装置は、粉砕装置と連通し、焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物ならびに微粉および薄片を含むガスが通過可能な第1の流路を備える。
第1の流路は、粉砕装置と直接連通していてもよく、微粉薄片予備除去装置を介して粉砕装置と連通していてもよい。
第1の流路の直径(内径)は特に限定されないが、30mm以上であることがより多くのガスを通過させる観点から好ましく、50mm以上であることがより好ましく、100mm以上であることが更に好ましく、200mm以上であることが更に好ましく、300mm以上であることが特に好ましい。
微粉薄片予備除去装置12は、第1の流路1に連結させるための吸揚口を備えていてもよい。
<微粉薄片除去装置>
本発明の香気回収装置は、第1の流路と連通し、微粉および薄片を除去する微粉薄片除去装置を備える。
微粉薄片除去装置としては、公知の装置を用いることができ、サイクロン式の分離装置(紛体分離装置)を用いることが好ましい。
<第2の流路>
本発明の香気回収装置は、微粉薄片除去装置と連通し、微粉および薄片が除去されたガスが通過可能な第2の流路を備える。
本発明の香気回収装置は、第2の流路の直径(内径)は特に限定されないが、30mm以上であることがより多くのガスを通過させる観点から好ましく、50mm以上であることがより好ましく、100mm以上であることが更に好ましく、200mm以上であることが更に好ましく、300mm以上であることが特に好ましい。第2の流路は、後述の香気化合物吸着装置に流入するガスの方向が所望のものとなるように、任意に配置できる。
<香気化合物吸着装置>
本発明の香気回収装置は、第2の流路と連通した香気化合物吸着装置を備える。
香気化合物吸着装置は、その内部に吸着剤が収容された吸着剤収容部を有し、吸着剤収容部は、ガスの通気方向の両端に網状蓋を有する。この網状蓋によって、吸着剤収容部に収容された吸着剤が香気化合物吸着装置外に漏出することを防止し、かつガスを吸着剤に通気することができる。
網状蓋は任意の厚さを有するシート状であり、その大きさは特に限定されず、香気化合物吸着装置からの吸着剤の漏出を防ぐことができる範囲で任意に選択できる。ガスの通過しやすさの観点から、吸着剤収容部のガスの通気方向の断面積以上の面積を有することが好ましい。
網状蓋は、その全体が網状でも、一部が網状でもよい。ガスの通過しやすさの観点から、香気化合物吸着装置または吸着剤収容部の断面に相当する部分が網状であることが好ましい。
網状蓋の目開きは、使用する吸着剤が通過しない範囲で任意に選択できる。10μm〜20mmの範囲内を例示できるが、これに限定されない。
本発明では、香気化合物吸着装置は、吸着剤収容部に収容された吸着剤が占める部分、すなわち吸着剤部分を含むことが好ましい。
本発明では、吸着剤部分の長さ(ガスの通気方向)は特に限定されないが、吸着剤の抵抗を低くする観点から、1000mm以下であることが好ましく、700mm以下であることがより好ましく、500mm以下であることが更に好ましく、400mm以下であることが更に好ましく、300mm以下であることが更に好ましく、200mm以下であることが特に好ましい。例えば、吸着剤部分の長さは、10mm〜800mm、20mm〜400mm、40mm〜200mm、または50mm〜100mmの範囲内であってよい。
吸着剤部分の、ガスの通気方向とは垂直の面の長軸または直径(以下、総じて断面直径と称する)は特に限定されないが、吸着剤の量および吸着剤部分の長さにあわせて制御することが好ましい。吸着剤部分の断面直径は、ガスの通気しやすさの観点から、10mm以上であることが好ましく、30mm以上であることがより好ましく、50mm以上であることが更に好ましく、100mm以上であることが更に好ましく、200mm以上であることが更に好ましく、300mm以上であることが特に好ましい。
吸着剤量を増やしたい場合、吸着剤部分の断面直径を大きくして吸着剤部分の長さ(ガスの通気方向)を抑えるのが、通気するガスの流れに対する吸着剤による抵抗を抑える観点から好ましい。
吸着剤量は、吸着剤収容部内に収容可能な量であれば限定されない。使用する吸着剤の嵩容積は、吸着剤収容部の体積と同じでも、それ未満でもよい。換言すれば、吸着剤は、吸着剤収容部内に充填(粗充填または密充填)されていてもよいし、吸着剤を収容した吸着剤収容部に空間が存在してもよい。
香気化合物吸着装置の配置については、図1、2では、香気化合物吸着装置が香気回収装置の設置面と平行(接地面と平行、すなわち水平)になるように設けられているが、当該設置面と垂直でも、その他の角度をなして設けられたものであってもよい。また、ガスの流入および通気方向が香気回収装置の設置面に接近する方向となるように設計しても、設置面から離れる方向となるように設計してもよい。換言すれば、香気化合物吸着装置および吸着剤へのガスの流入および通気方向が、重力方向に対して略反対方向でも、略同一方向でも、直角をなしていても、その他の角度をなしていてもよい。
なお、香気化合物吸着装置を流動層カラムとする場合、使用する吸着剤の嵩容積を吸着剤収容部の体積未満とし、かつ吸着剤に重力方向と略反対方向にガスを流入および通気させればよい。流動層カラムを使用すれば、通気させるガスの流れに対する吸着剤の抵抗を抑えることができる。
香気化合物吸着装置は、吸着剤収容部としてバスケットを備えたものであってもよい。バスケットとしては、側面部に空孔を有するノーマルタイプのバスケットと、側面部に空孔を有さないサイドウォールタイプのバスケットが知られている。側面部に空孔を有さないサイドウォールタイプのバスケットを用いることが、微粉および薄片が除去されたガスが側面から逃げることなく、通気するガスの吸着剤通過距離を長くできる観点から好ましい。
<気流発生装置>
本発明の香気回収装置は、粉砕装置から香気化合物吸着装置まで連続した気流を発生させる気流発生装置を備える。この気流発生装置13によって、粉砕装置11、(微粉薄片予備除去装置12、)第1の流路1、微粉薄片除去装置14、第2の流路2、および香気化合物吸着装置Kに連続した気流を発生可能である。
気流発生装置は、送風装置であっても、吸引装置であってもよい。吸引装置の例としては、吸揚ブロワーが挙げられる。
<導入路>
香気回収装置は、微粉および薄片が除去されたガスの流路(第2の流路)に、該流路から分岐し、かつ香気化合物吸着装置と連通する導入路3を備えることが、導入路および吸着剤に微粉および薄片が除去されたガスの一部のみを通気して香気化合物を回収して、吸着剤による抵抗を抑える観点から好ましい。このように香気化合物吸着装置は、導入路を介して第2の流路と連通していてもよい。
導入路の直径(内径)は特に限定されないが、内径が5mm以上であることがより多くのガスを通過させる観点から好ましく、15mm以上であることがより好ましく、30mm以上であることがより好ましく、50mm以上であることが更に好ましく、70mm以上であることが更に好ましく、100mm以上であることが更に好ましく、150mm以上であることが更に好ましく、200mm以上であることが更に好ましく、300mm以上であることが特に好ましい。
なお、導入路3は、第2の流路と一体的に成形されたものでも、第2の流路に着脱可能に接続されるものでもよく、導入路3の少なくとも一部が第2の流路2に粘着テープやねじ等の任意の固定手段で固定されてもよい。
導入路3の入口3Aは、第2の流路2のいかなる位置から分岐していてもよい。例えば、図1では第2の流路2の水平(紙面の左右方向)に伸びている位置に設けてあるが、気流発生装置13から鉛直上方向(紙面の上方向)に延びている第2の流路2に設けてもよい。
導入路3の出口3Bは、香気化合物を吸着した後のガスを第2の流路2に戻せるように、第2の流路2に接続させることが好ましい。
また、導入路3の入口3Aおよび出口3Bは、いかなる角度で第2の流路2と接続していてもよく、導入路3は直線状でも、曲線状でも、1以上の箇所で折れ曲がっていてもよい。
また、導入路3の材質は限定されず、例えば、金属製または樹脂製であってよい。
<線速度調整装置>
本発明の香気回収装置は、微粉および薄片が除去されたガスの線速度を調整する線速度調整装置4をさらに備えることが好ましい。
線速度調整装置は、送風装置であっても、吸引装置であってもよい。それぞれ、ブロワー、吸引ポンプを例として挙げることができる。
本発明の香気回収装置における線速度調整装置の位置は特に限定されず、香気化合物吸着装置に対し、通気させるガスの流れの上流でも下流でもよく、使用する装置によって任意に決定してよい。例えば送風装置であれば上流、吸引装置であれば下流とすればよい。
線速度調整装置4として用いられる吸引装置としては、気流発生装置13よりもポンプ性能が高い吸引装置を用いることが効率的に香気化合物を回収する観点から好ましい。
線速度調整装置4は、導入路3に配置することが好ましい。線速度調整装置4は、導入路の入口3Aに配置しても、導入路の出口3Bに配置してもよい。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
[実施例1]
粉砕装置の排気流を利用する本発明においては、吸着剤を用いることで香気化合物吸着装置の入口に圧力がかかり、そのことで本発明の香気回収装置に採用する気流発生装置に負荷がかかるかどうかを確認することが好ましい。
そこで実施例1として、本発明の香気回収装置Aが備える香気化合物吸着装置Kの吸着剤部分の適切な断面直径および長さを変更して各香気化合物吸着装置Kに空気を通気して、適切な範囲の有無を確認した。各香気化合物吸着装置は、網状蓋Ka1およびKa2、ならびに吸着剤収容部Kbを有する(図3)。
香気化合物吸着装置Kの内部に収容する吸着剤として、SP−207(スチレンジビニルベンゼン共重合体系合成吸着剤、三菱化学(株)製)を用いた。吸着剤を収容(粗充填)する吸着剤収容部として、側面部に空孔を有さない、円筒状のサイドウォールタイプのバスケットを用いた。
次に、香気化合物吸着装置Kに収容した吸着剤が占める吸着剤部分の断面直径および長さを下記表1のようにした香気化合物吸着装置を用意し、それぞれについて、香気化合物吸着装置Kの端部に設けた吸引ポンプを動作させて、香気化合物吸着装置Kに収容した吸着剤に通気を行った。そして、各香気化合物吸着装置の入口の圧力および出口の風量を測定した。本実施例では、吸着剤部分の断面直径は、上述のバスケットの、空気の通気方向の断面直径(内径)と同一である。また、香気化合物吸着装置Kは、地面に対して略垂直に配置し、吸着剤の空気の通気方向は重力方向と略同一とした。
次いで、一般的なブロワー(気流発生装置)の性能曲線(風量−静圧特性曲線ともいう)(図4)の範囲から逸脱しているか否かを計算した。この曲線は、ブロワーのモーター出力を1.5〜10kWとしたときの、ブロワーによって発生する気流の圧力と風量との関係をプロットした曲線である。図4に示す性能曲線範囲から逸脱していない場合は、このブロワーにとっては、上記モーター出力の範囲において、ブロワーの性能が吸着剤の抵抗を上回っており、ブロワーによって発生する気流が吸着剤を通過できることを示唆する。一方で、当該曲線の太線より左側に逸脱していた場合は、高い圧力によっても出口風量が満足に得られない、すなわち吸着剤の抵抗がブロワーの性能を上回っており、ブロワーに負荷がかかることを示唆する。
得られた結果を下記表1に記載した。
Figure 2018093858
上記表1より、ガス流に対する吸着剤による抵抗のため、吸着剤部分の長さ(ガスの通気方向)が一定以下であることが好ましいことが確認された。
香気化合物の回収にあたっては、本発明の香気回収装置に採用する気流発生装置の性能に応じて、吸着剤部分の長さ(ガスの通気方向)を最適化する工程を含むのが好ましいことが確認された。また、吸着剤量を増やしたい場合、吸着剤部分の長さを増加させるのではなく、吸着剤部分の断面直径を大きくして吸着剤部分の長さ(ガスの通気方向)を抑えるのが好ましいことも確認された。
また、この試験結果から明らかであるが、ある長さを有する吸着剤部分を採用した場合に使用予定の気流発生装置の性能曲線内から左側に逸脱したならば、香気化合物吸着装置Kの近傍に、ブロワー(送風装置)や吸引ポンプなどの線速度調整装置4を更に配置して気流を発生させ、気流発生装置13によって発生させた気流の圧力を補助的に高めることで、吸着剤に十分にガスを通気することができる。
加えて、吸着剤による抵抗を抑制する手段、例えば香気化合物吸着装置を流動層カラムなどの吸着剤が可動の吸着装置とすること、気流発生装置13によって発生させた気流の一部を分岐させて、分岐した気流を吸着剤に通気させること、などによっても、線速度調整装置4がなくとも通常のブロワーのみによって吸着剤に十分に通気可能になることも、明らかである。
以上のように、本発明においては、利用する一般的な粉砕装置の気流発生装置に合わせて、吸着剤部分のガスの通気方向の長さ、気流分岐の有無、吸着剤の可動性などを適宜調整することで、より一般的な粉砕装置への負担を抑制することができる。
[実施例2]
焙煎コーヒー豆粉砕時の香気化合物の回収、香料組成物の官能評価、および香気回収装置の負担の検討を行った。
(1)香気回収
まず、本実施例で使用する香気回収装置Aの概要を示す。
本発明の香気回収装置Aは、図2および図3に示した構成である。具体的には、本発明の香気回収装置Aは、粉砕装置11、微粉薄片予備除去装置12、第1の流路1、気流発生装置13、微粉薄片除去装置14、第2の流路2、香気化合物吸着装置Kを備える。なお、図2では、香気化合物吸着装置Kが香気回収装置Aの設置面と平行(接地面と平行、すなわち水平)になるように記載されているが、香気化合物吸着装置Kは当該設置面に対して略垂直に配置し、吸着剤部分のガスの通気方向は重力方向と略同一とした。
香気回収装置Aは、粉砕装置11としてローラーミルを備える。粉砕装置11は微粉薄片予備除去装置12に連通し、その他の部分は密閉された状態で粉砕を行うことができる。
微粉薄片予備除去装置12は、粉砕装置11に連通する。微粉薄片予備除去装置12として、ふるい(目開き0.8mm)を備える振動分級装置を用い、第1の流路1は、微粉薄片予備除去装置12および気流発生装置13に連通する。気流発生装置13は、第1の流路1および第2の流路2に連通する。
香気回収装置Aは、気流発生装置13として吸揚ブロワーを備える。この吸揚ブロワーによって、粉砕装置11、微粉薄片予備除去装置12、第1の流路1、微粉薄片除去装置14、第2の流路2、および香気化合物吸着装置Kに連続した気流を発生可能である。また、線速度調整装置4として吸引ポンプを香気化合物吸着装置Kの当該気流の下流に備え、気流発生装置13とともに気流を発生させる。
香気回収装置Aは、微粉薄片除去装置14としてサイクロン式の分離装置を備える。
第1の流路1および第2の流路2の内径は200mmとした。
香気回収装置Aは、内径200mmの第2の流路2から分岐する導入路3に、香気化合物吸着装置Kを備える。導入路3には、導入路の入口3A以前において第2の流路に流れていたガスの半量が流入するように設計した。香気化合物吸着装置Kには、導入路3に流入したガスの全量が流入する。
また、比較例1として、香気化合物吸着装置Kの代わりに、粉砕装置11の上部から分岐する香気化合物吸着装置k1を備える以外は香気回収装置Aと同様である香気回収装置a1を用意した。香気化合物吸着装置k1は、粉砕装置11の上部から分岐して吸着剤に気流を導入する導入路と、吸着剤から出てきた気流を排出する排出路とを有するものとした。粉砕装置11の上部から分岐する導入路に流れるガス量は、香気回収装置Aの導入路3に流れるガスと同量となるように設計した。
更に、比較例2として、香気化合物吸着装置Kの代わりに、第1の流路1の途中から分岐する香気化合物吸着装置k2を備える以外は香気回収装置Aと同様である香気回収装置a2を用意した。香気化合物吸着装置k2は、内径200mmの第1の流路1から分岐して吸着剤に気流を導入する導入路と、吸着剤から出てきた気流を排出する排出路とを有するものとした。導入路に流れるガス量は、その入口以前に第1の流路1に流れるガスの半量(つまり香気回収装置Aの導入路3に流れるガス量と同じ)が流れるように設計した。
香気化合物吸着装置K、香気化合物吸着装置k1、および香気化合物吸着装置k2は全て、同種類で同量の吸着剤を充填した。
そして、本発明の香気回収装置A、比較例1の香気回収装置a1、および比較例2の香気回収装置a2を用いて、焙煎コーヒー豆粉砕時の香気化合物を回収した。
具体的には、以下の方法で香気化合物の回収を行った。
気流発生装置13によって気流を発生させた状態で、ローラーミル(粉砕装置11)で焙煎コーヒー豆(L値:24)を100kg/hにて約1mmの粉砕サイズになるように粉砕して、微粉および薄片を含む焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得た。
各香気回収装置(A、a1またはa2)を用いて、分級装置(微粉薄片予備除去装置12)において、焙煎コーヒー豆粗粉砕物23から微粉および薄片22の一部を除去して廃棄した。また、微粉薄片予備除去装置12で除去されなかった微粉および薄片22(主としてチャフに由来する微粉および薄片を含む)を、焙煎コーヒー豆を粉砕中の粉砕装置11内のガス(香気化合物21を含むガス)とともに、上記気流によって、微粉薄片予備除去装置12から連通する第1の流路1を通過させた。なお、焙煎コーヒー豆粗粉砕物23からの微粉および薄片22の除去によって、所望のサイズに粉砕された焙煎コーヒー豆精製粉砕物が得られるが、これは図示しない収容部に収容し、香気回収装置A外に出してコーヒー製品の製造に使用するまで保管することができる。
この微粉および薄片22は、微粉薄片除去装置14によって焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物21ならびに微粉および薄片22を含むガスから除去した。
ガスから除去された微粉および薄片22は、微粉薄片除去装置14と連通した廃棄部(図示せず)に収容して廃棄した。
一方で、微粉および薄片22を除去されたガスを、微粉薄片除去装置14と連通する第2の流路2を通過させた。第2の流路を通過するガスの線速度は4.1m/sであった。導入路3には、上述のように第2の流路2に流れるガスの半量が流入した。
焙煎コーヒー豆の粉砕を行っている最中に、導入路3に流入したガスを、香気化合物吸着装置(K、k1、またはk2)の吸着剤収容部Kbにそれぞれ収容(粗充填)された吸着剤に通気して、ガスに含まれる香気化合物21を吸着させた。
各香気化合物吸着装置の吸着剤および通気は、共通して以下の条件とした。なお、吸着剤収容部として、側面部に空孔を有さない、円筒状のサイドウォールタイプのバスケットを用いた。また、吸着剤は、割れを抑制するために、純水を吸収させた後、完全に乾燥させる前に香気化合物吸着装置に充填した。
香気化合物の吸着剤:SP−207(スチレンジビニルベンゼン共重合体系合成吸着剤、三菱化学(株)製)
吸着剤部分の断面直径:100mm
吸着剤への流入ガスの線速度:2.0m/s
吸着剤部分の長さ(ガスの通気方向の長さ):8.0cm
吸着剤の使用量:2500ml
ガスの種類:空気
粉砕および吸着剤部分へのガス通気時間:5時間
本実施例では、吸着剤部分の断面直径は、上述のバスケットの、ガスの通気方向の断面直径(内径)と同一である。
各香気回収装置を用いた5時間の通気後、各香気化合物吸着装置の吸着剤にプロピレングリコール(PG)25kgをSV=10にて通液して、香気化合物21を吸着剤から脱着させた。SV(Space velocity:空間速度)は、1時間当たりに樹脂の容積の何倍量を通液するかを表す単位である。このようにして、香気化合物吸着装置K、k1、およびk2で捕集した香気化合物をそれぞれ含む焙煎コーヒー豆フレーバー(PG溶液とした香料組成物)を得た。これらの香料組成物をそれぞれ、本発明品1、比較品1および比較品2として得た。
ここでは、粉砕に供した500kg(毎時100kgで5時間粉砕)の焙煎コーヒー豆から発生した香気化合物を含有するガスの半量を吸着剤に通気させた(上述の通り、第2の流路2に流れるガスの半量を導入路3および吸着剤に流すよう設計した)ので、吸着剤に焙煎コーヒー豆250kg分の香気化合物を含むガスを吸着させたこととなり、その香気化合物をPGにて脱着して25kgのPG溶液(香料組成物)を得て、香気化合物を発生させた焙煎コーヒー豆の重量に対し香料組成物の重量が10%となるようにして、本発明品1、比較品1および2を調製した。
一方で、焙煎コーヒー豆粗粉砕物の香気化合物を水蒸気蒸留によって回収し、比較品1を調製した。具体的には、粉砕した焙煎コーヒー豆2000gを3Lカラムに収容し、大気圧下にてカラム下部より水蒸気を送り込み2時間かけて水蒸気蒸留を行い、カラム上部より得られ香気化合物を含む水蒸気を冷却管にて凝縮させ、香気化合物を含有する水溶液2000gを得た。次いで、吸着剤(SP−207)50mlに得られた水溶液を通液後、PG200gを吸着剤に通液して吸着した香気化合物を脱着して、200gのPG溶液を水蒸気蒸留フレーバーとして得た。この水蒸気蒸留フレーバーを比較品3とした。ここでも本発明品1、比較品1および2と同様に、本発明品1、比較品1および2と同じように10質量%となるようにして、香気の直接比較ができるようにした。
(2)香気回収装置の負担
香気化合物の回収後、香気化合物を脱着した後の吸着剤が再利用可能かどうかを確認した。
再利用可能性の確認は、香気化合物吸着装置(k1、k2およびK)に収容された吸着剤(以下、それぞれ吸着剤q1、吸着剤q2、および吸着剤Qとする)について、PGによる脱着前および脱着後の通液の圧力を比較することで確認した。具体的には、脱着前および脱着後に、それぞれ超純水への置換を行ってから超純水をSV=10にて流した際の圧力を測定した後、脱着前の圧力に対する脱着後の圧力を算出した。
その結果、吸着剤q1および吸着剤q2は圧力がそれぞれ10倍および5倍であり、目詰まりが発生していたと認められた。このような場合、吸着剤は数回の洗浄または廃棄が必要となる。一方で、吸着剤Qでは圧力の差は同等であり、目詰まりは発生しておらず、数回の洗浄も廃棄も不要であることが確認された。
以上から、本発明の香気回収装置によって、吸着剤の再生の手間もコストも軽減されることが確認された。また、比較例の装置では、焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気を回収することが、工業的には不適であることが確認された。
(3)香料組成物の官能評価
基材(市販の無糖ブラックコーヒー)に対して、本発明品1、比較品1〜3の香料組成物を、それぞれ下記表2に記載の添加量で添加し、Bx1.0°、レトルト殺菌前のpH6.5の賦香品を調製した。
レトルト殺菌条件を121℃、10分間とし、各賦香品に対してレトルト殺菌を行った。得られたレトルト殺菌後の賦香品はpH5.8であった。
レトルト殺菌後の賦香品のうち、本発明品1、比較品1〜3について、よく訓練されたパネラー10名による官能評価を行った。パネラー10名の平均的な官能評価結果を下記表2に示す。
Figure 2018093858
上記表2に示すように、本発明品1の香料組成物は、比較品とは異なり、焙煎コーヒー豆を挽いている時の香り、すなわち焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気を感じさせる優れたフレーバーであった。これは、(2)で確認したように吸着剤が微粉および薄片による目詰まりを起こしており、そのため香気化合物の吸着効率が悪く香気の特徴および香りの強さに違いが出たと思われる。
[実施例3]
実施例1と同様にして調製した本発明品1および比較品3の各香料組成物について、GC/MSを用いて分析した。なお、本発明品1、比較品3はそれぞれ3つずつ調製し、分析に供した。
香気捕集方法として、SBSE(Stir Bar Sorptive Extraction)法を用いた。本発明品1または比較品3の香料組成物が入ったバイアルにゲステル株式会社製のTwister(登録商標)を入れて撹拌した。Twister(登録商標)とは、長さ約1.5cmのStir Bar(スターバー)にPDMS(polydimethyl siloxane)をコーティングしたものであり、液体試料を入れたバイアル中でTwister(登録商標)を攪拌させることにより、液体試料中の成分を抽出できる。
各香料組成物に含まれる香気化合物を抽出後、自動加熱脱着システムでGC/MS(ガスクロマトグラフ/質量分析計)に導入した。
GC/MS測定条件を以下に示す。
GC/MS;7890A GC/5975C inert XL MSD(四重極型質量分析計)(Agilent Technologies社製)
カラム:InertCap−WAX、60mx0.25mmx内径(I.D.)0.25μm (ジーエルサイエンス社製)
キャリアガス:He
モード:コンスタントフロー
カラム流量:1.4mL/分
MS:電子衝撃イオン化法(EIモード)、70eV
注入法:Gerstel TDU
初期温度:20℃
レート:720℃/分
最終温度:260℃
ホールド時間:2分
オーブン初期温度:40℃
ホールド時間:5分
レート:5℃/分
最終温度:230℃
ホールド時間:20分
上記のとおりSBSE法で捕集した香気をGC/MSで分析して得られたトータルイオンクロマトグラムを図5、6に示した。図5は本発明品1の、図6は比較品3のトータルイオンクロマトグラムである。なお、図5、6のRT=23分程度の振り切れたピークは、脱着に使用したPGに帰属するピークである。
図5、6の横軸は保持時間(retention time;RT)を表し、縦軸はピーク強度を表す。
各香料組成物に含まれる各成分の面積比について、リテンションインデックス(RI)で分類した。
具体的には、RIがアセトイン以下の成分(トップ)と、RIがアセトインより大きい成分に分類した。なお、アセトインのRIは1294であり、アセトインのRTは約15minであった。
得られた各トータルイオンクロマトグラムに基づいて、本発明品1および比較品3の香料組成物のトータルイオンクロマトグラムの総面積値に対するRIがアセトイン以下の成分(トップ)と、トータルイオンクロマトグラムの総面積値に対するRIがアセトインより大きい成分の面積%を求めた。3つの本発明品1の結果は、それぞれ89:11、100:0、および93:7であり、3つの比較品3の結果は、27:73、29:71、および30:70であった。また、レトルト殺菌前の基材(市販の無糖ブラックコーヒー)についても、上記の方法と同様に、SBSE法で捕集した香気をGC/MSで分析し、同様に各成分の面積%を求めた。得られた結果を下記表3に示した。表3に示す数値は、各品の3つの平均値である。
また、得られた各トータルイオンクロマトグラムに基づいて、本発明品1および比較品3の香料組成物のRIがアセトイン以下の成分(トップ)に対する、2−methylfuran、2−methylbutyraldehyde、isovaleraldehydeの面積%(対トップの面積値)を求めた。また、レトルト殺菌前の基材(市販の無糖ブラックコーヒー)についても、上記の方法と同様に、SBSE法で捕集した香気をGC/MSで分析し、同様に各成分の面積%を求めた。得られた結果を下記表4に示した。
Figure 2018093858
Figure 2018093858
上記表3より、本発明品1の香料組成物は、RIがアセトイン以下の成分(トップ)の含有量が多く、トップの比重が高い香気バランスであることがわかった。ここで、RIがアセトイン以下の成分は揮発性が高く、基材(市販の無糖ブラックコーヒー)では含有量が少なく、水蒸気蒸留で得られた比較品3の香料組成物でも含有量が少ない。本発明品1は、RIがアセトイン以下の成分の含有量が多いために、トップの香りが強く、それに起因して焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気を感じさせることがわかった。
また、上記表4より、本発明品1の香料組成物は、特に2−methylfuran、2−methylbutyraldehyde、およびisovaleraldehydeの含有割合が、比較品3および基材に比べて高くなっていることがわかった。
[実施例4]
実施例2と同様にして調製した本発明品1および比較品3の各香料組成物を用いた賦香品(レトルト殺菌前およびレトルト殺菌後)ならびに基材(市販の無糖ブラックコーヒー)について、GC/MSを用いて分析した。なお、本発明品1、比較品3はそれぞれ3つずつ調製し、分析に供した。
得られた各トータルイオンクロマトグラムから、実施例3と同様にして、RIがアセトイン以下の成分(トップ)、RIがアセトインより大きい成分の面積%(対基材のそれぞれの面積%)を求めた。得られた結果を下記表5に示した。
また、得られた各トータルイオンクロマトグラムから、実施例3と同様にして、2−methylfuran、2−methylbutyraldehyde、isovaleraldehydeの面積%(対基材のそれぞれの面積%)を求めた。得られた結果を下記表6に示した。
Figure 2018093858
Figure 2018093858
上記表5より、本発明品1の香料組成物を用いた賦香品(レトルト殺菌前)において、トップの香気の添加効果を確認できた。特に2−methylfuran、2−methylbutyraldehyde、およびisovaleraldehydeの含有量が、基材(市販の無糖ブラックコーヒー)、比較品3を用いた賦香品よりも増えていることがわかった。
また、本発明品1の香料組成物を用いた賦香品(レトルト殺菌後)において、トップの香気の添加効果を確認できた。特に2−methylfuran、2−methylbutyraldehyde、およびisovaleraldehydeの含有量が、基材(市販の無糖ブラックコーヒー)、比較品3を用いた賦香品よりも増えていることがわかった。したがって、レトルト殺菌後も、トップの香気が残存していることがわかった。
しがって上記表5より、本発明品1の香料組成物を用いた賦香品は、レトルト殺菌前およびレトルト殺菌後において、RIがアセトイン以下の成分の含有量が多いために、トップの香りが非常に強化されており、それに起因して焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気を感じさせることがわかった。
上記表6より、本発明品1の香料組成物を用いた賦香品は、注目した2−methylfuran、2−methylbutyraldehyde、およびisovaleraldehydeの含有量が、レトルト殺菌前およびレトルト殺菌後において、基材よりも約20%強化されていることがわかった。
1 第1の流路
2 第2の流路
3 導入路
3A 導入路の入口
3B 導入路の出口
4 線速度調整装置
11 粉砕装置
12 微粉薄片予備除去装置
13 気流発生装置
14 微粉薄片除去装置
21 香気化合物
22 微粉および薄片
23 焙煎コーヒー豆粗粉砕物
24 排出ガス
K 香気化合物吸着装置
Ka1、Ka2 網状蓋
Kb 吸着剤収容部
k1 比較例1で用いた香気化合物吸着装置
k2 比較例2で用いた香気化合物吸着装置

Claims (23)

  1. 焙煎コーヒー豆を粉砕して、微粉および薄片を含む焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得る工程を含み、
    前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物および前記微粉および薄片を含むガスから前記微粉および薄片を除去する工程と、
    前記微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気して、前記香気化合物を前記吸着剤に吸着させる吸着工程と、
    前記吸着剤から前記香気化合物を回収して、前記香気化合物を含む香料組成物を調製する回収工程と、
    を含み、
    前記吸着剤は、香気化合物吸着装置内の吸着剤収容部に収容され、該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有する、
    焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
  2. 前記焙煎コーヒー豆粗粉砕物から前記微粉および薄片を除去する工程を、前記微粉および薄片をガスから除去する工程よりも前に行う、請求項1に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
  3. 前記微粉および薄片を除去する工程を微粉薄片除去装置で行う、請求項1または2に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
  4. 気流発生装置を用いて前記ガスの流れを発生させる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
  5. 前記微粉および薄片が除去されたガスの流路に、該流路から分岐し、かつ前記香気化合物吸着装置と連通する導入路を設け、
    前記導入路および前記吸着剤に前記微粉および薄片が除去されたガスの一部のみを通気して前記香気化合物を回収する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
  6. 前記吸着剤が、スチレンジビニルベンゼン共重合体、エチルビニルベンゼンとジビニルベンゼンの共重合体、2,6−ジフェニル−9−フェニルオキサイドの重合体、メタアクリル酸とジオールの重縮合ポリマーおよび修飾シリカゲルから選択される1以上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
  7. 前記回収工程で有機溶媒を用いて前記吸着剤から前記香気化合物を脱着する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
  8. 前記有機溶媒がエタノールまたはプロピレングリコールである、請求項7に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
  9. 前記吸着剤に流入するガスの線速度が0.1〜35.0m/sの範囲内である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
  10. 前記ガスの通気方向が、重力方向と略反対方向である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
  11. 前記香気化合物吸着装置が、前記吸着剤が収容された流動層カラムである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
  12. 前記吸着剤に流入するガスの線速度を調整する工程を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
  13. 前記吸着剤に流入するガスの線速度の調整を、送風装置または吸引ポンプを用いて行う、請求項12に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
  14. 請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造方法を用いて製造された香料組成物を含有する飲食品。
  15. 焙煎コーヒー豆の粉砕装置と、
    前記粉砕装置と連通し、前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気化合物ならびに微粉および薄片を含むガスが通過可能な第1の流路と、
    前記第1の流路と連通し、前記微粉および薄片を除去する微粉薄片除去装置と、
    前記微粉薄片除去装置と連通し、前記微粉および薄片が除去されたガスが通過可能な第2の流路と、
    前記第2の流路と連通した香気化合物吸着装置と、
    前記粉砕装置から前記香気化合物吸着装置まで連続した気流を発生させる気流発生装置と、
    を備え、
    前記香気化合物吸着装置は、吸着剤が収容された吸着剤収容部を有し、該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有する、焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
  16. 前記第2の流路から分岐する導入路を更に備え、該導入路は前記香気化合物吸着装置と連通している、請求項15に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
  17. 前記粉砕装置と前記第1の流路の間に、微粉薄片予備除去装置をさらに備える、請求項15または16に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
  18. 前記吸着剤の前記ガスの通気方向が、重力方向と略反対方向である、請求項15〜17のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
  19. 前記香気化合物吸着装置が、前記吸着剤が収容された流動層カラムである、請求項15〜18のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
  20. 前記微粉および薄片が除去されたガスの線速度を調整する線速度調整装置をさらに備える、請求項15〜19のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
  21. 前記線速度調整装置が送風装置または吸引ポンプである、請求項15〜20のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
  22. 前記吸着剤収容部に収容された吸着剤部分の断面直径が10mm以上である、請求項15〜21のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
  23. 前記吸着剤収容部に収容された吸着剤部分の前記ガスの通気方向の長さが1000mm以下である、請求項15〜22のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
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